(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-09
(45)【発行日】2024-08-20
(54)【発明の名称】マルチビーム中継通信システム
(51)【国際特許分類】
H04B 7/185 20060101AFI20240813BHJP
【FI】
H04B7/185
(21)【出願番号】P 2020125179
(22)【出願日】2020-07-22
【審査請求日】2023-06-07
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、総務省、電波資源拡大のための研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301022471
【氏名又は名称】国立研究開発法人情報通信研究機構
(73)【特許権者】
【識別番号】397060072
【氏名又は名称】スカパーJSAT株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【氏名又は名称】安彦 元
(72)【発明者】
【氏名】小野 文枝
(72)【発明者】
【氏名】三浦 龍
(72)【発明者】
【氏名】児島 史秀
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 淳
(72)【発明者】
【氏名】高盛 哲美
【審査官】鴨川 学
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/114715(WO,A1)
【文献】特表2001-522191(JP,A)
【文献】特表2007-507173(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/185
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
飛翔体に搭載され、n個のセルに対してそれぞれ指向するn本の送受信用のアンテナビームをユーザリンク用に生成すると共に、m個のゲートウェイ局に対してそれぞれ指向するm本の送受信用のアンテナビームをフィーダリンク用に生成するマルチビームアンテナを有する中継用通信機と、
上記ユーザリンクを通じて上記中継用通信機と双方向通信を行うk個のユーザ端末と、
公衆通信網に接続され、上記フィーダリンクを通じて上記中継用通信機と双方向通信を行うm個のゲートウェイ局とを備え、
上記ユーザ端末と上記ゲートウェイ局は、上記中継用通信機を介した上記ユーザリンク及び上記フィーダリンクを通じて往復通信路を構成し、
上記中継用通信機は、上記ユーザリンクの全周波数帯域をf(1)~f(q)(n≧q)に分割した区分周波数帯域を、上記ユーザリンクにおける隣接する上記セル間において互いに異らせるように上記各アンテナビームに割り当てるとともに、上記各ゲートウェイ局に対して上記区分周波数帯域を、当該ゲートウェイ局が含まれる上記セルを指向する上記アンテナビームに割り当てた区分周波数帯域と互いに異らせるように割り当てること
を特徴とするマルチビーム中継通信システム。
【請求項2】
上記中継用通信機は、上記フィーダリンク用に生成するアンテナビーム径を、上記ユーザリンク用に生成するアンテナビーム径よりも小さく設定すること
を特徴とする請求項1記載のマルチビーム中継通信システム。
【請求項3】
飛翔体に搭載され、n個のセルに対してそれぞれ指向するn本の送受信用のアンテナビームをユーザリンク用に生成すると共に、m個のゲートウェイ局に対してそれぞれ指向するm本の送受信用のアンテナビームをフィーダリンク用に生成するマルチビームアンテナを有する中継用通信機と、
上記ユーザリンクを通じて上記中継用通信機と双方向通信を行うk個のユーザ端末と、
公衆通信網に接続され、上記フィーダリンクを通じて上記中継用通信機と双方向通信を行うm個のゲートウェイ局とを備え、
上記ユーザ端末と上記ゲートウェイ局は、上記中継用通信機を介した上記ユーザリンク及び上記フィーダリンクを通じて往復通信路を構成し、
上記中継用通信機は、複数のセルからなるz個のゾーンに分類するとともに、上記各ゾーンに対して、上記双方向通信の利得に応じて上記マルチビームアンテナにおける上記アンテナビームを送受信するアンテナ素子を割り当てること
を特徴とするマルチビーム中継通信システム。
【請求項4】
上記中継用通信機は、上記ユーザリンクの全周波数帯域をf(1)~f(q)(n≧q)に分割した区分周波数帯域を、上記ユーザリンクにおける隣接する上記セル間において互いに異らせるように上記各アンテナビームに割り当てるとともに、上記各ゲートウェイ局に対して上記区分周波数帯域を、当該ゲートウェイ局が含まれる上記セルを指向する上記アンテナビームに割り当てた区分周波数帯域と互いに異らせるように割り当てる上で、上記フィーダリンク用に生成するアンテナビームの利得に応じて上記マルチビームアンテナにおける上記アンテナビームを送受信するアンテナ素子を割り当てること
を特徴とする請求項3記載のマルチビーム中継通信システム。
【請求項5】
上記中継用通信機は、
上記ユーザリンクの全周波数帯域をf(1)~f(q)(n≧q)に分割した区分周波数帯域を、上記ユーザリンクにおける隣接する上記セル間において互いに異らせるように上記各アンテナビームに割り当て、上記各ゲートウェイ局に対して上記区分周波数帯域を、当該ゲートウェイ局が含まれる上記セルを指向する上記アンテナビームに割り当てた区分周波数帯域と互いに異らせるように割り当てるとともに、更に上記ユーザリンクにおいて、各時間区分について、全覆域の中における一部のセル群の覆域に対応するアンテナビームを同時に生成することを繰り返し実行するとともに、上記フィーダリンクにおいて、上記各時間区分について、全ゲートウェイ局の中の一部のゲートウェイ局に対応するアンテナビームを生成することを繰り返し実行すること
を特徴とする
請求項1記載のマルチビーム中継通信システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
飛翔体に搭載され、マルチビームアンテナを有する中継用通信機を経由させて、広域に分布する多数のユーザ端末とゲートウェイ局との間で双方向通信を同一の周波数帯を効率よく共用しながら行うマルチビーム中継通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、数千mから数十kmの高高度に無人あるいは有人の航空機を飛行させ、これを通信中継基地として利用し、これよりも低い高度から地上にかけての広い範囲に分布するユーザ端末に対して通信サービスを提供する中継通信システムの実現が期待されている。
【0003】
このような中継通信システムを通じて、ユーザ端末と双方向通信接続を行う場合、衛星通信システムが用いられるのが一般的であった。衛星通信システムでは、周波数を再利用することで有効利用を図るために、同時に複数方向に送受信用のアンテナビームを指向させるマルチビームアンテナを用いる場合がある。衛星通信システムでは通信距離が長いため、1つの周波数帯を上り回線と下り回線で共用することが難しいことから、上り回線と下り回線において別々の周波数帯を利用する周波数分割多重方式が用いられる。また衛星とゲートウェイ局とを結ぶフィーダリンクと、衛星とユーザ端末とを結ぶユーザリンクについても別々の周波数帯が配分される。また衛星の姿勢は通常安定度が高く、衛星のマルチビームアンテナが生成するアンテナビームの指向性は高速に制御する必要がなくほぼ固定されている。また衛星のサービスは地表、海面から10km程度までの上空までが対象となるのに対し、衛星の高度は静止衛星で赤道上空36000kmとなるため、衛星からみたサービスエリアの視野角は20°以下となり、また低軌道周回衛星の場合でも視野角は90°以下となる。このため、衛星からみた相対的な方向や位置の違いによる通信品質の差が小さく、より安定した中継通信が実現できる利点もある。
【0004】
非特許文献1には、最近のKa帯(30/20GHz帯)を利用する衛星通信システムの動向がまとめられおり、現在では殆どの衛星通信システムが、マルチビーム通信方式を採用して周波数の有効利用を図っていることが記載されている。この非特許文献1によれば、いかなるKa帯衛星通信システムにおいても、上り回線(地球局から衛星)と、下り回線(衛星から地球局)で別々の異なる周波数帯が用いられている。具体的には、上り回線に30GHz帯、下り回線に20GHz帯が分配されている。
【0005】
しかしながら、この衛星通信システムによれば、赤道からの海抜高度が静止衛星は36000km以上、非静止衛星の場合でも海抜高度800km~8000kmとなり、サービスの対象となる地表、海面あるいは海抜高度10km程度までの上空からの距離が非常に遠くなる。このため、同じ周波数帯で双方にて同期をとりながら時間をずらして通信する時分割多重(TDD)方式を採用すると上り回線と下り回線の時間スロットの間に大きなガードタイムを設定する必要が生じ、効率が上げることが困難になる。このため、上り回線と下り回線で同じ周波数帯を共用することが難しいという問題点がある。
【0006】
また、この非特許文献1には、いかなる衛星システムもユーザリンク(衛星-ユーザ端末間)とフィーダリンク(衛星-事業者地球局間)は、混信を避けるため、あるいはフィーダリンクにはユーザリンクにおける全ての通信トラヒックを収容する必要があるため、広帯域な通信回線が必要となる。このため、この両リンク間には別々の周波数帯を割り当てる手段を採用せざるを得ず、ユーザリンクとは別にフィーダリンク用の周波数チャネルが別途必要になるという問題点があった。
【0007】
なお衛星通信システムは、真空中を慣性で移動するため、姿勢を乱す外乱が大気圏内と比較して極めて小さく、アンテナビーム指向方向の高速な補正制御は必要とされない。また衛星からみた地表、海面、もしくは海抜高度10km程度までのサービスエリアの視野角は静止衛星の場合で最大±9°程度であり、非静止衛星の場合においても46°以内とされている。このため、このサービスエリアをマルチビームでカバーしたとしても、ビーム間での通信品質に元々大きな差は生じにくく、通信品質の一様化技術も必要とされていない。従って、この技術を±60°以上の広角にわたるサービスエリアのユーザ端末を対象とした通信システムに適用した場合、サービスエリアの周縁に位置するユーザ端末に対する通信品質が大きく低下してしまうというと共に、大気圏内を飛行する航空機に中継用通信機を搭載した場合には、姿勢や方向の変動が大きくなり、ユーザ端末やゲートウェイ局における通信品質の変動も大きくなるという問題点があった。
【0008】
また、非特許文献2、特許文献1の開示技術は、1以上の無人航空機(ドローン)に中継用通信機を搭載し、これらとユーザ端末、地上制御局、制御対象となる目標の無人航空機等により構成される各通信区間での送受信回線間で同一の周波数帯を共用する時分割多重(TDD)及び時分割多元接続(TDMA)を用いて周波数有効利用を図るものである。
【0009】
この非特許文献2、特許文献1の開示技術では、1の地上制御局に対し、1の目標の無人航空機がサービス対象となっているものの、時間スロットや周波数チャネルの数を増やすことにより、複数の目標の無人航空機に対し同時に通信接続を行えるように拡張することは可能である。しかし、中継用通信機のアンテナは無指向性のシングルビームアンテナが用いられており、マルチビームアンテナに対応した通信方式への拡張は想定されておらず、空間的な周波数利用効率を高くすることはできないという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【非特許文献】
【0011】
【文献】総務省資料、“衛星を巡る諸問題に関する調査検討資料” https://www.soumu.go.jp/main_content/000463131.pdf、2017年1月31日
【文献】加川、小野ほか、“920MHz帯マルチホップ無線通信システムを用いたドローン制御およびセンサデータ伝送の実証実験、” 電子情報通信学会高信頼制御通信研究会、信学技報, vol. 118, no. 344, RCC2018-97, pp. 217-221, 2018年12月.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、飛翔体に搭載され、マルチビームアンテナを有する中継用通信機を経由させて、広域に分布する多数のユーザ端末とゲートウェイ局との間で双方向通信を同一の周波数帯を効率よく共用しながら行うマルチビーム中継通信システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
第1発明に係るマルチビーム中継通信システムは、飛翔体に搭載され、n個のセルに対してそれぞれ指向するn本の送受信用のアンテナビームをユーザリンク用に生成すると共に、m個のゲートウェイ局に対してそれぞれ指向するm本の送受信用のアンテナビームをフィーダリンク用に生成するマルチビームアンテナを有する中継用通信機と、上記ユーザリンクを通じて上記中継用通信機と双方向通信を行うk個のユーザ端末と、公衆通信網に接続され、上記フィーダリンクを通じて上記中継用通信機と双方向通信を行うm個のゲートウェイ局とを備え、上記ユーザ端末と上記ゲートウェイ局は、上記中継用通信機を介した上記ユーザリンク及び上記フィーダリンクを通じて往復通信路を構成し、上記中継用通信機は、上記ユーザリンクの全周波数帯域をf(1)~f(q)(n≧q)に分割した区分周波数帯域を、上記ユーザリンクにおける隣接する上記セル間において互いに異らせるように上記各アンテナビームに割り当てるとともに、上記各ゲートウェイ局に対して上記区分周波数帯域を、当該ゲートウェイ局が含まれる上記セルを指向する上記アンテナビームに割り当てた区分周波数帯域と互いに異らせるように割り当てることを特徴とする。
【0014】
第2発明に係るマルチビーム中継通信システムは、第1発明において、上記中継用通信機は、上記フィーダリンク用に生成するアンテナビーム径を、上記ユーザリンク用に生成するアンテナビーム径よりも小さく設定することを特徴とする。
【0015】
第3発明に係るマルチビーム中継通信システムは、飛翔体に搭載され、n個のセルに対してそれぞれ指向するn本の送受信用のアンテナビームをユーザリンク用に生成すると共に、m個のゲートウェイ局に対してそれぞれ指向するm本の送受信用のアンテナビームをフィーダリンク用に生成するマルチビームアンテナを有する中継用通信機と、上記ユーザリンクを通じて上記中継用通信機と双方向通信を行うk個のユーザ端末と、公衆通信網に接続され、上記フィーダリンクを通じて上記中継用通信機と双方向通信を行うm個のゲートウェイ局とを備え、上記ユーザ端末と上記ゲートウェイ局は、上記中継用通信機を介した上記ユーザリンク及び上記フィーダリンクを通じて往復通信路を構成し、上記中継用通信機は、複数のセルからなるz個のゾーンに分類するとともに、上記各ゾーンに対して、上記双方向通信の利得に応じて上記マルチビームアンテナにおける上記アンテナビームを送受信するアンテナ素子を割り当てることを特徴とする。
【0016】
第4発明に係るマルチビーム中継通信システムは、第3発明において、上記中継用通信機は、上記ユーザリンクの全周波数帯域をf(1)~f(q)(n≧q)に分割した区分周波数帯域を、上記ユーザリンクにおける隣接する上記セル間において互いに異らせるように上記各アンテナビームに割り当てるとともに、上記各ゲートウェイ局に対して上記区分周波数帯域を、当該ゲートウェイ局が含まれる上記セルを指向する上記アンテナビームに割り当てた区分周波数帯域と互いに異らせるように割り当てる上で、上記フィーダリンク用に生成するアンテナビームの利得に応じて上記マルチビームアンテナにおける上記アンテナビームを送受信するアンテナ素子を割り当てることを特徴とする。
【0018】
第5発明に係るマルチビーム中継通信システムは、第1発明において、上記中継用通信機は、上記ユーザリンクの全周波数帯域をf(1)~f(q)(n≧q)に分割した区分周波数帯域を、上記ユーザリンクにおける隣接する上記セル間において互いに異らせるように上記各アンテナビームに割り当て、上記各ゲートウェイ局に対して上記区分周波数帯域を、当該ゲートウェイ局が含まれる上記セルを指向する上記アンテナビームに割り当てた区分周波数帯域と互いに異らせるように割り当てるとともに、更に上記ユーザリンクにおいて、各時間区分について、全覆域の中における一部のセル群の覆域に対応するアンテナビームを同時に生成することを繰り返し実行するとともに、上記フィーダリンクにおいて、上記各時間区分について、全ゲートウェイ局の中の一部のゲートウェイ局に対応するアンテナビームを生成することを繰り返し実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
上述した構成からなる本発明によれば、中継用通信機を経由して地上のネットワークに有線あるいは無線で接続され、中継用通信機との間をフィーダリンクで結ばれたゲートウェイ局と、中継用通信機からみて広角かつ地上、海上もしくは上空の広域に分布する固定型もしくは移動型のユーザ端末を結ぶユーザリンクを構成する。そして、中継用通信機は、ユーザリンクの全周波数帯域をf(1)~f(q)(n≧q)に分割した区分周波数帯域を、ユーザリンクにおける隣接する上記セル間において互いに異らせるように各アンテナビームに割り当てるとともに、各ゲートウェイ局に対して区分周波数帯域を、当該ゲートウェイ局が含まれるセルを指向するアンテナビームに割り当てた区分周波数帯域と互いに異らせるように割り当てる。これにより、通信インフラが貧弱もしくは存在ないエリアで広域にわたって分布するユーザ端末に対して高い周波数利用効率で通信サービスを提供することができる。
【0020】
このような中継通信システムは、高高度にある通信中継基地により中継通信するため、地上の通信インフラが貧弱である場合や、山間部や海洋部等がある場合にも、直径数十kmにわたるエリアを包括的にカバーすることができ、災害の影響を受けにくい通信インフラを構築することができる。このため、本発明に係る中継通信システムは、いわゆる地上通信網のバックアップ網としての活用も期待できる。またこの中継通信システムは、航空機に搭載されることから、衛星と比較した場合に、ユーザ端末までの通信距離が大幅に短い。ため、衛星回線よりも小さい送信出力、アンテナ利得で、高速な通信を行うことができ、通信コストもその分低減できる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、本発明を適用したマルチビーム中継通信システムの全体システム構成を示す図である。
【
図2】
図2は、中継用通信機のブロック構成について説明するための図である。
【
図3】
図3は、中継用通信機が送信するユーザリンクの全周波数帯域をf(1)~f(q)の区分周波数帯域に分割する例について説明するための図である。
【
図4】
図4は、ユーザリンクにおけるセルに重ねてフィーダリンクにおけるアンテナビームによるセルが形成され、ユーザリンクのセルとフィーダリンクのセルの区分周波数帯域が重ならないようにすることで両リンク間の干渉を軽減して通信を行う例を示す図である。
【
図5】
図5は、フィーダリンクにおいて、ゲートウェイ局に対してアンテナビーム径を絞り込んで割り当て、同じ区分周波数帯域を使用する近くのユーザリンクのセルとの間の干渉を軽減する例を示す図である。
【
図6】
図6は、同一のセルに対してフィーダリンクの区分周波数帯域を複数種割り当てる例を示す図である。
【
図7】
図7は、複数のセルからなる各ゾーンに対して、双方向通信の利得に応じて上記マルチビームアンテナにおけるアンテナビームを送受信するアンテナ素子を割り当てる例を示す図である。
【
図8】
図8は、
図7の例において、フィーダリンク用に生成するアンテナビーム径を、ユーザリンク用に生成するアンテナビーム径よりも小さく設定する場合について説明するための図である。
【
図9】
図9は、各高度範囲のセルに対してそれぞれ指向する送受信用のアンテナビームを生成する例を示す図である。
【
図10】
図10は、ユーザリンク及びフィーダリンクの全周波数帯域をf(1)~f(q)の各区分周波数帯域に分割した場合のフレーム構成例を示す図である。
【
図11】
図11は、
図10に示すフレーム構成に基づいて、フォワードリンク及びリターンリンクの双方向通信を行う例を示す図である。
【
図12】
図12は、ユーザリンクやフィーダリンクにおける送受信すべき1つのパケットを複数の時間スロットあるいは周波数チャネルに分かれた分割パケットで送信する例を示す図である。
【
図13】
図13は、ユーザリンクにおいて、各時間区分について、全覆域の中における一部のセル群の覆域に対応するアンテナビームを同時に生成することを繰り返し実行する例を示す図である。
【
図14】
図14は、ユーザリンクにおいて、各時間区分について、全覆域の中における一部のセル群の覆域に対応するアンテナビームを同時に生成することを繰り返し実行する例を示す他の図である。
【
図15】
図15は、各高高度航空機あるいは無人機のサービスエリアの一部をオーバラップさせる例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を適用したマルチビーム中継通信システムについて図面を参照しながら詳細に説明をする。
【0023】
図1は、本発明を適用したマルチビーム中継通信システム1の全体システム構成を示している。このマルチビーム中継通信システム1は、飛翔体に搭載され、マルチビームアンテナ21を有する中継用通信機2と、中継用通信機2と双方向通信を行うk個のユーザ端末3と、中継用通信機2と双方向通信を行うm個のゲートウェイ局4と、ゲートウェイ局4に接続された公衆通信網5と、公衆通信網5に接続された中央通信端末6とを備えている。
【0024】
中継用通信機2は、高高度を飛行する有人又は無人の航空機やヘリコプター、飛行船、バルーン等の飛翔体に搭載される。中継用通信機2は、nの異なる方向を指向するn本の送信アンテナビームとn本の受信アンテナビームとをそれぞれユーザリンク用に生成する。また中継用通信機2は、mの異なる方向に位置するm個のゲートウェイ局4の方向をそれぞれ指向するm本の送信アンテナビームとm本の受信アンテナビームとをそれぞれフィーダリンク用に生成する。以下、これらユーザリンク用、フィーダリンク用の送信アンテナビームと、受信アンテナビームを、送受信用のアンテナビームと総称する。
【0025】
中継用通信機2は、
図2に示すようにマルチビームアンテナ21に加え、ユーザリンク送受信部22と、このユーザリンク送受信部22に接続された中継部23と、中継部23に接続されたフィーダリンク送受信部24と、ユーザリンク送受信部22に接続された位相振幅制御部25-1~25-nと、フィーダリンク送受信部24に接続された位相振幅制御部26-1~26-mとを備えている。
【0026】
マルチビームアンテナ21は、送信と受信で共用するe個の小型アンテナ素子211の配列で構成される。個々の小型アンテナ素子211を通じて、それぞれ上述したユーザリンク用、フィーダリンク用の送受信用アンテナビームを送受信する。この小型アンテナ素子211を介して生成される送受信用アンテナビームがユーザリンクにおいて地球上にある各セルに対してそれぞれ指向するように構成される。同様に、この小型アンテナ素子211を介して生成される送受信アンテナビームが地球上にある各ゲートウェイ局4に対してそれぞれ指向するように構成される。
【0027】
小型アンテナ素子211は、このようなアンテナビームの指向方向は、これらに接続される各位相振幅制御部25-1~25-n、26-1~26-mにより設定される。位相振幅制御部25-1~25-n、26-1~26-mは、小型アンテナ素子211への給電信号及び小型アンテナ素子211の受信信号の位相と振幅をそれぞれ設定することにより、このようなアンテナビームの指向方向を制御することができる。
【0028】
このような位相振幅制御部25-1~25-n、26-1~26-mによる制御の下で、アンテナビームの指向方向を、複数の異なる方向に対して、同時にもしくは時分割で設定することが可能となる。また、この中継用通信機2を搭載する飛しょう体等の機体の姿勢や向きが変化してもこれを補償し、一定の方向へのアンテナビームの指向を維持するような制御も実現できる。
【0029】
ユーザリンク送受信部22は、k個のユーザ端末3間での双方向通信を制御する。ユーザリンク送受信部22は、実際にユーザ端末3からマルチビームアンテナ21を介して受信した信号を中継部23へと出力する。また中継部23から送られてきたゲートウェイ局4からの信号をマルチビームアンテナ21を介して送信するための制御を行う。
【0030】
フィーダリンク送受信部24は、m個のゲートウェイ局4間での双方向通信を制御する。フィーダリンク送受信部24は、実際にゲートウェイ局4からマルチビームアンテナ21を介して受信した信号を中継部23へと出力する。また中継部23から送られてきたユーザ端末3からの信号をマルチビームアンテナ21を介して送信するための制御を行う。
【0031】
中継部23は、このユーザリンク送受信部22、フィーダリンク送受信部24間の信号の送受信を中継する。
【0032】
ユーザ端末3は、個々のユーザが無線通信を行うための移動型、又は固定型の端末である。ユーザ端末3の例としては、固定電話、携帯電話、スマートフォン、タブレット型端末、ウェアラブル端末、パーソナルコンピュータ(PC)に加え、自動車、航空機、船舶、列車、ロボット、各種機器に搭載された通信端末も含まれる。このユーザ端末が移動型の端末である場合、エリア全体において分割された小型のサービスエリアであるセル7単位で通信が行われる。このユーザリンクにおいては、n個のセル7に対してそれぞれ指向するn本の送受信用のアンテナビームが中継用通信機2を通じて形成される。ユーザ端末3は、自身の属するセル7に向けて指向するアンテナビームを介して中継用通信機2と通信することになる。
【0033】
ゲートウェイ局4は、地上に固定される基地局としての役割を担うが、これに限定されるものではなく、移動範囲が所定の範囲に限定される準固定の局として構成されるものであってもよい。このゲートウェイ局4は、フィーダリンクを通じて中継用通信機2との間でアンテナビームを介して通信を行う。ゲートウェイ局4は、インターネット回線等を始めとする公衆通信網5と接続されており、インターネット上から取得した情報を中継用通信機2を中継させて各ユーザ端末3へと送信することが可能となる。またゲートウェイ局4は、公衆通信網5を介して接続された中央通信端末6からの指示や制御に基づいて、マルチビーム中継通信システム1全体やそれが搭載された中継用航空機の飛行などを制御するための各種動作を実行することも可能となる。
【0034】
上述のような構成からなるマルチビーム中継通信システム1によれば、k個のユーザ端末3とm個のゲートウェイ局4との間で、一の中継用通信機2を経由した往復通信路を構成することができる。そして、この往復通信路において同一周波数帯域で時分割多重もしくは周波数分割多重、あるいは時分割多重と周波数分割多重の組合せにより共用することもできる。そして、マルチビームアンテナ21が提供するビーム分割多重とも組合せ、所定の周波数帯域の中で同じ周波数チャネルを再利用することにより高い周波数利用効率で双方向通信を行うこともできる。以下、その具体的な方法について説明する。
【0035】
図3に示すように、中継用通信機2が送信するユーザリンクの全周波数帯域をf(1)~f(q)の区分周波数帯域に分割する。ここでいう区分周波数帯域の数qは、上述したアンテナビームの本数nとの関係において、n≧qの関係が成り立つことが前提となる。
【0036】
マルチビームアンテナ21が生成する各々の送信用、受信用のアンテナビームにf(1)~f(q)のいずれかを互いのアンテナビーム間の相互干渉が最小になるように割り当てる。各アンテナビームは、
図3に示すようにユーザリンクにおける各セル7に対してそれぞれ指向するように形成され、セル7毎に割り当てられたアンテナビーム間において互いに独立して通信を行う。中でも隣接するセル7に対して指向するアンテナビーム間の部分周波数帯域が重複する場合、相互の通信干渉が生じる可能性が出てくる。このため、隣接するセル7に対して指向するアンテナビーム間においては、少なくとも区分周波数帯域を互いに異らせるように割り当てる。割り当ての例は、
図3に示すように、qが3である場合には、隣接するセル7に対して指向するアンテナビーム間において部分周波数帯域f(1)、f(2)、f(3)が互いに異なるように配置する。
図3の例では、部分周波数帯域f(1)が割り当てられる一のセル7に着目した場合、その周囲に配置される6つのセル7において、他の部分周波数帯域f(2)、f(3)を交互に配置することで実現することができる。上述した例ではあくまでqが3である場合を挙げて説明をしたが、これに限定されるものではなく、qが7である場合、即ち部分周波数帯域がf(1)~f(7)で構成される場合には、部分周波数帯域f(1)が割り当てられる一のセル7に着目した場合、その周囲に配置される6つのセル7において、他の部分周波数帯域f(2)~f(7)を配置することで実現することができる。qが3以上であれば、上述した配置例に基づいてアンテナビーム間の相互干渉が少なくなるような、様々な配置のバリエーションを採用することも可能となる。
【0037】
このようにして、f(1)~f(q)の各区分周波数帯域を異なる送信アンテナビーム間及び異なる受信アンテナビーム間で再利用し、送信と受信の両アンテナビームにおいてそれぞれ区分周波数帯域の再利用回数分に比例して、ユーザリンクにおけるユーザ端末3の収容台数を増加させることが可能となる。
【0038】
なお、本発明においては、このようなユーザリンクにおける区分周波数帯域の割り当て方法に加えて、フィーダリンクにおいても同様に区分周波数帯域を割り当てるようにしてもよい。かかる場合には、中継用通信機2が送信するフィーダリンクの全周波数帯域をf(1)~f(q)の区分周波数帯域に分割する。ここでいう区分周波数帯域の数qは、上述した個々のゲートウェイ局4に割り当てられたアンテナビームの本数mとの関係において、m≦qの関係が成り立つように設定することが設備コスト上効率的であるが、m>qであってもよい。
【0039】
マルチビームアンテナ21が生成する各々の送信用、受信用のアンテナビームにf(1)~f(q)のいずれかを互いのアンテナビーム間の相互干渉が最小になるように割り当てる。各アンテナビームは、
図4に示すようにフィーダリンクにおける各セル7に対してそれぞれ指向するように形成され、セル7毎に割り当てられたアンテナビーム間において互いに独立して通信を行う。中でも隣接するセル7に対して指向するアンテナビーム間の部分周波数帯域が重複する場合、相互の通信干渉が生じる可能性が出てくる。このため、隣接するセル7に対して指向するアンテナビーム間においては、少なくとも区分周波数帯域を互いに異らせるように割り当てる。この割当方法の具体的な例は、上述したユーザリンクの例を適用するようにしてもよい。
【0040】
このとき、フィーダリンク用に生成する各々のアンテナビームに割り当てられる部分周波数帯域f(1)~f(q)は、ユーザリンク用のアンテナビームに割り当てられる部分周波数帯域f(1)~f(q)との相互干渉がより小さくなるように割り当てることが望ましい。例えば、
図4に示すように、同一のセル7に着目した場合、ユーザリンクを通じて割り当てられる部分周波数帯域がf(2)であるセル7に対して、フィーダリンクにおいては、部分周波数帯域f(1)が割り当てられる。同様に、ユーザリンクを通じて割り当てられる部分周波数帯域がf(3)であるセル7に対して、フィーダリンクにおいては、部分周波数帯域f(2)が割り当てられる。同様にユーザリンクを通じて割り当てられる部分周波数帯域がf(1)であるセル7に対して、フィーダリンクにおいては、部分周波数帯域f(3)が割り当てられる。これにより、各セル7において、ユーザリンク、フィーダリンクの部分周波数帯域が重複することなく、互いの通信干渉を防止することができる。なお隣接するセル間においてユーザリンクの部分周波数帯域と、フィーダリンクの部分周波数帯域が重複するケースも出てくる場合があるが、
図5に示すように、一般的にフィーダリンクでは、ゲートウェイ局4に対してアンテナビーム径を絞り込んで割り当てる。即ち、フィーダリンク用に生成するアンテナビーム径を、ユーザリンク用に生成するアンテナビーム径よりも小さく設定することにより、隣接するセル間においてユーザリンクの部分周波数帯域と、フィーダリンクの部分周波数帯域が重複するケースにおいても、通常はこれらの間で通信干渉を防止できる。
【0041】
図6は、同一のセル7に対してフィーダリンクの部分周波数帯域を複数種割り当てる例を示している。かかる場合においても、同一のセル7に着目した場合、ユーザリンクを通じて割り当てられる部分周波数帯域がf(2)であるセル7に対して、フィーダリンクにおいては、部分周波数帯域f(1)、f(3)が割り当てられることで同一セル7内におけるユーザリンク、フィーダリンク間の通信干渉を防止することが可能となる。同様に、他のセル7に着目した場合、ユーザリンクを通じて割り当てられる部分周波数帯域がf(3)であるセル7に対して、フィーダリンクにおいては、部分周波数帯域f(1)、f(2)が割り当てられることで同一セル7内におけるユーザリンク、フィーダリンク間の通信干渉を防止することが可能となる。
【0042】
また、本発明においては、複数のセルからなるz個のゾーンに分類するとともに、各ゾーンに対して、双方向通信の利得に応じて上記マルチビームアンテナにおけるアンテナビームを送受信するアンテナ素子を割り当てるようにしてもよい。例えば
図7に示すように、ビームアンテナは、セル7への指向方向若しくはセルまでの通信距離に応じて、z個のゾーン(セルのグループ)に分類する。
図7の例では、中継用通信機2に対して最も近距離であるゾーン1と、中距離であるゾーン2と、長距離であるゾーン3に各セル7をグルーピングしている。このグルーピングを行う際においては、ゾーン1に用いる小型アンテナ素子211、ゾーン2に用いる小型アンテナ素子211、ゾーン3に用いる小型アンテナ素子211を予め割り当てる。ゾーンに応じて、これらに対して指向するアンテナビームを生成するための小型アンテナ素子211の数を適切に配分する。このとき、
図7に示すように中継用通信機2に対する距離が長くなり、通信品質ひいては利得が低下する可能性の高いゾーンほど、これらに割り当てる小型アンテナ素子211の数を増やすようにしてもよい。
【0043】
このように、双方向通信の利得に応じて上記マルチビームアンテナにおける上記アンテナビームを送受信するアンテナ素子を割り当てることにより、各ゾーン間において通信利得、通信品質の差が生じるのを低減することができる。
【0044】
なお、フィーダリンク用のアンテナビームの生成に用いる小型アンテナ素子211の配分をそれぞれ適切に変えて各ビーム幅を設定することにより、フィーダリンクにおけるアンテナビームと、ユーザリンクにおけるアンテナビームとの間で同一の周波数帯域を少ない相互干渉で共用することもできる。
【0045】
このとき、上述した
図4、5に示すように、ユーザリンクの全周波数帯域をf(1)~f(q)(n≧q、m≦q)に分割した区分周波数帯域を、ユーザリンクにおける隣接するセル間において互いに異らせるように各アンテナビームに割り当てる。これと共に、
図8に示すように、各ゲートウェイ局に対して区分周波数帯域を、当該ゲートウェイ局が含まれるセル7を指向するアンテナビームに割り当てた区分周波数帯域と互いに異らせるように割り当てる場合、フィーダリンク用に生成するアンテナビーム径を、ユーザリンク用に生成するアンテナビーム径よりも小さく設定する。これにより、通信干渉を互いに低減させることが可能となる。
【0046】
図9の例では、高度範囲(レイヤ)Aにおけるn個のセルに対してそれぞれ指向するn本の送受信用のアンテナビームを第1のユーザリンク用に生成し、高度範囲(レイヤ)Bにおけるn2個の空間領域に対してそれぞれ指向するn2本の送受信用のアンテナビームを第2のユーザリンク用に生成する例を示している。ちなみに、高度範囲(レイヤ)Aは、高度範囲(レイヤ)Bよりも低い高度とされている。これらに加えて、更にm個のゲートウェイ局4に対してそれぞれ指向するm本の送受信用のアンテナビームをフィーダリンク用に生成する点は、上述と同様である。
【0047】
第1のユーザリンクを通じて中継用通信機2と双方向通信を行うk個のユーザ端末3が本システムにおいて先ず含まれる。そして、第2のユーザリンクを通じて双方向通信を行う中継用通信機2が搭載された飛翔体よりも低高度を飛行する他の飛翔体に搭載された複数個の第2ユーザ端末9が本システムに含まれる。この第2ユーザ端末9が搭載される飛翔体は、無人又は有人の航空機やヘリコプター等で構成される。更に、フィーダリンクを通じて中継用通信機2と双方向通信を行うm個のゲートウェイ局4も本システムに含まれる。
【0048】
ユーザ端末3とゲートウェイ局4は、中継用通信機2を介した第1のユーザリンク及びフィーダリンクを通じて往復通信路を構成する。また第2ユーザ端末9とゲートウェイ局4は、中継用通信機2を介した2のユーザリンク及びフィーダリンクを通じて往復通信路を構成する。
【0049】
このとき、第1のユーザリンクと、上記第2のユーザリンクとの間で互いに通信周波数が異なるように異なる高度範囲ごとの各アンテナビームに割り当てるようにしてもよい。また、第1のユーザリンクと、上記第2のユーザリンクとの間で互いに時間スロットが異なるように異なる高度範囲ごとの各アンテナビームに割り当てるようにしてもよい。これにより、第1のユーザリンクと、上記第2のユーザリンクとの間での通信干渉を防止することができる。
【0050】
また、本発明においては、中継用通信機2が送受信するユーザリンク及びフィーダリンクの全周波数帯域をf(1)~f(q)の各区分周波数帯域に分割した場合、以下の方法にフレーム構成に基づいて通信を行うようにしてもよい。
【0051】
図10は、そのフレーム構成の例を示している。ユーザリンク及びフィーダリンクにおいては一定の時間長を有すると共に、互いに同期させたフレーム単位で双方向通信を行うことを前提とする。ユーザリンク及びフィーダリンクの各フレームは、それぞれ時間的に前と後に分割された2つのサブフレームからなり、各サブフレームの末尾には所定の無信号区間であるガードタイムがそれぞれ付加される。ユーザリンクに割り当てられる区分周波数帯域をcuとし、フィーダリンクに割り当てられる区分周波数帯域をcfとする。
【0052】
ここで、ユーザ端末3から中継用通信機2を経由してゲートウェイ局4に至る通信経路をリターンリンクという。また、ゲートウェイ局4から中継用通信機2を経由してユーザ端末3に至る通信経路をフォワードリンクという。各周波数チャネルにおいて前サブフレームと、後サブフレームは、それぞれsu1、su2、・・・の時間スロットに、又はsf1、sf2、・・・の時間スロットに分割されているものとする。
【0053】
このとき、リターンリンクにおいては、例えば
図10に示すように、ユーザリンクを通じてユーザ端末3から送られてきた信号は、時間スロットsu1の前サブフレームに挿入されているものとする。中継用通信機2は、この時間スロットsu1の前サブフレームに挿入された信号を、これよりも後のフレームの時間スロットsf4の後サブフレームに挿入することで、フィーダリンクを通じてゲートウェイ局4へと送信する。
【0054】
またフォワードリンクにおいては、
図10に示すように、フィーダリンクを通じてゲートウェイ局4から送られてきた信号は、時間スロットsf1の前サブフレームに挿入されているものとする。中継用通信機2は、この時間スロットsf1の前サブフレームに挿入された信号を、これよりも後のフレームの時間スロットsu4の後サブフレームに挿入することで、ユーザリンクを通じてユーザ端末3へと送信する。
【0055】
ユーザリンク、フィーダリンクにおける他のサブフレームにおける信号も同様に、後に続くフレームに含まれて送られることになる。ユーザリンクを構成する区分周波数帯域cuにおいて、更に複数以上に区分周波数帯域を分割してそれぞれアンテナビームに重畳させて送受信するようにしてもよい。フィーダリンクを構成する区分周波数帯域cfにおいて、更に複数以上に区分周波数帯域を分割してそれぞれアンテナビームに重畳させて送受信するようにしてもよい。
【0056】
このとき、フォワードリンク及びリターンリンクの双方向通信において、ユーザリンク、フィーダリンク共に周波数帯域cu、cfをそれぞれ共用することにより、通信システム内において多数のユーザ端末を収容するが可能となる。
【0057】
このようなデータフレームを利用してフォワードリンク及びリターンリンクの双方向通信を行う場合には、
図11に示すように、中継用通信機2がユーザリンクにおいて送信するタイミングと同じタイミングでフィーダリンクにおいて送信し、また中継用通信機2がユーザリンクにおいて受信するタイミングと同じタイミングでフィーダリンクにおいて受信するようにサブフレームを配置するようにしてもよい。つまり、
図10では、時間スロットsu1においてユーザリンクにおけるリターンリンクのデータフレームが形成され、同じタイミングにおけるsf1においてフィーダリンクにおけるフォワードリンクのデータフレームが形成されている。これは
図11(a)に示すように、ユーザ端末3から中継用通信機2への送信と、ゲートウェイ局4から中継用通信機2への送信のタイミングが同じであることを意味している。同様に
図10では、時間スロットsu2においてユーザリンクにおけるフォワードリンクのデータフレームが形成され、同じタイミングにおけるsf2においてフィーダリンクにおけるリターンリンクのデータフレームが形成されている。これは
図11(b)に示すように、中継用通信機2からユーザ端末3への送信と、中継用通信機2からゲートウェイ局4への送信のタイミングが同じであることを意味している。中継用通信機2はユーザリンクにおける送信タイミングとフィーダリンクにおける受信タイミングが重複することがなく、またユーザリンクにおける受信タイミングとフィーダリンクにおける送信タイミングが重複することがなくなるため、送信から受信への回り込みによる干渉を避けることが可能となる。
【0058】
なお本発明においては、
図12に示すように、リターンリンクで送る情報のまとまりである1パケットをその情報量に応じ、ユーザリンクやフィーダリンクにおける1サブフレーム内の一の周波数チャネルの一の時間スロットからなる単一ブロックに配分するようにしてもよい。つまり、ユーザリンクやフィーダリンクにおける単一ブロックを集めてきて分割パケットを構成し、複数の分割パケットを組み合わせることで1パケットを構成するようにしてもよい。また1パケットを、2以上のサブフレーム、2以上の周波数チャネル、2以上の時間スロットの複数ブロックに分割して配分するようにしてもよい。つまり、ユーザリンクやフィーダリンクにおける2以上のブロックを集めてきて分割パケットを構成し、複数の分割パケットを組み合わせることで1パケットを構成するようにしてもよい。実際に通信するのはこの1パケットになるが、通信する必要のある1パケットの情報量に柔軟に適応した通信回線を確立することができる。
【0059】
また本発明は、
図3に示すような中継用通信機2が送信するユーザリンクの全周波数帯域をf(1)~f(q)の区分周波数帯域に分割する際に、更に時間分割を組み合わせるようにしてもよい。
図13に示すように、中継用通信機2は、全時間をdの時間区分に分割し、ユーザリンクでは1番目の時間区分T1において中継用通信機2の全覆域の中における一部の覆域に対応するn(T1)のアンテナビームを同時に生成する。この
図13の例では、n(T1)のアンテナビームとして7つのセルに向けたアンテナビームを同時に生成している。次に2番目の時間区分T2において別の一部の覆域に対応するn(T2)のアンテナビームを同時に生成する。この
図13の例では、n(T2)のアンテナビームとして6つのセルに向けたアンテナビームを同時に生成している。かかる動作を全覆域に対応する全ビーム数n(ここで、n(T1)+n(T2)+・・・・+n(Td)=n、ここでTdは最後となるd番目の時間区分)にわたるまで繰返し実行する。
【0060】
また中継用通信機2は、フィーダリンクにおいても同様に、時間区分T1において全ゲートウェイ局4の中の一部の局に対応するm(T1)のアンテナビームを同時に生成する。次に時間区分T2においてゲートウェイ局4の中の別の一部の局に対応するm(T2)のアンテナビームを同時に生成し、これを全てのゲートウェイ局4に対応する全ビーム数m(ここでm(T1)+m(T2)+・・・・+m(Td)=m)に亘るまで繰返し実行する。
【0061】
つまりユーザリンクにおいて、各時間区分について、全覆域の中における一部のセル群の覆域に対応するアンテナビームを同時に生成することを繰り返し実行するとともに、フィーダリンクにおいて、上記各時間区分について、全ゲートウェイ局4の中の一部のゲートウェイ局4に対応するアンテナビームを生成することを繰り返し実行する。
【0062】
ユーザリンク及びフィーダリンクの各時間区分は、上述した
図10に示すフレーム周期及びサブフレーム周期に同期する。そして、この時間区分ごとに全てのマルチビームの一部のビームのみを同時に生成し、これを順番に切替える。
【0063】
これにより、中継用通信機2を、ユーザリンクの全覆域及びフィーダリンクの全ゲートウェイ局に対応させると共に、同時生成するアンテナビーム数を削減することができる。その結果、中継用通信機2の送信電力を低減させることができ、かつユーザリンクのビーム間干渉及びユーザリンクとフィーダリンク間のビーム間干渉を低減させることも可能となる。
【0064】
このとき、ユーザリンクにおいて、複数のセルからなる一部の覆域に含まれるゲートウェイ局4について、当該覆域に割り当てられたデータフレームの時間区分とは異なる時間区分に割り当てるようにしてもよい。例えば、時間区分T2においてゲートウェイ局4の中の別の一部の局に対応するm(T2)のアンテナビームを生成するが、当該時間区分T2においては、このm(T2)における覆域に含まれるゲートウェイ局4は、別の時間区分において割り当てられる。
【0065】
図14は、
図13に示す実施形態の他の例を示している。この
図14に示す例では、時間区分T1、T2、T3、・・・の切り替えタイミングを、各フレームの期間に合わせている。上述した
図13の例では、時間区分T1、T2、T3、・・・の切り替えタイミングを、前サブフレーム又は後サブフレーム内において行っているのに対し、この
図14は、前サブフレームと後サブフレームからなるフレーム単位行う。かかる場合も同様の方法を実行することにより、ユーザリンクの全覆域及びフィーダリンクの全ゲートウェイ局に対応させると共に、同時生成するアンテナビーム数を削減することができる。
【0066】
上述した構成からなる本発明によれば、中継用通信機2を経由して地上のネットワークに有線あるいは無線で接続され中継用通信機2との間をフィーダリンクで結ばれたゲートウェイ局4と、中継用通信機からみて広角かつ地上、海上もしくは上空の広域に分布する固定型もしくは移動型のユーザ端末3を結ぶユーザリンクを構成する。これにより、通信インフラが貧弱もしくは存在ないエリアで広域にわたって分布するユーザ端末3に対して高い周波数利用効率で通信サービスを提供することができる。
【0067】
具体的には、ユーザリンクとフィーダリンクの間及びフォワードリンクとリターンリンクの間で少ない相互干渉で同一の周波数帯域を共用することができるため、従来よりも少ない周波数帯域で同等の通信容量を確保することが可能となる。
【0068】
また、ユーザリンクとフィーダリンクの双方において、中継用通信機2からみた距離や角度に応じてマルチビームアンテナの利得配分を行うことができるため、ユーザ端末3間あるいは複数のゲートウェイ局4間での通信品質の差を小さくすることで均質化を図ることが可能となる。
【0069】
また、本発明によれば高度10km~20kmに及ぶ高高度に滞空飛行させる航空機に中継用通信機2を搭載することにより、直径数10km以上の地上、海上、あるいは上空(中継用通信機2の高度よりは低い高度)の多数のユーザ端末3との間での多数接続通信サービスの実現が可能となる。このサービスが扱う通信データの例としては、センサデータ、音声データ、映像データ等に加え、ロボットやドローンの制御用のコマンドデータやテレメトリデータ等があり、通信インフラが貧弱あるいは存在しないエリアを含む広域にわたるIoTサービスが実現できる。
【0070】
本発明を適用したマルチビーム中継通信システム1では、衛星をロケット等で打ち上げるよりも低いシステム構築コストや通信端末のコストが期待でき、また地上の災害に強い通信インフラが提供できるという利点もある。またマルチビーム中継通信システム1では、電波減衰や通信遅延も衛星システムに比べて小さくできるという利点もある。
【0071】
特に本発明を適用したマルチビーム中継通信システム1では、アンテナビーム間で同じ周波数帯を使用してもビーム方向にある程度差をつけることにより相互の干渉を低減することが可能となるため、同じ周波数帯を複数の互いに離れたビームで使っても問題なく、限られた周波数の範囲で、より多くのユーザ端末を収容することが可能となる。
【0072】
また、本発明を適用したマルチビーム中継通信システム1は、そのアンテナビーム指向性が電子的に制御されるため、中継用通信機2の水平面や垂直面の向きが時間的に変動しても、その変動は自動的に補償され、ユーザ端末に提供される通信品質に与える影響を最小限に抑えることができる。換言すれば、本発明は、地上、海上、上空向けのビームフットプリントを高高度を飛行する飛翔体の姿勢変動や方位変動に関わらず一定に保つことができる。
【0073】
更に本発明を適用したマルチビーム中継通信システム1は、指向方向による利得配分方法により、高高度を飛行する飛翔体直下のエリアと、その飛翔体から遠く離れたサービスエリア周縁部のエリアとの間で、通信品質の差を小さく抑えることが可能となる。
【0074】
本発明を適用したマルチビーム中継通信システム1は、複数の小型アンテナ素子211からなるマルチビームアンテナ21を有し、各小型アンテナ素子211に給電がなされ、又はそれぞれの小型アンテナ素子211で受信される電波の位相を適宜設定することによりアンテナビームの指向方向を設定できる。これらの動作を複数のアンテナビームの指向方向間で同時に行うことにより、複数の異なる方向に同時にアンテナビームを指向させて発信させることができる。またアンテナビームごとに使用する小型アンテナ素子211の数を変化させることにより、アンテナビームの利得を自由に設定できる。このマルチビームアンテナ21の代替として、複数の異なる方向に向けた図示しない指向性アンテナを備え、各指向性アンテナ毎にアンテナビームを生成する方法で実現するようにしてもよい。
【0075】
本発明を適用したマルチビーム中継通信システム1が適用可能な分野としては、携帯電話網や専用通信網のバックアップ回線の他、様々なセンサ、ロボット、無人航空機、あるいは自動車(自動運転含む)、列車、航空機、空飛ぶ車両、船舶、人が持つ端末等に対する広域IoT接続や運行管理・運行制御の分野等が想定される。様々な高度範囲を飛行する無人航空機や有人の航空機に対しては、高度範囲ごとに多層化されたマルチビームでカバーすることができる。
【0076】
更に本発明を適用したマルチビーム中継通信システム1によれば、
図15に示すように、上空に複数の高高度航空機あるいは無人航空機を飛行させることにより、サービスエリアを拡大することができる。これと共に、各高高度航空機あるいは無人機のサービスエリアの一部をオーバラップさせることにより、当該オーバラップするエリアに位置する各ユーザ端末3は、地上の建物や地形の影響で電波が遮蔽あるいは減衰される場合において、複数の高高度航空機あるいは無人機の中から伝搬条件のよいものを選択して通信接続することができる。このため、本発明によれば、遮蔽あるいは減衰の影響を回避するための施策としても有用性が高い。
【符号の説明】
【0077】
1 マルチビーム中継通信システム
2 中継用通信機
3 ユーザ端末
4 ゲートウェイ局
5 公衆通信網
6 中央通信端末
7 セル
9 第2ユーザ端末
21 マルチビームアンテナ
22 ユーザリンク送受信部
23 中継部
24 フィーダリンク送受信部
25 位相振幅制御部
26 位相振幅制御部
211 小型アンテナ素子