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  • 特許-導電性ペーストおよび導電膜 図1
  • 特許-導電性ペーストおよび導電膜 図2
  • 特許-導電性ペーストおよび導電膜 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-09
(45)【発行日】2024-08-20
(54)【発明の名称】導電性ペーストおよび導電膜
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/22 20060101AFI20240813BHJP
   H01B 5/14 20060101ALI20240813BHJP
   H05K 1/09 20060101ALI20240813BHJP
【FI】
H01B1/22 A
H01B5/14 Z
H05K1/09 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021015435
(22)【出願日】2021-02-03
(65)【公開番号】P2022118755
(43)【公開日】2022-08-16
【審査請求日】2022-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】301035677
【氏名又は名称】プラスコート株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129643
【弁理士】
【氏名又は名称】皆川 祐一
(72)【発明者】
【氏名】田邊 雅永
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-002914(JP,A)
【文献】特開2018-061778(JP,A)
【文献】特開2017-073364(JP,A)
【文献】特開2020-053393(JP,A)
【文献】特表2011-525034(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/22
H01B 5/14
H05K 1/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダとなる樹脂中に鱗状の金属粉を含む導電材が分散した導電性ペーストであって、
前記樹脂および前記導電材の少なくとも一方は、銅を含有し、
前記樹脂は、主溶媒として、トルエンおよび酢酸エチルを含み、
前記樹脂は、含有している官能基がヒドロキシ基のみであり、
前記樹脂には、シリカ粉末系増粘剤およびアルキロールアンモニウム塩系分散剤が添加剤として添加されている、導電性ペースト。
【請求項2】
前記金属粉は、銅粉の表面に銀がコーティングされた鱗状の銀コート銅粉である、請求項に記載の導電性ペースト。
【請求項3】
樹脂と、
前記樹脂中に分散され、鱗状の金属粉を含む導電材と、を含み、
前記樹脂および前記導電材の少なくとも一方は、銅を含有し、
前記樹脂は、主溶媒として、トルエンおよび酢酸エチルを含み、
前記樹脂には、シリカ粉末系増粘剤およびアルキロールアンモニウム塩系分散剤が添加剤として添加され、
前記樹脂が有する架橋構造は、ヒドロキシ基による架橋構造のみである、導電膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可撓性を有する導電膜およびその導電膜の材料として好適な導電性ペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
可撓性を有する導電膜は、面状の接触センサ、フレキシブル基板やシート状センサの電磁波シールド、圧力センサのダイヤフラム、脳波測定プローブの接触抵抗低減用接点補強材、ウェアラブルデバイスの生体電極などの用途に好適である。
【0003】
本願出願人は、可撓性を有する導電膜およびその材料として、ガラス転移点が-43℃より高く+4℃より低い樹脂中に鱗状の銀コート銅粉を分散させた導電膜および導電性ペーストを先に提案している(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-73364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、先の提案に係る導電性ペーストは、バインダ樹脂の種類によっては、増粘やゲル化が生じ、ペーストの安定性に問題があることが判った。
【0006】
また、導電膜の使用用途に合わせて、導電膜の柔軟性、粘着力、タック(表面のべたつき)、表面抵抗率などをコントロールする必要がある。
【0007】
本発明の目的は、優れた安定性を発揮できる、導電性ペーストを提供することである。
【0008】
また、本発明の他の目的は、使用用途に応じた、導電膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するため、本発明の一の局面に係る導電性ペーストは、バインダとなる樹脂中に鱗状の金属粉を含む導電材が分散した導電性ペーストであって、樹脂および導電材の少なくとも一方は、銅を含有し、樹脂は、官能基を含有しないか、または、ヒドロキシ基を含有する。
【0010】
この導電性ペーストでは、バインダとなる樹脂中に、鱗状(フレーク状)の金属粉を含む導電材が分散している。樹脂および導電材の少なくとも一方が銅を含有しているが、樹脂が官能基を含有していないか、官能基を含有していても、その含有している官能基がヒドロキシ基である。それゆえ、この導電性ペーストは、増粘やゲル化が生じず、優れた安定性を発揮することができる。
【0011】
金属粉は、銅粉の表面に銀がコーティングされた鱗状の銀コート銅粉であってもよい。
【0012】
また、樹脂中には、鱗状の金属粉以外に、銀コート銅粉よりも粒径が小さい銀粉が分散していてもよい。
【0013】
樹脂は、銅を含有する添加剤が添加されていてもよい。
【0014】
樹脂は、アルキロールアンモニウム塩系分散剤およびシリカ粉末系増粘剤の少なくとも一方が添加剤として添加されていてもよい。
【0015】
本発明の他の局面に係る導電膜は、架橋構造を有さないか、または、ヒドロキシ基による架橋構造を有する樹脂と、樹脂中に分散され、鱗状の金属粉を含む導電材とを含み、樹脂および導電材の少なくとも一方は、銅を含有し、樹脂は、アルキロールアンモニウム塩系分散剤およびシリカ粉末系増粘剤の少なくとも一方が添加剤として添加されている。
【0016】
この導電膜は、本発明の一の局面に係る導電性ペーストを用いて成膜することができる。
【0017】
樹脂中に分散した導電材に鱗状の金属粉が含まれるので、導電膜が伸縮や湾曲したときの導電性を確保することができる。
【0018】
また、アルキロールアンモニウム塩系分散剤およびシリカ粉末系増粘剤の少なくとも一方が樹脂に添加剤として添加されている。
【0019】
アルキロールアンモニウム塩系分散剤が樹脂に添加されると、導電膜の柔軟性と吸着性が上がり、平均剥離力(粘着力)は低減する。また、伸長時の表面抵抗率の上昇が抑制される。
【0020】
また、シリカ粉末系増粘剤が樹脂に添加されると、導電膜の弾性強度、粘着力および導電性の低下が抑制され、また、タック(表面のべたつき)が低減される。
【0021】
よって、アルキロールアンモニウム塩系分散剤およびシリカ粉末系増粘剤の添加量の調整により、導電膜を面状の接触センサ、フレキシブル基板やシート状センサの電磁波シールド、圧力センサのダイヤフラム、脳波測定プローブの接触抵抗低減用接点補強材、ウェアラブルデバイスの生体電極などの種々の使用用途に応じたものとすることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、導電性ペーストが優れた安定性を発揮することができる。また、導電膜を使用用途に応じたものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施例1~5の導電性ペーストの成分および放置試験の結果を示す図である。
図2】比較例1~6の導電性ペーストの成分および放置試験の結果を示す図である。
図3】実施例4-1~4-7の導電膜に含まれる添加剤の添加量とともに、実施例4-1~4-7および比較例7導電膜の剥離試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下では、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0025】
本発明の一実施形態に係る導電膜およびその材料となる導電性ペーストは、バインダとなる樹脂と、その樹脂中に分散した導電材とを含む。導電膜は、たとえば、導電性ペーストを対象物に直接塗布した後に乾燥させることにより形成されてもよいし、導電性ペーストを離型紙に塗布した後に乾燥させることにより形成され、離型紙から剥離されて使用されてもよい。
【0026】
<樹脂>
樹脂は、たとえば、アクリル系、ウレタン系もしくはポリエステル系のエラストマ(樹脂、ゴム)またはそれらを混合したものであり、-43℃~+4℃の範囲内(上限値、下限値を含まず。)のガラス転移点(Tg温度)を有している。
【0027】
導電性ペーストの状態において、樹脂は、溶媒と混合されている。溶媒としては、たとえば、水、アルコール類の他、トルエン(TOL)、酢酸エチル(EA)、メチルエチルケトン(MEK)、シクロヘキサノン(CHX)、芳香族系炭化水素溶剤およびイソホロン(IPH)から選択される1つまたは複数とを混合したものを挙げることができる。
【0028】
また、導電性ペーストの状態において、樹脂は、架橋反応を生じる反応性官能基を含有していないか、または、反応性官能基を含有していても、その含有している反応性官能基がヒドロキシ基(-OH)である。そのため、導電膜は、架橋構造を有さないか、または、ヒドロキシ基による架橋構造を有している。
【0029】
<導電材>
導電材(フィラー)は、銅粉の表面に銀がコーティングされた銀メッキ銅粉(銀コート銅粉)を少なくとも含む。銀メッキ銅粉は、鱗状(フレーク状)をなしている。
【0030】
鱗状の銀メッキ銅粉の粒子径(D50:レーザ回折法による粒度分布測定での累積50%の粒子径)は、1μm以上100μm以下の範囲内であることが好ましい。鱗状の銀メッキ銅粉の含有量((鱗状の銀メッキ銅粉の質量/導電膜の質量)×100)は、5質量%以上100質量%以下であることが好ましい。導電膜の柔軟性および吸着性を考慮すると、鱗状の銀メッキ銅粉の粒子径(D50)は、5μm以上80μm以下の範囲内、好ましくは、7μm以上70μm以下の範囲内であり、その含有量は、10質量%以上85質量%以下であることがより好ましい。
【0031】
導電材には、1種類の銀メッキ銅粉のみが用いられていてもよいし、2種類以上の銀メッキ銅粉や銀粉、金粉などが用いられることにより、2種類以上の金属粉が含まれてもよいし。2種類以上の銀メッキ銅粉は、銅粉にコーティングされている銀量が同じであって、それらの粒子径が互いに異なるものであってもよいし、それらの粒子径が同じであって、銅粉にコーティングされている銀量が異なるものであってもよいし、それらの粒子径および銅粉にコーティングされている銀量の両方が互いに異なるものであってもよい。
【0032】
導電材に粒子径が互いに異なる2種類以上の金属粉が含まれる場合、導電膜が屈曲またはその表面に平行な方向に伸張されたときに、相対的に大きな粒子径の金属粉同士の接触が保たれるか、または、相対的に大きな粒子径の金属粉の間に相対的に小さな粒子径の金属粉が介在されることにより、導電材の接触が確保される。よって、導電膜が屈曲または伸張されたときの導電性を良好に確保することができる。
【0033】
<添加剤>
導電性ペーストおよび導電膜は、アルキロールアンモニウム塩系分散剤および/またはシリカ粉末系増粘剤を含有している。
【0034】
アルキロールアンモニウム塩系分散剤としては、たとえば、ビックケミー・ジャパン株式会社製の商品名「DISPERBYK-180」の湿潤分散剤を挙げることができる。アルキロールアンモニウム塩系分散剤が導電性ペーストに添加されることにより、導電膜の柔軟性が上がり、また、導電膜の伸長時の表面抵抗率の上昇が抑制される。ただし、導電膜のタック(表面のべたつき)が強くなるが、粘着力(平均剥離力)が低下する。
【0035】
シリカ粉末系増粘剤としては、たとえば、株式会社トクヤマ製の商品名「レオロシール(登録商標)」の乾式シリカを挙げることができる。シリカ粉末系増粘剤が導電性ペーストに添加されることにより、導電膜の粘着力、弾性強度および導電性の低下が抑制され、また、導電膜のタックが低減される。
【0036】
また、導電性ペーストおよび導電膜は、脂肪酸アマイド系膨潤型添加剤(沈降防止剤)などの添加剤を含有していてもよい。
【0037】
<効果>
以上のように、導電性ペーストでは、バインダとなる樹脂中に、鱗状(フレーク状)の金属粉を含む導電材が分散している。樹脂および導電材の少なくとも一方が銅を含有しているが、樹脂が官能基を含有していないか、官能基を含有していても、その含有している官能基がヒドロキシ基である。それゆえ、この導電性ペーストは、増粘やゲル化が生じず、優れた安定性を発揮することができる。
【0038】
また、その導電性ペーストを用いて成膜された導電膜は、樹脂中に分散した導電材に鱗状の金属粉が含まれるので、導電膜が伸縮や湾曲したときの導電性を確保することができる。
【0039】
また、導電性ペーストおよび導電膜には、アルキロールアンモニウム塩系分散剤およびシリカ粉末系増粘剤の少なくとも一方が樹脂に添加剤として添加されている。アルキロールアンモニウム塩系分散剤が樹脂に添加されると、導電膜の柔軟性が上がり、また、伸長時の表面抵抗率の上昇が抑制され、シリカ粉末系増粘剤が樹脂に添加されると、導電膜の粘着力および導電性の低下が抑制され、また、タック(表面のべたつき)が低減される。したがって、アルキロールアンモニウム塩系分散剤およびシリカ粉末系増粘剤の添加量の調整により、導電膜を面状の接触センサ、フレキシブル基板やシート状センサの電磁波シールド、圧力センサのダイヤフラム、脳波測定プローブの接触抵抗低減用接点補強材、ウェアラブルデバイスの生体電極などの種々の使用用途に応じたものにすることができる。
【0040】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、他の形態で実施することもでき、前述の構成には、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【実施例
【0041】
次に、より具体的な実施例について説明する。本発明は、本実施例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例中の「%」は、「質量%」を示す。また、その割合を示す数値は、小数点第二位で四捨五入した数値である。
【0042】
<実施例1~5、比較例1~6>
図1および図2に示されるように、実施例1~5および比較例1~6で異なる樹脂を用いて、その樹脂に福田金属箔粉工業株式会社製の「10%Agコート2L3」の銀メッキ銅粉(導電材)を約70質量%で配合して撹拌することにより導電性ペーストを作製した。そして、導電性ペーストの安定性を評価するため、作製した導電性ペーストを樹脂容器に入れて密封状態とし、約25℃の温度下で放置して、24時間後の状態を調べた。
【0043】
実施例1では、根上工業株式会社製の製品名「W-116.0」を用いた。この製品は、アクリルゴムであり、主溶媒としてトルエンを含み、官能基を含まない。実施例1では、長期間にわたり増粘が見られなかった。
【0044】
実施例2では、根上工業株式会社製の製品名「SN-50」を用いた。この製品は、アクリルゴムであり、主溶媒としてトルエンを含み、ヒドロキシ基のみを官能基に含む。実施例2では、多少の溶剤揮発による増粘が見られたが、液状が維持されていた。希釈溶剤での希釈により低粘度化しても問題は見受けられなかった。
【0045】
実施例3では、根上工業株式会社製の製品名「PC-910」を用いた。この製品は、アクリルゴムであり、主溶媒としてメチルエチルケトンを含み、官能基を含まない。実施例3では、多少の溶剤揮発による増粘が見られたが、液状が維持されていた。希釈溶剤での希釈により低粘度化しても問題は見受けられなかった。
【0046】
実施例4では、根上工業株式会社製の製品名「AS-3000E」を用いた。この製品は、アクリルゴムであり、主溶媒としてトルエンおよび酢酸エチルを含み、ヒドロキシ基のみを官能基に含む。実施例4では、多少の溶剤揮発による増粘が見られたが、液状が維持されていた。希釈溶剤での希釈により低粘度化しても問題は見受けられなかった。
【0047】
実施例5では、ナガセケムテックス株式会社製の製品名「SG-600TEA」を用いた。この製品は、アクリルゴムであり、主溶媒としてトルエンおよび酢酸エチルを含み、ヒドロキシ基のみを官能基に含む。実施例5では、分離および沈降があったが、再撹拌により分散させることができた。
【0048】
比較例1では、根上工業株式会社製の製品名「W116.3M12」を用いた。この製品は、アクリルゴムであり、主溶媒としてメチルエチルケトンを含み、ヒドロキシ基およびカルボキシル基(-COOH)を官能基に含む。比較例1では、数時間で増粘し、6日後にはゴム状(固体)になった。
【0049】
比較例2では、根上工業株式会社製の製品名「W116.3」を用いた。この製品は、アクリルゴムであり、主溶媒としてトルエンを含み、ヒドロキシ基およびカルボキシル基を官能基に含む。比較例2では、数時間で増粘し、6日後には溶媒と分離しゴム状になった。希釈溶剤による希釈もできなかった。
【0050】
比較例3では、ナガセケムテックス株式会社製の製品名「SG-70L」を用いた。この製品は、アクリルゴムであり、主溶媒としてトルエンおよびメチルエチルケトンを含み、ヒドロキシ基およびカルボキシル基を官能基に含む。比較例3では、数時間で増粘し、翌日にはゲル状になった。希釈溶剤による希釈もできなかった。
【0051】
比較例4では、ナガセケムテックス株式会社製の製品名「WS-023EK30」を用いた。この製品は、アクリルゴムであり、主溶媒としてメチルエチルケトンを含み、ヒドロキシ基およびカルボキシル基を官能基に含む。比較例4では、数時間で増粘し、翌日にはゴム状(固体)になった。
【0052】
比較例5では、ナガセケムテックス株式会社製の製品名「SG-280EK23」を用いた。この製品は、アクリルゴムであり、主溶媒としてメチルエチルケトンを含み、カルボキシル基を官能基に含む。比較例5では、数時間で増粘し、翌日にはゲル状になった。
【0053】
比較例6では、ナガセケムテックス株式会社製の製品名「SG-708-6」を用いた。この製品は、アクリルゴムであり、主溶媒としてメチルエチルケトンを含み、ヒドロキシ基およびカルボキシル基を官能基に含む。比較例6では、5日後には半固体状に硬化した。
【0054】
以上から、導電材が銀メッキ銅粉である場合(導電性ペーストに銅が含まれる場合)、樹脂に官能基が含まれないか、官能基が含まれていても、ヒドロキシ基のみであれば、導電性ペーストに増粘が生じないか、または、溶媒揮発による多少の増粘があっても使用可能な程度であり、分離および沈降が生じても再撹拌により使用可能であるのに対し(実施例1~5)、ヒドロキシ基以外の官能基(カルボキシル基)が含まれていると、導電性ペーストに増粘が生じ、導電膜の成膜に使用できないことが判った(比較例1~6)。
【0055】
<実施例4-1~4-7、比較例7>
図3に示されるように、実施例4-1~4-7として、実施例4の導電性ペーストにアルキロールアンモニウム塩系分散剤および/またはシリカ粉末系増粘剤を添加量を異ならせて添加し、それらの導電性ペーストを用いて導電膜を成膜した。また、比較例7として、実施例4の導電性ペーストにアルキロールアンモニウム塩系分散剤およびシリカ粉末系増粘剤を添加せず、その添加剤が添加されていない導電性ペーストを用いて導電膜を成膜した。アルキロールアンモニウム塩系分散剤としては、ビックケミー・ジャパン株式会社製の商品名「DISPERBYK-180」を使用した。シリカ粉末系増粘剤としては、株式会社トクヤマ製の商品名「レオロシール(登録商標)」を使用した。そして、実施例4-1~4-7および比較例7の導電膜をPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムに貼り付けて、導電膜とPETフィルムとの剥離試験を行った。
【0056】
剥離試験は、「JIS L 1086:2013」の接着芯地および接着布試験方法を参考とし、表1に示された条件で行った。試験サンプルは、ラミネータを使用して、各実施例4-1~4-7および比較例7の導電膜をPETフィルムに加熱温度40℃、速度10m/minにて貼り付けて作製した。
【0057】
【表1】
【0058】
比較例7の導電膜は、平均剥離力が4.69Nであった。
【0059】
アルキロールアンモニウム塩系分散剤を1質量%含有する実施例4-1の導電膜は、平均剥離力が1.56Nであり、比較例7の導電膜よりも平均剥離力が低いことが確認された。
【0060】
シリカ粉末系増粘剤を1質量%含有する実施例4-2の導電膜は、平均剥離力が3.89Nであり、比較例7の導電膜よりも平均剥離力が低いが、実施例4-1の導電膜よりも平均剥離力が高いことが確認された。
【0061】
アルキロールアンモニウム塩系分散剤を1質量%含有し、シリカ粉末系増粘剤を1質量%含有する実施例4-3の導電膜は、平均剥離力が4.51Nであり、比較例7の導電膜よりも平均剥離力が低いが、実施例4-2の導電膜よりも平均剥離力が高いことが確認された。
【0062】
アルキロールアンモニウム塩系分散剤を5質量%含有する実施例4-4の導電膜は、平均剥離力が0.09Nであり、実施例4-1の導電膜よりも平均剥離力が低いことが確認された。
【0063】
アルキロールアンモニウム塩系分散剤を5質量%含有し、シリカ粉末系増粘剤を5質量%含有する実施例4-5の導電膜は、平均剥離力が0.84Nであり、実施例4-3の導電膜よりも平均剥離力が低いことが確認された。
【0064】
アルキロールアンモニウム塩系分散剤を10質量%含有する実施例4-6の導電膜は、平均剥離力が0.05Nであり、実施例4-4の導電膜よりも平均剥離力が低いことが確認された。
【0065】
アルキロールアンモニウム塩系分散剤を10質量%含有し、シリカ粉末系増粘剤を10質量%含有する実施例4-7の導電膜は、平均剥離力が0.63Nであり、実施例4-5の導電膜よりも平均剥離力が高いことが確認された。
【0066】
以上から、樹脂にアルキロールアンモニウム塩系分散剤および/またはシリカ粉末系増粘剤が導電膜に添加されると、それらの添加剤が樹脂に添加されていない導電膜と比較して、粘着力が低下するが、それらの添加量を調整することにより、導電膜の粘着力を大きく低下させずに、導電膜の柔軟性、タックおよび表面抵抗率などを調整可能であることが判った。
【0067】
よって、アルキロールアンモニウム塩系分散剤およびシリカ粉末系増粘剤の添加量の調整により、導電膜を面状の接触センサ、フレキシブル基板やシート状センサの電磁波シールド、圧力センサのダイヤフラム、脳波測定プローブの接触抵抗低減用接点補強材、ウェアラブルデバイスの生体電極などの種々の使用用途に応じたものにできることが判った。
図1
図2
図3