IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ デューク ユニバーシティの特許一覧

特許7536295免疫毒素とチェックポイント阻害剤との組み合わせを用いるネオアジュバントがん処置
<>
  • 特許-免疫毒素とチェックポイント阻害剤との組み合わせを用いるネオアジュバントがん処置 図1
  • 特許-免疫毒素とチェックポイント阻害剤との組み合わせを用いるネオアジュバントがん処置 図2
  • 特許-免疫毒素とチェックポイント阻害剤との組み合わせを用いるネオアジュバントがん処置 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-09
(45)【発行日】2024-08-20
(54)【発明の名称】免疫毒素とチェックポイント阻害剤との組み合わせを用いるネオアジュバントがん処置
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/68 20170101AFI20240813BHJP
   A61K 47/65 20170101ALI20240813BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240813BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20240813BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240813BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240813BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240813BHJP
   C12N 15/31 20060101ALI20240813BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20240813BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20240813BHJP
   C07K 14/21 20060101ALI20240813BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20240813BHJP
   C07K 16/30 20060101ALI20240813BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20240813BHJP
   C12P 21/08 20060101ALN20240813BHJP
   C12P 21/02 20060101ALN20240813BHJP
【FI】
A61K47/68
A61K47/65
A61K39/395 L
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K38/16
A61K45/00
A61P43/00 121
A61P35/00
C12N15/31 ZNA
C12N15/62 Z
C12N15/13
C07K14/21
C07K16/28
C07K16/30
C07K19/00
C12P21/08
C12P21/02 C
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020564462
(86)(22)【出願日】2019-05-16
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-09-13
(86)【国際出願番号】 US2019032671
(87)【国際公開番号】W WO2019222504
(87)【国際公開日】2019-11-21
【審査請求日】2022-05-13
(31)【優先権主張番号】62/672,150
(32)【優先日】2018-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/675,263
(32)【優先日】2018-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/844,857
(32)【優先日】2019-05-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507189666
【氏名又は名称】デューク ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100137626
【弁理士】
【氏名又は名称】田代 玄
(72)【発明者】
【氏名】ビグナー ダレル
(72)【発明者】
【氏名】ナイール スミタ
(72)【発明者】
【氏名】チャンドラモハン ヴィディアラクシュミ
【審査官】田澤 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/079520(WO,A1)
【文献】Stephen V. Liu et al.,"Neoadjuvant Therapy for Breast Cancer",Journal of Surgical Oncology,2010年,Vol.101,p.283-291
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 45/00-47/69
38/00-39/44
A61P 1/00-43/00
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
C12P 21/00-21/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療有効量の免疫毒素、または免疫毒素と免疫チェックポイント阻害剤を含む、腫瘍を有する個体を処置する方法に用いるための組成物であって、前記方法は、
(a)腫瘍の外科的切除の前に、治療有効量の免疫毒素、または免疫毒素と免疫チェックポイント阻害剤とを個体に投与すること、
(b)腫瘍を切除する手術により、腫瘍負荷を減少させること、および
(c)腫瘍負荷の減少後に、免疫チェックポイント阻害剤を個体に投与すること、
を含み、免疫毒素が、PE38トランケート型Pseudomonas外毒素に融合された一本鎖可変領域抗体またはその抗原結合断片を含み、一本鎖可変領域抗体またはその抗原結合断片が、配列番号1~6を含む、組成物。
【請求項2】
一本鎖可変領域抗体が、配列番号7のVHおよび配列番号9のVLを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
PE38トランケート型Pseudomonas外毒素が、KDELペプチドに融合されている、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
一本鎖可変領域抗体とPE38トランケート型Pseudomonas外毒素との融合体が、配列番号11を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
腫瘍が、悪性神経膠腫である、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
腫瘍が、乳がんである、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
腫瘍が、頭頸部扁平上皮癌である、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
腫瘍が、肺がんである、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
免疫毒素が、腫瘍に直接投与される、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
免疫チェックポイント阻害剤が、PD-1抗体PD-L1抗体CTLA-4抗体LAG-3抗体TIM-3抗体、およびCSF-1R抗体からなる群から選択される、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
ステップ(a)において、腫瘍の切除の前に投与される免疫チェックポイント阻害剤が、免疫毒素の投与の数日前に投与される、請求項1~10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
腫瘍の切除の後に免疫チェックポイント阻害剤が複数回投与され、複数回投与が数日または数週間隔てて行われる、請求項1~11のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
腫瘍を有する個体の処置方法に用いるための医薬の製造における、治療有効量の免疫毒素、または免疫毒素と免疫チェックポイント阻害剤の使用であって、前記方法は、
(a)腫瘍の外科的切除の前に、治療有効量の免疫毒素、または免疫毒素と免疫チェックポイント阻害剤とを個体に投与すること、
(b)腫瘍を切除する手術により、腫瘍負荷を減少させること、および
(c)腫瘍負荷の減少後に、免疫チェックポイント阻害剤を個体に投与すること、
を含み、免疫毒素が、PE38トランケート型Pseudomonas外毒素に融合された一本鎖可変領域抗体またはその抗原結合断片を含み、一本鎖可変領域抗体またはその抗原結合断片が、配列番号1~6を含む、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年5月16日に出願された米国仮特許出願第62/672,150号、2018年5月23日に出願された米国仮特許出願第62/675,263号、および2019年5月8日に出願された米国仮特許出願第62/844,857号の優先権を主張し、それぞれの内容は参照によりその全体が組み込まれる。
連邦政府による資金提供を受けた研究開発の記載
本発明は、国立衛生研究所によって授与された連邦政府助成金番号:CA197264の下で政府による資金提供を受けてなされた。該政府は本発明において一定の権利を有する。
本発明は、抗腫瘍免疫療法の分野に関する。特に本発明は、ネオアジュバント療法における免疫毒素自体による、または免疫チェックポイント阻害剤と組み合わせた免疫毒素を用いるがん処置に関する。
【背景技術】
【0002】
神経膠芽腫は、すべての原発性脳腫瘍および中枢神経系腫瘍の中で最も厳しい悪性脳腫瘍である。現在の標準的処置または新規開発薬剤を用いてもなお、神経膠芽腫患者の生存期間の中央値は15か月未満である。したがって、神経膠芽腫の患者およびEGFR受容体を発現する他の腫瘍の低い生存見通しを改善するための高度かつ効率的な治療アプローチを開発する緊急の必要性がある。
【発明の概要】
【0003】
本発明の一態様によれば、ネオアジュバント療法によって個体の腫瘍を処置する方法が提供される。この方法では、個体は腫瘍を処置するための切除を以前に受けたことがない(例えば、腫瘍負荷を減少するための外科的処置がない)。ネオアジュバント療法によって個体の腫瘍を処置する方法は、有効量の免疫毒素、または免疫毒素と免疫チェックポイント阻害剤とを投与することを含み、該免疫毒素は、PE38トランケート型Pseudomonas外毒素に融合された抗体またはその抗原結合領域、適切には、一本鎖可変領域抗体を含み、次いで個体は腫瘍負荷を減少するために処置される。組み合わせ療法では、免疫毒素および免疫チェックポイント阻害剤は、同時にまたは連続的に関連して個体に投与され得る。外科的切除などにより、腫瘍負荷が減少され得る。このような腫瘍の切除は、免疫チェックポイント阻害剤と免疫毒素との投与後、2週間から数ヶ月の範囲の期間で行うことが可能である。免疫毒素は、PE38トランケート型Pseudomonas外毒素に融合された抗体またはその抗原結合領域、例えば一本鎖可変領域抗体を含み、一本鎖可変領域抗体は、配列番号1~6(「D2C7-IT」)に示すとおりCDR1、CDR2、およびCDR3領域を有する、またはその抗原結合断片を含む。
【0004】
本発明の別の態様によれば、がんのネオアジュバント免疫療法のための方法であって、a)PE38トランケート型Pseudomonas外毒素に融合された抗体またはその抗原結合領域、例えば一本鎖可変領域抗体を含む免疫毒素を、免疫チェックポイント阻害剤などの別の免疫療法剤と組み合わせて含む、免疫療法剤の組み合わせを、腫瘍を有する個体に治療有効量で投与すること(該免疫療法剤には、組み合わせ療法において連続的に投与される免疫毒素と免疫チェックポイント阻害剤とを含む)、b)該免疫療法剤を摂取した後に、個体の腫瘍負荷(例えば、腫瘍の量)を減少させるのに有効な手術、放射線療法、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される抗がん療法を用いて個体を処置すること(すなわち、免疫療法剤は、抗がん療法の前に投与される)を含む方法が提供される。免疫療法剤は、薬学的に許容できる担体の添加をさらに含み得る。一態様では、免疫毒素は、外毒素に融合された一本鎖可変領域抗体を含み、一本鎖可変領域抗体は、配列番号1~6(「D2C7-IT」)に示されるとおり、CDR1、CDR2、およびCDR3領域、またはその抗原結合断片を有する。
【0005】
この方法では、個体は腫瘍負荷を減少するための処置を以前に受けたことがない(例えば、腫瘍負荷を減少するための処置がない)。免疫チェックポイント阻害剤は、腫瘍を保持する個体に投与される。有効量の免疫毒素は個体に投与され、ここで該免疫毒素はEGFRwtおよびEGFRvIIIに結合することができる一本鎖可変領域抗体を含み(したがって、免疫毒素は、腫瘍細胞の細胞表面に発現されるEGFRwtおよびEGFRvIIIを標的とする)、そして該抗体はPE38トランケート型Pseudomonas外毒素に融合されている。一態様では、一本鎖可変領域抗体は、配列番号1~6に示されるとおり、CDR1、CDR2、およびCDR3領域またはその抗原結合断片を有する。免疫毒素を含むネオアジュバント療法の投与に続いて、個体は、腫瘍を切除する手術、または腫瘍負荷を減少する他の処置を受ける。このような腫瘍負荷の減少は、ネオアジュバント療法後2週間から数ヶ月の範囲の期間で行うことが可能である。任意に、ネオアジュバント療法は、腫瘍を保持する個体への免疫チェックポイント阻害剤の投与をさらに含み得る。
【0006】
本発明の別の態様によれば、本明細書に記載の方法の任意の1つは、腫瘍の切除後に、EGFRwtおよびEGFRvIIIを標的とする免疫毒素または免疫チェックポイント阻害剤の1つまたは複数を個体に投与することを含むアジュバント療法をさらに含み得る。例えば、切除後に免疫チェックポイント阻害剤が、維持療法において必要に応じて個体に投与され得る。別の例では、切除後に腫瘍が再発する場合、免疫毒素が個体に投与され得る。
【0007】
本発明のさらなる態様によれば、個体における腫瘍のネオアジュバント療法、ならびにEGFRwtおよびEGFRvIIIを標的とする免疫毒素の使用が提供され、任意に腫瘍のネオアジュバント療法における医薬または組成物としての免疫チェックポイント阻害剤の使用を含み、ここで腫瘍を保持する個体は、腫瘍を処置するための切除を以前に受けたことがない。一態様では、免疫毒素は、PE38トランケート型Pseudomonas外毒素に融合された一本鎖可変領域抗体またはその抗原結合断片を含み、該一本鎖可変領域抗体は、配列番号1~6に示されるとおり、CDR1、CDR2、およびCDR3領域を有し、そして腫瘍がEGFRwtおよびEGFRvIIIを標的とする治療有効量の免疫毒素で処置された後に任意に治療有効量の免疫チェックポイント阻害剤を含み、このような処置の後に、次いで腫瘍が切除される、または腫瘍負荷が別法で減少される。ネオアジュバント療法は、腫瘍の切除の後に、治療有効量の免疫毒素、または治療有効量の免疫チェックポイント阻害剤、またはそれらの組み合わせを投与することを含む、1つまたは複数の処置をさらに含み得る(維持療法)。
【0008】
EGFRwtおよびEGFRvIIIを標的とする免疫毒素を、腫瘍負荷を減少するための処置を以前に受けたことがない腫瘍を保持する個体に治療有効量で投与することを含む、個体における腫瘍のネオアジュバント療法が提供される。この方法は、有効量の免疫チェックポイント阻害剤を、腫瘍を保持する個体に投与することをさらに含み得、腫瘍負荷を減少する処置の前に投与する。一態様では、免疫毒素はPE38トランケート型Pseudomonas外毒素に融合された一本鎖可変領域抗体を含み、一本鎖可変領域抗体は配列番号1~6に示されるとおり、CDR1、CDR2、およびCDR3領域、またはその抗原結合断片を有する。別の態様では、腫瘍は免疫毒素、または免疫毒素と免疫チェックポイント阻害剤との組み合わせのいずれかを用いて処置され、次いで腫瘍が切除される。ネオアジュバント療法は、免疫毒素を単独で使用する、または免疫毒素と免疫チェックポイント阻害剤との組み合わせを使用するアジュバント療法と比較して治療上の利益の改善を提供する。治療上の利益としては、腫瘍部位周辺の炎症の減少(切除前および/または切除後)、全生存の改善、無病生存の改善、再発の可能性の低下(原発臓器および/または遠隔再発において)、転移性疾患の発生の低下、および抗腫瘍免疫応答の増加、または当業者に公知であり、かつ処置されるがんの種類に応じた適切な応答評価基準を使用する全体的な客観的奏効率の改善(例えば、リンパ腫については、Cheson et al.,2014,J.Clin.Oncology32 (27):3059-3067、固形非リンパ性腫瘍については、固形腫瘍の応答評価基準(RECIST)を参照)のうちの1つまたは複数を含み得る。
これらおよび他の態様は、本明細書を読むことで当業者に明らかになり、がんを処置する新しい治療レジメンを当技術分野に提供するであろう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】皮下CT2A-D2C7神経膠腫保持C57BL/6免疫応答性マウスにおけるD2C7-IT+(αCTLA-4またはαPD-1)mAbの組み合わせ療法のインビボでの有効性を示す図である。図1は、すべての処置群(D2C7-IT+αCTLA-4、D2C7-IT+αPD-1、αCTLA-4、αPD-1、D2C7-IT、ビヒクル対照)の移植後の最大100日目までの(該当する場合)日数に関連する生存パーセントを示す。
図2図2は、PBSで処置され、その後の腫瘍の切除が行われないマウス(-■-、PBS+切除なし)、D2C7-ITで処置され、その後の腫瘍の切除が行われないマウス(-▲-、D2C7-IT+切除なし)、PBSで処置され、その後の腫瘍の切除が行われるマウス(-▼-、PBS+切除あり)、およびD2C7-ITで処置され、その後の腫瘍の切除が行われるマウス(-◆-、D2C7-IT+切除あり)における腫瘍の移植後の日数に関連する腫瘍体積を示すグラフである。
図3図3は、すべての処置群(ビヒクル対照、D2C7-IT、D2C7-IT+αPD-1、D2C7-IT+αPD-L1、D2C7-IT+αTim-3、D2C7-IT+αLag-3、およびD2C7-IT+αCD73)の移植後の最大80日目まで(該当する場合)の日数に関連する皮下CT2A-D2C7神経膠腫保持C57BL/6免疫応答性マウスの生存パーセントを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明者らは、D2C7モノクローナル抗体(mAb)からの一本鎖可変断片(scFv)を、任意にKDELペプチドに融合されたPseudomonas外毒素A(PE)と融合させることにより、標的免疫毒素(IT)であるD2C7-(scdsFv)-PE38KDEL(D2C7-IT、配列番号11)を開発した。D2C7-ITは、神経膠芽腫で過剰発現する2つのタンパク質である野生型上皮成長因子受容体(EGFRwt)およびEGFR変異体III(EGFRvIII)の両方と反応する。D2C7-ITの強力な抗腫瘍効果は、免疫不全マウスの同所性神経膠腫異種移植片モデルにおいてPEを通じて媒介される。直接的な腫瘍細胞の殺傷に加えて、免疫毒素単剤療法は、T細胞の関与を通じて二次的な抗腫瘍免疫応答を誘導する。ネオアジュバント療法において免疫毒素が、免疫チェックポイント阻害剤との組み合わせレジメンにおいて投与される場合、改善された結果および相乗結果が観察される。
【0011】
抗体に結合することができる他の部分には、さらなる有益な特性を提供するものが含まれる。例えば、KDEL(lys-asp-glu-leu)テトラペプチドは、タンパク質のカルボキシ末端に付加されて、小胞体での滞留をもたらすことが可能である。同様に機能するDKEL、RDEL、およびKNELなどの変異体も使用され得る。本明細書に記載される一本鎖可変領域抗体は、D2C7モノクローナル抗体から誘導した。D2C7抗体の抗原結合領域を含む他の抗体誘導体もまた、本明細書に記載の方法において有用であり得る。D2C7モノクローナル抗体の抗原結合能力を維持する本明細書に記載の抗体および一本鎖可変領域抗体のこれらの抗原結合領域または断片はまた、一本鎖可変領域抗体の断片、および本明細書に記載の一本鎖可変領域抗体などのD2C7抗体の断片を含む方法において有用であり得る。他の抗原結合領域には、Fab、scFv、および単一ドメイン、または全6つのCDRよりも少ないCDRを含む小型抗体を含み得る。本明細書に記載の方法で使用するために、免疫毒素は、PE38トランケート型Pseudomonas外毒素に融合された一本鎖可変領域抗体を含む。いくつかの態様では、一本鎖可変領域抗体は、配列番号1~6に示されるとおり、CDR1、CDR2、およびCDR3領域またはその抗原結合断片を有する。「その抗原結合断片」とは、配列番号1~6として同定されるCDRの2つ以上、好ましくは配列番号1~6のCDRの3つ以上、あるいは配列番号1~6のCDRの4つ以上、あるいは配列番号1~6のCDRの5つ以上を含むEGFRwtおよびEGFRvIIIに特異的かつ選択的に結合することができるペプチドを指す。例えば、その抗原結合断片は、(a)配列番号7のVH鎖、(b)配列番号9のVL鎖、(c)適切なリンカーによって結合される配列番号7および9のVHおよびVL鎖の両方、(d)配列番号8のリンカーによって結合される配列番号7および9のVHおよびVL鎖、(e)EGFRwtおよびEGFRvIIIに特異的に結合する能力を保持する、VHのCDR1(配列番号1)、VHのCDR2(配列番号2)、VHのCDR3(配列番号3)、ならびにVLのCDR1(配列番号4)、VLのCDR2(配列番号5)、およびVLのCDR3(配列番号6)から選択される重鎖および軽鎖からのCDRの2つ以上の任意の組み合わせ、(f)配列番号7~を連続して含むペプチド、ならびに(g)それらの任意の組み合わせを含むことができる。その抗原結合断片のいずれか1つを、PE38KDEL(配列番号10)などのPE38トランケート型Pseudomonas外毒素に融合させることができる。免疫毒素の1つの適切な例は、配列番号11(この免疫毒素をコードするDNA配列は配列番号12に見出される)または配列番号11に対して少なくとも90%の配列同一性を有する配列で提供される。「選択的」または「特異的」とは、一本鎖可変領域抗体またはその断片が、EGFRwtおよびEGFRvIII(腫瘍細胞に見られる)に結合できるが、正常細胞に見られる他の受容体には結合しないことを意味する。
【0012】
処置が可能である腫瘍は、D2C7抗体またはその抗原結合断片と反応する任意の腫瘍である。これらには、これらに限定されないが、少なくとも1つのEGFRvIII対立遺伝子が存在する腫瘍を含む。これらは、乳房、頭頸部、脳、多形神経膠芽腫、星状細胞腫、肺、またはその他の腫瘍に見出される。治療前にこのような対立遺伝子の存在を測定することが望ましい場合がある。これは、PCRなどのオリゴヌクレオチドベースの技術を使用して、または免疫組織化学などの免疫学的技術を使用して行うことができる。EGFRおよび/またはEGFRvIIIを発現する腫瘍内の細胞の量、画分、比率、またはパーセンテージを測定することが望ましい場合がある。表面にEGFRを発現する細胞が多いほど、このような抗体療法はより有益である可能性がある。EGFRvIIIをほとんどまたは全く発現しない腫瘍でさえ、野生型EGFRに結合する抗体の能力によって処置され得る。任意にD2C7抗体との反応性について処置前に腫瘍が検査され得る。免疫毒素自体は、処置前、処置中、または処置後に免疫組織化学剤として使用することができる。二次試薬は、検出のために免疫毒素とともに使用することができる。二次試薬は、例えば、免疫毒素のPseudomonas成分を認識することができる。
【0013】
免疫毒素は、当技術分野で公知の任意の技術によって投与することができる。EGFRを発現する正常組織の細胞毒性を回避するために、コンパートメント送達が望ましい場合がある。適切なコンパートメント送達方法には、これらに限定されないが、脳への送達、外科的に作成される腫瘍切除腔への送達、天然の腫瘍嚢胞への送達、および腫瘍実質への送達を含む。
【0014】
本発明の方法によって処置が可能である腫瘍は、野生型、EGFRvIII、または他の変異体であるかどうかにかかわらず、上皮成長因子受容体(EGFR)を発現する任意の腫瘍である。好ましくは、腫瘍は、正常組織による発現をはるかに超える量で受容体を発現する。高レベルの発現のメカニズムは、遺伝的または後成的であるかどうかにかかわらず、遺伝的増幅または他の変化による可能性がある。処置が可能である例示的な腫瘍には、限定されることなく、悪性神経膠腫、乳がん、頭頸部扁平上皮癌、肺がんを含む。
【0015】
T細胞免疫チェックポイント受容体の遮断は、これらに限定されないが、PD-1、PD-L1、TIM-3、LAG-3、CTLA-4、およびCSF-1Rを含む任意のそのような標的、ならびにそのようなチェックポイント阻害剤の組み合わせに対して行われ得る。免疫チェックポイント受容体は、限定されることなく、T細胞、単球、小神経膠細胞、およびマクロファージなどの免疫細胞上に存在し得る。免疫チェックポイント遮断を有効にする薬剤は、小化学物質またはポリマー、抗体、抗体断片、一本鎖抗体、またはこれらに限定されないが二重特異性抗体およびダイアボディを含む他の抗体構築物であり得る。
【0016】
本発明に従い使用され得る免疫チェックポイント阻害剤は、細胞傷害性T細胞と腫瘍細胞との阻害性相互作用を破壊する任意の免疫チェックポイント阻害剤である。これらは、これらに限定されないが、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、抗CTLA4抗体、抗LAG-3抗体、および/または抗TIM-3抗体を含む。米国で承認されているチェックポイント阻害剤には、アテゾリズマブ、イピミルマブ(ipimilumab)、ペムブロリズマブ、およびニボルマブを含む。第3相臨床試験中の他のものには、チスレリズマブを含む。該阻害剤は抗体である必要はなく、小分子または他のポリマーであることが可能である。該阻害剤が抗体である場合、それは、ポリクローナル、モノクローナル、断片、一本鎖、または他の抗体変異体構築物であることが可能である。阻害剤は、これらに限定されないが、CTLA-4、PDL1、PDL2、PD1、B7-H3、B7-H4、BTLA、HVEM、TIM3、GAL9、LAG3、VISTA、KIR、2B4、CD160、CGEN-15049、CHK1、CHK2、A2aR、およびB-7ファミリーのリガンドを含む、当技術分野で公知の任意の免疫チェックポイントを標的とすることができる。単一の標的免疫チェックポイントのための阻害剤の組み合わせまたは様々な免疫チェックポイントのための様々な阻害剤の組み合わせを使用することができる。さらに、CSF-1Rの遮断が免疫チェックポイント阻害剤との組み合わせにおいて、または免疫チェックポイント阻害剤の代替として使用され得、遠隔転移および再発腫瘍を効果的に排除する強力かつ持続的な免疫の生成を確実にすることができる。CSF-1Rに特異的な抗体またはCSF-1Rを阻害もしくは遮断する薬物はこの目的に使用することができ、これらに限定されないが、エマクツズマブおよびAMG820を含む。チェックポイント阻害剤は市販されており、当技術分野で公知である。例えば、とりわけ、抗CTL4抗体であるトレメリムマブは、MedImmune(AstraZeneca)から入手可能であり、かつ米国特許第6682736号および欧州特許第1141028号に記載されており、アテゾリズマブは、Genentech,Inc.(Roche)から入手可能な抗PD-L1であり、かつ米国特許第8217149号に記載されており、抗CTLA-4であるイピミルマブは、Bristol-Myers Squibb Coから入手可能であり、とりわけ米国特許第7605238号、第6984720号、第5811097号、および欧州特許第1212422号に記載されており、抗PD-1抗体であるペムブロリズマブは、Merck and Coから入手可能であり、かつ米国特許第8952136号、第83545509号、第8900587号および欧州特許第2170959号に記載されており、抗PD-1抗体であるニボルマブは、Bristol-Myers Squibb Coから入手可能であり、かつ米国特許第7595048号、第8728474号、第9073994号、第9067999号、第8008449号、および第8779105号に記載されており、チスレリズマブは、BeiGeneから入手可能であり、かつ米国特許第8735553号に記載されている。
【0017】
免疫毒素との組み合わせ療法で使用することができるCSF-1Rの阻害剤の例は、限定されることなく、臨床開発中の以下の薬剤:PLX3397、PLX486、RG7155、AMG820、ARRY-382、FPA008、IMC-CS4、JNJ-40346527、およびMCS110を含む。これらのCSF-1R阻害剤は市販されており、例えば、とりわけ、Genentech/Rocheから入手可能であるチロシンキナーゼ受容体コロニー刺激因子1受容体(CSF1R)に結合するヒト化モノクローナル抗体であるエマクツズマブ(RG7155)であり、かつ米国特許出願公開第20110165156号、米国特許第9499624号、第9499626号、および第9499625号に記載されており、抗CSF1モノクローナル抗体であるAMG820はAmgenから入手可能であり、かつ第8182813号に記載されており、CSF-1Rの阻害剤であるPLX3397(ペキシダルチニブ、5-[(5-クロロ-1H-ピロロ[2,3-b]ピリジン-3-イル)メチル]-N-{[6-(トリフルオロメチル)-3-ピリジニル]メチル}-2-ピリジンアミン)およびPLX7486はPlexxikonから入手可能であり、CSF1Rキナーゼ阻害剤であるARRY-382はArray BioPharma Inc.から入手可能であり、FPA008(カビラリズマブ)はFive Prime Therapeuticsから入手可能であり、かつWO2016106180に記載されており、抗CSF1R抗体であるIMC-CS4はImClone(Eli Lillyの子会社)から入手可能であり、かつWO2011123381に記載されており、抗CSFR1抗体(エジコチニブとしても公知の小分子4-シアノ-1H-イミダゾール-2-カルボン酸N-(2-(4,4-ジメチルシクロヘキサ-1-エニル)-6-(2,2,6,6-テトラメチルテトラヒドロピラン-4-イル)ピリジン-3-イル)アミド)であるJNJ-40346527はMedKoo Biosciencesから入手可能であり、および抗M-CSFモノクローナル抗体であるMCS110はラクノツズマブとしても公知であり、Novartisから入手可能であり、かつPCT特許公開WO2007016240A2に記載されている。
【0018】
ネオアジュバント療法の方法では、治療有効量の1つまたは複数の免疫療法剤(EGFRwtおよびEGFRvIIIを標的とする免疫毒素、または該免疫毒素と免疫チェックポイント阻害剤)が、個体が腫瘍負荷の減少を受ける前に投与される。通常、2つの免疫療法剤を使用する場合、これらの薬剤は互いに数日以内に投与される。例えば、免疫チェックポイント阻害剤が投与され、続いて該免疫チェックポイント阻害剤の投与の30、28、21、14、10、9、8、7、6、5、4、3、2、または1日後に免疫毒素が投与される。あるいは、免疫チェックポイント阻害剤を投与する前に免疫毒素を投与することが有利である可能性があり、免疫毒素を摂取した後に数日以内に個体に免疫チェックポイント阻害剤が投与される。免疫毒素による細胞傷害性Tリンパ球応答のプライミングには、約5~約14日かかる可能性がある。チェックポイント阻害剤の投与は、このようなプライミング期間の前、期間中、または期間後に有益に開始され得る。免疫チェックポイント阻害剤は、特定の阻害剤について当技術分野で公知の任意の適切な手段によって投与することができる。これらには、静脈内、経口、腹腔内、舌下、髄腔内、腔内、筋肉内、および皮下を含む。
【0019】
小児腫瘍と成人腫瘍の両方を含む、いずれのヒト腫瘍も、このネオアジュバント療法の方法によって処置することができる。腫瘍は、任意の臓器、例えば、脳、前立腺、乳房、肺、結腸、および直腸に存在する可能性がある。例えば、神経膠芽腫、髄芽腫、癌腫、腺癌などを含む様々な種類の腫瘍が処置され得る。腫瘍の他の例には、副腎皮質癌、肛門がん、虫垂がん、グレードI(退形成性)星状細胞腫、グレードII星状細胞腫、グレードIII星状細胞腫、グレードIV星状細胞腫、中枢神経系の非定型奇形腫様/ラブドイド腫瘍、基底細胞癌、膀胱がん、乳房肉腫、気管支がん、気管支肺胞癌、子宮頸がん、頭蓋咽頭腫、子宮内膜がん、子宮体がん、上衣芽細胞腫、上衣細胞腫、食道がん、鼻腔神経芽細胞腫、ユーイング肉腫、頭蓋外胚細胞腫瘍、性腺外胚細胞腫瘍、肝外胆管がん、線維性組織球腫、胆嚢がん、胃がん、消化管カルチノイド腫瘍、消化管間質腫瘍、妊娠性絨毛腫瘍、妊娠性絨毛腫瘍、神経膠腫、頭頸部がん、肝細胞がん、肝門部胆管癌、下咽頭がん、眼内黒色腫、膵島細胞腫瘍、カポジ肉腫、ランゲルハンス細胞組織球増加症、大細胞未分化肺癌、喉頭がん、唇がん、肺腺癌、悪性線維性組織球腫、髄上皮腫、黒色腫、メルケル細胞癌、中皮腫、内分泌腺新生物、鼻腔がん、鼻咽頭がん、神経芽細胞腫、口腔がん、口腔咽頭がん、骨肉腫、卵巣明細胞癌、上皮性卵巣がん、卵巣胚細胞腫瘍、膵臓がん、乳頭腫症、副鼻腔がん、副甲状腺がん、陰茎がん、咽頭がん、松果体実質腫瘍、松果体芽細胞腫、下垂体腫瘍、胸膜肺芽腫、腎細胞がん、15番染色体の変化を伴う気道がん、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、唾液腺がん、小細胞肺がん、小腸がん、軟部肉腫、扁平上皮癌、扁平上皮非小細胞肺がん、頸部扁平上皮がん、テント上原始神経外胚葉腫瘍、テント上原始神経外胚葉腫瘍、精巣がん、咽喉がん、胸腺癌、胸腺腫、甲状腺がん、腎盂がん、尿道がん、子宮肉腫、膣がん、外陰がん、およびウィルムス腫瘍を含む。腫瘍負荷の減少とは、腫瘍のすべてまたは十分な量(デバルキング)を除去する(例えば、手術または「切除」)または破壊する(例えば、放射線療法)ことによって、残存する腫瘍の量を減少させることを指す。
【0020】
EGFRwtおよびEGFRvIIIを標的とする免疫毒素、または該免疫毒素と1つまたは複数の免疫チェックポイント阻害剤を投与し、続いて腫瘍を外科的に除去する、または腫瘍負荷を減少することを含むネオアジュバント療法に加えて、個体の処置は、化学療法、生物学的療法、および放射線療法の1つまたは複数を含み得る。これらの様式は、特定のヒト腫瘍の処置のための現行の標準のケアであり得る。ネオアジュバント療法は、腫瘍を処置するための標準のケアの前、ケアの中、ケアの後に投与され得る。例えば、ネオアジュバント療法を含む免疫毒素と免疫チェックポイント阻害剤との組み合わせは、標準のケアの失敗後に投与され得る。組み合わせが特定されている場合、それは、単一の組み合わせレジメン内の2つの別個の薬剤として別々の時間に投与され得る。あるいは、2つ(またはそれ以上)の薬剤が混合されて投与され得る。
【0021】
免疫毒素は、高レベルの標的腫瘍抗原を発現するがん細胞を直接殺傷することができる。免疫毒素単剤療法は、免疫不全マウスにおける異種移植片悪性脳腫瘍モデルにおいて、PDPN、EGFRwtおよび/またはそのトランケート型変異体であるEGFRvIIIなどの標的エピトープを発現する腫瘍細胞を効率的かつ直接的に破壊することができる。免疫毒素療法は、マウス神経膠腫モデルおよび他の腫瘍モデルにおいて二次抗腫瘍免疫応答を誘導することができ、これは直接殺傷するメカニズムとは異なり、免疫系の協力を必要とする。悪性脳腫瘍は常に不均一な塊であるため、いくつかの腫瘍細胞は、エピトープの欠如により免疫毒素療法の直接的な標的攻撃から逃れることができる可能性がある。このため、免疫毒素によって刺激される二次抗腫瘍免疫応答は、直接標的とされていないこれらの腫瘍細胞を排除する上で重要な役割を果たし得る。
【0022】
最近、いくつかの研究により、CTLA4およびPD1などの共阻害性分子を抑制することにより、マウス神経膠腫モデルにおいて腫瘍の退縮および生存の改善が達成されたことが成功裏に実証された。有望な前臨床データに基づいて、いくつかの臨床試験では、単剤療法または他の抗腫瘍剤との組み合わせ療法のいずれかとして悪性脳腫瘍を処置するための免疫チェックポイント阻害剤の利用について調査することが始められている。
【0023】
しかしながら、神経膠芽腫を含む悪性神経膠腫は、変異率が比較的に低く、これにより生成される腫瘍抗原は少なくかつ捉えにくい可能性があり、免疫療法によく応答する他の腫瘍の種類、例えば黒色腫およびNSCLCと比べて、比較的劣った基礎免疫原性をもたらす。それ故、免疫毒素および免疫チェックポイント阻害剤を使用する標的細胞毒性免疫療法の組み合わせは、相乗的な抗腫瘍効果を提供することが可能である。
【0024】
所望の組み合わせ療法アプローチは、副作用を制限し、かつ長期の抗腫瘍免疫を達成するために、免疫毒素を含むより低用量の標的細胞毒性免疫療法を有することが可能である。免疫毒素療法は、高レベルの標的抗原を発現するがん細胞を、独自の細胞毒性メカニズムを通じて効率的かつ直接的に殺傷することができる。局所免疫毒素療法によって破壊されるがん細胞は、腫瘍抗原および/または他の新抗原を放出する。次いで、これらの抗原は、局所流入領域リンパ節においてAPCによって宿主T細胞に提示され得、これによりCTLが活性化され、腫瘍部位で特定の腫瘍抗原を発現する残りの腫瘍細胞または再発腫瘍細胞が移動および排除される。このプロセス全体を通して、T細胞とAPCの間、および/またはT細胞と腫瘍細胞の間の様々な共阻害性チェックポイント経路は、T細胞を非活性化し、抗腫瘍免疫の継続および強度を調整するための様々なメカニズムを引き起こすことが可能である。抗CTLA4および抗PD1mAbなどの免疫チェックポイント阻害剤は、これらの免疫抑制的経路を遮断することができ、それ故、標的免疫毒素療法によって活性化されるリンパ球によって引き起こされる腫瘍細胞死を増大させることができる。
本発明の説明で使用される用語は、腫瘍学および医学において当業者によって十分に理解されると考えられるが、本明細書で提供される定義は、本発明の説明を容易にし、かつ用語の使用のために例示的な実施例を提供するために明記される。
本明細書で使用される場合、「a」、「an」、および「the」という用語は、単数が明示的に指定されない限り、「1つまたは複数」を意味する(例えば、単数とは、「a single agent(単一の薬剤)」などという句で明示的に指定される)。
【0025】
本明細書で使用される場合、「薬学的に許容できる担体」という用語は、本明細書に記載される組成物または組み合わせの投与、送達、貯蔵、安定性のいずれか1つまたは複数において有用な任意の化合物または組成物または担体媒体を意味する。これらの担体は当技術分野で公知であり、これらに限定されないが、製薬業界で広く知られるとおり、希釈剤、水、生理食塩水、適切なビヒクル(例えば、リポソーム、微粒子、ナノ粒子、乳濁液、カプセル)、緩衝液、追跡剤、医療用非経口ビヒクル、賦形剤、水溶液、懸濁液、溶剤、乳濁液、洗剤、キレート剤、可溶化剤、塩、着色剤、ポリマー、ヒドロゲル、界面活性剤、乳化剤、アジュバント、充填剤、保存剤、安定剤、油、結合剤、崩壊剤、吸収剤、香味剤などを含む。
【0026】
「ネオアジュバント療法」とは、本明細書では、腫瘍を保持する個体が腫瘍を除去もしくはその量を減少するための手術、または腫瘍負荷を減少するための他の処置を受ける前に、個体に与えられる抗がん療法を指すために使用される。手術には、腫瘍の全切除または部分切除を含めることができる。ネオアジュバント療法は、後続の切除を容易にし得る腫瘍負荷の減少をもたらし得る。
「アジュバント療法」とは、本明細書では、腫瘍の切除の手術後、または腫瘍負荷を減少する他の方法が最初に実施された後にがん療法を投与することを指すために使用される。
「維持療法」とは、本明細書では、疾患の進行または再発の可能性を低減するために与えられる治療レジメンを指すために使用される。維持療法は、治療への応答を評価するための臨床パラメーターの評価に応じて、任意の長さの期間提供されることが可能である。
【0027】
「生存」とは、本明細書では、処置後に生存している個体を指すために使用され、全生存および無病生存を含む。生存は通常、カプランマイヤー法によって測定される。無病生存とは、処置を受けた個体が、がんの再発の兆候なしに生存していることを指す。全生存とは、個体が定義された期間生存していることを指す。
上記の開示は、本発明を一般的に説明するものである。以下の特定の実施例を参照することにより、より完全な理解を得ることができ、これらは、例示のみを目的として本明細書に提供され、かつ本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【実施例
【0028】
(実施例1)
免疫毒素D2C7-ITを単独で使用して、腫瘍を有する個体において第I相臨床試験を実施する。腫瘍は再発性神経膠芽腫(GBM)であり、腫瘍切除後にD2C7-ITを単独で投与した(アジュバント療法)。2018年4月11日の時点で、41人の患者はD2C7-ITの単回腫瘍内投与の第I相用量漸増試験で処置されていた。17個の用量レベルが調査されていた(用量レベル1=40ng/mL)。用量レベル17(35,032ng/mL)を用量制限として識別した。耐用量の中央値(第2相用量)を確認するために、追加の患者が用量レベル16(23,354ng/mL)において現在登録している。用量レベル2(80ng/mL)の1人の患者は、32.7か月を超えた後に、D2C7-IT注入以来に追加治療なしで無病のままである。さらに、追加処置なしの腫瘍応答は、用量レベル10(2,050ng/mL)で処置された1人の患者および用量レベル13(6,920ng/mL)で処置された1人の患者において、処置後の現時点でそれぞれ12.8か月および6.8か月を超えて観察されている。3人の患者が現時点で死亡しており、23.7か月、23.2か月、および21.4か月間生存した。2人の追加の患者がD2C7-ITの腫瘍内注入後18.9か月および18.2か月を超えて生存している。
【0029】
(実施例2)
D2C7-(scdsFv)-PE38KDEL免疫毒素の構築、発現、および精製。D2C7のVHドメインのカルボキシル末端を、15個のアミノ酸ペプチドの(Gly4Ser)3リンカーによってVLドメインのアミノ末端に連結した。安定なITを得るためには、再生の間にVHがVLの近くに配置されることが不可欠である。これは、安定化ジスルフィド結合を形成するために、各鎖の単一の鍵となる残基をシステインに変異することによって達成した。分子モデリングおよび他のdsFv組換えITでの経験的データを使用した予測に基づいて、本発明者らは、システインに変異する各鎖における1つのアミノ酸を選択した。これらは、VHのフレームワーク領域2(FR2)における残基44およびVLのFR4における残基100である(Kabat番号付けに従う)。したがって、本発明者らは、ペプチドリンカーと、VHのSer44およびVLのGly100を置換するシステイン残基によって生成されるジスルフィド結合の両方を含有するFvを調製した。次いで、D2C7(scdsFv)PCR断片をPseudomonas外毒素AのドメインIIおよびIIIのDNAに融合した。本明細書で使用されるPseudomonas外毒素Aの型であるPE38KDELは、その細胞内滞留を増加させ、次いで細胞毒性を高める改変C末端を有する。D2C7-(scdsFv)-PE38KDEL(DNA配列 配列番号12)は、T7プロモーターの制御下で大腸菌(E.coli)において発現し、封入体として回収した。
【0030】
(実施例3)
この実施例は、がんのアジュバント療法を説明するものである。D2C7-IT抗原マウスEGFRvIII(dmEGFRvIII)を過剰発現するマウス神経膠腫株であるCT-2A-dmEGFRvIII-Lucを確立した。CT-2A-dmEGFRvIII-Luc(ホタルルシフェラーゼまたは「FFLuc」を発現するように改変された腫瘍細胞)細胞に対するD2C7-ITの反応性および治療効果を、フローサイトメトリーおよびインビトロでの細胞毒性アッセイによってそれぞれ測定した。CT-2A-dmEGFRvIII-Lucを、フローサイトメトリーによってMHCクラスIおよびPD-L1の発現についてさらに分析した。D2C7-ITもしくはαCTLA-4もしくはαPD-1の単剤療法またはD2C7-IT+αCTLA-4もしくはD2C7-IT+αPD-1の組み合わせ療法のインビボでの有効性を頭蓋内CT-2A-dmEGFRvIII-Luc神経膠腫保持C57BL/6免疫応答性マウスで評価した。この腫瘍のアジュバント処置のために、60匹のマウスを6つの処置群(ビヒクル対照、D2C7-IT、αPD-1、αCTLA-4、D2C7-IT+αPD-1、およびD2C7-IT+αCTLA-4、10~12匹のマウス/群)に無作為化し、そして6~9日目に、対流増強送達(CED)により総用量0.1μgのD2C7-IT/ビヒクル対照で治療した。CT-2A-dmEGFRvIII-Lucの移植後、250μg/用量のラットIgG2aアイソタイプ対照抗体、αPD-1抗体、または100μg/用量のαCTLA-4抗体を5回の投与で、6、9、12、15、および18日目に腹腔内注射により送達した。処置に対する頭蓋内(ic)腫瘍の抗腫瘍応答を、特定の神経学的終点(発作活動、反復旋回、または食欲不振などの他の微細な変化)または死亡までの時間の増加パーセントによって評価した。動物は、苦痛の徴候または神経学的症状の発症が1日に2回観察され、その時点でマウスを安楽死させた。D2C7-IT+αPD-1の組み合わせ療法群において、有意な腫瘍増殖遅延(生存の中央値において120%増加)および治癒率(4/12マウス)が観察され、そしてD2C7-IT+αCTLA-4の組み合わせ療法群において、有意な腫瘍増殖遅延(生存の中央値において80%増加)が観察された(図1)。
【0031】
以下の変更を加えて、この実験を繰り返した。D2C7-ITを、追加の免疫チェックポイント阻害剤:抗Tim-3抗体(図3、「αTim-3」)、抗Lag-3抗体(図3、「αLag-3」)、抗PD-L1抗体(図3、「αPD-L1」)および抗CD73抗体(図3、「αCD73」)との組み合わせ療法において使用した。したがって、異なる組み合わせ療法は、D2C7-IT+αPD-1、D2C7-IT+αPD-L1、D2C7-IT+αTim-3、D2C7-IT+αLag-3、およびD2C7-IT+αCD73を含んだ。また免疫チェックポイント阻害剤を用いる投薬は、D2C7-ITの投与前に開始した。これに関して、該免疫チェックポイント阻害剤を3、6、9、12、および15日目に投与し、かつD2C7-ITを6~9日目に投与した(D2C7-ITについて上記のとおり)。図3に示すとおり、D2C7-ITと免疫チェックポイント阻害剤αPD-L1の組み合わせ療法における使用の結果、他の療法およびビヒクル対照と比較して生存が有意に増加した。
【0032】
(実施例4)
この実施例は、この処置後に個体における腫瘍負荷が減少する有効量の免疫毒素(例えば、D2C7-IT)を個体に投与することを含む、個体における腫瘍のネオアジュバント療法を説明するものである。雌のC57Bl6/J(約20g;7~8週)マウスに、100μlのPBSに懸濁した3x106個のCT2A-mEGFRVIII-D2C7-FFLuc細胞を右脇腹に皮下注射した。移植された腫瘍が50~100mm3に達したときに腫瘍負荷を減少するための手術あり、または手術なしのビヒクルまたはネオアジュバント(D2C7-IT)を投与することについて、治療群あたり10匹のマウスを無作為に選択した。試験マウスを12日目(腫瘍接種後)に20μlのPBSに希釈した4μgのD2C7-(scdsFv)-PE38KDELの単回腫瘍内(i.t.)注射で処置した。対照マウスは同じ様式で取り扱い、20μlのPBSのみで処置した。腫瘍接種後18日目およびネオアジュバント療法の7日後に、対照およびネオアジュバント療法マウスの1セットを未治療のままにし、一方で対照およびネオアジュバント療法マウスの第2のセットを、0.5~1.5mm3の推定腫瘍体積を残す腫瘍の部分切除に供した。腫瘍を手持ち式デジタルキャリパーで週に3回測定し、腫瘍体積を次の式を使用して立方ミリメートルで計算した:([長さ]×[幅2])/2。腫瘍体積が1500~2000mm3に達した場合、または腫瘍潰瘍(開放創)が発生した場合にはこの研究から除外して動物を試験した。図2に示すとおり、PBSで処置し、その後の腫瘍の切除が行われないマウス(-■-、PBS+切除なし)では、腫瘍が完全に退縮したマウスは0/10匹であった。D2C7-ITで処置され、その後の腫瘍の切除が行われないマウス(-▲-、D2C7-IT+切除なし)では、腫瘍が完全に退縮したマウスは0/10匹であった。PBSで処置し、その後の腫瘍の切除が行われるマウス(-▼-、PBS+切除あり)では、腫瘍が完全に退縮したマウスは2/10匹であった。そして、D2C7-ITで処置し、その後の腫瘍の切除が行われるマウス(-◆-、D2C7-IT+切除あり)では、腫瘍が完全に退縮したマウスは5/10匹であった。したがって、腫瘍を保持する個体を処置するためにネオアジュバントアプローチを使用する場合、腫瘍の退縮の増加という治療上の利益が観察される。この実施例におけるネオアジュバント療法アプローチの別の例は、EGFRwtおよびEGFRvIIIを標的とする有効量の免疫毒素の投与と組み合わせた(連続した)有効量の免疫チェックポイント阻害剤の投与を含むことであり、腫瘍の外科的切除、または腫瘍負荷を減少するための他の方法の前に両方とも投与される。D2C7-ITを単独で使用するネオアジュバントアプローチが治療上の利益をもたらすことを考慮すると、免疫チェックポイント阻害剤との組み合わせにおいてD2C7-ITと免疫チェックポイント阻害剤とを使用するネオアジュバントアプローチを使用する治療上の利益は(一部、このような組み合わせ療法から治療上の利益が観察されるため)明らかになるであろう。
【0033】
(実施例5)
腫瘍の外科的切除前に、治療有効量のEGFRwtおよびEGFRvIIIを標的とする免疫毒素を個体に投与し、次いで個体から腫瘍を切除する手術を行うことを含む、腫瘍を有する個体を処置する方法が提供される。ネオアジュバント療法のこの方法は、腫瘍の切除の前に、治療有効量の免疫チェックポイント阻害剤を、腫瘍を有する個体に投与することをさらに含み得る。例えば、抗PD-1抗体による処置が開始されてから数日後、次いで免疫毒素(D2C7-IT)が腫瘍内に投与される(神経膠芽腫の個体について、腫瘍内投与には点滴が使用されるであろう)。免疫毒素の投与から1週間後に、別の用量の免疫チェックポイント阻害剤を個体に投与する(例えば、抗PD-1抗体、240mg)。免疫毒素の投与から3週間後に、別の用量の免疫チェックポイント阻害剤を個体に投与する(例えば、抗PD-1抗体、240mg)。免疫毒素の投与から4週間後に腫瘍を外科的に切除する。免疫毒素の投与から5週間後かつ外科的切除から1週間後に、別の用量の免疫チェックポイント阻害剤を個体に投与する(例えば、抗PD-1抗体、240mg)。免疫毒素の投与から7、9、11、および13週間後に、別の用量の免疫チェックポイント阻害剤を個体に投与する(例えば、抗PD-1抗体、240mg)。次いで免疫チェックポイント阻害剤を投与することを含む維持療法は、医学的に保証されるとおり進めることが可能である。例えば、免疫毒素の投与から17、21、25週間後、そしてその後の約101週間まで4週間ごとに、免疫チェックポイント阻害剤を投与することが可能である(例えば、抗PD-1抗体を240mgにて2週間ごとに4か月間投与し、次いで480mgにて4週間ごとに最大2年間投与することが可能である)。
【0034】
配列表の記載
テキスト形式の配列表は同時に提出され、本出願の一部として参照により組み込まれる。配列表は、免疫毒素の成分のアミノ酸および核酸の配列を提供する。特に、配列表は、VHのCDR1(配列番号1)、VHのCDR2(配列番号2)、VHのCDR3(配列番号3)、VLのCDR1(配列番号4)、VLのCDR2(配列番号5)、およびVLのCDR3(配列番号6)のアミノ酸配列、可変重鎖(VH)のアミノ酸配列(配列番号7)、可変軽鎖(VL鎖)のアミノ酸配列(配列番号9)、配列番号8のとおりのVHおよびVL鎖を連結する適切なアミノ酸リンカー、免疫毒素D2C7-scdsFv-PE38KDEL全体をコードする核酸配列(配列番号12)とともに免疫毒素D2C7-scdsFv-PE38KDELの完全なアミノ酸配列(配列番号11)、ならびにD2C7-scdsFv部分の核酸配列(配列番号13)およびPE38KDEL部分の核酸配列(配列番号14)を提供する。
【0035】
当業者は、本開示が、目的を実行し、言及された結果および利点、ならびにその中の固有の結果および利点を得ることに十分に適合していることを容易に理解するであろう。本明細書に記載される本開示は、好ましい実施形態を現時点で代表するものであり、例示的であり、本開示の範囲に対する制限として意図されたものではない。その変更および他の使用は当業者に思い浮かぶものであり、特許請求の範囲によって定義されるとおり本開示の精神内に包含される。
【0036】
本明細書において引用されるいずれの非特許文献または特許文献を含む任意の参照が先行技術を構成することは認められない。特に明記しない限り、特に本明細書におけるいずれの文献に対する参照も、これらの文献のいずれかが米国または任意の他の国における当技術分野の一般的な知識の一部を形成することを認めることを構成しないことが理解されるであろう。参考文献のいずれの議論も、これらの著者が主張することを述べており、本出願人は、本明細書に引用される文献のいずれかの正確性および適切性に異議を唱える権利を留保する。本明細書で引用されるすべての参考文献は、特に明記しない限り、参照により完全に組み込まれる。引用された参考文献で見出されるいずれの定義および/または説明の間にいずれかの不一致がある場合に本開示は統制するものとする。
図1
図2
図3
【配列表】
0007536295000001.app