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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-09
(45)【発行日】2024-08-20
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッド
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20240813BHJP
【FI】
B41J2/14 501
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020033348
(22)【出願日】2020-02-28
(65)【公開番号】P2021133647
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2023-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【弁理士】
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【弁理士】
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】武居 康徳
(72)【発明者】
【氏名】田川 義則
【審査官】中村 博之
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-200950(JP,A)
【文献】特開2018-202806(JP,A)
【文献】特開平08-001930(JP,A)
【文献】特開2009-126062(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0251420(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出方向に吐出するための吐出口を有する液体吐出ヘッドにおいて、
前記吐出口には、前記吐出方向から見た際に、前記吐出口を複数の領域に分断する分断部材が形成されており、
前記分断部材は、前記吐出方向から見た際に、上方に面する、第1の面と第2の面を有しており、
前記第1の面は、前記吐出方向に対して垂直な面であり、
前記第2の面は、前記吐出方向から見た際に、前記第1の面よりも下方に位置していることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記吐出口の内部において前記液体の液面の位置は、前記第1の面よりも前記下方であって、前記第2の面よりも上方である請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記吐出口は、吐出口部材に形成されており、
前記第2の面は、前記吐出口部材の表面よりも前記下方に位置している請求項1または2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記第1の面と前記液体との接触角は、80度以上であって100度以下である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記分断部材は、前記複数の領域の数と同じ数だけ前記第2の面を有する請求項1ないし4のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記分断部材により、前記吐出口は2つの領域に分断されている請求項1ないし5のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
前記分断部材により、前記吐出口は3つの領域に分断されている請求項1ないし5のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項8】
前記分断部材により、前記吐出口は4つの領域に分断されている請求項1ないし5のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項9】
前記分断部材により、前記吐出口は6つの領域に分断されている請求項1ないし5のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項10】
前記第2の面は、前記吐出口の内壁に接している請求項1ないし9のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項11】
前記分断部材は、前記第1の面をその上方の面として有する第1の部分と、前記第2の面をその上方の面として有する第2の部分とから構成されており、
前記吐出方向における前記第1の部分の厚さは、前記吐出方向における前記第2の部分の厚さよりも厚い請求項1ないし10のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項12】
液体を吐出方向に吐出するための吐出口と、前記吐出口から液体を吐出するためのエネルギーを発生するエネルギー発生素子と、を有する液体吐出ヘッドを用いて、前記吐出口から液体を吐出する吐出方法において、
前記吐出口には、前記吐出方向から見た際に、前記吐出口を複数の領域に分断する分断部材が形成されており、
前記分断部材は、前記吐出方向から見た際に、上方に面する、第1の面と第2の面を有しており、
前記第1の面は、前記吐出方向に対して垂直な面であり、
前記第2の面は、前記吐出方向から見た際に、前記第1の面よりも下方に位置しており、
液体が前記第1の面よりも前記下方であって、前記第2の面よりも前記上方の位置に存在している状態で、前記エネルギー発生素子を駆動して前記吐出口から液体を吐出することを特徴とする吐出方法。
【請求項13】
前記吐出口から吐出され液体その後端部が、前記複数の領域の数分断されて吐出される請求項12に記載の吐出方法。
【請求項14】
前記前記分断部材により、前記吐出口は2つの領域に分断されており、
前記吐出口から吐出され液体は、その後端部、2つに分断されて吐出される請求項12または13に記載の吐出方法。
【請求項15】
前記前記分断部材により、前記吐出口は3つの領域に分断されており、
前記吐出口から吐出され液体は、その後端部、3つに分断されて吐出される請求項12または13に記載の吐出方法。
【請求項16】
前記前記分断部材により、前記吐出口は4つの領域に分断されており、
前記吐出口から吐出され液体は、その後端部、4つに分断されて吐出される請求項12または13に記載の吐出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
記録媒体に液体を吐出することで記録を行う液体吐出装置に搭載される液体吐出ヘッドは、熱などのエネルギーを液体に与え、吐出口から液体を吐出する。吐出口から吐出されるこの液体は、主に、主滴(液滴の先端部から生成)と複数の副滴(吐出液体柱状部から生成)から構成される。柱状部(以下、尾引きと称する)は、液体が吐出口から吐出される過程で形成され、記録媒体に着弾するまでの飛翔中に分離して複数の微小な副滴(以下、サテライトと称する)に分離することが分かっている。尾引きの分離により発生したサテライトは、主滴と比べて体積が小さく、吐出速度も遅いため、記録媒体上に着弾した主滴に対してずれた位置に着弾することがある。したがって、サテライトが発生すると、記録品位が低下する恐れがある。
【0003】
特許文献1では、吐出口の開口に、吐出口の内側に向かって突出する突起部を形成することで、サテライトの発生を抑制することができる液体吐出ヘッドが開示されている。特許文献1では、サテライトの発生源となる尾引きを短くすることで、サテライトの発生を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-207235号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の方法であっても、サテライトを抑制することはできる。但し、吐出する液体の種類や吐出の条件、液体吐出ヘッドの構造等によっては、よりサテライトが発生しにくいようにすることが求められる。
【0006】
従って、本発明は、サテライトの発生をより良好に抑制することができる液体吐出ヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明は、液体を吐出方向に吐出するための吐出口を有する液体吐出ヘッドにおいて、前記吐出口には、前記吐出方向から見た際に、前記吐出口を複数の領域に分断する分断部材が形成されており、前記分断部材は、前記吐出方向から見た際に、上方に面する、第1の面と第2の面を有しており、前記第1の面は、前記吐出方向に対して垂直な面であり、前記第2の面は、前記吐出方向から見た際に、前記第1の面よりも下方に位置していることを特徴とする
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、サテライトの発生をより良好に抑制することができる液体吐出ヘッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】記録素子基板を示す斜視図。
図2】記録素子基板の断面図。
図3】第1の実施形態の吐出口を示す図。
図4】第1の実施形態における吐出の様子を示す図。
図5】ミスト量の測定結果を示す図。
図6】第2の実施形態の吐出口を示す図。
図7】他の実施形態の吐出口を示す図。
図8】他の実施形態の吐出口を示す図。
図9】他の実施形態の吐出口を示す図。
図10】第1の実施形態の液体吐出ヘッドを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0011】
(記録素子基板)
図1は、本実施形態の記録素子基板6を示す斜視図である。図2は、図1に示すA-A´断面における記録素子基板6の断面図である。図10は、本実施形態の液体吐出ヘッド21を示す斜視図である。液体吐出ヘッド21には、複数の記録素子基板6がY方向に複数配置されており、これにより、液体吐出ヘッド21は高速記録をすることができる。液体を吐出して記録を行う記録素子基板6は、主に、基板34、流路部材4および吐出口部材8とから構成される。流路部材4及び吐出口部材8は、基板34上に設けられている。液体は、基板34に形成された液体供給口3から流路部材4の液流路7に供給され、その後、吐出口2に供給される。吐出口2に供給された液体は、基板34上に形成されたエネルギー発生素子1からエネルギーを与えられ、吐出口2から吐出される。なお、本実施形態においては、エネルギー発生素子1は電気熱変換素子(ヒータ)を示しているが、エネルギー発生素子1として圧電素子を用いてもよい。
【0012】
(第1の実施形態)
(吐出口)
本実施形態の吐出口について、図3を参照しながら説明する。図3(a)は、吐出口2と対向する位置から、吐出口2を見た際の吐出口近傍を示す概略図である。図3(b)は、図3(a)に示すB-B´断面における断面図である。図3(c)は、図3(a)に示す吐出口2の斜視図である。図3(d)は、液体を吐出口2に充填した際の様子を示す図である。図3(e)および(f)は、本実施形態における吐出口2の変形例を示す図であって、図3(a)に示すB-B´断面における断面図に相当する図である。
【0013】
図3(a)に示すように、吐出口2の外縁部12は円形であり、吐出口2には、吐出口2と対向する位置から見た際に、吐出口2を複数の領域に分断する分断部材9が形成されている。図3においては、吐出口2が4つの領域に分断されている。分断部材9は、第1の部分11と第2の部分13とから構成されている。吐出口2から液体が吐出される方向(正のZ方向)を下方から上方とした際に、第1の部分11の上方の表面(以下、第1の面と称する)14は、吐出口部材8の表面5と略同じ高さに位置している。略同じ高さとは、実質的に同じ高さであることを言う。そのため、高さが異なる場合であっても、それが製造過程等で生じたものである場合には、ここで言う略同じ高さに該当するものとする。なお、本発明は、第1の面14が吐出口部材8の表面5と略同じ高さに位置していることに限定されるわけではなく、第1の面14が表面5よりも低い位置に形成されていてもよい。この場合であっても、後述する本発明の効果を得ることができる。しかしながら、第1の面14が吐出口部材8の表面5よりも低い位置に形成されていると、良好な吐出に十分な量の液体が吐出口内に充填されない恐れがある。そのため、第1の面14は吐出口部材8の表面5と略同じ高さに位置していることが好ましい。
【0014】
また、第2の部分13の上方の表面(以下、第2の面と称する)15は、第1の面14よりも下方(負のZ方向)に位置している。図3に示す分断部材9においては、第1の部分11は、吐出口2の中心付近に形成されている部分であって、厚さが厚い十字型の部分のことである。第2の部分13は、吐出口2の内壁に接して形成されている部分であって、第1の部分11よりも厚さの薄い部分のことである。なお、図3において、第2の部分13は、吐出口が分断された数だけ形成されている。即ち、第2の部分13は、4つ形成されている。
【0015】
吐出口に液体が充填されるときには、図3(d)に示すように、第1の面14上には液体22が付着(侵入)していない。一方、分断部材9により分断された領域には液体22が侵入しており、また、第2の面15上にも液体22が付着(侵入)している。第1の面14には、詳しくは後述する撥水処理が成されているため、第1の面14上には液体22が浸入せず、図3(d)のような液体22の充填の様子となる。
【0016】
また、図3(e)および(f)に示すように、第2の面15は、吐出口部材の表面5に対して傾くように形成されていてもよい。このように形成されていても、後述する本実施形態の効果と同様の効果を得ることができる。
【0017】
(吐出の様子)
本実施形態における、吐出口からの液体の吐出の様子について、図4を参照しながら説明する。図4(a)は、本実施形態の比較例であって、図3(a)に示す吐出口に分断部材9が設けられていない場合の吐出口から液体が吐出される様子を示す図である。図4(b)は、図3に示す本実施形態の吐出口から液体が吐出される様子を示す図である。まず、比較例における液体の吐出の様子について説明する。図4(a)の(1)は、吐出動作直前の様子を示している。エネルギー発生素子1を駆動することにより液体中に気泡を生じさせ、吐出動作を開始する(図4(a)の(2))。その後、図4(a)の(2)において、液体中に生じた気泡の大きさが最大となる。その後、気泡の消泡に伴って吐出口近傍の液体がエネルギー発生素子側へと引き込まれ始め、それに伴い、吐出された液滴の後端が伸びる(図4(a)の(4))。その後、気泡の消泡動作が終了し、吐出液滴の後端が吐出口内の液体から完全に分離する(図4(a)の(5))。その後、吐出液滴が飛翔しながら主滴16と尾引き17に分離し、尾引き17が複数のサテライト18になる(図4(a)の(6)~(a)の(8))。
【0018】
次に、本実施形態における液体の吐出の様子について説明する。なお、図4(a)における比較例と同様の挙動については説明を省略し、比較例と異なる部分についてのみ説明する。気泡の発生により吐出口2から液体が吐出し始める際、液滴の先端部19は、分断部材9の作用により、中央部が若干凹んだような形状となる(図4(b)の(2))。その後、液滴の後端部10が複数に分断される(図4(b)の(3))。ここで、液滴の後端部10が分割される数は、分断部材9が吐出口を分断する数と同等である。即ち、図3に示す吐出口を用いた場合には、(図4(b)の(3))において、液滴の後端部10は4つに分断される。その後、液滴の後端部10が複数に分割された状態のまま、吐出口から液体が分離し、尾引きが生じる(図4(b)の(4)および(5))。このように、本実施形態では、後に尾引きとなる液滴の後端部10が複数に分断される。このため、分割された各々の液滴の後端部10の太さは、図4(a)に示す比較例における液滴の後端部10と比較すると、細くなる。その後、複数に分断された尾引き17は、一つにまとまりながら飛翔する(図4(b)の(6)および(7))。その後、サテライト18が生じる。しかし、発生するサテライトの量は、尾引きの長さに依る。従って、図4(b)の(6)および(7)に示すように、本実施形態における尾引き17の全長は短いため、本実施形態において発生するサテライトの量は、比較例において発生するサテライトの量よりも少なくなる。よって、本発明によれば、サテライトの発生を抑制することができることが分かる。なお、図3の分断部材9を用いる場合には液滴の後端部10は4つに分断されるため、本実施形態の吐出口2から吐出される尾引き17の太さは、概算すると、比較例における後端部10の太さの約4分の1となる。
【0019】
(分断部材)
発生するサテライトの量は尾引き17の長さに依る。そして、尾引き17の長さは、液滴の後端部10の太さ(径)に依るところが大きい。これは、後端部10が太いと吐出口内の液体と分離するのが遅れるため尾引き17が長くなり、後端部10が細いと吐出口内の液体との分離が早い段階で行われることで尾引き17が短くなることがあるからである。したがって、本発明者は、サテライトの発生の抑制には、後端部10を細くすることが重要であり、そのためには、後端部10を複数に分断することが必要であると考えた。そして、本発明者が検討したところ、後端部10を複数に分断するためには、吐出口内部を分断し、吐出口2と対向する位置から見た際に、吐出口内の液体が分割された領域を形成することが重要だということが分かった。仮に、吐出口2と対向する位置から見た際に、液体が分割された領域が形成されていない場合は、液体が一つにまとまろうとする作用が働き、吐出過程で、後端部10が一つにまとまってしまうためである。よって、本発明においては、液体が分断された領域を形成するために、吐出口2に分断部材9を設ける。
【0020】
一方、液体を完全に分割すると、分割数に応じた複数の液滴がそれぞれ独立して吐出される。この複数の液滴は、飛翔中に一つにまとまることなく記録媒体に着弾する場合もあり、その場合には記録品位が低下してしまう。例えば、液体を4分割した場合は、独立した4つの液滴が飛翔し、それぞれが記録媒体に着弾した結果、記録品位が低下する。したがって、記録品位を低下することなくサテライトの発生を抑制するためには、尾引きを複数に分割しながらも、吐出液滴の先端部19を一つにまとめる必要がある。そこで、本実施形態においては、分断部材9に第2の面15を設けている。第2の面15を設けることで、液体を第2の面上に侵入させることができ、吐出動作の前に予め液体を一つに結合しておくための領域を形成することができる。この状態で吐出口からの吐出を行えば、吐出液滴の先端部19を一つにまとめながらも、後端部10は分断することができる。
【0021】
また、本発明によれば、記録媒体に到達する前に速度を失い空気中を浮遊する極微小な液滴(以下、ミストと称す)の発生を抑制することもできる。図5は、吐出口から吐出される液体の吐出量が5plとなる吐出口を使用した際に発生するミスト量と、吐出量が2plとなる吐出口を使用した際に発生するミスト量と、を測定した結果を示す図である。シアン(Cyan)、マゼンタ(Magenta)およびイエロー(Yellow)のそれぞれにおけるミスト量を示している。図5から分かるように、吐出量2plの吐出口から発生するミスト量は、吐出量5plの吐出口から発生するミスト量の約50分の1である。このように、吐出量の少ない吐出口の方が、吐出量の大きい吐出口と比較してミスト量は格段に少なくなる。本発明においては、吐出口と対向する位置から見た際に、分断部材9により吐出口を複数の領域に分断している。そして、吐出口から吐出される液体は、この分断された領域から吐出されていると捉えることもできるため、分断された領域の各々は吐出量の少ない吐出口とみなすこともできる。即ち、本発明の吐出口は、吐出量の少ない吐出口の集合体だと捉えることができる。したがって、本発明によれば、ミストの発生も抑制することができる。
【0022】
本実施形態では、第1の面14に撥水処理を施しており、第1の面と液体(吐出口内の吐出される液体)との接触角は80度以上であって、100度以下である。ここで、接触角とは、部材表面での上記液体の液滴の接触角(動的後退接触角)のことである。また、撥水性とは、水滴が部材に接する際に、その接する部材上で濡れ広がらないことを意味し、部材の撥水性が高いか低いかは、その部材表面の上記液体の液滴の接触角(動的後退接触角)を測定することにより判断することができる。第1の面14に撥水処理を施すことにより、第1の面14上に液体が侵入することを抑制することができる。しかしながら、本発明は、第1の面14に撥水処理が施されていなくともよく、その場合であっても上記の効果を得ることができる。即ち、第1の面上に液体が存在する状態で吐出動作を行う場合であっても、分断部材9により液滴の後端部10が複数に分断することができる。しかしながら、第1の面14に存在する液体の量(厚さ)によっては後端部10が複数に分断されない場合もあるため、図3(d)に示したように、第1の面14上には上記液体が存在しないようにすることが好ましい。ここで、第1の面14上に液体が存在しないようにする方法の一例として、上述したように、第1の面14に撥水処理をすることが挙げられる。
【0023】
また、本発明は、吐出口内における液面の位置(液体がメニスカスを形成する面の位置、以下、液面位置と称す)が第2の面15の下方であってもよい。換言すれば、第2の面上に液体が存在しなくともよい。この場合であっても、エネルギー発生素子1によりエネルギーを付与された液体は分断部材9を通過するため、吐出口2から吐出された液滴の後端部10は複数の領域に分断され、本発明の効果が得られる。しかしながら、分断部材9の厚み等によっては、吐出された液体の先端部19が一つにまとまることなく、複数に分断されたまま記録媒体に着弾する場合もある。このような状態になることを回避するため、図3(d)に示したように、吐出する状態においては、第2の面15より上方であって第1の面14よりは下方の位置に液面位置が位置するようにすることが好ましい。
【0024】
分断部材9は、Z方向における吐出口の長さを1とした場合に、吐出口部材8の表面5から少なくとも0.5までの位置に第2の面15が位置するよう、吐出口内に形成されることが好ましい。第2の面15がこれよりも下方に形成されていると、液体の吐出の際に、第2の面上に多量の液体が存在していることとなり、液滴の後端部10を分断する作用が小さくなるためである。したがって、液滴の後端部10を分断する作用を大きくするためには、Z方向における吐出口の長さを1とした場合に、吐出口部材8の表面5から0.3までの位置に第2の面15が位置するように分断部材9を形成することがより好ましい。
【0025】
また、図3(b)に示す断面から分断部材9を見た際に、第1の部分11と第2の部分13がZ方向に互いに重なる部分があることが好ましい。第1の部分11と第2の部分13とがZ方向に互いに重なる部分があることで、液滴の後端部10が分断部材9により確実に分断されるためである。さらには、図3(b)に示す断面から分断部材9を見た際に、第1の部分11の下面23と第2の部分13の下面24が、Z方向において、同じ高さに位置していることが好ましい。下面23と下面24が異なる高さに位置している場合には、特に、第2の面15上に多量の液体が存在することとなり、上述したように、液体の後端部10を分断する作用が小さくなるためである。
【0026】
(第2の実施形態)
第2の実施形態について、図6を参照しながら説明する。なお、第1の実施形態と同様の箇所については同一の符号を付し、説明は省略する。本実施形態は、第1の実施形態と比較して、分断部材による吐出口内の領域の分割数を変化させている。図6(a)は、分断される吐出口内の領域が2つとなっている場合の吐出口2を示す上面図である。図6(b)は、図6(a)に示す吐出口2の斜視図である。同様に、図6(c)および(d)は分断される吐出口内の領域が3つ、図6(e)および(f)は6つの場合の吐出口をそれぞれ示した上面図と斜視図である。
【0027】
上述したように、尾引きが分割される数は、吐出口内の分割数と対応する。したがって、吐出口内の分割数を増加させると、それだけ吐出時の尾引きの分割数が増加する。すると、各々の尾引きの太さがより小さくなり、より早いタイミングで液滴が吐出口内の液体と分離し、サテライトやミストを更に抑制することができる。したがって、図6に示す吐出口の中においては、図6(e)および(f)に示す吐出口がサテライト、ミストの発生を抑制する効果が大きい。しかしながら、分割数が多くなることで分断部材9cの幅dが小さくなると、液体の後端部10が分断されずに一つにまとまって吐出される恐れがある。
【0028】
また、吐出口内の領域は、分割される領域がそれぞれ等しい面積となるように等分割されているが、本発明はこれに限られない、即ち、吐出口内の領域が等分割されていなくともよい。しかしながら、分割される吐出口内の領域が等分割でない場合には、吐出口される液体の形状が非対称となり、記録品位の低下を招く恐れがある。そのため、吐出口内は、分割される領域のそれぞれの面積が等しくなるように、等分割されることが好ましい。面積が等しいとは、実質的に等しいことをいい、製造誤差等により面積が僅かに異なっている場合であっても、面積は等しいとする。
【0029】
(他の実施形態)
他の実施形態について、図7ないし図9を参照しながら説明する。なお、第1の実施形態と同様の箇所については同一の符号を付し、説明は省略する。図7は、第2の面15を、吐出口の中心付近の位置に配置した図を示す。第2の面15は、液体同士を連結するために設けられる。したがって、液体同士が連結さえすれば、第2の面15は、図7に示すように吐出口の中心付近に形成してもよい。また吐出口の寸法、液体の物性等、吐出に影響を与える様々な要因に対して、第2の面15の位置を変化させることで所望の効果を安定的に得られるように最適化してもよい。
【0030】
図8(a)は、吐出口部材8の表面5近傍に凹部20を設け、その内部に吐出口2を備えた形態を示す図である。図8(b)は、図8(a)に示すB-B´断面における断面図である。吐出口部材8の表面5に凹部20を設けることで、吐出口2の外縁に傾斜を付すことや、吐出口部材の強度を保持したまま、液体の吐出方向の抵抗を軽減することなどができる。また、図8(c)は、図8(b)の変形例である。本実施形態では、凹部の断面形状が、図8(b)に示すような長方形の場合でも、図8(c)に示すように、お椀型の場合でも、どちらの形態であってもよい。
【0031】
また、図9(a)および(b)に示すように、吐出口2の外縁部12の形状が楕円形や四角形となっていてもよい。あるいは、図9(c)に示すような形状であってもよい。吐出口内部を分割する分断部材が第1の面14と第2の面15を有していれば、本発明の効果が得られる。
【符号の説明】
【0032】
2 吐出口
9 分断部材
14 第1の面
15 第2の面
21 液体吐出ヘッド
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10