(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-09
(45)【発行日】2024-08-20
(54)【発明の名称】液体吐出装置、及び液体吐出装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/18 20060101AFI20240813BHJP
B41J 2/14 20060101ALI20240813BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20240813BHJP
【FI】
B41J2/18
B41J2/14 201
B41J2/01 401
B41J2/14 209
(21)【出願番号】P 2020157214
(22)【出願日】2020-09-18
【審査請求日】2023-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】笠井 信太郎
(72)【発明者】
【氏名】三隅 義範
(72)【発明者】
【氏名】石田 譲
【審査官】岩本 太一
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-154328(JP,A)
【文献】特開2015-214141(JP,A)
【文献】特表2014-510649(JP,A)
【文献】特開2012-131224(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0249686(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路と発熱素子と吐出口とを有し、前記発熱素子を発熱させることによって前記流路の液体を前記吐出口から吐出する吐出動作を行う液体吐出ヘッドと、
前記流路の液体を液体供給口から液体回収口へと流動させる液体流動手段と、
前記発熱素子を覆う被覆層に電圧を印加するための構成を有し、前記被覆層に電圧を印加することにより、前記流路内の液体と前記被覆層の液体接触部との間に電気化学反応を起こし、前記被覆層に付着した異物を
液体中に溶出する
クリーニング処理を行うクリーニング手段と、
前記液体吐出ヘッド、前記液体流動手段、及び前記クリーニング手段を制御する制御手段と、
を備
え、
前記制御手段は、
前記吐出動作
において、前記流路
の液
体を第1の流速
で流動し、
前記クリーニング処理
において、前記流路
の液体
を前記第1の流速より高速の第2の流速
で流動する工程を含ませることを特徴とする液体吐出装置。
【請求項2】
前記液体流動手段は、前記液体供給口に連通する液体供給容器と、前記液体回収口に連通する液体回収容器とを含み、
前記
制御手段は、前記液体供給容器に貯留されている液体の液面と前記液体回収容器に貯留されている液体の液面の少なくとも一方を調整する調整機構を備えることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項3】
前記調整機構は、前記液体供給容器に貯留されている液体の液面と前記吐出口との重力方向における間隔である第1間隔と、前記液体
回収容器に貯留されている液体の液面と前記吐出口との重力方向における間隔である第2間隔のうち少なくとも一方を調整することを特徴とする請求項2に記載の液体吐出装置。
【請求項4】
前記調整機構は、前記第1間隔と前記第2間隔との差を増大させることにより、前記流路を流動する液体の流速を高めることを特徴とする請求項3に記載の液体吐出装置。
【請求項5】
前記
制御手段は、前記流路に供給する液体の温度を調整することによって前記液体の粘度を調整することを特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項6】
前記
制御手段は、前記流路に供給する液体の圧力を
調整することを特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項7】
前記
制御手段は、前記クリーニング処理の終了から所定時間の間、前記流路を流れる液体の流速を前記第2の流速に保つことを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の液体吐出装置。
【請求項8】
前記液体流動手段は、前記液体吐出ヘッドの前記液体回収口から流出した液体を前記液体吐出ヘッドの前記液体供給口へと戻す循環流路を有し、
前記循環流路は、前記液体回収容器に貯留された液体を前記液体供給容器に戻す戻し流路を含み、前記液体供給容器に貯留されている液体を、前記液体吐出ヘッド、前記液体回収容器、及び前記戻し流路を経て前記液体供給容器に戻すように構成されていることを特徴とする請求項2に記載の液体吐出装置。
【請求項9】
前記液体流動手段は、前記液体吐出ヘッドの前記液体回収口から流出した液体を前記液体吐出ヘッドの前記液体供給口へと戻す循環流路を有し、
前記循環流路は、前記液体吐出ヘッドの前記液体供給口と前記液体回収口とに連通する液体供給回収容器を含み、前記液体供給回収容器に貯留されている液体を、前記液体吐出ヘッドを経て前記液体供給回収容器に戻すように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項10】
前記クリーニング手段は、前記流路内に設けられ前記被覆層と離間する対向電極と前記被覆層との間に電圧を印加することにより前記被覆層と前記液体とに電気化学反応を発生させ、前記被覆層の前記液体接触部を前記液体の中に溶出させることにより前記異物を前記
被覆層から除去することを特徴とする請求項1ないし9のいずれか1項に記載の液体吐出装置。
【請求項11】
前記クリーニング手段は、前記被覆層と前記対向電極との間に断続的に電圧を印加することを特徴とする請求項10に記載の液体吐出装置。
【請求項12】
前記制御手段は、前記クリーニング処理において、前記流路の液体を前記第2の流速で流動させながら前記被覆層に電圧を印加することにより、前記流路内の液体と前記被覆層の液体接触部との間に電気化学反応を起こし、前記被覆層に付着した異物を液体中に溶出することを特徴とする請求項1ないし11のいずれか1項に記載の液体吐出装置。
【請求項13】
前記被覆層は、イリジウム及びルテニウムの少なくとも一方を含む金属であることを特徴とする請求項1ないし12のいずれか1項に記載の液体吐出装置。
【請求項14】
前記被覆層は、絶縁層を介して前記発熱素子を覆うことを特徴とする請求項1ないし13のいずれか1項に記載の液体吐出装置。
【請求項15】
前記第2の流速は前記第1の流速の3.0乃至4.25倍であることを特徴とする請求項1ないし14のいずれか1項に記載の液体吐出装置。
【請求項16】
前記液体吐出ヘッドは、ライン型のインクジェット記録ヘッドであることを特徴とする請求項1ないし15のいずれか1項に記載の液体吐出装置。
【請求項17】
流路
と発熱素子と吐出口
とを有し、前記発熱素子を発熱させることによって前記流路の液体を前記吐出口から吐出する吐出動作を行う液体吐出ヘッドと、
前記流路の液体を液体供給口から液体回収口へと流動させる液体流動手段と、
前記発熱素子を覆う被覆層に電圧を印加するための構成を有し、前記被覆層に電圧を印加することにより、前記流路内の液体と前記被覆層の液体接触部との間に電気化学反応を起こし、前記
被覆層に付着した異物を
液体中に溶出するクリーニング処理を行うクリーニング手段と、
を備えた液体吐出装置の制御方法であって、
前記流路の液体を第1の流速で流動させながら前記吐出動作を行う工程と、
前記吐出動作を停止した後に、前記流路の液体の流速を前記第1の流速から前記第1の流速より高速の第2の流速に変更する流速変更工程と、
前記
流速変更工程の後に前記クリーニング処理を行うクリーニング工程と、
を
有することを特徴とする液体吐出装置の制御方法。
【請求項18】
前記クリーニング
工程を終了
した後に、所定時間
待機する工程を、更に備えることを特徴とする
請求項17に記載の液体吐出装置の制御方法。
【請求項19】
前記クリーニング
工程の終了から前記所定時間が経過した後、前記流路
の液体の流速を、前記第2の流速から前記第1の流速に戻す工程を、さらに備えることを特徴とする
請求項18に記載の液体吐出装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッドの吐出素子に付着した異物を除去するクリーニング処理を可能とする液体吐出装置、及びその制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタ等の液体吐出装置に用いられる液体吐出ヘッドとして、発熱素子を構成する発熱抵抗体から発する熱によって液体を急激に加熱して発泡させ、その発泡に伴う圧力によって液体を吐出口から吐出させるものが知られている。このような液体吐出ヘッドでは、液体に含まれる色材等の添加物が高温で加熱されることにより分解されて難溶解性の物質に変化し、その物質が発熱素子の液体接触部分(絶縁層や保護層)に物理的に付着する現象が発生する。このような現象により生じる物質(異物)は、一般に「コゲ」と称されており、このコゲが発熱素子の液体接触部分に付着すると、発熱部から液体への熱伝導が不均一になって発泡が不安定になり、液体の吐出特性に影響を及ぼすことがある。
【0003】
このような課題を解決する技術として、特許文献1には、発熱素子の絶縁層の表面に、液体との電気化学反応を生じる被覆層を配置する構成が開示されている。この構成では、被覆層に電圧を印加して被覆層と液体とを電気化学反応させることにより、当該液体接触部分を液体に溶出させる。これにより、被覆層の表面部分に付着したコゲを除去(クリーニング)することができる。但し、被覆層と液体との電気化学反応を用いるため、被覆層に接する液体が電気分解されて気泡が発生する。この気泡が被覆層上に滞留した場合、被覆層と液体との電気化学反応が阻害され、コゲの除去が適正に行われなくなる虞がある。そこで、特許文献1では、コゲのクリーニング処理を行った後、吐出口から液体と共に気泡を吸引する吸引回復等を行い、電気化学反応が阻害されないようにしている。
【0004】
また、特許文献2には、液体吐出ヘッド内に、吐出口及び発熱素子が設けられている発泡室に連通する流路を形成し、流路及び発泡室において液体を流動させることによって溶媒成分の蒸発による液体の増粘を防止し、吐出性能を維持する技術が開示されている。但し、液体吐出ヘッド内で液体を流動させる液体吐出装置においても、発熱素子におけるコゲの付着は発生する。従って、コゲを除去するためには特許文献1と同様に、発熱素子に被覆層を設け、電気化学反応によってコゲを除去する必要がある。さらに、電気化学反応に伴う液体の電気分解によって発生する気泡を、発泡室及び流路から排出することが必要になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-105364号公報
【文献】特表2014-510649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2に開示の技術では、流速は吐出性能が維持できる範囲に設定される。これは、液体吐出ヘッド内の液体の流れが速すぎると吐出口にかかる負圧が過大になり、液体吐出時に主滴と共に微小な液滴(ミスト)が発生したり、吐出液滴のサイズが減少したり、液体の吐出方向がずれたりする虞があるからである。しかしながら、吐出性能が維持できる範囲の流速では、コゲを除去する際の電気化学反応によって発生した気泡を、適正に除去できない虞がある。
【0007】
本発明は、液体の吐出性能を維持しつつ、吐出素子に付着した異物を除去する際に発生する気泡を適正に除去することが可能な技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、流路と発熱素子と吐出口とを有し、前記発熱素子を発熱させることによって前記流路の液体を前記吐出口から吐出する吐出動作を行う液体吐出ヘッドと、前記流路の液体を液体供給口から液体回収口へと流動させる液体流動手段と、前記発熱素子を覆う被覆層に電圧を印加するための構成を有し、前記被覆層に電圧を印加することにより、前記流路内の液体と前記被覆層の液体接触部との間に電気化学反応を起こし、前記被覆層に付着した異物を液体中に溶出するクリーニング処理を行うクリーニング手段と、前記液体吐出ヘッド、前記液体流動手段、及び前記クリーニング手段を制御する制御手段と、を備え、前記制御手段は、前記吐出動作において、前記流路の液体を第1の流速で流動し、前記クリーニング処理において、前記流路の液体を前記第1の流速より高速の第2の流速で流動する工程を含ませることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、液体の吐出性能を維持しつつ、吐出素子に付着した異物を除去する際に発生する気泡を適正に除去することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態におけるインクジェット記録装置を示す全体図。
【
図3】第1実施形態における液体流動機構の構成を示す模式図。
【
図4】液体吐出ヘッドの内部を流れる液体の経路を示す模式図。
【
図8】記録ヘッドにおいて一般に実施されている素子クリーニングの状態を示す図。
【
図9】素子クリーニング処理を行う際の高さ調整機構の状態を示す図。
【
図10】実施形態における素子クリーニング処理の様子を模式的に示す断面図。
【
図11】第1実施形態における記録装置の制御系の概略構成を示すブロック図
【
図12】素子クリーニング処理を実施する際の一連の工程を示すフローチャート。
【
図13】第2実施形態における記録素子の周辺部の構成を模式的に示す拡大平面図。
【
図15】第3実施形態における記録ヘッドへの液体流動機構を示す模式図。
【
図16】第3実施形態における液体吐出ヘッドの内部を流れる液体の経路を示す模式図。
【
図18】素子クリーニングにおいて耐キャビテーション層と対向電極とに印加する電圧を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態における液体吐出装置を、図面を参照しつつ説明する。なお、本実施形態では、液体吐出装置として、液体吐出ヘッドから液体としてのインクを吐出して記録を行うインクジェット記録装置を例に採り説明する。
【0012】
(第1実施形態)
<インクジェット記録装置>
図1は、インクジェット記録装置1000(以下、記録装置と称す)の概略構成を示す図である。記録装置1000は記録媒体Pを搬送する搬送機構1と、記録媒体Pに対して液体(インク)を吐出する吐出手段としての記録ヘッド(液体吐出ヘッド)3とを備える。記録ヘッド3は、記録媒体Pの搬送方向(Y方向)と略直交する方向(X方向)に沿って液体を吐出する複数の吐出口(
図5参照)13を配列した長尺なライン型の記録ヘッドにより構成される。記録装置1000は、記録媒体Pを連続的に搬送しながら記録ヘッド3の吐出口から液体を吐出することにより、記録媒体Pに対して連続的に記録を行う、所謂フルライン型の記録装置である。
【0013】
搬送機構1は、一対の搬送ローラ1a、1bと、これら搬送ローラに架け渡された無端ベルト1c等を含み構成されている。この搬送機構1によって搬送される記録媒体Pは、カットシート、あるいはロールシート等を使用可能である。記録ヘッド3は、後述の液体供給手段(
図3参照)に接続されており、この液体供給手段から供給された液体を吐出口から吐出することにより、記録媒体に画像を形成する。本実施形態では、C、M、Y、K(シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック)の色材を含んだ液体(以下、インクともいう)を吐出することによりフルカラー記録を可能とする記録ヘッド3が用いられている。また、記録ヘッド3には、記録ヘッド3への電力供給及び吐出制御信号の伝送を行う制御部200(
図11参照)が電気的に接続されている。
【0014】
<記録ヘッドの全体構成>
第1実施形態に用いる記録ヘッド3の全体構成について説明する。
図2(a)及び
図2(b)は本実施形態における記録ヘッド3の斜視図である。ここに示す記録ヘッド3は、C、M、Y、Kの4色のインクを吐出可能な記録素子基板10を、直線上に複数個(本例では15個)配列したライン型の記録ヘッド3により構成されている。
図2(a)に示すように、記録ヘッド3の背面には電気配線基板70が固定され、電気配線基板70は、フレキシブル配線基板60を介して複数の記録素子基板10のそれぞれに電気的に接続されている。
【0015】
図2(b)に示すように、記録ヘッド3の両端部に設けられた液体接続部80a、80bは、後述の液体流動機構100(
図3参照)の液体供給ボトル101と接続される。これによりC、M、Y、Kの4色のインクが液体流動機構100から記録ヘッド3に供給されると共に、記録ヘッド3内を通過したインクが、液体流動機構100の液体回収ボトル102へと回収されるようになっている。このように本実施形態では、各色のインク(液体)が、液体流動機構100と記録ヘッド3との間で循環可能に構成されている。
【0016】
<液体供給機構>
ここで、本実施形態における液体吐出装置において液体を流動させる液体流動機構100の構成を、
図3の模式図を参照しつつ説明する。本実施形態における液体流動機構(液体流動手段)100は、記録ヘッド3に供給する液体FLが貯留されている液体供給ボトル(液体供給容器)101と、記録ヘッド3から流出した液体FLを貯留する液体回収ボトル(液体回収容器)102とを有する。また、液体流動機構100は、液体供給ボトル101を重力方向(Z方向)において移動させる高さ調整機構105と、液体回収ボトル102を重力方向において移動させる高さ調整機構106とを備える。さらに、液体流動機構100は、液体回収ボトル102に貯留された液体FLを液体供給ボトル101へと供給する戻し流路114と、この戻し流路114内に設けられた汲み上げポンプ103とを備える。
【0017】
液体供給ボトル101は、記録ヘッド3の液体供給側の液体接続部80aにチューブ104を介して接続され、液体回収ボトル102は、記録ヘッド3の液体回収側の液体接続部80bにチューブ104を介して接続されている。また、汲み上げポンプ103は、戻し流路114を介して液体供給ボトル101と液体回収ボトル102とに接続されている。これにより、液体供給ボトル101内に貯留されている液体が、記録ヘッド3、液体回収ボトル102、戻し流路114を介して液体供給ボトル101に戻る循環流路が構成されている。
【0018】
液体供給ボトル101は高さ調整機構105に支持され、液体回収ボトル102は高さ調整機構106に支持されている。高さ調整機構105は、液体供給ボトル101の高さを調整することにより、液体供給ボトル101に貯留されている液体FLの液面の高さと、記録素子基板10における吐出口13が形成されている面(吐出面)3aの高さとの差を調節することが可能である。同様に、高さ調整機構106は、液体回収ボトル102の高さを調整することにより液体回収ボトル102に貯留されている液体FLの液面の高さと、吐出面3aの高さとの差を調節することが可能である。
【0019】
高さ調整機構105は、液体供給ボトル101と液体回収ボトル102の液面が、記録ヘッド3の吐出面3aより低い位置となるように、液体供給ボトル101及び液体回収ボトル102を保持している。
図3では、液体供給ボトル101の液面の高さは、吐出面3aよりH1だけ低い位置に保たれ、液体回収ボトル102の液面の高さは、吐出面3aよりH2だけ低い位置に保たれている。ここで、H1とH2の関係は、H1<H2となっている。すなわち、液体回収ボトル102の液面は、液体供給ボトル101の液面より低い位置に定められている。
【0020】
以上のように構成された液体流動機構において、液体供給ボトル101に貯留されている液体FLは、チューブ104を通って液体接続部80aから記録ヘッド3の供給経路に供給される。液体接続部80aに供給された液体は、その一部が吐出口13から吐出される。また、吐出に供されなかった液体FLは液体接続部80からチューブ104を通って液体回収ボトル102に回収される。回収された液体FLは、汲み上げポンプ103によって戻し流路を経て液体供給ボトル101に戻される。
【0021】
<記録ヘッド内の液体の経路>
図4の模式図に基づき、記録ヘッド3の内部に設けられた、液体FLの経路を説明する。図中の矢印fは、液体FLの流動方向を示している。記録ヘッド3の構成要素である流路部材50には、記録素子基板10に連通する供給経路41及び回収経路42が形成されている。供給経路41は、供給側の液体接続部80aと各記録素子基板10の供給口(液体供給口)17aとに接続されている。回収経路42は、各記録素子基板10の回収口(液体回収口)17bと回収側の液体接続部80bとに接続されている。
【0022】
液体接続部80aから供給経路41に流入した液体FLは、記録素子基板10の供給口17aから記録素子基板10の内部に流入する。記録素子基板10の内部に流入した液体FLは回収口17bから回収経路42へと流出する。液体吐出時には、記録素子基板10内に流入した液体FLの一部が記録素子基板10に設けられた吐出口13から吐出され、吐出に供されなかった残りの液体FLが回収経路42へと流出する。回収経路42に流入した液体FLは、液体接続部80bから当該液体接続部80bに接続されたチューブ104へと流出する。なお、記録素子基板10内部に設けられている液体の流動経路については、次に説明する記録素子基板10の構造において詳述する。
【0023】
<記録素子基板の構造>
本実施形態における記録素子基板10の構成を、
図5ないし
図7を参照しつつ説明する。
図5は記録素子基板10の断面斜視図である。
図6は
図5の破線で囲んだ部分の拡大平面図である。
図7は
図6のVII-VII線断面図である。
【0024】
図5において、記録素子基板10は、シリコンからなる基板11と、基板11のおもて面11aに積層した感光性樹脂からなる吐出口形成部材12と、基板11の裏面(吐出口形成部材12を設けた面と反対側の面)11bに接合した蓋部材20とを備える。吐出口形成部材12には、複数の吐出口13がX方向に沿って一定の間隔を介して配列されている。このX方向に配置された複数の吐出口13によって構成される列を吐出口列13Rと称す。本実施形態では、吐出口から吐出する液体としてCMYKの4色のインクを使用するため、各インク色に応じて4列の吐出口列13Rが形成されている。なお、吐出口列13Rが延在するX方向と直交するY方向は、
図1に示す記録媒体Pの搬送方向(Y方向)と一致する。吐出口形成部材12と基板11との間には、液体が流入する液室24が形成されており、この液室24には、複数の吐出口13のそれぞれに対応した複数の発泡室23が
図6に示す流路壁22によって区画形成されている。
【0025】
図6に示すように、基板11のおもて面11aには各吐出口13と対向する位置に複数の記録素子(吐出素子)15が配置され、各記録素子15は、各発泡室23内に1つずつ収容されている。記録素子15は、熱エネルギーによって液体を発泡させるための発熱素子により構成されている。この記録素子を構成する発熱素子は、電気エネルギーを熱エネルギーに変換する電気熱変換素子によって構成されており、基板11に設けられる不図示の電気配線を介して端子16に電気的に接続されている。端子16は、
図2に示すフレキシブル配線基板60を介して電気配線基板70に接続され、電気配線基板70は記録装置1000に設けられた後述の制御部に接続されている。記録装置1000の制御部から電気配線基板70、フレキシブル配線基板60及び電気配線を介して入力されるパルス信号に基づいて記録素子15は発熱し、発泡室23内の液体FLを沸騰させる。この沸騰における発泡の力により、吐出口13から液体FLが吐出される。
【0026】
また、
図5に示すように、基板11の裏面11b側には、発泡室23に連通する液体供給路18及び液体回収路19を構成する溝が形成されている。液体供給路18及び液体回収路19は、吐出口列13Rに沿って延在している。液体供給路18と液体回収路19は、供給口17aと回収口17bにそれぞれ連通している。供給口17aと回収口17bは発泡室23に連通している。これにより、供給口17aから発泡室23を経て回収口17bに至る流路25が形成されている。
【0027】
蓋部材20には、後述する液体供給路18と液体回収路19のそれぞれに連通する開口21が複数設けられている。本実施形態においては、液体供給路18の1本に対して3個、液体回収路19の1本に対して2個の開口21が蓋部材20に設けられている。供給経路41は開口21を通じて液体供給路18と連通し、回収経路42は開口21を通じて液体回収路19と連通している。
【0028】
ここで、記録素子基板10における液体の流動について説明する。液体供給路18と液体回収路19との間には圧力差が生じている。この圧力差によって、基板11内に設けられた液体供給路18内の液体は、
図5の矢印Cに示すように、供給口17a、発泡室23、回収口17bを経由して液体回収路19へ流れる。このような液体FLの流れを発生させることにより、吐出口13からの蒸発によって増粘した液体(インク)を液体回収路19へ回収することができると共に、吐出口13や発泡室23の液体の増粘を抑制することができる。液体回収路19へ回収された液体は、蓋部材20の開口21を通じて、最終的には記録装置1000の回収経路42へと回収される。このような液体の流れを、液体の循環と称す。
【0029】
次に、
図7を参照しつつ、記録素子15及びその周辺構造をより詳細に説明する。基板11上には、発熱層51、絶縁層52、コゲ取り用の電極配線層53a、及び耐キャビテーション層54a等の被覆層を有する記録素子(吐出素子)15が設けられている。耐キャビテーション層は、流路25内の液体と直接接触する液体接触部であり、発熱層51の熱を液体に作用させる熱作用部となっている。また基板11には、これを貫通する通電用のビア55が設けられており、このビア55を介して発熱層51と図外の制御部とが電気的に接続されている。発熱層51は、通電することで発熱する材料等で形成されている。例えば、発熱層51は、TaSiN(窒化タンタルシリコン)、WSiN(窒化タングステンシリコン)、TaAlN(窒化タンタルアルミニウム)、TiAl(チタンアルミニウム)、TiAlN(窒化チタンアルミニウム)等で形成されている。
【0030】
絶縁層52はSiN等のシリコン化合物などの絶縁性材料からなり、液体FLと発熱層51とを電気的に絶縁している。また耐キャビテーション層54aは、液体FLの沸騰によって発泡した気泡が消泡するときに生じるキャビテーションなどの物理的衝撃から記録素子15を保護するために設けられている。
【0031】
耐キャビテーション層54aには、発泡時に生じるインク中の成分の熱変性堆積物が付着する。これが所謂コゲである。耐キャビテーション層54aは、クリーニング処理に際しコゲを除去するために液体FLに溶出する層である。耐キャビテーション層54aには、液体FL中での電気化学反応により溶出する金属を用いる。このような金属としては、例えばIr(イリジウム)、Ru(ルテニウム)等が挙げられる。耐キャビテーション層54aと絶縁層52間に、コゲ取り用の電極配線層53aが形成されている。
【0032】
コゲ取り用の電極配線層53aは、耐キャビテーション層54aと外部電源130とを電気的に接続する配線を構成しており、導電性を有する材料を用いて形成されている。この電極配線層53aを介して、耐キャビテーション層54aと外部電源130とが電気的に接続されている。本実施形態では、外部電源130、液体接触部である電極配線層53a及び耐キャビテーション層54aにより、記録素子15に付着したコゲを除去するためのクリーニング処理を行うクリーニング手段が構成されている。
【0033】
吐出口形成部材12と基板11との間に形成された液室内には、耐キャビテーション層54aから離間した位置に対向電極54bが形成されている。対向電極54bとしては、例えばIr、Ru等が用いられる。対向電極54bは、Ta等からなる対向電極配線53bと接続され、外部電源130に接続されている。対向電極54bは、例えば回収口17bを挟んで記録素子15と反対側の位置に設置されている。
【0034】
<記録時における液体の循環>
次に、液体流動機構100によって記録ヘッド3内に供給される液体FLの流速の設定方法について説明する。記録ヘッド3内に供給される液体FLの流速の設定は、
図3に示す液体供給ボトル101に貯留されている液体FLの液面の高さ(重力方向における位置)と、液体回収ボトル102に貯留されている液体FLの液面と吐出口13の高さとを設定することにより行う。具体的には、液体供給ボトル101内の液体FLの液面と記録ヘッド3の吐出面(より正確には吐出口13)との高さの差H1と、液体回収ボトル102内の液体FLの液面と吐出口13の高さの差H2とを設定する。H1とH2との関係は、H2>H1とする。吐出口13にかかる負圧は、(H1+H2)/2の水頭差となる。一方、循環流速は、差圧(H2-H1)に比例して大きくなる。
【0035】
吐出口13にかかる液体FLの圧力、すなわち発泡室23内の液体FLの圧力は、大気圧に対して負圧になるよう設定する。これは吐出口13からの液体の漏出を防止するためである。しかし吐出口13にかかる負圧が大き過ぎると、液体吐出後の再充填が遅くなる。つまり吐出口13に対する液体FLのリフィル周期が長くなり、高周波吐出が行い難くなる。また、負圧が大き過ぎると、吐出口13に形成される液体FLのメニスカス56(
図6参照)が大きく凹むことで、吐出される液体の体積が減少する。さらに液体吐出時に吐出された液体が飛翔中に長い尾を引くようになり(不図示)、それがサテライトやミストの発生につながる。また、負圧が過大になると、メニスカスが崩壊して液体FLを吐出できなくなる虞もある。このように、吐出口13に過大な負圧をかけることは好ましくない。
【0036】
そこで通常は、吐出口13の形状や大きさ、使用する液体FLの表面張力や粘性係数を考慮に入れ、負圧を一定の範囲に設定する。例えば液体FLの物性値が、粘性係数4cP、表面張力30mN/mであり、吐出口13が直径20umの円形である場合、吐出口13にかかる負圧を、(H1+H2)/2=100~300mmAq程度に設定する。なお、説明を具体的にするため、以下では負圧を(H1+H2)/2=200mmAqとする。
【0037】
循環流速は、前述の通り差圧(H2-H1)に比例して大きくなる。また記録ヘッド3の内部構造や、液体FLの粘性係数によっても、記録ヘッド3内の液体FLの流速は異なる。液体FLが吐出口13の近傍で増粘するのを低減するには、流速が大きいほうがよい。どの程度の流速が必要かは、液体FLの組成や、周囲の温湿度によって異なる。吐出口13にかかる負圧を水頭(H1+H2)/2=200mmAqとした上で、(H2-H1)を大きくするためには、液体回収ボトル102の下降と液体供給ボトル101の上昇の少なくとも一方を行えばよい。本実施形態では、より大きな流速を得るため、液体回収ボトル102の下降と、液体供給ボトル101の上昇を行うようにしている。なお、液体供給ボトル101を吐出口13より高い位置に設置することは避けることが好ましい。これは、万一、液体回収ボトル102へ至るチューブ104の途中で閉塞が生じた場合、吐出口13に正圧がかかるようになり、液体FLが吐出口13から漏出する虞があるからである。そこで本実施形態では、一例として、H1=100mm、H2=300mmとし、差圧(H2-H1)=200mmAqとしている。ここで、例えば記録ヘッド3内を毎分22.5mlでインクが流動していたとする。この記録ヘッド3の全体でのインクの流量を、記録ヘッド3の全体の発泡室数で除算し、算出したインクの流量をさらに発泡室23の断面積(流動方向に対して垂直な面の面積)で除算することで、発泡室23内のインクの流量(流速)が求まる。例えば本実施形態において、記録素子基板10が15個あり、且つ1つの記録素子基板10に発泡室23が約1万2千個あるとする。さらに発泡室23の断面積が100um2であるとする。この場合、発泡室23における液体FLの流速は約20mm/sとなる。
【0038】
<クリーニング方法>
吐出口13からの液体FLの累積吐出数の増大に伴い、記録素子15の表面(より具体的には耐キャビテーション層54aの表面)にはコゲが徐々に堆積していく。記録素子15の表面にコゲが堆積した場合、記録素子15から発泡室23内の液体に伝播する熱エネルギーが減少して発泡が弱まり、吐出口13から吐出される滴状の液体(液滴)の飛翔速度や吐出量の低下が生じる。これは記録品位の低下を招く要因となる。そこで、本実施形態では、液体FLの累積吐出数が所定値に達すると、一旦、液体FLの吐出を停止し、記録素子15の表面(耐キャビテーション層54aの表面)に堆積したコゲを除去するためのクリーニング(以下、素子クリーニングと称す)を行う。
【0039】
図8は、記録ヘッド3において一般に実施されている素子クリーニングの状態を示す図である。なお、
図8に示す白抜き矢印は、液体FLが流動する様子を模式的に示している。素子クリーニングは、
図8に示すように発泡室23に液体FLが充填された状態において、耐キャビテーション層54aと対向電極54bとの間に電圧を印加することにより行う。例えば、耐キャビテーション層54aには正の電位、対向電極54bには負の電位を印加する。耐キャビテーション層54aと対向電極54bとの間の電位差(電圧)は、例えば5Vである。耐キャビテーション層54aと対向電極54bとの間に電圧を印加することにより、耐キャビテーション層54aと液体FLとの間には電気化学反応が起こり、耐キャビテーション層54aの一部(表面部分)が液体に溶出する。これにより、耐キャビテーション層54aの表面に堆積したコゲは、液体に溶出した耐キャビテーション層54aの表面部分と共に耐キャビテーション層54aから剥離し、循環する液体と共に記録ヘッド3の外部へと排出される。
【0040】
一方、この電気化学反応により、耐キャビテーション層54aの表面では、液体FLの電気分解が行われる。その結果、
図8(a)に示すように、耐キャビテーション層54aの表面には複数の気泡BLが発生する。これらの気泡BLは、
図8(b)に示すように、互いに合体しつつ成長し、
図8(c)に示すように、発泡室23全体に充満して記録素子15を覆う。このような状態になると、耐キャビテーション層54aと液体FLとの接触は絶たれ、それ以上、電気化学反応が進みにくい状態となる。すなわち、コゲの除去が進みにくい状態となる。また、発泡室23内に気泡が充満した状態では、液体FLを吐出口13から吐出することはできない。すなわち、素子クリーニングを終了した後、充満した気泡を発泡室23から除去するまでは液体FLの吐出を再開することができない。
【0041】
そこで本実施形態では、コゲ除去処理の実施に先立ち、記録ヘッド3の各記録素子基板10における供給口17aから回収口17bに至る流路内の液体の流速を増加させ、発泡室23内に気泡BLが充満するのを抑制する。これにより、コゲの除去処理を促進することが可能になり、かつ液体FLの吐出動作を再開する前に気泡を除去するための処理を行う必要がなくなる。
【0042】
素子クリーニングは、具体的には次のような手順で行う。まず、液体FLの吐出数が所定数に達すると、液体FLの吐出動作を中断する。この後、記録ヘッド3内の液体FLの流速を高速化させる。これは、
図9に示すように、高さ調整機構105を用いて、液体供給ボトル101と液体回収ボトル102のそれぞれの高さ(重力方向における位置)を調整することによって行う。すなわち、重力方向において一定の高さに保持されている吐出面3aと液体供給ボトル101内の液面との高さの差と、吐出面3aと液体回収ボトル102内の液面との高さの差を調整する。
【0043】
例えば、吐出動作を行う際の、液体供給ボトル101の液面と吐出面3aとの高さの差をH1、液体回収ボトル102の液面と吐出面3aとの高さの差をH2とする(
図3参照)。これに対し、素子クリーニングを実施する場合には、液体供給ボトル101の高さを、
図3に示す位置から
図9に示す位置へと上昇させ、液体供給ボトル101の液面と吐出面3aとの高さの差をH1’ (H1’<H1)へと減少させる。さらに、液体回収ボトル102を、
図3に示す位置から
図9に示す位置へと下降させ、液体回収ボトル102の液面と吐出面3aとの高低差をH2’ (H2’>H2)へと増大させる。なお、素子クリーニングの実施時には、吐出口13からの液体FLの吐出は中断されるため、液体FLを吐出する際に求められる、前述のような負圧の設定に関する制約は緩和される。すなわち、吐出される液滴の体積減少や、ミストの発生を考慮して負圧を設定する必要はなく、吐出口13内のメニスカスが崩壊しない範囲であれば、負圧を上昇させても支障はない。
【0044】
そこで、本実施形態では、例えば、
H1’=50~100mm
H2’=700~900mm
とする。
【0045】
すなわち、吐出口13にかかる負圧(H1’+H2’)/2を、
(H1’+H2’)/2=375~500mmAq
とする。
【0046】
また、差圧(H2’-H1’)を、
(H2’-H1’)=600~850mmAq
とする。
【0047】
発泡室23内の負圧が400~500mmAqの範囲に保たれている場合には、メニスカスが崩壊することはない。また、この素子クリーニング時の液体FLの流速(第2の流速)は、液体FLの吐出時の流速(第1の流速)に比べ、3~4.25倍になる。従って、発泡室23内の液体FLの流速(第2の流速)は、約60~85mm/sとなる。
【0048】
なお、液体供給ボトル101の液面が吐出口13より鉛直方向上方に位置するように、液体供給ボトル101の位置を設定することによって、液体供給ボトル101の液面と液体回収ボトル102の液面との間に、より大きな高低差を設けるようにしてもよい。これによれば、より大きな差圧を生じさせることができ、さらに液体FLの流速を上昇させることができる。例えばH1’=-150mm(吐出口13より高い位置)、H2’=850mmとする。すなわち、負圧(H1’+H2’)/2=350mmAq、差圧(H2’-H1’)=1000mmAqとする。負圧350mmAqではメニスカスの崩壊が生じることはない。ここで、吐出口13の直径を20μmとすると、メニスカスが崩壊するのは約600mmAqの負圧が生じた場合である。よって、負圧(H1’+H2’)/2<600mmAqとする必要がある。この場合、発泡室23における液体FLの流速(第2の流速)は、吐出動作を行う場合の液体FLの流速(第1の流速)に比べ、約5倍になる。すなわち、発泡室23内の流速は、約100mm/sとなる。
【0049】
図10は、本実施形態において実施される素子クリーニング処理の様子を模式的に示す断面図である。図中の白抜き矢印は、液体FLの循環による流れの様子を模式的に示している。素子クリーニング(コゲの除去処理)を行うと、前述のように耐キャビテーション層54aの表面上で液体FLが電気分解される。その結果、
図10(a)に示すように、耐キャビテーション層54aの表面には複数の気泡BLが発生する。但し、本実施形態では、気泡BLの合体・成長が起こる前に、
図10(a)~
図10(c)に示すように、耐キャビテーション層54aの表面に発生した気泡が、液体FLの循環流と共に回収口17bへと移動し、記録ヘッド3の外部へと排出される。このため、発泡室23における気泡の充満は抑制され、耐キャビテーション層54aと液体FLとの接触は維持される。従って、電気化学反応を継続して行うことが可能になり、素子クリーニングを適正に行うことが可能になる。また気泡が発泡室23内に滞留しないため、素子クリーニングが終了した後、液体FLの吐出を再開させる場合にも、発泡室23から気泡を除去する処理を実施する必要がない。従って、素子クリーニングが終了した後、液体供給ボトル101と液体回収ボトル102の高さを再び
図3に示す位置に戻すことによって、速やかに液滴の吐出を再開することが可能になる。
【0050】
(記録装置の制御系)
図11は、本実施形態における記録装置1000の制御系の概略構成を示すブロック図である。記録装置1000には、ホスト装置300から入力された画像データ等に基づいて記録動作を制御する制御部200が設けられている。制御部200は、CPU201、制御プログラム等を格納したROM202、及びデータを一時的に格納するRAM203等を含み構成されている。CPU201は、ROM202に格納されたプログラムに従い、RAM203をワークエリアとして使用しつつ種々の演算処理を行うと共に、記録装置1000の各部の動作を制御する制御手段としての機能を果す。例えば、CPU201は、ホスト装置300から送信された画像データに基づき、記録素子15を駆動させるヘッドドライバを制御して、液体の吐出を制御する。また、CPU201は、搬送機構1における不図示の搬送モータを制御して搬送ローラ1aの回転を制御し、記録媒体Pの搬送動作等を制御する。さらに、CPU201は、前述の高さ調整機構105及び106の駆動源である不図示の調整モータを制御し、液体供給ボトル101及び回収タンクの高さを独立に制御する。本実施形態では、このCPU201と高さ調整機構105、106とによって記録ヘッド3内の液体の流速を制御する流速制御手段を構成している。さらに、CPU201は外部電源130を制御することにより、コゲ取り用の電極配線層53aと対向電極54bとの間に印加する電圧の供給、遮断を行う。この他、CPU201は、汲み上げポンプ103の駆動を制御し、液体回収ボトル102から液体供給ボトル101への液体の供給を制御する。
【0051】
<素子クリーニングの工程>
図12は、記録素子15に堆積したコゲを除去する素子クリーニング処理を実施する際の一連の工程を示すフローチャートである。なお、このフローチャートにおいて実施される各工程は、制御部200に設けられたCPU201が、ROM201に格納された制御プログラムに従い記録装置1000の各部を制御することによって行う。すなわち、CPU201は、記録ヘッド3、外部電源130、高さ調整機構105、106、及び汲み上げポンプ103等を制御することによって行う。なお、
図12のフローチャートにおいて、各工程番号に付したSは、ステップを意味する。
【0052】
図12において、液体の累積吐出数が所定数に達すると、CPU201は、記録ヘッド3からの液体の吐出動作(記録動作)を停止させる吐出停止工程を行う(S1)。次に、記録ヘッド3における液体の流速を高めるため、CPU201は、高さ調整機構105A及び35Bを制御して、液体供給ボトル101と液体供給ボトル101の高さを変更する(S2)。具体的には、液体供給ボトル101を上昇させ、かつ液体回収ボトル102を下降させるように高さ調整機構105及び106を制御する。これにより、差圧は(H2-H1)から(H2’-H1’)へと増大する。なお、両ボトル31、32の高さを変更してから記録ヘッド3内の液体FLの流速が変化するまでには、1秒から数秒の時間差があるため、S3では、この時間差以上の時間が経過するまで待機する(待機[1])。
【0053】
この後、S4においてCPU201は、耐キャビテーション層54aと対向電極54bとの間に対する電圧の印加を開始する。電圧の印加を開始すると、直ちに電気化学反応が始まり、素子クリーニングが開始される。素子クリーニングでは、電圧の印加を所定時間継続する必要があり、所定時間が経過した後、CPU201は電圧の印加を終了する(S5)。電圧の印加時間は、例えば30秒程度とする。電圧の印加を終了した後も、高い流速を所定時間維持する。発泡室23内に発生した気泡BLは、流動する液体FLと共に発泡室23から液体回収路19に流されるが、この気泡BLが液体回収路19などの記録ヘッド3の内部に留まっているのは好ましくない。このため、S5では、気泡BLが液体回収ボトル102に到達するまで、液体FL流速を高い流速(第2の流速)に維持した状態で所定の時間(例えば3分)待機する(待機[2])。このように、待機[2]における待機時間は、待機[1]より長い時間に設定することが好ましい。この後、CPU201は、高さ調整機構105及び106を制御し、液体供給ボトル101と液体回収ボトル102を、液体吐出時に設定していた初期位置に戻す。すなわち、差圧を(H2’-H1’)から(H2-H1)へと戻す(S7)。ここでCPU201は、再び所定時間(数秒)の待機(待機[3])を行い、液体の流速を液体吐出に適した初期の流速(第1の流速)に復帰させる(S8)。その後、CPU201は、記録ヘッド3の記録素子15を駆動し、液体吐出動作(記録動作)を再開させる。
【0054】
以上のように、本実施形態では、記録素子15に堆積したコゲを除去する素子クリーニングを行う際に、液体供給ボトル101と液体回収ボトル102の高さを変更することによって記録ヘッド3内の液体の流速を高速化させる。これにより、素子クリーニングにおいて記録素子15に発生した気泡を、液体と共に記録ヘッド3の外部へと排出させることが可能になり、記録素子15に堆積したコゲを適正に除去することが可能になる。
【0055】
また、本実施形態では、素子クリーニング時に発生した気泡を記録ヘッド3から排出させるために、吐出口から液体を排出させる必要がない。すなわち、従来のように、吐出口から液体を吸引する吸引処理、液体吐出ヘッド内を加圧して液体を排出させる加圧処理、あるいは記録媒体に対して記録に寄与しない液体を吐出する処理などを行う必要がない。このため、本実施形態によれば、記録動作に寄与しない液体や記録媒体の消費を抑えることが可能になり、ランニングコストの低減、及び記録動作の効率化を図ることが可能になる。
【0056】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態を説明する。本実施形態における液体吐出装置は、素子クリーニングを行う際に行う液体の流速の高速化を、液体の温度を上昇させて液体を低粘度化することにより実現する。なお、本実施形態においても
図1、
図2、
図4及び
図5に示す構成を有しており、上記第1実施形態と同一部分には同一符号を付し、重複説明は省略する。
【0057】
図13は、本実施形態における記録素子15の周辺部の構成を示す図であり、
図5に示す記録素子基板10の破線で囲んだ部分の拡大平面図である。また、
図14は
図13のXIV-XIV線断面図である。本実施形態における記録素子基板10に設けられている基板11のおもて面11aには、第2発熱層57が設けられている。第2発熱層57は、例えばTaSiN(窒化タンタルシリコン)やPoly-Si(ポリシリコン)にからなる膜によって構成されている。第2発熱層57に、直流またはパルス状の電圧を印加して第2発熱層57を発熱させることにより、記録素子基板10の全体の温度を上昇させることができる。第2発熱層57への電圧の印加は、制御部が不図示の第2外部電源を制御することによって行う。なお、本実施形態においても、第2外部電源をはじめ、記録装置1000の各部を制御する制御部は、
図11に示すように、CPU201、ROM202、RAM203等を備えた構成を有する。本実施形態では、CPU201と、CPU201によって制御される第2発熱層57とにより、記録素子基板10の流路25内を流れる液体FLの流速を制御する流速制御手段が構成されている。
【0058】
液体吐出時において、CPU201は、第2発熱層57への電圧の印加を行わず、液体FLの温度を常温(例えば25℃)に保つ。このときの液体FLの粘度は、例えば5×10-3Pa・s(パスカル秒)とする。これに対し、素子クリーニングを行う場合には、CPU201が液体吐出動作を停止させた後、第2外部電源の電圧を第2発熱層57に印加し、記録素子基板10の温度を70°Cに調節する。この温度調整は、第2発熱層57に印加する電圧と、電圧を印加する時間、またはパルス数等を、予め定めた値となるように制御することによって行うことができる。また、記録素子基板10に設けた不図示の温度センサからの出力をCPU201にフィードバックさせることによって、記録素子基板10を所定の温度に調整するようにすることも可能である。
【0059】
記録素子基板10の温度が上昇することにより、
図14に示すように、記録素子基板10の内部を流動する液体FLも記録素子基板10と略同一の温度に加熱され、これによって液体FLの粘度が常温時より低下する。例えば、70°Cに加熱したときの液体FLの粘度が2×10
-3Pa・s(パスカル秒)であったとする。この場合、記録素子基板10内を流動する液体FLの流速(第2の流速)は、液体吐出時(常温時)の流速(第2の流速)に比べて約2.5倍に上昇する。その後、素子クリーニングを実施することで、耐キャビテーション層54aに発生した気泡を、高速化した循環流によって記録ヘッド3の外部へと排出することが可能になり、気泡BLが発泡室23に充満することを抑制することが可能になる。このため、本実施形態においても、記録素子15から適正にコゲを除去することが可能になる。さらに、本実施形態によれば、素子クリーニングを行う際に、液体供給ボトル101と液体回収ボトル102の高さを調整する必要がなくなる。すなわち、第1実施形態に設けられていた高さ調整機構105、106が不要となり、装置の小型化及び低コスト化を図ることが可能になる。
【0060】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態を説明する。
図15は、本実施形態における記録ヘッド3への液体流動機構120を示す模式図である。本実施形態における液体流動機構120は、液体供給回収ボトル(液体供給回収容器)127、第1上流ポンプ121、第2上流ポンプ122、第1レギュレータ125、第2レギュレータ126、第1下流ポンプ123、及び第2下流ポンプ124等を備える。液体供給回収ボトル127は、記録ヘッド3の液体供給側の液体接続部80aと液体回収側の液体接続部80bとに接続されており、記録ヘッド3に供給する液体(インク)FLを貯留すると共に、記録ヘッド3から回収された液体FLを貯留する。
【0061】
ここで、液体供給回収ボトル127と記録ヘッド3との接続状態を、より具体的に説明する。液体供給回収ボトル127はチューブ104を介して第1上流ポンプ121に接続され、第1上流ポンプ121はチューブ104を介して第1レギュレータ(圧力調整機構)125に接続されている。さらに、第1レギュレータ125は、チューブ104を介して記録ヘッド3の液体接続部80aの第1流入口80a1に接続されている。
【0062】
また、液体供給回収ボトル127はチューブ104を介して第2上流ポンプ122に接続され、第2上流ポンプ122はチューブ104を介して第2レギュレータ(圧力調整機構)126に接続されている。さらに第2レギュレータ126は、チューブ104を介して記録ヘッド3の液体接続部80aの第2流入口80a2に接続されている。
【0063】
一方、液体供給回収ボトル127は、チューブ104を介して第1下流ポンプ123に接続され、第1下流ポンプ123は、チューブ104を介して記録ヘッド3の液体接続部80bの第1流出口80b1に接続されている。さらに、液体供給回収ボトル127はチューブ104を介して第2下流ポンプ124に接続され、第2下流ポンプ124はチューブ104を介して記録ヘッド3の液体接続部80bの第2流出口80b2に接続されている。
【0064】
以上のように構成された液体流動機構120において、第1上流ポンプ121は、液体供給回収ボトル127に貯留されている液体FLを、第1レギュレータ125を介して液体接続部80aの第1流入口80a1に供給する。同様に、第2上流ポンプ122は、液体供給回収ボトル127に貯留されている液体FLを、第2レギュレータ126を介して液体接続部80aの第2流入口80a2に供給する。この際、第1流入口80a1と第2流入口80a2とに供給される液体FLの圧力は、第1レギュレータ125と第2レギュレータ126のそれぞれによって、予め設定された圧力に調整される。なお、第1レギュレータ125及び第2レギュレータ126は、例えばダイアフラムや調整バネを備えた一般的な減圧弁によって構成されている。なお、第1レギュレータ125及び第2レギュレータと、CPU201とにより、本実施形態における流速制御手段が構成されている。
【0065】
第1流入口80a1と第2流入口80a2に供給された液体FLは、記録ヘッド3内に設けられた後述の経路を通過し、液体接続部80bの第1流出口80b1と第2流出口80b2から記録ヘッド3の外部へと流出する。第1流出口80b1から流出した液体FLは、第1下流ポンプ123によりチューブ104を介して液体供給回収ボトル127に送られ、回収される。同様に、第2流出口80b2から流出した液体FLは、第2下流ポンプ124によりチューブ104を介して液体供給回収ボトル127に送られ、回収される。
【0066】
図16は、本実施形態における記録ヘッド3の内部を流れる液体の経路を模式的に示した図である。図中の矢印fが、液体の流動方向を示している。本実施形態において、記録ヘッド3の構成要素である流路部材50には、記録素子基板10に連通する供給経路41及び回収経路42が形成されている。供給経路41は、供給側の液体接続部80bの第1流入口80a1と、各記録素子基板10の供給口17aと、回収側の5液体接続部80bの第1流出口80b1と、に接続されている。また、回収経路42は、供給側の液体接続部80aの第2流入口80a2と、各記録素子基板10の回収口17bと、回収側の液体接続部80bの第2流出口80b2と、に接続されている。なお、本実施形態における記録素子基板10は、第1実施形態と同様に、
図5に示す内部構造を有している。
【0067】
第1レギュレータ125を通って液体接続部80aの第1流入口80a1に供給された液体は、供給経路41に流入する。供給経路41に流入した液体は、一部が記録素子基板10の各供給口17aへと分流し、残りが液体接続部80bの第1流出口80b1を通って外部に接続されたチューブ104へと流出する。また、第2レギュレータ126を通って液体接続部80aの第2流入口80a2に供給された液体は、回収経路42に流入する。回収経路42に流入した液体は、各記録素子基板10の回収口17bから流出して来た液体と合流した後、液体接続部80bの第2流出口80b2を通って外部に接続されたチューブ104へと流出する。このとき、
図15に示す各ポンプ121~124及び各レギュレータ125、126を適切に調節することで、供給経路41及び回収経路42の内圧を負圧にし、吐出口13にかかる圧力を負圧にする。また、回収経路42内の負圧を供給経路41内の負圧より高い負圧にすることで、供給経路41と回収経路42との間で差圧を発生させる。例えば、液体の吐出を行う場合には、供給経路41内の負圧を100mmAqとし、回収経路42内の負圧を300mmAqとする。これにより、液体を、各記録素子基板10の供給口17aから回収口17bへと流動させつつ、記録素子基板10の吐出口13から液体を吐出させることが可能になる。すなわち、
図5に示す液体供給路18、発泡室23、及び液体回収路19を順次通過する液体の流れを発生させることが可能になる。
【0068】
また、素子クリーニングを行う場合には、第1レギュレータ125と第2レギュレータ126によって、供給経路41と回収経路42に流入する液体の圧力調整を行う。例えば、供給経路41内部の負圧を-50mmAq、回収経路42内部の負圧を-850mmAqにそれぞれ設定し、供給経路41の圧力と回収経路42の圧力差を、液体吐出時の圧力差より増大させる。この圧力調整は、各レギュレータ125、126に設けられている不図示の圧力調整ばねを調整することによって行う。
【0069】
このようにして、供給経路41と回収経路42とに流入する液体の圧力調整を行うことにより、素子クリーニング時に記録素子基板10内を流れる液体の流速を高めることが可能になる。このため、記録素子15に発生した気泡を、高速な液体の流れによって記録素子基板10から外部へと流出させることが可能になり、発泡室23における気泡BLの充満を抑制することが可能になる。すなわち、本実施形態においても、記録素子15から適正にコゲを除去することが可能になる。
【0070】
なお、本実施形態では記録ヘッドと別体のレギュレータ125及び126を、チューブ104を介して記録ヘッド3に接続したが、レギュレータの設置形態はこれに限定されない。例えば、
図17の変形例に示すように、レギュレータ125及び126を記録ヘッド3に一体化して設置してもよい。
【0071】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態を、
図18を参照しつつ説明する。
図18は、素子クリーニング時に外部電源130によって耐キャビテーション層54aと対向電極54b(
図7参照)との間に印加する電圧の波形を示す模式図である。
【0072】
上述の実施形態では、素子クリーニングにおいて、耐キャビテーション層54aと対向電極54bとの間に、
図18(a)に示すような連続した直流電圧を所定時間継続して印加するものとした。これに対し、本実施形態では、耐キャビテーション層54aと対向電極54bとの間に、
図18(b)に示すような断続的なパルス状の直流電圧を印加する。このような直流電圧の印加は、制御装置におけるCPU201(
図11参照)が外部電源130を制御することによって行う。
【0073】
図18(a)に示すように、連続的な直流電圧を所定時間継続して印加する場合、耐キャビテーション層54aに電圧が印加されている間は、気泡BLが継続して発生する。一方、本実施形態では、
図18(b)に示すように、電圧の印加を断続的に行うことで、気泡の発生速度(単位時間当たりに発生する気泡の体積)を低下させることが可能になる。このため、本実施形態によれば、素子クリーニング時の液体FLの流動速度を大きく上昇させなくとも、発泡室23内における気泡BLを適正に外部へ排出させることができ、発泡室23に気泡BLが充満するのを抑制することが可能になる。例えば、
図18(a)に示す電圧の印加デューティを100%とし、
図18(b)の電圧の印加デューティを30%とした場合、
図18(b)に示す電圧により発生する気泡の発生速度は、
図18(a)に示す電圧により発生する気泡の発生速度の30%となる。このように気泡発生速度が30%に減少した場合、記録素子基板10における液体FLの流動速度を低下させることが可能になる。例えば、第1実施形態のように、液体供給ボトル101と液体回収ボトル102との水頭を調整することによって記録素子基板10内の液体の流速を調整する構成を採る場合、本実施形態では、素子クリーニング時の各ボトルの高さは、
・H1’=100mm
・H2’=600mm
とする。このとき、吐出口13にかかる負圧は(H1’+H2’)/2=350mmAq、液体供給路18及び液体回収路19にかかる差圧は(H2’-H1’)=500mmAqとなり、記録素子基板10内を流れる液体FLの流速は50mm/s程度まで低下する。但し、本実施形態では、気泡BLの発生速度が30%に低下しているため、50mm/s程度の流速であっても、発生した気泡を適正に記録素子基板10の外部へ排出することができる。このため、発泡室23に気泡が充満することは抑制され、適正にコゲを除去することができる。
【0074】
以上のように本実施形態によれば、高さ調整機構105、106における水頭の変更量(H1からH1’への変更量、及びH2からH2’への変更量)を小さく抑えることが可能になる。このため、高さ調整機構105、106の小型化、延いては装置全体の小型化を図ることが可能になる。
【0075】
(他の実施形態)
本発明は、液体吐出ヘッドに形成された流路において液体を流動させつつ、吐出口から液体を吐出させる吐出動作と、吐出素子からコゲ等の異物を除去するクリーニング動作とを実行させる構成を採る液体吐出装置に適用可能である。従って、本発明は、液体吐出ヘッドから回収した液体の処理については特に限定されない。すなわち、上記実施形態のように、液体吐出ヘッドから回収した液体を再び液体吐出ヘッドに循環させる循環方式を採る液体吐出装置に限定されるものではない。例えば、液体吐出ヘッドから回収した液体を単に容器に保持しておき、供給側の容器内の液体が無くなった時点で、回収容器と入れ替えるようにしてもよい。
【0076】
また、上記実施形態では、フルライン型の記録装置を例に採り説明したが、記録媒体に対して液体吐出ヘッドを走査させる、所謂シリアル型の記録装置にも適用可能である。また、本発明は記録装置に限らず、その他の液体吐出装置にも適用可能である。
【符号の説明】
【0077】
3 記録ヘッド(液体吐出ヘッド)
13 吐出口
15 記録素子(吐出素子)
17a 供給口(液体供給口)
17b 回収口(液体回収口)
25 流路
53a 電極配線層
57 第2発熱層
100 液体流動機構(液体流動手段)
105、106 高さ調整機構
125 第1レギュレータ
126 第2レギュレータ
130 外部電源
201 CPU流速制御手段
1000 記録装置(液体吐出装置)