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特許7536258複合体、医薬、癌治療剤、キット及び結合体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-09
(45)【発行日】2024-08-20
(54)【発明の名称】複合体、医薬、癌治療剤、キット及び結合体
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/24 20060101AFI20240813BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20240813BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20240813BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20240813BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20240813BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20240813BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240813BHJP
   A61K 38/02 20060101ALI20240813BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20240813BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20240813BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240813BHJP
   A61K 31/352 20060101ALN20240813BHJP
   A61K 38/16 20060101ALN20240813BHJP
   A61K 38/47 20060101ALN20240813BHJP
   A61K 33/242 20190101ALN20240813BHJP
   A61K 31/7064 20060101ALN20240813BHJP
   A61K 31/409 20060101ALN20240813BHJP
   A61K 31/47 20060101ALN20240813BHJP
【FI】
A61K47/24
A61K47/42
A61K47/34
A61K47/36
A61K47/32
A61K9/14
A61P35/00
A61K38/02
A61K31/7088
A61K35/76
A61K48/00
A61K31/352
A61K38/16
A61K38/47
A61K33/242
A61K31/7064
A61K31/409
A61K31/47
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021522894
(86)(22)【出願日】2020-05-29
(86)【国際出願番号】 JP2020021301
(87)【国際公開番号】W WO2020241819
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2023-02-14
(31)【優先権主張番号】P 2019100395
(32)【優先日】2019-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、令和2年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム、COI拠点「スマートライフケア社会への変革を先導するものづくりオープンイノベーション拠点」産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願、令和2年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「先端的バイオ創薬等基盤技術開発事業」、「高分子ナノテクノロジーを基盤とするバイオ医薬品送達システムの開発」、委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】514299594
【氏名又は名称】公益財団法人川崎市産業振興財団
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 太一
(72)【発明者】
【氏名】西山 伸宏
(72)【発明者】
【氏名】本田 雄士
(72)【発明者】
【氏名】野本 貴大
(72)【発明者】
【氏名】武元 宏泰
(72)【発明者】
【氏名】松井 誠
(72)【発明者】
【氏名】喜納 宏昭
(72)【発明者】
【氏名】片岡 一則
(72)【発明者】
【氏名】劉 学瑩
(72)【発明者】
【氏名】ディリサラ アンジャネユル
【審査官】長部 喜幸
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/073697(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/170757(WO,A1)
【文献】特表2016-517393(JP,A)
【文献】特開2018-145115(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 47/00-47/69
A61K 38/16
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボロン酸基を有する高分子、及びジオール構造を有する化合物、が結合した結合体と、
前記結合体と複合化する物質と、
を含み、
前記ボロン酸基が、置換基を有してもよいフェニルボロン酸基、又は置換基を有してもよいピリジルボロン酸基であり、
前記高分子が、ポリエチレングリコール、アクリル系樹脂、ポリアミノ酸、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン、ポリヌクレオチド、ポリアクリルアミド、ポリエーテル、ポリエステル、ポリウレタン、多糖類、及びこれらのコポリマーからなる群から選択される少なくとも一種の生体適合性高分子であり、
前記高分子が、第1の生体適合性高分子鎖と、前記第1の生体適合性高分子鎖とは異なる第2の生体適合性高分子鎖とを含み、前記第2の生体適合性高分子鎖がポリアミノ酸であり、前記ボロン酸基が前記ポリアミノ酸の側鎖に導入されており、
前記ジオール構造を有する化合物が、タンニン酸、没食子酸及びそれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも一種であり、前記誘導体が、タンニン酸又は没食子酸において、1個又は複数の水素原子が、水酸基、アミノ基、炭素数1~4の1価の鎖状飽和炭化水素基又はハロゲン原子で置換された化合物である、複合体。
【請求項2】
前記結合体と複合化する物質が、タンパク質、ウイルス、無機粒子、核酸、及び低分子医薬からなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1に記載の複合体。
【請求項3】
ボロン酸基を有する高分子、及びジオール構造を有する化合物、が結合した結合体と、
タンパク質と、
を含む、請求項1又は2に記載の複合体。
【請求項4】
前記高分子が、2以上のボロン酸基を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の複合体。
【請求項5】
前記ボロン酸基が、下記一般式(I)で表されるフェニルボロン酸基、又は下記一般式(II)で表されるピリジルボロン酸基である、請求項1~4のいずれか一項に記載の複合体:
【化1】
(式中、Xはハロゲン原子又はニトロ基を表し、nは0~4の整数である。)。
【請求項6】
前記第1の生体適合性高分子鎖がポリエチレングリコールである、請求項1~5のいずれか一項に記載の複合体。
【請求項7】
前記ボロン酸基を有する高分子が、下記一般式(1)又は(1-1)で表される構造を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の複合体:
【化2】
(式(1)~(1-1)中、
Aは、前記第1の生体適合性高分子鎖を表し、
Lは、リンカー部を表し、
Bは、ボロン酸基を有する前記第2の生体適合性高分子鎖を表し、下記(b2)で表される繰り返し構造を含むか、又は(b1)で表される繰り返し構造及び(b2)で表される繰り返し構造を含む。)
【化3】
(式(b1)~(b2)中、
は、アミノ酸側鎖を表し、
は、アミノ酸側鎖に前記ボロン酸基が導入されたものであり、
nは(b1)及び(b2)の合計数を表し、nは1~1000の整数であり、mは1~1000の整数であり(ただしm≦n)、n-mが2以上である場合、複数個のRは互いに同一でも異なっていてもよく、mが2以上である場合、複数個のRは互いに同一でも異なっていてもよい。)。
【請求項8】
動的光散乱法(DLS)又は蛍光相関分光法(FCS)により求められる平均粒子径が、5nm以上200nm以下である、請求項1~7のいずれか一項に記載の複合体。
【請求項9】
前記ボロン酸基を有する高分子の数平均分子量が、2,000~200,000である、請求項1~8のいずれか一項に記載の複合体。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の複合体を有効成分として含有する、医薬。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の複合体を有効成分として含有する、癌治療剤。
【請求項12】
ボロン酸基を有する高分子と、ジオール構造を有する化合物と、を備え、
前記ボロン酸基が、置換基を有してもよいフェニルボロン酸基、又は置換基を有してもよいピリジルボロン酸基であり、
前記高分子が、ポリエチレングリコール、アクリル系樹脂、ポリアミノ酸、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン、ポリヌクレオチド、ポリアクリルアミド、ポリエーテル、ポリエステル、ポリウレタン、多糖類、及びこれらのコポリマーからなる群から選択される少なくとも一種の生体適合性高分子であり、
前記高分子が、第1の生体適合性高分子鎖と、前記第1の生体適合性高分子鎖とは異なる第2の生体適合性高分子鎖とを含み、前記第2の生体適合性高分子鎖がポリアミノ酸であり、前記ボロン酸基が前記ポリアミノ酸の側鎖に導入されており、
前記ジオール構造を有する化合物が、タンニン酸、没食子酸及びそれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも一種であり、前記誘導体が、タンニン酸又は没食子酸において、1個又は複数の水素原子が、水酸基、アミノ基、炭素数1~4の1価の鎖状飽和炭化水素基又はハロゲン原子で置換された化合物である、キット。
【請求項13】
ボロン酸基を有する高分子、及びジオール構造を有する化合物、が結合した結合体であって、
前記ボロン酸基が、置換基を有してもよいフェニルボロン酸基、又は置換基を有してもよいピリジルボロン酸基であり、
前記高分子が、ポリエチレングリコール、アクリル系樹脂、ポリアミノ酸、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン、ポリヌクレオチド、ポリアクリルアミド、ポリエーテル、ポリエステル、ポリウレタン、多糖類、及びこれらのコポリマーからなる群から選択される少なくとも一種の生体適合性高分子であり、
前記高分子が、第1の生体適合性高分子鎖と、前記第1の生体適合性高分子鎖とは異なる第2の生体適合性高分子鎖とを含み、前記第2の生体適合性高分子鎖がポリアミノ酸であり、前記ボロン酸基が前記ポリアミノ酸の側鎖に導入されており、
前記ジオール構造を有する化合物が、タンニン酸、没食子酸及びそれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも一種であり、前記誘導体が、タンニン酸又は没食子酸において、1個又は複数の水素原子が、水酸基、アミノ基、炭素数1~4の1価の鎖状飽和炭化水素基又はハロゲン原子で置換された化合物である、結合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合体、医薬、癌治療剤、キット及び結合体に関する。
本願は、2019年5月29日に、日本に出願された特願2019-100395号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
バイオ医薬品等の生理活性タンパク質は、がんをはじめとする難病に対する画期的な治療薬として大きな期待を集めている。しかしながら、腎糸球体の濾過閾値よりサイズが小さいタンパク質は、迅速に体外に排出されてしまうために血中滞留性に乏しく、血中で酵素分解を受けるために血中安定性も必ずしも十分とはいえず、期待されるほどの薬理効果を得られていないのが実情である。さらに、生理活性タンパク質のがん治療への適用のためには、腫瘍への選択的な集積性を有することが求められる場合がある。
【0003】
血中滞留性及び血中安定性の向上のために、生体適合性高分子であるポリエチレングリコール(PEG)により化学修飾したPEG修飾タンパク質が臨床応用されており、一定の効果が得られているが、PEG修飾による薬理活性の低下が懸念される場合もある。
また、非特許文献1によれば、生理活性タンパク質としての抗体を用い、抗体の有するアミノ基に負電荷のpH応答性分子を修飾させた後、正電荷の高分子化合物とポリイオンコンプレックス(PIC)を形成させる技術が示されている。これによると、細胞内pHにおいてpH応答性分子が解離し、PICが崩壊することで、細胞内で特異的に、抗体をリリースすることが可能であるとされる。
【0004】
一方で、タンパク質に化学修飾を行わず、他の分子との複合体を形成させる方法も知られている。
非特許文献2には、タンパク質をカテコール構造導入高分子に内包させる技術が示されている。カテコール構造を有する分子としては、例えばタンニン酸が知られている。
タンニン酸は、疎水性相互作用及び水素結合にて、タンパク質と結合し、複合体を形成可能であることが知られている(非特許文献3~4)。タンニン酸とタンパク質等との結合によれば、化学修飾を利用せずに複合体を形成することが可能である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】“Intracellular Delivery of Charge-Converted Monoclonal Antibodies by Combinatorial Design of Block/Homo Polyion Complex Micelles”, A. Kim, Y. Miura, T. Ishii, O. F. Mutaf, N. Nishiyama, H. Cabral, and K. Kataoka, Biomacromolecules, 17(2), 446-453 (2016).
【文献】“Self-assembled micellar nanocomplexes comprising green tea catechin derivatives and protein drugs for cancer therapy”, J. E. Chung, S. Tan, S. J. Gao, N. Yongvongsoontorn, S. H. Kim, J. H. Lee, H. S. Choi, H. Yano, L. Zhuo, M. Kurisawa, and J. Y. Ying, Nat. Nanotech. 9(11), 907-912(2014).
【文献】“Formation of complexes between protein and tannic acid” J. P. Van Buren, and W. B. Robinson, J. Agric. Food Chem. 17(4), 772-777 (1969).
【文献】“Gallic acid: Molecular rival of cancer” V. Sharad, S. Amit, and M. Abha, Env. Tox. and pharm. 35(3), 473-485 (2013).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1の方法では、抗体に化学修飾を行うことから、PEG修飾と同様、抗体の薬理活性の低下が懸念される。
また、非特許文献2~4に示されたタンパク質の複合体化により、タンパク質の血中滞留性及び血中安定性の向上や、腫瘍集積性が発揮されたという報告はない。
【0007】
本発明は、上記のような問題点を解消するためになされたものであり、血中滞留性に優れ、更にpH応答性を有する、複合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は以下の態様を有する。
【0009】
<1> ボロン酸基を有する高分子、及びジオール構造を有する化合物、が結合した結合体と、
前記結合体と複合化する物質と、
を含む、複合体。
<2> 前記結合体と複合化する物質が、タンパク質、ウイルス、無機粒子、核酸、及び低分子医薬からなる群から選択される少なくとも一種である、前記<1>に記載の複合体。
<3> ボロン酸基を有する高分子、及びジオール構造を有する化合物、が結合した結合体と、
タンパク質と、
を含む、前記<1>又は<2>に記載の複合体。
<4> 前記ジオール構造を有する化合物が、ポリフェノールである、前記<1>~<3>のいずれか一つに記載の複合体。
<5> 前記ジオール構造を有する化合物が、タンニン酸、没食子酸及びそれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも一種である、前記<1>~<4>のいずれか一つに記載の複合体。
<6> 前記高分子が、2以上のボロン酸基を有する、前記<1>~<5>のいずれか一つに記載の複合体。
<7> 前記ボロン酸基が、置換基を有してもよいフェニルボロン酸基、又は置換基を有してもよいピリジルボロン酸基である、前記<1>~<6>のいずれか一つに記載の複合体。
<8> 前記ボロン酸基が、下記一般式(I)で表されるフェニルボロン酸基、又は下記一般式(II)で表されるピリジルボロン酸基である、前記<1>~<7>のいずれか一つに記載の複合体:
【化1】
(式中、Xはハロゲン原子又はニトロ基を表し、nは0~4の整数である。)。
<9> 前記高分子が、ポリエチレングリコール、アクリル系樹脂、ポリアミノ酸、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン、ポリヌクレオチド、ポリアクリルアミド、ポリエーテル、ポリエステル、ポリウレタン、多糖類、及びこれらのコポリマーからなる群から選択される少なくとも一種の生体適合性高分子である、前記<1>~<8>のいずれか一つに記載の複合体。
<10> 前記ボロン酸基を有する高分子が、第1の生体適合性高分子鎖と、前記第1の生体適合性高分子鎖とは異なる第2の生体適合性高分子鎖とを含む、前記<1>~<9>のいずれか一つに記載の複合体。
<11> 前記第2の生体適合性高分子鎖がポリアミノ酸であり、前記ボロン酸基が前記ポリアミノ酸の側鎖に導入されている、前記<10>に記載の複合体。
<12> 前記第1の生体適合性高分子鎖がポリエチレングリコールである、前記<10>又は<11>に記載の複合体。
<13> 前記ボロン酸基を有する高分子が、下記一般式(1)又は(1-1)で表される構造を含む、前記<10>~<12>のいずれか一つに記載の複合体:
【化2】
(式(1)~(1-1)中、
Aは、前記第1の生体適合性高分子鎖を表し、
Lは、リンカー部を表し、
Bは、ボロン酸基を有する前記第2の生体適合性高分子鎖を表し、下記(b2)で表される繰り返し構造を含むか、又は(b1)で表される繰り返し構造及び(b2)で表される繰り返し構造を含む。)
【化3】
(式(b1)~(b2)中、
は、アミノ酸側鎖を表し、
は、アミノ酸側鎖に前記ボロン酸基が導入されたものであり、
nは(b1)及び(b2)の合計数を表し、nは1~1000の整数であり、mは1~1000の整数であり(ただしm≦n)、n-mが2以上である場合、複数個のRは互いに同一でも異なっていてもよく、mが2以上である場合、複数個のRは互いに同一でも異なっていてもよい。)。
<14> 動的光散乱法(DLS)又は蛍光相関分光法(FCS)により求められる平均粒子径が、5nm以上200nm以下である、前記<1>~<13>のいずれか一つに記載の複合体。
<15> 前記ボロン酸基を有する高分子の数平均分子量が、2,000~200,000である、前記<1>~<14>のいずれか一つに記載の複合体。
<16> 前記<1>~<15>のいずれか一つに記載の複合体を有効成分として含有する、医薬。
<17> 前記<1>~<16>のいずれか一つに記載の複合体を有効成分として含有する、癌治療剤。
<18> ボロン酸基を有する高分子と、ジオール構造を有する化合物と、を備えるキット。
<19> ボロン酸基を有する高分子、及びジオール構造を有する化合物、が結合した結合体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、血中滞留性に優れ、更にpH応答性を有する、複合体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態の複合体の概略的な構成の一例を示す模式図である。
図2】実施形態の複合体の、生体内における構成の一例を示す模式図である。
図3】実施例で作製したPEG-PLys(TFA)20のGPCカーブである。
図4】実施例で作製したPEG-PLys(TFA)40のGPCカーブである。
図5】実施例で作製したPEG-PLys201H NMRスペクトルである。
図6】実施例で作製したPEG-PLys401H NMRスペクトルである。
図7】実施例で作製したPEG-P[Lys(FPBA)10]201H NMRスペクトルである。
図8】実施例で作製したPEG-P[Lys(FPBA)20]401H NMRスペクトルである。
図9】PEG-P[Lys(FPBA)10]20のGPCカーブである。
図10】PEG-P[Lys(FPBA)20]40のGPCカーブである。
図11】PEG-FPBAの1H NMRスペクトルである。
図12】PEG-FPBAのGPCカーブである。
図13】PEG-P[Lys(FPBA10/Cy5)]20のFPスペクトルである。
図14】GFP, GFP/TA, GFP/TA/ボロン酸導入高分子の粒子径測定結果である。
図15】GFP, GFP/TA, GFP/PEG-P[Lys(FPBA)10]20, GFP/TA/PEG-P[Lys(FPBA)10]20の粒子径測定結果である。
図16】グルコース溶液中でのGFP/TA/PEG-P[Lys(FPBA)10]20の粒子径測定結果である。
図17】FBS溶液中でのGFP/TA/PEG-P[Lys(FPBA)10]20の粒子径測定結果である。
図18】様々なpHにおけるGFP/TA/PEG-P[Lys(FPBA)10]20の粒子径測定結果である。
図19】GFP/TA/PEG-P[Lys(FPBA)10]20の細胞内分布を示す共焦点顕微鏡の観察画像である。
図20】CT26皮下腫瘍モデルマウスにおいて、GFPとGFP/TAと GFP/TA/PEG-P[Lys(FPBA)10]20とでの、血中滞留性を比較した結果を示すグラフである。
図21】CT26皮下腫瘍モデルマウスにおいて、GFPとGFP/TAと GFP/TA/PEG-P[Lys(FPBA)10]20とでの、腫瘍集積性を比較した結果を示すグラフである。
図22】モデルマウスにおいて、ローズベンガル、ローズベンガル/TA複合体およびローズベンガル三元系複合体の血中滞留性を比較した結果である。
図23A】吸光度測定により、TA溶液とTA/PEG-P[Lys(FPBA)10]20溶液の酸化の継時変化を示した結果である。
図23B】TA溶液とTA/PEG-P[Lys(FPBA)10]20溶液を24時間インキュベートした後の写真である。
図23C】粒径と蛍光強度の測定から、GFP三元系複合体の溶液中での安定性を示す結果である。
図24】ATP溶液中での、GFP三元系複合体の粒子径測定結果である。
図25A】GlycoGREEN-βGalを用いた、βGal、βGal/TA複合体およびβGal三元系複合体の継時的な活性変化を測定した結果である。
図25B】GlycoGREEN-βGalを用いた、βGal、βGal/TA複合体およびβGal三元系複合体の最大活性値を測定した結果である。
図26A】Alexa647-βGal、Alexa647-βGal/TA複合体およびAlexa647-βGal三元系複合体のCT26細胞への取り込み量を測定した結果である。
図26B】GlycoGREEN-βGalを用いたβGal、βGal/TA複合体およびβGal三元系複合体のCT26細胞内での活性を測定した結果である。
図26C】GlycoGREEN-βGalを用いたβGal、βGal/TA複合体およびβGal三元系複合体のCT26細胞内での活性を、取り込み量で除した結果を示すグラフである。
図27】CT26皮下腫瘍モデルマウスにおいて、Alexa647-βGalとAlexa647-βGal三元系複合体とでの、血中滞留性および各臓器への集積性を比較した結果を示すグラフである。
図28】AAV、AAV/TA複合体およびAAV三元系複合体の、CT26細胞における遺伝子発現効率を評価した結果である。
図29】CT26皮下腫瘍モデルマウスにおいて、AAV、AAV/TA複合体およびAAV三元系複合体の各臓器での遺伝子発現量を、AAV単体での遺伝子発現量を1とした場合の結果を示すグラフである。
図30A】CT26皮下腫瘍モデルマウスにおいて、AAV、AAV/TA複合体又はAAV三元系複合体を投与した際の、血中のALT量を測定した結果である。
図30B】CT26皮下腫瘍モデルマウスにおいて、AAV、AAV/TA複合体又はAAV三元系複合体を投与した際の、血中のAST量を測定した結果である。
図31】AAV、AAV/TA複合体又はAAV三元系複合体の、AAV抗体添加によるCT26細胞における遺伝子発現効率の変化を評価した結果である。
図32】モデルマウスにおいてTUG1、TUG1/TA複合体およびTUG1三元系複合体の血中滞留性をin vivo共焦点レーザー顕微鏡で継時的に比較した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態における、複合体、医薬、癌治療剤、キット及び結合体を説明する。
【0013】
≪複合体≫
【0014】
実施形態の複合体は、ボロン酸基を有する高分子、及びジオール構造を有する化合物、が結合した結合体と、前記結合体と複合化する物質(以下、「複合要素」ということがある。)と、を含むものであってよく、前記高分子は生体適合性高分子であってよい。
実施形態の複合体は、ボロン酸基を有する生体適合性高分子、及びジオール構造を有する化合物、が結合した結合体と、前記結合体と複合化する物質と、を含むものである。
【0015】
図1は、実施形態の複合体の概略的な構成の一例を示す模式図である。実施形態の複合体1は、結合体10と、結合体10と複合化する物質40と、を含む。
【0016】
結合体10と複合化する物質としては、タンパク質、ウイルス、無機粒子、核酸、及び低分子医薬からなる群から選択される少なくとも一種が挙げられる。
【0017】
結合体と複合化する物質がタンパク質である場合、複合体の一実施形態としてのタンパク質複合体を例示できる。
【0018】
実施形態のタンパク質複合体は、ボロン酸基を有する高分子、及びジオール構造を有する化合物、が結合した結合体と、タンパク質と、を含むものであってよい。本明細書において「ジオール構造」とは、2個の水酸基がそれぞれ異なる炭素原子に結合した構造を指し、2個の水酸基が隣り合う炭素原子にそれぞれ結合した構造であってよい。ジオール構造を有する化合物は、脂肪族化合物に限定されるものではない。
【0019】
図1において、結合体10と複合化する物質40がタンパク質4である場合、実施形態のタンパク質複合体1は、結合体10、及びタンパク質4を含む。
【0020】
結合体10は、ボロン酸基を有する高分子2と、ジオール構造を有する化合物3と、が結合したものである。例えば、下記式(10a)で示されるジオール構造と、下記式(10b)で示されるボロン酸基とは、下記式(10c)で示されるボロン酸ジオール結合を形成可能である。すなわち、実施形態の複合体1における結合体10は、ボロン酸基を有する高分子2と、ジオール構造を有する化合物3と、がボロン酸ジオール結合を形成した結合体であってよい。
【0021】
【化4】
【0022】
ジオール構造を有する化合物3は、ボロン酸基を有する高分子2と結合体10を形成する一方で、図1に示されるように、タンパク質4等の複合要素40とも結合して複合体を形成することができる。ジオール構造を有する化合物3とタンパク質4(複合要素40)とは、疎水性相互作用及び/又は水素結合にて結合できるものと考えられ、タンパク質4(複合要素40)に化学修飾を施さずとも複合体化が可能である。すなわち、タンパク質4(複合要素40)には、ジオール構造を有する化合物3を介して(つまり、結合体10のジオール構造を有する化合物3に由来する部分を介して)、ボロン酸基を有する高分子2が付加されたような格好となる。このことから、実施形態の複合体1では、タンパク質等の複合要素に対し化学修飾を施さずに、結合体10と複合体を形成できる。
【0023】
上記で説明した複合体の形成様式から、実施形態の複合体は、タンパク質等の複合要素をコアとして、その周囲に結合体がシェルの如く配されている形態をとり得る。より詳細には、タンパク質等の複合要素をコアとして、その周囲に結合体の一部としてジオール構造を有する化合物に由来する部分が配され、さらにその外側に高分子の部分が配されている形態をとり得る。そのため、複合要素が結合体によって内包され保護されるので、タンパク質等の複合要素が意図しない生体反応に関与することを抑制できる。意図しない生体反応の例としては、例えば免疫反応である。
【0024】
ジオール構造を有する化合物の持つ性質として、タンパク質等と相互作用し易い性質があり、非特許文献2~4に示される従来の技術では、ジオール構造を有する化合物により、生体内での意図しない相互作用が生じる可能性がある。一方、実施形態の複合体では、ジオール構造を有する化合物に由来する部分の外側に、高分子の部分が配されている形態をとり得るため、従来の技術と比較し、生体内での意図しない相互作用を抑制できるものと考えられ、ジオール構造を有する化合物をそのまま用いる場合よりも、物質送達の安定性に優れる。
【0025】
なお、実施形態の複合体1においては、ボロン酸基を有する高分子2と、ジオール構造を有する化合物3とが結合して、ボロン酸ジオール結合を形成するので、複合体1には、ボロン酸基及びジオール構造は含まれていなくともよい。
【0026】
当該ボロン酸ジオール結合は、可逆的な共有結合であり得る。上記ボロン酸基とジオール構造との結合はpH条件に応じて可逆的で、低pHへの移行でボロン酸ジオール結合が解離して、再びジオール構造(10a)とボロン酸基(10b)とになり得る。
【0027】
図2は、実施形態の複合体の、生体内における構成の一例を示す模式図である。一般的に、血中のpHは7.4付近とされ、細胞内の(特に、エンドソーム、リソソーム等の酸性オルガネラ内の)pHは5.5付近とされる。例えば、実施形態の複合体1は、血中(pH約7.4)では、結合体10とタンパク質4(複合要素40)とが複合体化され、血中滞留性や血中安定性を向上させることができ、細胞内(pH約5.5)や腫瘍周辺(pH約6.6)では、ボロン酸ジオール結合が解離することで、ボロン酸基を有する高分子2が脱離して、タンパク質4(複合要素40)がリリースされ、タンパク質4(複合要素40)本来の機能が発揮され易い状態とすることができる。
【0028】
また、ポリフェノール類等のジオール構造を有する化合物3は、細胞内でタンパク質4から解離することが知られている。
【0029】
このように、実施形態の複合体は、pH応答性を有することができる。本明細書において、複合体のpH応答性とは、周囲のpH環境に応じて、複合体を構成する結合体の、ジオール構造を有する化合物3とボロン酸基を有する高分子2との結合が解離する性質をいう。前記pH応答性は、pHが低くなるのに伴い、複合体を構成する結合体の、ジオール構造を有する化合物3とボロン酸基を有する高分子2との結合が解離する性質であってもよい。
【0030】
実施形態の複合体は、ATP応答性を有することができる。本明細書において、複合体が有してもよいATP応答性とは、周囲のATP濃度が高くなるのに伴い、複合体を構成する結合体10の、ジオール構造を有する化合物3とボロン酸基を有する高分子2との結合が解離する性質をいう。
複合体がATP応答性を有することで、血中(pH約7.4)では、結合体10とタンパク質4(複合要素40)とが複合体化され、血中滞留性や血中安定性を向上させることができ、細胞質内では、ボロン酸ジオール結合が解離することで、ボロン酸基を有する高分子2が脱離して、タンパク質4(複合要素40)がリリースされ、タンパク質4(複合要素40)本来の機能が発揮され易い状態とすることができる。
【0031】
上記結合とその解離は、例えば、アリザリンレッド法により測定できる。アリザリンレッド法については後述の実施例に示す手法を用いることができる。
【0032】
或いは、上記結合とその解離は、例えば、実施例に記載のように、異なるpH環境下での複合体粒子(複合体の一部又は全部の構成要素が解離したものも含む)の粒子径を測定し、あるpH条件下よりも低pHの条件下にて粒子サイズが小さくなったことが確認できれば、その低pHの条件下では、結合体のジオール構造を有する化合物3とボロン酸基を有する高分子2との結合が解離しており、複合体がpH応答性を有すると判断できる。
粒子径の確認は、公知の方法で行うことができ、一例として、実施例に記載の蛍光相関分光法や、動的光散乱法を用いることができる。
なお、本明細書における蛍光相関分光法により求められた粒子径は、アインシュタイン-ストークスの式を用いて求められた粒径の個数基準の算術平均径である。
なお、本明細書における動的光散乱法により求められた粒子径は、アインシュタイン-ストークスの式を用いて求められた粒径の個数基準の算術平均径である。
【0033】
上記解離は、pH環境下に存在する全ての実施形態の複合体で生じる必要はない。複合体がpH応答性を有するかどうかは、例えば、複数個の複合体について解析した値(例えば平均値)に基づき判断することができる。
【0034】
複合要素を効率的に生体内の標的部位に送達するとの観点からは、実施形態の複合体は、例えば、pH7.4において複合要素と結合体とが複合体を形成し、例えば、pH7.4未満、pH6.6以下、pH5.5以下などで、上記ジオール構造を有する化合物3とボロン酸基を有する高分子2との結合が解離するpH応答性を有することが好ましい。
【0035】
タンパク質を効率的に生体内の標的部位に送達するとの観点からは、実施形態の複合体は、例えば、pH7.4においてタンパク質と結合体とが複合体を形成し、例えば、pH7.4未満、pH6.6以下、pH5.5以下などで、上記ジオール構造を有する化合物3とボロン酸基を有する高分子2との結合が解離するpH応答性を有することが好ましい。
【0036】
実施形態の複合体は、例えば、pH7.4未満、pH6.6以下、pH5.5以下などで、当該pHよりも高いpH条件(例えばpH7.4)と比較し、粒子サイズの低下を確認できる、pH応答性を有することが好ましい。
【0037】
上記のとおり、血中のpH環境はpH約7.4であることが知られ、腫瘍周辺のpH環境はpH約6.6であることが知られ、細胞内のpH環境はpH約5.5であることが知られている。
pH7.4以上と比べてpH7.4未満で、粒子サイズの低下を確認できるpH応答性を有する実施形態の複合体は、血中で複合体を形成して血中滞留性及び血中安定性に優れ、腫瘍周辺や細胞内といったタンパク質等の複合要素の送達先では、複合体が解離してタンパク質等がリリースされるため、送達先でより効果的にタンパク質等の本来の機能が発揮される。
pH7.4以上と比べてpH6.6以下で、粒子サイズの低下を確認できるpH応答性を有する実施形態の複合体は、血中で複合体を形成して血中滞留性及び血中安定性に優れ、腫瘍周辺及び細胞内では、複合体が解離してタンパク質等の複合要素がリリースされるため、腫瘍周辺及び細胞内でより効果的にタンパク質等の複合要素の本来の機能を発揮させることができる。
pH7.4以上と比べてpH5.5以下で、粒子サイズの低下を確認できるpH応答性を有する実施形態の複合体は、血中で複合体を形成して血中滞留性及び血中安定性に優れ、細胞内では複合体が解離してタンパク質等の複合要素がリリースされるので、細胞内でより効果的にタンパク質等の複合要素の本来の機能を発揮させることができる。
【0038】
なお、実施形態の複合体のpH応答性に係るpHとして、上記を例示したが、pH応答性に係るボロン酸基のpKaは、ボロン酸基が結合する構造を改変すること等により適宜調整可能であるため、実施形態の複合体のpH応答性に係るpHとしては上記に例示したものに限定されるものではない。
また、結合体のジオール構造を有する化合物3とボロン酸基を有する高分子2との結合と解離や上記の粒子径の確認は、後述の実施例に示す条件下での測定に限定されず、実施形態の複合体が使用される環境下に応じて適宜定めることができる。ある条件で上記解離が確認されない場合であっても、より長時間にわたり測定することや、より使用環境や送達環境に近い条件で確認をすることが推奨される。
また、送達環境下でのpH応答性の程度(例えば、複合体粒子サイズの低下率の程度)は、pH応答性に係るボロン酸基のpKaを調整することで任意に調整可能である。また、送達環境下での、pH応答性の程度(例えば、複合体粒子サイズの低下率の程度)が乏しい場合であっても、本実施形態の複合体の有用性が否定されるわけではない。むしろそのような複合体は、タンパク質等の複合要素の徐放性を発揮できると考えられ、長期的な物質送達に好適に利用することが可能となり得る。
【0039】
実施形態の複合体の平均粒径は、例えば、5nm以上200nm以下が好ましく、10nm以上150nm以下がより好ましく、15nm以上100nm以下がさらに好ましい。複合体の粒径は、動的光散乱法(DLS)又は蛍光相関分光法(FCS)により、後述の実施例に記載の測定条件により測定できる。
実施形態の複合体の粒径が上記の範囲であることにより、複合体の血中滞留性、腫瘍組織への集積性を適度に向上させ、また、肝臓等の正常組織への集積を防止できる。この結果、タンパク質等の複合要素を効率よく腫瘍組織に送達することが可能になる。
複合体の腫瘍集積性は、腫瘍の亢進した血管漏出性を利用した腫瘍への選択的な集積、すなわちenhanced permeability and retention効果(EPR効果)により発揮されるものと考えられ、腫瘍への選択的な送達により、より優れた抗腫瘍効果を達成する。
【0040】
実施形態の複合体に含まれる、結合体10と複合要素40との比率は、特に制限されるものではないが、例えば、複合要素1分子あたり、1個以上の結合体と複合体化されていてもよく、2個以上の結合体と複合体化されていてもよく、5個以上の結合体と複合体化されていてもよく、1~100個の結合体と複合体化されていてもよく、2~50個の結合体と複合体化されていてもよく、5~20個の結合体と複合体化されていてもよい。
【0041】
実施形態の複合体がタンパク質を含む場合、複合体に含まれる、結合体10とタンパク質4との比率は、特に制限されるものではないが、例えば、タンパク質1分子あたり、1個以上の結合体と複合体化されていてもよく、2個以上の結合体と複合体化されていてもよく、5個以上の結合体と複合体化されていてもよく、1~100個の結合体と複合体化されていてもよく、2~50個の結合体と複合体化されていてもよく、5~20個の結合体と複合体化されていてもよい。
【0042】
以下、実施形態の複合体に含まれる各要素の詳細について説明する。
【0043】
(ジオール構造を有する化合物)
本実施形態に係るジオール構造を有する化合物3は、ボロン酸基を有する高分子との結合体を形成するとともに、タンパク質等の複合要素との複合体を形成し、いわば両者の仲介役として、複合体の形成に寄与する。
【0044】
本実施形態に係るジオール構造を有する化合物は、分子内に1以上のジオール構造を有するものであれば特に制限されず、結合安定性の観点から、分子内に1以上のカテコール構造及び/又はガロイル構造を有することが好ましい。当該化合物がカテコール構造及び/又はガロイル構造を有する場合には、該構造におけるベンゼン環との疎水性相互作用によって、タンパク質等の複合要素との複合体化がより促進されるため好ましい。
【0045】
カテコール構造としては、下記式(3a)で表される構造を例示できる。ガロイル構造としては、下記式(3b)で表される構造を例示できる。下記に示される構造のうちでは、下記式(3b)で表されるガロイル構造のほうが、水酸基との水素結合によって、タンパク質等の複合要素との複合体化がより促進されるため好ましい。
【0046】
【化5】
【0047】
本実施形態に係る化合物3の有するジオール構造の個数は、1以上であり、2以上であってよく、5以上であってよい。本実施形態に係る化合物におけるジオール構造の個数の上限値は特に制限されるものではないが、一例として30以下であってよく、15以下であってよく、13以下であってよい。上記数値の数値範囲の一例として、本実施形態に係る化合物3の有するジオール構造の個数は、一例として、1~30の整数であってよく、2~15の整数であってよく、5~13の整数であってよい。
ジオール構造における解離と結合の平衡状態を考えたとき、化合物3が複数(2以上)のジオール構造を有することで、一方のジオール構造の結合が解離しても、他方のジオール構造が結合し得る。このように、本実施形態に係るジオール構造を有する化合物における、ジオール構造の個数が多いほど、ジオール構造を有する化合物とボロン酸基を有する高分子とでの、見かけの結合力は飛躍的に向上する。
【0048】
ボロン酸基を有する高分子とジオール構造を有する化合物とでの、上記結合力は、例えば、アリザリンレッド法により測定できる。アリザリンレッド法については後述の実施例に示す手法を用いることができる。
【0049】
前記ジオール構造を有する化合物としては、ポリフェノールに該当するものが挙げられる。ポリフェノールとしては、芳香族炭化水素において、2個以上の水素原子が、水酸基で置換された構造を有するものが挙げられる。天然のものは植物により生産されることが知られる。当該ポリフェノールとしては、没食子酸、カテキン類(カテキン及びその誘導体)、エピカテキン類(エピカテキン及びその誘導体)、プロアントシアニジン、アントシアニジン、ガロイル化カテキン類(ガロイル化カテキン及びその誘導体)、フラボノイド、イソフラボノイド、ネオフラボノイド、フラボン、タンニン、タンニン酸、それらの誘導体等が挙げられる。前記ジオール構造を有する化合物としては、タンニン酸、没食子酸及びそれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。上記の誘導体としては、ジオール構造を有する化合物において、1個以上の水素原子又は基が、それ以外の基(置換基)で置換されたものが挙げられる。また、ジオール構造を有する化合物において、水素原子が付加または脱離されたものであってもよい。ここで置換基としては、水酸基、アミノ基、炭素数1~4の1価の鎖状飽和炭化水素基、ハロゲン原子等が挙げられる。炭素数1~4の1価の鎖状飽和炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられる。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子等が挙げられる。
【0050】
(ボロン酸基を有する高分子)
以下、本実施形態に係るボロン酸基を有する高分子2について説明する。
【0051】
前記高分子は生体適合性高分子であってよい。生体適合性高分子とは、生体に投与した場合に、強い炎症反応や傷害等の著しい有害作用や悪影響を及ぼさない又は及ぼしにくいポリマーを意味する。
【0052】
ボロン酸基を有する生体適合性高分子としては、本発明の効果が得られる限り特に制限されず、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、アクリル系樹脂((メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位を含む樹脂)、ポリアミノ酸、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン、ポリヌクレオチド、ポリアクリルアミド、ポリエーテル、ポリエステル、ポリウレタン、多糖類、これらのコポリマー等にボロン酸基が導入されたものが挙げられる。ボロン酸基を有する生体適合性高分子は、一部にその合成過程で導入された任意の基を有していてもよい。このような基としては、例えば重合開始剤の一部等が挙げられる。
【0053】
前記高分子の分散度(Mw/Mn)は、1.0以上2.0未満が好ましく、1.0~1.5がより好ましく、1.0~1.3がさらに好ましい。実施形態の複合体が、優れた腫瘍集積性をより効果的に発揮するためには、高分子の分散度が上記範囲内にあることが好ましい。
【0054】
本明細書において、高分子の数平均分子量は、H NMRスペクトルによるピーク積分値の比から算出した値を採用できる。算出方法としては、例えば後述の実施例で示すように、高分子鎖末端に存在する開始剤由来の構造のピーク積分値と、算出対象部分のモノマー由来の構造のピーク積分値との比から、モノマーの重合度を算出し、重合したモノマー由来の構造の合計分子量を開始剤由来の構造の分子量に加算することでボロン酸基が導入される前の高分子の数平均分子量を算出可能である。
【0055】
ボロン酸基を有する高分子の数平均分子量についても、H NMRスペクトルによるピーク積分値の比から算出した値を採用できる。算出方法としては、例えば後述の実施例で示すように、高分子鎖末端に存在する開始剤由来の構造のピーク積分値と、算出対象部分のボロン酸基由来の構造のピーク積分値との比から、ボロン酸基の結合数を算出し、結合したボロン酸基由来の構造の合計分子量を高分子鎖の数平均分子量に加算することで算出可能である。
【0056】
本実施形態のボロン酸基を有する高分子は、H NMRにより算出された数平均分子量(Mn)が2,000~200,000であることが好ましく、例えば5,000~100,000であってもよく、10,000~50,000であってもよく、12,000~45,000であってもよい。
【0057】
ボロン酸基を有する高分子の数平均分子量が上記の範囲であることにより、複合体の血中滞留性、腫瘍組織への集積性を適度に向上させ、また、肝臓等の正常組織への集積を防止できる。この結果、タンパク質等の複合要素を効率よく腫瘍組織に送達することが可能になる。
複合体の腫瘍集積性は、腫瘍の亢進した血管漏出性を利用した腫瘍への選択的な集積、すなわちenhanced permeability and retention効果(EPR効果)により発揮されるものと考えられ、腫瘍への選択的な送達により、より優れた抗腫瘍効果を達成する。
【0058】
また、複合体において、ボロン酸基を有する高分子は、高分子ミセルを形成していてもよく、高分子ベシクルの形態であってもよい。
【0059】
本実施形態のボロン酸基を有する高分子は、生体分解性であることが好ましい。
【0060】
生体分解性とは、生体内で吸収又は分解され得る性質を意味する。生体分解性である生体適合性ポリマーとしては、本発明の効果が得られる限り特に制限されず、例えば、ポリアミノ酸、ポリエステル、ポリヌクレオチド、多糖類等が挙げられる。
【0061】
本明細書において、ボロン酸基を有する高分子が生体分解性であるとは、ボロン酸基を有する高分子の少なくとも一部が生体分解性であることを意味する。したがって、ポリアミノ酸、ポリエステル、ポリヌクレオチド、多糖類等と、PEG、アクリル系樹脂((メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位を含む樹脂)、ポリアクリルアミド、ポリエーテル、ポリウレタン等とのブロックコポリマー等も生体分解性の生体適合性高分子に該当する。
【0062】
生体分解性であるポリマーを用いることにより、結合体又は複合体の生体内への蓄積を抑制することができ、副作用を低減させることができる。
【0063】
本明細書において、生体安定性とは、生体内で即時に吸収又は即時に分解されることなく、存在可能であることを意味する。高分子が生体分解性且つ生体安定性を有する場合には、生体内で吸収又は分解されるまでの間、生体内で存在可能であることを意味する。
【0064】
本明細書において、高分子が生体安定性であるとは、高分子の少なくとも一部が生体安定性であることを意味する。したがって、ポリアミノ酸、ポリエステル、ポリヌクレオチド、多糖類等と、PEG、アクリル系樹脂((メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位を含む樹脂)、ポリアクリルアミド、ポリエーテル、ポリウレタン等とのブロックコポリマー等も生体安定性の生体適合性高分子に該当する。
【0065】
ボロン酸基を有する高分子は、第1の生体適合性高分子鎖と、第2の生体適合性高分子鎖とを有するものであってよい。なお、前記第1の生体適合性高分子鎖と第2の生体適合性高分子鎖とは異なるものであり、本実施形態の生体適合性高分子は、第1の生体適合性高分子鎖のブロックと第2の生体適合性高分子鎖のブロックとを含むブロック共重合体として提供できる。また、本実施形態に係る生体適合性高分子は、第1の生体適合性高分子鎖及び第2の生体適合性高分子鎖の他に、さらに別の高分子鎖を含むことができる。
【0066】
本実施形態において、「ブロック共重合体」とは、複数種類のブロック(同種の構成単位が繰り返し結合した部分構成成分)が結合した高分子である。ブロック共重合体を構成するブロックは、2種類であってもよく、3種類以上であってもよい。
【0067】
第1の生体適合性高分子鎖又は第2の生体適合性高分子鎖は、生体適合性及び汎用性に優れるとの観点から、ポリエチレングリコール(PEG)であることが好ましい。
【0068】
第1の生体適合性高分子鎖又は第2の生体適合性高分子鎖は、生体適合性及び生体安定性と生体分解性とのバランスに優れるとの観点から、ポリアミノ酸であることが好ましい。
【0069】
生体適合性高分子が含む第1の生体適合性高分子鎖と、第2の生体適合性高分子鎖との組み合わせとしては、例えば、第1の生体適合性高分子鎖がポリエチレングリコールであり、第2の生体適合性高分子鎖がポリアミノ酸である組み合わせが好ましい。
【0070】
第1の生体適合性高分子鎖と第2の生体適合性高分子鎖とを含む生体適合性高分子の製造方法は、特に制限されない。例えば、第1の生体適合性高分子鎖を公知の重合反応により合成した後、第1の生体適合性高分子鎖に、第2の生体適合性高分子鎖の単量体を重合させる方法により製造することができる。重合反応によって得られた前記高分子鎖は、それぞれ前駆体(例えば保護基を有するもの)の状態であってもよく、重合反応によって得られた前駆体に対して当業者により選択された通常の処理を行い、第1の生体適合性高分子鎖及び第2の生体適合性高分子鎖を製造してもよい。
或いは、予め重合体として提供された、第1の生体適合性高分子鎖又はその前駆体と、第2の生体適合性高分子鎖又はその前駆体とを、公知の反応によって結合させることができる。その際、反応性の官能基同士の結合を利用して、両者を結合させてもよい。前駆体を用いる場合には、同様に適宜処理を行い、第1の生体適合性高分子鎖及び第2の生体適合性高分子鎖を製造することができる。
【0071】
実施形態に係る高分子は、ボロン酸基を有するものである。ボロン酸基は、上記式(10b)で示される構造であってよく、生体内環境等の中性付近のpH条件下であっても、ボロン酸ジオール結合を効率的に形成可能であるとの観点から、前記ボロン酸基が、置換基を有してもよいフェニルボロン酸基、又は置換基を有してもよいピリジルボロン酸基であることが好ましい。フェニルボロン酸基及びピリジルボロン酸基については、既報(WO2013/073697、特開2018-142115等)に開示されたものも例示及び援用できる。
【0072】
前記ボロン酸基は、より効率的にボロン酸ジオール結合を形成可能であり、上記のpH応答性をより容易に発現可能であるとの観点から、下記一般式(I)で表されるフェニルボロン酸基、又は下記一般式(II)で表されるピリジルボロン酸基であることが好ましい。
【0073】
【化6】
(式中、Xはハロゲン原子又はニトロ基を表し、nは0~4の整数である。)。
【0074】
Xの前記ハロゲン原子は、F,Cl, Br, I等の周期表において第17族に属する元素であり、Fが好ましい。
【0075】
一般式(I)で表されるフェニルボロン酸基は、下記一般式(I-1)又は一般式(I-2)で表される基であることが好ましい。一般式(II)で表されるピリジルボロン酸基は、下記一般式(II-1)で表される基であることが好ましい。
【0076】
【化7】
(式中、Xはハロゲン原子又はニトロ基を表す。)。
【0077】
一般式(I-1)及び一般式(I-2)において、Xが係る位置に結合していることで、Xは電子吸引性基として効果的に作用し、上記式(10c)で示されるボロン酸ジオール結合の安定化に寄与すると考えられる。そのため、生体内の中性付近のpH環境においても、ボロン酸ジオール結合が形成されやすくなるため、上記のpH応答性をより容易に発現可能とすることができる。
【0078】
一般式(I-1)で表される基は、下記一般式(I-1-1)で表される基であることが好ましく、一般式(I-2)で表される基は、下記一般式(I-2-1)で表される基であることが好ましい。一般式(II-1)で表される基は、下記一般式(II-1-1)で表される基であることが好ましい。
【0079】
【化8】
【0080】
上記一般式(I-1-1)、一般式(I-2-1)及び一般式(II-1-1)で表される基がアミド結合を有していることにより、ボロン酸基の見かけのpKaを低下させる作用を奏する。
【0081】
実施形態の高分子において、ボロン酸基は、高分子に1つ以上導入されていればよく、2つ以上導入されていてもよく、5つ以上導入されていてもよい。
本実施形態の高分子における、ボロン酸基の個数の上限値は特に制限されるものではないが、一例として1000以下であってよく、100以下であってよく、50以下であってよい。上記数値の数値範囲の一例として、本実施形態に係る高分子の有するボロン酸基の個数は、一例として、1~1000の整数であってよく、2~100の整数であってよく、5~50の整数であってよい。
上記個数が上記下限値以上であることで、ボロン酸基による結合体の形成作用が良好に発揮され好ましい。
【0082】
ボロン酸基における解離と結合の平衡状態を考えたとき、高分子が複数(2以上)のボロン酸基を有することで、一方のボロン酸基の結合が解離しても、他方のボロン酸基が結合し得る。このように、本実施形態に係る高分子における、ボロン酸基の個数が多いほど、ボロン酸基を有する高分子とジオール構造を有する化合物とでの、見かけの結合力は飛躍的に向上する。
【0083】
よって、両者の結合力を向上させる観点から、2以上のジオール構造を有する化合物と、2以上のボロン酸基を有する高分子との組み合わせを用いることがより好ましい。ジオール構造及びボロン酸基の個数の2以上の各数については、各々上記で例示したものが挙げられる。
【0084】
前記ボロン酸基を有する高分子は、高分子に、ボロン酸基を導入して得ることができる。
本実施形態の高分子において、ボロン酸基は、高分子のうちのいずれの箇所にも導入可能である。ボロン酸基は、第1の生体適合性高分子鎖及び/又は第2の生体適合性高分子鎖に導入されていてもよい。
【0085】
例えば、高分子と“ボロン酸基を有する化合物”との互いの反応性の官能基同士の結合を利用してボロン酸基を導入してもよい。反応性の官能基は、高分子が元から有しているものでもよく、改変又は導入されたものであってもよい。
【0086】
高分子とボロン酸基を有する化合物との結合においては、ボロン酸基を有する化合物及び高分子は、それぞれ、本発明の効果が得られる限り、それらが結合するのに必要な構造の変化を受けてもよい。
例えば、ボロン酸基を有する化合物は、高分子の有する官能基と結合してもよく、第1の生体適合性高分子鎖及び/又は第2の生体適合性高分子鎖の有する官能基と結合してもよい。
例えば、ボロン酸基を有する化合物は、高分子の側鎖の官能基と結合してもよく、第1の生体適合性高分子鎖及び/又は第2の生体適合性高分子鎖の側鎖の官能基と結合してもよい。
【0087】
前記ボロン酸基は、高分子の側鎖に2価の連結基を介して導入されたものであってよい。当該二価の連結基としては、例えば、アミド結合、カルバモイル結合、アルキル結合、エーテル結合、エステル結合、チオエステル結合、チオエーテル結合、スルホンアミド結合、ウレタン結合、スルホニル結合、チミン結合、ウレア結合、チオウレア結合が挙げられる。
【0088】
ここで、ボロン酸基が導入される対象となる高分子は、側鎖にカチオン性基を有するものが好ましい。ボロン酸基が高分子の側鎖に導入される場合であっても、ボロン酸基が導入されずに残った側鎖のカチオン性基は、上記式(10c)で示されるアニオン性基との相互作用により当該結合体の結合を安定化させることができる。
【0089】
したがって、本実施形態に係る高分子は、ボロン酸基及びカチオン性基を有するものであってよく、第1の生体適合性高分子鎖及び/又は第2の生体適合性高分子鎖は、ボロン酸基及びカチオン性基を有するものであってよい。
【0090】
高分子が、ボロン酸基及びカチオン性基を有する場合、ボロン酸基とカチオン性基とのモル比(カチオン性基:ボロン酸基)は、10:1~1:10であってよく、10:3~3:1であってよく、10:8~8:10であってよい。
【0091】
上記のカチオン性基としてはアミノ基が好ましい。側鎖にアミノ基を有することにより、水性媒体中において、該アミノ基がボロン酸のホウ素に配位し、該結合体の結合をより一層安定化させることができる。
【0092】
分子内にアミノ基を有する生体適合性高分子鎖としては、ポリアミノ酸や、ポリアクリルアミド、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン等が挙げられ、ポリアミノ酸であることが好ましい。ポリアミノ酸は、側鎖にカチオン性基を有するものがより好ましく、側鎖にアミノ基を有するものがより好ましい。
【0093】
ボロン酸基が導入される対象となる生体適合性高分子がアミノ基を有する場合、当該アミノ基は、保護基で保護されたアミノ基であってもよい。
【0094】
アミノ基又は保護基で保護されたアミノ基を有しない生体適合性高分子鎖を用いる場合、エチレンジアミンおよびヒドラジンの導入、ベシャンプ還元、水酸基の直接アミノ化法、アミノリシス、Curtius転移等を用いた公知の方法により、生体適合性高分子にアミノ基を導入することができる。
【0095】
上記アミノ基との結合を形成させる場合、アミノ基との結合安定性および合成容易性の観点から、上記のボロン酸基を有する化合物は、カルボキシル基を有するものであることが好ましい。ボロン酸基が導入される対象となる生体適合性高分子のアミノ基と、ボロン酸基を有する化合物のカルボキシル基と、でアミド結合を形成させて、生体適合性高分子にボロン酸基を導入させることができる。また形成されたアミド結合がボロン酸基の見かけのpKaを低下させる作用も奏する。
【0096】
ボロン酸基及びカルボキシル基を有する化合物としては、例えば、4-カルボキシ-フェニルボロン酸、3-カルボキシ-4-フルオロフェニルボロン酸、4-カルボキシ-2-フルオロフェニルボロン酸、4-カルボキシ-3-フルオロフェニルボロン酸(FPBA)、3-カルボキシ-4-クロロフェニルボロン酸、4-カルボキシ-2-クロロフェニルボロン酸、4-カルボキシ-3-クロロフェニルボロン酸等を用いることができる。
【0097】
カルボキシル基とアミノ基とでアミド結合を形成させる方法としては、例えば、アミノ基を有する生体適合性高分子鎖とボロン酸基及びカルボキシル基を有する化合物とを、DMT-MM等の縮合剤の存在下で縮合反応させることが挙げられる。また、保護基で保護されたアミノ基を有する生体適合性高分子鎖の場合、公知の反応で保護基を脱保護し、アミノ基を有する生体適合性高分子鎖を得た後、同様に縮合反応させることができる。
【0098】
また、ボロン酸基は、第1の生体適合性高分子鎖又は第2の生体適合性高分子鎖のいずれか一方のみに導入されてもよい。例えば、ボロン酸基は、第2の生体適合性高分子鎖に導入することができる。図1では、ボロン酸基を有する生体適合性高分子2は、ボロン酸基を有する第2の生体適合性高分子鎖22と、ボロン酸基を有しない第1の生体適合性高分子鎖21を含む。例えば、第2の生体適合性高分子鎖が側鎖を有するものであり、ボロン酸基が、第2の生体適合性高分子鎖の側鎖に導入されたものであってよい。
【0099】
本実施形態に係るボロン酸基を有する高分子の一例として、下記一般式(1)又は(1-1)で表される構造を含むものが挙げられる。
【0100】
【化9】
【0101】
(式(1)~(1-1)中、Aは、前記第1の生体適合性高分子鎖を表し、Lはリンカー部を表し、Bは、ボロン酸基を有する前記第2の生体適合性高分子鎖を表す。)
【0102】
前記リンカー部は、炭素原子数1~20のアルキレン基であることが好ましく、炭素原子数1~20の直鎖状のアルキレン基であることが好ましく、炭素原子数1~5の直鎖状のアルキレン基であることがより好ましい。該アルキレン基中の1個又は2個以上の-CH-は、それぞれ独立して-CH=CH-、-O-、-CO-、-S-、-NH-、又は-CONH-によって置換されていてもよい。アルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基等を例示できる。
【0103】
前記第2の生体適合性高分子鎖は、ポリアミノ酸であることが好ましい。
【0104】
第2の生体適合性高分子鎖がポリアミノ酸であり、前記ボロン酸基が前記ポリアミノ酸の側鎖に導入されている場合、上記一般式(1)又は(1-1)におけるBとしては、以下が好ましい。
【0105】
Bは、ボロン酸基を有する前記第2の生体適合性高分子鎖を表し、第2の生体適合性高分子鎖は、下記(b2)で表される繰り返し構造、又は(b1)で表される繰り返し構造及び(b2)で表される繰り返し構造を含むことが好ましい。
【0106】
【化10】
【0107】
(式(b1)~(b2)中、
は、アミノ酸側鎖を表し、
は、アミノ酸側鎖に前記ボロン酸基が導入されたものであり、
nは(b1)及び(b2)の合計数を表し、nは1~1000の整数であり、mは1~1000の整数であり(ただしm≦n)、n-mが2以上である場合、複数個のRは互いに同一でも異なっていてもよく、mが2以上である場合、複数個のRは互いに同一でも異なっていてもよい。)。
【0108】
及びRにおけるアミノ酸としては、天然に存在するアミノ酸が好ましく、例えば、バリン、ロイシン、イソロイシン、アラニン、グリシン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、メチオニン、システイン、セリン、トレオニン、グルタミン、アスパラギン、リシン、アルギニン、ヒスチジン、アスパラギン酸、グルタミン酸、プロリン等を例示できる。
【0109】
アミノ酸側鎖とは、当分野における通常の意味で用いられ、ポリペプチドのアミド結合に関与するアミノ基とカルボキシ基以外の構造を指し、例えば、グリシンであれば水素原子であり、アラニンであればメチル基であり、バリンであればイソプロピル基である。
【0110】
第2の生体適合性高分子鎖が、(b1)で表される繰り返し構造及び(b2)で表される繰り返し構造を含む場合、(b1)と(b2)の配列はランダムであってよい。mは第2の生体適合性高分子鎖における(b2)の合計数を表し、n-mは第2の生体適合性高分子鎖における(b1)の合計数を表す。n-mは0であってもよい(すなわち、第2の生体適合性高分子鎖は(b1)及び(b2)のうち、ボロン酸基が導入された(b2)のみを有していてもよい。)。
【0111】
第2の生体適合性高分子鎖は、上記(b2)で表される繰り返し構造、又は(b1)で表される繰り返し構造及び(b2)で表される繰り返し構造からなるものであってもよい。
【0112】
また、Rのアミノ酸側鎖とRのアミノ酸側鎖とは、互いに同一でも異なっていてもよい。
【0113】
式(b1)~(b2)中、nは1~1000の整数であり、10~500の整数であってよく、15~100の整数であってよい。上記nの値が上記範囲内であることで、第2の生体適合性高分子鎖の分子量の値が好適なものとなり好ましい。
式(b1)~(b2)中、mは1~1000の整数であり、3~100の整数であってよく、5~50の整数であってよい。上記mの値が上記下限値以上であることで、ボロン酸基による結合体の形成作用が良好に発揮され好ましい。
なお、ここでは、nがmよりも大きい場合の数値範囲も例示しているが、nとmとは同一の数であってよい。
【0114】
ポリアミノ酸へのボロン酸基の導入様式は、特に限定されるものではないが、ポリアミノ酸のアミノ酸側鎖とボロン酸基を有する化合物との結合が好ましい。ポリアミノ酸のアミノ酸側鎖にボロン酸基を有する化合物を結合させる方法としては、アスパラギン酸側鎖又はグルタミン酸側鎖のカルボキシル基とのアミド結合、システインの側鎖のチオール基とのジスルフィド結合を形成させる方法などが挙げられる。ただし、上述のとおり、第2の生体適合性高分子鎖が側鎖にアミノ基を有することにより、水性媒体中において、該アミノ基は、ボロン酸のホウ素に配位し、結合体の結合をより一層安定化させることができるから、アミノ基を有するアミノ酸側鎖とボロン酸基及びカルボキシル基を有する化合物のカルボキシル基とのアミド結合を形成させる方法が好ましい。
アミノ基を有するアミノ酸側鎖は、リシン側鎖、アルギニン側鎖、アルパラギン側鎖、又はグルタミン側鎖などの天然のアミノ酸側鎖のアミノ基であってもよく、任意のアミノ酸側鎖にアミノ基が導入されたものであってもよく、生体適合性等の観点からリシン側鎖が好ましい。
【0115】
上記(b2)で示される繰り返し構造は、Rがカチオン性基を有するアミノ酸側鎖にボロン酸基が導入されたものである構造を構成単位として含むことが好ましく、Rがアミノ基を有するアミノ酸側鎖にボロン酸基が導入されたものである構造を構成単位として含むことがより好ましく、Rがリシン側鎖にボロン酸基が導入されたものである構造を構成単位として含むことがさらに好ましい。
【0116】
n-mが1以上である場合、上記(b1)で示される繰り返し構造は、Rがカチオン性基を有するアミノ酸側鎖である構造を構成単位として含むことが好ましく、Rがアミノ基を有するアミノ酸側鎖である構造を構成単位として含むことがより好ましく、Rがリシン側鎖である構造を構成単位として含むことがさらに好ましい。
【0117】
第1の生体適合性高分子鎖は、ポリエチレングリコールであることが好ましい。
【0118】
第1の生体適合性高分子鎖が、ポリエチレングリコールであり、第2の生体適合性高分子鎖がポリアミノ酸である場合、上記一般式(1)で表される構造としては、下記一般式(1-2)で表される構造が好ましい。
【0119】
【化11】
【0120】
(式(1-2)中、
lは1~1500の整数であり、Bは、ボロン酸基を有する第2の生体適合性高分子鎖を表し、第2の生体適合性高分子鎖は、下記(b2)表される繰り返し構造、又は(b1)表される繰り返し構造及び(b2)表される繰り返し構造を含む。)
【0121】
式(1-2)中、lは1~1500の整数であり、10~1000の整数であってよく、100~500の整数であってよい。
【0122】
【化12】
【0123】
(式(b1)~(b2)中、R、R、n、及びmは前記と同一の意味を表す)。
【0124】
(結合体と複合化する物質)
本実施形態の複合体における、結合体と複合化する物質は、前記結合体と複合化して複合体を形成可能であれば、特に制限されず、いかなるものであってもよい。
【0125】
結合体と複合化する物質は、結合体のジオール構造を有する化合物に由来する部分を介して、前記結合体と複合化することができる。
ある物質が、結合体のジオール構造を有する化合物に由来する部分を介して、前記結合体と複合化することができることは、例えば、該物質とジオール構造を有する化合物とを含む組成物において、両者が複合体を形成可能であることで予備的に確認できる。例えば、タンパク質とポリフェノールを含む組成物において、両者が複合体を形成可能であれば、タンパク質は、結合体のポリフェノールに由来する部分を介して、前記結合体と複合化する可能性が高い。複合化は、組成物に含まれる粒子の粒子サイズが、該物質単体の粒子サイズよりも大きくなったことで判断できる。
【0126】
ある物質が、結合体と複合化することは、例えば、該物質と結合体とを含む組成物において、両者が複合体を形成可能であることを確認することで評価できる。複合体の形成は、組成物に含まれる粒子の粒子サイズが、該物質単体の粒子サイズよりも大きくなったことで判断できる。
【0127】
結合体と複合化する物質のサイズは、特に制限されるものではないが、一例として、該物質の粒径が500nm以下であってよく、0.1nm以上500nm以下であってよく、0.2nm以上100nm以下であってよく、0.3nm以上50nm以下であってよい。粒径は、動的光散乱法(DLS)又は蛍光相関分光法(FCS)により、後述の実施例に記載の測定条件により測定できる。
【0128】
結合体と複合化する物質の一例として、タンパク質、ウイルス、無機粒子、核酸、及び低分子医薬からなる群から選択される少なくとも一種を例示できる。ここで例示した概念に含まれる物質は、複数の前記概念に包含されるものであってよい。
【0129】
・タンパク質
本実施形態の複合体における複合要素としてのタンパク質は、前記結合体と複合化して複合体を形成可能であれば、特に制限されず、いかなるものであってもよい。
【0130】
本実施形態の複合体は、血中滞留性に優れ、更にpH応答性を有し、腫瘍集積性を発揮するなど、生体内での薬物送達用途に好適に利用可能であることから、本実施形態の複合体におけるタンパク質は、生理活性タンパク質であることが好ましい。生理活性タンパク質は、薬理作用を有することが好ましく、タンパク質型医薬を含むことが好ましい。
【0131】
タンパク質型医薬としては、タンパク質又はタンパク質を構成要素として含む成分を有効成分とする医薬であり、例えば、ハーセプチン、アバスチン、サイラムザ等の抗体医薬や、ヒアルロニダーゼ等の各種酵素、インスリン、サイトカイン、インターフェロン、ウイルスベクター等が挙げられる。ウイルスベクターとしては、アデノ随伴ウイルス(AAV)を含むもの等を例示できる。
【0132】
また本明細書において、タンパク質とはペプチドを包含する概念とする。ペプチドとして、膜透過性ペプチドも好適に例示できる。
【0133】
本実施形態の複合体は、腫瘍集積性を発揮することが好ましく、当該複合体におけるタンパク質は、抗腫瘍作用を有するものであることが好ましい。
【0134】
抗腫瘍作用を有するタンパク質型医薬としては、例えば、抗体医薬、インターフェロン、ウイルスベクター等が挙げられる。
【0135】
・ウイルス
本実施形態の複合体における複合要素としてのウイルスは、前記結合体と複合化して複合体を形成可能であれば、特に制限されず、いかなるものであってもよい。
本実施形態の複合体は、血中滞留性に優れ、更にpH応答性を有し、腫瘍集積性を発揮するなど、生体内での薬物送達用途に好適に利用可能であることから、本実施形態の複合体におけるウイルスは、ウイルスベクターとして疾患の治療(ウイルス療法)に用いられる治療用ウイルスであることが好ましく、癌の治療に用いられる癌治療用ウイルスであることがより好ましい。
治療用ウイルスは、ウイルスベクターに薬理作用を有する核酸を含むものであってもよく、薬理作用を有するタンパク質をコードする核酸を含むものであってもよい。
治療用ウイルスは、疾患の治療用に導入される核酸を含むものであってもよく、癌治療用に導入される核酸を含むものであってもよい。
上記核酸には、該核酸に含まれる配列を発現させるため、作動可能に連結したプロモーター配列を含むことができる。
【0136】
治療用ウイルスとしては、ヒトへのウイルスベクターとして使用可能な各種ウイルス又は人工ウイルスが挙げられ、ウイルスベクターのウイルス種としては、アデノ随伴ウイルス、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、センダイウイルス、レトロウイルス、レンチウイルス等を例示できる。
アデノ随伴ウイルス(AAV)としては、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11等を例示できる。
【0137】
本実施形態の複合体は、腫瘍集積性を発揮することが好ましく、当該複合体におけるウイルスは、抗腫瘍作用を有するものであることが好ましい。
【0138】
・無機粒子
本実施形態の複合体における複合要素としての無機粒子は、前記結合体と複合化して複合体を形成可能であれば、特に制限されず、いかなるものであってもよい。
無機粒子としては、無機材料を含む粒子であり、金粒子、銀粒子、白金粒子、鉄粒子、酸化チタン粒子等の金属粒子;シリカ粒子;量子ドット等の半導体粒子;カーボンナノチューブ、グラフェン等を含有する炭素粒子等を例示できる。
無機粒子は、ナノ粒子であることが好ましい。ナノ粒子とは、粒径が1~100nmの粒子をいう。粒子の粒径は、動的光散乱法(DLS)又は蛍光相関分光法(FCS)により、後述の実施例に記載の測定条件により測定できる。
無機粒子は、さらに上記のタンパク質、ウイルス、核酸、及び低分子医薬からなる群から選択される少なくとも一種で修飾されたものであってもよい。
【0139】
・核酸
本実施形態の複合体における複合要素としての核酸は、前記結合体と複合化して複合体を形成可能であれば、特に制限されず、いかなるものであってもよい。
【0140】
本実施形態の複合体は、血中滞留性に優れ、更にpH応答性を有し、腫瘍集積性を発揮するなど、生体内での薬物送達用途に好適に利用可能であることから、本実施形態の複合体における核酸は、生理活性を有する核酸であることが好ましい。生理活性を有する核酸は、薬理作用を有することが好ましく、核酸医薬を含むことが好ましい。
本実施形態の複合体における複合要素としての核酸は、疾患の治療に用いられる核酸医薬であることが好ましい。
核酸医薬としては、ヒトの体内で生理活性を有する各種核酸が挙げられ、DNA、RNA、LNA等の人工核酸等を例示でき、核酸の種類としては、siRNA、miRNA、アンチセンス核酸、アプタマー、リボザイム等を例示できる。
【0141】
本実施形態の複合体は、腫瘍集積性を発揮することが好ましく、当該複合体における核酸は、抗腫瘍作用を有するものであることが好ましい。
抗腫瘍作用を有する核酸としては、TUG1(taurine upregulated gene 1)アンチセンス核酸、PLK1(polo-like kinase 1) siRNA、VEGF (vascular endothelial growth factor) siRNA等を例示できる。
【0142】
・低分子医薬
本実施形態の複合体における複合要素としての低分子医薬は、前記結合体と複合化して複合体を形成可能であれば、特に制限されず、いかなるものであってもよい。
【0143】
本実施形態の複合体は、血中滞留性に優れ、更にpH応答性を有し、腫瘍集積性を発揮するなど、生体内での薬物送達用途に好適に利用可能である。
本明細書における「低分子医薬」とは、分子量1000以下の医薬を意味し、分子量500以下の医薬が好ましく、例えば分子量200~1000の医薬であってよく、分子量300~500の医薬であってよい。後述の実施例で用いた脂質異常症治療薬のピタバスタチンの分子量は、約421である。
【0144】
本実施形態の複合体は、腫瘍集積性を発揮することが好ましく、当該複合体における低分子医薬は、抗腫瘍作用を有するものであることが好ましい。
抗腫瘍作用を有する低分子医薬としては、ブレオマイシン又はその塩等の抗癌剤、ローズベンガル等の音響増感剤、chlorin e6等の光増感剤、ホウ素クラスター等の放射線増感剤等を例示できる。
【0145】
本実施形態の複合体によれば、タンパク質等の複合要素に対し化学修飾を施さずに、結合体との複合体を形成でき、結合体の高分子による高分子化により、血中滞留性が向上されている。また当該結合体は、ボロン酸基を有する高分子と、ジオール構造を有する化合物とが結合したものであり、標的部位のpH環境に応じて結合体が解離するpH応答性を有している。
そのため、本実施形態の複合体は、血中滞留性に優れ、且つ、目的の送達先で選択的に結合体が解離して、タンパク質等の複合要素の機能発現が期待される、非常に画期的なものである。
【0146】
≪医薬≫
本発明の一実施形態として、実施形態の複合体を有効成分として含有する、医薬を提供する。実施形態の複合体は、疾病に対する薬理効果を有することができる。該実施形態は、本実施形態の複合体におけるタンパク質等の複合要素が有効成分であって、薬理作用を有する場合に好適であり、例えば、薬理作用を有する任意のタンパク質、タンパク質型医薬、治療用ウイルス、核酸、核酸医薬、低分子医薬等を用いることができる。
【0147】
本発明の一実施形態として、実施形態の複合体を有効成分として含有する癌治療剤を提供する。本発明の一実施形態として、癌の治療のための実施形態の複合体を提供する。本発明の一実施形態として、癌治療薬を製造するための実施形態の複合体の使用を提供する。実施形態の複合体は癌治療効果を有することができる。該実施形態は、本実施形態の複合体におけるタンパク質等の複合要素が有効成分であって、抗腫瘍作用を有する場合に好適であり、例えば、抗腫瘍効果を発揮できる種々のタンパク質、はタンパク質型医薬、治療用ウイルス、核酸、核酸医薬、低分子医薬等を用いることができる。
【0148】
癌治療効果が期待される対象疾患としては、例えば血液がん、固形がん等が挙げられ、本実施形態の複合体が腫瘍集積性を有する場合、固形がんに好適である。ヒトの固形がんとしては、例えば、脳がん、頭頸部がん、食道がん、甲状腺がん、小細胞がん、非小細胞がん、乳がん、胃がん、胆のう・胆管がん、肺がん、肝がん、肝細胞がん、膵がん、結腸がん、直腸がん、卵巣がん、絨毛上皮がん、子宮体がん、子宮頸がん、腎盂・尿管がん、膀胱がん、前立腺がん、陰茎がん、睾丸がん、胎児性がん、ウイルムスがん、皮膚がん、悪性黒色腫、神経芽細胞腫、骨肉腫、ユ-イング腫、軟部肉腫などが挙げられる。
【0149】
本実施形態の癌治療剤における製剤化の例としては、必要に応じて糖衣を施した錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤として経口的に使用される経口剤が挙げられる。
または、水もしくはそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液、又は懸濁液剤の注射剤の形で非経口的に使用されるものが挙げられる。更には、薬理学上許容される担体若しくは媒体、具体的には、滅菌水や生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、結合剤等と適宜組み合わせて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化されたものが挙げられる。
【0150】
錠剤、カプセル剤に混和することができる添加剤としては、例えば、ゼラチン、コーンスターチ、トラガントガム、アラビアゴムのような結合剤、結晶性セルロースのような賦形剤、コーンスターチ、ゼラチン、アルギン酸のような膨化剤、ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤、ショ糖、乳糖又はサッカリンのような甘味剤、ペパーミント、アカモノ油又はチェリーのような香味剤が用いられる。調剤単位形態がカプセルである場合には、上記の材料にさらに油脂のような液状担体を含有することができる。注射のための無菌組成物は注射用蒸留水のようなベヒクルを用いて通常の製剤実施に従って処方することができる。
【0151】
注射用の水溶液としては、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液、例えばD-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウムが挙げられ、適当な溶解補助剤、例えばアルコール、具体的にはエタノール、ポリアルコール、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、非イオン性界面活性剤、例えばポリソルベート80(TM)、HCO-50と併用してもよい。
【0152】
油性液としてはゴマ油、大豆油があげられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールと併用してもよい。また、緩衝剤、例えばリン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液、無痛化剤、例えば、塩酸プロカイン、安定剤、例えばベンジルアルコール、フェノール、酸化防止剤と配合してもよい。調製された注射液は通常、適当なアンプルに充填させる。
【0153】
患者への投与は、例えば、動脈内注射、静脈内注射、皮下注射などのほか、鼻腔内的、経気管支的、筋内的、経皮的、または経口的に当業者に公知の方法により行いうる。投与量は、患者の体重や年齢、投与方法などにより変動するが、当業者であれば適当な投与量を適宜選択することが可能である。投与量、投与方法は、患者の体重や年齢、症状などにより変動するが、当業者であれば適宜選択することが可能である。
【0154】
実施形態の癌治療剤は、さらに他の抗がん剤等を含んでいてもよい。かかる構成により、がん治療に対する相乗効果が期待できる。
【0155】
≪キット≫
本実施形態のキットは、ボロン酸基を有する高分子と、ジオール構造を有する化合物と、を備えるものである。前記高分子は生体適合性高分子であってよい。実施形態のキットは、ボロン酸基を有する生体適合性高分子と、ジオール構造を有する化合物と、を備えるものであってよい。
本実施形態のキットは、上記の実施形態の複合体を形成するために用いることができる。本実施形態のキットは、結合体と複合化する物質(複合要素)を、さらに備えていてもよい。
【0156】
実施形態のキットの他の例として、実施形態の結合体と、前記結合体と複合化する物質とを備えるものを例示できる。
【0157】
結合体と複合化する物質としては、タンパク質、ウイルス、無機粒子、核酸、及び低分子医薬からなる群から選択される少なくとも一種を例示できる。
【0158】
ボロン酸基を有する高分子、ジオール構造を有する化合物、並びにタンパク質ウイルス、無機粒子、核酸、及び低分子医薬からなる群から選択される少なくとも一種等の結合体と複合化する物質については、上記の≪複合体≫で例示したものを採用でき、ここでの説明を省略する。
【0159】
本実施形態のキットは、溶液や、バッファー等の試薬類、反応容器、取扱い説明書等をさらに備えていてもよい。
【0160】
本実施形態のキットは、任意の上記タンパク質等の複合要素と、組み合わせることで、任意のタンパク質等の複合要素を含む、実施形態の複合体を形成することができ、汎用性に優れるものである。
【0161】
≪結合体≫
本実施形態の結合体は、ボロン酸基を有する高分子、及びジオール構造を有する化合物、が結合したものである。前記高分子は生体適合性高分子であってよい。実施形態の結合体は、ボロン酸基を有する生体適合性高分子、及びジオール構造を有する化合物、が結合したものであってよい。本実施形態の結合体は、上記の実施形態の複合体を形成するために用いることができる。
【0162】
ボロン酸基を有する高分子、及びジオール構造を有する化合物については、上記の≪複合体≫で例示したものを採用でき、ここでの説明を省略する。
【0163】
実施形態の結合体によれば、ジオール構造を有する化合物が高分子と結合していることで、ジオール構造を有する化合物の生体内での意図しない相互作用を抑制でき、ジオール構造を有する化合物をそのまま用いる場合よりも、物質送達の安定性に優れる。
【0164】
実施形態の結合体によれば、ジオール構造を有する化合物が高分子と結合していることで、ジオール構造を有する化合物の酸化を抑制でき、ジオール構造を有する化合物をそのまま用いる場合よりも、品質の安定性に優れる。
【実施例
【0165】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
なお、物質XとYとを添加して得られた溶液や複合体を、X/Y溶液や、X/Y複合体、単に“X/Y”等と表記する場合がある。同様に、物質XとYとZを添加して得られた溶液や複合体をX/Y/Z溶液や、X/Y/Z複合体、単に“X/Y/Z”、X三元系複合体、三元系複合体等と表記する場合がある。
また、PEG-P[Lys(FPBA)m]nを、単にポリマーと表記する場合がある。
【0166】
1.PEG10k-Poly[L-Lysine(Fluoro-Phenyl boronic acid)m]nの合成
<1.1. 概要>
実施例で製造したPEG10k-Poly[L-Lysine(Fluoro-Phenyl boronic acid)m]n (以下PEG-P[Lys(FPBA)m]n、合成スキーム(1)中、nはLysの重合度を表し、mはFPBAの導入数を表す)の合成法を記す。
【0167】
【化13】
【0168】
開始剤をPEG10k-NH2、モノマーをLys(TFA)-NCAとするN-carboxyanhydride(NCA)重合によりPEG-P[Lys(TFA)]nを合成した。塩基性条件下で側鎖のTFA基を脱保護し、PEG-PLysnを得た。その後、3-carboxyl-4-fluoro-phenyl boronic acid(FPBA)のカルボキシル基をPEG-PLysnのアミノ基に結合し、PEG-P[Lys(FPBA)]nを得た。
【0169】
<1.2. 試薬>
特に記述のない試薬・溶媒は市販品をそのまま使用した。
・α-Methoxy-ω-amino-poly(ethylene glycol) (PEG-NH2) [Mn : 10K]:NOF Co, Inc.
・Benzene:Nacalai Tesque Inc.
・N-ε-Trifluoroacetyl-L-lysine-N-carboxy anhydride (Lys(TFA)-NCA):Chuo Kaseihin Co., Inc.
・Dimethyl sulfoxide(DMSO):Wako Pure Chemical Industries Co., Ltd.
アルゴン雰囲気下で蒸留して使用した。(b.p. 189 ℃)
・Diethyl ether:Kanto Chemical CO.,Inc.
・Methanol:Kanto Chemical CO.,Inc.
・5 mol/L NaOH:Wako Pure Chemical Industries Co., Ltd.
・Dimethyl sulfoxide (DMSO):Nacalai Tesque Inc.
・4-Carboxy-3-fluorophenylboronic acid (FPBA):Combi-Blocks
・炭酸水素ナトリウム:東京化成工業
・D-Sorbitol:東京化成工業
・4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazineethanesulfonic acid(HEPES) : Dojinbo
・Sodium chloride(NaCl) : Wako pure chemical
・Cy5-NHS : Lumiprobe
・1-Methyl-2-pyrrolidinone : Sigma Aldrich Co., llc.
・Lithium bromide: Sigma Aldrich Co., llc.
【0170】
<1.3. 測定機器>
・NMR (Nuclear Magnetic Resonance):BRUKER AVANCEIII400 (400 MHz, BRUKER BioSpin)
・GPC (Gel Permeation Chromatography):Jasco International Co., Ltd.
カラム:TSK-gel superAW3000 (Tosoh Corporation),
Superdex 200 Increase 10/300 GL (GE Healthcare)
検出器:RI-2031, UV-2030
・Fluorophotometer FP-8300 : Jasco International Co., Ltd.
【0171】
<1.4. 合成手法>
[PEG-P[Lys(TFA)]nの合成]
300 mL二口ナスフラスコにPEG-NH2 500 mg (0.050 mmol)を量り取り、ベンゼン2.0 mLに溶解させた後、凍結乾燥した。アルゴン雰囲気下で100 mL二口ナスフラスコにLys(TFA)-NCAを321, mg (1.2 mmol,24当量) (n=20)および643 mg (2.4 mmol, 48当量) (n=40)量り取った。PEG-NH2にDMSOを5 mL加えた。また、Lys(TFA)-NCAにDMSOをそれぞれ10mL 加え、溶解させた。Lys(TFA)-NCA溶液をPEG-NH2溶液に加え、アルゴン雰囲気下のもと室温で72時間攪拌した。反応溶液をそれぞれDiethyl ether 300mLに滴下し、再沈殿により精製した。その後、減圧乾燥させ、白色固体PEG-PLys(TFA)を収量745 mg(n=20)および 987 mg (n=40)、収率91 % (n=20)および86 % (n=40)で得た。GPCカーブ(カラム:TSK-gel superAW3000, 溶離液:NMP (50 mM LiBr), 流速:0.30 mL/min,検出器: RI-2031 測定温度:40 ℃にて取得)を図3および図4に示す。
【0172】
[PEG-P[Lys(TFA)]nの脱保護]
50 mLナスフラスコにPEG-P[Lys(TFA)]20 500 mg(0.0194 mmol)およびPEG-P[Lys(TFA)]40 500 mg (0.0194 mmol)をそれぞれ量り取り、2 mLの5 M NaOHと8 mLのMethanol混合液に加えて室温で一晩攪拌した。反応溶液を透析膜 (MWCO =3.5 kDa)に入れ、2 Lの0.1 M HCl、続いて2 Lの純水でそれぞれ2回ずつ透析した。溶液を凍結乾燥させ、白色固体PEG-PLysをそれぞれ収量367 mg (n=20)および331 mg(n=40)、収率 92 % (n=20)および90 % (n=40)で得た。1H NMR スペクトル(溶媒:D2O)を図5および図6に示す。
【0173】
1H NMR spectrum of PEG-PLys20
1H NMR (D2O at 25 °C): δ 3.4-3.9 (909H, -CH2CH2O-), δ 1.25-1.99 (120H, -CH2CH2CH2CH2NH3), δ 2.97 (40H, -CH2CH2NH3), δ 4.30 (20H, -COCHNH-).
【0174】
1H NMR spectrum of PEG-PLys40
1H NMR (D2O at 25 °C):帰属は上記1H NMR spectrum of PEG-PLys20と同じ
【0175】
[FPBAのPEG-PLys nへの結合]
50 mLナスフラスコにPEG-PLys20 100 mg (7.8 μmol)およびPEG-PLys40 100 mg (6.3 μmol)をそれぞれ量り取り、50mM NaHCO3 pH8.5 10 mLに溶解させた。そこに、DMT-MM 61.2 mg (0.22 mmol) (n=20)又は 100 mg (0.36 mmol) (n=40)、D-Sorbitol 42 mg (0.23 mmol) (n=20) 又は69 mg (0.38 mmol) (n=40)、メタノール1 mL に溶解させたFPBA 14.3 mg (0.078 mmol) (n=20) 又は23.3 mg (0.13 mmol) (n=40)を加え、室温で一晩攪拌した。反応溶液を透析膜 (MWCO=3.5 kD)に入れ、2 Lの0.1 M NaOH、2 Lの0.1 M HCl、続いて2 Lの純水でそれぞれ2回ずつ透析した。得られた溶液を凍結乾燥し、白色固体PEG-P[Lys(FPBA)m]nを収量 126 mg (n=20)および144 g (n=40)、収率 87 % (n=20)および80 % (n=40)で得た。1H-NMR スペクトル(溶媒:D2O with 180mg/ml D-sorbitol)を図7および図8に、GPCカーブ(カラム:Superdex 200 increase 10/300 GL, 溶離液:10 mM HEPES, 140 mM NaCl 500mM D-sorbitol (pH 7.4), 流速:0.75 mL/min,検出器: UV-2030, 測定温度:室温により取得)を図9および図10に示す。
【0176】
1H NMR spectrum of PEG-P[PEG-P[Lys(FPBA)10]20
1H NMR (D2O with 180 mg/mL of D-sorbitol at 25 °C): δ 0.87-2.22(120H, -CH2CH2CH2CH2NH3) δ 7.00-7.70 (3H, -C6H3FB(OH)2).
【0177】
1H NMR spectrum of PEG-P[PEG-P[Lys(FPBA)20]40
1H NMR (D2O with 180 mg/mL of D-sorbitol at 25 °C):帰属は上記1H NMR spectrum of PEG-P[PEG-P[Lys(FPBA)10]20と同じ.
【0178】
[PEG-P[Lys(FPBA)m] nへのCy5導入]
50 mLナスフラスコにPEG-P[Lys(FPBA)10]20 15 mg (11 μmol)をそれぞれ量り取り、50mM NaHCO3 pH8.5 10 mLに溶解させた。そこに、D-Sorbitol 8 mg (0.04 mmol)、DMSOに溶解させたCy5-NHS 0.7mg(11 μmol)を加え、室温で一晩攪拌した。反応溶液を純水に対して透析(Mwco:3.5 k Da)を4回行った後、凍結乾燥をした。その後PD-10カラム(溶媒は1M NaCl)で未反応のCy5-NHSを除去した後、水中で透析(Mwco:3.5 k Da)を3回行った。最後に凍結乾燥を行いPEG-P[Lys(FPBA10/Cy5)]20を回収した。収率はおよそ65%だった。蛍光スペクトル(Ex:560nm)を図13に示す。
【0179】
<1.5. 解析>
[PEG-P[Lys(TFA)]]
GPCカーブから、得られたポリマーのMw/MnはPEG-P[Lys(TFA)]20およびPEG-P[Lys(TFA)]40それぞれ1.25, 1.29と求まり、狭い分子量分布を持つことを確認した。
【0180】
[PEG-PLysn
1H NMRスペクトルの開始剤由来のピークδ 3.4-3.9 (909H, -CH2CH2O-)とLys由来のピーク[δ 1.25-1.99 (120H, -CH2CH2CH2CH2NH3), δ 2.97 (40H, -CH2CH2NH3), δ 4.30 (20H, -COCHNH-)]の積分値の比からPLysの重合度DP=20およびDP=40と算出された。
【0181】
[PEG-P[Lys(FPBA)m]n
1H NMRスペクトルのPLys由来のピーク[δ 1.25-1.99 (120H, -CH2CH2CH2CH2NH3)]とFPBA由来のピーク[δ 7.00-7.70 (3H, -C6H3FB(OH)2)]の積分値の比からFPBAの導入数は10 (n=20) および20 (n=40)、数平均分子量はMn=14,000 (n=20) およびMn=17,900 (n=40)と求まった。また、GPCカーブから、得られたポリマーは単峰性の狭い分子量分布を持つことを確認した。
【0182】
2.PEG10k-FPBAの合成
<2.1. 概要>
実施例で製造したPEG10k-Fluoro-Phenyl boronic acid (以下PEG-FPBA、合成スキーム(2)中、)の合成法を記す。
【0183】
【化14】
【0184】
<2.2. 試薬>
特に記述のない試薬・溶媒は市販品をそのまま使用した。
・α-Methoxy-ω-amino-poly(ethylene glycol) (PEG-NH2) [Mw : 10K]:NOF Co., Inc.・5 mol/L NaOH:Wako Pure Chemical Industries Co., Ltd.
・4-Carboxy-3-fluorophenylboronic acid (FPBA):Combi-Blocks
・炭酸水素ナトリウム:東京化成工業
・D-Sorbitol:東京化成工業
・4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazineethanesulfonic acid(HEPES) : Dojinbo
・Sodium chloride(NaCl) : Wako pure chemical
【0185】
<2.3. 測定機器>
・NMR (Nuclear Magnetic Resonance):BRUKER AVANCEIII400 (400 MHz, BRUKER BioSpin)
・GPC (Gel Permeation Chromatography):Jasco International Co., Ltd.
カラム: Superdex 200 Increase 10/300 GL (GE Healthcare)
検出器:UV-2030
【0186】
<2.4. 合成手法>
[FPBAのPEG-NH2への結合]
50 mLナスフラスコにPEG-NH2 100 mg (0.01 mmol)を量り取り、50 mM NaHCO3 pH8.5 10 mLに溶解させた。そこに、DMT-MM 13.8 mg (0.05 mmol)、D-Sorbitol 27 mg (0.15 mmol)、メタノール1 mL に溶解させたFPBA 9.2 mg (0.05 mmol)を加え、室温で一晩攪拌した。反応溶液を透析膜 (MWCO=3.5 kD)に入れ、2 Lの0.1 M NaOH、2 Lの0.1 M HCl、続いて2 Lの純水でそれぞれ2回ずつ透析した。得られた溶液を凍結乾燥し、白色固体PEG-P[Lys(FPBA)m]nを収量 90 mg、収率 88 %で得た。1H-NMR スペクトルを図11にGPCカーブ(カラム:Superdex 200 increase 10/300 GL, 溶離液:10 mM HEPES, 140 mM NaCl 500mM D-sorbitol (pH 7.4), 流速:0.75 mL/min,検出器: UV-2030, 測定温度:室温により取得)を図12に示す。
1H NMR spectrum of PEG-FPBA
1H NMR spectrum of PEG-P[PEG-P[Lys(FPBA)10]20
1H NMR (d-DMSO at 25 °C): δ 3.4-3.9 (909H, -CH2CH2O-), δ 7.00-7.70 (3H, -C6H3FB(OH)2).
【0187】
<2.5. 解析>
[PEG-FPBA]
1H NMRスペクトルのPEG由来のピーク[δ 3.4-3.9 (909H, -CH2CH2O-)]とFPBA由来のピーク[δ 7.00-7.70 (3H, -C6H3FB(OH)2)]の積分値の比からFPBAの導入率は100%と求まった。また、GPCカーブから、得られたポリマーは単峰性の狭い分子量分布を持つことを確認した。
【0188】
3.三元系複合体の物理化学的性質の評価
<3.1. 概要>
タンパク質とタンニン酸(TA)とボロン酸導入高分子の三元系複合体が形成されると、粒径が増大する。そこで、モデルタンパク質として緑色蛍光タンパク質(GFP)を用いて、蛍光相関分光法にて、粒径測定を行った。実施例として、PEG-P[Lys(FPBA)m]n及びPEG-FPBAを用いた。同時に、PEG-P[Lys(FPBA)m]nの会合数を超遠心機を用いて評価した。また、血液環境中での安定性を評価するため、FBSおよびグルコース溶液中での粒径変化も測定した。さらに、腫瘍周辺および細胞内pH応答性を確認するため、pH変化した際の粒径変化も測定した。
【0189】
<3.2. 試薬>
特に記述のない試薬・溶媒は市販品をそのまま使用した。
・緑色蛍光タンパク質(rGFP Protein,Mw: 33k Da):クロンテック
・PEG-P[Lys(FPBA)10]20 (Mn=14,000)
・PEG-P[Lys(FPBA)20]40 (Mn=17,900)
・タンニン酸:(Mw=1,701) Wako Pure Chemical., Ltd.
・D-PBS(-):Wako Pure Chemical., Ltd.
・5 mol/L HCl:Wako Pure Chemical Industries Co., Ltd.
【0190】
<3.3. 測定機器>
・LSM710:Carl Zeiss Co., Ltd.
・CS 150GX:日立
・Fluorophotometer FP-8300 : Jasco International Co., Ltd.
【0191】
<3.4. ボロン酸導入高分子の添加による複合体形成の評価>
[GFP, TA, PEG-FPBA, PEG-P[Lys(FPBA)m]nの最終濃度]
・GFP:0.5 μM
・タンニン酸:40μM (調整濃度:82.5 μM)
・PEG-P[Lys(FPBA)m]n (n=20, m=10 又は n=40, m=20)に含まれるFPBA由来の構造:250μM 又は 500μM (FPBA濃度で算出)
・PEG-FPBA:250μM 又は 500μM
これらは、それぞれD-PBS(-)に溶解させ調整した。
【0192】
GFP溶液と、タンニン酸溶液とを混合させ、限外濾過膜(Mwco:10kDa)を用いて10,000g x 5分で遠心を2回行い、GFP/TA溶液を調整した。その後、別途GFP/TA溶液に、PEG-P[Lys(FPBA)10]20、PEG-P[Lys(FPBA)20]40、又はPEG-FPBA溶液を添加し、GFP/TA/PEG-P[Lys(FPBA)m]n (n=20, m=10 又は n=40, m=20) 溶液、GFP/TA/PEG-FPBA溶液を調整した。共焦点顕微鏡LSM710(Carl Zeiss製)を用いて、蛍光相関分光法にて、各溶液に含まれる粒子の粒径(個数基準の算術平均径)を測定した。
【0193】
まず、共焦点顕微鏡にて、測定する蛍光分子の拡散時間を算出した。拡散係数×拡散時間は一定であることから、拡散係数が公知であるRodamin 6G (拡散係数:4.14×10-10 m2/sec,25℃) の拡散時間を同時に測定し、測定する蛍光分子の拡散係数を算出した。それをアインシュタイン-ストークスの式に代入し、粒径を算出した。アインシュタイン-ストークスの式は以下の通りである。
D=KBT/6πηr
D:拡散係数
KB:ボルツマン定数(1.38×10-23 m2 ・kg/s2・K)
T:温度(298K)
η:粘度(0.00089 Pa・s)
r:粒子半径(nm)
【0194】
結果を図14に示す。
GFP/TA/PEG-FPBA溶液、及びGFP/TA/PEG-P[Lys(FPBA)m]n (n=20 又は n=40, m=10 又は m=20)溶液に含まれる粒子の粒径は、それぞれGFP溶液及びGFP/TA溶液に含まれる粒子の粒径と比較して増大したことから、GFP、TA及びボロン酸導入高分子の三元系複合体の形成が示唆された。
なかでも、GFP/TA/PEG-P[Lys(FPBA)m]n (n=20, m=10 又は n=40, m=20)溶液に含まれる粒子の粒径が有意に増大したことから、これらの三元系複合体の顕著な形成が示唆された。
【0195】
<3.5. タンニン酸の添加による三元系複合体形成の評価>
[GFP, TA, PEG-P[Lys(FPBA)10]20の最終濃度]
・GFP:0.5 μM
・タンニン酸:40μM (調整濃度:82.5 μM)
・PEG-P[Lys(FPBA)10]20に含まれるFPBA由来の構造:250 μM (FPBA濃度で算出)
これらは、それぞれ、D-PBS(-)に溶解させ調整した。
【0196】
GFP溶液と、タンニン酸溶液とを混合させ、限外濾過膜(Mwco:3.5kDa)を用いて10,000g × 5分で遠心を2回行い、GFP/TA溶液を調整した。その後、別途GFP/TA溶液にPEG-P[Lys(FPBA)10]20を添加し、GFP/TA/PEG-P[Lys(FPBA)10]20溶液を調整し、GFP溶液にPEG-P[Lys(FPBA)10]20を添加し、GFP/PEG-P[Lys(FPBA)10]20溶液を調整した。LSM710を用いて、蛍光相関分光法にて、各溶液に含まれる粒子の粒径を測定した結果を図15に示す。
【0197】
GFP/TA/PEG-P[Lys(FPBA)10]20溶液に含まれる粒子の粒径は、それぞれGFP溶液、GFP/TA溶液、GFP/PEG-P[Lys(FPBA)10]20溶液に含まれる粒子の粒径と比較して有意に増大したことから、GFP/TA/ PEG-P[Lys(FPBA)m]n複合体は、これらの三元系によって形成されていることが確認された。
【0198】
<3.6.グルコース中の複合体形成の評価>
[GFP, TA, PEG-P[Lys(FPBA)10]20の最終濃度]
・GFP:0.5 μM
・タンニン酸:40μM (調整濃度:82.5 μM)
・PEG-P[Lys(FPBA)10]20に含まれるFPBA由来の構造:250 μM (FPBA濃度で算出)
これらは、それぞれ、D-PBS(-)、0.1mg/ml, 1.0mg/ml又は10.0mg/mlのグルコースを含むD-PBS(-)溶液に溶解させ調整した。
【0199】
GFP溶液と、タンニン酸溶液とを混合させ、限外濾過膜(Mwco:3.5kDa)を用いて10,000g × 5分で遠心を2回行い、GFP/TA溶液を調整した。その後、別途GFP/TA溶液にPEG-P[Lys(FPBA)10]20を添加し、GFP/TA/PEG-P[Lys(FPBA)10]20溶液を上記のグルコース濃度にて調整した。それらの溶液をLSM710にて、蛍光相関分光法にて、各溶液に含まれる粒子の粒径を測定した結果を図16に示す。
【0200】
GFP/TA/PEG-P[Lys(FPBA)10]20溶液に含まれる粒子の粒径は、各濃度のグルコース溶液中で、顕著な変化がなかったことから、GFP/TA/PEG-P[Lys(FPBA)10]20三元系複合体が、グルコース溶液中で安定であることが確認された。
【0201】
<3.7. FBS中の複合体形成の評価>
[GFP, TA, PEG-P[Lys(FPBA)10]20の最終濃度]
・GFP:0.5 μM
・タンニン酸:40μM (調整濃度:82.5 μM)
・PEG-P[Lys(FPBA)10]20に含まれるFPBA由来の構造:250 μM (FPBA濃度で算出)
これらは、それぞれ、D-PBS(-)に溶解させ調整した後、上記の最終濃度になるように、FBS /D-PBS(-)を以下の体積比(5/95, 10/90, 30/70, 50/50, 75/25(vol))で混合した混合溶液に加え調整した。
【0202】
GFP溶液と、タンニン酸溶液とを混合させ、限外濾過膜(Mwco:10kDa)を用いて10,000 g × 5分で遠心を2回行い、GFP/TA溶液を調整した。その後、別途GFP/TA溶液にPEG-P[Lys(FPBA)10]20を添加し、GFP/TA/PEG-P[Lys(FPBA)10]20溶液を上記のFBS濃度にて調整した。それらの溶液をLSM710にて、蛍光相関分光法にて、各溶液に含まれる粒子の粒径を測定した結果を図17に示す。
【0203】
GFP/TA/PEG-P[Lys(FPBA)10]20溶液に含まれる粒子の粒径は、各濃度のFBS溶液中で、顕著な変化がなかったことから、GFP/TA/PEG-P[Lys(FPBA)10]20三元系複合体が、FBS溶液中で安定であることが確認された。
【0204】
<3.8.複合体のpH応答性評価>
[GFP, TA, PEG-P[Lys(FPBA)10]20の最終濃度]
・GFP:0.5 μM
・タンニン酸:40μM (調整濃度:82.5 μM)
・PEG-P[Lys(FPBA)10]20に含まれるFPBA由来の構造:250 μM(FPBA濃度で算出)
これらは、それぞれ、HClで調整したpH7.4 D-PBS(-)、pH6.6 D-PBS(-)、pH5.5 D-PBS(-)に溶解させ調整した。
【0205】
GFP溶液と、タンニン酸溶液とを混合させ、限外濾過膜(Mwco:10kDa)を用いて10,000 g × 5分で遠心を2回行い、GFP/TA溶液を調整した。その後、別途GFP/TA溶液にPEG-P[Lys(FPBA)10]20を添加し、GFP/TA/PEG-P[Lys(FPBA)10]20溶液を上記のpHにて調整した。それらの溶液をLSM710にて、蛍光相関分光法にて、各溶液に含まれる粒子の粒径を測定した結果を図18に示す。
【0206】
pH6.6 に調整したGFP/TA/PEG-P[Lys(FPBA)10]20溶液に含まれる粒子の粒径は、pH7.4 に調整したGFP/TA/PEG-P[Lys(FPBA)10]20溶液に含まれる粒子の粒径と比べて減少した。また、pH5.5に調整したGFP/TA/PEG-P[Lys(FPBA)10]20溶液に含まれる粒子の粒径は、GFPの粒径と同等であったことから、GFP/TA/PEG-P[Lys(FPBA)10]20三元系複合体は、腫瘍周辺pH(pH6.6)および細胞内pH(pH5.5)において、GFP/TA/PEG-P[Lys(FPBA)10]20が脱離していると考えられ、pHに応じて複合体の形成状態が変化するpH応答性があることが確認された。
【0207】
<3.9.複合体中のPEG-P[Lys(FPBA10/Cy5)]20 の会合数の評価>
[GFP, TA, PEG-P[Lys(FPBA10/Cy5)]20の最終濃度]
・GFP:0.5 μM
・タンニン酸:40μM (調整濃度:82.5 μM)
・PEG-P[Lys(FPBA10/Cy5)]20に含まれるFPBA由来の構造:250 μM(FPBA濃度で算出)
これらは、それぞれ、D-PBS(-)に溶解させ調整した。
【0208】
GFP溶液と、タンニン酸溶液とを混合させ、限外濾過膜(Mwco:10kDa)を用いて10,000g × 5分で遠心を2回行い、GFP/TA溶液を調整した。その後、別途GFP/TA溶液にPEG-P[Lys(FPBA10/Cy5)]20溶液を添加し、GFP/TA/PEG-P[Lys(FPBA10/Cy5)]20溶液を調整した。その溶液を超遠心機(CS 150GX)にて、50,000g × 1hにて超遠心することで、沈殿を生成させた。沈殿物には、沈降係数の大きいGFP/TA/ PEG-P[Lys(FPBA10/Cy5)]20複合体が選択的に含有される。沈殿物を1mlのD-PBS(-)に溶解させ、蛍光スペクトル(Ex:640nm/Em:680nm)を測り、濃度を算出することでGFP1分子あたりのPEG-P[Lys(FPBA10/Cy5)]20の会合数を測定した。その結果を表1に示す。
【0209】
【表1】
【0210】
GFP/TA/PEG-P[Lys(FPBA10/Cy5)]20複合体においては、GFP1分子に対して、PEG-P[Lys(FPBA10/Cy5)]20が、平均8.9個会合していることが確認された。
【0211】
4. アリザリンレッド法によるタンニン酸とPEG-P[Lys(FPBA)m]n の結合力評価
<4.1. 概要>
ボロン酸とジオール構造の結合力を定量する方法として確立されているアリザリンレッド法により、その結合力を評価した。下記にアリザリンレッド法の原理を、本実施例で実施した方法を例に、簡単に示す。
【0212】
【化15】
【0213】
<4.2. 試薬>
・緑色蛍光タンパク質(rGFP Protein):クロンテック
・PEG-P[Lys(FPBA)10]20 (Mn=14,000)
・PEG-P[Lys(FPBA)20]40 (Mn=17,900)
・タンニン酸 :Wako Pure Chemical Industries Co., Ltd.
・D-PBS(-):Wako Pure Chemical Industries Co., Ltd.
・没食子酸 :Wako Pure Chemical., Ltd.
・Alizarin Red S : Wako Pure Chemical Industries Co., Ltd.
【0214】
<4.3. 測定機器>
・Fluorophotometer FP-8300 : Jasco International Co., Ltd.
【0215】
<4.4. 複合体形成の評価>
[GFP, TA, PEG-FPBA, PEG-P[Lys(FPBA)10]20の最終濃度]
・Solution A : ARS (9.0×10-6 M)
・Solution B : ARS (9.0×10-6 M) + PEG-FPBA (FPBA濃度 :2.0×10-3 M)
・Solution C : ARS (9.0×10-6 M) + PEG-P[Lys(FPBA)10]20 (FPBA濃度 :2.0×10-3 M) ・Solution D : ARS (9.0×10-6 M) + PEG-FPBA (FPBA濃度 :2.0×10-3 M)+
タンニン酸 (ジオール濃度 = 5.0×10-4 M)
・Solution E : ARS (9.0×10-6 M) + PEG-FPBA (2.0×10-3 M) + 没食子酸 (ジオール濃度 = 5.0×10-4 M)
・Solution F : ARS (9.0×10-6 M) + PEG-P[Lys(FPBA)10]20 (FPBA濃度 :2.0×10-3 M) +
タンニン酸 (ジオール濃度 = 5.0×10-4 M)
・Solution G : ARS (9.0×10-6 M) + PEG-P[Lys(FPBA)10]20 (FPBA濃度 :2.0×10-3 M) + 没食子酸 (ジオール濃度 = 5.0×10-4 M)
【0216】
Solution Aと、Solution B又はSolution Cとを様々な比率で混合し、ディスポセルを用いて蛍光測定を行った (Ex = 468 nm, Em = 572 nm)。得られた蛍光強度や各FPBA濃度を以下の式(1)に代入し、検量線を最小自乗法によって作成した後、検量線の傾きからARS-FPBA系の平衡定数K0を算出した。次に、Solution B又はSolution Cと各ジオール化合物を含むSolution D, E, F, 又はGとを、B+D、B+E、C+F、C+Gの組み合わせでそれぞれ様々な比率で混合し、ディスポセルを用いて蛍光測定を行った (Ex = 468 nm, Em = 572 nm)。得られた蛍光強度と各ジオール化合物の濃度を以下の式(2)に代入し、検量線を最小自乗法によって作成した後、検量線の傾きから各ジオール化合物-BPA系の平衡定数K1を算出した。検量線より得られた平衡定数を相対平衡定数として表2に示す。
【0217】
【数1】
【0218】
【表2】
【0219】
没食子酸とPEG-P[Lys(FPBA)10]20の結合定数は、没食子酸とPEG-FPBAの結合定数と比較して、2.5倍になった。また、タンニン酸とPEG-P[Lys(FPBA)10]20の結合定数はタンニン酸とPEG-FPBAの結合定数と比較して、5倍となった。
【0220】
5.培養細胞に対する評価
<5.1. 概要>
GFPの細胞内分布を共焦点顕微鏡により観察し、細胞内取り込み経路を確認した。
【0221】
<5.2. 試薬及び細胞株>
特に記述のない試薬は市販品をそのまま使用した。
・緑色蛍光タンパク質(rGFP Protein,Mw: 33k Da):クロンテック
・PEG-P[Lys(FPBA)10]20 (Mn=14,000)
・タンニン酸:(Mw=1,701) Wako Pure Chemical., Ltd.
・D-PBS(-):Wako Pure Chemical., Ltd.
・Roswell Park Memorial Institute medium (RPMI):Sigma Aldrich Co., llc.
・Fetal bovine serum (FBS):BioseraInc.
・Trypsin-EDTA solution:Sigma life science Co., Ltd.
・Penicillin / streptomycin:Sigma life science Co., Ltd.
・5 mol/L HCl:Wako Pure Chemical Industries Co., Ltd.
・CT26細胞 (mouse colon carcinoma cell line):American Type Culture Collection.
・LysoTracker(登録商標)red DND - 99:Thermo Fisher Scientific Inc.
・Hoechst 33342:Thermo Fisher Scientific Inc.
・Paraformaldehyde:Nacalai Tesque Inc.
4 % Paraformaldehyde/D-PBS(-)溶液として使用した。
【0222】
<5.3. 測定機器>
・Countess:Thermo Fisher Scientific Inc.
・LSM710:Carl Zeiss Co., Ltd.
【0223】
<5.4. 共焦点顕微鏡によるGFPの細胞内分布の観察>
【0224】
[GFP, TA, PEG-P[Lys(FPBA)10]20の最終濃度]
・GFP:0. 5 μM
・タンニン酸:40μM (調整濃度:82.5 μM)
・PEG-P[Lys(FPBA)10]20に含まれるFPBA由来の構造:250 μM (FPBA濃度で算出)
これらは、それぞれ、D-PBS(-)に溶解させ調整した。
【0225】
GFP溶液と、タンニン酸溶液とを混合させ、限外濾過膜(Mwco:10 kDa)を用いて10,000g × 5分で遠心を2回行い、GFP/TA溶液を調整した。その後、別途GFP/TA溶液にPEG-P[Lys(FPBA)10]20溶液を添加し、GFP/TA/PEG-P[Lys(FPBA)10]20溶液を調整した。
【0226】
[共焦点顕微鏡による観察]
35 mm2 Glass base dishにCT26細胞を 5.0 × 104 cell / dish となるよう播種し、37 ℃, 5 % CO2下で24時間前培養した。各デッシュに上記のGFP/TA/PEG-P[Lys(FPBA)10]20溶液を200μL加え、6時間インキュベートした。D-PBS(-) 1 mL で洗浄後、100 nM LysoTracker (登録商標) red DND-99/(D-PBS(-):RPMI=1:9) 溶液1 mLを加え、30 min インキュベートした。D-PBS(-) 1 mLで洗浄後、4 % Paraformaldehyde/D-PBS(-)溶液で4分間インキュベートした。D-PBS(-) 1 mLで洗浄後、5.0 μg/mL Hoechst / D-PBS(-) 溶液 1 mLを加え、5 min インキュベートした。D-PBS(-) 1 mL で2回洗浄後、RPMI 2 mLを加え、CLSMで観察した。得られた結果を図19に示す。
【0227】
GFPはエンドソーム/リソソームに局在していたことから、エンドサイトーシスにより細胞に取り込まれたことが示唆された。
【0228】
5.皮下腫瘍モデルマウスに対する効果(血中滞留性・腫瘍集積性)
<5.1. 概要>
CT26(マウス大腸がん細胞)皮下腫瘍モデルマウスにおけるGFP/TA/PEG-P[Lys(FPBA)10]20複合体の体内動態を評価した。
【0229】
<5.2. 試薬、細胞及び動物>
・緑色蛍光タンパク質(rGFP Protein,Mw: 33k Da):クロンテック
・PEG-P[Lys(FPBA)10]20 (Mn=14,000)
・タンニン酸:(Mw=1,701) Wako Pure Chemical Industries Co., Ltd.
・CT-26細胞 (mouse colon carcinoma cell line):American Type Culture Collection.
・BALB/c mice : Charles River Japan Inc.
・GFP ELISA Kit (ab171581) :abcam
Extraction Buffer, 96well plate, 抗体溶液, Wash Buffer, 3,3',5,5'-tetramethylbenzidine (TMB), Stop solutionが含まれている。
【0230】
<5.3. 機器・設備>
・Countess:Thermo Fisher Scientific Inc.
・iMark:BioRAD
【0231】
<5.4. GFP/TA/PEG-P[Lys(FPBA)10]20複合体の体内動態>
GFP, GFP/TAおよびGFP/TA/PEG-P[Lys(FPBA)10]20の血中滞留性および腫瘍集積性を評価するべく、GFP/TA/PEG-P[Lys(FPBA)10]20をCT26皮下腫瘍モデルマウスに静脈注射し、一定時間経過後の血液および腫瘍のGFP含有量をELISAにより測定した。
【0232】
[GFP, TA, PEG-P[Lys(FPBA)10]20の最終濃度]
・GFP:2.2 μM
・タンニン酸:350 μM
・PEG-P[Lys(FPBA)10]20に含まれるFPBA由来の構造:1 mM (FPBA濃度で算出)
これらは、それぞれ、D-PBS(-)に溶解させ調整した。
【0233】
GFP溶液と、タンニン酸溶液とを混合させ、限外濾過膜(Mwco:10kDa)を用いて10,000g × 5分で遠心を2回行い、GFP/TA溶液を調整した。その後、別途GFP/TA溶液にPEG-P[Lys(FPBA)10]20溶液を添加し、GFP, GFP/TAおよびGFP/TA/PEG-P[Lys(FPBA)10]20溶液を調整した。
【0234】
[CT26皮下腫瘍モデルマウスの作製]
CT26細胞懸濁液(1.0×106 cells/ml)をBALB/cマウスに対して100 μl皮下注射した。
【0235】
[体内動態の評価]
腫瘍サイズがおよそ200 mm3に達したモデルマウスに対して、上記の調製溶液100 μlを尾静脈投与した。試料投与から2, 6, 24時間後に解剖し、血液及び各種臓器を回収し、5倍重量のCell Extraction Bufferを加えて、20分間On iceでインキュベートした。その後、18,000g × 20 minute 4℃で遠心分離を行い、上澄みをCell Extraction Bufferで希釈し、GFP ELISA Kitの96well plateに50μl加え、抗体溶液を添加し、1h × 400rpm 常温で振盪させた。次に、350μlのWash Bufferで3回洗浄した後、100μlのTMBを加えて、10分間常温で振盪させ、Stop solutionを添加した。その後、プレートリーダーにて450nmの吸光度を測定し、検量線からGFPの濃度を算出し、体内動態を評価した。その結果を図20図21に示す。
【0236】
投与から2、6時間後におけるGFPおよびGFP/TAの血中濃度は約5.0 %,1.5%と血中からの速やかな消失を示した一方で、GFP/TA/PEG-P[Lys(FPBA)10]20は投与から6時間後において15%、24時間後においても3.8%と有意に高い血中濃度を示した。さらに、GFP/TA/PEG-P[Lys(FPBA)10]20は2、6、24時間後の時点で、GFPと比較して、2.5倍、5.5倍、10倍と高い腫瘍集積を示した。これらの結果から、GFP/TA/PEG-P[Lys(FPBA)10]20で構成されたタンパク質送達システムにより、血中滞留性の向上に加えて、腫瘍集積性および滞留性の付与が達成されたことが示された。
【0237】
6.様々な物質を内包させた三元系複合体形成の確認
<6.1. 概要>
GFPタンパク質だけでなく、低分子医薬、ペプチド、アデノ随伴ウイルス、無機粒子、核酸等を用いて三元系複合体を形成させ、粒径変化を測定した。測定方法は、動的光散乱法(DLS)又は、蛍光相関分光法(FCS)を用いた。
【0238】
<6.2. 試薬>
特に記述のない試薬・溶媒は市販品をそのまま使用した。
・PEG-P[Lys(FBPA)10]20 (Mn=14,000)
・タンニン酸:(Mw=1,701) Wako Pure Chemical Industries Co., Ltd.
・D-PBS(-):Wako Pure Chemical Industries Co., Ltd.
・ブレオマイシン硫酸塩(単にブレオマイシンと略す) :1513.6 g/mol, Tokyo Chemical Industry Co., Ltd.
・ローズベンガル:973.67 g/mol,Tokyo Chemical Industry Co., Ltd.
・Chlorin e6:596.7 g/mol,Cayman Chemical Co., Ltd.
・ピタバスタチンカルシウム(単にピタバスタチンと略す):880.98 g/mol, Wako Pure Chemical Industries Co., Ltd.
・Gelonin:Mw ~30 kDa, Enzo Life Sciences, Inc.
・Pseudomonas exotoxin A(PE) :Mw ~60kDa, Sigma Aldrich Co., llc.
・緑色蛍光タンパク質(rGFP) Protein:Mw 33k Da, クロンテック
・β-D-ガラクトシダーゼ(βGal) :Mw 540 kDa , Wako Pure Chemical Industries Co., Ltd.
・FITC-LC-Antennapedia Peptide (単にPeptideと略す) :2748.3 g/mol, Anaspec Inc.
・AAV9-CMV-Luc(単にAAVと略す):SignaGen Laboratories.
・金ナノ粒子(AuNP) :粒子径:15nm, 0.050 mg/ml, 2.3 nM , BBI Solutions.
・Alexa Fluor647-TUG1 (TUG1アンチセンス核酸,単にTUG1と略す) :8058.7 g/mol , GeneDesign, Inc.
【0239】
<6.3. 測定機器>
(蛍光相関分光法)
・LSM710:Carl Zeiss Co., Ltd.
温度:25℃、測定時間:10秒、積算回数:10回
(動的光散乱法)
・Zetasizer Nano ZS (Zetasizer) :Malvern Instruments
温度:25℃、測定時間:10秒、積算回数:10回
【0240】
動的光散乱の測定方法は以下の通りである。動的光散乱(DLS Zetasizer Nano ZS(Malvern Instruments社製)を用いて、検出角度173°および温度25℃でDLS測定を行った。入射ビームとしてHe-Neレーザー(633nm)を用いた。各複合体溶液を小さなガラスキュベット(容量12μL、ZEN2112、Malvern Instruments社製)に加えた。光子相関関数における減衰レートから得られたデータをキュムラント法により分析し、次いで、上記のアインシュタイン-ストークスの式により、各複合体の流体力学径(個数基準の算術平均径)を計算した。
【0241】
<6.4. ブレオマイシン三元系複合体形成の評価>
[ブレオマイシン, TA, PEG-P[Lys(FPBA)10]20の最終濃度]
・ブレオマイシン:0.02 mg/mL
・タンニン酸:0.2 mg/mL
・PEG-P[Lys(FBPA)10]20:3.3 mg/mL
これらは、それぞれ、D-PBS(-)に溶解させ調整した。
【0242】
ブレオマイシン溶液と、タンニン酸溶液とを混合し、ブレオマイシン/TA溶液を調整した。その後、ブレオマイシン/TA溶液にPEG-P[Lys(FPBA)10]20を添加し、ブレオマイシン/TA/PEG-P[Lys(FPBA)10]20(ブレオマイシン三元系複合体)溶液を調整した。Zetasizerを用いて、粒径測定した結果を表3に示す。
【0243】
ブレオマイシン三元系複合体の粒径は、ブレオマイシン単体の粒径と比較して明らかに増大したことから、ブレオマイシン三元系複合体の形成が確認された。
【0244】
<6.5. ローズベンガル三元系複合体形成の評価>
[ローズベンガル, TA, PEG-P[Lys(FPBA)10]20の最終濃度]
・ローズベンガル:0.02 mg/mL
・タンニン酸:0.2 mg/mL
・PEG-P[Lys(FBPA)10]20:3.3 mg/mL
これらは、それぞれ、D-PBS(-)に溶解させ調整した。
実施例で使用したローズベンガルの構造を下記に示す。
【0245】
【化16】
【0246】
ローズベンガル溶液と、タンニン酸溶液とを混合し、ローズベンガル/TA溶液を調整した。その後、ローズベンガル/TA溶液にPEG-P[Lys(FPBA)10]20を添加し、ローズベンガル/TA/PEG-P[Lys(FPBA)10]20(ローズベンガル三元系複合体)溶液を調整した。Zetasizerを用いて、粒径測定した結果を表3に示す。
【0247】
ローズベンガル三元系複合体の粒径は、ローズベンガル単体の粒径と比較して明らかに増大したことから、ローズベンガル三元系複合体の形成が確認された。
【0248】
<6.6. Chlorin e6三元系複合体形成の評価>
[Chlorin e6, TA, PEG-P[Lys(FPBA)10]20の最終濃度]
・Chlorin e6:1 μM
・タンニン酸:15 μM
・PEG-P[Lys(FBPA)10]20:30 μM
これらは、それぞれ、D-PBS(-)に溶解させ調整した。
【0249】
Chlorin e6溶液と、タンニン酸溶液とを混合し、Chlorin e6/TA溶液を調整した。その後、Chlorin e6/TA溶液にPEG-P[Lys(FPBA)10]20を添加し、Chlorin e6/TA/PEG-P[Lys(FPBA)10]20(Chlorin e6三元系複合体)溶液を調整した。LSM710を用いて、FCSにて粒径測定した結果を表3に示す。
【0250】
Chlorin e6三元系複合体の粒径は、Chlorin e6単体の粒径と比較して明らかに増大したことから、Chlorin e6三元系複合体の形成が確認された。
【0251】
<6.7. ピタバスタチン三元系複合体形成の評価>
[ピタバスタチン, TA, PEG-P[Lys(FPBA)10]20の最終濃度]
・ピタバスタチン :0.02 mg/mL
・タンニン酸:0.2 mg/mL
・PEG-P[Lys(FBPA)10]20:3.3 mg/mL
ピタバスタチンは5% THF含有D-PBS(-)に溶解させ、TAとPEG-P[Lys(FBPA)10]20は、D-PBS(-)に溶解させ調整した。
【0252】
ピタバスタチン溶液と、タンニン酸溶液とを混合させ、ピタバスタチン/TA溶液を調整した。その後、ピタバスタチン/TA溶液にPEG-P[Lys(FPBA)10]20を添加し、ピタバスタチン/TA/PEG-P[Lys(FPBA)10]20(ピタバスタチン三元系複合体)溶液を調整した。Zetasizerを用いて、粒径測定した結果を表3に示す。
【0253】
ピタバスタチン溶液で凝集していたピタバスタチン(測定値としては4586nm)が、ピタバスタチン/TA/PEG-P[Lys(FPBA)10]20溶液では60.2nmの粒径になったことから、ピタバスタチン三元系複合体の形成が確認された。
【0254】
<6.8. Gelonin三元系複合体形成の評価>
[Gelonin, TA, PEG-P[Lys(FPBA)10]20の最終濃度]
・Gelonin:0.5 μM
・タンニン酸:82.5 μM
・PEG-P[Lys(FBPA)10]20: 50 μM
これらは、それぞれ、D-PBS(-)に溶解させ調整した。
【0255】
Gelonin溶液と、タンニン酸溶液とを混合し、限外濾過膜(Mwco:3.5 k Da)を用いて10,000g × 5分で遠心を2回行い、Gelonin/TA溶液を調整した。その後、Gelonin/TA溶液にPEG-P[Lys(FPBA)10]20を添加し、Gelonin/TA/PEG-P[Lys(FPBA)10]20溶液(Gelonin三元系複合体溶液)を調整した。Zetasizerを用いて、粒径測定した結果を表3に示す。
【0256】
Gelonin三元系複合体の粒径は、Gelonin単体の粒径と比較して明らかに増大したことから、Gelonin三元系複合体の形成が確認された。
【0257】
<6.9. PE三元系複合体形成の評価>
[PE, TA, PEG-P[Lys(FPBA)10]20の最終濃度]
・PE:0.25 μM
・タンニン酸:82.5 μM
・PEG-P[Lys(FBPA)10]20: 50 μM
これらは、それぞれ、D-PBS(-)に溶解させ調整した。
【0258】
PE溶液と、タンニン酸溶液とを混合し、限外濾過膜(Mwco:3.5 k Da)を用いて10,000g × 5分で遠心を2回行い、PE/TA溶液を調整した。その後、PE/TA溶液にPEG-P[Lys(FPBA)10]20を添加し、PE/TA/PEG-P[Lys(FPBA)10]20溶液(PE三元系複合体溶液)を調整した。Zetasizerを用いて、粒径測定した結果を表3に示す。
【0259】
PE三元系複合体の粒径は、PE単体の粒径と比較して明らかに増大したことから、PE三元系複合体の形成が確認された。
【0260】
<6.10. rGFP三元系複合体形成の評価>
上記の、3.4.の複合体形成の評価と同様にして、粒径測定した結果を表3に示す。
【0261】
<6.11. βGal三元系複合体形成の評価>
[βGal, TA, PEG-P[Lys(FPBA)10]20の最終濃度]
・βGal:0.1 mg/mL
・タンニン酸:0.37mg/mL
・PEG-P[Lys(FBPA)10]20: 3.95 mg/mL
これらは、それぞれ、D-PBS(-)に溶解させ調整した。
【0262】
βGal溶液と、タンニン酸溶液とを混合し、βGal/TA溶液を調整した。その後、βGal/TA溶液にPEG-P[Lys(FPBA)10]20を添加し、βGal/TA/PEG-P[Lys(FPBA)10]20溶液(βGal三元系複合体溶液)を調整した。Zetasizerを用いて、粒径測定した結果を表3に示す。
【0263】
βGal三元系複合体の粒径は、βGal単体の粒径と比較して明らかに増大したことから、βGal三元系複合体の形成が確認された。
【0264】
<6.12. Peptide三元系複合体形成の評価>
[Peptide, TA, PEG-P[Lys(FPBA)10]20の最終濃度]
・Peptide:1 μM
・タンニン酸:8 μM
・PEG-P[Lys(FBPA)10]20:15 μM
これらは、それぞれ、D-PBS(-)に溶解させ調整した。
【0265】
Peptide溶液と、タンニン酸溶液とを混合し、Peptide/TA溶液を調整した。その後、Peptide/TA溶液にPEG-P[Lys(FPBA)10]20を添加し、Peptide/TA/PEG-P[Lys(FPBA)10]20(Peptide三元系複合体)溶液を調整した。LSM710を用いて、FCSにて粒径測定した結果を表3に示す。
【0266】
Peptide三元系複合体の粒径は、Peptide単体の粒径と比較して明らかに増大したことから、Peptide三元系複合体の形成が確認された。
【0267】
<6.13. AAV三元系複合体形成の評価>
[AAV, TA, PEG-P[Lys(FPBA)10]20の最終濃度]
・AAV:2.0 × 1010 vL/mL
・タンニン酸:2.04 × 10-4 mg/mL
・PEG-P[Lys(FBPA)10]20: 0.0022 mg/mL
これらは、それぞれ、D-PBS(-)に溶解させ調整した。
【0268】
AAV溶液と、タンニン酸溶液とを混合させ、AAV/TA溶液を調整した。その後、AAV/TA溶液にPEG-P[Lys(FPBA)10]20を添加し、AAV/TA/PEG-P[Lys(FPBA)10]20溶液(AAV三元系複合体溶液)を調整した。Zetasizerを用いて、粒径測定した結果を表3に示す。
【0269】
AAV三元系複合体の粒径は、AAV単体の粒径と比較して明らかに増大したことから、AAV三元系複合体の形成が確認された。
【0270】
<6.14. AuNP三元系複合体形成の評価>
[AuNP, TA, PEG-P[Lys(FPBA)10]20の最終濃度]
・AuNP:1.0 nM
・タンニン酸:1 μM
・PEG-P[Lys(FBPA)10]20: 2 μM
これらは、それぞれ、超純水に溶解させ調整した。
【0271】
AuNP溶液と、タンニン酸溶液とを混合し、限外濾過膜(Mwco:10 k Da)を用いて10,000g × 5分で遠心を2回行い、AuNP/TA溶液を調整した。その後、AuNP/TA溶液にPEG-P[Lys(FPBA)10]20を添加し、AuNP/TA/PEG-P[Lys(FPBA)10]20溶液(AuNP三元系複合体溶液)を調整した。Zetasizerを用いて、粒径測定した結果を表3に示す。
【0272】
AuNP三元系複合体の粒径は、AuNP単体の粒径と比較して明らかに増大したことから、AuNP三元系複合体の形成が確認された。
【0273】
<6.15. TUG1三元系複合体形成の評価>
[TUG1, TA, PEG-P[Lys(FPBA)m]nの最終濃度]
・TUG1:100 nM
・タンニン酸:5 μM
・PEG-P[Lys(FBPA)10]20:10 μM
これらは、それぞれ、D-PBS(-)に溶解させ調整した。
【0274】
TUG1溶液と、タンニン酸溶液とを混合し、TUG1/TA溶液を調整した。その後、TUG1/TA溶液にPEG-P[Lys(FPBA)10]20を添加し、TUG1/TA/PEG-P[Lys(FPBA)10]20(TUG1三元系複合体)溶液を調整した。LSM710を用いて、FCSにて粒径測定した結果を表3に示す。
【0275】
TUG1複合体の粒径は、TUG1単体の粒径と比較して明らかに増大したことから、TUG1複合体の形成が確認された。
【0276】
【表3】
【0277】
7.ローズベンガル三元系複合体の機能性評価
<7.1. 概要>
ローズベンガル三元系複合体動物実験による血中滞留性を評価した。
【0278】
<7.2. 試薬>
特に記述のない試薬は市販品をそのまま使用した。
・ローズベンガル: (973.67 g/mol) Tokyo Chemical Industry Co., Ltd.
・PEG-P[Lys(FBPA)10]20 (Mn=14,000)
・タンニン酸:(Mw=1,701) Wako Pure Chemical Industries Co., Ltd.
・D-PBS(-):Wako Pure Chemical Industries Co., Ltd.
・BALB/c mice : Charles River Japan Inc.
・Passive Lysis Buffer : Promega corporation.
【0279】
<7.3. 測定機器>
・Guava(登録商標) easyCyte Flow Cytometry (FCM):Merck Millipore
・Spark : Tecan Group Ltd.
【0280】
<7.4. ローズベンガル三元系複合体の体内動態>
[ローズベンガル, TA, PEG-P[Lys(FPBA)10]20の最終濃度]
・ローズベンガル:0.1 mg/mL
・タンニン酸:1.0 mg/mL
・PEG-P[Lys(FBPA)10]20:16.5 mg/mL
これらは、それぞれ、D-PBS(-)に溶解させ調整した。
【0281】
ローズベンガル溶液と、タンニン酸溶液とを混合し、ローズベンガル/TA溶液を調整した。その後、ローズベンガル/TA溶液にPEG-P[Lys(FPBA)10]20を添加し、ローズベンガル溶液、ローズベンガル/TA複合体溶液、及びローズベンガル/TA/PEG-P[Lys(FPBA)10]20(ローズベンガル三元系複合体)溶液を調整した。
【0282】
[体内動態の評価]
モデルマウスに対して、上記の調製溶液200 μlを尾静脈投与した。試料投与から1, 3時間後に解剖し、血液を回収し、5,000g × 10minute 20℃で遠心分離を行い、100 μlの血漿成分を回収し、700 μlのPassive Lysis Bufferを加えた。その後、血漿成分と投与したサンプルの蛍光強度(Ex/Em : 520 nm/570 nm)をSparkで測定し、血中滞留性を評価した。その結果を図22に示す。図中では、ローズベンガル/TA/PEG-P[Lys(FPBA)10]20をローズベンガル/TA/ポリマーと表記している。
【0283】
投与から3時間後におけるローズベンガルおよびローズベンガル/TA複合体の血中濃度は、それぞれ約0.22 %、1.02%だった。一方で、ローズベンガル三元系複合体の血中濃度は、は投与から3時間後において2.2%であり、ローズベンガル単体と比べて約10倍の血中濃度を示した。この結果から、ローズベンガル三元系複合体は、ローズベンガル単体およびローズベンガル/TAと比較して、血中滞留性の向上を達成したことが示された。
【0284】
8. GFP三元系複合体の機能性評価
<8.1. 概要>
GFP三元系複合体の機能性評価を実施した。具体的には、溶液中でのタンニン酸の酸化に関する安定性評価と、GFP三元系複合体の細胞内分子であるアデノシン三リン酸(ATP)応答性の評価である。
【0285】
<8.2. 試薬>
特に記述のない試薬・溶媒は市販品をそのまま使用した。
・緑色蛍光タンパク質(rGFP Protein) :Mw= 33k Da,クロンテック
・PEG-P[Lys(FBPA)10]20 (Mn=14,000)
・タンニン酸:(Mw=1,701) Wako Pure Chemical Industries Co., Ltd.
・D-PBS(-):Wako Pure Chemical Industries Co., Ltd.
・アデノシン三リン酸(ATP) :Wako Pure Chemical Industries Co., Ltd.
【0286】
<8.3. 測定機器>
・LSM710:Carl Zeiss Co., Ltd.
・Fluorophotometer FP-8300 : Jasco International Co., Ltd.
・Absorptiometer (V-650, JASCO, Tokyo, Japan)
【0287】
<8.4. ボロン酸導入高分子を添加することによるTAの酸化抑制の評価>
[TA, PEG-P[Lys(FPBA)10]20の最終濃度]
・タンニン酸:0.5 mg/ml
・PEG-P[Lys(FPBA)10]20:2.2 mg/ml
これらは、それぞれ、D-PBS(-)に溶解させ調整した。
【0288】
タンニン酸溶液と、PEG-P[Lys(FPBA)10]20溶液とを混合し、TA/PEG-P[Lys(FPBA)10]20溶液を調整した。
【0289】
[溶液中でのTAの酸化抑制の評価]
調製したTA溶液、TA/PEG-P[Lys(FPBA)10]20溶液を37 ℃で所定時間インキュベートした後、吸光度計にてTAの酸化物であるキノン由来の吸光波長(380nm)の吸光度増加を測定した。得られた結果を図23Aに、24時間後のそれぞれ溶液の写真を図23Bに示す。
【0290】
図23A及び図23Bに示される結果より、TA/PEG-P[Lys(FPBA)10]20溶液の吸光度の継時増加および24時間後の色の変化は、TA溶液と比較して大幅に抑制されたことが示された。これより、PEG-P[Lys(FPBA)10]20の添加によって、タンニン酸の酸化が大幅に抑制されたことが分かる。
【0291】
<8.5. GFP三元系複合体の継時安定性評価>
[GFP, TA, PEG-P[Lys(FPBA)10]20の最終濃度]
・GFP:0.5 μM
・タンニン酸:82.5 μM
・FBPA of PEG-P[Lys(FPBA)10]20:250 μM
これらは、それぞれ、D-PBS(-)に溶解させ調整した。
【0292】
GFP溶液と、タンニン酸溶液とを混合し、限外濾過膜(Mwco:3.5 k Da)を用いて10,000g × 5分で遠心を2回行い、GFP/TA溶液を調整した。その後、GFP/TA溶液にPEG-P[Lys(FPBA)10]20溶液を添加し、GFP/TA/PEG-P[Lys(FPBA)10]20複合体(GFP三元系複合体)溶液を調整した。
【0293】
[GFP三元系複合体の安定性評価]
調製したGFP三元系複合体を37 ℃で所定時間インキュベートした後、LSM710を用いて、FCSにて粒径測定した結果を図23Cに示す。また、FP-8300を用いて、蛍光強度を測定した結果も、同様に図23Cに示す。
【0294】
24時間後も、有意な粒径および蛍光強度の変化が見られなかったことから、GFP三元系複合体は、安定して複合体を形成していることが分かる。
【0295】
<8.6. ATP溶液中でのGFP三元系複合体の安定性評価>
[GFP, TA, PEG-P[Lys(FPBA)10]20の最終濃度]
・GFP:0.5 μM
・タンニン酸:82.5 μM
・FBPA of PEG-P[Lys(FPBA)10]20:250 μM
これらは、それぞれ、D-PBS(-)に溶解させ調整した。
【0296】
GFP溶液と、タンニン酸溶液とを混合し、限外濾過膜(Mwco:3.5 k Da)を用いて10,000g × 5分で遠心を2回行い、GFP/TA溶液を調整した。その後、GFP/TA溶液にPEG-P[Lys(FPBA)10]20溶液を添加し、GFP/TA/PEG-P[Lys(FPBA)10]20複合体(GFP三元系複合体)溶液を調整した。
【0297】
[ATP溶液中でのGFP三元系複合体の安定性評価]
調製したGFP三元系複合体を所定濃度のATP溶液と混合させた後、LSM710を用いて、FCSにて粒径測定した。結果を図24に示す。
【0298】
ATPの濃度増加に伴い、有意な粒径の減少が見られたことから、GFP三元系複合体は、ATPの濃度増加に伴いタンニン酸とPEG-P[Lys(FPBA)10]20との結合が解離するATP応答性があることが確認された。
【0299】
9.βGal三元系複合体形成の機能性評価
<9.1. 概要>
βGal三元系複合体の機能性評価を実施した。具体的には、溶液中および細胞内での、βGal三元系複合体の酵素活性の評価と動物実験による体内動態の評価である。
【0300】
<9.2. 試薬>
特に記述のない試薬は市販品をそのまま使用した。
・β-D-ガラクトシダーゼ(βGal): Mw 540 kDa, Wako Pure Chemical Industries Co., Ltd.
・PEG-P[Lys(FBPA)10]20 (Mn=14,000)
・タンニン酸:(Mw=1,701) Wako Pure Chemical Industries Co., Ltd.
・Alexa Fluor647-NHS : Mw=1250, Thermo Fisher Scientific Inc.
・D-PBS(-):Wako Pure Chemical Industries Co., Ltd.
・GlycoGREEN(登録商標)-βGal : GORYO Chemical, Inc.
・Roswell Park Memorial Institute medium (RPMI):Sigma Aldrich Co., llc.
・Fetal bovine serum (FBS):BioseraInc.
・Trypsin-EDTA solution(Trp):Sigma life scienceCo., Ltd.
・Penicillin / streptomycin(PS):Sigma life scienceCo., Ltd.
・CT26細胞 (mouse colon carcinoma cell line):American Type Culture Collection.
・BALB/c mice : Charles River Japan Inc.
・Passive Lysis Buffer : Promega corporation.
・Dimethyl sulfoxide(DMSO):Wako Pure Chemical Industries Co., Ltd.
【0301】
<9.3. 測定機器>
・LSM710:Carl Zeiss Co., Ltd.
・Fluorophotometer FP-8300 : Jasco International Co., Ltd.
・Absorptiometer V-650 : Jasco International Co., Ltd.
【0302】
<9.4. 溶液中でのβGal三元系複合体の活性評価>
[βGal, TA, PEG-P[Lys(FPBA)10]20の最終濃度]
・βGal:0.1 mg/mL
・タンニン酸:0.37mg/mL
・PEG-P[Lys(FBPA)10]20: 3.95 mg/mL
これらは、それぞれ、D-PBS(-)に溶解させ調整した。
【0303】
βGal溶液と、タンニン酸溶液とを混合し、βGal/TA溶液を調整した。その後、βGal/TA溶液にPEG-P[Lys(FPBA)10]20を添加し、βGal/TA/PEG-P[Lys(FPBA)10]20溶液(βGal三元系複合体溶液)を調整した。
【0304】
[GlycoGREEN-βGalの最終濃度]
・GlycoGREEN-βGal 1 mM
DMSOに溶解させ調整した。
【0305】
[溶液中でのβGal三元系複合体の活性評価]
調製した20 μlのβGal溶液、βGal/TA溶液、及びβGal三元系複合体溶液に、それぞれ1 μlの1mM GlycoGREEN-βGal溶液を加え、FP-8300にて、GlycoGREEN-βGalがβGalと酵素反応した際に検出される蛍光(Ex/Em : 480/510 nm)を継時的に測定した。得られた結果を図25Aに示した。また、各溶液の最大蛍光強度を図25Bに示した。図中では、βGal/TA/PEG-P[Lys(FPBA)10]20を、βガラクトシダーゼ/TA/ポリマーと表記している。
【0306】
図25A及び図25Bに示される結果から、βGal三元系複合体の酵素反応は、βGal単体の酵素反応と比べて抑制されたことが示され、複合体にβGalが内包されることで、見かけの酵素活性は低下することが明らかになった。
【0307】
<9.5. 細胞内でのβGal三元系複合体の活性評価>
[βGal複合体へのAlexa647導入]
・βGal :10 mg
・Alexa Flour647-NHS :0.12 mg
20 mLバイヤル瓶にβGal 10 mgを量り取り、50mM NaHCO3 pH8.0 10 mLに溶解させた。DMSOに溶解させたAlexa Flour647-NHS 0.12mgを加え、室温で4時間攪拌した。反応溶液に対しD-PBS(-)を用いて限外濾過(Mwco: 10kDa)2回行った後、PD-10カラム(溶媒はD-PBS(-))で未反応のAlexa Flour647-NHSを除去した後、再度D-PBS(-)を用いて限外濾過(Mwco: 10kDa)2回行い、溶液状態でAlexa Flour647修飾βGal(Alexa647-βGal)を回収した。その後、タンパク質由来の吸収波長である280nmの吸光度から、βGal濃度を算出した。
【0308】
[βGal, TA, PEG-P[Lys(FPBA)10]20の最終濃度]
・βGal:0.1 mg/mL
・Alexa647-βGal:0.1 mg/ml
・タンニン酸:0.37mg/mL
・PEG-P[Lys(FBPA)10]20: 3.95 mg/mL
これらは、それぞれ、D-PBS(-)に溶解させ調整した。
【0309】
βGal溶液と、タンニン酸溶液とを混合し、βGal/TA溶液を調整した。その後、βGal/TA溶液にPEG-P[Lys(FPBA)10]20を添加し、βGal、βGal/TA、及びβGal/TA/PEG-P[Lys(FPBA)10]20溶液(βGal三元系複合体溶液)をそれぞれ調整した。
同様の操作をβGalに代えてAlexa647-βGalを用いても行い、Alexa647-βGal、Alexa647-βGal/TA複合体、及びAlexa647-βGal/TAβGal/TA/PEG-P[Lys(FPBA)10]20溶液(Alexa647-βGal三元系複合体溶液)をそれぞれ調製した。
【0310】
[GlycoGREEN-βGalの最終濃度]
・GlycoGREEN-βGal 1 mM
DMSOに溶解させ調整した。
【0311】
[細胞内へのβGal三元系複合体の取り込み量の評価]
RPMIにFBS及びPSをそれぞれ10wt%、2wt%になるよう混合し、細胞用培地を調整した。CT26細胞を細胞用培地に懸濁させ、1.25×105 cells/mlの細胞懸濁液を調製した。この細胞懸濁液400 μlを24ウェルプレートに播き(1ウェル当たり5.0×104cells)、37 ℃で24時間インキュベートした。培地を除去後、D-PBS(-)で1回洗浄した後、Alexa647-βGalを用いて調整した各溶液を、400 μl加え、37℃で6時間インキュベートした。所定時間インキュベートした後、溶液を除去してD-PBS(-)で洗浄を2回行い、Trpを150 μl加え37℃で7分間インキュベートした後、D-PBS(-)+10%FBSを150μl加えてフローサイトメーター (FCM)でAlexa647由来の蛍光強度(Ex/Em : 642/664 nm)を測定し、各サンプルの細胞取り込み量を評価した。得られた結果を図26Aに示す。
【0312】
[細胞中でのβGal三元系複合体の活性評価]
CT26細胞を細胞用培地に懸濁させ、1.25×105 cells/mlの細胞懸濁液を調製した。この細胞懸濁液400 μlを24ウェルプレートに播き(1ウェル当たり5.0×104cells)、37 ℃で24時間インキュベートした。培地を除去後、D-PBS(-)で1回洗浄した後、βGalを用いて調整した各溶液を、400 μl加え、37℃で6時間インキュベートした。所定時間インキュベートした後、溶液を除去してD-PBS(-)で洗浄を2回行った後、1μMに調製したGlycoGREEN-βGal を400 μl加え、30分インキュベートした。その後、溶液を除去してD-PBS(-)で洗浄を2回行った後、Trpを150 μl加え37℃で7分間インキュベートした後、D-PBS(-)+10%FBSを150μl加えてフローサイトメーター (FCM)でGlycoGREEN-βGalがβGalと酵素反応した際に検出される、活性由来の蛍光強度(Ex/Em = 488 nm/525 nm)を測定した。得られた結果を図26Bに示す。また、得られた活性由来の蛍光強度を、上記の細胞内取り込み量に対応する蛍光強度で除した結果を図26Cに示す。
【0313】
図26Cに示される結果より、細胞内でのβGal三元系複合体の活性は、βGal単体と同等であることが明らかになった。
【0314】
<9.6. βGal三元系複合体の体内動態>
[Alexa647-βGal, TA, PEG-P[Lys(FPBA)10]20の最終濃度]
・Alexa647-βGal:0.5 mg/ml
・タンニン酸:1.85mg/mL
・PEG-P[Lys(FBPA)10]20: 19.74 mg/mL
これらは、それぞれ、D-PBS(-)に溶解させ調整した。
【0315】
Alexa647-βGal溶液と、タンニン酸溶液とを混合し、Alexa647-βGal/TA溶液を調整した。その後、Alexa647-βGal/TA溶液にPEG-P[Lys(FPBA)10]20を添加し、Alexa647-βGal、及びAlexa647-βGal/TA/PEG-P[Lys(FPBA)10]20溶液(Alexa647-βGal三元系複合体溶液)を調整した。
【0316】
[CT26皮下腫瘍モデルマウスの作製]
CT26細胞懸濁液(1.0×106 cells/ml)をBalb/cマウスに対して100 μl皮下注射した。
【0317】
[体内動態の評価]
腫瘍サイズがおよそ200 mm3に達したモデルマウスに対して、上記の調製溶液200 μlを尾静脈投与した。試料投与から6時間後に解剖し、血液および臓器を回収した。血液は、5,000g × 10minute 20℃で遠心分離を行い、100 μlの血漿成分を回収し、700 μlのPassive Lysis Bufferを加えた。臓器は、それぞれの重量を測り、8倍重量のPassive Lysis Bufferを加えた後、ホモジナイズを行った。その後、10,000 g × 5 minute遠心分離を行い、上澄み溶液の蛍光強度(Ex/Em : 640 nm/680 nm)をTECANで測定し、血中滞留性および体内動態を評価した。その結果を図27に示す。図中では、Alexa647-βGalを、βガラクトシダーゼと表記し、Alexa647-βGal/TA/PEG-P[Lys(FPBA)10]20を、βガラクトシダーゼ/TA/ポリマーと表記している。
【0318】
Alexa647-βGal三元系複合体の血中滞留性および腫瘍集積性は、Alexa647-βGalと比較して、それぞれ4倍、15倍向上していた。一方、Alexa647-βGal三元系複合体の、正常組織である肝臓、腎臓、肺への集積性は、Alexa647-βGalと比較して、それぞれ1.4倍、5.0倍、0.2倍であり、腫瘍への集積性に比べて大幅に抑制されていた。
【0319】
10.AAV三元系複合体形成の機能性評価
<10.1. 概要>
AAV三元系複合体の機能性評価を実施した。具体的には、AAV三元系複合体による遺伝子発現効率を細胞実験と動物実験によって評価した。
【0320】
<10.2. 試薬>
特に記述のない試薬は市販品をそのまま使用した。
・AAV9-CMV-Luc(AAV) : SignaGen Laboratories.
・PEG-P[Lys(FBPA)10]20 (Mn=14,000)
・タンニン酸:(Mw=1,701) Wako Pure Chemical Industries Co., Ltd.
・D-PBS(-):Wako Pure Chemical Industries Co., Ltd.
・D-PBS(+):Wako Pure Chemical Industries Co., Ltd.
・Roswell Park Memorial Institute medium (RPMI):Sigma Aldrich Co., llc.
・Fetal bovine serum (FBS):BioseraInc.
・Trypsin-EDTA solution(Trp):Sigma life scienceCo., Ltd.
・Penicillin / streptomycin(PS):Sigma life scienceCo., Ltd.
・CT26細胞 (mouse colon carcinoma cell line):American Type Culture Collection.
・BALB/c mice : Charles River Japan Inc.
・Passive Lysis Buffer : Promega corporation.
・Luciferase Assay System(Luciferin溶液) : Promega corporation.
・Anti-AAV-9, Mouse-Mono : PROGEN
【0321】
<10.3. 測定機器>
・GloMax Multi Detection System:Promega corporation.
・富士ドライケム NX500:富士フィルム
【0322】
<10.4. 細胞実験によるAAV三元系複合体の遺伝子発現効率の評価>
[AAV, TA, PEG-P[Lys(FPBA)10]20の最終濃度]
・AAV9-CMV-Luc (単にAAVと略す):2.0 × 1010 vL/mL
・タンニン酸:2.0 × 10-4 mg/mL
・PEG-P[Lys(FBPA)10]20:2.2 × 10-3 mg/mL
これらは、それぞれ、D-PBS(-)に溶解させ調整した。
【0323】
AAV溶液と、タンニン酸溶液とを混合し、AAV/TA溶液を調整した。その後、AAV/TA溶液にPEG-P[Lys(FPBA)10]20を添加し、AAV、AAV/TA、及びAAV/TA/PEG-P[Lys(FPBA)10]20溶液(AAV三元系複合体溶液)を調整した。
【0324】
[細胞中でのAAV三元系複合体の取り込み量の評価]
RPMIにFBS、及びPSをそれぞれ10wt%、2wt%になるよう混合し、細胞用培地を調整した。CT26細胞を細胞用培地に懸濁させ、2.0×105 cells/mlの細胞懸濁液を調製した。この細胞懸濁液25 μlを96ウェルプレートに播き(1ウェル当たり5.0×103 cells)、調整した各溶液を、25 μl加え、37℃で72時間インキュベートした。所定時間インキュベートした後、溶液を除去してD-PBS(+)で洗浄を1回行い、Passive Lysis Bufferを50 μl加え37℃で15分間インキュベートした後、各細胞懸濁液20 μlを発光測定用白色プレート96F(MS-8096W,住友ベークライト)に移し、GloMax Multi Detection Systemを用いてLuciferin溶液を100 μl加え、発光強度測定した。得られた結果を図28に示した。図中では、AAV/TA/PEG-P[Lys(FPBA)10]20を、AAV/TA/ポリマーと表記している。
【0325】
図28に示される結果より、AAV三元系複合体を使用した場合のLuc遺伝子発現効率は、AAV単体を使用した場合と比較して、顕著に向上していることが明らかになった。
【0326】
<10.5. 動物実験によるAAV三元系複合体の遺伝子発現効率の評価>
[AAV, TA, PEG-P[Lys(FPBA)10]20の最終濃度]
・AAV9-CMV-Luc (単にAAVと略す):2.0 × 1012 vL/mL
・タンニン酸:2.0 × 10-2 mg/mL
・PEG-P[Lys(FBPA)10]20:2.2 × 10-1 mg/mL
これらは、それぞれ、D-PBS(-)に溶解させ調整した。
【0327】
AAV溶液と、タンニン酸溶液とを混合し、AAV/TA溶液を調整した。その後、AAV/TA溶液にPEG-P[Lys(FPBA)10]20を添加し、AAV、AAV/TA、及びAAV/TA/PEG-P[Lys(FPBA)10]20溶液(AAV三元系複合体溶液)を調整した。
【0328】
[CT26皮下腫瘍モデルマウスの作製]
CT26細胞懸濁液(1.0×106 cells/ml)をBalb/cマウスに対して100 μl皮下注射した。
【0329】
[体内動態の評価]
腫瘍サイズがおよそ200 mm3に達したモデルマウスに対して、上記の調製溶液100 μlを尾静脈投与した。試料投与から2週間後に解剖し、血液および臓器を回収した。臓器は、それぞれの重量を測り、1-3倍重量のPassive Lysis Buffer加えた後、ホモジナイズを行った。その後、ホモジナイズした懸濁液20μlにLuciferin溶液を100μl加え、GloMax Multi Detection Systemを用いて、各臓器の遺伝子発現量を測定した。各臓器のLuc遺伝子発現量について、各臓器のAAV単体でのLuc遺伝子発現量を1とした遺伝子発現比率の結果を図29に示す。図中では、AAV/TA/PEG-P[Lys(FPBA)10]20を、AAV/TA/ポリマーと表記している。
【0330】
図29の、各臓器における遺伝子発現比率の結果から、AAV三元系複合体の、肝臓、腎臓、心臓などの正常組織での遺伝子発現比率は、AAV単体と比べてそれぞれ、0.80倍、0.02倍、0.27倍と大幅に抑制された。一方、腫瘍におけるAAV三元系複合体の遺伝子発現比率は、AAV単体と比べて6.16倍に向上した。
【0331】
別途回収した血液に対して、5,000g × 10minute 20℃で遠心分離を行い、血漿成分を回収し、富士ドライケム NX500を用いて、ALT及びASTを測定して肝臓毒性を評価した。得られた結果を図30A、及び30Bに示す。
図30A、30Bに示される結果より、AAV/TA複合体ではALT及びASTが上昇したことから肝臓毒性が見られたが、AAV三元系複合体では、肝臓毒性は見られなかった。
【0332】
<10.6.細胞実験によるAAV三元系複合体のAAV9抗体を用いた際の遺伝子発現効率抑制の評価>
[AAV, TA, PEG-P[Lys(FPBA)10]20の最終濃度]
・AAV9-CMV-Luc (単にAAVと略す):2.0 × 1010 vL/mL
・タンニン酸:2.0 × 10-4 mg/mL
・PEG-P[Lys(FBPA)10]20:2.2 × 10-3 mg/mL
・Anti-AAV-9, Mouse-Mono(単にAAV抗体と略す):105、107倍に希釈
これらは、それぞれ、D-PBS(-)に溶解させ調整した。
【0333】
AAV溶液、タンニン酸溶液を混合させ、AAV/TA溶液を調整した。その後、PEG-P[Lys(FPBA)10]20を添加し、AAV、AAV/TA、AAV/TA/PEG-P[Lys(FPBA)10]20溶液(AAV三元系複合体溶液)を調整した。
【0334】
[細胞中でのAAV三元系複合体の取り込み量の評価]
CT26細胞をRPMIに懸濁させ、2.0×105 cells/mlの細胞懸濁液を調製した。この細胞懸濁液25 μlを96ウェルプレートに播き(1ウェル当たり5.0×103 cells)、調整した各AAV溶液を、25 μl、AAV抗体溶液を1μl加え、37℃で48時間インキュベートした。所定時間インキュベートした後、溶液を除去してD-PBS(+)で洗浄を1回行い、Passive Lysis Bufferを50 μl加え37℃で15分間インキュベートした後、各細胞懸濁液20 μlを発光測定用白色プレート96F(MS-8096W,住友ベークライト)に移し、GloMax Multi Detection Systemを用いてLuciferin溶液を100 μlを加え、発光強度を測定した。得られた結果を図31に示した。その際、AAV抗体を加えず各AAV溶液サンプルのみをCT26細胞とインキュベートさせた際の発光強度を100%として算出した。図中では、AAV/TA/PEG-P[Lys(FPBA)10]20を、AAV/TA/ポリマーと表記している。
【0335】
図31に示される結果より、AAV単体及びAAV/TA複合体は、AAV9抗体を添加することで、添加しない場合と比べて遺伝子発現効率が低下するが、AAV三元系複合体は、AAV9抗体を添加しても遺伝子発現効率が低下しないことが明らかになった。
【0336】
11.TUG1三元系複合体の薬物動態の評価
<11.1. 概要>
TUG1三元系複合体の機能性評価を実施した。具体的には、TUG1三元系複合体の血中滞留性を動物実験にて評価した。
【0337】
<11.2. 試薬及び細胞株>
特に記述のない試薬は市販品をそのまま使用した。
・Alexa647-TUG1 (単にTUG1と略す):8058.7 g/mol, GeneDesign, Inc.
・PEG-P[Lys(FBPA)10]20 (Mn=14,000)
・タンニン酸:(Mw=1,701) Wako Pure Chemical Industries Co., Ltd.
・D-PBS(-):Wako Pure Chemical Industries Co., Ltd.
・BALB/c mice : Charles River Japan Inc.
・Passive Lysis Buffer : Promega corporation.
【0338】
<11.3. 測定機器>
・Nikon A1R : Nikon Corporation
・ECLIPSE FN1 : Nikon Corporation
・Spark : Tecan Group Ltd.
Nikon A1R とECLIPSE FN1を組み合わせて、in vivo共焦点レーザー顕微鏡として使用した。
【0339】
<11.4. in vivo共焦点レーザー顕微鏡によるTUG1の血中滞留性の測定>
[TUG1, TA, PEG-P[Lys(FPBA)10]20の最終濃度]
・TUG1:6.25 μM
・タンニン酸:312.5 μM
・PEG-P[Lys(FBPA)10]20:625 μM
これらは、それぞれ、D-PBS(-)に溶解させ調整した。
【0340】
TUG1溶液と、タンニン酸溶液とを混合し、TUG1/TA溶液を調整した。その後、TUG1/TA溶液にPEG-P[Lys(FPBA)10]20を添加し、TUG1/TA/PEG-P[Lys(FPBA)10]20(TUG1三元系複合体)溶液を調整した。
【0341】
[in vivo共焦点レーザー顕微鏡によるTUG1の血中滞留性の測定]
モデルマウスに対して、上記の調製溶液200 μlを尾静脈投与した。その後、in vivo共焦点レーザー顕微鏡を用いて所定時間、TUG1の血中滞留性を測定した。得られた結果を図32及び表4に示す。図中では、TUG1/TA/PEG-P[Lys(FPBA)10]20を、TUG1/TA/ポリマーと表記している。
【0342】
【表4】
【0343】
得られた結果より、TUG1三元系複合体の血中滞留性が、TUG1およびTUG1/TAと比較して、劇的に延びていることが示された。
【0344】
<11.5.血液採取によるTUG1の血中滞留性の測定>
[TUG1, TA, PEG-P[Lys(FPBA)10]20の最終濃度]
・TUG1:6.25 nM
・タンニン酸:312.5 μM
・PEG-P[Lys(FBPA)10]20:625 μM
これらは、それぞれ、D-PBS(-)に溶解させ調整した。
【0345】
TUG1溶液と、タンニン酸溶液とを混合し、TUG1/TA溶液を調整した。その後、TUG1/TA溶液にPEG-P[Lys(FPBA)10]20を添加し、TUG1/TA/PEG-P[Lys(FPBA)10]20(TUG1三元系複合体)溶液を調整した。
【0346】
[血液採取によるTUG1の血中滞留性の測定]
モデルマウスに対して、上記の調製溶液200 μlを尾静脈投与した。試料投与から3時間後に解剖し、血液を回収した。血液は、5,000g × 10minute 20℃で遠心分離を行い、100μlの血漿成分を回収し、700 μlのPassive Lysis Bufferを加えた。その後、溶液およびサンプルの蛍光強度(Ex/Em : 640 nm/680 nm)をSparkで測定し、TUG1の血中滞留性を評価した。その結果を表5に示す。
【0347】
【表5】
【0348】
得られた結果より、TUG1三元系複合体の血中滞留性は、TUG1およびTUG1/TAと比較して、約40倍と高く、TUG1三元系複合体の血中滞留性が、劇的に延びていることが示された。
【0349】
12. まとめ
生理活性タンパク質の血中滞留性および血中安定性を向上させるため、本実施例では、タンパク質とタンニン酸から形成される複合体に、さらにボロン酸導入高分子を加えた三元系のタンパク質送達システムを構築した。モデルタンパク質としてGFPを用いたGFP/TA/PEG-P[Lys(FPBA)10]20は、pH応答性及びATP応答性を示した。GFP/TA/PEG-P[Lys(FPBA)10]20は、血中環境(pH: ~7.4)において安定した複合体を形成することが確認された。また、PEG-P[Lys(FPBA)10]20はPEG-FPBAと比較して、高い結合力でタンニン酸と結合することが確認された。さらに細胞内分布を測定したところ、リソソームとGFPが共局在することから、GFPがエンドサイトーシスで取り込まれていると示唆された。GFP/TA/PEG-P[Lys(FPBA)10]20で構成されたタンパク質送達システムでは、GFP単体およびGFP/TAと比較して、血中滞留性の向上に加えて、腫瘍集積性および滞留性が向上したことが示された。
【0350】
また、上記のタンパク質送達システムは、表3に示すように、タンパク質以外の分子をも内包でき、三元系複合体を形成できることが確認された。また、本送達システムを用いることで、内包された内包物の生体内動態を改善できることが示された。三元系複合体に内包したTUG1(核酸)では、TUG1単体及びTUG1/TAと比較して、顕著な血中滞留性が認められた。ローズベンガル(低分子医薬)では、ローズベンガル単体及びローズベンガル/TAと比較して、顕著な血中滞留性が認められた。
三元系複合体に内包したβGal(タンパク質)の細胞内活性を評価したところ、βGal単体と同等の活性が示された。また、三元系複合体に内包したAAV(ウイルスベクター)を用いて細胞の遺伝子発現効率を測定したところ、三元系複合体にすることで、導入された遺伝子の発現効率の向上が、確認された。
【0351】
各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。また、本発明は各実施形態によって限定されることはなく、請求項(クレーム)の範囲によってのみ限定される。
【符号の説明】
【0352】
1…複合体、2…ボロン酸基を有する高分子、3…ジオール構造を有する化合物、40…結合体と複合化する物質(複合要素)、4…タンパク質、10…結合体
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