(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-09
(45)【発行日】2024-08-20
(54)【発明の名称】調光部材、構造体、調光部材の配置方法
(51)【国際特許分類】
G02F 1/13 20060101AFI20240813BHJP
B60J 3/04 20060101ALI20240813BHJP
E06B 9/24 20060101ALI20240813BHJP
G02F 1/1333 20060101ALI20240813BHJP
G02F 1/1335 20060101ALI20240813BHJP
【FI】
G02F1/13 505
B60J3/04
E06B9/24 E
G02F1/1333
G02F1/1335 510
(21)【出願番号】P 2017152726
(22)【出願日】2017-08-07
【審査請求日】2020-06-25
【審判番号】
【審判請求日】2022-12-06
(31)【優先権主張番号】P 2016255198
(32)【優先日】2016-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】石井 憲雄
(72)【発明者】
【氏名】川島 朋也
【合議体】
【審判長】山村 浩
【審判官】齋藤 卓司
【審判官】松川 直樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-016805(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0057701(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC G02F 1/137
IPC G02F 1/1335
IPC G02F 1/1347
IPC B60J 1/20-3/00
IPC B60J 3/04-3/06
IPC G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造体の外側から外光が入射する部位に配置され、入射した前記外光の遮光及び透過を調節する調光部材であって、
旋回する液晶組成物及び二色性色素組成物を有する液晶セルと、
前記液晶セルの前記外光が入射する側に配置される直線偏光板とを備え、
前記直線偏光板の吸収軸の方向が、前記構造体の水平方向に対して15度以下の方向であり、
前記液晶セルが遮光状態において、前記液晶セルの液晶層の吸収軸の方向が、前記構造体の水平方向に対して16度以下の方向であること、
を特徴とする調光部材。
【請求項2】
外側から外光が入射する部位に、入射した前記外光の遮光及び透過を調節する調光部材が設けられた構造体であって、
前記調光部材は、
旋回する液晶組成物及び二色性色素組成物を有する液晶セルと、
前記液晶セルの前記外光が入射する側に配置される直線偏光板とを備え、
前記直線偏光板の吸収軸の方向が、前記構造体の水平方向に対して15度以下の方向に配置され、
前記液晶セルが遮光状態において、前記液晶セルの液晶層の吸収軸の方向が、前記構造体の水平方向に対して16度以下の方向に配置されること、
を特徴とする構造体。
【請求項3】
前記調光部材の遮光状態において、
少なくとも前記液晶層の前記外光の入射側における前記二色性色素組成物の長軸方向は、水平方向に対して15度以下の方向であること、
を特徴とする請求項2に記載の構造体。
【請求項4】
構造体の外側から外光が入射する部位に、入射した前記外光の遮光及び透過を調節する調光部材を配置する調光部材の配置方法であって、
前記調光部材は、
旋回する液晶組成物及び二色性色素組成物を有する液晶セルと、
前記液晶セルの前記外光が入射する側に配置される直線偏光板とを備え、
前記直線偏光板の吸収軸の方向が、前記構造体の水平方向に対して15度以下の方向に配置され、
前記液晶セルが遮光状態において、前記液晶セルの液晶層の吸収軸の方向が、前記構造体の水平方向に対して16度以下の方向に配置されること、
を特徴とする調光部材の配置方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調光部材、構造体、調光部材の配置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、窓に貼り付けて外来光の透過を制御する調光部材(調光フィルム)に関する工夫が種々提案されている(特許文献1、2、3)。このような調光部材の1つに、液晶を利用したものがある。このような液晶を利用した調光部材は、透明電極を備えた透明フィルム材により液晶材料を挟持して液晶セルを製造し、その液晶セルを直線偏光板により挟持しており、液晶に印加する電界を変更して液晶の配向を変更することにより外来光の透過を制御する。
【0003】
このような調光部材では、液晶表示パネルに適用可能な各種の駆動方式を適用することができ、VA(Vertical Alignment)方式、TN(Twisted Nematic)方式、IPS(In-Plane-Switching)方式等の駆動方式を適用することができる。
【0004】
また、このような調光部材には、ゲストホスト方式の液晶を利用したものが提案されている(特許文献4、5)。このようなゲストホスト方式の液晶を有する液晶セルでは、液晶組成物と二色性色素組成物とが電界に沿って配向した状態と、いわゆるツイスト配向した状態とを電界の制御により変化させて透過光量を制御する。このようなゲストホスト方式の液晶を有する液晶セルでは、液晶セルの一方の面に直線偏光板を配置して、遮光状態の透過光量を低減することができる。
【0005】
特許文献6には、ゲストホスト方式による液晶セルを積層して液晶表示パネルを作製する構成が開示されている。
調光部材では、液晶表示パネルに適用される種々の構成を適用することができると考えられるものの、調光部材を車両の窓、建築物の窓等に配置する場合において、色味及び視野角特性を重視する場合、ゲストホスト方式の液晶を適用することが望ましい。
また、調光部材は、各種の構造体に適用して、太陽光等の外光の入射を必要とする部位に配置される場合がある。ここで、構造体とは、ビル、家屋等により代表される建築物や、自動車、列車等の車両、船舶、航空機により代表される移動体、室内等で使用されるパーテーション(仕切り板)等を光の透過を目的とした開口部を有するものをいう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平03-47392号公報
【文献】特開平08-184273号公報
【文献】特開平11-94880号公報
【文献】特開2013-139521号公報
【文献】特開2012-31384号公報
【文献】特開昭63-25629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような調光部材を移動体や、建築物等の構造体に使用する場合、遮光状態における透過光量を一段と低減することが望まれる。
本発明は、調光部材を使用する場合に、従来に比してより効果的に遮光状態における透過光量を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
具体的には、本発明は、以下のようなものを提供する。
【0009】
(1) 構造体の外側から外光が入射する部位に配置され、入射した前記外光の遮光及び透過を調節する調光部材であって、
当該調光部材の前記外光が入射する側に配置される偏光部材を備え、
前記偏光部材の吸収軸の方向が、前記構造体の水平方向に対して15度以下の方向であること、
を特徴とする調光部材。
【0010】
(2) (1)において、
前記偏光部材は、液晶組成物及び二色性色素組成物を有する液晶層であり、
前記液晶層は、その吸収軸の方向が前記構造体の水平方向に対して15度以下の方向であること、
を特徴とする調光部材。
【0011】
(3) (1)において、
液晶組成物を有する液晶セルと、
前記液晶セルの前記外光が入射する側に配置される直線偏光板とを備え、
前記偏光部材は、前記直線偏光板であり、
前記直線偏光板の吸収軸の方向が、前記構造体の水平方向に対して15度以下の方向であること、
を特徴とする調光部材。
【0012】
(4) 外側から外光が入射する部位に、入射した前記外光の遮光及び透過を調節する調光部材が設けられた構造体であって、
前記調光部材は、前記外光が入射する側に配置される偏光部材を備え、
前記偏光部材の吸収軸の方向が、前記構造体の水平方向に対して15度以下の方向に配置されること、
を特徴とする構造体。
【0013】
(5) (4)において、
前記偏光部材は、液晶組成物、二色性色素組成物を有する液晶層であり、
前記液晶層の吸収軸の方向が、当該構造体の水平方向に対して15度以下の方向に配置されていること、
を特徴とする構造体。
【0014】
(6) (5)において、
前記液晶層の前記外光の入射側とは逆側に偏光子を備え、
前記偏光子は、第2液晶組成物、第2二色性色素組成物を有する第2液晶層を備えること、
を特徴とする構造体。
【0015】
(7) (5)又は(6)において、
前記調光部材の遮光状態において、
少なくとも前記液晶層の前記外光の入射側における前記二色性色素組成物の長軸方向は、水平方向に対して15度以下の方向であること、
を特徴とする構造体。
【0016】
(8) (4)において、
前記調光部材は、
液晶組成物を有する液晶セルと、
前記液晶セルの前記外光が入射する側に配置される直線偏光板とを備え、
前記偏光部材は、前記直線偏光板であり、
前記直線偏光板の吸収軸の方向が、前記構造体の水平方向に対して15度以下の方向であること、
を特徴とする構造体。
【0017】
(9) 構造体の外側から外光が入射する部位に、入射した前記外光の遮光及び透過を調節する調光部材を配置する調光部材の配置方法であって、
前記調光部材は、前記外光が入射する側に配置される偏光部材を備え、
前記偏光部材の吸収軸の方向が、前記構造体の水平方向に対して15度以下の方向に配置されること、
を特徴とする調光部材の配置方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、調光部材を使用する場合に、従来に比してより効果的に遮光状態における透過光量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】第1実施形態の調光フィルムの構成を説明する断面図である。
【
図2】第1実施形態の調光フィルムが配置された車両を説明する図である。
【
図3】調光フィルムの遮光状態における透過率と二色性色素組成物の長軸方向の傾きとの関係を示す図である。
【
図4】第2実施形態の調光フィルムが配置された建築物を説明する図である。
【
図5】第3実施形態の調光フィルムの構成を説明する断面図である。
【
図6】第4実施形態の調光フィルムの構成を説明する断面図である。
【
図7】第4実施形態の調光フィルムが配置されたサンバイザーを備えた車両を説明する図である。
【
図8】サンバイザーの厚み方向に平行な断面を示す図である。
【
図9】透光状態における調光フィルムの車外側の直線偏光板の吸収軸を車両の水平方向に対して変化させた場合の光の透過状態を車内側から撮影した写真である。
【
図10】TN方式の液晶層108を用いた調光フィルム101に水平偏光成分の光を入射した場合において、方位角に対する調光フィルム101の透過率の変化を示す図である。
【
図11】
図10(a)に示す遮光状態における調光フィルムの車外側の直線偏光板の吸収軸の向きと、全方位角の積算透過性との関係を示す図である。
【
図12】VA方式の液晶層108を用いた調光フィルム101に水平偏光成分の光を入射した場合において、方位角に対する調光フィルム101の透過率の変化を示す図である。
【
図13】
図12(a)に示す遮光状態における調光フィルムの車外側の直線偏光板の吸収軸の向きと、全方位角の積算透過性との関係を示す図である。
【
図14】第5実施形態の調光フィルムの構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
〔第1実施形態〕
〔調光フィルム〕
図1は、第1実施形態の調光フィルムの構成を説明する断面図である。
本実施形態では、調光部材としてフィルム状の調光フィルムを適用する例で説明するが、これに限定されるものでない。
調光フィルム1は、液晶組成物への電界を変動させることにより透過する透過光量を制御する部材であり、本実施形態では、ゲストホスト方式による液晶セル4により形成される。
【0021】
〔液晶セル〕
液晶セル4は、フィルム状の下側積層体5D及び上側積層体5Uにより液晶層8(偏光部材)を挟持して構成される。
【0022】
〔下側積層体及び上側積層体〕
下側積層体5Dは、透明フィルム材による基材6に、透明電極11、スペーサ12、配向層13を配置して形成される。
上側積層体5Uは、透明フィルム材による基材15に、透明電極16、配向層17を配置して形成される。調光フィルム1は、この上側積層体5U及び下側積層体5Dに設けられた透明電極11、16の駆動により、液晶層8に設けられたゲストホスト液晶組成物8Aへの電界を変化させて、入射した光の透過率を制御することができる。
【0023】
〔基材〕
基材6、15は、この種のフィルム材に適用可能な種々の透明フィルム材を適用することができる。この実施形態において、基材6、15は、ポリカーボネートフィルムが適用されるものの、COP(シクロオレフィンポリマー)フィルム、TACフィルム等を適用してもよい。
【0024】
〔透明電極〕
透明電極11、16は、この種のフィルム材に適用される各種の電極材料を適用することができ、この実施形態ではITO(Indium Tin Oxide)による透明電極材により形成される。
【0025】
〔スペーサ〕
スペーサ12は、液晶層8の厚みを規定するために設けられ、各種の樹脂材料を広く適用することができる。本実施形態では、スペーサ12は、フォトレジストにより作製され、透明電極11が形成された基材6の上に、フォトレジストを塗工して露光、現像することにより作製される。
なお、スペーサ12は、上側積層体5Uに設けてもよく、上側積層体5U及び下側積層体5Dの双方に設けてもよい。また、スペーサ12は、配向層13の上に設けるようにしてもよい。更に、スペーサ12は、上述のフォトレジストに限定されるものでなく、例えば、ビーズスペーサを適用してもよい。
【0026】
〔配向層〕
配向層13、17は、ポリイミド樹脂層をラビング処理して作製される。なお、配向層13、17は、液晶層8に係る液晶材料に対して配向規制力を発現可能な各種の構成を適用することができ、いわゆる光配向層により作製してもよい。
なお、光配向層の材料には、光配向の手法を適用可能な各種の材料を適用することができるものの、例えば、一旦配向した後には、紫外線の照射によって配向が変化しない、例えば光二量化型の材料を使用することができる。この光二量化型の材料については、「M.Schadt, K.Schmitt, V. Kozinkov and V. Chigrinov : Jpn. J. Appl.Phys., 31, 2155 (1992)」、「M. Schadt, H. Seiberle and A. Schuster : Nature, 381, 212(1996)」等に開示されている。
【0027】
〔液晶層〕
液晶層8は、棒状に形成されたゲストホスト液晶組成物8A及び二色性色素組成物8Bによるゲストホスト液晶の溶液により形成され、この種の調光フィルム1に適用可能な各種の液晶層材料を広く適用することができる。
【0028】
調光フィルム1は、透明電極11、16への印加電圧の変更により液晶層8の電界が変化し、垂直配向と水平配向とでゲストホスト液晶組成物8Aの配向を変化させる。調光フィルム1は、このゲストホスト液晶組成物8Aの配向の変化に連動して、その長軸方向の向きが液晶層8の厚み方向と厚み方向と直交する方向とで変化する二色性色素組成物8Bにより入射光の透過を制御する。
【0029】
調光フィルム1は、ゲストホスト液晶組成物にいわゆるポジ型の液晶組成物を適用して、液晶層8への無電界時、ゲストホスト液晶組成物を垂直配向(調光フィルムの厚み方向に配向)させ、液晶層8の電界印加時にゲストホスト液晶組成物を水平配向(調光フィルムの厚み方向に直交する方向に配向)させ、これによりいわゆるノーマリーホワイトにより構成される。
なお、調光フィルム1は、ゲストホスト液晶組成物にいわゆるネガ型の液晶組成物を適用して、液晶層8への無電界時、ゲストホスト液晶組成物を水平配向させ、液晶層8の電界印加時にゲストホスト液晶組成物を垂直配向させ、これによりいわゆるノーマリーブラックにより構成されるようにしてもよい。
また、これらの水平配向時において液晶組成物を旋回させてもよく、これらによりVA方式、TN方式等、種々の駆動方式を広く適用することができる。
ここで、VA(Vertical Alignment)方式とは、無電界時、液晶層8の液晶分子は垂直配向し、これにより調光フィルム1は、入射光を透過して透過状態となる。また、TN(Twisted Nematic)方式とは、電界の印加により、液晶分子の配向を垂直方向(厚み方向)と水平ねじれ方向とで変化させて透過光量を制御する方式である。
【0030】
〔シール材〕
調光フィルム1は、液晶層8を囲むように、シール材19が配置され、このシール材19により上側積層体5U、下側積層体5Dが一体に保持され、液晶材料の漏出が防止される。
【0031】
上述の調光フィルム(調光部材)は、構造体の外側から太陽光等の外光が入射する部位に配置され、構造体内に入射する光量を制限するために用いられる。ここで、構造体とは、自動車、列車等の車両、船舶、航空機により代表される移動体や、ビル、家屋等により代表される建築物、室内等で使用されるパーテーション(仕切り板)等の光の透過を目的とした開口部を有するものをいう。
本実施形態では、調光フィルム1が構造体の一例である車両(乗用車)に配置される例で説明するが、これに限定されるものでなく、建築物等のその他の構造体に適用されるようにしてもよい。
【0032】
〔車両〕
図2は、第1実施形態の調光フィルムが配置された車両を説明する図である。
図2は、車両を鉛直上方から見た図である。
本実施形態の車両20は、乗用車であり、搭乗者が乗車している部位に向かって外光が入射する部位に調光フィルム1が配置される。
具体的には、車両20は、
図2に示すように、車内に光を入射させる部位として、フロントウインドウ21、リアウインドウ22、サイドウインドウ23が設けられており、各ウインドウに調光フィルム1が貼り付けられて配置される。
なお、車両20は、乗用車に代えて、トラックや、バス等の車両に適用してもよい。
【0033】
フロントウインドウ21、リアウインドウ22、サイドウインドウ23に配置された各調光フィルム1は、それぞれ個別に不図示の駆動用電源に接続され、個別に電圧が印加されるように構成されている。これにより車両20は、各ウインドウ21、22、23の透過光を個別に調整することができる。
【0034】
なお、調光フィルム1は、各ウインドウ21、22、23の車内側より粘着剤等に貼り付けて配置される。実用上十分な耐候性等の信頼性を確保することができる場合、車外側より貼り付けて配置されるようにしてもよい。また、これらウインドウを合わせガラスにより構成して、合わせガラスの中間材として調光フィルムを適用してもよい。
【0035】
ここで、調光フィルム1に設けられるゲストホスト方式の液晶層8は、二色性色素組成物8Bが基材の平面に対して水平方向に並んでいる場合、偏光板としての機能を有する。
各ウインドウに設けられた調光フィルム1は、車両20の水平方向に対して16度以下、より好ましくは15度以下の方向に液晶層8の吸収軸の方向が配置される。
ここで、液晶層8の吸収軸の方向とは、透過率が最少となる液晶層8の厚み方向に直交する面内における二色性色素組成物8Bの長軸方向をいい、水平配向(調光フィルムの厚み方向に直交する方向に配向)時において液晶組成物が旋回している場合、液晶層8の外光の入射側に位置する二色性色素組成物8Bの長軸方向をいう。より具体的には、液晶層8の吸収軸の方向とは、液晶層8に直線偏光板を重ねた場合に、最も透過率が低くなる状態における直線偏光板の透過軸の方向と一致する方向をいう。
【0036】
図3は、調光フィルムの遮光状態における透過率と二色性色素組成物8Bの長軸方向の傾きとの関係を示す図である。ここで、
図3中の縦軸は、調光フィルムの透過率を示し、横軸は、二色性色素組成物8Bの長軸方向の傾きを示す。
ここで、
図3は、調光フィルム1の一方向から直線偏光による計測光を入射し、調光フィルムの遮光状態における透過率の変化を計測した計測結果である。この計測では、計測光を水平偏光とし、調光フィルム1を徐々に計測光に平行な軸周りに傾けて透過率を計測した。
図3に示す横軸は、調光フィルム1の入射面側における二色性色素組成物8Bの長軸方向の垂直方向に対する傾きを示すものである。
【0037】
なお、本計測に用いた液晶層8は、ゲストホスト方式の液晶(無電解時に遮光状態となるノーマリーブラック)を適用し、厚み9.0μmにより作製されている。また、電圧を印加することで水平配向状態から垂直配向状態にゲストホスト液晶組成物を駆動するようにし、水平配向状態におけるゲストホスト液晶組成物8Aの旋回角は、360度とした。
調光フィルム1は、液晶層8の計測光が入射する側の配向層のラビング方向が吸収軸の方向となるように配置される。また、調光フィルム1は、少なくとも液晶セル8の計測光が入射する側では、遮光状態における二色性色素組成物8Bの長軸方向が、配向層のラビング方向に一致する。
【0038】
この計測結果によれば、
図3に示すように、遮光状態において、調光フィルム1は、入射光の偏光面に応じて透過率が変化することが確認される。
また、
図3の符号bに示すように、入射面側において、二色性色素組成物8Bの長軸方向が偏光面である場合に、最も透過率が低くなり、二色性色素組成物8Bの長軸方向が、水平方向(垂直方向に対して90度)である場合に、透過率が最も低くなる吸収軸方向であることが分かる。
また、
図3の符号aに示すように、入射面側において、この吸収軸方向と直交する方向が偏光面である場合に、最も透過率が高くなり、この直交する方向(垂直方向)が、透過率が最も高くなる透過軸であることが分かる。
【0039】
ここで、車両20に到来する外光は、直射日光だけでなく、地面や、周囲の建造物により反射した反射光が含まれており、この反射光は垂直偏光成分に比して水平偏光成分が多く含まれている。
そのため、本実施形態のように、液晶層8の吸収軸の方向が、車両20の水平方向に対して16度以下、より好ましくは15度以下の方向に配置すれば、遮光状態における透過光量を低減することができる。また、より好ましくは、液晶層8の吸収軸の方向を、車両20の水平方向に完全に一致するように配置すれば、遮光状態における透過光量をより効率よく低減することができる。
ここで、液晶層8の吸収軸の方向を、車両の水平方向に対して16度以下とすれば調光フィルムの透過率の変化をほぼ一定(透過率の変化率(水平方向における透過率に対する透過率の変化率)を10%以下)に保つことができるが、車両の水平方向に対して16度よりも大きくした場合、調光フィルムの透過率の変化が大きくなってしまうので望ましくない。
これにより、本実施形態では、ゲストホスト方式による調光フィルムを使用する場合に、従来に比してより効果的に遮光状態の透過光量を低減することができる。
【0040】
また、このために、少なくとも液晶層8の外光が入射する側では、遮光状態における二色性色素組成物8Bの長軸方向を、水平方向に対して16度以下の方向に設定すれば、種々の駆動方式によりゲストホスト液晶組成物8Aを駆動して、ゲストホスト液晶組成物8Aが液晶層8の厚み方向で旋回している場合等にあっても、液晶層8の吸収軸の方向を、水平方向に対して16度以下の方向に設定することができる。
【0041】
本実施形態の調光フィルム1は、車両20の各ウインドウ21~23に以下のようにして配置される。
調光フィルム1は、車両20のフロントウインドウ21、リアウインドウ22においては、
図2中の矢印Aに示すように、液晶層8の吸収軸方向が車幅方向であるようにして配置される。
また、調光フィルム1は、サイドウインドウ23においては、
図2中の矢印Bに示すように、液晶層8の吸収軸方向が車両20の前後方向であるようにして配置される。
【0042】
上述のように、車両20の各ウインドウ21~23に調光フィルム1を配置することによって、調光フィルム1の遮光状態において、車両20の外部から入射する光のうち、特に地面や、構造物に反射した反射光に多く含まれる水平偏光成分の光をより効率よく吸収することができ、車内への透過光量をより効果的に低減することができる。
なお、調光フィルム1は、フロントウインドウ21、リアウインドウ22、サイドウインドウ23の何れか一か所又は複数個所に選択的に配置してもよく、また、サンルーフや、サンバイザーに配置するようにしてもよい。
【0043】
(1)本実施形態では、ゲストホスト液晶組成物8A、二色性色素組成物8Bによる液晶層8を備えた調光フィルム1を、車両20(構造体)の水平方向に対して16度以下の方向に液晶層8の吸収軸が配置されているので、従来に比して、調光フィルム1の遮光状態における透過光量をより効果的に低減することができる。
【0044】
(2)また、このとき、少なくとも液晶層8の外光が入射する側において、遮光状態における二色性色素組成物8Bの長軸方向が、車両20(構造物)の水平方向に対して16度以下の方向であるので、ゲストホスト液晶組成物8Aが液晶層8の厚み方向で旋回している場合等であっても、より確実に調光フィルム1の遮光状態における透過光量を低減することができる。
【0045】
〔第2実施形態〕
次に、第2実施形態について説明する。
図4は、第2実施形態の調光フィルムが配置された建築物を説明する図である。
図4は、調光フィルムが配置された建築物の断面を示す図である。
図4中のX方向は、建築物の水平方向であり、Z方向は、建築物の垂直(鉛直)方向である。
なお、以下の説明及び図面において、前述した第1実施形態と同様の機能を果たす部分には、同一の符号又は末尾に同一の符号を付して、重複する説明を適宜省略する。
本実施形態では、調光フィルム1は、構造体として建築物30に配置されている。具体的には、調光フィルム1は、室内に外光が入射する部位となる建築物30の開口部である窓ガラス31に配置される。
なお、調光フィルム1は、ガラス、透明アクリル板等の透明板材を使用したドア等に配置するようにしてもよい。また、調光フィルム1は、実用上十分な耐候性等の信頼性を確保することができる場合、窓ガラス31の屋外側に貼り付けるようにしてもよく、また、合わせガラスの中間材に適用して配置するようにしてもよい。
【0046】
また、調光フィルム1は、液晶層8の吸収軸の方向が、建築物30の水平方向に対して16度以下の方向に配置される。
そのため、調光フィルム1は、遮光状態において、少なくとも液晶層8の外光が入射する側(建築物30の外側)では、二色性色素組成物8Bの長軸方向が、建築物30の水平方向に対して16度以下の方向になるようして配置される。
【0047】
これにより建築物30は、上述の第1実施形態と同様に、従来に比してより効果的に調光フィルム1の遮光状態における透過光量を低減することができる。
【0048】
〔第3実施形態〕
図5は第3実施形態の調光フィルムの構成を説明する断面図である。
なお、以下の説明及び図面において、前述した第1実施形態と同様の機能を果たす部分には、同一の符号又は末尾に同一の符号を付して、重複する説明を適宜省略する。
この実施形態では、調光フィルム1に代えて、この調光フィルム41が、移動体や建築物等の構造体に適用される点を除いて、第1実施形態又は第2実施形態と同一に構成される。
【0049】
この調光フィルム41は、液晶セル4に偏光子42が積層される。
偏光子42は、液晶セル4と同一に構成され、遮光状態において、ゲストホスト液晶組成物48Aが一方向に水平配向するように駆動され、また透光状態において、ゲストホスト液晶組成物48Aが垂直配向するように駆動される。
ここで、偏光子42は、ゲストホスト液晶組成物48Aが一方向に水平配向した場合に、偏光子としての光学的機能を発揮することになる。
【0050】
調光フィルム41は、外光が入射する側(構造体の外側)に液晶セル4が位置し、構造体の内側に液晶セル42が位置するようにして配置される。また、少なくとも液晶層8の外光が入射する側では、二色性色素組成物8Bの長軸方向が、構造体の水平方向に対して16度以下の方向になるようにして配置される。これにより、液晶セル4の液晶層8について、吸収軸の方向が水平方向に対して16度以下の方向になるようにして配置される。
【0051】
また、液晶セル48は、外光が入射する側の二色性色素組成物48Bの長軸方向が、液晶セル8の外光が出射する側(構造物の内側)に位置する二色性色素組成物8Bと直交するようにして配置される。
これにより、調光フィルム41では、遮光状態と透光状態とで、十分な光量の差を確保することができる。
【0052】
以上より、液晶セル4にゲストホスト液晶による偏光子42を積層して配置する場合でも、第1実施形態、第2実施形態と同一の効果を得ることができる。
【0053】
〔第4実施形態〕
次に、第4実施形態について説明する。
図6は、第4実施形態の調光フィルムの構成を説明する断面図である。
なお、以下の説明及び図面において、前述した第1実施形態と同様の機能を果たす部分には、同一の符号又は末尾(下二桁)に同一の符号を付して、重複する説明を適宜省略する。
【0054】
本実施形態の調光フィルム101は、
図6に示すように、液晶層108に二色性色素が含有されていない点と、液晶セル104の表面及び裏面のそれぞれに直線偏光板102、103が設けられている点で、上述の第1実施形態の調光フィルム1と相違する。
【0055】
〔直線偏光板〕
直線偏光板102、103は、ポリビニルアルコール(PVA)にヨウ素等を含浸させた後、延伸して直線偏光板としての光学的機能を果たす光学機能層が形成され、TAC(トリアセチルセルロース)等の透明フィルム材による基材により光学機能層を挟持して作製される。直線偏光板102、103は、クロスニコル配置により、アクリル系透明粘着樹脂等による接着剤層により液晶セル104に配置される。なお、直線偏光板102、103には、クロスニコル配置に代えてパラレルニコル配置により配置してもよい。
【0056】
〔液晶セル〕
液晶セル104は、フィルム状の下側積層体105D及び上側積層体105Uにより液晶層8を挟持して構成される。
【0057】
〔下側積層体、上側積層体〕
下側積層体105Dは、基材106に、透明電極111、スペーサ112及び配向層113を配置して形成される。
上側積層体105Uは、基材115に、透明電極116及び配向層117を配置して形成される。調光フィルム101は、この上側積層体105U及び下側積層体105Dに設けられた透明電極111、116の駆動により、液晶層108に設けられた液晶組成物への電界を変化させて、入射した光の透過率を変化させることができる。
【0058】
〔基材〕
基材106、115は、種々の透明フィルム材を適用することができるが、光学異方性の小さなフィルム材を適用することが望ましい。本実施形態において、基材106、115は、厚み100μmのポリカーボネートフィルムが適用されるが、種々の厚みのフィルム材を適用することができ、さらにはCOP(シクロオレフィンポリマー)フィルム等を適用してもよい。
【0059】
〔透明電極〕
透明電極111、116は、この種のフィルム材に適用される各種の電極材料を適用することができ、本実施形態ではITO(Indium Tin Oxide)による透明電極材により形成される。
【0060】
〔スペーサ〕
スペーサ112は、液晶層108の厚みを規定するために設けられ、各種の樹脂材料を広く適用することができる。本実施形態では、スペーサ112は、フォトレジストにより作製され、基材106上に作製された透明電極111上に、フォトレジストを塗工して露光、現像することにより作製される。
なお、スペーサ112は、上側積層体105Uに設けてもよく、上側積層体105U及び下側積層体105Dの双方に設けてもよい。また、スペーサ112は、配向層113の上に設けるようにしてもよい。更に、スペーサ112は、上述のフォトレジストに限定されるものでなく、例えば、ビーズスペーサを適用してもよい。
【0061】
〔配向層〕
配向層113、117は、光配向層により形成される。光配向層に適用可能な光配向材料は、光配向の手法を適用可能な各種の材料を広く適用することができるが、本実施形態では、例えば光二量化型の材料を使用する。光二量化型の材料については、「M.Schadt、 K.Schmitt、 V. Kozinkov and V. Chigrinov : Jpn. J. Appl.Phys.、 31、 2155 (1992)」、「M. Schadt、 H. Seiberle and A. Schuster : Nature、 381、 212(1996)」等に開示されている。
なお、配向層113、117は、光配向層に代えて、例えば、ポリイミド樹脂層をラビング処理により作製したり、微細なライン状凹凸形状を賦型処理して作製したりしてもよい。
【0062】
〔液晶層〕
液晶層108は、この種の調光フィルム1に適用可能な各種の液晶層材料を広く適用することができる。具体的に、液晶層108には、例えば、メルク社製MLC2166等の液晶材料を適用することができる。
液晶セル104は、液晶層108を囲むように、シール材119が設けられている。液晶セル104は、このシール材119により上側積層体105U、下側積層体105Dが一体に保持され、液晶材料の漏出が防止される。
シール材119は、例えば、エポキシ樹脂、紫外線硬化性樹脂等を適用することができる。
【0063】
調光フィルム101は、透明電極111、116に、所定周期で極性が切り替わる交流電圧が印加され、この交流電圧により液晶層108に電界が形成される。また、この電界により液晶層108に設けられた液晶分子の配向が制御され、透過光が制御される。
【0064】
本実施形態の調光フィルム101における液晶層108の配向制御には、TN(Twisted Nematic)方式が適用される。TN方式では、電界の印加により、液晶層8の液晶分子を垂直配向(液晶層の厚み方向に配向)し、これにより調光フィルム101は、入射光を遮光する遮光状態となる。また、無電界時においては、液晶層108の液晶分子が水平配向(液晶層の厚み方向に交差(直交)する方向に配向)し、これにより、調光フィルム1は、入射光を透過する透光状態となる。
【0065】
なお、TN方式に代えて、VA方式(Vertical Alignment、垂直配向型)方式、IPS(In Plane Switching)方式等、種々の駆動方式を適用してもよい。
ここで、IPS方式は、一方の基材に電極をまとめて作成し、この電極による電界により配向させた液晶分子を基板に対して横(水平)方向に回転させることにより透過光量を制御する方式である。
また液晶セル104は、光配向層のパターンニング等によりいわゆるマルチドメイン方式により液晶材料を駆動してもよく、さらにはシングルドメインにより駆動してもよい。
【0066】
〔サンバイザー〕
図7は、第4実施形態の調光フィルムが配置されたサンバイザーを備えた車両を説明する図である。
図7(a)は、車両の室内を後部座席から前方側(運転席側)を見た図である。
図7(b)は、車両の室内を側方から見た部分断面図である。
図8は、サンバイザー122の厚み方向に平行な断面を示す図である。
サンバイザー122は、
図7(a)に示すように、車両(乗用車)120のフロントウインドウ121の運転席S1側及び助手席側のそれぞれに設けられる日よけである。
なお、以下の説明では、運転席S1に設けられるサンバイザー122について説明するが、助手席に設けられるサンバイザーについても同様である。
【0067】
サンバイザー122は、
図8に示すように、アクリル板等による平面視、略長方形形状の板状の透明部材129の一方の面の全面に、調光フィルム101が積層されている。
サンバイザー122は、
図7(a)に示すように、この透明部材129の一方の長辺側が、この長辺に沿って延長する棒状の保持部126に保持され、この保持部126の一端部が可動部材127により車両120のフロントウインドウ121の上端縁(天井)に移動可能に保持される。これにより、サンバイザー122は、
図7(b)に示すように、車両120の天井に沿うようにして配置される退避位置と、可動部材127により、搭乗者の前方において、フロントウインドウ121に対して任意の角度で配置される使用位置との間で移動することができる。
より具体的に、サンバイザー122は、可動部材127に設けられた不図示の回動軸を回動中心にして回動自在に構成され、透明部材129に設けられた調光フィルム101を所定の角度に傾けることができる。
【0068】
ここで、サンバイザー122は、
図7(b)に示す使用位置の状態において、透明部材129が最も車内側に位置し、調光フィルム101が車外側(フロントウインドウ121側)に位置するように配置される例で説明するが、これに限定されるものでなく、透明部材129が車外側に位置し、調光フィルム101が車内側に位置するように配置されるようにしてもよい。
本実施形態の調光フィルム101は、
図8に示すように、直線偏光板103側の面が透明部材129に貼付され、サンバイザー122の使用位置の状態において、直線偏光板102(偏光部材)が、最も車外側に位置する。
また、調光フィルム101は、この最も車外側(外光が入射する側)に位置する直線偏光板102の吸収軸の方向が、車両20の水平方向に対して15度以下となるように配置される。
【0069】
なお、調光フィルム101は、サンバイザー122だけでなく、フロントウインドウ121や、リアウインドウ、サイドウインドウの何れか一か所又は複数個所に選択的に配置されるようにしてもよい。
【0070】
ここで、車両120に到来する外光は、直射日光だけでなく、地面や、周囲の建造物により反射した反射光が含まれており、この反射光は垂直偏光成分に比して水平偏光成分が多く含まれている。
そのため、調光フィルム101の車外側(車両120の外側)に位置する直線偏光板102の吸収軸の方向が、例えば、鉛直方向に配置されている場合、車外から入射する外光のうち、上述の反射光等の水平偏光成分の光は、調光フィルム101が遮光状態においてもその一部が透過してしまう可能性がある。
【0071】
しかしながら、本実施形態のように、調光フィルム101の車外側の直線偏光板102の吸収軸の方向が、車両120の水平方向に対して15度以下となるように調光フィルム101をサンバイザー122に配置することによって、遮光状態における調光フィルム101に入射する光のうち、水平偏光成分の光の大部分を車外側の直線偏光板102により吸収することができ、上述の場合に比して、遮光状態における車内側へ入射してしまう外光の光量を低減することができる。また、本実施形態の調光フィルム101は、直線偏光板102によって水平偏光成分の吸収率が、上述の第1実施形態の調光フィルム1に比して高くなるので、水平偏光成分を多く含む反射光等によるギラツキを上述の第1実施形態の調光フィルム1に比して効果的に抑制することができる。
更に、本実施形態の調光フィルム101は、透光状態においても、サンバイザー122に入射する水平偏光成分の光の大部分を直線偏光板102により吸収することができ、外界の反射光による車両120の運転手等に眩しさを感じさせてしまうのを大幅に少なくすることができる。
なお、上述の効果をより向上させる観点から、調光フィルム101の車外側の直線偏光板102の吸収軸の方向は、車両120の水平方向に一致させることが好ましい。
以上より、本実施形態の調光フィルム101は、遮光状態及び透光状態において、車両120(構造体)の外側から入射する外光の入射光量を低減することができる。
【0072】
図9は、透光状態における調光フィルムの車外側の直線偏光板の吸収軸を車両の水平方向に対して変化させた場合の光の透過状態を車内側から撮影した写真である。
図9(a)は、車外側の直線偏光板102の吸収軸の方向が、車両120の水平方向に対して垂直な状態における光の透過状態を示す写真であり、
図9(b)は、車外側の直線偏光板102の吸収軸の方向が、車両120の水平方向に対して平行な状態における光の透過状態を示す写真である。なお、
図9に示す調光フィルムは、TN方式の液晶層を備えている。
車外側の直線偏光板102の吸収軸の方向が、車両120の水平方向に対して垂直な状態である場合、
図9(a)に示すように、反射光等の水平偏光成分の光が透過してしまい、その光が反射光の強い部分でギラツキとして視認されてしまう。
これに対して、本実施形態のように、車外側の直線偏光板102の吸収軸の方向が、車両120の水平方向に対して水平な状態である場合、
図9(b)に示すように、反射光等の水平偏光成分の光が吸収されるため、
図9(a)に示すような反射光によるギラツキを大幅に低減することができ、車内側から反射光による眩しさを感じさせてしまうのを抑制することができる。
【0073】
次に、車外側に位置する直線偏光板102の吸収軸の方向を変化させた場合における、調光フィルム101の透過率の変化の評価結果について説明する。
図10は、TN方式の液晶層108を用いた調光フィルム101に水平偏光成分の光を入射した場合において、方位角に対する調光フィルム101の透過率の変化を示す図であり、縦軸が透過率であり、横軸が方位角を示している。
図10(a)は、TN方式の液晶層に電圧を印加してお
らず、透過率が最も低くなる遮光状態の結果であり、
図10(b)は、液晶層に電圧印加してお
り、透過率が最も高くなる透光状態の結果である。
図10の各図中において、車外側の直線偏光板102の吸収軸の方向を、車両の鉛直方向に対して0度~90度までの間を30度毎に変化させたグラフを示している。また、
図10の各図は、各方位角における極角60度の方向(調光フィルムの厚み方向(法線方向)から60度傾斜した方向)から測定した透過率を示している。ここで、方位角とは、調光フィルムの面内方向における調光フィルムの中心からの観察角度をいう。例えば、調光フィルムが矩形形状の場合、一辺の中点から中心に向かう方向を方位角0度としたときに、その一辺に対向する辺の中点から中心に向かう方向が方位角180度(-180度)となり、その一辺に隣接する2辺それぞれの中点から中心に向かう方向が、方位角90度、方位角-90度となる。なお、後述の
図12の方位角、極角についても同様である。
図11は、
図10(a)に示す遮光状態における調光フィルムの車外側の直線偏光板の吸収軸の向きと、全方位角の積算透過性との関係を示す図であり、縦軸が、各方位角の透過率を積算した積算透過性(%・度)を示し、横軸が、車外側の直線偏光板102の車両の鉛直方向に対する角度を示す。
【0074】
図12は、VA方式の液晶層108を用いた調光フィルム101に水平偏光成分の光を入射した場合において、方位角に対する調光フィルム101の透過率の変化を示す図であり、縦軸が透過率であり、横軸が方位角を示している。
図12(a)は、VA方式の液晶層に電圧を印加しておらず、透過率が最も低くなる遮光状態の結果であり、
図12(b)は、液晶層に電圧印加しており、透過率が最も高くなる透光状態の結果である。
図12の各図中において、車外側の直線偏光板102の吸収軸の方向を、車両の鉛直方向に対して0度~90度までの間を30度毎に変化させたグラフを示している。また、
図12の各図は、極角60度の方向(調光フィルムの厚み方向(法線方向)から60度傾斜した方向)から測定した透過率を示している。
図13は、
図12(a)に示す遮光状態における調光フィルムの車外側の直線偏光板の吸収軸の向きと、全方位角の積算透過性との関係を示す図であり、縦軸が、各方位角の透過率を積算した積算透過性(%・度)を示し、横軸が、車外側の直線偏光板102の車両の鉛直方向に対する角度を示す。
【0075】
TN方式の調光フィルム101が遮光状態において、
図10(a)に示すように、車外側の直線偏光板102の吸収軸が、車両120の鉛直方向に対して0度(水平方向に対して90度)である場合、水平偏光成分の光の透過率は、一部の方位角において最大で約20%になり、車外側の直線偏光板102の吸収軸の傾きを、車両120の鉛直方向に対して増大(水平方向に対して減少)させることによって、透過率の最大値が低下する傾向となる。そして、車外側の直線偏光板102の吸収軸を車両の鉛直方向に対して90度(水平方向に対して0度)にした場合、水平偏光成分の光の透過率は、最大でも2%程度となり、全方位に渡って水平偏光成分の光が安定的に吸収されるのが確認された。
また、TN方式の調光フィルム101が透光状態においても同様に、
図10(b)に示すように、車外側の直線偏光板102の吸収軸を車両の鉛直方向に対して90度(水平方向に対して0度)にした場合、水平偏光成分の光の透過率は、直線偏光板の他の配置角度に比して、安定的に低くなり、全方位に渡って水平偏光成分の光が吸収されるのが確認された。
【0076】
図11に示す直線偏光板102の吸収軸の方向と、積算透過性との関係においては、車外側の直線偏光板102の吸収軸が、水平方向(
図11中の90度)に近くなるにつれて水平偏光成分の光の積算透過率が低下することが確認できる。ここで、直線偏光板102の吸収軸が水平方向(鉛直方向に対して90度)の場合に、積算透過性が下限値となるが、この積算透過性の下限値の5倍以内であれば、十分に水平偏光成分の光を吸収することができる。そのため、積算透過性の下限値の5倍以内となる直線偏光板の吸収軸の傾きを、
図11に示す近似線(
図11中の破線(yとxの関係式))より求めると、直線偏光板102の吸収軸は、水平方向に対して15度以内であれば、水平偏光成分の光を十分に吸収することができる。
仮に、調光フィルム101の車外側の直線偏光板102の吸収軸の方向が、車両120の水平方向に対して15度よりも大きい場合、遮光状態において調光フィルム101を介して車内に入射する水平偏光成分の光量が増えてしまい、車外から入射する外光を十分に遮光することができなくなる可能性があるため望ましくない。
なお、
図11中に記載のyとxとの関係式(y=-0.0968x
2-18.298x+2512.1)は、
図11中の破線により示す近似線を示す式であり、yが縦軸(積算透過性)を示し、xが横軸(外側の直線偏光板の吸収時の鉛直方向に対する角度)を示す。また、R
2は、
図11に示す測定点と、上述の近似線との相関係数を示すものであり、近似線の信頼性を評価する値である。
【0077】
また、VA方式の調光フィルム101が遮光状態において、
図12(a)に示すように、車外側の直線偏光板102の吸収軸が、車両120の鉛直方向に対して0度(水平方向に対して90度)である場合、水平偏光成分の光の透過率は、一部の方位角において最大で約0.4%になり、車外側の直線偏光板102の吸収軸の傾きを、車両120の鉛直方向に対して増大(水平方向に対して減少)させることによって、透過率の最大値が低下する傾向となる。そして、車外側の直線偏光板102の吸収軸を車両の鉛直方向に対して90度(水平方向に対して0度)にした場合、水平偏光成分の光の透過率は、最大でも0.03%程度となり、全方位に渡って水平偏光成分の光が安定的に吸収されるのが確認された。
また、VA方式の調光フィルム101が透光状態においても同様に、
図12(b)に示すように、車外側の直線偏光板102の吸収軸を車両の鉛直方向に対して90度(水平方向に対して0度)にした場合、水平偏光成分の光の透過率は、直線偏光板の他の配置角度に比して、低くなり、全方位に渡って水平偏光成分の光が吸収されるのが確認された。
【0078】
図13に示す直線偏光板の吸収軸の方向と、積算透過性との関係によって、車外側の直線偏光板102の吸収軸が、水平方向(
図13中の90度)に近くなるにつれて水平偏光成分の光の積算透過率が低下することが確認できる。ここで、直線偏光板102の吸収軸が水平方向(鉛直方向に対して90度)の場合に、積算透過性が下限値となるが、この積算透過性の下限値の5倍以内であれば、十分に水平偏光成分の光を吸収することができる。そのため、積算透過性の下限値の5倍以内となる直線偏光板の吸収軸の傾きを、
図13に示す近似線(
図13中の破線(yとxの関係式))より求めると、直線偏光板102の吸収軸は、水平方向に対して25度以内であれば、水平偏光成分の光を十分に吸収することができる。また、より効果的に上記効果を奏する観点から、直線偏光板102の吸収軸は、水平方向に対して15度以内に傾けることが好ましい。
仮に、調光フィルム101の車外側の直線偏光板102の吸収軸の方向が、車両120の水平方向に対して25度よりも大きい場合、遮光状態において調光フィルム101を介して車内に入射する水平偏光成分の光量が増えてしまい、車外から入射する外光を十分に遮光することができない場合があるため望ましくない。
なお、
図13中に記載のyとxとの関係式(y=-6×10
-5x
2-0.49x+46.955)は、
図13中の破線により示す近似線を示す式であり、yが縦軸(積算透過性)を示し、xが横軸(外側の直線偏光板の吸収時の鉛直方向に対する角度)を示す。また、R
2は、
図13に示す測定点と、上述の近似線との相関係数を示すものであり、近似線の信頼性を評価する値である。
【0079】
〔第5実施形態〕
図14は、第5実施形態の調光フィルムの構成を説明する図である。
なお、以下の説明及び図面において、前述した第4実施形態と同様の機能を果たす部分には、同一の符号又は末尾に同一の符号を付して、重複する説明を適宜省略する。
本実施形態の調光フィルム201は、液晶セル204の一方の面にのみ直線偏光板202が設けられている点で、上述の第1実施形態の調光フィルム1と相違する。
本実施形態の調光フィルム201は、直線偏光板202が、車両などの移動体や、建築物等の構造体の外側に位置し、液晶セル204が、構造体の内側に位置するようにして構造体に配置される。
【0080】
ここで、ゲストホスト方式の液晶層208の吸収軸は、上述の第1実施形態と同様に、構造体の水平方向に対して16度以下の範囲内となるように配置される。
また、本実施形態の調光フィルム201は、調光フィルム201の直線偏光板202の吸収軸が、構造体の水平方向に対して15度以下の範囲内となるように配置される。
【0081】
以上の構成により、本実施形態の調光フィルム201は、液晶層208の吸収軸が、構造体の水平方向に対して16度以下の方向に配置されているので、遮光状態における透過光量をより効果的に低減することができる。
また、本実施形態の調光フィルム201は、構造物の外側に配置された直線偏光板102の吸収軸が、構造体の水平方向に対して15度以下の範囲内に配置されているので、遮光状態における透過光量を、第1実施形態の場合に比して、効果的に低減することができるとともに、反射光によるギラツキを低減することができる。
更に、調光フィルム202は、透光状態においても、構造体に入射する水平偏光成分の光の大部分を直線偏光板202により吸収することができ、外界の反射光による構造体内に居る人物が眩しさを感じてしまうのを大幅に低減することができる。
【0082】
〔他の実施形態〕
以上、本発明の実施に好適な具体的な構成を詳述したが、本発明は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上述の実施形態の構成を種々に変更することができる。
【0083】
上述の各実施形態において、調光部材としてフィルム状の調光フィルムを適用する例を示したが、これに限定されるものでない。例えば、基材にガラス板等を用いた、フィルムのような可撓性を有さない調光部材を上述の移動体や、建築物等の構造体に配置するようにしてもよい。この場合、調光部材を、車両のウインドウや、建築物の窓ガラスに貼付する代わりに、調光部材そのものを車両のウインドウや、建築物の窓ガラスの代わりに配置するようにしてもよい。
【0084】
上述の第3実施形態では、偏光子をゲストホスト方式の液晶セルにより構成される例について説明したが、これに限定されるものでなく、直線偏光板により構成してもよい。
【符号の説明】
【0085】
1、41、101、201 調光フィルム
102、202 直線偏光板
103 直線偏光板
4、104、204 液晶セル
5U、105U、205U 上側積層体
5D、105D、205D 下側積層体
6、106、206 基材
15、115、215 基材
8、108、208 液晶層
11、111、211 透明電極
16、116、216 透明電極
12、112、212 スペーサ
13、113、213 配向層
17、117、217 配向層
19、119、219 シール材
20、120 車両
21 フロントウインドウ
22 リアウインドウ
23 サイドウインドウ
30 建築物
31 窓ガラス
42 偏光子
122 サンバイザー