(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-09
(45)【発行日】2024-08-20
(54)【発明の名称】車両用灯具
(51)【国際特許分類】
F21S 41/64 20180101AFI20240813BHJP
F21S 41/365 20180101ALI20240813BHJP
F21S 41/20 20180101ALI20240813BHJP
F21V 9/14 20060101ALI20240813BHJP
F21V 9/40 20180101ALI20240813BHJP
G02F 1/13 20060101ALI20240813BHJP
G02F 1/13357 20060101ALI20240813BHJP
G02F 1/1335 20060101ALI20240813BHJP
F21S 41/147 20180101ALI20240813BHJP
F21Y 115/10 20160101ALN20240813BHJP
F21Y 115/30 20160101ALN20240813BHJP
F21W 102/145 20180101ALN20240813BHJP
F21W 102/19 20180101ALN20240813BHJP
【FI】
F21S41/64
F21S41/365
F21S41/20
F21V9/14
F21V9/40 400
G02F1/13 505
G02F1/13357
G02F1/1335
F21S41/147
F21Y115:10
F21Y115:30
F21W102:145
F21W102:19
(21)【出願番号】P 2020177829
(22)【出願日】2020-10-23
【審査請求日】2023-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100179833
【氏名又は名称】松本 将尚
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【氏名又は名称】小林 淳一
(72)【発明者】
【氏名】都甲 康夫
(72)【発明者】
【氏名】大和田 竜太郎
【審査官】當間 庸裕
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-013697(JP,A)
【文献】特開2019-033030(JP,A)
【文献】特開2018-185895(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F21S 41/64
F21S 41/365
F21S 41/20
F21V 9/14
F21V 9/40
G02F 1/13
G02F 1/13357
G02F 1/1335
F21S 41/147
F21Y 115/10
F21Y 115/30
F21W 102/145
F21W 102/19
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、
前記光源から出射された光の偏光状態を可変に変調する液晶素子と、
前記光源から出射された光を前記液晶素子に向けて集光させる集光光学系と、
前記集光光学系により集光される光のうち、一方の偏光成分からなる第1の光を前記液晶素子に向けて透過し、他方の偏光成分からなる第2の光を反射する偏光ビームスプリッタと、
前記偏光ビームスプリッタにより反射された前記第2の光を前記液晶素子に向けて反射しながら集光させる反射集光光学系と、
前記反射集光光学系から前記偏光ビームスプリッタに向かう前記第2の光の光路と、前記偏光ビームスプリッタから前記反射集光光学系に向かう前記第2の光の光路との何れか一方の光路中にのみ配置されて、前記第2の光の偏光方向を回転し、前記第1の光の偏光方向と一致させる偏光回転素子とを備え、
前記液晶素子に向けて集光される前記第1の光と前記第2の光とが互いに共通する第1の集光点において集光されると共に、前記第1の集光点に前記液晶素子が位置しており、
前記集光光学系から前記偏光ビームスプリッタに向かう前記光の光路と、前記反射集光光学系から前記偏光ビームスプリッタに向かう前記第2の光の光路とから外れた位置にある第2の集光点において、前記偏光ビームスプリッタにより反射された前記第2の光が集光されることを特徴とする車両用灯具。
【請求項2】
前記偏光回転素子は、前記反射集光光学系から前記偏光ビームスプリッタに向かう前記第2の光の光路中にのみ配置され、
なお且つ、前記集光光学系から前記偏光ビームスプリッタに向かう前記光の光路と、前記偏光ビームスプリッタから前記反射集光光学系に向かう前記第2の光の光路とに各々重ならないように配置されていることを特徴とする請求項1に記載の車両用灯具。
【請求項3】
前記偏光ビームスプリッタは、前記液晶素子に対して、所定の傾きで対向して配置され、前記偏光ビームスプリッタにおける前記第1の光の通過する領域と前記液晶素子との間の距離は、前記偏光ビームスプリッタにおける前記第2の光が通過する領域と前記液晶素子との間の距離よりも大きいことを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用灯具。
【請求項4】
前記集光光学系は、前記光源及び前記第1の集光点を焦点とする楕円反射面を有する第1のリフレクタを含み、
前記反射集光光学系は、前記第1の集光点及び前記第2の集光点を焦点とする楕円反射面を有する第2のリフレクタを含み、
前記光源と前記第1の集光点との間の距離が、前記第2の集光点と前記第1の集光点との間の距離よりも大きいことを特徴とする請求項1~3の何れか一項に記載の車両用灯具。
【請求項5】
前記第2の集光点は、前記光源と前記第1の集光点とを結ぶ光軸よりも下方に位置することを特徴とする請求項4に記載の車両用灯具。
【請求項6】
前記液晶素子の中心軸に対して、前記液晶素子に入射する前記第1の光の光軸及び前記第2の光の光軸の傾斜する角度が、それぞれ40°以下であることを特徴とする請求項1~5の何れか一項に記載の車両用灯具。
【請求項7】
前記偏光回転素子は、1/2波長板であることを特徴とする請求項1~6の何れか一項に記載の車両用灯具。
【請求項8】
前記偏光回転素子は、90°捻れ配向を有する液晶層を含み、
前記液晶層のリタデーション値が1μm以上であることを特徴とする請求項1~6の何れか一項に記載の車両用灯具。
【請求項9】
前記反射集光光学系から前記偏光回転素子に向かう前記第2の光の光路中に配置されて、前記第2の光が前記第1の集光点に集光されるように調整する集光調整素子を備えることを特徴とする請求項1~8の何れか一項に記載の車両用灯具。
【請求項10】
前記偏光ビームスプリッタと前記偏光回転素子とが一体化された光学素子を備えることを特徴とする請求項1~9の何れか一項に記載の車両用灯具。
【請求項11】
前記光学素子は、互いに対向して配置された一対の基板と、
前記一対の基板の間を第1の領域と第2の領域とに区画する隔壁と、
前記一対の基板間において、前記第1の領域、前記第2の領域及び前記隔壁を囲むシール部材と、
前記第1の領域に挟み込まれた光学等方性層と、
前記第1の領域における前記一対の基板の何れかの対向面に配置された前記偏光ビームスプリッタと、
前記第2の領域に挟み込まれると共に、90°捻じれ配向を有し、リタデーション値が1μm以上である液晶層と、から構成されていることを特徴とする請求項10に記載の車両用灯具。
【請求項12】
前記液晶素子の前方に配置されて、前記液晶素子により変調された光のうち、特定の偏光成分の光を透過させる偏光板と、
前記偏光板の前方に配置されて、前記偏光板を透過した光を前方に向けて投影する投影光学系とを備えることを特徴とする請求項1~11の何れか一項に記載の車両用灯具。
【請求項13】
前記光学素子は、互いに対向して配置された一対の基板と、
前記一対の基板の間に挟み込まれた光学等方性層と、
前記一対の基板の間に挟み込まれた液晶層と、
前記光学等方性層と前記液晶層との間を区画する隔壁とを備え、
前記偏光ビームスプリッタは、前記光学等方性層を含む第1の領域に対応して設けられ、
前記偏光回転素子は、前記液晶層を含む第2の領域に対応して設けられていることを特徴とする
請求項10に記載の車両用灯具。
【請求項14】
前記一対の基板のうち、一方の基板の前記光学等方性層及び前記液晶層と対向する面には、反射偏光層が前記第1の領域に対応して設けられ、
他方の基板の前記液晶層と対向する面には、配向制御層が前記第2の領域に対応して設けられていることを特徴とする請求項13に記載の
車両用灯具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用灯具に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両の前方に向けて投影される光の配光パターンを可変に制御する配光可変ヘッドランプ(ADB:Adaptive Driving Beam)の開発が進められている。ADBは、車載カメラで先行車や対向車などの周囲の状況を認識し、先行車や対向車に眩しさを与える光を遮光することによって、夜間におけるドライバの前方視界を拡大する技術である。
【0003】
ところで、このような車両用灯具を実現する手法の一つとして、光源から出射された光を2つの偏光成分の光に分離し、それぞれの偏光成分の光を液晶素子で制御して利用することが行われている(例えば、下記特許文献1を参照。)。
【0004】
例えば、下記特許文献1には、光源と、光源からの光が入射する位置に配置される反射偏光板と、反射偏光板により生じる反射光を反射して当該反射偏光板へ再入射させる反射鏡と、反射偏光板の光出射面側に配置される液晶装置と、液晶装置の光出射面側に配置される偏光板と、偏光板の光出射面側に配置されるレンズとを含むランプユニットが開示されている。
【0005】
また、下記特許文献1には、反射鏡の前面側に、位相差板として1/4波長(λ/4)板を配置することによって、反射偏光板により生じる反射光のある特定方向の直線偏光が、λ/4板を1回通過して円偏光となり、反射鏡で反射して再びλ/4板を通過することで、上記特定方向から90°回転した直線偏光となって反射偏光板へ再入射したときに、ほとんどの光の成分が反射偏光板を透過するようにした構成が開示されている。また、位相差板として、1/2波長(λ/2)板を、偏光軸に対して22.5°の角度で配置することにより、1/4波長(λ/4)板として機能させる構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述した特許文献1においては、位相差板を2回通過することにより光損失が生じている。このため、位相差板を2回通過することによる光損失を低減して、反射偏光板からの光の利用効率を上げることが課題であった。
【0008】
本発明は、このような従来の事情に鑑みて提案されたものであり、光源から出射された光を2つの偏光成分の光に分離し、それぞれの偏光成分の光を液晶素子で制御して利用する際の光の利用効率を高めることを可能とした車両用灯具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
〔1〕 光源と、
前記光源から出射された光の偏光状態を可変に変調する液晶素子と、
前記光源から出射された光を前記液晶素子に向けて集光させる集光光学系と、
前記集光光学系により集光される光のうち、一方の偏光成分からなる第1の光を前記液晶素子に向けて透過し、他方の偏光成分からなる第2の光を反射する偏光ビームスプリッタと、
前記偏光ビームスプリッタで反射された前記第2の光を前記液晶素子に向けて反射しながら集光させる反射集光光学系と、
前記反射集光光学系から前記偏光ビームスプリッタに向かう前記第2の光の光路と、前記偏光ビームスプリッタから前記反射集光光学系に向かう前記第2の光の光路との何れか一方の光路中にのみ配置されて、前記第2の光の偏光方向を回転し、前記第1の光の偏光方向と一致させる偏光回転素子とを備え、
前記液晶素子に向けて集光される前記第1の光と前記第2の光とが互いに共通する第1の集光点において集光されると共に、前記第1の集光点に前記液晶素子が位置しており、
前記集光光学系から前記偏光ビームスプリッタに向かう前記光の光路と、前記反射集光光学系から前記偏光ビームスプリッタに向かう前記第2の光の光路とから外れた位置にある第2の集光点において、前記偏光ビームスプリッタで反射された前記第2の光が集光されることを特徴とする車両用灯具。
〔2〕 前記偏光回転素子は、前記反射集光光学系から前記偏光ビームスプリッタに向かう前記第2の光の光路中にのみ配置され、
なお且つ、前記集光光学系から前記偏光ビームスプリッタに向かう前記光の光路と、前記偏光ビームスプリッタから前記反射集光光学系に向かう前記第2の光の光路とに各々重ならないように配置されていることを特徴とする前記〔1〕に記載の車両用灯具。
〔3〕 前記偏光ビームスプリッタは、前記液晶素子に対して、所定の傾きで対向して配置され、前記偏光ビームスプリッタにおける前記第1の光の通過する領域と前記液晶素子との間の距離は、前記偏光ビームスプリッタにおける前記第2の光が通過する領域と前記液晶素子との間の距離よりも大きいことを特徴とする前記〔1〕又は〔2〕に記載の車両用灯具。
〔4〕 前記集光光学系は、前記光源及び前記第1の集光点を焦点とする楕円反射面を有する第1のリフレクタを含み、
前記反射集光光学系は、前記第1の集光点及び前記第2の集光点を焦点とする楕円反射面を有する第2のリフレクタを含み、
前記光源と前記第1の集光点との間の距離が、前記第2の集光点と前記第1の集光点との間の距離よりも大きいことを特徴とする前記〔1〕~〔3〕の何れか一項に記載の車両用灯具。
〔5〕 前記第2の集光点は、前記光源と前記第1の集光点とを結ぶ光軸よりも下方に位置することを特徴とする前記〔4〕に記載の車両用灯具。
〔6〕 前記液晶素子の中心軸に対して、前記液晶素子に入射する前記第1の光の光軸及び前記第2の光の光軸の傾斜する角度が、それぞれ40°以下であることを特徴とする前記〔1〕~〔5〕の何れか一項に記載の車両用灯具。
〔7〕 前記偏光回転素子は、1/2波長板であることを特徴とする前記〔1〕~〔6〕の何れか一項に記載の車両用灯具。
〔8〕 前記偏光回転素子は、90°捻れ配向を有する液晶層を含み、
前記液晶層のリタデーション値が1μm以上であることを特徴とする前記〔1〕~〔6〕の何れか一項に記載の車両用灯具。
〔9〕 前記反射集光光学系から前記偏光回転素子に向かう前記第2の光の光路中に配置されて、前記第2の光が前記第1の集光点に集光されるように調整する集光調整素子を備えることを特徴とする前記〔1〕~〔8〕の何れか一項に記載の車両用灯具。
〔10〕 前記偏光ビームスプリッタと前記偏光回転素子とが一体化された光学素子を備えることを特徴とする前記〔1〕~〔9〕の何れか一項に記載の車両用灯具。
〔11〕 前記光学素子は、互いに対向して配置された一対の基板と、
前記一対の基板の間を第1の領域と第2の領域とに区画する隔壁と、
前記一対の基板間において、前記第1の領域、前記第2の領域及び前記隔壁を囲むシール部材と、
前記第1の領域に挟み込まれた光学等方性層と、
前記第1の領域における前記一対の基板の何れかの対向面に配置された前記偏光ビームスプリッタと、
前記第2の領域に挟み込まれると共に、90°捻じれ配向を有し、リタデーション値が1μm以上である液晶層と、から構成されていることを特徴とする前記〔10〕に記載の車両用灯具。
〔12〕 前記液晶素子の前方に配置されて、前記液晶素子により変調された光のうち、特定の偏光成分の光を透過させる偏光板と、
前記偏光板の前方に配置されて、前記偏光板を透過した光を前方に向けて投影する投影光学系とを備えることを特徴とする前記〔1〕~〔11〕の何れか一項に記載の車両用灯具。
〔13〕 前記光学素子は、互いに対向して配置された一対の基板と、
前記一対の基板の間に挟み込まれた光学等方性層と、
前記一対の基板の間に挟み込まれた液晶層と、
前記光学等方性層と前記液晶層との間を区画する隔壁とを備え、
前記偏光ビームスプリッタは、前記光学等方性層を含む第1の領域に対応して設けられ、
前記偏光回転素子は、前記液晶層を含む第2の領域に対応して設けられていることを特徴とする前記〔10〕に記載の車両用灯具。
〔14〕 前記一対の基板のうち、一方の基板の前記光学等方性層及び前記液晶層と対向する面には、反射偏光層が前記第1の領域に対応して設けられ、
他方の基板の前記液晶層と対向する面には、配向制御層が前記第2の領域に対応して設けられていることを特徴とする前記〔13〕に記載の車両用灯具。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明によれば、光源から出射された光を2つの偏光成分の光に分離し、それぞれの偏光成分の光を液晶素子で制御して利用する際の光の利用効率を高めることを可能とした車両用灯具を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る車両用灯具の構成を示す断面図である。
【
図2】本発明の第2の実施形態に係る車両用灯具の構成を示す断面図である。
【
図3】
図2に示す車両用灯具が備える光学素子の構成を示す平面図である。
【
図4】
図3中に示す線分A-Aによる光学素子の平面図である。
【
図5】光学素子の透過スペクトル特性を示すグラフである。
【
図6】光学素子の反射スペクトル特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
なお、以下の説明で用いる図面においては、各構成要素を見やすくするため、構成要素によって寸法の縮尺を異ならせて示すことがあり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
また、以下に示す図面では、XYZ直交座標系を設定し、X軸方向を車両用灯具の前後方向(長さ方向)、Y軸方向を車両用灯具の左右方向(幅方向)、Z軸方向を車両用灯具の上下方向(高さ方向)として、それぞれ示すものとする。
【0013】
(第1の実施形態)
先ず、本発明の第1の実施形態として、例えば
図1に示す車両用灯具1Aについて説明する。
なお、
図1は、車両用灯具1Aの構成を示す断面図である。
【0014】
本実施形態の車両用灯具1Aは、例えば、車両の前方に搭載される車両用前照灯(ヘッドランプ)として、車両の前方に向けて投影される光の配光パターンを可変に制御する配光可変ヘッドランプ(ADB)に本発明を適用したものである。
【0015】
具体的に、この車両用灯具1Aは、
図1に示すような灯具ユニット2Aを備えている。車両用灯具1Aは、図示を省略する前面が開口したハウジングと、ハウジングの開口を覆う透明なレンズカバーとにより構成される灯体の内側に、この灯具ユニット2Aが配置された構造を有している。
【0016】
本実施形態の灯具ユニット2Aは、光源3と、液晶素子4と、集光光学系5と、偏光ビームスプリッタ(PBS)6と、反射集光光学系7と、偏光回転素子8と、偏光板9と、投影光学系10とを備えている。
【0017】
光源3は、無偏光(非偏光)の光Lを出射するものである。本実施形態では、光源3として、例えば白色光を発する発光ダイオード(LED)などの発光素子を用いている。光源3は、実装基板11の一面(本実施形態では上面)にLEDが実装された状態で、このLEDが発する光Lを上方(+Z軸)側に向けて放射状に出射する。
【0018】
なお、光源3には、上述したLED以外にも、レーザーダイオード(LD)などの発光素子を用いることができる。また、上述した発光素子以外の光源を用いてもよい。さらに、発光素子の数については、1つ限らず、複数であってもよい。
【0019】
実装基板11は、少なくとも一面に、上述したLED(光源3)と電気的に接続される配線(図示せず。)が設けられたプリント配線基板からなる。光源3が複数のLEDからなる場合、これら複数のLEDは、実装基板11の幅方向(Y軸方向)に等間隔に並んだ状態で実装される。
【0020】
なお、上記光源3については、上述したLEDが実装された実装基板11と、このLEDを駆動するLED駆動回路が設けられた回路基板とを別々に配置し、これら実装基板と回路基板との間をハーネスと呼ばれる配線コードを介して電気的に接続した構成としてもよい。これにより、LEDが発する熱からLED駆動回路を保護することが可能である。
【0021】
また、上記光源3については、上述したLEDが発する熱を外部へと放熱させるヒートシンクや、このヒートシンクに向けて送風を行う冷却ファンが設けられた構成としてもよい。これにより、LEDが発する熱を外部へと効率良く放熱させることが可能である。
【0022】
液晶素子4は、集光光学系5の前方(+X軸側)に配置された透過型の液晶パネル(LCD)により構成されている。液晶素子4は、電極間に印加される駆動電圧を制御する液晶駆動回路(図示せず。)によって、この液晶素子4を通過する光の偏光状態を可変に変調しながら、投影光学系10より前方に向けて投影される光の像(配光パターン)を制御する。
【0023】
なお、上記液晶素子4については、1つのセグメントを電極間に印加される駆動電圧を制御して光の変調を切り替えるセグメント方式であってもよく、マトリックス状に配置された各ドット(ピクセル)の電極間に印加される駆動電圧を制御して任意のエリアで光の変調を切り替えるドットマトリックス方式であってもよい。
【0024】
集光光学系5は、光源3の上方に配置された第1のリフレクタ(以下、「第1のリフレクタ5」とする。)により構成されている。
【0025】
第1のリフレクタ5は、その鉛直断面において2つの焦点f11,f12を持つ楕円線を描くように形成された凹面状の楕円反射面5aを有している。楕円反射面5aは、2つの焦点f11,f12のうち、第1焦点f11を光源3の発光点C0と一致させ、第2焦点f12を液晶素子4の第1の集光点C1と一致させている。これにより、第1のリフレクタ5は、楕円反射面5aに入射した光Lを液晶素子4に向けて反射しながら集光させる。
【0026】
なお、上記集光光学系5については、上述したリフレクタにより構成されたものに限らず、集光レンズに構成されたものであってよい。この場合、集光レンズの前側焦点を光源3の発光点C0と一致させ、集光レンズの後側焦点を液晶素子4の第1の集光点C1と一致させた構成とすればよい。
【0027】
PBS6は、光源3から出射された光Lを一方の偏光成分(例えばP偏光成分)からなる第1の光L1と、他方の偏光成分(例えばS偏光成分)からなる第2の光L2とに分離するものである。PBS6は、第1のリフレクタ5から液晶素子4に向かう光Lの光路中に配置されている。
【0028】
PBS6は、鉛直断面において、液晶素子4に対して傾斜して設けられている。具体的に、PBS6は、液晶素子4に対して、所定の傾きで対向して配置され、PBS6における第1の光L1の通過する領域と液晶素子4との間の距離は、PBS6における第2の光L2が通過する領域と液晶素子4との間の距離よりも大きくなるように配置されている。したがって、PBS6は、液晶素子4に対向して配置されると共に、PBS6と液晶素子4との間隔が、上方(+Z軸)側にて大きくなるように配置されている。
【0029】
また、PBS6は、液晶素子4の中心軸を挟んで第1のリフレクタ5が位置する側(本実施形態では上側)とは反対側の反射集光光学系7が位置する側(本実施形態では下側)に向かって傾斜して設けられている。
【0030】
これにより、PBS6は、第1のリフレクタ5により集光される光Lのうち、第1の光L1を前方の液晶素子4に向けて透過し、第2の光L2を下側斜め後方の反射集光光学系7に向けて反射する。
【0031】
また、PBS6を透過した第1の光L1は、液晶素子4と一致した位置にある第1の集光点C1において集光される。一方、PBS6で反射された第2の光L2は、第1のリフレクタ5からPBS6に向かう光Lの光路と、後述する第2のリフレクタ(反射集光光学系)7からPBS6に向かう第2の光L2の光路とから外れた位置にある第2の集光点C2において集光された後、この第2の集光点C2から第2のリフレクタ7に向かって拡散される。
【0032】
すなわち、この第2の集光点C2は、第1のリフレクタ5からPBS6に向かう光Lの光路と、第2のリフレクタ7からPBS6に向かう第2の光L2の光路とに各々重ならない位置にある。また、第2の集光点C2は、光源3と第1の集光点C1とを結ぶ光軸よりも下方に位置している。
【0033】
なお、上記PBS6については、例えば、ワイヤーグリッド方式や、光学多層膜によるものなどを用いることができる。また、PBS6は、平板状のプレートタイプに限らず、2つの直角プリズムを組み合わせたキューブタイプであってもよい。
【0034】
反射集光光学系7は、第1のリフレクタ5よりも下方(-Z軸側)に配置された第2のリフレクタ(以下、第2のリフレクタ7とする。)により構成されている。
【0035】
第2のリフレクタ7は、その鉛直断面において2つの焦点f21,f22を持つ楕円線を描くように形成された凹面状の楕円反射面7aを有している。楕円反射面7aは、2つの焦点f21,f22のうち、第1焦点f21を第2の集光点C2と一致させ、第2焦点f22を液晶素子4の第1の集光点C1と一致させている。これにより、第2のリフレクタ7は、楕円反射面7aに入射した第2の光L2を液晶素子4に向けて反射しながら集光させる。
【0036】
したがって、液晶素子4に向けて集光される第1の光L1と第2の光L2とは、互いに共通する第1の集光点C1において集光されている。また、液晶素子4は、この第1の集光点C1に位置している。
【0037】
偏光回転素子8は、第2のリフレクタ7からPBS6に向かう第2の光L2の光路中に配置された1/2波長(λ/2)板(以下、「λ/2板」8という。)により構成されている。また、λ/2板8は、第1のリフレクタ5からPBS6に向かう光Lの光路と、PBS6から第2のリフレクタ7に向かう第2の光L2の光路とに各々重ならないように配置されている。
【0038】
本実施形態において、λ/2板8は、液晶偏光回転素子であり、その液晶層は90°捩れ配向を有している。液晶材料としては、固相―液晶相転移温度(Tc)が-39℃、液晶―等方性液体相転移温度(Tni)が152℃のツイストネマチック(TN)液晶を用いている。
【0039】
本実施形態では、λ/2板8として、セル厚12μm、液晶材料のΔnが0.16の液晶偏光回転素子を構成し、リターデーション(Δn・d)の値は、1μmとしている。リタデーションの値は、1μm以上3μm以下であることが望ましい。リタデーションの値が大きいほど波長分散を抑制すると共に、セル厚に従い液晶材料の配向の均一性が低下することを抑制することができる。また、液晶層はポリマー化して耐熱性を向上することもできる。
【0040】
λ/2板8は、ツイストネマチック液晶からなる液晶偏光回転素子のみならず、ホモジニアス配向(一軸配向)の液晶からなる液晶偏光回転素子を用いて構成することもできる。ホモジニアス配向の液晶で構成する場合、液晶偏光回転素子へ入射する光の偏光軸に対して、遅相軸を45°傾けて、λ/2板8とすることができる。
【0041】
λ/2板8は、上記液晶偏向回転素子だけでなく、ポリカーボネートやシクロオレフィンポリマーなどのプラスチック材を延伸して形成された延伸フィルム、又は、透明支持体に配向膜を塗布してラビング処理後にディスコティック液晶やネマティック液晶などの液晶分子を含む光学異方性層を積層した液晶塗布型位相差フィルム、からなる波長板により構成することもできる。
【0042】
さらに、λ/2板8としては、ガラス基板上に塗布した無機材料層をナノインプリント技術で周期凹凸構造を形成した位相差板、水晶波長板、サファイア波長板で構成することもできる。λ/2板8としては、ツイストネマチック液晶を用いることが、他の波長板と比較して、広帯域波長にて安定した偏光を高い耐熱性で安価に構成することができるため、より好ましい。
【0043】
λ/2板8は、第2の光L2の偏光方向を90°回転し、この第2の光L2の偏光方向をS偏光からP偏光へと変換することによって、第2のリフレクタ7からPBS6に向かう第2の光L2の偏光方向を第1の光L1の偏光方向と一致させる。これにより、λ/2板8からPBS6に向かう第2の光L2は、PBS6を透過し、液晶素子4の第1の集光点C1において集光される。
【0044】
偏光板9は、液晶素子4の前方に配置されている。偏光板9は、液晶素子4により変調された第1の光L1及び第2の光L2のうち、特定の偏光成分の光を透過させる。すなわち、この偏光板9は、液晶素子4に制御される光の配光パターンに対応した偏光成分の光を透過し、それ以外の偏光成分の光を遮断する。これにより、液晶素子4に制御される光の配光パターンに合わせて、液晶素子4により変調された第1の光L1及び第2の光L2を選択的に透過させることが可能である。
【0045】
また、偏光板9と液晶素子4との間の光路中には、必要に応じて液晶素子4により変調された第1の光L1及び第2の光L2の位相差を補償する光学補償板12を配置してもよい。光学補償板12は、液晶素子4により変調された第1の光L1及び第2の光L2の偏光度を向上させることができる。その結果、上述した液晶素子4により制御される光の配光パターンのコントラストを向上させることが可能である。
【0046】
なお、上記偏光板9については、上述した光を遮断(吸収)することによって発熱することから、液晶素子4とは離間して配置することが好ましい。
【0047】
投影光学系10は、偏光板9の前方に配置された少なくとも1つ又は複数(本実施形態では1つ)の投影レンズ(以下、「投影レンズ10」とする。)により構成されている。液晶素子4は、この投影レンズ10の後側焦点f3に合わせて配置されている。すなわち、この投影レンズ10の後側焦点f3又はその近傍に液晶素子4が位置している。投影レンズ10は、偏光板9を透過した第1の光L1及び第2の光L2を前方に向けて投影する。
【0048】
以上のような構成を有する本実施形態の車両用灯具1Aでは、灯具ユニット2Aを制御する制御回路ユニット(図示せず。)によって、車両に設けられたカメラから得られる画像や、車両に設けられた各種センサの情報を用いて、先行車や対向車等の周囲情報を判断した上で遮光すべき領域を算出し、その遮光すべき領域の情報を制御信号として液晶駆動回路に送信する。
【0049】
液晶駆動回路は、制御回路ユニットからの制御信号に基づいて、液晶素子4の駆動を制御しながら、投影レンズ10により投影される第1の光L1及び第2の光L2の像(配光パターン)を制御する。これにより、投影レンズ10から車両の前方に向けて投影される第1の光L1及び第2の光L2の配光パターンを可変に制御することが可能である。
【0050】
すなわち、本実施形態の車両用灯具1Aは、ADBとして、車載カメラ等で先行車や対向車などの周囲の状況を認識し、先行車や対向車に眩しさを与える光を遮光することによって、夜間におけるドライバの前方視界を拡大することが可能である。
【0051】
ところで、本実施形態の車両用灯具1Aでは、上述した第1のリフレクタ5からPBS6に向かう光Lの光路と、第2のリフレクタ7からPBS6に向かう第2の光L2の光路とから外れた位置に、PBS6により反射された第2の光L2が集光される第2の集光点C2が位置している。すなわち、この第2の集光点C2は、第1のリフレクタ5からPBS6に向かう光Lの光路と、第2のリフレクタ7からPBS6に向かう第2の光L2の光路とは各々重ならない位置にある。
【0052】
また、本実施形態の車両用灯具1Aでは、第1のリフレクタ5からPBS6に向かう第1の光L1の光路と、PBS6から第2のリフレクタ7に向かう第2の光L2の光路とに各々重ならないように、第2のリフレクタ7からPBS6に向かう第2の光L2の光路中にのみλ/2板8が配置されている。
【0053】
これにより、本実施形態の車両用灯具1Aでは、PBS6から第2のリフレクタ7に向かう第2の光L2をλ/2板8に入射させることなく、第2のリフレクタ7からPBS6に向かう第2の光L2のみをλ/2板8に入射させることが可能である。
【0054】
また、λ/2板8は、第2のリフレクタ7からPBS6に向かう第2の光L2の偏光方向を90°回転し、この第2の光L2の偏光方向をS偏光からP偏光へと変換する。これにより、PBS6に入射する第2の光L2の偏光方向を第1の光L1の偏光方向と一致させる(揃える)ことが可能である。
【0055】
したがって、本実施形態の車両用灯具1Aでは、PBS6を透過して液晶素子4に入射する第1の光L1及び第2の光L2の光量を増やすことができ、この液晶素子4に入射する第1の光L1及び第2の光L2の偏光方向をより一致させた(揃えた)状態とすることが可能である。
【0056】
また、本実施形態の車両用灯具1Aでは、光源3と第1の集光点C1との間の距離が、第2の集光点C2と第1の集光点C1との間の距離よりも大きくなっている。これにより、第2のリフレクタ7の小型化を図りつつ、第2のリフレクタ7からPBS6に向かう第2の光L2の光路中にのみλ/2板8を配置することが可能である。
【0057】
また、本実施形態の車両用灯具1Aでは、液晶素子4の中心軸に対して、液晶素子4に入射する第1の光L1の光軸及び第2の光L2の光軸の傾斜する角度が、それぞれ40°以下となっている。
【0058】
これにより、液晶素子4に入射する第1の光L1及び第2の光L2の角度(入射角)を低く抑えて、この液晶素子4により変調される第1の光L1及び第2の光L2の配光パターンを適切に制御することが可能である。また、液晶素子4の視角依存性の影響を低減できると共に、液晶素子4を透過して投影レンズ10に入射する第1の光L1及び第2の光L2の光量を増やすことが可能である。
【0059】
以上のように、本実施形態の車両用灯具1Aでは、上述した灯具ユニット2Aを備えることによって、光源2から出射された光Lを2つの偏光成分の光L1,L2に分離し、それぞれの偏光成分の光L1,L2を液晶素子4で制御して利用する際の光Lの利用効率を高めることができる。特に、位相差板の通過による光損失を低減して、光利用効率を高めることができる。また、本実施形態の車両用灯具1Aでは、部品点数の増加、及び、灯具ユニット2Aの大型化を抑制することができる。
【0060】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態として、例えば
図2~
図4に示す車両用灯具1B及び光学素子50について説明する。
【0061】
なお、
図2は、車両用灯具1Bの構成を示す断面図である。
図3は、車両用灯具1Bが備える光学素子50の構成を示す平面図である。
図4は、
図3中に示す線分A-Aによる光学素子50の平面図である。また、以下の説明では、上記車両用灯具1A(灯具ユニット2A)と同等の部位については、説明を省略すると共に、図面において同じ符号を付すものとする。
【0062】
本実施形態の車両用灯具1Bは、
図2に示すような灯具ユニット2Bを備えている。灯具ユニット2Bは、PBS6と偏光回転素子8とが一体化された光学素子50を備えている。また、偏光回転素子8は、90°捻れ配向を有する液晶層により構成されている。それ以外は、上記灯具ユニット2Aと基本的に同じ構成を有している。
【0063】
光学素子50は、
図3及び
図4に示すように、互いに対向して配置された一対の基板51a,51bと、一対の基板51a,51bの間の第1の領域E1に挟み込まれた光学等方性層52と、一対の基板51a,51bの間の第2の領域E2に挟み込まれた液晶層53と、光学等方性層52と液晶層53との間を区画する隔壁54とを有している。
【0064】
PBS6は、光学等方性層52及び液晶層53を含む第1の領域E1及び第2の領域E2に対応して設けられている。偏光回転素子8は、液晶層53を含む第2の領域E2に対応して設けられている。
【0065】
すなわち、第1の領域E1は、光学素子50の面内のうち、PBS6として機能する領域であり、第1のリフレクタ5からPBS6に向かう光Lと、第2のリフレクタ7からPBS6に向かう第2の光L2とが入射する範囲に亘って設けられている。一対の基板51a,51bのうち、一方の基板51aの光学等方性層52及び液晶層53と対向する面(内面)には、反射偏光層55が第1の領域E1に対応して設けられている。なお、第2の領域E2において反射偏光層55は任意に設けられる。
【0066】
一方、第2の領域E2は、光学素子50の面内のうち、偏光回転素子(λ/2板)8として機能する領域であり、第2のリフレクタ7からPBS6に向かう第2の光L2が入射する範囲に亘って設けられている。
【0067】
他方の基板51bの液晶層53と対向する面(内面)には、配向制御層56が第2の領域E2に対応して設けられている。
【0068】
一対の基板51a,51bは、ガラス基板などの等方性透明部材により構成されている。光学等方性層52は、基板51a,51bとの屈折率差を無くす(小さくする)ための光学マッチング材により構成されている。本実施形態において、一対の基板51a,51bは、ガラス基板により構成されている。光学等方性層52は、ガラス基板と屈折率が近い屈折率1.5の光学マッチング材により構成されている。液晶層53は、ツイストネマチック(TN)液晶により構成されている。
【0069】
光学素子50は、互いに対向する一対の基板51a,51bの周囲がシール材57によって封止されている。また、シール材57の一部には、隔壁54を挟んだ一方側(第2の領域E2)に液晶を注入するための第1の注入口57aと、隔壁54を挟んだ他方側(第1の領域E1)に光学マッチング材を注入するための第2の注入口57bとが設けられている。これらの注入口57a,57bは、液晶及び光学マッチング材を注入した後に封止される。また、一対の基板51a,51bの間には、対向間隔を保持するためのビーズ58が液晶中及び光学マッチング材中に分散して設けられている。
【0070】
ここで、本実施形態における光学素子50の製造工程について説明する。
なお、以下の製造工程も本発明の一例であり、各製造工程及び各種材料に限定されるものではない。
【0071】
先ず、ガラス基板51bにポリイミド水平配向膜(配向制御層56)をフレキソ印刷し、第1の方向にラビング処理を行った。
【0072】
次に、ガラス基板51a上に、反射偏光層55として光学多層膜方式の反射偏光板をフィルムの延伸方向が上記ラビング処理の第1の方向と直交するよう貼り、オートクレーブにより強く密着させた。なお、反射偏光層55に第1の方向と直交するラビング処理を施してもよく、反射偏光層55に用いる材料に応じて適宜選択することができる。
【0073】
次に、ガラス基板51aにシール材57を塗布し、ガラス基板51bに隔壁54を構成する透明なシール材の塗布、及びギャップコントロール剤を散布し、両基板を重ねあわせた。シール材57の塗布の際に第1の注入口57aと第2の注入口57bを形成した。
【0074】
次に、第1の注入口57aより液晶材料を、第2の注入口57bより光学マッチング材を注入し、紫外線硬化して、光学素子50を製造した。第1の注入口57aより注入する液晶材料には、捩れ角と同じ方向にキラリティを有するカイラル剤を添加してもよい。
【0075】
反射偏光層55は、延伸ポリマーを用いた光学多層膜からなる。配向制御層56は、有機配向膜又は無機配向膜からなる。液晶層53は、これら反射偏光層55と配向制御層56との間で90°捻れ配向を有している。これにより、液晶層53は、広帯域のλ/2板8として、波長によらずに偏光方向を90°回転させることが可能である。
【0076】
ここで、光学素子50のスペクトル特性について、
図5及び
図6を参照しながら説明する。
なお、
図5は、光学素子50の透過スペクトル特性を示すグラフである。
図6は、光学素子50の反射スペクトル特性を示すグラフである。
【0077】
本実施形態では、光学素子50の反射偏光層55に対して偏光板を平行ニコルで配置したときと、偏光板をクロスニコルで配置したときとの透過スペクトル特性を
図5に示し、反射スペクトル特性を
図6に示す。
【0078】
図5及び
図6に示すように、光学等方性層52が設けられた第1の領域E1は、平行ニコル時に透過状態を示し、クロスニコル時に遮光状態を示している。一方、液晶層53が設けられた第2の領域E2は、平行ニコル時に遮光状態を示し、クロスニコル時に透過状態を示している。また、第2の領域E2の透過性能及び遮光性能は、第1の領域E1と同等であり、波長分散もない。したがって、本実施形態の光学素子50では、液晶層53が広帯域のλ/2板8として非常に優れた機能を有していることがわかった。
【0079】
液晶層53のリタデーション値(Δn・d)は、大きくなるほど波長分散を抑えることができるが、セル厚が大きくなるに従い、液晶の均一性も悪くなる。したがって、このような観点から、液晶層53のリタデーション値は、1μm以上、3μm以下であることが好ましい。
【0080】
光学素子50では、光学等方性層52と液晶層53との一部又は全てがポリマー化されていることが好ましい。これにより、光学素子50の耐熱性及び耐光性の向上を図ることが可能である。
【0081】
以上のような構成を有する光学素子50は、
図2に示すように、液晶素子4に対して傾斜して設けられている。具体的に、光学素子50及びPBS6は、液晶素子4に対して、所定の傾きで対向して配置され、PBS6における第1の光L1の通過する領域と液晶素子4との間の距離は、PBS6における第2の光L2が通過する領域と液晶素子4との間の距離よりも大きくなるよう配置されている。すなわち、光学素子50(PBS6)は、液晶素子4に対向して配置されると共に、光学素子50(PBS6)と液晶素子4との間隔が、上方(+Z軸)側にて大きくなるように配置されている。
【0082】
また、光学素子50は、液晶素子4の中心軸を挟んで第1のリフレクタ5が位置する側(本実施形態では上側)とは反対側の第2のリフレクタ7が位置する側(本実施形態では下側側)に向かって傾斜して設けられている。
【0083】
これにより、光学素子50は、第1の領域E1に対応した反射偏光層55(PBS6)に、第1のリフレクタ5により集光される光Lが入射することによって、反射偏光層55により分離された第1の光L1を前方の液晶素子4に向けて透過し、反射偏光層55により分離された第2の光L2を下側斜め後方の反射集光光学系7に向けて反射する。
【0084】
また、光学素子50を透過した第1の光L1は、液晶素子4と一致した位置にある第1の集光点C1において集光される。一方、光学素子50で反射された第2の光L2は、第1のリフレクタ5から光学素子50に向かう光Lの光路と、第2のリフレクタ7からPBS6に向かう第2の光L2の光路とから外れた位置にある第2の集光点C2において集光された後、この第2の集光点C2から第2のリフレクタ7に向かって拡散される。
【0085】
すなわち、この第2の集光点C2は、第1のリフレクタ5から光学素子50に向かう光Lの光路と、第2のリフレクタ7から光学素子50に向かう第2の光L2の光路とに各々重ならない位置にある。
【0086】
また、第2のリフレクタ7から光学素子50に向かう第2の光L2の光路中に、光学素子50の第2の領域E2に対応した液晶層53(λ/2板8)が配置されている。また、液晶層53は、第1のリフレクタ5から光学素子50に向かう光Lの光路と、光学素子50から第2のリフレクタ7に向かう第2の光L2の光路とに各々重ならないように配置されている。
【0087】
光学素子50は、液晶層53に入射した第2の光L2の偏光方向を90°回転し、この第2の光L2の偏光方向をS偏光からP偏光へと変換することによって、第2の光L2の偏光方向を第1の光L1の偏光方向と一致させる。これにより、光学素子50の第2の領域E2に対応した反射偏光層55(PBS6)に入射した第2の光L2は、光学素子50を透過し、液晶素子4の第1の集光点C1において集光される。
【0088】
したがって、本実施形態の車両用灯具1Bでは、光学素子50を透過して液晶素子4に入射する第1の光L1及び第2の光L2の光量を増やすことができ、この液晶素子4に入射する第1の光L1及び第2の光L2の偏光方向をより一致させた(揃えた)状態とすることが可能である。
【0089】
また、本実施形態の車両用灯具1Bでは、上述したPBS6と偏光回転素子8とを一体化した光学素子50を備えることによって、灯具ユニット2Bの更なる小型化を図ることが可能である。また、上述した耐熱性や耐光性に優れた光学素子50を備えることによって、灯具ユニット2Bの信頼性の向上を図ることが可能である。
【0090】
以上のように、本実施形態の車両用灯具1Bでは、上述した灯具ユニット2Bを備えることによって、光源2から出射された光Lを2つの偏光成分の光L1,L2に分離し、それぞれの偏光成分の光L1,L2を液晶素子4で制御して利用する際の光Lの利用効率を高めることができる。特に、位相差板の通過による光損失を低減して、光利用効率を高めることができる。また、このような車両用灯具1Bに対して好適に用いられる光学素子50を備えることによって、部品点数の増加を防ぎつつ、灯具ユニット2Bの大型化を抑制し、信頼性の向上を図ることが可能である。
【0091】
ここで、上記第1の実施形態の灯具ユニット2A及び上記第2の実施形態の灯具ユニット2Bを作製し、光束の評価を行った。灯具ユニット2A及び灯具ユニット2Bのそれぞれについて、第1の光L1、第2の光L2の光路毎に配光測定を行った結果を下記表1に示す。
【0092】
【0093】
表1に示す配光測定の結果から、先ず、第1の光L1に注目すると、第2の実施形態の灯具ユニット2Bは第1の実施形態の灯具ユニット2Aに比較して、大きな光束変化はない。
【0094】
一方、第2の光L2に注目すると、第2の実施形態の灯具ユニット2Bは第1の実施形態の灯具ユニット2Aに比較して、光束は103%増加している。また、全体の光束に注目しても、第2の実施形態の灯具ユニット2Bは第1の実施形態の灯具ユニット2Aに比較して、光束は17%増加している。
【0095】
これにより、第2の実施形態の灯具ユニット2Bにおいて、PBS6と偏光回転素子8とを一体化することにより、さらに光損失を低減できることが確認できた。
【0096】
なお、本発明は、上記実施形態のものに必ずしも限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
具体的に、上記車両用灯具1Bでは、上述したPBS6と偏光回転素子8とが一体化された光学素子50を備えた構成となっているが、例えば
図7(A)~(G)に示すような光学素子50A~50Gを備えた構成とすることも可能である。
【0097】
このうち、
図7(A)に示す光学素子50Aは、一対の基板51a,51bの間に光学等方性層52が設けられ、一方の基板51aの対向する側の面(内面)に、PBS6(反射偏光層55)が第1の領域E1を含む領域に対応して設けられ、他方の基板51bの対向する側の面(内面)に、λ/2板8が第2の領域E2に対応して設けられた構成である。
【0098】
図7(B)に示す光学素子50Bは、一対の基板51a,51bの間に光学等方性層52が設けられ、一方の基板51aの対向する側の面(内面)に、PBS6(反射偏光層55)が第1の領域E1を含む領域に対応して設けられ、PBS6(反射偏光層55)の面上に、λ/2板8が第2の領域E2に対応して設けられた構成である。
【0099】
図7(C)に示す光学素子50Cは、一対の基板51a,51bの間に光学等方性層52が設けられ、一方の基板51aの対向する側の面(内面)に、PBS6(反射偏光層55)が第1の領域E1を含む領域に対応して設けられ、他方の基板51bの対向する側とは反対側の面(外面)に、λ/2板8が第2の領域E2に対応して設けられた構成である。
【0100】
図7(D)に示す光学素子50Dは、一対の基板51a,51bの間に光学等方性層52が設けられ、一方の基板51aの対向する側とは反対側の面(外面)に、PBS6(反射偏光層55)が第1の領域E1を含む領域に対応して設けられ、他方の基板51bの対向する側の面(内面)に、λ/2板8が第2の領域E2に対応して設けられた構成である。
【0101】
図7(E)に示す光学素子50Eは、基板51の一面に、PBS6(反射偏光層55)が第1の領域E1を含む領域に対応して設けられ、基板51の他面に、λ/2板8が第2の領域E2に対応して設けられた構成である。
【0102】
図7(F)に示す光学素子50Fは、基板51の一面に、PBS6(反射偏光層55)が第1の領域E1を含む領域に対応して設けられ、PBS6(反射偏光層55)の面上に、λ/2板8が第2の領域E2に対応して設けられた構成である。
【0103】
図7(G)に示す光学素子50Gは、基板51の一面に、PBS6(反射偏光層55)が第1の領域E1に対応して設けられ、他方の基板51bの対向する側の面(内面)に、λ/2板8が第2の領域E2に対応して設けられた構成である。
【0104】
さらに、
図7(B)~
図7(F)に示す光学素子50B~50Fにおける、PBS6(反射偏光層55)を、
図7(G)のように、第1の領域E1に対応する領域に形成した構成とすることもできる。
【0105】
また、上記車両用灯具1A,1Bでは、例えば、
図8(A),(B)に示すように、第2のリフレクタ7から偏光回転素子8(光学素子50)に向かう第2の光L2の光路中に、第2の光L2が第1の集光点C1に集光されるように調整する集光調整素子13A,13Bを配置した構成としてもよい。これにより、第2のリフレクタ7の配置に余裕を持たせたり、第2のリフレクタ7を小型化したりすることが可能である。
【0106】
このうち、
図8(A)に示す集光調整素子13Aは、プリズムであり、このプリズムに入射する第2の光L2を屈折させながら、第1の集光点C1に向けて集光させる。プリズムを用いた場合、第2のリフレクタ7を下方にずらして、この第2のリフレクタ7の配置に余裕を持たせることが可能である。また、小型化した第2のリフレクタ7を前方に近づけて配置することも可能である。したがって、灯具ユニット2A,2Bの更なる小型化を図ることが可能である。
【0107】
一方、
図8(B)に示す集光調整素子13Bは、凹レンズであり、この凹レンズに入射する第2の光L2を拡散させながら、第1の集光点C1に向けて集光させる。凹レンズを用いた場合、小型化した第2のリフレクタ7を前方に近づけて配置することが可能である。したがって、灯具ユニット2A,2Bの更なる小型化を図ることが可能である。
【0108】
上記車両用灯具1A,1Bでは、上述した第2のリフレクタ7からPBS6に向かう第2の光L2の光路中にのみ偏光回転素子(λ/2板)8が配置された構成となっているが、場合によっては、PBS6から第2のリフレクタ7に向かう第2の光L2の光路中にのみ偏光回転素子(λ/2板)8が配置された構成とすることも可能である。
【0109】
なお、上記実施形態では、上述した配光可変ヘッドランプ(ADB)に本発明を適用した場合を例示しているが、それ以外にも、走行する車両の操舵角(切れ角)や速度(車速)に応じて、液晶素子を制御して車両進行方向のすれ違いビームの照射範囲を拡大することで、車両進行方向の視認性を確保する配光可変型前照灯システム(AFS:Adaptive Front-lighting System)にも、本発明を適用することが可能である。
【0110】
また、すれ違い用ビーム(ロービーム)として、上端にカットオフラインを含むロービーム用配光パターンと、走行用ビーム(ハイビーム)として、ロービーム用配光パターンの上方に位置するハイビーム用配光パターンとを1つの灯具ユニットで切り替えることが可能なバイ(Bi)・ファンクション方式の車両用灯具にも、本発明を適用することが可能である。
【符号の説明】
【0111】
1A,1B…車両用灯具 2A,2B…灯具ユニット 3…光源 4…液晶素子 5…集光光学系(第1のリフレクタ) 6…偏光ビームスプリッタ(PBS) 7…反射集光光学系(第2のリフレクタ) 8…偏光回転素子(λ/2板) 9…偏光板 10…投影光学系(投影レンズ) 11…実装基板 12…光学補償板 13A,13B…集光調整素子 50,50A~50F…光学素子 51,51a,51b…基板 52…光学等方性層 53…液晶層 54…隔壁 55…反射偏光層 56…配向制御層 57…シール材 58…ビーズ L…光 L1…第1の光 L2…第2の光 C1…第1の集光点 C2…第2の集光点 E1…第1の領域 E2…第2の領域