(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-09
(45)【発行日】2024-08-20
(54)【発明の名称】光学用途紫外線活性型液状シリコーン組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 83/07 20060101AFI20240813BHJP
C08L 83/05 20060101ALI20240813BHJP
C09J 183/07 20060101ALI20240813BHJP
C09J 183/05 20060101ALI20240813BHJP
C09K 3/10 20060101ALI20240813BHJP
H01L 33/56 20100101ALI20240813BHJP
【FI】
C08L83/07
C08L83/05
C09J183/07
C09J183/05
C09K3/10 G
H01L33/56
(21)【出願番号】P 2023536745
(86)(22)【出願日】2022-07-19
(86)【国際出願番号】 JP2022027972
(87)【国際公開番号】W WO2023002966
(87)【国際公開日】2023-01-26
【審査請求日】2023-12-13
(31)【優先権主張番号】P 2021118634
(32)【優先日】2021-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】508229301
【氏名又は名称】モメンティブ パフォーマンス マテリアルズ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Momentive Performance Materials Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】大竹 達也
【審査官】佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-089913(JP,A)
【文献】国際公開第2020/100936(WO,A1)
【文献】特開2019-014800(JP,A)
【文献】特開2019-210351(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 83/00-83/16
C09J 183/00-183/16
C09K 3/10
H01L 33/48-33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)1分子中に少なくとも2個のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサン;
(B)下記式で表され、1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも3個有する、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン;
(H
(3-a)R
1
aSiO
1/2)
b(R
1
3SiO
1/2)
2-b(HR
1SiO
2/2)
c(R
1
2SiO
2/2)
d
(式中、R
1はそれぞれ独立して、脂肪族不飽和結合を有しない、非置換又は置換の1価炭化水素基を表し、aは1又は2であり、bは0、1又は2であり、cは1以上の数であり、dは0以上の数である)
(C)
ケイ素原子に結合した水素原子と、ケイ素原子に結合した下記式(4):
【化1】
(上記各式中、Q
1
は、ケイ素原子とエステル結合の間に2個以上の炭素原子を有する炭素鎖を形成する、直鎖状又は分岐状のアルキレン基を表し;Q
2
は、酸素原子と当該構造のケイ素原子の間に3個以上の炭素原子を有する炭素鎖を形成する、直鎖状又は分岐状のアルキレン基を表し;R
3
は、炭素数1~4のアルキル基又は2-メトキシエチル基を表す)で示される構造とを有するシロキサン化合物(但し、(A)又は(B)に該当するものを除く);
(D)環状ジエン骨格を配位子として有する紫外線活性型ヒドロシリル化白金触媒;
を含有してなり、前記(A)成分中のアルケニル基1当量に対し、前記(B)成分及び(C)成分に含まれるケイ素原子に結合した水素原子の合計が、0.1~2.0当量であり、かつ組成物全体におけるケイ素原子に結合した水素原子の数に対する、(C)成分由来のケイ素原子に結合した水素原子の数の比が0.2以上である、紫外線硬化型シリコーン組成物。
【請求項2】
前記(A)成分が、直鎖状オルガノポリシロキサンである、請求項1記載の紫外線硬化型シリコーン組成物。
【請求項3】
前記(D)成分が、トリメチル(メチルシクロペンタジエニル)白金である、請求項1記載の紫外線硬化型シリコーン組成物。
【請求項4】
前記(C)成分が、環状オルガノハイドロジェンポリシロキサンとアクリル基又はメタクリル基を有するシラン化合物との反応生成物である、請求項1記載の紫外線硬化型シリコーン組成物。
【請求項5】
硬化後の針入度が10以上である、請求項1記載の紫外線硬化型シリコーン組成物。
【請求項6】
紫外線照射後23℃の条件で、貯蔵弾性率G’と損失弾性率G”が等しくなるまでの時間が30分以内である、請求項1記載の紫外線硬化型シリコーン組成物。
【請求項7】
遮光下80℃で1週間経過後の粘度が50Pa・s以下である、請求項1記載の紫外線硬化型シリコーン組成物。
【請求項8】
前記(A)及び(B)がともにフェニル基を有し、硬化物としたときの屈折率が1.56以下である、請求項1記載の紫外線硬化型シリコーン組成物。
【請求項9】
画像表示装置の接着又は封止用の、請求項1~8のいずれか一項記載の紫外線硬化型シリコーン組成物。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか1項に記載された紫外線硬化型シリコーン組成物を用いて貼合された画像表示装置。
【請求項11】
請求項1~8のいずれか1項に記載された紫外線硬化型シリコーン組成物を用いて封止された、LED素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に光学用途の紫外線活性型シリコーン組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶、プラズマ、有機EL等のフラットパネル型の画像表示装置が着目されている。フラットパネル型の画像表示装置は、通常、少なくとも一方がガラス等の光透過性をもつ一対の基板の間に、アクティブ素子を構成する半導体層や蛍光体層、あるいは発光層からなる多数の画素をマトリクス状に配置した表示領域(画像表示部)を有する。一般に、この表示領域(画像表示部)と、ガラスやアクリル樹脂のような光学用プラスチックで形成される保護部との周囲は、接着剤で機密に封止されている。
【0003】
このような画像表示装置においては、屋外光や室内照明の反射等による可視性(視認性)の低下を防ぐため、保護部と画像表示部との間に、紫外線硬化型樹脂組成物を介在させた薄型の画像表示装置が製造され、ここで使用される紫外線硬化型樹脂組成物として、紫外線硬化型アクリル樹脂や紫外線硬化型シリコーン樹脂組成物が使用されている(特許文献1及び2)。
【0004】
また、接着剤で機密に封止されている必要がある装置の一つに、LED素子がある。有機発光素子(OLED、Organic Light Emitting Diode)のような有機電子素子は、水分及び酸素に極めて脆弱であり、大気中に曝された時又は外部から水分が流入した時に発光効率及び寿命が顕著に減少するというデメリットを有している。そのため、有機電子素子の寿命を向上させ、外部から流入される酸素と水分などを効果的に遮断できる封止材として、紫外線硬化型シリコーン樹脂組成物が使用されている(特許文献3)。
【0005】
紫外線硬化型シリコーン樹脂組成物は、白金触媒でのヒドロシリル化反応を利用することができ、紫外線の届かない部分を十分に硬化させる手段が必要となる場合があるものの、比較的温和な条件で硬化可能な組成物として利用されている(特許文献4~8)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-282000号公報
【文献】特開平7-134538号公報
【文献】特表2020-504202号公報
【文献】特開2019-218495号公報
【文献】特開2019-210351号公報
【文献】特開2003-213132号公報
【文献】特開2014-169412号公報
【文献】特開2013-87199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
オプティカルボンディングやLEDの封止剤には液状シリコーンが使用されており、作業性の向上のため紫外線硬化型シリコーンも使用されることがある。しかしながら、これまでの紫外線硬化型シリコーンは、紫外線活性型でありながら混合するだけで増粘することがあるか、又は増粘はしないが紫外線照射後の硬化速度が非常に低いものであった。さらに近年のオプティカルボンディングではプラスチックスへの接着性が要求されるが、この点についても満足できるものはなかった。紫外線硬化型のシリコーンについては上記先行技術文献のような例があるが、作業性、硬化性、密着性、信頼性など要求される特性全てに優れた液状シリコーンはまだ存在しておらず、この点で需要が存在する。
【0008】
本発明は、接着剤として求められる各種特性、例えばポットライフ、硬化性、密着性、信頼性に優れたシリコーン組成物による接着剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが検討したところによると、付加硬化型の接着剤におけるこれらの問題を解決するため、ビニルポリマー、架橋剤及び接着性付与剤に適切なものを見出した。具体的には、両末端にビニル基を持つポリマー、側鎖にSi-H結合を持つ架橋剤、さらに特定の構造を有するシランを特定量添加することが効果的であることを見出した。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、ポットライフ、接着性、硬化性、信頼性に優れたシリコーン化合物による接着剤が提供される。すなわち、本発明は以下の[1]~[11]に関する。
[1](A)1分子中に少なくとも2個のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサン;
(B)下記式で表され、1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも3個有する、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン;
(H(3-a)R1
aSiO1/2)b(R1
3SiO1/2)2-b(HR1SiO2/2)c(R1
2SiO2/2)d
(式中、R1はそれぞれ独立して、脂肪族不飽和結合を有しない、非置換又は置換の1価炭化水素基を表し、aは1又は2であり、bは0、1又は2であり、cは1以上の数であり、dは0以上の数である)
(C)1分子中に、ケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも2個有し、かつ、ヘテロ原子を含む構造を介してシロキサン骨格に結合している加水分解反応可能な基を1つ有する、シロキサン化合物(但し、(A)又は(B)に該当するものを除く);
(D)環状ジエン骨格を配位子として有する紫外線活性型ヒドロシリル化白金触媒;
を含有してなり、前記(A)成分中のアルケニル基1当量に対し、前記(B)成分及び(C)成分に含まれるケイ素原子に結合した水素原子の合計が、0.1~2.0当量であり、かつ組成物全体におけるケイ素原子に結合した水素原子の数に対する、(C)成分由来のケイ素原子に結合した水素原子の数の比が0.2以上である、紫外線硬化型シリコーン組成物。
[2]前記(A)成分が、直鎖状オルガノポリシロキサンである、前記[1]の紫外線硬化型シリコーン組成物。
[3]前記(D)成分が、トリメチル(メチルシクロペンタジエニル)白金である、前記[1]又は[2]記載の紫外線硬化型シリコーン組成物。
[4]前記(C)成分が、環状オルガノハイドロジェンポリシロキサンとアクリル基又はメタクリル基を有するシラン化合物との反応生成物である、前記[1]~[3]のいずれか記載の紫外線硬化型シリコーン組成物。
[5]硬化後の針入度が10以上である、前記[1]~[4]のいずれか記載の紫外線硬化型シリコーン組成物。
[6]紫外線照射後23℃の条件で、貯蔵弾性率G’と損失弾性率G”が等しくなるまでの時間が30分以内である、前記[1]~[5]のいずれか記載の紫外線硬化型シリコーン組成物。
[7]遮光下80℃で1週間経過後の粘度が50Pa・s以下である、前記[1]~[6]のいずれか記載の紫外線硬化型シリコーン組成物。
[8]前記(A)及び(B)がともにフェニル基を有し、硬化物としたときの屈折率が1.56以下である、前記[1]~[7]のいずれか記載の紫外線硬化型シリコーン組成物。
[9]画像表示装置の接着又は封止用の、前記[1]~[8]のいずれか記載の紫外線硬化型シリコーン組成物。
[10]前記[1]~[8]のいずれか記載の紫外線硬化型シリコーン組成物を用いて貼合された画像表示装置。
[11]前記[1]~[8]のいずれか記載の紫外線硬化型シリコーン組成物を用いて封止された、LED素子。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、(A)1分子中に少なくとも2個のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサン;
(B)下記式で表され、1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも3個有する、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン;
(H(3-a)R1
aSiO1/2)b(R1
3SiO1/2)2-b(HR1SiO2/2)c(R1
2SiO2/2)d
(式中、R1はそれぞれ独立して非置換又は置換の1価炭化水素基を表し、aは1又は2であり、bは0、1又は2であり、cは1以上の数であり、dは0以上の数である)
(C)1分子中に、ケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも2個有し、かつ、ヘテロ原子を含む構造を介してシロキサン骨格に結合している加水分解反応可能な基を1つ有する、シロキサン化合物(但し、(A)又は(B)に該当するものを除く);
(D)環状ジエン骨格を配位子として有する紫外線活性型ヒドロシリル化白金触媒;
を含有してなり、前記(A)成分中のアルケニル基1当量に対し、前記(B)成分及び(C)成分に含まれるケイ素原子に結合した水素原子の合計が、0.1~2.0当量であり、かつ組成物全体におけるケイ素原子に結合した水素原子の数に対する、(C)成分由来のケイ素原子に結合した水素原子の数の比が0.2以上である、紫外線硬化型シリコーン組成物に関する。以下、本発明の組成物について、項目毎に詳細に説明する。なお、本明細書において、数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0012】
本明細書において用いられる場合、「有機基」とは、炭素を含有する基を意味する。有機基の価数はnを任意の自然数として「n価の」と記載することにより示される。したがって、例えば「1価の有機基」とは、結合手を1つのみ有する、炭素を含有する基を意味する。結合手は、炭素以外の元素が有していてもよい。価数を特に明示しない場合でも、当業者であれば文脈から適した価数を把握することができる。
【0013】
本明細書において用いられる場合、「炭化水素基」とは、炭素及び水素を含む基であって、分子から少なくとも1個の水素原子を脱離させた基を意味する。かかる炭化水素基としては、特に限定されるものではないが、1つ又はそれ以上の置換基により置換されていてもよい、炭素原子数1~20の炭化水素基、例えば、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基等が挙げられる。上記「脂肪族炭化水素基」は、直鎖状、分岐鎖状又は環状のいずれであってもよく、飽和又は不飽和のいずれであってもよい。また、炭化水素基は、1つ又はそれ以上の環構造を含んでいてもよい。尚、かかる炭化水素基は、その末端又は分子鎖中に、1つ又はそれ以上の窒素原子(N)、酸素原子(O)、硫黄原子(S)、ケイ素原子(Si)、アミド結合、スルホニル結合、シロキサン結合、カルボニル基、カルボニルオキシ基等の、ヘテロ原子又はヘテロ原子を含む構造を有していてもよい。
【0014】
本明細書において用いられる場合、「炭化水素基」の置換基としては、特に限定されないが、例えば、ハロゲン原子;1個又はそれ以上のハロゲン原子により置換されていてもよい、C1-6アルキル基、C2-6アルケニル基、C2-6アルキニル基、C3-10シクロアルキル基、C3-10不飽和シクロアルキル基、5~10員のヘテロシクリル基、5~10員の不飽和ヘテロシクリル基、C6-10アリール基及び5~10員のヘテロアリール基から選択される基が挙げられる。
【0015】
本明細書において、アルキル基及びフェニル基は、特記しない限り、非置換であっても、置換されていてもよい。かかる基の置換基としては、特に限定されないが、例えば、ハロゲン原子、C1-6アルキル基、C2-6アルケニル基及びC2-6アルキニル基から選択される1個又はそれ以上の基が挙げられる。
【0016】
・成分(A)
本発明の硬化性ポリオルガノシロキサン組成物は、成分(A)として、1分子中に少なくとも2個のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサンを少なくとも1種含む。成分(A)は、硬化性ポリオルガノシロキサン組成物のベースポリマーとして機能する。アルケニル基は、ポリオルガノシロキサン分子の任意の位置に存在することができる。例えば分子末端にアルケニル基を有していてもよく、末端以外の部位に側鎖として存在していてもよい。アルケニル基は、直鎖状のポリオルガノシロキサンの場合、好ましくは成分(A)の分子主鎖の両末端に少なくとも1つずつ存在する。またここで、本明細書において、成分(A)の分子主鎖とは、成分(A)の分子中で相対的に最も長い結合鎖を表す。
【0017】
アルケニル基は、炭素-炭素二重結合を有しており付加反応が可能な基であれば特に制限はされない。アルケニル基の炭素数は、2~20であることが好ましく、2~8であることが好ましく、2~6であることがより好ましい。アルケニル基は分岐構造や環構造を有していてもよい。アルケニル基を構成する炭化水素における炭素-炭素二重結合の位置は、任意の位置を採ることができる。反応性の点から、炭素-炭素二重結合は基の末端にあることが好ましい。アルケニル基の好ましい例としては、ポリオルガノシロキサンの合成が容易であることから、ビニル基が挙げられる。
【0018】
成分(A)の分子骨格は、シロキサン結合が主骨格であるものであれば、特に制限されない。分子骨格のシロキサンは、直鎖状、分岐鎖状、環状、これらの組合せのいずれであってもよく、3次元的な広がりをもって分子骨格を形成していてもよい。また、シロキサン骨格は、2価の有機基により中断されていてもよい。ここで、本明細書においてシロキサン化合物の構造を説明するにおいては、シロキサン化合物の構造単位を以下のような略号によって記載することがある。以下、これらの構造単位をそれぞれ「M単位」「D単位」等ということがある。
M:-Si(CH3)3O1/2
MH:-SiH(CH3)2O1/2
MVi:-Si(CH=CH2)(CH3)2O1/2
D:Si(CH3)2O2/2
DH:SiH(CH3)O2/2
T:Si(CH3)O3/2
Q:SiO4/2
以下、本明細書において、シロキサン化合物は、上記の構造単位を組み合わせて構築されるものであるが、上記構造単位のメチル基がフッ素のようなハロゲン、フェニル基のような炭化水素基等、他の基に置き換わったものを少なくとも部分的に含んでいてもよい。また、例えばDH
20D20と記した場合には、DH単位が20個続いた後D単位が20個続くことを意図するものではなく、各々の単位は任意に配列していてもよいことが理解される。シロキサン化合物は、T単位又はQ単位により、3次元的に様々な構造を取ることができるが、成分(A)は、上記M、MVi、D単位を任意に組み合わせることでなる直鎖状の分子骨格をとることができる。
【0019】
本発明の一態様において、成分(A)としては、ケイ素原子に結合したアルケニル基を一分子中に平均で2個以上有し、後述する成分(B)のヒドロシリル基(Si-H基)との付加反応により、網状構造を形成することができるものであれば、特に限定されない。成分(A)は、代表的には、一般式(1):
(R1)m(R2)nSiO(4-m-n)/2 (1)
(式中、
R1は、脂肪族不飽和結合を有しない、非置換又は置換の1価の炭化水素基であり;
R2は、アルケニル基であり;
mは、0~2の整数であり;
nは、1~3の整数であり、但し、m+nは1~3である)
で示されるアルケニル基含有シロキサン単位を、分子中に、少なくとも2個有する。
【0020】
成分(A)の具体的な例の一つとしては、下記式(2):
(Ra)3-pRpSi-O-(Si(R)r(Ra)2-rO)n-SiRq(Ra)3-q・・・(2)
(式中、
Raは、それぞれ独立して、アルケニル基であり、
Rは、それぞれ独立して、1価の有機基であり、
p及びqは、各々独立して、0、1又は2であり、
rは、それぞれ独立して、0、1又は2であり、
nは、23℃における粘度を0.1~500Pa・sとする数である)
で表される直鎖状ポリオルガノシロキサンが例示される。Rとしては、炭化水素基、特にアルキル基、アルケニル基、アリール基を有するものが好ましい。屈折率等の物性を制御する観点から、Rの少なくとも一部がフェニル基等のアリール基であってもよい。Rが全てメチルであるようなポリオルガノシロキサンが、入手の容易性から好ましく用いられるが、屈折率の調整の点からは、Rのうち、1~40モル%がC6~C12アリール基であることが好ましく、粘性及びチキソトロピー性の点からは、Rのうち、1~20モル%がC6~C12アリール基であることが好ましい。硬化性官能基(アルケニル基)の位置に関しては、上記式(2)においてrが2であるポリオルガノシロキサン、すなわち、分子の両末端のみに硬化性官能基が少なくとも1つずつ存在する直鎖状ポリオルガノシロキサンが好ましい。以下、「硬化性官能基」とは樹脂の硬化反応に寄与しうる官能基をいい、特にアルケニル基が例示される。
【0021】
アルケニル基を有するポリオルガノシロキサンとしては、前記式(2)において、p及びqが2であり、rが2であること、すなわち、分子末端のみに1つずつ、計2つの付加反応可能な基、特にビニル基を有するものが好ましい。このような成分(a)として利用可能なポリオルガノシロキサンは、市販されているものを利用することができる。また、公知の反応により硬化性官能基を導入したポリオルガノシロキサンを用いてもよい。成分(A)としては、置換基の位置又は種類、重合度などにより区分して、1種類の化合物のみを用いてもよいし、2種類以上の化合物を混合して用いてもよい。成分(A)はポリオルガノシロキサンであるので、種々の重合度を有するポリオルガノシロキサンの混合物であってもよい。
【0022】
成分(A)の配合量は、硬化性ポリオルガノシロキサン組成物が取り扱い可能な粘度の範囲になる量であれば、特に制限されない。成分(A)の量を基準として、以下個別に示す好ましい範囲内で、他の成分の配合量を適宜設定することができる。
【0023】
・成分(B)
本発明の組成物は、架橋剤として、前記成分(A)が有する硬化性官能基との反応性を有する化合物を含む(以下、単に「成分(B)」ということがある)。架橋剤を含むことにより、硬化性組成物から得られる硬化物の物性、例えば引張強度や弾性率が良好になる。成分(B)としては、下記式(3)で表され、架橋基として1分子中にケイ素原子に結合した水素原子(Si-H結合)を少なくとも3個有する、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサンが用いられる。
(H(3-a)R1
aSiO1/2)b(R1
3SiO1/2)2-b(HR1SiO2/2)c(R1
2SiO2/2)d・・・(3)
(式中、R1はそれぞれ独立して脂肪族不飽和結合を有しない、非置換又は置換の1価炭化水素基を表し、aは1又は2であり、bは0、1又は2であり、cは1以上の数であり、dは0以上の数である)
成分(B)が1分子あたりに有する架橋基としてのSi-H結合の数は側鎖に少なくとも1つを含む3つ以上であり、このため架橋反応により網目状構造をもたらすことができる。成分(B)は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を同時に用いてもよい。
【0024】
R1はそれぞれ独立して脂肪族不飽和結合を有しない、非置換又は置換の1価炭化水素基を表す。R1としては、炭化水素基、例えばアルキル基又はアリール基、特にメチル基又はフェニル基を有するものが好ましい。屈折率等の物性を制御する観点から、Rの少なくとも一部がフェニル基等のアリール基であってもよい。
【0025】
ハイドロジェンポリオルガノシロキサンにおけるシロキサン骨格は、主要な部分が直鎖状の骨格である。ハイドロジェンポリオルガノシロキサンの主鎖は、直鎖状の骨格であるが、置換基として分岐した構造を有するような骨格であってもよい。また、1分子に含まれるケイ素原子に結合した水素基(すなわち、Si-H結合と等価である)の数は3個以上であるが、1分子当たりの平均で5個以上であることがより好ましく、8個以上であることがさらにより好ましい。ハイドロジェンポリオルガノシロキサンにおけるその他の条件、水素基以外の有機基、結合位置、重合度、構造等については特に限定されないが、上記式において、c+d+2の値を重合度として表すと、重合度が5~200、特に10~120の範囲であると、得られる組成物の取扱い性がより向上する傾向にあることから好ましい。用いることができるハイドロジェンポリオルガノシロキサンの具体例は、Si-H結合を有する単位(MH又はDH単位)を8個以上含み、重合度が10~120の範囲である、直鎖状の骨格を有するハイドロジェンポリオルガノシロキサンである。
【0026】
成分(B)は、成分(A)の硬化性官能基(アルケニル基)1モルに対して、架橋基の数が、例えば0.1~1.8モルの範囲となるように含むことができ、具体的には、0.2~0.7モルの範囲で含むことができる。成分(B)の配合量は、成分(A)が有する硬化性官能基の量に応じて、後述の基準を用いながら、適正な範囲に収まるように設計することができる。成分(B)としては、架橋基の位置又は種類、ハイドロジェンポリシロキサンである場合はその重合度などにより区分して、1種類の化合物のみを用いてもよいし、2種類以上の化合物を混合して用いてもよい。成分(B)は、種々の重合度を有するハイドロジェンポリシロキサンの混合物であってもよい。
【0027】
成分(B)は、両末端が、H(3-a)R1
aSiO1/2単位又はR1
3SiO1/2単位で閉塞され、中間単位が少なくとも1つのHR1SiO2/2単位と任意の数のR1
2SiO2/2単位からなる、直鎖状ポリオルガノハイドロジェンシロキサンである。ケイ素原子に結合する水素原子は、中間単位に少なくとも1つ存在するが、残り少なくとも2つは、末端に存在していても、中間単位に存在していてもよい。
【0028】
成分(B)としては、(B1-1)両末端がM単位(トリメチルシロキサン単位)で閉塞され、中間単位がDH単位(メチルハイドロジェンシロキサン単位)のみからなる直鎖状ポリメチルハイドロジェンシロキサン、(B1-2)両末端がM単位(トリメチルシロキサン単位)で閉塞され、中間単位がD単位(ジメチルシロキサン単位)及びDH単位(メチルハイドロジェンシロキサン単位)のみからなり、ジメチルシロキサン単位1モルに対して、メチルハイドロジェンシロキサン単位が0.1~3.0モルである直鎖状ポリメチルハイドロジェンシロキサンが特に好ましい。成分(B)は、1種又は2種以上の組合せであってもよい。
【0029】
成分(B)の配合量は、前記成分(A)の硬化性官能基(アルケニル基)1個に対し、ケイ素原子に直接結合した水素原子が0.1~1.8個となる量であることが好ましい。0.1個より少ないと、硬化が十分な速度で進行しないことがあり、1.8個を超えると、硬化物が硬くなりすぎ、また硬化後の物性にも悪影響を及ぼすことがある。換言すると、分子内にアルケニル基(特にビニル基)を有するポリオルガノシロキサンの量を、ハイドロジェンポリオルガノシロキサンの有するSi-H結合とビニル基の物質量の比(H/Vi比)で調整することができる。H/Vi比は、0.2~1.0の範囲であることがより好ましく、0.3~0.7の範囲であることがさらに好ましい。H/Vi比を0.3以上とすることで、十分な速度での硬化を達成することができ、各種基材に対してより良好な接着性を示すこともできる。また、H/Vi比を0.7以下とすることで、組成物の硬化を十分な量で達成し、硬度を適度に保つことができ、耐熱性を保持しより良好な接着性を維持することができる。
【0030】
成分(B)は、硬化性組成物中、成分(A)の硬化性官能基1モルに対して、例えば、架橋基を0.1モル以上含むことができ、具体的には、0.2モル以上含むことができる。成分(B)は、成分(A)の硬化性官能基1モルに対して、例えば、架橋基を1.8モル以下含むことができ、具体的には1モル以下含むことができ、より具体的には0.7モル以下含むことができる。
【0031】
・成分(C)
本発明の組成物は、ケイ素化合物としてさらに、1分子中に、ケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも2個有し、かつ、ヘテロ原子を含む構造を介してシロキサン骨格に結合している加水分解反応可能な基を1つ有する、シロキサン化合物を含む(以下、単に「成分(C)」ということがある)。但し、前記成分(A)又は(B)に該当するものは成分(C)からは除かれる。
【0032】
「ケイ素原子に結合した水素原子」については、成分(B)において説明したとおりである。
【0033】
「ヘテロ原子を含む構造」とは、酸素、窒素、硫黄、リンの少なくとも1種類を含む、2価の官能基である。加水分解反応可能な基とシロキサン骨格の間を最も少ない原子数で結ぶ骨格に、ヘテロ原子を含むものであれば、その構造は特に制限されない。ヘテロ原子を含む構造の例としては、2価のアルキレン基の-CH2-部分を少なくとも1つ、エーテル(-O-)、アミノ(-NR-;ここでRは水素原子又は1価の炭化水素基である)、スルフィド(-S-)、スルホニル(-SO2-)、ホスフィノ(-PR-)、エステル(-O(C=O)-)、チオエステル(-S(C=O)-)などで置き換えたものが挙げられる。
【0034】
「加水分解可能な基」とは、本明細書において用いられる場合、加水分解反応を受け得る基、すなわち、加水分解反応により、化合物の主骨格から脱離し得る基を意味する。成分(C)において加水分解可能な基は、好ましくは分子中に1つのみ含まれており、当該基はヘテロ原子を含む構造を介してシロキサン骨格に結合している。加水分解可能な基の例としては、-OR’、-OCOR’、-O-N=CR’2、-NR’2、-NHR’、エポキシ、ハロゲン原子(これら式中、R’は、置換又は非置換の炭素原子数1~4のアルキル基を示す)等が挙げられる。各種基材への腐食を起こしにくい、シリコーン組成物として化学的に安定であること等のため、好ましくは-OR’(即ち、アルコキシ基)である。R’の例には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基等の非置換アルキル基;クロロメチル基等の置換アルキル基が含まれる。それらの中でも、アルキル基、特に非置換アルキル基が好ましく、メチル基又はエチル基がより好ましい。すなわち、加水分解性基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基のようなアルコキシ基であることが好ましい一態様である。水酸基は、特に限定されないが、加水分解可能な基が加水分解して生じたものであってよい。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子を挙げることができ、これらの中では、塩素原子が好ましい。
【0035】
「シロキサン骨格」とは、前記M単位、D単位等のシロキサンを構成する単位を任意に組み合わせて得られる骨格である。成分(C)においては、シロキサンの骨格は特に制限されず、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれであってもよい。特定の化合物を選択的に合成し、精製しうることから、環状シロキサン骨格であることが特に好ましい。
【0036】
成分(C)としては、(C1)ケイ素原子に結合した水素原子と、ケイ素原子に結合した下記式(4):
【化1】
で示される構造とを有する有機ケイ素化合物が例示される。
(上記各式中、Q
1は、ケイ素原子とエステル結合の間に2個以上の炭素原子を有する炭素鎖を形成する、直鎖状又は分岐状のアルキレン基を表し;Q
2は、酸素原子と当該構造のケイ素原子の間に3個以上の炭素原子を有する炭素鎖を形成する、直鎖状又は分岐状のアルキレン基を表し;R
3は、炭素数1~4のアルキル基又は2-メトキシエチル基を表す)
(C1)は、上記化合物の1種又は2種以上の組合せであってもよい。
【0037】
(C1)は、組成物の硬化の際に成分(A)と付加反応して、(A)及び(B)との付加反応によって架橋したシロキサン構造に導入され、式(4)の構造が接着性を発現する部分として、組成物の室温における接着性に寄与する成分である。
【0038】
Q1は、合成及び取扱いが容易なことから、エチレン基及び2-メチルエチレン基が好ましい。Q2は、合成及び取扱いが容易なことから、トリメチレン基が好ましい。R3は、良好な接着性を与え、かつ加水分解によって生じるアルコールが揮発しやすいことから、メチル基及びエチル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0039】
(C1)の特徴である上記の水素原子と上記の構造とは、合成が容易なことから、別個のケイ素原子に結合していることが好ましい。したがって、(C1)の基本部分は、鎖状、分岐状又は環状シロキサン骨格を形成していることが好ましい。(C1)に含まれるSi-H結合の数は、1個以上の任意の数であり、環状シロキサン化合物の場合、2個又は3個が好ましい。
【0040】
(C1)の例としては、環状オルガノハイドロジェンポリシロキサンとアクリル基又はメタクリル基を有するシラン化合物との反応生成物が挙げられる。このような化合物は合成経路が確立されていることや、1分子あたりのSi-H結合の数及び加水分解可能な基の数を制御しやすく組成物全体の物性を均一に制御することが容易になる観点から好ましい。より具体的な(C1)としては、下記の化合物が挙げられる。
【化2】
他の成分(C)としては、さらに、下記:
【化3】
等の一分子中にケイ素原子に結合した水素原子と反応性有機官能基を有する化合物が挙げられる。
【0041】
組成物中の(C)成分の量は、前記(A)成分中のアルケニル基1当量に対し、前記(B)成分及び(C)成分に含まれるケイ素原子に結合した水素原子の合計が、0.1~2.0当量であり、かつ組成物全体におけるケイ素原子に結合した水素原子の数に対する、(C)成分由来のケイ素原子に結合した水素原子の数の比が0.2以上となるような量である。この範囲になるように成分(A)及び(B)との量関係を調整することで、基材との密着性がより向上する。
成分(A)との関係では、前記(A)成分中のアルケニル基1当量に対し、前記(B)成分及び(C)成分に含まれるケイ素原子に結合した水素原子の合計が、0.4~1.8当量であることがより好ましい。成分(B)との関係では、ケイ素原子に結合した水素原子の数に対する、(C)成分由来のケイ素原子に結合した水素原子の数の比が0.3以上であることがより好ましい。
【0042】
・成分(D)
本発明の組成物は、前記成分(A)と成分(B)との架橋反応を触媒しうる硬化触媒を含む(以下、単に「成分(D)」ということがある)。硬化触媒としては、環状ジエン骨格を配位子として有する紫外線活性型ヒドロシリル化白金触媒が用いられる。例えば、トリメチル(メチルシクロペンタジエニル)白金が、必要に応じあらかじめシロキサンポリマーに溶解され、混合物として用いられる。その配合量は、前記成分(A)に対し、白金元素として0.1~1000ppmとなる量である。0.1ppmより少ないと組成物が十分に硬化せず、また1000ppmを超えても特に硬化速度の向上は期待できない。また、用途によってはより長いポットライフを得るために、反応抑制剤の添加により、触媒の活性を抑制することができる。公知の白金族金属用の反応抑制剤として、2-メチル-3-ブチン-2-オール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール、1-エチニル-2-シクロヘキサノール等のアセチレンアルコール、マレイン酸ジアリル、また、テトラメチルエチレンジアミン、ピリジン等の3級アミンが挙げられる。
【0043】
[硬化性ポリオルガノシロキサン組成物]
本発明の硬化性ポリオルガノシロキサンは、上記成分(A)ないし(D)を含有するものである。特に成分(A)及び(B)は、どのような物を用いるかを所望の物性に合わせて市販・公知のものから適宜選択することができる。例えば、屈折率を制御する観点からは、成分(A)及び(B)にフェニル基を導入することが好ましい。その場合は、硬化物としたときの屈折率が1.56以下となるように設計することが好ましい。
【0044】
本発明のポリオルガノシロキサン組成物は、各成分が均一に混合されており、基材への適用が可能な程度の流動性を有している限り、その性状に特段の制限はない。ポリオルガノシロキサン組成物の粘度は、主に成分(A)の粘度によって制御することができ、0.1~500Pa・sの範囲であることが、操作性の観点から好ましい。組成物の粘度が0.1~50Pa・sの範囲であることが、より好ましい。本発明のポリオルガノシロキサン組成物は、高い安定性を有しているため、長期間の保存においても粘度の変動が小さく、取り扱い性に優れている。遮光下80℃で1週間経過後の組成物の粘度が50Pa・s以下である組成物が、特に好ましい。
また、ポリオルガノシロキサン組成物は、各成分が全て混合された状態である1液型、又は、成分(B)と成分(D)を分けて配合した2液型の組成物であることができる。1液型と2液型のどちらの組成物とするかは、作業性や硬化条件等を考慮して、適宜選択することができ、その手法は当業者に公知である。
【0045】
本発明の硬化性ポリオルガノシロキサン組成物は、その目的・効果を損なうものでない限り、公知のその他の成分を配合することができる。添加剤として、難燃剤、接着性付与剤、耐熱付与剤、希釈剤、有機溶剤、無機又は有機顔料等を適宜配合することができる。また、前記成分(A)、(B)、(C)に該当しないシロキサン樹脂を配合することもできる。そのような樹脂として、硬化性官能基を1つだけ有するポリオルガノシロキサン、ジメチルシロキサンのような硬化性官能基を有さないポリオルガノシロキサン等が挙げられる。これらの樹脂は、希釈剤として用いることができる。
【0046】
<その他の樹脂>
硬化性ポリオルガノシロキサン組成物は、前記成分(A)ないし(C)に該当しないシロキサン樹脂をさらに含んでもよい。そのような樹脂は、粘度を調整するための希釈剤としても用いることができる。そのようなシロキサン樹脂としては、前記M、D、T、Q単位の組合せで得られる樹脂のうち硬化性官能基を持たないか又は1つだけ有するもの、特に下記式(5):
RaR2Si-O-(SiR2O)n-SiR3・・・(5)
(式中、Ra、R、nは、式(2)において定義したとおりであり、Rは硬化性官能基を有さない)
で示される、1つだけ硬化性官能基を有するシロキサンや、式(6):
R3Si-O-(SiR2O)n-SiR3・・・(6)
(式中、R、nは、式(2)において定義したとおりであり、Rは硬化性官能基を有さない)
で示される、硬化性官能基を有さないシロキサンを用いることができる。このようなシロキサン樹脂を用いることで、硬化性ポリオルガノシロキサン組成物を硬化させたときの硬度を制御することや、組成物の粘度を制御することができ、取り扱い性や要求される物性に対して広く対応することができる。
【0047】
このような樹脂は、硬化性ポリオルガノシロキサン組成物中、成分(A)100質量部に対して、例えば、50質量部以下含むことができ、具体的には、0.1~50質量部含むことができ、より具体的には、1~30質量部含むことができる。
【0048】
<分子中にケイ素原子に結合した水素原子を2個有するポリオルガノハイドロジェンシロキサン>
組成物は、更に、分子中にケイ素原子に結合した水素原子を2個有するポリオルガノハイドロジェンシロキサンを含むことができる。このようなシロキサンは、成分(A)と付加反応することにより、鎖延長剤として機能し得る。このようなシロキサンの例は、分子中にケイ素原子に結合した水素原子を2個有すること以外は、成分(B)において説明したとおりである。このようなシロキサンは、前記一般式(3)の、H(3-a)R1
aSiO1/2又はHR1SiO2/2で示される単位をSi-H結合の数が2となるように、好ましくは分子中に2個有する。
【0049】
本成分におけるシロキサン骨格は、直鎖状、分岐状又は環状のいずれであってもよく、直鎖状であることが好ましい。また、本成分のシロキサンは、両末端が、それぞれ独立して、R5
3SiO1/2単位で閉塞され、中間単位がR5
2SiO2/2単位のみからなる(式中、R5は、それぞれ独立して、水素原子又は脂肪族不飽和結合を有しない1価の炭化水素基であるが、1分子当たり2つのR5が水素原子である)、直鎖状ポリオルガノハイドロジェンシロキサンであることがより好ましい。ケイ素原子に結合する水素原子は、末端に存在していても、中間単位に存在していてもよいが、末端に存在することが好ましい。よって、本成分のシロキサンとしては、両末端がMH単位(ジメチルハイドロジェンシロキサン単位)で閉塞され、中間単位がD単位(ジメチルシロキサン単位)のみからなるポリメチルハイドロジェンシロキサンが特に好ましい。
【0050】
<接着性付与剤>
硬化性ポリオルガノシロキサン組成物は、本発明の目的・効果を損なうものでない限りにおいて、接着性付与剤をさらに含んでもよい。接着性付与剤は、組成物の硬化物の、ガラス、金属、プラスチック等の基材への密着性を向上させる成分である。接着性付与剤としては、金属アルコキシド類、加水分解性シリル基を有する化合物、一分子中に加水分解性シリル基と反応性有機官能基を有する化合物、一分子中にケイ素原子に結合した水素原子と2価の芳香族基を有する化合物、一分子中にケイ素原子に結合した水素原子と反応性有機官能基を有する化合物、並びに/又はそれらの部分加水分解縮合物が挙げられる。金属アルコキシドの例としては、アルミニウムトリエトキシド、アルミニウムトリプロポキシド、アルミニウムトリブトキシドのようなアルミニウムアルコキシド;チタンテトラエトキシド、チタンテトラプロポキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラブトキシド、チタンテトライソブトキシド、チタンテトライソプロペニルオキシドのようなチタンアルコキシド等の金属アルコキシド類が挙げられる。有機化合物の接着性付与剤としては、アミノ基含有シラン、イソシアヌレート類、カルバシラトラン化合物が挙げられる。具体的な例として、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシランのオリゴマー、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3,4-エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。これらの成分は、ベースポリマーである(A)成分100質量部に対して1質量部未満の配合とすることが、特に高温・高湿度下でのヘイズの上昇を防ぐ点で好ましい。
【0051】
接着性付与剤としては、さらに、以下のものを例示することができる。
(E1)Si(OR3)n基とエポキシ基含有基を有する有機ケイ素化合物、及び/又はその部分加水分解縮合物、
(E2)Si(OR3)n基と脂肪族不飽和炭化水素基を有するシラン化合物、及び/又はその部分加水分解縮合物、並びに
(E3)Si(OR4)4で示されるテトラアルコキシシラン化合物、及び/又はその部分加水分解縮合物。
(上記各式中、R3は、炭素数1~4のアルキル基又は2-メトキシエチル基を表し;R4は、炭素数1~3のアルキル基を表し;nは、1~3の整数である)
【0052】
(E1)、(E2)及び(E3)は、それぞれ、1種又は2種以上を組合せて用いてもよい。
【0053】
<<(E1)>>
(E1)は、ケイ素原子に結合したアルコキシ基と、(E2)及び/又は(E3)のケイ素原子に結合したアルコキシ基との共加水分解・縮合反応によって、架橋したシロキサン構造に導入され、エポキシ基が接着性を発現する部分として、組成物の室温における接着性、特にプラスチックに対する接着性の向上に寄与する成分である。
【0054】
R3は、良好な接着性を与えることから、メチル基及びエチル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。nは、2又は3が好ましい。エポキシ基含有基としては、合成が容易で、加水分解性がなく、優れた接着性を示すことから、3-グリシドキシプロピル基のような、エーテル酸素原子を含む脂肪族エポキシ基含有基;2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル基のような脂環式エポキシ基含有基等が好ましい。Si(OR3)n基は、分子中に2個以上あってもよい。OR3基の数は、分子中2個以上であることが好ましい。OR3基とエポキシ基含有基とは、同一のケイ素原子に結合していてもよく、別のケイ素原子に結合していてもよい。
【0055】
(E1)としては、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピル(メチル)ジメトキシシランのような3-グリシドキシプロピル基含有アルコキシシラン類;2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル(メチル)ジメトキシシランのような2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル基含有アルコキシシラン類;nが2以上のこれらシラン類の部分加水分解縮合物;並びに鎖状又は環状メチルシロキサンのメチル基の一部が、トリメトキシシロキシ基又は2-(トリメトキシシリル)エチル基と、上記のエポキシ基含有基とで置き換えられた炭素/ケイ素両官能性シロキサン等が挙げられる。
【0056】
<<(E2)>>
(E2)は、組成物の硬化の際に(B)と付加反応して、(A)及び(B)との付加反応によって架橋したシロキサン構造に導入され、側鎖に存在するアルコキシ基が、接着性を発現する部分として、組成物の室温における接着性、特に金属に対する接着性の向上に寄与する成分である。また、(E2)のアルコキシ基は、(E1)及び/又は(E3)のアルコキシ基との共加水分解・縮合反応により、(E1)及び/又は(E3)を、架橋したシロキサン構造に導入することにも寄与する。(E2)は、Si(OR3)n基と1個の脂肪族不飽和炭化水素基を有するシラン化合物、及び/又はその部分加水分解縮合物であることが好ましい。
【0057】
R3は、良好な接着性を与えることから、メチル基及びエチル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。nは、2又は3が好ましい。脂肪族不飽和炭化水素基は、一価の基であることが好ましい。脂肪族不飽和炭化水素基は、ビニル、アリル、3-ブテニルのようなアルケニル基の場合、ケイ素原子に直接結合していてもよく、3-アクリロキシプロピル、3-メタクリロキシプロピルのように、不飽和アシロキシ基が3個以上の炭素原子を介してケイ素原子に結合していてもよい。不飽和炭化水素基含有基としては、合成及び取扱いが容易なことから、ビニル基、メタクリロキシプロピル基等が好ましい。Si(OR3)n基は、分子中に2個以上あってもよい。OR3基の数は、分子中2個以上であることが好ましい。OR3基と脂肪族不飽和炭化水素基とは、同一のケイ素原子に結合していてもよく、別のケイ素原子に結合していてもよい。
【0058】
(E2)としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2-メトキシエトキシ)シラン、メチルビニルジメトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、メチルアリルジメトキシシランのようなアルケニルアルコキシシラン類及び/又はその部分加水分解縮合物;3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピル(メチル)ジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピル(メチル)ジメトキシシランのような(メタ)アクリロキシプロピル(メチル)ジ-及び(メタ)アクリロキシプロピルトリ-アルコキシシラン類及び/又はその部分加水分解縮合物等が挙げられる。
【0059】
<<(E3)>>
(E3)は、組成物の室温における金属への接着性を、更に向上させる成分である。R4としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピルのような、直鎖状又は分岐状のアルキル基が挙げられ、容易に入手でき、取扱いが容易で、接着性の向上効果が著しいことから、メチル基、エチル基が好ましい。また、(E3)は、テトラアルコキシシラン化合物単体で使用できるが、加水分解性に優れる点及び毒性が低くなる点から、テトラアルコキシシラン化合物の部分加水分解縮合物であることが好ましい。
【0060】
<<他の接着性付与剤>>
(E1)~(E3)以外の他の接着性付与剤としては、アルミニウムトリエトキシド、アルミニウムトリプロポキシド、アルミニウムトリブトキシドのようなアルミニウムアルコキシド;チタンテトラエトキシド、チタンテトラプロポキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラブトキシド、チタンテトライソブトキシド、チタンテトライソプロペニルオキシドのようなチタンアルコキシド等、オクタン酸ジルコニウム、テトラ(2-エチルヘキサン酸)ジルコニウム、ステアリン酸ジルコニウム等のジルコニウムアシレート;n-プロピルジルコネート、n-ブチルジルコネート等のジルコニウムアルコキシド(但し、ジルコニウムキレートを除く。);トリブトキシジルコニウムアセチルアセトネート、ジブトキシジルコニウムビス(エチルアセトアセテート)、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムモノアセチルアセトネート、ジルコニウムエチルアセトアセテート等のジルコニウムキレート等の金属アルコキシド類等が挙げられる。
【0061】
他の接着性付与剤としては、さらに、
【化4】
【化5】
等の一分子中に加水分解性シリル基と反応性有機官能基を有する化合物及び/又はその部分加水分解縮合物(但し、(E1)~(E3)を含まない);
【化6】
(式中、kは1~3の整数である)等の一分子中にケイ素原子に結合した水素原子と2価の芳香族基を有する化合物等が挙げられる。他の接着性付与剤の併用により、更に接着強さを高めることができる。
【0062】
接着性付与剤は、硬化性ポリオルガノシロキサン組成物中、成分(A)100質量部に対して、例えば、10質量部以下含むことができ、具体的には、0.01~10質量部含むことができ、より具体的には、0.1~5質量部含むことができる。接着性付与剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0063】
<溶剤>
硬化性ポリオルガノシロキサン組成物は、溶剤を含んでいてもよい。この場合、硬化性ポリオルガノシロキサン組成物は、その用途、目的に応じて適当な溶剤に所望の濃度に溶解して使用し得る。上記溶剤の濃度は、例えば、硬化性ポリオルガノシロキサン組成物100質量部に対して、80質量部以下であってもよく、50質量部以下であってもよく、30質量部以下であってもよく、20質量部以下であってもよい。硬化性組成物の粘度を調整する観点からは、溶剤を含むことが好ましい。溶剤を含むことにより、硬化性組成物の取り扱い性が良好になり得る。
【0064】
本発明の一態様は、上記硬化性ポリオルガノシロキサン組成物を含む、接着剤である。接着剤としては、硬化性ポリオルガノシロキサン組成物に加え、上記接着性付与剤を含むことが好ましい。
【0065】
本発明の硬化性ポリオルガノシロキサン組成物を接着剤として用いた物品において、当該組成物の硬化物と各種基材とは、接着部分を有していればよく、その形状には限定されない。例えば、基材と組成物の硬化物との接着部分を含む物品の製造方法の態様の一つは、基材を含む部品及び組成物を準備する工程;前記基材の表面に前記組成物を塗布する工程;並びに前記組成物を硬化して、前記基材及び前記組成物の硬化物を接着する工程を含む。
【0066】
本発明の硬化性ポリオルガノシロキサン組成物を含有する接着剤が適用される基材は、その材質に特に制限はない。基材としては、アルミニウム、銅、ニッケル、鉄、黄銅、ステンレス等の金属;エポキシ樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂等のポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、変性ポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂等のエンジニアリングプラスチック;ガラス等を使用することができる。また、必要に応じて、空隙の壁面等に対して常法に従ってプライマー処理を施してもよい。基材の形状、厚みなども特に制限されない。
【0067】
硬化性ポリオルガノシロキサン組成物を含む接着剤は、基材を含む部品の表面の接着すべき部位に、所定の厚さで、滴下、注入、流延、容器からの押出し、バーコート、ロールコート等のコーティング、スクリーン印刷、ディップ法、刷毛塗り法、スプレー法、ディスペンス法等の方法により適用される。これらの手法は、当業者に公知の手法である。組成物は、前記部品の表面上に全体的かつ均一に塗布されてもよく、線状、ストライプ状、ドット状等のように不均一又は部分的に塗布されてもよい。組成物の適用厚さは、通常0.01~3mm、好ましくは0.05~2mmである。
【0068】
組成物は、紫外線を照射することによって、硬化させることができる。照射量は、100~10,000mJ/cm2が好ましく、より好ましくは300~6,000mJ/cm2であり、更に好ましくは500~4,000mJ/cm2である。なお、照射量は、UVAの測定値である。ここで、UVAは、315~400nmの範囲の紫外線をいう。 組成物は、紫外線の波長、例えば、250~450nmの範囲を有する紫外線を照射したときの硬化性が良好である。このような波長の紫外線を放出する光源として、例えば、ウシオ電機株式会社製の高圧水銀ランプ(UV-7000)、メタルハライドランプ(UVL-4001M3-N1)、韓国:JM tech社製のメタルハライドランプ(JM-MTL 2KW)、三菱電機株式会社製の紫外線照射灯(OSBL360)、日本電池株式会社製の紫外線照射機(UD-20-2)、株式会社東芝の製蛍光ランプ(FL-20BLB))、Heraeus社製のHバルブ、Hプラスバルブ、Vバルブ、Dバルブ、Qバルブ、Mバルブ、CCS株式会社製のLEDランプ(HLDL-155UV)等が挙げられる。
【0069】
組成物の硬化時間は、紫外線の照射量にもよるが、概ね30分以下である。組成物の硬化が進行したかどうかは、目視によって判断することもできるが、貯蔵弾性率G’と損失弾性率G”の測定によって定量的に評価することもできる。例えば、紫外線照射後23℃の条件で、貯蔵弾性率G’と損失弾性率G”が等しくなるまでの時間が30分以内であると、硬化にかかる時間が短く取り扱い性に優れているといえるため、好ましい。
【0070】
組成物の硬化状態は、目視、触感などによって評価してもよいが、一定条件下で針がどの程度組成物内に刺さるか(針入度)によって定量的に評価することもできる。針入度は、JIS K 6249に基づいて測定される。本発明の組成物においては、硬化物の針入度が10以上であると好ましい。
【0071】
本発明の硬化性ポリオルガノシロキサン組成物を接着剤又は封止剤として用いた物品は、接着面、封止箇所の耐水性をはじめ耐久性能に優れているため、電子材料分野において各種部品として良好に用いることができる。本発明の硬化性ポリオルガノシロキサン組成物は、ポットライフ、安定性など取り扱い性にも優れている。そのため、例えば、液晶、プラズマ、有機EL等の画像表示装置の貼り合わせ用の接着剤として、あるいは、LED素子又はOLED素子の封止のための封止剤として用いることができる。
【実施例】
【0072】
本発明の組成物を、以下の実施例を通じてより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の態様に限定されるものではない。
【0073】
実施例及び比較例にて用いた材料は、以下のとおりである。ここで、M、D、DH等のシロキサン化合物を記述する記号の意味するところは、上記のとおりである。また、特に断りのない限り、各組成物の配合量は質量部で表している。
<ポリオルガノシロキサン樹脂:成分(A)>
α,ω-ジビニルポリジメチルシロキサン;粘度400mPa・s
α,ω-ジビニルポリジメチルシロキサン;粘度3000mPa・s
α,ω-ジビニルポリジメチルシロキサン;粘度12000mPa・s
<オルガノハイドロジェンポリシロキサン:成分(B)>
成分(B)としては、以下の平均組成式を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンを用いた。
・MD80DH
20M
・MD17DH
23M
・MHD42DH
8MH
・MHDH
3D22MH
<シラン化合物:成分(C)>
DDH
3で表される環状シロキサンに3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを付加反応させたもの
<白金触媒:成分(D)>
(トリメチル)メチルシクロペンタジエニル白金とα,ω-ジビニルポリジメチルシロキサン(粘度3000mPa・s)の1%混合物
<その他の成分>
比較例においては、必要に応じて以下の各成分を用いた。
・γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン
・3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン
・MHD7DH
2MHとビニルトリメトキシシランの付加反応物
・α-ビニルポリジメチルシロキサン;MD20MViで示される組成を有するシロキサン
・平均組成MD20MHで示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン
・平均組成MHD20MHで示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン
【0074】
<硬化性ポリオルガノシロキサン組成物の調製>
[実施例1]
粘度400mPa.sのα,ω-ジビニルポリジメチルシロキサン(A)100gに、MD80DH
20Mの平均組成式を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)1.15g、DDH
3で表される環状シロキサンに3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを付加反応させたもの(C)2.3g、(トリメチル)メチルシクロペンタジエニル白金と粘度3000mPa.sのα,ω-ジビニルポリジメチルシロキサンの1%混合物(D)0.33gを加え、撹拌し組成物1を得た。
【0075】
[実施例2~8]
実施例1における成分(A)~(D)及びその配合を、以下の表のように変更した以外は実施例1と同様にして、組成物2~8を得た。
【0076】
【0077】
[比較例1]
実施例1において用いた成分(B)の量を1.24質量部に変更し、成分(C)を加えなかったこと以外は実施例1と同様にして、組成物を得た。
【0078】
[比較例2]
比較例1において用いた成分(B)を、MD80DH
20Mを0.78質量部に変更し、平均組成MD20MHで示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン14.04質量部を加えたこと以外は比較例1と同様にして、組成物を得た。
【0079】
[比較例3]
比較例1において用いた成分(B)を、MD80DH
20Mを0.5質量部に変更し、平均組成MHD20MHで示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン3.1質量部を加えたこと以外は比較例1と同様にして、組成物を得た。
【0080】
[比較例4]
比較例1において用いた成分(A)の量を50質量部に変更し、MD20MViで示される組成を有するα-ビニルポリジメチルシロキサンを50質量部加えた。さらに、成分(B)の量を1.35質量部に変更した。これら以外は比較例1と同様にして、組成物を得た。
【0081】
[比較例5]
比較例1の組成に、さらにγ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランを1質量部加えたこと以外は比較例1と同様にして、組成物を得た。
【0082】
[比較例6]
比較例1において用いた成分(B)の量を1.7質量部に変更し、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを1質量部加えたこと以外は比較例1と同様にして、組成物を得た。
【0083】
[比較例7]
比較例1において用いた成分(B)の量を0.51質量部に変更し、M
HD
7D
H
2M
Hとビニルトリメトキシシランの付加反応物を1質量部加えたこと以外は比較例1と同様にして、組成物を得た。
比較例1~7の組成物は、以下の表に示す組成を有する。
【表2】
【0084】
[試験例1:針入度]
針入度は、実施例及び比較例で得られたシリコーンゲル組成物を、CCS株式会社製HLDL-155UVを用いて紫外線を照射した。100mWの値に調節し、10秒間照射後、60℃で30分間加熱して硬化させた物に対して、JIS K 6249の規定に準じて測定した。ディスプレイにストレスを与えないという観点から、好ましい針入度は、上記条件で10以上である。
【0085】
[試験例2:粘度]
回転粘度計(ビスメトロン VDA-L)(芝浦システム株式会社製)を使用して、400cP以下の範囲は、No.2ローターを使用し、400超~1,500cPの範囲は、No.3ローターを使用し、1,500cP超の範囲は、No.4ローターを使用し、60rpmで、23℃における粘度を測定した。各々の組成物について、調製時の初期粘度と、80℃で1週間保管した後の粘度を測定した。
【0086】
[試験例3:せん断強さ]
[試験例4:凝集破壊率(CF%)]
厚さ1.1mmのガラス板2枚又はガラス板とポリカーボネート基材1枚ずつを使用した。組成物の寸法が26mm×10mm、厚さが300μmになるようにスペーサーを用いてガラス上に組成物を滴下した。次いで、組成物上部から100mWの波長365nmのLEDを10秒間照射し、ガラス又はポリカーボネート基材を貼り合わせ、23℃で24時間静置し、せん断試験体を作成した。島津製作所(株)製引張試験機(AG-IS型)で引張速度10mm/分にて引張試験を実施した。これによりせん断強さ(MPa)を測定した。また、基材上の紫外線硬化型樹脂組成物の凝集破壊部分の面積S(mm2)を求め、(100×S)/(10×26)を計算して凝集破壊率(%)とした。
【0087】
[試験例5:クロスポイント]
粘弾性測定装置(MCR302)(株式会社アントンパールジャパン製)を用いて、23℃において、下のパラレル石英プレート上に組成物を吐出した。その後、組成物の厚みが300μmになるように上のパラレルプレート(直径8mm)で挟み込み、周波数1Hz、歪1%で1秒毎に貯蔵弾性率G’(Pa)、損失弾性率G”(Pa)を測定し、貯蔵弾性率G’と損失弾性率G”が等しくなるまでの時間(分)をG’G”クロスポイントとし、組成物の硬化時間とした。
【0088】
[試験例6:ヘイズ]
ヘイズは日本電色株式会社製NDH5000を用いて測定し、測定はJIS K 7136に従って行った。
【0089】
【0090】
表3から、特定の成分(C)を有する組成である実施例1~8は、十分に速い硬化時間で、適度な硬さの硬化物が得られている。また、加速試験の条件でも粘度の増加が抑えられており保存安定性に優れている。さらに、実施例1~8の組成物は、ガラス及びポリカーボネート基材のいずれに対しても凝集破壊率が100%であり、高い密着性を有することが示されている。一方で、成分(C)に相当する化合物を有さない比較例では、いずれもポリカーボネートに対する密着性が得られていない。また、成分(C)に相当しないシラン化合物のみを有する比較例5、6の組成物では、ヘイズの値が上昇してしまい、光学用途には不向きであった。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の組成物は、ポットライフ、接着性、硬化性、信頼性に優れたシリコーン化合物であり、接着剤として有用である。したがって、本発明の組成物は、オプティカルボンディングを使用したディスプレイやLEDの製造に有用である。