(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-09
(45)【発行日】2024-08-20
(54)【発明の名称】スタンディングスタートの実行のために路上走行車両を制御する方法
(51)【国際特許分類】
F16D 48/08 20060101AFI20240813BHJP
F16D 48/02 20060101ALI20240813BHJP
【FI】
F16D48/08
F16D48/02 640A
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020158636
(22)【出願日】2020-09-23
【審査請求日】2023-07-11
(31)【優先権主張番号】102019000017522
(32)【優先日】2019-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】519463178
【氏名又は名称】フェラーリ エッセ.ピー.アー.
【氏名又は名称原語表記】FERRARI S.p.A.
【住所又は居所原語表記】Via Emilia Est, 1163, 41100 MODENA, Italy
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アレッサンドロ バローネ
(72)【発明者】
【氏名】アンドレア ナンニーニ
(72)【発明者】
【氏名】ジャコモ センセリーニ
(72)【発明者】
【氏名】ステファノ マルコーニ
【審査官】鈴木 貴晴
(56)【参考文献】
【文献】独国特許発明第19653855(DE,C1)
【文献】特開2004-116401(JP,A)
【文献】特開平01-167429(JP,A)
【文献】特開平06-341333(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 25/06-25/12,
48/00-48/12
B60W 10/02
F02D 29/00-29/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のスタンディングスタートの実行のために路上走行車両(1)を制御する方法(1)であって、
前記路上走行車両(1)の対応するクラッチ(16A)が開放している間に、前記路上走行車両(1)のトランスミッション(7)のギアを噛み合わせるステップと、
前記クラッチ(16A)を漸進的に閉じて、前記路上走行車両(1)の少なくとも一対の駆動輪(3)の回転を引き起こすトルクを前記クラッチ(16A)に伝達させるステップと、
前記駆動輪(3)の目標スリップ(S
T)を決定するステップと、
前記駆動輪(3)の実際のスリップ(S
R)を周期的に決定するステップと、
前記駆動輪(3)の前記目標スリップ(S
T)と前記駆動輪(3)の前記実際のスリップ(S
R)との間の差に基づいて前記クラッチ(16A)の閉鎖中に前記クラッチ(16A)により伝達される前記トルクを連続的に調節するステップと、
を含む制御方法において、
前記クラッチ(16A)の閉鎖中に前記クラッチ(16A)により伝達される前記トルク
は、制御エラー(ε
S
)が前記駆動輪(3)の前記目標スリップ(S
T
)と前記駆動輪(3)の前記実際のスリップ(S
R
)との間の差であるフィードバック制御によって、前記駆動輪(3)の前記目標スリップ(S
T)に追随するように調節され
、
前記クラッチ(16A)の閉鎖中に前記クラッチ(16A)により伝達される前記トルクは、前記制御エラー(ε
S
)を入力として受けるPIDコントローラ(27)によって調節され、
前記第1のスタンディングスタートの終了時の前記PIDコントローラ(27)の積分寄与度の最終値(T
H
)が記憶され、
前記第1のスタンディングスタートの終了時の前記PIDコントローラ(27)の前記積分寄与度の前記最終値(T
H
)が、制御信号(前記第1のスタンディングスタートの後の第2のスタンディングスタート中に前記PIDコントローラ(27)により生成されるT
C
)に加算される制御方法。
【請求項2】
前記第1のスタンディングスタートの終了時の前記PIDコントローラ(27)の前記積分寄与度の前記最終値(T
H)は、前記路上走行車両(1)のターンオフまでのみ考慮される、請求項
1に記載の制御方法。
【請求項3】
前記第1のスタンディングスタートの過程にわたって前記クラッチ(16A)の閉鎖中に前記クラッチ(16A)により伝達される前記トルクの平均値を記憶するステップと、
前記第1のスタンディングスタートの後の第2のスタンディングスタートにおいて、前記トルクの初期値が前記第1のスタンディングスタートの過程にわたって前記クラッチ(16A)の閉鎖中に前記クラッチ(16A)により伝達される前記トルクの前記平均値に等しいと仮定するステップと、
を更に含む請求項1
または2に記載の制御方法。
【請求項4】
前記第1のスタンディングスタートの過程にわたって前記クラッチ(16A)の閉鎖中に前記クラッチ(16A)により伝達される前記トルクの前記平均値は、前記路上走行車両(1)のターンオフまでのみ考慮される、請求項
3に記載の制御方法。
【請求項5】
前記駆動輪(3)の回転速度(ω
3)を決定するステップと、
前記路上走行車両(1)の縦方向の速度に対応する回転速度(ω
2)を決定するステップと、
以下の方程式を用いて前記駆動輪(3)の前記実際のスリップ(S
R)を計算するステップと、
を更に含む請求項1から
4のいずれか一項に記載の制御方法。
S
R=(ω
3-ω
2)/ω
2
ω
2:前記路上走行車両(1)の縦方向の速度に対応する回転速度
ω
3:前記駆動輪(3)の回転速度
S
R:前記駆動輪(3)の前記実際のスリップ
【請求項6】
前記路上走行車両(1)の縦方向の速度に対応する前記回転速度(ω
2)が一対の非駆動輪(2)の回転速度(ω
2)に等しい、請求項
5に記載の制御方法。
【請求項7】
前記路上走行車両(1)が載置する路面のグリップの度合いを決定するステップと、
前記路面のグリップの度合いに基づいて前記クラッチ(16A)の閉鎖中に前記クラッチ(16A)により伝達される前記トルクの初期値を記憶するステップと、
前記路面のグリップの度合いに基づいて前記駆動輪(3)の前記目標スリップ(S
T)を周期的に決定するステップと、
を更に含む請求項1から
6のいずれか一項に記載の制御方法。
【請求項8】
前記駆動輪(3)の前記目標スリップ(S
T)が0.1~0.2の範囲である、請求項1から
7のいずれか一項に記載の制御方法。
【請求項9】
第1のスタンディングスタートの実行のために路上走行車両(1)を制御する方法(1)であって、
前記路上走行車両(1)の対応するクラッチ(16A)が開放している間に、前記路上走行車両(1)のトランスミッション(7)のギアを噛み合わせるステップと、
前記クラッチ(16A)を漸進的に閉じて、前記路上走行車両(1)の少なくとも一対の駆動輪(3)の回転を引き起こすトルクを前記クラッチ(16A)に伝達させるステップと、
前記駆動輪(3)の目標スリップ(S
T
)を決定するステップと、
前記駆動輪(3)の実際のスリップ(S
R
)を周期的に決定するステップと、
前記駆動輪(3)の前記目標スリップ(S
T
)と前記駆動輪(3)の前記実際のスリップ(S
R
)との間の差に基づいて前記クラッチ(16A)の閉鎖中に前記クラッチ(16A)により伝達される前記トルクを、前記駆動輪(3)の前記目標スリップ(S
T
)に追随するように連続的に調節するステップと、
前記第1のスタンディングスタートの過程にわたって前記クラッチ(16A)の閉鎖中に前記クラッチ(16A)により伝達される前記トルクの平均値を記憶するステップと、
前記第1のスタンディングスタートの後の第2のスタンディングスタートにおいて、前記トルクの初期値が前記第1のスタンディングスタートの過程にわたって前記クラッチ(16A)の閉鎖中に前記クラッチ(16A)により伝達される前記トルクの前記平均値に等しいと仮定するステップと、
を含む制御方法。
【請求項10】
前記第1のスタンディングスタートの過程にわたって前記クラッチ(16A)の閉鎖中に前記クラッチ(16A)により伝達される前記トルクの前記平均値は、前記路上走行車両(1)のターンオフまでのみ考慮される、請求項9に記載の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本特許出願は、その開示全体が参照により本願に組み入れられる2019年9月30日に出願されたイタリア特許出願第102019000017522号の優先権を主張する。
【0002】
本発明は、スタンディングスタートの実行のために路上走行車両を制御する方法に関する。
【0003】
本発明は、デュアルクラッチサーボアシストトランスミッションを備えるドライブトレインにおいて有利な用途を見出し、このため、これについては、一般性を失うことなく、以下の説明で明確に言及する。
【背景技術】
【0004】
デュアルクラッチサーボアシストトランスミッションを備えるドライブトレインは、互いに同軸で互いに独立しているとともに互いに内側に挿入される一対の主シャフトと、それぞれがそれぞれの主シャフトを内燃エンジンのドライブシャフトに接続するようになっている2つの同軸クラッチと、動きを駆動輪に伝達するとともにそれぞれがギアを形成するそれぞれのギアトレインによって主シャフトに結合され得る少なくとも1つの副シャフトとを備える。
【0005】
ギアシフト中、現在のギアが副シャフトを主シャフトに結合し、一方で、追従するギアが副シャフトを他の主シャフトに結合し、結果として、ギアシフトは、2つのクラッチを交差させることによって、すなわち、現在のギアに関連付けられるクラッチを開放することによって及び同時に追従するギアと関連付けられるクラッチを閉じることによって行われる。
【0006】
ドライバーが極めて高性能なスタンディングスタートを実行できるようにする機能(「パフォーマンスローンチ」と呼ばれる)がある。「パフォーマンスローンチ」としても知られるこの機能は、路上走行車両が静止しているときに(例えばボタンを押すことによって)ドライバーにより起動され、電子制御ユニットがあらゆる瞬間の縦方向の加速度を最大にするように内燃エンジン(つまり、トルクの生成)及びドライブトレイン(つまり、後続のギアのピックアップ及び噛み合いの際のクラッチの閉鎖の調節)を自律的に制御することを必要とする。特に、ドライバーは、「パフォーマンスローンチ」と呼ばれる機能を起動させるために、ブレーキペダルとアクセルペダルとを同時に踏み込む必要があり、また、ブレーキペダルが解放されるときに路上走行車両のスタンディングスタートが始まる(操作の完全な実行中に、ドライバーはアクセルペダルを完全に踏み込んだままにしなければならない)。
【0007】
スタンディングスタートの最も複雑でデリケートな段階は、駆動輪を過度にスリップさせず(駆動輪の適度なスリップは、それによって地面に伝えられるトルクを最大にできるため好ましい)クラッチをできるだけ迅速に閉じる必要があることから、間違いなくクラッチの閉鎖の調節である。
【0008】
「パフォーマンスローンチ」として知られる機能は、現在、クラッチ閉鎖段階中に地面に伝えられるべきトルク値を事前に定めて、この事前に定められたトルク値を常にクラッチに伝えさせるようにクラッチを漸進的に閉鎖することを伴う。しかしながら、この動作モードは、縦方向の加速度が常に最大になるようにするとは限らない。これは、地面にトルクを伝えることができる実際のタイヤの能力が常に正確に予測できるとは限らない態様で極めて変わりやすいからである。例えば、同じ路面上の同じタイヤでも、タイヤの摩耗状態に応じて、タイヤの温度に応じて、及び、路面の温度に応じて異なる性能を示す。この動作モードは、一部の好ましくない条件では、伝達するトルクが多すぎるため、駆動輪の過度のスリップを決定し(理想的な性能と比較して明らかに性能が低下する)、一方、他のより好ましい条件では、それが非常に僅かなトルクしか伝えない(したがって、理想的な性能に到達することができない)。
【0009】
ドイツ特許第19653855号明細書、ドイツ特許出願公開第102005051145号明細書、及び、ドイツ特許出願公開第102010014563号明細書は、スタンディングスタートの実行のために路上走行車両を制御する方法を記載しており、スタンディングスタートの実行中、内燃エンジンを駆動輪に接続するクラッチは、所定の程度のスリップを駆動輪に与えるように制御される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、スタンディングスタートの実行のために路上走行車両を制御する方法を提供することであり、前記方法は、前述の欠点を被らないと同時に、実施が容易で経済的である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、添付の特許請求の範囲に係る、スタンディングスタートの実行のために路上走行車両を制御する方法が提供される。
【0012】
添付の特許請求の範囲は、本発明の好ましい実施形態を記載し、明細書本文の一体部分を形成する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
ここで、本発明の非限定的な実施形態を示す添付図面を参照して本発明を説明する。
【
図1】本発明の制御方法にしたがって制御される、デュアルクラッチサーボアシストトランスミッションを伴うドライブトレインを備える後輪駆動の路上走行車両の概略平面図である。
【
図3】ドライブトレインの制御ユニットに実装される制御ロジックのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1において、数字1は、全体として、2つの前従動(すなわち、非駆動)輪2と2つの後駆動輪3とを備える路上走行車両(特に、自動車)を示す。前方位置には、ドライブトレイン6によって駆動輪3に伝達されるトルクを生成するドライブシャフト5を備える内燃エンジン4がある。ドライブトレイン6は、後輪駆動アセンブリに配置されるデュアルクラッチサーボアシストトランスミッション7と、ドライブシャフト5をデュアルクラッチサーボアシストトランスミッション7の入力に接続するトランスミッションシャフト8とを備える。デュアルクラッチサーボアシストトランスミッション7は、トレインのような態様でセルフロック差動装置9に接続され、セルフロック差動装置9からは一対のアクスルシャフト10が延び、各アクスルシャフト10は駆動輪3と一体である。
【0015】
路上走行車両1は、エンジン4を制御するエンジン4の制御ユニット11と、ドライブトレイン6を制御するドライブトレイン6の制御ユニット12と、バスライン13とを備え、バスライン13は、例えばCAN(カー・エリア・ネットワーク)プロトコルにしたがって製造され、路上走行車両1全体に延びるとともに、2つの制御ユニット11,12が互いに通信できるようにする。言い換えると、エンジン4の制御ユニット11及びドライブトレイン6の制御ユニット12は、バスライン13に接続され、したがって、バスライン13を介して送信されるメッセージによって互いに通信できる。更に、エンジン4の制御ユニット11及びドライブトレイン6の制御ユニット12は、専用の同期ケーブル14によって互いに直接に接続可能であり、専用の同期ケーブル14は、バスライン13によって引き起こされる遅延を伴うことなく、ドライブトレイン6の制御ユニット12からエンジン4の制御ユニット11へ信号を直接に送信できる。或いは、同期ケーブル14がなくてもよく、また、2つの制御ユニット11,12間の全ての通信がバスライン13を使用してやりとりされてもよい。
【0016】
図2によれば、デュアルクラッチサーボアシストトランスミッション7は、互いに同軸で互いに独立しているとともに互いに内側に挿入される一対の主シャフト15を備える。更に、デュアルクラッチサーボアシストトランスミッション7は、それぞれがそれぞれの主シャフト15をトランスミッションシャフト8の介在により内燃エンジン4のドライブシャフト5に接続するようになっている2つの同軸クラッチ16を備え、各クラッチ16は、オイルバスクラッチであり、そのため、圧力制御され(すなわち、クラッチ16の開閉の程度は、クラッチ16内のオイルの圧力によって決定される)、別の実施形態によれば、各クラッチ16は、乾式クラッチであり、したがって、位置制御される(すなわち、クラッチ16の開閉の程度は、クラッチ16の可動要素の位置によって決定される)。デュアルクラッチサーボアシストトランスミッション7は、駆動輪3に動きを伝達する差動装置9に接続される1つの単一の副シャフト17を備え、別の同等の実施形態によれば、デュアルクラッチサーボアシストトランスミッション7が2つの副シャフト17を備え、これらの副シャフト17はいずれも差動装置9に接続される。
【0017】
デュアルクラッチサーボアシストトランスミッション7は、ローマ数字で示される7つの前進ギア(第1のギアI、第2のギアII、第3のギアIII、第4のギアIV、第5のギアV、第6のギアVI、及び、第7のギアVII)と後進ギア(Rで示される)とを有する。主シャフト15及び副シャフト17は複数のギアトレインによって互いに機械的に結合され、各ギアトレインは、それぞれのギアを形成するとともに、主シャフト15に取り付けられる主ギアホイール18と、副シャフト17に取り付けられる副ギアホイール19とを備える。デュアルクラッチサーボアシストトランスミッション7の正確な動作を可能にするために、全ての奇数ギア(第1のギアI、第3のギアIII、第5のギアV、第7のギアVII)が同じ主シャフト15に結合され、一方、全ての偶数ギア(第2のギアII、第4のギアIV、及び、第6のギアVI)は他方の主シャフト15に結合される。
【0018】
各主ギアホイール18は、常に主シャフト15と一体に回転するようにそれぞれの主シャフト15にスプライン結合されるとともに、それぞれの副ギアホイール19と恒久的に噛み合い、一方、各副ギアホイール19は、副シャフト17に遊動態様で装着される。更に、デュアルクラッチサーボアシストトランスミッション7は4つの同期装置20を備え、各同期装置は、副シャフト17と同軸に装着され、2つの副ギアホイール19間に配置されるとともに、2つのそれぞれの副ギアホイール19を副シャフト17に対して二者択一的に取り付けるべく(すなわち、2つのそれぞれの副ギアホイール19が副シャフト17と角度的に一体になるようにするべく)動作されるように設計される。言い換えると、各同期装置20は、副ギアホイール19を副シャフト17に取り付けるべく一方向に移動され得る、或いは、他の副ギアホイール19を副シャフト17に取り付けるべく他方向に移動され得る。
【0019】
デュアルクラッチトランスミッション7は、駆動輪3に動きを伝達する差動装置9に接続される1つの単一の副シャフト17を備え、別の同等の実施形態によれば、デュアルクラッチトランスミッション7が2つの副シャフト17を備え、これらの副シャフト17はいずれも差動装置9に接続される。
【0020】
図1によれば、路上走行車両1は、ドライバーのための運転位置を確保する乗員室を備え、運転位置は、シート(図示せず)と、ステアリングホイール21と、アクセルペダル22と、ブレーキペダル23と、2つのパドルシフタ24,25とを備え、2つのパドルシフタ24,25はデュアルクラッチサーボアシストトランスミッション7を制御してステアリングホイール21の両側に接続される。アップシフトパドルシフタ24は、アップシフト(すなわち、現在のギアよりも高く且つ現在のギアと隣接する新しいギアの噛み合い)を要求するためにドライバーによって(短い圧力により)操作され、一方、ダウンシフトパドルシフタ25は、ダウンシフト(すなわち、現在のギアよりも低く且つ現在のギアと隣接する新しいギアの噛み合い)を要求するためにドライバーによって(短い圧力により)操作される。
【0021】
路上走行車両1が静止しているときに、ドライバーは、(技術的に「パフォーマンスローンチ」として知られる)機能を(例えばボタンを押すことによって)起動することができ、この機能は、極めて高性能なスタンディングスタートを可能にするとともに、あらゆる瞬間で縦方向の加速度を最大にするためにドライブトレイン6の電子制御ユニット12が内燃エンジン4を自律的に制御し(すなわち、内燃エンジン4によって生成されるトルクを定め)且つドライブトレイン6を制御する(すなわち、後続のギアのピックアップ及び噛み合いの際のクラッチ16Aの閉鎖の調節)ことを必要とする。特に、ドライバーは、「パフォーマンスローンチ」と呼ばれる機能を起動させるために、ブレーキペダル23とアクセルペダル22とを同時に踏み込む必要があり、また、ブレーキペダル23が解放されるときに路上走行車両1のスタンディングスタートが始まる(操作の完全な実行中に、ドライバーはアクセルペダル22を完全に踏み込んだままにしなければならない)。
【0022】
ブレーキペダル23が踏み込まれる限り、路上走行車両1は明らかに静止しており、ドライブトレイン6の制御ユニット12は、内燃エンジン4を比較的ゆっくりと作動させ(約2,000~3,000回転/分)、スタンディングスタートを始める第1のギアIと噛み合い、クラッチ16A(奇数のギア、つまり、スタンディングスタートを始める第1のギアIとも噛み合う)を僅かに閉じ、それにより、クラッチ16Aを介してゼロ以外の最小トルク(例えば4~8Nmの範囲)を伝えてドライブトレイン6に予荷重を与える(つまり、全ての機械的クリアランスを回復させる)。ブレーキペダル23が解放されると直ぐに、ドライブトレイン6の制御ユニット12は、内燃エンジン4の回転速度及び内燃エンジン4によって生成されるトルクを増大させ、同時に、2つの駆動輪3の回転を引き起こすトルクをクラッチ16Aに伝達させるようにクラッチ14Aを漸進的に閉じる。
【0023】
特に、
図3によれば、ドライブトレイン6の制御ユニット12は、駆動輪3の目標スリップS
Tを周期的に決定するとともに、スタンディングスタート中に駆動輪3の実際のスリップS
Rを周期的に決定し、その後、駆動輪3の目標スリップS
Tと駆動輪3の実際のスリップS
Rとの間の差に基づいて、クラッチ16Aの閉鎖中にクラッチ16Aによって伝達されるトルクを連続的に調節する(変える)。好ましくは、ドライブトレイン6の制御ユニット12は、クラッチ16Aの閉鎖中にクラッチ16Aによって伝達されるトルクの初期値を事前に(すなわち、スタンディングスタートを開始する前に)決定し、その後、クラッチ16Aの閉鎖中に事前に定められた初期値を起点としてクラッチ16Aにより伝達されるトルクを調節する(変える)。
【0024】
言い換えると、ドライブトレイン6の制御ユニット12は、駆動輪3の目標スリップSTを目指すべく、すなわち、駆動輪3が常に目標スリップSTを有することができるようにするべく、クラッチ16Aの閉鎖中にクラッチ16Aによって伝達されるトルクを調節する。
【0025】
明らかに、比較的長時間のスタンディングスタート中に、後続のギアが噛み合わされる場合(例えば、全ての偶数ギアと同様に、クラッチ16Bによって制御される第2のギアII)、ドライブトレイン6の制御ユニット12は、クラッチ16Bの閉鎖中にクラッチ16Bによって伝達されるトルクを調節する。
【0026】
図3に示される好ましい実施形態によれば、ドライブトレイン6の制御ユニット12は、フィードバック制御を実施してクラッチ16Aの閉鎖中にクラッチ16Aによって伝達されるトルクを調節し、フィードバック制御において、制御エラーε
Sは、駆動輪3の目標スリップS
Tと駆動輪3の実際のスリップS
Rとの間の差に等しい。特に、フィードバック制御は、駆動輪3の目標スリップS
Tと駆動輪3の実際のスリップS
Rとの間の差を実行する制御エラーε
Sを計算する減算器ブロック26の使用を伴い、また、制御エラーε
Sを入力として受けるとともにクラッチ16Aによって瞬間ごとに伝達されるべき実際のトルクに対応する制御信号T
Cを出力として与えるPIDコントローラ27の使用も伴う。
【0027】
一般的に言えば、タイヤの小さなスリップがタイヤにより路面に伝達されるトルクの最大化を可能にするため、駆動輪3の目標スリップSTは0.1~0.2の範囲である(しかし、僅かに異なることもあり得る)。
【0028】
拘束力のない好ましい実施形態によれば、ドライブトレイン6の制御ユニット12は、路上走行車両1が載置する路面のグリップの度合いを決定するとともに、路面のグリップの度合いに基づいてクラッチ16Aの閉鎖中にクラッチ16Aにより伝達されるトルクの初期値を決定する。一般的に言えば、グリップの度合いに関する情報は、それが(既知の態様で)推定されてブレーキ制御ユニットによって共有されるため、バスライン13を介して利用できる。
【0029】
拘束力のない好ましい実施形態によれば、ドライブトレイン6の制御ユニット12は、路面のグリップの度合い(路上走行車両1が移動するにつれて、したがって、路上走行車両が載置する路面が変化するにつれて、連続的に変化する)に基づいて目標スリップSTを周期的に決定する。想定し得る実施形態によれば、ドライブトレイン6の制御ユニット12には、路面のグリップの度合いに基づいて駆動輪3の目標スリップSTを与えるマップ(一般に実験的に得られる)が記憶され、明らかに、マップのパラメータは、駆動輪3に装着されるタイヤのタイプに応じて設定される。その結果、路面のグリップの度合いは、クラッチ16Aの閉鎖中にクラッチ16Aにより伝達されるトルクの初期値を決定するため及び目標スリップSTを決定するための両方において使用され得る。
【0030】
別の実施形態によれば、駆動輪3の目標スリップSTは、スタンディングスタート全体にわたって一定のままであり、スタンディングスタートの開始前に事前に定められる。
【0031】
想定し得る実施形態によれば、ドライブトレイン6の制御ユニット12は、前のスタンディングスタートの終了時のPIDコントローラ27の積分寄与度の最終値THをメモリブロック28に記憶し、その後、加算器ブロック29により、前のスタンディングスタートの終了時のPIDコントローラ27の積分寄与度の最終値THを、後続のスタンディングスタート中にPIDコントローラ27によって生成される制御信号TCに加算する。制御信号TCに最終値THを加算することにより得られる修正済み制御信号TFは、クラッチ16Aを制御するために使用される。言い換えると、修正済み制御信号TFは、閉ループ寄与度(すなわち、PIDコントローラ27によって生成される制御信号TC)を開ループ寄与度(すなわち、前のスタンディングスタートの終了時のPIDコントローラ27の積分寄与度の最終値TH)に加算することによって得られる。このようにして、最初の(前の)スタンディングスタートを実行した後、第1の(前の)スタンディングスタート中に必要だった実際の修正を学習して、修正をあまり必要としない開始点から第2の(後続の)スタンディングスタートを開始することができる。明らかに、第1のスタンディングスタート中、最終値THはゼロである。
【0032】
クラッチ16が(オイルの)圧力に基づいて制御されるため、修正済み制御信号TFが変換チャート(事前に知られている)によって対応する圧力値に変換されることに留意すべきである。
【0033】
好ましい実施形態によれば、前のスタンディングスタートの終了時のPIDコントローラ27の積分寄与度の最終値THは、路上走行車両1のターンオフまで考慮されるにすぎず、すなわち、路上走行車両1のターンオフが最終値THを(ゼロに)リセットする。異なる実施形態によれば、最終値THは、前のスタンディングスタートから所定の時間(例えば20分)が経過した後にのみ(ゼロに)リセットされる。
【0034】
異なる実施形態によれば、ドライブトレイン6の制御ユニット12は、前のスタンディングスタートのためのクラッチ16Aの閉鎖中にクラッチ16Aにより伝達されるトルクの平均値を記憶するとともに、新たなスタートのトルクの初期値が前のスタンディングスタートのためのクラッチ16Aの閉鎖中にクラッチ16Aにより伝達されるトルクの平均値に等しいと仮定する。この場合も、前のスタンディングスタートのためのクラッチ16Aの閉鎖中にクラッチ16Aにより伝達されるトルクの平均値は、路上走行車両1のターンオフまで(又は前のスタンディングスタートから所定の時間内で)考慮されるにすぎない。
【0035】
図3によれば、以下の方程式により駆動輪3の実際のスリップS
Rを計算する計算ブロック30が設けられる。
【0036】
SR=(ω3-ω2)/ω2
ω2 路上走行車両1の縦方向の速度に対応する回転速度
ω3 駆動輪3の回転速度
SR 駆動輪3の実際のスリップ。
【0037】
特に、路上走行車両1の縦方向の速度に対応する回転速度ω2は、一対の非駆動輪2の回転速度ω2に等しい。
【0038】
路上走行車両1のドライブトレイン6が単一クラッチサーボアシストトランスミッションを備えているときでさえ、大きな変更を伴うことなく、先に開示されたことを適用できる。
【0039】
前述の制御方法は様々な利点を有する。
【0040】
まず第一に、前述の制御方法は、それが理想的且つ迅速な態様で周囲の状態に常に調整して駆動輪3の目標スリップSTと駆動輪3の実際のスリップSRとの間の差に基づきクラッチ16Aの閉鎖中にクラッチ16Aにより伝達されるトルクを連続的に調節できるため、実際の周囲の状態(例えば、路面の温度、タイヤの温度、タイヤの摩耗状態)に関係なくスタンディングスタート中にドライバーが想定し得る最大加速度を常に得ることができるようにする。
【0041】
更に、前述の制御方法は、その実行が限られた記憶空間と低い計算能力とを必要とするため、実施するのが容易且つ経済的である。
【符号の説明】
【0042】
1 路上走行車両
2 前輪
3 後輪
4 エンジン
5 ドライブシャフト
6 ドライブトレイン
7 トランスミッション
8 トランスミッションシャフト
9 差動装置
10 アクスルシャフト
11 エンジン制御ユニット
12 ドライブトレイン制御ユニット
13 バスライン
14 同期ケーブル
15 主シャフト
16 クラッチ
17 副シャフト
18 主ギアホイール
19 副ギアホイール
20 同期装置
21 ステアリングホイール
22 アクセルペダル
23 ブレーキペダル
24 アップシフトパドルシフタ
25 ダウンシフトパドルシフタ
26 減算器ブロック
27 PID制御
28 メモリブロック
29 加算器ブロック
30 計算ブロック
ω2 回転速度
ω3 回転速度
SR 実際のスリップ
ST 目標スリップ
εS 制御エラー
TC 制御信号
TH 最終値
TF 修正済み制御信号