(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-09
(45)【発行日】2024-08-20
(54)【発明の名称】応力測定方法および応力測定装置
(51)【国際特許分類】
G01L 1/00 20060101AFI20240813BHJP
【FI】
G01L1/00 A
(21)【出願番号】P 2020176600
(22)【出願日】2020-10-21
【審査請求日】2023-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000001317
【氏名又は名称】株式会社熊谷組
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100187562
【氏名又は名称】沼田 義成
(72)【発明者】
【氏名】大越 靖広
(72)【発明者】
【氏名】槇 駿介
(72)【発明者】
【氏名】張 海華
【審査官】羽飼 知佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-200226(JP,A)
【文献】特開2017-026385(JP,A)
【文献】国際公開第2018/100608(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 1/00
G01N 25/00-25/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象の構造物を所定の加熱位置で加熱し、
前記構造物にかかる応力方向において前記加熱位置から離間した二以上の検出位置で前記構造物の温度を検出し、
加熱に起因する前記構造物の状態変化量を推定し、
前記構造物の温度検出結果に基づいて前記構造物の状態変化量
としての前記構造物の熱伝導性として前記二以上の検出位置の温度差の時間勾配と前記構造物の現有応力との対応関係に基づいて
、前記構造物の現有応力を測定
し、
前記対応関係は、所定の第1温度範囲における前記温度差の第1時間勾配および所定の第2温度範囲における前記温度差の第2時間勾配と、前記現有応力との関係を示すように予め設定されることを特徴とする応力測定方法。
【請求項2】
前記対応関係は、前記第1時間勾配および前記第2時間勾配の比と、前記現有応力に対応する前記構造物のひずみとの関係を示すように予め設定されることを特徴とする請求項
1に記載の応力測定方法。
【請求項3】
測定対象の構造物を所定の加熱位置で加熱する加熱部と、
前記構造物にかかる応力方向において前記加熱位置から離間した二以上の検出位置で前記構造物の温度を検出する温度検出部と、
加熱に起因する前記構造物の状態変化量を推定し、
前記構造物の温度検出結果に基づいて前記構造物の状態変化量
としての前記構造物の熱伝導性として前記二以上の検出位置の温度差の時間勾配と前記構造物の現有応力との対応関係に基づいて、前記構造物の現有応力を測定する応力測定部と、を備え
、
前記対応関係は、所定の第1温度範囲における前記温度差の第1時間勾配および所定の第2温度範囲における前記温度差の第2時間勾配と、前記現有応力との関係を示すように予め設定されることを特徴とする応力測定装置。
【請求項4】
前記対応関係は、前記第1時間勾配および前記第2時間勾配の比と、前記現有応力に対応する前記構造物のひずみとの関係を示すように予め設定されることを特徴とする請求項
3に記載の応力測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の現有応力を測定する応力測定方法および応力測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート材や鋼材の構造物に関して、耐震補強の検討や地震後の安全性の検討、または更新順序の決定の指標などの様々な目的のために、構造物の現有応力が測定される。また、経年劣化に伴うPC構造物の緊張力の確認を、コンクリートの応力で行う。
【0003】
従来、構造物の応力を測定する方法として、応力解放法や磁歪センサーを用いた磁歪法が知られている。応力解放法では、コンクリート材の構造物にひずみゲージを設置してコア抜きを行い、コア抜き前後のひずみの変化量を測定して、この変化量に基づいて現有応力を推定する。磁歪法では、鉄筋やPC鋼棒などの構造物において、磁化するとひずみを生じる磁歪の性質を利用して、磁歪センサー(EMセンサー)を利用して鋼材の軸力を測定する。なお、鉄筋コンクリート構造物の鉄筋について磁歪法で応力を測定する場合、大規模な斫作業を行う必要がある。そのため、磁歪法は、アンカーなどで鋼材が露出している場合に有効である。
【0004】
例えば、特許文献1に記載の存在応力の計測方法では、コンクリート構造物のうち、応力計測対象位置の一定領域をコアとして採取し、該コアにおける採取前後の歪み変化を検出し、該歪み変化に基づいて応力を評価する。
【0005】
特許文献2に記載の鉄筋コンクリート構造物の鉄筋現有応力測定システムは、測定する鉄筋を挿嵌する中空部材と、その内側周囲に巻回した2次コイルと、その外側周囲に巻回した1次コイルと、鉄筋の温度を測定する温度計とを備えた応力測定センサーを有する。このシステムは、キャリブレーション用鉄筋を応力測定センサーに挿嵌し、1次コイルにパルス電流を加えることで2次コイルを介して得られた誘導電流値と温度計で検出した温度とを用いて変換式を求める変換式算出手段と、測定する鉄筋に設置された応力測定センサーを用いて1次コイルのパルス電流により2次コイルを介して誘導電流値を検出すると共に温度計で温度を検出する検出手段と、誘導電流値および温度を変換式を用いて演算することで鉄筋の現有応力を求める応力演算手段と、を有する。
【0006】
特許文献3に記載の緊張力管理システムでは、PC鋼材の所定の箇所におけるシースの内周面に設置された低熱伝導率の測温シートと、測温シートに取り付けられてPC鋼材に緊張力を作用させる緊張過程において生じる測温シートの外面と内面との温度差の変化を検出する熱電対と、熱電対が検出した緊張過程における測温シートの外面と内面との温度差の変化を表示する温度データロガーとから形成され、測温シートの外面と内面との温度差の変化とPC鋼材の想定緊張力との関係に基づいて、熱電対が検出した測温シートの外面と内面との温度差の変化から所定の箇所におけるPC鋼材の実質緊張力を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2001-289717号公報
【文献】特開2003-270059号公報
【文献】特開2017-179861号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、従来の応力測定方法では、コア抜きのために構造物を破壊したり、磁歪センサーなどの応力測定センサーの設置のために構造物を破壊したりするので、構造物の耐久性が低下するおそれがある。なお、磁歪法では、鋼材が予め露出していれば構造物を破壊する必要がないが、応力を測定できる構造物が、鋼材が露出しているものに限定されてしまう。また、磁歪法では、専用の計測装置を必要とするため、コストが高価になる問題が生じる。
【0009】
また、特許文献3のような従来の応力測定方法では、測温シート、熱電対および温度データロガーなどの測定機器を、構造物の内部に予め取り付けておく必要がある。そのため、測定機器の取り付けに起因して構造物の耐久性が低下するおそれがあり、また、応力を測定できる構造物が、内部に測定機器を有するものに限定されてしまう。
【0010】
更に、従来の応力測定方法では、専門的な知識がなければ、構造物の応力を測定することができずに、測定作業が困難になる場合があった。
【0011】
本発明は、上記課題を解決するために、専門的な知識を必要とせず、構造物を破壊することなく、様々な構造物の応力を容易に測定する応力測定方法および応力測定装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の応力測定方法は、測定対象の構造物を所定の加熱位置で加熱し、加熱に起因する前記構造物の状態変化量を推定し、前記構造物の状態変化量に基づいて、前記構造物の現有応力を測定する。
【0013】
また、本発明の応力測定装置は、測定対象の構造物を所定の加熱位置で加熱する加熱部と、加熱に起因する前記構造物の状態変化量を推定し、前記構造物の状態変化量に基づいて、前記構造物の現有応力を測定する応力測定部と、を備える。
【0014】
上記の応力測定方法または応力測定装置において、前記構造物にかかる応力方向において前記加熱位置から離間した二以上の検出位置で前記構造物の温度を検出し、前記構造物の温度検出結果に基づいて前記構造物の状態変化量として前記構造物の熱伝導性と前記構造物の現有応力との対応関係に基づいて、前記構造物の現有応力を測定するとよい。
【0015】
上記の応力測定方法または応力測定装置において、前記構造物の現有応力を、前記構造物の熱伝導性として前記二以上の検出位置の温度差の時間勾配と、前記構造物の現有応力との前記対応関係に基づいて測定するとよい。
【0016】
また、上記の応力測定方法または応力測定装置において、前記対応関係は、所定の第1温度範囲における前記温度差の第1時間勾配および所定の第2温度範囲における前記温度差の第2時間勾配と、前記現有応力との関係を示すように予め設定されるとよい。
【0017】
更に、上記の応力測定方法または応力測定装置において、前記対応関係は、前記第1時間勾配および前記第2時間勾配の比と、前記現有応力に対応する前記構造物のひずみとの関係を示すように予め設定されるとよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、専門的な知識を必要とせず、構造物を破壊することなく、様々な構造物の応力を容易に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態に係る応力測定装置を示すブロック図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る応力測定装置を正面から示す斜視図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る応力測定装置を背面から示す斜視図である。
【
図4】構造物の二点間の温度差の時間勾配を示すグラフである。
【
図5】様々な条件下の構造体について、二点間の温度差の時間勾配の異なる温度範囲間の比とひずみとの関係を示すグラフである。
【
図6】本発明の実施形態に係る応力測定装置による応力測定動作の例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付の図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。なお、本明細書では、方向や位置を示す用語を用いるが、それらの用語は説明の便宜のために用いるものであって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0021】
本発明において構造物に作用する応力を測定する応力測定方法を、本実施形態の応力測定装置1を例に挙げて、
図1~
図3を参照して説明する。
図1は、応力測定装置1を示すブロック図である。
図2は、応力測定装置1を正面から示す斜視図である。
図3は、応力測定装置1を背面から示す斜視図である。
【0022】
応力測定装置1は、コンクリート材(例えば、RC柱やRC梁)や鋼材(例えば、鋼柱)の構造物を測定対象として、構造物に作用する応力を測定するために用いられる。応力測定装置1は、筐体2に、制御部3、記憶部4、加熱部5、温度検出部6、操作部7、表示部8および電源部9を備えて構成される。
【0023】
筐体2は、背面に沿う所定の基準方向(例えば上下方向)の一方側(例えば下側)を加熱側とし、加熱側とは反対側である他方側(例えば上側)を温度検出側とする。構造物の応力を測定するとき、応力測定装置1は、筐体2の基準方向が、構造物にかかる応力方向に沿うように、筐体2の背面を構造物の表面に合わせて取り付けまたは配置される。また、筐体2は、環境温度の影響を低減するために、遮熱素材や、遮熱被覆、遮熱シート貼付などの、様々な遮熱機能の少なくとも一つを有して構成されるとよい。
【0024】
制御部3は、CPU(Central Processing Unit)などのコンピュータを有して構成され、応力測定装置1を統括制御する。記憶部4は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などの記憶媒体を内部メモリとして有して構成される。制御部3および記憶部4は、筐体2の内部に設けられる。制御部3は、応力測定装置1の各部に接続されていて、各部を制御する。
【0025】
記憶部4は、応力測定装置1の各部および各機能を制御するためのプログラムやデータを記憶し、制御部3が、記憶部4に記憶されたプログラムやデータに基づいて演算処理を実行することにより、各部および各機能を制御する。例えば、制御部3は、記憶部4に記憶されたプログラムを実行することにより、応力測定部10として動作する。
【0026】
また、記憶部4は、SDカードやUSBメモリなどの外部メモリと接続可能に構成され、外部メモリとの間でデータの読み出しや書き込みを可能にする。外部メモリは、筐体2の上面または正面若しくは背面に設けられるスロット2aに挿入されることで記憶部4に接続される。
【0027】
加熱部5は、構造物を所定の加熱位置で加熱するものである。加熱部5は、例えば、制御部3によって制御されるラバーヒーターやベルトヒーターなどの面状発熱体または他のヒーターで、構造物を損傷しないように構成され、構造物の表面に接触して加熱する。例えば、加熱部5は、特殊発熱体の両面を耐熱性絶縁層で接着した面状のラバーヒーターで構成される。このようなラバーヒーターの加熱部5は、より薄く形成することで、昇温速度を高め、また、より軽く形成し、フレキシブル性を有することで、応力測定装置1に取り付け易く、構造物への接触性を高めることができる。また、加熱部5は、制御部3によって制御される温度コントローラーを備え、所定の加熱温度(例えば、80℃)に加熱制御する。加熱部5は、筐体2の背面に加熱面を有して筐体2の基準方向の加熱側に設けられ、基準方向に直交する方向に延在して形成されてよい。換言すれば、加熱部5は、構造物の応力方向の一方側に設けられる。
【0028】
温度検出部6は、構造物にかかる応力方向において加熱位置から離間した所定の二つの検出位置で構造物の温度を検出するものである。温度検出部6は、例えば、制御部3によって制御される熱電対または他の温度センサーで構成され、構造物の表面に接触して構造物の温度を検出し、検出結果を制御部3へ出力する。温度検出部6は、筐体2の背面に温度検出面を有して筐体2の基準方向の温度検出側に設けられる。
【0029】
温度検出部6は、第1温度センサー11および第2温度センサー12を備える。第1温度センサー11は、筐体2の基準方向において、加熱部5から所定の第1間隔を空けて温度検出側に設けられる。第2温度センサー12は、筐体2の基準方向において、第1温度センサー11から更に所定の第2間隔を空けて温度検出側に設けられる。第1温度センサー11および第2温度センサー12は、基準方向に直交する方向に延在して形成されてよい。
【0030】
なお、応力測定装置1は、構造物に吸着される吸盤や、構造物に巻き付けられるベルトなどを備えて、加熱部5および温度検出部6が構造物との密着を維持できるように構成されてよい。
【0031】
操作部7は、応力測定装置1による応力測定の開始や終了などを指示するための各種操作ボタンを備える。操作部7の各操作ボタンは、作業者が操作可能なように、筐体2の正面に設けられる。操作部7は、作業者による操作入力を制御部3へ出力する。
【0032】
表示部8は、液晶ディスプレイなどの表示装置で構成され、制御部3によって制御されて応力測定装置1による応力測定に関する画面、例えば、応力測定結果画面を表示する。なお、操作部7および表示部8は、タッチパネルで構成されていてもよい。
【0033】
電源部9は、バッテリーなどで構成され、応力測定装置1による応力測定に要する電力を応力測定装置1の各部に供給する。なお、電源部9は、測定に影響が出ないように、直流の電力を供給することが好ましく、これにより、交流波が測定に影響することを回避する。電源部9は、交流の外部電源から直流に変換された電力を供給されてもよい。
【0034】
応力測定部10は、加熱部5が構造物を加熱した場合の温度検出部6の温度検出結果に基づいて、加熱に起因する構造物の状態変化量、例えば、構造物の熱伝導性を推定して、この構造物の状態変化量に基づいて構造物の現有応力を測定する。
【0035】
なお、本実施形態では、応力測定部10が、加熱した構造物の状態変化量として構造物の熱伝導性を推定し、構造物の熱伝導性に基づいて構造物の現有応力を測定する例を説明するが、本発明はこの例に限定されない。例えば、他の実施形態では、応力測定部10は、加熱に起因して変化する構造物の状態の変化量であれば、熱伝導性に限定せず、様々な状態変化量のうちの一つ以上を推定し、その一つ以上の状態変化量に基づいて構造物の現有応力を測定してよい。例えば、応力測定装置1は、加熱した構造物の温度、含水率、外観の変形などを検出したり、加熱した構造物の周囲の複数の検出地点における熱の拡散度合い、伝達温度などを検出したりするように構成される。応力測定部10は、それらの検出結果に基づいて構造物の状態変化量を推定してよく、また、それらの検出結果に加えて構造物の生成からの経過時間に基づいて構造物の状態変化量を推定してよい。
【0036】
次に、構造物の現有応力の測定と共に、構造物を加熱した場合の構造物の温度検出を行った実験について説明する。本実験では、構造物はグラウトを試験体として適用した。本実験では、構造物を加熱するために、厚さ1mm、縦30mmおよび横300mmの矩形シート状に形成され、電圧100V、容量90Wおよびワット密度1.0W/cm2で稼働するラバーヒーターを適用した。
【0037】
本実験では、構造物の現有応力を測定するために構造体のひずみをひずみゲージによって測定すると共に、構造物を所定の加熱位置でラバーヒーターによって加熱して、構造体の所定の二つの検出位置で構造物の温度を熱電対によって検出した。ここで、ラバーヒーターに近い側の第1の熱電対とラバーヒーターとの距離を35mmに設定し、ラバーヒーターから遠い側の第2の熱電対と第1の熱電隊との距離を25mmに設定した。また、加熱前の構造物の初期温度の影響を控除すると共に、構造物における二つの検出位置間の熱伝達の度合いを測定するために、二つの検出位置の温度差を算出して、その温度差の時間勾配(傾き)を監視した。なお、構造物の二つの検出位置は、構造物に荷重をかける方向、即ち、応力方向に離間して設定した。
【0038】
本実験の結果、構造物の二つの検出位置の温度差は、
図4に示すように、時間経過に伴って右肩上がりに増加していた。
図4は、構造物の二点間の温度差の時間勾配を示すグラフである。
【0039】
本実験では、構造物に荷重をかけない場合、即ち、構造物に応力が発生していない場合と、ジャッキなどで構造物に荷重をかけた場合、即ち、構造物に応力が発生している場合とについて、温度差の検出を行った。
図4では、構造物に荷重をかけない場合の温度差Daのグラフと、構造物に荷重をかけた場合の温度差Dbのグラフとを示す。このとき、構造物に荷重をかけない場合に、構造物にひずみが発生せず、構造物に荷重をかけた場合に、構造物にひずみが発生していることが、ひずみゲージによって測定された。
【0040】
本実験によれば、構造物に荷重をかけない場合、温度差Daの時間勾配(傾き)は、加熱開始から十分温度差が開くまでの所定の第1温度範囲T1(例えば、0.5~3.0℃)では、ほぼ線形になっていて、温度差Daは所定の傾きで増加している。ところが、構造物に荷重をかけた場合、温度差Dbの時間勾配(傾き)は、加熱開始直後の所定の第2温度範囲T2(例えば、0.5~2.0℃)では、ほぼ線形になっているが、第2温度範囲T2を超えた後、緩やかになっている。換言すれば、温度差Dbは、第1温度範囲T1と第2温度範囲T2とで異なる傾きで増加している。
【0041】
このように、本実験では、構造物に荷重をかけない場合に比べて、構造物に荷重をかけた場合には、二つの検出位置の温度差が生じ難くなっているので、熱が伝達し易いことが検証された。例えば、構造物の内部には微小な空隙などが含まれているので、構造物に荷重(応力)をかけることによって、空隙が狭まり、または埋まるため、熱が伝達し易くなると推定できる。
【0042】
なお、本実験では、様々な初期温度や荷重の条件下の構造体について、温度差の時間勾配とひずみとを測定した結果、荷重(応力)をかけない場合には、第1温度範囲T1の第1時間勾配I1および第2温度範囲T2の第2時間勾配I2の比(I1/I2)がほぼ1になった。一方、荷重(応力)をかけた場合には、第2温度範囲T2の経過後に温度差の時間勾配が緩やかになるため、第1温度範囲T1の第1時間勾配I1および第2温度範囲T2の第2時間勾配I2の比(I1/I2)が1よりも小さくなった。様々な条件下の構造体について、二点間の温度差の時間勾配の異なる温度範囲間の比(I1/I2)とひずみとの関係を
図5のグラフに示す。
【0043】
本実験によれば、
図5に示すように、温度差の時間勾配の比(I1/I2)とひずみとは、ほぼ線形の関係を有していることが検証された。なお、構造物のひずみが大きいほど、時間勾配の比が1より小さくなる。これにより、構造体の二つの検出位置の温度差を測定することによって、構造物に生じているひずみ(現有応力)を推定することができる。
【0044】
このように、構造体を加熱した場合、構造物の現有応力に応じて、二つの検出位置の温度差、即ち、構造物の熱伝導性に変化がみられる。換言すれば、構造物の現有応力と構造物の熱伝導性とが所定の関係性を有することが推定できる。そこで、本実施形態の応力測定装置1は、構造物の温度検出結果に基づき推定される構造物の熱伝導性と、構造物の現有応力との対応関係に基づいて、構造物の現有応力を測定するように構成する。具体的には、応力測定装置1では、構造物を加熱位置で加熱した場合の、構造体の二つの検出位置での温度差について、第1温度範囲T1の第1時間勾配I1および第2温度範囲T2の第2時間勾配I2の比(I1/I2)と、ひずみ(現有応力)との対応関係を予め設定して、その対応関係データを記憶部4に記憶しておく。
【0045】
特に、応力測定部10は、加熱部5が構造物を加熱した場合に、温度検出部6の二つの第1温度センサー11および第2温度センサー12が所定の二つの検出位置で検出した温度に基づいて、温度差の第1温度範囲T1の第1時間勾配I1および第2温度範囲T2の第2時間勾配I2の比を算出する。そして、応力測定部10は、上記のように記憶部4に記憶した対応関係を参照して、温度差の時間勾配の比(I1/I2)に基づいて、構造体の現有応力を推定して測定する。
【0046】
次に、本実施形態の応力測定装置1による応力測定動作(応力測定方法)について、
図6のフローチャートを参照しながら説明する。
【0047】
まず、作業者は、測定対象の構造物について、構造物の設置状態から構造物にかかる応力方向を想定し、筐体2の基準方向が、構造物にかかる応力方向に沿うように、応力測定装置1を配置する。このとき、作業者は、加熱部5および温度検出部6が構造物の表面に接触するように、応力測定装置1を配置する。
【0048】
次に、作業者は、操作部7を操作して、応力測定動作の開始を入力する(ステップS1)。操作部7は、応力測定動作の開始を制御部3に指示する。
【0049】
制御部3は、加熱部5を制御して構造物の所定の加熱位置での加熱を行う(ステップS2)と共に、温度検出部6を制御して構造物の所定の二つの検出位置での温度検出を行う(ステップS3)。制御部3は、温度検出部6による二つの検出位置の温度検出結果を入力する。
【0050】
また、制御部3は、応力測定部10として動作して、構造物の二つの検出位置の温度検出結果に基づいて加熱に起因する構造物の状態変化量を推定し、構造物の状態変化量に基づいて構造体の現有応力を測定する。例えば、応力測定部10は、構造物の二つの検出位置の温度検出結果に基づいて温度差を算出する(ステップS4)。応力測定部10は、温度差の時間勾配を監視し、温度差の第1温度範囲T1の第1時間勾配I1および第2温度範囲T2の第2時間勾配I2の比を算出する(ステップS5)。そして、応力測定部10は、記憶部4に記憶した対応関係を参照して、温度差の時間勾配の比(I1/I2)に基づいて、構造体の現有応力を推定して測定する(ステップS6)。
【0051】
そして、制御部3は、応力測定部10による構造物の応力の測定結果を、表示部8によって表示し、または記憶部4の内部メモリ若しくは外部メモリに記憶する(ステップS7)。
【0052】
本実施形態では、上述のように、応力測定装置1は、少なくとも、加熱部5と、制御部3の応力測定部10とを備える。加熱部5は、測定対象の構造物を所定の加熱位置で加熱する。応力測定部10は、加熱に起因する構造物の状態変化量を推定し、構造物の状態変化量に基づいて、構造物の現有応力を測定する。例えば、応力測定装置1は、構造物にかかる応力方向において加熱位置から離間した二以上の検出位置で構造物の温度を検出する温度検出部6を備え、応力測定部10は、構造物の温度検出結果に基づいて構造物の状態変化量として構造物の熱伝導性と構造物の現有応力との対応関係に基づいて、構造物の現有応力を測定する。具体的には、応力測定部10は、構造物の現有応力を、構造物の熱伝導性として二以上の検出位置の温度差の時間勾配と、構造物の現有応力との対応関係に基づいて測定する。
【0053】
なお、本発明の応力測定方法は、上記した応力測定装置1の構成に限定されず、測定対象の構造物を所定の加熱位置で加熱し、加熱に起因する構造物の状態変化量を推定し、前記構造物の状態変化量に基づいて、構造物の現有応力を測定する。例えば、応力測定方法は、構造物にかかる応力方向において加熱位置から離間した二以上の検出位置で構造物の温度を検出し、構造物の温度検出結果に基づいて構造物の状態変化量として構造物の熱伝導性と構造物の現有応力との対応関係に基づいて、構造物の現有応力を測定する。具体的には、応力測定方法は、構造物の現有応力を、構造物の熱伝導性として二以上の検出位置の温度差の時間勾配と、構造物の現有応力との対応関係に基づいて測定する。
【0054】
上記したような構成によれば、作業者は、専門的な知識を必要とせず、構造物を破壊することなく、また構造物の内部に予め測定機器を取り付けておくことなく、簡易な操作によって、構造物の現有応力を測定することができる。また、構造物の破壊や、構造物内の測定機器の準備などが必要ないので、新設または既設に拘わらず、様々な種類の構造物の応力測定に適用可能である。
【0055】
また、本実施形態では、温度差の時間勾配と構造物の応力との対応関係は、所定の第1温度範囲T1における温度差の第1時間勾配I1および所定の第2温度範囲T2における温度差の第2時間勾配I2と、現有応力との関係を示すように予め設定される。これにより、詳細に時間勾配を識別することができるため、求めるべき現有応力をより正確に推定して測定することができる。
【0056】
更に、本実施形態では、温度差の時間勾配と構造物の応力との対応関係は、上記した第1時間勾配おI1よび第2時間勾配I2の比I1/I2と、現有応力に対応する構造物のひずみとの関係を示すように予め設定される。これにより、より詳細に時間勾配を識別することができるため、求めるべき現有応力を更に正確に推定して測定することができる。
【0057】
なお、上記した実施形態では、温度差の時間勾配と構造物の応力との対応関係を設定するために、加熱開始から十分温度差が開いた温度範囲を第1温度範囲T1(例えば、0.5~3.0℃)とすると共に、加熱開始直後の温度範囲を第2温度範囲T2(例えば、0.5~2.0℃)とする例を説明したが、本発明はこの例に限定されない。例えば、加熱開始直後の温度範囲を第2温度範囲T2(例えば、0.5~2.0℃)とする一方、第2温度範囲T2の経過後、十分温度差が開いた温度範囲を第1温度範囲T1(例えば、2.0~3.0℃)としてもよい。
【0058】
上記した実施形態では、加熱部5は筐体2の背面に設けられる例を説明したが、本発明はこの例に限定されない。例えば、他の実施形態では、加熱部5は、筐体2から独立していて、配線を介して筐体2と接続されていてもよい。
【0059】
上記した実施形態では、温度検出部6は筐体2の背面に設けられる例を説明したが、本発明はこの例に限定されない。例えば、他の実施形態では、温度検出部6は、筐体2から独立していて、配線を介して筐体2と接続されていてもよい。
【0060】
また、上記した実施形態では、温度検出部6は二つの第1温度センサー11および第2温度センサー12を備えて、二つの検出位置で温度を検出する例を説明したが、本発明はこの例に限定されない。
【0061】
例えば、他の実施形態では、温度検出部6は、三つ以上の温度センサーを備えて、三つ以上の検出位置で構造物の温度を検出してもよい。この場合、応力測定部10は、三つ以上の検出位置で検出された温度のうち、応力測定に適した二つの温度を選択して温度差を算出してよい。
【0062】
あるいは、応力測定部10は、三つ以上の検出位置で検出された温度について、二つの検出位置を一つの組み合わせとして、二つ以上の組み合わせを選択し、それぞれの組み合わせの温度差を算出してもよい。例えば、第1検出位置、第2検出位置および第3検出位置の三つの検出位置について、第1検出位置および第2検出位置の間の第1温度差と、第2検出位置および第3検出位置の第2温度差とを算出する。第1温度差および第2温度差のそれぞれの時間勾配(第1温度範囲の第1時間勾配および第2温度範囲の第2時間勾配の比)の組み合わせとひずみとの対応関係を予め設定しておく。応力測定部10は、この対応関係を参照して、第1検出位置、第2検出位置および第3検出位置で検出された温度に基づいて、構造体の現有応力を推定して測定する。
【0063】
なお、温度差の時間勾配と構造物の応力との対応関係データは、予め記憶部4に記憶されるものに限定されず、外部メモリから入力してもよく、有線や無線を介した通信によって入力してもよい。
【0064】
また、温度差の時間勾配と構造物の応力との対応関係データは、所定の種類の構造物に限定されず、様々な種類の構造物について対応関係データを記憶または入力してよく、応力測定動作の開始時に、操作部7によって、構造物の種類を指定し、指定した構造物についての対応関係データを読み出すようにするとよい。
【0065】
なお、実施形態の説明は、本発明に係る応力測定方法および応力測定装置における一態様を示すものであって、本発明の技術範囲は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明は技術的思想の趣旨を逸脱しない範囲において様々に変更、置換、変形されてよく、特許請求の範囲は技術的思想の範囲内に含まれ得る全ての実施態様を含む。
【符号の説明】
【0066】
1 応力測定装置
2 筐体
3 制御部
4 記憶部
5 加熱部
6 温度検出部
7 操作部
8 表示部
9 電源部
10 応力測定部
11 第1温度センサー
12 第2温度センサー