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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-09
(45)【発行日】2024-08-20
(54)【発明の名称】抗菌・抗黴性組成物
(51)【国際特許分類】
   A01N 37/10 20060101AFI20240813BHJP
   A01N 61/00 20060101ALI20240813BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20240813BHJP
【FI】
A01N37/10
A01N61/00 Z
A01P3/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020114991
(22)【出願日】2020-07-02
(65)【公開番号】P2022012860
(43)【公開日】2022-01-17
【審査請求日】2023-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000189659
【氏名又は名称】上野製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(72)【発明者】
【氏名】本岡 良太
(72)【発明者】
【氏名】土谷 美緒
【審査官】鳥居 福代
(56)【参考文献】
【文献】特表2000-514435(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第1614136(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第110313572(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107156106(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第108902632(CN,A)
【文献】特開2018-172348(JP,A)
【文献】特開2016-121074(JP,A)
【文献】特開昭62-025963(JP,A)
【文献】特開2019-099159(JP,A)
【文献】International Journal of Pharmaceutics,1991年,Vol.72,pp.51-55
【文献】改訂 医薬品添加物ハンドブック,2007年,pp.979-984「メチルパラベン」
【文献】New Food Industry,1988年,Vol.30, No.2,pp.33-41
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
A01P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)
【化1】
[式中、Rは水素原子を示し、Rは炭素原子数1~6のアルキル基を示す]
で表される4-ヒドロキシ安息香酸エステルと、プロタミン類とを含み、
ここで、式(1)で表される4-ヒドロキシ安息香酸エステルは、4-ヒドロキシ安息香酸エチルであり、
式(1)で表される4-ヒドロキシ安息香酸エステル100質量部に対し、プロタミン類0.1~70質量部を含む、抗菌・抗黴性組成物。
【請求項2】
の水素原子の一部又は全部がアルカリ金属に置換されている、請求項1に記載の抗菌・抗黴性組成物。
【請求項3】
式(1)で表される4-ヒドロキシ安息香酸エステル100質量部に対し、プロタミン類0.1~30質量部未満を含む、請求項1または2に記載の抗菌・抗黴性組成物。
【請求項4】
プロタミン類は、プロタミン、プロタミン塩酸塩、プロタミン硫酸塩、プロタミン炭酸塩、プロタミンリン酸塩、プロタミンポリリン酸塩およびプロタミン脂肪酸塩からなる群から選択される1種以上である、請求項1~のいずれかに記載の抗菌・抗黴性組成物。
【請求項5】
プロタミン類は、サケ目、ニシン目、タラ目、スズキ目、コイ目およびチョウザメ目からなる群から選択される1種以上の魚類精巣成分の抽出物である、請求項1~のいずれかに記載の抗菌・抗黴性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安全性に優れるとともに、抗菌・抗黴効果に優れた抗菌・抗黴性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
4-ヒドロキシ安息香酸エステルは、抗菌力、抗黴力に優れ、かつ毒性が低く、低刺激であることから、種々のエステル体が化粧品等の防腐剤として用いられている。しかし、4-ヒドロキシ安息香酸エステルは水に対する溶解度が極めて低いため、添加量に応じた効果が発現できないという問題があった。
【0003】
そこで、4-ヒドロキシ安息香酸エステルの溶解度を高めることにより抗菌力を向上させるために、パラオキシ安息香酸エステル類の2種以上を共融混合物とした防黴剤(特許文献1)や、溶媒として1,2-オクタンジオール等の水混和性有機溶剤を使用した防腐殺菌剤(特許文献2)が提案されている。
【0004】
また、4-ヒドロキシ安息香酸エステルの抗菌力を向上させるために、ツヤ酸やイソチオシアネートなどの他の抗菌性物質を併用した組成物も報告されている(特許文献3、4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特公昭37-17994号公報
【文献】特開2010-209116号公報
【文献】特開2007-1947号公報
【文献】特開2014-84297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、複数のパラオキシ安息香酸エステルを共融混合物とした場合、再結晶化が起こりやすく、製剤を安定的に供給するためには乳化剤等を添加する必要があった。また、水混和性有機溶剤を使用しても溶解度を十分に高めるには至らず、やはり抗菌力が不十分であるとともに、特殊な溶剤を使用するため、経済的にも不利であった。
【0007】
また、他の抗菌性物質と併用した組成物は、やはり溶解性が十分でなく、腐敗の原因となる各種微生物に対する抗菌効果が十分とは言えないものであった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、4-ヒドロキシ安息香酸エステルとプロタミン類を併用することにより、抗菌・抗黴効果が著しく向上することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち本発明は、以下の好適な態様を包含する。
[1]式(1)
【化1】
[式中、Rは水素原子を示し、Rは炭素原子数1~6のアルキル基を示す]
で表される4-ヒドロキシ安息香酸エステルと、
プロタミン類とを含む、抗菌・抗黴性組成物。
[2]Rの水素原子の一部又は全部がアルカリ金属に置換されている、[1]に記載の抗菌・抗黴性組成物。
[3]式(1)で表される4-ヒドロキシ安息香酸エステル100質量部に対し、プロタミン類0.01~100質量部を含む、[1]または[2]に記載の抗菌・抗黴性組成物。
[4]式(1)で表される4-ヒドロキシ安息香酸エステルは、4-ヒドロキシ安息香酸メチル、4-ヒドロキシ安息香酸エチル、4-ヒドロキシ安息香酸プロピル、4-ヒドロキシ安息香酸イソプロピル、4-ヒドロキシ安息香酸ブチル、4-ヒドロキシ安息香酸イソブチル、4-ヒドロキシ安息香酸ペンチルおよび4-ヒドロキシ安息香酸ヘキシルからなる群から選択される1種以上である、[1]~[3]のいずれかに記載の抗菌・抗黴性組成物。
[5]プロタミン類は、プロタミン、プロタミン塩酸塩、プロタミン硫酸塩、プロタミン炭酸塩、プロタミンリン酸塩、プロタミンポリリン酸塩およびプロタミン脂肪酸塩からなる群から選択される1種以上である、[1]~[4]のいずれかに記載の抗菌・抗黴性組成物。
[6]プロタミン類は、サケ目、ニシン目、タラ目、スズキ目、コイ目およびチョウザメ目からなる群から選択される1種以上の魚類精巣成分の抽出物である、[1]~[5]のいずれかに記載の抗菌・抗黴性組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、安全性(低毒性かつ低刺激性)に優れるとともに、抗菌・抗黴効果に優れた抗菌・抗黴性組成物を得ることができる。本明細書において、「抗菌・抗黴」は「抗菌及び/又は抗黴」を意味し、抗菌・抗黴効果に優れるとは抗菌及び/又は抗黴の効果に優れることを意味する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の抗菌・抗黴性組成物は、式(1)で表される4-ヒドロキシ安息香酸エステルと、プロタミン類を含む。
【化2】
[式中、Rは水素原子を示し、Rは炭素原子数1~6のアルキル基を示す。]
【0012】
式(1)で表される4-ヒドロキシ安息香酸エステルにおいて、Rは好ましくは水素原子である。Rは、化合物中でその一部又は全部がアルカリ金属を示してもよい。その場合、アルカリ金属としては、例えば、ナトリウム、カリウムおよびリチウムが挙げられる。
【0013】
が示す炭素原子数1~6のアルキル基は直鎖型および分岐型のいずれでもよい。Rは炭素原子数1~4のアルキル基であるのが好ましい。
【0014】
式(1)で表される4-ヒドロキシ安息香酸エステルとしては、例えば、4-ヒドロキシ安息香酸メチル、4-ヒドロキシ安息香酸エチル、4-ヒドロキシ安息香酸プロピル、4-ヒドロキシ安息香酸イソプロピル、4-ヒドロキシ安息香酸ブチル、4-ヒドロキシ安息香酸イソブチル、4-ヒドロキシ安息香酸ペンチルおよび4-ヒドロキシ安息香酸ヘキシルからなる群から選択される1種以上が挙げられる。
【0015】
上述した4-ヒドロキシ安息香酸エステルは、単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0016】
本発明で使用される4-ヒドロキシ安息香酸エステルは、市販のものを用いてもよく、また、公知の製法、例えば、触媒の存在下、4-ヒドロキシ安息香酸と脂肪族アルコールとを反応させることによって得られたものを用いてもよい。
【0017】
プロタミン類としては、例えば、プロタミン、プロタミン塩酸塩、プロタミン硫酸塩、プロタミン硝酸塩、プロタミン炭酸塩、プロタミンポリリン酸塩、プロタミン脂肪酸塩からなる群から選択される1種以上が挙げられる。これらの中でも、市場の流通量が多く、入手が容易であることから、プロタミン塩酸塩およびプロタミン硫酸塩が好ましい。
上述したプロタミン類は、単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0018】
本発明で使用されるプロタミン類は、サケ目、ニシン目、タラ目、スズキ目、コイ目およびチョウザメ目からなる群から選択される1種以上の魚類精巣成分の抽出物であることが好ましい。これらの中でも、市場の流通量が多く、入手が容易であることから、サケ目、ニシン目、スズキ目およびタラ目の魚類精巣成分の抽出物であることが好ましく、サケ目およびニシン目の魚類精巣成分の抽出物であることがより好ましい。
上述したプロタミン類は、単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0019】
本発明の抗菌・抗黴性組成物において、プロタミン類の含有量は、式(1)で表される4-ヒドロキシ安息香酸エステル100質量部に対し、0.1~100質量部であるのが好ましく、0.5~70質量部であるのがより好ましく、1~50質量部であるのがさらに好ましく、2~40質量部であるのが特に好ましく、5~30質量部であるのが最も好ましい。
【0020】
プロタミン類の含有量が0.1質量部を下回ると、抗菌・抗黴力の向上効果が不十分となり、100質量部を上回るとプロタミン類特有の魚臭の発生、固形物の析出ならびに製造コストの増大などの不具合が生じる傾向がある。
【0021】
本発明で使用されるプロタミン類の抽出方法は、特に限定されないが、魚類精巣成分を遠心分離または溶媒により抽出することが好ましい。
【0022】
本発明の抗菌・抗黴性組成物は、使用目的に応じた形態で用いることができる。具体的には以下の形態が挙げられる。
【0023】
(1)式(1)で表される4-ヒドロキシ安息香酸エステルとプロタミン類の混合物を、そのまま抗菌・抗黴性組成物として使用する形態。
【0024】
(2)式(1)で表される4-ヒドロキシ安息香酸エステルとプロタミン類の混合物を固体担体に担持させた固体製剤を、抗菌・抗黴性組成物として使用する形態。
【0025】
(3)式(1)で表される4-ヒドロキシ安息香酸エステルとプロタミン類の混合物を溶剤に溶解または分散させた液体製剤を、抗菌・抗黴性組成物として使用する形態。
【0026】
(4)式(1)で表される4-ヒドロキシ安息香酸エステルとプロタミン類の混合物を樹脂に混錬した樹脂組成物を、抗菌・抗黴性組成物として使用する形態。
【0027】
(2)の固体担体に担持させた固体製剤を抗菌・抗黴性組成物とする形態において、使用する固体担体としては、例えば、カオリン、タルク、ベントナイト、クレー、珪藻土、炭酸カルシウム、シリカ、ゼオライト等の鉱物質又は無機質粉末;木粉、大豆粉、小麦粉、澱粉粉等の植物質粉末;フェノール樹脂、ポリアミド、アクリル、ポリプロピレン、ポリエステル等の合成樹脂;該合成樹脂からなる繊維;ポリブタジエン等のゴムまたはその粉末;樟脳、ナフタレン、パラジクロロベンゼン、トリオキサン、シクロドデカン、アダマンタン等の昇華性粉末;リンター、パルプ等の天然繊維;羊毛、綿、絹などの動植物性繊維;レーヨンなどの再生繊維等が挙げられる。またガラス繊維、石綿などの無機繊維などから得られる紙、不織布等も固体担体として使用できる。
【0028】
(3)の溶剤に溶解または分散させた液体製剤を抗菌・抗黴性組成物とする形態において、使用する液体としては、水、メチルアルコール、エチルアルコール、フェノキシエタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ヘキサン、ケロシン、パラフィン等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;および酢酸エチル、ラウリン酸ヘキシル等のエステル類;並びにジメチルスルホキシドなどの硫黄化合物類などが挙げられる。
【0029】
(4)の樹脂中に練り込んだ樹脂組成物を抗菌・抗黴性組成物とする形態において、使用する樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、ゴム類が挙げられる。
【0030】
熱可塑性樹脂としては、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、超分子量ポリエチレン、プラストマーなどのポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン・メタアクリル酸共重合樹脂などのポリオレフィン系樹脂;塩化ビニル、塩化ビニデン単独重合体等の塩化ビニリデン系樹脂;ポリスチレン、ABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン)樹脂などのスチレン系樹脂;ポリメタクリル酸メチルなどのメタクリル樹脂;ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド系樹脂;ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、PPE(ポリフェニレンエーテル)樹脂、PSU(ポリサルホン)樹脂、PEI(ポリエーテルイミド)樹脂、PES(ポリエーテルスルホン)樹脂、変性PPE樹脂、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂、PBT(ポリブチレンテレフタレート)樹脂、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PBN(ポリブチレンナフタレート)樹脂などの熱可塑性ポリエステル樹脂;PVF(ポリフッ化ビニル)樹脂などのフッ素樹脂;PPS(ポリフェニレンスルフィド)樹脂;PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)樹脂などのポリエーテルケトン系樹脂;LCP(液晶ポリマー)樹脂;熱可塑性ポリイミド;スチレン系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリ塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマーなどの熱可塑性エラストマー樹脂;その他、加水分解性樹脂、水和分解型樹脂、吸水性樹脂が挙げられる。
【0031】
熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、アルキド樹脂、グアナミン樹脂、ポリイミド樹脂、尿素樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、ポリパラ安息香酸樹脂、フェノールホルムアルデヒド樹脂、フラン樹脂、キシレン樹脂などが挙げられる。
【0032】
ゴム類としては、ブチルゴム、イソプレンゴム、SBR(スチレンブタジエンゴム)、NIR(ニトリルイソプレンゴム)、NBR(ニトリルブタジエンゴム)、ウレタンゴム、クロロプレンゴム、EPDM(エチレンプロピレンジエン共重合体ゴム)、EPM(エチレンプロピレン共重合体ゴム)、ブタジエンゴム、アクリルゴム、塩素化ポリエチレン、エピクロルヒドリンゴム、プロピレンオキサイドゴム、エチレン・アクリルゴム、ノルボルネンゴム、水素化ニトリルゴム、ポリエーテル系ゴム、四フッ化エチレン・プロピレンゴム、クロロスルホン化ゴム、多硫化ゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム、天然ゴムなどが挙げられる。
【0033】
これらの熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂およびゴム類は、単独で使用してもよく、あるいは2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合、ポリマーアロイ化して使用してもよく、ブレンドして使用してもよく、あるいはそれぞれの樹脂層を積層して使用してもよい。
【0034】
上記(1)~(4)の使用形態において、いずれの場合も、必要により他の剤、例えば香料、界面活性剤、保湿剤、酸化防止剤、防虫剤、殺虫剤、殺菌剤、防藻剤、殺藻剤、着色剤、難燃剤、熱安定剤、可塑剤、光安定剤(紫外線吸収剤等)、帯電防止剤、分散剤、離型剤等の各種添加剤、強化剤および粉末増量剤等の充填剤等を併用してもよい。
【0035】
本発明の抗菌・抗黴性組成物により発育阻止される微生物としては、大腸菌、緑膿菌、チフス菌などのグラム陰性菌、黄色ブドウ球菌、セレウス菌などのグラム陽性菌、カンジダ菌、出芽酵母などの酵母、クラドスポリウム、フザリウム、クロコウジカビなどのカビ類などが挙げられる。
【0036】
本発明の抗菌・抗黴性組成物が使用される対象物としては、例えば、化粧品、医薬品、食品、インク、金属加工油、接着剤、塗料、保冷剤、防虫剤、芳香剤、および消臭剤等が挙げられる。
【実施例
【0037】
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0038】
実施例および比較例において、抗菌性成分Aの4-ヒドロキシ安息香酸エステルは、いずれも上野製薬株式会社製のものを使用した。また、抗菌性成分Bについては、プロタミン硫酸塩、ジプロピレングリコールおよび1,2-オクタンジオールは市販品を使用し、その他は株式会社ウエノフードテクノ製のものを使用した。
【0039】
実施例1~6(実施例4~6は参考例)および比較例1~2
〈抗菌性成分の併用効果の評価〉
表1に示す抗菌性成分AおよびBについて、下記供試菌に対する併用効果をチェッカーボード法により評価した。尚、チェッカーボード法は、「International Research Journal of Pharmacy、2011、2(12)、p.196-198」に記載の方法に準じた。
【0040】
各実施例及び各比較例において、滅菌水(5%ジメチルスルホキシド含有)によって希釈することにより、8種の抗菌性成分A溶液を調製した。具体的には、抗菌性成分Aの濃度が0.8質量%から1/2ずつ0.0063質量%まで(0.8質量%、0.4質量%、0.2質量%、0.1質量%、0.05質量%、0.025質量%、0.0125質量%、0.0063質量%)となるように、滅菌水(5%ジメチルスルホキシド含有)によって希釈することにより調製した。
【0041】
各実施例において、抗菌性成分Bの濃度が0.8質量%となるように滅菌水(5%ジメチルスルホキシド含有)を用いて調製した。各比較例において、抗菌性成分Bが所定濃度(比較例1:64質量%、比較例2:2質量%)となるように、滅菌水(5%ジメチルスルホキシド含有)を用いて調製した。
【0042】
マイクロタイタープレート(96ウェル)の最上段の横一列(8ウェル)に、濃度0.8重量%に調製した抗菌性成分B溶液を90μL/ウェルずつ入れ、その下の列以降(2列目~8列目)に滅菌水を45μL/ウェルずつ入れた。薬剤の入ったウェルから45μL抜き取り、次の下列のウェルに入れ、1/2になるよう希釈した。この操作をそれぞれ下列のウェルへ順に行い、段階的な希釈を行った。
【0043】
その後、マイクロタイタープレート(96ウェル)の縦一列毎に調製済みの抗菌性成分A溶液を左から濃度が高い順に45μL/ウェルずつ入れた。指定濃度の2.25倍濃度に調製したソイビーンカゼインダイジェスト(SCD)ブイヨン培地(日水製薬株式会社製)を滅菌後、マイクロタイタープレートに80μL/ウェルずつ分注した。次に、下記の供試菌をSCDブイヨン培地にて30℃で20時間培養した菌液を、10cfu/mLとなるように生理食塩水で希釈した後、上記で作製した培地注入済みのマイクロタイタープレートに10μL/ウェルずつ接種した。
【0044】
これを30℃の恒温器内で48時間培養し、培地のみの試料(対照)と抗菌性成分添加試料の濁度を目視にて比較し、濁りがない場合を陰性、濁りがある場合を陽性とし、MIC値(QA、QB、QaおよびQb)を求めた。MIC値は、特定の菌の増殖を阻止するための抗菌性成分の必要最小濃度を意味し、MIC値が小さいほど抗菌効果が強いことを示し、MIC値が大きいほど抗菌効果が弱いことを示す。
【0045】
次に、各MIC値から下記計算式により、FIC値(Fractional Inhibitory Concentration Index:併用効果指数)を算出し、評価基準に基づいて併用効果を評価した。各抗菌性成分のMIC値およびFIC値を表2~表4に示す。
【0046】
FIC値=Qa/QA + Qb/QB
【0047】
Qa:A成分とB成分を併用した時のA成分のMIC値、
QA:A成分単独でのMIC値、
Qb:A成分とB成分を併用した時のB成分のMIC値、
QB:B成分単独でのMIC値
【0048】
<評価基準>
FIC値<1:相乗的効果
FIC値=1:相加的効果
FIC値>1:拮抗的効果
【0049】
【表1】
【0050】
〈供試菌〉
供試菌1:大腸菌(Escherichia coli)NBRC3972
供試菌2:黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)NBRC13276
供試菌3:緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)ATCC9027
供試菌4:カンジダ(Candida albicans)NBRC1594
供試菌5:クロコウジカビ(Aspergillus brasiliensis)ATCC16404
【0051】
【表2】
【0052】
【表3】
【0053】
【表4】
【0054】
表2~表4に示したとおり、4-ヒドロキシ安息香酸エステルとプロタミン類を併用した組成物(実施例1~6)は、各供試菌に対するFIC値がすべて1未満であり、相乗的効果が得られていることが確認された。
【0055】
なお、いずれの試料も魚臭は感じられず、また、抗菌性成分の析出は確認されなかった。
【0056】
一方、4-ヒドロキシ安息香酸エステルと他の抗菌性成分を併用した組成物(比較例1~2)は、各供試菌に対するFIC値のすべて、あるいは一部が1以上であり、相加的効果あるいは拮抗的効果であることが確認された。
【0057】
従って、式(1)で表される各種4-ヒドロキシ安息香酸エステルと各種プロタミン類の併用組成物は、各種微生物に対する抗菌・抗黴効果に優れ、抗菌・抗黴性組成物として有用であることが理解される。