(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-09
(45)【発行日】2024-08-20
(54)【発明の名称】駆動制御装置、画像形成装置及び駆動制御方法
(51)【国際特許分類】
B65H 1/14 20060101AFI20240813BHJP
【FI】
B65H1/14 310B
(21)【出願番号】P 2020083359
(22)【出願日】2020-05-11
【審査請求日】2023-05-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉山 利明
【審査官】久慈 純平
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-050452(JP,A)
【文献】特開平05-330671(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートの束を収容する収容手段と、
前記収容手段が挿入される筐体と、
前記筐体に前記収容手段が挿入されたことを検知する第1検知手段と、
前記筐体に前記収容手段が挿入されたことを前記第1検知手段が検知したことに応じて、シートの前記束を給送位置へ移動させる移動機構と、
前記移動機構を駆動する駆動手段と、
前記駆動手段への電力の供給を制御する制御手段と、
を備え、
前記制御手段は、前記筐体に前記収容手段が挿入されたことを前記第1検知手段が検知したことに応じて、前記駆動手段への前記電力の供給を第1の電圧値で開始し、前記駆動手段の起動の直後に、前記駆動手段へ印加される電圧を前記第1の電圧値よりも低い第2の電圧値へ引き下げ
、
前記駆動手段への前記電力の供給の開始から前記電圧が前記第2の電圧値へ引き下げられるまでの時間長は、ユーザの聴覚において動作音が騒音として感知されにくい期間である100ミリ秒以下である、
駆動制御装置。
【請求項2】
請求項
1に記載の駆動制御装置であって、
前記制御手段は、前記駆動手段への電力供給のオン及びオフを切替えるスイッチに対するパルス幅変調を通じて、前記駆動手段へ印加される前記電圧の値を制御し、
前記パルス幅変調におけるデューティ比の単一の制御シーケンスが予め定義される、
駆動制御装置。
【請求項3】
請求項
2に記載の駆動制御装置であって、前記制御手段は、前記駆動手段を流れる電流の大きさに関わらず、前記単一の制御シーケンスに従って前記駆動手段へ印加される前記電圧の値を制御する、駆動制御装置。
【請求項4】
請求項2に記載の駆動制御装置であって、
前記制御手段は、前記電力の供給の開始から前記時間長が経過するまで、前記パルス幅変調における前記デューティ比を、前記第1の電圧値に対応する第1のデューティ比に設定し、
前記第1のデューティ比は、前記収容手段に最大限のシートが収容されている場合にも前記駆動手段が確実に起動できる比率である、
駆動制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載の駆動制御装置であって、
前記制御手段は、前記電力の供給の開始から前記時間長が経過すると、前記パルス幅変調における前記デューティ比を、前記第2の電圧値に対応する第2のデューティ比に設定し、
前記第2のデューティ比は、前記収容手段に最小限のシートが収容されている場合にも前記ユーザの聴覚において前記動作音が騒音として感知されない程度に低い比率である、
駆動制御装置。
【請求項6】
請求項
2又は
3に記載の駆動制御装置であって、
前記給送位置にあるシートを搬送路へ給送する給送手段と、
前記給送位置にシートが存在することを検知する第2検知手段と、
をさらに備え、
前記制御手段は、前記給送手段によりシートが給送された結果として前記給送位置にシートが存在しなくなったことを前記第2検知手段が検知したことに応じて、前記移動機構により次のシートが前記給送位置へ移動されるように、前記駆動手段への前記電力の供給を制御する、
駆動制御装置。
【請求項7】
請求項6に記載の駆動制御装置であって、
前記制御手段は、
前記給送位置にシートが存在しているかを示す第1信号、及び、前記給送手段によるシートの給送に起因して前記移動機構の駆動が禁止されるかを示す第2信号を受け付け、
前記第1信号及び前記第2信号に基づいて、前記給送手段によりシートが反復的に給送されている際の前記駆動手段への前記電力の供給を制御する、
駆動制御装置。
【請求項8】
請求項7に記載の駆動制御装置であって、前記制御手段は、前記給送位置にシートが存在していないことを前記第1信号が示し、かつ前記移動機構の駆動が許容されることを前記第2信号が示すことに応じて、前記駆動手段への前記電力の供給を開始する、駆動制御装置。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の駆動制御装置と、
前記給送位置から搬送路へ給送されるシートに画像を形成する画像形成手段と、
を備える画像形成装置。
【請求項10】
シートの束を収容する収容手段と、前記収容手段が挿入される筐体と、前記収容手段に収容されているシートを給送位置へ移動させる移動機構と、前記移動機構を駆動する駆動手段と、を備える駆動制御装置において、前記駆動手段への電力の供給を制御するための駆動制御方法であって、
前記筐体に前記収容手段が挿入されたことを、第1検知手段により検知することと、
前記筐体に前記収容手段が挿入されたことを検知したことに応じて、前記駆動手段への前記電力の供給を第1の電圧値で開始することと、
前記駆動手段の起動の直後に、前記駆動手段へ印加される電圧を前記第1の電圧値よりも低い第2の電圧値へ引き下げることと、
を含
み、
前記駆動手段への前記電力の供給の開始から前記電圧が前記第2の電圧値へ引き下げられるまでの時間長は、前記移動機構の動作音がユーザの聴覚において騒音として感知されにくい期間である100ミリ秒以下である、
駆動制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、駆動制御装置、画像形成装置及び駆動制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
画像形成装置のいくつかは、カセットに収容されるシート(記録媒体ともいう)の束を給送位置へリフトアップしてからシートを搬送路へ給送する機構を有する。リフトアップのための機構は、一般にはモータにより駆動される。特許文献1及び2は、ブラシモータを用いて給紙カセットの底面の積載板をリフトアップする機構を有する画像形成装置を開示している。特許文献2により開示された技術によれば、シートの残量が少ないほどブラシモータの初期の回転速度が高く設定されるため、シートが給紙位置に到達する時間が短縮される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-173778号公報
【文献】特開2018-16446号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
画像形成装置に対する近年の小型化及び低コスト化の要求は、モータのサイズにも影響を及ぼしている。モータとして広く利用されているブラシモータを小型化する場合、小径の巻線を用いて占積率の低下を軽減しつつ、巻線の巻数を多くすることで、磁石のサイズを低減しつつ良好な出力特性を得ることができる。但し、この場合、モータの巻線抵抗値が高くなることから、モータトルクと回転速度との間の関係を表す特性曲線の傾きが大きくなり、モータ負荷の変化に対する回転速度の変化の比率が高くなりがちである。
【0005】
リフトアップ機構を駆動するモータに掛かる負荷は、カセット内のシートの量が多いほど大きくなる。特性曲線の傾きの大きい小型のブラシモータを利用する場合、シート量が多くてもモータが確実に起動するように駆動電圧値を高くすると、シート量が少ないときのモータの回転速度が高くなり、動作音が過剰となって騒音を生じさせる。また、動作音を抑制するためにシート量に依存してモータの駆動電圧値を切替えようとすると、シート量を検知するためのハードウェアが必要となり、これは小型化又は低コスト化の要求に逆行する。
【0006】
本開示は、こうした既存の技術の不都合に鑑み、装置の小型化又は低コスト化と騒音の防止とを両立させることのできる仕組みを実現しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ある観点によれば、シートの束を収容する収容手段と、前記収容手段が挿入される筐体と、前記筐体に前記収容手段が挿入されたことを検知する第1検知手段と、前記筐体に前記収容手段が挿入されたことを前記第1検知手段が検知したことに応じて、シートの前記束を給送位置へ移動させる移動機構と、前記移動機構を駆動する駆動手段と、前記駆動手段への電力の供給を制御する制御手段と、を備え、前記制御手段は、前記筐体に前記収容手段が挿入されたことを前記第1検知手段が検知したことに応じて、前記駆動手段への前記電力の供給を第1の電圧値で開始し、前記駆動手段の起動の直後に、前記駆動手段へ印加される電圧を前記第1の電圧値よりも低い第2の電圧値へ引き下げ、前記駆動手段への前記電力の供給の開始から前記電圧が前記第2の電圧値へ引き下げられるまでの時間長は、前記移動機構の動作音がユーザの聴覚において騒音として感知されにくい期間である100ミリ秒以下である、駆動制御装置が提供される。対応する画像形成装置、及び駆動制御方法もまた提供される。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、装置の小型化又は低コスト化と騒音の防止とを両立させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】一実施形態に係る画像形成装置のリフトアップ機構の一例について説明するための説明図。
【
図2】
図1に示したリフトアップ機構の駆動を制御するための駆動制御機能の論理的な構成の一例を示すブロック図。
【
図3】モータへの電力の供給のための回路の構成の一例を示すブロック図。
【
図4】カセットセンサ及び紙面センサからの信号と、PWM制御のための制御シーケンスとの間の関係の一例を示すタイミングチャート。
【
図5】シートの給送が行われる期間中のPWM制御の様子の一例を示すタイミングチャート。
【
図6】カセット挿入時に実行される駆動制御処理の流れの一例を示すフローチャート。
【
図7】シート給送時に実行される駆動制御処理の流れの一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0011】
<<1.画像形成装置の構成例>>
<1-1.リフトアップ機構>
図1は、一実施形態に係る画像形成装置100のリフトアップ機構の一例について説明するための説明図である。
図1の上段には、画像形成装置100の筐体の内部でシートの束がリフトアップされる前の様子が、下段にはシートの束が給送位置までリフトアップされた後の様子がそれぞれ概略的に示されている。
【0012】
図中に破線で示したカセット101は、シートの束10を収容する収容手段である。カセット101は、画像形成装置100の筐体に対し挿入可能かつ引出し可能である。ユーザは、シートが不足している場合、カセット101を筐体から引出してシートをカセット101へ供給し、その後カセット101を筐体へ挿入する。カセット101の底面には、ヒンジ102を中心軸として回動可能な可動板103が配設される。可動板103は、ブラシモータ104により生成される駆動力の伝達を(図示しない動力伝達機構を介して)受け、ヒンジ102の周りに回動する(底面に対して立ち上がる)。
【0013】
給送ローラ105は、給送位置までリフトアップされたシートを給送位置から(図中に一点鎖線で示した)搬送路120へ給送する給送手段である。フィードローラ106は、搬送路120へ進入したシートを搬送路に沿って搬送する搬送手段である。リタードローラ107は、シートの束10から1枚のシートを分離する分離手段である。フィードローラ106及びリタードローラ107のペアによってシートが分離され搬送されると、図中で詳細には示されていない画像形成手段121によって、シートに画像が形成される。
【0014】
紙面センサ108は、給送位置にシートが存在することを検知する検知手段である。紙面センサ108は、例えば、シートに当接したセンサフラグ109の変位に起因する遮光を検知するフォトインタラプタであってよい。紙有無センサ110は、カセット101内にシートがあるか否かを検知する検知手段である。紙有無センサ110もまた、例えば、センサフラグ111の変位に起因する遮光を検知するフォトインタラプタであってよい。カセットセンサ112は、画像形成装置100の筐体にカセット101が挿入されたことを検知する検知手段である。ブラシモータ104は、画像形成装置100の筐体にカセット101が挿入されたことをカセットセンサ112が検知したことに応じて、電力の供給を受けて回転駆動力を生成する。その駆動力が可動板103に伝達されることにより、可動板103がカセット101の底面に対して立ち上がり、その結果、
図1の下段に示したように、シートの束10の最上位のシートが給送位置まで上昇する。シートが給送位置に到達すると、紙面センサ108がシートを検知し、ブラシモータ104の回転は停止される。
【0015】
上の説明から理解されるように、ヒンジ102を中心軸として回動する可動板103は、シートの束10を給送位置へリフトアップするリフトアップ機構を構成する。なお、本開示に係る技術は、シートの束を上方へリフトアップする機構に限定されず、モータからの駆動力の伝達を受けてシートの束を給送位置へ移動させる機構に広く適用可能である。その意味において、リフトアップ機構は、移動機構の1つの例である。
【0016】
<1-2.駆動制御機能>
図2は、
図1に示したリフトアップ機構の駆動を制御するための駆動制御機能の論理的な構成の一例を示すブロック図である。
図2に示したコントローラ200は、ブラシモータ104への電力の供給を制御する制御手段である。コントローラ200は、制御部201、変調部202及び検知部203を含む。変調部202は、給電回路210を介してブラシモータ104へ接続される。
【0017】
制御部201は、例えばプロセッサ及びメモリを含む制御回路であってよく、検知部203からの入力信号に基づいて、ブラシモータ104への電力の供給を制御する。ここでは、説明の簡明さのために詳しく説明しないものの、制御部201は、画像形成装置100の動作(例えば、画像形成手段121がシートに画像を形成する動作)の全般を制御する役割を有していてもよい。本実施形態において、制御部201は、変調部202におけるパルス幅変調(PWM)を通じてブラシモータ104に印加される電圧を制御することにより、ブラシモータ104への電力の供給を制御する。変調部202は、PWM変調用の回路であってよく、制御部201により指示されるデューティ比をパルス信号のパルス幅へ変調して、そのパルス信号を給電回路210へ出力する。検知部203は、紙面センサ108、紙有無センサ110及びカセットセンサ112からの検知信号の入力を受け付け、受け付けた検知信号を制御部201へ出力する。
【0018】
例えば、画像形成装置100の筐体にカセット101が挿入されると、挿入されたカセット101をカセットセンサ112が検知し、カセットセンサ112からの検知信号が検知部203を介して制御部201へ入力される。この検知信号は、筐体にカセット101が挿入されたことを制御部201に通知する。制御部201は、この検知信号の入力に応じて、ブラシモータ104への電力の供給を電圧値V1(第1の電圧値)で開始する。電圧値V1は、変調部202から給電回路210へ出力されるパルス信号のデューティサイクルにおけるデューティ比に相関する。デューティ比は、予め定義される制御シーケンスによって時系列で示され得る。本実施形態では、制御部201は、条件によらず単一の制御シーケンスを使用する。即ち、制御部201は、例えばカセット101に収容されているシートの量又はブラシモータ104を流れる電流の大きさに関わらず、共通的な制御シーケンスに従って、制御開始からの時間のみに依存して変化するデューティ比を変調部202へ指示する。制御シーケンスは、例えば、制御部201の内部のメモリ又は外部の記憶手段に予め記憶されてよい。
【0019】
制御開始時の電圧値V1は、カセット101に最大限のシートが収容されている場合にもブラシモータ104が確実に起動できる程度に高い値に設定される。但し、制御部201は、ブラシモータ104の起動の直後に、ブラシモータ104へ印加される電圧を電圧値V1よりも低い電圧値V2(第2の電圧値)へ引き下げる。電圧値V2は、カセット101に最小限のシートが収容されている場合にもブラシモータ104の回転に起因して生じる動作音が騒音としてユーザにより感知されない程度に低い値に設定される。この電圧値V2でのブラシモータ104への電圧の印加は、給送位置にシートの束10の上面が到達するまで継続される。即ち、ブラシモータ104からの駆動力の伝達を受けて可動板103が回動して、シートの束10の上面が給送位置に到達すると、給送位置にシートが存在することを紙面センサ108が検知する。検知部203は、紙面センサ108からの検知信号を制御部201へ出力する。制御部201は、この検知信号の入力に応じて、給電回路210へのパルス出力を停止することを変調部202に指示する。その結果、ブラシモータ104の動作が停止する。
【0020】
なお、カセット101に1枚以上のシートが収容されている場合、紙有無センサ110の発光素子から受光面への光路をセンサフラグ111が遮ることで、紙有無センサ110はシートが不足していないことを検知する。検知部203は、紙有無センサ110からの検知信号を制御部201へ出力する。制御部201は、この検知信号に基づいてシートが不足していないと認識される限り、シートを給紙することが可能であると判定する。制御部201は、カセット101にシートが収容されていない場合も、ブラシモータ104を駆動してリフトアップ動作を遂行し得る。この場合、紙面センサ108がシートの代わりに可動板103を給紙位置において検知し、一方で、紙有無センサ110がカセット101にシートが収容されていないこと(シートが不足していること)を検知する。制御部201は、シートが不足していることを紙有無センサ110からの検知信号が示す場合に、シートを給紙することが不可能であると判定し得る。
【0021】
給電回路210は、電源からブラシモータ104へ電力を供給するための回路である。
図3は、給電回路210の構成の一例を示している。給電回路210は、FET(Field Effect Transistor)301、回生ダイオード302及び抵抗303を含む。FET301は、電源からブラシモータ104への電力供給のオン及びオフを切替えるスイッチング素子である。FET301のゲートは抵抗303の一端に接続され、ソースは接地され、ドレインはブラシモータ104の一端に接続される。回生ダイオード302は、ブラシモータ104の逆起電力に起因する過電圧からFET301を保護する保護素子である。回生ダイオード302のアノードは、FET301とブラシモータ104との間の節点へ接続され、カソードは電源Vccとブラシモータ104との間の節点へ接続される。電源Vccは、外部電源(例えば、商用電源)であってもよく、又は内部電源(例えば、バッテリ)であってもよい。抵抗303の他端(FET301とは反対側の一端)は、コントローラ200の変調部202の出力端子へ接続される。変調部202は、制御部201から指示されるデューティ比でオンとオフとの間で切り替わるパルス信号を、抵抗303を介してFET301のゲートへ出力する。FET301がオンである期間中に、電源Vccからの電流がブラシモータ104を流れ、ブラシモータ104は回転駆動力を生成する。FET301がオフである期間中には、ブラシモータ104の逆起電力によって回生ダイオード302に電流が流れる。変調部202が適切なデューティ比で変調されたパルス信号をFET301へ出力することで、給電回路210からブラシモータ104へ供給される電力の平均電圧、及びそれに対応するブラシモータ104の出力トルク(又は回転速度)が所望の値へ調整される。なお、
図3から理解されるように、本実施形態において、給電回路210は、ブラシモータ104の回転速度を測定するエンコーダ、又はブラシモータ104に流れる電流若しくはブラシモータ104の負荷を測定するセンサといった構成要素を有しない。
【0022】
<1-3.制御シーケンスの例>
上述したように、制御部201は、筐体にカセット101が挿入されたことをカセットセンサ112が検知したことに応じて、ブラシモータ104への電力の供給を電圧値V1で開始する。そして、制御部201は、ブラシモータ104の起動の直後に、ブラシモータ104へ印加される電圧を電圧値V1よりも低い電圧値V2へ引き下げる。本実施形態において、ブラシモータ104への電力の供給の開始から印加電圧が電圧値V2へ引き下げられるまでの時間長は、予め定義される。この時間長を予め定義される固定的な値とすることで、電力供給の制御の実装の複雑化が回避される。電力供給の開始から印加電圧の引き下げまでの上記時間長は、例えば100ミリ秒以下であってよい。100ミリ秒を超えない期間であれば、相対的に高い電圧値V1でブラシモータ104に電圧を印加したとしても、ブラシモータ104が高速で回転することに起因する動作音は、ユーザの聴覚において騒音としては感知されにくい。そのため、その期間においてブラシモータ104を確実に起動させつつ、ユーザに不快な騒音が聞こえることを防止することができる。
【0023】
図4は、カセットセンサ112及び紙面センサ108からの信号と、PWM制御のための制御シーケンスとの間の関係の一例を示すタイミングチャートである。
図4の横軸は、時間軸である。上段に示した検知信号D1は、カセットセンサ112からコントローラ200へ入力される検知信号である。検知信号D1は、高レベル(H)によって筐体にカセット101が挿入されていることを示し、低レベル(L)によって筐体にカセット101が挿入されていないことを示す。下段に示した検知信号D2は、紙面センサ108からコントローラ200へ入力される検知信号である。検知信号D2は、高レベル(H)によって給送位置にシートが存在することを示し、低レベル(L)によって給送位置にシートが存在しないことを示す。中段には、コントローラ200の変調部202から給電回路210のFET301へ出力されるパルス信号が示されている。
【0024】
図4の例では、時刻T11において、筐体にカセット101が挿入されたことを検知信号D1が示し、それに応じてPWM変調を通じた電力制御の制御シーケンスが開始される。時刻T11からT12までの間、パルス信号のデューティ比はR
1に等しい。デューティ比R
1は、例えば周期Taに対するパルス幅Tbの比として表され得る(R
1=Tb/Ta)。デューティ比R
1は、カセット101に最大限のシートが収容されている場合にもブラシモータ104が確実に起動できる程度に高い比率である。時刻T12において、パルス信号のデューティ比は、R
1からR
2へ引き下げられる。デューティ比R
2は、例えば周期Taに対するパルス幅Tcの比として表され、TcはTbよりも小さい(R
2=Tc/Ta<Tb/Ta)。デューティ比R
2は、カセット101に最小限のシートが収容されている場合にもブラシモータ104の回転に起因して生じる動作音がユーザにより騒音として聞こえない程度に低い比率である。その後、時刻T13において、リフトアップの結果として給送位置にシートが到達したことを検知信号D2が示し、それに応じてPWM変調を通じた電力制御は終了する。なお、時刻T13まで、ブラシモータ104はデューティ比R
2に対応する低い電圧値V
2で回転しているため、シートの給送位置への到達に応じて停止しようとするブラシモータ104が惰性で過剰に回転することも回避される。それにより、シート位置が給送位置を通り過ぎることが防止される。制御シーケンスは、少なくとも時刻T11からT12までの時間長dT、時刻T12までに使用すべきデューティ比R
1、及び時刻T12以降に使用すべきデューティ比R
2を定義するデータであってよい。時間長dTは、ブラシモータ104の確実な起動を保証しつつ、リフトアップ機構の動作音がユーザの聴覚により実質的に感知されない程度に短い長さであってよく、上述したように、例えば100ミリ秒以下の固定値であってよい。
【0025】
画像形成装置100のリフトアップ機構(移動機構)は、カセット101の挿入に応じてシートの束10を給送位置へリフトアップするだけでなく、画像形成のためにシートの給送が行われる期間中にも、シートの束10をリフトアップする。具体的には、1枚のシートが搬送路へ給送されると、シートの束10の最上位のシートと給送位置との間にギャップが生じる。コントローラ200は、シートが給送された結果として給送位置にシートが存在しなくなったことを紙面センサ108が検知したことに応じて、ブラシモータ104への電力の供給を開始する。それにより、ブラシモータ104からの駆動力の伝達を受けた可動板103が、シートの束10をリフトアップして、次の最上位のシートを給送位置へ移動させる。
【0026】
図5は、シートの給送が行われる期間中のPWM制御の様子の一例を示すタイミングチャートである。上段に示した検知信号D2は、
図4を用いて説明したものと同じく、紙面センサ108からコントローラ200へ入力される検知信号である。中段に示した駆動制御信号D3は、給送ローラ105によるシートの給送に起因して可動板103の駆動(即ち、リフトアップ)が禁止されるかを示す制御信号である。駆動制御信号D3は、高レベル(H)によってリフトアップが許容されることを示し、低レベル(L)によってリフトアップが禁止されることを示す。例えば、給送ローラ105がシートを給紙しているタイミングで可動板103が動くと、給送ローラ105によりシートに加わる圧力が変動し、給送動作に不具合が生じることがある。そうした不具合を防止するために、駆動制御信号D3が低レベルを示す期間中には、給紙位置にシートが存在しないことを紙面センサ108が検知したとしても、コントローラ200は、ブラシモータ104への電力の供給を行わない。下段には、コントローラ200の変調部202から給電回路210のFET301へ出力されるパルス信号が示されている。
【0027】
図5の例では、時刻T21において、給送位置にシートが存在していないことを検知信号D2が示す。しかし、この時点では、リフトアップが禁止されることを駆動制御信号D3が示しているため、コントローラ200は、ブラシモータ104への電力の供給を開始しない。時刻T22において、給送ローラ105からの駆動制御信号D3が低レベルから高レベルへ切り替わり、可動板103の駆動が許容されることが駆動制御信号D3により示される。コントローラ200は、検知信号D2及び駆動制御信号D3のこれら変化に応じて、ブラシモータ104への電力の供給を開始する。その際、コントローラ200は、ブラシモータ104へ印加される電圧の値を、カセット挿入時に使用されるものと同じ制御シーケンスに従って制御し得る。しかし、この場合、可動板103がシートの厚さ程度上昇すると、シートの最上面はすぐに給送位置に到達する。時刻T23において、給送位置にシートが存在することを検知信号D2が示す。それに応じて、コントローラ200は、ブラシモータ104への電力の供給を停止する。時刻T22からT23までの期間の長さは、通常は数十ミリ秒であり、時間長dTよりも短い。したがって、この期間においてFET301へ出力されるパルス信号のデューティ比はR
1であり、デューティ比の引き下げが行われるはずの時刻T24の前に、電力供給は終了する。
【0028】
<<2.処理の流れ>>
本節では、本実施形態において画像形成装置100により実行される処理の流れのいくつかの例を説明する。各処理は、例えば、コントローラ200内のプログラムが、メモリに予め記憶されるコンピュータプログラムを実行しながら、給電回路210及びブラシモータ104などのハードウェアを制御することにより実現され得る。なお、以下の説明では、処理ステップをS(ステップ)と略記する。
【0029】
<2-1.カセット挿入時>
図6は、画像形成装置100において筐体へのカセット101の挿入時に実行される駆動制御処理の流れの一例を示すフローチャートである。まず、S601で、コントローラ200は、カセットセンサ112からの検知信号D1を監視する。筐体にカセット101が挿入されていないことを検知信号D1が示す場合、コントローラ200は、待機する。筐体にカセット101が挿入されたことを検知信号D1が示すことに応じて、処理はS603へ進む。
【0030】
S603で、コントローラ200は、紙面センサ108からの検知信号D2を確認する。給送位置にシートが存在することを検知信号D2が示す場合、コントローラ200は、リフトアップ動作は終了した(又は不要である)と判定し、
図6の処理は終了する。給送位置にシートが存在しないことを検知信号D2が示す場合、処理はS605へ進む。
【0031】
S605で、コントローラ200は、デューティ比R1で変調されたパルス信号を給電回路210へ出力することにより、ブラシモータ104へ電圧値V1の電圧を印加させる。それにより、ブラシモータ104が回転駆動力を生成し、その駆動力を受けて可動板103がシートの束10のリフトアップを開始する。
【0032】
リフトアップ動作が開始された後、時間長dTが経過するまで、コントローラ200は、デューティ比R1で変調されたパルス信号の出力を継続しつつ、S607で、検知信号D2を監視する。給送位置にシートが到達したことを検知信号D2が示す場合、コントローラ200は、リフトアップ動作は終了したと判定し、処理はS615へ進む。給送位置にシートが到達する前に、S609でリフトアップ動作の開始から時間長dTが経過したと判定すると、コントローラ200は、S611で、給電回路210へ出力されるパルス信号のデューティ比をR1よりも低いR2へ変更する。それにより、ブラシモータ104へ印加される電圧の値はV1からV2へ変化し、ブラシモータ104の回転が騒音を生じさせないように抑制される。
【0033】
デューティ比の変更の後、コントローラ200は、デューティ比R2で変調されたパルス信号の出力を継続しつつ、S613で、検知信号D2を監視する。給送位置にシートが到達したことを検知信号D2が示す場合、コントローラ200は、リフトアップ動作は終了したと判定し、処理はS615へ進む。S615で、コントローラ200は、ブラシモータ104への電力の供給を停止する。
【0034】
<2-2.シート給送時>
図7は、シート給送時に実行される駆動制御処理の流れの一例を示すフローチャートである。この駆動制御処理は、例えば、印刷又はコピーといった画像形成を伴うジョブが実行されている期間中に行われ得る。まず、S701で、コントローラ200は、シートの給送の状態を確認する。上述したジョブが実行されている期間中は、給送ローラ105によりシートが反復的に給送されていることから、コントローラ200は、駆動制御処理を継続し、処理はS703へ進む。ジョブの実行が終了すると、シートはそれ以上給送されないことから、コントローラ200は、駆動制御処理を終了する。
【0035】
S703で、コントローラ200は、給送ローラ105によるシートの給送に起因してリフトアップ機構の駆動が許容されるかを示す駆動制御信号D3を確認する。ここで、リフトアップ機構の駆動が禁止されていることを駆動制御信号D3が示す場合、コントローラ200は、電源からブラシモータ104へ電力を供給させない。リフトアップ機構の駆動が許容されていることを駆動制御信号D3が示す場合、処理はS705へ進む。
【0036】
S705で、コントローラ200は、給送位置にシートが存在しているかを示す検知信号D2を確認する。ここで、給送位置にシートが存在していることを検知信号D2が示す場合、コントローラ200は、電源からブラシモータ104へ電力を供給させない。給送位置にシートが存在していないことを検知信号D2が示す場合、処理はS707へ進む。
【0037】
S707で、コントローラ200は、デューティ比R
1で変調されたパルス信号を給電回路210へ出力することにより、ブラシモータ104へ電圧値V
1の電圧を印加させる。それにより、ブラシモータ104が回転駆動力を生成し、その駆動力を受けて可動板103がシートの束10のリフトアップを開始する。
図7のケースでは、シートの厚さ程度の可動板103の上昇によってシートの最上面はすぐに(例えば、100msが経過する前に)給送位置に到達する。そのため、
図7のフローチャートには、
図6のS611に相当するデューティ比の変更のステップを示していない。シートが搬送路へ1枚給送されるごとに、コントローラ200は、
図4を用いて説明した制御シーケンスの冒頭の数十ミリ秒に相当する部分を実行し、給送位置へのシートの移動を繰り返す。実際には、コントローラ200が参照する制御シーケンスは、
図6及び
図7の駆動制御処理において共通する(又は同一の)シーケンスであってよい。
【0038】
<<3.まとめ>>
ここまで、
図1~
図7を用いて、本開示の実施形態について詳細に説明した。上述した実施形態では、画像形成装置の筐体へのカセットの挿入の検知に応じて、カセットに収容されているシートの束を給送位置へ移動させるための移動機構を駆動するモータへの電力の供給が第1の電圧値で開始される。そして、上記モータの起動の直後に、上記モータへ印加される電圧が上記第1の電圧値よりも低い第2の電圧値へ引き下げられる。したがって、シート量が少ないときに高速に回転して過剰な動作音を発生させる傾向のある小型のモータを採用する場合にも、モータの確実な起動を保証しつつ騒音を防止することができる。よって、装置の小型化又は低コスト化と騒音の防止との両立が可能となる。
【0039】
また、上述した実施形態では、上記モータへの電力の供給の開始から上記第2の電圧値への印加電圧の引き下げまでの時間長は、予め定義される。この場合、印加電圧を引き下げるタイミングを判定するために追加的なセンサ又はその他の構成要素の実装を要しないことから、装置のサイズ及びコストの増大が回避される。上記時間長が100ミリ秒以下の値として定義される場合には、上記モータが起動の当初に一時的に高速で回転することがあり得るとしても、その高速回転に起因する動作音がユーザにとって不快な騒音となることを防止することができる。
【0040】
また、上述した実施形態では、上記モータへの印加電圧は、電力供給のオン及びオフを切替えるスイッチに対するパルス幅変調を通じて制御され、そのパルス幅変調におけるデューティ比の単一の制御シーケンスが予め定義される。したがって、上記モータへの電力の供給を、単一の制御シーケンスに従ったデューティ比の引き下げという極めて簡易な構成で、低コストで実現することができる。上記モータへの電力の供給が上記モータを流れる電流の大きさに関わらず上記単一の制御シーケンスで制御される場合には、(例えばシート量又は上記モータに掛かる負荷を表す)電流の大きさを検知するためのセンサが不要とされる。
【0041】
また、上述した実施形態では、シートを搬送路へ給送する動作が反復的に行われている際にも、上記モータへ印加される電圧は、上記単一の制御シーケンスに従って制御される。したがって、動作の種類によって複数の制御シーケンスを使い分けることが必要とされないことから、装置の実装の複雑さを低減して低コスト化を一層促進することができる。
【0042】
また、上述した実施形態では、給送位置にシートが存在しておらず、かつシートの給送に起因して上記移動機構の駆動が禁止されるタイミングではないときに、上記モータへの電力の供給が行われる。したがって、上記移動機構の駆動によって給送中のシートに加わる圧力が変動する結果として給送動作に不具合が生じるリスクも解消される。
【0043】
なお、上述した実施形態は、例示に過ぎない。例えば、カセット101の挿入に応じた初期のリフトアップ動作と、シートの給送中のリフトアップ動作とで、ブラシモータ104への電力の供給のために同一のデューティ比又は同一の制御シーケンスが利用されなくてもよい。また、ブラシモータ104への電力の供給の制御が、PWM制御の代わりに、例えば電圧降下回路又は電圧切替回路を用いて実現されてもよい。
【0044】
<<4.その他の実施形態>>
上記実施形態は、1つ以上の機能を実現するプログラムをネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読み出して実行する処理の形式でも実現可能である。また、1つ以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【0045】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0046】
10:シートの束、100:画像形成装置(駆動制御装置)、101:カセット(収容手段)、103:可動板(移動機構)、104:ブラシモータ(駆動手段)、105:給送ローラ(給送手段)、108:紙面センサ(第2検知手段)、112:カセットセンサ(第1検知手段)、120:搬送路、121:画像形成手段、200:コントローラ(制御手段)、D2:検知信号(第1信号)、D3:駆動制御信号(第2信号)