(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-09
(45)【発行日】2024-08-20
(54)【発明の名称】細胞移植材、その製造方法及び使用方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/071 20100101AFI20240813BHJP
C12N 5/0775 20100101ALI20240813BHJP
C07K 14/775 20060101ALI20240813BHJP
C12N 5/077 20100101ALI20240813BHJP
A61L 27/22 20060101ALI20240813BHJP
A61L 27/38 20060101ALI20240813BHJP
A61L 27/50 20060101ALI20240813BHJP
【FI】
C12N5/071
C12N5/0775
C07K14/775
C12N5/077
A61L27/22
A61L27/38 100
A61L27/50
(21)【出願番号】P 2020162394
(22)【出願日】2020-09-28
【審査請求日】2023-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】390018153
【氏名又は名称】日本毛織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】今村 哲也
(72)【発明者】
【氏名】中村 耕一郎
(72)【発明者】
【氏名】延谷 公昭
(72)【発明者】
【氏名】島田 直樹
【審査官】▲高▼ 美葉子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/235745(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/022494(WO,A1)
【文献】特開2015-119694(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N1/00-7/08
C07K14/00
A61L27/00
CAPLUS/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の細胞シート、第二の細胞シート、第一の生体適合長繊維不織布、及び第二の生体適合長繊維不織布を含み、
第一の生体適合長繊維不織布及び第二の生体適合長繊維不織布は、いずれも、生体適合性ポリマーを主成分とする生体適合長繊維不織布であり、
第一の生体適合長繊維不織布は第一の細胞シートの一方の表面に接着しており、
第二の生体適合長繊維不織布は第二の細胞シートの一方の表面に接着しており、
第一の細胞シートの他方の表面と第二の細胞シートの他方の表面が接着していることを特徴とする細胞移植材。
【請求項2】
前記細胞移植材は、さらに他の細胞シートを含み、前記他の細胞シートは、第一の細胞シートと第二の細胞シートの間に配置されており、第一の細胞シートの他方の表面と第二の他方の表面は他の細胞シートを介して接着している請求項1に記載の細胞移植材。
【請求項3】
前記生体適合性ポリマーは、ゼラチンである請求項1又は2に記載の細胞移植材。
【請求項4】
前記細胞シートは、骨髄由来細胞又は脂肪組織由来細胞を含む請求項1~3のいずれかに記載の細胞移植材。
【請求項5】
前記細胞シートは、間葉系幹細胞を含む請求項1~4のいずれかに記載の細胞移植材。
【請求項6】
前記生体適合長繊維不織布は、厚みが0.1mm以上2mm以下である請求項1~5のいずれかに記載の細胞移植材。
【請求項7】
前記生体適合長繊維不織布は、熱脱水架橋されている請求項1~6のいずれかに記載の細胞移植材。
【請求項8】
前記生体適合長繊維不織布を構成する繊維は、平均繊維径が2μm以上400μm以下であり、繊維交点が少なくとも部分的に溶着している請求項1~7のいずれかに記載の細胞移植材。
【請求項9】
下部尿路障害治療用細胞移植材である請求項1~8のいずれかに記載の細胞移植材。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載の細胞移植材の製造方法であって、
第一の細胞シート及び第二の細胞シートを準備する工程と、
第一の細胞シートの一方の表面に第一の生体適合長繊維不織布層を積層して第一の積層体を得る工程と、
第二の細胞シートの一方の表面に第二の生体適合長繊維不織布層を積層して第二の積層体を得る工程と、
第一の細胞シートの他方の表面と第二の
細胞シートの他方の表面が接するように第一の積層体と第二の積層体を積層し、細胞移植材を得る工程を含
み、
必要に応じて、さらに、他の細胞シートを第一の細胞シートと第二の細胞シートの間に配置することを含む、細胞移植材の製造方法。
【請求項11】
請求項1~9のいずれかに記載の細胞移植材の使用方法であって、
細胞移植材を生体(ただし、人体を除く。)内の所定部位に移植する工程を含む細胞移植材の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再生医療などの医学、創薬等の分野に有用な細胞移植材、その製造方法及び使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
再生医療における一つの手法として細胞移植が注目されている。しかしながら、細胞を直接注入して移植した場合は、移植部位における移植細胞の生着率が低いという問題があった。そこで、特許文献1では、脂肪細胞含有細胞シートを移植材料として用いることを提案している。特許文献2では、細胞シートと該細胞シートの片面または両面に接着する特定のゼラチンを含有する支持体層からなる積層体を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2011/067983号
【文献】特開2017-78045号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載のような移植材料の場合、細胞シートが脆弱であり、取扱性に劣っていた。また、特許文献1に記載のような移植材料や特許文献2に記載の積層体の場合、移植部位における再生効果をさらに改良することが求められている。
【0005】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、取扱性が良好であり、移植部位における移植細胞の生着率及び再生効果が高い細胞移植材、その製造方法及び使用方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、1以上の実施形態において、第一の細胞シート、第二の細胞シート、第一の生体適合長繊維不織布、及び第二の生体適合長繊維不織布を含み、第一の生体適合長繊維不織布及び第二の生体適合長繊維不織布は、いずれも、生体適合性ポリマーを主成分とする生体適合長繊維不織布であり、第一の生体適合長繊維不織布は第一の細胞シートの一方の表面に接着しており、第二の生体適合長繊維不織布は第二の細胞シートの一方の表面に接着しており、第一の細胞シートの他方の表面と第二の細胞シートの他方の表面が接着していることを特徴とする細胞移植材に関する。
【0007】
本発明は、1以上の実施形態において、前記細胞移植材の製造方法であって、第一の細胞シート及び第二の細胞シートを準備する工程と、第一の細胞シートの一方の表面に第一の生体適合長繊維不織布層を積層して第一の積層体を得る工程と、第二の細胞シートの一方の表面に第二の生体適合長繊維不織布層を積層して第二の積層体を得る工程と、第一の細胞シートの他方の表面と第二の細胞シートの他方の表面が接するように第一の積層体と第二の積層体を積層し、細胞移植材を得る工程を含む細胞移植材の製造方法に関する。
【0008】
本発明は、1以上の実施形態において、細胞移植材を生体(ただし、人体を除く。)内の所定部位に移植する工程を含む細胞移植材の使用方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、取扱性が良好であり、移植部位における移植細胞の生着率及び再生効果が高い細胞移植材を提供することができる。
本発明の製造方法によれば、取扱性が良好であり、移植部位における移植細胞の生着率及び再生効果が高い細胞移植材を得ることができる。
本発明の細胞移植材を用いることで、取扱性良く細胞移植材を移植でき、移植部位における移植細胞の生着率及び再生効果を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施例1の細胞移植材の断面写真である。
【
図2】
図2は、実施例1の細胞移植材の断面写真における部分拡大図である。
【
図3】
図3は、比較例3の細胞移植材の断面写真である。
【
図4】
図4は、所定期間培養した後の実施例1の細胞移植材の断面写真である。
【
図5】
図5は、実施例1において、膀胱拡大術4週間に摘出した膀胱の組織切片像を示した。
【
図6】
図6は、比較例1において、膀胱拡大術4週間に摘出した膀胱の組織切片像を示した。
【
図7】
図7は、比較例2において、膀胱拡大術4週間に摘出した膀胱の組織切片像を示した。
【
図8】
図8は、比較例3において、膀胱拡大術4週間に摘出した膀胱の組織切片像を示した。
【
図9】
図9は、実施例1において、膀胱拡大術4週間に摘出した膀胱の組織切片像を示した。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の発明者らは、上述した問題を解決するため、検討を重ねた。その結果、生体適合性ポリマーを主成分とする第一及び第二の生体適合長繊維不織布を第一の細胞シートの一方の表面及び第二の細胞シートの一方の表面にそれぞれ接着させるとともに、第一の細胞シートの他方の表面と第二の他方の表面を接着させて細胞移植材にすることで、該細胞移植材の取扱性が良好になるとともに、移植部位における移植細胞の生着率及び再生効果が高まることを見出した。
特に、生体適合性ポリマーとしてゼラチンを用い、間葉系幹細胞を含む骨髄由来細胞や脂肪由来細胞等で細胞シートを構成することで、膀胱組織へ移植した場合、取扱性が良好になるとともに、膀胱組織における移植細胞の生着率及び平滑筋細胞への分化が促進され、下部尿路障害治療用細胞移植材として好適に使用し得ることを見出した。
【0012】
<生体適合長繊維不織布>
本発明の1以上の実施形態において、生体適合長繊維不織布は、生体適合性ポリマーを主成分とする。本発明の1以上の実施形態において、主成分とは、生体適合性ポリマーを90質量%以上含むことを意味する。他の成分は、必要に応じて、架橋剤、薬剤、可塑剤、他の添加剤等であってもよい。本発明の1以上の実施形態において、生体適合長繊維不織布は、実質的に100質量%の生体適合性ポリマーで構成されてもよい。なお、本発明の1以上の実施形態の細胞移植材において、生体適合長繊維不織布は、膨潤した状態である。本発明の1以上の実施形態において、「膨潤」とは、水、緩衝液又は液体培地からなる群から選ばれる一つ以上の液体で飽和状態まで膨潤することを意味する。前記飽和状態とは、液体が最大限に含まれた状態であり、液体の含有量が一定限度にとどまりそれ以上増えない状態を意味する。
【0013】
前記生体適合性ポリマーとしては、特に限定されないが、例えば、天然高分子や合成高分子を用いることができる。天然高分子としては、例えばタンパク質や多糖類が挙げられる。タンパク質としては、例えばコラーゲン、フィブロネクチン、フィブリノーゲン、ラミニン、フィブリン等が挙げられる。多糖類としては、例えばキトサン、アルギン酸カルシウム、ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、ヘパリン、 デンプン、ジェランガム、アガロース、グァーガム、キサンタンガム、カラギーナン、ペクチン、ローカストビーンガム、タマリンドガム、ダイユータンガム等の天然高分子を用いてもよく、カルボキシメチルセルロース等の天然高分子の誘導体を用いてもよい。合成高分子としては、例えば、ポリエチレングリコールポロエチレングリコール、ポリエチレンテレフタレート、ポリビニルアルコール、熱可塑性エラストマー、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート、ポリジメチルシロキサン、シクロオレフィンポリマー、アモルファスフッ素樹脂等の非吸収性の合成高分子や、ポリ乳酸、ポリグルコール酸、ポリカプロラクトン、ポリジオキサノン等の生体吸収性高分子等が挙げられる。前記生体適合性ポリマーは、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0014】
前記生体適合性ポリマーは、溶液紡糸が可能で、繊維形成後にゲル化し、架橋させることができ、形態安定性の高い不織布に形成できる観点から、水溶性高分子であることが好ましく、ゼラチンであることがより好ましい。ゼラチン長繊維不織布は、安全性が高く、生体吸収性に優れるゼラチンを主成分とすることから、細胞移植材に好適に用いることができる。特に、間葉系幹細胞を含む骨髄由来細胞や脂肪由来細胞等で構成された細胞シートと併用した場合、ゼラチン長繊維不織布と細胞シートの相乗作用が発生やすく、移植部位における目的細胞への分化が高まる。
【0015】
前記生体適合長繊維不織布を構成するゼラチン長繊維等の生体適合長繊維は、平均繊維径が2μm以上400μm以下であることが好ましく、より好ましくは5μm以上300μm以下であり、さらに好ましくは7μm以上250μm以下であり、特に好ましくは10μm以上150μm以下である。生体適合長繊維の平均繊維径が上記範囲内であると、細胞が生体適合長繊維不織布に侵入しやすく、移植箇所における移植細胞の生着率がより高まる。本発明の1以上の実施形態において、「平均繊維径」は、膨潤後の生体適合長繊維不織布から任意に選択した50本の繊維の直径を測定してその平均値を算出することで求めることができる。
【0016】
前記生体適合長繊維不織布を構成するゼラチン長繊維等の生体適合長繊維は、繊維交点が部分的に溶着していることが好ましい。この部分的溶着は、特に限定されないが、例えば、後述するように、生体適合長繊維不織布の製造時に圧力流体によって吹き飛ばされた完全に固化していない状態のゼラチン長繊維等の生体適合長繊維を堆積することで発現させることができる。この部分的溶着により、生体適合長繊維不織布はブリッジ構造となり、所望の形に成形しやすく、かつ成形安定性も高いものとなる。また、繊維交点が部分的に溶着していることにより、生体適合長繊維不織布は水に濡れてもへたらない。また、生体適合長繊維不織布において、繊維交点は一部が溶着してもよく、繊維交点の全部が溶着してもよい。
【0017】
前記生体適合長繊維不織布は、特に限定されないが、例えば、取扱性、細胞シートとの接着性、及び移植後の細胞シートとの相互作用を高める観点から、厚みが0.1mm以上3.0mm以下であることが好ましく、0.2mm以上2.5mm以下であることがより好ましく、0.3mm以上2.0mm以下であることがさらに好ましい。
【0018】
前記生体適合長繊維不織布は、特に限定されないが、例えば、取扱性、細胞シートの接着性、及び移植後の細胞シートとの相互作用を高める観点から、1.0kPaの圧縮応力時の圧縮変形率(以下において、単に「圧縮変形率」とも記す。)が1%以上40%以下であることが好ましく、5%以上35%以下であることがより好ましく、10%以上30%以下であることがさらに好ましい。本明細書において、圧縮変形率は、水で飽和状態まで膨潤した後の積層体において、無荷重の時の厚さを(H1)とし、1.0kPaの圧縮応力時の厚さを(H2)とした場合、下記式で算出したものである。圧縮試験は、後述のとおりに行う。
圧縮変形率(%)=100-{(H2/H1)×100}
【0019】
本発明の1以上の実施形態において、生体適合長繊維不織布は、細胞接着因子、細胞誘導因子、細胞増殖因子、細胞に栄養やエネルギ-を与える物質、細胞の機能を抑制又は亢進する物質等でコーティングされてもよい。細胞接着因子としては、特に限定されないが、例えば、フィブロネクチン等が挙げられる。細胞接着因子で生体適合長繊維不織布をコーティングすることで、細胞シートとの接着が強固になる。細胞に栄養やエネルギ-を与える物質としては、特に限定されないが、例えば、ATP、ピルビン酸、グルタミン等が挙げられる。また、本発明の1以上の実施形態において、生体適合長繊維不織布を細胞誘導因子、細胞増殖因子等の生理活性物質を含む溶液に浸して、これらの成分を含ませてもよい。移植後に、生体適合長繊維不織布から、これらの生理活性物質が徐々に放出されることで、目的細胞への分化等を促進することができる。
【0020】
本発明の1以上の実施形態において、生体適合長繊維不織布は、特に限定されないが、夾雑物の発生を抑制し、製品汚染を防ぐ観点から、ゼラチン等の生体適合性ポリマーを含む紡糸液をノズル吐出口から空気中に押し出し、前記ノズル吐出口の後方に位置し、前記ノズル吐出口とは非接触状態の流体噴射口から前方に向けて圧力流体を噴射し、前記押し出された紡糸液を前記圧力流体に随伴させて繊維形成させ、得られた生体適合長繊維を集積させて不織布とすることで作製することが好ましい。
【0021】
本発明の1以上の実施形態において、生体適合長繊維不織布は、架橋されていることが好ましい。これにより形態安定性及び耐水性を高めることができる。架橋は、架橋剤等の化合物を用いた化学架橋であってもよいが、生体安全性の観点から、生体安全性を有する架橋剤を用いる架橋、架橋剤を用いない架橋であることが好ましい。架橋剤を用いない架橋としては、例えば、熱架橋、電子線架橋、γ線等の放射線架橋、紫外線架橋等が挙げられる。電子線照射、γ線等の放射線照射の場合は、滅菌と架橋を同時にすることもできる。簡便に所望の架橋効果を得やすい観点から、熱架橋であることが好ましく、熱脱水架橋であることがより好ましい。熱脱水架橋は、例えば、100℃以上160℃以下で、24時間以上96時間以下行ってもよい。また、熱脱水架橋は、例えば、1kPa以下の真空下で行ってもよい。前記積層体は、架橋する前に乾燥してもよい。乾燥は、室温における風乾でもよく、真空凍結乾燥でもよい。
【0022】
本発明の1以上の実施形態において、生体適合長繊維不織布は、具体的には、国際公開公報2018/235745号に記載のとおりに作製し、必要に応じて膨潤させて用いることができる。また、ゼラチン長繊維不織布として、例えば、株式会社ニッケ・メディカル製の「Genocel(登録商標)」シートタイプ等の市販品を適宜に膨潤させて用いてもよい。
【0023】
<細胞シート>
本発明の1以上の実施形態において、細胞シートは、細胞同士が細胞間結合によりシート状になったものを意味する。細胞同士は、直接接着していてもよく、介在物質を介して互いに接着していてもよい。介在物質としては、細胞同士を接着し得る物質であれば特に限定されないが、例えば、細胞外マトリックス等が挙げられる。介在物質は、特に限定されないが、細胞由来のものであることが好ましい。
【0024】
本発明の1以上の実施形態において、細胞シートを構成する細胞は、浮遊細胞であってもよく、接着性細胞であってもよいが、細胞シートを形成しやすい観点から接着性細胞であることが好ましい。
【0025】
本発明の1以上の実施形態において、細胞シートを構成する細胞は、特に限定されず、動物由来の細胞を好適に用いることができる。動物としては、哺乳類であることが好ましく、ヒトであることがより好ましい。ヒト以外の哺乳類動物としては、例えば、サル、チンパンジー等の霊長類、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ等の有蹄類等が挙げられる。前記細胞は、生体組織や器官から直接採収した初代培養した初代細胞、継代させた継代細胞、及び細胞株等のいずれであってもよい。
【0026】
本発明の1以上の実施形態において、細胞としては、特に限定されないが、例えば、体細胞、幹細胞、前駆細胞、生殖細胞、免疫細胞等が挙げられる。
【0027】
体細胞は、生体を構成する体細胞や体細胞から派生したがん細胞を含む。生体を構成する体細胞としては、特に限定されず、例えば、線維芽細胞、筋細胞、内皮細胞、骨芽細胞、内皮細胞、膀胱細胞、肺細胞、骨細胞、神経細胞、肝細胞、軟骨細胞、上皮細胞、中皮細胞等が挙げられる。癌細胞としては、特に限定されず、例えば、乳癌細胞、腎癌細胞、前立腺癌細胞、肺癌細胞、肝癌細胞、子宮頸癌細胞、食道上皮癌、膵癌、大腸癌、膀胱癌等が挙げられる。
【0028】
幹細胞は、様々な特殊化した細胞型へ分化する可能性がある細胞である。幹細胞としては、特に限定されず、例えば、胚性幹細胞(ES細胞)、胚性癌腫細胞(EC)、胚性生殖幹細胞(EG)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、成体幹細胞、胚盤胞由来幹細胞、生殖隆起由来幹細胞、奇形腫由来幹細胞、オンコスタチン非依存性幹細胞(OISC)、骨髄由来間葉系幹細胞、脂肪由来間葉系幹細胞、羊膜由来間葉系幹細胞、皮膚由来間葉系幹細胞、骨膜由来間葉系幹細胞等が挙げられる。
【0029】
前駆細胞は、前記幹細胞から発生し生体を構成する最終分化細胞へ分化することができる細胞である。生殖細胞としては、例えば、精子、精細胞、卵子、卵細胞等が挙げられる。免疫細胞としては、特に限定されないが、例えば、マクロファージ、リンパ球、樹状細胞等が挙げられる。
【0030】
上述した細胞は、1種を単独で用いてもよく、目的等に応じて2種以上を併用してもよい。例えば、下部尿路障害治療用細胞移植材として好適に用いる観点から、前記細胞は、骨髄由来細胞及び脂肪由来細胞からなる群から選ばれる1以上であることが好ましく、間葉系幹細胞を含むことがより好ましい。
【0031】
移植後の免疫拒絶反応を抑制する観点から、細胞は、同種同系あるいは自己由来の幹細胞及び前駆細胞からなる群から選ばれる一種以上であることが好ましく、同種同系あるいは自己由来の幹細胞であることがより好ましく、同種同系あるいは自己由来の間葉系幹細胞であることがさらに好ましい。間葉系幹細胞としては、特に由来組織、臓器に限定されず、例えば、骨髄由来間葉系幹細胞、脂肪組織由来間葉系幹細胞、羊膜由来間葉系幹細胞、皮膚由来間葉系幹細胞、骨膜由来間葉系幹細胞等が挙げられる。
【0032】
<細胞移植材>
本発明の1以上の実施形態において、細胞移植材は、第一の細胞シート、第二の細胞シート、第一の生体適合長繊維不織布、及び第二の生体適合長繊維不織布を含み、第一の生体適合長繊維不織布は第一の細胞シートの一方の表面に接着しており、第二の生体適合長繊維不織布は第二の細胞シートの一方の表面に接着しており、第一の細胞シートの他方の表面と第二の細胞シートの他方の表面が接着している。本発明の1以上の実施形態の細胞移植材において、第一の生体適合長繊維不織布、及び第二の生体適合長繊維不織布のそれぞれは、細胞移植材の両表面のそれぞれに配置され、第一の生体適合長繊維不織布、及び第二の生体適合長繊維不織布の間に細胞シートが配置されていることになる。これにより、細胞移植材の取扱性が良好になるとともに、移植部位における細胞移植材の生着率も高くなる。また、細胞として幹細胞や前駆細胞等の未分化細胞を用いた場合、目的細胞への分化も促進される。
【0033】
第一の生体適合長繊維不織布は第一の細胞シートの一方の表面に部分的に接着してもよく、第一の細胞シートの一方の表面の全体に接着してもよい。また、第二の生体適合長繊維不織布は第二の細胞シートの一方の表面に部分的に接着してもよく、第一の細胞シートの一方の表面の全体に接着してもよい。また、第一の細胞シートと第二の細胞シートは、部分的に接着してもよく、全体的に接着してもよい。
【0034】
第一の生体適合長繊維不織布及び第二の生体適合長繊維不織布としては、上述した生体適合長繊維不織布を適宜用いることができる。第一の生体適合長繊維不織布及び第二の生体適合長繊維不織布は、同じ生体適合性ポリマーで構成されたものであってもよく、異なる生体適合性ポリマーで構成されたものであってもよい。また、第一の生体適合長繊維不織布及び第二の生体適合長繊維不織布は、厚みや生体適合長繊維の平均繊維径等が同じものであってもよく、異なるものであってもよい。
【0035】
第一の細胞シート及び第二の細胞シートとしては、上述した細胞シートを適宜用いることができる。第一の細胞シート及び第二の細胞シートは、同じ種類の細胞で構成された細胞シートであってもよく、異なる種類の細胞で構成された細胞シートであってもよい。また、第一の細胞シート及び第二の細胞シートは、それぞれ、1種類の細胞で構成された細胞シートであってもよく、2種類以上の細胞で構成された細胞シートであってもよい。
【0036】
本発明の1以上の実施形態において、細胞移植材は、第一の細胞シート及び第二の細胞シートに加えて、必要に応じて他の細胞シートをさらに含んでもよく、前記他の細胞シートは、第一の細胞シートと第二の細胞シートの間に配置されており、第一の細胞シートの他方の表面と第二の他方の表面は他の細胞シートを介して接着されてもよい。他の細胞シートは、1つであってもよく、2つ以上であってもよい。
【0037】
本発明の1以上の実施形態において、細胞移植材は、第一の生体適合長繊維不織布、及び第二の生体適合長繊維不織布に加えて、必要に応じて他の生体適合長繊維不織布をさらに含んでもよく、前記他の生体適合長繊維不織布は、細胞シートの間に配置されていてもよい。
【0038】
本発明の1以上の実施形態の細胞移植材において、生体適合長繊維不織布と細胞シートは直接接着してもよく、介在物質、例えば細胞外マトリックス等を介して接着してもよい。
また、本発明の1以上の実施形態の細胞移植材において、細胞シートと細胞シートは直接接着してもよく、介在物質、例えば細胞外マトリックス等を介して接着してもよい。
【0039】
<細胞移植材の製造方法>
本発明の1以上の実施形態において、特に限定されないが、細胞移植材の作製は、下記のような工程を含む。
(1)細胞シートを準備する工程;
(2)細胞シートと生体適合長繊維不織布層を積層して積層体を得る工程;
(3)2つの積層体を積層し、細胞移植材を得る工程。
【0040】
本発明の1以上の実施形態において、第一の細胞シート及び第二の細胞シート等の細胞シートは、例えば、細胞を公知の培養方法により接着培養することで得ることができる。培養皿等の培養容器からの細胞シートの剥離は、公知の方法で行うことができる。培養皿等の培養容器については、特に限定されないが、例えば、細胞シートを剥離しやすい培養容器を用いることが好ましい。このような培養容器としては、例えば、株式会社セルシード製の温度応答性培養基材等の市販品を用いてもよい。
【0041】
細胞培養時には、培地としては、特に限定されず、細胞の種類に応じて、細胞の生存増殖に必要な成分を含むものを適宜用いることができる。前記培地は、血清、抗生物質及び成長因子等を含んでもよい。血清は、例えば、ウシ血清、ウシ胎児血清、ウマ血清、ヒト血清等を適宜用いることができる。抗生物質は、ペニシリン、ストレプトマイシン、ゲンタマイシン、アンフォテリシン、アンピシリン、ミノマイシン、カナマイシン等を適宜用いることができる。成長因子は、細胞増殖因子、分化誘導因子、細胞接着因子等を適宜用いることができる。
【0042】
細胞培養時の播種する細胞数は、細胞の種類などに応じて適宜決めればよいが、例えば、培養容器の接着面積に対して、0.10x105Cells/cm2以上0.60x105Cells/cm2以下であってもよく、0.20x105Cells/cm2以上0.50x105Cells/cm2以下であってもよく、0.35x105Cells/cm2以上0.45x105Cells/cm2以下であることがさらに好ましい。
【0043】
細胞培養は、例えば、27℃以上40℃以下で行ってもよく、31℃以上37℃以下であってもよい。二酸化炭素は、2%以上10%以下の範囲であってもよい。
【0044】
培養時間は、細胞種類、細胞数等に応じて適宜決めればよいが、例えば、2~8日継続して培養してもよく、3~7日継続して行ってもよく、4~6日継続して行ってもよい。培地は、2~4日毎に交換してもよい。
【0045】
培養容器から剥離した細胞シートの一方の表面上に、培地がない状態で、培地で膨潤させたゼラチン長繊維不織布等の生体適合長繊維不織布を積層し、例えば、室温(20℃以上25℃以下)で約2分以上10分以下静置することで、ゼラチン長繊維不織布等の生体適合長繊維不織布と細胞シートを接着させて、積層体を得ることができる。
【0046】
得られた第一の細胞シートと第一の生体適合長繊維不織布の積層体、及び第二の細胞シートと第二の生体適合長繊維不織布の積層体を、第一の細胞シートの第一の生体適合長繊維不織布と接していない表面と第二の細胞シートの第二の生体適合長繊維不織布と接していない表面が接するように積層し、例えば、培地がない状態で、2%以上10%以下の二酸化炭素の雰囲気下、27℃以上40℃以下の温度で約60分以上120分以下培養することで、第一の細胞シートと第二の細胞シートを接着させて、細胞移植材を得ることができる。
【0047】
<細胞移植材の使用方法>
本発明の1以上の実施形態において、細胞移植材を生体内の所定部位に移植することができる。細胞移植材の移植方法は特に限定されず、生体内の患部に直接付着させてもよく、生体内で使用可能な接着剤で接合してもよく、生体内で使用可能な縫合材で縫合してもよい。縫合する際に、細胞移植材の一方又は両方の表面に生体適合性材料で構成された補強材を配置した後に縫合してもよい。本発明の1以上の実施形態において、細胞移植材は、細胞種類等に応じて、所定の条件下で培養した後に、生体内の所定部位に移植してもよい。
【0048】
本発明の1以上の実施形態において、細胞シートが骨髄由来細胞や脂肪由来細胞で構成されている場合、膀胱拡大術や下部尿路障害治療用細胞移植材として好適に用いることができる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例を用いてさらに具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0050】
測定・評価方法は下記のとおりである。
<平均繊維径>
膨潤後のゼラチン長繊維不織布をマイクロスコープ(CKX53、オリンパス社製)で観察し、任意に選択した50本の繊維を用いて、膨潤後の平均繊維径を測定した。
<生体適合長繊維不織布の厚み>
膨潤後のゼラチン長繊維不織布の厚みをミツトヨ社製のデジタルノギスで計測した。
【0051】
(実施例1)
<骨髄細胞の採取及び初代培養>
動物は10週齢雄GFP-SDラットを使用した。麻酔下のラットの左右の大腿骨を摘出した。摘出した大腿骨の両端を切断して一方から注射針21G(内径0.51mm)を付けたシリンジを刺して、培養培地(15%牛胎児血清(FBS)、及び0.1%ペニシリン-ストレプトマイシン含有DMEM、以下同様)で大腿骨内に存在する細胞を反対側の切断部位へ押し流した。押し流された細胞を遠心管に採取した。遠心分離を1000rpmで4分間行った後、上清を除去した。下層に集積した細胞を新鮮培養培地で懸濁して、コラーゲンコートされた10cm培養皿(IWAKI コラーゲンIコートディッシュ、AGCテクノグラス製)に播種した。培養皿を5%CO2、37℃の条件でインキュベートし、コンフルエントに達するまで、7日から10日間初代培養を行った。なお、初代培養期間中、全量培地交換を毎日行い、コラーゲンコートした培養皿に接着しなかった細胞(造血幹細胞、血球細胞や死細胞など)を除去した。培養皿に接着・伸展して増殖したコラーゲン接着性を有する細胞を骨髄由来細胞として取り扱った。
<細胞シートの作製>
初代培養を経てコンフルエントに達した骨髄由来細胞(P0)をトリプシン処理して、コラーゲンコート培養皿から回収した。遠心分離を1000rpmで4分間行った後、上清を除去して、新鮮培養培地で懸濁した。その細胞懸濁液から細胞カウントを行い、0.5×106cells/mLとなるように細胞懸濁液を新鮮培養培地で調製した。調製した細胞懸濁液2mL(細胞数1.0×106cells)を6cmの温度応答性培養皿(UpCell(登録商標)、セルシード社製、接着面積28.3mm)に播種した。新鮮培養培地3mLを追加して、5%CO2、37℃の条件でインキュベートし、オーバーコンフルエントに達するまで、7日から10日間培養を行った。このとき培地は2日おきに全量交換した。
<移植材の作製>
6cmの温度応答性培養皿で骨髄由来細胞がオーバーコンフルエントになった後、培地を除去して、培養皿の底の温度を20~25℃まで低下させた。培養皿を1~20分静置して、骨髄由来細胞を培養皿から剥がし、シート状に遊離させた。この時の細胞シートの厚さは30~50μmであった。得られた細胞シートの一方の表面上に培地で膨潤させたゼラチン長繊維不織布(Genocel(登録商標)、シートタイプ、ニッケ・メディカル社製)を積層して、約5分静置し、ゼラチン長繊維不織布と細胞シートを接着させた後、ゼラチン長繊維不織布と細胞シートの積層体を回収した。なお、ゼラチン長繊維不織布は、膨潤時の繊維の平均繊維径は47~50μm、直径は約12mm、厚さは約450μmであった。回収した積層体を2枚、細胞シートの他方の表面同士が重なるように積層した。積層体を10cmの培養皿に置き、細胞シートが互いに接着するように、培地が無い状態で5%CO2、37℃の条件で90分間インキュベーションし、細胞移植材を得た。
<膀胱拡大術>
上記で得られた細胞移植材に、新鮮培地10~12mL添加して、3日間、培地交換なしで培養を行った。培養3日後、移植直前のゼラチン長繊維不織布で挟んだ細胞層の厚さ(第一の細胞シート及び第二の細胞シートの合計厚さ)は、約200μmであった。
動物は10週齢雌SDラットを用いた。麻酔をかけたラットの下腹部正中切開より膀胱を露出させた。膀胱を頂部から膀胱頚部にかけて約2/3(頂部から三角部にかけて)を切開して、膀胱前壁と後壁を開いた。膀胱割断面に上記で得られた細胞移植材を置き、積層体の上にポリグリコール酸の不織布を乗せ12、3、6、9時方向で縫合した。尿リークがないことを確認して、閉腹した。
【0052】
(比較例1)
実施例1で用いたものと同様の培地で膨潤させたゼラチン長繊維不織布を2枚積層して、積層体を得た。
その後、該積層体を10cmの培養皿に置き、培地が無い状態で5%CO2、37℃の条件で90分間インキュベーションし、移植材を得た。
該移植材を用いた以外は、実施例1と同様にして膀胱拡大術を行った。
【0053】
(比較例2)
実施例1と同様にしてゼラチン長繊維不織布と細胞シートの積層体を作製した。
その後、該積層体を10cmの培養皿に置き、培地が無い状態で5%CO2、37℃の条件で90分間インキュベーションし、細胞移植材を得た。
該細胞移植材を用いた以外は、実施例1と同様にして膀胱拡大術を行った。
【0054】
(比較例3)
実施例1と同様にしてゼラチン長繊維不織布と細胞シートの積層体を作製した。次に、該積層体の細胞シートの他方の表面上に実施例1で用いたものと同様の培地で膨潤させたゼラチン長繊維不織布を積層して、約5分静置し、ゼラチン長繊維不織布と細胞シートを接着させ、細胞シートの両表面上にゼラチン長繊維不織布が接着された積層体を得た。
その後、該積層体を10cmの培養皿に置き、培地が無い状態で5%CO2、37℃の条件で90分間インキュベーションし、細胞移植材を得た。
該細胞移植材を用いた以外は、実施例1と同様にして膀胱拡大術を行った。
【0055】
(比較例4)
実施例1と同様にして得られた細胞シートを膀胱拡大術に用いようとしたところ、細胞シートのみでは柔らかく、移植部位に移送、留置することはできなかった。
【0056】
(移植材の構造観察)
細胞移植材をパラフィン包埋した。包埋組織を5μm程度に薄切して、スライドガラスに乗せ標本とした。組織標本を脱パラフィン処理して、マッソントリクローム染色を実施し、細胞移植材の断面方向を観察した。
【0057】
図1は、実施例1の細胞移植材の断面写真である。
図2は、同部分的拡大図である。
図3は、比較例3の細胞移植材の断面写真である。
図1及び
図2おいて、スケールバーは、50μmを示す。
実施例1の細胞移植材1は、第一の細胞シート2、第二の細胞シート3、第一の生体適合長繊維不織布4、及び第二の生体適合長繊維不織布5を含む。
比較例3の細胞移植材11は、細胞シート13と、2枚の生体適合長繊維不織布12、14を含む。
2枚の細胞シートを含む実施例1の細胞移植材の場合、
図1から分かるように、細胞層部分に2枚の細胞シートを積層したことに由来する細胞シート間空隙6が見られた。また、
図2から分かるように、細胞シート間空隙6には2枚の細胞シート2及び3を橋渡しする細胞成分が見られた。この橋渡し成分は細胞シート間以外の空隙では見られず、細胞シート間の特徴的な構造である。
1枚の細胞シートを含む比較例3の細胞移植材11の場合、
図3から分かるように、実施例1の細胞移植材のような細胞シート間空隙は観察されない。
図4は、実施例1において、細胞移植材を所定期間培養し、移植する直前に観察した断面写真である。
図4から分かるように、2枚の細胞シートにおいて、細胞の増殖及び遊走が生じており、細胞シート間空隙が観察できない。
図4において、スケールバーは、100μmを示す。
【0058】
(膀胱再生の肉眼的観察結果)
膀胱拡大術4週間後、再度、動物に麻酔をかけて、正中切開より膀胱を露出した。癒着した膀胱周辺の脂肪組織などの組織を膀胱からできる限り剥離した後、尿道と膣壁の剥離を行い、尿管を切断して膀胱(一部尿道を含む)を摘出した。摘出した膀胱の肉眼的観察を行った。実施例及び比較例の全てにおいて、切開した膀胱は治癒していた。しかし、積層体を移植した部位において、実施例では、比較例よりも厚い組織が再生されていた。
【0059】
(膀胱組織解析方法)
膀胱拡大術4週間後、再度、動物に麻酔をかけて、正中切開より膀胱を露出した。癒着した膀胱周辺の脂肪組織などの組織を膀胱からできる限り剥離した後、尿道と膣壁の剥離を行い、尿管を切断して膀胱(一部尿道を含む)を摘出した。摘出した膀胱を4%パラフォルムアルデヒドに浸漬固定を一晩行った。浸漬固定した膀胱から、膀胱摘出時に剥離できなかった癒着組織をできるだけ剥離して、膀胱頂部から尿道にかけて2分割した。膀胱上皮から間質、排尿筋層が観察できるようにパラフィン包埋した。包埋組織を5μm程度に薄切して、スライドガラスに乗せ標本とした。組織標本を脱パラフィン処理して、マッソントリクローム染色を実施した。
染色した標本を100倍レンズ顕微鏡(BH-2、オリンパス社製)で観察して、縫合痕を確認する。縫合痕から、頂部にかけて5~10枚、組織像が連続する様に顕微鏡用デジタルカメラ(DP2、オリンパス社製)で撮影した。撮影した画像から、排尿筋層(平滑筋細胞で構成される平滑筋層)の厚さを1枚の画像から3、4カ所をデジタルカメラ付属のソフトウェアを用いて測定した。撮影、測定した排尿筋層の厚みの平均値を求めた。
【0060】
図5~
図8のそれぞれに、実施例1、比較例1~3において、膀胱拡大術4週間に摘出した膀胱の組織切片像を示した。
図5~
図8において、スケールバーは、100μmを示す。通常(正常)膀胱組織は、内側(内腔側)から、尿路上皮層、間質層、排尿筋層の3層で形成されている。実施例1、及び比較例1、2、3のいずれにおいても、正常膀胱組織に類似した尿路上皮層、及び間質層の再生(再構築)が確認された。一方、実施例において、排尿筋層は、正常膀胱組織に近い組織像を呈しており、比較例と比べて厚い排尿筋層が再生(再構築)されていた。
図5~
図8において、排尿筋層部分を両矢印で示した。移植した積層体の種類によって、膀胱の組織切片にみられる筋層の厚さが変化した。下記表1に排尿筋層の厚さを定量化した結果を示した。
【0061】
【0062】
表1からわかるように、実施例1の場合は、細胞シート2枚をゼラチン長繊維不織布2枚で挟んだハイブリッド積層体(以下、ハイブリッド型積層細胞シートとも記す。)とすることで、比較例に対し3倍以上の排尿筋層の再生がみられた。細胞シート2枚をゼラチン長繊維不織布2枚で挟んだハイブリッド積層体の場合、移植部位における移植細胞の生着率及び再生効果が高いことが分かる。
【0063】
図9に、実施例1において、膀胱拡大術4週間に摘出した膀胱の組織切片像(スケールバー:100μm)を示した。
図9に示されているように、ゼラチン長繊維不織布上に線維芽細胞様細胞が伸展して、その細胞に沿うように平滑筋細胞が遊走した。遊走してきた平滑筋細胞同士が結合して、排尿筋層の一部を形成した。ハイブリッド型積層細胞シートを形成している骨髄由来細胞の平滑筋細胞への分化、及び分化した平滑筋細胞同士の結合による排尿筋層も考えられる。これは、移植材としてハイブリッド型積層細胞シートを用いることで、膀胱組織の再生機序を解明する可能性を示唆した。
【0064】
(実施例2)
<脂肪細胞の採取及び初代培養>
動物は10週齢雄GFP-SDラット、10週齢雄または雌SDラット、10週齢雄または、雌NZWウサギを使用した。麻酔下の動物の下腹部を正中切開して、脂肪組織(0.5~1.0g)を摘出した。摘出した脂肪組織をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)にて洗浄した後、0.2%コラゲナーゼ含有DMEMに移して、細かく切断した。その後、37℃で約100rpmで旋回させ、明らかな固形の脂肪組織がなくなるまで、60~90分旋回コラゲナーゼ酵素処理を行った。酵素処理した細胞含有溶液を遠心管に移した。遠心分離を1000rpmで4分間行った後、上清を除去した。下層に集積した細胞を新鮮培養培地で懸濁して、コラーゲンコートされた10cm培養皿に播種した。培養皿を5%CO2、37℃の条件でインキュベートし、コンフルエントに達するまで、5日から7日間初代培養を行った。なお、初代培養期間中、全量培地交換を毎日行い、コラーゲンコートした培養皿に接着しなかった細胞(血球細胞や死細胞など)を除去した。培養皿に接着・伸展して増殖したコラーゲン接着性を有する細胞を脂肪由来細胞として取り扱った。
<脂肪細胞の継代培養>
初代培養を経てコンフルエントに達した脂肪由来細胞(P0)をトリプシン処理して、コラーゲンコート培養皿から回収した。遠心分離を1000rpmで4分間行った後、上清を除去して、新鮮培地で懸濁した。その細胞懸濁液から細胞カウントを行い、0.5×106cells/mlとなるように細胞懸濁液を新鮮培地で調製した。調製した細胞懸濁液2mL(細胞数1.0×106 cells)を6cmの温度応答性培養皿に播種した。新鮮培地3mLを追加して、5%CO2、37℃の条件インキュベートし、オーバーコンフルエントに達するまで、5日から7日間培養を行った。このとき、培地は2日おきに全量交換した。
<移植材の作製>
骨髄由来細胞の代わりに、上記で得られた脂肪由来細胞を用いた以外は、実施例1に記載のとおりに移植材を作製した。
【0065】
(比較例5)
実施例2と同様にしてゼラチン長繊維不織布と細胞シートの積層体を用いた以外は、比較例3と同様にして移植材を作製した。
【0066】
(細胞移植材の構造観察)
実施例1の場合と同様、実施例2及び比較例5で得られた細胞移植材の断面構造をそれぞれ観察し、その結果を
図10及び
図11にそれぞれ示した。
図10及び
図11において、スケールバーは、50μmを示す。
図10に示すように、実施例2の細胞移植材21は、第一の細胞シート22、第二の細胞シート23、第一の生体適合長繊維不織布24、及び第二の生体適合長繊維不織布25を含む。
比較例3の細胞移植材31は、細胞シート33と、2枚の生体適合長繊維不織布32、34を含む。
図10から分かるように、実施例2の細胞移植材21の場合、細胞部分に2枚の細胞シート22、23を積層したことに由来する細胞シート間空隙26が見られた。一方、1枚の細胞シートを含む比較例5の細胞移植材31の場合、
図11から分かるように、実施例2の細胞移植材のような細胞シート間空隙は観察されない。
【0067】
実施例2の細胞移植材も、実施例1の細胞移植材のように膀胱拡大術に用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明のハイブリッド型積層骨髄由来細胞シートは、移植によって厚い排尿筋層の組織を形成するのに用いることができる。また、本発明の本発明のハイブリッド型積層骨髄由来細胞シートは、組織再生機序への実験モデルとして利用が可能である。加えて、ヒト又はヒト以外の動物の組織の増大、修復又は再生に用いることができる。
【符号の説明】
【0069】
1、11、21、31 細胞移植材
2、3、13、22、23、33 細胞シート
4、5、12、14、24、25、32、34 生体適合長繊維不織布(ゼラチン長繊維不織布)
6、26 細胞シート間空隙