(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-09
(45)【発行日】2024-08-20
(54)【発明の名称】画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G03G 21/00 20060101AFI20240813BHJP
G03G 15/00 20060101ALI20240813BHJP
G03G 15/20 20060101ALI20240813BHJP
【FI】
G03G21/00 398
G03G15/00 680
G03G15/20 510
(21)【出願番号】P 2020153952
(22)【出願日】2020-09-14
【審査請求日】2023-09-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123559
【氏名又は名称】梶 俊和
(74)【代理人】
【識別番号】100177437
【氏名又は名称】中村 英子
(72)【発明者】
【氏名】大井 健
【審査官】金田 理香
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-167543(JP,A)
【文献】特開昭53-015736(JP,A)
【文献】特開2001-326087(JP,A)
【文献】特開2008-301565(JP,A)
【文献】特開平08-047281(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0166447(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 13/20
13/34
15/00
15/20
15/36
21/00-21/02
21/14
21/20
H05B 1/00-3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒータを有し、被記録材に形成されたトナー画像を前記ヒータの熱で前記被記録材に定着する定着ユニットと、
交流電源から前記ヒータに電力を供給するときに導通し、前記交流電源から前記ヒータへの電力の供給を遮断するときに非導通となる双方向サイリスタと、
前記双方向サイリスタの導通又は非導通を制御するための制御信号を出力する制御手段と、
前記制御手段から出力された前記制御信号により前記双方向サイリスタが導通するための電力を供給する直流電圧源と、
前記交流電源の交流電圧のゼロクロス点を検知するゼロクロス検知手段と、
を備え、前記制御手段が前
記交流電圧の1半波を単位とした所定の制御周期で前記ヒータの制御を行う画像形成装置であって、
前記制御手段は、
前記交流電圧の1半波内で複数の前記制御信号を
前記ゼロクロス検知手段の検知結果に応じたタイミングで出力
し、
前記複数の制御信号のうち1つめの制御信号をハイレベルとする時間幅を、前記双方向サイリスタが導通状態を維持するために要する時間と前記ゼロクロス点と前記ゼロクロス検知手段の検知結果とのずれの時間との合計よりも長い時間に設定し、
前記複数の制御信号のうち前記1つめの制御信号を除いた他の制御信号の前記時間幅を、前記双方向サイリスタが導通状態を維持するために要する時間よりも長く前記1つめの制御信号の時間幅よりも短い時間幅に設定することを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記交流電圧の1半波内で前記交流電源の周波数に応じたタイミングで前記複数の制御信号を出力することを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記直流電圧源は、コンデンサを有し、
前記コンデンサの容量は、前記複数の制御信号が出力されたときに、前記双方向サイリスタのT1端子とゲート端子との間に流れる電流の合計の値に基づいて決定されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記ヒータの温度を検知する温度検知手段を備え、
前記制御手段は、前記温度検知手段の検知結果に基づいて前記ヒータに供給する電力を決定することを特徴とする請求項
1に記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記制御手段は、決定した前記電力に応じて前記複数の制御信号を出力するか否かを決定することを特徴とする請求項
4に記載の画像形成装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記所定の制御周期における制御の対象となる所定の半波において、前記所定の半波の前の半波で電力が供給されていた場合には前記1つめの制御信号のみを出力し、前記所定の半波の前の半波で電力が供給されていなかった場合には前記複数の制御信号を出力することを特徴とする請求項
5に記載の画像形成装置。
【請求項7】
前記定着ユニットは、筒状のフィルムと、前記フィルムの外周面に接触する加圧ローラと、を有し、
前記ヒータは前記フィルムの内部空間に配置されており、
前記被記録材は、前記フィルムを介して前記ヒータと前記加圧ローラによって形成される定着ニップ部で挟持搬送されつつ加熱されることを特徴とする請求項1から請求項
6のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像形成装置に関し、特に、画像形成装置に用いられる定着装置の電力制御に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複写機やプリンタ等の画像形成装置、すなわち電子写真等の画像プロセス手段により加熱軟化性の樹脂等によるトナーを用いて記録材に形成したトナー画像を、加熱処理によって固着画像として形成する画像形成装置がある。画像形成装置においては、トナー画像の加熱処理を行う加熱定着装置が使用される。加熱定着装置は、交流電源から供給された電力により発熱するヒータを有し、ヒータへの電力制御には、一般的に双方向サイリスタ(以下、トライアックという)が用いられる。一般的なトライアックの駆動手段として、例えばトライアックのT1端子を基準電位とした際にT2端子とゲート端子とを共にプラスの電位(トリガモードI)又はマイナスの電位(トリガモードIII)に設定する駆動構成がある(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
例えば
図8(a)に示すように、交流電源804の電位差をトライアック801のゲートトリガ信号の電力源とする回路構成がある。この場合、交流電源804のゼロクロス点でのトライアック801は導通を開始することができない。トライアック801の導通開始時のT1端子とT2端子間の電位差が大きいほど発生するスイッチングノイズが増加するため、画像形成装置外への放出抑制用に大きなノイズフィルタ805を必要とする。一方で、例えば
図8(b)に示すように、容量素子901をトライアック801のゲートトリガ信号の電力源とする回路構成がある(例えば、特許文献1参照)。容量素子901は交流電源804の半周期毎に充電され、DRV信号がハイレベル状態となることで容量素子901に蓄えられた電力からゲートトリガ信号が供給され、T1端子とT2端子間が導通状態となる(トリガモードII又はIII)。
図8(b)の構成では、交流電源804のゼロクロス点からのトライアック801の導通開始が可能となる。例えば交流電源804の半波単位で加熱定着装置への電力制御を行う場合、交流電源804のゼロクロス点に同期してトライアック801を駆動する。これにより、スイッチングノイズが抑制されノイズフィルタも相対的に小さくなる。
【0004】
一般的に交流電源は所定周波数の正弦波が出力されている。しかしながら、交流電源の品質に起因して交流電圧の波形に歪が発生することがある。波形の歪(以下、波形歪という)によっては、
図8(c)に示す様なトライアックのT1端子とT2端子間の電圧が正常時のゼロクロス点とは異なるタイミングで0Vとなるものもあり、トライアック801の導通が停止してしまうことがある。
図8(c)は上が交流電源の電圧波形[V]を示し、下がトライアックに流れる電流波形[A]を示し、正常時の電流波形を点線で示す。波形歪が連続的に発生した場合、ヒータへの電力供給不足により定着器の昇温不良が発生しうる。電力供給不足を抑制する手段として、ZEROX信号の検出回路部にて交流電圧が0Vとなったことを常時監視する第一の手段がある。波形歪による意図しない0V状態を検知した場合に、ゲートトリガ信号を再出力することで制御対象となる交流電圧の半波を再導通することができる。また、例えば制御対象となる半波期間中連続してゲートトリガ信号を供給するという第二の手段もある。制御対象となる半波期間中に波形歪によってトライアック801の導通が停止しても、ゲートトリガ電流が供給され続けるため、トライアック801は再導通する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】在田 保信、森 敏、由宇 義珍 共著、「電力制御回路設計ノウハウ」CQ出版、昭和60年2月、p.57
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の第一の手段を用いた場合はZEROX信号の監視に伴うCPUへの負荷が増大し、またノイズ等によるZEROX信号の誤検知を抑制するための信号をマスクする期間が必要なため、ZEROX信号を常時監視することは難しい。また、従来の第二の手段の場合、制御対象となる半波期間中、常時、容量素子の電力を放出してしまう。その結果、トライアック駆動回路の電源容量が大きくなり、コストアップ及び部品サイズの拡大につながってしまう。
【0008】
本発明は、このような状況のもとでなされたもので、双方向サイリスタを駆動する回路の電源容量のサイズアップを抑制しつつ交流電圧の波形の歪による定着装置の昇温不良を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するために、本発明は、以下の構成を備える。
ヒータを有し、被記録材に形成されたトナー画像を前記ヒータの熱で前記被記録材に定着する定着ユニットと、交流電源から前記ヒータに電力を供給するときに導通し、前記交流電源から前記ヒータへの電力の供給を遮断するときに非導通となる双方向サイリスタと、前記双方向サイリスタの導通又は非導通を制御するための制御信号を出力する制御手段と、前記制御手段から出力された前記制御信号により前記双方向サイリスタが導通するための電力を供給する直流電圧源と、前記交流電源の交流電圧のゼロクロス点を検知するゼロクロス検知手段と、を備え、前記制御手段が前記交流電圧の1半波を単位とした所定の制御周期で前記ヒータの制御を行う画像形成装置であって、前記制御手段は、前記交流電圧の1半波内で複数の前記制御信号を前記ゼロクロス検知手段の検知結果に応じたタイミングで出力し、前記複数の制御信号のうち1つめの制御信号をハイレベルとする時間幅を、前記双方向サイリスタが導通状態を維持するために要する時間と前記ゼロクロス点と前記ゼロクロス検知手段の検知結果とのずれの時間との合計よりも長い時間に設定し、前記複数の制御信号のうち前記1つめの制御信号を除いた他の制御信号の前記時間幅を、前記双方向サイリスタが導通状態を維持するために要する時間よりも長く前記1つめの制御信号の時間幅よりも短い時間幅に設定することを特徴とする画像形成装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、双方向サイリスタを駆動する回路の電源容量のサイズアップを抑制しつつ交流電圧の波形の歪による定着装置の昇温不良を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図3】実施例1の複数のFSRD信号を出力したときの概略説明図
【
図4】実施例1の波形歪が発生したときの複数のFSRD信号を出力したときの概略説明図
【
図5】実施例2の波形歪が発生したときの複数のFSRD信号を出力したときの概略説明図
【
図6】実施例3の複数のFSRD信号の出力処理を示すフローチャート
【
図7】実施例3の電力制御を行った際のFSRD信号の供給の例を示す図
【
図8】従来のトライアックのトリガモードI及びIIIにおける駆動回路を示す図、トリガモードII及びIIIにおける駆動回路を示す図、交流電源の波形歪によるトライアックの導通停止の例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態を、実施例により図面を参照しながら詳しく説明する。なお、以下の説明において、双方向サイリスタはT1端子、T2端子、G端子を有し、4つのトリガモードで導通させることができる。ここで、T1端子を基準としたとき、トリガモードIは端子T2が正でG端子が正の場合、トリガモードIIは端子T2が正でG端子が負の場合をいう。また、トリガモードIIIは端子T2が負でG端子が負の場合、トリガモードIVは端子T2が負でG端子が正の場合をいう。
【実施例1】
【0013】
[画像形成装置]
実施例1の定着装置を有する画像形成装置の一例として電子写真式のレーザビームプリンタの概略図を
図1に示す。感光体である感光ドラム301は、表面に感光層が形成されており、帯電ローラ302によって表層が帯電された後にレーザスキャナ303からのレーザ光の照射によって潜像が形成される。感光ドラム301に形成された潜像には現像手段である現像ローラ304によってトナー305が付与され、感光ドラム301上にトナー画像が形成される。転写手段である転写ローラ306は被記録材307に転写電荷を供給するローラである。転写ローラ306は、感光ドラム301と転写ローラ306との転写ニップ部にて未定着のトナー画像を被記録材307へ転写しつつ、被記録材307を定着装置(定着ユニット)300へ搬送する。定着装置300は、筒状の定着フィルム309と、定着フィルム309の内部空間に配置されたヒータ311とを有している。定着フィルム309は、
図1の奥行き方向を長手方向としたフィルムである。加圧ローラ310は定着フィルム309の外周面に接触し、定着フィルム309に対して加圧されることで定着ニップ部を形成する。被記録材307は、定着フィルム309を介してヒータ311と加圧ローラ310によって形成される定着ニップ部で挟持搬送されつつ加熱される。ヒータ311(ヒータ)は例えばセラミック製の基材と発熱層と保護層とからなるヒータである。ステイ312はヒータ311を保持する。部材313は補強用の部材である。温度検知手段であるサーミスタ314は、ヒータ311の温度を検知する。例えば温度ヒューズからなる過昇温保護素子(不図示)と、電力供給駆動部と直列に接続されたヒータ311の加熱により、未定着のトナー画像308が被記録材307に固着される。その後、被記録材307は定着ニップ部から排出口を介して画像形成装置の排出部316に排出される。なお、給紙ローラ317は被記録材307を給紙するためのローラであり、搬送ローラ318、319は被記録材307を搬送するためのローラである。CPU315は、画像形成装置の各種の動作を制御する。
【0014】
[電力供給回路]
ヒータ311への電力供給回路の電気的接続概略図を
図2に示す。双方向サイリスタ(以下、トライアックという)402を用いてヒータ311に対する交流電源401からの電力供給が制御されている。トライアック402は、交流電源401からヒータ311に電力を供給するときに導通し、交流電源401からヒータ311への電力の供給を遮断するときに非導通となる。トライアック402を駆動する回路は、トランジスタ403、405、フォトカプラ404、抵抗406、407、408、409を有している。
【0015】
CPU315は、サーミスタ314の温度の検知結果に基づいてヒータ311に対する電力供給量を算出する。CPU315は、算出結果に応じて制御信号であるFSRD信号をハイレベルとして出力することでトランジスタ403が導通状態となる。トランジスタ403が導通状態となると電源Vccから抵抗406を介して電流が流れ、フォトカプラ404が導通状態となり、トランジスタ405が導通する。トランジスタ405が導通することでコンデンサ420からトライアック402のT1端子とトライアック402のゲート端子(以下、G端子とする)との間にゲートトリガ電圧が印加され、ゲートトリガ電流が流れる。FSRD信号に応じて印加されるゲートトリガ電圧を、以降、ゲートトリガ信号という。その結果、トライアック402のT1端子とT2端子間は導通状態となり、交流電源401からヒータ311へ電力が供給される。過昇温保護素子410はヒータ311の過昇温を防止するための素子である。コイル411は、トライアック402の導通開始時に発生するスイッチングノイズが画像形成装置外に放出されることを抑制する。CPU315は、交流電源401の交流電圧の1半波を単位とした所定の制御周期で制御を行うものとする。
【0016】
抵抗412、415、416、ダイオード413、フォトカプラ414、コンデンサ417はゼロクロス検知手段であるゼロクロス検知回路を構成する。ゼロクロス検知回路は、交流電源401の交流電圧波形に応じてハイレベル又はローレベルの信号(以下、ZEROX信号とする)をCPU315に出力する。CPU315は、交流電源401の電圧瞬時値に応じて変化するフォトカプラ414の出力に基づくZEROX信号に同期して、すなわち、ゼロクロス検知回路の検知結果に基づいて、FSRD信号の出力タイミングを決定する。これによりCPU315は、トライアック402を交流電源401のゼロクロス点近傍で導通開始させる。
【0017】
[電力源418]
ここでゲートトリガ信号の電力源418について説明する。電力源418は、ツェナーダイオード419、コンデンサ420、抵抗421、ダイオード422を有している。電力源418では、トライアック402のT1端子を基準電位とし、ツェナーダイオード419とコンデンサ420とによって直流電圧源が構成されている。コンデンサ420は、その両端電圧がツェナーダイオード419のツェナー電圧Vz(以下、Vz電圧とする)に到達するまでは、ダイオード422を介して交流電源401の交流電圧波形の半波毎に充電される。実施例1において、例えば交流電源401の交流電圧は交流100V、周波数facは60Hz、Vz電圧は10V、抵抗409の抵抗値R409は150Ω、抵抗407の抵抗値R407は4.7kΩとする。また、トライアック402のトリガモードII及びIIIのゲートトリガ電圧Vgtは1.5V、最大ゲートトリガ電流Igt_maxは50mAとする。そうすると、トライアック402を駆動するにあたり、コンデンサ420はゲートトリガ電圧Vgt(例えば1.5V)を超える電位差及び最大ゲートトリガ電流Igt_max(例えば50mA)を超える電流を供給する必要がある。なお、実施例1におけるゼロクロス点検知における信号のマスク期間は交流電源401の1周期の半分とする。
【0018】
[実施例1のゲートトリガ信号]
ここで、実施例1にて提案するトライアック402の電力供給制御について
図3に示す。
図3において、(i)は交流電源401の電圧値[V]の波形を示し、(ii)はゼロクロス検知結果であるZEROX信号のレベル(ハイレベル又はローレベル)を示す。(iii)はCPU315が出力するFSRD信号を示し、(iv)はヒータ311に流れる電流(ヒータ電流)[A]の波形を示す。横軸はいずれも時間[msec]である。なお、以下の説明において、ゲートトリガ信号はFSRD信号に応じた信号(電圧)であるため、FSRD信号をゲートトリガ信号と言い換えて説明する場合もある。
【0019】
CPU315は、トライアック402を導通させるための交流電圧の半波(以下、導通対象半波という)のゼロクロス点を起点として、時間幅twx=200μsecのゲートトリガ信号を供給する。ゼロクロス点を起点とした1つめのゲートトリガ信号を以下、第1のゲートトリガ信号という。CPU315は、交流電源401の1周期(以下、交流電源周期という)Tac(=1/fac)の例えば1/6の間隔で、導通対象半波中(1つの半波中)、さらにゲートトリガ信号を2回出力する。すなわち、CPU315は、同一の電力供給の対象となる半波(以下、同一の電力供給対象半波という)において合計3回のゲートトリガ信号を供給している。なお、ゼロクロス点を起点とした第1のゲートトリガ信号の後に出力された少なくとも1つのゲートトリガ信号を、以下、他のゲートトリガ信号という。実施例1では、他のゲートトリガ信号は2つであり、具体的には、第1のゲートトリガ信号に続く2番目のゲートトリガ信号と3番目のゲートトリガ信号がある。このようにCPU315は、3回のゲートトリガ信号の出力間隔をゼロクロス検知結果に基づく交流電源401の周波数facに応じて決定している。このため、交流電源401の周波数facが変化しても電力供給の半波を3等分したタイミングでゲートトリガ信号を供給することができる。このように、CPU315は、交流電圧の1半波内で交流電源401の周波数に応じたタイミングで複数の制御信号を出力する。
【0020】
また、同一の電力供給対象半波に対する第1のゲートトリガ信号の出力タイミングは、ゼロクロス検知結果であるZEROX信号に基づき交流電源401のゼロクロス点に合わせて出力されている。ここで、
図4は交流電源401に波形歪が発生した場合の各波形を示し、(i)は交流電源401の電圧値[V]の波形を示し、(ii)はCPU315が出力するゲートトリガ信号(又はFSRD信号)を示す。(iii)はヒータ311に流れる電流[A]の波形を示す。横軸はいずれも時間[msec]である。上述したようなゲートトリガ信号の供給を行うことで、次のような効果が得られる。すなわち、
図4に示すような、タイミングt1で発生した波形歪によって電力供給対象半波が消灯した場合でも、後続のゲートトリガ信号、
図4の場合はタイミングt2の2つめのゲートトリガ信号によって、トライアック402を再導通させることができる。これにより、定着装置300の昇温不良を抑制することができる。このように、CPU315は、交流電圧の1半波内で複数のFSRD信号を出力する。
【0021】
[コンデンサ420の容量]
このような電力供給制御を行った際に必要となるコンデンサ420の容量について説明する。電力供給対象半波における電力供給開始の時点で、コンデンサ420の両端の電位差VcがVz電圧まで充電されているとした場合、電力供給開始から時間tにおけるゲートトリガ電流I
gtの関係は式(1)のように近似することができる。
【数1】
式(1)においてトランジスタ405の飽和電圧、ゲートトリガ電圧V
gtは省略している。
【0022】
ここで、1つのゲートトリガ信号のハイレベルの時間(ゲートトリガ信号の時間幅でもある)をtwxとし、例えば200μsecとする。1つの電力供給半波あたりのゲートトリガ信号の供給期間(合計の供給時間)tgtは、{時間幅twx=200μsec}×3である。このため、式(1)より1つの電力供給半波中に流れたゲートトリガ電流Igt(0.6msec)>Igt_minを満足するコンデンサ420の容量C420は、14μF以上となる。コンデンサ420は、複数のゲートトリガ信号が出力されたときに、トライアック402のT1端子とゲート端子との間に流れる電流の合計の値に基づいて決定される。コンデンサ420は交流電源401の半波毎にしか充電されないため、容量C420は2倍の28μF以上の容量を有することが好ましい。一方で、背景技術で説明したように電力供給対象半波の期間中、連続してゲートトリガ信号を供給した場合、供給期間tgtは交流電源401の半波期間の約8.67msecとなり、コンデンサ420に必要な容量C420は200μF以上となる。
【0023】
このように、実施例1のトライアック402の電力供給制御では、トライアック402のT1端子を基準とした直流電源部をゲートトリガ信号の電力源とする。そしてこのような電力供給制御回路において、同一の電力供給対象半波に対して複数のゲートトリガ信号を供給することで、直流電源部のサイズアップを制限しつつ、交流電源401に発生した波形歪による定着装置の昇温不良を抑制することができる。
【0024】
なお、実施例1での同一の電力供給対象半波に対するゲートトリガ信号の供給数を一例として3回としている。しかし、2回以上すなわち複数回であれば同様の効果が得られる。また、同一の電力供給対象半波に対して供給する複数のゲートトリガ信号の間隔を交流電源401の周波数に応じた間隔としているが、固定又は非固定の出力タイミングであってもよい。さらに、実施例1では、トライアック402のトリガモードII及びIIIを用いた場合の構成にて説明した。しかし、コンデンサ420のT1端子側を負側電位、G端子側を正側電位とするトリガモードI及びIVを用いた場合にも適用可能であり同様の効果を奏する。
【0025】
以上、実施例1によれば、双方向サイリスタを駆動する回路の電源容量のサイズアップを抑制しつつ交流電圧の波形の歪による定着装置の昇温不良を防止することができる。
【実施例2】
【0026】
[実施例2のゲートトリガ信号]
実施例2の構成について実施例1と異なる点について説明し、共通する点についての説明は省略する。実施例1では、CPU315はZEROX信号に基づきFSRD信号の出力タイミングを決定することで、トライアック402を交流電源401のゼロクロス点近傍で導通開始させている。しかしながらZEROX信号の生成に用いるフォトカプラ414や抵抗412の量産ばらつき等により、交流電源401の真のゼロクロス点とFSRD信号の出力タイミングとにずれが生じうる。このようなずれにより真のゼロクロス点の前にFSRD信号をハイレベルとして出力した場合でも電力供給対象半波を確実に電力供給開始させるために、次のようにすることが好ましい。すなわち、電力供給対象半波に対する第1のゲートトリガ信号(1つめの制御信号に対応)の継続時間tw1は、次のように決定することが好ましい。トライアック402が導通状態を保持(維持)するために必要なゲートトリガ電流のパルス幅tw_min(要する時間)とずれ時間(ずれの時間)tgapとの合計値よりも長い方が好ましい(tw1>tw_min+tgap)。
【0027】
一方で、同一の電力供給対象半波に対する第1のゲートトリガ信号以外の他のゲートトリガ信号(1つめの制御信号を除いた他の制御信号に対応)はT1端子とT2端子とに電位差が生じている期間中に供給される。他のゲートトリガ信号の継続時間t
wyは、ゲートトリガ電流のパルス幅t
w_minよりも長ければよい(t
wy>t
w_min)。そのため、以下の式(2)を満足する関係であればよい。
【数2】
ここでずれ時間t
gapを100μsec、ゲートトリガ電流のパルス幅t
w_minを50μsecとした場合、ゲートトリガ信号の継続時間t
w1を200μsec、他の信号の継続時間t
wyを100μsecにする。これにより式(2)の関係を満足することができ、同一の電力供給対象半波に対する合計の供給時間(継続時間の合計)は400μsecとなる。
【0028】
式(1)に基づき3回目のゲートトリガ信号における電流がIgt_minを上回るために必要なコンデンサ420の容量C420(Igt(0.4msec)>Igt_min)は10μF程度となる。コンデンサ420は、交流電源401の半波毎にしか充電されないため、容量C420として好ましい容量は20μF程度となり、実施例1よりも小さい電力源を用いた電力供給の制御回路構成にて交流電源401の波形歪による定着装置の昇温不良を抑制できる。
【0029】
図5は、実施例2の制御を示す図である。
図5において、(i)は交流電源401の電圧値[V]の波形を示し、(ii)はゼロクロス検知結果であるXEROX信号のレベル(ハイレベル又はローレベル)を示す。(iii)はCPU315が出力するFSRD信号を示し、(iv)はヒータ311に流れる電流[A]の波形を示す。横軸はいずれも時間[msec]である。
図5(i)に示すように、実施例2では、ずれ時間t
gapが生じている。また、交流電源401に波形歪が生じている。しかし、波形歪によって電力供給対象半波で消灯しても、連続する他の信号(2つ目の信号)によって、トライアック402を再導通させることができ、定着装置の昇温不良を抑制することができる。
【0030】
このように、実施例2のトライアックの電力供給制御においても、トライアック402のT1端子を基準とする直流電源部をゲートトリガ信号の電力源とする電力供給制御回路を用いている。そして、同一の電力供給対象半波に対して複数のゲートトリガ信号を供給しつつ、電力供給対象半波に対する第1のゲートトリガ信号と他のゲートトリガ信号の供給期間を変更する。これにより直流電源部のサイズアップを制限しつつ、波形歪による定着装置の昇温不良を抑制することができる。
【0031】
以上、実施例2によれば、双方向サイリスタを駆動する回路の電源容量のサイズアップを抑制しつつ交流電圧の波形の歪による定着装置の昇温不良を防止することができる。
【実施例3】
【0032】
実施例1、2は、交流電源401の波形歪によってトライアック402が電力供給対象半波の途中で導通が停止した際に、必ずトライアック402の導通を再開させる制御となっている。一方で、波形歪が断続的に発生する状況では、ヒータ311が単位時間当たりに必要とする電力量によって不足する電力の割合が異なる。なお、単位時間とは、例えば、交流電源401の2半波(1全波)を最小とする半波単位に相当する。ヒータ311への電力供給制御単位を、例えば交流電源401の10半波とした場合について説明する。実施例3では、CPU315は、決定した電力に応じて複数のFSRD信号を出力するか否かを決定する。
【0033】
定着装置300の温度の立ち上げ開始時は、ヒータ311に連続して電力を供給する制御となる傾向があり、電力供給制御単位の電力供給比率は100%となる。電力供給比率100%となる制御において波形歪によって例えば1半波分の電力供給が停止した場合に投入される電力は90%である。一方、定着装置300の温度の維持を主とする際のヒータ311への電力供給比率は低下し、例えば30%(3半波分)程度等になる。このため、波形歪によって1半波分の電力供給が停止した場合に投入される電力は67%となり、定着装置300の温度リプルの増加につながる。このような電力供給比率の低い制御が行われているときに、同一の電力供給対象半波に対して複数のゲートトリガ信号を供給することで、定着装置300の温度リプルの増加を抑制することができる。
【0034】
[電力供給制御]
図6に、例えば電力供給比率が50%以下の場合に複数のゲートトリガ信号を供給する制御のフローチャートを示す。CPU315は定着装置300の温度制御を開始するとステップ(以下、Sとする)1以降の処理を実行する。S1でCPU315は、サーミスタ314の検知結果に基づきヒータ311への電力供給制御を開始する。S2でCPU315は、交流電源401の次の半波が電力供給対象であるか否かを判断する。ここで、次の半波とは、所定の制御周期(例えば、10半波)における制御の対象となる所定の半波である。S2でCPU315は、次の半波が電力供給対象ではないと判断した場合、処理をS2に戻し、次の半波が電力供給対象であると判断した場合、処理をS3に進める。
【0035】
S3でCPU315は、FSRD信号を出力しトライアック402に対して第1のゲートトリガ信号を供給する。S4でCPU315は、前の半波が電力供給対象ではなかった(以下、電力供給非対象という)か否かを判断する。S4でCPU315は、前の半波が電力供給対象であったと判断した場合、処理をS6に進め、前の半波が電力供給非対象であったと判断した場合、処理をS5に進める。S5でCPU315は、同一の電力供給対象半波において複数のFSRD信号を出力する。なお、複数のFSRD信号の出力は、実施例1、2で説明した時間間隔で出力する。S6でCPU315は、定着装置300の温度制御を終了するか否かを判断する。S6でCPU315は、温度制御を継続すると判断した場合、処理をS2に戻し、温度制御を終了すると判断した場合は一連の処理を終了する。
【0036】
図7に実施例3の制御を適用したヒータ311の電力供給制御におけるゲートトリガ信号の供給状態の例(半波1から半波4まで)を示す。
図7で(i)は交流電源401の電圧値[V]の波形を示し、(ii)はCPU315が出力するFSRD信号を示し、(iii)はヒータ311に流れる電流[A]の波形を示す。横軸はいずれも時間[msec]である。ここで、半波1及び半波4は電力供給非対象半波であり、半波2及び半波3は電力供給対象半波である。このため、半波2も半波3も、交流電源401のゼロクロス点近傍で第1のゲートトリガ信号が供給されている。半波2の場合、前の半波である半波1が電力供給非対象半波であるため、
図6のS4の判断が「Y」となり、半波2の途中でさらに2回のゲートトリガ信号が供給されている。
【0037】
一方、半波3の場合は、前の半波である半波2が電力供給対象半波であるため、
図6のS4の判断が「N」となり、半波3に対してはトライアック402の導通開始用の第1のゲートトリガ信号だけが供給され、他の信号は供給されない。すなわち、
図6のS5の処理は実行されない。このように実施例3の制御を行うことにより、電力供給比率が50%以下の場合にのみ、複数のゲートトリガ信号を供給することが可能となる。その結果、電力供給制御単位あたりに必要とするコンデンサ420の半分の容量で断続的に発生する波形歪によるトライアック402の導通停止を抑制し定着装置300の温度リプルを低減することができる。
【0038】
実施例3では、トライアック402のT1端子を基準とした直流電源部をゲートトリガ信号の電力源とする。このような電力供給制御回路において、電力供給比率に応じて同一の電力供給対象半波に供給するゲートトリガ信号の数を変更することで直流電源部のサイズアップを制限しつつ、波形歪による定着装置の温度リプルを抑制できる。なお、実施例3では前の半波の電力供給状況に応じて次の半波へのゲートトリガ信号の数を変更した。しかし、CPU315による電力供給制御単位における電力供給比率の結果に応じてゲートトリガ信号の数を変更してもよい。また、前の半波の電力供給状況に応じて単一又は複数のゲートトリガ信号の数を変更したが、連続する電力供給非対象半波に応じて複数ゲートトリガ信号の数を変更してもよい。
【0039】
以上、実施例3によれば、双方向サイリスタを駆動する回路の電源容量のサイズアップを抑制しつつ交流電圧の波形の歪による定着装置の昇温不良を防止することができる。
【符号の説明】
【0040】
311 ヒータ
315 CPU
402 双方向サイリスタ
418 電力源