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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-09
(45)【発行日】2024-08-20
(54)【発明の名称】光学素子、光学機器、撮像装置
(51)【国際特許分類】
   C08F 20/36 20060101AFI20240813BHJP
   G02B 1/04 20060101ALI20240813BHJP
【FI】
C08F20/36
G02B1/04
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020069798
(22)【出願日】2020-04-08
(65)【公開番号】P2021165360
(43)【公開日】2021-10-14
【審査請求日】2023-04-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110870
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 芳広
(74)【代理人】
【識別番号】100096828
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 敬介
(72)【発明者】
【氏名】田上 慶
【審査官】池田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-176034(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0332772(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 20/36
G02B 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性組成物を重合させてなる硬化物を有する光学素子であって、
前記重合性組成物は、少なくとも芳香族イミド化合物と重合開始剤とを含有し、
前記芳香族イミド化合物が、下記式(2)で示される化合物であることを特徴とする光学素子。
【化1】
〔上記式(2)中、
A:炭素数1乃至3のアルキレン基である。
P:アクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基である。
q:0又は1である。〕
【請求項2】
重合性組成物を重合させてなる硬化物を有する光学素子であって、
前記重合性組成物は、少なくとも芳香族イミド化合物と重合開始剤とを含有し、
前記芳香族イミド化合物が下記式(3)で示される化合物であることを特徴とする光学素子。
【化2】
〔上記式(3)中、
1、X2:それぞれ独立に、炭素数が1乃至6のアルキレン基又はフェニレン基である。
前記アルキレン基の主鎖中のCH2の一つは、少なくとも一つの酸素原子又は硫黄原子に置き換えられていても良い。
前記アルキレン基は、炭素数1乃至6のアルキル基で置換されていても良い。
前記フェニレン基は、水素原子、炭素数1乃至3のアルキル基、主鎖中のCH2の少なくとも一つが酸素原子又は硫黄原子に置き換えられていても良い炭素数1乃至6のアルキレン基、のいずれかで置換されていても良い。
1、P2:それぞれ独立に、アクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基である。〕
【請求項3】
前記式(3)中のX1とX2とが互いに異なることを特徴とする請求項に記載の光学素子。
【請求項4】
前記重合性組成物が、アクリレート樹脂及びメタクリレート樹脂の少なくとも一方を0.01質量%以上20.0質量%以下含有することを特徴とする請求項1乃至のいずれか一項に記載の光学素子
【請求項5】
前記硬化物の二次分散特性が0.60以上0.74以下であることを特徴とする請求項1乃至のいずれか一項に記載の光学素子。
【請求項6】
前記硬化物が透明基板上に積層されていることを特徴とする請求項1乃至のいずれか一項に記載の光学素子。
【請求項7】
前記硬化物が、2枚の透明基板間に挟持されていることを特徴とする請求項1乃至のいずれか一項に記載の光学素子。
【請求項8】
筐体と、前記筐体内に配置された複数のレンズを有する光学系と、を有する光学機器であって、
前記複数のレンズの少なくとも一つが、請求項1乃至のいずれか一項に記載の光学素子であることを特徴とする光学機器。
【請求項9】
筐体と、前記筐体内に配置された複数のレンズを有する光学系と、前記光学系を通過した光を受光する撮像素子と、を有する撮像装置であって、
前記複数のレンズの少なくとも一つが、請求項1乃至のいずれか一項に記載の光学素子であることを特徴とする撮像装置。
【請求項10】
カメラであることを特徴とする請求項に記載の撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子、及び該光学素子を用いた光学機器と撮像装置と、に関し、特に二次分散特性が高い光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、硝材や有機樹脂等の光学材料の屈折率は、短波長側になるにつれ徐々に屈折率が高くなる。この屈折率の波長分散性を表す指標として、アッベ数(νd)や二次分散特性(θg,F)等が挙げられる。このアッベ数や二次分散特性は、各光学材料に特有の値であるが、多くの場合、ある一定の範囲内に収まっている。
尚、アッベ数(νd、d線を基準とするアッベ数)、二次分散特性(θg,F)は以下の式で表される。
νd=(nd-1)/(nF-nC
θg,F=(ng-nF)/(nF-nC
d:波長587.6nmでの屈折率
F:波長486.1nmでの屈折率
C:波長656.3nmでの屈折率
g:波長435.8nmでの屈折率
しかし、光学材料(硝材、有機樹脂等)の構成(材料種や分子構造)を詳細に設計することにより、前記一定の範囲内の値から外れた高二次分散特性を有する光学材料も合成されている。例えば、有機樹脂であるポリビニルカルバゾールは、汎用有機樹脂材料よりも高い二次分散特性を有している。
一般に、屈折光学系では、分散特性の異なる硝材を組み合わせることによって色収差を減らしている。例えば、望遠鏡等の対物レンズでは分散の小さい硝材を正レンズ、分散の大きい硝材を負レンズとし、これらを組み合わせて用いることで軸上に現れる色収差を補正している。このため、レンズの構成、枚数が制限される場合や使用される硝材が限られている場合などでは、色収差を十分に補正することが非常に困難となる場合がある。このような課題を解決する方法の一つとして、異常分散特性を有するガラス材料を活用した光学素子類の設計が行われている。
また、色収差補正機能に優れる非球面形状等を有する光学素子を製造する場合、硝材を材料として用いるより、球面ガラス等の上に有機樹脂を成形するなどした方法が量産性や成形性、形状の自由度、軽量性に優れるという利点がある。しかし、従来の有機樹脂の光学特性は、限られた一定の範囲内に収まっており、特異な分散特性を示す有機樹脂類は少ない。
特許文献1には、二次分散特性が高い樹脂材料として、(メタ)アクリレート化合物と、硬化性組成物と、を含む樹脂前駆体の硬化物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2019/069488号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された硬化物は、高い二次分散特性を有してはいるものの、樹脂前駆体における単量体成分の析出抑制のために含有させた成分によって、単量体成分単体の硬化物の二次分散特性比べて、二次分散特性が低下している。
本発明の課題は、硬化前の状態で含有成分の析出が抑制され、硬化後に高い二次分散特性を示す重合性組成物を提供し、係る重合性組成物の硬化物を有する光学素子、更には係る光学素子を備えた光学機器、撮像装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1は、重合性組成物を重合させてなる硬化物を有する光学素子であって、
前記重合性組成物は、少なくとも芳香族イミド化合物と重合開始剤とを含有し、
前記芳香族イミド化合物が、下記式(2)で示される化合物であることを特徴とする光学素子。
【化1-1】
〔上記式(2)中、
A:炭素数1乃至3のアルキレン基である。
P:アクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基である。
q:0又は1である。〕
本発明の第2は、重合性組成物を重合させてなる硬化物を有する光学素子であって、
前記重合性組成物は、少なくとも芳香族イミド化合物と重合開始剤とを含有し、
前記芳香族イミド化合物が、下記式(3)で示される化合物であることを特徴とする。
【化1-2】
〔上記式(3)中、
1 、X 2 :それぞれ独立に、炭素数が1乃至6のアルキレン基又はフェニレン基である。
前記アルキレン基の主鎖中のCH 2 の一つは、少なくとも一つの酸素原子又は硫黄原子に置き換えられていても良い。
前記アルキレン基は、炭素数1乃至6のアルキル基で置換されていても良い。
前記フェニレン基は、水素原子、炭素数1乃至3のアルキル基、主鎖中のCH 2 の少なくとも一つが酸素原子又は硫黄原子に置き換えられていても良い炭素数1乃至6のアルキレン基、のいずれかで置換されていても良い。
1 、P 2 :それぞれ独立に、アクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基である。〕
本発明の第は、筐体と、前記筐体内に配置された複数のレンズを有する光学系と、を有する光学機器であって、前記複数のレンズの少なくとも一つが上記本発明の光学素子であることを特徴とする。
本発明の第は、筐体と、前記筐体内に配置された複数のレンズを有する光学系と、前記光学系を通過した光を受光する撮像素子と、を有する撮像装置であって、前記複数のレンズの少なくとも一つが、上記本発明の光学素子であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の光学素子は、特定の重合性組成物を重合してなる硬化物を有しており、該重合性組成物は含有成分の析出が良くされており、該硬化物は屈折率の二次分散特性(θg,F)が高い、即ち色収差補正機能の高い特性を有する。よって、本発明の光学素子においては、効率良く色収差を取り除くことができ、該光学素子を用いることで、光学機器、撮像装置の軽量短小化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の光学素子の一例の構成を模式的に示す厚さ方向の断面図である。
図2】本発明の光学素子を用いた撮像装置の構成を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明者等は鋭意検討した結果、芳香環とイミド結合とからなる特定の環状イミド構造を有する芳香族イミド化合物を重合させることによって得られる硬化物において、高い二次分散特性が得られることがわかった。さらに、環状イミド構造を形成する芳香環数とイミド結合の数を調整することで、硬化物の二次分散特性を維持しつつ、重合性組成物における芳香族イミド化合物の結晶性を抑制できることがわかり、本発明を達成した。
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対して適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に含まれる。
【0010】
〔重合性組成物〕
本発明において用いられる重合性組成物は、少なくとも芳香族イミド化合物と重合開始剤とを含有する液状体であり、重合反応により、硬化物を得ることができる。そして、かかる芳香族イミド化合物が、芳香環により環が形成された環状イミド構造と、該環状イミド構造を構成する窒素原子に間接的に結合したアクリロイルオキシ基及びメタクリロイルオキシ基の少なくとも一方と、を有することに特徴を有する。さらに、環状イミド構造を構成する芳香環は、一つの環状イミド構造のみ形成している、即ち、環状イミド構造を構成する芳香環は、2以上の環状イミド構造を形成していないことに特徴を有する。
【0011】
以下、アクリロイルオキシ基及びメタクリロイルオキシ基を合わせて、「(メタ)クリロイルオキシ基」と記載する。また、(メタ)クリロイルオキシ基が環状イミド構造を構成する窒素原子に「間接的に結合している」とは、(メタ)クリロイルオキシ基が窒素原子に直接結合しておらず、(メタ)クリロイルオキシ基が窒素原子との間に、原子又は基が介在することを意味する。
【0012】
本発明において用いられる芳香族イミド化合物は、下記式(1)で示される構造を化合物内に少なくとも一つ有していることが好ましい。尚、「式(1)で示される構造を化合物内に有する」とは、芳香族イミド化合物が、式(1)で示される構造のみを有する化合物である場合と、式(1)で示される構造と式(1)に示されていない構造とを有する場合と、を含むものである。
【0013】
【化1】
上記一般式(1)中、X、Y、P、m、nは以下の通りである。
X:炭素数が1乃至6のアルキレン基又はフェニレン基である。
前記アルキレン基の主鎖中のCH2の一つは、少なくとも一つの酸素原子又は硫黄原子に置き換えられていても良い。
前記アルキレン基は、炭素数1乃至6のアルキル基で置換されていても良い。
前記フェニレン基は、水素原子、炭素数1乃至3のアルキル基、主鎖中のCH2の少なくとも一つが酸素原子又は硫黄原子に置き換えられていても良い炭素数1乃至6のアルキレン基、のいずれかで置換されていても良い。
mが2の時、二つのXは互いに独立して選択される。
Y:4価のビフェニル基又は2価のナフチレン基である。
P:アクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基である。
m:Yがナフチル基の時に1であり、ビフェニル基の時に2である。
n:1乃至4の整数である。
【0014】
本発明に用いる芳香族イミド化合物においては、環状イミド構造の芳香環がナフチレン基であるモノイミド構造或いはフェニレン基であるモノイミド構造で構成されることが好ましい。これらの環状イミド構造で構成されることによって、重合性組成物における芳香族イミド化合物の結晶性抑制を維持しながら、硬化物において高い二次分散特性が得られる。また、環状イミド構造を構成する窒素原子に、アルキレン基、フェニレン基、フェニレンアルキレン基を介して(メタ)クリロイルオキシ基を導入することで、重合性組成物における結晶性抑制を維持しながら、硬化物において高い二次分散特性と高い透過率が得られる。
【0015】
上記式(1)で示される構造を有する芳香族イミド化合物として、より具体的には、以下の式(2)又は式(3)で示される構造である芳香族イミド化合物が挙げられる。
【0016】
式(2)で示される構造の芳香族イミド化合物は、式(1)におけるYがナフチレン基の場合であり、式(1)で示される構造を一つ有している。
【0017】
【化2】
上記式(2)中、A、P、qは以下の通りである。
A:炭素数1乃至3のアルキレン基である。
P:アクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基である。
q:0又は1である。
【0018】
また、下記式(3)で示される構造の芳香族イミド化合物は、式(1)におけるYがビフェニル基である。即ち、芳香環により環が形成された環状イミド構造を二つ有している。
【0019】
【化3】
上記式(3)中、X1、X2、P1、P2は以下の通りである。
1、X2:それぞれ独立に、炭素数が1乃至6のアルキレン基又はフェニレン基である。
前記アルキレン基の主鎖中のCH2の一つは、少なくとも一つの酸素原子又は硫黄原子に置き換えられていても良い。
前記アルキレン基は、炭素数1乃至6のアルキル基で置換されていても良い。
前記フェニレン基は、水素原子、炭素数1乃至3のアルキル基、主鎖中のCH2の少なくとも一つが酸素原子又は硫黄原子に置き換えられていても良い炭素数1乃至6のアルキレン基、のいずれかで置換されていても良い。
1、P2:それぞれ独立に、アクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基である。
【0020】
上記式(3)で示される、環状イミド構造を二つ有する芳香族イミド化合物において、それぞれの環状イミド構造に異なる構造を導入することにより、係る芳香族イミド化合物の対称性が弱まり、高い透過率が得られる。
【0021】
一般に、芳香族化合物に代表される長い共役構造を有する化合物は、汎用材料よりもバンドギャップが小さいため、紫外領域の吸収端が可視光領域側にシフトしている。その影響により、長い共役構造を有する化合物は、高屈折率特性や高い二次分散特性を有するようになる。しかし、単純に芳香族化合物を連結して長い共役構造を構築するだけでは実用性のある材料は得られない。例えば、大きな芳香族化合物では、合成性や着色、可視光領域の短波長側で透過率の低下、さらに他の化合物との相溶性や組成物における結晶析出する点において課題が残る。
【0022】
そのため、光学用材料として利用する場合は透過率向上・結晶性抑制の観点から、共役構造の長さの調整が必要である。しかし、透過率の向上や結晶性抑制を図るために、芳香族化合物の共役構造を短くする、置換基の立体障害により分子間距離を広げるなどの作用は、同時に屈折率の低下や二次分散特性の低下を招く。本発明に係る、芳香族イミド化合物をついては、以下のように考えられる。
【0023】
芳香族がイミド結合と環を形成することで、共役が伸びて高い二次分散特性を示すが、一つの芳香環が2つのイミド結合とそれぞれ環を形成すると、共役が伸びると同時に対称性が高まるため、結晶性が高くなる。本発明では、一つの芳香環がイミド結合と形成する環が一つとなるように限定することで、対称性を崩して結晶性を抑制しながら、共役を伸ばして硬化物における二次分散特性を高められると考えられる。さらにイミド構造にメチン基を導入し、分岐した各末端に(メタ)クリロイルオキシ基を導入することで、分岐した(メタ)クリロイルオキシ基の立体障害により、結晶性が抑制され、硬化物における透過率が向上すると考えられる。
【0024】
芳香族イミド化合物の結晶性が低下することで、重合性組成物において、他の化合物や樹脂との相溶性が向上する。
【0025】
上記一般式(1)乃至(3)において、フェニレン基の置換基としての炭素数1乃至3のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基等が挙げられる。より好ましくはメチル基、エチル基である。
【0026】
本発明に用いられる芳香族イミド化合物の具体例を表1,2に示す。芳香族イミド化合物は、これらに限定されるわけではなく、また、単独で使用しても、複数組み合わせて使用してもよい。
【0027】
【表1】
【0028】
【表2】
【0029】
本発明に用いられる芳香族イミド化合物の製造方法について例を挙げて説明する。
本発明に用いられる特定の構造を有する芳香族イミド化合物の製造方法としては、特定の製造ルートに限定されず、どの様な製造方法でも採用することが可能であり、公知の合成方法を用いて合成することが可能である。
【0030】
イミド化反応は、例えばJournal of American Chemical Society,130 ,14410-14411(2008)記載の公知の合成方法を用いて合成可能である。
【0031】
(メタ)アクリレート化反応は、任意に選択することが可能である。代表的な方法としては、(メタ)アクリル酸ハライドや(メタ)アクリル酸無水物を使用して水酸基をエステル化する方法、(メタ)アクリル酸の低級アルコールのエステルを使用するエステル交換反応、N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミドなどの脱水縮合剤を使用して(メタ)アクリル酸と該ジオールとを脱水縮合させる直接エステル化反応、(メタ)アクリル酸と該ジオールを硫酸等の脱水剤存在下で過熱する方法などが好適に用いられる。
【0032】
また、芳香族イミド化合物の重合性官能基である(メタ)クリロイルオキシ基の官能基数は、結晶性抑制、透過率、樹脂及び他の化合物との相溶性の観点から2以上が好ましく、合成上の観点から2がより好ましい。
【0033】
次に、本発明に用いられる重合性組成物について説明する。
本発明において、重合性組成物は、上記の芳香族イミド化合物と重合開始剤とを含有し、必要に応じて重合禁止剤、さらには光増感剤、耐熱安定剤、耐光安定剤、酸化防止剤や樹脂を含有する組成物である。
【0034】
重合性組成物中の芳香族イミド化合物の含有量は、重合性組成物中に1.0質量%以上99質量%以下、好ましくは50質量%以上99質量%以下が望ましい。
【0035】
重合開始剤には、光照射によりラジカル種を発生するものやカチオン種を発生するもの、熱によりラジカル種を発生するもの等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0036】
光照射によりラジカル種を発生する重合開始剤としては、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-1-ブタノン、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、4-フェニルベンゾフェノン、4-フェノキシベンゾフェノン、4,4’-ジフェニルベンゾフェノン、4,4’-ジフェノキシベンゾフェノン等であるがこれらに限定されない。
【0037】
また、光照射によりカチオン種を発生する重合開始剤としては、ヨードニウム(4-メチルフェニル)[4-(2-メチルプロピル)フェニル]-ヘキサフルオロフォスフェートが好適な重合開始剤として挙げられるがこれらに限定されない。
【0038】
さらに、熱によりラジカル種を発生する重合開始剤としては、アゾビスイソブチルニトリル(AIBN)等のアゾ化合物、ベンゾイルパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシピバレート、tert-ブチルパーオキシネオヘキサノエート、tert-ヘキシルパーオキシネオヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシネオデカノエート、tert-ヘキシルパーオキシネオデカノエート、クミルパーオキシネオヘキサノエート、クミルパーオキシネオデカノエート等の過酸化物が挙げられるがこれらに限定されない。
【0039】
光として紫外線等を照射して重合を開始させる場合には、公知の増感剤等を使用することもできる。増感剤の代表的なものとしては、ベンゾフェノン、4,4-ジエチルアミノベンゾフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、p-ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、4-ジメチルアミノ安息香酸メチル、ベンゾイン、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、2,2-ジエトキシアセトフェノン、o-ベンゾイル安息香酸メチル、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、アシルフォスフィンオキサイド等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0040】
尚、重合可能な樹脂成分に対する光重合開始剤の添加比率は、光照射量、さらには、付加的な加熱温度に応じて適宜選択することができる。また、得られる重合体の目標とする平均分子量に応じて、調整することもできる。
【0041】
重合性組成物の重合(硬化)に用いる光重合開始剤の添加量は、重合可能な成分に対して0.01質量%以上10.00質量%以下の範囲が好ましい。光重合開始剤は樹脂の反応性、光照射の波長によって1種類のみを使用することもできるし、2種類以上を併せて使用することもできる。
【0042】
また、重合性組成物においては、重合反応時や保存時に重合が進行しないように重合禁止剤を必要に応じて使用しても良い。重合禁止剤の例としては、p-ベンゾキノン、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、2,5-ジフェニルパラベンゾキノンなどのヒドロキノン類、テトラメチルピペリジニル-N-オキシラジカル(TEMPO)などのN-オキシラジカル類、tert-ブチルカテコールなどの置換カテコール類、フェノチアジン、ジフェニルアミン、フェニル-β-ナフチルアミンなどのアミン類、ニトロソベンゼン、ピクリン酸、分子状酸素、硫黄、塩化銅(II)などを挙げることができる。この中でもヒドロキノン類、フェノチアジン及びN-オキシラジカル類が汎用性かつ重合抑制の点で好ましく、特にヒドロキノン類が好ましい。
【0043】
重合禁止剤の使用量は、芳香族イミド化合物に対して、下限が、通常10ppm以上、好ましくは50ppm以上であり、上限が、通常10000ppm以下、好ましくは1000ppm以下である。少なすぎる場合は、重合禁止剤としての効果が発現しないか、発現しても効果が小さく、反応時や後処理工程での濃縮時に重合が進行するおそれがある。逆に、多すぎる場合には、例えば、後述する重合性組成物を製造する際の不純物となり、また、重合反応性を阻害する等の悪影響を及ぼすおそれがあり好ましくない。
【0044】
耐光安定剤については、成形体の光学特性に大きな影響を及ぼさないものであれば特に制限は無く、代表的なものとして、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-p-クレゾール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)フェノール、2-[5-クロロ(2H)-ベンゾトリアゾール-2-イル]-4-メチル-6-(tert-ブチル)フェノール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ジ-tert-ペンチルフェノール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール、2,2’-メチルレンビス[6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)]フェノール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-ドデシル-4-メチルフェノール等のベンゾトリアゾール系材料、2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリル酸エチル、2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリル酸 2-エチルヘキシル等のシアノアクリレート系材料、トリアジン系材料、オクタベンゾン、2,2’-4,4’-テトラヒドロベンゾフェノン等のベンゾフェノン系材料等を挙げることができる。耐光安定剤が光増感剤の役割を果たす場合もあり、その場合は添加しなくても良い。
【0045】
本発明の重合性組成物の重合(硬化)に用いる耐光安定剤の添加量は、重合可能な成分の全量に対して、0.01質量%以上10.00質量%以下の範囲が好ましい。
【0046】
耐熱安定剤としては、成形体の光学特性に大きな影響を及ぼさないものであれば特に制限は無く、例えば、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)]プロピオネート、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ベンゼンプロパン酸、3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシ、C7-C9側鎖アルキルエステル、4,6-ビス(オクチルチオメチル)-o-クレゾール、4,6-ビス(ドデシルチオメチル)-o-クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3-(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)]プロピオネート、ヘキサメチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)]プロピオネート等のヒンダードフェノール系材料、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)フォスファイト等のリン系材料、ジオクタデシル3,3’-チオジプロピオネート等のイオウ系材料等を使用することができる。
【0047】
酸化防止剤としては、硬化物の光学特性に大きな影響を及ぼさないものであれば特に制限は無く、代表的なものとして、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)[[3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル]メチル]ブチルマロネート等のヒンダードアミン系材料等が挙げられる。重合性組成物の重合に用いられる酸化防止剤の添加量は、重合可能な成分の全量に対して、0.01質量%以上10.00質量%以下の範囲が好ましい。
【0048】
重合性組成物には、樹脂を含有させてもよく、係る樹脂としては、特に制限は無く、例えば、1,3-アダマンタンジオールジメタクリレート、1,3-アダマンタンジメタノールジメタクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、プロポキシ化ネオペンチルグリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリアクリレート、2(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレート、ステアリルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、2-フェノキシエチルアクリレート、イソデシルアクリレート、イソボニルアクリレート、イソボニルメタクリレート、1,3-ブチレングリコールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、トリプロピレングリコールジメタクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、9,9-ビス[4-(2-アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(2-メタクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(2-アクリロイルオキシ)フェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(2-メタクリロイルオキシ)フェニル]フルオレン、ベンジルアクリレート、ベンジルメタクリレート、ブキシエチルアクリレート、ブトキシメチルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシメチルメタクリレート、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシエチルメタクリレート、フェニルメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、エチレングリコールビスグリシジルアクリレート、エチレングリコールビスグリシジルメタクリレート、ビスフェノールAジアクリレート、ビスフェノールAジメタクリレート、2,2-ビス(4-アクリロキシエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-メタクリロキシエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-メタクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、ビスフェノールFジアクリレート、ビスフェノールFジメタクリレート、1,1-ビス(4-アクリロキシエトキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-メタクリロキシエトキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-アクリロキシジエトキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-メタクリロキシジエトキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-アクリロキシエトキシフェニル)スルホン、1,1-ビス(4-メタクリロキシエトキシフェニル)スルホン、1,1-ビス(4-アクリロキシジエトキシフェニル)スルホン、1,1-ビス(4-メタクリロキシジエトキシフェニル)スルホン、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、グリセロールジアクリレート、グリセロールジメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、メチルチオアクリレート、メチルチオメタクリレート、フェニルチオアクリレート、ベンジルチオメタクリレート、キシリレンジチオールジアクリレート、キシリレンジチオールジメタクリレート、メルカプトエチルスルフィドジアクリレート、メルカプトエチルスルフィドジメタクリレート等の(メタ)アクリレート化合物、アリルグリシジルエーテル、ジアリルフタレート、ジアリルテレフタレート、ジアリルイソフタレート、ジアリルカーボネート、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート等のアリル化合物、スチレン、クロロスチレン、メチルスチレン、ブロモスチレン、ジブロモスチレン、ジビニルベンゼン、3,9-ジビニルスピロビ(m-ジオキサン)等のビニル化合物、ジイソプロペニルベンゼン等であるがこれらに限定されない。
【0049】
また、前記樹脂は熱可塑性樹脂でもよく、例えば、エチレン単独重合体、エチレンとプロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン等の1種又は2種以上のα-オレフィンとのランダム又はブロック共重合体、エチレンと酢酸ビニル、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチルとの1種又は2種以上のランダム又はブロック共重合体、プロピレン単独重合体、プロピレンとプロピレン以外の1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン等の1種又は2種以上のα-オレフィンとのランダム又はブロック共重合体、1-ブテン単独重合体、アイオノマー樹脂、さらにこれら重合体の混合物などのポリオレフィン系樹脂;石油樹脂、テルペン樹脂などの炭化水素原子系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系樹脂;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン6/66、ナイロン66/610、ナイロンMXDなどポリアミド系樹脂;ポリメチルメタクリレートなどのアクリル系樹脂;ポリスチレン、スチレン-アクリロニトリル共重合体、スチレン-アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、ポリアクリロニトリルなどのスチレン,アクリロニトリル系樹脂;ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体などのポリビニルアルコール系樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリケトン樹脂;ポリメチレンオキシド樹脂;ポリスルホン樹脂;ポリイミド樹脂;ポリアミドイミド樹脂などが挙げられる。これらは1種又は2種以上を混合して用いることができる。
好ましくはアクリレート樹脂、メタクリレート樹脂が用いられる。
【0050】
重合性組成物に含有される樹脂の含有量は、0.01質量%以上99質量%以下、好ましくは得られる重合性組成物の屈折率特性や成形体の脆性を考慮すると0.01質量%以上50質量%以下であることが望ましい。さらに二次分散特性及び透過率を維持するために0.01質量%以上20質量%以下がより好ましい。
【0051】
〔光学素子〕
次に、本発明に係る光学素子について図を参照しながら説明する。
本発明の光学素子は、上記の重合性組成物を重合させてなる硬化物を有することを特徴とし、好ましくは透明基板と係る硬化物との積層体である。係る硬化物は、0.60以上0.74以下の高い二次分散特性が示されることから、本発明の光学素子においては、効率よく色収差を取り除くことができる。
図1に、本発明の光学素子の実施形態の厚さ方向の断面模式図を示す。図1(a)は、透明基板2の一方の面上に上記重合性組成物を重合させてなる硬化物1の薄膜が設けられている。
【0052】
透明基板2には、透明な樹脂や、透明なガラスを用いることができる。ここで、本明細書において透明とは可視光(波長が380nm以上780nm以下の範囲である光)全域の透過率が30%以上の透過率であることを示す。透明基板2,3は、ガラスを用いることが好ましく、例えば、ケイ酸ガラスやホウケイ酸ガラス、リン酸ガラスに代表される一般的な光学ガラスや、石英ガラス、ガラスセラミックスを用いることができる。透明基材20は平面視した際に円形であることが好ましい。
【0053】
図1(a)の光学素子を作製する方法としては、例えば、透明基板上に膜厚の薄い層構造を形成する方法が採用される。具体的には、金属材料からなる型を透明基板2から一定の距離を置いて設け、この型と透明基板2との間にある空隙に流動性の重合性組成物を充填してから、軽く抑えることで、型成形を行う。そして必要に応じてその状態に保ったまま重合性組成物の重合を行う。
【0054】
かかる重合反応に供する光照射は、光重合開始剤を用いたラジカル生成に起因する機構に対応して、好適な波長の光、通常、紫外光もしくは可視光を用いて行う。例えば、透明基板2として利用する光透過性材料を介して、重合性組成物のモノマー等の原料に対して、均一に光照射を実施する。照射光量は、光重合開始剤を利用したラジカル生成に起因する機構に応じて、また、含有される光重合開始剤の含有比率に応じて、適宜選択される。
【0055】
一方、かかる光重合反応による重合性組成物の重合においては、照射される光が型成形されている重合性組成物全体に均一に照射されることがより好ましい。従って、利用される光照射は、透明基板2に利用する光透過性材料を介して、均一に行うことが可能な波長の光を選択することが一層好ましい。この際、透明基板2上に形成する硬化物1の厚さを薄くすることは、本発明にはより好適である。
【0056】
また、図1(b)は、透明基板間に本発明の重合性組成物を重合させてなる硬化物1の薄膜が挟持されている。図1(b)においては、透明基板2,3がそれぞれ、対向側が凹面を有し、外周において互いに接しており、硬化物1は、両面が凸面のレンズ上となっている。透明基板2,3には、透明な樹脂や、透明なガラスを用いることができ、好ましくはガラスである。ガラスとしては、ケイ酸ガラスやホウケイ酸ガラス、リン酸ガラスに代表される一般的な光学ガラスや、石英ガラス、ガラスセラミックスを用いることができる。透明基板2,3は、平面視した際に円形であることが好ましい。
【0057】
図1(b)の光学素子を作製する方法としては、例えば、透明基板2,3間に本発明の重合性組成物を流し込み、軽く抑えることで成形を行う。そしてこの状態に保ったまま重合性組成物の光重合を行う。それにより硬化物1が透明基板2,3に挟まれた積層体を得ることができる。
【0058】
同様に、熱重合法により成形体の作製を行うこともできる。この場合、全体の温度をより均一とすることが望ましく、光透過性材料の基板上に形成する重合性組成物の成形体の総厚を薄くすることは、本発明にはより好適なものとなる。また、形成する重合性組成物の成形体の総厚を厚くする場合には、より膜厚、樹脂成分の吸収、微粒子成分の吸収を考慮した照射量、照射強度、光源等の選択が必要である。
【0059】
〔光学機器〕
本発明の光学素子の具体的な適用例について説明する。具体的な適用例としては、カメラやビデオカメラ用の光学機器(撮影光学系)を構成するレンズや液晶プロジェクター用の光学機器(投影光学系)を構成するレンズ等が挙げられる。また、DVDレコーダー等のピックアップレンズに用いることもできる。これらの光学系は、筐体内に配置された複数のレンズからなり、それらの複数のレンズの少なくとも1つを上述した光学素子とすることができる。
【0060】
〔撮像装置〕
図2は、本発明の光学素子を用いた撮像装置の好適な実施形態の一例であり、一眼レフデジタルカメラ10の構成を示している。図2は、用いた光学素子の光軸を含む断面模式図である。図2において、カメラ本体12と光学機器であるレンズ鏡筒11とが結合されているが、レンズ鏡筒11はカメラ本体12に対して着脱可能ないわゆる交換レンズである。
【0061】
被写体からの光は、レンズ鏡筒11の筐体30内の撮影光学系の光軸上に配置された複数のレンズ13、15などからなる光学系を介して撮影される。本発明の光学素子は例えば、レンズ13、15に用いることができる。ここで、レンズ15は内筒14によって支持されて、フォーカシングやズーミングのためにレンズ鏡筒11の外筒に対して可動支持されている。
【0062】
撮影前の観察期間では、被写体からの光は、カメラ本体の筐体31内の主ミラー17により反射され、プリズム21を透過後、ファインダレンズ22を通して撮影者に撮影画像が映し出される。主ミラー17は例えばハーフミラーとなっており、主ミラーを透過した光はサブミラー18によりAF(オートフォーカス)ユニット23の方向に反射され、例えばこの反射光は測距に使用される。また、主ミラー17は主ミラーホルダ40に接着などによって装着、支持されている。不図示の駆動機構を介して、撮影時には主ミラー17とサブミラー18を光路外に移動させ、シャッタ19を開き、撮像素子20がレンズ鏡筒11から入射して撮影光学系を通過した光を受光して撮影光像を結像するようにする。また、絞り16は、開口面積を変更することにより撮影時の明るさや焦点深度を変更できるよう構成される。
【0063】
尚、ここでは、一眼レフデジタルカメラを用いて撮像装置を説明したが、本発明の光学素子はスマートフォンやコンパクトデジタルカメラなどにも同様に用いることができる。
【実施例
【0064】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を逸脱しない限り、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。尚、合成した生成物の分析は、NMR装置(日本電子株式会社製「JNM-ECA400」(製品名))を用いて行った。
【0065】
(合成例1)
(1)E1中間体の合成
室温下、窒素気流下で200mlの3つ口フラスコに、4,4’-ビフタル酸無水物10g、2-(4-アミノフェニル)エタノール4.1gとジメチルアセトアミド50mlの混合物を攪拌しながら滴下した。滴下終了後、100℃まで加熱した後、その温度下で6時間撹拌させた。反応終了後、容器を冷却し、減圧濃縮した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、片側にのみ2-フェニルエチルアルコール構造が導入されたモノイミド体8.8gを得た。300mlの3つ口フラスコに、モノイミド体8.0gと、2-アミノベンジルアルコール4.1g、ジメチルアセトアミド40mlを入れ、5時間加熱還流させた。加熱還流後、容器を冷却し、減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、E1中間体を9.7g(収率50%)得た。
【0066】
(2)E1の合成
窒素雰囲気下、500mL三口フラスコに、E1中間体8.0g、テトラヒドロフラン200mL、ヒドロキノンモノメチルエーテル(MEHQ)0.11g、トリエチルアミン7.6mL投入後、無水メタクリル酸9.3gを滴下し、加熱し20時間還流撹拌を行った。反応液をトルエンで希釈し、得られた有機層を酸性及び塩基性水溶液で洗浄した後、飽和食塩水及び無水硫酸マグネシウムで有機層を乾燥させた。溶剤を除去して得られた粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィーで精製することで表1に示した芳香族イミド化合物の例示化合物E1を6.1g(収率61%)得た。
【0067】
(合成例2)
(1)E3中間体の合成
窒素雰囲気下、200mL三口フラスコに、4,4’-ビフタル酸無水物8.0g、2-(4-アミノフェニル)エタノール8.2g、ジメチルアセトアミド40mlを入れ、6時間加熱還流させた。反応終了後、容器を20℃まで冷却し、イオン交換水100mlを加え1時間撹拌を行った後、ろ過を行った。得られたろ物をトルエンで洗浄し、E3中間体を10.4g得た。
【0068】
(2)E3の合成
窒素雰囲気下、500mL三口フラスコに、E3中間体8.0g、テトラヒドロフラン200mL、ヒドロキノンモノメチルエーテル(MEHQ)0.11g、トリエチルアミン7.6mL投入後、無水メタクリル酸9.3gを滴下し、加熱し20時間還流撹拌を行った。反応液をトルエンで希釈し、得られた有機層を酸性及び塩基性水溶液で洗浄した後、飽和食塩水及び無水硫酸マグネシウムで有機層を乾燥させた。溶剤を除去して得られた粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィーで精製することで表1に示した芳香族イミド化合物の例示化合物E3を4.1g(収率41%)得た。
【0069】
(実施例1)
(1)二次分散特性の測定
厚さ1mmの高屈折ガラス基板(HOYA社製「S-TIH11」)上に、厚さが500μmのスペーサーと、上記合成例1で合成した芳香族イミド化合物の例示化合物E1、重合禁止剤(富士フィルム和光純薬社製、メトキシフェノール)、重合開始剤(BASF製「イルガキュアTPO」、ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド)等を含む重合性組成物を載置した。次に、石英ガラス基板を測定対象となる重合性組成物上に載置し、スペーサーを介して厚さが500μmになるように押し広げた。光源に短波長カットフィルター(UV:385nm)を設置した高圧水銀ランプ(HOYA-SCHOTT社製「EX250」)をサンプルに照射することで2枚のガラス基板に挟まっている重合性組成物を重合させた。硬化後は反応を完結させるために100℃、12時間の加熱処理を行い、測定サンプルを作製した。測定サンプルの屈折率を、アッベ屈折計(カルニュー光学工業製)を用いて測定し、屈折率から二次分散特性(θg,F)を算出して以下の基準で評価した。尚、ガラス基板の屈折率は重合性組成物の硬化物よりも高いもの使う必要がある。表3に評価結果を示す。
A:0.70以上
B:0.65以上0.70未満
C:0.60以上0.65未満
【0070】
(2)透過率測定
上記(1)と同様にして、硬化物の厚さが500μmの透過率測定サンプルと1000μmの透過率測定サンプルを作製した。尚、厚さ500μmの透過率測定サンプルは上記の二次分散特性の測定用に作製した屈折率測定サンプルを使用しても良い。それぞれの膜厚の透過率測定サンプルの透過率を、分光光度計(日立ハイテクノロジー社製「U-4000」(製品名))で測定し、420nmでの内部透過率(500μm)に換算し、以下の基準で評価した。表3に評価結果を示す。
A:93%以上
B:90%以上93%未満
C:87%以上90%未満
【0071】
(3)重合性組成物の状態評価
上記(1)の重合性組成物の23℃における状態を目視で評価した。表3に評価結果を示す。
【0072】
(実施例2)
芳香族イミド化合物を表1に示す例示化合物E5に変えた以外は、実施例1と同様に測定サンプルを作製し、同様に二次分散特性と透過率を測定し、重合性組成物の状態評価を行った。結果を表3に示す。
【0073】
(実施例3)
重合性組成物に例示化合物E1:樹脂1(1,6-ヘキサンジオールメタクリレ―ト、東京化成工業社製)=90:10(質量比)になるように上記樹脂1を添加した以外は実施例1と同様に測定サンプルを作製して二次分散特性(θg,F)と透過率とを測定し、重合性組成物の状態評価を行った。結果を表3に示す。
【0074】
(実施例4~7、参考実施例8~12
表3に示すように例示化合物、樹脂の種類、例示化合物と樹脂の質量比を変更した以外は実施例2と同様に測定サンプルを作製して二次分散特性(θg,F)と透過率とを測定し、重合性組成物の状態評価を行った。結果を表3に示す。樹脂2は東京化成工業社製のトリエチレングリコールジメタクリレートである。樹脂3は、新中村化学工業社製のトリシクロデカンジメタノールジアクリレートである。
【0075】
(比較例1)
例示化合物E1を用いる代わりに、下記式(4)で示される構造の比較化合物を用いる以外は実施例1と同じ組成の成分を混合し、実施例1と同様にガラス基板上に載置した。次いで、ガラス基板を加熱し、混合物を溶解させた。12.5μmのスペーサーと石英ガラスを測定対象となる上記混合物上に載置し、スペーサーを介して厚さが12.5μmになるように混合物を押し広げて測定サンプルを作製した。測定サンプルの屈折率を測定し、屈折率から二次分散特性(θg,F)を算出した。尚、測定サンプルが23℃下で結晶析出したため、透過率測定は実施しなかった。結果を表3に示す。
【0076】
【化4】
【0077】
【表3】
【0078】
表3に示されるように、本発明の重合性組成物の硬化物においては、二次分散特性が0.60乃至0.74と高い範囲で得られる。
図1
図2