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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-09
(45)【発行日】2024-08-20
(54)【発明の名称】骨軟部腫瘍の治療用医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/761 20150101AFI20240813BHJP
   A61P 19/00 20060101ALI20240813BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240813BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20240813BHJP
   C12N 15/861 20060101ALI20240813BHJP
【FI】
A61K35/761
A61P19/00
A61P35/00
C12N7/01
C12N15/861 Z
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2023522687
(86)(22)【出願日】2022-05-18
(86)【国際出願番号】 JP2022020609
(87)【国際公開番号】W WO2022244792
(87)【国際公開日】2022-11-24
【審査請求日】2024-04-03
(31)【優先権主張番号】P 2021084823
(32)【優先日】2021-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】523421328
【氏名又は名称】サーブ・バイオファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(72)【発明者】
【氏名】小戝 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】永野 聡
(72)【発明者】
【氏名】二川 俊隆
【審査官】原口 美和
(56)【参考文献】
【文献】KAMIZONO, J. et al.,Survivin-Responsive Conditionally Replicating Adenovirus Exhibits Cancer-Specific and Efficient Vira,Cancer Res,2005年,Vol. 65, No. 12,pp. 5284-5291
【文献】NAGANO, S. et al.,An efficient construction of conditionally replicating adenoviruses that target tumor cells with mul,Gene Therapy,2005年,Vol. 12,pp. 1385-1393
【文献】INTERNATIONAL JOURNAL OF ONCOLOGY,2005年,Vol. 27,pp. 237-246
【文献】Journal of Thoracic Oncology,2006年,Vol. 1, No. 7,pp. 701-711
【文献】Cancer Gene Therapy,2011年,Vol. 18,pp. 724-733
【文献】PLoS ONE,2012年,Vol. 7, No. 4, e35153,pp. 1-11
【文献】HUMAN GENE THERAPY,1998年,Vol. 9,pp. 2577-2583
【文献】Journal of Orthopaedic Science,2019年,Vol. 24,pp. 764-769,第767頁右欄から始まる11. の項
【文献】Journal of Clinical Oncology,2020年,Vol. 38, No. 15, Suppl. 11512,要旨全文
【文献】Molecular Therapy,2018年,Vol. 26, No. 5S1,p. 8, Article number 15,Results, Conclusions
【文献】Cancer Res,2018年,Vol. 78, No. 13, Suppl. S, CT122,Results, Conclusions
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/761
A61P 35/00
A61P 19/00
C12N 15/861
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サバイビン(Survivin)プロモーターによる発現制御下にE1A遺伝子を有する制限増殖型アデノウイルスを含む骨軟部腫瘍の治療用医薬組成物であって、前記制限増殖型アデノウイルスがE3領域を欠損していない、医薬組成物。
【請求項2】
骨軟部腫瘍が、原発性骨軟部腫瘍である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
骨軟部腫瘍が、再発した原発性骨軟部腫瘍または再発した転移性骨軟部腫瘍である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
骨軟部腫瘍が骨腫瘍である、請求項1~3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
骨腫瘍が脊索腫である、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
1回あたりの対象への制限増殖型アデノウイルスの総投与量が1×1010vp~1×1012vpである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項7】
単回投与または4週に1回反復投与される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項8】
投与対象の腫瘍体積に応じて投与液量が変更される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項9】
1回あたりの対象への制限増殖型アデノウイルスの総投与量が1×1011vpである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項10】
複数の箇所に腫瘍が存在する場合には、最大3か所の腫瘍に投与され、各投与量が腫瘍体積に応じて分割される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項11】
一つの腫瘍体積が30cm3以上の場合は、1か所のみに投与される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項12】
医薬組成物の投与液量が以下のように決定される、請求項8または10に記載の医薬組成物:
投与対象の腫瘍体積が5cm3未満の場合1mL;
投与対象の腫瘍体積が5cm3以上9cm3未満の場合2mL;
投与対象の腫瘍体積が9cm3以上15cm3未満の場合3mL;
投与対象の腫瘍体積が15cm3以上21cm3未満の場合5mL;
投与対象の腫瘍体積が21cm3以上30cm3未満の場合7mL;かつ
投与対象の腫瘍体積が30cm3以上の場合10mL。
【請求項13】
制限増殖型アデノウイルスのE1B領域がE1BΔ55Kである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項14】
制限増殖型アデノウイルスのE1B領域が、E1A領域とは異なるプロモーターによって制御される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項15】
サバイビン(Survivin)プロモーターによる発現制御下にE1A遺伝子を有する制限増殖型アデノウイルスを含む骨軟部腫瘍の治療用医薬組成物であって、前記制限増殖型アデノウイルスがE3領域を欠損しておらず、E1B領域がE1BΔ55Kであり、CMVプロモーターによって制御される、医薬組成物。
【請求項16】
サバイビン(Survivin)プロモーターによる発現制御下にE1A遺伝子を有する制限増殖型アデノウイルスであって、E3領域を欠損しておらず、E1B領域がE1BΔ55Kであり、CMVプロモーターによって制御される、制限増殖型アデノウイルス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、日本特許出願2021-084823(2021年5月19日出願)に基づく優先権を主張しており、この内容は本明細書に参照として取り込まれる。
技術分野
本発明は骨軟部腫瘍の治療分野に関する。
【背景技術】
【0002】
「骨軟部」腫瘍とは、「骨」腫瘍と「軟部」腫瘍を合わせた呼称であり、悪性骨軟部腫瘍は原発性骨軟部腫瘍と転移性骨軟部腫瘍に分類される。原発性悪性骨腫瘍(骨に発生する悪性腫瘍の総称)は稀な疾患であり、発生頻度は100万人に4人と推定されている。原発性悪性骨腫瘍の組織型は、約40%が骨肉腫で最も頻度が高く、軟骨肉腫、ユーイング肉腫がそれに続く。骨肉腫及びユーイング肉腫は小児での発生が多く、10~19歳で全体のそれぞれ40%及び43%を占めている。骨肉腫の予後は、転移のない四肢発生例の5年無病生存割合は、約60~70%、全生存割合は約70~80%である。軟骨肉腫の予後は、5年あるいは10年を過ぎても再発する可能性があり、5年生存割合59%であるのに対し、20年全生存割合は35%と報告されている。ユーイング肉腫は、5年無病生存割合69%、5年全生存割合72%である。発生部位により予後が異なり、四肢遠位発生例の5年無病生存割合68%であるのに対し、四肢近位61%、骨盤発生50%である。
【0003】
骨肉腫では、ドキソルビシンやシスプラチン投与、大量メトトレキサート(MTX)療法を標準的術前化学療法として実施し、術前化学療法により腫瘍が縮小後、腫瘍の外科的切除が行われている。術後には、術前化学療法の組織学的効果判定に基づき、補助化学療法を行うことが推奨されている。化学療法に対する反応性は良好な場合が多いが、化学療法のみによる治癒は期待しがたく、骨盤や体幹発生症例では腫瘍が摘出できないため症状の改善や延命を目的とした治療が主体となる。化学療法の奏効率は29%に過ぎない(非特許文献1)。また、高齢者や重度の合併症をもつ患者では化学療法が十分に行えない、化学療法が無効、再発例では他の治療の選択肢がないという問題点がある。
【0004】
軟骨肉腫は放射線、化学療法とも抵抗性で、手術が唯一の治療法である。一般に化学療法自体が無効と考えられており、進行例に対して行われる化学療法もあるが有効性自体は低い(非特許文献2)。広範切除可能な四肢発生症例では切・離断術により根治が得られるが、体幹発生症例など広範切除が不能な症例では、不完全な切除の結果再発を繰り返し、最後は腫瘍死となることが多い。また再発を繰り返す間に悪性度が高くなり、遠隔転移を起こす症例もある。よって局所腫瘍を確実に治療することで、局所再発を阻止することができれば遠隔転移も含む生命予後も改善できる可能性が大きいだけでなく、局所腫瘍の縮小自体が患者にとっては大きなメリットとなる。つまり切除不能な再発・転移病変が増大した場合、疼痛や機能障害が出現し、また腫瘍が増大して皮膚を穿破すると感染や出血などの重大な症状に繋がる。しかし、軟骨肉腫を確実に縮小して治療する方法は現在存在せず、まさにアンメット・メディカルニーズの悪性骨腫瘍である。
【0005】
ユーイング肉腫の治療には、局所制御のための手術または放射線療法(または両者)とともに、全身化学療法を用いる必要がある。化学療法には、ビンクリスチン、ドキソルビシン、イホスファミド、エトポシドを含む多剤併用療法が標準的である。しかし化学療法の奏効率は35%に過ぎない(非特許文献3)。特に化学療法施行後の再発・転移例は予後不良であり、再発・転移例に有効性が確認され推奨される化学療法はない。また、脊椎発生例では外科的治癒切除が可能な症例が非常に少なく、他の部位発生よりも予後が不良である。また手術不能例に対する代替療法としての放射線治療は二次がんの問題もあり、新たな治療法の開発が望まれている。
【0006】
脊索腫は低悪性度ながら局所破壊性に増殖する骨腫瘍であり、仙骨発生が最も多く(50%)、頭蓋底(30%)、他の脊椎(20%)と続く。発生年齢の中央値は60歳であり、頭蓋底発生例は小児に多い。脊索腫に対しては軟骨肉腫と同様に外科的切除が治療の中心である。再発症例における局所制御は困難であり、長期生存の可能性も低い(非特許文献4)。近年、重粒子線が有効との報告があり、脊索腫に対する重粒子線の5年局所制御率は77.2%と報告されている(非特許文献5)。しかし同部位への再照射は健常臓器への障害の危険性から根治的照射は多くの場合適応外である。脊索腫の30~40%で遠隔転移を合併し、通常局所再発後の症例に発症する。進行性の脊索腫に対して有効な化学療法は無く(脊索腫における化学療法の奏効率は僅か0~2%)、分子標的治療薬の臨床試験の報告があるものの承認は得られていない(非特許文献4、6)。脊索腫も軟骨肉腫と同様に、局所腫瘍を確実に治療することで、局所再発を阻止することができれば遠隔転移も含む生命予後も改善できる可能性が大きいだけでなく、局所腫瘍の縮小自体が患者にとっては大きなメリットとなる。つまり切除不能な再発・転移病変が増大した場合、疼痛や機能障害が出現し、また腫瘍が増大して皮膚を穿破すると感染や出血などの重大な症状に繋がる。さらに脊索腫の場合、仙椎および頸椎が好発部位であり、脊髄や神経根への圧迫により神経障害性疼痛や運動麻痺を来すことがあり、患者さんの苦痛となるため、腫瘍縮小によりこのような症状が少しでも軽減できれば大きなメリットとなる。しかし、脊索腫を確実に縮小して治療する方法は現在存在せず、このように脊索腫は、まさに既存治療法が全くない、アンメット・メディカル・ニーズの代表的な悪性骨腫瘍である。
【0007】
骨肉腫、軟骨肉腫、ユーイング肉腫以外の組織型の骨腫瘍については、症例数が少ないため、エビデンスに基づく標準的な治療法は未確立であり、主治医の判断による治療が実施されている。例えば、骨未分化高悪性度多形肉腫(いわゆるMFH)は高悪性度骨腫瘍として骨肉腫と同様の治療が適用される。骨線維肉腫は症例数が少なく、標準的な化学療法も確立されていないため手術による完全切除が治療の中心である。このように脊索腫、軟骨肉腫をはじめとする多くの悪性骨腫瘍では標準的治療としての化学療法が確立しておらず、進行例に対して行われる化学療法もあるが有効性は低い。
【0008】
一方、原発性悪性軟部腫瘍(軟部組織に発生する悪性腫瘍の総称)については、10万人当たり2~3人とされ、原発性悪性骨腫瘍よりはやや多いが、まれな腫瘍である。組織型の頻度は、従来、悪性線維性組織球腫(MFH: malignant fibrous histiocytoma)が最も多かったが、2013年にWHOの軟部肉腫診断基準が改訂され、MFHを使用しないことになった。現在では脂肪肉腫、未分化多型肉腫(狭義のMFH)、平滑筋肉腫の頻度が高い。
【0009】
原発性悪性軟部腫瘍に対する化学療法、放射線療法が標準的治療として確立しているのは円形細胞肉腫の骨外性ユーイング肉腫、横紋筋肉腫のみで、頻度の高い脂肪肉腫や未分化多型肉腫は手術治療が中心である。最近、分子標的治療薬として、血管内皮増殖因子(VEGF)をターゲットとしたPazopanibが悪性軟部腫瘍に対し承認された。しかし個別の組織型についての有効性は十分に確立しているとは言えず、ほかの治療オプションは少ないのが現状である。
【0010】
非円形細胞肉腫は、紡錘形や多形性の細胞から成る、平滑筋肉腫、悪性線維性組織球腫、滑膜肉腫等の軟部腫瘍である。円形細胞肉腫よりもはるかに発生頻度が高いが、化学療法に対する感受性は低く、その有効性については確立されていない。切除可能な非進行例に関しては、世界的には手術が標準治療とされているが、近年メタアナリシスによってdoxorubicinおよびifosfamideによる補助化学療法の有効性が示されている。ただし、化学療法に際しては有害事象に対する注意が必要であり、患者の年齢や全身状態を考慮し適応を決定すべきであり、リスクとベネフィットに関する十分な説明を患者に行った上で実施すべきであるとされている。
【0011】
サバイビン反応性制限増殖型アデノウイルス(Surv.m-CRA)は、サバイビン(survivin)を発現している悪性腫瘍細胞においてウイルスを特異的に増殖させることにより感染腫瘍細胞を傷害することを目的とした「腫瘍溶解性ウイルス(Oncolytic Virus)」あるいは別名「制限増殖型アデノウイルス(Conditionally-replicating adenovirus:CRA)」である(特許文献1、非特許文献4)。本ウイルスは、アデノウイルスの増殖に必要なE1A遺伝子の上流に、遺伝子組換え技術を用いて腫瘍細胞で特異的に異常高活性化するサバイビンプロモーターを導入することで、腫瘍特異的なウイルス増殖を可能にするとともに、その下流に導入したサイトメガロウイルスプロモーターで変異E1B(55KDコード領域を欠失)の発現を制御し、別の機序による腫瘍特異的なウイルス増殖を可能にするものであるため、次世代CRAと位置付けられる(非特許文献7、特許文献2)。
【0012】
サバイビンは、正常組織では発現が見られない一方、肺癌、大腸癌、膵臓がん、前立腺癌、乳癌およびリンパ腫で強い発現が見られることが報告されている。本発明者らは、これまで、胃癌、大腸癌、肝癌、子宮頚癌および骨肉腫細胞株でサバイビンmRNAの発現が認められるのに対し、線維芽細胞や骨芽細胞ではほとんど発現していないことを報告している(非特許文献8)。しかしサバイビンプロモーターが脊索腫を初めとする悪性骨軟部腫瘍で、腫瘍特異的に高活性を示すということは、これまで報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】国際公開第WO2005/115476号公報
【文献】国際公開第WO2005/012536号公報
【非特許文献】
【0014】
【文献】Fariba Navid.ら,CANCER(2008)Vol.113(2):419-425.
【文献】A. Italiano.ら,Annals of Oncology(2013)24:2916-2922.
【文献】Elizabeth Fox.ら,The Oncologist 2012;17:321.
【文献】Stacchiotti S.ら,Lancet Oncol. 2015 Feb;16(2):e71-83.
【文献】Imai R.ら,Int J Radiation Oncol Biol Phys, 95(1):322-327,2016
【文献】Loic Lebellec.ら,Hematology 95(2015)125-131
【文献】Nagano S.ら,Gene Ther .12(18):1385-1393, 2005.
【文献】Kamizono Jら,Cancer Res 2005,65:5284-5291.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
悪性骨軟部腫瘍は予後が不良である傾向が強く、これを完治させる治療法は未だ見つかっていない。また、制限増殖型アデノウイルスによる癌治療はこれまでも報告があるものの、単独で癌に効果を奏する治療方法は見つかっていなかった。本発明の課題は、新規な制限増殖型アデノウイルス、及びこれを用いた骨軟部腫瘍の新規な治療方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、骨軟部腫瘍を治療する方法を提供するべく鋭意検討した結果、サバイビン(Survivin)プロモーターによる発現制御下にE1A遺伝子を有する制限増殖型アデノウイルスを有効成分とする治療用医薬組成物が、骨軟部腫瘍に対して有効であること、とくに標準治療を含む既存の治療方法に対して無効だった再発例に対しても、これまで報告された制限増殖型アデノウイルスを大きく凌ぐ著明な効果と安全性を奏することを見出し、本発明を完成させた。更に、本発明者らは、サバイビン(Survivin)プロモーターによる発現制御下にE1A遺伝子を有する制限増殖型アデノウイルスを用いたより有効な治療方法について探索した結果、その有効性を高めることができる投与方法を開発した。
【0017】
さらに、本発明者らは、従来の報告とは異なり、アデノウイルスのE3領域を保持することにより、高度の腫瘍特異性を持つSurv.m-CRA(上掲Kamizono et al.)の腫瘍特異性がより向上し、腫瘍細胞殺傷効果は維持したまま、正常細胞を障害する副作用が低減されることを見出した。
【0018】
第1の態様において、本発明は以下の[1]~[15]を提供する。
[1] サバイビン(Survivin)プロモーターによる発現制御下にE1A遺伝子を有する制限増殖型アデノウイルスを含む、骨軟部腫瘍(好ましくは、悪性骨軟部腫瘍、例えば、原発性悪性骨腫瘍、転移性骨腫瘍、原発性悪性軟部腫瘍、転移性軟部腫瘍)の治療用医薬組成物であって、前記制限増殖型アデノウイルスがE3領域を欠損していない、医薬組成物。
[2] 骨軟部腫瘍が、原発性骨軟部腫瘍である、[1]に記載の医薬組成物。
[3] 骨軟部腫瘍が、再発した原発性骨軟部腫瘍または再発した転移性骨軟部腫瘍である、[1]に記載の医薬組成物。
[4] 骨軟部腫瘍が骨腫瘍である、[1]~[3]のいずれかに記載の医薬組成物。
[5] 骨腫瘍が脊索腫である、[4]に記載の医薬組成物。
[6] 1回あたりの対象への制限増殖型アデノウイルスの総投与量が1×1010vp~1×1012vpである、[1]に記載の医薬組成物。
[7] 単回投与または4週に1回反復投与、好ましくは4週に1回投与の計3~5回投与される、[1]に記載の医薬組成物。
[8] 投与対象の腫瘍体積に応じて投与液量が変更される、[1]に記載の医薬組成物。
[9] 1回あたりの対象への制限増殖型アデノウイルスの総投与量が1×1011vpである、[1]に記載の医薬組成物。
[10] 複数の箇所に腫瘍が存在する場合には、最大3か所の腫瘍に投与され、各投与量が腫瘍体積に応じて分割される、[1]に記載の医薬組成物。
[11] 一つの腫瘍体積が30cm以上の場合は、1か所のみに投与される、[1]に記載の医薬組成物。
[12] 投与液量が以下のように決定される、[8]または[10]に記載の医薬組成物:
投与対象の腫瘍体積が5cm未満の場合1mL;
投与対象の腫瘍体積が5cm以上9cm未満の場合2mL;
投与対象の腫瘍体積が9cm以上15cm未満の場合3mL;
投与対象の腫瘍体積が15cm以上21cm未満の場合5mL;
投与対象の腫瘍体積が21cm以上30cm未満の場合7mL;かつ
投与対象の腫瘍体積が30cm以上の場合10mL。
例えば、1回あたりの対象への制限増殖型アデノウイルスの総投与量が1×1011vpの場合、医薬組成物はいずれの投与液量の場合も1×1011vpの制限増殖型アデノウイルスを含有する。複数の腫瘍に投与される場合は、各投与液量を合わせて1×1011vpの制限増殖型アデノウイルスを含有する。
[13] サバイビン(Survivin)プロモーターによる発現制御下にE1A遺伝子を有する制限増殖型アデノウイルスであって、E3領域を欠損していない制限増殖型アデノウイルス。
[14] 制限増殖型アデノウイルスのE1B領域がE1BΔ55Kである、[1]に記載の医薬組成物、または[13]に記載の制限増殖型アデノウイルス。
[15] 制限増殖型アデノウイルスのE1B領域が、E1A領域とは異なるプロモーター、例えば、CMVプロモーター、RSVプロモーター、CAプロモーター、E2Fプロモーター、EF1Aプロモーター、EFSプロモーター、CAGプロモーター、CBhプロモーター、CBAプロモーター、SFFVプロモーター、MSCVプロモーター、SV40プロモーター、mPGKプロモーター、hPGKプロモーター、UBCプロモーター、Nanogプロモーター、Nesプロモーター、Tuba1aプロモーター、Camk2aプロモーター、SYN1プロモーター、Hb9プロモーター、Thプロモーター、NSEプロモーター、GFAPプロモーター、iba1プロモーター、ProA1プロモーター、hRHOプロモーター、hBEST1プロモーター、Prnpプロモーター、Cnpプロモーター、K14プロモーター、BK5プロモーター、mTyrプロモーター、cTnTプロモーター、αMHCプロモーター、Myogプロモーター、ACTA1プロモーター、MHCK7プロモーター、SM22aプロモーター、EnSM22aプロモーター、Runx2プロモーター、OCプロモーター、Col1a1プロモーター、Col2a1プロモーター、aP2プロモーター、Adipoqプロモーター、Tie1プロモーター、Cd144プロモーター、CD68プロモーター、CD11bプロモーター、Afpプロモーター、Albプロモーター、TBGプロモーター、MMTVプロモーター、Wapプロモーター、HIPプロモーター、Pdx1プロモーター、Ins2プロモーター、Hcn4プロモーター、NPHS2プロモーター、SPBプロモーター、CD144プロモーター、TERTプロモーター、TREプロモーターFLK-1プロモーター、VEGFプロモーター、c-Mycプロモーター、SLPIプロモーター、PSAプロモーター、チロシナーゼプロモーター、から選ばれるいずれかのプロモーター、好ましくはCMVプロモーターによって制御される、[14]に記載の医薬組成物または制限増殖型アデノウイルス。
【0019】
さらに、本発明は以下の[16]~[20]を提供する。上記第1の形態の[1]~[15]に規定される各要件は、下記[16]~[20]にも適用されうる。
[16] サバイビン(Survivin)プロモーターによる発現制御下にE1A遺伝子を有する制限増殖型アデノウイルスを含む、再発した骨軟部腫瘍の治療用医薬組成物。
[17] サバイビン(Survivin)プロモーターによる発現制御下にE1A遺伝子を有する制限増殖型アデノウイルスを含む、骨軟部腫瘍の治療用医薬組成物であって、単回投与または4週に1回反復投与、好ましくは4週に1回投与の計3~5回投与される、医薬組成物。
[18] サバイビン(Survivin)プロモーターによる発現制御下にE1A遺伝子を有する制限増殖型アデノウイルスを含む、骨軟部腫瘍の治療用医薬組成物であって、腫瘍体積に応じて投与液量が変更される、医薬組成物。
[19] サバイビン(Survivin)プロモーターによる発現制御下にE1A遺伝子を有する制限増殖型アデノウイルスを含む、骨軟部腫瘍の治療用医薬組成物であって、1回あたりの対象への制限増殖型アデノウイルスの総投与量が1×1010vp~1×1012vpの範囲において安全な治療が可能である、医薬組成物。
[20] サバイビン(Survivin)プロモーターによる発現制御下にE1A遺伝子を有する制限増殖型アデノウイルスを含む、骨軟部腫瘍の治療用医薬組成物であって、1回あたりの対象への制限増殖型アデノウイルスの総投与量が1×1011vpである、医薬組成物。
【0020】
第2の態様において、本発明は以下の[1]~[19]を提供する。
[1] サバイビン(Survivin)プロモーターによる発現制御下にE1A遺伝子を有する制限増殖型アデノウイルスを対象に投与することを含む、骨軟部腫瘍(好ましくは、悪性骨軟部腫瘍、例えば、原発性悪性骨腫瘍、転移性骨腫瘍、原発性悪性軟部腫瘍、転移性軟部腫瘍)を(安全に)治療する方法。
[2] 骨軟部腫瘍が、原発性骨軟部腫瘍である、[1]に記載の方法。
[3] 骨軟部腫瘍が、再発した原発性骨軟部腫瘍または再発した転移性骨軟部腫瘍である、[1]に記載の方法。
[4] 骨軟部腫瘍が骨腫瘍である、[1]に記載の方法。
[5] 骨腫瘍が脊索腫である、[4]に記載の方法。
[6] 1回あたりの患者への制限増殖型アデノウイルスの総投与量が1×1010vp~1×1012vpである、[1]に記載の方法。
[7] 制限増殖型アデノウイルスが、単回投与または4週に1回反復投与、好ましくは4週に1回投与の計3~5回投与される、[1]に記載の方法。
[8] 投与対象の腫瘍体積に応じて制限増殖型アデノウイルスの投与液量が変更される、[1]に記載の方法。
[9] 1回あたりの対象への制限増殖型アデノウイルスの総投与量が1×1011vpである、[1]に記載の方法。
[10] 複数の箇所に腫瘍が存在する場合には、最大3か所の腫瘍に制限増殖型アデノウイルスが投与され、各投与量が腫瘍体積に応じて分割される、[1]に記載の方法。
[11] 一つの腫瘍体積が30cm以上の場合は、1か所のみに制限増殖型アデノウイルスが投与される、[1]に記載の方法。
[12] 制限増殖型アデノウイルスの投与液量が以下のように決定される、[8]または[10]に記載の方法:
投与対象の腫瘍体積が5cm未満の場合1mL;
投与対象の腫瘍体積が5cm以上9cm未満の場合2mL;
投与対象の腫瘍体積が9cm以上15cm未満の場合3mL;
投与対象の腫瘍体積が15cm以上21cm未満の場合5mL;
投与対象の腫瘍体積が21cm以上30cm未満の場合7mL;かつ
投与対象の腫瘍体積が30cm以上の場合10mL。
例えば、1回あたりの対象への制限増殖型アデノウイルスの総投与量が1×1011vpの場合、いずれの投与液量の場合も1×1011vpの制限増殖型アデノウイルスが投与される。複数の腫瘍に投与される場合は、各投与液量を合わせて1×1011vpの制限増殖型アデノウイルスが投与される。
[13] 制限増殖型アデノウイルスのE3領域が欠損していない、[1]に記載の方法。
[14] 制限増殖型アデノウイルスのE1B領域がE1BΔ55Kである、[1]に記載の方法。
[15] 制限増殖型アデノウイルスのE1B領域が、E1A領域とは異なるプロモーター(第1の態様に記載のとおり)によって制御される、[1]に記載の方法。
[16] 制限増殖型アデノウイルスのE1B領域が、CMVプロモーターによって制御される、[1]に記載の方法。
【0021】
第3の態様において、本発明は以下の[1]~[15]を提供する。
[1] 骨軟部腫瘍(好ましくは、悪性骨軟部腫瘍、例えば、原発性悪性骨腫瘍、転移性骨腫瘍、原発性悪性軟部腫瘍、転移性軟部腫瘍)の治療において使用される、サバイビン(Survivin)プロモーターによる発現制御下にE1A遺伝子を有する制限増殖型アデノウイルスを含む組成物であって、前記制限増殖型アデノウイルスがE3領域を欠損していない(E3領域を保持している)、組成物。
[2] 骨軟部腫瘍が、原発性骨軟部腫瘍(例えば、原発性悪性骨腫瘍、原発性悪性軟部腫瘍)である、[1]に記載の使用のための組成物。
[3] 骨軟部腫瘍が、再発した原発性骨軟部腫瘍(例えば、原発性悪性骨腫瘍、原発性悪性軟部腫瘍)または再発した転移性骨軟部腫瘍(例えば、転移性骨腫瘍、転移性軟部腫瘍)である、[1]または[2]に記載の使用のための組成物。
[4] 骨軟部腫瘍が骨腫瘍である、[1]~[3]のいずれかに記載の使用のための組成物。
[5] 骨腫瘍が脊索腫である、[4]に記載の使用のための組成物。
[6] 1回あたりの患者への制限増殖型アデノウイルスの総投与量が1×1010vp~1×1012vpである、[1]~[5]のいずれかに記載の使用のための組成物。
[7] 単回投与または4週に1回反復投与、好ましくは4週に1回投与の計3~5回投与される、[1]~[6]のいずれかに記載の使用のための組成物。
[8] 投与対象の腫瘍体積に応じて投与液量が変更される、[1]~[7]のいずれかに記載の使用のための組成物。
[9] 1回あたりの対象への制限増殖型アデノウイルスの総投与量が1×1011vpである、[1]~[8]のいずれかに記載の使用のための組成物。
[10] 複数の箇所に腫瘍が存在する場合には、最大3か所の腫瘍に投与され、各投与量が腫瘍体積に応じて分割される、[1]~[9]のいずれかに記載の使用のための組成物。
[11] 一つの腫瘍体積が30cm以上の場合は、1か所のみに投与される、[1]~[9]のいずれかに記載の使用のための組成物。
[12] 投与液量が以下のように決定される、[1]~[11]のいずれかに記載の使用のための組成物:
投与対象の腫瘍体積が5cm未満の場合1mL;
投与対象の腫瘍体積が5cm以上9cm未満の場合2mL;
投与対象の腫瘍体積が9cm以上15cm未満の場合3mL;
投与対象の腫瘍体積が15cm以上21cm未満の場合5mL;
投与対象の腫瘍体積が21cm以上30cm未満の場合7mL;かつ
投与対象の腫瘍体積が30cm以上の場合10mL
例えば、1回あたりの対象への制限増殖型アデノウイルスの総投与量が1×1011vpの場合、組成物はいずれの投与液量の場合も1×1011vpの制限増殖型アデノウイルスを含有する。複数の腫瘍に投与される場合は、各投与液量を合わせて1×1011vpの制限増殖型アデノウイルスを含有する。[13] 制限増殖型アデノウイルスのE1B領域がE1BΔ55Kである、[1]~[12]のいずれかに記載の使用のための組成物。
[14] 制限増殖型アデノウイルスのE1B領域が、E1A領域とは異なるプロモーター(第1の形態に記載のとおり)、例えば、CMVプロモーターによって制御される、[1]~[13]のいずれかに記載の使用のための組成物。
[15] サバイビン(Survivin)プロモーターによる発現制御下にE1A遺伝子を有する制限増殖型アデノウイルスであって、E3領域を欠損していない制限増殖型アデノウイルス、好ましくは、E1B領域がE1BΔ55Kであり、さらに好ましくはE1B領域が、E1A領域とは異なるプロモーター(第1の形態に記載のとおり)、例えばCMVプロモーターによって制御される、[14]に記載の制限増殖型アデノウイルス。
【0022】
さらに、本発明は以下の[16]~[20]を提供する。上記第3の形態の[1]~[15]に規定される各要件は、下記[16]~[20]にも適用されうる。
[16] 再発した骨軟部腫瘍の治療において使用される、サバイビン(Survivin)プロモーターによる発現制御下にE1A遺伝子を有する制限増殖型アデノウイルスを含む組成物。
[17] 骨軟部腫瘍の治療において使用される、サバイビン(Survivin)プロモーターによる発現制御下にE1A遺伝子を有する制限増殖型アデノウイルスを含む組成物であって、単回投与または4週に1回反復投与、好ましくは4週に1回投与の計3~5回投与される、組成物。
[18] 骨軟部腫瘍の治療において使用される、サバイビン(Survivin)プロモーターによる発現制御下にE1A遺伝子を有する制限増殖型アデノウイルスを含む組成物であって、腫瘍体積に応じて投与液量が変更される、組成物。
[19] 骨軟部腫瘍の治療において使用される、サバイビン(Survivin)プロモーターによる発現制御下にE1A遺伝子を有する制限増殖型アデノウイルスを含む組成物であって、1回あたりの対象への制限増殖型アデノウイルスの総投与量が1×1010vp~1×1012vpの範囲において安全な治療が可能である、組成物。
[20] 骨軟部腫瘍の治療において使用される、サバイビン(Survivin)プロモーターによる発現制御下にE1A遺伝子を有する制限増殖型アデノウイルスを含む組成物であって、1回あたりの対象への制限増殖型アデノウイルスの総投与量が1×1011vpである、組成物。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】低用量の仙骨脊索腫の患者(45歳、女性)の治療経過を示す。この患者は、2007年に仙骨脊索腫を発症し、2013年に右臀部軟部組織に再発、化学療法や放射線治療の適応が無く、2016年8月にSurv.m-CRA-1が投与された。中央の表は、投与前から投与から114週後までのRECIST基準の奏効性判定(上段)とChoi基準の奏効性判定(下段)を示す。最下部に示す写真は、左から、投与前、投与12週後、投与28週後、投与100週後の病変部のCT画像を示す。(PR: 部分奏効、SD:病態安定)
図2】低用量の胸椎脊索腫患者(61歳、男性)の治療経過を示す。この患者は、2006年に右縦隔から胸椎脊索腫の切除手術を受けた後、2017年に隣接する椎体(第7胸椎)に4回目の再発が見られ、標準的治療による効果が認められなかったため、Surv.m-CRA-1が投与された。中央の表は、投与前から投与から135週後までの治療経過を示す。表は上から順に、長径(mm)及びその変化率(%)、CT値(HU)及びその変化率(%)、RECIST基準の奏効性判定、Choi基準の奏効性判定、非造影CT値及びその変化率(%)を示す。最下部に示す写真は、左から、投与前、投与4週後、投与12週後、投与56週後の病変部のCT画像を示す。(PR: 部分奏効、SD:病態安定)
図3】Surv.m-CRA-1をin vitroで感染させた、肝癌細胞株(HepG2)と、正常細胞の線維芽細胞(WI-38)の細胞生存率(cell viability)を示すグラフである。縦軸は、各条件におけるコントロールのAd.dE1.3の生細胞数を100%とした場合の、同一条件(各MOIならびに各Day)のSurv.m-CRA―1(E3あり)とSurv.m-CRA(E3なし)の生細胞数の比(%)を示す。横軸は多重感染度(MOI)を示す。*は、コントロールに対する統計学的有意差あり(P<0.05)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
一態様において、本発明は、サバイビン(Survivin)プロモーターによる発現制御下にE1A遺伝子を有する制限増殖型アデノウイルスを有効成分とする骨軟部腫瘍の治療用医薬組成物に関する。
【0025】
「制限増殖型アデノウイルス(Conditionally-replicating adenovirus:CRA)」とは、腫瘍特異的に増殖して傷害するウイルスを意味する。「制限増殖型アデノウイルス」は、腫瘍溶解性ウイルスとも呼ばれ、その意味は当該分野で周知である。
【0026】
本明細書において、「サバイビン(Survivin)プロモーターによる発現制御下にE1A遺伝子を有する」とは、サバイビンプロモーターが直接E1A遺伝子の発現を調節可能となるようにE1A遺伝子の上流に結合していることを意味する。例えば、サバイビンプロモーターは、E1A遺伝子の転写開始領域の10~200bp上流に結合していてもよい。好ましくは、制限増殖型アデノウイルスのE1B領域はE1BΔ55Kである。「E1BΔ55K」とは、アデノウイルスのE1Bタンパク質のうちp53結合領域が欠損したタンパク質であり(JAMES R. BISCHOFFら,SCIENCE 18 OCT 1996:373-376)、E1B19Kとも呼ばれる。E1BΔ55Kを有するウイルスは、p53が欠失している腫瘍細胞では増殖できるが、p53を有する正常細胞では増殖することができないことが知られている。
【0027】
E1A領域とE1B領域(E1BΔ55K)とは、異なるプロモーターによって制御されることが好ましい。これにより、E1Aの発現と、E1BΔ55Kの発現を別個に制御することが可能になる(上掲Nagano et al.、WO2005/012536)。本明細書においては、このようなアデノウイルスを、「多因子制限増殖型アデノウイルス」(CRA regulated with multiple tumor-specific factors; m-CRA)と記載する。E1B領域を制御するプロモーターは、E1A領域と異なるものであれば、特に限定されない。例えば、CMVプロモーター、RSVプロモーター、CAプロモーター、E2Fプロモーター、EF1Aプロモーター、EFSプロモーター、CAGプロモーター、CBhプロモーター、CBAプロモーター、SFFVプロモーター、MSCVプロモーター、SV40プロモーター、mPGKプロモーター、hPGKプロモーター、UBCプロモーター、Nanogプロモーター、Nesプロモーター、Tuba1aプロモーター、Camk2aプロモーター、SYN1プロモーター、Hb9プロモーター、Thプロモーター、NSEプロモーター、GFAPプロモーター、iba1プロモーター、ProA1プロモーター、hRHOプロモーター、hBEST1プロモーター、Prnpプロモーター、Cnpプロモーター、K14プロモーター、BK5プロモーター、mTyrプロモーター、cTnTプロモーター、αMHCプロモーター、Myogプロモーター、ACTA1プロモーター、MHCK7プロモーター、SM22aプロモーター、EnSM22aプロモーター、Runx2プロモーター、OCプロモーター、Col1a1プロモーター、Col2a1プロモーター、aP2プロモーター、Adipoqプロモーター、Tie1プロモーター、Cd144プロモーター、CD68プロモーター、CD11bプロモーター、Afpプロモーター、Albプロモーター、TBGプロモーター、MMTVプロモーター、Wapプロモーター、HIPプロモーター、Pdx1プロモーター、Ins2プロモーター、Hcn4プロモーター、NPHS2プロモーター、SPBプロモーター、CD144プロモーター、TERTプロモーター、TREプロモーターFLK-1プロモーター、VEGFプロモーター、c-Mycプロモーター、SLPIプロモーター、PSAプロモーター、チロシナーゼプロモーター、などを挙げることができる。
【0028】
多因子制限増殖型アデノウイルスとしては、国際公開第WO2005/115476号公報、又はJunichi Kamizonoら,Cancer Res June 15 2005 (65) (12) 5284-5291に記載されたアデノウイルスを挙げることができる。このアデノウイルスは、アデノウイルスゲノム中のE1A領域の内因性プロモーター、及びE1B領域(好ましくは、E1BΔ55K)の内因性プロモーターが、それぞれ、サバイビンプロモーター、及びCMVプロモーターに置換された多因子制限増殖型アデノウイルスである。
【0029】
好ましくは、制限増殖型アデノウイルスは、アデノウイルスのE3領域に外来遺伝子が挿入されていない。別の表現では、制限増殖型アデノウイルスは、E3領域が欠損していない(すなわち、野生型アデノウイルスのE3領域を有する)制限増殖型アデノウイルスである。
【0030】
E3領域にはAdenovirus Death Proteinという腫瘍細胞死を誘導する遺伝子をコードする領域があるため、一般には、E3領域を有する方が治療効果が高いと考えられていた(Fanny Georgi, et. al.,FEBS Letters 594 (2020) 1861-1878)。しかしながら、このような従来の常識とは異なり、E3領域を保持している制限増殖型アデノウイルスは、E3領域が欠損している制限増殖型アデノウイルスに比較して、in vitroでの腫瘍特異的な細胞障害効果が高いことを見出した。そして、実施例に示される臨床試験において、E3領域を保持している制限増殖型アデノウイルス(Surv.m-CRA-1)が十分な治療効果と安全性を有することを確認した。すなわち、E3領域を保持している(E3領域が欠損していない)制限増殖型アデノウイルスは、臨床的には十分な治療効果が見込めるだけの腫瘍細胞殺傷効果を維持しつつ、正常細胞への非特異的な殺傷効果は激減されるため、より安全で有効な治療薬となり得る。
【0031】
本発明の制限増殖型アデノウイルスは、骨軟部腫瘍の治療用医薬組成物として有用である。
【0032】
本明細書において、「骨軟部腫瘍」とは、骨および軟部組織(筋肉、脂肪、神経、血管など)にできる腫瘍を意味し、通常型骨肉腫、軟骨芽細胞型、線維芽細胞型、骨芽細胞型、血管拡張型骨肉腫、小細胞型骨肉腫、二次性骨肉腫、傍骨性骨肉腫、骨膜性骨肉腫、高悪性度表在性骨肉腫などの骨肉腫;通常型軟骨肉腫、脱分化型軟骨肉腫、間葉型軟骨肉腫、淡明細胞軟骨肉腫、骨粘液軟骨用肉腫などの軟骨肉腫;ユーイング肉腫;骨未分化高悪性度多形肉腫(いわゆるMFH);骨繊維肉腫;脊索腫;悪性骨巨細胞腫;骨血管肉腫;骨平滑筋肉腫;並びに、骨脂肪肉腫などが含まれる。「骨軟部腫瘍」には、骨腫瘍と軟部腫瘍があるが、好ましくは、骨腫瘍であり、より好ましくは脊索腫である。
【0033】
「骨軟部腫瘍」は、好ましくは悪性骨軟部腫瘍であり、原発性骨軟部腫瘍と転移性骨軟部腫瘍に分けられる。「原発性骨軟部腫瘍」とは、骨および軟部組織自体からがんが発生した悪性腫瘍を意味する。「転移性骨軟部腫瘍」とは、内臓など他の臓器のがんが骨および軟部組織に転移して発生した悪性腫瘍を意味する。
【0034】
本発明の制限増殖型アデノウイルスは、再発した原発性骨軟部腫瘍や転移性骨軟部腫瘍にも有効である。「再発した原発性骨軟部腫瘍」とは、既に放射線治療や化学療法による治療が適用され、かつ/又は切除などの外科的治療が施された原発性骨軟部腫瘍であって、当該治療後に腫瘍の増悪化や転移が生じるものをいう。同様に、「再発した原発性骨軟部腫瘍」とは、既に治療が施された転移性骨軟部腫瘍であって、当該治療後に増悪化や転移が生じるものをいう。
【0035】
本発明の制限増殖型アデノウイルスは、従来公知の骨軟部腫瘍の治療方法と併用されてもよい。骨軟部腫瘍の治療方法は、本願出願時における軟部腫瘍診療ガイドライン(Japanese Orthopaedic Association(JOA) Clinical Practice Guidelines on the Management of Soft Tissue Tumors)、NCCNガイドライン、ESMO診療ガイドライン、EURACANガイドラインや、その他の国におけるガイドライン(Cancer Chemother Pharmacol. 2016 Jan;77(1):133-46.など)に記載されている。例えば、骨軟部腫瘍の治療には、化学療法剤としては、vincristine、doxorubicin、cyclophosphamide、ifosfamide、etoposide、pazopanib、trabectedin、若しくは、eribulin、又はそれらの組み合わせが含まれる。
【0036】
別の態様において、本発明は、骨軟部腫瘍患者の治療方法であって、サバイビン(Survivin)プロモーターによる発現制御下にE1A遺伝子を有する制限増殖型アデノウイルスの有効量を投与することを特徴とする治療方法;原発性骨軟部腫瘍を治療するための、サバイビン(Survivin)プロモーターによる発現制御下にE1A遺伝子を有する制限増殖型アデノウイルス;あるいは、原発性骨軟部腫瘍の治療用医薬組成物を製造するための、サバイビン(Survivin)プロモーターによる発現制御下にE1A遺伝子を有する制限増殖型アデノウイルスの使用に関する。上記において限増殖型アデノウイルスは、野生型のE3領域を保持し、好ましくはE1B領域がE1BΔ55Kである、制限増殖型アデノウイルスである。
【0037】
一例では、本発明の制限増殖型アデノウイルスまたはこれを有効成分とする医薬組成物は、例えば、4週に1回投与のスケジュールで、1~10回、2~8回、3~5回、又は4~5回投与される。投与は注射により行われ、血中投与又は腫瘍内投与であってよいが、好ましくは、腫瘍内投与である。
【0038】
腫瘍内投与の場合、本発明の医薬組成物は、腫瘍体積に応じて投与液量が変更されてもよい。例えば、本明細書記載の医薬組成物の投与液量は以下のように決定されてもよい:
投与対象の腫瘍体積が5cm未満の場合1mL;
投与対象の腫瘍体積が5cm以上9cm未満の場合2mL;
投与対象の腫瘍体積が9cm以上15cm未満の場合3mL;
投与対象の腫瘍体積が15cm以上21cm未満の場合5mL;
投与対象の腫瘍体積が21cm以上30cm未満の場合7mL;かつ
投与対象の腫瘍体積が30cm以上の場合10mL。
このように、腫瘍の体積に応じて投与液量を変えることにより、腫瘍内でより広くウイルスをいきわたらせることができる。
【0039】
治療対象の患者において複数の箇所に腫瘍が存在する場合には、制限増殖型アデノウイルスは、例えば、最大3か所の腫瘍(好ましくは、腫瘍径が大きい3か所の腫瘍)に投与されてもよく、この場合、各投与量が腫瘍体積に応じて分割されていてもよい。あるいは、一つの腫瘍体積が30cm以上の場合は、分割されずに1か所の腫瘍のみに投与されてもよい。また、複数回投与の場合であって2回目以降の投与時点において、前回までに投与を受けた腫瘍の体積が減少している場合、制限増殖型アデノウイルスは、当該2回目以降の投与の時点において投与病変の中で腫瘍径が大きい3か所の腫瘍に投与されてもよい。ここで、腫瘍径が大きい3か所の腫瘍とは、最も腫瘍径の大きい腫瘍、2番目に腫瘍径の大きい腫瘍、及び3番目に腫瘍径の大きい腫瘍を意味する。あるいは、複数回投与の場合であって2回目以降の投与時点において、前回までに投与された腫瘍のうち1つの腫瘍の体積が減少している場合、制限増殖型アデノウイルスは、最初の投与の時点において投与病変の中で腫瘍径が4番目に大きい腫瘍に投与されてもよい。同様に、前回までに投与された腫瘍のうち2つの腫瘍の体積が減少している場合、制限増殖型アデノウイルスは、最初の投与の時点において投与病変の中で腫瘍径が4番目に大きい腫瘍及び5番目に大きい腫瘍に投与されてもよい。また、前回までに投与された腫瘍のうち3つの腫瘍の体積が減少している場合、制限増殖型アデノウイルスは、最初の投与の時点において投与病変の中で腫瘍径が4番目に大きい腫瘍、5番目に大きい腫瘍、及び6番目に大きい腫瘍に投与されてもよい。
【0040】
制限増殖型アデノウイルスの1回あたりの投与量は1×1010vp~1×1012vpとすることができ、好ましくは、1×1011vpである。制限増殖型アデノウイルスの投与は、単回投与でも反復投与でもよいが、総投与量は1×1010vp~1×1012vpとすることができ、好ましくは、1×1011~5×1011vp又は3×1011~5×1011vpである。
【0041】
本発明の医薬組成物の形態は、腫瘍部位への投与に適した形態であれば、特に限定されず、薬理学上許容される担体や添加物を含むものであってもよい。そのような担体や添加物としては、例えば、溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、乳化剤、等張化剤、安定化剤、無痛化剤、防腐剤、抗酸化剤、緩衝剤等が挙げられる。
【0042】
溶剤としては、精製水、生理的食塩水、リン酸緩衝液などが挙げられる。
溶解補助剤としては、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、トレハロース、安息香酸ベンジル、エタノール、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、サリチル酸ナトリウム、酢酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0043】
懸濁化剤あるいは乳化剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、アラビアゴム、ゼラチン、レシチン、モノステアリン酸グリセリン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウムなどのセルロース類、ポリソルベート類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などが挙げられる。
【0044】
等張化剤としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、糖類、グリセリン、尿素などが挙げられる。
安定化剤としては、ポリエチレングリコール、デキストラン硫酸ナトリウム、その他のアミノ酸類などが挙げられる。
【0045】
無痛化剤としては、ブドウ糖、グルコン酸カルシウム、塩酸プロカインなどが挙げられる。
防腐剤としては、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸などが挙げられる。
【0046】
抗酸化剤としては、水溶性抗酸化剤であるアスコルビン酸、システインハイドロクロライド、重硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、脂溶性抗酸化剤であるアスコルビルパルミテート、ブチル化ハイドロキシアニソール(BHA)、ブチル化ハイドロキシトルエン(BHT)、レシチン、プロピルガレート、α-トコフェロール、及び金属キレート剤であるクエン酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ソルビトール、酒石酸、リン酸が挙げられる。
【0047】
本発明の医薬組成物は、例えば、グリセリン加トリス緩衝生理食塩水緩衝液(2.5%(v/v)グリセリン含有、25mM NaCl、20mM Tris,pH 8.0)中に制限増殖型アデノウイルスを含む注射用製剤とすることができる。含まれる制限増殖型アデノウイルスの量は、目的や用法用量に応じて適宜選択することができるが、好ましくは、1×1011vp/mLとすることができる。
【実施例
【0048】
以下、本発明をより詳細に説明するため実施例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、本願全体を通して引用される全文献は参照によりそのまま本願に組み込まれる。
【実施例1】
【0049】
使用した医薬(Surv.m-CRA-1)は、サバイビンプロモーター制御下にE1A遺伝子を発現し、CMVプロモーター制御下にE1B19K遺伝子を発現するようにE1領域が改変された多因子制限増殖型ヒトアデノウイルス5型を有効成分とする。このアデノウイルスは、5型アデノウイルスゲノムよりウイルス増殖に必要なE1A及びE1B領域の内因性プロモーターを除去したm-CRAを基本骨格としており、治療遺伝子は持たない。本医薬では欠失した内因性E1Aプロモーター部分にサバイビンプロモーター(Survpr)、内因性E1Bプロモーター欠失部分にCMVプロモーター(CMVpr)を組換えたことにより、サバイビンが活性化している腫瘍細胞で選択的に増殖する。一方、サバイビン活性の低い正常細胞での増殖は抑制される。さらにSurv.m-CRA-1ではE3を保持している。
【0050】
本剤の最終製剤剤形は注射用製剤とした。1製剤中には、1×1011vp/mLの濃度のウイルスを0.6mL/vial含む。基剤の組成は、GTS緩衝液(2.5%グリセリン(v/v)を含む25mM NaCl、20mM Tris、pH8.0)からなる緩衝液である。
【0051】
<被験者の適格性>
以下の選択基準をすべてみたし、除外基準のいずれにも該当しない患者を適格として登録した。
(選択基準)
1)組織学的に下記のいずれかと診断されている。
原発性悪性骨腫瘍
転移性骨腫瘍
原発性悪性軟部腫瘍
転移性軟部腫瘍
2)前治療として標準的治療が行われている場合、登録時に、治療後4週間以上が経過している。
3)延命や症状緩和が得られる可能性のある、一般的に認められた標準的治療法の対象にならない。
4)腫瘍の短径・長径・高さの計測および腫瘍内への治験製品投与が可能な病変を有する。
5)同意取得時年齢が10歳以上85歳未満である。
6)ECOG PSが0~2である。
7)3ヶ月以上の生存が期待される。
8)主要臓器機能が保持されている。(登録前2週間以内の最新の検査)
ヘモグロビン≧8g/dL
白血球数≧2,000/μL
血小板数≧70,000/μL
AST(GOT)≦100U/L
ALT(GPT)≦100U/L
総ビリルビン≦1.5mg/dL
血清クレアチニン≦2.0mg/dL
9)男性の場合、以下のいずれかを満たす。
無精子症である。
精管切除術等の外科的避妊手術後である。
同意取得時から治験製品投与後、治験製品Surv.m-CRA-1が体内から消失するまでの間、コンドームの適切な使用、又は禁欲にて避妊することに同意している。
女性パートナーが、閉経後1年以上経過している、または両側卵巣摘出術等の手術後、または同意取得時から治験製品投与後、治験製品Surv.m-CRA-1が体内から消失するまでの間、経口避妊薬(避妊用ピル)、子宮内避妊用具(ペッサリー)にて避妊することに同意している。
10)女性の場合、以下のいずれかを満たす。
閉経後1年以上経過している。
両側卵巣摘出術等の外科的避妊手術後である。
同意取得時から治験製品投与後、治験製品Surv.m-CRA-1が体内から消失するまでの間、経口避妊薬(避妊用ピル)、子宮内避妊用具(ペッサリー)、又は禁欲にて避妊することに同意している。
男性パートナーが、無精子症である、または精管切除術等の外科的避妊手術後である、または同意取得時から治験製品投与後、治験製品Surv.m-CRA-1が体内から消失するまでの間、コンドームの適切な使用にて避妊することに同意している。
11)本治験への参加について、被験者本人または代諾者からの同意が文書で得られている。
【0052】
(除外基準)
1)以下のいずれかの合併症を有する。
重篤な心疾患、呼吸器疾患、消化器疾患、肝疾患
コントロール不良の糖尿病
継続的な治療を必要とする感染症
2)ペニシリンまたはブタ、ウシ(牛乳を含む)アレルギーの既往を有する。
3)免疫抑制剤またはステロイドの全身投与を必要とする疾患を有する(造影剤アレルギー予防のためのステロイド使用は許容されるが、使用した場合、治験製品投与まで1週間程度間隔をあけ、感染予防策などを考慮する)。
4)活動性の重複がんを有する。(適切に治療された基底細胞癌、上皮内癌、表在膀胱癌、または5年間以上の転移・再発が認められない悪性腫瘍は不適格としない)
5)原疾患に伴う発熱・疼痛のコントロールができない。
6)妊娠中、授乳中の女性、閉経前または閉経後1年以内で妊娠検査が陽性の女性。
7)同意取得前4週間以内に他の未承認薬の投与を受けている。
8)その他、治験責任医師/治験分担医師が本治験への参加は不適当と判断している。
【0053】
進行性固形がん(原発性悪性骨腫瘍、転移性骨腫瘍、原発性悪性軟部腫瘍、転移性軟部腫瘍)を対象としたSurv.m-CRA-1の腫瘍局所単回投与による安全性/忍容性及び予備的な有効性検討のためのオープンラベル用量漸増第I相試験(Surv.m.CRA-1-001試験)を行った。低用量(1×1010viral particle, 以下「vp」)、中用量(1×1011vp)、高用量(1×1012vp)を上記適格性を満たす被験者それぞれ3名に投与した。
【0054】
投与対象となる腫瘍部位は、解剖学的な位置より下記の基準で1か所を選択した。原発巣か転移巣かは問わなかった。腫瘍部位が2か所以上ある場合、投与手技が容易であるなどの観点から投与対象を選択する。
1)腫瘍の大きさが大きく、投与手技が容易であること
2)大血管および胸腔に隣接しない部位であること
3)疼痛などの症状に関係すると推測される部位ではないこと
【0055】
被験者の登録時の画像評価所見により、腫瘍体積を算出した。腫瘍体積の算出には以下の式を用い、小数点第2位以下を切り捨てた。
<腫瘍体積算出>
腫瘍体積(cm)=短径(cm)×長径(cm)×高さ(cm)×1/2
【0056】
1つの病変に対する医薬の液量については、低用量群、中用量群、高用量群において腫瘍体積が33.3cmより大きければ医薬を10mLになるように希釈して投与する。低用量群、中用量群においては、腫瘍体積が3.4cm以下なら希釈せず投与し、3.5cm~33.3cm以下なら腫瘍体積の30%になるように希釈し投与した。高用量群においては、腫瘍体積が33.3cm以下であれば、医薬を全量、希釈せずに投与した。
【0057】
治療室内で、直視下、X線透視下、CTガイド下、または超音波ガイド下にて、1箇所の投与対象病変部位に対する投与液量を、針先の方向を変えながら同一腫瘍内にまんべんなく、計5~10か所程度に分割されるように投与した。
【0058】
(結果)
第I相試験の被験者の治療効果を表1に示す。このうち、低用量の仙骨脊索腫の患者(45歳、女性)は、仙骨脊索腫発症から6年後に肝臓及び肺に転移し、右臀部軟部組織が再発した事例である。化学療法剤や放射線治療による効果が見られず、再発腫瘍の切除も不能であった。本医薬は、このような再発事例(かつ化学療法剤や放射線治療不奏効事例)においても、単回投与のみで部分奏効(Partial Response: PR)を達成することができた。特に治療効果と安全性は、いずれも特筆するものであった。つまり、これまで報告された制限増殖型アデノウイルスの臨床試験は反復投与されたにも関わらず、このような低用量で治療効果がみられたことは報告されていない。さらに制限増殖型アデノウイルスの臨床試験で、投与後、2年以上に渡って治療効果がみられた例も報告されていない。治療経過を図1に表す。
【0059】
また、低用量の胸椎脊索腫患者(61歳、男性)は、右縦隔から胸椎脊索腫の切除手術を受けた後、11年後に隣接する椎体に4回目の再発が見られ、標準的治療による効果が認められなかった事例である。本医薬は、このような再発事例においても、PRを達成することができた。さらに特筆すべきことに、治療後4週には治療効果がみられ、さらに12週には、骨リモデリングの所見がみられたことである。骨リモデリングは、骨腫瘍が殺傷されて初めて誘導される治癒再生の現象であり、高い治療効果を臨床的に実証するものである。また、この症例では骨内にできた腫瘍であるため、たとえ腫瘍が細胞死に陥っていても、骨の再生があっても腫瘍の存在した場所を全て塞ぐことはないことから、腫瘍径を評価するRECISTでは腫瘍の縮小効果が全て評価できないため、本来はさらに劇的な治療効果が見られていることが推察される。さらに造影CTで評価するChoiでは、CT値の増加率を示しており、つまり再生治癒の骨モデリングが顕著に起こっている、非常に良好な結果が示された。よって、これらの結果を総合して考えると、この患者は実際には、完全奏効(Complete response)という強力な治療効果が得られた状態に近いと考えられる。さらに1例目にも記載したように、これまで報告された制限増殖型アデノウイルスの臨床試験は反復投与されたにも関わらず、このような低用量で治療効果がみられたことは報告されていないことから、今回の治験における上記優れた結果が単回投与で得られていることは極めて顕著な効果である。さらに制限増殖型アデノウイルスの臨床試験で、投与後、この症例のように135週(2年7ヶ月以上)に渡って治療効果がみられた例は、報告されていないため、劇的な治療効果といえる。治療経過を図2に表す。
【0060】
また表1に、臨床試験を行った全9例の患者での治療効果のまとめを示す。治療効果は、Choi基準ならびにRECIST基準による腫瘍縮小効果で判定した。PDは病態進行、SDは病態安定、PRは部分奏効である。安全性(有害事象と副作用)は、治験製品投与日から観察期間終了までに発現したすべての有害事象を対象に解析を行った。有害事象の評価には、有害事象共通用語規準(CTCAE)ver.4.0日本語訳日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)版(CTCAE ver.4.0)を使用した。
【0061】
単回投与の低用量群(最大量の1/100量;世界の競合技術では反復投与でも治療効果がみられていない量)で、腫瘍への長期・持続的な治療効果(2年以上、腫瘍縮小が進行し半減)を奏し、全用量群の9例中6例で奏効(PR以上)という革新的治療作用・効果が臨床試験で得られた。このような高い有効性は、これまで世界で行われた制限増殖型アデノウイルスの臨床試験でも未だ報告されていないため(表2に記載)、本剤が競合技術を大きく凌ぐ性能を持つことが実証された。
【0062】
【表1】
【0063】
本医薬を投与した際の安全性に用量依存的な傾向はなく、大きな問題は認められなかった。重篤な副作用としてGrade 4のリンパ球数減少1例が認められたものの、無症候性で回復した。リンパ球減少は、腫瘍溶解性ウイルスに一般化して見られるもので、一過性の組換えウイルス増幅において起こり得る事象であり、過去の制限増殖型アデノウイルスの臨床試験でも報告されている。これは従来の化学療法(抗癌剤)の骨髄抑制(非常に問題となる副作用)とは異なる機序であり、本医薬の作用機序である腫瘍内でのウイルス増殖・細胞破壊に伴って、リンパ球が腫瘍内やリンパ節へ一時的に動員されることにより末梢血中のリンパ球が減少したと推察され、骨髄抑制ではないので早期回復する。よってある意味、この医薬がしっかり機能しているという根拠となるものともいえる。また治験製品投与日から投与後28日以内までに死亡した被験者はいなかった。なお、中止に至った有害事象及びDLT(dose limiting toxicity)は認められなかった。臨床検査値及びバイタルサインでは、有害事象として報告された異常を除き、臨床的に問題となる変動は認められなかった。
【0064】
全体として、血中アデノウイルス、アデノウイルス排泄(唾液、尿)、抗アデノウイルス抗体価、サイトカイン、及び12誘導心電図について、いずれのコホートでも臨床上問題となる値又は変動は認められなかった。サイトカイン上昇は軽微であり、つまりウイルス感染に対する過剰な免疫反応が誘発されていない、安全性への傍証と考えられる。
【0065】
患者は軽度の一過性の発熱等のように、重篤な症状を訴えておらず、極めて高い安全性が実証された。以上より、Surv.m-CRA-1ではE3を保持しているにも関わらず、腫瘍細胞への強力な治療効果は保持する一方で、正常細胞への非特異的なウイルス増殖は抑制されており、E3を有しながら安全性の高いアデノウイルスの構築に成功していることを示した。
【0066】
投与後の体液中ウイルス定量を行った。結果を表2に示す。低用量では、1例で唾液中のウイルスが投与当日のみ(Day1のみ)陽性で、血液、尿中では陰性、他の症例は血液、唾液、尿中すべてで陰性であった。中用量では、血液中は2例で7日後(Day8)まで陽性、唾液中は1例が7日後(Day8)に陽性、もう一例は21日後(Day22まで陽性であったが、14日後以降(Day15以降)は20copy/μL以下と低濃度であった。高用量では、血液中は3例すべてで7日後(Day8)まで陽性、唾液中は、2例で7日後(Day8)まで陽性、尿中は3例すべてで陰性であった。治験製品投与後に一過性に陽性となった被験者が認められたものの、試験治療・評価期間(Day29)終了時までに陰性となった。
【0067】
【表2】
【0068】
また、有効性については、試験治療・評価期間(Day29)終了時に、低用量コホートで2例、中用量コホートで1例、高用量コホートで2例に局所奏効が認められ、そのうち、低用量コホートの2例(原発性悪性骨腫瘍である脊索腫)では、観察期間開始後の9ヵ月から2年時点(1例では観察期間の最大の2年7ヶ月時点)まで局所奏効を維持した。以上のことから、本製品は、忍容性に問題なく、非常に高い安全性を持ち、これまで報告された制限増殖型アデノウイルスを大きく凌ぐ治療効果(腫瘍縮小効果)が得られた。これまで報告された制限増殖型アデノウイルスとSurv.m-CRA-1の臨床試験の結果の比較を、以下の表3に示す。
【0069】
【表3】
【0070】
上述のSurv.m-CRA-1第I相試験のコホート3(高用量)では1×1012vpの治験製品が投与され、その安全性が確認された。治験製品投与後の体液中のウイルス検出はほとんどの症例で7日後までであり、コホート2(中用量:1×1011vpの1例のみで最長21日後まで唾液中のウイルスを認めた。一方、体液中にウイルスが検出されている期間にも上気道炎などの症状を示した症例は認めなかった。以上より、治験製品投与後4週後には投与したウイルスは体液中から消失し、再投与によるリスクは初回投与と同等またはそれに近いレベルにあることが示された。これにより、Surv.m-CRA-1による治療は4週ごとに投与を繰り返すデザインが適していることが示された。また、投与回数を5回とすることにより総投与量(1×1011vp×5回=5×1011vp)がSurv.m-CRA-1第I相試験コホート3(高用量の投与量1×1012vp)を上回ることがなく、かつ治療効果を見込める用量として1×1011vpを1回投与量とできることが示された。
【0071】
骨腫瘍の腫瘍径が大きいと病的骨折のリスクが高くなる(Mirel’s score:腫瘍径で病的骨折のリスクを評価)ことが知られ、手術適応の判断に用いられている。種々のがんで、原発巣と転移巣(リンパ節転移など)を合計した容積(Total Tumor Volume)と予後が逆相関することが報告されており、骨肉腫でも多発肺転移のtotal volumeが予後不良因子であることが報告されている。腫瘍径の大きな腫瘍から治療対象とすることは患者のtotal tumor volumeを減らすことが期待される。よって、腫瘍径の大きな病変から投与可能性を検討し、投与対照病変を選択することが考えられた。投与対照病変の数が多くなると病変ごとの投与量が減少すること、患者の負担が増えることを考慮して最大3か所までを投与対照病変とすることが考えられた。また、1か所目の腫瘍の体積が30cm以上に大きい場合、2か所以上に分割すると腫瘍当たりの投与量が少なくなる(Surv.m-CRA-1第I相試験では腫瘍体積の30%を目安に投与)ため、1か所のみの投与とすることとした。
【0072】
本治験において、腫瘍内への治験製品投与が可能な病変とは、以下のすべてに該当する病変とする。
主たる部位が骨または軟部組織(骨腫瘍の転移病変)である
体表から腫瘍内への注射が可能である
リンパ節病変ではない
腫瘍の最小径が10mm以上である
腫瘍の全体が嚢胞性病変ではない
1つの病変に対する医薬の液量については、投与対象の腫瘍体積を算出し、以下の基準に従い、投与液量を決定する。希釈が必要な場合は、投与液量に合わせて生理食塩水で希釈して投与する。
【0073】
腫瘍体積と投与液量(希釈後)
腫瘍体積(cm) 投与液量(mL)
5未満 1
5以上9未満 2
9以上15未満 3
15以上21未満 5
21以上30未満 7
30以上 10
【0074】
投与可能病変が複数ある場合、腫瘍体積の合計を用いて、投与液量を上記基準により算出する。各投与回において最大3か所の腫瘍に投与可能とする。複数の腫瘍に投与する場合は、腫瘍体積に応じて分割するが、総投与量は1×1011vpとする。ただし、一つの腫瘍体積が30cm以上の場合は、1か所のみの投与とし、次の腫瘍へは投与しない。投与可能病変が複数ある場合の投与対象病変の選択は、以下の基準により、治験責任医師または治験分担医師が判断する。
腫瘍径が大きい
体表からアプローチが可能であること
近傍に重要な神経や血管などがなく安全に投与できること
【0075】
被験者の登録時の画像評価所見により、腫瘍体積を算出する。腫瘍体積の算出には以下の式を用い、小数点第2位以下を切り捨てる。
<腫瘍体積算出>
腫瘍体積(cm)=短径(cm)×長径(cm)×高さ(cm)×1/2
【実施例2】
【0076】
Surv.m-CRA-1は、m-CRA作製技術(特許文献2、非特許文献7)を基盤として、それを改良した新しい方法で、以下のように作製した。また、Surv.m-CRA-1の構造については、これまでに報告をしていない。まず増殖制御用ユニットを含むベクタープラスミド(P1プラスミド:Replication-controllable plasmid)に、マウスサバイビンプロモーター(-173~-19)をE1Aの上流に挿入し、E1BΔ55Kの上流にCMVプロモーターを挿入したpSurv.E1A-CMV.19Kプラスミドを、特許文献2に記載の方法で作製した。次に、pSurv.E1A-CMV.19Kプラスミドを、制限酵素I-Ceul、次いで制限酵素PI-Seelで消化し、上流よりサバイビンプロモーター/E1A/CMVプロモーター/E1BΔ55Kを持つDNA配列を単離精製した。一方、E1領域を含むヒトアデノウイルス5型の342-3523bpを欠失させ、その部位にP1プラミドの遺伝子をサブクローニングさせるためにI-Ceul、PI-Seel認識配列を付与し、一方でE3領域は保持しているアデノウイルスゲノムプラスミドのpAd.HM3(Dr.Mark A.Kay,Stanford Universityから供与)を、制限酵素I-Ceul、次いで制限酵素PI-Seelで消化し、それぞれのステップでフェノール・クロロホルム精製後エタノール沈殿した。前述のサバイビンプロモーター/E1A/CMVプロモーター/E1BΔ55KのDNAを、このI-Ceul/PI-Seel処理されたpAd.HM3に、T4DNAリガーゼを用いて挿入し、制限増殖型アデノウィルスベクタープラスミドのpAd.HM4-Surv.E1A-CMV.19Kが得られた。このプラスミドpAd.HM4-Surv.E1A-CMV.19Kを、293細胞にトランスフェクションし、出現したウイルスプラークを抽出、増幅、精製することで、「サバイビンプロモーターでE1A遺伝子が発現制御され、さらにCMVプロモーターでE1BΔ55Kが発現制御され、E3領域を保持する多因子制限増殖型アデノウイルス」であるSurv.m-CRA-1が得られた。
【実施例3】
【0077】
Surv.m-CRA-1を、悪性腫瘍細胞である肝癌細胞株のHepG2と、正常細胞の線維芽細胞のWI-38にそれぞれの多重感染度(Multiplicity of Infection:MOI)でin vitroで感染させ、感染3日後と5日後に、WST-8(Nacalai Tesque社、カタログ番号07553-44)で、細胞生存率(cell viability)を評価した。特性の比較のために、E3領域を欠損させた「サバイビンプロモーターでE1A遺伝子が発現制御され、さらにCMVプロモーターでE1BΔ55Kが発現制御され、E3領域を欠損した多因子制限増殖型アデノウイルス」Surv.m-CRA(E3なし)と、「ウイルス増殖による殺傷」を評価するコントロールとなる非増殖型アデノウイルスのAd.dE1.3を、同様の条件で実験に使用して、比較実験を行った。また制限増殖型アデノウイルスは悪性腫瘍においては急速なウイルス増殖とそれによる細胞殺傷効果が起こるため、悪性腫瘍のHepG2ではMOIは0.3、1、3としたのに対し、正常細胞のWI-38ではいずれのグループでもウイルス増殖による細胞障害の程度が低くなるため、そのグループ間での違いを明瞭にみるために、HepG2に比べて3倍ずつ量が多くなるようにMOIは、1、3、10という条件とした。
【0078】
各MOIならびに各Day(感染後日)毎において3グループを比較した結果を図3に示す。それぞれの条件においてコントロールのAd.dE1.3の生細胞数を100%として、これに対するその同一条件(各MOIならびに各Day)のSurv.m-CRA-1(E3あり)とSurv.m-CRA(E3なし)の生細胞数を比較した%で表している。よって図3のグラフの縦軸はあくまで「同一条件(各MOIならびに各Day)における3グループの比較」であり、異なるMOI間の比較、あるいは異なるDay間の比較をグラフの縦軸の%でするものではない。またいずれのグループにおいても、N=5であり、その平均と標準誤差を図3に表した。同一条件(各MOIならびに各Day)での2群間の統計学的有意差の計算はStudent t-testで行い、P<0.05を有意差有りとし、コントロールのAd.dE1.3との比較で有意差があった場合は、Surv.m-CRA―1(E3あり)とSurv.m-CRA(E3なし)のそれぞれの棒グラフの上に*をつけて示した。
【0079】
悪性腫瘍細胞株のHepG2では、この実験条件においてはMOI 1以上でウイルス増殖による殺傷効果が認められた。MOI 1ではSurv.m-CRA(E3なし)でのみ、有意なウイルス増殖による殺傷効果が認められたが、MOI 3ではSurv.m-CRA(E3なし)とSurv.m-CRA-1(E3あり)の両方でいずれにおいても、有意なウイルス増殖による殺傷効果が認められた。つまり最終的には同等の治療効果が得られることを示している。一方、正常細胞のWI-38においては、Day3、Day5のいずれのMOIにおいても、Surv.m-CRA-1(E3あり)では細胞障害がみられなかったのに対して、Surv.m-CRA(E3なし)ではDay3、Day5の両方でMOI 10においてのみ、有意な細胞障害がみられた。つまりSurv.m-CRA(E3なし)においても、腫瘍細胞のHepG2では著明な細胞死が誘導されているMOI 3においては有意な細胞死は正常細胞のWI-38には起こっていないので、この2種類のサバイビン反応性多因子制限増殖型アデノウイルスはいずれも腫瘍特異的な細胞障害効果がみられるという優れた確かな癌治療薬としての性能を持っているものであるが、Surv.m-CRA-1(E3あり)の方が腫瘍特異性(安全性)にさらに優れているものである。
【0080】
in vivoのヒト患者での臨床的意義のある長期間(数十日、月、年単位)の治療効果を完全に正確に評価ならびに反映できるin vitroの実験系や、その詳細な違いまで正確に評価できる動物モデルは存在しないが、本発明での実行可能なin vitroの実験系で、以下の科学的な結論が得られたといえる。つまりサバイビンプロモーターでウイルス増殖が制御される制限増殖型アデノウイルスは、十分な腫瘍細胞死と腫瘍特異性(安全性)を示すが、正常細胞をさらに障害しなくなるという点で、Surv.m-CRA-1(E3あり)にはさらに高い安全性が賦与される(in vitroの実験系では正常細胞の障害がみられないレベルまで)ことから、Surv.m-CRA-1(E3あり)はさらに優れた制限増殖型アデノウイルスである。また腫瘍への治療効果という点では、E3ありのSurv.m-CRA-1の方がE3なしのSurv.m-CRAよりもin vitroの実験のある条件では細胞障害性が低いことは見られても(この発見は従来の定説とは完全に逆であることも重要だが)、しかし実際の臨床で治療薬として使用する場合のように、適切な量で、また患者に恩恵がでる臨床上の治療効果となる長期(つまりin vitroのような数時間や数日単位でない)の場合においては、Surv.m-CRA-1(E3あり)は(E3なしと遜色ない)十分に強力な治療効果をもたらすものである。このことは、前述の実施例1で示された、骨軟部悪性腫瘍のヒト患者の臨床試験での強力な(従来の制限増殖型アデノウイルスを凌ぐ)治療効果と、極めて高い安全性(重篤な副作用がみられない)と合致している。つまり本発明実施例2で初めて科学的な観点から見出した従来技術を凌ぐ本技術が、本発明実施例1でヒト臨床試験でも同時に初めて実証されたといえる。よって本発明のSurv.m-CRA-1は、従来の制限増殖型アデノウイルスを、治療効果と安全性の両面の性能において大きく凌ぐ、単独で癌治療薬となる可能性を持った初めての制限増殖型アデノウイルスである。
【実施例4】
【0081】
反復投与試験
[症例1]
仙骨再発脊索腫(60歳、男性)に対する、Surv.m-CRA-1による治療経過を示す。患者は、2014年に仙骨脊索腫を発症し、粒子線治療を開始した。2019年に左腎に転移により腎摘出。2020年12月に仙骨脊索腫の増大を認め、2021年5月にSurv.m-CRA-1の投与を開始した。患者は、実施例1の選択基準を満たし、除外基準に該当しない。腫瘍体積は315cm(30cm以上)であったため、1×1011vpのSurv.m-CRA-1を9か所に分けて、4週ごとに全5回(合計5×1
【0082】
表4に、投与部位(仙骨)における、投与前から投与から32週後までのRECIST基準の奏効性判定とChoi基準の奏効性判定、および非投与部位(右腸骨翼)における、投与前から投与から32週後までのRECIST基準の奏効性判定を示す。
【0083】
【表4】
【0084】
表4に示すとおり、非投与部位では腫瘍が増大したのに対し、投与部位では病変が抑制され、腫瘍体積は減少した。かなり大きな腫瘍であったが、投与開始後8カ月(32週)時点でSDの効果を認めた。投与期間中、有害事象は認められなかった。
【0085】
[症例2]
仙骨再発脊索腫(73歳、男性)に対する、Surv.m-CRA-1による治療経過を示す。患者は、2016年に仙骨脊索腫を発症し、S3レベルで腫瘍切除した。2018年に重粒子線治療(2回)を実施。2020年10月に右腓腹筋転移切除し、2021年化学療法(ADR)3コース施行した。2021年左大腿骨転子部病的骨折、2021年10月に会陰部、仙骨部皮下の腫瘍増大(仙骨再発脊索腫)を認め、2021年11月にSurv.m-CRA-1の投与を開始した。患者は、実施例1の選択基準を満たし、除外基準に該当しない。
腫瘍体積は、会陰部が22.8cm、仙骨部皮下が14.95cmであった。1~3回目までは、5×1011vpのSurv.m-CRA-1を下記のように分割して投与した。3回投与後に縮小した腫瘍体積に応じてSurv.m-CRA-1の投与量を3.5×1011vp(7ml)に調整し、4,5回目を投与した。投与は4週間毎に行った。
1-3回 4,5回
会陰部: 7ml 4か所 5ml 3か所
仙骨部皮下: 3ml 2か所 2ml 1か所 注入
【0086】
表5に、投与部位(会陰部、仙骨部皮下)における、投与前から投与後140日までのRECIST基準の奏効性判定とChoi基準の奏効性判定、および非投与部位(直腸左、直腸右、左殿筋内、右腸骨)における、投与前から投与後84日までのRECIST基準の奏効性判定を示す。
【0087】
【表5】
【0088】
表5に示すとおり、非投与部位では腫瘍が増大したのに対し、投与部位では病変が抑制され、長径(RECIST)ではSDの効果、Choi基準(造影効果)ではPRの効果を認め、腫瘍体積では明らかな縮小を認めた。投与期間中、リンパ球減少(750/μl)以外に、有害事象は認められなかった。
【0089】
以上のとおり、反復投与においてもSurv.m-CRA-1の安全性と有効性が実証された。症例2で実施されたように、腫瘍体積の変動に応じて投与液量を調整することで、より安全で効果的な治療が可能になる。
図1
図2
図3