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特許7536474導電線絶縁被膜の剥離装置及びそれを備えた巻線装置並びに導電線の巻線方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-09
(45)【発行日】2024-08-20
(54)【発明の名称】導電線絶縁被膜の剥離装置及びそれを備えた巻線装置並びに導電線の巻線方法
(51)【国際特許分類】
   H02G 1/12 20060101AFI20240813BHJP
   B26D 3/00 20060101ALI20240813BHJP
   B26D 5/08 20060101ALI20240813BHJP
【FI】
H02G1/12 065
B26D3/00 603Z
B26D5/08 B
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020039627
(22)【出願日】2020-03-09
(65)【公開番号】P2021141776
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2023-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000227537
【氏名又は名称】NITTOKU株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121234
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 利明
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 雅史
(72)【発明者】
【氏名】野地 薫
【審査官】木村 励
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-183683(JP,A)
【文献】特開2002-101516(JP,A)
【文献】特開平7-87643(JP,A)
【文献】西独国特許出願公開第2914956(DE,A1)
【文献】米国特許第4993287(US,A)
【文献】特開2012-146890(JP,A)
【文献】特開2016-178149(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02G 1/12
B26D 3/00
B26D 5/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電線(8)の周囲に押当てたカッタ(14)を前記導電線(8)の先端側に移動させることで前記導電線(8)の絶縁被膜を剥離し、先端側に巻初め剥離かす(8c)の残存した巻初め剥離部(8a)を形成する先端向き剥離機(11)と、
前記先端向き剥離機(11)に隣接して設けられ前記導電線(8)の周囲に押当てたカッタ(24)を前記導電線(8)の基端側に移動させることで前記導電線(8)の絶縁被膜を剥離し、基端側に巻終わり剥離かす(8d)の残存した巻終わり剥離部(8b)を形成する基端向き剥離機(21)と、
前記先端向き及び基端向き剥離機(11,21)のいずれか一方又は双方を前記導電線(8)の長手方向に移動させる剥離機移動手段(31)と
を備えた導電線絶縁被膜の剥離装置。
【請求項2】
先端向き剥離機(11)と基端向き剥離機(21)の双方が、
導電線(8)を中心に回転可能に設けられた回転部材(12,22)と、
カッタ(14,24)が先端に設けられて前記回転部材(12,22)の回りに等間隔であって前記回転部材(12,22)に対して前記カッタ(14,24)側が小径になるように傾斜しかつ軸心を中心に回動可能に設けられた複数のカッタシャフト(13,23)と、
前記複数のカッタシャフト(13,23)の後端に偏心してそれぞれ設けられ前記複数のカッタシャフト(13,23)の前記回転部材(12,22)を中心とした回転に伴う遠心力により前記カッタ(14,24)を前記導電線(8)に押圧させるように前記複数のカッタシャフト(13,23)を回動させる錘(15,25)とを備え、
前記カッタ(14,24)又は前記錘(15,25)が対向するように前記先端向き剥離機(11)に隣接して基端向き剥離機(21)が設けられた
請求項1記載の導電線絶縁被膜の剥離装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の導電線絶縁被膜の剥離装置(10)と、
前記導電線絶縁被膜の剥離装置(10)に向かって導電線(8)を所定の張力で繰出す線材操出手段(51)と、
前記導電線絶縁被膜の剥離装置(10)を通過した前記導電線(8)を被巻線部材(40)に巻回させる巻線手段(64)と、
を備えた巻線装置。
【請求項4】
導電線絶縁被膜の剥離装置(10)を通過した導電線(8)を係止する係止部材(75)と、前記導電線(8)を切断する切断装置(76)とを更に備えた請求項3記載の巻線装置。
【請求項5】
切断装置が、導電線(8)が係止された係止部材(75)を移動させる部材移動手段(76)である請求項4記載の巻線装置。
【請求項6】
巻線手段(64)が、導電線絶縁被膜の剥離装置(10)を通過した導電線(8)が挿通可能なノズル(71)と、前記ノズル(71)を移動させるノズル移動手段(66)と、を備え、
前記ノズル移動手段(66)が剥離機移動手段(31)を兼ねる請求項3ないし5いずれか1項に記載の巻線装置。
【請求項7】
先端が係止部材(75)に係止された導電線(8)の絶縁被膜を前記導電線(8)の周囲に押当てたカッタ(14)を前記導電線(8)の先端側に移動させることにより所定の長さ剥離して先端側に巻初め剥離かす(8c)の残存した巻初め剥離部(8a)を形成する巻初め剥離工程と、
前記巻初め剥離部(8a)を被巻線部材(40)の巻初め接続部(42a)に係止させる巻初め係止工程と、
前記巻初め接続部(42a)と前記係止部材(75)との間の前記導電線(8)を前記巻初め接続部(42a)の近傍において切断する巻初め切断工程と、
前記巻初め剥離部(8a)に連続する前記導電線(8)を前記被巻線部材(40)に巻回させる巻線工程と、
前記導電線(8)の巻終わり部位における絶縁被膜を前記導電線(8)の周囲に押当てたカッタ(24)を前記導電線(8)の基端側に移動させることにより所定の長さ剥離して基端側に巻終わり剥離かす(8d)の残存した巻終わり剥離部(8b)を形成する巻終わり剥離工程と、
巻終わり剥離部(8b)を前記被巻線部材(40)の巻終わり接続部(42b)に係止させる巻終わり係止工程と、
前記巻終わり接続部(42b)より基端側に延びる前記導電線(8)を前記係止部材(75)に係止させる仮止め工程と、
前記巻終わり接続部(42b)と前記係止部材(75)との間の前記導電線(8)を前記巻終わり接続部(42b)の近傍において切断する巻終わり切断工程と
を有する導電線の巻線方法。
【請求項8】
巻初め係止工程において、巻初め剥離部(8a)の剥離終わりが係止部材(75)と巻初め接続部(42a)との間になるように係止され、
巻終わり係止工程において、巻終わり剥離部(8b)の剥離終わりが巻終わり接続部(42b)より基端側になるように係止された請求項7記載の導電線の巻線方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電線絶縁被膜の剥離装置及びそれを備えた巻線装置並びに導電線の巻線方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電子部品等に使用される導電線はその外表面に絶縁性の被膜が形成されており、この種の絶縁被膜付導電線を端子やリード線に半田付け、ロウ付けする場合、その絶縁被膜をその都度剥してから半田付け、ロウ付け等がされる。この絶縁被膜の剥離作業を効率的に行うため、従来から、導電線の供給経路中に絶縁被膜の剥離装置を設け、供給中の導電線の絶縁被膜を必要なタイミングで剥離する方法が知られている。
【0003】
そして、このような剥離装置として、駆動手段のモータにより回転される回転部材と、その回転部材にピンにより揺動自在に枢支された揺動アームと、その揺動アームの一端側に設けた錘と、他端に設けたカッタ及び摩擦部材と、その揺動アームをカッタが待機する方向へ付勢するコイルバネからなる付勢手段とを備えたものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
このような剥離装置では、モータの回転により、回転部材を回転させて、錘に遠心力を発生させて、付勢手段の付勢力に抗して揺動アームを揺動させ、そのアームの他端に設けられたカッタを導電線の被膜に食い込ませ、その状態でそのカッタを導電線の長手方向に所定の長さ移動させることにより、その移動量に等しい所定の長さの被膜を除去するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平10-322833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、導電線の外表面にカッタを押し当てて導電線の長手方向に移動させることにより、その外表面における絶縁被膜を除去するような剥離装置では、そのカッタが最初に接触する剥離初め部位と、所定の長さ移動した後にそのカッタを導電線から離間させる剥離終わり部位とでは、その仕上がりが異なる不具合があった。
【0007】
即ち、導電線の絶縁被膜はその外表面に接触させたカッタを長手方向に移動させることにより剥離されるけれども、最初にカッタが接触する剥離初め部位では、その部位の絶縁被膜は移動するカッタにより確実に剥離されるので、その剥離初め部位に絶縁被膜が残存するようなことは無い。
【0008】
けれども、剥離された絶縁被膜はカッタに密着してそのカッタとともに移動するので、そのカッタを導電線から離間させることになる剥離終わり部位では、カッタとともに移動した剥離済みの絶縁被膜がカッタとともに導電線から離間すれば良いが、その一部が導電線の表面に剥離かすとして残存する様なことが生じうる。
【0009】
そして、このような剥離装置は、導電線を被巻線部材に巻回する巻線機に多く用いられ、被巻線部材に巻回される導電線にあっては、その被巻線部に巻回される先端側の巻初めの部位と、基端側の巻終わりの部位の双方においてその絶縁被膜が剥離されて、被巻線部材における端子やその被巻線部材においてリード線に半田付けされることになる。
【0010】
けれども、従来の剥離装置を用いた巻線機では、カッタによる絶縁被膜の除去方向が導電線の基端側から先端側に移動させるか、或いは、その先端側から基端側に移動させるかの、いずれか一方であるために、被巻線部に巻回された導電線の巻初めの部位か、或いは巻終わりの部位のいずれか一方において必ず剥離かすが残存し、このような絶縁被膜から成る剥離かすは、絶縁性を有することから半田付けすることが不能であるので、その剥離部位におけるその後の端子やリード線への半田付けに支障を生じさせる不具合があった。
【0011】
このような不具合を回避すべく、従来から、このような剥離かすが生じた場合、作業員が導電線にフェルト等を押し当ててこすって除去しているけれども、作業員の工数を増加させる原因となっていた。
【0012】
本発明の目的は、剥離かすの生じる方向を変更し得る導電線絶縁被膜の剥離装置を提供することにある。
【0013】
本発明の別の目的は、被巻線部材の接続部に接続される導電線の剥離部に剥離かすを残さない巻線装置並びに巻線方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の導電線絶縁被膜の剥離装置は、導電線の周囲に押当てたカッタを導電線の先端側に移動させることで導電線の絶縁被膜を剥離し、先端側に巻初め剥離かすの残存した巻初め剥離部を形成する先端向き剥離機と、先端向き剥離機に隣接して設けられ導電線の周囲に押当てたカッタを導電線の基端側に移動させることで導電線の絶縁被膜を剥離し、基端側に巻終わり剥離かすの残存した巻終わり剥離部を形成する基端向き剥離機と、先端向き及び基端向き剥離機のいずれか一方又は双方を導電線の長手方向に移動させる剥離機移動手段とを備える。
【0015】
先端向き剥離機と基端向き剥離機の双方が、導電線を中心に回転可能に設けられた回転部材と、カッタが先端に設けられて回転部材の回りに等間隔であって回転部材に対してカッタ側が小径になるように傾斜しかつ軸心を中心に回動可能に設けられた複数のカッタシャフトと、複数のカッタシャフトの後端に偏心してそれぞれ設けられ複数のカッタシャフトの回転部材を中心とした回転に伴う遠心力によりカッタを導電線に押圧させるように複数のカッタシャフトを回動させる錘とを備える場合、カッタ又は錘が対向するように先端向き剥離機に隣接して基端向き剥離機を設けることが好ましい。
【0016】
また、本発明の巻線装置は、上記導電線絶縁被膜の剥離装置と、導電線絶縁被膜の剥離装置に向かって導電線を所定の張力で繰出す線材操出手段と、導電線絶縁被膜の剥離装置を通過した導電線を被巻線部材に巻回させる巻線手段と、を備える。
【0017】
この巻線装置は、導電線絶縁被膜の剥離装置を通過した導電線を係止する係止部材と、導電線を切断する切断装置とを更に備えることが好ましく、切断装置が、導電線が係止された係止部材を移動させる部材移動手段とすることもできる。
【0018】
そして、巻線手段が、導電線絶縁被膜の剥離装置を通過した導電線が挿通可能なノズルと、ノズルを移動させるノズル移動手段と、を備える場合、ノズル移動手段が剥離機移動手段を兼ねることができる。
【0019】
更に、本発明の導電線の巻線方法は、先端が係止部材に係止された導電線の絶縁被膜を導電線の周囲に押当てたカッタを導電線の先端側に移動させることにより所定の長さ剥離して先端側に巻初め剥離かすの残存した巻初め剥離部を形成する巻初め剥離工程と、巻初め剥離部を被巻線部材の巻初め接続部に係止させる巻初め係止工程と、巻初め接続部と係止部材との間の導電線を巻初め接続部の近傍において切断する巻初め切断工程と、巻初め剥離部に連続する導電線を被巻線部材に巻回させる巻線工程と、導電線の巻終わり部位における絶縁被膜を導電線の周囲に押当てたカッタを導電線の基端側に移動させることにより所定の長さ剥離して基端側に巻終わり剥離かすの残存した巻終わり剥離部を形成する巻終わり剥離工程と、巻終わり剥離部を被巻線部材の巻終わり接続部に係止させる巻終わり係止工程と、巻終わり接続部より基端側に延びる導電線を係止部材に係止させる仮止め工程と、巻終わり接続部と係止部材との間の導電線を巻終わり接続部の近傍において切断する巻終わり切断工程とを有する。

【0020】
この導電線の巻線方法では、巻初め係止工程において、巻初め剥離部の剥離終わりが係止部材と巻始め接続部との間になるように係止され、巻終わり係止工程において、巻終わり剥離部の剥離終わりが巻終わり接続部より基端側になるように係止されることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の導電線絶縁被膜の剥離装置では、先端向き剥離機と基端向き剥離機とを備えるので、それらを選択的に用いることにより、剥離かすの生じる方向を変更させることが出来る。そして、このような導電線絶縁被膜の剥離装置を備えた巻線装置並びに巻線方法では、巻線後に切り離される側の導電線に剥離かすを生じさせることにより、被巻線部材の接続部に接続される導電線の剥離部に剥離かすを残さないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明実施形態の導電線絶縁被膜の剥離装置を示す正面図である。
図2図1のA-A線断面図である。
図3】その回転部材が回転した状態を示す図2に対応する図である。
図4図1のB-B線断面図である。
図5】その剥離装置を備える本発明の巻線装置を示す上面図である。
図6】その巻線装置の正面を示す図5のC-C線断面図である。
図7図5のD-D線断面図である。
図8】その先端向き剥離機を用いた被膜の剥離状態を示す図である。
図9】その巻線装置により被巻線部材に導電線が巻回されるまでを示す図である。
図10】その基端向き剥離機を用いた被膜の剥離状態を示す図である。
図11】その巻線装置により被巻線部材に導電線が巻回された後を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
【0024】
図1に本発明の導電線絶縁被膜の剥離装置10を示す。この導電線絶縁被膜の剥離装置10は、対称構造を有する先端向き剥離機11及び基端向き剥離機21と、その先端向き及び基端向き剥離機11,21のいずれか一方又は双方を導電線8の長手方向に移動させる剥離機移動手段31とを備える。
【0025】
先ず、先端向き剥離機11を説明すると、この先端向き剥離機11は、導電線8を中心に回転可能に設けられた回転部材12を備える。即ち、この回転部材12は導電線8が挿通可能な管状体であって、この回転部材12の長手方向の略中央部分には、外径の比較的大きい大径フランジ12aが形成され、その大径フランジ12aより基端向き剥離機21側の回転部材12には小径の小径フランジ12bが大きな大径フランジ12aと所定の間隔を開けて互に平行となるように形成される。
【0026】
回転部材12に一体的に形成された両フランジ12a,12bには、これら両フランジ12a,12bに跨がって複数のカッタシャフト13がその軸心を中心に回動可能に貫通して設けられる。
【0027】
図2ないし図4に示すように、この実施の形態におけるカッタシャフト13は、回転部材12を中心として120°間隔で3本配置される場合を示し、この複数のカッタシャフト13は回転部材12に沿い、この回転部材12の中心軸回りに等間隔に配置されるものとする。また、図1に戻って、これら複数のカッタシャフト13は、回転部材12に対し小径フランジ12bよりも大径フランジ12a側で取付け半径が大きくなるように傾斜して設けられるものとする。
【0028】
図1ないし図3に示すように、これら複数のカッタシャフト13の小径フランジ12b側の端部にはカッタ14が導電線8を取囲むように固定され、このカッタ14は、カッタシャフト13の回動により回転部材12の小径フランジ12b側の端縁から突出した導電線8に接離可能に構成される(図3)。
【0029】
図1に示すように、複数のカッタシャフト13が設けられた回転部材12は、その大径フランジ12a側端部が支持板16に軸受16aを介して回転自在に支持され、支持板16には駆動装置であるモータ17が、その回転軸17aが回転部材12に平行になるように取付けられる。また、回転部材12の支持板16を挟んで端部にはプーリ12cが固定され、モータ17の回転軸17aにはプーリ17bが設けられ、このプーリ17bとプーリ12cとの間にはベルト17cが架設される。従って、このベルト17cを介してモータ17の回転軸17aの回転運動が伝達されて回転部材12を回転駆動可能に構成される。
【0030】
ここで、回転部材12が回転駆動されて、回転部材12とともに大径及び小径フランジ12a,12bが導電線8を中心として回転すると、その大径及び小径フランジ12a,12bとともに複数のカッタシャフト13は導電線8を中心として公転することになる。
【0031】
図1ないし図3に示すように、各カッタシャフト13の大径フランジ12a側の端部には、錘15が、その重心がカッタシャフト13の軸心と円周方向に偏心した状態で固定される。従って、図3に示す様に、複数のカッタシャフト13が導電線8を中心として公転すると、破線矢印で示すようにカッタシャフト13の後端に設けられた錘15に遠心力Fが作用し、その錘15が半径方向外側に移動してカッタシャフト13を回動させ、その端部に設けられたカッタ14の刃部14aを導電線8に接近させて接触させるように構成される。
【0032】
図1に示す様に、導電線8は回転部材12に挿通されて、その小径フランジ12b側端縁から突出する導電線8の側面にこのカッタ14は斜めに接触するようになっており、導電線8に対してカッタ14が設けられたカッタシャフト31が回転部材12とともに導電線8を中心に回転しつつ、その導電線8に接触した刃部14aが大径フランジ12a側に向かって移動すると、導電線8に接触したカッタ14の刃部14aが導電線8の被膜を螺旋状に剥離することになる。
【0033】
また、この先端向き剥離機11には、錘15に作用する遠心力Fに対抗してカッタ14を導電線8から離間させる方向にカッタシャフト13を回動付勢する板バネ18が備えられる。即ち、大径フランジ12aより支持板16側の回転部材12には取付リング19が取付ねじ19aにより取付けられ、この取付リング19に板バネ18の基端が固定ねじ18aにより取付けられる。
【0034】
一方、錘15にはカッタシャフト13と平行にピン15aが貫通して設けられる。このピン15aは、カッタシャフト13より回転部材12の半径方向外側の錘15に設けられる。そして、図4に示す様に、取付リング19を介して回転部材12に基端が取付けられた板バネ18は、それ自体が湾曲してその先端又は中間がピン15aに当接するように構成される。
【0035】
湾曲してその先端又は中間がピン15aに当接した板バネ18は、その弾性力により錘15を、遠心作用でカッタシャフト13が回動する方向とは反対の方向にピン15aを介して付勢するように構成される。ここで、図における符号19bは、複数のカッタシャフト13におけるそれぞれの錘15の、ピン15aを介した回動を一致させる為に設けられた円盤19bを示す。
【0036】
このため、回転部材12の回転を停止させると、遠心力により回転していたカッタシャフト13は板バネ18により逆方向に回転して、図2に示す様に、カッタ14の刃部14aを導電線8から離間させて、導電線8の被覆を剥離することなく、導電線8の長手方向の移動を許容するように構成される。ここで、図2における符号12dは、刃部14aが導電線8から離間した状態でピン15aが当接し、板バネ18によるカッタシャフト13の逆方向の回転を禁止する切り欠き12dを示す。
【0037】
先端向き剥離機11は上記のように構成され、図1に示す様に、基端向き剥離機21は、この先端向き剥離機11と対称構造を成して先端向き剥離機11に隣接して設けられる。基端向き剥離機21は先端向き剥離機11と対称構造を成すものであるので、繰り返しての説明を省略し、基端向き剥離機21の先端向き剥離機11に対応する部材の符号は、先端向き剥離機11の対応するものの符号に10を加えたものとして表すものとする。
【0038】
そして、その基端向き剥離機21は、そのカッタシャフト23の先端に設けられたカッタ24を先端向き剥離機11におけるカッタ14に対向させた状態で、それらの回転部材12,22が同軸になるように、それぞれの支持板16,26を方形状の台板30に取付けることにより、基端向き剥離機21は先端向き剥離機11に隣接して設けられる。
【0039】
剥離機移動手段31は、これら先端向き及び基端向き剥離機11,21の双方を導電線8の長手方向に移動させるものであって、この実施の形態における剥離機移動手段31は、同軸に設けられたそれらの回転部材12,22の長手方向に延びる細長い箱形ハウジング31dと、そのハウジング31dの内部に長手方向に伸びて設けられサーボモータ31aによって回動駆動されるボールネジ31bと、このボールネジ31bに螺合して平行移動する従動子31cとを備える。
【0040】
そして、先端向き及び基端向き剥離機11,21が取付けられた台板30は、同軸に設けられたそれらの回転部材12,22がボールネジ31bと平行になるように、剥離機移動手段31における従動子31cに取付けられる。
【0041】
このため、サーボモータ31aが図示しないコントローラからの指令により駆動してボールネジ31bを回転させると、それに螺合する従動子31cが先端向き及び基端向き剥離機11,21とともにハウジング31dの長手方向に移動することになる。これにより、それらの回転部材12,22に導電線8を挿通させた状態で、先端向き及び基端向き剥離機11,21をその導電線8の長手方向に移動させるように構成される。
【0042】
図5図7には、上述した導電線絶縁被膜の剥離装置10を備える本発明の巻線装置50を示す。ここで、互いに直交するX、Y、Zの3軸を設定し、X軸が略水平前後方向、Y軸が略水平横方向、Z軸が略垂直方向に延びるものとし、この巻線装置50の構成を説明する。
【0043】
本発明の巻線装置50は、導電線絶縁被膜の剥離装置10に向かって導電線8を所定の張力で繰出す線材繰出手段51を備える。図6に示す様に、導電線8はスプール52に巻回されて貯線され、そのスプール52から巻解かれた導電線8が導電線絶縁被膜の剥離装置10にまで案内されるものとし、その間に導電線8に一定の張力を付与する張力装置53が設けられる。
【0044】
この張力装置53は、繰出される導電線8に張力を与えるとともにその導電線8を引き戻し可能なものであり、架台50aに設けられたケーシング54と、そのケーシング54のY軸方向における側面に鉛直方向に延びて設けられた張力バー56とを備える。
【0045】
導電線8が巻き付けられて貯線されたスプール52はケーシング54のY軸方向における側面に設けられ、それを回転させて導電線8を繰出す繰出し制御モータ57がケーシング54の内部に設けられる。また、張力バー56の先端には、スプール52から繰出された導電線8が導かれるガイドプーリ58が設けられ、ガイドプーリ58に導かれた導電線8はそのガイドプーリ58から導電線絶縁被膜の剥離装置10に配線される。
【0046】
張力バー56は、基端の回動軸56aを支点としてX軸方向に回動可能となっている。この回動軸56aの回動角度は、ケーシング54内に収容され回動軸56aに取付けられた回動角度検出手段としてのポテンショメータ59により検出される。ポテンショメータ59の検出出力は図示しないコントローラに入力され、コントローラからの制御出力が繰出し制御モータ57に接続される。
【0047】
また、張力バー56の回動軸56aとガイドプーリ58との間の所定位置には、張力バー56の回動方向に付勢力を与える付勢手段としての弾性部材であるスプリング61の一端が取付けブラケット56bを介して取付けられる。張力バー56は、弾性部材であるスプリング61によって回動角度に応じた弾性力が及ぼされる。このスプリング61の他端は、移動部材62に固定される。この移動部材62は張力調節ネジ63に螺合しており、この張力調節ネジ63の回転に従って移動調整が可能に構成される。このように、スプリング61の他端の固定位置は変更でき、張力バー56によって付与される導電線8の張力が調節可能に構成される。
【0048】
図示しないコントローラは、回動角度検出手段であるポテンショメータ59により検出された回動角度が所定の角度となるように繰出し制御モータ57を制御するように構成される。従って、この張力装置53では、スプリング61により張力バー56を介して導電線8に張力を与えて、その張力バー56が所定の角度になるようにスプール52が回転して所定量の導電線8が繰出される。よって、所定の値の張力が付与された導電線8は、その状態で導電線絶縁被膜の剥離装置10に繰出されるように構成される。
【0049】
巻線装置50は、導電線絶縁被膜の剥離装置10が設けられた支持板65を3軸方向に移動させるノズル移動手段66を備える。
【0050】
図におけるノズル移動手段66は、X軸、Y軸、及びZ軸方向伸縮アクチュエータ67~69の組み合わせにより構成されたものを例示する。即ち、ノズル移動手段66を構成する各伸縮アクチュエータ67~69は、細長い箱形ハウジング67d~69dと、そのハウジング67d~69d内部に長手方向に伸びて設けられサーボモータ67a~69aによって回動駆動されるボールネジ67b~69bと、このボールネジ67b~69bに螺合して平行移動する従動子67c~69c等によって構成される。
【0051】
ノズル移動手段66は架台50aに対して支持板65を3軸方向に移動可能に構成されたもので有り、支持板65をX軸方向に移動可能にX軸方向伸縮アクチュエータ67のハウジング67dに鉛直板65aを介して取付け、そのX軸方向伸縮アクチュエータ67とともにその支持板65をZ軸方向に移動可能に、X軸方向伸縮アクチュエータ67の従動子67cがZ軸方向伸縮アクチュエータ69の従動子69cに取付けられる。
【0052】
また、そのX軸及びZ軸方向伸縮アクチュエータ67,69とともにその支持板65をY軸方向に移動可能に、そのZ軸方向伸縮アクチュエータ69のハウジング69dがY軸方向伸縮アクチュエータ68の従動子68cに取付けられる。そして、Y軸方向伸縮アクチュエータ68のハウジング68dがY軸方向に伸びて架台50aに固定される。それらの各伸縮アクチュエータ67~69における各サーボモータ67a~69aは、これらを制御する図示しないコントローラの制御出力に接続される。
【0053】
支持板65には、導電線絶縁被膜の剥離装置10における剥離移動手段31のハウジング31dがX軸方向に延びる様に搭載され、その支持板65のX軸方向の両端には、剥離装置10を挟むように基端側ノズル70と線材ノズル71が剥離装置10と所定の隙間を空けて設けられる。
【0054】
ここで、基端側ノズル70は、張力装置53により一定の張力が付与された導電線8を剥離装置10に導くものであり、基端向き剥離機21の回転部材22と同軸に設けられる。一方、線材ノズル71は、その剥離装置10を通過した導電線8が挿通されるものであり、先端向き剥離機11の回転部材12と同軸に設けられる。
【0055】
また、この巻線装置50は、導電線絶縁被膜の剥離装置10を通過した導電線8を被巻線部材40に巻回させる巻線手段64を備え、その巻線手段64は、図5及び図6に示す様に、導電線絶縁被膜の剥離装置10を通過した導電線8が挿通される線材ノズル71と、その線材ノズル71が設けられた支持板65を3軸方向に移動させるノズル移動手段66とを備えるものとなる。
【0056】
この実施の形態における被巻線部材40は、導電線8が実際に巻回される巻胴部41と、その巻胴部41の両側に設けられて巻胴部41における導電線8の巻幅を制限するフランジ42と、一方のフランジ42に植設されて巻始め接続部と巻終わり接続部を形成する1対のピン42a,42bとを備えたものが用いられるものとし、この被巻線部材40に導電線8を巻回させる巻線手段64は、この被巻線部材40を回転させて、ノズル71から繰出される導電線8を、その巻胴部41に巻回させるものとする。
【0057】
具体的に、この巻線手段64は、被巻線部材40の巻胴部41が挿脱自在に設けられた回転体43を備える。この回転体43は、その被巻線部材40を回転させるものであって、架台50aには支柱44が立設され、この支柱44に回転体43が回転可能に設けられる。
【0058】
図5及び図7に示す様に、支柱44から突出する回転体43にはプーリ46が嵌着される。そして架台50a又は支柱44には回転体43を回転させる回転手段となるモータ47が設けられる。このモータ47は、その回転軸47aが回転体43に平行になるように架台50a又は支柱44(この実施の形態では支柱44)に設けられ、モータ47の回転軸47aには別のプーリ48が設けられる。
【0059】
回転体43のプーリ46とモータ47における回転軸47aのプーリ48の間にはベルト45が掛け回され、これによりモータ47が駆動するとベルト45を介して回転体43を回転可能に構成される。そして、被巻線部材40を回転体43に嵌入させると、その被巻線部材40は回転体43と共に回転可能に構成される。
【0060】
そして、回転手段であるモータ47が被巻線部材40とともに回転体43を回転させると、線材ノズル71から繰出される導電線8は、被巻線部材40における巻胴部41に巻回可能に構成される。
【0061】
また、この巻線装置50は、線材ノズル71を通過した導電線8を係止する係止部材75と、その係止部材75を移動させる部材移動手段76とを備える。この実施の形態における係止部材75は、流体圧により一対の挟持片75a,75bを開閉し、その挟持片75a,75bにより導電線8を把持可能に構成された芯材把持装置75cと、その芯材把持装置75cを回転させるモータ75dとを備え、部材移動手段76は、その係止部材75を三軸方向に移動可能に構成されたものを示す。
【0062】
図における部材移動手段76は、上述したノズル移動手段66と同様な構造を有し、この実施の形態では、係止部材75をY軸方向に移動可能にY軸方向伸縮アクチュエータ78のハウジング78dに取付け、そのY軸方向伸縮アクチュエータ78とともに係止部材75をZ軸方向に移動可能に、Y軸方向伸縮アクチュエータ78の従動子78cがZ軸方向伸縮アクチュエータ79の従動子79cに取付けられる。また、そのY軸及びZ軸方向伸縮アクチュエータ79,79とともに係止部材75をX軸方向に移動可能に、そのZ軸方向伸縮アクチュエータ79のハウジング79dがX軸方向伸縮アクチュエータ77の従動子77cに取付けられる。そして、X軸方向伸縮アクチュエータ77のハウジング77dがX軸方向に伸びて架台50aに固定される。
【0063】
それらの各伸縮アクチュエータ77~79における各サーボモータ77a~79aは、これらを制御する図示しないコントローラの制御出力に接続され、これらの各伸縮アクチュエータ77~79は、図示しないコントローラからの指令によりサーボモータ77a~79aが駆動してボールネジ77b~79bが回転すると、このボールネジ77b~79bに螺合する従動子77c~79cがハウジング77d~79dの長手方向に沿って移動させて、係止部材75を三軸方向に移動可能に構成される。
【0064】
よって、線材ノズル71の先端から突出した導電線8を一対の挟持片75a,75bの間にした後に、その一対の挟持片75a,75bを閉じることにより、その一対の挟持片75a,75bにより導電線8を把持させることが可能なように構成される。そして、そのように把持することにより、導電線8を係止部材75に係止させることになり、その状態の係止部材75を部材移動手段76により三軸方向に移動可能に構成される。
【0065】
次に、本発明の導電線の巻線方法について説明する。
【0066】
本発明の導電線8の巻線方法は、先端が係止部材75に係止された導電線8の絶縁被膜を導電線8の周囲に押当てたカッタ14を導電線8の先端側に移動させることにより所定の長さ剥離して巻初め剥離部8aを形成する巻初め剥離工程と、巻初め剥離部8aを被巻線部材40の巻初め接続部42aに係止させる巻初め係止工程と、巻初め接続部42aと係止部材75との間の導電線8を巻初め接続部42aの近傍において切断する巻初め切断工程と、巻初め剥離部8aに連続する導電線8を被巻線部材40に巻回させる巻線工程と、導電線8の巻終わり部位における絶縁被膜を導電線8の周囲に押当てたカッタ24を導電線8の基端側に移動させることにより所定の長さ剥離して巻終わり剥離部8bを形成する巻終わり剥離工程と、巻終わり剥離部8bを被巻線部材40の巻終わり接続部42bに係止させる巻終わり係止工程と、巻終わり接続部42bより基端側に延びる導電線8を係止部材75に係止させる仮止め工程と、巻終わり接続部42bと係止部材75との間の導電線8を巻終わり接続部42bの近傍において切断する巻終わり切断工程とを有することを特徴とする。
【0067】
上記巻線装置50を用いる場合を説明すると、巻初め剥離工程以前に準備工程が行われ、この準備工程では、その巻線装置50の回転体43に被巻線部材40を嵌入させるとともに、その巻線機50に導電線8を装着することが行われる。
【0068】
図6に示す様に、導電線8の装着にあっては、スプール52に巻回されて貯線された導電線8を準備し、張力装置53におけるケーシング54の側面において、繰出し制御モータ57が回転可能にそのスプール52を取付ける。そして、スプール52から巻解いた導電線8を、張力バー56の先端におけるガイドプーリ58に導き、その後基端側ノズル70に貫通させて、導電線絶縁被膜の剥離装置10に導く。
【0069】
導電線絶縁被膜の剥離装置10にあっては、先端向き及び基端向き剥離機11,21の双方の回転部材12,22に導電線8を挿通し、それら回転部材12,22を貫通した導電線8を線材ノズル71に更に挿通させる。
【0070】
そして、図5に示す様に、架台50aに設けられた係止部材76に線材ノズル71から繰出された導電線8の先端を挟持させて導電線8の移動を禁止させ、張力装置53により、その導電線8が引っ張られても、線材ノズル71から導電線8が引き戻されないようにしておく。この状態から、巻初め剥離工程が行われる。
【0071】
この巻初め剥離工程では、導電線絶縁被膜の剥離装置10における先端向き剥離機11を用い、先端が係止部材75に係止された導電線8の絶縁被膜を導電線8の周囲に押当てたカッタ14を導電線8の先端側に移動させることによりその被膜を所定の長さ剥離して巻初め剥離部8aを形成する。
【0072】
具体的に、図示しないコントローラから、絶縁被膜の剥離の要求がされると、図8(a)に示す様に、先端向き剥離機11におけるモータ17(図1)により回転部材12を導電線8の線径に対応した回転速度で実線矢印で示す様に回転させ、そのフランジ12a,12bに付随するカッタ14、カッタシャフト13及び錘15をその導電線8の周囲に公転させる。
【0073】
すると、図3に示す様に、各錘15は回転部材12の回転速度に応じてバネ18(図4)による戻し方向の付勢に抗して各カッタシャフト13を軸として半径方向外側に回転(自転)する。これによりカッタシャフト13が回動(自転)し、各カッタ14の刃部14aを導電線8に接触させる。
【0074】
このように、刃部14aを導電線8に接触させた状態で、図8(b)に示す様に、先端向き剥離機11を導電線8の先端側に向けて必要な長さ移動させる。この移動は、剥離機移動手段31(図1)により行われる。すると、導電線8は先端向き剥離機11の回転部材12に挿通されており、その回転部材12に挿通された導電線8の側面にカッタ14の刃部14aが接触した状態で移動するので、導電線8に接触したカッタ14の刃部14aが導電線8の被膜を剥離しつつ移動することになる。
【0075】
そして、所定長さの絶縁被膜の剥離が完了すると、先端向き剥離機11の剥離機移動手段31(図1)による移動は停止され、それとともにモータ17(図1)による回転部材12の回転も停止されて、バネ18(図4)の付勢力により図2に示す様に錘15が戻り、カッタ14の刃部14aが導電線8から離間した初期位置に復帰して、それ以上の剥離が停止される。
【0076】
ここで、図8(b)に示す様に、剥離された絶縁被膜はカッタ14に密着してそのカッタ14とともに導電線8の先端側に移動するので、図8(c)に示す様に、そのカッタ14の刃部14aを導電線8から離間させることになる剥離終わり部位には、そのカッタ14とともに移動した剥離済みの絶縁被膜の一部が導電線8の表面に残存して巻初め剥離かす8cになる。そして、カッタ14は導電線8の先端側に移動するので、この導電線8の表面に残存する巻初め剥離かす8cは、巻初め剥離部8aの先端側に形成されることになる。
【0077】
次に巻初め係止工程が行われる。この巻初め係止工程では、図9(b)に示す様に、このように絶縁被膜を剥離することにより形成された巻初め剥離部8aを被巻線部材40の巻初め接続部42aに係止させる。この実施の形態における被巻線部材40は、巻初め接続部と巻終わり接続部を構成する1対のピン42a,42bを備えているので、巻線装置10は、ノズル移動手段66により支持板65とともに線材ノズル71を移動させて、巻初め接続部を構成する一方のピン42aの周囲にその線材ノズル71を周回させて、その線材ノズル71から繰出される巻初め剥離部8aをそのピン42aにからげる。
【0078】
ここで、巻初め剥離工程が終了したときに巻初め剥離部8aはまだ線材ノズル71から繰出されていないので、図9(a)に示す様に、導電線8の先端を係止する係止部材75を部材移動手段76(図5)より線材ノズル71から遠ざけるように移動させて、その巻初め剥離部8aを線材ノズル71から繰出し、その後に、その巻初め剥離部8aをピン42aにからげるようにする。ここで、図9における符号8dは、先に巻線が行われた場合に生じる巻終わり剥離かす8dを示す。
【0079】
図9(b)に示す様に、一方のピン42aの周囲に線材ノズル71を周回させることにより、巻初め剥離部8aをピン42aにからげるけれども、巻初め剥離工程の剥離終わりに生じる巻初め剥離かす8cは、その巻初め剥離部8aの先端側に形成されるので、この巻初め係止工程では、巻初め剥離工程の剥離終わりに生じる巻初め剥離かす8cを、係止部材75と巻初め接続部である一方のピン42aとの間に存在させることになる。
【0080】
次に、巻初め切断工程を行う。図9(c)に示す様に、この巻始め切断工程では、巻初め剥離部8aがからげられて係止された一方のピンである巻初め接続部42aから係止部材75に伸びる導電線8を巻初め接続部42aの近傍において切断する。
【0081】
この実施の形態では、導電線8の先端が係止された係止部材75を移動させる部材移動手段76(図5)を備えるので、導電線8の先端が係止する係止部材75を部材移動手段76(図5)より巻初め接続部42aから遠ざけるように移動させることにより、導電線8を巻初め接続部42aの近傍において引き千切ることにより切断するものとする。
【0082】
ここで、上述したように巻初め係止工程において、巻初め剥離かす8cは係止部材75と巻初め接続部である一方のピン42aとの間に存在することになる。このため、この巻初め切断工程において、巻初め接続部42aから係止部材75に伸びる導電線8を巻初め接続部42aの近傍において切断すると、その巻初め剥離かす8cは、係止部材75に係止された導電線8側に残存し、被巻線部材40の接続部42aに接続される導電線8の巻初め剥離部8aに剥離かす8cが残るようなことはない。
【0083】
なお、巻初め剥離かす8cが残存する導電線8は、その後に、係止部材75から取り外されて廃棄されることになる。
【0084】
この巻初め切断工程が終了した後には巻線工程が行われる。図11(a)に示す様に、この巻線工程では、巻初め剥離部8aから線材ノズル71側に連続する導電線8を被巻線部材40に巻回させることになる。具体的に、この巻線工程では、回転手段であるモータ47(図5)により、回転体43を被巻線部材40とともに必要な回数回転させることにより行う。
【0085】
それとともに、線材ノズル71を、ノズル移動手段66(図5及び図6)により被巻線部材40の巻胴部41に平行に往復移動させ、線材ノズル71から順次繰出される導電線8を、その巻胴部41に整列させて巻回させるようなことも行われる。
【0086】
巻線工程を終了した後には巻終わり剥離工程が行われる。図10に示す様に、この巻終わり剥離工程では、導電線8の巻終わり部位における絶縁被膜を導電線8の周囲に押当てたカッタ24を導電線8の基端側に移動させることにより所定の長さ剥離して巻終わり剥離部8bを形成する。
【0087】
上記巻線装置10を使用するこの実施の形態では、導電線絶縁被膜の剥離装置10における基端向き剥離機21を用い、巻終わり部位における導電線8の絶縁被膜を導電線8の周囲に押当てたカッタ24を導電線8の基端側に移動させることにより所定の長さ剥離して巻終わり剥離部8bを形成する。
【0088】
即ち、巻線工程により線材ノズル71から順次繰出された導電線8が被巻線部材40に所定量巻回されて、その巻終わり部に相当する部位の絶縁被膜の剥離の要求が図示しないコントローラからなされると、基端向き剥離機21におけるモータ27(図1)により回転部材22を導電線8の線径に対応した回転速度で実線矢印で示す様に回転させて、カッタ24、カッタシャフト23及び錘25をその導電線8の周囲に公転させる。そして、各錘25に遠心力を生じさせて各カッタシャフト23を回動(自転)させて、図10(a)に示す様に、各カッタ24における刃部24aを導電線8に接触させる。
【0089】
このように、刃部24aを導電線8に接触させた状態で、図10(b)に示す様に、基端向き剥離機21を導電線8の基端側に向けて必要な長さ移動させる。この移動は、剥離機移動手段31(図1)により行われる。すると、導電線8は基端向き剥離機21の回転部材22に挿通されており、その回転部材22から線材ノズル71側に突出した導電線8の側面にカッタ24の刃部24aが接触した状態で移動するので、導電線8に接触したカッタ24の刃部24aが導電線8の被膜を剥離することになる。
【0090】
そして、所定長さの絶縁被膜の剥離が完了すると、基端向き剥離機21の剥離機移動手段31による移動は停止され、図10(c)に示す様に、回転部材22の回転も停止されて、バネ28(図4)の付勢力により錘25が戻り、カッタ24の刃部24aが導電線8から離間した初期位置に復帰して、それ以上の剥離が停止される。
【0091】
ここで、剥離された絶縁被膜はカッタ24に密着してそのカッタ24とともに導電線8の基端側に移動するので、そのカッタ24の刃部24aを導電線8から離間させることになる剥離終わり部位には、そのカッタ24とともに移動した剥離済みの絶縁被膜の一部が導電線8の表面に残存して巻終わり剥離かす8dになる。そして、カッタ14は導電線8の基端側に移動するので、この導電線8の表面に残存する巻終わり剥離かす8dは、巻終わり剥離部8bの基端側に形成されることになる。
【0092】
従って、本発明の導電線絶縁被膜の剥離装置10では、巻初め剥離工程のように、剥離かす8cの生じる方向を剥離部8aの先端側に形成することもでき、巻終わり剥離工程のように、剥離かす8dの生じる方向を剥離部8bの基端側に形成することもできることなる。よって、本発明の導電線絶縁被膜の剥離装置10を用いることにより、剥離かす8c,8dの生じる方向を先端側や基端側に任意に変更することが可能となる。
【0093】
このような巻終わり剥離工程が終了した後には、絶縁被膜が剥離されて形成された巻終わり剥離部8bを被巻線部材40の巻終わり接続部42bに係止させる巻終わり係止工程が行われる。
【0094】
ここで、巻終わり剥離工程が終了したときに巻終わり剥離部8bはまだ線材ノズル71から繰出されていないので、図11(a)に示す様に、被巻線部材40とともに回転体43を回転させて、線材ノズル71から繰出される導電線8を被巻線部材40に巻回させ、その巻終わり剥離部8bを線材ノズル71から繰出して、巻終わり接続部を構成する他方のピン42bにその巻終わり剥離部8bを対応させる。
【0095】
そして、図11(b)に示す様に、巻線装置10は、ノズル移動手段66(図5)により支持板65とともに線材ノズル71を移動させて、巻終わり接続部を構成する他方のピン42bの周囲にその線材ノズル71を周回させて、その線材ノズル71から繰出される巻終わり剥離部8bをそのピン42bにからげる。
【0096】
このように、巻終わり剥離部8bを他方のピン42bにからげるけれども、巻終わり剥離工程の剥離終わりに生じる巻終わり剥離かす8dは、その巻終わり剥離部8bの基端側に形成されるので(図10)、この巻終わり係止工程では、巻終わり剥離工程の剥離終わりに生じる巻終わり剥離かす8dを、巻終わり接続部である他方のピン42bより基端側に存在させることになる。
【0097】
次に、巻終わり接続部42bより基端側に延びる導電線8を係止部材75に係止させる仮止め工程を行う。図11(c)に示す様に、この実施の形態における仮止め工程では、巻終わり剥離部8bから線材ノズル71を離間させて、その間に係止部材75が進入可能な空間を形成するとともに、巻終わり剥離かす8dを線材ノズル71から引き出しておくことが好ましい。
【0098】
そして、この実施の形態では、一対の挟持片75a,75bが開放された係止部材75を移動させて、線材ノズル71の先端から突出した導電線8を一対の挟持片75a,75bの間にまで位置させ、その後一対の挟持片75a,75bを閉じることにより、図11(c)に示す様に、その一対の挟持片75a,75bにより導電線8を把持させることにより、導電線8を係止部材75に係止させる。図11(c)には、線材ノズル71から引き出された巻終わり剥離かす8dと線材ノズル71の間の導電線8を係止部材75に係止させる場合を示す。
【0099】
次に、巻終わり切断工程を行う。この巻終わり切断工程では、巻終わり剥離部8bがからげられて係止された他方のピンである巻終わり接続部42bから係止部材75に伸びる導電線8を巻終わり接続部42bの近傍において切断する。
【0100】
この実施の形態では、巻終わり接続部42bと線材ノズル71との間の導電線8を係止した係止部材75を移動させる部材移動手段76を備えるので、図11(d)に示す様に、導電線8を係止する係止部材75を部材移動手段76より巻終わり接続部42bから遠ざけるように移動させることにより、導電線8を巻終わり接続部42bの近傍において引き千切ることにより切断するものとする。
【0101】
ここで、巻終わり係止工程において、接続部42bと線材ノズル71の間に巻終わり剥離かす8dが存在し、仮止め工程において、巻終わり剥離かす8dと線材ノズル71の間の導電線8を係止部材75に係止させるので、この巻終わり切断工程において、巻終わり接続部42bから係止部材75に伸びる導電線8を巻終わり接続部42bの近傍において切断すると、その巻終わり剥離かす8dが残存した剥離終わり部は、係止部材75に係止された導電線8側に残存し、被巻線部材40側に残るようなことはない。
【0102】
よって、本発明の巻線装置50並びに巻線方法では、被巻線部材40の接続部42a,42bに接続される導電線8の剥離部8a,8bに剥離かす8c,8dを残さないようなものとなる。
【0103】
このように被巻線部材40に対する導電線8の巻線が終了した後には、巻線が成された被巻線部材40を回転体43より取り外すことにより一連の巻線作業を終了して、別の被巻線部材40を回転体43に新たに嵌着させることにより、次の巻線作業が開始される。
【0104】
なお、上述した実施の形態では、X軸、Y軸、及びZ軸方向伸縮アクチュエータの組み合わせにより構成された部材移動手段76及びノズル移動手段66を説明したけれども、これらの部材移動手段76,66はこの構造のものに限るものではなく、係止部材75及び線材ノズル71等が架台50aに対して3軸方向に移動可能である限り、他の形式のものであっても良い。
【0105】
また、上述した実施の形態では、張力装置53が、張力バー56をスプリング61により傾動させて、導電線8に張力を付与する場合を説明したが、張力を付与する手段は、これに限らず、他の形式のものであっても良い。例えば、スプール52自体を移動させて、導電線8に張力を付与するような形式のものであっても良い。
【0106】
また、上述した実施の形態では、カッタシャフト13,23の先端に設けられたカッタ14,24が対向するように、先端向き剥離機11を基端向き剥離機21に隣接して、それぞれの支持板16,26を方形状の台板30に取付けた導電線絶縁被膜の剥離装置10を説明した。けれども、カッタシャフト13,23の基端に設けられた錘15,25が対向するようにしても良い。
【0107】
また、上述した実施の形態では、先端向き及び基端向き剥離機11,21の双方を同時に導電線8の長手方向に移動させる剥離機移動手段31を用いて説明した。けれども、剥離機移動手段31は、先端向き及び基端向き剥離機11,21のいずれか一方移動させるようなものであっても良い。また、ノズル移動手段66が導電線絶縁被膜の剥離装置10を移動可能であるようであれば、そのノズル移動手段66が剥離機移動手段31を兼ねるようにしても良い。
【0108】
また、上述した実施の形態では、一方のフランジ42に植設された1対のピン42a,42bが巻始め接続部と巻終わり接続部を構成する場合を説明した。けれども、この接続部は、これに限るものではなく、例えば、リード線であってもよい。
【0109】
また、上述した実施の形態では、流体圧により一対の挟持片75a,75bを開閉し、その挟持片75a,75bにより導電線8を把持可能に構成された芯材把持装置75c 等から成る係止部材75を用いて説明した。けれども、導電線8を係止可能である限り、係止部材75このようなものに限定されない。例えば、導電線8を巻回することにより、その導電線8を係止する棒状部材であっても良い。
【0110】
更に、上述した実施の形態では、導電線8が係止された係止部材75を移動させて、その導電線8を引き千切ることから、その係止部材75を移動させる部材移動手段76が切断装置である場合を説明した。けれども、導電線8を切断可能である限り、切断装置はこれに限定されるものではなく、例えば、導電線8を直接的に切断可能なカッタ等を切断装置として用いるようにしても良い。
【符号の説明】
【0111】
8 導電線
8a 巻初め剥離部
8b 巻終わり剥離部
10 導電線絶縁被膜の剥離装置
11 先端向き剥離機
12 回転部材
13 カッタシャフト
14 カッタ
21 基端向き剥離機
22 回転部材
23 カッタシャフト
24 カッタ
25 錘
31 剥離機移動手段
40 被巻線部材
42a 一方のピン(巻初め接続部)
42b 他方のピン(巻終わり接続部)
51 線材操出手段
64 巻線手段
66 ノズル移動手段
71 ノズル
75 係止部材
76 部材移動手段(切断装置)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11