IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 古河電池株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-非水電解質二次電池 図1
  • 特許-非水電解質二次電池 図2
  • 特許-非水電解質二次電池 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-09
(45)【発行日】2024-08-20
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/052 20100101AFI20240813BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20240813BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20240813BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20240813BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20240813BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20240813BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20240813BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M10/0567
H01M10/0568
H01M10/0569
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/485
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020171223
(22)【出願日】2020-10-09
(65)【公開番号】P2022062977
(43)【公開日】2022-04-21
【審査請求日】2023-07-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000005382
【氏名又は名称】古河電池株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 智哉
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 智統
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/194439(WO,A1)
【文献】特開2018-045790(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/052
H01M 10/0567
H01M 10/0568
H01M 10/0569
H01M 4/505
H01M 4/525
H01M 4/485
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、負極、及び非水電解質を備えた非水電解質二次電池であって、
前記正極は、リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物を正極活物質として含む正極層を備え、
前記負極は、リチウムチタン系複合酸化物を負極活物質として含む負極層を備え、
前記非水電解質は、
プロピレンカーボネートをその合量に対して10体積%を超え、20体積%以下の割合で含む非水溶媒(ジメチルカーボネートを除く)
LiPF 又はLiBF を含み、濃度が非水溶媒に対して1.0mоl/L以上1.3mоl/L以下である電解質;
LiPO からなる添加剤;
を含み、
前記添加剤の濃度が非水溶媒と電解質の合量に対して0.5重量%以上1.0重量%以下であるとき、初回充電時の前記正極の容量(X)と前記負極の容量(Y)の容量比(Y/X)は、0.80以上0.85以下であることを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物は、一般式Li α Ni Co Mn (1-x-y-z) (式中、1.05≦α≦1.13、1≧x+y+z、Mは、Mg、Al、Ti、Fe、Cu、Zn、Ga、Nb、Sn、Zr及びTaから選ばれる少なくとも1種の置換元素)で表され、
前記リチウムチタン系複合酸化物は、一般式Li α Ti 12 (式中、3.0<α<5.0、4.0<x<6.0)で表される
ことを特徴とする、請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記非水溶媒は、前記プロピレンカーボネート及びメチルエチルカーボネートからなり、前記添加剤の濃度が非水溶媒と電解質の合量に対して0.5重量%であるとき、前記容量比は、0.80以上0.81以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
前記非水溶媒は、前記プロピレンカーボネート及びメチルエチルカーボネートからなり、前記添加剤の濃度が非水溶媒と電解質の合量に対して1.0重量%であるとき、前記容量比は、0.80以上0.83以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項5】
前記非水溶媒は、前記プロピレンカーボネート及びジエチルカーボネートからなり、前記添加剤の濃度が非水溶媒と電解質の合量に対して0.5重量%であるとき、前記容量比は、0.80以上0.83以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項6】
前記非水溶媒は、前記プロピレンカーボネート及びジエチルカーボネートからなり、前記添加剤の濃度が非水溶媒と電解質の合量に対して1.0重量%であるとき、前記容量比は、0.80以上0.84以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項7】
前記非水溶媒は、前記プロピレンカーボネート、メチルエチルカーボネート及びジエチルカーボネートからなり、前記添加剤の濃度が非水溶媒と電解質の合量に対して0.5重量%であるとき、前記容量比は、0.80以上0.83以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項8】
前記非水溶媒は、前記プロピレンカーボネート、メチルエチルカーボネート及びジエチルカーボネートからなり、前記添加剤の濃度が非水溶媒と電解質の合量に対して1.0重量%であるとき、前記容量比は、0.80以上0.84以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項9】
前記正極は、1枚当たりの乾燥後の前記正極層の水分量が110ppm以下であり、
前記負極は、1枚当たりの乾燥後の前記負極層の水分量が220ppm以下であることを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池は、携帯機器、電気自動車、住宅又は事業施設用の蓄電池等の幅広い用途に用いられている。そのため、リチウムイオン二次電池は、用途によって、低温又は高温環境下で使用される可能性がある。リチウムイオン二次電池には、高温又は低温の環境下で繰り返し充放電を行っても、充放電特性が劣化しないことが求められている。
【0003】
一般的に、リチウムイオン二次電池は、正極と負極との間でリチウムイオンを移動させて充放電を行う。正極は、リチウムイオンを吸蔵及び放出することが可能な正極活物質を含む。負極は、リチウムイオンを吸蔵及び放出することが可能な負極活物質を含む。正極と負極の間には、内部短絡を防止するためのセパレータが介在されている。セパレータには、非水電解液が含侵している。
【0004】
近年、幅広い温度環境下で使用できる電池として、負極活物質にLi Ti 12 等のリチウムチタン系複合酸化物(以下、LTOとも称する)を使用した電池が注目されている。LTOは、スピネル構造を有しているため、熱的安定性に優れており、充放電に伴う膨張収縮による体積変化が小さいという利点がある。また、LTOでは、リチウムイオンの吸蔵電位が0.5V(vs.Li/Li )以上であり、作動電圧が高い。これにより、負極界面における非水溶媒の還元分解反応を抑制できる利点がある。
LTOと組み合わせて使用される正極活物質として、高容量化の観点から、リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物(以下、LNCMとも称する)が注目されている。
【0005】
しかしながら、負極活物質にLTOを使用する電池では、高温環境下での充放電に伴うガス発生による膨張が生じる虞があった。ガス発生は、電極間距離が開くことによる電池の内部抵抗の増加、及び寿命性能の低下を招く。また、正極活物質にLNCMを使用する電池では、高温環境下での充放電に伴う正極活物質の膨張収縮が大きく、ひび割れ等の正極層の欠陥を招く虞があった。このような欠陥は、高温環境下での充放電特性の劣化、及び寿命性性能の劣化を招く。
【0006】
特許文献1では、優れた耐久性(サイクル特性等)と高い信頼性(安全性等)を確保するため、過充電添加剤とジフルオロリン酸塩とを含有する非水電解質を使用する、リチウムイオンイオン二次電池の製造方法が開示されている。
【0007】
特許文献2では、厳しい使用環境下(高温環境下等)でのガス発生及び充放電特性を向上させるため、層状構造のリチウム遷移金属複合酸化物の表面に異種金属であるチタンを存在させた正極活物質が開示されている。特許文献2では、リチウム遷移金属複合酸化物の一例としてLNCMが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2015-191853号公報
【文献】特開2005-123111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に開示されたように、過充電添加剤とジフルオロリン酸塩とを含有する非水電解質を使用しても、高温環境下でのガス発生の抑制は不十分であった。また、特許文献2に開示されたように、異種金属を含むLNCMを正極活物質として使用しても、高温環境下での充放電特性、及び寿命性能の改善は不十分であった。また、これら電池には、低温環境下での充放電特性の改善にも課題があった。
【0010】
本発明は上記課題を解決し、高温環境下でのガス発生を抑制でき、高温及び低温環境下において優れた充放電特性を有する非水電解質二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、一つの実施形態によると、正極、負極、及び非水電解質を備えた非水電解質二次電池であって、前記正極は、リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物を正極活物質として含む正極層を備え、前記負極は、リチウムチタン系複合酸化物を負極活物質として含む負極層を備え、前記非水電解質は、プロピレンカーボネートをその合量に対して10体積%を超え、20体積%以下の割合で含む非水溶媒;LiPF 又はLiBF を含み、濃度が非水溶媒に対して1.0mоl/L以上1.3mоl/L以下である電解質;LiPO からなる添加剤;を含み、前記添加剤の濃度が非水溶媒と電解質の合量に対して0.5重量%以上1.0重量%以下であるとき、初回充電時の前記正極の容量(X)と前記負極の容量(Y)の容量比(Y/X)は、0.80以上0.85以下である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高温環境下でのガス発生を抑制でき、高温及び低温環境下において優れた充放電特性を有する非水電解質二次電池を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態に係る非水電解質二次電池の一例を示す平面図である。
図2図1の電極群を示す平面図である。
図3図2のIII-III線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、実施形態に係る非水電解質二次電池(リチウムイオン二次電池)を詳細に説明する。実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、正極と、負極と、非水電解質とを備えている。リチウムイオン二次電池は、更に、非水電解質を含侵するセパレータと、それらを収納する外装体を備えてよい。
【0015】
<非水電解質>
非水電解質は、非水溶媒、電解質及び添加剤を含む。
非水電解質には、非水溶媒に電解質及び添加剤を溶解することで調製される液状の非水電解液を使用することができる。
【0016】
非水溶媒は、プロピレンカーボネート(PC)をその合量に対して10体積%を超え、20体積%以下の割合で含む。非水溶媒は、好ましくは、20体積%のPCからなる。
【0017】
PCは、環状カーボネートである。PCは、誘電率が高く、導電率が高い特性を有している。このPCの特性は、他の環状カーボネートと比較して、低温環境下で顕著である。PCは、高誘電性により電解質及び添加剤の溶解性を向上でき、高導電性により非水電解質の電気伝導性を向上することができる。
【0018】
PCの含有量が10体積%以下であると、非水溶媒の誘電率が低下して、高温環境下でのガス発生の危険性が高める虞があるため好ましくない。また、低温環境下での導電性が低下して、低温環境下での電池の放電特性が低下する虞があるため好ましくない。一方、PCの含有量が20体積%を超えると、非水溶媒の粘度が増加する傾向がある。その結果、低温環境下での導電性が低下して、低温環境下での電池の放電特性が低下する虞があるため好ましくない。
【0019】
非水溶媒は、PCとは別の溶媒成分として、ジエチルカーボネート(DEC)及び/又はメチルエチルカーボネート(MEC)を含むことが好ましい。非水溶媒は、好ましくは、PCと、DEC及び/又はMECとからなる。
DEC及びMECは、鎖状カーボネートである。DEC及びMECは、粘度が低い特性を有し、特に低温環境下での非水電解質の電気伝導性を向上することができる。MECは、非水溶媒に抗酸化作用を付与することができる。
【0020】
非水溶媒は、DEC、及び/又はMECを更に含むことによって、各特性のバランスが良好であり、高い電導性、低い粘度、及び高い誘電率を有することができる。このような非水溶媒の構成によって、低温環境下でも非水電解質は高い電気伝導性を有することができ、電池の内部抵抗を低減でき、低温環境下での充放電特性を改善できる。また、このような非水溶媒の構成によって、高温環境下での非水電解液の分解を抑制することができ、ガス発生の抑制を実現することができる。
【0021】
ここで、一般的なリチウムイオン二次電池では、負極活物質として黒鉛が使用される。従来、非水溶媒にPCを上記含有量で含み、かつ負極活物質が黒鉛である場合、充電時に負極層界面でPCが還元分解される虞があった。この還元分解は、負極界面でのガス発生を招き、負極層の剥がれの欠陥を招く。本実施形態では、後述するように、負極活物質として高い作動電圧を有するリチウムチタン系複合酸化物(LTO)を使用する。これにより、上記PCの還元分解が生じない電位で電池を充放電することができる。本実施形態では、LTOと上記非水溶媒の組み合わせによって、上述するPCの還元分解による不利益を生じることなく、特に低温環境下での充放電特性を改善することができる。
【0022】
非水溶媒は、PC、DEC、及びMEC以外の副成分となる非水溶媒を含んでもよい。
非水溶媒の副成分としては、例えば、エチルメチルカーボネート(EMC)、ビニレンカーボネート(VC)等の環状カーボネート、ジメチルカーボネート(DMC)等の鎖状カーボネート、テトラヒドロフラン(THF)、2-メチルテトラヒドロフラン(2MeTHF)等の環状エーテル、ジメトキシエタン(DME)等の鎖状エーテル、アセトニトリル(AN)、スルホラン(SL)等が挙げられる。非水溶媒の副成分は、これらの単体又は複数の混合物として用いることができる。
なお、非水溶媒は、更にDECを含むことで、更にジメチルカーボネート(DMC)を含む場合と比較して、容量維持率の向上、高温環境下での充放電におけるガス発生量の低減の効果が得られる。
【0023】
電解質は、六フッ化リン酸リチウム(LiPF )又は四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF )を含む。電解質は、非水溶媒に対して、1.0mоl/L以上1.3mоl/L以下の濃度で含むことが好ましい。非水電解質が上記電解質を上記濃度で含むことによって、電極界面での反応に寄与するリチウムイオンの量が適切であるため、非水電解質の導電性を高めることができる。その結果、特に低温環境下において、充放電時の分極が抑制され、電池の充放電特性を改善することができる。
【0024】
電解質の濃度が非水溶媒に対して1.0mol/L未満であると、電極界面での反応に寄与するリチウムイオンの量が減少して、特に低温環境下での放電容量が低下する虞があるため好ましくない。一方、電解質の濃度が非水溶媒に対して1.3mоl/Lを超えると、非水電解質の粘度が増加し、電極界面での分極が増加して、特に低温環境下での放電容量が低下する虞があるため好ましくない。
【0025】
電解質は、LiPF 又はLiBF 以外の副成分となる電解質を含んでもよいが、好ましくは含まない。電解質の副成分としては、六フッ化ヒ素リチウム(LiAsF )、過塩素酸リチウム(LiClO )、及びトリフルオロメタスルホン酸リチウム(LiCF SO )等が挙げられる。電解質の副成分は、これらの単体又は複数の混合物として用いることができる。
【0026】
添加剤は、ジフルオロリン酸リチウム(LiPO )からなる。添加剤は、非水溶媒に溶解して、PO アニオンを放出する。
【0027】
添加剤は、非水溶媒と電解質の合量に対して、0.5重量%以上1.0重量%以下の濃度で含む。非水電解質が上記添加剤を上記濃度で含むことによって、電池の正極層の内部抵抗を低下させ、低温環境下でのリチウム析出を抑制することができる。その結果、高環境下での充放電時のガス発生を抑制して、低温環境下での充放電特性を改善することができる。これにより、電池の寿命性能及び信頼性を改善することができる。
【0028】
添加剤の濃度が非水溶媒と電解質の合量に対して、0.5重量%未満であると、特に低温環境下において充放電特性が低下し、かつ高温環境下での充放電時のガス発生が増加する虞があるため好ましくない。一方、添加剤の濃度が非水溶媒と電解質の合量に対して、1.0重量%を超えると、非水電解質の粘度が増加して、充放電時の電極界面での分極が増加して、特に低温環境下での放電容量が低下する虞があるため好ましくない。
【0029】
<正極>
正極は、例えば、正極集電体と、当該正極集電体の一方又は両方の面に形成された正極活物質、導電助剤、結着材を含む正極層を備える。
正極集電体としては、例えば、アルミニウム箔又はアルミニウム合金箔を用いることができる。
【0030】
正極活物質は、リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物(LNCM)を含む。LNCMは、例えば、Li 1.05 Ni 0.50 Co 0.20 Mn 0.30 である。LNCMは、リチウムマンガン系複合酸化物(例えばLiMnO )等の他の正極活物質と比較して、特に低温環境下での充放電特性が良好である。正極活物質は、好ましくは、LNCMからなる。
【0031】
LNCMは、好ましくは、一般式Li α Ni Co Mn (1-x-y-z) (式中、1.05≦α≦1.13、1≧x+y+z、Mは、Mg、Al、Ti、Fe、Cu、Zn、Ga、Nb、Sn、Zr及びTaから選ばれる少なくとも1種の置換元素)で表される化合物である。Mは、好ましくはAlである。
【0032】
上記一般式のLNCMでは、Ni又はMn元素の一部が異種金属元素で置換されている。LNCMが異種金属の置換元素を含むと、正極活物質の熱的安定性が向上する。これは、異種金属の置換元素によって、酸素と金属元素との共有結合が強固になり、高温環境下で充放電時、正極活物質から酸素脱離するのを抑制するためである。その結果、高温環境下での充放電時の正極活物質の膨張収縮を抑制でき、正極層のひび割れ等の欠陥を抑制することができる。その結果、正極層の熱的安定性を向上することで、特に高温環境下での充放電特性を改善することができる。特に、上記特定の濃度の添加剤を含む非水電解質を組み合わせることによって、高温環境下での充放電特性が更に良好にできる。
【0033】
導電助剤は、特に限定されるものでなく、公知又は市販のものを使用できる。導電助剤は、リチウムイオンの吸蔵放出反応で生じた電子が正極層内を伝導して正極集電体まで到達することを補助する。導電助剤としては、例えば、黒鉛、及びアセチレンブラック等が挙げられる。導電助剤は、単体又は複数の混合物として用いることができる。
【0034】
結着材は、特に限定されるものではなく、公知又は市販のものを使用できる。結着材は、正極活物質と導電助剤、及び正極層と正極集電体を結着させる。結着材は、非水電解質との接触によって劣化しないことが好ましい。
結着材としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)やポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素系ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、及びカルボキシメチルセルロース(CMC)等が挙げられる。結着材は、単体又は複数の混合物として用いることができる。
【0035】
正極層は、正極活物質が85~95重量%、導電助剤が4~8重量%、かつ結着材が3~5重量%の範囲であることが好ましい。
【0036】
なお、正極は例えば次に示す方法で作製することができる。最初に、前述した正極活物質、導電助材及び結着材を溶剤に分散させて正極スラリーを調製する。続いて、正極集電体の一方または両方の面に正極スラリーを塗布した後、乾燥して正極層を形成することで正極を作製することができる。正極スラリーには、更に増粘剤又は分散剤を添加してもよい。正極スラリーの調製に使用される溶剤としては、例えばN-メチル-2-ピロリドン(NMP)又は水が挙げられる。
【0037】
正極は、1枚当たりの乾燥後の正極層の水分量が110ppm以下であることが好ましく、より好ましくは100ppm以下である。当該水分量を110ppm以下にすると、高温環境下での充放電時のガス発生を更に抑制することができる。正極層の水分量は、カールフィッシャー法等で測定することができる。カールフィッシャー法による水分量の測定は、例えば、JISK0068:2001に準拠する方法で行うことができる。正極層の乾燥では、好ましくは、120℃~130℃の高温環境下で40時間以上真空乾燥が行われる。
【0038】
<負極>
負極は、例えば、負極集電体と、当該負極集電体の一方又は両方の面に形成された負極活物質、導電材、結着材を含む負極層を備える。
負極集電体としては、例えば、アルミニウム箔又はアルミニウム合金箔を用いることができる。
【0039】
負極活物質は、リチウムチタン系複合酸化物(LTO)を含む。LTOは、好ましくは、スピネル構造を有している。負極活物質は、好ましくはLTOからなる。
LTOは、好ましくは、一般式Li α Ti 12 (式中、3.0<α<5.0、4.0<x<6.0)で表される化合物である。LTOは、リチウムイオンの吸蔵電位が0.5V(vs.Li/Li )以上であることが好ましく、より好ましくは0.5V以上1.0V(vs.Li/Li )以下である。
【0040】
LTOの平均粒子径は、0.6μm~0.7μmの範囲であることが好ましい。平均粒径が上記範囲のものを使用すると、比表面積を大きくすることができるため、良好な放電特性を得ることができる。
【0041】
また、LTOの比表面積は、5.0m /g~6.5m /gの範囲であることが好ましい。比表面積が上記範囲のものを使用すると、電極反応に有効に寄与する表面積が十分であるため、良好な放電特性を得ることができ、充放電時の負極表面でのガス発生を効果的に抑制することができる。
【0042】
導電助剤は、特に限定されるものでなく、公知又は市販のものを使用できる。導電助剤は、リチウムイオンの吸蔵放出反応で生じた電子が負極層内を伝導して負極集電体まで到達することを補助する。導電助剤としては、例えば、黒鉛、アセチレンブラック、及びカーボンブラック等が挙げられる。導電助剤は、単体又は複数の混合物として用いることができる。
【0043】
結着材は、特に限定されるものではなく、公知又は市販のものを使用できる。結着材は、負極活物質と導電助剤、及び負極層と負極集電体を結着させる。結着材は、非水電解質との接触によって劣化しないことが好ましい。結着材としては、例えば、正極用の結着材と同様のものを用いることができる。
【0044】
負極層は、負極活物質が93~97重量%、導電助剤が1.5~3重量%、かつ結着材が2~4重量%の範囲であることが好ましい。
【0045】
なお、負極は例えば次に示す方法で作製することができる。最初に、前述した負極活物質、導電助材及び結着材を溶剤に分散させて負極スラリーを調製する。続いて、負極集電体の一方または両方の面に負極スラリーを塗布した後、乾燥して負極層を形成することで負極を作製することができる。負極スラリーには、更に増粘剤又は分散剤を添加してもよい。負極スラリーの調製に使用される溶剤としては、例えばN-メチル-2-ピロリドン(NMP)又は水が挙げられる。
【0046】
負極は、1枚当たりの乾燥後の負極層の水分量が220ppm以下であることが好ましく、より好ましくは200ppm以下である。当該水分量を220ppm以下にすると、高温環境下での充放電時のガス発生を更に抑制することができる。負極層の水分量は、例えば上述する正極層の水分量の測定と同様の方法で測定することができる。負極層の乾燥では、好ましくは、100℃~130℃の高温環境下で40時間以上真空乾燥が行われる。
【0047】
<正極と負極の容量比>
正極が含む正極活物質の初回放電時の容量をXとし、負極が含む負極活物質の初回充電時の容量をYとする。添加剤(LiPO )の濃度が非水溶媒と電解質の合量に対して0.5重量%以上1.0重量%以下であるとき、初回充電時の正極の容量(X)と負極の容量(Y)の容量比(Y/X)は、0.80以上0.85以下である。当該容量比は、好ましくは0.80以上0.83以下である。
【0048】
発明者らが鋭意検討した結果、添加剤の濃度と上記容量比とには、相関関係があり、電池性能の劣化を抑制するための適切な値があると判明した。
【0049】
当該容量比を0.80以上0.85未満にすると、充電時の正極電位が相対的に低く抑えられ、高温環境下での充放電に伴う正極層の劣化を抑制できる。これにより、当該電池の高温環境下での充放電特性を改善でき、ガス発生を抑制することができる。
【0050】
当該容量比を0.80未満にすると、充電時に負極集電体(アルミニウム箔等)が溶解して、Li金属と合金化が進行する虞がある。負極層の劣化の進行は、充放電サイクル特性の悪化を招く。当該容量比を0.85以上にすると、正極電位が高くなるため、高温環境下での充放電に伴う正極層の劣化が進行する虞がある。
【0051】
非水溶媒がPC及びMECからなり、添加剤の濃度が0.5重量%であるとき、当該容量比は、好ましくは、0.80以上0.81以下である。非水溶媒がPC及びMECからなり、添加剤の濃度が1.0重量%であるとき、当該容量比は、好ましくは0.80以上0.83以下である。
また、非水溶媒がPC及びDECからなり、添加剤の濃度が0.5重量%であるとき、当該容量比は、好ましくは0.80以上0.83以下である。非水溶媒がPC及びDECからなり、添加剤の濃度が1.0重量%であるとき、当該容量比は、好ましくは0.80以上0.84以下である。
また、非水溶媒は、PC、MEC及びDECからなり、添加剤の濃度が0.5重量%であるとき、当該容量比は、好ましくは0.80以上0.83以下である。非水溶媒は、PC、MEC及びDECからなり、添加剤の濃度が1.0重量%であるとき、当該容量比は、好ましくは0.80以上0.84以下である。
添加剤の濃度と上記容量比が上記関係にあると、充電時の正極側の電位を相対的に低く抑えられることができるため、高温環境下での充放電に伴う正極層の劣化を抑制することができる。
【0052】
なお、容量X及び容量Yは、それぞれ正極及び負極の単位面積当たりの設計容量である。正極の容量Xは、正極活物質の理論容量[mAh/g]と、電極密度[g/cc]と、正極層に占める正極活物質の割合[重量%]とから算出され得る設計値である。同様に、負極活物質の理論容量[mAh/g]と、電極密度[g/cc]と、負極層に占める負極活物質の割合[重量%]とから算出され得る設計値である。容量X及び容量Yは、容量X=正極活物質の理論容量[mAh/g]×電極密度[g/cc]×正極塗工面の体積[cc]×正極層に占める正極活物質の割合[重量%]で表され、容量Y=負極活物質の理論容量[mAh/g]×電極密度[g/cc]×負極塗工面の体積[cc]×負極層に占める負極活物質の割合[重量%]の式のように算出される。
また、容量比は、「初回充電時」の値である。
【0053】
<セパレータ>
セパレータは、特に限定されるものではなく、公知又は市販のものを使用することができる。セパレータは、絶縁性材料からなり、正極と負極とが電気的に接触するのを防止する。また、セパレータは、正極と負極との間を電解質が移動可能に構成されている。セパレータとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、セルロース、又はポリフッ化ビニリデン(PVDF)を含む多孔質フィルム、及び合成樹脂製不織布等が挙げられる。セパレータは、好ましくは、ポリエチレン又はポリプロピレンからなる多孔質フィルムである。この多孔質フィルムは、一定温度以上で溶解して電流を遮断できるため、電池の安全性向上の観点から好ましい。
【0054】
<外装体>
外装体は、特に限定されるものではなく、公知又は市販のものを使用することができる。外装体としては、円筒缶、角形缶、又はラミネートフィルムであるものが挙げられる。
【0055】
外装体には、軽量性及び小型化の観点から、好ましくラミネートフィルムが使用される。ラミネートフィルムは、金属層と、金属層を被覆する熱融着性樹脂層を設けた積層フィルム構造を有している。金属層は、外部からの水分の侵入を防ぎつつ、シート全体の強度を向上させる。金属層としては、軽量化のため、アルミニウム箔、又はアルミニウム合金箔が好ましく使用される。熱融着性樹脂層としては、熱融着可能な温度範囲並びに非水電解質の遮断性から、ポリエチレンやポリプロピレンが好ましく使用される。また、金属層の熱融着性樹脂層の反対側の面には、金属層の保護及び絶縁のため、保護層を設けてもよい。保護層としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ナイロンが使用される。
【0056】
一例では、金属層は厚さ36~44μm、熱融着性樹脂層は厚さ40~100μm、保護層は厚さ10~30μmを有する。各層の間には、互いの密着性を向上させるため、接着層を設けてもよい。ラミネートフィルムは、3~5層構造の複合フィルムであってよい。
【0057】
以下、実施形態に係る非水電解質二次電池の一例について、図面を参照してその構造を説明する。一例では、非水電解質二次電池は、積層型のリチウムイオン二次電池である。
図1は、実施形態に係る非水電解質二次電池の一例を示す平面図である。図2は、図1の電極群を示す平面図である。図3は、図2のIII-III線に沿う断面図である。
【0058】
非水電解質二次電池1は、図1に示すように、2枚のラミネートフィルムからなる外装体2を備えている。外装体2は、2枚のラミネートシートを互いの熱融着性樹脂層が対向するように重ねて、互いの封止部21を熱融着して袋状に形成されている。
【0059】
外装体2としては、矩形状をなし、凹部22および凹部22の周囲に平坦な縁部を有する第1のラミネートフィルムと矩形状をなす平坦な第2のラミネートフィルムとを使用している。これらのラミネートフィルムは、それぞれ熱融着性樹脂層(内層)、金属層、及び保護層(外層)が積層した構造を有する。外装体2内には、凹部22に対応する位置に電極群3が収納されている。電極群3は、外装体2で密閉されている。
【0060】
電極群3は、図3に示すように、正極4、負極5、及びそれらの間に配置されたセパレータ6を複数積層した構造を有している。正極4、負極5、及びセパレータ6は、負極5が最外層に位置するように積層されている。本実施形態では、上述する非水電解質がセパレータに保持されている。
【0061】
正極4は、正極集電体42と当該集電体42の両面に形成された正極層41,41とから構成されている。負極5は、負極集電体52と当該集電体52の両面又は片面に形成された負極層51,51とから構成されている。
【0062】
正極4は、図2に示すように、正極集電体42が電極群3の例えば上側面F1の右側から延出した正極リード43に接続されている。各正極リード43は、外装体2内において先端側で束ねられ、正極端子7の両面に対して、2箇所の接合部44で溶接されている。正極端子7は、一端が正極リード43の接合部44に接合されている。正極端子7は、その他端が外装体2の封止部21を通して外部に延出している(図1参照)。
【0063】
正極端子7の封止部21を通過する部分は、その表面を接着部(シーラント)9が被覆している。接着部9は、2枚のラミネートフィルムの封止部21に位置する熱融着性樹脂層(内層)と互いに熱融着する。そのため、接着部9は、非水電解質が外装体2の外部に漏液することを抑制できる。
【0064】
負極5は、図2に示すように、負極集電体52が電極群3の例えば上側面F1の左側から延出した負極リード53に接続されている。各負極リード53は、外装体2内において先端側で束ねられ、負極端子8の両面に対して、2箇所の接合部54で溶接されている。負極端子8は、一端が負極リード53の接合部に接合されている。
【0065】
負極端子8は、その他端が外装体2の封止部21を通して外部に延出している(図1参照)。負極端子8の封止部21を通過する部分は、正極端子7と同様に、その表面を接着部(シーラント)9が被覆している。
【0066】
なお、実施形態に係る非水電解質二次電池の形状は、積層型リチウムイオン二次電池を例に説明したが、これに限定されない。例えば、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、扁平型、角形等の形状であってもよい。
【0067】
<実施例及び比較例>
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を詳細に説明する。なお、本発明は、下記実施例に限定されるものではない。
【0068】
以下、実施例1の非水電解質二次電池の作製方法を説明する。
[正極の作製]
正極活物質には、一般式Li 1.05 Ni 0.50 Co 0.20 Mn 0.29 Al 0.01 で表されるリチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物を使用した。導電助剤には、カーボンブラック及び黒鉛の混合物を使用した。結着材には、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)溶液に分散したポリフッ化ビニリデン(PVDF)を使用した。正極活物質90重量%と、導電助剤6重量%と、結着材4重量%(固形分)とを、溶剤であるNMPに加えて混合して分散させ、正極スラリーを調製した。
【0069】
次に、調製した正極スラリーを正極集電体であるアルミニウム箔(厚さ20μm)の両面に塗工機により塗工して乾燥した。なお、乾燥は、1枚当たりの乾燥後の前記正極層の水分量が110ppm以下になるように、120℃~130℃の高温環境下で40時間以上真空乾燥した。なお、塗工量は、74g/m で、正極と負極の容量比が0.8になるように調節した。
次に、プレス加工し、スリット加工し、打ち抜き成形をして、所定の電極面積を有する、電極密度2.5g/cm の正極を作製した。
【0070】
[負極の作製]
負極活物質には、一般式Li Ti 12 で表されるリチウムチタン系複合酸化物を使用した。導電助剤には、カーボンブラックを使用した。結着材には、NMP溶液に分散したPVDFを使用した。負極活物質95重量%と、導電助剤2重量%と、結着材3重量%(固形分)とを、溶剤であるNMPに加えて混合して分散させ、負極スラリーを調製した。
【0071】
次に、調製した負極スラリーを負極集電体であるアルミニウム箔(厚さ20μm)の両面に塗工機により塗工して乾燥した。なお、乾燥は、1枚当たりの乾燥後の前記負極層の水分量が220ppm以下になるように、100℃~130℃の高温環境下で40時間以上真空乾燥した。なお、塗工量は、68g/m で、正極活物質と負極活物質の容量比が0.8になるように調節した。
次に、プレス加工し、スリット加工し、打ち抜き成形をして、所定の電極面積を有する電極密度1.8g/cm の負極を作製した。
【0072】
[非水電解質の調製]
非水溶媒には、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、及びメチルエチルカーボネート(MEC)を、2:4:4の体積比で混合したものを使用した。電解質には、六フッ化リン酸リチウム(LiPF )を使用した。添加剤には、ジフルオロリン酸リチウム(LiPO )を使用した。非水溶媒に対して電解質を1.0mol/Lの濃度で溶解し、非水溶媒と電解質の合量に対して添加剤を0.5重量%の濃度で溶解して、非水電解質を調製した。
【0073】
[試作電池の組立]
試作電池は、正極及び負極の枚数を変えた以外は、図1~3に示すリチウムイオン二次電池と同様の構造を有している。
【0074】
正極及び負極を、セパレータを介して交互に積層して電極群を作製した。積層は、負極が最外層に位置するように行った。セパレータには、厚さ16μmのポリプロピレン製多孔質フィルムを使用した。
【0075】
各正極集電リード及び各負極集電リードは、先端側で束ね、互いに超音波溶接によって接合した。正極集電リードの接合部には、正極端子としてアルミニウムのタブを超音波溶接によって接合した。負極集電リードの接合部には、負極端子として、アルミニウムのタブを超音波溶接によって接合した。
【0076】
正極端子及び負極端子を溶接した電極群を前記第1のラミネートフィルムの凹部に入れ、平坦な前記第2のラミネートフィルムを第1のラミネートフィルムの凹部周囲の平坦な縁部に正極端子及び負極端子の一部が外部に延出するように重ね、第1、第2のラミネートフィルムの重なり合った4辺のうち3辺を互いに熱融着して封止し、第1、第2のラミネートフィルムからなる外装体内に電極群を収納した。
【0077】
熱融着は、左側と下側の辺については、温度180℃で圧力0.45MPaにて15秒間保持して行った。一方、各端子が延出する上側の辺については、温度220℃、圧力0.45MPaにて30秒間保持して行った。その後、外装体内に収納した電池は、温度70℃で真空度-99kPaの条件にて12時間真空乾燥した。その後、常温で露点温度-70~-60℃の環境下で、外装体の残りの1辺から非水電解液を85g注入した。その後、当該1辺(右側の辺)は脱気シールして封止することにより、非水電解質の注入後の試作電池を得た。なお、この試作電池は、電池重量436g、設計容量10Ahである。
【0078】
実施例2~6及び比較例1~128に係る試作電池は、正極活物質の種類、正極活物質と負極活物質の容量比、非水電解質の組成(非水溶媒の配合、添加剤(LiPO )濃度[重量%])を下記表1のように変更したこと以外は実施例1に係る試作電池と同様に作製した。なお、前記容量比は、負極層の電極密度は一定として、正極層の電極密度を変更するように塗工量を調節して変更した。
【0079】
実施例A-1~A-30に係る試作電池は、正極と負極の容量比、非水電解質の組成(非水溶媒の配合、添加剤(LiPO )濃度[重量%])を下記表2のように変更したこと以外は、実施例1に係る試作電池と同様に作製した。
【0080】
表1には、実施例1~6及び比較例1~128の試作電池について、後述する、評価1の高温環境下での放電容量維持率[%]及びガス発生量[ml]、評価2の低温環境下での放電特性[C]、及び評価3の低温環境下での充電特性[%]の測定結果を示す。なお、表1において、ECはエチレンカーボネートを示し、DMCはジメチルカーボネートを示す。
【0081】
【表1-1】
【0082】
【表1-2】
【0083】
【表1-3】
【0084】
【表1-4】
【0085】
【表1-5】
【0086】
【表1-6】
【0087】
表2には、実施例A-1~A-30の試作電池について、後述する評価1の高温環境下での放電容量維持率[%]の測定結果を示す。
【0088】
【表2】
【0089】
<評価1:高温(60℃)環境下での充放電サイクル試験>
実施例1~6及び比較例1~128の各試作電池に対して、高温(60℃)環境下での充放電サイクル試験を行った。充放サイクル試験前には、常温(25℃)環境下にて、2.8Vまで0.5C充電、1.5Vまで0.5C放電の条件でサイクル試験前の放電容量を測定した。その後、各試作電池は、60℃の恒温槽に8時間静置した。
【0090】
次に、各試作電池は、高温(60℃)の環境下にて、2.8Vまで3.0C充電、1.5Vまで3.0C放電を1サイクルとして、1000サイクルの充放電を行った。各試作電池は、100サイクルの充放電毎に、放電容量を測定した。この放電容量は、上記サイクル試験前の放電容量と同様の方法で測定した。充放電サイクル試験前後の放電容量の測定結果から、放電容量維持率を下記(1)式により算出した。
【0091】
放電容量維持率[%]
=(サイクル試験後の放電容量/サイクル試験前の放電容量)×100…(1)
【0092】
充放電サイクル試験後の試作電池は、アルキメデス法によって、ガス発生量の測定を行った。
【0093】
<評価2:極低温(-30℃)環境下での放電特性試験>
実施例1~6及び比較例1~128の各試作電池に対して、極低温(-30℃)環境下での放電特性試験を行った。この試験は、コールド・クランキング試験として行った。まず、各試作電池は、満充電状態で-30℃の恒温槽に8時間静置した。次に、各試作電池は、極低温(-30℃)の環境下にて、満充電状態から、1.0C、2.0C、5.0C、10.0Cの放電レートで30秒間放電を行った。各放電レートで放電を行っている間の電圧を測定してプロットし、下限電圧1.44Vまで外挿する場合の放電レート(C)を算出した。なお、極低温(-30℃)の環境下にて、約20C以上の放電レートが良好な放電特性の一つの目安になる。
【0094】
<評価3:極低温(-30℃)環境下での充電特性試験>
実施例1~6及び比較例1~128の各試作電池に対して、極低温(-30℃)環境下での充電特性試験を行った。まず、各試作電池は、-30℃の恒温槽に8時間静置した。
次に、各試作電池は、極低温(-30℃)の環境下にて、下限電圧1.5Vまで1.0C放電した。次に、高レートである5.0Cにて、満充電まで充電を行って、定電流定電圧充電容量を測定した。その後、極低温(-30℃)環境下での充電特性を以下に示す(2)式により算出した。
【0095】
充電特性[%]
=(定電流充電容量/定電流定電圧充電容量)×100…(2)
【0096】
表1及び表2に示す結果より、本発明の構成を有することによって、実施例1~6及び実施例A-1~A-30の試作電池では、高温環境下での充放電サイクル試験の結果で95.9%以上の良好な放電容量維持率が得られた。また、表1に示す結果より、実施例1~6の試作電池では、0.80mL未満の良好なガス発生量が得られた。また、低温環境下での放電特性及び充電特性の結果についても、良好な結果が得られた。
【0097】
実施例1~6及び実施例A-1~A-30の試作電池では、当該添加剤の濃度が非水溶媒と電解質の合量に対して0.5~1.0重量%以下であるとき、正極及び負極の容量比が0.80以上0.85以下であることによって、充電時の正極電位が相対的に低く抑えられ、高温環境下での充放電に伴う正極層の劣化を抑制できた。
また、特定濃度の添加剤(LiPO )を含むことによって、電池の正極層の内部抵抗を低下させ、低温環境下でのリチウム析出を抑制でき、高環境下での充放電時のガス発生を抑制して、低温環境下での充放電特性を改善することができた。
また、正極が正極活物質としてLNCMを含み、更に異種金属のAlを含むLNCMであることによって、高温環境下での充放電時の正極活物質の膨張収縮を抑制でき、高温環境下での充放電特性を改善できた。
【0098】
また、電解質の濃度が非水溶媒に対して1.0~1.3mol/LのLiPF であることによって、特に低温環境下において、非水電解質の粘度が適切なため導電性を高めることができ、充放電時の分極が抑制され、電池の充放電特性を改善することができた。
また、負極が負極活物質としてLTOを含み、非水溶媒がPCを特定の含有量で含むため、PCの還元分解による不利益を生じることなく、特に低温環境下での充放電特性を改善することができた。
以上の結果より本発明の構成を有する電池では、高温環境下でのガス発生を抑制でき、高温及び低温環境下において優れた充放電特性を有する非水電解質二次電池を提供できるとわかる。
【0099】
また、表2に示す結果より、添加剤の添加量と、初回充電時の正極と負極の容量比との関係を示す。
実施例A-2~A-3では、非水溶媒がPC及びMECからなり、添加剤の濃度が0.5重量%であるとき、容量比が0.8以上0.81以下であるため、実施例A-1と比較して、100%以上の特に良好な容量維持率が得られた。また、実施例A-5~A-8では、非水溶媒がPC及びMECからなり、添加剤の濃度が1.0重量%であるとき、容量比が0.8以上0.83以下であるため、実施例A-4と比較して、99%以上の特に良好な容量維持率が得られた。
【0100】
実施例A-10~A-13では、非水溶媒がPC及びDECからなり、添加剤の濃度が0.5重量%であるとき、容量比が0.8以上0.83以下であるため、実施例A-9と比較して、100%以上の特に良好な容量維持率が得られた。また、実施例A-15~A-19では、非水溶媒がPC及びDECからなり、添加剤の濃度が1.0重量%であるとき、容量比が0.8以上0.84以下であるため、実施例A-14と比較して、100%以上の特に良好な容量維持率が得られた。
【0101】
実施例A-21~A-24では、非水溶媒がPC、DEC及びMECからなり、添加剤の濃度が0.5重量%であるとき、容量比が0.8以上0.83以下であるため、実施例A-20と比較して、99%以上の特に良好な容量維持率が得られた。また、実施例A-26~A-30では、非水溶媒がPC、DEC及びMECからなり、添加剤の濃度が1.0重量%であるとき、容量比が0.8以上0.84以下であるため、実施例A-25と比較して、100%以上の特に良好な容量維持率が得られた。
【0102】
なお、本発明の実施形態について、具体的に説明したが、本発明はこれらの実施の形態及び実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく種々の変更が可能である。
以下に、本願出願当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1]
正極、負極、及び非水電解質を備えた非水電解質二次電池であって、
前記正極は、リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物を正極活物質として含む正極層を備え、
前記負極は、リチウムチタン系複合酸化物を負極活物質として含む負極層を備え、
前記非水電解質は、
プロピレンカーボネートをその合量に対して10体積%を超え、20体積%以下の割合で含む非水溶媒;
LiPF6又はLiBF4を含み、濃度が非水溶媒に対して1.0mоl/L以上1.3mоl/L以下である電解質;
LiPO2F2からなる添加剤;
を含み、
前記添加剤の濃度が非水溶媒と電解質の合量に対して0.5重量%以上1.0重量%以下であるとき、初回充電時の前記正極の容量(X)と前記負極の容量(Y)の容量比(Y/X)は、0.80以上0.85以下であることを特徴とする非水電解質二次電池。
[2]
前記リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物は、一般式LiαNixCoyMnzM(1-x-y-z)O2(式中、1.05≦α≦1.13、1≧x+y+z、Mは、Mg、Al、Ti、Fe、Cu、Zn、Ga、Nb、Sn、Zr又はTaから選ばれる少なくとも1種の置換元素)で表され、
前記リチウムチタン系複合酸化物は、一般式LiαTixO12(式中、3.0<α<5.0、4.0<x<6.0)で表される
ことを特徴とする、[1]の非水電解質二次電池。
[3]
前記非水溶媒は、前記プロピレンカーボネート及びメチルエチルカーボネートからなり、前記添加剤の濃度が非水溶媒と電解質の合量に対して0.5重量%であるとき、前記容量比は、0.80以上0.81以下であることを特徴とする[1]又は[2]の非水電解質二次電池。
[4]
前記非水溶媒は、前記プロピレンカーボネート及びメチルエチルカーボネートからなり、前記添加剤の濃度が非水溶媒と電解質の合量に対して1.0重量%であるとき、前記容量比は、0.80以上0.83以下であることを特徴とする[1]又は[2]の非水電解質二次電池。
[5]
前記非水溶媒は、前記プロピレンカーボネート及びジエチルカーボネートからなり、前記添加剤の濃度が非水溶媒と電解質の合量に対して0.5重量%であるとき、前記容量比は、0.80以上0.83以下であることを特徴とする[1]又は[2]の非水電解質二次電池。
[6]
前記非水溶媒は、前記プロピレンカーボネート及びジエチルカーボネートからなり、前記添加剤の濃度が非水溶媒と電解質の合量に対して1.0重量%であるとき、前記容量比は、0.80以上0.84以下であることを特徴とする[1]又は[2]の非水電解質二次電池。
[7]
前記非水溶媒は、前記プロピレンカーボネート、メチルエチルカーボネート及びジエチルカーボネートからなり、前記添加剤の濃度が非水溶媒と電解質の合量に対して0.5重量%であるとき、前記容量比は、0.80以上0.83以下であることを特徴とする[1]又は[2]の非水電解質二次電池。
[8]
前記非水溶媒は、前記プロピレンカーボネート、メチルエチルカーボネート及びジエチルカーボネートからなり、前記添加剤の濃度が非水溶媒と電解質の合量に対して1.0重量%であるとき、前記容量比は、0.80以上0.84以下であることを特徴とする[1]又は[2]の非水電解質二次電池。
[9]
前記正極は、1枚当たりの乾燥後の前記正極層の水分量が110ppm以下であり、
前記負極は、1枚当たりの乾燥後の前記負極層の水分量が220ppm以下であることを特徴とする[1]~[8]のいずれか一つの非水電解質二次電池。
【符号の説明】
【0103】
1…非水電解質二次電池、2…外装体、21…封止部、22…凹部、3…電極群、4…正極、5…負極、41…正極層、42…正極集電体、43…正極リード、44…接合部、51…負極層、52…負極集電体、53…負極リード、54…接合部、6…セパレータ、7…正極端子、8…負極端子、9…接着部。
図1
図2
図3