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特許7536314冷媒圧縮式冷凍サイクル装置用作動媒体および該作動媒体を用いた冷凍サイクル装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-09
(45)【発行日】2024-08-20
(54)【発明の名称】冷媒圧縮式冷凍サイクル装置用作動媒体および該作動媒体を用いた冷凍サイクル装置
(51)【国際特許分類】
   C10M 107/34 20060101AFI20240813BHJP
   C09K 5/04 20060101ALI20240813BHJP
   F25B 1/00 20060101ALI20240813BHJP
   C10M 169/04 20060101ALI20240813BHJP
   C10N 40/30 20060101ALN20240813BHJP
   C10N 30/02 20060101ALN20240813BHJP
   C10N 20/04 20060101ALN20240813BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20240813BHJP
   C10M 133/04 20060101ALN20240813BHJP
   C10M 129/10 20060101ALN20240813BHJP
   C10M 129/76 20060101ALN20240813BHJP
   C10N 20/00 20060101ALN20240813BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20240813BHJP
【FI】
C10M107/34 ZAB
C09K5/04 B
F25B1/00 396E
C10M169/04
C10N40:30
C10N30:02
C10N20:04
C10N30:00 Z
C10M133/04
C10M129/10
C10M129/76
C10N20:00 Z
C10N20:02
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021537405
(86)(22)【出願日】2020-08-07
(86)【国際出願番号】 JP2020030409
(87)【国際公開番号】W WO2021025152
(87)【国際公開日】2021-02-11
【審査請求日】2023-04-06
(31)【優先権主張番号】P 2019145695
(32)【優先日】2019-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301064138
【氏名又は名称】青木油脂工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】高橋 不二夫
(72)【発明者】
【氏名】久保 康二
(72)【発明者】
【氏名】石塚 学
(72)【発明者】
【氏名】坂田 達彦
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-129275(JP,A)
【文献】国際公開第2011/162391(WO,A1)
【文献】国際公開第2005/095557(WO,A1)
【文献】特開2012-233091(JP,A)
【文献】特開2000-096074(JP,A)
【文献】特開平02-084491(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
C09K 5/04
C10N 10/00- 80/00
F25B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数1~8の炭化水素を含む冷媒と、
下記一般式(1):
-(OR-OH (1)
〔ただし、Rは、炭素数1~8の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基であり、ORは、同一または異なって、炭素数2および/または炭素数3のオキシアルキレン基を表し、nは、ORで表されるオキシアルキレン基の付加モル数を表す。〕
で表され、平均分子量が200~1000であるポリアルキレングリコールを含む冷凍機油と、
を含み、
前記一般式(1)において前記ORが、オキシプロピレン基を含み、前記オキシプロピレン基が、前記ORの総付加モル数に対して、80モル%以上であり、
前記一般式(1)においてnが1であるアルキレングリコールの含有量が、前記ポリアルキレングリコールの全質量に対して、3質量%以下である、冷媒圧縮式冷凍サイクル装置用作動媒体。
【請求項2】
前記冷凍機油は、40℃における動粘度が1mm/s以上、45mm/s以下である、請求項1に記載の冷媒圧縮式冷凍サイクル装置用作動媒体。
【請求項3】
前記ポリアルキレングリコールは、ポリプロピレングリコールモノブチルエーテルを含む、請求項1または2に記載の冷媒圧縮式冷凍サイクル装置用作動媒体。
【請求項4】
前記ポリアルキレングリコールは、前記冷凍機油全質量に対して、85質量%以上で含まれる、請求項1~3のいずれか1項に記載の冷媒圧縮式冷凍サイクル装置用作動媒体。
【請求項5】
アミン化合物、フェノール化合物、および多価アルコールの部分エステルからなる群より選択される1種以上の添加剤が、前記冷凍機油中、前記冷凍機油全質量に対して、0.1~3.0質量%で含まれる、請求項1~4のいずれか1項に記載の冷媒圧縮式冷凍サイクル装置用作動媒体。
【請求項6】
前記冷媒の70℃における蒸気圧が1.77MPaである場合において、前記冷媒の前記冷凍機油に対する70℃における飽和溶解度は、20質量%以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の冷媒圧縮式冷凍サイクル装置用作動媒体。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の作動媒体を用いた冷凍サイクル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷媒圧縮式冷凍サイクル装置用作動媒体および該作動媒体を用いた冷凍サイクル装置に関する。詳しくは、本発明は、冷媒と冷凍機油とを含む冷媒圧縮式冷凍サイクル装置用作動媒体および該作動媒体を用いた冷凍サイクル装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
空調機、電気冷蔵庫、冷蔵または冷凍倉庫、ショーケース等の冷媒を圧縮して用いる冷凍サイクル装置においては、フッ素原子を含有する炭化水素であるハイドロフルオロカーボン(HFC)が冷媒として用いられている。しかし、このHFCは大気中での寿命が長いため温室効果が大きく、地球温暖化を防止する上では満足な冷媒ではなく、その使用が制限される動きにある。
【0003】
上記HFCの代わりに、強燃性ではあるがオゾン破壊係数がゼロであり、かつ地球温暖化係数もHFCに比べれば格段に小さい、ハロゲン原子を含まない炭化水素(以下、単に「炭化水素冷媒」とも称する)を冷凍サイクル装置の冷媒として用いることが提案されている。例えば、ハロゲン原子を含まない炭化水素を冷媒として用いた冷蔵庫が実用化されている。さらに、ハロゲン原子を含まない炭化水素を冷媒として用いる大型の冷凍サイクル装置の開発が検討されている。特に、炭化水素冷媒としてイソブタン(R600a)を用いた電気冷蔵庫が実用化され、炭化水素冷媒としてプロパン(R290)を用いた空調機が実用化されつつある。これらの炭化水素冷媒を用いる場合、炭化水素冷媒と共に作動媒体成分として用いられる冷凍機油として、鉱油、アルキルベンゼンおよびポリオールエステルが提案されている(例えば、特許文献1および特許文献2)。
【0004】
また、炭化水素冷媒と共に作動媒体成分として用いられる冷凍機油として、ポリアルキレングリコールも提案されている(例えば、特許文献3~12)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2000-60031号明細書
【文献】特開2003-041278号公報
【文献】特開平10-158671号公報
【文献】国際公開第2006/030490号明細書
【文献】特開2009-235111号公報
【文献】特開2010-031728号公報
【文献】特開2013-515838号公報
【文献】特開2013-203988号公報
【文献】特開2016-089103号公報
【文献】特開2016-033222号公報
【文献】特開2017-057278号公報
【文献】特開2000-129275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1および特許文献2で提案された上記鉱油、アルキルベンゼンまたはポリオールエステルを含む冷凍機油は、プロパン、イソブタンなどの炭化水素冷媒との相溶性が良く、冷凍機油に溶解する炭化水素冷媒量が多くなる。このため、冷凍サイクル装置において十分な能力を発揮させるには、冷凍サイクル装置内に大量の炭化水素冷媒を充填する必要がある。しかし、プロパン、イソブタンなどの炭化水素は強燃性であるので、このような炭化水素冷媒の充填量は、運転効率を充分発揮する範囲内で、極力少量であることが安全面から望まれる。また、冷凍機油中に溶解する炭化水素冷媒量が少ないほど、運転時の条件変動によって生じる炭化水素冷媒の冷凍機油に対する溶解と蒸発との変動が少なくなり、作動媒体の粘度変化が少なくなり好ましい。また、冷凍機油中に溶解する炭化水素冷媒量が少ない場合、より低粘度の冷凍機油を選定することができるため、冷凍サイクル装置の高効率化が図れ、省エネルギーにつながる。
【0007】
一方、特許文献3~12には、炭化水素冷媒用の冷凍機油として、多くの種類のポリアルキレングリコールが提案されている。ポリアルキレングリコールは、極性が高く、上記鉱油、アルキルベンゼンおよびポリオールエステルよりも炭化水素冷媒が溶けにくいとされる。特許文献3~11の実施例および比較例には、冷凍機油として用いられるポリアルキレングリコールとして、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールメチルエーテルおよびジメチルエーテル、ポリプロピレングリコールジメチルエーテルが開示されている。具体的には、当該文献においては、動粘度が46mm/s(40℃)以上の高粘度ポリアルキレングリコールを用いた冷凍機油;動粘度5.3~22.4mm/s(40℃)の低粘度ポリアルキレングリコールおよび動粘度1235mm/s(40℃)以上の高粘度ポリアルキレングリコールの粘度の異なる2つのポリアルキレングリコールを組み合わせた冷凍基油;等が開示されている。
【0008】
また、特許文献12の実施例には、低分子量のポリアルキレングリコールが例示されている。しかしながら、特許文献12に開示された低分子量のポリアルキレングリコールは、低温側臨界溶解温度が十分ではなく、冷凍機油としては炭化水素冷媒との相溶性が十分であるとはいえない。例えば、平均分子量200、1000、1800のポリイソプロピレングリコールモノブチルエーテルは、プロパンとの低温側臨界溶解温度がそれぞれ-19℃、+15℃、+20℃以上であり、プロパンとの相溶性が低い。
【0009】
以上のように、低粘度、すなわち、低分子量のポリアルキレングリコールを基油として含む冷凍機油は、冷凍機油として必ずしも適切な炭化水素冷媒との相溶性があるとはいえず、いまだ改善の余地はあった。
【0010】
また、冷凍機油は、冷媒と共存下で冷凍サイクル装置において長期間使用され、低温と高温とにさらされるため、高い熱化学安定性が要求される。
【0011】
本発明の目的のひとつは、炭化水素を含む冷媒と冷凍機油とを含む冷媒圧縮式冷凍サイクル装置用作動媒体において、冷凍機油が、冷媒との適切な相溶性、低粘度、および高い熱安定性のうち少なくともひとつを達成する、冷媒圧縮式冷凍サイクル装置用作動媒体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、炭素数1~8の炭化水素を含む冷媒と、下記一般式(1):R-(OR-OH〔ただし、Rは、炭素数1~8の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基であり、ORは、同一または異なって、炭素数2および/または炭素数3のオキシアルキレン基を表し、nは、ORで表されるオキシアルキレン基の付加モル数を表す。〕で表され、平均分子量が200~1000であるポリアルキレングリコールを含む冷凍機油と、を含み、前記一般式(1)において前記ORが、オキシプロピレン基を含み、前記オキシプロピレン基が、前記ORの総付加モル数に対して、80モル%以上であり、前記一般式(1)においてnが1であるアルキレングリコールの含有量が、前記ポリアルキレングリコールの全質量に対して、3質量%以下である、冷媒圧縮式冷凍サイクル装置用作動媒体が提供される。
【0013】
本発明の一実施形態において、冷凍機油は、40℃における動粘度が、1mm/s以上、45mm/s以下である。
【0014】
また、本発明の一実施形態において、冷媒の70℃における蒸気圧が1.77MPaである場合、冷媒の冷凍機油に対する70℃における飽和溶解度は20質量%以下である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、炭化水素を含む冷媒と冷凍機油とを含む冷媒圧縮式冷凍サイクル装置用作動媒体において、冷凍機油が、冷媒との適切な相溶性、低粘度、および高い熱安定性のうち少なくともひとつを達成する、冷媒圧縮式冷凍サイクル装置用作動媒体が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。また、本明細書において、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件で測定する。
【0017】
以下、本発明の冷媒圧縮式冷凍サイクル装置用作動媒体(以下、単に「作動媒体」とも称する場合もある)について詳細に説明する。まず、本発明に係る作動媒体は、炭素数1~8の炭化水素を含む冷媒と、特定のポリアルキレングリコール(以下、単に「ポリアルキレングリコール」称する)を含む冷凍機油と、を含む。また、本発明の好ましい実施形態において、冷凍機油は、40℃における動粘度が1mm/s以上、45mm/s以下である。なお、本明細書中、動粘度は、実施例に記載の方法で測定されたものである。
【0018】
本発明において、冷凍機油は、ポリアルキレングリコールを基油として含むのが好ましい。冷凍機油の基油とは、冷凍機油全質量に対して、50質量%を超えて(上限100質量%)含有される成分を指し、好ましくは80質量%以上含有される成分、より好ましくは90質量%以上含有される成分である。
【0019】
本発明の好ましい実施形態としては、冷凍機油におけるポリアルキレングリコールの含有量は、冷凍機油全質量に対して、好ましくは60質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは85質量%以上であり、さらにより好ましくは90質量%以上であり、特に好ましくは95質量%以上であり、もっとも好ましくは97質量%以上である。冷凍機油は、ポリアルキレングリコールのみから構成されていてもよく、よって、冷凍機油におけるポリアルキレングリコールの含有量の上限は、冷凍機油全質量に対して、100質量%である。ポリアルキレングリコールを上記範囲内で含有する場合、本発明の効果がより発揮できる。
【0020】
本発明において、冷凍機油は、冷媒との適切な相溶性、低粘度、および高い熱安定性のうち少なくともひとつを達成するものである。冷凍機油は、冷媒とともに冷媒圧縮式冷凍サイクル装置用作動媒体の構成成分として用いられる。冷媒との適切な相溶性、低粘度、および高い熱安定性のいずれか1つ以上(好ましくは2つ以上)を有する冷凍機油は、冷媒の充填量を減らすことができ、これにより、当該冷凍機油を含む作動媒体は、良好な性能を発揮することができる。
【0021】
よって、本発明の他の目的は、冷媒の充填量が少なくても良好な性能を発揮する冷媒圧縮式冷凍サイクル装置用作動媒体およびこれを用いた冷凍サイクル装置を提供することである。
【0022】
まず、本発明の作動媒体に含まれる冷媒について説明する。冷媒は、炭素数1~8の炭化水素を含み、好ましくは炭素数2~6の炭化水素を含み、より好ましくは炭素数2~5の炭化水素を含み、さらに好ましくは炭素数3~5の炭化水素を含む。
【0023】
炭素数1~8の炭化水素としては、例えば、メタン、エタン、プロパン(R290)、n-ブタン(ノルマルブタン)(R600)、イソブタン(R600a)、n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタンである。好ましい実施形態において、冷媒は、プロパン(R290)を含む冷媒である。この場合、冷媒は、プロパンに加えて、エタン、n-ブタン(ノルマルブタン)(R600)、イソブタン(R600a)などの飽和炭化水素;エチレン、プロペンなどの不飽和炭化水素;ジメチルエーテル;二酸化炭素;などの他の冷媒をさらに含有してもよい。プロパンを含む冷媒が他の冷媒をさらに含む場合、冷媒の主成分は、プロパンであるのが好ましい。なお、本発明において、「主成分」とは、冷媒全質量に対して、50質量%を超える(上限100質量%)成分を意味する。
【0024】
冷媒がプロパンと他の冷媒とを含む場合、プロパン含有量は、冷媒全質量に対して、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上である。この場合、他の冷媒の含有量は、冷媒全質量に対して、20質量部未満であるのが好ましく、より好ましくは10質量部以下、さらに好ましくは5質量部以下である。他の冷媒の含有量の下限は、特に制限されないが、実用上、冷媒全質量に対して、0.1質量%以上であるのが好ましく、より好ましくは0.5質量%以下である。
【0025】
好ましい実施形態としては、本発明に係る冷凍機油と組み合わせて用いられる冷媒は、プロパン含有量が、冷媒全質量に対して、100質量%(すなわち、冷媒がプロパン単独で構成される)である。本発明に係る冷凍機油は、プロパン単独で構成される冷媒と組み合わせることにより本発明の効果がより高く発揮される。すなわち、特定のポリアルキレングリコールと、プロパン単独で構成される冷媒との組み合わせにより本発明の効果がより高く発揮される。よって、好ましい実施形態において、冷媒は、他の冷媒を含まず、プロパンを単独で含有する。
【0026】
次に、本発明の冷凍機油に含まれる特定のポリアルキレングリコールについて説明する。特定のポリアルキレングリコールは、下記一般式(1)で表され、平均分子量が200~1000である。
【0027】
-(OR-OH (1)
〔ただし、Rは、炭素数1~8の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基であり、ORは、同一または異なって、炭素数2および/または炭素数3のオキシアルキレン基を表し、nは、ORで表されるオキシアルキレン基の付加モル数を表す。〕。
【0028】
また、特定のポリアルキレングリコールは、一般式(1)においてORが、オキシプロピレン基を含み、オキシプロピレン基が、ORの総付加モル数に対して、80モル%以上である。さらに、特定のポリアルキレングリコールは、一般式(1)においてnが1であるアルキレングリコールの含有量が、ポリアルキレングリコールの全質量に対して、3質量%以下である。
【0029】
上記一般式(1)中、Rは、炭素数1~8の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基を表す。冷媒の冷凍機油に対する溶解度と冷凍機油としての特性とのバランスの観点から、アルキル基としては炭素数1~5のアルキル基がより好ましく用いられ、例えば、メチル基、エチル基、直鎖状または分岐状のプロピル基、直鎖状または分岐状のブチル基、直鎖状または分岐状のペンチル基などが挙げられる。Rは、さらに炭素数3~5の直鎖状または分岐状のアルキル基が好ましく、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基がより好ましく、特には炭素数4の直鎖状または分岐状のブチル基(n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基)がさらに好ましい。最も好ましくは炭素数4の直鎖状のブチル基(n-ブチル基)である。Rが上記炭素数のアルキル基である場合、短鎖アルキル基のため低温流動性に優れる。
【0030】
また、上記一般式(1)中、ORは、同一または異なって、炭素数2および/または炭素数3のオキシアルキレン基を表す。すなわち、Rは、同一または異なって、炭素数2のアルキレン基および/または炭素数3のアルキレン基を表す。ただし、ORは、冷凍機油の特性に影響を及ぼさない程度の少量の炭素数4のオキシブチレン基を含んでいてもよい。このようなオキシアルキレン基としては、具体的にはオキシエチレン基(-OCHCH-)、オキシプロピレン基(-OCH(CH)CH-)、オキシトリメチレン基(-OCHCHCH-)などが挙げられる。これらのオキシアルキレン基の中でも、オキシエチレン基、オキシプロピレン基が好ましく、オキシプロピレン基がより好ましい。この際、(ORで表される繰り返し単位中におけるオキシアルキレン基(OR)は、それぞれ同一のオキシアルキレン基であっても、異なるオキシアルキレン基であってもよい。
【0031】
上記一般式(1)で表されるポリアルキレングリコールは、ORが、オキシプロピレン基(-OCH(CH)CH-)(すなわち、Rが炭素数3の分岐状アルキレン基;イソプロピレン基)を含み、オキシプロピレン基は、ORの総付加モル数に対して、80モル%以上である。ポリアルキレングリコールにおいて、オキシプロピレン基は、ORの総付加モル数に対して、より好ましくは90モル%以上であり、さらに好ましくは95モル%以上である。ポリアルキレングリコールにおけるOR全体に占めるオキシプロピレン基の割合が上記範囲であることにより、冷凍機油としての特性の面、すなわち、炭化水素冷媒との相溶性を向上させることができる。なお、ポリアルキレングリコールにおけるOR全体に占めるオキシプロピレン基の割合の上限は、特に制限されないが、ポリアルキレングリコールにおいてORはすべてオキシプロピレンで構成されることが最も好ましく、よって、上限は100モル%である。
【0032】
例えば、ORがオキシエチレン基(-OCHCH-)(すなわち、Rが炭素数2の直鎖アルキレン基;エチレン基)およびオキシプロピレン基で構成される場合、オキシプロピレン基は、オキシエチレン基およびオキシプロピレン基の総付加モル数に対して、80モル%以上であるのが好ましい。
【0033】
さらに、上記一般式(1)中、nはORで表されるオキシアルキレン基の付加モル数(重合度)を表す。一般式(1)で表されるポリアルキレングリコールの数平均分子量は、200~1000であり、好ましくは300~1000であり、より好ましくは350~900であり、さらに好ましくは350~850であり、さらにより好ましくは350~800であり、特に好ましくは350~700である。nは、当該ポリアルキレングリコールの数平均分子量が上記の条件を満たすような数であることが好ましい。例えば、nは、2~40であるのが好ましく、2~30であるのがより好ましい。ポリアルキレングリコールの数平均分子量が200未満で低すぎる場合、冷媒の共存下における冷凍機油の潤滑性が不十分となる。他方、数平均分子量が1000を超えて高すぎる場合、冷凍機油の粘性抵抗が高くなりすぎ、冷凍サイクル装置の効率が低下する。本明細書中、数平均分子量は、標準物質としてポリスチレンを用いたGPC(ゲルパーミュエーションクロマトグラフィー)により測定されている。一般式(1)における付加モル数nは、測定により得られた数平均分子量に基づき算出できる。
【0034】
本発明に係るポリアルキレングリコールは、従来公知の方法を用いて合成することができる(「アルキレンオキシド重合体」、柴田満太他、海文堂出版、1990年11月20日発行)。例えば、アルコール(ROH;Rは上記一般式(1)の中のRと同一の定義内容を表す)に所定のアルキレンオキサイドの1種以上を付加重合させることにより得られる。なお、上記の製造工程において異なる2種以上のアルキレンオキサイドを使用する場合、得られるポリアルキレングリコールはランダム共重合体、ブロック共重合体のいずれであってもよい。
【0035】
一般式(1)で表されるポリアルキレングリコールとしては、例えば、ポリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコール・ポリプロピレングリコール共重合体のモノメチルエーテル(ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノメチルエーテル);ポリプロピレングリコールモノエチルエーテル、ポリエチレングリコール・ポリプロピレングリコール共重合体のモノエチルエーテル(ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノエチルエーテル);ポリプロピレングリコールモノn-プロピルエーテル、ポリエチレングリコール・ポリプロピレングリコール共重合体のモノn-プロピルエーテル(ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノn-プロピルエーテル);ポリプロピレングリコールモノイソプロピルエーテル、ポリエチレングリコール・ポリプロピレングリコール共重合体のモノイソプロピルエーテル(ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノイソプロピル);ポリプロピレングリコールモノn-ブチルエーテル、ポリエチレングリコール・ポリプロピレングリコール共重合体のモノn-ブチルエーテル(ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノn-ブチルエーテル);ポリプロピレングリコールモノイソブチルエーテル、ポリエチレングリコール・ポリプロピレングリコール共重合体のモノイソブチルエーテル(ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノイソブチルエーテル);ポリプロピレングリコールモノtert-ブチルエーテル、ポリエチレングリコール・ポリプロピレングリコール共重合体のモノtert-ブチルエーテル(ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノtert-ブチルエーテル);等が挙げられる。
【0036】
これらのポリアルキレングリコールのうち、ポリアルキレングリコールは、ポリプロピレングリコールモノn-プロピルエーテル、ポリエチレングリコール・ポリプロピレングリコール共重合体のモノn-プロピルエーテル、ポリプロピレングリコールモノイソプロピルエーテル、ポリエチレングリコール・ポリプロピレングリコール共重合体のモノイソプロピルエーテル、ポリプロピレングリコールモノn-ブチルエーテル、ポリエチレングリコール・ポリプロピレングリコール共重合体のモノn-ブチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノイソブチルエーテル、ポリエチレングリコール・ポリプロピレングリコール共重合体のモノイソブチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノtert-ブチルエーテル、ポリエチレングリコール・ポリプロピレングリコール共重合体のモノtert-ブチルエーテルが好ましい。
【0037】
さらに、ポリアルキレングリコールは、ポリプロピレングリコールモノイソプロピルエーテル、ポリエチレングリコール・ポリプロピレングリコール共重合体のモノイソプロピルエーテル、ポリプロピレングリコールモノn-ブチルエーテル、ポリエチレングリコール・ポリプロピレングリコール共重合体のモノn-ブチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノイソブチルエーテル、ポリエチレングリコール・ポリプロピレングリコール共重合体のモノイソブチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノtert-ブチルエーテル、ポリエチレングリコール・ポリプロピレングリコール共重合体のモノtert-ブチルエーテルがより好ましい。
【0038】
好ましい実施形態において、冷凍機油は、ポリアルキレングリコールとして、ポリプロピレングリコールモノブチルエーテル(ポリプロピレングリコールモノn-ブチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノイソブチルエーテルおよびポリプロピレングリコールモノtert-ブチルエーテルから選択される少なくともひとつ)を含む。より好ましくは、冷凍機油は、ポリアルキレングリコールとして、ポリプロピレングリコールモノn-ブチルエーテルを含む。
【0039】
ここで、本発明の冷凍機油に含まれるポリアルキレングリコールは、一般式(1)においてnが1であるアルキレングリコール(すなわち、R-(OR)-OH、以下、「モノ付加体」とも称する)の含有量が、ポリアルキレングリコールの全質量に対して、3質量%以下である。ポリアルキレングリコールにおけるモノ付加体の含有量は、ポリアルキレングリコールの全質量に対して、好ましくは2質量%以下、より好ましくは1.5質量%以下、さらに好ましくは1.2質量%以下、さらにより好ましくは1質量%以下、特に好ましくは0.9質量%以下である。モノ付加体とは、R-(OR)-OH(Rは、炭素数1~8の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基であり、ORは、炭素数2または炭素数3のオキシアルキレン基を表す)を意味し、具体的には、R-(OCHCH)-OH(エチレングリコールモノアルキルエーテル)、およびR-(OCH(CH)CH)-OH(プロピレングリコールモノアルキルエーテル)の少なくとも一方である。ポリアルキレングリコールにおいて、モノ付加体が、全く含有されないのが好ましいが、不可避的に含有される場合、ポリアルキレングリコールにおけるモノ付加体の含有量は、ポリアルキレングリコールの全質量に対して、実用上、0.01質量%以上、0.05質量%以上である。
【0040】
本発明者らは、モノ付加体の含有量が3質量%を超えるポリアルキレングリコールを含む冷凍機油は、熱安定性および沸点、引火点が低下することを見出し、ポリアルキレングリコール中のモノ付加体の含有量が冷凍機油としての特性に大きく影響を与えることを見出した。このメカニズムは、以下のように推測される。
【0041】
数平均分子量が200~1000の低分子量のポリアルキレングリコールは、高分子量のポリアルキレングリコールに比べて、熱安定性が低く、沸点、引火点が低く、かつ吸水性が高い。また、数平均分子量が200~1000の低分子量のポリアルキレングリコールにおいては、製造の際、アルコールにアルキレンオキサイドが1モル付加(n=1)したモノ付加体が生成しやすい。このモノ付加体は、低分子量のポリアルキレングリコールに比べてさらに熱安定性が劣り、沸点、引火点が低く、さらに吸水性が高いため、冷凍機油として好ましくない成分であることを発明者らは見出した。よって、低分子量のポリアルキレングリコールにおいては、このようなモノ付加体の影響が大きく、冷凍機油としての特性を大きく低下させることになっていたと考えられる。
【0042】
本発明者らは、その低分子量のポリアルキレングリコールにおいて、モノ付加体の含有量を特定の数値以下へと制限することにより、冷凍機油としての特性を向上させることができることを見出したのである。すなわち、モノ付加体の含有量が少ないポリアルキレングリコールは、冷凍機油としての特性に優れる、すなわち、冷凍機油としての適切な特性を有することを見出したのである。本発明において、上記効果が得られるメカニズムは、本発明者らの推測に過ぎず、技術的範囲が、当該メカニズムによって拘束され、本発明が限定されないのはいうまでもない。なお、モノ付加体の含有量が少ないポリアルキレングリコールの熱安定性が高いことは実施例で確認されている。
【0043】
また、特定のポリアルキレングリコールを含む冷凍機油は、炭素数1~8の炭化水素を含む冷媒との相溶性に優れる。本発明において上記効果が得られるメカニズムは不明だが、冷凍機油が冷媒との相溶性に優れることにより、本発明の冷凍機油は冷媒と組み合わせて作動媒体として好適に用いられる。
【0044】
なお、本発明において、「冷媒との相溶性に優れる(冷媒との適切な相溶性を有する)」とは、二層分離温度が低く、かつ冷媒と溶けすぎないことを意味する。本発明では、冷媒と冷凍機油との二層分離温度が、好ましくは-30℃以下であり、より好ましくは-35℃以下であり、さらに好ましくは-40℃以下であり、さらにより好ましくは-45℃以下である。二層分離温度の下限は、冷凍サイクルにおける蒸発器からコンプレッサへの冷凍機油の戻りと冷凍機油の潤滑性のバランスで決定され、冷凍システムの設計に依存する。二層分離温度は、後述の実施例に記載の方法により測定される。また、ポリアルキレングリコールは、鉱油およびポリオールエステルに比べると極性が高く、炭化水素冷媒と溶けすぎることがない。よって、本発明に係る冷凍機油は、ポリアルキレングリコールを含むことにより、冷媒と溶けすぎることがない。以上のように、本発明に係る冷凍機油は冷媒との相溶性に優れる(冷媒との適切な相溶性を有する)ため、本発明に係る冷凍機油を含む作動媒体は、強燃性の炭化水素冷媒の充填量が少なくても良好な性能を発揮できるものである。
【0045】
また、本発明において冷凍機油に含まれるポリアルキレングリコールは、モノ付加体の含有量が少ないため、揮発する成分が少なく、熱安定性に優れる。なお、本発明において、熱安定性に優れるとは、熱安定度試験(後述の実施例に詳細な方法を記載)の前後において、冷凍機油の重量変化が少ない;冷凍機油の動粘度の変化が少ない;熱・化学安定性試験(後述の実施例に詳細な方法を記載)の前後において、冷凍機油の酸価が0.01~0.05mgKOH/gである;冷凍機油の色相がL0.5~L1.0である;の少なくともひとつを達成するものである。これらのうち、特に、熱安定度試験の前後において、冷凍機油の重量変化が少ない;冷凍機油の動粘度の変化が少ない;の2つを達成するものが好ましい。なお、熱安定度試験において、「変化が少ない」とは、試験前後で比較した場合に、その変化率が0~3%である。このような熱安定性に優れる冷凍機油は、作動媒体として好適に用いられる。酸価が熱・化学安定性試験前後において上記範囲内である場合、熱安定性に優れるといえる。また、冷凍機油の色相が熱・化学安定性試験前後において上記範囲内である場合、熱安定性に優れるといえる。
【0046】
ここで、ポリアルキレングリコールにおいて、モノ付加体の含有量を調整し、モノ付加体の含有量が少ないポリアルキレングリコールを得る方法は、特に制限されず、公知の方法であってもよい。例えば、ポリアルキレングリコールを製造後、得られたポリアルキレングリコールに対して、蒸留、減圧処理、吸着処理、水洗処理等を行うことにより、モノ付加体を除去する方法が挙げられる。
【0047】
具体的には、攪拌機、加熱装置、冷却コンデンサー、レシーバーおよび真空ポンプを装着した反応器に、窒素雰囲気下、製造したポリアルキレングリコールを仕込む。反応器内のポリアルキレングリコールを、撹拌しながら80~100℃に加温した後、2~3時間、15~30mmHgの減圧下におき、減圧処理を行うことにより、ポリアルキレングリコール中のモノ付加体を除去することができる。また、反応器内の真空度を上げることにより上記減圧処理の時間を短縮することができる。なお、除去されたモノ付加体を回収することにより、続いて行うポリアルキレングリコールの製造時の原料として使用することができる。実施例におけるポリアルキレングリコールも全てこのような操作を行うことによって準備されている。上述のとおり、数平均分子量が200~1000の低分子量のポリアルキレングリコールにおいては、製造の際、アルコールにアルキレンオキサイドが1モル付加(n=1)したモノ付加体が生成しやすい。よって、このような操作を行わない限り、ポリアルキレングリコール中のモノ付加体の含有量は3質量%以下に低減できないものと考えられる。
【0048】
冷凍サイクル装置の効率の面から、本発明の冷凍機油の40℃における動粘度は、好ましくは1mm/s以上45mm/s以下である。冷凍機油の40℃における動粘度の上限は、38mm/s以下であることが好ましく、35mm/s以下であることがより好ましく、30mm/s以下であることがさらに好ましく、22mm/s以下であることがさらにより好ましく、15mm/s以下であることが特に好ましい。さらに、冷凍機油の40℃における動粘度の上限は、順に、14mm/s以下、13mm/s以下、13mm/s未満であることが好ましい。また、冷凍機油の40℃における動粘度の下限は、1mm/s以上であることがより好ましく、さらに好ましくは3mm/s以上、さらにより好ましくは5mm/s以上、特に好ましくは7mm/s以上である。冷凍機油の動粘度が上記範囲である場合、本発明の効果がより発揮される。
【0049】
また、ポリアルキレングリコールの40℃における動粘度は、好ましくは1mm/s以上45mm/s以下であり、より好ましくは3mm/s以上38mm/s以下であり、さらに好ましくは5mm/s以上35mm/s以下であり、さらにより好ましくは5mm/s以上30mm/s以下であり、特に好ましくは7mm/s以上22mm/s以下である。好ましい実施形態において、冷凍機油は、ポリアルキレングリコールを冷凍機油全質量に対して85質量%以上(最も好ましくは100質量%)含むため、ポリアルキレングリコールの動粘度と冷凍機油の動粘度とはほぼ同じである。
【0050】
また、ポリアルキレングリコールの流動点は、-10℃以下であることが好ましく、-20℃以下であることがより好ましく、-30℃以下であることがさらに好ましく、-40℃以下であることがさらにより好ましい。流動点が-10℃を超えるポリアルキレングリコールを用いると、低温時に冷媒循環システム内で冷凍機油が固化しやすくなる傾向にある。流動点とは、後述の実施例に記載の方法で測定されたものである。
【0051】
また、ポリアルキレングリコールの引火点は、120℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがより好ましい。引火点が120℃以上のポリアルキレングリコールを用いると、取り扱いが容易になるだけでなくコンプレッサ製造時の冷凍機油を注入した後の乾燥工程で安全であるため好ましい。引火点とは、後述の実施例に記載の方法で測定されたものである。
【0052】
ここで、冷媒の70℃における蒸気圧が1.77MPaである場合(すなわち、冷媒がプロパン単独で構成される場合)において、冷媒の冷凍機油に対する70℃における飽和溶解度は20質量%以下であるのが好ましい。なお、70℃における蒸気圧が1.77MPaである冷媒の冷凍機油に対する飽和溶解度は、国際公開第2005/095557号明細書に記載の方法に準じた。具体的には、ガラス製耐圧容器に所定量の冷凍機油及び冷媒を封入し、温度を室温から80℃まで昇温した。冷媒を溶解した冷凍機油の体積およびその時の圧力から計算により、温度/圧力/溶解度曲線を作成した。この溶解度曲線から70℃における冷凍機油に対する冷媒の溶解度(質量%)を算出した。
【0053】
本実施形態のポリアルキレングリコールは、片末端が極性の大きな水酸基であることから、無極性な炭化水素冷媒とは親和力が小さく、その溶解量を少なくすることができるものと考えられる。よって、作動媒体における炭化水素冷媒(好ましくはプロパンを含む冷媒)の充填量を低減することができる。また、水酸基は金属材料への吸着力が大きいことから、冷凍サイクル装置の心臓部であるコンプレッサのしゅう動材料への吸着膜を形成しやすく、良好な潤滑性(耐摩耗性)を示す。また、本実施形態のポリアルキレングリコールは、モノ付加体の含有量が少ないポリアルキレングリコールであることにより、冷凍機油としての特性(例えば、熱安定性)にも優れる。このことから、本発明において、特定のポリアルキレングリコールを用いることにより、冷凍機油の低粘度化が図れ、冷凍サイクル装置の高効率化につながるものと推測される。なお、本発明は、上記推論によって何ら制限されるものではない。
【0054】
本実施形態に係る冷凍機油は、上記のポリアルキレングリコールのみからなるもの(すなわちポリアルキレングリコールの含有量が100質量%のもの)であってもよいが、冷凍機油としての機能を満足する範囲において、上記のポリアルキレングリコール以外の成分(基油および添加剤)をさらに含有することができる。この場合、冷凍機油におけるポリアルキレングリコールの含有量は、冷凍機油全量を基準として、好ましくは60質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは85質量%以上であり、さらにより好ましくは90質量%以上であり、特に好ましくは95質量%以上であり、もっとも好ましくは97質量%以上である。
【0055】
本実施形態に係る冷凍機油が含有し得るその他の基油としては、エステル類、両末端をエーテル化したポリアルキレングリコール、両末端あるいは片末端をエステル化したポリアルキレングリコールやポリビニルエーテルなどのエーテル類、炭化水素系であるアルキルベンゼンや鉱油等が挙げられる。
【0056】
また、本実施形態に係る冷凍機油は、実使用における冷媒と冷凍機油との作動媒体の安定性を一層高めるため、添加剤として安定性向上剤をさらに含有することができる。好ましい安定性向上剤としては、チオビスフェノール化合物、芳香族アミン化合物のうち1種以上が挙げられ、チオビスフェノール化合物と芳香族アミン化合物を併用することがより好ましい。また、本実施形態に係る冷凍機油は、多価アルコールの部分エステル等の油性剤を添加剤としてさらに含有することができる。安定性向上剤及び油性剤の含有量は合計で、冷凍機油全量(全質量)を基準として、0.1~3.0質量%とすることが好ましい。すなわち、冷凍機油は、好ましくは、アミン化合物、フェノール化合物、および多価アルコールの部分エステルからなる群より選択される1種以上の添加剤を、冷凍機油全量に対して0.1~3.0質量%、より好ましくは0.2~2質量%、さらに好ましくは0.3~1.5質量%含有する。
【0057】
さらに、安定性向上剤のうち、フェノール化合物としては、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-エチルフェノールなどが好適である。フェノール化合物の含有量は、冷凍機油全量を基準として、0.05~1.0質量%が好ましく、0.1~0.5質量%がより好ましい。チオビスフェノール化合物としては、4,4’-チオビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、4,4’-チオビス(2-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4’-チオビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)などが好適である。チオビスフェノール化合物の含有量は、冷凍機油全量を基準として、0.05~1.0質量%が好ましく、0.1~0.5質量%がより好ましい。
【0058】
また、芳香族アミン化合物としては、α-ナフチルアミン、N-フェニル-1-ナフチルアミンなどが挙げられ、炭素数4~12のアルキル基を有するジ(アルキルフェニル)アミン(例えば、p,p’-ジ-オクチル-ジフェニルアミン)やアルキル化フェニル-α-ナフチルアミン、アルキル化フェニル-β-ナフチルアミンが好ましい。芳香族アミン化合物の含有量は、冷凍機油全量を基準として、好ましくは0.05~1.5質量%、より好ましくは0.1~1.0質量%である。
【0059】
また、多価アルコールの部分エステルとしては、グリセリンモノオレエート(グリセロールモノオレエート)、ソルビタンモノオレエートなどが挙げられ、多価アルコールの部分エステルの含有量は、冷凍機油全量を基準として、好ましくは0.01~1.0質量%、より好ましくは0.05~0.5質量%である。また、多価アルコールの部分エステルがモノエステルの場合、モノエステルが加水分解を受けやすいため、多価アルコールの部分エステルの含有量は、冷凍機油全量を基準として、好ましくは0.01質量%以上0.1質量%未満、より好ましくは0.01質量%以上0.05質量%未満である。
【0060】
また、本実施形態に係る冷凍機油は、ヒンダードフェノールなどの酸化防止剤、リン酸エステル、有機硫黄化合物などの摩耗防止剤、一価アルコール、高級脂肪酸類などの油性剤、ベンゾトリアゾール誘導体などの金属不活性化剤、シリコーンオイルなどの消泡剤等の添加剤を適宜添加することができる。
【0061】
本発明の冷凍機油は、通常、冷凍サイクル装置において、上述したような炭化水素冷媒(好ましくはプロパンを含む冷媒)と混合された作動媒体の形で存在している。この作動媒体における冷凍機油と炭素数1~8の炭化水素を含む冷媒(好ましくはプロパンを含む冷媒)との配合割合は特に制限されないが、炭素数1~8の炭化水素を含む冷媒(好ましくはプロパンを含む冷媒)100質量部に対して冷凍機油が好ましくは1~500質量部、より好ましくは2~400質量部、さらに好ましくは4~300質量部である。
【0062】
本発明によれば、上記作動媒体を用いた冷凍サイクル装置も提供される。すなわち、本発明の作動媒体は、冷凍サイクル装置に好適に用いることができ、例えば、往復動式や回転式の密閉型圧縮機を有する電気冷蔵庫、エアコンに好ましく用いられる。また、本発明の作動媒体は、除湿機、給湯器、冷凍庫、冷凍冷蔵倉庫、ショーケース、自動販売機、化学プラント等の冷却装置に好ましく用いられる。さらには、遠心式の圧縮機を有するものにも好ましく用いられる。
【0063】
このように本発明は特定のポリアルキレングリコールを使用することにも特徴の一つを有する。よって、本発明における一実施形態では、下記一般式(1):R-(OR-OH〔ただし、Rは、炭素数1~8の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基であり、ORは、同一または異なって、炭素数2および/または炭素数3のオキシアルキレン基を表し、nは、ORで表されるオキシアルキレン基の付加モル数を表す。〕で表され、平均分子量が200~1000であるポリアルキレングリコールを含む冷凍機油を含み、前記一般式(1)において前記ORが、オキシプロピレン基を含み、前記オキシプロピレン基が、前記ORの総付加モル数に対して、80モル%以上であり、前記一般式(1)においてnが1であるアルキレングリコールの含有量が、前記ポリアルキレングリコールの全質量に対して、3質量%以下である、冷媒圧縮式冷凍サイクル装置用作動媒体も提供される。
【0064】
よって、本発明における一実施形態では、下記一般式(1):R-(OR-OH〔ただし、Rは、炭素数1~8の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基であり、ORは、同一または異なって、炭素数2および/または炭素数3のオキシアルキレン基を表し、nは、ORで表されるオキシアルキレン基の付加モル数を表す。〕で表され、平均分子量が200~1000であるポリアルキレングリコールを含み、前記一般式(1)において前記ORが、オキシプロピレン基を含み、前記オキシプロピレン基が、前記ORの総付加モル数に対して、80モル%以上であり、前記一般式(1)においてnが1であるアルキレングリコールの含有量が、前記ポリアルキレングリコールの全質量に対して、3質量%以下である、冷媒圧縮式冷凍サイクル装置用冷凍機油も提供される。
【実施例
【0065】
以下、実施例および比較例に基づき本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0066】
以下の実施例では、冷媒として、プロパンの代わりにペンタンを用いる場合がある。ペンタンは、極性または比誘電率の観点から、冷媒としてプロパンと同様の相溶性を冷凍機油に対して示すものと考えられる。また、後述の二層分離温度は、冷媒としてペンタンを用いた場合でも、冷媒としてプロパンを用いた場合と同様の数値が得られることが確認されている。よって、以下の実施例において冷媒としてペンタンを用いた実施例は、本願発明の構成要件を満たしているものとみなす。
【0067】
[実施例(A)]
実施例1および比較例1、2では、以下の構成の冷凍機油をそれぞれ準備した。なお、以下の冷凍機油の構成において、「モノ付加体の含有量」とは、用いたポリアルキレングリコールモノアルキルエーテル(以下、「PAG-AE」略す場合もある)中のアルキレンオキサイドのモノ付加体の含有量を表す。また、添加剤を配合した冷凍機油の場合、添加剤配合量の残部が基油の配合量とする。よって、添加剤を配合していない冷凍機油の場合、冷凍機油は基油により構成されている。
【0068】
(実施例1)
(末端)がn-ブチル基、ORがオキシプロピレン基であるポリプロピレングリコールモノブチルエーテル(数平均分子量:400、モノ付加体(プロピレングリコールモノブチルエーテル)の含有量:0.5質量%)を冷凍機油の基油とした(添加剤の配合なし)。
【0069】
(比較例1)
(末端)がn-ブチル基、ORがオキシプロピレン基であるポリプロピレングリコールモノブチルエーテル(数平均分子量:200、モノ付加体(プロピレングリコールモノブチルエーテル)の含有量:28.8質量%)を冷凍機油の基油とした(添加剤の配合なし)。
【0070】
(比較例2)
(末端)がn-ブチル基、ORがオキシプロピレン基であるポリプロピレングリコールモノブチルエーテル(数平均分子量:400、モノ付加体(プロピレングリコールモノブチルエーテル)の含有量:5.1質量%)を冷凍機油の基油とした(添加剤の配合なし)。
【0071】
実施例1および比較例1、2で準備した各冷凍機油について、以下の方法に従って、評価試験を実施した。また、実施例1および比較例1、2の各冷凍機油で用いたPAG-AE中のモノ付加体の含有量は、以下の方法に従って測定した。得られた結果を表1に示す。
【0072】
[熱安定度試験]
冷凍機油の熱安定度試験はJIS法(石油製品-潤滑油-熱安定度試験方法:K2540(2000))に準拠し、測定を行った。ただし、試験温度は120℃、試験時間を24hとした。試験前後で試料の重量、動粘度を測定し、その変化を評価した。
【0073】
[動粘度]
冷凍機油の動粘度についてはJIS法(動粘度:K2283(2000))に準拠し、測定を行った。
【0074】
[二層分離温度]
冷凍機油と冷媒との相溶性試験として、JIS法(冷凍機油:K2211(2009))に準拠し、二層分離温度の測定を行った。なお、相溶性試験は、冷媒としてプロパンの代わりにペンタンを用いて、冷媒42.5gに対して、冷凍機油7.5gで行った。なお、本実施例では、室温(25℃)から-50℃までの温度範囲で測定を行った。そのため、冷凍機油と冷媒とを含む試料において、-50℃においても分離を生じなかった場合、その二層分離温度は「-50℃以下」(表中、「<-50℃」と記載)と評価した。
【0075】
[モノ付加体の含有量]
PAG-AE中のモノ付加体(オキシアルキレン基の付加モル数n=1のアルキレンモノアルキルエーテル)の含有量は、株式会社島津製作所製メチルシリコンキャピラリーカラムCBP1-M25-025(25m)を使用したガスクロマトグラフィーによって求めた。なお、モノ付加体の含有量は、ピーク面積の相対比(ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルの全ピーク面積に対するモノ付加体のピーク面積)から求めた。
【0076】
【表1】
【0077】
表1から、熱安定度試験において、冷凍機油として用いたPAG-AE中のモノ付加体の含有量が3質量%を超えると、冷凍機油の安定度試験後において、重量が大きく減少し、動粘度が上昇していることが分かる。重量減少が大きく、動粘度が変化すると、冷凍機油としての取り扱いが難しくなるだけでなく、冷凍システムの設計が困難で、かつ経済的にも不利である。また、冷凍機油として用いたPAG-AE中のモノ付加体の含有量が3質量%以下の場合、冷凍機油の動粘度が1mm/s以上45mm/s以下であり、かつ二層分離温度も-30℃以下となり、当該冷凍機油を含む作動媒体が冷凍サイクル装置の作動媒体として好適であることがわかった。
【0078】
[実施例(B)]
実施例2~4および比較例3、4では、以下の構成の冷凍機油をそれぞれ準備した。
【0079】
(実施例2)
(末端)がn-ブチル基、ORがオキシプロピレン基であるポリプロピレングリコールモノブチルエーテル(数平均分子量:800、モノ付加体(プロピレングリコールモノブチルエーテル)の含有量:0.8質量%)を冷凍機油の基油とした(添加剤の配合なし)。
【0080】
(実施例3)
(末端)がn-ブチル基、ORがオキシエチレン基およびオキシプロピレン基であり、オキシエチレン基とオキシプロピレン基とのモル比が1:19であるポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノブチルエーテル(数平均分子量:800、モノ付加体(エチレングリコールモノブチルエーテルおよびプロピレングリコールモノブチルエーテルの合計)の含有量:1.0質量%)を冷凍機油の基油とした(添加剤の配合なし)。
【0081】
(実施例4)
(末端)がn-ブチル基、ORがオキシエチレン基およびオキシプロピレン基であり、オキシエチレン基とオキシプロピレン基とのモル比が1:4であるポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノブチルエーテル(数平均分子量:800、モノ付加体(エチレングリコールモノブチルエーテルおよびプロピレングリコールモノブチルエーテルの合計)の含有量:0.7質量%)を冷凍機油の基油とした(添加剤の配合なし)。
【0082】
(比較例3)
(末端)がn-ブチル基、ORがオキシエチレン基およびオキシプロピレン基であり、オキシエチレン基とオキシプロピレン基とのモル比が1:1であるポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノブチルエーテル(数平均分子量:450、モノ付加体(エチレングリコールモノブチルエーテルおよびプロピレングリコールモノブチルエーテルの合計)の含有量:0.9質量%)を冷凍機油の基油とした(添加剤の配合なし)。
【0083】
(比較例4)
(末端)がn-ブチル基、ORがオキシエチレン基およびオキシプロピレン基であり、オキシエチレン基とオキシプロピレン基とのモル比が3:7であるポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノブチルエーテル(数平均分子量:800)、モノ付加体(エチレングリコールモノブチルエーテルおよびプロピレングリコールモノブチルエーテルの合計)の含有量:0.4質量%)を冷凍機油の基油とした(添加剤の配合なし)。
【0084】
次に、実施例2~4および比較例3、4で準備した各冷凍機油について、上記測定方法に従って評価試験を実施した。得られた結果を表2に示す。
【0085】
【表2】
【0086】
表2から、オキシエチレン基とオキシプロピレン基とを有するPAG-AEにおいて、オキシエチレン基のモル比率が20モル%を超えると、ペンタンとの二層分離温度が高くなる傾向があることがわかった。
【0087】
[実施例(C)]
実施例5~10および比較例5~7では、以下の構成の冷凍機油を準備した。なお、以下では、冷凍機油に添加剤を配合した場合、添加剤配合量の残部が基油の配合量とする。
【0088】
(実施例5)
(末端)がtert-ブチル基、ORがオキシプロピレン基であるポリプロピレングリコールモノtert-ブチルエーテル(数平均分子量:400、モノ付加体(プロピレングリコールモノtert-ブチルエーテル)の含有量:1.1質量%)を冷凍機油の基油とした(添加剤の配合なし)。
【0089】
(実施例6)
(末端)がtert-ブチル基、ORがオキシエチレン基およびオキシプロピレン基であり、オキシエチレン基とオキシプロピレン基とのモル比が1:9であるポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノtert-ブチルエーテル(数平均分子量:600、モノ付加体(エチレングリコールモノtert-ブチルエーテルおよびプロピレングリコールモノtert-ブチルエーテルの合計)の含有量:0.6質量%)を冷凍機油の基油とし、添加剤として、4,4’-チオビス(2-メチル-6-tert-ブチルフェノール)を冷凍機油全量に対して0.2質量%となるように配合し、冷凍機油を調製した。
【0090】
(実施例7)
(末端)がn-ブチル基、ORがオキシプロピレン基であるポリプロピレングリコールモノブチルエーテル(数平均分子量:800、モノ付加体(プロピレングリコールモノブチルエーテルの合計)の含有量:0.8質量%)を冷凍機油の基油とし、添加剤として、p,p’-ジ-オクチル-ジフェニルアミンを冷凍機油全量に対して0.5質量%となるように配合し、冷凍機油を調製した。
【0091】
(実施例8)
(末端)がイソプロピル基、ORがオキシエチレン基およびオキシプロピレン基であり、オキシエチレン基とオキシプロピレン基とのモル比が1:9であるポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノイソプロピルエーテル(数平均分子量:1000、モノ付加体(エチレングリコールモノイソプロピルエーテルおよびプロピレングリコールモノイソプロピルエーテルの合計)の含有量:0.3質量%)を冷凍機油の基油とし、添加剤として、p,p’-ジ-オクチル-ジフェニルアミンを冷凍機油全量に対して0.5質量%、およびグリセロールモノオレエートを冷凍機油全量に対して0.08質量%となるように配合し、冷凍機油を調製した。
【0092】
(実施例9)
(末端)がn-ブチル基、ORがオキシプロピレン基であるポリプロピレングリコールモノブチルエーテル(数平均分子量:950、モノ付加体(プロピレングリコールモノブチルエーテル)の含有量:0.3質量)を冷凍機油の基油とし、添加剤として、4,4’-チオビス(2-メチル-6-tert-ブチルフェノール)を冷凍機油全量に対して0.2質量%、p,p’-ジ-オクチル-ジフェニルアミンを冷凍機油全量に対して0.5質量%、およびグリセロールモノオレエートを冷凍機油全量に対して0.08質量%となるように配合し、冷凍機油を調製した。
【0093】
(比較例5)
パラフィン系鉱油の粘度グレード(VG)22を冷凍機油の基油とした(添加剤の配合なし)。
【0094】
(比較例6)
パラフィン系鉱油のVG46を冷凍機油の基油とした(添加剤の配合なし)。
【0095】
(実施例10)
(末端)がイソプロピル基、ORがオキシエチレン基およびオキシプロピレン基であり、オキシエチレン基とオキシプロピレン基とのモル比が1:9であるポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノイソプロピルエーテル(数平均分子量:900、モノ付加体(エチレングリコールモノイソプロピルエーテルおよびプロピレングリコールモノイソプロピルエーテルの合計)の含有量:0.2質量%)を冷凍機油の基油とし、添加剤として、p,p’-ジ-オクチル-ジフェニルアミンを冷凍機油全量に対して0.5質量%、およびグリセロールモノオレエートを冷凍機油全量に対して0.2質量%となるように配合し、冷凍機油を調製した。
【0096】
(比較例7)
(末端)がイソプロピル基、ORがオキシプロピレン基であるポリプロピレングリコールモノイソプロピルエーテル(数平均分子量:1200、モノ付加体(プロピレングリコールモノイソプロピルエーテルの合計)の含有量:0.1質量%)を冷凍機油の基油とし、添加剤として、4,4’-チオビス(2-メチル-6-tert-ブチルフェノール)を冷凍機油全量に対して0.2質量%、p,p’-ジ-オクチル-ジフェニルアミンを冷凍機油全量に対して0.5質量%、およびグリセロールモノオレエートを冷凍機油全量に対して0.2質量%となるように配合し、冷凍機油を調製した。
【0097】
次に、実施例5~10および比較例5~7の各冷凍機油について、以下に示す性状測定、評価試験を実施した。得られた結果を表3、表4に示す。
【0098】
一般性状(動粘度、引火点、流動点、酸価)については、JIS法(動粘度:K2283(2000)、引火点:K2265(2007)、流動点:K2269(1987)、酸価:K2501(2003))に準拠して測定し、色相についてはASTM D156に準拠して測定した。
【0099】
[熱・化学安定性の評価]
JIS K2211(冷凍機油)の付属書C(冷媒との化学的安定性試験方法)に基づいて、各冷凍機油(実施例のポリアルキレングリコールについては水分を1000ppmに、比較例の鉱油については水分を30ppmに調整)30gと、プロパン(R290)30gと、触媒(鉄、銅、アルミの各線)とをオートクレーブに封入した後、175℃に加熱して7日間保持して試験した。試験後、試料(冷凍機油)の色相および酸価を評価した。
【0100】
[冷媒必要量の評価(エアコン試験)]
一体型エアコンに、比較例5の鉱油冷凍機油200gとプロパン(R290)350gとを封入したエアコンの能力を測定し、基準とした。次に、実施例5~10および比較例6、7の各冷凍機油を順次用いて、同じ冷房能力になるために必要なプロパン(R290)量を測定した(初期に350gと冷凍機油200gとを封入し、能力を測定しながら徐々に冷凍サイクルから抜く)。
【0101】
得られた結果を表3に示した。
【0102】
【表3】
【0103】
【表4】
【0104】
表3および表4から、熱・化学的安定性において、実施例5の冷凍機油は添加剤が配合されていないため、若干の色相劣化と酸価の上昇とがあるが、問題ないレベルであることがわかる。添加剤が配合されている実施例6~10は色相と酸化とにおいて劣化が見られず良好である。エアコン試験により、冷媒の必要な封入量が、本発明の冷凍機油を用いることにより大幅に低減できることがわかった。なお、比較例7は、熱・化学的安定性は問題ないレベルであるが、動粘度が高い。よって、粘性抵抗が大きいのでコンプレッサの効率が悪くなると考えられ、好ましくない。
【0105】
なお、実施例1~10の冷凍機油は、プロパンの冷凍機油に対する70℃における飽和溶解度が、20質量%以下であることを確認した。プロパンの冷凍機油に対する70℃における飽和溶解度は、国際公開第2005/095557号明細書に記載の方法に準じた。
【0106】
以上のように本発明によれば、炭素数1~8の炭化水素を含む冷媒と冷凍機油とを含む冷媒圧縮式冷凍サイクル装置用作動媒体において、冷凍機油が、冷媒との適切な相溶性、低粘度、および高い熱安定性うちの少なくともひとつを達成する、冷媒圧縮式冷凍サイクル装置用作動媒体が提供される。また、本発明によれば、冷凍サイクル装置への冷媒(炭素数1~8の炭化水素を含む冷媒)の充填量が少なくても良好な性能を発揮できる作動媒体が提供される。
【0107】
本出願は、2019年8月7日に出願された日本特許出願番号第2019-145695号に基づいており、その開示内容は、その全体が参照により本明細書に組みこまれる。