(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-09
(45)【発行日】2024-08-20
(54)【発明の名称】MAPキナーゼ相互作用セリン/スレオニン-プロテインキナーゼ1(MNK1)及びMAPキナーゼ相互作用セリン/スレオニン-プロテインキナーゼ2(MNK2)の阻害剤、癌治療及び治療的組合せ
(51)【国際特許分類】
A61K 31/437 20060101AFI20240813BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240813BHJP
A61K 31/704 20060101ALI20240813BHJP
A61K 31/138 20060101ALI20240813BHJP
A61K 31/4166 20060101ALI20240813BHJP
A61K 31/337 20060101ALI20240813BHJP
A61K 33/243 20190101ALI20240813BHJP
A61K 31/517 20060101ALI20240813BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240813BHJP
【FI】
A61K31/437
A61P35/00
A61K31/704
A61K31/138
A61K31/4166
A61K31/337
A61K33/243
A61K31/517
A61K45/00
(21)【出願番号】P 2022500764
(86)(22)【出願日】2020-07-09
(86)【国際出願番号】 EP2020069459
(87)【国際公開番号】W WO2021005183
(87)【国際公開日】2021-01-14
【審査請求日】2023-07-07
(32)【優先日】2019-07-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】ES
(73)【特許権者】
【識別番号】512274953
【氏名又は名称】フンダシオ オスピタル ウニベルシタリ バル デブロン-インスティテュート デ レセルカ
(73)【特許権者】
【識別番号】519142446
【氏名又は名称】インスティテュート キミカ ドゥ サリア セッツ フンダシオ プリバダ
(73)【特許権者】
【識別番号】522007451
【氏名又は名称】コンソルシオ セントロ デ インベスティガシオン バイオメディカ エン レッド
【住所又は居所原語表記】C.Monforte de Lemos 3-5.Pabellon 11,MADRID(ES)
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ラモン イ カハール アグエラス,サンティアゴ
(72)【発明者】
【氏名】ウメル,ステファン
(72)【発明者】
【氏名】カステリャビ ビベス,ジョセップ
(72)【発明者】
【氏名】マルチネス サエス,エレナ
(72)【発明者】
【氏名】ボレル ビルバオ,ホセ イグナシオ
(72)【発明者】
【氏名】テイシード クローサ,ジョルディ
(72)【発明者】
【氏名】エストラーダ テヘドル,ロジャー
(72)【発明者】
【氏名】ボウ プティ,エリザベス
(72)【発明者】
【氏名】ペグ カマラ,ビセンテ
(72)【発明者】
【氏名】キハロ カリージョ,ペドロ ヘスス
(72)【発明者】
【氏名】サンタマリア マルガレフ,アンナ
(72)【発明者】
【氏名】モロテ ロブレス,ジョアン
(72)【発明者】
【氏名】スアレス カブレラ,レティシア
【審査官】榎本 佳予子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0113415(US,A1)
【文献】Molecules,2016年,Vol.21,Article No.30
【文献】Current Oncology Reports,2018年,Vol.20,Article No.94
【文献】Current Opinion in Pharmacology,2015年,Vol.23,p.32-38
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61P 1/00-43/00
A61K 45/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳癌、前立腺癌、卵巣癌、及び子宮内膜癌から選択されるホルモン依存性臓器の癌の処置
のための
医薬を製造するための、
治療有効量の4,6-ジフェニル-1H-ピラゾロ[3,4-b]ピリジン-3-アミン、又は薬学的若しくは獣医学的に許容されるその塩
の使用。
【請求項2】
ホルモン依存性臓器の前記癌が、乳癌及び前立腺癌から選択される、請求項1に記載の
使用。
【請求項3】
前記乳癌がトリプルネガティブ乳癌である、請求項
1に記載の
使用。
【請求項4】
ホルモン依存性臓器の前記癌が前立腺癌である、請求項2に記載の
使用。
【請求項5】
前記処置が、治療有効量の4,6-ジフェニル-1H-ピラゾロ[3,4-b]ピリジン-3-アミン、又は薬学的若しくは獣医学的に許容されるその塩を、化学療法のための化合物及び免疫療法のための化合物から選択される1つ又は複数の化合物と組み合わせて投与することを含む、請求項
1に記載の
使用。
【請求項6】
前記化学療法的化合物が、ドキソルビシン、タモキシフェン、エンザルタミド、ドキタキセル、シスプラチン、ラパチニブ、及びこれらの組合せから選択される、請求項5に記載の
使用。
【請求項7】
免疫療法のための前記化合物が、プログラム細胞死タンパク質1及びそのリガンド(PD-1/PD-L1)の阻害剤を含む、請求項5に記載の
使用。
【請求項8】
乳癌、前立腺癌、卵巣癌、及び子宮内膜癌から選択されるホルモン依存性臓器の癌の処置のための医薬を製造するための、組合せの使用であって、
前記組合せが、
a)治療有効量の4,6-ジフェニル-1H-ピラゾロ[3,4-b]ピリジン-3-アミン、又は薬学的若しくは獣医学的に許容されるその塩、及び
b)ドキソルビシン、タモキシフェン、エンザルタミド、ドキタキセル、シスプラチン、ラパチニブ、プログラム細胞死タンパク質1及びそのリガンド(PD-1/PD-L1)の阻害剤、並びにこれらの組合せからなる群から選択される1つ又は複数の治療有効量の化学療法的化合物又は免疫療法的化合物、を含
む組合せ
である、使用。
【請求項9】
前記組合せが、4,6-ジフェニル-1H-ピラゾロ[3,4-b]ピリジン-3-アミン、又は薬学的若しくは獣医学的に許容されるその塩、並びにエンザルタミド及びドキタキセルのうち1つ又は2つ、を含む、請求項8に記載の
使用。
【請求項10】
前記組合せが、4,6-ジフェニル-1H-ピラゾロ[3,4-b]ピリジン-3-アミン、又は薬学的若しくは獣医学的に許容されるその塩、並びにドキソルビシン及びタモキシフェンのうち1つ又は2つ、を含む、請求項8に記載の
使用。
【請求項11】
前記組合せが、4,6-ジフェニル-1H-ピラゾロ[3,4-b]ピリジン-3-アミン、薬学的若しくは獣医学的に許容されるその塩、並びに前記プログラム細胞死タンパク質1又はそのリガンド(PD-1/PD-L1)の阻害剤のうち1つ又は複数を含む、請求項8に記載の
使用。
【請求項12】
薬学的又は獣医学的に許容される1つ又は複数の賦形剤又は担体と共に、治療有効量の、
a)4,6-ジフェニル-1H-ピラゾロ[3,4-b]ピリジン-3-アミン、又は薬学的若しくは獣医学的に許容されるその塩、並びに
b)ドキソルビシン、タモキシフェン、エンザルタミド、ドキタキセル、シスプラチン、ラパチニブ、前記プログラム細胞死タンパク質1及びそのリガンド(PD-1/PD-L1)の阻害剤、及びこれらの組合せからなる群から選択される、1つ又は複数の化学療法的化合物又は免疫療法的化合物、を含む、
乳癌、前立腺癌、卵巣癌、及び子宮内膜癌から選択されるホルモン依存性臓器の癌の処置に使用するための、単一の医薬組成物又は獣医学的組成物。
【請求項13】
i)1つ又は複数の薬学的又は獣医学的に許容される賦形剤又は担体と共に、治療有効量の4,6-ジフェニル-1H-ピラゾロ[3,4-b]ピリジン-3-アミン又は薬学的若しくは獣医学的に許容されるその塩を含む、第1の医薬組成物又は獣医学的組成物;
ii)1つ又は複数の薬学的又は獣医学的に許容される賦形剤又は担体と共に、ドキソルビシン、タモキシフェン、エンザルタミド、ドキタキセル、シスプラチン、ラパチニブ、プログラム細胞死タンパク質1及びそのリガンド(PD-1/PD-L1)の阻害剤、並びにこれらの組合せからなる群から選択される1つ又は複数の治療有効量の化学療法的化合物又は免疫療法的化合物を含む、第2の医薬組成物又は獣医学的組成物;
iii)i)とii)を組み合わせて使用するための指示;
を含み、前記第1の組成物及び前記第2の組成物が別個の組成物である、
乳癌、前立腺癌、卵巣癌、及び子宮内膜癌から選択されるホルモン依存性臓器の癌の処置に使用するための、パッケージ又はキットオブパーツ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年7月10日に出願されたスペイン国特許出願P201930643号の利益を主張する。
【0002】
本発明は、4,6-ジフェニル-1H-ピラゾロ[3,4-b]ピリジン-3-アミン又は薬学的に許容されるその塩の使用に関する。これは、トリプルネガティブ乳癌を含む乳癌、及び前立腺癌、及びMNK活性の増加を原因とするp-eIF4E過剰発現に起因する他の癌など、他のホルモン依存性臓器の癌を処置するのに使用される可能性を有する選択的MNK阻害剤として使用される。
【背景技術】
【0003】
乳癌は、世界的に見て、女性の癌のうち最も一般的であり、癌関連死のうち2番目に多い原因である。癌処置が世界的に進歩しているにもかかわらず、予後が悪い一部の癌サブタイプにおける致死率は、近年大幅には改善されていない。中でも予後が悪く、異なる乳癌サブタイプは、トリプルネガティブ乳癌(TNBC)である。これは、エストロゲン受容体α(ER)、プロゲステロン受容体(PR)、及びヒト上皮成長因子受容体2(HER-2)の存在が確認されないことを特徴としている(非特許文献1)。この癌サブタイプは、比較的高悪性度の組織学的表現型を伴って一般的には発症し、ERが陽性の症例よりも若年層で診断される傾向がある(非特許文献2~4)。トリプルネガティブの腫瘍は、承認済み治療の一次標的を欠くことから、その治療法は外科手術、放射線治療及び/又は全身化学療法の適用に現在では限定されている。それゆえ、特定の癌サブタイプの根底にある生物学の理解が進歩しているにもかかわらず、こうした疾患の処置向けの新規治療方針を特定することが特に重要である。
【0004】
多くの研究が、ネオアジュバント、アジュバント及び転移状況に関するTNBCでの化学療法による臨床的恩恵を示している。逆説的には、TNBCの症例は一般には、他の乳癌サブタイプに罹患している患者よりも化学療法に対して良好な一次応答を示す(非特許文献5)。しかし、病理学的な完全奏功は早期症例のうち30~40%で得られるのみであり、こうした奏功レベルを示さない患者は、12倍高い死亡リスクを有する(非特許文献6~7)。以上のことから癌の治療を向上させるため、例えば免疫療法などの新規戦略が試験されているところであるが、今日までその成功は限られている(非特許文献8)。
【0005】
エストロゲン陽性である他のサブタイプは、良好な予後を有するが後期に再発するリスクが高い。実際に、患者は長年にわたり抗エストロゲン剤を用いて処置される(非特許文献9)。この意味で、MNK阻害剤との組合せを含む、様々な組合せのアプローチが最適化にむけて試みられている(非特許文献10)。
【0006】
承認済みの処置に対し経時的に脱感作現象を発症する別の種類の癌は、前立腺癌である。前立腺癌は、最も一般的な悪性腫瘍であり、西洋の男性では癌関連死のうち2番目に多い原因である(非特許文献11)。大半の死亡は、アンドロゲン抑制療法が失敗した後に発生するが、この時、腫瘍は去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)へと発達している。第二選択抗ホルモン療法(アビラテロン及びエンザルタミド)に対する一次応答にもかかわらず、患者は通常、これらの薬剤に対する耐性を発症する(非特許文献12)。
【0007】
腫瘍内のアンドロゲン産生、C末端リガンド結合ドメインを欠損する構成的活性型ARスプライスバリアント(AR-V7はCRPC患者で最も一般的に見られるものの1つである)の増幅、変異又は発現は、抗ホルモン療法に対する耐性の最も重要な臨床的機序の一部である(非特許文献13)。進行した前立腺癌の処置を主に妨害するものの1つは薬物耐性であるため、併用療法的戦略が望ましい。
【0008】
タンパク質合成の調節解除はヒトの癌において共通する事象であるが、これは特に、化学療法剤に対する耐性において共通するものである。翻訳制御における重要因子は、翻訳開始因子4E(eIF4E)である。この機能は、保存セリン(Ser209)のリン酸化を介し、MAPキナーゼ相互作用セリン/スレオニン-プロテインキナーゼ1(MNK1)、及びMAPキナーゼ相互作用セリン/スレオニン-プロテインキナーゼ2(MNK2)により調節される。
【0009】
近年、eIF4Eは、乳癌、肺癌、卵巣癌、子宮内膜癌、グリオーマ及び前立腺癌を含む様々な腫瘍の悪性進行及び予後不良に関連する、独立予後因子として説明されている(非特許文献14)。追加的な種類の腫瘍におけるこれらの因子の予後重要性は、他の群にて確認されている。例えば、結腸癌(非特許文献15)、鼻咽腔癌(非特許文献16)、肝細胞癌(非特許文献17)、星細胞腫(非特許文献18)、肺癌(非特許文献19~20)、及びメラノーマ(非特許文献21)などである。最も不良な予後は、p-eIF4E過剰発現を伴う細胞における上皮間葉転換の増加(非特許文献22)並びに細胞の酸化ストレス、栄養分の欠如、及び抗腫瘍剤に対する大幅な耐性(非特許文献23)に関連している。
【0010】
研究により、eIF4Eが媒介する翻訳開始の調節解除は発癌性形質転換において重要な段階であり、腫瘍の維持に寄与している可能性があるという概念実証がもたらされている。発癌性形質転換にはリン酸化が必須であるものの、通常発生にはこれは不要であると考えられている。それゆえ、薬理学的なMNK阻害剤は、特に承認済みの処置と組み合わせられて、有効で非毒性の抗癌戦略を提示することができる。要約すると、MNK1/MNK2は、RNA干渉法を使用する実験にて観察された抗腫瘍効果及びダブルノックアウト動物において有害作用が存在しなかったことに基づき、腫瘍学での創薬に関して有用である対象として登場した(非特許文献24)。ただし、選択的MNK阻害剤の欠如により、創薬ターゲットの検証及び臨床開発は妨害されてきた。
【0011】
腫瘍の発生及び進行におけるMNKの役割が十分確立されてきている一方で、満足できるレベルの選択性を有する特異的な単一MNK阻害剤又は二重MNK阻害剤は依然として開発中である。セルコスポラミド(非特許文献25)又はCGP57380(非特許文献26)のような阻害剤は、これらのキナーゼの研究に長年使用されているが、選択性が低いことについて述べられている(非特許文献27~28)。
【0012】
MNKはセリン/スレオニン-プロテインキナーゼファミリーに属し、Ca2+/カルモジュリン依存性キナーゼのメンバーとして分類される。
【0013】
MNKキナーゼは、MNK1及びMNK2といった2つのアイソフォームで存在する。MNK1は誘導型アイソフォームであり、ERK及びp-38により容易にリン酸化されるが、MNK2は高い定常活性を有する。
【0014】
その全体の立体構造的な構造は他のプロテインキナーゼと類似する一方で、MNKは複数の異常な要素を含有する(非特許文献29~30)。これらの相違点により、高度に選択的な阻害剤を開発する可能性が開かれる。近年実施されている構造的研究は、リガンドと活性型キナーゼ部位との間の異なる種類の相互作用を提案している。これはすなわち、タイプI(活性型キナーゼ立体構造)、タイプII(不活性型キナーゼ立体構造)、タイプIII(アロステリック阻害剤)及びタイプVI(不可逆的阻害剤)である(非特許文献28)。
【0015】
近年、Effector Therapeutics及びBayer AG(それぞれ、eFT508及びBAY1143269)により開発された最初の2つのMNK阻害剤が、腫瘍学での臨床試験に入った(非特許文献31~32)。MNK阻害剤の分類によれば、両者ともタイプI阻害剤であり、ATPに対し競合的に作用する。eFT508は、大細胞型B細胞リンパ腫におけるmTOR阻害剤(エベロリムス)と組み合わせた処置に首尾良く適用されており、BAY1143269は、非小細胞肺癌の処置においてタキサンと組み合わせられる。こうした結果は、MNK1/MNK2が、承認済みの処置に対して適応するのを防ぐための有用なターゲットであると確証させるものである一方、ATP競合性作用機序により、他の種類の癌におけるこれらの阻害剤の広範な使用は妨げられ得る。この点において、両方のタイプI阻害剤を用いたTNBCの処置に関する結果は発表されていない。
【0016】
近年、様々な調査グループが、基盤構造として様々な複素環系を用いたMNK1/MNK2阻害剤の開発に参加している。特に、キナーゼ阻害剤を開発するための基盤構造として1H-ピラゾロ[3,4-b]ピリジン-3-アミン複素環系を使用した前述の研究は、本特許出願に関連している。例えば、特許文献1は、EphA4受容体チロシンキナーゼ阻害剤として当該複素環の使用について説明している。これは、EphA4受容体チロシンキナーゼシグナル伝達により調節される神経疾患及び神経変性疾患、癌及び他の状態の処置に有用である。特許文献1にて試験され、実施例63及び67として標識された2つの化合物は、EphA4受容体チロシンキナーゼ阻害剤として実証された効果をもたらした。ただし、これらのアッセイは、乳癌(TNBCを含む)、卵巣癌、子宮内膜癌及び前立腺癌といったホルモン依存性臓器の癌の処置に有用であると例示又は確証させるものではないが、他の列挙された化合物全てよりもはるかに少ないものの、そうした化合物がEphA4受容体チロシンキナーゼの当該阻害効果をもたらすことを暗示している。
【0017】
加えて、特許文献2は、アレルギー疾患、自己免疫疾患及び/又は炎症性疾患、及び癌の処置のためのプロテインキナーゼ酵素の阻害剤として、これらの複素環系の使用を主張している。しかしながらこれらの特許では、どれもMNK1/MNK2、又はeIF4Eリン酸化について言及していない。
【0018】
最後に、特許文献3は、ピラゾロピリジン系のC5位に非常に嵩高い複素環置換基を有する1H-ピラゾロ[3,4-b]ピリジン-3-アミン系を説明している。この場合では、得られた系はMNK1キナーゼ及び/又はMNK2キナーゼの阻害剤として実際に主張されており、それらとeIF4Eとの関連及び乳癌の処置におけるそれらの関与について言及している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【文献】米国特許出願公開第2010/0113415号明細書
【文献】国際公開第2011/019780号公報
【文献】国際公開第2015/004024号公報
【非特許文献】
【0020】
【文献】Clin Cancer Res.2007;13:4429-4434
【文献】Nat Rev Clin Oncol.2016;13:674-690
【文献】Oncologist.2011;16 Suppl 1:1-11
【文献】Breast Cancer Res.2010;12:212
【文献】J.Am.Soc.Clin.Oncol.2008;26:1275-1281
【文献】Lancet Lond.Engl.2014;384:164-172
【文献】J.Am.Soc.Clin.Oncol.2012;30:1796-1804
【文献】Med.Oncol.Northwood Lond.Engl.2017;35:13
【文献】J Clin Oncol.2015 Mar10;33(8):916-22
【文献】Genes Dev.2017Nov15;31(22):2235-2249)
【文献】CA Cancer J Clin.2020Jan;70(1):7-30
【文献】BJU Int.2016Feb;117(2):215-25
【文献】Cancer Treat Rev.2017Jun;57:16-27
【文献】Clin Transl Oncol.2014;16:937-1113
【文献】Oncotarget.2015;6:24092-24104
【文献】PLoS ONE.2014;9:e89220
【文献】J Cancer Res Clin Oncol.2016;142:2309-2317
【文献】J Neurooncol.2016;131:485-493
【文献】Virchows Arch.2015;467:667-673
【文献】Int J Clin Exp Pathol.2015;8:3955-3962
【文献】J Invest Dermatol.2015;135:1358-1367
【文献】Oncogene.2015;34(16):2032-2042
【文献】PLoS ONE.2015;10(4):e0123352
【文献】Mol Cell Biol.2004;24(15):6539-6549
【文献】Cancer Biol Ther.2015;16(5):648-656
【文献】Cancer Res.2011;71:1849-1857
【文献】Biochem.J.2007;408(3):297-315
【文献】Curr Med Chem.2017;24(28):3025-3053
【文献】Oncotarget.2012;3:118-131
【文献】Chem Biol.2014;4:441-452
【文献】J Med Chem.2018;61(8):3516-3540
【文献】Cancer Lett.2017;390:21-29
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
このように、有効な癌治療を提供するために多大な努力が払われてきているが、代替的な治療、特に一般的な治療に対して何らかの耐性又は屈折性を生じる前述の癌タイプに関するものへの必要性が依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は、最も単純な1H-ピラゾロ[3,4-b]ピリジン-3-アミン誘導体のうちの1つである、4,6-ジフェニル-1H-ピラゾロ[3,4-b]ピリジン-3-アミンといった化合物(EB1として本明細書では命名)の驚くべきMNK1/MNK2阻害効果から生じる。
【0023】
【0024】
当該化合物は、色素の合成向けの中間体としてドイツ国特許第2160780号(1973年)に最初に説明され、別の記事及び特許では合成中間体として説明された(例えば、米国特許出願公開第2010/0113415号)。ただし、MNK1/MNK2と関連する、その可能となる生物学的活性は、未だ明確には説明されていない。
【0025】
発明者らは驚くべきことに、EB1がMNK1/MNK2を選択的に阻害可能であること(トリプルネガティブ乳癌細胞では、0.7μMの酵素的IC50及びおよそ1.5μMのインビトロEC50(MDA-MB-231))を見出した。加えてこの阻害は、非ATP競合性MNK1/MNK2阻害であり、今日、既知であってかつ市販されている他のMNK1/MNK2阻害剤に関する真性の特性であった。その上、MNK1/MNK2阻害剤として、正常な細胞にて試験した場合、これは毒性がなかった。
【0026】
EB1の選択性を、EphA4受容体チロシンキナーゼを含む320種のキナーゼのパネルにて試験した。EB1は、米国特許出願公開第2010/0113415号では、この受容体の阻害効果を有する他の活性化合物を合成するための中間体として言及されるが、この先行技術文献に開示されたアッセイからEB1に関する活性を推測することはできなかった。実際に、同じプロトコールを使用するこのキナーゼのパネルでEB1を用いて実施したEphA4の阻害試験では、阻害は1μMでわずか10%しか得られなかった。一方、MNK1の阻害は48%であったため、EphA4に対するEB1の阻害活性は事実上欠如していることが明らかである。
【0027】
このように、第1の態様において、本発明は、乳癌、前立腺癌、卵巣癌、及び子宮内膜癌から選択されるホルモン依存性臓器の癌の処置に使用するための、4,6-ジフェニル-1H-ピラゾロ[3,4-b]ピリジン-3-アミン、又は薬学的若しくは獣医学的に許容されるその塩に関する。
【0028】
本態様はまた、乳癌、前立腺癌、卵巣癌及び子宮内膜癌から選択されるホルモン依存性臓器の癌の処置及び/又は予防の方法として製剤化される。この方法は、その必要がある哺乳動物対象に、治療有効量のEB1を投与すること、又はヒト対象を含むその必要がある対象に、薬学的若しくは獣医学的に許容されるEB1の塩を投与することを含む。
【0029】
乳癌、前立腺癌、卵巣癌及び子宮内膜癌から選択されるホルモン依存性臓器の癌の処置及び/又は予防のための薬剤の調製のための、治療有効量のEB1、又は薬学的若しくは獣医学的に許容されるその塩の使用もまた、本発明の一部をなす。
【0030】
1H-ピラゾロ[3,4-b]ピリジン-3-アミン系のC4位及びC6位でフェニル環に含まれる様々な置換基を用いて研究された他の誘導体からの結果は、EB1の活性よりも低いものであると提示している。以下の明細書にて詳細に示されるように、EB1は、2.5μMを基点としてほぼ完全な阻害、約1.5μMでインビトロEC50を伴ってeIF4Eリン酸化を阻害する。その効果は迅速であって少なくとも72時間にわたり継続し、阻害効果はMNKの直接阻害が要因であると考えられる。さらに特筆すべきは、EB1は他のキナーゼと関係してMNK1/MNK2に対して優れた選択性を示す。
【0031】
発明者らは驚くべきことに、EB1が、ホルモン依存性臓器のこれらの癌の処置にて一般的に使用されるある特定の化学療法的化合物及び/若しくは免疫療法的化合物、又は化学療法剤及び/若しくは免疫療法剤と組み合わせられて使用される場合、観察される治療効果が、細胞増殖の低下及びアポトーシスの誘発のうち1つ又は複数に関して見ると、相乗的に増加することもまた見出した。
【0032】
このように、本発明の第2の態様は、
a)治療有効量のEB1、又は薬学的若しくは獣医学的に許容されるその塩、及び
b)ドキソルビシン(doxorrubicin)、タモキシフェン、エンザルタミド、ドキタキセル、シスプラチン、ラパチニブ、プログラム細胞死タンパク質1及びそのリガンド(PD-1/PD-L1)の阻害剤、並びにこれらの組合せからなる群から選択される1つ又は複数の治療有効量の化学療法的化合物又は免疫療法的化合物を含む組合せに関する。
【0033】
理論に拘束されるものではないが、MNK阻害剤としてのEB1により、ある特定の対象又は個体群が既に耐性を発症している一般的な治療に対して腫瘍細胞を感作させることが可能となることから、EB1を含むこれらの組合せが提案される。
【0034】
癌治療に対する耐性は、上で示されているように、細胞保護機構として癌を処置するための化合物などの毒物により引き起こされた細胞ストレスに応答する、タンパク質合成の調節解除により発生する。MNKは細胞ストレス下にて必要とされる(ストレス経路により活性化される)が、これは多くの場合、古典的治療が有効となるのを妨害する。EB1又はその塩を用いたMNKの標的化は、ストレス経路の活性化が要因となって作用しなくなる標準治療に細胞を感作する。
【0035】
本発明の組合せにおける化合物は、異なる種類の組成物/構成要素一式に製剤化されてもよい。このように、本発明の第3の態様は、
a)治療有効量のEB1、又は薬学的に許容されるその塩、及び
b)1つ又は複数の薬学的又は獣医学的に許容される賦形剤又は担体と共に、ドキソルビシン、タモキシフェン、エンザルタミド、ドキタキセル、シスプラチン、ラパチニブ、プログラム細胞死タンパク質1及びそのリガンド(PD-1/PD-L1)の阻害剤、並びにこれらの組合せからなる群から選択される1つ又は複数の治療有効量の化学療法的化合物又は免疫療法的化合物、を含む、単一の医薬組成物又は獣医学的組成物に関する。
【0036】
本発明の第4の態様は、
i)1つ又は複数の薬学的又は獣医学的に許容される賦形剤又は担体と共に、治療有効量のEB1又は薬学的若しくは獣医学的に許容されるその塩を含む、第1の医薬組成物又は獣医学的組成物;
ii)1つ又は複数の薬学的又は獣医学的に許容される賦形剤又は担体と共に、ドキソルビシン、タモキシフェン、エンザルタミド、ドキタキセル、シスプラチン、ラパチニブ、プログラム細胞死タンパク質1及びそのリガンド(PD-1/PD-L1)の阻害剤、並びにこれらの組合せからなる群から選択される1つ又は複数の治療有効量の化学療法的化合物又は免疫療法的化合物を含む、第2の医薬組成物又は獣医学的組成物;
iii)i)及びii)を組み合わせて使用するための指示;
を含むパッケージ又は構成要素一式に関し、第1の組成物及び第2の組成物は別個の組成物である。
【0037】
最後に、正確にはMNK1/MNK2に対する選択性に起因し、MAPキナーゼ相互作用セリン/スレオニン-プロテインキナーゼ1(MNK1)及びMAPキナーゼ相互作用セリン/スレオニン-プロテインキナーゼ2(MNK2)の選択的で非毒性阻害剤としての4,6-ジフェニル-1H-ピラゾロ[3,4-b]ピリジン-3-アミン、又は薬学的若しくは獣医学的に許容されるその塩の非治療的な使用もまた開示される。この使用は、治療的組合せを試験する目的に関し、哺乳動物細胞を含む単離された試料(すなわち、腫瘍組織の単離された生検、樹立細胞株など)においてMNK1/MNK2の阻害剤として、又は単離された哺乳動物細胞が、機構的な細胞プロセス、代謝経路を試験するために、又はスクリーニング方法で物質を試験するために使用される生化学アッセイにおける試薬として興味深いものである。EB1を用いたMNK1及びMNK2の阻害により、eIF4Eリン酸化の阻害が引き起こされる。
【0038】
作成されている明細書を補完し、本発明の特徴を容易によりよく理解する目的のため、一連の図面は当該明細書にとって不可欠の部分として添付される。以下、例示的で非限定的な文字を伴って示される。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】MDA-MB-231細胞におけるEB1の滴定曲線の一例を示す。これらの細胞は、上流タンパク質において作用を示さず、選択的MNK阻害を実証している。結果は24時間及び48時間で同等であった。ジメチルスルホキシド(DMSO)の最終濃度0.5%。CGP57380(CGP)は正の対照として、DMSOは負の対照として使用される。
【
図2】MCF10細胞におけるEB1滴定曲線を示す。DMSOの最終濃度0.5%。CGP57380(CGP)は正の対照として、DMSOは負の対照として使用される。
【
図3】MDA-MB-231細胞及びMCF10細胞における、EB1に関する増殖曲線を示す。CGP57380(CGP)及びEFT508は正の対照として、DMSOは負の対照として使用される。Norm.Abs.は標準化吸光度であり、T(時間)はh単位での時間である。
【
図4】EB1で処理されたMDA-MB-231細胞周期を示す。100nMのドキソルビシンは正の対照として、DMSOは負の対照として使用される。
【
図6】A375M細胞、MV4-11細胞及びMDA-MB-468細胞におけるEB1の滴定曲線を示す。DMSOの最終濃度0.5%。CGP57380(CGP)は正の対照として、DMSOは負の対照として使用される。
【
図7】ドキソルビシン(DOXO)とEB1との組合せが化学療法剤(B)の有効性を増加させ、ドキソルビシン(A)を用いた処置に関連する細胞ストレスにより引き起こされるp-eIF4Eにおける増加を逆転させることを示す。
【
図8】IMR90細胞、非形質転換線維芽細胞の処置が、有意な細胞増殖停止を引き起こさず(
図A、RCGは相対的細胞増殖)、細胞死を誘発しない(
図B、%アポトーシス(Apopototic)細胞)ことを示す。対照的に、試験された全ての乳癌細胞株(MDA-MB231、MCF7及びMDA-MB468)において、細胞増殖は用量依存様式で阻害される。DMSOはジメチルスルホキシドを意味し、CDDPはシスプラチンであり、RCGは相対的細胞増殖である。
【
図9】MCF7細胞のEB1処置により、タモキシフェンに対する感受性の増加がもたらされることを示す。CGPはCGP57380を意味する。
【
図10】EB1処置は、ヒト乳癌細胞株であるMDA-MB231においてPD-L1のレベルを低下させることを示す。eIF4Eリン酸化の阻害率と同等の阻害率では、EB1は、MNK阻害剤であるeFT508及びCGP57380と同等に強力であるか、これより優っている。
【
図11】ARリン酸化とeIF4Eリン酸化の併用阻害下での細胞生存率を示す。
【
図11A】22Rv1におけるEB1処置24時間後のeIF4Eリン酸化の用量依存阻害。22Rv1(B~F)細胞生存率アッセイによる、EB1とエンザルタミドの相乗作用。
【
図11B】対照に対するパーセンテージとして報告されるペアワイズ組合せを用いた、処置72時間後の生存細胞の数。
【
図11E】細胞生存率データは、薬物投与量の各ペアワイズ組合せにより、傷害細胞のパーセンテージを示すグリッド線として提示した。
【
図11C】細胞生存率における最も強い阻害を有する薬物の組合せ(バー;平均±SEM;n=3。
*p<0.05、
**p<0.01 両側スチューデントのt検定)。
【
図11F】組合せ指数(CI)は、非一定の比率にて、Chou-Talalay法により算出された薬剤投与量の各ペアワイズ組合せに対するグリッド線として提示した。
【
図11D】抑制割合対組合せ指数(CI)のプロット。
【
図12】ARリン酸化及びeIF4Eリン酸化の二重阻害が細胞株22Rv1においてアポトーシスを介し細胞死を誘発することを示す。
【
図12A】細胞を、72時間にわたり表示された濃度で、溶媒(DMSO)、エンザルタミド、EB1、又は両者の組合せ(Combo)のいずれかを用いて処理した。
【
図12B】72時間にわたる、表示された濃度のエンザルタミド、EB1及び両者の組合せを用いた処置後の22Rv1細胞株のアポトーシスアッセイであり、ヨウ化プロピジウム染色後、断片化/凝縮したクロマチンの解析により定量化した。データは、1実験からの2つの技術的反復の平均±SEMである(
***p<0.001、両側スチューデントのt検定)。
【発明を実施するための形態】
【0040】
発明の詳細な説明
特段明記しない限り、本出願で使用される全ての用語は、当該技術分野で既知の通常の意味で理解されるものとする。本出願で使用されるある特定の用語に対する他のさらに明確な定義は以下に規定される。また、定義がより広範な意味を提供すると特段明確に説明しない限り、この定義は本明細書及び特許請求の範囲全体を通して一様に適用されることを意図している。
【0041】
本明細書で使用される場合、不定冠詞「a」及び「an」は、「少なくとも1つ」又は「1つ又は複数」と同義である。特段指示しない限り、本明細書で使用される「the」などの定冠詞は、名詞の複数形も含む。
【0042】
用語「ホルモン依存性臓器の癌」は、こうした臓器の機能に関するホルモンであって、特に、性ホルモン(アンドロゲン、エストロゲン、プロゲストゲン)に依存する臓器の癌、又は乳房、卵巣、子宮内膜、前立腺及び精巣を含む生殖器及び性器など、かかる性ホルモンを分泌する臓器の癌すらも含む。ホルモン依存性臓器のこうした癌の範囲には、(a)前述のホルモン依存性癌であり、それゆえ増殖及び/又は生存のためにホルモンに依存する癌であって、「ホルモン感受性」とも呼ばれる癌;(b)疾患の進行中にホルモンから独立するようになる癌;並びに(c)TNBCのように、ホルモン独立性癌ではあるが、ホルモン依存性臓器にその起源を有する癌が含まれる。
【0043】
「プログラム細胞死タンパク質1及びそのリガンド(PD-1/PD-L1)の阻害剤」に関しては、それらの化合物が理解されなければならない。実施例のセクションは阻害効果を測定するアッセイを含む。当業者はこの阻害効果をいかにしてザストするかも知っている。
【0044】
本明細書全体を通して本明細書にて使用される場合、語句「治療有効」は、投与時、対処される疾患症状のうち1つ若しくは複数の発症を予防するのに、又はある程度緩和するのに十分な化合物の量、又は化合物の組合せの量を指す。この特定の表現では、これは、乳癌及び前立腺癌を含む、特にホルモン依存臓器の癌といった癌を処置するなど、対象において望ましい治療効果を生み出す化合物、化合物の組合せ、又は組成物の量である。正確な治療有効量は、所与の対象における治療的有効性といった点で最も有効な結果を生み出すであろう組成物の量である。治療的恩典を得るためのEB1の特異的な投与量は、個々の患者の具体的な環境に応じて変動してもよい。こうした環境にはとりわけ、患者のサイズ、体重、年齢及び性別、疾患の種類及び段階、疾患の高悪性度、並びに投与経路が含まれる。本明細書にて開示される組合せ、組成物又は構成要素一式で投与される場合、治療的恩典を得るためのEB1の特異的な投与量は、単一の有効な薬剤として使用される化合物の特異的な投与量との関係によって変動してもよい。
【0045】
使用され得るEB1化合物の塩の種類に何ら制限はないが、治療目的でそれらが使用される場合には、これらの塩は薬学的又は獣医学的に許容されるといった条件が付随する。用語「薬学的又は獣医学的に許容される塩」は、アルカリ金属塩及び遊離酸又は遊離塩基の付加塩を形成するために一般的に使用される塩を包含する。EB1化合物の薬学的又は獣医学的に許容される塩の調製は、当該技術分野で既知の方法によって行われ得る。
【0046】
例えば、これらの塩は従来の化学的方法により、親化合物から調製され得る。一般には、こうした塩は例えば、水中、又は有機溶媒中、又はこれらの混合物中で、親化合物であるEB1と、化学量論的量の適切な薬学的又は獣医学的に許容される塩基又は酸とを反応させることにより調製される。EB1化合物及びこれらそれぞれの塩は、一部物理特性においては異なっていてもよいが、本発明の目的に関しては同等である。
【0047】
EB1化合物は、遊離溶媒和化合物、又は溶媒和化合物(例えば水和物)のいずれかとして、非晶質固体形態又は結晶固体形態であってもよく、全ての形態は、目的とされる治療の使用のため、及び開示の組合せのため、本発明の範囲内であることを意図している。溶媒和の方法は、当該技術分野の範囲内で一般に公知である。一般には、例えば水、エタノールなどの薬学的又は獣医学的に許容される溶媒を用いた溶媒和形態は、本発明の目的のための非溶媒和形態と同等である。特に、EB1化合物は、本明細書によれば非晶質の固体として使用される。
【0048】
EB1に言及する本発明の全ての実施形態において、具体的に言及されなかったとしても、薬学的又は獣医学的に許容されるその塩は常に企図される。
【0049】
語句「薬学的又は獣医学的に許容される賦形剤又は担体」は、薬学的又は獣医学的に許容される物質、組成物又は溶媒を指す。各構成成分は、医薬組成物又は獣医学的組成物の他の成分と適合しているという意味で、薬学的又は獣医学的に許容されなければならない。この構成成分はまた、逸脱した毒性、刺激、アレルギー反応、免疫原性、又は妥当なベネフィット/リスク・レシオと釣り合うような他の問題若しくは合併症なしに、ヒトや動物の組織又は臓器に接触して使用するのに好適でなければならない。
【0050】
語句「患者」及び「対象」は、本明細書にて互換的に使用され、任意の哺乳動物、特にヒトに関連する。
【0051】
本明細書において語句「癌の処置」が使用される場合には、特段具体的に述べられないものの、指示された癌の処置及び/又は予防のいずれかにこれは関連する。
【0052】
既に示したように、第1の態様は、乳癌、前立腺癌、卵巣癌、及び子宮内膜癌から選択されるホルモン依存性臓器の癌の処置に使用するための、4,6-ジフェニル-1H-ピラゾロ[3,4-b]ピリジン-3-アミン(EB1)、又はその薬学的に許容されるその塩に関する。
【0053】
4,6-ジフェニル-1H-ピラゾロ[3,4-b]ピリジン-3-アミン、又は薬学的に許容されるその塩が提案されるこれらの癌全ては、MNK1及びMNK2を阻害することによっても参照される癌であり、これらの癌ではp-eIF4Eの過剰発現が発生する。実際には、こうしたp-eIF4E過剰発現を発生し、本明細書においても開示される他の癌は、肺癌、結腸癌、メラノーマ、肉腫、白血病、リンパ腫及び脳腫瘍(すなわちグリオーマ)からなる群から選択される。EB1又は薬学的若しくは獣医学的に許容されるその塩を用いて処置され得るこれらの癌全てにおいて、p-eIF4E過剰発現は、化学療法、放射線治療及び免疫療法からなる群から選択される処置により誘発される。
【0054】
ホルモン依存性臓器の癌の範囲内では、ホルモン依存性癌は、ホルモンと腫瘍細胞内の対応する細胞受容体との相互作用を遮断することにより、一般的には主に処置される。こうすることで、当該腫瘍細胞に感受性がなくなることから、ストレス経路は活性化し、癌細胞は処置から逃れる(処置に対する耐性)ようになる。これらの耐性のある癌は、疾患進行中にホルモンの影響を受けなくなるものであり、その処置は困難となっていく。最終的に、例えばTNBCなどのホルモン依存性臓器に起源を有するホルモン独立性癌は、それ故にホルモン又は抗ホルモン治療に応答しない癌である。これは、これらの癌がホルモン受容体を欠損している、又はホルモン若しくは抗ホルモン結合ドメインを欠損する受容体を発現するからである。
【0055】
このように、第1の態様の特定の実施形態において、EB1又は薬学的若しくは獣医学的なその塩は、耐性を発症している、又はそれ故に、これらの癌に一般的に使用されるような標的化学療法及び/若しくは免疫療法に耐性があるような対象の個体群における、ホルモン依存性臓器の癌の処置に使用するためのものである。
【0056】
「標的化学療法」については、癌は、癌細胞の増殖及び生存に関与する特異的な遺伝子及びタンパク質を標的とする薬物を使用して処置されるということが理解されるべきである。標的治療は、癌の増殖及び生存を促進する組織環境に影響を及ぼすことができる。又はこの治療は、血管細胞などの癌増殖に関連する細胞を標的とすることができる。
【0057】
これは、言及されるように、ER、PR及びHER-2が存在せず、外科手術、放射線治療及び/又は全身化学療法によってのみの治療により特徴付けられているTNBCの症例においては、注目に値する。TNBCにおける全身化学療法が有効である、又は耐性が発生しないという確証は、こうした特定の乳癌に、EB1又は薬学的若しくは獣医学的なその塩を使用する場合に獲得され得る(以下の実施例を参照されたい)。
【0058】
大半の乳癌はエストロゲン陽性であり、良好な予後を有するが後期に再発するリスクが高い。実際に、患者は長年にわたり抗エストロゲン剤を用いて処置されるMNK阻害剤との組合せを含む、新規薬理学的アプローチが研究(studfied)されている。
【0059】
前立腺癌については、去勢抵抗性といったことを踏まえると特に注目に値する。この場合、腫瘍細胞はアンドロゲン抑制(suppresion)ではもはや制御されないが、ARは、多くの症例にて増幅、リガンド結合ドメイン(LBD)及びスプライスバリアント(具体的にはLBDを欠損する構成的活性型バリアント(すなわち、AR-V7))における変異の活性化といった変化の獲得を要因として重要な役割を担い続けている。こうしたAR変化により、ホルモンが存在しない状態での活性化、及び強力なAR標的治療(すなわち、AR-LBDに結合するAR阻害剤である、エンザルタミド)に対する臨床的耐性を発生させる。
【0060】
それゆえ、EB1又はその塩は、一般的な治療に対して感受性のない患者、及び/又は一般的に使用される治療による処置後、細胞表現型の変化(細胞ストレスに応答したタンパク質合成の調節解除)により耐性を発生させた患者における、ホルモン依存性臓器の癌の処置に使用するために提案される。
【0061】
有利には、このアプローチにより、非応答性特性へと進展した癌患者を再感作させることができ、一般的な標的治療を再度有効なものとする。
【0062】
それゆえ、第1の態様の別の特定の実施形態において、EB1は、乳癌及び前立腺癌から選択されるホルモン依存性臓器の癌の処置にて使用するためのものである。
【0063】
任意選択的には上記又は下記のいずれかの実施形態と組み合わせられる、更に特定の別の実施形態において、乳癌はトリプルネガティブ乳癌(TNBC)である。
【0064】
任意選択的には上記又は下記のいずれかの実施形態と組み合わせられる、更に特定の別の実施形態において、ホルモン依存性臓器の癌は前立腺癌である。
【0065】
第1の態様の更に別の特定の実施形態において、上にて示されるように使用するための4,6-ジフェニル-1H-ピラゾロ[3,4-b]ピリジン-3-アミン(EB1)、又は薬学的に許容されるその塩が適していることから、該処置は、化学療法のための化合物及び免疫療法のための化合物から選択される1つ又は複数の化合物と組み合わせて、4,6-ジフェニル-1H-ピラゾロ[3,4-b]ピリジン-3-アミン(EB1)、又は薬学的若しくは獣医学的に許容されるその塩を投与することを含む。
【0066】
更に特定の実施形態において、EB1又はその塩が化学療法又は免疫療法のための他の化合物と組み合わされ、任意選択的には本明細書全体を通して上記又は下記にて説明される様々な実施形態のうち1つ又は複数の特徴と組み合わせられて使用するためのものである場合、該処置は、(a)EB1、又は薬学的若しくは獣医学的に許容されるその塩、及び(b)化学療法のための化合物及び免疫療法のための化合物から選択される化合物の、同時投与、併用投与、別々の投与、又は連続投与を含む。
【0067】
第1の態様の別の特定の実施形態において、化学療法的化合物は、ドキソルビシン、タモキシフェン、エンザルタミド、ドキタキセル、シスプラチン、ラパチニブ、及びこれらの組合せから選択される。
【0068】
更に別のより特定の実施形態において、EB1、又は薬学的若しくは獣医学的に許容されるその塩は、ドキソルビシンと組み合わせられ、第1の態様に開示されるように使用するためのものである。
【0069】
更に別のより特定の実施形態において、EB1、又は薬学的若しくは獣医学的に許容されるその塩は、タモキシフェンと組み合わせられ、第1の態様に開示されるように使用するためのものである。
【0070】
更に別のより特定の実施形態において、EB1、又は薬学的若しくは獣医学的に許容されるその塩は、エンザルタミドと組み合わせられ、第1の態様に開示されるように使用するためのものである。
【0071】
更に別のより特定の実施形態において、EB1、又は薬学的若しくは獣医学的に許容されるその塩は、ドキタキセルと組み合わせられ、第1の態様に開示されるように使用するためのものである。
【0072】
加えて、任意選択的には上記又は下記のいずれかの実施形態と組み合わせられる、第1の態様の別の特定の実施形態では、免疫療法のための化合物はプログラム細胞死タンパク質1及びそのリガンド(PD-1/PD-L1)の阻害剤を含む。
【0073】
PD1阻害剤の例としては、承認されているペムブロリズマブ、ニホルマブ、セミプリマブが挙げられる。依然として実験段階である他の例は、パルタリズマブ、カムレリズマブ(SHR1210)、シンチリマブ(IBI308)、チスレリズマブ(BGB-A317)、トリパリマブ(JS001)、ドスタルリマブ(TSR-042、WBP-285)、INCMGA00012(MGA012)、AMP-224及びAMP-514(MEDI0680)である。
【0074】
PD-L1阻害剤の例としては、承認されているアテゾリズマブ、アベルマブ、デュルバルマブが挙げられる。依然として実験段階である他の例は、KN035、CK-301、AUNP12、CA-170、及びBMS-986189である。
【0075】
本発明は、第2の態様において、化学療法的化合物又は免疫療法的化合物と、EB1又は薬学的若しくは獣医学的に許容されるその塩との特定の新規組合せに関し、該組合せは、
a)治療有効量のEB1、又は薬学的若しくは獣医学的に許容されるその塩、及び
b)ドキソルビシン、タモキシフェン、エンザルタミド、ドキタキセル、シスプラチン、ラパチニブ、プログラム細胞死タンパク質1及びそのリガンド(PD-1/PD-L1)の阻害剤、及びこれらの組合せからなる群から選択される、1つ又は複数の治療有効量の化学療法的化合物又は
免疫療法的化合物を含む。
【0076】
この第2の態様の特定の実施形態において、この組合せは治療有効量のEB1又は薬学的若しくは獣医学的に許容されるその塩、並びに治療有効量のエンザルタミド及びドキタキセルのうち1つ又は2つ、を含む。これらの組合せは、具体的には前立腺癌の処置に使用するためのものである。
【0077】
第2の態様の更に別の特定の実施形態において、この組合せは治療有効量のEB1又は薬学的若しくは獣医学的に許容されるその塩、並びに治療有効量のドキソルビシン及びタモキシフェンのうち1つ又は2つ、を含む。これらの組合せは、具体的には乳癌の処置に使用するためのものであり、より具体的にはトリプルネガティブ乳癌の処置に使用するためのものである。
【0078】
第2の態様の更に別の特定の実施形態において、この組合せは治療有効量のEB1又は薬学的若しくは獣医学的に許容されるその塩、並びに治療有効量のPD-1又はPD-L1の阻害剤のうち1つ又は2つ、を含む。
【0079】
本発明の別の態様は、
a)治療有効量のEB1、又は薬学的若しくは獣医学的に許容されるその塩、及び
b)1つ又は複数の薬学的又は獣医学的に許容される賦形剤又は担体と共に、ドキソルビシン(doxorrubicin)、タモキシフェン、エンザルタミド、ドキタキセル、シスプラチン、ラパチニブ、プログラム細胞死タンパク質1及びそのリガンド(PD-1/PD-L1)の阻害剤、並びにこれらの組合せからなる群から選択される1つ又は複数の治療有効量の化学療法的化合物又は
免疫療法的化合物、を含む、単一の医薬組成物又は獣医学的組成物である。
【0080】
この単一の医薬組成物又は獣医学的組成物の特定の実施形態において、この組成物は治療有効量のEB1又は薬学的若しくは獣医学的に許容されるその塩、並びに治療有効量のドキソルビシンを含む。
【0081】
この単一の医薬組成物又は獣医学的組成物の別の特定の実施形態において、この組成物は治療有効量のEB1又は薬学的若しくは獣医学的に許容されるその塩、並びに治療有効量のタモキシフェンを含む。
【0082】
この単一の医薬組成物又は獣医学的組成物の別の特定の実施形態において、この組成物は治療有効量のEB1又は薬学的若しくは獣医学的に許容されるその塩、並びに治療有効量のエンザルタミドを含む。
【0083】
この単一の医薬組成物又は獣医学的組成物の別の特定の実施形態において、この組成物は治療有効量のEB1又は薬学的若しくは獣医学的に許容されるその塩、並びに治療有効量のドキタキセルを含む。
【0084】
この単一の医薬組成物又は獣医学的組成物の別の特定の実施形態において、この組成物は治療有効量のEB1又は薬学的若しくは獣医学的に許容されるその塩、並びに治療有効量のプログラム細胞死タンパク質1の阻害剤を含む。
【0085】
この単一の医薬組成物又は獣医学的組成物の別の特定の実施形態において、この組成物は治療有効量のEB1又は薬学的若しくは獣医学的に許容されるその塩、並びに治療有効量のプログラム細胞死タンパク質1のリガンドの阻害剤を含む。
【0086】
別の特定の実施形態において、任意選択的には本明細書全体を通して上記又は下記にて説明される様々な実施形態のうち1つ又は複数の特徴と組み合わせられるが、本発明は、
i)1つ又は複数の薬学的又は獣医学的に許容される賦形剤又は担体と共に、治療有効量のEB1又は薬学的若しくは獣医学的に許容されるその塩を含む、第1の医薬組成物又は獣医学的組成物;
ii)1つ又は複数の薬学的又は獣医学的に許容される賦形剤又は担体と共に、ドキソルビシン、タモキシフェン、エンザルタミド、ドキタキセル、シスプラチン、ラパチニブ、プログラム細胞死タンパク質1及びそのリガンド(PD-1/PD-L1)の阻害剤、並びにこれらの組合せからなる群から選択される1つ又は複数の治療有効量の化学療法的化合物又は免疫療法的化合物を含む、第2の医薬組成物又は獣医学的組成物;
iii)i)及びii)を組み合わせて使用するための指示;
を含むパッケージ又はキットオブパーツにも関し、第1の組成物及び第2の組成物は別個の組成物である。
【0087】
医薬製剤又は獣医学的製剤の選択は、活性化合物の性質及びその投与経路によって決まる。例えば、経口投与、非経口投与及び局所投与などの任意の投与経路が使用されてもよい。
【0088】
例えば、医薬組成物又は獣医学的組成物は経口投与のために製剤化されてもよく、固体形態又は液体形態である、1つ又は複数の生理学的に適合する担体又は賦形剤を含有してもよい。これらの調製物は、結合剤、充填剤、潤滑剤などの従来成分、及び許容される湿潤剤を含有してもよい。
【0089】
医薬組成物又は獣医学的組成物は、水又は好適なアルコールなどの従来の注射可能な液体担体と組み合わせられて、非経口投与のために製剤化されてもよい。例えば安定剤、可溶化剤、及び緩衝剤といった、注射用の従来の薬学的又は獣医学的賦形剤は、かかる組成物に含まれてもよい。これらの医薬組成物又は獣医学的組成物は、筋肉内、腹腔内、又は静脈内に注射されてもよい。
【0090】
医薬組成物は、局所投与のために製剤化されてもよい。
【0091】
製剤としては、クリーム、ローション、ゲル、粉末、溶液及びパッチが上げられ、化合物は好適な賦形剤中に分散又は溶解される。
【0092】
医薬組成物は、即時放出又は遅延放出のため、とりわけ錠剤、小丸薬、カプセル、水溶液又は油性溶液、懸濁液、エマルジョン、又は使用前に水若しくは他の好適な液体媒体を用いて再構成するのに好適である乾燥粉末形態を含む、任意の形態であってもよい。
【0093】
適切な賦形剤及び/又は担体、並びにそれらの量は、調製されている製剤の種類に従い、当業者により容易に決定され得る。
【0094】
その必要がある対象において癌の処置及び/又は予防に使用するための、治療有効量のEB1又は薬学的若しくは獣医学的なその塩、及び上に列挙されたような化学療法的化合物又は免疫療法的化合物のうち1つ又は複数を含む組合せ、単一の医薬組成物又は獣医学的組成物、パッケージ又は構成要素一式は、本発明の一部をなす。具体的には、これらは乳癌、肺癌、卵巣癌、子宮内膜癌、結腸癌、前立腺癌、メラノーマ、肉腫、白血病、リンパ腫及びグリオーマを含む脳腫瘍からなる群から選択される癌で使用するためのものである。より具体的には、これらはその必要がある対象において、ホルモン依存性臓器の癌の処置に使用するためのものである。より具体的には、その必要がある対象において、乳癌及び前立腺癌に使用するためのものである。
【0095】
それゆえ、
-治療有効量のEB1、及び治療有効量のエンザルタミド及びドキタキセルのうち1つ又は2つ、を含む組合せ;
-治療有効量のEB1、及び治療有効量のドキソルビシン及びタモキシフェンのうち1つ又は2つ、を含む組合せ、並びに-治療有効量のEB1、及び治療有効量のPD-1又はPD-L1の阻害剤のうち1つ又は2つ、を含む組合せといった群から選択される組合せのうちいずれかは、具体的には癌の処置に使用するため、より具体的にはホルモン依存性臓器の癌の処置に使用するため、更により具体的にはTNBCを含む乳癌又は前立腺癌の処置に使用するためのものである。
【0096】
本態様はまた、癌の処置の方法として製剤化されてもよく、これはヒト対象を含む、その必要がある対象へ、
(a)1つ又は複数の薬学的又は獣医学的に許容される賦形剤又は担体と共に、治療有効量のEB1、又は薬学的若しくは獣医学的に許容されるその塩、及びドキソルビシン、タモキシフェン、エンザルタミド、ドキタキセル、シスプラチン、ラパチニブ、プログラム細胞死タンパク質1及びそのリガンド(PD-1/PD-L1)の阻害剤、及びこれらの組合せからなる群から選択される、化学療法的化合物又は免疫療法的化合物のうち1つ又は複数を含む、組合せ又は単一の医薬組成物;又は代替的には
(b)上記実施形態に定義されるような、パッケージ又は構成要素一式を投与することを含む。
【0097】
癌の処置及び/又は予防のための薬剤の調製のために、1つ又は複数の薬学的又は獣医学的に許容される賦形剤又は担体と共に、治療有効量のEB1、又は薬学的若しくは獣医学的に許容されるその塩、及びドキソルビシン、タモキシフェン、エンザルタミド、ドキタキセル、シスプラチン、ラパチニブ、プログラム細胞死タンパク質1及びそのリガンド(PD-1/PD-L1)の阻害剤、及びこれらの組合せからなる群から選択される化学療法的化合物又は免疫療法的化合物のうち1つ又は複数を含む組合せの使用もまた、本発明の一部をなす。具体的には、薬剤はホルモン依存性臓器の癌の処置及び/又は予防のためのものである。より具体的には、乳癌及び前立腺癌の処置及び/又は予防のためのものである。
【0098】
明細書及び特許請求の範囲全体を通して、用語「含む」及びこの用語の変形は、他の技術的特徴、添加剤、成分、又は工程を排除することを意図しない。
【0099】
更には、用語「含む」は、「からなる」の事例を包含する。本発明のさらなる目的、利点及び特徴は、この説明の審査時に当業者に明らかとなる、又は本発明の実践により理解され得る。
【0100】
以下の実施例は例示として提供され、本発明を限定することを意図するものではない。更には、本発明は本明細書にて説明される具体的かつ好ましい実施形態の考えられる全ての組合せを網羅する。
【実施例】
【0101】
実施例1.4,6-ジフェニル-1H-ピラゾロ[3,4-b]ピリジン-3-アミン(EB1)の合成
【0102】
4,6-ジフェニル-2-メトキシニコチノニトリル(Journal of Heterocyclic Chemistry,26(6),1665-73;1989)(0.6mmol)を、POBr3(1.34mmol)、ピリジン-HBr(0.015mmol)及びH3PO4(0.026mmol)と共に4mLの1,4-ジオキサンに溶解した。混合物を、120℃で18時間にわたり還流下で加熱する。冷水を加えることで反応を停止させ、NaOH(6M)を用いて中和する。得られた固体をろ過し、冷水で洗浄して、収率84%にて4,6-ジフェニル-2-ブロモニコチノニトリルを白色固体として得た(融点:123~125℃);1H NMR(400MHz,DMSO-d6)δ(ppm):8.26(s,1H),8.26-8.22(m,2H),7.82-7.77(m,2H),7.63-7.60(m,3H)及び7.59-7.55(m,3H);13C NMR(100MHz,DMSO-d6)δ(ppm):159.3,156.2,144.4,135.5,135.3,131.3,130.5,129.1,128.9,127.7,119.7,116.5,109.7;IR(KBr)nmax(cm-1):3432,3029,2225,1649,1575,1517,1493,1419,1373,772,747,702,686;MS(70eV,EI)m/z(%):336.1(96%),335.1(68%),334.1(100%),333.1(52%),286.2(36%),285.2(46%),255.1(69%),254.1(20%),253.1(31%),228.1(26%),227.1(55%),100.1(20%),77.1(43%),51.0(22%);元素分析:C18H11BrN2についての計算値:64.50%,H:3.31%,N:8.36%;実測値:C:64.83%,H:3.58%,N:8.31%.
【0103】
次に、4,6-ジフェニル-2-ブロモ-ニコチノニトリル(0.18mmol)及びヒドラジン一水和物(0.36mmol)を5mLのマイクロ波バイアルに加え、3mLのMeOHに溶解した。混合物を、140℃で2時間にわたりマイクロ波照射下で加熱する。減圧下で溶媒を除去する。得られた固体をMeOH中に再懸濁し、ろ過して冷メタノールを用いて洗浄して4,6-ジフェニル-1H-ピラゾロ[3,4-b]ピリジン-3-アミンを得る。これをカラムクロマトグラフィー(Cy:AcOEtグラジエント 10分間で0~20%、5分間にわたって20%イソクラティック、15分間で20~100%)で精製する。収率は71%、黄色がかった固体であり、融点:219~220℃;1H NMR(400MHz,DMSO-d6)δ(ppm):12.37(s,1H),8.21-8.15(m,2H),7.73-7.67(m,2H),7.63-7.47(m,7H),4.56(s,2H);13C NMR(100 MHz,DMSO-d6)δ(ppm):155.5,153.3,147.2,145.4,138.9,137.2,129.2,128.9,128.8,128.8,128.7,127.2,112.4,102.0;IR(KBr)vmax(cm-1):3423,3297,3193,1737,1623,1591,1567,1525,1401,1354,1292,702;MS(70eV,EI)m/z(%):287.1(21%),286.1(100%),285.1(38%);元素分析:C18H14N4についての計算値:75.50%,H:4.90%,N:19.60%;実測値:C:75.43%,H:4.90%,N:19.56%.
【0104】
この実施例1で例示されるように合成されたEB1は、続く実施例2~6にて使用されるものである。
【0105】
実施例2.EB1阻害効果
【0106】
物質及び方法:
キナーゼ活性アッセイ:
【0107】
Proqinaseにより実施される放射性キナーゼアッセイ(33PanQinase(登録商標)Activity Assay)で、化合物のキナーゼ活性を測定した。
【0108】
このアッセイを、50μLの反応体積を用い、PerkinElmer(Boston,MA,USA)による96ウェルFlashPlates(商標)で実施した。反応カクテルを、(1)20μLの緩衝剤、(2)5μLのATP溶液(H2O中)、(3)5μLの化合物(10%DMSO中)、及び(4)20μLの酵素/基質混合物といった4段階で、ピペットで移した。最後に、カクテルは70mMのHEPES-NaOH(pH7.5)、3mMのMgCl2、3mMのMnCl2、3μMのオルトバナジン酸ナトリウム、1.2mMのDTT、50μg/mLのPEG20000、ATP(MNK1については1μM、及びMNK2については0.3μM)、[g-33P]-ATP(ウェルあたり約1.2×1006cpm)、プロテインキナーゼ(バッチに応じた可変量)及び基質(2μg/50μL)を含有した。
【0109】
反応カクテルを30℃で60分間インキュベートした。50μLの2%のH3PO4(v/v)を用いて反応を停止し、プレートを吸引した。これらを200μLの0.9%のNaCl(w/v)を用いて2回洗浄し、33Pi(MicroBeta microplate scintillation counter,Wallac)の取込みを測った。Beckman Coulter/SAGIAN(商標)システムを用いて全てのアッセイを行った。
【0110】
以下の式を使用し、特定のプレートの各ウェルについての残効性(%)を計算した(この場合、高対照は阻害剤が存在しない場合のキナーゼ活性であり、低対照はキナーゼが存在しない場合の基質の放射能値である)。
【0111】
残効性(%)=100×[(化合物のシグナル-低対照)/(高対照-低対照)]
【0112】
化合物をスクリーニングするため、10μMの化合物を用いて処理した後、両方のキナーゼの残効性を分析した。
【0113】
IC50を測定するため、5×10-4M~1.5×10-9Mの範囲の異なる10個の濃度でキナーゼ残効性を分析した。
【0114】
選択性を研究するため、320キナーゼパネルから1μMで残効性を測定した。
【0115】
細胞培養:
【0116】
市販のMDA-MB-231、MDA-MB-468、MCF7及びA375M、IMR90(IMR-90(ATCC(登録商標)CCL-186(商標))細胞を、10%のウシ胎児血清(foetal bovine serum)、100U/mLのペニシリン及び100μg/mLのストレプトマイシンを補充したDMEM培地(ダルベッコ変性イーグル培地、4.5g/Lのグルコース;30mg/LのL-グルタミン(Gibco))にて37℃、5%CO2で増殖させた。
【0117】
MCF10A細胞(これも市販されている)を、10%のFBS、100U/mLのペニシリン、100mg/mLのストレプトマイシン、1%のL-グルタミン(Cambrex)、10ng/mLのコレラ菌由来毒素(Sigma-Aldrich)、0.005mg/mLのインスリン(Sigma)、100ng/mLのヒドロコルチゾン(Sigma)及び20ng/mLのEGF(上皮成長因子、Sigma)を補充したDMEM/F-12培地(ダルベッコ変性イーグル培地:3.125g/LのD-グルコース、365mg/LのL-グルタミン、栄養混合物F-12(Gibco))中で増殖させた。
MV4-11細胞を、10%のFBS、1%のL-グルタミン、100U/mLのペニシリン、及び100mg/mLのストレプトマイシンを補充したIMDM培地(イスコフ改変ダルベッコ培地、Gibco)中で増殖させた。
【0118】
インビトロ増殖アッセイ:
【0119】
96ウェルプレートにて、各条件について5000個の細胞を播種した。24時間後、対応する濃度で化合物を用いて細胞を処理した。化合物の貯蔵物を、処理濃度を200倍濃縮した濃度にて、100%のDMSO中で調製した。それゆえに、全ての場合で、培地中のDMSOの最終濃度は0.5%である。インキュベーション後、培地を取り除き、細胞を4%のPFA(ウェルあたり100μL)を用いて30分間固定した。PBSを用いて2回洗浄を行った。
【0120】
クリスタルバイオレット(EtOH中0.5%)を用いて細胞を染色し、100μLを各ウェルに加えて15分間撹拌し、水を用いて洗浄して乾燥させた。各ウェルの内容物を200μLの15%AcOHに溶解し、その吸光度を595nmで測定した。
【0121】
eIF4Eリン酸化の阻害のためのインビトロアッセイ:
【0122】
eIF4Eリン酸化の阻害をウェスタンブロットにより定量化した。細胞を60mmプレートに播種した(24時間で700,000個、48時間で500,000個及び72時間で300,000個)。
【0123】
24時間後、処理を加えた。化合物の貯蔵物を、処理濃度を200倍濃縮した濃度にて、100%のDMSO中で調製した。それゆえに、全ての場合で、培地中のDMSOの最終濃度は0.5%であった。
【0124】
インキュベーション後、タンパク質を除去し、ウェスタンブロットを行った。氷上で、プレートをPBSで洗浄し、60μLの細胞溶解液(プロテアーゼ阻害剤(EDTAフリープロテアーゼ阻害剤カクテルセットIII、Calbiochem)及びホスファターゼ阻害剤(ホスファターゼ阻害剤カクテルセットII、Calbiochem)を補充した、50mMのトリス、200mMのNaCl、5mMのEDTA、0.1%のトリトン100x(pH7.5))を用いて細胞を溶解した。試料を15,000gで遠心分離にかけ、上清をブラッドフォード法により定量化した。細胞溶解液及び添加液(Laemmli緩衝剤)を用いて同等の濃度へと完全に希釈し、95℃で5分間、変性させた。タンパク質を12%のアガロースゲル(ウェルあたり20μgを充填)上に分離し、PDVF(フッ化ポリビニリデン)膜へと移動させた。TBST中、5%のBSA中のb-アクチン抗体(図中では「アクチン」として省略される(Calbiochem)、eIF4E(抗ウサギ、細胞シグナル伝達)、及びリン酸化eIF4E(S209)(抗ウサギ、細胞シグナル伝達)を使用し、化合物の活性を調査した。
【0125】
ERK抗体、p-ERK抗体、MNK1抗体、p-MNK1抗体、4EBP1抗体、及びp-4EBP1抗体を用いて、MNKに対する選択性を分析した。
【0126】
結果:
【0127】
本発明は、4,6-ジフェニル-1H-ピラゾロ[3,4-b]ピリジン-3-アミン(EB1)、又は薬学的に許容されるその塩の使用に関する。これは、トリプルネガティブ乳癌、及びMNK活性の増加を原因とするp-eIF4E過剰発現に起因する他の癌を処置するのに使用される可能性を有する選択的MNK阻害剤として使用される。
【0128】
事前に発表した通り、驚くべきことに、EB1はトリプルネガティブ乳癌細胞では、0.7μMCの酵素的IC50及びおよそ1.5μMのインビトロEC50(MDA-MB-231)を有する。細胞毒性効果がなく高い選択性を有した状態で、eIF4Eリン酸化の完全な阻害を得る。追加的には、結果は細胞株とは無関係である。同様に、ドキソルビシン(又は本明細書においてDOXOと略される)と組み合わせる場合には、EB1は、化学療法に対するMDA-MB-231腫瘍細胞に対する感受性を増加する。
【0129】
1H-ピラゾロ[3,4-b]ピリジン-3-アミン系のC4位及びC6位でフェニル環に含まれる様々な置換基を用いて研究された他の誘導体からの結果が、EB1の活性よりも低いものであると提示する場合には、これらの結果は特に驚くべきものであり、かつ関連性がある。
【0130】
Proqinase(登録商標)(https://www.proqinase.com/)により行われる放射線酵素アッセイの結果は、10μMのEB1を用いた処理後のMNK1及びMNK2キナーゼの残効性は、それぞれ14%及び52%であることを示している。これらの結果は、MNK1に対するある特定の選択性を示している。同様のアッセイにおいて、参照化合物であるセルコスポラミド及びCGP57380により得られる結果は、セルコスポラミドについては-1%及び0%であり、CGP57380については21%及び39%である。
【0131】
図1に示されるように、EB1は、2.5μMでほぼ完全に阻害し、約1.5μMのインビトロEC
50を伴い、eIF4Eリン酸化を阻害する。効果は迅速であり、少なくとも72時間にわたり継続する。
【0132】
その上、試験時間に関しては、化合物が24時間又は48時間ごとに更新されるかどうかは違いがない。
【0133】
EB1は、2.5μMより大きい濃度でeIF4Eリン酸化を有意に低下させる。この低下は、ウェスタンブロット分析によると、eIF4Eの総量における減少により引き起こされるものではない。処置はシグナル伝達経路の成分のうちいずれかに影響することがないため、この効果はMNKの直接阻害が要因であると考えられる(
図1)。EB1はMNKのリン酸化状態を変性させることがない。追加的には、MAPキナーゼのシグナル伝達経路のキナーゼ下流であるERKは、対照細胞及びEB1で処置された細胞に影響しない。
【0134】
最後に、eIF4E結合タンパク質(4E-BP1)のリン酸化は、いずれかの化合物により変性されない(
図1)。要約すると、データは、EB1で処置された細胞におけるeIF4Eリン酸化の減少は、MNKキナーゼを直接阻害することに起因している。同様の結果(EC
50=0.7μM)を有する不死化非腫瘍乳癌細胞(MCF10)にてEB1の効果も試験した(
図2)。
【0135】
MNK1/MNK2のノックアウトマウスが生存可能であるという事実に基づき、いかなる理論にも拘束されるものではないが、基本的な細胞機能にとって、両方のタンパク質は必須ではないということが提案される。これはまた、両方のタンパク質のshRNA介在性欠失が細胞生存率及び増殖を変性させないという事実により支持される。このデータに基づき、発明者らはMNK阻害剤が細胞増殖の低下を期待できないと予測する。それゆえ、EB1は、eIF4Eリン酸化を阻害するのに十分な濃度に関して細胞増殖に影響するかどうかを試験する。
【0136】
図3に示されるように、TNBC細胞(MDA-MB-231)及び非腫瘍乳房細胞(MCF10)において、細胞増殖を変性させることなく、かつ最も高い濃度で細胞数に有意な減少を観察するのみでeIF4Eリン酸化を阻害することが可能である。
【0137】
高濃度のEB1がどの程度細胞増殖に影響するかを測るため、FACS分析を行い、細胞周期の状態及び細胞死の指標としてのサブG1における細胞のパーセンテージをモニタリングした。細胞死の正の対照として、細胞を100nMのドキソルビシンで処理した。これはサブG1期における細胞の急激な増加をもたらした。ドキソルビシンとは異なり、最大40μMのEB1濃度では、細胞死の増加はもたらされなかった。対照的に、用量依存様式にて、細胞周期のG1期に細胞の増加を観察することができた。それゆえ、これらの結果は、細胞死の誘発というよりはむしろ、細胞周期進行における遅延が、最も高いEB1濃度での細胞増殖の低下を引き起こすことを示している。同等の結果は、MNK1/MNK2阻害剤であるBAY11433296に関しても説明される(
図4)。
【0138】
要約すると、EB1は、MNK活性を阻害するのに必要な濃度では、腫瘍細胞及び非腫瘍細胞の細胞増殖に影響しない。これは、MNKに対する選択的な作用機序を支持しており、かつ将来的な臨床研究において、安全な作用機序の第1の指標を提供する。
【0139】
選択的な作用機序を確認するため、EB1の活性を異なるキナーゼのパネルに対して評価した(Proqinase(登録商標))(
図5)。EB1は、同等の様式にてわずか16種類の他のキナーゼが影響されているように、320キナーゼパネルに関しては1μMで優れた選択性を示す。文献の研究により、他の影響を受けたキナーゼは、eIF4Eリン酸化に影響する経路にどれも関与しないことが明らかとなった。
【0140】
MNK阻害剤を事前に説明した総論は多くの場合、所与の細胞株への特異的な効果を説明する。これがEB1についてのケースであるかを試験するため、白血球細胞(MV4-11)、メラノーマ細胞(A375M)及び乳癌細胞(MDA-MB-468)など異なる種類の腫瘍の細胞株において滴定曲線を行った。
【0141】
EB1は試験された全ての細胞株で活性であった。これは、MNK阻害剤としての当該化合物の活性が、細胞株に応じて変化するものではないことを示す(
図6)。
【0142】
MNKを介したeIF4Eリン酸化の阻害は、特に他の承認された治療と組み合わせる、癌に対する新規戦略として浮上している。MNK阻害剤による処置により、一般的な治療に対して腫瘍細胞を感作することが可能となる。例えばトリプルネガティブ乳癌など、標的治療が利用できない種類の癌にとって、これらの新規処置スキームもまた重要である。ただし現在まで、承認された化学療法にトリプルネガティブ乳癌を感作するMNK阻害剤使用例は説明されていない。
【0143】
MDA-MB-231細胞におけるEB1とドキソルビシンとの組合せは、見込みのある結果を示す。ドキソルビシンを用いた処置による細胞ストレスにより引き起こされたeIF4Eリン酸化の増加が確認されている。これは5μMのEB1で逆転させることができる(
図7A)。
【0144】
追加的には、EB1を共に用いる処置は、ドキソルビシンにMDA-MB-231細胞を感作する。こうすることで、細胞増殖においてその効果を増加させる。ドキソルビシンのIC
50は、350nM~225nMのEB1と組み合わせることで低下され得る(
図7B)。
【0145】
これらの全ての結果は、4,6-ジフェニル-1H-ピラゾロ[3,4-b]ピリジン-3-アミン(EB1と略される)、又は薬学的に許容されるその塩の、選択的で非毒性であるMNK1及びMNK2の阻害剤としての使用を裏付けている。
【0146】
実施例3.EB1は、非腫瘍細胞モデルとしてのIMR90細胞株における、細胞増殖及び細胞死亡率に有害作用を引き起こさない。
【0147】
EB1標的キナーゼであるMNK1及びMNK2のノックアウトマウスは生存可能である(Ueda et al2004;PMID:15254222)。IMR90細胞、非形質転換線維芽細胞の処理は、有意な細胞増殖停止を引き起こさず(
図8A)、細胞死を誘発しない(
図8B)。細胞増殖を、クリスタルバイオレットアッセイにより測定した。ヨウ化プロピジウム(PI)/ヘキスト染色により細胞死を測り、分析した細胞全て(ヘキスト)のうちの死細胞の比率(PI陽性)を測った。正の対照としてシスプラチン処置が挙げられる。結果は、EB1は健常な細胞では有害作用を引き起こすとは予測されないことを示す。それゆえ、患者への最小限の副反応は予測され得る。
【0148】
実施例4.EB1処置は、タモキシフェンに対する感受性の増加をもたらす。
【0149】
これまでの研究は、CGP57380によるMNKキナーゼの阻害、及び多くの標的を有する阻害剤は、MCG7細胞においてはタモキシフェンに対する感受性の増加をもたらすと示唆している(Geter et al,2017;PMID:29269484)。MCF7細胞のEB1処置により、タモキシフェンに対する感受性の増加もまたもたらされる(
図9)。クリスタルバイオレットにより、EB1、タモキシフェン又は両方の阻害剤の組合せが存在する状態での細胞増殖を測った。データを溶媒対照に標準化した。
【0150】
実施例5.EB1処置は、MDA-MB231細胞におけるPD-L1レベルの低下をもたらす。
【0151】
担癌マウス(syngenic mice)モデルにおけるeFT508に関する先行研究は、MNKの阻害はPD-L1発現レベルの低下をもたらすことを示唆している。EB1処置は、ヒト乳癌細胞株であるMDA-MB-231においてPD-L1レベルを低下させる。eIF4Eリン酸化の阻害率と同等の阻害率では、EB1は、MNK阻害剤であるeFT508及びCGP57380と同等に強力であるか、これより優っている。指示される濃度の阻害剤を用いて、MDA-MB-231細胞を48時間にわたって処理した。DMSOを溶媒対照として使用した。タンパク質抽出物を調製し、ウェスタンブロット分析を行った。データを
図10に示す。
【0152】
実施例6.EB1処置は、前立腺癌細胞においてエンザルタミドに対する感受性を増加させる。
【0153】
去勢抵抗性前立腺癌細胞株である22Rv1(ATCC(登録商標)で市販 CRL-2505(商標))におけるEB1とエンザルタミドの同時処置は、細胞生存率の相乗作用をもたらした。
【0154】
ARリン酸化とeIF4Eリン酸化の併用阻害下での細胞生存率をアッセイした。結果を
図11に示す。(A)において、22Rv1におけるEB1処置の24時間後にeIF4Eリン酸化の用量依存性阻害を得た。これをウェスタンブロット分析により測った。EB1とエンザルタミドの相乗作用を、22Rv1(B~F)細胞生存率アッセイを用いて調査した。(B)対照に対するパーセンテージとして報告されるペアワイズ組合せを用いた、処置72時間後の生存細胞の数。(E)細胞生存率データは、薬物投与量の各ペアワイズ組合せにより、傷害細胞のパーセンテージを示すグリッド線として提示した。(C)細胞生存率における最も強い阻害を有する薬物の組合せ(バー;平均±SEM;n=3。
*p<0.05、
**p<0.01 両側スチューデントのt検定)。(F)組合せ指数(CI)は、非一定の比率にて、Chou-Talalay法により算出された薬剤投与量の各ペアワイズ組合せに対するグリッド線として提示した。(D及びI)抑制割合対組合せ指数(CI)のプロット。
【0155】
これら全てのデータにより、EB1又は薬学的若しくは獣医学的に許容されるその塩、及びエンザルタミドを含む組合せは、前立腺癌細胞の細胞生存率の低下といった点で相乗作用をもたらすと結論づけることができる。
【0156】
AR及びeIF4Eリン酸化の二重阻害は、アポトーシスを介した細胞死を誘発する。これらの結果を
図12にて例示する。この目的に関して、(A)溶媒(DMSO)、エンザルタミド、EB1又は両方の組合せのいずれかを指示された濃度で用い、22Rv1細胞を72時間にわたって処理した。次に全細胞溶解物を調製し、指示された抗体を用いてウェスタンブロット分析に供した。EB1単独での処置時にAR、そのスプライスバリアントであるAR-V7及びeIF4Eリン酸化を観察したが、これは組合せではより顕著であった。CI-PARPレベルにおける増加は、併用処置下でのアポトーシス誘発を示した。(B)72時間にわたる、表示された濃度のエンザルタミド、EB1及び両者の組合せを用いた処置後の22Rv1細胞株のアポトーシスアッセイであり、ヨウ化プロピジウム染色後、断片化/凝縮したクロマチンの解析により定量化した。二重処置時にアポトーシス細胞個体群における卓越した(remarcable)増加を観察した。データを示していないが、22Rv1細胞株の代表的なヨウ化プロピジウム及びヘキスト染色画像を得た。データは、1実験からの2つの技術的反復の平均±SEMである(
***p<0.001、両側スチューデントのt検定)。
【0157】
本発明の更なる態様/実施形態は、以下の項目に示すことができる:
項目1.MAPキナーゼ相互作用セリン/スレオニン-プロテインキナーゼ1(MNK1)及びMAPキナーゼ相互作用セリン/スレオニン-プロテインキナーゼ2(MNK2)の選択的、非毒性の阻害剤としての、4,6-ジフェニル-1H-ピラゾロ[3,4-b]ピリジン-3-アミン、又は薬学的に許容されるその塩の使用
【化2】
項目2.前記MNK1及びMNK2の阻害が、elF4Eのリン酸化の阻害を引き起こす、項目1に記載の使用。
項目3.MNK1及びMNK2の阻害による、トリプルネガティブ乳癌及び他の関係する癌の処置に使用するための、4,6-ジフェニル-1H-ピラゾロ[3,4-b]ピリジン-3-アミン(EB1)、又は薬学的に許容されるその塩。
項目4.他の癌が、肺癌、卵巣癌、子宮内膜癌、結腸癌、前立腺癌、メラノーマ、グリオーマ、肉腫、白血病、リンパ腫、及び脳腫瘍からなる群から選択される、p-elF4E過剰発現を伴う癌と関係する、項目3に記載の使用するための4,6-ジフェニル-1H-ピラゾロ[3,4-b]ピリジン-3-アミン(EB1)、又は薬学的に許容されるその塩。
項目5.p-eIF4E過剰発現は、化学療法、放射線治療、及び免疫療法からなる群から選択される処置により誘発される、項目3に記載の使用するための4,6-ジフェニル-1H-ピラゾロ[3,4-b]ピリジン-3-アミン(EB1)、又は薬学的に許容されるその塩。
項目6.トリプルネガティブ乳癌及びp-elF4E過剰発現を伴う他の癌の処置のための使用は、化学療法、免疫療法、放射線治療、及び癌の処置のための他の薬物に関して与えられる感作により達成される、項目3に記載の使用するための4,6-ジフェニル-1H-ピラゾロ[3,4-b]ピリジン-3-アミン(EB1)、又は薬学的に許容されるその塩。
項目7.化学療法はドキソルビシンを含み、免疫療法は、プログラム細胞死タンパク質1及びそのリガンド(PD-1/PD-L1)を含む、項目6に記載の使用するための4,6-ジフェニル-1H-ピラゾロ[3,4-b]ピリジン-3-アミン(EB1)、又は薬学的に許容されるその塩。
【0158】
参照リスト
【0159】
特許文献
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WO 2011/019780
WO 2015/004024
DE 2160780
【0160】
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