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特許7536499ブラシレスモータの駆動装置及びブラシレスモータの駆動方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-09
(45)【発行日】2024-08-20
(54)【発明の名称】ブラシレスモータの駆動装置及びブラシレスモータの駆動方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 6/182 20160101AFI20240813BHJP
【FI】
H02P6/182
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020085613
(22)【出願日】2020-05-15
(65)【公開番号】P2021180582
(43)【公開日】2021-11-18
【審査請求日】2022-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000144027
【氏名又は名称】株式会社ミツバ
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 光和
(72)【発明者】
【氏名】古塩 文明
(72)【発明者】
【氏名】大兼 貴彦
【審査官】若林 治男
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-097341(JP,A)
【文献】特開2013-009489(JP,A)
【文献】特開2001-037281(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 6/182
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
永久磁石を有するロータと複数相のコイルが巻装されたステータとを備えるブラシレスモータを駆動させる駆動装置であって、
前記ロータを強制転流で回転させる始動時励磁手段と、
前記強制転流におけるモータの回転数の変化と、当該強制転流の後に行われる定常回転におけるモータの回転数の変化との差が所定の基準値以下となるように前記ロータを加速させる加速制御手段と、
前記ロータを強制転流で回転させた後、前記ロータを定常回転させる定常時励磁手段と、
を備え、
前記加速制御手段は、前記ロータを強制転流で回転させた後、前記ロータを定常回転させるときに、前記強制転流におけるロータの回転数の変化と、前記定常回転において目標の回転速度まで加速された時点以降の前記ロータの回転数の変化との差が、前記ロータから発生する異音の音圧レベルが所定の値以下に抑えられるように定めた前記基準値以下となるように、前記定常回転の開始時点と前記目標の回転速度まで加速された時点との区間の前記ロータの回転数の変化を決定して前記ロータを加速させる、
ブラシレスモータの駆動装置。
【請求項2】
前記加速制御手段は、前記強制転流におけるモータの回転数の変化と、前記定常回転におけるモータの回転数の変化との差が所定の基準値以下となるように、前記モータの回転数を多段で変化させるようにした請求項1に記載のブラシレスモータの駆動装置。
【請求項3】
永久磁石を有するロータと複数相のコイルが巻装されたステータとを備えるブラシレスモータを駆動させる駆動方法であって、
前記ロータを強制転流で回転させる工程と、
前記強制転流におけるモータの回転数の変化と、当該強制転流の後に行われる定常回転におけるモータの回転数の変化との差が所定の基準値以下となるように前記ロータを加速させる工程と、
前記強制転流で回転させた後、前記ロータを定常回転させる工程と、を含み、
前記ロータを加速させる工程は、前記ロータを強制転流で回転させた後、前記ロータを定常回転させるときに、前記強制転流におけるロータの回転数の変化と、前記定常回転において目標の回転速度まで加速された時点以降の前記ロータの回転数の変化との差が、前記ロータから発生する異音の音圧レベルが所定の値以下に抑えられるように定めた前記基準値以下となるように、前記定常回転の開始時点と前記目標の回転速度まで加速された時点との区間の前記ロータの回転数の変化を決定して前記ロータを加速させる、
ブラシレスモータの駆動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラシレスモータの駆動装置及びブラシレスモータの駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ロータが永久磁石を有するタイプのブラシレスモータは、ロータの回転位置を検出する位置センサを設けずに位置センサレスで駆動制御を行うことがある。この場合には、開放区間(非通電相)のモータ端子に現れる誘起電圧と等価中性点電位をコンパレータに入力して得られるパルス信号のエッジ間隔からロータの回転位置を検出している。ところが、ブラシレスモータの始動時など、回転数がゼロである場合や回転数が極めて小さい場合には、誘起電圧が発生しないか極めて小さいので、回転位置の検出に十分な信号が得られなかった。
【0003】
特許文献1には、ブラシレスモータの駆動装置として、インダクタンス検出によりロータの位置を推定するものが記載されている。特許文献1に記載されているブラシレス駆動装置では、複数相のコイルに印加される電圧によりインダクタンス検出を行うことで、モータの始動時に回転数がゼロである場合にも、ロータの位置が推定できる。また、特許文献1に記載されているブラシレスモータの駆動装置では、インダクタンス検出により推定したロータの停止位置に応じた通電パターンにより強制転流を行った後、通電を停止してロータをフリーラン状態とし、ロータがフリーランしている間に発生する誘起電圧からロータの位置を検出した後、定常回転に遷移させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-081369号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載されているブラシレスモータの駆動装置では、強制転流を行った後、ロータをフリーラン状態とし、ロータがフリーランしている間に発生する誘起電圧からロータの位置を検出した後、定常回転に遷移させている。このように、誘起電圧からロータの回転位置を検出する際に、ロータをフリーラン状態にしておくことで、パルス幅変調信号などの影響を受けない状態で誘起電圧を検出でき、外乱の影響を受けることなく、ロータの回転位置を正確に検出できる。しかしながら、上記特許文献1では、ロータをフリーラン状態にすることで、ロータの回転数の変化の連続性が失われ、始動時に異音が発生するという問題が生じてくる。
【0006】
つまり、強制転流を行った後に通電を停止してロータをフリーラン状態とすると、ロータの回転にブレーキがかかり、回転数が急激に低下する。そして、フリーラン状態で誘起電圧からロータの位置を検出した後、定常回転に移行させる際に、ロータが急速に加速されていく。このようなロータの回転数の変化は、異音を生じさせる要因となる。
【0007】
上述の課題を鑑み、本発明は、センサレスでブラシレスモータを始動させる際に、異音の発生を抑制できるブラシレスモータの駆動装置及びブラシレスモータの駆動方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係るブラシレスモータの駆動装置は、永久磁石を有するロータと複数相のコイルが巻装されたステータとを備えるブラシレスモータを駆動させる駆動装置であって、前記ロータを強制転流で回転させる始動時励磁手段と、前記強制転流におけるモータの回転数の変化と、当該強制転流の後に行われる定常回転におけるモータの回転数の変化との差が所定の基準値以下となるように前記ロータを加速させる加速制御手段と、前記ロータを強制転流で回転させた後、前記ロータを定常回転させる定常時励磁手段と、を備え、前記加速制御手段は、前記ロータを強制転流で回転させた後、前記ロータを定常回転させるときに、前記強制転流におけるロータの回転数の変化と、前記定常回転において目標の回転速度まで加速された時点以降の前記ロータの回転数の変化との差が、前記ロータから発生する異音の音圧レベルが所定の値以下に抑えられるように定めた前記基準値以下となるように、前記定常回転の開始時点と前記目標の回転速度まで加速された時点との区間の前記ロータの回転数の変化を決定して前記ロータを加速させる。
【0009】
本発明の一態様に係るブラシレスモータの駆動方法は、永久磁石を有するロータと複数相のコイルが巻装されたステータとを備えるブラシレスモータを駆動させる駆動方法であって、前記ロータを強制転流で回転させる工程と、前記強制転流におけるモータの回転数の変化と、当該強制転流の後に行われる定常回転におけるモータの回転数の変化との差が所定の基準値以下となるように前記ロータを加速させる工程と、前記強制転流で回転させた後、前記ロータを定常回転させる工程と、を含み、前記ロータを加速させる工程は、前記ロータを強制転流で回転させた後、前記ロータを定常回転させるときに、前記強制転流におけるロータの回転数の変化と、前記定常回転において目標の回転速度まで加速された時点以降の前記ロータの回転数の変化との差が、前記ロータから発生する異音の音圧レベルが所定の値以下に抑えられるように定めた前記基準値以下となるように、前記定常回転の開始時点と前記目標の回転速度まで加速された時点との区間の前記ロータの回転数の変化を決定して前記ロータを加速させる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、モータ始動時に強制転流から定常回転に遷移させる際に、強制転流におけるモータの回転数の変化と定常回転におけるモータの回転数の変化との差が所定の基準値以下となるようにロータを加速させている。これにより、ロータの回転を連続的に変化させていくことができ、モータ始動時の異音の発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施の形態に係るブラシレスモータの駆動装置の概略構成を示すブロック図である。
図2】本発明の実施の形態に係るブラシレスモータの始動方法の具体例を示すフローチャートである。
図3A】フリーラン状態にしてモータを始動した場合における回転数変化を示すグラフである。
図3B】フリーラン状態にしてモータを始動した場合における音圧変化を示すグラフである。
図4A】本発明の実施の形態に係るブラシレスモータの駆動装置を用いて始動した場合の回転数変化を示すグラフである。
図4B】本発明の実施の形態に係るブラシレスモータの駆動装置を用いて始動した場合の音圧変化を示すグラフである。
図5】発生する異音の音圧レベルと角加速度の差との関係を示すグラフである。
図6】異音の音圧を所定値以内に抑えるための制御の説明に用いるグラフである。
図7】ブラシレスモータの駆動装置を基板上に実現する場合の説明図である。
図8A】ブラシレスモータの駆動装置を基板上に実現する場合の説明図である。
図8B】ブラシレスモータの駆動装置を基板上に実現する場合の説明図である。
図8C】ブラシレスモータの駆動装置を基板上に実現する場合の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明の実施の形態に係るブラシレスモータの駆動装置の概略構成を示すブロック図である。図1に示すように、ブラシレスモータシステムは、ブラシレスモータ1と、ブラシレスモータ1の回転駆動を制御する駆動装置2とを有する。
【0013】
ブラシレスモータ1は、永久磁石を有するロータとステータを有し、ステータには3相(U、V、W)のコイルが周方向に順番に巻装されている。なお、このブラシレスモータシステムは、ロータ位置を検出するセンサを有しないセンサレスタイプのシステムである。
【0014】
駆動装置2は、マイコンなどから構成される制御装置11と、ブラシレスモータ1の3相のコイルを形成する通電線に印加された電圧を検出する誘起電圧I/F(インターフェイス)回路12と、インバータ13と、ブラシレスモータ1の通電線に印加された電圧のレベルを変換するレベル変換回路である分圧回路14とを有し、制御装置11とインバータ13の間に、プリドライバ37A,37Bと、電流検出回路38と、過電流保護手段39とが設けられている。
【0015】
インバータ13は、6個のスイッチング素子を電源20の正負両端子間に2個ずつブリッジ接続して構成される回路であって、電源20から供給された直流電圧を制御装置11から入力されるパルス幅変調信号(駆動信号)に基づく交流電圧に変換し、ブラシレスモータ1の各相に印加する。なお、インバータ13とグランドレベルの間には、シャント抵抗13Aが設けられている。シャント抵抗13Aを用いてインバータ13に流れる電流、つまりブラシレスモータ1に入力される電流は、電流検出回路38を用いて検出することができる。
【0016】
分圧回路14は、ブラシレスモータ1の各通電線に発生する端子電圧(例えば、12Vや24Vなど)を2つの抵抗で分圧し、制御装置11で使用可能な電圧レベル(例えば、3Vや5Vなど)にする回路である。
【0017】
制御装置11は、誘起電圧I/F回路12に接続される分離手段21と、励磁切り替えタイミング演算手段22と、回転方向判定手段23と、回転方向検出ロジック選択手段24と、ブレーキ停止手段25と、通電パターン決定手段26と、励磁電圧出力手段27と、PWMデューティ決定手段28と、を有する。また、制御装置11は、分圧回路14に接続され、始動時に使用される方形波パルス電圧幅検出手段29と、方形波パルス電圧幅比較手段30と、ロータ位置推定手段31とを有する。さらに、電流検出回路38に接続される電流制限手段32を有する。
【0018】
分離手段21は、誘起電圧I/F回路12から入力されるパルス信号のエッジを誘起電圧のエッジと方形波パルス電圧のエッジとに分離する処理を行う。励磁切り替えタイミング演算手段22は、誘起電圧エッジに応じた励磁位相を算出するために3つの電気角120°の分解能のパルス信号から1つの電気角60°の分解能のパルス信号を生成し、励磁切り替えタイミングを演算する。
【0019】
回転方向判定手段23は、励磁切り替えタイミングから回転方向を判定し、回転方向検出ロジック選択手段24と、ブレーキ停止手段25に所定の指令を出力する。回転方向検出ロジック選択手段24は、ブラシレスモータ1の回転方向によって分離手段21が使用するロジックを選択可能な場合に使用される。ブレーキ停止手段25は、ブラシレスモータ1を停止させるような通電パターンを通電する際に使用される。
【0020】
通電パターン決定手段26は、定常時励磁手段33と、停止位置検出手段34と、加速制御手段35と、始動時励磁手段36とを有する。定常時励磁手段33は、励磁切り替えタイミング演算手段22が演算した励磁切り替えタイミングでロータ位置に応じて定常回転時の励磁パターンを決定する。停止位置検出手段34は、外部からの始動指令を受けて励磁電圧出力手段27にロータ停止位置を検出するためのパルス幅変調信号を発生させる。加速制御手段35は、強制転流から通常駆動に遷移するときに、強制転流でのモータの回転数の変化と強制転流の後に行われる定常回転におけるモータの回転数の変化との差異が所定の基準値以下となるようにロータを加速させる制御を行う。始動時励磁手段36は、ロータ位置推定手段31で最小と決定された方形波パルス電圧幅に相当するロータ停止位置に応じて強制転流時の励磁パターンを決定する。
【0021】
励磁電圧出力手段27は、ブラシレスモータ1のコイルに励磁電流を印加する信号を各プリドライバ37A,37Bに出力する。Hi側のプリドライバ37Aは、PWMデューティ決定手段28が決定したデューティ比で高電位側のスイッチング素子のON/OFFを切り替えるドライバである。Lo側のプリドライバ37Bは、低電位側のスイッチング素子のON/OFFを切り替えるドライバである。Hi側のプリドライバ37Aには、インバータ13に過電流が流れたときに、過電流保護手段39から信号が入力されると、各スイッチング素子をOFFにする機能を有する。また、過電流が検出されたときには、電流制限手段32に信号が入力され、ソフトウェア上のリセットがかけられる。
【0022】
方形波パルス電圧幅検出手段29は、分圧回路14から入力される信号から方形波パルス電圧幅を検出する処理を行う。方形波パルス電圧幅検出手段29は、メモリなどの記憶手段29Aを有し、検出した方形波パルス電圧幅のデータをそのときの励磁パターンと関連付けて記憶することができる。方形波パルス電圧幅比較手段30は、方形波パルス電圧幅検出手段29の記憶手段29Aに記憶された複数の方形波パルス電圧幅のデータを比較し、最小となるものを決定する。ロータ位置推定手段31は、方形波パルス電圧幅の比較結果に基づいて停止時や低速時のロータ位置を推定する。
【0023】
図2は、本発明の実施の形態に係るブラシレスモータの始動方法の具体例を示すフローチャートである。始動時には、停止位置検出手段34に始動指令が入力される。
【0024】
(ステップS101)停止位置検出手段34は、始動開始指令が停止位置検出手段34に入力されたら、過電流検出を行う。過電流は、インバータ13のシャント抵抗13Aを流れる電流値でモニタする。シャント抵抗13Aを流れる電流が、所定の値を越えたら、過電流、つまり過負荷状態と判定し(ステップS101でYes)、ステップS102に処理を進める。過電流が検出されなければ(ステップS101でNo)、ステップS103に処理を進める。
【0025】
(ステップS102)シャント抵抗13Aを流れる電流が、所定の値を越えたら、過電流、つまり過負荷状態と判定し(ステップS101でYes)、全相をOFFにして停止処理を実施して、処理を終了する。
【0026】
(ステップS103)過電流が検出されなかった場合には(ステップS101でNo)、ブレーキ停止手段25は、ブラシレスモータ1を停止させるような通電パターンを生成する指令を励磁電圧出力手段27に出力する。これにより、励磁電圧出力手段27によってブラシレスモータ1を停止するための通電パターンが生成され、通電パターンに応じてHi側のプリドライバ37AとLo側のプリドライバ37Bが駆動することで、インバータ13が通電パターンに応じたモータ電流をブラシレスモータ1に供給する。これにより、ブラシレスモータ1が停止する。なお、過電流のチェックは、並列処理される別のプログラムで常時監視しており、ステップS103以降の処理を実施している最中に過電流が検出されたら、その時点で処理が停止される。
【0027】
(ステップS104)始動時励磁手段36は、引き込み通電を行うための通電パターンを生成する指令を励磁電圧出力手段27に出力する。励磁電圧出力手段27は、引き込み通電を行うための通電パターンを生成し、通電パターンに応じてHi側のプリドライバ37AとLo側のプリドライバ37Bを駆動させる。インバータ13が通電パターンに応じたモータ電流をブラシレスモータ1に供給する。これにより、引き込み通電に応じて、ロータをある範囲の位置まで動かす。
【0028】
(ステップS105)加速制御手段35は、ロータを強制転流で回転させて加速させていく。
【0029】
(ステップS106)励磁切り替えタイミング演算手段22は、ロータの回転位置に応じた誘起電圧から正転専用ロジックを用いてロータの位置検出を実施する。
【0030】
(ステップS107)加速制御手段35は、強制転流でロータを所望の回転数まで加速されているか否かを判定し、強制転流でロータを所望の回転数まで加速されていれば(ステップS107でYes)、処理をステップS108に進める。ここで、所望の回転数まで加速させることは、強制転流でのロータの回転数の変化と定常回転開始時でのロータの回転数の変化との差が基準値以下となるような回転数までロータを加速させることを意味する。
【0031】
(ステップS108)定常時励磁手段33は、定常駆動によりロータを回転させる。
【0032】
上述のように、この実施形態では、ロータが停止している場合には、引き込み通電を行ってロータの停止位置を推定し、ステップS105でこのロータの停止位置に応じた位相の通電パターンでロータを強制転流で回転させる。そして、ロータの回転位置に応じた誘起電圧からロータの回転位置を検出し(ステップS106)、ロータが所望の回転数まで加速されたら(ステップS107でYes)、ステップS108で定常駆動に移行して、ロータを定常回転させている。これにより、誘起電圧を正確に検出できるとともに、ロータの回転速度の差による異音の発生を抑えることができる。
【0033】
つまり、ロータの位置を誘起電圧から検出する際に、ロータを回転駆動させていると、モータを駆動するための信号の影響を受け、誘起電圧を正確に検出することが難しくなる。誘起電圧からロータの回転位置を検出する際に、ロータをフリーラン状態にしておくことも考えられるが、その場合、ロータの回転数の変化することにより、異音が発生する。この実施形態では、強制転流でのロータの回転数の変化と定常回転開始時でのロータの回転数の変化との差が基準値以下となるようにロータを加速させることで、ロータが高速回転となり、外乱の影響を受けずに、誘起電圧からロータの位置を正確に検出できるとともに、モータ始動時の異音の発生を抑制できる。
【0034】
図3Aは、フリーラン状態にしてモータを始動した場合における回転数変化を示すグラフである。図3Aにおいて、横軸は時間を示し、縦軸は回転数を示す。
【0035】
図3Aにおいて、時刻t0でモータが起動されると、時刻t0からt1で、ロータを停止させた状態で、引き込み通電をし、ロータの位置をアライメント(ある一定範囲の位置まで引き込むこと)することで、ロータの位置をロータ位置推定手段31によって推定する。そして、時刻t1から時刻t2で、ロータが強制転流により回転された後、時刻t2から時刻t3でロータがフリーラン状態とされ、誘起電圧によりロータの位置が検出される。そして、時刻t3から定常状態でロータが回転され、ロータが加速されていく。時刻t4で、ロータが目標となる回転速度まで加速され、その後は、所望の回転速度でロータの回転が維持される。なお、この場合、期間Tがフリーラン状態となる。
【0036】
図3Bは、フリーラン状態にしてモータを始動した場合における音圧変化を示すグラフである。図3Bにおいて、横軸は時間を示し、縦軸は音圧を示す。
【0037】
図3Bに示すように、この場合、時刻t2から時刻t3がフリーラン状態となるため、時刻t3でフリーラン状態から定常回転に繊維する際に、モータの回転数が急速に上がり、ロータの回転数の変化の連続性が失われる。このため、時刻t3の付近で、音圧レベルの大きい異音が発生する。
【0038】
これに対して、図4Aは、本発明の実施の形態に係るブラシレスモータの駆動装置を用いて始動した場合の回転数変化を示すグラフである。
【0039】
図4Aにおいて、時刻t10でモータが起動されると、時刻t10からt11で、ロータを停止させた状態で、引き込み通電をし、ロータの位置をアライメントすることで当該ロータの位置をロータ位置推定手段31によって推定する。そして、時刻t11から時刻t12の間、ロータは強制転流により加速されていき、時刻t12で、ロータが所望の回転速度まで加速されると、定常状態に遷移し、ロータが定常状態で回転される。そして、時刻t13で、ロータが目標の回転速度まで加速され、その後は、所望の回転速度でロータの回転が維持される。
【0040】
図4Bは、本発明の実施の形態に係るブラシレスモータの駆動装置を用いて始動した場合の音圧変化を示すグラフである。図4Bに示すように、この場合、時刻t12で、ロータが所望の回転速度まで加速されてから、定常状態に遷移している。このため、強制転流での回転から定常状態の回転に遷移する際に、ロータの回転数の変化の連続性が保たれる。これにより、モータ始動時の異音の発生を抑制できる。
【0041】
ここで、異音の音圧を所定値以内に抑えるための制御について考察する。ロータから発生する異音は、ロータの回転数の変化の連続性に関連している。すなわち、ロータが連続的に加速しながら回転していけば、ロータの回転数の変化の差は小さくなり、ロータから発生する異音の音圧レベルは小さくなる。これに対して、ロータの回転速度に連続性がなくなると、ロータの回転数の変化の差は大きくなり、ロータから発生する異音の音圧レベルは大きくなる。
【0042】
図5は、発生する異音の音圧レベルと角加速度の差(回転数の変化の差)との関係を示すグラフである。図5において、横軸は角加速度の差を示し、縦軸は音圧レベルを示している。このグラフから、ロータの角加速度の差が小さいほど、ロータから発生する異音の音圧レベルは小さくなることが分かる。
【0043】
ここで、ロータから発生する異音の音圧レベルを、日常生活で静かだと感じる音圧P1(例えば45dB以下)とするには、図5に示すグラフから、強制転流でのロータの回転数の角加速度と定常回転開始時でのロータの回転数の角加速度との差をQ1(例えば32rad/s)以下とすれば良いことになる。
【0044】
この実施形態では、強制転流でのロータの回転数の変化と定常回転開始時でのロータの回転数の変化との差が基準値Q1以下となるようにロータを加速させて、強制転流から定常駆動に移行している。これにより、ロータから発生する音圧レベルをP1以下に抑えることができる。
【0045】
図6は、異音の音圧を所定値以内に抑えるための制御の説明に用いるグラフである。図6において、曲線A1はロータの回転数の変化を示し、曲線A2は音圧の変化を示す。曲線A3は始動指令の信号を示し、始動指令は、調整区間の範囲でタイミングを設定することができる。モータ始動時点のロータの回転数の変化は、点N11から点N12の区間での変化ω1であり、点N11から点N12の区間ではモータは強制転流により回転されている。点N11から点N12までの区間におけるロータの回転数の変化ω1と、点N22以降のロータの回転数の変化との差が基準値以下になるように、点N21と点N22との区間のロータの回転数の変化ω2を決定し、モータを駆動する。これにより、異音の音圧を所定値以内に抑えることができる。
【0046】
なお、ここでは、点N21と点N22との間の区間は、一直線になっているが、傾きが異なるいくつかの区間に分けて、多段となるようにしても良い。
【0047】
図7及び図8A図8Cは、ブラシレスモータの駆動装置を基板上に実現する場合の説明図である。ブラシレスモータの駆動装置を基板上に実現する場合には、図7に示すように、基板100に、モータ110を駆動するためのインバータ111の他に、複数のモジュール112を搭載しうるが、その対象機器によっては、必ずしも全てのモジュールが必要ではない。そこで、図8(A)~図8(C)に示すように、基板100上に最小限の機能を実現できる回路を配置しておき、この基板100上に各種の機能を実現できる回路を追加しておくことが考えられる。
【0048】
図8Aは、基板100上に、モータ制御IC101、入力回路102、サーミスタ103等、最低限の機能を実現できる回路を配置した例である。図8Bは、この基板100上に、更に、ダイアグ回路104やプリチャージ回路105等を追加した例である。図8Cは、この基板100上に、入力回路や過温度縮退制御として機能するマイコン106や逆説保護回路107等を追加した例である。このように、制御装置を搭載する対象機器において必要な機能が、対象機器によって異なる場合であっても、その対象機器に必要なモジュールを、基板100に選択的に搭載する。これにより、制御装置を共通の基板100とその周辺回路を共通で利用することができ、対象機器において必要な機能をモジュールとして基板100に搭載すればよい。これにより、制御基板を個別に設計しなおす必要がなく、共通部品として活用することができる。
【符号の説明】
【0049】
1…ブラシレスモータ、2…駆動装置、11…制御装置、22…励磁切り替えタイミング演算手段、33…定常時励磁手段、35…加速制御手段、36…始動時励磁手段
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8A
図8B
図8C