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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-09
(45)【発行日】2024-08-20
(54)【発明の名称】工作機械
(51)【国際特許分類】
   B23Q 5/20 20060101AFI20240813BHJP
   B23B 19/02 20060101ALI20240813BHJP
   B23Q 1/64 20060101ALI20240813BHJP
   B23Q 1/48 20060101ALI20240813BHJP
【FI】
B23Q5/20 Z
B23B19/02 E
B23Q1/64 A
B23Q1/48 B
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2022551513
(86)(22)【出願日】2020-09-25
(86)【国際出願番号】 JP2020036214
(87)【国際公開番号】W WO2022064629
(87)【国際公開日】2022-03-31
【審査請求日】2023-08-28
(73)【特許権者】
【識別番号】513080195
【氏名又は名称】株式会社ハル技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110003085
【氏名又は名称】弁理士法人森特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 忠良
【審査官】山本 忠博
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-335805(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 1/00-1/76,5/00-5/58;
B23B 19/00-19/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具を回転させながらワークの加工を行う工作機械であって、
レールに係合し、レールに沿って上下方向に移動可能なドラム架台と、
前記ドラム架台に組み込まれ、外形が円形状のドラムと、
前記ドラムの中心軸方向に貫通し、前記ドラムからの出代が調整可能なクイル式主軸とを備え、
前記ドラム架台と前記ドラムとの間に、前記ドラムの外周に沿って設けた軸受が介在していることにより、前記ドラムは前記ドラム架台内で回転可能であり、
前記ドラム架台の移動、前記ドラムの回転及び前記クイル式主軸の前記ドラムからの出代調整により、前記クイル式主軸に装着した工具の位置決めが可能であり、
前記ドラム架台に組み込まれる前記ドラムは1つであり、
前記工作機械は、ベッド上に本体を設置して使用するものであり、
前記本体に、前記ドラム架台の移動、前記ドラムの回転、前記クイル式主軸の前記ドラムからの出代調整及び前記クイル式主軸に装着した工具の回転を行う機構と自動工具交換装置が一体になっており、
前記ドラム架台が上昇して、前記クイル式主軸の先端に装着された工具を、前記自動工具交換装置に装着し、前記クイル式主軸を後退させることにより、前記クイル式主軸から工具を取り外すことができることを特徴とする工作機械。
【請求項2】
前記ドラムは、前記ドラムの外周部を回転させることにより回転する請求項1に記載の工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工具を回転させながらワークの加工を行う工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械であるマシニングセンタとして、立形マシニングセンタと横形マシニングセンタが知られている。このうち、横形マシニングセンタは、工具(刃物)の回転軸は横向き(設置面に平行)であり、工具の位置は3軸方向に制御可能である。例えば、X軸方向(左右方向)においてテーブルの移動を制御することにより、テーブルと一体に工具が移動し、X軸方向において工具を目的の位置に移動させることができる。
【0003】
テーブルの移動機構としてLMガイド(Linear Motion Guide)等の機構が用いられるが、テーブルの移動方向であるX軸方向において、モータやレールが延在するため、X軸方向における設置寸法が大きくなる。このため、特許文献1に記載の省スペース型自動工作機械においては、旋回軸の回転により加工用主軸をスィング運動させて、加工用主軸にX軸方向の変位を与えるようにして、移動ストロークを短縮させて、工作機械の小型化を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭63-52937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の省スペース型自動工作機械においては、加工用主軸をスィング運動させる機構は、旋回軸と加工用主軸との間にアーム状のスピンドルブラケットが介在している。この構成は、加工時においては、加工用主軸の推力がスピンドルブラケットを介して旋回軸に伝わるので剛性確保に不利な構成であった。
【0006】
また、同構成においては、アーム状のスピンドルブラケットの回転に伴い、スピンドルブラケットの自重によるスピンドルブラケットの重量バランスが刻々と変化する。同構成はスピンドルブラケットが位置規制される構造ではないため、重量バランスの変化により、主軸の位置精度への影響が生じ得ることになる。このため、同構成は加工用主軸の位置決め精度の確保に不利な構成であった。
【0007】
本発明は、前記のような従来の問題を解決するものであり、小型化を実現しつつ、主軸の移動機構の剛性確保に有利であり、かつ主軸の位置決め精度の確保にも有利な工作機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明の工作機械は、移動可能なドラム架台と、前記ドラム架台に組み込まれ、外形が円形状のドラムと、前記ドラムの中心軸方向に貫通し、前記ドラムからの出代が調整可能なクイル式主軸とを備え、前記ドラム架台と前記ドラムとの間に、前記ドラムの外周に沿って設けた軸受が介在していることにより、前記ドラムは前記ドラム架台内で回転可能であり、前記ドラム架台の移動、前記ドラムの回転及び前記クイル式主軸の前記ドラムからの出代調整により、前記クイル式主軸に装着した工具の位置決めが可能であることを特徴とする。
【0009】
前記本発明の工作機械によれば、工具の径方向における工具の位置決めは、ドラムの回転で実現できるため、LMガイドのような工具の径方向に延在する機構は不要となり、小型化による省スペース化を図ることができる。また、本発明の工作機械は、クイル式主軸を採用していることにより、突起物等があるワークに対しても接近性が良好になり、かつワーク加工時における振動吸収性に優れ、切削面の状態も良好になる。あわせて、クイル式主軸は、摺動部は簡単な構造で足り、大掛かりなカバーは不要となり、この点においても、ワークへの接近性が良好になり、このことは切削時の応力経路が短くなることでもあり、切削性も良好になる。
【0010】
また、本発明においては、クイル式主軸はドラムで支持され、ドラムは外周に沿って軸受を設けている。この構成によれば、クイル式主軸に装着した工具でワークを加工する際に、クイル式主軸の推力によって、ドラム側に作用する力の大半は、軸受部分に作用するスラスト荷重に留まり、スラスト荷重はドラムの全周に設けた軸受部分で万遍なく受けるため、ドラム自体を特別に補強する必要はなく、剛性確保に有利になる。また、スラスト荷重を軸受部分で万遍なく受けることにより、ドラム径を大きくしても、特別に補強する必要はなく、装置の奥行寸法が大きくなることもない。
【0011】
さらに、外形が円形状のドラムは、回転しても配置状態は変化せず、重量バランスの変化を生じないことに加え、軸受がドラムの全周を囲んでいるので、ドラムが回転してもドラムの位置は常に規制され、ドラムが回転してもドラムの位置精度が悪化することはなく、ドラムに支持されたクイル式主軸の位置精度が悪化することもない。
【0012】
前記本発明の工作機械においては、前記工作機械は、ベッド上に本体を設置して使用するものであり、前記本体に、前記ドラム架台の移動、前記ドラムの回転、前記クイル式主軸の前記ドラムからの出代調整及び前記クイル式主軸に装着した工具の回転を行う機構が一体になっていることが好ましい。この構成によれば、本体をベッドから分離させて、本体をベッドの他の位置に設置したり、他のベッド上に設置して使用することが可能になる。
【0013】
また、前記本発明の工作機械においては、前記ドラムは、前記ドラムの外周部を回転させることにより回転することが好ましい。この構成によれば、ドラムの内側に配置されているクイル式主軸の移動量は、ドラムの外周部の移動量よりも小さくなる。このため、クイル式主軸の位置がドラムの外周部から離れていても、クイル式主軸の位置決め精度が増幅されることはない。
【発明の効果】
【0014】
本発明の効果は前記のとおりであり、要約すれば、本発明によれば、小型化による省スペース化を図ることができ、クイル式主軸を採用していることにより、ワークへの接近性が良好になり、かつワーク加工時における振動吸収性に優れ、切削面の状態も良好になる。また、クイル式主軸はドラムで支持され、ドラムは外周に沿って軸受を設けているので、剛性確保に有利になり、ドラム径を大きくしても、特別に補強する必要はなく、装置の奥行寸法が大きくなることもない。さらに、外形が円形状のドラムは、回転しても配置状態は変化せず、重量バランスの変化を生じないことに加え、軸受がドラムの全周を囲んでいるので、ドラムが回転してもドラムの位置は常に規制され、ドラムが回転してもドラムの位置精度が悪化することはなく、ドラムに支持されたクイル式主軸の位置精度が悪化することもない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係る工作機械の外観斜視図。
図2図1に示した本体の主要部の内部構造を示す斜視図。
図3】本発明の一実施形態において、工具の加工領域を示す図。
図4】本発明の一実施形態に係る工作機械の正面図。
図5】本発明の一実施形態に係る工作機械の側面図
図6】本発明の一実施形態において、工具によりワークが加工されている状態を示す側面図。
図7図6の状態から工具を後退させ、さらに上昇させた状態を示す側面図。
図8図7の状態からATCの回転円盤に工具が装着された状態を示す側面図。
図9図8の状態に続いてクイル式主軸から工具が取り外された状態を示す側面図。
図10】本発明の一実施形態において、ドラム及びクイル式主軸の駆動構造の別の例を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は工作機械に関するものであるが、より具体的には複数の工具(刃物)を自動交換でき、NC(数値制御)のプログラミング制御に従って穴あけやミーリング加工などの多種類の加工を1台で実現できるマシニングセンターである。以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態に係る工作機械1の外観斜視図である。図1において左右方向(横方向)がX軸方向、上下方向がY軸方向、前後方向がZ軸方向である。図示の便宜のため、図1においては、図4及び図5に示したATC(自動工具交換装置)40の図示は省略している。本体2に取り付けられたレール3にドラム架台4が係合している。ドラム架台4には外形が円形状のドラム5が組み込まれている。ドラム5には、ドラム5からの出代が調整可能なクイル式主軸6がドラム5の中心軸方向に貫通している。
【0018】
ドラム架台4には延出部7が一体になっており、延出部7にナット8が固定されている。ナット8には上下軸ボールねじ11が螺合している。上下軸ボールねじ11が回転すると、この回転方向に応じてナット8が上方向又は下方向に移動し、これと一体に延出部7及びドラム架台4が上方向又は下方向に移動する。より具体的には、上下軸ボールねじ11の回転により、ドラム架台4がY軸方向に移動し、ドラム架台4に取り付けられたドラム5、ドラム5に取り付けられたクイル式主軸6及びクイル式主軸6に取り付けられた工具10がY軸方向に移動する。すなわち、上下軸ボールねじ11の回転により、工具10のY軸方向における位置決めが可能になる。
【0019】
上下軸ボールねじ11の回転駆動の駆動源はY軸駆動モータ13である。ケース14内には、一対のプーリー15、16が配置されており、プーリー15はY軸駆動モータ13に取り付けられ、プーリー16は、上下軸ボールねじ11に取り付けられている。プーリー15、16にはタイミングベルト17が噛み合っている。Y軸駆動モータ13の回転軸の回転は、プーリー15、タイミングベルト17及びプーリー16に伝達されて、上下軸ボールねじ11が回転する。
【0020】
以下、図2を参照しながら、クイル式主軸6及びドラム5の駆動について説明する。図2は、図1に示した本体2の主要部の内部構造を示す斜視図である。ドラム5は、ドラム架台4内に軸受20を介して回転可能に取り付けられている。軸受20は径の大きな転がり軸受けである。ドラム5の中心線21とクイル式主軸6の中心線22は平行であり、ドラム5の中心線21方向(Z軸方向)において、ドラム5を横切るようにクイル式主軸6がドラム5を挿通している。クイル式主軸6とドラム5の孔との間にはすべり軸受19が介在している。クイル式主軸6は円筒体に回転軸9が内蔵されたものであり、回転軸9の先端部に工具10の一部が差し込まれる。
【0021】
クイル式主軸6は、外周部である円筒体は回転せず、内部の回転軸9が中心線22を中心に回転し、これと一体に工具10が回転してワークを加工する。クイル式主軸6の回転駆動の駆動源は主軸駆動モータ23である。ブラケット24内には、一対のプーリー25、26が配置されており、プーリー25は主軸駆動モータ23に取り付けられ、プーリー26は回転軸9の後端部に取り付けられている。プーリー25、26にはタイミングベルト27が噛み合っている。主軸駆動モータ23の回転軸の回転は、プーリー25、タイミングベルト27及びプーリー26に伝達されて、主軸駆動モータ23の回転軸の回転方向に応じて、クイル式主軸6の回転軸9が回転し、これと一体工具10が回転する(矢印a方向)。
【0022】
ドラム駆動モータ30には、歯車31が取り付けられており、歯車31はドラム5の外周部の全周に設けた歯32と噛み合っている。歯32は、ドラム5に取り付けた歯車の歯でもよく、ドラム5に直接形成したものであってよい。ドラム駆動モータ30の回転軸が回転すると、歯車31が回転し歯車31に噛み合っている歯32が回転し、これと一体にドラム駆動モータ30の回転軸の回転方向に応じて、ドラム5が回転する(矢印b方向)。ドラム5が回転すると、これと一体にドラム5に取り付けられているクイル式主軸6も回転する。
【0023】
前記のとおり、クイル式主軸6のドラム5からの出代が調整可能である。この出代調整の駆動源はZ軸駆動モータ33である。Z軸駆動モータ33には前後軸ボールねじ34が取り付けられている。前後軸ボールねじ34はモータ支持体35を挿通しており、このことにより、Z軸駆動モータ33はモータ支持体35により支持されている。
【0024】
図示の便宜のため、モータ支持体35は破断して図示しているが、モータ支持体35は、ドラム5側に延在し、先端がドラム5に固定されている。前後軸ボールねじ34にはナット36が螺合している。これらの構成によれば、Z軸駆動モータ33の回転軸が回転すると、この回転方向に応じてナット36がZ軸方向(前後方向)に移動する。
【0025】
ナット36はブラケット24に固定されている。また、クイル式主軸6及び主軸駆動モータ23もブラケット24に固定されている。このため、ナット36のZ軸方向(前後方向)の移動と一体に、クイル式主軸6もZ軸方向に移動し、ドラム5からのクイル式主軸6の出代が調整される。
【0026】
また、前記のとおり、Z軸駆動モータ33を支持するモータ支持体35はドラム5に固定され、ナット36、クイル式主軸6及び主軸駆動モータ23はブラケット24に固定されているので、ドラム5が回転すると、これと一体にクイル式主軸6だけでなく、モータ支持体35、ブラケット24及び主軸駆動モータ23も回転する。
【0027】
以下、図3を参照しながら、工具10の加工領域について説明する。前記のとおり、ドラム架台4は上下方向(Y軸方向)に移動し、これと一体にドラム5も上下移動する。図3Aは、ドラム5が上昇し切った上段位置におけるドラム5を示しており、図3Cは、ドラム5が下降し切った下段位置におけるドラム5を示しており、図3Bは、上段位置と下段位置の中間の中段位置におけるドラム5を示している。
【0028】
図3Bにおいて、工具10の回転半径をRとすると、工具10の中心点29の軌跡はドラム5の中心点28を中心とする円40となる。この場合、X軸方向における工具10の中心点29の可動範囲は2Rとなり、X軸方向においては工具10の中心点29は、2Rの可動範囲内の任意の位置に移動可能である。ただし、ドラム5の中心点28が固定されていると、工具10の中心点29は円40上を移動するに留まり、例えば円40上の点P1よりも下の点P2の位置には工具10の中心点29は移動しない。
【0029】
一方、ドラム5を図3Bの位置から△Vだけ下降させれば、点P1の位置にあった工具10の中心点29は、点P2の位置に達することになる。同様にドラム5を適宜上下移動させることにより、点P3と点P4とを結ぶ垂直線41上の任意の位置に工具10の中心点29を移動させることができる。点P3は、ドラム5が上段位置にあるときの工具10の中心点29の軌跡となる円42上の点であり、点P4は、ドラム5が下段位置にあるときの工具10の中心点29の軌跡となる円43上の点である。
【0030】
垂直線41上において、任意の位置に工具10の中心点29を移動できることについては、円42の上半分の円弧上の点と円43の下半分の円弧上の点とを結ぶ垂直線であれば同様である。このため、工具10の中心点29は、X軸方向における2Rの可動範囲内において、円42の上半分の円弧と円43の下半分の円弧との間の領域が可動領域となる。
【0031】
したがって、ドラム5の回転移動量とドラム5の上下移動量とを適宜組み合わせることにより、可動領域内の任意の位置に工具10を位置決めすることが可能となる。より具体的には、工具10の平面上の目標位置は、X軸方向の位置とY軸方向の位置で決定される。このため、ドラム5を回転させて工具10をX軸方向の目標位置に位置決めし、続いてドラム5を上下方向に移動させて工具10をY軸方向の目標位置に位置決めすれば、工具10を目標位置に位置決めすることが可能になる。工具10を目標位置に位置決めした後は、ドラム5からクイル式主軸6を伸長させて(Z軸方向)、工具10によりワークを加工する。
【0032】
本実施形態においては、工具10のX軸方向の位置決めは、ドラム5の回転で実現できるため、LMガイドのようなX軸方向に延在する機構は不要となり、小型化による省スペース化を図ることができる。
【0033】
また、本実施形態においては、クイル式主軸6を採用しており、次のような効果が得られる。工具10のワークへの接近時には、面積の大きなドラム架台4は移動せず、外形が円筒状のクイル式主軸6がZ軸方向に伸長して工具10がワークに接近する。この構成によれば、突起物等があるワークに対しても接近性が良好になる。
【0034】
図2に示したように、クイル式主軸6はすべり軸受19を介して、ドラム5に取り付けられている。この構成では、クイル式主軸6をZ軸方向に移動させないミーリング加工時にはすべり軸受19に静止摩擦力が生じ、クイル式主軸6をZ軸方向に移動させる穴あけ加工時にはすべり軸受19に動摩擦力が生じる。このため、クイル式主軸6はワーク加工時における振動吸収性に優れ、切削面の状態も良好になる。一方、LMガイドを用いたユニット移動式では、転がり摩擦力しか生じないためビビリ易くなる。
【0035】
また、ユニット移動式では、その摺動部であるLMガイドには切削粉塵を入れないための大掛かりなカバーが必要であり、加工対象物からスピンドルが離れてしまう。これに対してクイル式主軸6のスライドは、図2に示したようなすべり軸受け19内をクイル式主軸6がスライドする構成である。このため、摺動部は簡単な構造で足り、大掛かりなカバーは不要となり、ワークへのクイル式主軸6接近性は良好になる。このことは、切削時の応力経路が短くなることでもあり、切削性も良好になる。
【0036】
次に、本実施形態においては、図2に示したように、クイル式主軸6の支持構造は、ドラム架台4内に軸受20を介して回転可能に取り付けられたドラム5でクイル式主軸6を支持する構造(以下、「ドラム式」という。)である。ドラム式では、クイル式主軸6に装着した工具10でワークを加工する際に、クイル式主軸6の推力によって、ドラム5側に作用する力の大半は、軸受20部分に作用するスラスト荷重に留まる。スラスト荷重はドラム5の全周に設けた軸受20部分で万遍なく受けるため、ドラム5自体を特別に補強する必要はなく、ドラム式は剛性確保に有利な構造である。一方、アームの一端に旋回軸を取り付け、アームの他端に主軸を支持する構造(以下、「アーム式」という。)では、ワークの加工時に、主軸の推力が直接的にアームを変形させる方向に作用し、かつ旋回軸に伝わるので剛性確保に不利な構造となる。
【0037】
このことは、工具の回転半径が大きくなるほど顕著になる。例えば、アーム式においては、回転半径が2倍になればワークの加工時に工具が受ける反力により旋回軸を支持する軸受に作用するモーメントが2倍になり、軸受に作用する力が大きくなる。この場合、旋回軸を太くして剛性を高めたり、旋回軸を長くして軸受に作用する力を軽減させる対策が必要になる。旋回軸を長くすると、装置の奥行寸法もそれに伴い大きくなってしまう。これに対し、ドラム式は前記のとおり、ワークの加工時のスラスト荷重は、ドラム5の全周に設けた軸受20部分で万遍なく受けるため、ドラム径を大きくしても、特別に補強する必要はなく、装置の奥行寸法が大きくなることもない。
【0038】
また、アーム式は、主軸の位置決め精度がアームの長さに比例して精度悪化の方向に増幅されていく。これに対し、図2に示したドラム式は、ドラム5の外周部を回転駆動させたときに、ドラム5の内側に配置されているクイル式主軸6の移動量は、ドラム5の外周部の移動量よりも小さくなる。このため、クイル式主軸6の位置がドラム5の外周部から離れていても、クイル式主軸6の位置決め精度が増幅されることはない。すなわち、図2に示したようなドラム5の外周部が回転駆動されるドラム式は、クイル式主軸6の位置決め精度に有利になる。
【0039】
さらに、アーム式においては、アームの回転に伴いアームの配置状態が変化し、アームの自重によるアームの重量バランスが刻々と変化するが、アーム式は一端が自由端であり、自由端が支持される構造ではないため、重量バランスの変化により、主軸の位置精度への影響が生じ得る。
【0040】
これに対し、外形が円形状のドラム5は、回転しても配置状態は変化せず、重量バランスの変化も生じない。また、図2に示したように、ドラム5は、ドラム架台4内に軸受20を介して支持されており、この軸受構造により、ドラム5の位置は規制されている。軸受20はドラム5の全周を囲んでいるので、ドラム5が回転してもドラム5の位置は常に規制される。このため、ドラム5が回転しても、ドラム5の位置精度が悪化することはなく、ドラム5に支持されたクイル式主軸6の位置精度が悪化することもない。このことは、微小な位置精度の悪化も問題となるワークの加工精度確保に有利になる。
【0041】
次に、図4及び図5を参照しながら、工作機械1についてより具体的に説明する。図4は工作機械1の正面図であり、図5は工作機械1の側面図である。図4及び図5においては、図1では図示を省略したATC(自動工具交換装置)40を図示している。図4において、ATC40は、回転円盤41を備えており、回転円盤41に複数の工具44が着脱可能に取り付けられている。回転円盤41は図5に示したATC回転モータ42により回転駆動され、図4に示した回転円盤41の中心43を中心に回転する(矢印c)。工具の交換時には、Y軸方向においてドラム架台4が上昇し(矢印d)、クイル式主軸6の先端に装着された工具10と、ATC40の回転円盤41に取り付けられた工具44とが交換される
【0042】
図4において、本体2はベッド47上に設置されている。本体2は外装ケース48内に収容されている。図示の便宜のため、図5図9においては、外装ケース48の図示は省略している。図5に示したように、Y軸駆動モータ13は、ケース14を介して本体2と一体になっており、主軸駆動モータ23及びZ軸駆動モータ33は本体2と一体になっている。図1及び図2(本体2の内部構造)に示したように、Y軸駆動モータ13、主軸駆動モータ23及びZ軸駆動モータ33により駆動される機構は、ケース14又は本体2内に内蔵されている。また、図2に示したように、ドラム駆動モータ30及びドラム駆動モータ30で駆動される機構も本体2内に内蔵されている。
【0043】
すなわち、本体2に、Y軸駆動モータ13を駆動源とするドラム架台4を移動させる機構、主軸駆動モータ23を駆動源とするクイル式主軸に装着した工具10の回転を行う機構、Z軸駆動モータ33を駆動源とするクイル式主軸6のドラム5からの出代調整を行う機構及びドラム駆動モータ30を駆動源とするドラム5を回転させる機構が一体になっている。この構成によれば、本体2をベッド47から分離させて、本体をベッド47の他の位置に設置したり、他のベッド47上に設置して使用することが可能になる。例えば、3台の本体2をベッド47上に設置することにより、T字型のワークについて、3方向からの同時加工が可能になるが、同ワークの加工が休止している間に、工作機械1全体を移動させることなく、例えば1基分の本体2のみを他のベッド47上に設置することにより、他のワークの加工を行うことができる。
【0044】
以下、図5図9を参照しながら、工作機械1の動作について工程順に説明する。図5において、ワーク支持台46上にワーク45が支持されている。ワーク支持台46及びワーク45は概略的に図示しており、ワーク45の支持構造の図示は省略している。図5の状態では、ドラム5(図4参照)の回転移動と上下移動により、工具10のX軸方向の位置とY軸方向の位置が、ワーク45の加工部位に対向する位置に位置決めされている。
【0045】
図5の状態から、Z軸駆動モータ33を駆動してクイル式主軸6をZ軸方向において前進させることにより(矢印e方向)、クイル式主軸6の先端に装着された工具10がワーク45の目標加工部位に達する。この状態ではクイル式主軸6の回転軸9(図2参照)と一体の工具10は、主軸駆動モータ23の駆動により回転しており、工具10によりワーク45の加工が可能になる。
【0046】
図6は、工具10によりワーク45が加工されている状態を示している。加工中、工具10はクイル式主軸6の中心線22(図2参照)回りに回転している。工具10としてドリルを用いることにより、穴あけ加工を行うことができ、タップを用いることにより、タッピング加工を行うことができる。また、工具10としてエンドミルを用いることにより、ミーリング加工を行うこともできる。この場合は、ドラム駆動モータ30(図2参照)、Y軸駆動モータ13及びZ軸駆動モータ33を駆動させて、XYZ方向に工具10の位置を適宜位置決めしながら加工を行う。
【0047】
工具10による加工が終了し、工具10を交換して新たな加工を行うときは、ATC40により工具交換を行う。図7は工具交換直前の状態を示している。図7図6の状態から工具10を後退させ、さらに上昇させた状態である。図8は、工具10をATC40の回転円盤41に渡した状態を示している。この間、ATC40は移動することはなく、図7の状態から、ドラム架台4を上昇させることにより、工具10をATC40の回転円盤41に装着することができる。
【0048】
図8は、ATC40の回転円盤41に工具10が装着された状態を示している。この状態からクイル式主軸6を後退させると(矢印f)、クイル式主軸6から工具10が取り外される。図9はクイル式主軸6から工具10が取り外された状態を示している。図9の状態から回転円盤41を回転させることにより(図4の矢印c参照)、次の加工に必要な工具44をクイル式主軸6に対向させることができる。以後は前記の逆の動作により、クイル式主軸6に新たな工具44を装着し、工具44をワーク45に対向させ、続いてワーク45の加工を行うことができる。
【0049】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、前記実施形態は一例であり、適宜変更したものであってもよい。図10はドラム5の駆動構造の別の例を示す斜視図である。図10図2と同様に工作機械1の主要部の内部構造を示したものであり、図2と同一構成又は同様の構成のものは同一番号を付して、その説明は省略する。
【0050】
図10において、クイル式主軸6はブラケット37、移動ブラケット38及びブラケット39の孔53、孔54及び切り欠き55を挿通しており、クイル式主軸6に移動ブラケット38が固定されている。図示は省略しているが主軸駆動モータ23とクイル式主軸6内の回転軸9との間には、プーリー及びタイミングベルトで構成される回転機構が介在している。主軸駆動モータ23により回転軸9が回転駆動され、これと一体に工具10が回転する(矢印a方向)。
【0051】
ドラム駆動モータ30に、減速機51を介してドラム回転軸50が取り付けられている。ドラム回転軸50はドラム5に固定されている。ドラム駆動モータ30の回転軸が回転すると、減速機51を介してドラム回転軸50が回転し、これと一体にドラム駆動モータ30の回転軸の回転方向に応じて、ドラム5が回転する(矢印b方向)。減速機51に代えて、プーリー及びタイミングベルトで構成される回転機構を用いてもよい。
【0052】
Z軸駆動モータ33には前後軸ボールねじ52が取り付けられている。前後軸ボールねじ52はブラケット39の孔57を挿通しており、このことにより、Z軸駆動モータ33はブラケット39により支持されている。また、前後軸ボールねじ52にはブラケット38と一体のナット56が螺合している。これらの構成によれば、Z軸駆動モータ33の回転軸が回転すると、この回転方向に応じてナット56と一体の移動ブラケット38がZ軸方向(前後方向)に移動する。
【0053】
クイル式主軸6は、移動ブラケット38に固定されている。一方、クイル式主軸6は、ブラケット37の孔53部分ではブラケット37に対して独立して移動可能である。このため、移動ブラケット38のZ軸方向(前後方向)の移動と一体に、クイル式主軸6及び主軸駆動モータ23もZ軸方向に移動し、ドラム5からのクイル式主軸6の出代が調整される。クイル式主軸6の出代が伸びるときは、主軸駆動モータ23はブラケット39の切り欠き55を通過するので、主軸駆動モータ23とブラケット39とが干渉することはない。
【0054】
また、クイル式主軸6に移動ブラケット38が固定され、クイル式主軸6には、主軸駆動モータ23が一体になっており、さらにドラム回転軸50にブラケット37及びブラケット39が固定されている。このため、ドラム回転軸50が回転すると、ドラム5、クイル式主軸6、主軸駆動モータ23及び移動ブラケット38だけでなく、ブラケット37、ブラケット39及びZ軸駆動モータ33も回転する。
【0055】
前記のとおり、図10はドラム5の駆動構造の別の例であり、図10のドラム5の駆動構造では、図2のような歯車31及び歯車32で構成される駆動機構を省くことができる。
【0056】
以上、ドラム4及びクイル式主軸6の駆動構造の別の例を説明したが、他の構成についても適宜変更したものであってもよい。例えば、図5において、ATC回転モータ42は回転軸が縦方向になるように配置されているが、回転軸が横方向になるように配置し、回転モータ42を回転円盤41に直接取り付けてもよい。
【0057】
また、前記実施形態の工作機械1はクイル式主軸6を横向きに配置した横形の例で説明したが、クイル式主軸6を立向きに配置した立形であってもよい。横形では、前記のとおりドラム架台4は上下方向(垂直方向)に移動するが、立形では、ドラム架台4は左右方向(水平方向)に移動する。
【符号の説明】
【0058】
1 工作機械
4 ドラム架台
5 ドラム
6 クイル式主軸
10,44 工具
13 Y軸駆動モータ
20 軸受
23 主軸駆動モータ
30 ドラム駆動モータ
33 Z軸駆動モータ
40 ATC(自動工具交換装置)
45 ワーク
47 ベッド
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10