(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-09
(45)【発行日】2024-08-20
(54)【発明の名称】吸収式除去・濃縮装置
(51)【国際特許分類】
B01D 53/18 20060101AFI20240813BHJP
F24F 3/14 20060101ALI20240813BHJP
F24F 7/08 20060101ALI20240813BHJP
【FI】
B01D53/18 120
F24F3/14
F24F7/08 101C
(21)【出願番号】P 2020041820
(22)【出願日】2020-03-11
【審査請求日】2023-02-10
(73)【特許権者】
【識別番号】390020215
【氏名又は名称】株式会社西部技研
(72)【発明者】
【氏名】井上 宏志
【審査官】中村 泰三
(56)【参考文献】
【文献】特許第5795423(JP,B1)
【文献】特開2009-052753(JP,A)
【文献】特開2017-075715(JP,A)
【文献】特開2012-005943(JP,A)
【文献】特開2019-062862(JP,A)
【文献】特許第6578492(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/06、18、62
B01J 20/22
F24F 3/12-167
F24F 7/08
F24F 8/00-99
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素の吸収剤を保持した二酸化炭素除去ロータを有し、前記二酸化炭素除去ロータを少なくとも処理ゾーンと再生ゾーンとに分け、前記処理ゾーンに処理対象空気を通風することで、前記処理対象空気に含まれる二酸化炭素を前記二酸化炭素除去ロータの保持吸収剤に吸収させて分離除去して供給先に給気し、前記再生ゾーンでは、全熱交換器で前記再生ゾーンからの再生排気の潜熱と顕熱を回収した再生用空気を通風することで、前記保持吸収剤が前記処理ゾーンで吸収した二酸化炭素を脱離させることによって、前記保持吸収剤を再生するようにし、前記処理ゾーンの出口側に加湿装置を設けたことを特徴とする吸収式除去・濃縮装置。
【請求項2】
前記処理対象空気を冷却する冷却装置または前記再生用空気を加熱する加熱装置のいずれか一方または両方とも設けたことを特徴とする請求項1に記載の吸収式除去・濃縮装置。
【請求項3】
前記全熱交換器が全熱交換ロータまたは静止型直交流素子であることを特徴とする請求項1または2に記載の吸収式除去・濃縮装置。
【請求項4】
前記冷却装置は、ヒートポンプの蒸発器で、前記加熱装置は、ヒートポンプの凝縮器であることを特徴とする請求項
2に記載の吸収式除去・濃縮装置。
【請求項5】
前記全熱交換ロータを冬期と中間期は回転させ、夏期は静止させることを特徴とする請求項
3に記載の吸収式除去・濃縮装置。
【請求項6】
前記全熱交換ロータの予熱ゾーンと予冷ゾーンのいずれか一方または両方をバイパスさせるバイパス路を設けたことを特徴とする請求項3
または5に記載の吸収式除去・濃縮装置。
【請求項7】
前記二酸化炭素除去ロータの前記再生ゾーンに直接外気を取り込む取入れ口と前記再生ゾーンから直接装置外へ排気する排気口を設けたことを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の吸収式除去・濃縮装置。
【請求項8】
前記二酸化炭素除去ロータの前記処理ゾーンを出た空気の一部を処理ゾーンの前に戻す処理循環系路を設けたことを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の吸収式除去・濃縮装置。
【請求項9】
前記二酸化炭素除去ロータの前記再生ゾーンを出た空気の一部を再生ゾーンの前に戻す再生循環系路を設けたことを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の吸収式除去・濃縮装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、アミン添着多孔質材、弱塩基性陰イオン交換樹脂などの二酸化炭素吸収剤を保持したロータを用いて、処理対象空気に含まれる二酸化炭素を処理対象空気から、処理対象空気と再生空気とのエンタルピ差を用いて分離することで、例えばビル等の室内の二酸化炭素を除去する目的や、ビニルハウスや植物工場などに濃縮した高濃度の二酸化炭素を供給する目的など、目的に応じて二酸化炭素を除去・濃縮できる吸収式除去・濃縮装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ガス状の除去対象物質を処理対象空気から低温で分離除去できる装置として、例えば特許文献1に見られるようにアミン担持固体吸収剤を保持させた通気性の吸着ロータを用い、低温の再生空気を加湿することにより、再生エネルギーを抑えながらも装置の物質回収率を確保できる吸収式除去・濃縮装置が知られている。
【0003】
また特許文献1の技術を応用した特許文献2では、アミン担持固体吸収剤のような二酸化炭素の吸収剤を保持したロータを用いて、再生用空気のエンタルピ(温度と湿度の両方)と処理対象空気のエンタルピ(温度と湿度の両方)を制御することにより、装置の除去対象物質の除去量を制御できる吸収式除去・濃縮装置を提案している。
【0004】
さらに現在、二酸化炭素の分離回収技術の一つに、アミン水溶液による化学吸収法が知られている。アミン水溶液は、二酸化炭素を吸収したアミン水溶液から二酸化炭素を分離(アミン水溶液を加熱再生)するために莫大なエネルギーを要することから、再生エネルギーの低減が望まれている。その解決策の一つとして、固体吸収剤の開発が進んでいる。固体吸収剤は、アミン水溶液の再生時に水溶液系で有るがゆえに必要な、水分の加熱・冷却に関する余分なエネルギーを低減することができる。
【0005】
アミン水溶液を用いた二酸化炭素の吸収過程は非特許文献1に見られるように一般的に以下の式で示される。
一級アミン(R-NH2)
[1] 2R-NH2 + CO2 ⇔ R-NH3
+ + R-NH-COO-
[2a] R-NH2 + CO2 + H2O ⇔ R-NH3
+ + HCO3
-
[2b] R-NH-COO- + H2O ⇔ R-NH2 + HCO3
-
二級アミン(R1R2-NH)
[3] 2R1R2-NH + CO2 ⇔R1R2-NH+ + R1R2-N-COO-
[4a] R1R2-NH + CO2 + H2O ⇔ R1R2-NH2
+ + HCO3
-
[4b] R1R2-N-COO- + H2O ⇔ R1R2-NH + HCO3
-
【0006】
二酸化炭素吸収液が第二番目に示した経路[2a][2b][4a][4b]により二酸化炭素吸収を行えると、 [1]或いは[3]で示される反応よりも反応熱が小さくなり、脱離再生のエネルギーを少なくできるというメリットがある。即ち、アミン担持固体吸収剤を用いる場合、例えば吸収摂氏15℃(以降、温度は全て「摂氏」とする)、脱離45℃のような低温条件では、[2a][2b][4a][4b]で示されるような反応が起こると考えられる。ただし、これらの反応は水の存在下で進むため、水分(湿分)の共存が必須である。
【0007】
三級アミンはNH結合を持たないため、ここで示した反応は起きず、例えば吸収15℃、脱離45℃といった低温条件においては二酸化炭素の吸収脱離性能を示さない。
【0008】
アミン系二酸化炭素吸収剤は酸化分解による臭いや熱劣化の問題もあり、これを低減するためにも再生温度を低くすることは重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第5795423号公報
【文献】特開2017-154063号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】公益財団法人 地球環境産業技術研究機構 平成22年二酸化炭素回収技術高度化事業 成果報告書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1に開示されたものは、アミン担持固体吸収剤のような水分の共存が必要な吸収剤を保持したハニカムロータを使い、再生ゾーンの再生用空気を加湿することによって、再生用空気の温度を下げながら二酸化炭素除去性能を高めている。また、低温で再生することにより、アミン系二酸化炭素吸収剤の酸化劣化や臭いの問題も低減している。
【0012】
しかしながら、特許文献1に記載のものは、どのような制御方法で吸収式除去・濃縮装置を制御すれば、結果として装置の物質回収率η(即ち、処理ゾーンにおいて処理対象空気から除去対象物質を吸収により分離除去する効率)や除去対象物質の除去量がどのようになるか不明確で、設計条件や空気条件など種々の仕様が変わった場合の装置の最適化ができなかった。
【0013】
また特許文献2に開示されたものは、吸着ロータの処理ゾーンに通風する処理対象空気か、加熱再生ゾーンに通風する再生用空気の何れか又は両方のエンタルピ(温度と湿度の両方)を制御して、二酸化炭素の除去・濃縮性能の制御が可能となるようにしている。
【0014】
しかしながら、特許文献2に記載のものは、外気の温湿度が高い(エンタルピが高い)夏期または一年中外気の温湿度が高い亜熱帯地方や熱帯地方では、再生用空気のエンタルピを容易に高くすることが可能で二酸化炭素の除去・濃縮性能を高くできるが、外気の温湿度が低い(エンタルピが低い)冬期には、再生用空気のエンタルピを高くして、二酸化炭素の除去・濃縮性能を高くするためには夏期と比較して多くのエネルギーが必要になるという欠点があった。また、段落0016に再生ゾーンで脱離した水分と熱を全熱交換器等で再生入口に湿分と温度を回収供給することが記載されているが、具体的に装置をどのような構成にするのかや、日本のように四季が有り、外気条件が大きく変わる時に装置をどのように運転するのかなど明確にされていなかった。
【0015】
この実情に鑑み、本発明の主たる課題は、アミン担持固体吸収剤のような二酸化炭素の吸収剤を保持したロータを用いて、再生出口の排気する空気と再生用空気の間で全熱交換して、排気空気から充分に潜熱と顕熱を回収することにより、冬期の再生用空気のエンタルピを高くすることにより、四季を通して装置の除去対象物質の除去量を適切に維持できる吸収式除去・濃縮装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は以上のような課題を解決するため、二酸化炭素の吸収剤を保持したロータを有し、このロータを少なくとも処理ゾーンと再生ゾーンとに分け、処理ゾーンに処理対象空気を通風することで、その処理対象空気に含まれる二酸化炭素をロータ部分の保持吸収剤に吸収させて処理対象空気から分離除去し、再生ゾーンでは、全熱交換器で再生排気の潜熱と顕熱を回収した再生用空気を通風することで、その保持吸収剤が前記処理ゾーンで吸収した二酸化炭素を、再生用空気で脱離させて、ロータ部分の保持吸収剤を再生する吸収式除去・濃縮装置である。
【0017】
アミン担持固体吸収剤のような二酸化炭素の吸収剤を担持したハニカムロータを用いて、処理対象空気のエンタルピを再生用空気のエンタルピより低くすることにより、処理ゾーンにおける二酸化炭素の吸収性能を発揮させ、再生用空気のエンタルピを処理対象空気のエンタルピより高くすることにより、再生ゾーンにおける脱離性能を発揮させることができる。このようにエンタルピ差によって目的物の吸収・脱離を行なう原理(以下、「エンタルピスイング吸収」または「ESA」(Enthalpy Swing Absorption)という)を用いて、吸収式除去・濃縮装置における除去・濃縮性能を発揮させるようにした。
【0018】
エンタルピ調整するための温度調整手段としては、冷却コイル、加熱コイル、ベルチェ素子、電気ヒータ、蒸気ヒータや加熱手段としてヒートポンプの凝縮器(コンデンサ)、冷却手段として蒸発器(エバポレータ)などが用いられる。また、室内などに供給する給気の湿度が低い場合の加湿装置としては、水加熱式、気化式、水噴霧式、超音波式など種々の方式が用いられ、ヒートポンプの蒸発器(エバポレータ)で発生する凝縮水を利用してもよい。
【0019】
また、再生ゾーンでの二酸化炭素濃縮効率を向上するため、再生ゾーンを出た空気の一部を再生ゾーンの前に戻す再生循環系路を設けてもよい。
【0020】
また、処理ゾーンでの二酸化炭素除去率を向上するため、処理ゾーンを出た空気の一部を処理ゾーンの前に戻す処理循環系路を設けてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の吸収式除去・濃縮装置は前述の如く構成したもので、処理ゾーンに処理対象空気を通風することで、その処理対象空気に含まれる二酸化炭素をロータ部分の保持吸収剤に吸収させて処理対象空気から分離除去し、再生ゾーンでは、全熱交換器で再生排気の潜熱と顕熱を回収した再生用空気を通風することで、その保持吸収剤が前記処理ゾーンで吸収した二酸化炭素を、再生用空気で脱離させて、ロータ部分の保持吸収剤を再生する。この保持吸収剤の再生の際に、処理ゾーンに流す空気と再生ゾーンに流す空気のエンタルピの差で再生しているため、再生ゾーンに流す空気の温度が低くても十分に再生ができる。よってアミン系の二酸化炭素吸収剤を用いても、吸収剤の劣化を抑えることができる。
【0022】
本発明の吸収式除去・濃縮装置の処理ゾーンに、室内の還気を通過させると、出口空気の二酸化炭素濃度が低くなり、ビルなどの二酸化炭素濃度が高くなっている室内に供給することで室内の二酸化炭素濃度を低くすることができる。この場合、室内の二酸化炭素濃度を低減させるために導入する外気量を大幅に低減することができるため、通常の換気と比べて省エネルギーとなる。また、本発明の吸収式除去・濃縮装置の再生ゾーンを通過した再生出口空気は二酸化炭素濃度が高くなっているため、ビニルハウスや植物工場などの植物の育成室に導くと植物の成長が早くなるとともに、環境への二酸化炭素の放出を抑制できる。本発明の吸収式除去・濃縮装置にて処理された、再生出口空気と処理出口空気の両方を用いて、室内の二酸化炭素を除去しながら、再生ゾーンの高濃度の二酸化炭素をビニルハウスに供給してもよい。本発明の吸収式除去・濃縮装置で、例えば、処理出口空気でビルを空調し、室内でヒトなどから発生した二酸化炭素をビルの屋上に設けたビニルハウスに供給し、植物の生長を促進させる、といった、二酸化炭素の循環空調も可能となる。
【0023】
さらに揮発性有機化合物(以下VOCと書く)やアンモニアなどの臭気物質の吸着能力を有するハニカムロータとESAによる二酸化炭素吸収式除去・濃縮装置を組み合わせることによって、さらに室内空気質を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は本発明の吸収式除去・濃縮装置の実施例1におけるフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、二酸化炭素吸収機能を持つアミン担持固体吸収剤などを保持したロータを有し、このロータを少なくとも処理ゾーンと再生ゾーンとに分割する。処理対象空気を処理ゾーンに通風して、処理対象空気から二酸化炭素を分離除去し、全熱交換器で再生排気の潜熱と顕熱を回収した再生用空気を再生ゾーンに通風して、二酸化炭素を脱離させるという作用を有する。
【実施例1】
【0026】
以下、本発明の吸収式除去・分離装置の実施例1について
図1に沿って詳細に説明する。3は二酸化炭素除去ロータであり、セラミック繊維紙やガラス繊維紙などの不燃性のシートをコルゲート(波付け)加工しロータ状に巻き付け加工したもので、トリエタノールアミン、モノエタノールアミンなどの有機系吸収剤、或いはアミン系の弱塩基性陰イオン交換樹脂、アミンを担持した活性炭やシリカゲルやメソポーラスシリカなどのアミン担持固体吸収剤が担持されている。
【0027】
二酸化炭素除去ロータ3は処理ゾーン4と再生ゾーン5に分割されている。処理ゾーン4には室内などからの還気RAが冷水コイルやヒートポンプの蒸発器などの冷却装置2を通して処理送風機1で室内などの供給先に給気される。
【0028】
処理対象空気を冷却装置2に通してエンタルピ調整した後、処理ゾーン4に通風して、処理対象空気に含まれる二酸化炭素をロータ部分の吸収剤に吸収させて処理対象空気から分離除去し、二酸化炭素の濃度は低減する。なお、室内などへの給気SAの湿度が低い場合には、水加熱式、気化式、水噴霧式、超音波式などの加湿装置11によって加湿する。
【0029】
8は全熱交換ロータであり、既に多くの市販品があるが、技術的には日本特許第3009018号に開示されたものなどが適する。つまり、アルミニウム・シートをハニカム状に形成し、そのシートの上に湿気吸着剤を担持し、最終的に回転可能なロータ状に形成されている。湿気吸着剤としては、日本特許第3009018号に開示されたように、特定のイオン交換樹脂を粉砕したものが適するが、これに限定されるものではなく、塩化カルシウム、珪藻土、シリカゲル、ゼオライト、高分子収着剤などでもよく、単にアルミニウム・シートの表面をアルマイト処理してハニカム状に形成したものだけを使ってもよい。
【0030】
再生ゾーン5では、外気OAを全熱交換ロータ8の予熱ゾーン9により、再生ゾーン5を通過した空気から予冷ゾーン10で潜熱と顕熱を回収した再生用空気として、温水コイル、電気ヒータ、蒸気ヒータ、ヒートポンプの凝縮器などの加熱装置6によってエンタルピ調整した後、再生ゾーン5に通風して、ロータに吸収した二酸化炭素を再生用空気に脱離させ、ゾーン内通過過程にあるロータ部分の保持吸収剤は再生される。
【0031】
全熱交換ロータ8の予冷ゾーン10で再生出口空気から潜熱と顕熱を回収された空気は、再生送風機7によって排気EAとして装置外へ排気される。なお、全熱交換ロータ8は、静止型直交流素子タイプの全熱交換器で全熱回収できるようにしてもよい。
【0032】
特に一級アミン及び/又は二級アミンを官能基として有する弱塩基性陰イオン交換樹脂を固体吸収剤として用いると、前記の式[2a][2b][4a][4b]で示されるような反応が起こり、アミン-二酸化炭素-水系の連続誘電体モデルができると考えられている。つまり溶質としてのHCO3
-分子の周りに連続誘電体としての溶媒ができ、溶質分子の電荷分布が周りの溶媒に分極を引き起こす。連続誘電体モデルでは、このような溶質溶媒間相互作用により、式[2a][2b][4a][4b]を低温条件下で促進させるため、吸収速度や放散速度などの反応性が高くなる。したがって、低温度の再生温度で加湿することにより、従来技術である置換脱着のような、加熱した低温の再生用空気を加湿状態にして吸着状態にある除去対象物質を水分により吸着材から追い出すものと異なる挙動を示す。なお、これまで行ってきた種々の試験でも、三級アミンを官能基として有するアミン担持固体吸収剤を担持したハニカムロータでは、ほとんど二酸化炭素を除去・濃縮できないという知見が得られており、このことからも上記のような反応で二酸化炭素の除去・濃縮が起こっていると考えられる。
【0033】
実施例1では、処理送風機1を冷却装置2の前に設置したが、これに限定されるものではなく、二酸化炭素除去ロータ3の処理ゾーン4の後ろや加湿装置11の後に設けてもよい。また、再生送風機7についても、全熱交換ロータ8の予熱ゾーン9の前後や、予冷ゾーン10の前に設けてもよい。
【0034】
また、処理ゾーン4から出た空気の一部または全量を冷却装置2の前に戻して処理循環させることにより、二酸化炭素除去量を高めるようにしてもよい。
【0035】
さらに、再生ゾーン3から出た空気の一部または全量を加熱装置6の前に戻して再生循環させることにより、二酸化炭素除去量を高めるようにしてもよい。
【0036】
この実施例1の吸収式除去・濃縮装置において、一般的なビルのワンフロアの空調を行うために必要な約4,000m
3/hrの処理風量の場合、冬期、夏期、中間期における
図1の符号(1)~(11)での温湿度と二酸化炭素濃度の値を以下の表1に示す。なお、本明細書では、冬期、夏期、中間期は以下の状態であるものとする。
【0037】
<冬期>
外気の気温が10℃以下であって、且つ絶対湿度が5g/kg(DA)以下の状態
【0038】
<夏期>
外気の温度が25℃以上であって、且つ絶対湿度が15g/kg(DA)以上の状態
【0039】
<中間期>
外気の温度と絶対湿度が上記の冬期と夏期の間の状態
【0040】
なお、冬期と中間期では全熱交換ロータ8を回転させ、夏期は回転させずに静止した状態にする。
【表1】
【0041】
実施例1では、夏期は全熱交換ロータ8を回転させずに静止した状態にするが、全熱交換ロータ8をバイパスさせるようなバイパス路を設けたり、全熱交換ロータ8の予熱ゾーン9と加熱装置6の間に外気OAの取入れ口を、二酸化炭素除去ロータ3の再生ゾーン5と全熱交換ロータ8の予冷ゾーン10の間に排気EAの排気口を設ける構成としてもよい。このような構成にすることにより、年間を通して全熱交換ロータ8を回転稼働させ、バルブやダンパなどにより全熱交換ロータ8の予熱ゾーン9や予冷ゾーン10を通過する空気の風量と、バイパス路や外気OAの取入れ口と排気EAの排気口を通過する空気の風量を制御して、再生ゾーン5に送る再生用空気のエンタルピを、年間を通して適切に制御することが可能となる。
【0042】
また、実施例1では処理対象空気として、室内からの還気RAを全量用いたが、外気OAを一部または全て取り入れるような構成としてもよい。
【0043】
さらに、外気や室内の空気条件によっては、冷却装置2または加熱装置6のどちらか一方または両方が無い構成としてもよく、加湿装置11が無い構成としてもよい。
【0044】
このように実施例1のような構成の吸収式除去・濃縮装置にすることによって、比較的簡単な構造で、日本のように四季が有り、夏期、中間期、冬期と一年間での外気条件が大きく変わる地域においても、省エネルギーで有効に使える吸収式除去・濃縮装置を提供することが可能となった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、二酸化炭素の吸収剤を保持したロータでESAの原理を用いて、処理ゾーンで処理対象空気に含まれる二酸化炭素を吸収し、全熱交換器によって再生ゾーンで脱着された水分と熱回収を行なった再生用空気によって処理ゾーンで吸収した二酸化炭素を脱離するため、再生ゾーンに高温再生用空気を用いる場合に比べて省エネルギーである。また、日本のように四季の有る地域でも有効に使用でき、比較的簡単な構造の空調装置とすることが可能となった。
【0046】
本発明の吸収式除去・濃縮装置の処理ゾーンを通過した処理出口空気は、二酸化炭素濃度が低くなっているため、ビルなどの二酸化炭素濃度が高くなっている室内に供給することで室内の二酸化炭素濃度を低くすることができる。この場合、室内の二酸化炭素濃度が低下するので導入する外気量を大幅に低減することができるため、通常の換気と比べて省エネルギーとなる。また、本発明の吸収式除去・濃縮装置の再生ゾーンを通過した再生出口空気は二酸化炭素濃度が高くなっているため、ビニルハウスや植物工場などの植物の育成室に導くと植物の成長が早くなるとともに、環境への二酸化炭素の放出を抑制できる。再生出口空気と処理出口空気の両方を用いて、室内の二酸化炭素を除去しながら、再生ゾーンの高濃度の二酸化炭素をビニルハウスに供給してもよい。例えば、本発明の吸収式除去・濃縮装置で、室内空気からヒトなどから発生した二酸化炭素を除去して低濃度にした処理出口空気でビルを空調し、二酸化炭素が高濃度になった再生出口空気をビルの屋上等に設けたビニルハウスに供給して植物の生長を促進させるといった、二酸化炭素の循環空調も可能となる。
【符号の説明】
【0047】
1 処理送風機
2 冷却装置
3 二酸化炭素除去ロータ
4 処理ゾーン
5 再生ゾーン
6 加熱装置
7 再生送風機
8 全熱交換ロータ
9 予熱ゾーン
10 予冷ゾーン
11 加湿装置