(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-09
(45)【発行日】2024-08-20
(54)【発明の名称】クリップ
(51)【国際特許分類】
F16B 2/08 20060101AFI20240813BHJP
F16B 37/08 20060101ALI20240813BHJP
【FI】
F16B2/08 U
F16B37/08 A
(21)【出願番号】P 2020187826
(22)【出願日】2020-11-11
【審査請求日】2023-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】308011351
【氏名又は名称】大和化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮路 淳
(72)【発明者】
【氏名】山下 祥史
【審査官】鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-096299(JP,A)
【文献】特開2007-224933(JP,A)
【文献】実開平05-050275(JP,U)
【文献】特開2010-159843(JP,A)
【文献】特開2000-179523(JP,A)
【文献】特開2011-231909(JP,A)
【文献】特開2004-068830(JP,A)
【文献】特開2008-068927(JP,A)
【文献】米国特許第06155762(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 2/08
F16B 37/08
F16B 21/07
B65D 63/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被取付部材が装着される装着体と、
装着体から形成され、母材に設けられたボルト部材を挿し込み可能な挿込孔を有する取付体と、を備え、
挿込孔の内壁面には、先端に押当ブロックを有し可撓性を備えた係合片が挿込孔の中心に向けて突出するように形成され、
押当ブロックの内面の基端側には、挿込孔に挿し込まれたボルト部材のネジ山に係合可能な係合爪が形成され、
挿込孔に挿し込まれたボルト部材のネジ山に係合爪が係合することで、取付体が母材に取り付けられるクリップであって、
取付体が母材に取り付けられた取付状態においてクリップ自身に抜去荷重が作用したとき、係合片が撓むことでボルト部材のネジ山に対する係合爪の係合が解消されても、押当ブロックの内面の先端側の角部がボルト部材の先端側の別のネジ山に係合するクリップ。
【請求項2】
請求項1に記載のクリップであって、
取付体が母材に取り付けられた取付状態においてクリップ自身に抜去荷重が作用して、係合片が撓むことでボルト部材のネジ山に対する係合爪の係合が解消されたとき、押当ブロックの内面の先端側の角部は、別のネジ山として、挿込孔に挿し込まれたボルト部材が係合したネジ山より1つまたは2つ先端側のネジ山に係合するクリップ。
【請求項3】
請求項1~2のいずれかに記載のクリップであって、
押当ブロックの先端面は、挿込孔にボルト部材を挿し込んでいない状態において、挿込孔の中心に直交する直交方向に対して所定の角度を有する下り傾斜面となっているクリップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリップに関し、詳しくは、母材に設けられたボルト部材をクリップに形成された挿込孔に挿し込み、挿し込んだボルト部材のネジ山にクリップに形成された係合爪を係合させることで、母材に取り付け可能なクリップに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ワイヤーハーネスを装着させた状態のクリップを母材に取り付けることで、このワイヤーハーネスを母材に取り付ける技術が既に知られている。すなわち、クリップを介して母材にワイヤーハーネスを取り付ける技術が既に知られている。ここで、下記特許文献1には、母材403に設けられたボルト部材404をクリップ401に形成された挿込孔422に挿し込み、この挿し込んだボルト部材404のネジ山404aにクリップ401に形成された一対の係合爪427を係合させることで、このクリップ401を母材403に取り付ける技術が開示されている(
図16~17参照)。これにより、例えば、母材403に取付孔を設けることなくクリップ401を母材403に取り付けることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した特許文献1の技術では、母材403にクリップ401が取り付けられた取付状態において、クリップ401に抜去荷重が作用すると、一対の係合爪427が形成されている一対の係合片424が互いに近づく方向に撓むことがあった(
図18参照)。そのため、ボルト部材404のネジ山404aに対する一対の係合爪427の係合が解消されることがあった(
図19参照)。したがって、この取付状態のクリップ401の挿込孔422から母材403のボルト部材404が脱落することがあった。結果として、クリップ401が母材403から脱落することがあった。
【0005】
本発明は、このような課題を解決しようとするもので、その目的は、母材にクリップが取り付けられた取付状態において、クリップに抜去荷重が作用しても、クリップが母材から脱落することを防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の1つの特徴によると、クリップは、被取付部材が装着される装着体と、装着体から形成され、母材に設けられたボルト部材を挿し込み可能な挿込孔を有する取付体と、を備えている。挿込孔の内壁面には、先端に押当ブロックを有し可撓性を備えた係合片が挿込孔の中心に向けて突出するように形成されている。押当ブロックの内面の基端側には、挿込孔に挿し込まれたボルト部材のネジ山に係合可能な係合爪が形成されている。そして、このクリップは、挿込孔に挿し込まれたボルト部材のネジ山に係合爪が係合することで、取付体が母材に取り付け可能となっている。また、このクリップは、取付体が母材に取り付けられた取付状態においてクリップ自身に抜去荷重が作用したとき、係合片が撓むことでボルト部材のネジ山に対する係合爪の係合が解消されても、押当ブロックの内面の先端側の角部がボルト部材の先端側の別のネジ山に係合するように構成されている。
【0007】
そのため、母材にクリップが取り付けられた取付状態において、クリップに抜去荷重が作用しても、クリップが母材から脱落することを防止することを防止できる。
【0008】
本開示の他の特徴によると、取付体が母材に取り付けられた取付状態においてクリップ自身に抜去荷重が作用して、係合片が撓むことでボルト部材のネジ山に対する係合爪の係合が解消されたとき、押当ブロックの内面の先端側の角部は、別のネジ山として、挿込孔に挿し込まれたボルト部材が係合したネジ山より1つまたは2つ先端側のネジ山に係合する。
【0009】
そのため、クリップの係合爪は、ボルト部材のネジ山に対する係合爪自身の係合が解消すると、直ぐに、ボルト部材の別のネジ山に対して係合する。したがって、クリップと母材との間に隙間が生じることを防止できる。
【0010】
本開示の他の特徴によると、押当ブロックの先端面は、挿込孔にボルト部材を挿し込んでいない状態において、挿込孔の中心に直交する直交方向に対して所定の角度を有する下り傾斜面となっている。
【0011】
そのため、押当ブロックの角部がボルト部材のネジ山に係合し易くなる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図5】
図1のクリップにワイヤーハーネスを装着する手順を説明する側面図である。
【
図7】
図6の次の手順を説明する側面図である(ワイヤーハーネスの装着状態)。
【
図8】
図1のクリップを母材に取り付ける手順を説明する縦断面図である。
【
図9】
図8の次の手順を説明する縦断面図である(母材に取付状態)。
【
図10】
図9において、クリップに抜去荷重が作用した状態を示している。
【
図12】
図11において、クリップに抜去荷重を超える大荷重が作用した状態を示している。
【
図13】
図9において、他の実施形態(変形実施形態1)を説明する縦断面図である。
【
図14】
図9において、他の実施形態(変形実施形態2)を説明する縦断面図である。
【
図15】
図9において、他の実施形態(変形実施形態3)を説明する縦断面図である。
【
図17】
図16のクリップを母材に取り付けた取付状態を説明する縦断面図である。
【
図18】
図17において、クリップに抜去荷重が作用した状態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態を、
図1~12を用いて説明する。なお、以下の説明にあたって、「被取付部材」と「ボルト部材」との例として、「ワイヤーハーネス2」と「第1スタッド4」とを説明する。
【0014】
まず、本発明の実施形態に係るクリップ1を、
図1~4を用いて説明する。このクリップ1は、PP等の剛性を有する合成樹脂材による一体成形品であって、その構成は、主として、装着体10と取付体20とから構成されている(
図1~2参照)。以下に、これら装着体10と取付体20とを個別に説明する。
【0015】
はじめに、装着体10から説明する(
図1参照)。この装着体10は、公知なものであり、後述するラック歯13のいずれかと噛み合い可能な係合爪14を有する貫通孔15を備えたバックル11と、バックル11から形成され所定の長さを有する弾性を備えた帯状のベルト12とから構成されている。このベルト12の片側の表面には、長さ方向に沿って一定のピッチでラック歯13が形成されている。装着体10は、このように構成されている。
【0016】
次に、取付体20を説明する(
図1~4参照)。この取付体20は、バックル11から突出するように形成され、後述するパネル状の母材3に設けられた第1スタッド4を挿し込み可能な挿込孔22を有するように構成されている。この第1スタッド4とは、例えば、M5のスタッドである。この挿込孔22の内壁面23には、先端に押当ブロック25を有し可撓性を備えた一対の係合片24が挿込孔22の中心Cに向けて突出するように形成されている(
図3参照)。
【0017】
この押当ブロック25の内面26の基端側には、挿込孔22に挿し込まれた第1スタッド4のネジ山4aに係合可能な係合爪27が形成されている。この押当ブロック25の内面26の高さ長は、短く設定されている。この押当ブロック25の先端面28は、挿込孔22に第1スタッド4を挿し込んでいない状態において、挿込孔22の中心Cに直交する直交方向Hに対して所定の角度を有する下り傾斜面となっている(
図4参照)。この所定の角度θは、後述する角部29が第1スタッド4のネジ山4aに係合し易くなる角度であり、第1スタッド4のネジ山4aの角度によって適宜に決められるものである。取付体20は、このように構成されている。これら装着体10と取付体20とから、クリップ1は構成されている。
【0018】
このクリップ1において、ベルト12をループ状に曲げて先端16をバックル11の貫通孔15に挿入することにより、ラック歯13のいずれかと貫通孔15内の係合爪14とが噛み合うことで、その状態に保持できる。そのため、ベルト12をワイヤーハーネス2の外周面に巻き回して引き締めることにより、このワイヤーハーネス2をベルト12によってバックル11に結束できる(
図5~6参照)。したがって、装着体10にワイヤーハーネス2を装着できる。
【0019】
すなわち、クリップ1にワイヤーハーネス2を装着できる。なお、引き締めたベルト12の先端16側の余剰部分は、カッター等(図示しない)で切断されている(
図7参照)。また、このようにワイヤーハーネス2が装着されたクリップ1において、取付体20の挿込孔22に母材3の第1スタッド4を挿し込んでいくと(
図8参照)、このクリップ1の一対の係合片24の各係合爪27が第1スタッド4のネジ山4aを乗り越える。そのため、この一対の係合片24は互いに遠ざかる方向に向けて撓んでいく。
【0020】
やがて、このクリップ1の取付体20の先端面21が母材3に到達(当接)すると、この撓んだ一対の係合片24の各係合爪27が第1スタッド4のいずれかのネジ山4aに入り込む。そのため、このクリップ1の取付体20を母材3に取り付けることができる(
図9参照)。したがって、このクリップ1の取付体20(クリップ1)が母材3に取り付けられた取付状態となる。
【0021】
この取付状態においてクリップ1に抜去荷重が作用すると、このクリップ1の一対の係合片24が互いに近づく方向に撓んでいく(
図10参照)。そのため、母材3の第1スタッド4のネジ山4aに対する各係合爪27の係合が解消される(
図11参照)。このとき、
図11からも明らかなように、このクリップ1の一対の係合片24の各押当ブロック25の内面26の先端側の各角部29が第1スタッド4の先端側の別のネジ山4aに係合する。
【0022】
したがって、この取付状態のクリップ1の挿込孔22から母材3の第1スタッド4が脱落することがない。結果として、クリップ1が母材3から脱落することを防止できる。なお、既に説明したように、押当ブロック25の内面26の高さ長は、短く設定されている。そのため、この別のネジ山4aは、挿込孔22に挿し込まれた第1スタッド4が係合したネジ山4aより2つ先端側のものである(
図10~11参照)。
【0023】
この記載が、特許請求の範囲に記載の「取付体が母材に取り付けられた取付状態においてクリップ自身に抜去荷重が作用して、係合片が撓むことでボルト部材のネジ山に対する係合爪の係合が解消されたとき、押当ブロックの内面の先端側の角部は、別のネジ山として、挿込孔に挿し込まれたボルト部材が係合したネジ山より1つまたは2つ先端側のネジ山に係合する」に相当する。
【0024】
したがって、クリップ1の各係合爪27は、第1スタッド4のネジ山4aに対する各係合爪27自身の係合が解消すると、直ぐに、第1スタッド4の別のネジ山4aに対して係合する。結果として、クリップ1と母材3との間に隙間が生じることを防止できる。また、この
図11に示す状態においてクリップ1に抜去荷重を超える大荷重が作用すると、母材3の第1スタッド4の先端側の別のネジ山4aに対する各角部29の係合が解消される(
図12参照)。この場合、このクリップ1の挿込孔22から母材3の第1スタッド4が脱落する。
【0025】
上述した内容は、あくまでも本発明の一実施の形態に関するものであって、本発明が上記内容に限定されることを意味するものではない。
【0026】
実施形態では、「被取付部材」の例として、「ワイヤーハーネス2」を説明した。しかし、これに限定されるものでなく、「被取付部材」は、「各種のケーブル」、「各種のホース」、「各種の配管」等であっても構わない。
【0027】
また、実施形態では、「ボルト部材」との例として、「第1スタッド4」を説明した。しかし、これに限定されるものでなく、「ボルト部材」は、「第2スタッド104(変形実施形態1)」、「第3スタッド204(変形実施形態2)」、「第4スタッド304(変形実施形態3)」等であっても構わない。この第2スタッド104とは、例えば、φ5のスタッドである。また、この第3スタッド204とは、例えば、M6のスタッドである。また、実施形態では、「別のネジ山4aは、挿込孔22に挿し込まれた第1スタッド4が係合したネジ山4aより2つ先端側のものである」例を説明した。しかし、これに限定されるものでなく、「別のネジ山4aは、挿込孔22に挿し込まれた第1スタッド4が係合したネジ山4aより1つ先端側のものである」であっても構わない。
【0028】
また、この第4スタッド304とは、例えば、φ6のスタッドである。これら第2スタッド104、第3スタッド204、第4スタッド304においても、第1スタッド4と同様の作用効果を得ることができる(
図13~15参照)。このことからも明らかなように、このクリップ1は、第1スタッド4、第2スタッド104、第3スタッド204、第4スタッド304に共用なものである。そのため、部品の共通化を図ることができる。
【0029】
なお、この変形実施形態1では、別のネジ山4aは、挿込孔22に挿し込まれた第2スタッド104が係合したネジ山4aより1つ先端側のものとなる(
図13参照)。このことは、変形実施形態3においても同様である(
図15参照)。また、実施形態では、係合片24は、対を成す例を説明した。しかし、これに限定されるものでなく、係合片24は、1つでも、2対、3対でも構わない。
【符号の説明】
【0030】
1 クリップ
2 ワイヤーハーネス(被取付部材)
3 母材
4 第1スタッド(ボルト部材)
4a ネジ山
10 装着体
20 取付体
22 挿込孔
23 内壁面
24 係合片
25 押当ブロック
26 内面
27 係合爪
29 角部
C 中心