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特許7536447低灰含量を有するポリオレフィン及び同ポリオレフィンを作製する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-09
(45)【発行日】2024-08-20
(54)【発明の名称】低灰含量を有するポリオレフィン及び同ポリオレフィンを作製する方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 10/00 20060101AFI20240813BHJP
   C08F 4/65 20060101ALI20240813BHJP
【FI】
C08F10/00
C08F4/65
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019531592
(86)(22)【出願日】2017-08-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-09-05
(86)【国際出願番号】 US2017049377
(87)【国際公開番号】W WO2018045030
(87)【国際公開日】2018-03-08
【審査請求日】2020-07-08
【審判番号】
【審判請求日】2022-07-06
(31)【優先権主張番号】62/381,070
(32)【優先日】2016-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】590001706
【氏名又は名称】ダブリュー・アール・グレース・アンド・カンパニー-コーン
【氏名又は名称原語表記】W R GRACE & CO-CONN
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ジャン・ウィレム・ヴァン・エグモンド
【合議体】
【審判長】近野 光知
【審判官】小出 直也
【審判官】岡谷 祐哉
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-514759(JP,A)
【文献】特表2014-525969(JP,A)
【文献】特開平6-236709(JP,A)
【文献】特開2008-133351(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 4/60-4/70, C08F 6/00-246/00, H01B 3/16-3/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィン又はオレフィンの混合物及び1つ又は複数の共重合性コモノマーを、重合条件下で、
遷移金属及びアルミニウム含有化合物を含み、アルミニウム対遷移金属の比が50未満である、1つ又は複数の重合触媒;並びに
ケイ素原子に結合したC1~C10アルコキシ基を少なくとも1つ有する少なくとも1つのケイ素含有化合物を含む選択性制御剤(SCA);及び
プロパノエートエステル、ブチレートエステル、バレレートエステル、ヘキサノエートエステル若しくはその不活性に置換された誘導体又はそれらの組み合わせを含む活性制限剤(ALA)を含む、外部電子供与体
を含み、
前記アルミニウム対前記外部電子供与体のモル比は2.5から9.5である触媒組成物と接触させる工程と;
全灰含量が5ppm未満である洗浄不要ポリマーを形成する工程と
を含む、重合方法。
【請求項2】
アルミニウム対遷移金属の比が25以下である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
生成されたポリマーの最終収量を供給された触媒の量で割ることにより計算した触媒生産性が200~500ton/kgである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ポリマーが、30~300ppbのチタン含量、1~50ppbのケイ素含量、0.2~6ppmのアルミニウム含量、又は0.1~1ppmのマグネシウム含量のうちの少なくとも1つを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
オレフィンがプロピレンである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
ポリマーが、ASTM D-1238-01に従って230℃で2.16質量kgのプロピレン系ポリマーを用いて測定して0.5g/10min~400g/10minのメルトフローを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
メルトフローが0.5g/10min~6g/10minである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
重合条件下でのオレフィン又はオレフィンの混合物及び1つ又は複数の共重合性コモノマーの接触が第1の重合反応器において行われて、活性オレフィン系ポリマーが形成され、
重合条件下で、第2の重合反応器において、前記活性オレフィン系ポリマーを少なくとも1つのオレフィンと接触させて、全灰含量が5ppm未満であるポリマーを形成する工程
を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記ポリマーがプロピレン系ポリマーである、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
電気コンポーネントを前記ポリマーでコーティングする工程を更に含む、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般にポリオレフィン合成の分野に関し、より詳細には、低灰含量を有するポリオレフィン及び重合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
商業的に、ポリオレフィンはZiegler-Natta重合触媒系を使用して合成される。これらの系は典型的には、任意選択の内部電子供与体と共に、遷移金属成分及びハロゲン化物成分を含む化学種を含む。更に、これらの系は共触媒、1つ又は複数の選択性制御剤(SCA)、及び任意選択により1つ又は複数の活性制限剤(ALA)を含んでいてもよい。特定のSCA及びALA、並びに重合系におけるそれらの機能は、米国特許第7,491,670号に記載され、その内容は参照により本明細書に組み込まれている。
【0003】
重合後、従来のポリオレフィンは典型的には、触媒残渣を除去し全灰含量を低下させるために使用前に洗浄され、これにより高純度ポリオレフィンが得られる。「灰」は、ポリオレフィンポリマーの生産で使用されるアルミニウム、触媒、共触媒、又は任意の添加剤、例えばチタン(Ti)及びマグネシウム(Mg)等の残渣を表す。しかしポリオレフィンの洗浄は、費用、時間がかかり、さらなる処理資源を必要とする。
【0004】
高純度ポリオレフィンは、いくつかの用途で非常に望ましい。例えば、触媒により生じる不純物が極度に減少した高純度ポリプロピレンは、5μm以下もの薄さのフィルムにすることができ、高性能コンデンサーに利用される。更に、高純度ポリプロピレンは、コンデンサーフィルムの原反シートとして又はコンデンサーフィルムの原料樹脂として使用するのに適している場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許第7,491,670号
【文献】米国特許第4,927,797号
【文献】米国特許第4,816,433号
【文献】米国特許第4,839,321号
【文献】米国特許第8,288,585号
【文献】米国特許第8,536,372号
【文献】米国特許第5,034,361号
【文献】米国特許第5,082,907号
【文献】米国特許第5,151,399号
【文献】米国特許第5,229,342号
【文献】米国特許第5,106,806号
【文献】米国特許第5,146,028号
【文献】米国特許第5,066,737号
【文献】米国特許第5,077,357号
【文献】米国特許第4,442,276号
【文献】米国特許第4,540,679号
【文献】米国特許第4,547,476号
【文献】米国特許第4,460,701号
【文献】米国特許第4,829,037号
【文献】米国特許第4,990,479号
【文献】米国特許第5,066,738号
【文献】米国特許第5,028,671号
【文献】米国特許第5,153,158号
【文献】米国特許第5,247,031号
【文献】米国特許第5,247,032号
【文献】米国特許第7,691,958号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、重合方法及び結果として得られる全灰含量の低いポリマーが必要とされている。洗浄手順を必要としないがやはり触媒残留物が許容可能な低さである、全灰含量の低いポリマーが更に望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の欠陥を克服するために、本発明の態様は低灰ポリオレフィン及び同ポリオレフィンを作製する方法に向けられている。
【0008】
本発明は、触媒生産性を著しく低下させずに触媒の寿命を増加させることにより残渣及び灰含量の低いポリマーが得られるという認識を前提としている。本発明の第1の実施形態は、低灰ポリオレフィンに向けられている。同じ又は異なる実施形態は、重合方法に向けられている。この重合方法は、オレフィン又はオレフィンの混合物及び1つ又は複数の共重合性コモノマーを、重合条件下で触媒組成物と接触させる工程と、全灰含量が15ppm未満であるポリマーを形成する工程とを含む。触媒組成物は、1つ又は複数の重合触媒と;ケイ素原子に結合した少なくとも1つのC1~C10アルコキシ基を有する少なくとも1つのケイ素含有化合物を含む選択性制御剤を含む混合外部電子供与体とを含む。触媒組成物は比較的低いアルミニウム対遷移金属比を有していてもよい。触媒組成物は、脂肪族C2~C7カルボン酸のC2~C13モノ又はポリカルボン酸エステル及びその不活性に置換された誘導体である1つ又は複数の作用剤化合物を含んでいてもよい。
【0009】
本発明の目的及び利点は、本明細書において示される以下の詳細な説明及び図面に照らして更に認識されることになる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
文脈から明確に別段の定義がされない限り、以下の詳細な説明及び特許請求の範囲に示される任意の範囲の値は、各終点並びに各整数又はその小数部分を列挙される範囲内に含む。更に、近似する言語は、それが関連する基本的機能の変化をもたらさずに変動し得る任意の定量的な表現を修飾するために使用されてもよい。したがって、「約」及び「実質的に」等の用語(1つ又は複数)によって修飾される値は、指定される正確な値に限定されなくてもよい。
【0011】
元素周期表へのすべての言及は、CRC Press, Inc.、2001が公開し著作権を有する元素周期表を指す。また、族(1つ又は複数)へのすべての言及は、族に番号を付けるためのIUPACシステムを使用してこの元素周期表において反映されるような族(1つ又は複数)とする。米国特許の実施を目的として、本明細書において参照される任意の特許、特許出願、又は出版物の内容は、特に当技術分野における合成技術、原料、及び一般知識の開示に関して、その全体が参照により本明細書に組み込まれる(又はその同等の米国版が参照によりそのように組み込まれる)。
【0012】
本明細書で使用する、用語「(ポリ)」は、任意選択により1つを超える、又は言い換えると、1つ又は複数を意味する。「脂肪族又は脂環式モノ又はポリカルボン酸」という用語は、炭素原子が芳香族環系の一部ではない炭素原子に結合している少なくとも1つのカルボン酸基を有する化合物を意味する。用語「芳香族」は、(4n+2)個のπ電子を有する多原子環系を指し、nは1以上の整数である。本明細書で使用される、用語「不活性」又は「不活性に置換された」とは、重合プロセスで使用される任意の他の成分又は試薬と更に相互作用しない、又は所望の重合プロセスに対して著しく悪影響を与えるような相互作用をしない、基又は置換基を指す。
【0013】
別段の指示がない限り又は当技術分野において従来、本明細書において使用されるすべての部及びパーセントは質量に基づく。用語「混合物」は、SCAに関して使用される場合、例えば、2つ以上のSCA成分及び任意選択により1つ又は複数のALA成分を、重合の少なくとも一部の間に同時に使用することを意味する。個々のSCAは、反応器へ別々に加えてもよく、又は予備混合して所望の混合物の形態で反応器へ加えてもよい。更に、触媒前駆体を含めた、重合混合物の他の成分を、混合物のSCAの1つ又は複数と混合してもよく、並びに/又は触媒前駆体、共触媒、及び一部のモノマーを任意選択により、反応器へ加える前に予備重合させてもよい。重合において多段反応器を採用する場合、異なる個々の成分(例えば、SCA及びALA)をいずれかの反応器で採用してもよいこと、及び本発明の混合物を多段反応器トレインのすべての反応器で採用する必要はないことを理解するべきである。同様の理解が、用語「混合物」の任意の他の記述に当てはまる。
【0014】
本明細書において出現する場合、用語「含む(comprising)」又はその派生語は、任意のさらなる成分、工程、又は手順の存在を、それが本明細書で開示されているかどうかに関わらず、除外することを意図していない。いかなる疑いも避けるために、本明細書において記載されるあらゆる組成物は、用語「含む(comprising)」の使用を通して、別段の指示がない限り、任意のさらなる添加剤、補助剤、又は化合物を含んでいてもよい。用語「含む(comprising)」及び「含む(including)」(又はその派生語)は、同意語であることを意図している。対照的に、用語「から本質的に成る」は、本明細書において出現する場合、任意の後に続く記述の範囲から、操作性において必須ではないもの以外の、任意の他の成分、工程、又は手順を除外する。用語「から成る」は、使用する場合、具体的に描写又は記載されていない任意の成分、工程、又は手順を除外する。用語「又は」は、別段の指定がない限り、記載される要素を個々に並びに任意の組み合わせで指す。
【0015】
本発明の実施形態は、全灰含量が低いオレフィン系ポリマーを製造する方法、及び低灰ポリマーに向けられている。用語「オレフィン系ポリマー」は、重合した形態で、ポリマーの総質量に対して大部分の質量パーセントのオレフィンを含有するポリマーである。オレフィン系ポリマーの非限定的な例としては、エチレン系ポリマー及びプロピレン系ポリマーが挙げられる。更に、重合において使用できるオレフィンの例は、2~20個の炭素原子を有するアルファオレフィン、例えばエチレン、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ペンテン、1-オクテン、1-ヘキセン、3-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-デセン、1-テトラデセン、1-エイコセン、及びビニルシクロヘキサン等である。これらのアルファオレフィンは、本開示に示される技術分野の業者にとって明らかであるように、個々に又は任意の組み合わせで使用してもよい。用語「灰」は、残留金属酸化物を含む(燃焼の過程で残留金属のすべてがそれらの酸化物に転化されたと仮定する)。例えば、灰は、アルミニウム、触媒、共触媒、又は任意の添加剤、例えばポリオレフィンポリマーの製造で使用されるチタン(Ti)及びマグネシウム(Mg)等の酸化物残渣を含む場合がある。灰はCl等の非金属残渣を含まない。
【0016】
本発明の例示的な実施形態によれば、オレフィン又はオレフィンを含む混合物の重合のための触媒組成物は、重合触媒と、SCAと、任意選択により1つ又は複数のALA化合物とを含む。SCA及びALA化合物は、混合外部電子供与体(MEED)の形態で組み合わされてもよい。SCAは、ケイ素原子に結合した少なくとも1つのC1~C10アルコキシ基を有する少なくとも1つのケイ素含有化合物を含んでいてもよい。ALA化合物は、脂肪族C2~C7カルボン酸のC2~C13モノ又はポリカルボン酸エステル及びその不活性に置換された誘導体でもよい。同様の触媒組成物は、米国特許第7,491,670号に開示されており、その内容は参照により本明細書に組み込まれている。
【0017】
SCAとして使用するための例示的なケイ素含有化合物としては、アルコキシシランが挙げられる。本明細書におけるSCAの混合物において使用するための適切なアルコキシシランは、一般式:SiRm(OR')4-mを有する化合物であり、式中、Rは出現する毎に独立に、水素、又は1つ若しくは複数の第14、15、16、若しくは17族ヘテロ原子を含有する1つ若しくは複数の置換基で任意選択により置換されたヒドロカルビル若しくはアミノ基であり、前記Rは、水素及びハロゲンを数えずに20個までの原子を含有し;R'はC1~C10アルキル基であり;mは0、1、2、又は3である。例えば、Rは、C6~C12アリール、アルキル、又はアラルキル、C3~C12シクロアリル、C3~C12分岐アルキル、又はC3~C12環状アミノ基であってもよく、R'は、C1~C4アリルであってもよく、mは1又は2であってもよい。本明細書において使用するためのアルコキシシランSCAの例としては、ジシクロペンチルジメトキシシラン、ジ-tert-ブチルジメトキシシラン、メチルシクロヘキシルジメトキシシラン、エチルシクロヘキシルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン、ジ-n-プロピルジメトキシシラン、ジイソブチルジメトキシシラン、ジ-n-ブチルジメトキシシラン、シクロペンチルトリメトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン(n-propytriethoxysilane)、エチルトリエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、シクロペンチルピロリジノジメトキシシラン、ビス(ピロリジノ)ジメトキシシラン、及びビス(パーヒドロイソキノリノ)ジ-メトキシシランが挙げられる。
【0018】
重合触媒の遷移金属のモルに対して採用されるSCA混合物の全モル量は、望ましくは0.1~500、又は0.5~100、又は1~50である。
【0019】
ALAは、脂肪族C2~C7カルボン酸のC2~C13モノ又はポリカルボン酸エステル及びその不活性に置換された誘導体である化合物であってもよい。例えば、ALAは、アセテートエステル、プロパノエートエステル、ブチレートエステル、バレレートエステル、又はヘキサノエートエステルを含んでいてもよい。適切なエステルとしては、ブチルバレレート(BV)、イソブチルブチレート(iBB)、プロピルブチレート(PB)、ペンチルバレレート(PV)、イソプロピルブチレート(iPB)、オクチルアセテート(OA)、ペンチルアセテート(PA)、プロピルアセテート(PrA)、ペンチルヘキサノエート(PH)、及びそれらの組み合わせを挙げることができる。
【0020】
任意選択のALAの量に関して、重合触媒の遷移金属のモルに対する対応するモル比は、1~10,000、又は2~1000、又は5~100であってもよい。
【0021】
例示的なSCA/ALA混合物は、1~99.9、又は30~99、又は50~98モルパーセントの1つ又は複数のALA化合物と、それに応じて、99~0.1、又は70~1、又は50~2モルパーセントの1つ又は複数のSCA化合物とを含むものであってもよい。例えば、SCA/ALAモル比は、約10mol%/90mol%又は約40mol%/60mol%であってもよい。
【0022】
本発明の例示的な実施形態によれば、オレフィン又はオレフィンを含む混合物の重合のための触媒組成物は、任意選択により触媒寿命向上剤(LEA)を含む。適切なLEAとしては、上記で活性制限剤であると記載される化合物が挙げられる。したがって、同じ化合物がALA及びLEAとして作用することができる。更に、MEEDはSCA及びLEAを含んでいてもよく、これはやはりALAとして作用するか又は作用しない場合がある。LEAはポリオレフィンの生産中に使用される触媒の寿命を向上させる。例えば、LEAは、寿命が短い触媒が、多くの直列の反応器を有しそのため滞留時間が長い重合プロセスにおいて使用されることを可能にする。触媒の寿命は、経時による触媒活性の減衰にフィッティングさせることができる、指数関数的減衰関数(e-kd.t)の指数関数的減衰定数(kd)を決定することにより、実験的に決定することができる。減衰定数から、触媒の寿命は以下の関係により決定される:
【0023】
【数1】
【0024】
LEAは、第2の反応器中の触媒の寿命を増加させ、そのため樹脂の粘着性の問題を引き起こすことがあるTEAlを使用せずによりゴム含量(Fc)の高いインパクトコポリマーを生産することを可能にすることによって、インパクトコポリマーの生産を改善する。更に、LEAは、長い滞留時間を使用することにより、非常に高い触媒生産性でのポリオレフィンの生産を可能にする。
【0025】
立体規則性の制御及び触媒結晶子の分粒の実現を助けるために、上記のSCA及びALA化合物に加えて、内部電子供与体を触媒組成物において使用してもよい。内部電子供与体の例としては、置換フェニレン芳香族ジエステル、ハロゲン化物、若しくは無水物、又はそれらの(ポリ)アルキルエーテル誘導体が挙げられる。例えば、内部電子供与体は、フタル酸若しくはテレフタル酸のC1~C4ジアルキルエステル、二塩化フタロイル、無水フタル酸、及び/又はそれらのC1~C4(ポリ)アルキルエーテル誘導体であってもよい。特定の実施形態において、内部電子供与体はジイソブチルフタレート又はジ-n-ブチルフタレートである。
【0026】
重合触媒が存在する場合、例示的な触媒としては、Ziegler-Natta触媒系が挙げられる。本発明で使用するためのZiegler-Natta触媒前駆体は、遷移金属化合物、例えば、チタン-、ジルコニウム-、クロム-、又はバナジウム-ヒドロカルビルオキシド、ヒドロカルビル、ハロゲン化物、又はそれらの混合物に由来する固体錯体と;第2族金属化合物、例えばハロゲン化マグネシウムとを含む。いくつかの実施形態において、前駆体は、ハロゲン化マグネシウム化合物上に支持されたハロゲン化チタンの混合物を含む。
【0027】
従来のZiegler-Natta、遷移金属化合物含有触媒前駆体のいずれかを本発明において使用できる。従来のZiegler-Natta触媒の触媒前駆体成分は、一般式TrXxの遷移金属化合物を、前述の第2族金属化合物と併せて含有していてもよく、式中、Trは遷移金属であり、Xはハロゲン又はC1~C10ヒドロカルボキシル又はヒドロカルビル基であり、xは化合物中のそのようなX基の数である。例えば、Trは第4、5、又は6族金属であってもよい。特定の実施形態において、Trはチタン等の第4族金属であってもよい。Xは、例えば、クロリド、ブロミド、C1~C4アルコキシド、又はフェノキシド、又はそれらの混合物であってもよい。例えば、Xはクロリドであってもよい。
【0028】
Ziegler-Natta触媒前駆体を形成するのに使用することができる適切な遷移金属化合物の実例は、TiCl4、ZrCl4、TiBr4、TiCl3、Ti(OC2H5)3Cl、Zr(OC2H5)3Cl、Ti(OC2H5)3Br、Ti(OC3H7)2Cl2、Ti(OC6H5)2Cl2、Zr(OC2H5)2Cl2、及びTi(OC2H5)Cl3である。そのような遷移金属化合物の混合物も使用してもよい。少なくとも1つの遷移金属化合物が存在する限り、遷移金属化合物の数についての制約は作られない。特定の実施形態において、遷移金属化合物はチタン化合物である。
【0029】
適切な第2族金属化合物の例としては、ハロゲン化マグネシウム、例えば塩化マグネシウム等、ジアルコキシマグネシウム、ハロゲン化アルコキシマグネシウム、オキシハロゲン化マグネシウム、ジアルキルマグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、マグネシウムのカルボン酸塩、塩化マグネシウム付加体、及びカルボキシル化マグネシウムジアルコキシド又はアリールオキシドが挙げられる。例えば、第2族金属化合物は、二塩化マグネシウム、又はジエトキシマグネシウム等のマグネシウムジ(C1~C4)アルコキシドであってもよい。
【0030】
更に、触媒前駆体はチタン部分を含んでいてもよい。チタン部分の適切な供給源としては、チタンアルコキシド、チタンアリールオキシド、及び/又はハロゲン化チタンが挙げられる。特定の実施形態において、触媒前駆体を調製するのに使用される化合物は、1つ又は複数のマグネシウム-ジ(C1~C4)アルコキシド、二ハロゲン化マグネシウム、マグネシウムアルコキシハロゲン化物(magnesiumalkoxyhahdes)、又はそれらの混合物、及び1つ又は複数のチタンテトラ(C1~4)アルコキシド、四ハロゲン化チタン、チタン(C1~4)アルコキシハロゲン化物、又はそれらの混合物を含んでいてもよい。
【0031】
本発明で使用することができる例示的なZiegler-Natta触媒前駆体は、米国特許第4,927,797号;第4,816,433号;第4,839,321号;第8,288,585号;及び第8,536,372号において開示され、その内容は参照により本明細書に組み込まれている。そこでは、(i)通常の温度で液体である芳香族炭化水素中にジアルコキシマグネシウムを懸濁させ、(ii)ジアルコキシマグネシウムをハロゲン化チタンと接触させ、更に(iii)得られる組成物を2回目にハロゲン化チタンと接触させ、(ii)におけるハロゲン化チタンによる処理の間のある時点でジアルコキシマグネシウムを芳香族ジカルボン酸のジエステルと接触させることにより得られる、固体触媒成分を含む触媒前駆体が記載されている。
【0032】
本発明の触媒前駆体を調製するのに使用される前駆体化合物を作製する様々な方法は、当技術分野において知られている。これらの方法は、例えば米国特許第5,034,361号;第5,082,907号;第5,151,399号;第5,229,342号;第5,106,806号;第5,146,028号;第5,066,737号;第5,077,357号;第4,442,276号;第4,540,679号;第4,547,476号;第4,460,701号;第4,816,433号;第4,829,037号;第4,927,797号;第4,990,479号;第5,066,738号;第5,028,671号;第5,153,158号;第5,247,031号;第5,247,032号に記載され、それらのすべての内容は参照により本明細書等に組み込まれている。特定の実施形態において、調製は、前述の混合マグネシウム化合物、チタン化合物、又はそれらの混合物の塩素化を伴い、固体/固体メタセシスにより特定の組成物の形成又は可溶化を助ける「クリッピング剤(clipping agents)」と呼ばれる1つ又は複数の化合物の使用を伴うことがある。適切なクリッピング剤の例としては、トイアルキルボレート、例えばトリエチルボレート、フェノール化合物、例えばクレゾール、及びシランが挙げられる。
【0033】
本明細書における使用のための例示的な前駆体は、式MgdTi(ORe)eXfの混合マグネシウム/チタン化合物であり、式中、Reは1~14個の炭素原子を有する脂肪族若しくは芳香族炭化水素基又はCOR'であり、R'は1~14個の炭素原子を有する脂肪族又は芳香族炭化水素基であり;各ORe基は同じ又は異なっており;Xは独立に塩素、臭素、又はヨウ素であり;dは0.5~5、又は2~4、又は3であり;eは2~12、又は6~10、又は8であり;fは1~10、又は1~3、又は2である。前駆体は、望ましいモルフォロジー及び表面積を有し、それらの調製で使用される反応混合物からアルコールを除去することによる制御された析出によって調製されてもよい。例示的な反応媒体は、芳香族液体、例えばクロロベンゼン等の塩素化芳香族化合物と、エタノール等のアルカノール、及び無機塩素化剤との混合物を含む。適切な無機塩素化剤としては、ケイ素、アルミニウム、及びチタンの塩素誘導体、例えば四塩化チタン又は三塩化チタン等を含む。得られる前駆体は、均一な粒径を有し、得られる触媒前駆体の粒子崩壊及び劣化に対して耐性を有することが可能である。
【0034】
前駆体は次に、ハロゲン化チタン化合物等の無機ハロゲン化物化合物によるさらなる反応(ハロゲン化)、及び内部電子供与体の取り込みによって、固体触媒前駆体へ転化させることができる。前駆体中にまだ十分量が取り込まれていない場合、電子供与体をハロゲン化の前、間、又は後で別個に加えてもよい。任意選択によりさらなる添加剤又は補助剤の存在下で、この手順を1回又は複数回繰り返してもよく、最終固体生成物を脂肪族溶媒で洗浄してもよい。
【0035】
前駆体をハロゲン化する適切な方法は、任意選択により炭化水素又はハロ炭化水素希釈剤の存在下で、前駆体を高温でハロゲン化四価チタンと反応させることによるものであってもよい。例示的な四価チタンハロゲン化物は四塩化チタンである。オレフィン重合触媒前駆体の製造で採用される任意選択の炭化水素又はハロ炭化水素溶媒は、12個以下の炭素原子、例えば9個以下の炭素原子を含有していてもよい。例示的な炭化水素としては、ペンタン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、アルキルベンゼン、及びデカヒドロナフタレンが挙げられる。例示的な脂肪族ハロ炭化水素としては、塩化メチレン、臭化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2-ジブロモエタン、1,1,2-トリクロロエタン、トリクロロシクロヘキサン、ジクロロフルオロメタン、及びテトラクロロオクタンが挙げられる。例示的な芳香族ハロ炭化水素としては、クロロベンゼン、ブロモベンゼン、ジクロロベンゼン、及びクロロトルエンが挙げられる。特定の実施形態において、脂肪族ハロ炭化水素は、少なくとも2つのクロリド置換基を有する化合物、例えば四塩化炭素及び1,1,2-トリクロロエタン等であってもよい。特定の実施形態において、芳香族ハロ炭化水素は、クロロベンゼン及び/又はo-クロロトルエンであってもよい。
【0036】
ハロゲン化は、1回又は複数回繰り返してもよく、任意選択によりハロゲン化とそれに続く最終のハロゲン化の間で、不活性液体による、例えば脂肪族又は芳香族炭化水素又はハロ炭化水素等による洗浄を伴う。更に、TiCl4等の不安定な種を除去するために、任意選択により100℃を超える、例えば110℃を超える高温で、脂肪族又は芳香族炭化水素等の不活性液体希釈剤との接触を伴う1回又は複数回の抽出を任意選択により採用してもよい。
【0037】
前述のものは、固体触媒前駆体を作製する例示的な方法であり、固体触媒前駆体を作製、回収、及び保存する任意の方法は、本発明での使用に適したものとすることができる。
【0038】
Ziegler-Natta遷移金属触媒は、必要に応じて不活性支持材料も含んでいてもよい。支持体は遷移金属化合物の触媒性能を悪い方向へ変化させない不活性固体であってもよい。例としては、金属酸化物、例えばアルミナ等、及び半金属酸化物、例えばシリカ等を挙げることができる。
【0039】
本発明の特定の実施形態による前述のZiegler-Natta触媒と共に使用するための共触媒としては、アルミニウム含有化合物、例えば有機アルミニウム化合物等を挙げることができる。例示的な有機アルミニウム化合物としては、各アルキル又はアルコキシド基中に1~10個の炭素原子、又は1~6個の炭素原子を有する、トリアルキルアルミニウム、ジアルキルアルミニウムヒドリド、アルキルアルミニウムジヒドリド、ジアルキルアルミニウムハライド、アルキルアルミニウムジハライド、ジアルキルアルミニウムアルコキシド、及びアルキルアルミニウムジアルコキシド化合物が挙げられる。例示的な共触媒としては、C1~C4トリアルキルアルミニウム化合物、例えばトリエチルアルミニウム(TEAl)等が挙げられる。
【0040】
アルミニウム含有化合物及び遷移金属(TR)の両方を含む本発明の実施形態において、Al/Tr比の低下によって、触媒生産性の著しい低下を伴わずに低灰含量を有するポリマーを生産することができる。Al/Tr比は、50未満、10~50、20~30、約25、又は約25以下であってもよい。一実施形態において、遷移金属はチタンであり、Al/Ti比は約25である。本発明の様々な実施形態は、ALA/LEA化合物を含むプロセスにおいて低下させたAl/Tr比を含み、ALA/LEA化合物を使用しないプロセスにおいて低下させたAl/Tr比を含む。
【0041】
更に、Al/混合外部供与体のモル供給比は5を超えていてもよいが、シラン/混合外部供与体のモル供給比は0.2未満であってもよい。
【0042】
更に、本発明の実施形態に従って作られたポリマーは、低残渣及び低灰含量を含むものとなり得る。そのようなポリマーは洗浄不要ポリマーと呼ぶことができる。比較的低いAl/Tr比を使用して作られたポリマーの灰含量は、15ppm未満、10ppm未満、5ppm未満、又は1~5ppmとなり得る。チタン残渣等の遷移金属残渣は、0.3ppm未満、約0.1ppm以下、又は0.03ppm~0.3ppmとなり得る。アルミニウム残渣は2ppm未満、又は1.5ppm未満となり得る。触媒生産性は200~1,000ton/kg、200~500ton/kg、300~500ton/kg、400~500ton/kg、500~1,000ton/kg、又は700~1,000ton/kgとなり得る。
【0043】
本発明の別の態様において、洗浄不要ポリプロピレンは、シート又はフィルム、例えばコンデンサーフィルム等を形成させるための出発物質として使用してもよい。そのような実施形態において、添加剤、例えば抗酸化剤、紫外線吸収剤、金属石けん、安定化剤(塩酸吸収剤等)、潤滑剤、可塑剤、難燃剤、及び静電防止剤等を加えてもよい。コンデンサーフィルムを調製する適切な方法は、米国特許第7,691,958号に記載されており、これは参照により本明細書に組み込まれている。
【0044】
本発明のさらなる態様は、重合方法に向けられている。この方法は、オレフィン又はオレフィンの混合物及び1つ又は複数の共重合性コモノマーを、上記の触媒系の存在下の適切な重合条件下で接触させる工程を含む。一実施形態において、オレフィンの混合物を共重合させる。別の実施形態において、1種のオレフィン(例えば、プロピレン又は1-ブテン)をホモ重合させる。これらのオレフィンのホモ重合において、共役ジエン又は非共役ジエン等の多価不飽和化合物をコモノマーとして使用してもよい。共重合性コモノマーの非限定的な例としては、スチレン、ブタジエン、アクリロニトリル、アクリルアミド、アルファ-メチルスチレン、クロロスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレート(diallyphthalate)、アルキルメタクリラート、及びアルキルアクリラートが挙げられる。一実施形態において、コモノマーとしては、熱可塑性及びエラストマー性モノマーが挙げられる。
【0045】
オレフィンの重合は、典型的には気相又は液相中で行われる。一実施形態において、重合は、重合ゾーンの体積の1リットル当たりのTi原子として計算される約0.001~約0.75ミリモルの量の固体触媒成分と、固体触媒成分中のTi原子の1モル当たり約1~約2,000モルの量の有機アルミニウム化合物と、有機アルミニウム化合物中の金属原子の1モル当たりの有機ケイ素化合物中のSi原子として計算される約0.001~約10モルの量の有機ケイ素化合物とを含有する触媒系を採用する。
【0046】
重合時の水素の使用は、得られるポリマーの分子量の制御を促進し、得られるポリマーの分子量の制御に寄与し、得られるポリマーは望ましいメルトフローレートを有することが可能である。開示される本発明の方法及び系を利用すると、触媒系の触媒生産性並びに得られるポリマーの残渣及び灰含量が低く改善される。
【0047】
一実施形態において、重合における重合温度は約20℃~約200℃である。別の実施形態において、重合反応器における重合温度は約50℃~約180℃である。触媒生産性及び生産されるポリマーのアイソタクティシティーは共に、反応器中の重合温度に依存する。更に灰含量を低下させるために、高いアイソタクティシティーを維持しながら触媒生産性を最大化させることが有益である場合がある。本発明で使用される重合温度は、生産性及びアイソタクティシティーが最大に近くなるような温度であってもよく、これは典型的には70℃~85℃である。
【0048】
一実施形態において、重合における重合圧力は典型的には大気圧から約100kg/cm2である。別の実施形態において、重合における重合圧力は典型的には約2kg/cm2~約50kg/cm2である。
【0049】
重合方法は、上記の触媒系を含む流動床が入った流動床反応器内で行われてもよい。重合は、バッチ式、半連続、又は連続で行われてもよい。重合はまた、2段階以上で異なる反応条件下で行われてもよい。
【0050】
このようにして得られたオレフィンポリマーは、ホモポリマー、ランダムコポリマー、ブロックコポリマー、又はインパクトコポリマーであってもよい。インパクトコポリマーは、ポリオレフィンホモポリマー及びポリオレフィンゴムの緊密な混合物を含有する。ポリオレフィンゴムの例としては、エチレンプロピレンゴム(EPR)及びエチレンプロピレンジエンモノマーゴム(EPDM)が挙げられる。触媒系を使用することにより得られるオレフィンポリマーは、非常に少量のアモルファスポリマー成分を有し、そのため少量の炭化水素可溶性成分を有する。したがって、得られるポリマーから成型されるフィルムは表面粘着性が低い。
【実施例
【0051】
ポリプロピレンの合成の一般的手順:比較例1(CE1)及び本発明の実施例1及び2(IE1及びIE2)の試験を実施するために、プロピレン、チタン化合物のZiegler-Natta触媒組成物及び有機アルミニウム共触媒、シランSCA及びアルキルエステルALA(比較例)又はALA/LEA(本発明の実施例)の混合物を含む混合外部電子供与体(MEED)を、Table 1(表1)に従ってパイロットプラントスケールの流動床反応器中へ導入し、反応させて、公称のメルトフローが1~10g/10minであるポリプロピレンホモポリマー試料を生成させた。CE1及びIE1の重合において使用される触媒は、Mg、Tiを含む支持Ziegler-Natta固体触媒とした。MEED中のシランSCA成分については、n-プロピルトリメトキシシラン(NPTMS)を使用した。アルキルエステルALA成分については、CE1においてミリスチン酸イソプロピル(IPM)を使用した。ペンチルバレレート(PV)を、IE1及びIE2においてALA/LEAとして使用した。各実施例で使用されるMEEDの組成をTable 1(表1)に記載する。
【0052】
触媒は、内部電子供与体としての3-メチル-5-tertブチル-1,2フェニレンジベンゾエートを使用して調製された。触媒及び調製の方法は、本明細書において参照により組み込まれる、米国特許第8,536,372号に記載されている。HYDROBRITE 380の商標名で販売されている白色鉱油中のスラリーとして、固体触媒が供給され、シリンジポンプ及び1時間当たり4ポンドのプロピレンキャリア流によって14”径流動床反応器の側へ注入された。1時間当たり4ポンドのプロピレンのキャリア流を使用して触媒スラリーを反応器中へ供給及び分散させた。共触媒としては、すべての実施例においてTEAlをイソペンタン中の2.5wt%溶液として反応器へ供給した。MEEDをイソペンタン中の1wt%溶液として供給した。
【0053】
CE1、IE1、及びIE2については、Table 1(表1)に記載のように、反応器を最初に連続モードにおいておおむね定常状態の生産速度で稼働させた。この段階でTi残渣を蛍光X線により測定して、初期試料の触媒生産性及び触媒残渣を決定した。例えば0.8~1.1ft/s(0.24~0.33m/s)の流動化ガス空塔速度を使用することにより、高い流動嵩密度(例えば、8~18lb/ft3)で流動床反応器を稼働させた。次いで、所定の時間で、床蓄積試験を行って試料を生成させた。試験を行うために、反応器を最初に、ポリマー流動床質量がW0である定常状態の生産条件に到達させた。次いで、所定の時間において、反応器への触媒、共触媒、及びMEEDの供給を停止する。同時に、反応器からの生成物の除去を停止し、その結果その後の生産が反応器中で持続及び蓄積し、その結果反応器中のポリマー材料の質量が増加する。反応器をこの状態で2時間を超える時間tBATの間維持し、流動床の下と上の圧力タップ間の圧力差を使用してその時間の間の流動床質量の増加を測定することにより、試験の開始後の各時間の間に生産される材料の質量を測定した。床質量を初期値W0に戻すために反応器から取り出した全生成物を量ることにより、時間tBAT後の、試験中に生成した質量(WBAT)を決定する。
【0054】
蛍光X線により残留Tiを測定するために、クロムターゲットX線管により成型ポリプロピレン試料に照射を行う。Tiの内殻電子の励起はTiの波長特性及びその濃度に比例する強度を有する二次発光を生じさせる。二次ビーム中におかれた分散結晶からの回折の特定の角度において発光強度を測定する。PANalytical(Philips社)X線分光計を使用して測定を行った。上記のTi残渣、及び触媒のTi添加量から、触媒生産性を決定した。生産速度は、3時間の間の反応器による生成物排出の質量を3で割ったものとして定義した。
【0055】
灰含量:TiはTiO2に転化し、AlはAl2O3に転化し、MgはMgOに転化し、SiはSiO2に転化するという化学量論に従って金属が酸化されると仮定して、反応生成物粉末中の灰含量を計算する。したがって、ppmwとして表されるTi、Al、Mg、及びSi残渣に基づく式を使用して灰を計算する:
全灰=1.668×Ti+1.658×Mg+1.889×Al+2.139×Si 式(2)
反応器が床蓄積試験前の定常状態にある場合に採取される初期試料について、Ti残渣、及びMgの触媒へのTi添加量(wt%)に対する比から、Ti残渣及びMg残渣を計算した。TEAlの形態のAlの供給速度をポリマー生産速度で割ったものから、Al残渣を計算した。シランとしてのSiの供給速度をポリマー生産速度で割ったものから、Si残渣を計算した。Ti残渣、及びClの触媒へのTi添加量(wt%)に対する比から、Cl残渣を計算した。すべての実施例で使用される固体触媒への元素の添加量は以下の通りであった:Ti添加量=4.2wt%;Mg添加量=15.3wt%;及びCl添加量=50wt%。
【0056】
Table 2(表2)のtBAtにおける時間後、床蓄積試験の最後に床蓄積試験の試料を採取した。床蓄積試験の試料については、初期定常状態試料のTi、Mg、Al、及びCl残渣を床蓄積試験中の床質量の相対的増加で割ったものからそれぞれ、Table 2(表2)におけるTi、Mg、Al、及びCl残渣を計算した。例えば、床質量が床蓄積試験中に2倍になった場合、試験材料のTi残渣は試験前のTi残渣を2で割ったものとなる。Ti残渣を決定するこの物質収支法は蛍光X線法よりも好ましく、なぜなら本発明における残渣が装置の検出限界(すなわち、0.4ppm)未満であるためである。
【0057】
Table 1(表1)は、CE1、IE1、及びIE2の定常状態の生産における反応器条件及び生成物の特性を示す。
【0058】
【表1】
【0059】
Table 2(表2)は、床蓄積試験の間に生成された物質の量WBATから物質収支により決定される、金属残渣及び灰含量を示す。灰は式2を使用して計算した。
【0060】
【表2】
【0061】
ALAとしてミリスチン酸イソプロピルを含有する外部供与体は市販されており、比較例として試験された。Al/Ti比が比較例の3/4であり、外部供与体がALAとしてペンチルバレレートを含有する、本発明の実施例は、優れた触媒生産性及び長い触媒寿命を示した。更に、本発明の実施例は、Table 2(表2)で分かるように、比較例よりも大幅に低い残渣及び灰レベルを提供した。特に本発明の実施形態の低Al/Ti比において、多量の材料が本発明の実施例で生産されるのに十分な程度に、触媒生産性が高く触媒寿命が長いことは非常に驚くべきことである。低灰含量は、低Al/Ti比において触媒寿命が長いこと、低Al/Ti比において反応器へ供給されるAlの量が少ないこと、触媒寿命が長いこと、及び70~85℃の反応器温度においてキシレン可溶分が少ないことを含めた要因の組み合わせの結果である。Mg、Al、Si、Cl、及び灰の残留量は著しく低下したので、本発明の実施例の灰は15ppm未満である。
【0062】
比較例2(CE2)及び本発明の実施例3(IE3)の試験を行うために、チタン化合物のZiegler-Natta触媒組成物、有機アルミニウム共触媒、及びシランSCAを含む外部電子供与体を、Table 3(表3)に従って2リットルの研究室スケールのバルク相オートクレーブ反応器へ導入し、反応させて、公称のメルトフローが1~10g/10minであるポリプロピレンホモポリマー試料を生成させた。CE2及びIE3の重合において使用される触媒は、Mg、Tiを含む支持Ziegler-Natta固体触媒とし、内部電子供与体としての3-メチル-5-tertブチル-1,2フェニレンジベンゾエートを使用して調製された。シランSCAについては、CE2又はIE3において、メチルシクロヘキシルジメトキシシラン(MCHDMS)を使用し、アルキルエステルALA/LEA成分は使用しなかった。各実施例において、5mgの触媒を反応器へ導入し、プロピレンモノマー及び水素の存在下でおよそ2時間反応させた。各試験の最後に、生成されたポリマーの最終収量を量り、ポリマーの収量を供給された触媒の量で割ることにより触媒生産性を計算した。メルトフロー及びキシレン可溶分等のポリマー特性を測定し、触媒、アルキル、及びSCAの初期量から灰含量を計算し、Table 3(表3)に報告する。
【0063】
【表3】
【0064】
上記から分かるように、IE3については、Al/Ti比はわずか25であり、予想外に触媒生産性がかなり高く78,460kg/kgである。2時間目(P2)の間の生産量の最初の1時間(P1)の間の生産量に対する比を、バッチ反応器における寿命に対するP2/P1の理論的依存性と対比させることによって、経時による触媒活性の減衰を指数関数的減衰関数(e-kd.t)にフィッティングさせた。触媒寿命をこのように決定し、下記のTable 4(表4)において報告する。
【0065】
【表4】
【0066】
上記から分かるように、長い触媒寿命は低Al/Ti比によって生じる。次いで得られる触媒寿命を使用して、反応器が6時間の滞留時間を有する場合、又は反応器の配置が直列の2つ以上の反応器であるが全滞留時間が6時間である場合の、全触媒生産性を決定した。
【0067】
触媒生産性の結果及び対応する元素残渣及び灰もTable 4(表4)に報告する。上記から分かるように、6時間の滞留時間では、IE3についてはAl/Tiが大幅に低いにもかかわらず、CE2及びIE3について触媒生産性がおよそ同じである。この結果は、低Al/Ti比における予想外の長い触媒寿命によるものである。この効果と低Al/Ti比による本質的に少ないAl残渣の組み合わせによって、IE3において灰含量は15ppm未満となるが、一方CE2のポリマーは灰含量が30ppmを超える。
【0068】
これは本発明を実施する様々な方法と併せて記載される本発明の実施形態の説明である。しかし、本発明自体は添付の特許請求の範囲によってのみ定義されるべきである。