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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-09
(45)【発行日】2024-08-20
(54)【発明の名称】成形体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 70/06 20060101AFI20240813BHJP
   B32B 5/28 20060101ALI20240813BHJP
   B29L 9/00 20060101ALN20240813BHJP
【FI】
B29C70/06
B32B5/28 A
B29L9:00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020153142
(22)【出願日】2020-09-11
(65)【公開番号】P2022047312
(43)【公開日】2022-03-24
【審査請求日】2023-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507375052
【氏名又は名称】東レ・カーボンマジック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091384
【弁理士】
【氏名又は名称】伴 俊光
(74)【代理人】
【識別番号】100125760
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】堀之内 敬史
(72)【発明者】
【氏名】冨安 禎市
【審査官】岩▲崎▼ 則昌
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-020397(JP,A)
【文献】特開2005-231112(JP,A)
【文献】特開平10-315339(JP,A)
【文献】実開昭54-074778(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 70/06
B32B 5/28
B29L 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続強化繊維に樹脂が含侵されたFRPシートが複数積層され、底面と側面で形成される稜線を有する成形体において、
前記複数のFRPシートの少なくとも1層が、連続強化繊維が前記稜線と交差する方向に配置され、かつ該連続強化繊維が前記稜線の形成される稜線部で分離された繊維分離層に形成されており、前記繊維分離層が、前記複数のFRPシートの積層の中立軸よりも前記稜線を形成する前記底面と側面がなす角度のうち小さい角度側の部位に配置されており、かつ、前記繊維分離層が、前記稜線部でその両側のFRPシートが突き合わされた層に形成されていることを特徴とする成形体。
【請求項2】
前記稜線が異なる方向に複数本形成され、底面の周囲に2面以上の側面が設けられている、請求項に記載の成形体。
【請求項3】
前記連続強化繊維が炭素繊維である、請求項1または2に記載の成形体。
【請求項4】
連続強化繊維に樹脂が含浸されたFRPシートを複数積層し、底面と側面で形成される稜線を有する形状を形成する積層工程と、樹脂を硬化させる工程と、を有する成形体の製造方法において、
前記積層工程にて、前記複数のFRPシートの少なくとも1層を、連続強化繊維が前記稜線と交差する方向に配置され、かつ該連続強化繊維が前記稜線の形成される稜線部で分離された繊維分離層に形成し、該繊維分離層を前記複数のFRPシートの積層の中立軸よりも前記稜線を形成する前記底面と側面がなす角度のうち小さい角度側の部位に配置し、かつ、前記繊維分離層を、前記稜線部でその両側のFRPシートが突き合わされた層に形成することを特徴とする成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続強化繊維を含むFRP(繊維強化プラスチック)からなり、L字形断面部を有する成形体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
強化繊維に樹脂を含浸した、軽量かつ高強度・高剛性の繊維強化プラスチック(FRP)、とくに炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は、各種分野で幅広く使用されており、中でも、連続強化繊維を含むFRPは、複雑な形状や屈曲部などを有する形状に対しても高い強度、剛性を発現できることから、各種筐体やケース、カバー等に幅広く適用されている。
【0003】
各種筐体やケース、カバー等にあっては、多かれ少なかれ、L字形断面部を有することが多いが、このような形状のFRP成形体を製造する場合、成形体におけるL字形断面部に高い形状精度や良好な品質を求められることがある。
【0004】
特許文献1には、底面と側面とからなるL字形断面部を有するFRP成形体において、側面の倒れ変形が発生しても、側面の上端部が所望の形状となるように、側面の高さ方向に反りを生じさせる構造が開示されている。
【0005】
特許文献2には、曲率半径の小さな曲り部を有するFRP成形体において、曲り部において樹脂組成物が不足し、ボイドが生じて繊維が表層に露出したりして外観が不良になることを防止する構造が開示されている。この特許文献2には、曲り部の形状や形状の適正化については言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-20397号公報
【文献】特開2016-117202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
連続強化繊維を含むFRPからなり、底面と側面で形成されるL字形断面部を有する成形体においては、以下のような内倒れの問題が存在する。例えば、図5(A)に示すように、底面部101に対し、側面部102の目標とする立ち上がり角度をθ(例えば90°)とすると、成形終了後に、この角度が目標角度θにならず、図5(B)に示すようにθよりも小さい角度になることがある(この現象を本願では「内倒れ」と呼ぶ(符号103で示す))。
【0008】
本発明者らは、上記の「内倒れ」現象は、次のようにFRPを構成する連続強化繊維104と成形時に硬化収縮する樹脂105との間の収縮率の差に起因して発生すると考えている。すなわち、図5(A)に示すように、底面部101と側面部102で形成される稜線部106において、成形時における樹脂の硬化収縮前の状態での一点鎖線で示す1/2θ方向(例えば45°方向)の屈曲部連接線107を想定してみる。樹脂の硬化時には、底面部101や側面部102の板厚方向には樹脂105は収縮するが、板厚方向と垂直の方向においては、連続強化繊維104が連続の形態で存在するため、樹脂105は収縮しない。そのため、稜線部106における屈曲部連接線107は、図5(A)に示す状態から図5(B)に示す状態に変化し、つまり、屈曲部連接線107が寝る方向に倒れ、結局側面部102には上述のような内倒れ103が発生することになる。このような「内倒れ」現象が発生すると、得られるFRP成形体は所望の形状に成形されない。
【0009】
そこで本発明の課題は、上記のような成形時の「内倒れ」現象を抑制したFRP成形体とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明に係る成形体およびその製造方法は次の構成を採用する。
(1)連続強化繊維に樹脂が含侵されたFRPシートが複数積層され、底面と側面で形成される稜線を有する成形体において、
前記複数のFRPシートの少なくとも1層が、連続強化繊維が前記稜線と交差する方向に配置され、かつ該連続強化繊維が前記稜線の形成される稜線部で分離された繊維分離層からなることを特徴とする成形体。
(2)前記繊維分離層が、前記複数のFRPシートの積層の中立軸よりも前記底面と側面がなす角度の小さい側の部位に配置されている、(1)に記載の成形体。
(3)前記繊維分離層が、前記稜線部に沿ってスリットが入っている層からなる、(1)または(2)に記載の成形体。
(4)前記繊維分離層が、前記稜線部でその両側のFRPシートが突き合わされた層からなる、(1)または(2)に記載の成形体。
(5)前記稜線が異なる方向に複数本形成され、底面の周囲に2面以上の側面が設けられている、(1)~(4)のいずれかに記載の成形体。
(6)前記連続強化繊維が炭素繊維である、(1)~(5)のいずれかに記載の成形体。
(7)連続強化繊維に樹脂が含浸されたFRPシートを複数積層し、底面と側面で形成される稜線を有する形状を形成する積層工程と、樹脂を硬化させる工程と、を有する成形体の製造方法において、
前記積層工程にて、連続強化繊維が前記稜線と交差する方向に配置され、かつ該連続強化繊維が前記稜線の形成される稜線部で分離された繊維分離層を、少なくとも、前記複数のFRPシートの積層の中立軸よりも前記底面と側面がなす角度の小さい側の部位に配置することを特徴とする成形体の製造方法。
(8)連続強化繊維からなる繊維層を複数積層し、底面と側面で形成される稜線を有する形状を形成する積層工程と、積層された複数の繊維層に樹脂を含浸する樹脂含浸工程と、樹脂を硬化させる工程と、を有する成形体の製造方法において、
前記積層工程にて、連続強化繊維が前記稜線と交差する方向に配置され、かつ該連続強化繊維が前記稜線の形成される稜線部で分離された分離繊維層を、少なくとも、前記複数の繊維層の積層の中立軸よりも前記底面と側面がなす角度の小さい側の部位に配置することを特徴とする成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る成形体およびその製造方法によれば、積層された複数のFRPシートの少なくとも1層が、好ましくは複数のFRPシートの積層の中立軸よりも底面と側面がなす角度の小さい側の部位に配置されている少なくとも1層が、連続強化繊維が底面と側面との稜線と交差する方向に配置され、かつ該連続強化繊維が稜線の形成される稜線部で分離された繊維分離層に構成されているので、この繊維分離層に構成されたFRPシートの稜線部では、底面部と側面部との間で連続強化繊維を介しての変形応力の伝達が行われないことになる。その結果、前述した連続強化繊維と成形時に硬化収縮する樹脂との間の収縮率の差に起因して発生すると考えられる側面部の内倒れが抑制され、FRP成形体を所望の形状に成形することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施態様に係る成形体を示しており、図1(A)は斜視図、図1(B)は稜線部の拡大縦断面図である。
図2】本発明に係る成形体の稜線部の各種構成例を示す概略斜視図である。
図3】本発明に係る成形体の全体の各種形状例を示す概略斜視図である。
図4】本発明の実施例における成形体のFRPシートの積層形態を示す概略断面図である。
図5】内倒れ発生の考えられる原因を示す成形体のL字形断面部の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明について、実施の形態とともに、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施態様に係る成形体を示しており、図1(A)は斜視図、図1(B)は稜線部の拡大縦断面図である。図1に示す成形体1においては、図1(A)に示すように、連続強化繊維に樹脂が含侵されたFRPシート2が複数積層され、底面と側面で形成される稜線を有する、つまり、底面部3と側面部4で形成される稜線部5を有する成形体1が構成されている。稜線は符号6で表し、図1(B)に示すように、FRPシート2の連続強化繊維を符号7で、樹脂を符号8で表す。この成形体1の上記複数のFRPシート2の少なくとも1層が、連続強化繊維7が稜線6と交差する方向に配置され、かつ該連続強化繊維7が稜線6の形成される稜線部5で分離された繊維分離層9からなる。図示例では、稜線部5はL字形断面部に形成されており、合計6層の積層されたFRPシート2のうち、L字形断面における内側の(底面部3と側面部4がなす角度の小さい側の部位の)3層が繊維分離層9に形成されている。図示例では、FRPシート2は合計6層に積層されているから、複数のFRPシート2の積層の中立軸は積層方向に3層目と4層目の間に存在することになり、上記3層の繊維分離層9は、底面部3と側面部4がなす角度の小さい側の部位に配置されている。積層数については、10層以上でも可であり、好ましくは8層以下、さらに好ましくは4~6層が好ましい。
【0014】
上記繊維分離層9は、稜線6と交差する方向に配置された連続強化繊維7が稜線部5で分離された部位を有する層からなっていればよい。なかでも稜線6と連続強化繊維7の角度が直交方向に配置していることが好ましい。分離された部位については、例えば、稜線部5に沿って(稜線部5に沿う方向に)スリットが入っている層でもよく、好ましくは、稜線部5でその両側のFRPシート(底面部3側のFRPシートと側面部4側のFRPシート)が突き合わされた層が好ましい。これらの形態を図2に例示するに、図2(A)に示す繊維分離層9aでは、稜線部5でその両側のFRPシート11a、11bが突き合わされた層形態に形成され(符号12は突き合わせ線を示している)、図2(B)に示す繊維分離層9bでは、稜線部5に沿ってスリット13が稜線部5の全長にわたって連続的に入っている層形態に形成され、図2(C)に示す繊維分離層9cでは、稜線部5に沿ってスリット14が断続的に入っている層形態に形成されている。
【0015】
本発明に係る成形体の形状(形態)としては、連続強化繊維に樹脂が含侵されたFRPシートが複数積層され、底面と側面で形成される稜線を有する、つまり、上記のような底面部3と側面部4で形成される稜線部5(L字形断面部)を有するものであれば特に限定されない。L字形断面部についても、直角に折れ曲がっている形態に限定されず、底面部に対して側面部が予め定められた目標とする角度で立ち上がっている形態であればよく、直角に折れ曲がっている形態では顕著に内倒れ防止の効果が発現する。
【0016】
また、成形体における稜線の数も特に限定されず、図1に示したような稜線が1本の形態の他、稜線が異なる方向に複数本形成され、底面の周囲に2面以上の側面が設けられている形態などの他の各種形態を採用できる。このような他の各種形態を図3に例示するに、図3(A)に示す成形体1aでは、底面21aに対し2面の側面22a、22bが設けられ、底面21aと側面22a、22bとの間に稜線23a、23bが形成されているとともに、側面22aと側面22bとの間にも稜線23cが形成されている。少なくとも稜線23a、23bが形成される稜線部に、前述したのと同様の、連続強化繊維が稜線部で分離された部位を有する繊維分離層が内在されていることが好ましく、稜線23cが形成される稜線部にも、同様の繊維分離層が内在されていることがより好ましい。
【0017】
図3(B)に示す成形体1bでは、底面21bの両側に側面22c、22dが設けられ、底面21bと側面22cとの間、底面21bと側面22dとの間に、それぞれ稜線23d、23eが形成されている。稜線23d、23eが形成される稜線部に、それぞれ、前述したのと同様の、連続強化繊維が稜線部で分離された部位を有する繊維分離層が内在されていることが好ましい。
【0018】
図3(C)に示す成形体1cでは、底面21cに対し、3面の側面22e、22f、22gが設けられ、底面21cと各側面22e、22f、22gとの間に、稜線23f、23g、23hが形成されているとともに、側面22eと側面22fとの間、側面22fと側面22gとの間にも稜線23i、23jが形成されている。少なくとも稜線23f、23g、23hが形成される稜線部に、前述したのと同様の、連続強化繊維が稜線部で分離された部位を有する繊維分離層が内在されていることが好ましく、稜線23i、23jが形成される稜線部にも、同様の繊維分離層が内在されていることがより好ましい。
【0019】
図3(D)に示す成形体1dでは、底面21dに対し、4面の側面22h、22i、22j、22kが設けられ、底面21dと各側面22h、22i、22j、22kとの間に、稜線23k、23l、23m、23nが形成されているとともに、側面22hと側面22iとの間、側面22iと側面22jとの間、側面22jと側面22kとの間、側面22kと側面22hとの間にも稜線23o、23p、23q、23rが形成されている。少なくとも稜線23k、23l、23m、23nが形成される稜線部に、前述したのと同様の、連続強化繊維が稜線部で分離された部位を有する繊維分離層が内在されていることが好ましく、稜線23o、23p、23q、23rが形成される稜線部にも、同様の繊維分離層が内在されていることがより好ましい。
【0020】
上述した各種形態におけるFRPシートを構成する連続強化繊維の種類としては、とくに限定されず、ポリアクリルニトリル(PAN)系、レーヨン系、リグニン系、ピッチ系の炭素繊維やガラス繊維、アラミド繊維などの各種強化繊維やこれらの繊維に表面処理が施されているものであってもよい。表面処理としては、カップリング剤による処理、サイジング剤による処理、結束剤による処理、添加剤の付着処理などがある。また、これらの強化繊維は1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。軽量かつ高強度・高剛性の成形体を得る点からは、連続強化繊維として炭素繊維が含まれることが好ましい。連続強化繊維を含む繊維層の形態もとくに限定されず、連続強化繊維が一方向に配向された一方向材の他、連続強化繊維を含む織物の形態であってもよいが、積層されたFRPシートの少なくとも1層が、連続強化繊維が成形体の底面と側面で形成される稜線と交差する方向に配置され、かつ該連続強化繊維が稜線の形成される稜線部で分離された繊維分離層からなることが必要である。
【0021】
FRPシートのマトリックス樹脂としては、とくに限定されず、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール(レゾール型)樹脂、ポリイミド樹脂などの熱硬化性樹脂や、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)樹脂、ポリエチレンナフタレート(PEN樹脂)、液晶ポリエステル樹脂等のポリエステル樹脂や、ポリエチレン(PE樹脂)、ポリプロピレン(PP樹脂)、ポリブチレン樹脂等のポリオレフィン樹脂や、ポリオキシメチレン(POM)樹脂、ポリアミド(PA)樹脂、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂などのポリアリーレンスルフィド樹脂、ポリケトン(PK)樹脂、ポリエーテルケトン(PEK)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)樹脂、ポリエーテルニトリル(PEN)樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂などのフッ素系樹脂、液晶ポリマー(LCP)などの結晶性樹脂、スチレン系樹脂の他、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)樹脂、ポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂、ポリイミド(PI)樹脂、ポリアミドイミド(PAI)樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂、ポリサルホン(PSU)樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリアリレート(PAR)樹脂などの非晶性樹脂、その他、フェノール系樹脂、フェノキシ樹脂、更にポリスチレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリブタジエン系樹脂、ポリイソプレン系樹脂、フッ素系樹脂、およびアクリロニトリル系樹脂等の熱可塑エラストマー等や、これらの共重合体および変性体などの熱可塑性樹脂を用いることができる。なかでも、炭素繊維との接着性や、成形体の力学特性、成形性を考慮すると、エポキシ樹脂やビニルエステル樹脂を用いることが好ましい。
【0022】
また、繊維強化樹脂の炭素繊維の重量繊維含有率が15~80重量%の範囲であることが好ましい。より好ましくは30~70重量%、さらに好ましくは45~60重量%である。含有量が15重量%未満であると、耐荷重性や剛性が失われ所定の目的の機能を果たすことできない。重量含有量が80重量%を超えると、前記繊維強化樹脂中にボイドが発生する問題が生じやすくなり、成形が困難となる。
【0023】
上記のような各種形態に成形される本発明に係る成形体においては、積層された複数のFRPシートの少なくとも1層が、好ましくは複数のFRPシートの積層の中立軸よりも底面と側面がなす角度の小さい側の部位に配置されている少なくとも1層が、連続強化繊維が底面と側面との稜線と交差する方向に配置され、かつ該連続強化繊維が稜線の形成される稜線部で分離された繊維分離層に構成されているので、この繊維分離層に構成されたFRPシートの稜線部では、底面部と側面部との間で連続強化繊維を介しての変形応力の伝達が行われない、換言すれば、連続強化繊維を介しての変形応力の伝達が、連続強化繊維が分離された稜線部における部位で、遮断されることになる。その結果、前述の図5を用いて説明したような、連続強化繊維と成形時に硬化収縮する樹脂との間の収縮率の差に起因して発生すると考えられる側面部の内倒れが抑制され、FRP成形体を所望の形状に成形することが可能になる。
【0024】
このような側面部の内倒れを抑制したFRP成形体は、先にFRPシートのプリプレグを作成し、それを複数積層した後樹脂を硬化させてFRP成形体を成形する方法、複数の繊維層を積層してプリフォームを作成し、それに樹脂を含浸させた後樹脂を硬化させてFRP成形体を成形する方法、のいずれの方法でも製造できる。
【0025】
すなわち、前述したように、(A)連続強化繊維に樹脂が含浸されたFRPシートを複数積層し、底面と側面で形成される稜線を有する形状を形成する積層工程と、樹脂を硬化させる工程と、を有する成形体の製造方法において、前記積層工程にて、連続強化繊維が前記稜線と交差する方向に配置され、かつ該連続強化繊維が前記稜線の形成される稜線部で分離された繊維分離層を、少なくとも、前記複数のFRPシートの積層の中立軸よりも前記底面と側面がなす角度の小さい側の部位に配置することを特徴とする成形体の製造方法,(B)連続強化繊維からなる繊維層を複数積層し、底面と側面で形成される稜線を有する形状を形成する積層工程と、積層された複数の繊維層に樹脂を含浸する樹脂含浸工程と、樹脂を硬化させる工程と、を有する成形体の製造方法において、前記積層工程にて、連続強化繊維が前記稜線と交差する方向に配置され、かつ該連続強化繊維が前記稜線の形成される稜線部で分離された分離繊維層を、少なくとも、前記複数の繊維層の積層の中立軸よりも前記底面と側面がなす角度の小さい側の部位に配置することを特徴とする成形体の製造方法,のいずれの方法も採用可能である。
【0026】
このように製造され、側面部の内倒れが抑制されたFRP成形体は、目標とする形状に精度よく成形可能であり、底面部と側面部を有するあらゆるFRP成形体に適用可能である。とくに側面部の成形精度が要求される用途に好適であり、好適な用途として、とくに
電気・電子機器用各種筐体やカバー、車両用などの各種バッテリー収納ケースや制御機器収納あるいは保護ケース、医療用カセッテなどを例示できる。
【実施例
【0027】
以下に、本発明による効果を確認するための、以下のような実施例を実施した。
実施例においては、図4に示すように、図1に示したのと同様の形態の、合計6層のFRPシートの積層構成を有する各種の成形体サンプルを作成し、1ply目から6ply目までの積層構成を変えて試験した。とくに、稜線6が形成される稜線部5で連続強化繊維が分離された繊維分離層9の積層配置構成を変えたサンプル1~4について、側面部の内倒れの発生の有無を確認した。図4に示すサンプルは、後述の表1におけるサンプル2に相当している。
【0028】
(実施例1)[積層構成は表1のサンプル3に相当]
長さ450mm、幅375mm、高さ15mm、板厚1.2mmの箱型形状で隣り合う2面の立壁部が開口となっている図3の(D)に示した成形品を成形した。使用した材料は弾性率230GPa、引張強度3.5GPaの炭素繊維を綾織りにしエポキシ樹脂を含侵したプリプレグ(東レ(株)製F6347G-51K)である。成形方法は、オートクレーブであり、上下型は金属(アルミニウム)で中子にナイロンを用いた。積層構成は6層とも製品長手方向を0度とし、最外層以外の層は全て各面ごとにカットされたプリプレグを突き当てて積層し、最外層に当たる6層目は立壁の中央で突き当てとなるよう2枚のカットパターンを積層した。成形温度130度とした。
【0029】
(実施例2)[積層構成は表1のサンプル2に相当]
実施例1と同じ寸法、同じ材料、同じ成形方法で箱型成形品を成形した。積層構成は、6層とも製品長手方向を0度とし、中子側の3層は各面ごとにカットされたプリプレグを突き当てて積層し、4層目は長手側の側面とそれ以外の3面が繋がった2枚のカットパターンで積層、5層目は短手側の側面とそれ以外の3面が繋がった2枚のカットパターンで積層、最外層に当たる6層目は立壁の中央で突き当てとなるよう2枚のカットパターンを積層した。
【0030】
(比較例1)[積層構成は表1のサンプル1に相当]
実施例1と同じ寸法、同じ材料、同じ成形方法で箱型成形品を成形した。積層方法は、6層とも製品長手方向を0度とし、最外層の6層目は立壁の中央で突き当てとなるよう2枚のカットパターンを積層し、それ以外の奇数層は長手側の側面とそれ以外の3面が繋がった2枚のカットパターンで積層、偶数層は短手側の側面とそれ以外の3面が繋がった2枚のカットパターンで積層した。
【0031】
(比較例2)[積層構成は表1のサンプル4に相当]
実施例1と同じ寸法、同じ材料、同じ成形方法で箱型成形品を成形した。積層構成は、6層とも製品長手方向を0度とし、1層目と4層目は長手側の側面とそれ以外の3面が繋がった2枚のカットパターンで積層、2層目と3層目は各面ごとにカットされたプリプレグを突き当てて積層し、5層目は短手側の側面とそれ以外の3面が繋がった2枚のカットパターンで積層、最外層の6層目は立壁の中央で突き当てとなるよう2枚のカットパターンを積層した。
【0032】
実施例と比較例について、それぞれの積層配置構成による内倒れの有無について、表1に結果をまとめたものを示す。
【0033】
中立軸よりも底面と側面がなす角度の小さい側で繊維が分離されていることによって内倒れが発生していないことがわかる。
【0034】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、機械部品のカバー、ケースなどに限らず、内部構造材や補剛材などにも応用することができる。その応用範囲はこれらに限られるものではない。
【符号の説明】
【0036】
1、1a、1b、1c、1d 成形体
2、11a、11b FRPシート
3 底面部
4 側面部
5 稜線部
6 稜線
7 連続強化繊維
8 樹脂
9、9a、9b、9c 繊維分離層
12 突き合わせ線
13、14 スリット
21a、21b、21c、21d 底面
22a、22b、22c、22d、22e、22f、22g、22h、22i、22j、22k 側面
23a、23b、23c、23d、23e、23f、23g、23h、23i、23j、23k、23l、23m、23n、23o、23p、23q、23r 稜線
101 底面部
102 側面部
103 内倒れ
104 連続強化繊維
105 樹脂
106 稜線部
107 屈曲部連接線
図1
図2
図3
図4
図5