(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-09
(45)【発行日】2024-08-20
(54)【発明の名称】抗体-薬物コンジュゲート
(51)【国際特許分類】
C07K 16/28 20060101AFI20240813BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20240813BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240813BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20240813BHJP
A61K 31/7105 20060101ALI20240813BHJP
A61K 31/713 20060101ALI20240813BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20240813BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20240813BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20240813BHJP
【FI】
C07K16/28 ZNA
A61K47/68
A61K48/00
A61K31/7088
A61K31/7105
A61K31/713
A61P9/00
A61P35/02
A61P21/00
(21)【出願番号】P 2022137571
(22)【出願日】2022-08-31
(62)【分割の表示】P 2020211507の分割
【原出願日】2017-06-19
【審査請求日】2022-09-29
(31)【優先権主張番号】P 2016122187
(32)【優先日】2016-06-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】518277790
【氏名又は名称】株式会社GenAhead Bio
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】周郷 司
(72)【発明者】
【氏名】宮田 健一
(72)【発明者】
【氏名】大瀧 徹也
【審査官】春田 由香
(56)【参考文献】
【文献】NORMAND-SDIQUI N, AKHTAR S,Oligonucleotide delivery: Uptake of rat transferrin receptor antibody (OX-26) conjugates into an in vitro immortalised cell line model of the blood-brain barrier,International Journal of Pharmaceutics,1998年,Vol.163, No.1-2,p.63-71
【文献】HUDSON AJ et al.,Cellular delivery of hammerhead ribozymes conjugated to a transferrin receptor antibody,International Journal of Pharmaceutics,1999年,Vol.182, No.1,p.49-58
【文献】Jain, N. et al.,Current ADC Linker Chemistry,Pharmaceutical Research,2015年,Vol.32, No.11,p.3526-3540,doi:10.1007/s11095-015-1657-7
【文献】宮田 完二郎 ほか,高分子ナノテクノロジーが切り拓く核酸医薬デリバリー,Drug Delivery System,2016年01月,第31巻,第1号,p.44-53
【文献】SCHNYDER A et al.,Targeting of skeletal muscle in vitro using biotinylated immunoliposomes,The Biochemical Journal,2004年,Vol.377, Pt.1,p.61-67
【文献】SEKYERE EO et al.,Examination of the distribution of the transferrin homologue, melanotransferrin (tumour antigen p97), in mouse and human,Biochimica et Biophysica Acta,2005年,Vol.1722, No.2,p.131-142
【文献】Mendonca, L. S. et al.,Transferrin receptor-targeted liposomes encapsulating anti-BCR-ABL siRNA or asODN for chronic myeloid leukemia treatment,Bioconjugate Chemistry,2010年,Vol.21, No.1,p.157-168,doi:10.1021/bc9004365
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00-39/44
A61K 45/00-45/08
A61K 31/00-31/80
A61K 48/00
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
医中誌WEB
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗CD71抗体またはその抗原結合性断片と薬物とのコンジュゲートであって、
抗CD71抗体またはその抗原結合性断片は、リンカーを介して薬物と共有結合しており、
リンカーのマレイミド基と前記抗体または前記断片との間で共有結合を形成しており、
リンカーと薬物は共有結合しており、
但し、リンカーは、細胞内の還元環境下で開裂する-S-S-結合をその構成中に有するリンカーではなく、
薬物は、核酸であ
り、
インビボにおいてCD71発現細胞内の細胞質に移行し、CD71発現細胞内で標的mRNAの発現を7日間にわたり抑制することができる、
コンジュゲート。
【請求項2】
薬物が修飾核酸を含む、
請求項1に記載のコンジュゲート。
【請求項3】
薬物がRNAもしくは修飾核酸を含む、
請求項1または2に記載のコンジュゲート。
【請求項4】
薬物がmRNAである、
請求項1~3のいずれか一項に記載のコンジュゲート。
【請求項5】
薬物がsiRNAである、
請求項1~3のいずれか一項に記載のコンジュゲート。
【請求項6】
薬物がアンチセンスオリゴヌクレオチドである、
請求項1または2に記載のコンジュゲート。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載のコンジュゲートを含む、心筋および骨格筋から選択されるいずれか少なくとも1つに薬物を送達することに用いるための組成物。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか一項に記載のコンジュゲートを含む、免疫細胞に薬物を送達することに用いるための組成物。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか一項に記載のコンジュゲートを含む医薬。
【請求項10】
筋肉の疾患の予防および/または治療剤である、
請求項9に記載の医薬。
【請求項11】
請求項1に記載のコンジュゲートの製造方法であって、
前記抗体または前記断片とチオール反応性基を有するリンカーと連結した前記薬物とを反応させることを含み、
チオール反応性基は、マレイミド基であり、
前記薬物は、核酸である、
方法。
【請求項12】
請求項11に記載のコンジュゲートの製造方法であって、
前記薬物に結合し、かつ、置換基を有する炭素鎖を用意することと、
前記炭素鎖の前記置換基に、チオール反応性基を導入する基を導入して、前記薬物と連結し、かつ、チオール反応性基を有するリンカーを得ることと
をさらに含む、方法。
【請求項13】
前記薬物と前記置換基を有する炭素鎖との結合は、前記置換基を有する炭素鎖への核酸合成反応により行われる、
請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗体-薬物コンジュゲート(ADC)、特に抗CD71抗体の抗原結合性断片(例、Fab’)と薬物とのコンジュゲートに関する。本発明により、筋肉に薬物を送達するための上記コンジュゲートを含む組成物が提供される。
【0002】
[発明の背景]
CD71は、トランスフェリン受容体であり、鉄を結合したホロトランスフェリンと結合して、これを受容体媒介エンドサイトーシスにより細胞内に移行させ、鉄分を細胞内に取り込む働きをする。CD71は、細胞膜上からエンドサイトーシスにより細胞内に取り込まれた後には、また細胞膜上にリサイクルされると考えられている。
【0003】
トランスフェリンは、CD71により細胞内に取り込まれるため、トランスフェリンと薬物をコンジュゲートすることにより、薬物をCD71発現細胞内に取り込ませる研究が行われてきた(非特許文献1~4)。トランスフェリンとDNAとのコンジュゲートは、それ自体では細胞内に取り込ませることができず、ポリエチレンイミンをコンジュゲートと複合体化させるとDNAが細胞内に取り込まれることが報告されている(非特許文献5)。
【0004】
筋肉は、薬物の送達が難しい組織であるとされる。この理由は、筋肉内の血管の内皮は、血管を敷石上に敷き詰めており、物質が通過するための孔を有しないためと考えられている。この血管内皮の構造などが障壁となるため、筋肉への薬物の効率的な送達は困難である(非特許文献6および7)。
【0005】
非特許文献8には、Her2、TENB2などに対する抗体モノマーとsiRNAのコンジュゲートが開示されている。非特許文献9には、Her2、IGF1-R、CD22などに対する抗体とsiRNAを、ジゴキシゲニンを介して抗体に結合させたBispecific Digoxigenin-binding Antibodiesが開示されている。
【0006】
非特許文献10は、抗CD71抗体のFab’断片によりsiRNAを筋肉に送達することを開示するが、本願優先日以降に発明者らが基礎出願の内容の一部を発表した文献である。
【0007】
特許文献1には、抗CD71抗体のアミノ酸配列により抗腫瘍効果の有無が決定されること、および抗腫瘍効果を有する抗体のアミノ酸配列が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【非特許文献】
【0009】
【文献】E. Wagner et al., PNAS, 87: 3410-3414, 1990
【文献】E. Chang et al., Hum Gene Ther., 8: 467-475, 1997
【文献】M. Davis et al., Bioconjug. Chem., 14: 1122-1132, 2003
【文献】Y. Sato et al., FASEB J., 14: 2018-2118, 2000
【文献】K.W. Liang et al., Molecular Therapy, 1 (3): 236-243, 2000
【文献】B. Rippe et al., Physiol. Rev. 74: 163-219, 1994
【文献】J.A. Wolff et al., Adv. Genet. 54: 1-20, 2005
【文献】T.L. Cuellar et al., Nucleic Acid Research, 43 (2): 1189-1203, 2015
【文献】B. Schneider et al., Molecular Therapy-Nucleic Acids, 1, e46, 2012
【文献】T. Sugo et al., Journal of Controlled Release, 237: 1-13, 2016
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、核酸等の薬物を筋肉等の組織や細胞へ効果的に送達する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、抗CD71抗体またはその抗原結合性断片と薬物とのコンジュゲートが、筋肉に良好に送達されることを見出した。また、筋肉に送達された薬物が、当該筋肉において所望の活性を発揮しうる(例えば、抗CD71抗体またはその抗原結合性断片とミオスタチンに対するsiRNAとのコンジュゲートを筋肉に送達させた場合に、筋肉量を増大させる作用を有する)ことを見出した。本発明はこのような知見に基づいてなされたものである。
【0012】
すなわち、本発明によれば以下の発明が提供される。
[1]抗CD71抗体またはその抗原結合性断片と薬物とのコンジュゲート(本明細書において、本発明のコンジュゲートと称することがある)。
[2]抗原結合性断片がFab’である、上記[1]に記載のコンジュゲート。
[3]抗CD71抗体またはその抗原結合性断片が、抗CD71抗体のFab’である、上記[1]または[2]に記載のコンジュゲート。
[4]薬物が核酸である、上記[1]~[3]のいずれかに記載のコンジュゲート。
[5]薬物がRNAである、上記[1]~[4]のいずれかに記載のコンジュゲート。
[6]薬物がmRNAである、上記[1]~[5]のいずれかに記載のコンジュゲート。
[7]薬物がsiRNAである、上記[1]~[5]のいずれかに記載のコンジュゲート。
[8]薬物がアンチセンスオリゴヌクレオチドである、上記[1]~[4]のいずれかに記載のコンジュゲート。
[9]抗CD71抗体またはその抗原結合性断片と薬物とがリンカーによって連結された、上記[1]~[8]のいずれかに記載のコンジュゲート。
[10]上記[1]~[9]のいずれかに記載のコンジュゲートを含む、心筋および骨格筋から選択されるいずれか少なくとも1つに薬物を送達することに用いるための組成物。
[11]心筋および骨格筋から選択されるいずれか少なくとも1つに薬物を送達するための、抗CD71抗体またはその抗原結合性断片の使用。
[12]心筋および骨格筋から選択されるいずれか少なくとも1つに薬物を送達することに用いるための、抗CD71抗体またはその抗原結合性断片。
[13]上記[1]~[9]のいずれかに記載のコンジュゲートを含む医薬。
[14]筋肉の疾患の予防および/または治療剤である、上記[13]に記載の医薬。
[15]哺乳動物に対し、上記[1]~[9]のいずれかに記載のコンジュゲートの有効量を投与することを含む、筋肉の疾患の予防および/または治療方法。
[16]筋肉の疾患の予防および/または治療剤を製造するための、上記[1]~[9]のいずれかに記載のコンジュゲートの使用。
[17]筋肉の疾患の予防および/または治療に治療するための、上記[1]~[9]のいずれかに記載のコンジュゲート。
[18]抗CD71抗体のFab’と薬物とのコンジュゲートを製造する方法であって、
前記Fab’のチオール基と該チオール基と反応性を有する官能基を有する薬物とを反応させること、または
前記Fab’のチオール基と該チオール基と反応性を有する官能基を有するリンカーに結合した薬物とを反応させること
を含む、方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、薬物を効果的に骨格筋及び心筋等の筋肉等の細胞または組織に送達しうる。本発明によれば、また薬物を効果的に骨格筋及び心筋等の筋肉等の細胞または組織に送達することにより、筋肉等の細胞または組織の疾患を予防または治療しうる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、抗体-薬物コンジュゲートの一例として、抗体がFab’であり、薬物がsiRNAであるコンジュゲートの調製例を示す。
図1Aは、siRNAに対するチオール反応性基の導入例を示す。
図1Bは、抗体を消化及び還元してFab’とし、Fab’のチオール基とsiRNAのチオール反応性基とを反応させてコンジュゲートを得るスキームを示す。
図1Cは、サイズ除外クロマトグラフィー-HPLCによるクロマトグラムを示す。
図1Dは、コンジュゲートのピークが認められたクロマトグラムであり、上記コンジュゲートが高精製度で得られることを示す。
図1EはFab’の吸光スペクトルを示し、
図1Fは、siRNAの吸光スペクトルを示し、
図1Gは、上記コンジュゲートの吸収スペクトルを示す。
【
図2】
図2は、抗体-薬物コンジュゲートの一例として、抗体がBioXcell (West Lebanon, NH)から購入した抗CD71抗体(clone RI7 217.1.3)(本明細書において、「clone RI7」と称することがある。)のFab’であり、薬物がsiRNAであるコンジュゲートの結合能の評価結果を示す。
図2Aは、プレート表面に固定化したCD71に対するclone RI7の結合活性を示す。
図2Bは、clone RI7のFab’とsiRNA(具体的にはHPRTに対するsiRNA)とのコンジュゲートのCD71に対する結合活性を示す。
図2Cは、siRNAとアイソタイプコントロールIgG
2aのFab’とのコンジュゲートは、CD71に対して反応しないことを示す。
図2Dは、clone RI7のFab’とsiRNA(具体的にはHPRTに対するsiRNA)とのコンジュゲートが、CD71に対する結合においてclone RI7と競合することを示す。
図2Eは、clone RI7のFab’とsiRNA(具体的にはHPRTに対するsiRNA)とのコンジュゲートが、トランスフェリン(Tf)とは弱くしか競合しないことを示す。
図2Fは、clone RI7のFab’とsiRNA(具体的にはHPRTに対するsiRNA)とのコンジュゲートが、アイソタイプコントロールIgG
2aとは競合しないことを示す。
【
図3】
図3は、培養細胞に対するclone RI7のFab’とsiRNAのコンジュゲートによる遺伝子のサイレンシング(ノックダウン)を示す。
図3Aは、CD71を弱発現する初代肝細胞に対して、clone RI7のFab’とApoBに対するsiRNA(siApoB)とのコンジュゲートを培地に添加した場合の、細胞内におけるApoBの遺伝子発現に対するサイレンシングを示す図である。
図3Bは、マイトージェンの一例としての抗IgMで刺激したB細胞、
図3Cは、マイトージェンの一例としてのL-PHAで刺激したT細胞に対して、clone RI7のFab’とHPRTに対するsiRNA(siHPRT)とのコンジュゲートを培地に添加した場合の、細胞内におけるHPRTの遺伝子発現に対するサイレンシングを示す図である。
図3Aにおいては、黒丸は、GalNAc-siApoB、白丸は、clone RI7のFab’とsiApoBとのコンジュゲートを示す。
図3Bおよび
図3Cにおいては、黒丸は、clone RI7のFab’とsiHPRTとのコンジュゲート、白丸は、アイソタイプコントロールIgG
2aとsiHPRTとのコンジュゲートを示す。
【
図4】
図4は、抗体がclone RI7のFab’であり、薬物がsiRNAであるコンジュゲートのインビボにおける動態および機能を示す図である。図中の数字(%)は、発現量の低下量を示す。
図4Aは、投与6時間後および24時間後における血漿中のコンジュゲートの量を示す。
図4Bは、clone RI7のFab’とApoBに対するsiRNAとのコンジュゲート(10mg/kg体重、静脈内)投与24時間後の肝臓におけるApoBの発現量を示す。
図4Cは、clone RI7のFab’とHPRTに対するsiRNAとのコンジュゲート(10mg/kg体重、静脈内)投与24時間後または48時間後の各組織におけるHPRTに対するサイレンシングを示す図である(n=4、*:p<0.05、**:p<0.005、***:p<0.0001、student’s t-テストによる)。
図4Dおよび4Eは、clone RI7のFab’とHPRTに対するsiRNAとのコンジュゲート(10mg/kg体重、静脈内)投与72時間後の腓腹筋(
図4D)および心筋(
図4E)におけるHPRTに対するサイレンシングを示す図である。
図4Fは、陰性対照siRNAではHPRTのサイレンシングが生じないことを示す。図中siNCは、陰性対照siRNAを意味する。
図4Gは、
図4Dおよび4Eで内部参照をβアクチン(ACTB)としていたのをGAPDHに変えても同じ結果が観察されることを示す(n=4、*:p<0.05、**:p<0.01、***:p<0.001、ウェルチテスト)。
【
図5】
図5は、各組織におけるCD71の発現量を示す図である(各組織についてn=4)。
【
図6】
図6は、リンカーの違いによるサイレンシングへの影響を示す図である。
図6Aでは、clone RI7のFab’とHPRTに対するsiRNAとのコンジュゲート(10mg/kg体重、静脈内)の投与48時間後のHPRTのサイレンシングをリンカーの種類別に示す。ここで、リンカーは、
図1Aにおいて同一名称で示される官能基を
図1Bのスキームに従ってFab’のチオール基と反応させて得た。
図6Bは、clone RI7のFab’とHPRTに対するsiRNAとのコンジュゲート(10mg/kg体重、静脈内)の投与7日後の腓腹筋におけるサイレンシングを、マレイミドリンカー(開裂不可能)とVal-Citリンカー(開裂可能)とで比較した結果を示す。
図6Cは、clone RI7のFab’とHPRTに対するsiRNAとのコンジュゲート(10mg/kg体重、静脈内)の投与48時間後の心筋における各種リンカーによるサイレンシングの比較を示す。
図6Dは、clone RI7のFab’とHPRTに対するsiRNAとのコンジュゲート(10mg/kg体重、静脈内)の投与7日後の心筋におけるサイレンシングを、マレイミドリンカー(開裂不可能)とVal-Citリンカー(開裂可能)とで比較した結果を示す。ここで、
図6AおよびCにおいては、n=4であり、Dunnet’sテストによる統計解析を行った(*:p<0.05、***:p<0.001)。
図6BおよびDにおいては、n=4であり、ウィリアムズテストによる統計解析を行った(*:p<0.05)。
図6Eは、clone RI7のFab’とHPRTに対するsiRNAとのコンジュゲート(10mg/kg体重、静脈内)の投与2週間後、3週間後または4週間後の腓腹筋におけるHPRTまたはミオスタチン(陰性対照)に対するサイレンシングを示す。
図6Fは、
図6Eの投与後の心筋におけるHPRTまたはミオスタチン(陰性対照)に対するサイレンシングを示す。
図6EおよびFでは、n=4であり、student’s t-テストによる統計解析を行った(*:p<0.05、**:p<0.01、***:p<0.001)。
【
図7】
図7は、投与方法の違いがサイレンシングに及ぼす影響を示す図である。
図7では、clone RI7のFab’とHPRTに対するsiRNAとのコンジュゲート(10mg/kg体重)を静脈内投与(IV)、皮下投与(SC)または腹腔内投与(IP)して投与法によりサイレンシングに相違が生じるかを検証した。
図7Aは、投与7日後の腓腹筋におけるHPRTに対するサイレンシングを示す(n=4、*:ウェルチテストにおけるp<0.05;**:ウェルチテストにおけるp<0.005;***:student’s tテストにおけるp<0.0001)。
図7Bは、投与7日後の心筋におけるHPRTに対するサイレンシングを示す。
図7Cは、筋肉内投与により1μgの各種コンジュゲートまたは陰性対照により処置された腓腹筋における投与7日後のHPRTに対するサイレンシングを示す。
図7Dは、未処置である反対側の腓腹筋におけるサイレンシングを示す。
図7CおよびDにおいてn=4であり、Dunner’sテストにより統計解析した(*:p<0.05;***p<0.001)。
図7EおよびFは、clone RI7のFab’とHPRTに対するsiRNAとのコンジュゲートの40μgを筋肉内投与して、処置した腓腹筋における3日後、7日後または14日後のHPRTまたはミオスタチンに対するサイレンシングを示す。n=4であり、統計解析はウェルチテストによる(***:p<0.001)。
図7Fは、未処置の反対側の腓腹筋における3日後、7日後または14日後のHPRTまたはミオスタチンに対するサイレンシングを示す。n=4であり、統計解析はstudent‘sテストによる(*:p<0.05;***:p<0.001)。
【
図8】
図8は、末梢動脈疾患(PAD)マウスにおけるclone RI7のFab’とミオスタチンに対するsiRNAとのコンジュゲートの効果を示す。
図8Aは、正常マウスの一方の足の腓腹筋に筋肉内投与したコンジュゲートによるミオスタチンまたはHPRTに対するサイレンシングを示す。
図8Bは、未処置である反対側の足の腓腹筋におけるミオスタチンまたはHPRTに対するサイレンシングを示す。
図8AおよびBにおいて、n=4であり、統計解析はウィリアムズテストにより行った(*:p<0.0001)。
図8Cは、大腿動脈結紮(FAL)によるPADモデルマウスにおけるclone RI7のFab’とミオスタチンに対するsiRNA(siMSTN)とのコンジュゲートのサイレンシングを示す。
図8Cでは、clone RI7のFab’とsiMSTNとのコンジュゲート(20μg/FAL済みの脚)を週1回の間隔で4週間筋肉内投与した後のミオスタチンに対するサイレンシングを示す。
図8Cでは、n=3~5であり、student’s tテストにより解析した($$:みせかけ対照(sham)に対してp<0.01;#:FAL対照に対してp<0.05)。
図8Dは、
図8Cの通り処置されたマウスにおける腓腹筋の重量を示す。
図8Dでは、n=2~5であり、student’s tテストによって統計解析した(###:FAL対照と比較してp<0.001)。
図8Eでは、
図8Cの通り処置されたマウスの腓腹筋の薄層切片のヘマトキシリン・エオシン染色像を示す。矢じりは筋繊維を示し、再生した筋繊維は中心に核が局在することで特徴付けられる。スケールバーは、50μmを示す。
図8Fは、
図8Eに示された腓腹筋における筋繊維の横断面積の平均値を示す。
図8Fでは、student’s tテストにより統計解析した($$:みせかけ対照(sham)に対してp<0.01;###:FAL対照に対してp<0.001)。
図8Gでは、
図8Cの通り処置されたマウスのトレッドミルテストによる走行パフォーマンステストの結果を示す。
図8Gでは、n=12であり、student’s tテストにより統計解析した(#:FAL対照に対してp<0.05)。
【
図9】
図9は、培養ヒト細胞に対するOKT9抗体のFab’とsiRNAのコンジュゲートによる遺伝子のサイレンシング(ノックダウン)を示す。CD71を発現するヒト慢性骨髄性白血病細胞(K562)に対して、OKT9抗体のFab’とHPRTに対するsiRNAとのコンジュゲート(図中では「CD71-siRNA(HPRT)で表される)を培地に添加した場合の、細胞内におけるHPRTの遺伝子発現に対するサイレンシングを示す図である。OKT9抗体の代わりにアイソタイプコントロールIgG
2aのFab’を用いたコンジュゲート(図中では「IgG-siRNA(HPRT)で表される)を陰性対照とした。
【
図10】
図10は、clone RI7のFab’とMALAT1に対するアンチセンスオリゴ核酸(ASO)とのコンジュゲート(10mg/kg体重、静脈内)投与48時間後の各組織におけるMALAT1に対するサイレンシングを示す図である(n=4)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書では、「対象」とは、動物(例えば、ほ乳動物(例えば、霊長類(例えば、ヒト)))を意味する。
【0016】
本明細書では、「抗体」とは、免疫グロブリンを意味し、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体を含む。抗体としては、モノクローナル抗体が好ましい。
抗体の由来は、特に限定されないが例えば、非ヒト動物の抗体(例えば、非ヒト哺乳動物の抗体)、およびヒト抗体が挙げられる。また、抗体は、キメラ抗体、ヒト化抗体であってもよい。また、抗体は、二重特異性抗体であってもよい。抗体の由来としては、ヒト化抗体またはヒト抗体が好ましい。
抗体としては、キメラモノクローナル抗体、ヒト化モノクローナル抗体またはヒトモノクローナル抗体が好ましい。なお、キメラモノクローナル抗体およびヒト化モノクローナル抗体は、非ヒト動物の抗体から自体公知の方法で作成することができる。
抗体は、2本の重鎖と2本の軽鎖とが会合した構造を有する。重鎖は、重鎖可変領域(VH)と重鎖定常領域(CH1、CH2およびCH3)および、重鎖可変領域と重鎖定常領域との間に位置するヒンジ領域からなる。軽鎖は、軽鎖可変領域(VL)と軽鎖定常領域(CL)とからなる。重鎖可変領域および軽鎖可変領域はそれぞれ、3つの相補性決定領域(CDR)を有し、これにより抗体の抗原特異性が特徴付けられる。CDRは、重鎖および軽鎖のそれぞれN末端側から重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、並びに、軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3と呼ばれる。
【0017】
本明細書では、「抗原結合性断片」とは、抗原への結合性が維持された抗体の一部を意味する。抗原結合性断片は、本発明の抗体の重鎖可変領域若しくは軽鎖可変領域またはその両方を含みうる。抗原結合性断片は、キメラ化またはヒト化されていてもよい。抗原結合性断片としては、例えば、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv、scFv(単鎖Fv)、ダイアボディー、sc(Fv)2(単鎖(Fv)2)および半分子型Igが挙げられる。本発明ではこれらの抗体の抗原結合性断片を用いうる。このような抗体の断片は、特に限定されないが例えば、抗体を酵素で処理して得ることができる。例えば、抗体をパパインで消化すると、Fabを得ることができる。あるいは、抗体をペプシンで消化すると、F(ab’)2を得ることができ、これをさらに還元するとFab’を得ることができる。
【0018】
本明細書では、「処置」(treating)とは、治療(therapy)または予防(prevention)を意味する。
【0019】
本明細書では、「薬物」とは、例えば、生体において有用な生理活性物質(例えば、タンパク質(例えば、酵素)、核酸(例えば、DNAや修飾核酸)、脂質、ペプチド、糖、低分子化合物、代謝物および二次代謝物など)、造影剤、蛍光色素など(本明細書において生理活性物質等と称することがある)を意味する。本明細書では、「薬物」は、生理活性物質等に加えて、細胞内で生理活性物質等を放出しうる形態の薬物(例えば、生理活性物質等のプロドラッグおよび生理活性物質等が内包された小胞)を含む意味で用いられる。本明細書では、「生理活性物質」とは、生体の特定の生理的調節機能に作用する物質を意味する。造影剤や蛍光色素を「薬物」として使用することにより、筋肉の画像診断などを実施しうる。
「薬物」としては、生理活性物質が好ましく、生理活性物質としては「核酸」が好ましい。
【0020】
本明細書では、「核酸」とは、天然のDNAおよび天然のRNAなどの天然の核酸、アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)、修飾DNAおよび修飾RNAなどの修飾核酸、人工核酸およびこれらの組合せが挙げられる。修飾核酸としては、例えば、蛍光色素修飾された核酸、ビオチン化された核酸、コレステリル基を導入した核酸が挙げられる。RNAは安定性を高めるために、塩基に対して2’-O-メチル修飾または、2’-フルオロ修飾若しくは2’-メトキシエチル(MOE)修飾をすることがあり、核酸バックボーンのホスホジエステル結合をホスホロチオエート結合に置き換えることもある。人工核酸としては、2’位の酸素原子と4’位の炭素原子が架橋された核酸が挙げられる。このような人工核酸としては、例えば、2’位の酸素原子と4’位の炭素原子がメチレンを介して架橋された架橋型DNAであるlocked nucleic acid(LNA)、2’位の酸素原子と4’位の炭素原子がエチレンを介して架橋されたENA、2’位の酸素原子と4’位の炭素原子が-CH2OCH2-を介して架橋されたBNACOC、2’位の酸素原子と4’位の炭素原子が-NR-CH2-{ここで、Rは、メチルまたは水素原子である}を介して架橋されたBNANCなどの架橋型核酸(BNA)、2’位の酸素原子と4’位の炭素原子が-CH2(OCH3)-を介して架橋されたcMOE、2’位の酸素原子と4’位の炭素原子が-CH2(CH3)-を介して架橋されたcEt、2’位と4’位の炭素原子がアミドを介して架橋されたAmNA、2’位の酸素原子と4’位の炭素原子がメチレンを介して架橋され、6’位にシクロプロパンが形成されたscpBNA、およびデオキシリボースまたはリボースの代わりにN-(2-アミノエチル)グリシンがアミド結合したポリマーが主鎖となったペプチド核酸(PNA)などが挙げられる。RNAとしては、siRNAおよびshRNAなどの遺伝子サイレンシングのための人工的なRNA、マイクロRNA(miRNA)、アプタマーなどのノンコーディングRNA、およびmRNAなどの天然のRNAが挙げられる。これらのRNAは、生体内で安定化するように修飾されうる。
【0021】
本明細書では、「コンジュゲート」とは、2つの物質が共有結合により連結した結合体を意味する。コンジュゲートにおいて、上記2つの物質は直接連結していてもよいし、リンカーを介して連結していてもよい。本発明では、上記2つの物質のうち1つは、抗体またはその抗原結合性断片であり、もう一つは薬物(例えば、生理活性物質)である。また、本発明では、リンカーは開裂可能なリンカーであってもよいし、開裂不可能なリンカーであってもよい。
【0022】
本明細書では、「抗体-薬物コンジュゲート」とは、抗体と薬物とのコンジュゲート(ADC)を意味する。抗体と連結することにより薬物に抗原に対する親和性が付与され、これにより薬物を標的の生体内の部位に送達する効率が高まりうる。本明細書では、抗体-薬物コンジュゲートは、抗体の抗原結合性断片と薬物とのコンジュゲートも含まれる意味で用いられる。
【0023】
「CD71」は、細胞内に鉄を取り込む働きを有するトランスフェリン受容体として知られる。CD71は、肝細胞に発現する。また、CD71は通常の休止状態のリンパ球では発現しないが、マイトージェンなどで活性化するとリンパ球に発現する。さらに、CD71は、筋肉(例えば、心筋や腓腹筋)に多く発現する。アポトランスフェリン(すなわち、鉄非結合体)は、2つのFe3+イオンと結合してホロトランスフェリン(すなわち、鉄結合体)を形成するとCD71と結合する。CD71とホロトランスフェリンの複合体は、受容体媒介エンドサイトーシスによって細胞内移行する。CD71とトランスフェリンはエンドソーム内の環境下で解離し、トランスフェリンは細胞内に移行する一方でCD71は細胞膜にリサイクルされる。従って、トランスフェリンは、CD71との適切な結合と適切な解離とによって細胞内に移行すると考えられる。CD71としては、ヒトCD71(例えば、GenBankのアクセッション番号XM 011513112に記載の配列を有する)、マウスCD71(例えば、GenBankのアクセッション番号NM 011638に記載の配列を有する)が挙げられる。細胞は、CD71を発現した細胞(例えば、真核細胞、例えば、哺乳動物細胞、例えば、霊長類細胞、例えば、ヒト細胞)またはそれらを含む組織若しくは臓器であり得る。細胞に発現するCD71は、内因性のCD71であっても外因性のCD71であってもよい。細胞に発現するCD71は、発現誘導されたものであってもよい。
【0024】
本明細書では、「抗CD71抗体」とは、CD71を認識する抗体またはCD71に結合する抗体を意味する。抗CD71抗体は、ヒトCD71を認識する抗体が好ましい。また、抗CD71抗体は、モノクローナル抗体とすることが好ましく、とりわけ抗CD71キメラモノクローナル抗体、抗CD71ヒト化モノクローナル抗体または抗CD71ヒトモノクローナル抗体がより好ましい。
【0025】
本明細書において、「ヒトモノクローナル抗体」という用語は、可変ドメインおよび定常ドメインの配列がヒト配列である任意の抗体を意味する。その用語は、ヒト遺伝子に由来する配列を有するが、例えば、考えられる免疫原性の低下、親和性の増大、望ましくない折りたたみを引き起こす可能性があるシステインの除去などを行うように変化させている抗体を包含する。その用語はまた、ヒト細胞に特有でないグリコシル化を施すことができる、非ヒト細胞中で組換えにより作製されたそのような抗体をも包含する。これらの抗体は、下記に記載のように、様々な形で調製することができる。
【0026】
本明細書において「キメラモノクローナル抗体」という用語は、2つ以上の異なる種由来の抗体の領域を連結させた、モノクローナル抗体を意味する。キメラモノクローナル抗体としては、例えば、マウス抗体の可変領域をヒト抗体の定常領域に連結させたモノクローナル抗体が挙げられる。
本明細書において、「キメラヒトモノクローナル抗体」という用語は、非ヒト哺乳動物種の抗体のVHおよびVL、ならびにヒト抗体のCHおよびCLドメインを含む。
キメラ抗体の1つまたは複数のCDRは、ヒト抗体に由来し得る。一例では、ヒト抗体由来のCDRを、マウスやラットなどの非ヒト哺乳動物由来の抗体のCDRと組み合わせることができる。他の例では、すべてのCDRがヒト抗体に由来し得る。他の例では、複数のヒト抗体に由来するCDRを、キメラ抗体中で組み合わせることができる。例えば、キメラ抗体は、第1のヒト抗体の軽鎖のCDR1、第2のヒト抗体の軽鎖のCDR2および第3のヒト抗体の軽鎖のCDR3を含んでよく、重鎖のCDRは、1つまたは複数の他の抗体に由来するものでよい。
【0027】
本明細書において、「ヒト化モノクローナル抗体」という用語は、非ヒト哺乳動物由来のモノクローナル抗体を指し、非ヒト哺乳動物種の抗体配列に特徴的なアミノ酸残基が、ヒト抗体の対応する位置で認められる残基と置換されている。この「ヒト化」の工程が、その結果得られる抗体のヒトでの免疫原性を低下させると考えられる。当技術分野で周知の技術(例えば、Winterら、Immunol.Today、14:43~46(1993)に記載された技術)を使用して、非ヒト哺乳動物由来の抗体をヒト化できる。ヒト化モノクローナル抗体は、例えば、非ヒト哺乳動物由来の抗体のCH1、CH2、CH3、ヒンジドメイン、および/またはフレームワークドメインを対応するヒト配列と置換する組換えDNA技術(例えば、WO92/02190、ならびに米国特許第5,530,101号、第5,585,089号、第5,693,761号、第5,693,792号、第5,714,350号、および第5,777,085号に記載された技術)を用いることによって工学的に作製することができる。本明細書において、「ヒト化モノクローナル抗体」という用語は、その意味の範囲内で、キメラヒトモノクローナル抗体およびCDR移植抗体を含む。本発明のCDR移植抗体は、ヒト抗体のVHおよびVLのCDRを、ヒト以外の動物の抗体のそれぞれVHおよびVLのCDRと置換することによって得られる。
【0028】
本明細書では、「筋肉」とは、横紋筋及び平滑筋を意味する。横紋筋とは、横紋構造のある筋を意味し、その例としては、骨格筋、心筋が挙げられる。平滑筋とは、横紋構造のない筋を意味し、その例としては、内臓筋が挙げられる。
【0029】
本明細書では、「血管内皮細胞」とは、血管の内側を覆う細胞を意味し、通常は扁平で薄い細胞である。血管内皮細胞は、血管内外の物質の通過および白血球の通過をコントロールしている。そのため、血管内に投与された薬物が組織実質に移動するためには、血管内皮細胞の層を通過することが求められる。
【0030】
本発明によれば、抗CD71抗体と薬物とのコンジュゲートが提供されうる。本発明によればまた、抗CD71抗体の抗原結合性断片(例えば、Fab’)と薬物とのコンジュゲートが提供されうる。本発明によればさらにまた、抗CD71抗体のFab’と核酸とのコンジュゲートが提供されうる。これらのコンジュゲートは、例えば、筋肉(例えば、心筋及び腓腹筋)に効果的に送達されうる。これらのコンジュゲートはまた、例えば、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、または腹腔内投与により投与されうる。また、これらのコンジュゲートは、静脈内投与、または筋肉内投与により投与され、これにより筋肉(例えば、心筋及び腓腹筋)に効果的に送達され、さらには細胞内へと送達されうる。このコンジュゲートは、CD71を発現する(以下、「CD71陽性」と称することがある。)細胞(例えば、筋肉、がん細胞、免疫細胞(たとえばB細胞、T細胞などのリンパ球)及び肝細胞など)に薬物を送達することに好適に用いられ得る。さらに、これらのコンジュゲートは生体の外で、CD71陽性の細胞および組織に対して適用することも可能である。細胞がCD71陽性であることは、当業者であれば、例えば、コンジュゲートの作成に使用する抗CD71抗体を用いたフローサイトメトリーで決定することができる。
【0031】
CD71による細胞内へのトランスフェリンの取込みは、エンドサイトーシスによって行われることから、例えば、粒径300nm程度または300nm以下の粒径の小胞であってもエンドサイトーシスによって細胞内に取り込まれうる。また、巨大分子であっても、CD71と共に細胞内に取り込まれうる。従って、本発明のある態様では、粒径300nm程度または300nm以下の粒径の小胞であって、表面に抗CD71抗体またはその抗原結合性断片を有する小胞も提供される。小胞は、内部に薬物を含んでいてもよい。本願明細書では、特段の断りが無い限り、内部に生理活性物質を含む小胞も「薬物」とよばれる。小胞の種類としてはとくに限定されず、例えば、脂質分子を用いたリポソーム、Lipid Nanoparticle(LNP)等が挙げられる。小胞の粒径としては特に限定されず、上限としては、通常300nm、好ましくは250nm、より好ましくは200nmとし得る。小胞の粒径の下限としては特に限定されず、30nm、40nm、60nm、または80nmとし得る。
【0032】
本発明によれば、抗CD71抗体またはその抗原結合性断片と、薬物とは、リンカーを介して連結させうる。本明細書において、本発明のコンジュゲートが有しうるリンカーとは、抗CD71抗体またはその抗原結合性断片と薬物とを連結させる部分を表す。
本発明のコンジュゲートがリンカーを有する場合、後述する実施例において示されるように、リンカーは開裂可能なリンカーでも開裂不可能なリンカーであってもよい。ここで、「開裂可能」とは、細胞内環境(例えば、エンドソーム内の低pH環境下および細胞内の還元環境下)において開裂可能であることを意味し、「開裂不可能」とは、細胞内環境において開裂しない、または実質的に開裂しないことを意味する。すなわち、本発明では、薬物が細胞内に到達することができないほど細胞外で活発に分解されるリンカーでなければよく、リンカーは特に限定されず様々なリンカーを用いうる。
【0033】
本発明では、リンカーとして、開裂可能なリンカーおよび開裂不可能なリンカーを使用しうる。
開裂可能なリンカーとしては、例えば、細胞内の還元環境下で開裂する-S-S-結合をその構成中に有するリンカー(例えば、SSリンカー、DMSSリンカー)、エンドソーム内の低いpHにより開裂するヒドラゾン結合をその構成中に有するリンカー、オルトエステル結合をその構成中に有するリンカー、およびカテプシンBにより開裂するペプチド結合をその構成中に有するリンカー(たとえば、バリン-シトルリン結合を分子内に有するリンカー(Val-Citリンカー))が挙げられ、本発明で好ましく用いられうる。
【0034】
開裂可能なリンカーとしては、上記のほかにも、グルクロニダーゼなどの糖鎖分解酵素により開裂する糖鎖をその構成中に有するリンカーなどが挙げられ、本発明で好ましく用いられ得る。
【0035】
開裂不可能なリンカーとしては、例えば、チオール反応性基がマレイミド基であって、その構成中に細胞内環境(例えば、エンドソーム内の低pH環境下および細胞内の還元環境下)において開裂可能な結合部位を有しないリンカー(本明細書において、マレイミドリンカーと称することがある)が挙げられ、本発明で好ましく用いられ得る。本明細書において、マレイミドリンカーは、マレイミド基を有するリンカーであって開裂可能なリンカー(例えば、DMSSリンカー、Val-Citリンカー)及びその他の開裂可能なリンカー(例えば、SSリンカー)と区別される。
【0036】
本発明のある態様では、リンカーとしては、マレイミドリンカー、Val-Citリンカー、SSリンカー、およびDMSSリンカーが好ましい。本発明のある態様では、例えば後述の式(I)~(IV)のいずれかで表されるリンカーを用いることが好ましい。
【0037】
本発明において使用する抗CD71抗体またはその抗原結合性断片としては、血中トランスフェリンよりも強くCD71に対して結合しうるか、CD71に対してトランスフェリンとは異なる部位に結合しうるものが好ましい。このような抗CD71抗体またはその抗原結合性断片を用いると、血中のトランスフェリンの存在に関わらず、生体内においてCD71と結合しうる。
【0038】
抗CD71抗体またはその抗原結合性断片は、CD71と結合すれば、CD71の自発的な細胞内への取込み作用によって、細胞内へ一緒に取り込まれうる。
抗CD71抗体またはその抗原結合性断片が血中トランスフェリンよりも強くCD71に対して結合しうるか否かの評価は、例えば、抗CD71抗体またはその抗原結合性断片と血中トランスフェリンのCD71に対する結合活性の対比により行うことができる。抗体またはその抗原結合性断片とトランスフェリンのCD71に対する結合活性の対比は、例えば、競合結合活性評価により行うことができる。より具体的には、CD71とインキュベートしたウェルプレートを洗浄し、その後1%ウシ血清アルブミン(BSA)を含むD-PBS(-)等を用いてブロッキングする。さらに洗浄後、ウェル中で抗CD71抗体またはその抗原結合性断片とトランスフェリンとをインキュベートする。洗浄後、適当な標識(例えば蛍光標識)を用いて標識化し、その検出強度から競合結合活性を評価することができる。
抗CD71抗体またはその抗原結合性断片が、CD71に対してトランスフェリンとは異なる部位に結合していることは、上記の競合結合活性の評価において、例えば、競合させる抗CD71抗体またはその抗原結合性断片とトランスフェリンとを、識別可能な異なる標識を用いて標識化し、それぞれの検出強度または全体としての検出強度により評価できる。上記評価において、例えば、識別可能な蛍光標識を用いて各々標識化した抗CD71抗体またはその抗原結合性断片とトランスフェリンを使用した場合には、これらの混合された蛍光が検出されれば、抗体またはその抗原結合性断片及びトランスフェリンの両方がCD71に結合しているといえ、これらがCD71に対して互いに異なる部位に結合していると評価できる。
【0039】
抗CD71抗体としては、clone RI7 217.1.3(BioXcell社)、OKT9抗体(BioXcell社製:BE0023 (OKT9))または抗ヒトCD71抗体(5E9C11)が好ましい。ある態様では、抗CD71抗体は、clone RI7 217.1.3のキメラモノクローナル抗体、clone RI7 217.1.3のヒト化モノクローナル抗体またはclone RI7 217.1.3のヒトモノクローナル抗体、OKT9抗体(BioXcell社製:BE0023)のキメラモノクローナル抗体、OKT9抗体(BioXcell社製:BE0023)のヒト化モノクローナル抗体またはOKT9抗体(BioXcell社製:BE0023)のヒトモノクローナル抗体、抗ヒトCD71抗体(5E9C11)のキメラモノクローナル抗体、抗ヒトCD71抗体(5E9C11)のヒト化モノクローナル抗体または抗ヒトCD71抗体(5E9C11)のヒトモノクローナル抗体が好ましく、これらの抗体のいずれかと同一のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含む抗体が好ましく、これらの抗体のいずれかと同一のアミノ酸配列を有する重鎖CDR1~3および軽鎖CDR1~3を含む抗体が好ましい。CDRのアミノ酸配列はKabatの番号付けにしたがって決定することができる。本発明において使用する抗原結合性断片としては、それらのFab’が好ましい。
本発明において使用する抗CD71抗体または抗原結合断片としては、特に限定されず、例えば、CDRのアミノ酸配列が上記のclone RI7 217.1.3(BioXcell社)、OKT9抗体(BioXcell社製:BE0023)または抗ヒトCD71抗体(5E9C11)のキメラモノクローナル抗体、ヒト化モノクローナル抗体若しくはヒトモノクローナル抗体の対応するCDRと実質的な同一性(相同性)を有していることが好ましい。また、本発明においては、OKT9抗体(BioXcell社製:BE0023)若しくは抗ヒトCD71抗体(5E9C11)のキメラモノクローナル抗体、または、ヒト化モノクローナル抗体若しくはヒトモノクローナル抗体と、ヒトCD71との結合に関して競合する抗体、またはその抗原結合性断片であるか、ヒトCD71との結合に関してエピトープが完全にまたは部分的に同一である抗体(または、エピトープが重複する抗体)、またはその抗原結合性断片であるか、またはこれらの抗体のアミノ酸配列に対して、1~数個のアミノ酸の付加、挿入、欠失、又は置換を有するアミノ酸配列を有する抗体、またはその抗原結合性断片であることが好ましい。
【0040】
OKT9抗体(BioXcell社製:BE0023)のCDRと実質的な同一性(相同性)を有する抗体、またはその抗原結合性断片としては、配列番号26で示されるアミノ酸配列を有する重鎖CDR1、配列番号27で示されるアミノ酸配列を有する重鎖CDR2、および配列番号28で示されるアミノ酸配列を有する重鎖CDR3を含む、重鎖可変領域と、配列番号29で示されるアミノ酸配列を有する軽鎖CDR1、配列番号30で示されるアミノ酸配列を有する軽鎖CDR2、および配列番号31で示されるアミノ酸配列を有する軽鎖CDR3を含む、軽鎖可変領域とを含む抗体、またはその抗原結合性断片であるか、配列番号24で示されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域と、配列番号25で示されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域とを含む抗体またはその抗原結合性断片であることが好ましい。なお、本明細書においてこれらのCDRは、Kabat et.al,Ann.NY Acad Sci 190:382-93(1971)に記載された方法、または、Kabatらにより作成された抗体のアミノ酸配列のデータベース([Sequence of Proteins of Immunological Interest」US Dept.Health and Human Services,1983)にあてはめて、相同性を調べることにより見いだすことが出来る(例えば、OKT9の重鎖可変領域は、GenBank登録番号:AAA51064.1、OKT9の軽鎖可変領域は、GenBank登録番号:AAA51130.1を参照することができる)。
【0041】
「実質的な同一性」とは、2つのアミノ酸配列が、少なくとも70%、75%または80%の配列同一性、好ましくは少なくとも90%または95%の配列同一性、より好ましくは少なくとも97%、98%または99%の配列同一性を有することを意味する。また、特定の実施形態では、配列が同一でない位置のアミノ酸は、保存的アミノ酸に置換されていてもよい。
【0042】
「%配列同一性」という用語は、2つのアミノ酸配列を当該アミノ酸(または保存的アミノ酸)の一致が最大となるように整列させたときに、一致している2つの配列中の残基%を意味する。
アミノ酸配列の同一性は、当業者に公知の任意の方法で決定することができる。例えば、Karlin及びAltshulのアルゴリズム(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:2264-2268,1990及びProc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5873-5877,1993)により決定することが出来、このようなアルゴリズムを用いたBLASTプログラム(J.Mol.Biol.215:403-410,1990)などにより決定することができる。アミノ酸配列の同一性を決定するためのプログラムは、例えば米国National Center for Biotechnology Informationのインターネット上のウェブサイトにおいて利用可能である。
【0043】
本発明のコンジュゲートとしては、
(i)抗CD71抗体またはその抗原結合性断片が、clone RI7 217.1.3のキメラモノクローナル抗体、clone RI7 217.1.3のヒト化モノクローナル抗体またはclone RI7 217.1.3のヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片(好ましくは、Fab’)であり;
(ii)薬物が、生理活性物質であり(例えば、核酸(好ましくは、mRNA、siRNAまたはASO(より好ましくは、siRNAまたはASO))であり;かつ
(iii) 抗CD71抗体またはその抗原結合性断片と薬物とがリンカー(好ましくは、マレイミドリンカー、Val-Citリンカー、SSリンカー、およびDMSSリンカー)によって連結されたコンジュゲートが好ましい。
【0044】
本発明のコンジュゲートとしては、
(i)抗CD71抗体またはその抗原結合性断片が、
(i-a)配列番号26で示されるアミノ酸配列を有する重鎖CDR1、配列番号27で示されるアミノ酸配列を有する重鎖CDR2、および配列番号28で示されるアミノ酸配列を有する重鎖CDR3を含む、重鎖可変領域と、配列番号29で示されるアミノ酸配列を有する軽鎖CDR1、配列番号30で示されるアミノ酸配列を有する軽鎖CDR2、および配列番号31で示されるアミノ酸配列を有する軽鎖CDR3を含む、軽鎖可変領域とを含む抗体、またはその抗原結合性断片であるか、
(i-b)配列番号24で示されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域と、配列番号25で示されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域とを含む抗体(好ましくは、ヒト抗体)またはその抗原結合性断片であるか、
(i-c)上記(i-a)または(i-b)とCD71との結合に関して競合する抗体(好ましくは、ヒト抗体)、またはその抗原結合性断片であるか、
(i-d)上記(i-a)または(i-b)とCD71との結合に関してエピトープが完全にまたは部分的に同一である抗体(好ましくは、ヒト抗体)、またはその抗原結合性断片であるか;または
(i-e)上記(i-a)に記載の抗体のアミノ酸配列に対して、1~数個のアミノ酸の付加、挿入、欠失、又は置換を有するアミノ酸配列を有する抗体(好ましくは、ヒト抗体)、またはその抗原結合性断片であり;
(ii)薬物が、生理活性物質(例えば、核酸(好ましくは、mRNA、siRNAまたはASO(より好ましくは、siRNAまたはASO))であり;かつ
(iii) 抗CD71抗体またはその抗原結合性断片と薬物とがリンカー(好ましくは、マレイミドリンカー、Val-Citリンカー、SSリンカー、およびDMSSリンカー)を介してまたはリンカーによって連結されたコンジュゲートが好ましい。
【0045】
本発明によれば、筋肉(例えば、骨格筋、心筋であり、これらの神経筋接合部を含む)に薬物を送達することに用いるための組成物であって、抗CD71抗体またはその抗原結合性断片と薬物とのコンジュゲートを含む組成物が提供されうる。この組成物は、静脈内投与、皮下投与、腹腔内投与、または筋肉内投与などにより投与されうる。抗CD71抗体またはその抗原結合性断片としては、抗CD71抗体のFab’が好ましい。
【0046】
後述する実施例によれば、抗CD71抗体の抗原結合性断片であるFab’と薬物とのコンジュゲートは、CD71を発現する細胞内に取り込まれた。従って、抗CD71抗体の抗原結合性断片と薬物とのコンジュゲートは、生体内においてCD71と結合し、CD71発現細胞内に取り込まれうる。
【0047】
本発明によれば、抗CD71抗体のFab’と薬物とのコンジュゲートが提供されうる。F(ab’)2を還元して得られるFab’は、チオール基を有する。従って、Fab’と薬物は、Fab’の当該チオール基に含まれるS原子(硫黄原子)を介して結合させうる。
【0048】
Fab’は、自体公知の方法によって抗体から得ることができる。例えば、抗体をペプシン分解に供してF(ab’)2を得て、これをさらにシステアミンなどの還元剤を用いて還元することでFab’を得ることができる。
【0049】
本発明のある態様では、Fab’と薬物とのコンジュゲートにおいて、薬物は、リンカーを介して、または介さずにFab’と連結していてもよい。Fab’と薬物とのコンジュゲートにおいて、リンカーの導入やコンジュゲートの作製は当業者に周知の方法を用いることができる。
【0050】
リンカーを介してFab’と薬物を連結させる場合には、反応の簡便性の観点や得られたコンジュゲートの生体毒性の観点から、例えば、Fab’のチオール基に対して薬物に導入されたリンカー中のチオール反応性基とを反応させることにより連結されうる。(例えば、
図1B参照)。
【0051】
本発明によれば、Fab’はリサイクルする膜タンパク質との結合親和性とエンドソームにおける解離性とのバランスに優れる。従って、抗原結合性断片であるFab’と薬物とのコンジュゲートは、細胞内への薬物の送達に好ましく用いられうる。
【0052】
本発明によれば、抗CD71抗体のFab’とsiRNAとのコンジュゲートが提供される。siRNAは、15kDa程度であり、腎臓によるクリアランスで急速に血中から除去される。しかしながら、Fab’とのコンジュゲートの形態では、siRNAは、血中でより安定に存在できる。
【0053】
本発明によれば、抗CD71抗体またはその抗原結合性断片(例えば、Fab’)とミオスタチンに対するsiRNAまたはASOとのコンジュゲートが提供される。抗CD71抗体またはその抗原結合性断片(例えば、Fab’)とミオスタチンに対するsiRNAまたはASOとのコンジュゲートは、筋肉または心筋においてミオスタチンの発現量を低下させ、これにより、筋肉量を増加させることができる。本発明によれば、その必要のある対象において筋肉量を増加させることに用いるための医薬であって、抗CD71抗体またはその抗原結合性断片(例えば、Fab’)とミオスタチンに対するsiRNAまたはASOとのコンジュゲートを含む、医薬が提供される。この態様では、医薬は、例えば、静脈内投与、皮下投与、腹腔内投与、または筋肉内投与により投与されうる。ミオスタチンに対するsiRNAとしては、配列番号15(または配列番号5)の塩基配列を有するセンス鎖と配列番号16(または配列番号6)の塩基配列を有するアンチセンス鎖とを有するsiRNAが挙げられる。ミオスタチンに対するsiRNAとしては、実施例1における(2)の3)に記載されたRNAを用いることができる。ミオスタチンとしては、ヒトミオスタチン(例えば、GenBankのアクセッション番号NM_005259.2に記載の配列を有する)が挙げられる。
【0054】
本明細書において、アンチセンスまたはアンチセンス鎖とは、ある配列のDNAやRNAに対して相補的な配列をもつDNA断片やRNA断片のことであり、例えば、mRNAに相補的に結合することができるものが含まれる。従って、siRNAにおけるアンチセンス鎖とは、標的となるmRNAに相補的に結合するRNA鎖を意味する。
【0055】
本明細書において、センス鎖とは、二重鎖を構成する核酸における、アンチセンス鎖ではない方の鎖を意味する。
【0056】
本発明では、siRNAとしては、安定化のための修飾を有するsiRNAを用いることができる。安定化のための修飾としては、例えば、2’-O-メチル修飾および2’-フルオロ修飾が挙げられる。RNAは、連続する塩基に対して2’-O-メチル修飾および2’-フルオロ修飾により交互に修飾してもよい。
【0057】
本発明において、薬物は、siRNAでありうる。本発明において、チオール反応性基は、siRNAのセンス鎖またはアンチセンス鎖に導入されうる。本発明のある態様では、チオール反応性基は、siRNAのセンス鎖(例えば、センス鎖の3’末端)に導入されうる。このようにすることで、siRNAのアンチセンス鎖が細胞質においてサイレンシングされる遺伝子のmRNAと結合してRNA干渉(RNAi)を引き起こすことが容易になると考えられる。
【0058】
本発明において、薬物は、アンチセンスオリゴ核酸(ASO)でありうる。本発明において、チオール反応性基は、アンチセンスオリゴ核酸のアミノ化した5’末端または3’末端に導入されうる。本発明のある態様では、チオール反応性基は、ASOの5’末端に導入されうる。本発明のある態様では、ASOとチオール反応性基とは、スペーサー、例えば、1~数塩基の核酸からなるスペーサーを介して連結させてもよい。
【0059】
がんの治療のためには、薬物は、抗がん活性を有する物質であり得る。抗がん活性を有する物質としては、腫瘍サイズの低下(遅延又は停止)、腫瘍の転移の阻害、腫瘍増殖の阻害(遅延又は停止)、及びがんと関連する一つ又は複数の症状の緩和、の少なくとも1つを生じさせる物質が挙げられる。具体的には、毒素、抗がん剤、ラジオアイソトープを挙げることができるがこれらに限定されない。
毒素としては、例えば、緑膿菌外毒素(PE)又はその細胞障害性フラグメント(例えばPE38)、ジフテリア毒素、リシンA等が挙げられる。
抗がん剤としては、例えば、アドリアマイシン、ダウノマイシン、マイトマイシン、シスプラチン、ビンクリスチン、エピルビシン、メトトレキセート、5-フルオロウラシル、アクラシノマイシン、ナイトロジェン・マスタード、サイクロフォスファミド、ブレオマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンデシン、タモキシフェン、デキサメタゾン等の低分子化合物や、免疫担当細胞を活性化するサイトカイン(例えば、ヒトインターロイキン2、ヒト顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、ヒトマクロファージコロニー刺激因子、ヒトインターロイキン12)等のタンパク質が挙げられる。
ラジオアイソトープとしては、32P、14C、125I、3H、131I、211At、90Y等が挙げられる。
【0060】
抗がん作用を有する物質としては、上記の他に、免疫細胞及び/または腫瘍細胞における遺伝子発現を変化させる物質も挙げられる。免疫細胞及び/または腫瘍細胞における遺伝子発現を変化させることにより、腫瘍細胞および腫瘍組織等に対する免疫細胞の作用を維持または増強させることが可能である。免疫細胞における遺伝子発現を変化させる物質としては、例えば、PD1遺伝子、内因性のT細胞受容体遺伝子などのサイレンシングが可能なsiRNA、ASOなどの核酸が挙げられる。腫瘍細胞における遺伝子発現を変化させる物質としては、PD-L1遺伝子、PD-L2遺伝子などの免疫チェックポイントのサイレンシングが可能なsiRNA、ASOなどの核酸が挙げられる。
【0061】
(製造方法)
抗体は、当業者であれば、常法に従って、抗原を動物に免疫することにより得ることができる。モノクローナル抗体は、当業者であれば、常法に従って、抗原を免疫した動物の脾臓細胞とミエローマとを融合させてハイブリドーマを形成させ、抗原に結合する抗体を産生するハイブリドーマをクローニングし、前記ハイブリドーマから産生される抗体として得ることができる。抗CD71抗体は、抗原としてCD71を用いて得ることができる。抗CD71抗体は、CD71を表出するウイルス様粒子(VLP)を動物に免疫して得てもよい。抗CD71抗体は、VLPに対する抗体を除く目的でCD71を提示しないVLPに結合しないものをさらに選択して得てもよい。抗CD71抗体は、CD71を表出する細胞を動物に免疫して得てもよい。抗CD71抗体は、細胞に対する抗体を除く目的でCD71を提示しない細胞に結合しないものをさらに選択して用いてもよい。抗体の抗原結合性断片は、得られた抗体を当業者に周知の方法で処理して得ることができる。
【0062】
CD71との結合に関してある抗体(所望の抗体)と競合する抗体は、競合アッセイにより取得することができる。競合アッセイで、例えば、少なくとも20%、好ましくは少なくとも20~50%、さらに好ましくは少なくとも50%、60%、70%、80%、または90%所望の抗体とCD71との結合をブロックすることができるならば、CD71に対する結合に関して所望の抗体と競合する抗体とすることができる。競合する抗体は、交差ブロッキングアッセイ、好ましくは、競合ELISAアッセイにより確認することができる。交差ブロッキングアッセイでは、CD71を、例えばマイクロタイタープレート上にコーティングし、標識した所望の抗体を添加してインキュベートし、抗原と所望の抗体との結合を形成させる。その後、候補となる競合抗体をウェルに添加してインキュベートし、洗浄して、所望の抗体の結合量(標識残存量)を定量することにより、抗体が競合したか否かを判断することができる。
【0063】
CD71に関してある抗体と完全にまたは部分的に同じエピトープに結合する抗体は、上述の通り競合アッセイによって取得することができる。CD71に関してある抗体と完全にまたは部分的に同じエピトープに結合する抗体はまた、水素-重水素交換質量分析(HDX MS)によって取得してもよい。水素-重水素交換質量分析では、溶液中の重水素がタンパク質表面のアミド水素と置換したときの質量変化を検出することにより、タンパク質結合面(結合面では置換が起こりにくい)を特定することができる。
【0064】
抗体と薬物とのコンジュゲートは、当業者であれば、抗体-薬物コンジュゲート(ADC)の作製方法として周知の方法を用いて作製することができる。抗体の抗原結合性断片と薬物とのコンジュゲートも同様である。
【0065】
本発明によれば、抗原結合性断片であるFab’と薬物とのコンジュゲートの製造方法であって、薬物あるいは、薬物に結合した置換基を有する炭素鎖に、チオール反応性基を導入する基を導入することを含む方法が提供される。本発明によれば、抗原結合性断片であるFab’と薬物とのコンジュゲートの製造方法であって、薬物あるいは、薬物に結合した、置換基を有する炭素鎖にチオール反応性基を導入する基を導入することと、抗原結合性断片であるFab’のチオール基と薬物あるいは、薬物に導入されたチオール反応性基とを反応させることとを含む方法が提供される。
【0066】
薬物がASOである場合、チオール反応性基、チオール反応性基を導入する基、または、置換基を有する炭素鎖は、ASOに導入されたスペーサー(例えば、1~数塩基の核酸からなるスペーサー)を介して連結されることにより導入されうる。
【0067】
本発明のコンジュゲートのうちリンカーを有するものは、自体公知の方法により製造することができ、例えば、薬物に置換基を有する炭素鎖(好ましくは、炭素鎖の末端にアミノ基を有する炭素鎖)を結合させたあと、当該アミノ基とチオール反応性基を導入する基とを結合し、さらに当該チオール反応性基と抗CD71抗体またはその結合性断片と反応させることにより製造することができる。
【0068】
上記置換基を有する炭素鎖における炭素鎖の炭素数は1~10、好ましくは2~8、より好ましくは4~6、さらに好ましくは6とし得る。
【0069】
上記置換基を有する炭素鎖における炭素鎖が有する置換基としては、アミノ基、チオール基等が挙げられ、好ましくはアミノ基とし得る。
【0070】
上記置換基を有する炭素鎖としては、末端にアミノ基を有する炭素数6のアルキル鎖(本明細書中、C6アミノ鎖と称することがある)が特に好ましく用いられ得る。
【0071】
薬物と置換基を有する炭素鎖との結合は、薬物として核酸を用いる場合、市販の3’あるいは5’-アミノ修飾用担体あるいはアミダイト試薬(例えば限定されるものではないが、3’-PT-Amino-Modifier C6 CPG、あるいは5’-DMS(O)MT-Amino-Modifier C6(Glen Research社))を用いたホスホロアミダイト法による核酸合成反応により実施することができる。
【0072】
置換基を有する炭素鎖として末端にアミノ基を有するものを用いた場合、次に当該アミノ基とチオール反応性基を導入する基とを結合させうる。
【0073】
チオール反応性基とは、抗CD71抗体またはその結合性断片の特定の部位(チオール基)との反応性を有する官能基を意味する。チオール反応性基としては、例えば、マレイミド基、ブロモアセトアミド基、ピリジルジチオ基、ビニルスルホン基およびヨードアセトアミド基が挙げられる。
【0074】
チオール反応性基を導入する基とは、チオール反応性基を有する試薬を意味し、そのような試薬としては、例えば、マレイミドカプロイル(mc);マレイミドカプロイル-p-アミノベンジルカルバメート;マレイミドカプロイル-ペプチド-アミノベンジルカルバメート(例えば、マレイミドカプロイル-L-フェニルアラニン-L-リシン-p-アミノベンジルカルバメートおよびマレイミドカプロイル-L-バリン-L-シトルリン-p-アミノベンジルカルバメート(vc));N-マレイミドカプロイル-バリル-シトルリル-p-アミノベンジルカルバメート p-ニトロフェニルエステル(mc-Val-Cit-PABC-PNP);N-スクシンイミジル3-(2-ピリジルジチオ)プロプリオネート(N-スクシンイミジル4-(2-ピリジルジチオ)ペンタノエート;N-スクシンイミジル 4-メチル-4-(2-ピリジルジチオ)ペンタネート;4-スクシンイミジル-オキシカルボニル-2-メチル-2-(2-ピリジルジチオ)-トルエン(SMPT);N-スクシンイミジル3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネート(SPDP);N-スクシンイミジル4-(2-ピリジルジチオ)ブチレート(SPDB);2-イミノチオラン;S-アセチルコハク酸無水物;ジスルフィドベンジルカルバメート;カルボネート;ヒドラゾンリンカー;N-(α-マレイミドアセトキシ)スクシンイミドエステル;N-[4-(p-アジドサリチルアミド)ブチル]-3’-(2’-ピリジルジチオ)プロピオンアミド(AMAS);N-スクシンイミジル 3-マレイミドプロピオネート(BMPS);[N-ε-マレイミドカプロイルオキシ]スクシンイミドエステル(EMCS);N-[γ-マレイミドブチリルオキシ]スクシンイミドエステル(GMBS);スクシンイミジル-4-[N-マレイミドメチル]シクロヘキサン-1-カルボキシ-[6-アミドカプロエート](LC-SMCC);スクシンイミジル6-(3-[2-ピリジルジチオ]-プロピオンアミド)ヘキサノエート(LC-SPDP);m-マレイミドベンゾイル-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル(MBS);N-スクシンイミジル[4-ヨードアセチル]アミノベンゾエート(SIAB);スクシンイミジル4-[N-マレイミドメチル]シクロヘキサン-1-カルボキシレート(SMCC);N-スクシンイミジル3-[2-ピリジルジチオ]-プロピオンアミド(SPDP);[N-ε-マレイミドカプロイルオキシ]スルホスクシンイミドエステル(スルホ-EMCS);N-[γ-マレイミドブチリルオキシ]スルホスクシンイミドエステル(スルホ-GMBS);4-スルホスクシンイミジル-6-メチル-α-(2-ピリジルジチオ)トルアミド]ヘキサノエート)(スルホ-LC-SMPT);スルホスクシンイミジル6-(3’-[2-ピリジルジチオ]-プロピオンアミド)ヘキサノエート(スルホ-LC-SPDP);m-マレイミドベンゾイル-N-ヒドロキシスルホスクシンイミドエステル(スルホ-MBS);N-スルホスクシンイミジル[4-ヨードアセチル]アミノベンゾエート(スルホ-SIAB);スルホスクシンイミジル4-[N-マレイミドメチル]シクロヘキサン-1-カルボキシレート(スルホ-SMCC);スルホスクシンイミジル4-[p-マレイミドフェニル]ブチレート(スルホ-SMPB);エチレングリコール-ビス(コハク酸N-ヒドロキシスクシンイミドエステル)(EGS);酒石酸ジスクシンイミジル(DST);1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸(DOTA);ジエチレントリアミン-五酢酸(DTPA);N-マレイミドカプロイル-バリル-シトルリル-p-アミノベンジルカルバメート p-ニトロフェニルエステル(mc-Val-Cit-PABC-PNP);およびチオ尿素が挙げられる。
チオール反応性基を導入する基としては、SPDP、BMPS、GMBSまたはmc-Val-Cit-PABC-PNPが好ましい。
【0075】
アミノ基とチオール反応性基を導入する基との結合は、例えば、縮合反応、付加反応等により実施することができる。より具体的には、例えば、アミノ基を有する炭素鎖が結合した薬物に対して過剰量のBMPSを添加し、室温で2~4時間程度保温し、アミノ基が完全に反応した後、未反応のBMPSを限外ろ過等により除去することにより実施することができる。
【0076】
本発明のある実施形態においては、薬物としての小胞にチオール反応性基を導入する基を導入することができる。例えば、末端にアミノ基を有する脂質を用いた小胞の場合、アミノ基とチオール反応性基を導入する基とを、縮合反応、付加反応等により結合させることができる。より具体的には、例えば、薬物に対して過剰量のBMPSを添加し、室温で2~4時間程度保温し、アミノ基が完全に反応した後、未反応のBMPSを限外ろ過等により除去することにより実施することができる。
【0077】
抗体またはその抗原結合性断片が-SH基を有する場合、チオール反応性基と上記-SH基との結合は、例えば、酸化還元反応、縮合反応、付加反応等により実施することができる。より具体的には、例えば、ほぼ等量の抗体またはその抗原結合性断片とチオール反応性基が導入された薬物とを混合し、室温で4~16時間保温することにより実施することができる。余剰の反応物は、クロマトグラフィーにより除去することができる。
【0078】
本発明によれば、薬物が、チオール反応性基を有する場合には、抗原結合性断片であるFab’と薬物とのコンジュゲートの製造方法であって、抗原結合性断片であるFab’と薬物のチオール反応性基とを反応させることを含む方法が提供される。
【0079】
Fab’と薬物とのコンジュゲートは、サイズ除外クロマトグラフィーおよびHPLCなどの分離技術を用いてFab’や薬物などの未反応物質と分離することができる。
【0080】
(疾患の治療用の医薬)
本発明のコンジュゲートは、そのまま、または薬理学的に許容される担体(例えば、賦形剤)等と混合して医薬とすることができる。
【0081】
本発明のコンジュゲートは、筋肉の疾患の治療剤等の医薬として用いられ得る。
筋肉の疾患としては、特に限定されないが、例えば、筋疾患、筋萎縮性疾患、動脈硬化性疾患、心臓に関連する疾患が挙げられる。
【0082】
筋疾患としては、例えば、筋ジストロフィー(例えば、Duchenne型筋ジストロフィー、Becker型筋ジストロフィー、Emery-Dreifuss型筋ジストロフィー、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー、眼咽頭筋ジストロフィー、遠位型筋ジストロフィー、肢帯型筋ジストロフィー、福山型先天性筋ジストロフィー、筋強直性ジストロフィー)、周期性四肢麻痺、横隔膜まひ、横隔膜弛緩症、遠位型ミオパチー、ミオトニア症候群、ミトコンドリア病、筋消耗性疾患が挙げられる。
【0083】
筋萎縮性疾患としては、例えば、サルコペニア(加齢性筋萎縮)、廃用性筋萎縮、悪液質、筋萎縮性側索硬化症、脊髄性筋萎縮症が挙げられる。
【0084】
動脈硬化性疾患としては、例えば、末梢動脈閉塞症が挙げられる。
【0085】
心臓に関連する疾患としては、例えば、狭心症(労作性狭心症、異型狭心症を含む)、急性冠症候群(不安定狭心症、急性心筋梗塞、心筋梗塞後の心不全移行を含む)、心不全(HFrEF、HFpEF、急性心不全、慢性心不全、非代償性心不全を含む)、心筋症(拡張型心筋症、肥大型心筋症、拘束型心筋症を含む)、肺性心、無症候性心筋虚血、不整脈(伝導障害、洞結節機能不全、異所性上室性調律、房室ブロック、心房細動、心房粗動、リエントリー性上室性頻拍症(SVT,PSVT)、Wolff-Parkinson-White(WPW)症候群、脚および束ブロック、心室性期外収縮、心室頻拍、心室細動、心臓突然死を含む)弁膜異常(大動脈弁閉鎖不全、大動脈弁狭窄、僧帽弁逸脱(MVP)、僧帽弁逆流、僧帽弁狭窄、肺動脈弁閉鎖不全、肺動脈狭窄、三尖弁逆流、三尖弁狭窄を含む)、心内膜炎、心臓腫瘍、人工心肺手術後の心機能低下、重症心不全に対する非薬物療法(大動脈内バルーンパンピング、補助人工心臓、バチスタ術、細胞移植、遺伝子治療、心臓移植等)施行時における心機能の維持・心事故の予防が挙げられる。
【0086】
本発明の抗CD71抗体またはその抗原結合断片と抗がん作用を有する物質とのコンジュゲートは、がんの治療剤等の、がんを処置することに用いるための医薬として用いられ得る。
がんとしては、CD71陽性のがん、例えば、血液癌(白血病、赤白血病)、リンパ腫、大腸癌、乳がん、中皮腫、肝臓癌、腎臓癌、小細胞肺がん、悪性黒色腫、髄芽腫、神経芽腫、子宮頸がん、卵巣癌、グリオーマ、グリオブラストーマなどが挙げられる。
【0087】
本発明のコンジュゲートは、肝疾患を処置することに用いるための医薬として用いられ得る。
肝疾患としては、ヘモクロマトーシス、ウィルソン病、糖原病、アミノ酸代謝異常症、尿素サイクル代謝異常症、ポルフィリン症、体質性黄疸、線維性多嚢胞性肝疾患、非アルコール性脂肪性肝炎、B型肝炎、肝線維症、肝硬変、遺伝性ATTRアミロイドーシス(家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP))、α-1アンチトリプシン欠損症(AATD)などが挙げられる。
【0088】
本発明のコンジュゲートの薬物としては、種々の遺伝子、mRNA、miRNAおよびタンパクなどを標的とする薬物(例えば、発現量を増加させる、または低減する)を用いることかできる。そのような薬物としては、標的となる遺伝子などに作用して本来発現すべきタンパク質などの産生を抑制することができるものとすることができ、例えば、種々の遺伝子、mRNA、miRNAおよびタンパク質などの標的に対するsiRNA、shRNA、ASO、アプタマー、miRNAなどの核酸およびこれらの修飾核酸などが挙げられる。また、標的とするタンパク質を細胞内または組織内で産生させることができるものとしてもよく、例えば、標的とするタンパク質をコードするmRNAなどの核酸およびこれらの修飾核酸などが挙げられる。
【0089】
本発明におけるコンジュゲートの薬物の標的としては特に限定されず、例えば、以下のような標的が挙げられる。
<がん、免疫に関する標的>
Clusterin(クラスタリン)遺伝子、Nucleolin(ヌクレオリン)遺伝子、AKT1プロテインキナーゼ遺伝子、BIRC5遺伝子、MAGEC1遺伝子、MAGEC2遺伝子、CTAG1遺伝子、TPBG遺伝子、Hsp27遺伝子、β-Catenin(カテニン)遺伝子、CXCL12(SDF-1)遺伝子、STAT-3遺伝子、PKN3遺伝子、PLK1遺伝子、変異KRAS(G12D)遺伝子、Grb-2遺伝子、Androgen(アンドロゲン)受容体遺伝子、TGFβ遺伝子(TGFβ-1遺伝子、TGFβ-2遺伝子、TGFβ-3遺伝子)STAT-3遺伝子、VEGF遺伝子、KSP(Eg5)遺伝子、CEBPA遺伝子、Nek2遺伝子、p53遺伝子、MUC1遺伝子、TPBG遺伝子、HIF-1α遺伝子、RPN2遺伝子、EphA2遺伝子、RRM1遺伝子、CDC45遺伝子、six-1遺伝子、IGF-1受容体遺伝子、HoxA1遺伝子、IGFBP-2遺伝子、IGFBP-5遺伝子、EGF受容体遺伝子、Raf-1遺伝子、mTOR遺伝子、Bcl-2遺伝子、Casein(カゼイン)キナーゼ-2遺伝子、KRAS遺伝子c-Myc遺伝子、COX-2遺伝子、β-3tubin遺伝子、ITCH遺伝子、VEGF遺伝子、VEGF受容体2遺伝子、SIP1遺伝子、AGT遺伝子、ERV-9 LTR遺伝子、EVI1遺伝子、TNF-α遺伝子、PAX-2遺伝子、Srpx2遺伝子、IRS-1遺伝子、Survivin(サバイビン)遺伝子、DUSP6遺伝子、HPV E6/E7遺伝子、HSPA9遺伝子、ミトコンドリアRNA(ノンコーディングミトコンドリアRNA)、EWS FLI1遺伝子、SRC-3遺伝子、MDR1遺伝子、NTRK1遺伝子、NTRK2遺伝子、MDX3遺伝子、NR2F6遺伝子、MYD88遺伝子、NOTCH1遺伝子、β-3インテグリン遺伝子、c-FLIP遺伝子、MADD遺伝子、HER2遺伝子、CCAT2遺伝子、CTCFL遺伝子、HIF-2α遺伝子、BMI-1遺伝子、NETO-2遺伝子、CTFR遺伝子、PD-1遺伝子、PD-L1遺伝子、PD-L2(B7-DC(CD273))遺伝子、CLTA4遺伝子、HLA遺伝子(HLA-A、HLA-B、HLA-C、HLA-DR、HLA-DP、HLA-DQ、HLA-E、HLA-G)、MCH遺伝子、遺伝子、4-1BB遺伝子、4-1 BBL遺伝子、CD3遺伝子(CD3α、CD3β、CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD3CD3ζ遺伝子、IL-6遺伝子、IL-17遺伝子、IL-23遺伝子、ICOS遺伝子、CD70遺伝子、CD27遺伝子、OX40遺伝子、OX40L遺伝子、TL1A遺伝子、DR3遺伝子、GITRL遺伝子、GITR遺伝子、CD30L遺伝子、CD30遺伝子、TIM1遺伝子、TIM1L遺伝子、TIM4遺伝子、SLAM遺伝子、CD48遺伝子、CD58遺伝子、CD2遺伝子、CD155遺伝子、CD112遺伝子、CD226遺伝子、CD80(B7-1)遺伝子、CD86(B7-2)遺伝子、B7-H2遺伝子、LIGHT遺伝子、HVEM遺伝子、CD40遺伝子、CD40L遺伝子、Galectin9(ガレクチン9)遺伝子、CD113、Collagen(コラーゲン)遺伝子、CD160遺伝子、LAG3遺伝子、PSA遺伝子、PSMA遺伝子、PSCA遺伝子、STEAP遺伝子、BIRC5遺伝子、MAGEC1遺伝子、MAGEC2遺伝子、CTAG1遺伝子、TPBG遺伝子、またはこれらの遺伝子によりコードされるタンパク質などの分子あるいはこれらの遺伝子によりコードされるタンパク質をコードするmRNA、HDGFファミリーとして知られるタンパク質(原型タンパク質、HDGF;HRP-1、HRP-2、HRP-3、HRP-4(HRP=HDGF関連タンパク質(HDGF Related Protein));及びLEDGF(特に、HRP-3))、TrkB受容体、またはこれらの受容体をコードする遺伝子あるいはmRNA、miR-34、miR-34a、miR-16、miR-155、miR-17、miR-17-92、miR-215、let-7、miR-34、miR-10b、miR-3157、miR-34、miR-7、miR-21、miR-574-5p、miR-221、miR-484、miR-205、miR-210、miR-3189-3p、miR-3151、miR-199、miR-101、miR-96、miR-182などのmiRNA。
<肝疾患に関する標的>
HSP47遺伝子、α1-antitrypsin(アンチトリプシン)遺伝子、ALAS-1遺伝子、DGAT2遺伝子、Hydroxyacid oxidase(ヒドロキシ酸オキシダーゼ)遺伝子、TGFβ-2遺伝子、Transthyretin(トランスチレチン)遺伝子、PCSK9遺伝子、またはこれらの遺伝子によりコードされるタンパク質などの分子あるいはこれらの遺伝子によりコードされるタンパク質をコードするmRNA、miR-103、miR-107。
<骨格筋に関する標的>
Myostatin(ミオスタチン)遺伝子、Dystrophin遺伝子、SMN2遺伝子、DMPK遺伝子、SOD1遺伝子、PABPN1遺伝子、cPLA2遺伝子、AMPA型Glu受容体1遺伝子、AMPA型Glu受容体3遺伝子、FOXO-1遺伝子、C9orf72遺伝子、ActRIIB遺伝子、DUX4遺伝子、NLRP3遺伝子、またはこれらの遺伝子によりコードされるタンパク質などの分子あるいはこれらの遺伝子によりコードされるタンパク質をコードするmRNA、miR-155。好ましくはMyostatin遺伝子、またはこれらの遺伝子によりコードされるタンパク質などの分子あるいはこれらの遺伝子によりコードされるタンパク質をコードするmRNA。
<心筋に関する標的>
Myostatin(ミオスタチン)遺伝子、ApoA遺伝子、STIM1遺伝子、EGF1遺伝子、VEGF-A遺伝子、Phospholamban(ホスホランバン)遺伝子、Serca2a遺伝子、Sarcolipin(サルコリピン)遺伝子、またはこれらの遺伝子によりコードされるタンパク質などの分子あるいはこれらの遺伝子によりコードされるタンパク質をコードするmRNA、β1-アドレナリン受容体、TL受容体4、またはこれらの受容体をコードする遺伝子あるいはmRNA、miR-15、miR-195、miR-208、miR-92a、miR-34a、miR-25、miR-486。好ましくはMyostatin遺伝子、またはこれらの遺伝子によりコードされるタンパク質などの分子あるいはこれらの遺伝子によりコードされるタンパク質をコードするmRNA。
【0090】
本発明のコンジュゲートを含む医薬は薬理学的に許容される担体(例えば、賦形剤)を含有していてもよい。上記医薬に含有されうる賦形剤としては、例えば、塩、溶媒(例えば、水およびエタノール)、緩衝剤、糖および糖アルコール、界面活性剤、等張剤、保存剤、抗酸化剤、キレート剤、賦形剤が挙げられる。本発明のコンジュゲートを含む医薬は、例えば、静脈内投与、皮下投与、腹腔内投与または筋肉内投与することができる。従って、本発明のコンジュゲートを含む医薬は、静脈内投与、皮下、腹腔内または筋肉内投与用の医薬として常法に従って製剤化されていてもよい。本発明によれば、上記コンジュゲートは、使用前に投与に適した媒体(例えば、滅菌済発熱物質不含水)を用いて医薬として調製されてもよい。本発明では、組成物も医薬と同様に賦形剤を含んでいてもよい。
【0091】
(方法)
本発明によれば、対象において、薬物を筋肉(例えば、心筋及び腓腹筋)に送達する方法であって、薬物と抗CD71抗体またはその抗原結合性断片とのコンジュゲートを対象に投与することを含む方法が提供される。本発明によれば、抗CD71抗体または抗原結合性断片としては、例えば、Fab’を用いることができる。
【0092】
本発明によればまた、対象において、薬物を肝細胞、B細胞若しくはT細胞などの免疫細胞、またはがん細胞に送達する方法であって、薬物と抗CD71抗体またはその抗原結合性断片とのコンジュゲートを対象に投与することを含む方法が提供される。本発明によれば、抗CD71抗体または抗原結合性断片としては、例えば、Fab’を用いることができる。
【0093】
本発明のコンジュゲートの1日の投与量は患者の状態や体重、薬物の種類、投与経路等によって異なるが、例えば、筋肉の疾患の治療目的で患者に筋肉内投与する場合には、成人(体重約60kg)1日当りの投与量は、本発明のコンジュゲートにおける薬物として約1~約1000mg、好ましくは約3~約300mg、さらに好ましくは約10~約200mgとし得る。上記1日用量は、複数回(例えば、1回、2回または3回)に分けて投与し得る。
【0094】
本発明によれば、対象において、筋肉(例えば、心筋及び腓腹筋)において筋肉量を増加させる方法であって、前記対象に、抗CD71抗体またはその抗原結合性断片とミオスタチンに対するsiRNA若しくはshRNAとのコンジュゲートを投与することを含む方法が提供される。本発明によればまた、対象において、末梢動脈疾患をその必要のある対象において処置する方法であって、前記対象に、抗CD71抗体またはその抗原結合性断片とミオスタチンに対するsiRNA若しくはshRNAとのコンジュゲートを投与することを含む方法が提供される。本発明によれば、抗CD71抗体または抗原結合性断片としては、例えば、Fab’を用いることができる。
【0095】
本発明によれば、対象において、がんを処置する方法であって、前記対象に、抗CD71抗体またはその抗原結合性断片と抗がん活性を有する物質とのコンジュゲートを投与することを含む方法が提供される。
【0096】
本発明によれば、対象において、肝疾患を処置する方法であって、前記対象に、抗CD71抗体またはその抗原結合性断片と肝疾患の治療および/または予防効果を有する物質とのコンジュゲートを投与することを含む方法が提供される。
【0097】
本発明によれば、対象において、免疫疾患を処置する方法であって、前記対象に、抗CD71抗体またはその抗原結合性断片と免疫疾患の治療および/または予防効果を有する物質とのコンジュゲートを投与することを含む方法が提供される。特定の態様においては、免疫疾患の治療および/または予防効果を有する物質とのコンジュゲートを投与する前に、免疫細胞にCD71を誘導してもよい。
【0098】
(使用)
本発明によれば、細胞内に薬物を送達するための、細胞表面抗原に結合する抗体またはその抗原結合性断片と薬物とのコンジュゲートの使用が提供される。本発明によれば、細胞内に薬物を送達するための、細胞表面抗原に結合する抗体またはその抗原結合性断片と薬物とのコンジュゲートの使用が提供される。この態様では、細胞は、エンドサイトーシスにより膜タンパク質を細胞内に取り込む細胞であり得る。また、この態様では、細胞表面抗原は、膜タンパク質(例えば受容体)であって、エンドサイトーシスによって該膜タンパク質を細胞内に取り込まれうる。本発明によれば、細胞表面抗原に結合する抗体またはその抗原結合性断片としては、例えば、Fab’を用いることができる。
【0099】
本発明によれば、薬物を筋肉(例えば、心筋及び腓腹筋)に送達するための、抗CD71抗体またはその抗原結合性断片の使用が提供される。本発明によればまた、筋肉量を増大させるための、抗CD71抗体またはその抗原結合性断片の使用が提供される。本発明によれば、薬物を筋肉(例えば、心筋及び腓腹筋)に送達するための組成物の製造における、抗CD71抗体またはその抗原結合性断片の使用が提供される。本発明によればまた、筋肉量を増大させることに用いるための医薬の製造における、抗CD71抗体またはその抗原結合性断片の使用が提供される。本発明によればまた、末梢動脈疾患をその必要のある対象において処置するための、抗CD71抗体またはその抗原結合性断片とミオスタチンに対するsiRNA若しくはshRNAの使用が提供される。本発明によればさらに、末梢動脈疾患をその必要のある対象において処置するための医薬を調製における、抗CD71抗体またはその抗原結合性断片の使用が提供される。本発明によればさらにまた、末梢動脈疾患をその必要のある対象において処置するための医薬の調製における、抗CD71抗体またはその抗原結合性断片とミオスタチンに対するsiRNA若しくはshRNAの使用が提供される。本発明によれば、抗原結合性断片としては、例えば、Fab’を用いることができる。
【0100】
本発明によれば、薬物を肝細胞、B細胞若しくはT細胞などの免疫細胞、またはがん細胞などの細胞(特に、CD71陽性細胞)に送達するための、抗CD71抗体またはその抗原結合性断片の使用が提供される。本発明によれば、薬物を肝細胞、B細胞若しくはT細胞などの免疫細胞、またはがん細胞などの細胞(特に、CD71陽性細胞)に送達するための組成物の製造における、抗CD71抗体またはその抗原結合性断片の使用が提供される。本発明によればまた、薬物を肝細胞、B細胞若しくはT細胞などの免疫細胞、またはがん細胞などの細胞(特に、CD71陽性細胞)に送達するための組成物の製造における、抗CD71抗体またはその抗原結合性断片と薬物の使用、または、抗CD71抗体若しくはその抗原結合性断片と薬物とのコンジュゲートの使用が提供される。本発明によればまた、がんをその必要のある対象において処置するための医薬の製造における、抗CD71抗体またはその抗原結合性断片と薬物の使用、または、抗CD71抗体若しくはその抗原結合性断片と薬物とのコンジュゲートの使用が提供される。がん細胞への送達またはがんの治療用途においては、薬物は抗がん活性を有する物質とすることができる。
【実施例】
【0101】
以下、本発明を非限定的な意図で記載された実施例に基づいて説明する。
【0102】
実施例1:抗CD71抗体-薬物コンジュゲートの作製
本実施例では、抗CD71抗体-薬物コンジュゲートの一例として、抗CD71抗体-siRNAコンジュゲートを作製した。
【0103】
本実施例で非限定的例として作製するコンジュゲートは以下の通りである。以下のコンジュゲートはいずれも、RNAと抗体断片とのコンジュゲートであり、具体的にはRNAとFab’とがリンカーを介して連結したものである。以下の式(I)~(IV)により表されたコンジュゲートはそれぞれ、マレイミドリンカー、Val-Citリンカー、SSリンカー及びDMSSリンカーによってRNAとFab’とが連結したコンジュゲートを表す。
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
【0104】
(1)抗CD71抗体
本実施例における抗CD71抗体としては、BioXcell (West Lebanon, NH)から購入した抗CD71抗体(clone RI7 217.1.3)を用いた。本実施例における対照IgGとしては、BioXcellから購入したアイソタイプコントロールIgG2a(BP0089)(本明細書において、「IgG2a」と称することがある。また、下記表1中では「IgG」と記載する。)を用いた。
(2)siRNA
ApoB、ヒポキサンチン-ホスフォリボシル-トランスフェラーゼ(HPRT)、およびミオスタチン(MSTN)に対するsiRNA、並びに本実施例において陰性対照として用いたsiRNA(siNC)の配列は、以下の通りであった。
1) siApoB
センス鎖: 5′-GgAaUcUuAuAuUuGaUcCaA-(CH2)6NH2-3′(配列番号1);
アンチセンス鎖: 5′-puUgGaUcAaAuAuAaGaUuCcsCsu-3′(配列番号2);
2) siHPRT
センス鎖: 5′-UcCuAuGaCuGuAgAuUuUaU-(CH2)6NH2-3′(配列番号3);
アンチセンス鎖: 5′-paUaAaAuCuAcAgUcAuAgGasAsu-3′(配列番号4);
3) siMSTN
センス鎖: 5′-GaGuAuGcUcUaGuAaCgUaU-(CH2)6NH2-3′(配列番号5);
アンチセンス鎖: 5′-aUaCgUuAcUaGaGcAuAcUcsAsa-3′(配列番号6);
4) siNC
センス鎖: 5′-UgUaAuAaCcAuAuCuAcCuU-(CH2)6NH2-3′(配列番号7);
アンチセンス鎖: 5′-aAgGuAgAuAuGgUuAuUaCasAsa-3′(配列番号8)
上記配列番号1~8において、2’-O-メチル修飾を有するヌクレオチドを小文字で示し、2’-フルオロ修飾を有するヌクレオチドを下線で示し、ホスフェートおよびホスホロチオエート連結基をそれぞれpおよびsで示した。2’-O-メチル修飾および2’-フルオロ修飾は、siRNAの血中安定性を高めるために導入された。なお、添付配列表では、塩基の配列のみを表示した。
【0105】
(3)抗体コンジュゲート作製のためのsiRNAの修飾
各センス鎖の3′側のC6アミノ鎖に対して、以下の化合物を反応させてチオール反応性基を有するリンカーが導入されたセンス鎖を得た:N-スクシンイミジル 3-マレイミドプロピオネート(BMPS)(Acme Bioscience, Palo Alto, CA)、N-スクシンイミジル 3-[2-ピリジルジチオ]プロピオネート(SPDP)(Thermo Fisher Scientific Inc, Waltham, MA)、N-マレイミドカプロイル-バリル-シトルリル-p-アミノベンジルカルバメート p-ニトロフェニルエステル(mc-Val-Cit-PABC-PNP)、またはN-スクシンイミジル 4-メチル-4-(2-ピリジルジチオ)ペンタネート(Synchem, Elk Grove Village, IL)。また、4-メチル-4-(2-ピリジルジチオ)ペンタネート修飾siRNAは、2-メルカプトエタノールで還元し、BMPSと反応させてマレイミド基を形成させ、これをジメチルSS(DMSS)リンカーと表記した。但し、断りが無い限り、siRNAと抗体とのリンカーを形成させるためにはBMPSを用いた。全ての反応は、高速液体クロマトグラフィー-質量分析法(HPLC-MS)によりモニターされ、残存する試薬は、Amicon Ultra ultrafiltration devices (MWCO 3K, Millipore)を用いて除去された。siRNAのセンス鎖とアンチセンス鎖をアニールした。このようにして、
図1Aに示される、各種リンカーがセンス鎖の3’末端に結合した分子を得た。これらのリンカーはチオール基に対して反応性を有する。
【0106】
(4)抗体-siRNAコンジュゲートの作製
コンジュゲートは、
図1Bに示されるスキームに従って調製した。具体的には、clone RI7をペプシン分解に供してそのF(ab’)
2を得て、これをさらにシステアミンを用いて還元してそのFab’断片を得た。得られるFab’断片は、コンジュゲートの作製に用いる2つのチオール基を有する。Fab’断片は、緩衝液(30mM HEPES(pH 7.0), 150mM NaCl)で平衡化したSephadex G-25 columnを用いて精製し、上記で得られたsiRNAのマレイミド基または(2-ピリジルジチオ)ペンタネート基と溶出緩衝液中で反応させてコンジュゲートさせた。これらの反応は、20mM リン酸-300mM NaCl緩衝液(pH7.0)を用いたTSKgel G2000SWxL (7.8mm×300mm, TOSOH)を用いたサイズ除外クロマトグラフィー-HPLCを用いてモニタリングした。室温で一晩インキュベーションし、Fab’-siRNAコンジュゲートをSEC-HPLCを用いて未反応のFab’およびsiRNAと分離した(
図1C参照)。Fab’-siRNAコンジュゲートは、未反応のFab’およびsiRNAと分離できた(
図1D参照)。Amicon Ultra ultrafiltration device (MWCO 10kDa)を用いてFab’-siRNAコンジュゲートを濃縮し、siRNAについは、Quant-it RiboGreen RNA assay kit (Life technologies, Carlsbad, CA)を用いて定量し、Fab’については、ATTO-TAG FQ Derivatization Reagent (FQ; 3-(2-フロイル)キノリン-2-カルボキシアルデヒド) (Invitrogen, Carlsbad, CA)を用いて定量した。以下、コンジュゲートの濃度および重量は、siRNAの濃度および重量として表示する。血漿siRNAは、Trizolを用いて抽出し、その後、TaqMan MicroRNA Reverse Transcription Kit (Life technologies, Carlsbad, CA)を用いて逆転写した。これらの試料は、リアルタイムPCRにより定量した。
図1Eによると、抗CD71抗体のFab’の吸光スペクトルを測定したところ280nmにピークを有することが分かり、
図1Fによると、siHRPTの吸光スペクトルが260nmにピークを有することが分かるが、
図1Gによると、単離したclone RI7 Fab’-siRNAコンジュゲートは、双方の吸光スペクトルを足し合わせたスペクトルを示すことが分かった。他の各種リンカーについても同様に調製し、clone RI7 Fab’-siRNAコンジュゲートが単離できたことが検証できた。
【0107】
siRNAとタンパク質との分子数比を検証すると、表1の通りであった。
【表1】
※表中、式(I)のリンカーをマレイミドリンカーと表示し、式(II)のリンカーをVal-Citリンカーと表示し、式(III)のリンカーをSSリンカーと表示し、式(IV)のリンカーをDMSSリンカーと表示する。
【0108】
表1に示されるように、1つのFab’に存在する2つのチオール基に対して1つ、または2つのsiRNAがコンジュゲートしたことが分かった。
【0109】
実施例2:CD71結合アッセイ
本実施例では、上記で作製したclone RI7 Fab’-siRNAコンジュゲートのCD71に対する結合能を検証した。本実施例のコンジュゲートとしては、マレイミドリンカーで連結させたclone RI7 Fab’-siHPRTを用いた。
【0110】
平底96ウェル黒イミュノプレート(Corning 3925)を組換えマウスCD71(50μL of 5μg/L; Sino Biological Inc., Beijing, China)と4℃で一晩インキュベートした。プレートを0.05% Tween 20を含むダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(D-PBS)(-)で2回洗浄し、その後1%ウシ血清アルブミン(BSA)を含むD-PBS(-)を用いて室温で1時間ブロッキングした。0.05% Tween 20を含むD-PBS(-)で2回洗浄し、ウェル中で競合試薬の存在下または非存在下でコンジュゲート(siRNA換算で100ng)の試料を室温で2時間インキュベートした。0.05% Tween 20を含むD-PBS(-)で4回洗浄し、siRNA検出のためにRiboGreen溶液を添加して、蛍光(励起光485nm、蛍光535nm)をEnvision 2104 Multilabel Reader (PerkinElmer)により測定した。抗CD71抗体の結合の検出は、4 μg/mLのAlexa Fluor 488標識ヤギ抗ウサギIgG(Invitrogen, Carlsbad, CA)を添加して1時間インキュベートした。蛍光は4回洗浄した後に観察した。非特異的な結合は、CD71非被覆ウェルを用いて評価した。EC50は、GraphPad Prism 6を用いて算出した。
【0111】
図2Aに示されるように、clone RI7の結合に関するEC
50は、1.5 nMであった。このことは、プレートを被覆するCD71が天然のコンフォメーションを維持していることを示唆するものである。これに対して、clone RI7 Fab’-siHPRTコンジュゲートでは、PBSで200倍希釈したRibogreen溶液を各ウェルに加え、CD71蛋白質と結合しているコンジュゲートのRNAと結合して生じるRibogreen由来の蛍光をプレートリーダーで定量すると、EC
50が、29 nMであった。これに対してIgG
2a-siHPRTでは、結合はみられなかった。clone RI7とコンジュゲートとのEC
50値を比較すると20倍近く異なるが、この程度の親和性の差異は、一価であるFab’への断片化により通常引き起こされる程度のものである(M. Temponi et al., Cancer Res. 52 (1992) 2497-2503)。
【0112】
clone RI7 Fab’-siHPRTコンジュゲートと、その元となったclone RI7(親抗体)とを競合させると、競合させる親抗体の濃度依存的に、親抗体に置き換わり、親抗体の濃度がclone RI7 Fab’-siHPRTコンジュゲートの濃度に比して著しく高い場合にはほぼ完全に置き換わることが示された(
図2D)。このことは、親抗体とコンジュゲートとが同一のエピトープに結合することを示唆する。さらに、clone RI7 Fab’-siHPRTコンジュゲートとトランスフェリン(Tf)とを競合させた場合では、競合させるTfの濃度を上昇させても、弱い競合しか示さなかった(
図2E)。血中には相当量のTfが存在すると考えられ、抗体がTfよりもCD71に対して強い結合を示すということは、抗体の生体への応用を考える上で重要な特性であると考えられる。
【0113】
実施例3:サイレンシングのインビトロでの検証
GalNAc-siApoBをJ.K. Nair et al., J. Am. Chem. Soc. 136 (2014) 16958-16961に記載される通りに合成した。GalNAc-siApoBは、肝細胞表面のアシアログリコプロテイン受容体に結合して細胞内に取り込まれ、細胞内でサイレンシングを引き起こすことが知られている。本実施例では、この分子と対比することにより、肝細胞におけるclone RI7 Fab’-siApoBのサイレンシング並びに、B細胞及びT細胞におけるclone RI7 Fab’-siHPRTのサイレンシングを検証した。なお、いずれのコンジュゲートにおいてもリンカーとしてはマレイミドを用いた。
【0114】
サイレンシングの測定は以下のように行った。トータルRNAをTrizol抽出法を用いて調製し、これをテンプレートとしてランダムプライマーとSuperscript II reverse transcriptase (Invitrogen, Carlsbad, CA)を用いて逆転写し、DNAを合成した。得られたDNAをテンプレートとして定量的PCRを実施した。ApoBおよびHPRTの定量は、Prism 7900 Sequence Detection System (Applied Biosystems, Foster City, CA)を用いて行った。定量的PCRの際には、プライマーとして、以下のプライマーを用いた。
【0115】
ApoB増幅用フォワードプライマー(配列番号9):
5′-AATGTGGAGTATAATGAAGATGGTCTATTT-3′
ApoB増幅用リバースプライマー(配列番号10):
5′-AGTGCTGGGCTGGTGATGTC-3′
ApoB検出用プローブ(配列番号11):
5′-(FAM)-TTGGGACTGGCAGGGAGAGGCTC-(TAMRA)-3′
なお、本明細書では、「FAM」は、6-カルボキシフルオレセインを表し、「TAMRA」は、カルボキシテトラメチルローダミンを表す。
【0116】
HPRT増幅用フォワードプライマー(配列番号12):
5′-CTCCTCAGACCGCTTTTTGC-3′
HPRT増幅用リバースプライマー(配列番号13):
5′-TAACCTGGTTCATCATCGCTAATC-3′
HPRT検出用プローブ(配列番号14):
5′-(FAM)-CCGTCATGCCGACCCGCAGT-(TAMRA)-3′
【0117】
内部参照としての、ACTB、GAPDHまたはリボソームタンパク質largeP0(Rplp0)はそれぞれ、ACTB, GAPDH,または Rplp0 control reagent(Applied Biosystems, Forster City, CA)を用いて定量し、ApoBおよびHPRTの定量値は、これらのいずれかのmRNA量により標準化した。
【0118】
本実施例のclone RI7 Fab’-siApoBのサイレンシングの検証のための細胞としては初代肝細胞を用いた。また、遺伝子の発現量はβアクチンの発現量により標準化した。この細胞は、CD71の発現は高くはないが、clone RI7 Fab’-siApoBは、ApoB遺伝子発現の抑制に対するEC
50が11nMであり、900nMで46%のサイレンシングを示した(
図3Aの白丸)。一方で、GalNAc-siApoBは、EC
50が0.29nMであり、900nMで90%のサイレンシングを示した(
図3Aの黒丸)。
【0119】
次に、抗IgMで刺激したB細胞、L-PHAにより刺激したT細胞において、CD71が誘導されることが知られていることから、このような刺激によりCD71を発現したB細胞およびT細胞を用いて、clone RI7 Fab’-siHPRTのサイレンシングを検証した。
【0120】
B細胞およびT細胞は、マウス(BALB/cA Jcl, 8週齢, 雄)の脾臓から単離した。細胞は、AutoMACSを用いて、B cell isolation kit mouse (Milteny Biotec, Bergisch Gladbach, Germany)およびPan T cell isolation kit II mouse (Milteny Biotec, Bergisch Gladbach, Germany)をそれぞれ用いて単離した。細胞を96ウェルプレートに10,000細胞/ウェルの濃度で播種し、B細胞を10μg/mLの抗マウスIgM(SouthernBiotech, Birmingham, AL)存在下で、各種濃度のclone RI7 Fab’-siHPRTと反応させた。また、T細胞を5μg/mLのフィトヘマグルチニン-L
4(L-PHA)(Wako Pure Chemical Industries, Ltd., Japan)存在下で、各種濃度のclone RI7 Fab’-siHPRTと反応させた。72時間後、mRNAの発現をリアルタイムPCRにより定量した。結果は
図3BおよびCに示される通りであった。陰性対照としては、IgG
2aのFab’-siHPRTを用いた。
【0121】
図3Bに示されるように、抗IgMで活性化されたB細胞では、clone RI7 Fab’-siHPRTによりHPRTがサイレンシングされることが明らかとなった。また、
図3Cに示されるように、L-PHAで活性化されたT細胞は、clone RI7 Fab’-siHPRTによりHPRTがサイレンシングされることが明らかとなった。
図3BおよびCでは、黒丸が抗CD71抗体Fab’-siHPRTによる結果であり、白丸がIgG
2aのFab’-siHPRTによる結果である。
【0122】
実施例4:インビボにおけるサイレンシング
マウスにおいて、インビボでの抗CD71抗体Fab’-siRNAによる内在性遺伝子のサイレンシングを検証した。本実施例のコンジュゲートとしては、マレイミドリンカーで連結させたclone RI7 Fab’-siApoBを用いた。
【0123】
clone RI7 Fab’-siApoBを10mg/kg体重の用量でマウスに静脈内投与した。
図4Aに示されるように、clone RI7 Fab’-siApoBは、投与24時間後においても血中で検出された。
【0124】
次に肝臓におけるサイレンシングを確認した。clone RI7 Fab’-siApoBを投与したマウス(Balb/c、7週齢、雌)のそれぞれの組織を取り出し、Trizol抽出法を用いてトータルRNAを抽出した。抽出後は、実施例3に記載されるようにmRNAを定量的PCRにより確認した。
【0125】
その結果、
図4Bに示されるように、肝臓におけるApoBのサイレンシングは、静脈内投与から24時間後においても44%の低下を示した。
【0126】
次に、全身でユビキタスに発現するHPRT遺伝子に対するsiRNAを用いて、各種組織におけるサイレンシングを調べた。10mg/kg体重の用量でマウス(n=4)にclone RI7 Fab’-siHPRTコンジュゲートを静脈内投与し、24時間後に、肝臓、心筋および腓腹筋においてHPRTのサイレンシングが確認されたが、脾臓においては確認されなかった(
図4C参照)。より具体的には、心筋で22%のサイレンシングが観察され、腓腹筋で39%のサイレンシングが観察された(
図4C参照)。この結果は、ひらめ筋においても同様であった。また、48時間後には、心筋および腓腹筋においてHPRTのサイレンシングが確認されたが、肝臓および脾臓並びにその他の組織では、サイレンシングは確認されなかった(
図4C参照)。静脈内投与48時間後のサイレンシングは、心筋で37%、腓腹筋で72%にまで増加した。このように、肝臓におけるサイレンシングは一過的であり、心筋および腓腹筋において持続的なサイレンシングが確認された。そして、静脈内投与約3日後において、心筋および腓腹筋におけるHPRTのサイレンシングは最大値に達した(
図4DおよびE参照)。一方で、IgG
2aのFab’-siHPRTコンジュゲートでは優位な効果は確認されなかった。また、clone RI7 Fab’-siNC(陰性対照)では、サイレンシングは確認されなかった(
図4F参照)。GAPDHを内部参照として用いて標準化した場合でも同様の結果であった(
図4G参照)。
【0127】
全身におけるCD71の発現を定量的PCRにより確認した。すると、CD71は、心筋および腓腹筋において高発現していることが明らかとなった(
図5参照)。
【0128】
実施例5:抗体-薬物コンジュゲート(ADC)におけるリンカーの影響
本実施例では、ADCにおけるリンカーの影響を調べた。
【0129】
リンカーとして、非開裂型マレイミドリンカー、カテプシンBに対して感受性でありエンドソーム内で開裂するVal-Citリンカー、還元環境において開裂するSSリンカー、および還元環境においてより感受性高く開裂するDMSSリンカーを比較し(
図1参照)、ADCにおけるリンカーの影響を確認した。
【0130】
Val-Citリンカーで連結させたclone RI7 Fab’-siHPRTでは、10mg/kg体重の用量で静脈内投与した場合には、腓腹筋におけるHPRTのサイレンシングが66%であったが、マレイミドリンカーで連結させたclone RI7 Fab’-siHPRTでは、HPRTのサイレンシングが65%であった(
図6AおよびB)。このようにリンカーが開裂するか否かそれ自体は、ADCによる遺伝子サイレンシングに影響しないことが示された(
図1A参照)。また、SSリンカーで連結させたclone RI7 Fab’-siHPRTでは、サイレンシングは27%であり、DMSSリンカーで連結させたclone RI7 Fab’-siHPRTでは、サイレンシングは48%であった(
図6A)。この結果は、10mg/kg体重の用量で静脈内投与した場合における心筋においても同様であった(
図6C)。また、心筋においても、リンカーが開裂するか否かそれ自体は、ADCによる遺伝子サイレンシングに影響しないことが示された(
図6CおよびD)。
【0131】
このことから、Val-Citリンカーで連結させた抗CD71抗体Fab’-siHPRTが細胞内に取り込まれた後Fab’が結合しているか否かはsiRNAのサイレンシングには影響しないことが明らかとなった。また、開裂可能なリンカーを用いた場合と開裂不可能なリンカーを用いた場合とサイレンシングに大きな違いは無かったことから、エンドソーム中に取り込まれた後のCD71からのsiRNAの離脱を阻害しないことも示唆された。すなわち、Fab’は、細胞表面の抗原との結合親和性とエンドソームからの離脱性とのバランスにおいて優れており、細胞内への薬物輸送に適していることが示唆された。さらには、筋肉の血管内皮細胞は、血管壁に敷き詰められており、孔を有しないため、物質透過性が低いことで知られている。Fab’-薬物コンジュゲートは、筋肉内に薬物を送達できたことから、血管内皮を通過する効率と、筋肉細胞内に取り込まれる効率の両面において優れていることが示唆された。
【0132】
さらに、マレイミドリンカーで連結させたclone RI7 Fab’-siHPRTについて、10mg/kg体重の用量で静脈内投与で単回投与したマウスにおける腓腹筋におけるHPRTサイレンシング効果を経時的に確認した。その結果、
図6Eに示されるように、投与4週間後においても、腓腹筋におけるHPRTサイレンシングは持続した。当然、他の遺伝子であるミオスタチンに対するサイレンシング効果は観察されず(
図6E右)、4週間まで持続したサイレンシングが、配列特異的なサイレンシングであることが確認できた。
【0133】
一方で、10mg/kg体重の用量で静脈内投与で単回投与したマウスにおいて、心筋では、投与4週間後においても、腓腹筋におけるHPRTサイレンシングは持続したが、徐々に弱まった(
図6F)。心筋におけるミオスタチンの発現量の変動は有意ではなかった(
図6F)。
【0134】
このことから、抗CD71抗体Fab’-siRNAは、リンカーによらず効果が奏されることが明らかとなった。また、clone RI7 Fab’-siHPRTは、標的組織において極めて長時間にわたり遺伝子のサイレンシングを持続させた。
【0135】
実施例6:抗CD71抗体Fab’-siRNAの投与経路とサイレンシングとの関係
本実施例では、静脈内投与、腹腔内投与および皮下投与での抗CD71抗体Fab’-siRNAのサイレンシングを比較し、投与経路によるサイレンシングの違いを検証した。本実施例におけるコンジュゲートとしては、マレイミドリンカーで連結させたclone RI7 Fab’-siHPRTを用いた。
【0136】
10mg/kg体重の用量でclone RI7 Fab’-siHPRTを、静脈内投与(i.v.)、腹腔内投与(i.p.)または皮下投与(s.c.)し、その7日後にサイレンシングを検証した。その結果は、
図7AおよびBに示される通りであった。
【0137】
図7Aに示されるように、i.v.投与、i.p.投与、およびs.c.投与のいずれにおいても、腓腹筋においてHPRTの高いサイレンシングが観察された。また、
図7Bに示されるように、i.v.投与、i.p.投与、およびs.c.投与のいずれにおいても、心筋においてHPRTの高いサイレンシングが観察された。この結果から、いずれの箇所に投与しても、コンジュゲートが血行により標的組織に到達したことが示された。
【0138】
次に、腓腹筋への筋肉内投与によりclone RI7 Fab’-siHPRTの効果を検証した。まず、マウスの右腓腹筋に1μgのclone RI7 Fab’-siHPRTを筋肉内投与し、7日後にサイレンシングを確認したところ、右腓腹筋においてHPRTのサイレンシングが観察された(
図7C)。IgG
2a Fab’-siHPRTや、C6アミノ鎖に結合したsiHPRT、clone RI7 Fab’-siMSTNでは、HPRTのサイレンシングが起こらなかったことから(
図7C)、このサイレンシングは、配列依存的かつCD71特異的であったことが分かった。そして、このマウスの左腓腹筋においてはHPRTのサイレンシングが観察されなかった(
図7D)。この用量は、50μg/kg体重の用量に相当する。従って、筋肉内投与は、静脈内投与の3mg/kg体重の用量(
図3B参照)と比較して60分の1も有効用量を低減した。
【0139】
C6アミノ鎖に結合したsiHPRTでは、630μgの投与量のときに1μgの抗CD71抗体Fab’-siHPRTを投与したときと同じ効果を示した。この結果から、抗CD71抗体とコンジュゲートすることによりサイレンシングの効果が10
3のオーダーで増強したことを意味する。40μgの抗CD71抗体Fab’-siHPRTを筋肉内投与したマウスでは、87%のHPRTのサイレンシングが投与14日後にも確認された(
図7E左パネル)。
図7E右パネルによれば、このマウスでは、ミオスタチンの発現量は有意には変化しておらず、配列特異的なサイレンシングが
図7E左パネルで観察されたことが分かる。この用量においても、
図7F左パネルに示されるように、反対側の腓腹筋においては、サイレンシングが20%程度であった。
【0140】
実施例7:末梢動脈疾患モデルにおける抗CD71抗体Fab’-siMSTNの効果
本実施例では、末梢動脈疾患モデルにおいて、抗CD71抗体Fab’-siMSTNの効果を調べた。本実施例におけるコンジュゲートとしては、マレイミドリンカーで連結させたclone RI7 Fab’-siMSTNを用いた。
【0141】
末梢動脈疾患(PAD)モデルは、CLEA Japan, Inc.から購入したマウス(C57BL/6J、10週齢、雄)をイソフルランを用いて麻酔し、大腿部動脈の近位および遠位部と大腿深在動脈の近位を切開し、結紮して、その後、縫合閉鎖した。大腿部動脈結紮(FAL)により引き起こされる後脚虚血は筋肉に損傷を与えるものであり、このモデルは、PADモデルとして、様々な医薬品の効果検証に用いられている。
【0142】
これらのマウスは、20μg/足のclone RI7 Fab’-siMSTN(または対照としてPBS)を週1回で4週間にわたり筋肉内投与した。
【0143】
その後、トレッドミル(model LE8706, Panlab, Barcelona, Spain)を用いて走行パフォーマンステストを実施した。マウスは、上記手術前からトレッドミルに慣らしておき、手術後も週1回トレッドミル走行訓練を実施した。各回のトレッドミル走行訓練において、初期の走行速度は、5cm/秒とし、5cm/秒ずつ速度を上昇させて40cm/秒とした。実験を終了し、総走行距離を決定した。
【0144】
まず、正常マウスに対してclone RI7 Fab’-siMSTNのサイレンシングを確認すると、腓腹筋へのclone RI7 Fab’-siMSTNの筋肉内投与7日後に、ミオスタチンのmRNA発現量が用量依存的に減少した(
図8A左パネル参照)。
図8A右パネルに示されるように、HPRT遺伝子の発現には影響がなく、この効果は、配列依存的なサイレンシングであることがわかった。
【0145】
上記と同様にして、マウスの両大腿部動脈を結紮した末梢動脈疾患(PAD)モデルを作製し、上記投与計画に従ってclone RI7 Fab’-siMSTNを筋肉内投与した。
【0146】
末梢動脈疾患(PAD)モデルに対して、20μg/足のclone RI7 Fab’-siMSTNを週1回の頻度で4回投与してその治療効果を検証した。大腿部動脈結紮(FAL)は、PBS処理した腓腹筋においてミオスタチンのmRNA発現量を減少させたが(
図8C参照)、筋肉重量を変化させなかった(
図8D参照)。しかしながら、clone RI7 Fab’-siMSTNを投与したモデルでは、PBSを投与した対照群と比較して17%の筋肉量の増大がみられた(
図8D参照)。
【0147】
次に、筋肉の組織学的検証を実施した。腓腹筋を取り出し、10%中性緩衝ホルマリン(Wako Pure Chemical Industries, Ltd., Japan)で固定した。4μm厚の切片を作製し、ヘマトキシリンおよびエオシン染色、または、ポリクローナルウサギ抗ラミニン抗体(Abcam)を用いた免疫組織学染色に供した。抗ラミニン抗体を反応させた切片は、Dako Envision Kit(Dako, Denmark)で処理し、DAB substrate kit (Nichirei Bioscience INC. Japan)で発色させた。腓腹筋における筋繊維の平均断面積と中心に核を有する再生筋繊維の数を、HALOTM image analysis system (Indica Labs, Inc. Corrales, NM)を用いて測定した。その結果は、
図8EおよびFに示される通りであった。
図8EおよびFに示される通り、clone RI7 Fab’-siMSTNで処理されたPADモデルは、腓腹筋における筋繊維の平均断面積が増大していた。
【0148】
走行パフォーマンス試験を実施したところ、未処置PADモデル(PBS投与群)では、総走行距離が1,986mであったのに対して、抗CD71抗体Fab’-siMSTNで処理したマウスでは、2,359mであり、有意な増大が確認された(
図8G)。なお、このときの体重および心臓重量は、未処置PADモデル(PBS投与群)では、それぞれ27.09±0.73gおよび119.1±4.3mg(n=12)であり、抗CD71抗体Fab’-siMSTNで処理したマウスでは、それぞれ27.16±0.93gおよび117.7±5.2mg(n=12)であり、有意な変化は認められなかった。
【0149】
実施例8:慢性骨髄性白血病細胞株K562における抗ヒトCD71抗体Fab'-siRNAによる遺伝子サイレンシングの評価
【0150】
ヒトCD71発現細胞であるK562細胞における抗ヒトCD71抗体Fab'-siRNAのサイレンシングを評価した。本実施例における抗ヒトCD71抗体としては、OKT9(BioXcell社製:BE0023)を用い、siRNAとしてはヒトHPRT遺伝子に対するsiRNAを用いた。本実施例では実施例1に記載した方法と同様の方法でOKT9 Fab’-siRNAコンジュゲートを作製した。リンカーとしては式(I)のマレイミドリンカーを用いた。ヒトHPRTに対するsiRNAとしては配列番号3および4に表される配列を有するsiRNAを用いた。
96ウェルプレートに各種濃度のOKT9 Fab'-siHPRTおよびIgG2aFab'-siHPRTを添加し、これにK562細胞を1000細胞/ウェルの濃度で播種した。72時間後、RNeasy 96 Kit (Qiagen, Hilden, Germany)を用いてtotal RNAを抽出し、SuperScript VILO cDNA Synthesis Kit (Invitrogen, Carlsbad, CA)を用いてcDNAを合成した。得られたcDNAをテンプレートとして定量的PCRを実施し、サイレンシングを評価した。定量的PCRの際には、プライマーおよびプローブとして、以下を用いた。
【0151】
hHPRT増幅用フォワードプライマー(配列番号17):
5’-CGTCTTGCTCGAGATGTGATG-3’
hHPRT増幅用リバースプライマー(配列番号18):
5’-CCAGCAGGTCAGCAAAGAATT-3’
hHPRT検出用プローブ(配列番号19):
5’-(FAM)-CCATCACATTGTAGCCCTCTGTGTGCTC-(TAMRA)-3’
【0152】
定量的PCRはViiA7 Real-Time PCR system (Applied Biosystems, Foster City, CA)を用いて行い、比較Ct法によってサイレンシング効率を算出した。このとき、内部標準としては36B4遺伝子を用いた。定量的PCRの際には、プライマーおよびプローブとして、以下を用いた。
【0153】
h36B4増幅用フォワードプライマー(配列番号20):
5’-CGTCTTGCTCGAGATGTGATG-3’
h36B4増幅用リバースプライマー(配列番号21):
5’-CCAGCAGGTCAGCAAAGAATT-3’
h36B4検出用プローブ(配列番号22):
5’-(FAM)-CCATCACATTGTAGCCCTCTGTGTGCTC-(TAMRA)-3’
【0154】
結果は、
図9に示される通りであった。
図9に示されるように、OKT9のFab’断片にコンジュゲートされたhHPRT遺伝子に対するsiRNAは、K562細胞において、HPRTの発現を強く抑制した。
したがって、OKT9抗体またはその抗原結合断片と薬物とのコンジュゲートを用いることで、薬物を効果的にがん細胞に送達することができることが明らかである。
【0155】
実施例9:アンチセンスオリゴ核酸(ASO)による遺伝子サイレンシングの評価
マウスにおいて、インビボでの抗CD71抗体Fab’-ASOコンジュゲートによる内在性遺伝子のサイレンシングを調べた。
本実施例における抗CD71抗体としては、clone RI7を用いた。ASOとしては、MALAT1遺伝子に対するアンチセンスオリゴ核酸(本明細書において「MALAT1-ASO」と称することがある。)を用いた。
【0156】
MALAT1遺伝子に対するアンチセンスオリゴ核酸
5’-aCTAgttcactgaaTGC-3’(配列番号23)
{ここで、大文字は核酸がBNANCであり、小文字はDNAであることを示し、全ての核酸がホスホロチオエート修飾を受けている。下線を付したアデニンは、スペーサーとして用い、ホスホジエステル結合でリンカーおよびCと連結させた。}
【0157】
(1)マレイミド基を導入したASOの調製
スペーサーとしてa(アデニン)を介してC6アミノ鎖を結合させることによりアミノ基を導入したMALAT1-ASO(1680 nmol、株式会社ジーンデザインに合成委託)の水溶液に、DMSO、10×PBS水溶液、蒸留水を加えた。ついでDMSOに溶解したBMPS(1680 nmol)を加え室温にて30分間反応させた。限外ろ過透析を行い試薬の残渣等を除去し、目的物であるマレイミド基を導入したMALAT1-ASO(1630 nmol)を得た。
(2)抗CD71抗体Fab’の調製
clone RI7のF(ab)’
2(78.2mg)を2-アミノエタンチオールで還元し、サイズ排除カラムクロマトグラフィーにより目的のFab’を分取した。得られたFab’はそのままMALAT1-ASOとの連結反応に用いた。
(3)抗CD71抗体Fab’-ASOの調製
調製したclone RI7 Fab’に対してマレイミド基を導入したMALAT1-ASO(1470 nmol)を加え、室温で一晩反応させた。反応系を濃縮し、サイズ排除カラムクロマトグラフィーにより目的物を分取した。目的画分を混合濃縮しPBSに溶媒置換することで目的の抗CD71抗体Fab’-ASOコンジュゲート(250 nmol)を得た(下記式(I’)参照)。
【化5】
{式中において、“(ASO)”は、アンチセンスオリゴ(ASO)を表し、ASOとリンカーとはASOの5’末端において連結している。}
【0158】
clone RI7 Fab’-MALAT1-ASOを10mg/kg体重の用量でマウス(Balb/c、7週齢、雌)(n=4)に静脈内投与した。次に心臓および腓腹筋におけるサイレンシングを確認した。clone RI7 Fab’-MALAT1-ASOを投与したマウスのそれぞれの組織を取り出し、Trizol抽出法を用いてトータルRNAを抽出した。抽出後は、実施例3に記載されるようにmRNAを定量的PCRにより確認した。内部標準としてはβアクチンを用いた。
【0159】
その結果、
図10に示されるように、心臓および腓腹筋におけるMalat1の発現は、静脈内投与から48時間後においても、それぞれ89%、および65%のサイレンシングを受けた。
【配列表】