(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-09
(45)【発行日】2024-08-20
(54)【発明の名称】制御装置、調整方法、リソグラフィ装置、及び物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
G03F 7/20 20060101AFI20240813BHJP
H01L 21/027 20060101ALI20240813BHJP
H01L 21/68 20060101ALI20240813BHJP
H01L 21/02 20060101ALI20240813BHJP
【FI】
G03F7/20 501
H01L21/30 567
H01L21/68 K
H01L21/02 Z
(21)【出願番号】P 2020205546
(22)【出願日】2020-12-11
【審査請求日】2023-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】猪股 裕也
(72)【発明者】
【氏名】畑 智康
(72)【発明者】
【氏名】森川 寛
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 正裕
(72)【発明者】
【氏名】草柳 博一
(72)【発明者】
【氏名】朝倉 康伸
(72)【発明者】
【氏名】石井 祐二
(72)【発明者】
【氏名】橋本 拓海
【審査官】植木 隆和
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-233702(JP,A)
【文献】特開平06-187006(JP,A)
【文献】特開平07-121206(JP,A)
【文献】国際公開第2018/151215(WO,A1)
【文献】特開2020-112921(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
G03F 7/20
G05B 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御対象を制御するための制御信号を発生する制御装置であって、
前記制御対象の制御偏差に基づいて第1信号を発生させる第1補償器と、
係数を調整可能な演算式に従って前記制御偏差を補正することによって補正信号を発生させる複数の調整部のうち、1つの調整部を用いて前記制御偏差を補正する補正器と、
前記補正信号に基づいて、ニューラルネットワークにより第2信号を発生する第2補償器と、
前記第1信号と前記第2信号とに基づいて前記制御信号を発生する演算器と、
を備えることを特徴とする制御装置。
【請求項2】
前記補正器において、前記制御対象の制御状態に基づいて前記複数の調整部から前記制御偏差の補正に用いる調整部が選択されることを特徴とする請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記制御対象と、前記制御対象とは別の制御対象とを同期させて制御するか否かに基づいて前記複数の調整部から前記制御偏差の補正に用いる調整部が選択されることを特徴とする請求項1又は2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記制御対象のゲインの切り替えが生じているか否かに基づいて前記複数の調整部から前記制御偏差の補正に用いる調整部が選択されることを特徴とする請求項1又は2に記載の制御装置。
【請求項5】
前記第1補償器の状態に基づいて前記複数の調整部から前記制御偏差の補正に用いる調整部が選択されることを特徴とする請求項1又は2に記載の制御装置。
【請求項6】
前記制御対象の動作パターンが変化しているか否かに基づいて前記複数の調整部から前記制御偏差の補正に用いる調整部が選択されることを特徴とする請求項1又は2に記載の制御装置。
【請求項7】
前記演算式は、前記制御偏差に比例する項を含むことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の制御装置。
【請求項8】
前記演算式は、前記制御偏差に積分を行う項を含むことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の制御装置。
【請求項9】
前記演算式は、前記制御偏差に微分を行う項を含むことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の制御装置。
【請求項10】
前記演算式は、前記制御偏差に比例する項、積分を行う項、および、微分を行う項、の少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の制御装置。
【請求項11】
前記補正器を調整する設定部を更に備え、
前記設定部は、前記複数の調整部から前記制御偏差の補正に用いる調整部を選択することを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の制御装置。
【請求項12】
前記設定部は、前記演算式を設定することを特徴とする請求項11に記載の制御装置。
【請求項13】
前記設定部は、前記制御偏差が所定条件を満たす場合に、前記演算式の前記係数を再設定することを特徴とする請求項11又は12に記載の制御装置。
【請求項14】
前記所定条件は、前記制御偏差が規定値を超えることを含むことを特徴とする請求項13に記載の制御装置。
【請求項15】
前記ニューラルネットワークのパラメータ値を機械学習によって決定する学習部を更に備えることを特徴とする請求項1乃至14のいずれか1項に記載の制御装置。
【請求項16】
前記制御信号は、前記第1信号を前記第2信号に基づいて補正した信号であり、
前記第1信号に基づいて前記制御対象を制御した結果である制御量と制御対象を制御するための目標値との差に比べて、前記制御信号に基づいて前記制御対象を制御した結果である制御量と制御対象を制御するための目標値との差の方が小さいことを特徴とする請求項1乃至15のいずれか1項に記載の制御装置。
【請求項17】
制御対象を制御するための制御信号を発生する制御装置であって、
前記制御対象の制御偏差に基づいて第1信号を発生させる第1補償器と、
演算式に従って前記制御偏差を補正することによって補正信号を発生させる複数の調整部のうち、1つの調整部を用いて前記制御偏差を補正する補正器と、
前記補正信号に基づいて、ニューラルネットワークにより第2信号を発生する第2補償器と、
前記第1信号と前記第2信号とに基づいて前記制御信号を発生する演算器と、
を備えることを特徴とする制御装置。
【請求項18】
前記補正器において、前記制御対象の制御状態に基づいて前記複数の調整部から前記制御偏差の補正に用いる調整部を選択することを特徴とする請求項17に記載の制御装置。
【請求項19】
前記演算式は、前記制御偏差に比例する項、積分を行う項、および、微分を行う項、の少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項17又は18に記載の制御装置。
【請求項20】
物体の位置を制御するために、前記物体を保持するステージを制御するステージ制御装置であって、
請求項1乃至19のいずれか1項に記載の制御装置を備えることを特徴とするステージ制御装置。
【請求項21】
基板に原版のパターンを転写するリソグラフィ装置であって、
前記基板または前記原版の位置を制御するように構成された請求項1乃至19のいずれか1項に記載の制御装置を備えることを特徴とするリソグラフィ装置。
【請求項22】
請求項21に記載のリソグラフィ装置を用いて基板に原版のパターンを転写する転写工程と、
前記転写工程を経た前記基板を処理する処理工程と、を含み、
前記処理工程を経た前記基板から物品を得ることを特徴とする物品の製造方法。
【請求項23】
制御対象の制御偏差に基づいて第1信号を発生させる第1補償器と、前記制御偏差を補正することによって補正信号を発生させる複数の調整部のうち、1つの調整部を用いて前記制御偏差を補正する補正器と、前記補正信号に基づいて、ニューラルネットワークにより第2信号を発生する第2補償器と、前記第1信号と前記第2信号とに基づいて前記
制御対象を制御するための制御信号を発生する演算器とを備える制御装置を調整する調整方法であって、
前記補正器において、前記制御対象の制御状態に基づいて前記複数の調整部から前記制御偏差の補正に用いる調整部を選択する調整工程を含む、
ことを特徴とする調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御装置、調整方法、リソグラフィ装置、及び物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスや、フラットパネルディスプレイ(FPD)などのデバイスを製造する際のフォトリソグラフィ工程において、マスクのパターンを基板に転写する露光装置が用いられている。露光装置には、例えば、マスクと基板の位置合わせのために、マスクを保持するマスクステージや、基板を保持する基板ステージの位置制御や同期制御を高精度に行うことが求められる。
【0003】
上記のようなステージ等の位置制御や同期制御に求められる精度に対する要求は、デバイスの高精細化が進むにつれて厳しくなってきており、従来のフィードバック制御だけでは要求精度に達しないことがある。そこで、従来の制御器に加えて、ニューラルネットワーク制御器を並列に構成する取り組みが行われている(特許文献1)。また、制御対象の状態に応じてニューラルネットワーク制御器を切り替え、制御対象に合わせた補償を行う手法が考案されている(特許文献2)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表平7-503563号公報
【文献】特開平7-277286号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ニューラルネットワーク制御器を複数構成することで精度改善が見込めるが、制御演算時間が増大してしまう。また、ニューラルネットワーク制御器は、機械学習によってパラメータが調整されるが、複数のニューラルネットワークのパラメータを学習させるために、多くの時間が必要となる。さらに、制御対象の状態変化や外乱環境の変化が生じた場合に、予め決めたニューラルネットワークのパラメータが最適ではなくなるため、パラメータの再調整に多くの時間が必要となる。
【0006】
そこで、本発明は、ニューラルネットワークを用いた制御装置において、適正な制御特性を短時間で調整するために有利な制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の一側面としての制御装置は、制御対象を制御するための制御信号を発生する制御装置であって、前記制御対象の制御偏差に基づいて第1信号を発生させる第1補償器と、係数を調整可能な演算式に従って前記制御偏差を補正することによって補正信号を発生させる複数の調整部のうち、1つの調整部を用いて前記制御偏差を補正する補正器と、前記補正信号に基づいて、ニューラルネットワークにより第2信号を発生する第2補償器と、前記第1信号と前記第2信号とに基づいて前記制御信号を発生する演算器と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ニューラルネットワークを用いた制御装置において、適正な制御特性を短時間で調整するために有利な制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態におけるシステムの構成例を示す図である。
【
図2】第1実施形態におけるシステムの構成例を示す図である。
【
図3】第1実施形態のシステムにおける制御器の構成例を示す図である。
【
図4】実施例6における制御器の構成例を示す図である。
【
図5】実施例7における制御器の構成例を示す図である。
【
図6】実施例8における制御器の構成例を示す図である。
【
図7】第1実施形態におけるシステムの構成例を示す図である。
【
図8】第1実施形態のシステムを生産装置に適用した場合の動作例を示すフローチャートである。
【
図9】外乱抑圧特性の計測結果の例を示す図である。
【
図10】第2実施形態におけるステージ制御装置の構成例を示す図である。
【
図11】第2実施形態のシステムにおける制御基板の構成例を示す図である。
【
図12】補正器の調整を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の好ましい実施形態を添付の図面に基づいて詳細に説明する。尚、各図において、同一の部材については同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0011】
<第1実施形態>
図1には、本実施形態におけるシステムSSの構成が示されている。システムSSは、例えば、物品を製造するための製造装置に適用される。製造装置は、例えば、物品、または物品の一部を構成する部材を処理する処理装置を含む。処理装置は、例えば、材料または部材にパターンを転写するリソグラフィ装置、材料または部材に膜を形成する膜形成装置、材料または部材をエッチングする装置、および、材料または部材を加熱する加熱装置のいずれかでありうる。
【0012】
システムSSは、例えば、シーケンス部101と、制御装置100と、制御対象103とを備える。制御装置100は、制御器102を含む。制御装置100あるいは制御器102は、制御対象103を制御するための制御信号MVを発生する。システムSSが生産システムに適用される場合、シーケンス部101には、生産シーケンスが提供される。生産シーケンスは、生産のための手順を規定する。シーケンス部101は、生産シーケンスに基づいて、制御対象103を制御するための目標値Rを発生し、目標値Rを制御装置100あるいは制御器102に提供する。
【0013】
制御装置100あるいは制御器102は、制御対象103をフィードバック制御する。具体的には、制御装置100は、シーケンス部101から提供される目標値Rと制御対象103から提供される制御量CVとの差分である制御偏差に基づいて、制御対象103の制御量CVが目標値Rに追従するように制御対象103を制御する。制御対象103は、制御量CVを検出するセンサを有することができ、該センサによって検出された制御量CVが制御器102に提供されうる。目標値R、制御信号MVおよび制御量CVは、時間の経過に伴って値が変化する時系列データでありうる。
【0014】
図2に例示されるように、システムSSには、学習部201が組み込まれてもよい。学習部201は、制御装置100の一部として構成されてもよいし、制御装置100の外部装置として構成されてもよい。学習部201が制御装置100の外部装置として構成される場合、学習の終了後に学習部201が制御装置100から切り離されてもよい。学習部201は、予め準備された学習シーケンスをシーケンス部101に送るように構成される。シーケンス部101は、学習シーケンスに従って目標値Rを生成し制御器102に提供する。
【0015】
制御器102は、シーケンス部101から学習シーケンスに従って生成され提供される目標値Rと制御対象103から提供される制御量CVとの差分である制御偏差に基づいて制御信号MVを生成する。ここで、制御器102は、ニューラルネットワークを有し、該ニューラルネットワークを用いて制御信号MVを発生する。制御器102によって生成される制御信号MVは、制御対象103に提供され、この制御信号MVに従って制御対象103が動作する。この動作の結果としての制御量CVは、制御器102に提供される。制御器102は、目標値Rに基づく制御器102の動作の履歴を示す動作履歴を学習部201に提供する。学習部201は、該動作履歴に基づいて制御器102のニューラルネットワークのパラメータ値を決定し、該パラメータ値を該ニューラルネットワークに設定する。該パラメータ値は、例えば、強化学習等の機械学習によって決定される。
【0016】
図3は、制御器102の構成例の1つを示す図である。制御器102は、制御偏差Eに基づいて第1信号S1を発生する第1補償器301と、係数を調整可能な演算式に従って制御偏差Eを演算することによって補正信号CSを発生する補正器303とを含む。また、制御器102は、補正信号CSに基づいてニューラルネットワークによって第2信号S2を発生する第2補償器302と、第1信号S1と第2信号S2とに基づいて制御信号MVを発生する演算器306とを含む。
【0017】
補正器303は、第1調整部303a、第2調整部303bを含む複数の調整部を有しており、制御状態に応じて使用する調整部(接続される調整部)を選択することができる。制御信号MVは、第1信号S1と第2信号S2との和であり、演算器306は、加算器で構成されうる。また、制御信号MVは、第1信号S1を第2信号S2に基づいて補正した信号である。制御器102は、目標値Rと制御量CVとの差分である制御偏差Eを発生する減算器305を含む。制御量CVは、制御対象103が備えている不図示のセンサ等により計測されることで取得される。また、第1信号S1に基づいて制御対象103を制御した結果である制御量と目標値Rとの差に比べて、制御信号MVに基づいて制御対象103を制御した結果である制御量と目標値Rとの差の方が小さい。
【0018】
制御器102は、動作履歴記録部304を更に含む。
図2における学習部201は、
図3における第2補償器302のニューラルネットワークのパラメータ値を決定するための学習を行うように構成される。学習部201による学習のために、動作履歴記録部304は、学習部201による学習に要する動作履歴を記録し、記録した動作履歴を学習部201に提供する。動作履歴とは、例えば、第2補償器302に対する入力データである補正信号CSと、第2補償器302の出力データである第2信号S2であるが、制御偏差と第2補償器302の出力データである第2信号S2であってもよいし、他のデータであってもよい。第1調整部303a、第2調整部303bは任意のパラメータを初期値として学習を行うことができる。
【0019】
以下の実施例1~5において、補正器303の構成例を説明する。実施例1~5では、補正器303が制御偏差Eに基づいて補正信号CSを生成するために使用する演算式の例を示す。演算式は、例えば、単項式または多項式でありうる。
【0020】
(実施例1)
実施例1において、第1調整部303a、第2調整部303bは、以下の式(1)で表される制御特性を有する。ここで、補正器303に対する入力(E)をx、補正器303の出力(CS)をy、任意の係数(定数)をKpとする。
【数1】
【0021】
(実施例2)
実施例2において、第1調整部303a、第2調整部303bは、以下の式(2)で表される制御特性を有する。ここで、補正器303に対する入力(E)をx、補正器303の出力(CS)をy、時刻をt、任意の係数(定数)をKiとする。なお、積分は複数回行ってもよい。積分はある時間区間の定積分でもよいし、不定積分でもよい。
【数2】
【0022】
(実施例3)
実施例3において、第1調整部303a、第2調整部303bは、以下の式(3)で表される制御特性を有する。ここで、補正器303に対する入力(E)をx、補正器303の出力(CS)をy、時刻をt、任意の係数(定数)Kdとする。なお、微分は複数回行ってもよい。
【数3】
【0023】
(実施例4)
実施例4において、第1調整部303a、第2調整部303bは、以下の式(4)で表される制御特性を有する。ここで、補正器303に対する入力(E)をx、補正器303の出力(CS)をy、任意の係数(定数)をKp、Ki、Kdとする。なお、積分および微分は複数回行ってもよい。
【数4】
【0024】
(実施例5)
実施例5において、第1調整部303a、第2調整部303bは、以下の式(5)の演算式で表される制御特性を有する。ここで、補正器303に対する入力(E)をx、補正器303の出力(CS)をy、多重積分の積分階数をn、微分階数をm、任意の係数(定数)をKp、n重積分のときの任意の係数(定数)をKi_n、m階微分のときの任意の定数をKd_mとする。
【数5】
【0025】
実施例1~5は、補正器303が補正信号CSを生成するために使用する演算式が、制御偏差Eに比例する項、積分を行う項、および、微分を行う項の、少なくとも1つを含む例として理解されうる。
【0026】
実施例1~5で挙げられた演算式の係数(定数)Kp、Ki、Kd、Ki_n、Kd_mは、補正器303の調整可能なパラメータの例である。第1調整部303a、第2調整部303bは、あらかじめ想定される制御状態の変化に応じて、実施例1~5のいずれかを用いた最適なパラメータを決定しておく。制御状態とは、例えば、同期制御の切り替えや制御器の切り替え、動作パターンの切り替え、温度や騒音、床振動などの環境や外乱の変化などである。制御状態に応じた第1調整部303a、第2調整部303bを選択することで、最適な制御特性を得ることができる。補正器を複数構成することによる調整時間は、ニューラルネットワークを複数構成することによる調整時間よりも短いため、時間短縮の観点で有利である。
【0027】
また、システムSSの動作中に制御対象103の状態や外乱環境が変化した場合において、実施例1~5として例示された演算式(の係数)の値(パラメータ値)を調整することによって、その変化に対応することができる。補正器303の演算式(の係数)の値の調整に要する時間は、ニューラルネットワークの再学習に要する時間よりも短い。したがって、システムSSの生産性を落とすことなく、制御精度を維持することができる。つまり、補正器303を導入することによって、制御対象103の状態変化や外乱環境の変化に対する寛容性を向上させることができる。
【0028】
(実施例6)
実施例6~8は、制御状態の変化と、補正器303で用いられる調整部の切り替えの関係性について説明する。
【0029】
図4は、実施例6における制御器102の構成例を示す図である。実施例6では、
図4に示すように、制御対象103a、制御対象103bを含む複数の制御対象に対してそれぞれ個別に制御を行うか、同期させて制御を行うかを切り替えることができる。実施例6における制御状態とは、複数の制御対象を個別に制御するか、同期させて制御するかによって定まる状態であり、複数の制御対象を同期制御する否かによって適切な調整部の切り替えを実行する。また、実施例6では、同期制御切り替え部402の状態によって補正器303の切り替えを行う構成となっており、第1調整部303aを使用するか、第2調整部303bを使用するかを選択できる。また、実施例6では、制御対象103aの制御が行われる軸をマスター軸、制御対象103bの制御が行われる軸をスレーブ軸として、スレーブ軸がマスター軸を追従するマスタースレーブ方式と呼ばれる同期制御について説明する。
【0030】
制御器102は、制御対象103が備えている不図示のセンサで計測した制御対象103a、103bそれぞれの制御量CVa、CVbを取得して、それぞれの目標値Ra、Rbとの差分をそれぞれ制御偏差Ea、Ebとして計算する。
【0031】
制御偏差Eaは補償器301aに入力される。補償器301bと、補償器301bと並列に構成されているニューラルネットワーク302の前段に設けられた補正器303への入力は、制御対象103aと制御対象103bとを同期制御をするか否かで切り替えることができる。補正器303への入力は、制御対象103aと制御対象103bとの同期制御を切り替える同期制御切り替え部402によって切り替えられる制御偏差Ebもしくは、制御偏差Ebと制御偏差Eaの差分である同期偏差Ecを選択することができる。補正器303の出力は、同期制御切り替え部402の状態に応じて、第1調整部303aを使用するか、第2調整部303bを使用するかを選択することができる。
【0032】
実施例6の具体例として、例えば、露光装置に適用する場合、プレートステージとマスクステージを同期させているときと、それ以外の動作をするときとでは、異なる調整部を選択してもよい。この時、第1調整部303aと第2調整部303bは、プレートステージとマスクステージが同期しているときと、それ以外の動作をするときとにおいて、それぞれパラメータが最適化されている。同期制御切り替え部402の状態によって選択された第1調整部303a、第2調整部303bの出力はニューラルネットワーク302(第2補償器)に入力される。補償器301aの出力を制御信号MVaとする。補償器301bの出力とニューラルネットワーク302の出力を加算して、制御信号MVbとする。制御器102は、制御信号MVa、MVbをそれぞれ制御対象103a、103bに出力する。
【0033】
第1調整部303a、第2調整部303bは、同期制御切り替え部402の状態に応じて、実施例1~5のいずれかを用いた最適なパラメータを決定しておく。同期制御切り替え部402の状態に応じた第1調整部303a、第2調整部303bを選択することで、最適な制御特性を得ることができる。
【0034】
補正器303が複数の調整部から最適な調整部を選択する構成となっていることによる調整時間の増加は、ニューラルネットワークを複数構成することによる調整時間の増加よりも短い。また、実施例1~5のいずれかを用いての運用中に制御対象103の状態や外乱環境が変化した場合において、実施例1~5のパラメータを調整することでその変化に対応することができる。第1調整部303a、第2調整部303bの調整に要する時間はニューラルネットワークの再学習に要する時間よりも短い。実施例6において、制御対象の状態や外乱環境に合わせた複数の補償を行う場合においても、演算時間や学習時間の増加を抑えることができ、制御対象の状態変化や外乱環境に変化が生じても、適正な制御特性を短時間で調整することができる。
【0035】
(実施例7)
図5は、実施例7における制御器102の構成例を示す図である。実施例7では、制御対象103の状態や動作に応じて補償器301の切り替えを行う構成となっており、補償器301aを使用するか、補償器301bを使用するかを選択できる。実施例7における制御状態とは、複数の補償器のうちどの補償器を使用するかによって定まる状態であり、補償器301aを使用するか、補償器301bを使用するかによって調整部の切り替えを実行する。また、実施例7では、補償器301の状態によって補正器303の切り替えを行う構成となっており、第1調整部303aを使用するか、第2調整部303bを使用するかを選択できる。
【0036】
実施例7の具体例として、例えば、露光装置に適用する場合、プレートステージの露光動作時には補償器301aを、プレート搬送動作においては補償器301bを使用するといったゲインの切り替えが生じるときに適用してもよい。即ち、制御対象103のゲインの切り替えが生じているか否かに基づいて複数の調整部から制御偏差Eの補正に用いる調整部が選択されればよい。この時、第1調整部303aと第2調整部303bは、補償器301a、補償器301bに対して、実施例1~5のいずれかを用いた最適なパラメータを決定しておく。補償器301の状態に応じた第1調整部303a、第2調整部303bを選択することで、最適な制御特性を得ることができる。
【0037】
補正器303が複数の調整部から最適な調整部を選択する構成となっていることによる調整時間の増加は、ニューラルネットワークを複数構成することによる調整時間の増加よりも短い。また、実施例1~5のいずれかを用いての運用中に制御対象103の状態や外乱環境が変化した場合において、実施例1~5のパラメータを調整することでその変化に対応することができる。第1調整部303a、第2調整部303bの調整に要する時間はニューラルネットワークの再学習に要する時間よりも短い。実施例7において、制御対象の状態や外乱環境に合わせた複数の補償を行う場合においても、演算時間や学習時間の増加を抑えることができ、制御対象の状態変化や外乱環境に変化が生じても、適正な制御特性を短時間で調整することができる。
【0038】
(実施例8)
図6は、実施例8における制御器102の構成例を示す図である。実施例8における制御状態とは、制御対象の動作パターン403が変化しているか否かによって定まる状態である。動作パターン403の具体例については、後述する。実施例8では、動作パターン403の状態に応じて調整部の切り替えを行う構成となっており、第1調整部303aを使用するか、第2調整部303bを使用するかを選択できる。
【0039】
実施例8の具体例として、例えば、露光装置等に用いられるステージ装置に適用する場合、ステージの駆動時の加速区間と、それ以外の動作パターンで切り替えて適用してもよい。この時、第1調整部303aと第2調整部303bは、制御対象103の動作パターン403の状態に応じて、実施例1~5のいずれかを用いた最適なパラメータを決定しておく。動作パターン403の状態に応じた第1調整部303a、第2調整部303bを選択することで、最適な制御特性を得ることができる。
【0040】
補正器303が複数の調整部から最適な調整部を選択する構成となっていることによる調整時間の増加は、ニューラルネットワークを複数構成することによる調整時間の増加よりも短い。また、実施例1~5のいずれかを用いての運用中に制御対象103の状態や外乱環境が変化した場合において、実施例1~5のパラメータを調整することでその変化に対応することができる。第1調整部303a、第2調整部303bの調整に要する時間はニューラルネットワークの再学習に要する時間よりも短い。実施例8において、制御対象の状態や外乱環境に合わせた複数の補償を行う場合においても、演算時間や学習時間の増加を抑えることができ、制御対象の状態変化や外乱環境に変化が生じても、適正な制御特性を短時間で調整することができる。
【0041】
図7に例示されるように、制御装置100は、第1調整部303aを使用するか、第2調整部を使用するかを選択する設定部202を備えてもよい。また、設定部202は、補正器303のパラメータ値を設定する役割を有していてもよい。
【0042】
設定部202は、調整部の切り替えやパラメータ値を調整するための調整処理を実行し、この調整処理によって調整部の切り替えやパラメータ値を決定し設定してもよいし、ユーザからの指令に基づいて調整部の切り替えやパラメータ値を設定してもよい。前者においては、設定部202は、制御器102の動作を確認するための確認シーケンスをシーケンス部101に送り、この確認シーケンスに基づいてシーケンス部101に目標値Rを生成させうる。そして、設定部202は、その目標値Rに基づいて動作する制御器102から動作履歴(例えば、制御偏差)を取得し、その動作履歴に基づいて補正器303の切り替えの必要性の有無やパラメータ値を決定しうる。このような機能を有する設定部202は、補正器303の切り替えやパラメータ値を調整する調整部として理解することができる。
【0043】
設定部202は、シーケンス部101が生産シーケンスに基づいて目標値Rを生成する生産時に、制御器102から動作履歴(例えば、制御偏差)を取得し、その動作履歴に基づいて補正器303のパラメータ値の調整を実行するかどうかを決定してもよい。あるいは、シーケンス部101が生産シーケンスに基づいて目標値Rを生成する生産時において設定部202による補正器303のパラメータ値の調整を実行するかどうかを判断する判断部が設定部202とは別に設けられてもよい。
【0044】
次に本実施形態におけるシステムによって生産が行われる例について説明する。
図8は、本実施形態のシステムSSを生産装置に適用した場合のシステムSSの動作例である。工程S501では、シーケンス部101が、与えられた生産シーケンスに基づいて目標値Rを生成し、制御装置100あるいは制御器102に提供する。制御装置100あるいは制御器102は、その目標値Rに基づいて制御対象103を制御する。
【0045】
工程S502では、設定部202は、工程S501における制御器102の動作履歴(例えば、制御偏差)を取得する。
【0046】
工程S503では、設定部202が、工程S502で取得した動作履歴に基づいて、調整部の切り替えや、パラメータ値の調整(あるいは再調整)等の補正器303の調整を実行するかどうかを判断しうる。設定部202は、例えば、動作履歴が所定条件を満たす場合に、調整部の切り替えパラメータ値の調整(あるいは再調整)を実行すると判断することができる。所定条件とは、生産を停止させるべき条件であり、例えば、動作履歴として取得した制御偏差が規定値を超える場合に補正器303の調整が必要であると判断される。そして、設定部202による補正器303の調整を実行する場合には工程S504に進み、そうでない場合には工程S505に進む。
【0047】
工程S504では、設定部202は、補正器303の調整を実行する。この調整は、第2補償器302のパラメータ値が従前の状態に維持された状態でなされ、この調整によって、例えば、補正器303のパラメータ値(係数)が再設定される。
【0048】
工程S505では、シーケンス部101は、生産シーケンスに従う生産を終了するかどうかを判断し、終了しない場合には工程S501に戻り、終了する場合には生産を終了する。以上の処理によれば、生産を停止させるべき状態になった場合においても、速やかに補正器303のパラメータ値を調整し、生産の中断を最小限に抑えながら生産を再開させることができる。
【0049】
工程S504では、設定部202は、確認シーケンスをシーケンス部101に送り、シーケンス部101に確認シーケンスを実行させ、確認シーケンスにおける動作履歴(例えば、制御偏差)を制御器102から取得しうる。そして、設定部202は、その動作履歴の周波数解析を行い、その結果に基づいて、改善すべき周波数を決定し、その周波数における制御偏差が規定値以内になるように補正器303のパラメータ値を決定しうる。工程S504の更に具体的な例については、第2実施形態において説明する。
【0050】
図9には、外乱抑圧特性の計測結果を例示している図である。
図2における制御信号MVとして正弦波を入力したときの制御偏差を出力としたときの周波数応答を計測した結果のことを外乱抑圧特性と呼ぶ。
図9において、横軸は周波数、縦軸は外乱抑圧特性のゲインを表す。外乱抑圧特性は、制御信号MVに外乱が加算された場合の制御偏差Eの周波数応答を表すため、ゲインが大きいことは、外乱を抑圧する効果が低いことを示す。一方、ゲインが小さいことは、外乱を抑圧する効果が高いことを示す。
図9において、破線は、調整前の外乱抑圧特性を示しており、実線は調整後の外乱抑圧特性を示している。
【0051】
図9における一点鎖線で示された周波数を、外乱抑圧特性を改善すべき周波数として定めて工程S504を実行すると、例えば、実線で示されるような外乱抑圧特性を得ることができる。改善すべき周波数において外乱抑圧特性のゲイン小さくなり、外乱抑圧特性が向上していることが分かる。実施例1~8で、ニューラルネットワークの前段に設けた補正器303のパラメータ調整を行う場合、
図9に示す外乱抑圧特性を指標にパラメータ調整を行ってもよい。
【0052】
<第2実施形態>
本実施形態では、第1実施形態で説明した制御システムSSをステージ制御装置800に適用する例について説明する。本実施形態として言及しない事項は、第1実施形態に従う。
図10は、
図1で示した制御システムSSをステージ制御装置800に適用したときのハードウェア構成を示す図である。
【0053】
ステージ制御装置800は、基板等の物体の位置を制御するために、前記物体をステージ804上に保持した状態でステージ804を制御するように構成されている。ステージ制御装置800は、制御基板801、電流ドライバ802、モータ803、ステージ804およびセンサ805を備える。制御基板801は、第1実施形態のシステムSSにおける制御装置100または制御器102に対応する。電流ドライバ802、モータ803、ステージ804およびセンサ805は、第1実施形態のシステムSSにおける制御対象103に対応する。ただし、電流ドライバ802は、制御基板801に組み込まれてもよい。
図10には図示されていないが、ステージ制御装置800は、シーケンス部101、学習部201、設定部202を備えうる。
【0054】
制御基板801には、シーケンス部101から目標値としての位置目標値が供給されうる。制御基板801は、シーケンス部101から供給される位置目標値とセンサ805から供給される位置情報とに基づいて、制御信号としての電流指令を発生し、電流ドライバ802に供給しうる。また、制御基板801は、動作履歴をシーケンス部101に供給しうる。
【0055】
電流ドライバ802は、電流指令に従った電流をモータ803に供給しうる。モータ803は、電流ドライバ802から供給される電流を推力に変換し、その推力でステージ804を駆動するアクチュエータでありうる。ステージ804は、例えば、プレートまたはマスク等の物体を保持しうる。センサ805は、ステージ804の位置を検出し、それによって得られた位置情報を制御基板801に供給しうる。
【0056】
図11には、制御基板801の構成例がブロック線図として示されている。制御基板801は、制御対象としてのステージ804の位置制御偏差Eに基づいて第1信号S1を発生する第1補償器301と、係数を調整可能な演算式に従って制御偏差Eを補正することによって補正信号CSを発生する補正器303とを含みうる。また、制御基板801は、補正信号CSに基づいてニューラルネットワークによって第2信号S2を発生する第2補償器302と、第1信号S1と第2信号S2とに基づいて制御信号として電流指令を発生する演算器306とを含みうる。また、制御基板801は、位置目標値PRと位置情報との差分である制御偏差Eを発生する減算器305を含みうる。
【0057】
第2実施形態のステージ制御装置100においても、
図7で説明した第1実施形態と同様に、学習部201を備えていてもよい。学習部201は、第2補償器302のニューラルネットワークのパラメータ値を決定するための学習を行うように構成されうる。学習部201による学習のために、動作履歴記録部304は、学習部201による学習に要する動作履歴を記録し、記録した動作履歴を学習部201に提供しうる。動作履歴は、例えば、第2補償器302に対する入力データである補正信号CSと、第2補償器302の出力データである第2信号S2でありうるが、他のデータでもよい。
【0058】
第2実施形態のステージ制御装置100は、設定部202を備えることができる。設定部202は、補正器303のパラメータ値を調整するための調整処理を実行し、この調整処理によって補正器303のパラメータ値を決定し設定してもよいし、ユーザからの指令に基づいて補正器303のパラメータ値を設定してもよい。
【0059】
図8を援用して、第2実施形態のステージ制御装置800を生産装置に適用した場合のステージ
制御装置800の動作を例示的に説明する。工程S501では、シーケンス部101が、与えられた生産シーケンスに基づいて位置目標値PRを生成し、ステージ制御装置800に提供しうる。ステージ制御装置800は、その位置目標値PRに基づいてステージ804の位置を制御する。
【0060】
工程S502では、設定部202が、工程S501における制御基板801の動作履歴(例えば、制御偏差)を取得する。
【0061】
工程S503では、設定部202が、工程S502で取得した動作履歴に基づいて、調整部の切り替えや、パラメータ値の調整(あるいは再調整)等の補正器303の調整を実行するかどうかを判断しうる。設定部202は、例えば、動作履歴が所定条件を満たす場合に、補正器303の調整を実行すると判断することができる。所定条件とは、生産を停止させるべき条件であり、例えば、ステージ804の等速駆動中の位置制御偏差の最大値が予め決められた規定値を超える場合に補正器303の調整が必要であると判断される。そして、設定部202による補正器303の調整を実行する場合には工程S504に進み、そうでない場合には工程S505に進む。
【0062】
工程S504では、設定部202は、補正器303の調整を実行しうる。工程S505では、シーケンス部101は、生産シーケンスに従う生産を終了するかどうかを判断し、終了しない場合には工程S501に戻り、終了する場合には生産を終了する。
【0063】
図12には、工程S504における補正器303の調整のうち、パラメータ値の調整(或いはパラメータ値の再調整)における処理の具体例が示されている。工程S601では、設定部202は、ステージ制御装置800の動作を確認するための確認シーケンスをシーケンス部101に送り、この確認シーケンスに基づいてシーケンス部101に位置目標値PRを生成させうる。工程S602では、設定部202は、その位置目標値PRに基づいて動作する制御器102から動作履歴としての位置制御偏差Eを取得しうる。
【0064】
ここで、
図13を参照して、パラメータ調整前と後の位置制御偏差Eの変化について説明する。
図13は、パラメータ調整の前後における位置制御偏差を例示する図である。
図13において、横軸は時間、縦軸は位置制御偏差Eを示している。ここで、点線で示される曲線は、補正器303のパラメータ値を調整する前の位置制御偏差Eであり、位置制御精度が悪化していることを示している。パラメータ値を調整することで、位置制御偏差Eの変動を小さくすることができる。
【0065】
工程S603では、設定部202は、工程S602で取得した位置制御偏差Eの周波数解析を行いうる。ここで、
図14を参照して、パラメータ調整前と後における周波数解析の結果について説明する。
図14は、パラメータ調整の前後における周波数解析の結果を例示する図である。
図14において、横軸は周波数、縦軸はパワースペクトラムである。点線は、調整前において最大スペクトルを示す周波数を示している。工程S604では、設定部202は、例えば、パワースペクトラムにおいて最大スペクトルを示す周波数を、改善すべき周波数として決定しうる。
【0066】
工程S605~S610は、補正器303のパラメータ値を調整する調整処理の具体例である。ここでは、パラメータ値の調整方法として最急降下法を採用して例を説明するが、他の方法が使用されてもよい。工程S605では、設定部202は、nを1に初期化する。例えば、補正器303の演算式が一次積分項、比例項および一次微分項の3項で構成される場合、パラメータ値を調整すべきパラメータは、Ki、Kp、Kdの3個である。n回目の調整におけるパラメータ値pnを以下の式(6)で示す。
【数6】
【0067】
工程S606では、設定部202は、パラメータ値pnの1回目の調整におけるパラメータ値p1については、任意の初期値を設定することができる。n回目の調整では、後述の式(8)で示されるパラメータ値pnを設定することができる。
【0068】
パラメータ値pnを調整するための目的関数J(pn)は、例えば、工程S604で決定した周波数における外乱抑圧特性のゲインとされうる。工程S607では、設定部202は、目的関数J(pn)の勾配ベクトルgrad J(pn)を測定しうる。勾配ベクトルgrad J(pn)は、以下の式(7)で与えられうる。勾配ベクトルgrad J(pn)は、パラメータ値pnを構成する各要素Ki-n、Kp-n、Kd-nを微小量だけ変化させることよって計測されうる。
【数7】
【0069】
工程S608では、設定部202は、最急降下法の収束判定として、勾配ベクトルgrad J(pn)の各要素の値が規定値以下であるかどうかを判断しうる。勾配ベクトルgrad J(pn)の各要素の値が規定値以下であれば、設定部202は、補正器303のパラメータ値の調整を終了しうる。一方、勾配ベクトルgrad J(pn)の各要素の値が規定値を超えていれば、工程S609において、設定部202は、パラメータ値pn+1を計算しうる。ここで、パラメータ値pn+1は、例えば、0より大きい任意の定数αを使用して、以下の式(8)に従って計算されうる。工程S610では、設定部202は、nの値に1を加算し、工程S606に戻る。
【数8】
【0070】
工程S611では、設定部202は、ステージ制御装置800の動作を確認するための確認シーケンスをシーケンス部101に送り、この確認シーケンスに基づいてシーケンス部101に位置目標値PRを生成させうる。工程S612では、設定部202は、その位置目標値PRに基づいて動作する制御器102から動作履歴としての位置制御偏差Eを取得しうる。
【0071】
工程S613では、設定部202は、工程S612で取得した位置制御偏差Eが規定値以下であるかどうかを判断し、位置制御偏差Eが規定値を超えていれば工程S601に戻って調整を再実行し、位置制御偏差Eが規定値以下であれば、調整を終了しうる。
【0072】
本実施形態によれば、ステージ804を含む制御対象の状態や外乱が変化したような場合において、補正器303のパラメータ値を調整することによって、その変化に対応することができる。例えば、
図13の例では、点線で示された位置制御偏差は、実線で示された位置制御偏差まで低減され、制御精度が向上する。
【0073】
式(6)の例では、補正器303のパラメータ数はわずか3個であり、一般的なニューラルネットワークのパラメータ数よりも遥かに少ない。例えば、ディープニューラルネットワークを用いる場合、入力層の次元数を5、隠れ層の次元数を32の2段、出力層の次元数を8とすると、パラメータ数は1545個となる。これら1545個のパラメータの値を再学習によって決定するよりも、補正器303のパラメータ値を調整する方が短時間で調整を終えることができる。したがって、ステージ制御装置800の生産性を落とすことなく、制御精度を維持することができる。
【0074】
<第3実施形態>
本実施形態では、第1実施形態で説明した制御システムSSを露光装置EXPに適用する例について説明する。本実施形態として言及しない事項は、第1実施形態に従う。
図15には、本実施形態の露光装置EXPの構成例が模式的に示されている。露光装置EXPは、走査露光装置として構成されうる。
【0075】
露光装置EXPは、例えば、照明光源1000、照明光学系1001、マスクステージ1003、投影光学系1004、プレートステージ1006を備えうる。照明光源1000は、水銀ランプ、エキシマレーザ光源またはEUV光源を含みうるが、これらに限定されない。照明光源1000からの露光光1010は、照明光学系1001によって均一な照度で投影光学系1004の照射領域の形に成形される。一例において、露光光1010は、Y軸およびZ軸による平面に垂直な軸であるX方向に長い矩形に成形されうる。投影光学系1004の種類に応じて、露光光1010は、円弧形状に成形されうる。成形された露光光1010はマスク(原版)1002のパターンに照射され、マスク1002のパターンを通った露光光1010は、投影光学系1004を介してプレート1005(基板)の面にマスク1002のパターンの像を形成する。
【0076】
マスク1002は、マスクステージ1003によって真空吸引等によって保持され。プレート1005は、プレートステージ1006のチャック1007によって真空吸引等によって保持される。マスクステージ1003およびプレートステージ1006の位置は、レーザー干渉計またはレーザースケール等の位置センサ1030と、リニアモータ等の駆動系1031と、制御器1032とを備えた多軸位置制御装置によって制御されうる。位置センサ1030から出力される位置計測値は、制御器1032に提供されうる。制御器1032は、位置目標値と位置計測値との差分である位置制御偏差に基づいて制御信号を発生し、それを駆動系1031に提供することによって、マスクステージ1003およびプレートステージ1006を駆動する。マスクステージ1003とプレートステージ1006をY方向に同期駆動しながらプレート1005を走査露光することでマスク1002のパターンがプレート1005(上の感光材)に転写される。
【0077】
第2実施形態をプレートステージ1006の制御に適用する場合について説明する。
図11における制御基板801は制御器1032、電流ドライバ802とモータ803は駆動系1031、ステージ804はプレートステージ1006、センサ805は位置センサ1030に該当する。ニューラルネットワークを有する制御器をプレートステージ1006の制御に適用することで、プレートステージ1006の位置制御偏差を低減することができる。これにより、重ね合わせ精度等を向上させることができる。ニューラルネットワークのパラメータ値は、予め決められた学習シーケンスによって決定されうる。しかし、学習時からの制御対象の状態変化や外乱環境が変化した際に、プレートステージ1006の制御精度が低下する。そのような場合でも、補正器のパラメータ値を調整することで、ニューラルネットワークの再学習を行うよりも、短時間で調整を終えることができる。結果として、露光装置の生産性を落とすことなく、制御精度を維持することができる。
【0078】
第2実施形態をマスクステージ1003の制御に適用する場合について説明する。
図11における制御基板801は制御器1032、電流ドライバ802とモータ803は駆動系1031、ステージ804はマスクステージ1003、センサ805は位置センサ1030に該当する。
【0079】
第2実施形態をマスクステージ1003の制御に適用した場合においても、マスクステージ1003の位置制御偏差を低減することができる。これにより、重ね合わせ精度等を向上させることができる。ニューラルネットワークのパラメータ値は、予め決められた学習シーケンスによって決定されうる。しかし、学習時からの制御対象の状態変化や外乱環境が変化した際に、マスクステージ1003の制御精度が低下する。そのような場合でも、補正器のパラメータ値を調整することで、ニューラルネットワークの再学習を行うよりも、短時間で調整を終えることができる。結果として、露光装置の生産性を落とすことなく、制御精度を維持することができる。
【0080】
第2実施形態は、露光装置におけるステージの制御のみならず、インプリント装置および電子線描画装置のような他のリソグラフィ装置におけるステージの制御にも適用されうる。また、第1実施形態または第2実施形態は、例えば、物品を搬送する搬送機構における可動部、例えば、物品を保持するハンドの制御にも適用されうる。
【0081】
<物品の製造方法の実施形態>
本発明の実施形態にかかる物品の製造方法は、例えば、フラットパネルディスプレイ(FPD)を製造するのに好適である。本実施形態の物品の製造方法は、基板上に塗布された感光剤に上記の露光装置を用いて潜像パターンを形成する工程(基板を露光する工程)と、かかる工程で潜像パターンが形成された基板を現像する工程とを含む。更に、かかる製造方法は、他の周知の工程(酸化、成膜、蒸着、ドーピング、平坦化、エッチング、レジスト剥離、ダイシング、ボンディング、パッケージング等)を含む。本実施形態の物品の製造方法は、従来の方法に比べて、物品の性能・品質・生産性・生産コストの少なくとも1つにおいて有利である。
【0082】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されないことはいうまでもなく、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0083】
100 制御装置
103 制御対象
301 第1補償器
302 第2補償器
303 補正器
303a 第1調整部
303b 第2調整部
306 演算器
S1 第1信号
S2 第2信号