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特許7536649キメラ抗原受容体で修飾されたNK-92細胞
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-09
(45)【発行日】2024-08-20
(54)【発明の名称】キメラ抗原受容体で修飾されたNK-92細胞
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/10 20060101AFI20240813BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20240813BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240813BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240813BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240813BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20240813BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20240813BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240813BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALI20240813BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20240813BHJP
【FI】
C12N5/10 ZNA
A61K35/17
A61K48/00
A61K39/395 L
A61K39/395 T
A61P35/00
A61P35/02
A61P31/12
A61K45/00
C12N5/0783
C12N15/09 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020554246
(86)(22)【出願日】2019-05-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-26
(86)【国際出願番号】 US2019033411
(87)【国際公開番号】W WO2020096646
(87)【国際公開日】2020-05-14
【審査請求日】2021-12-01
(31)【優先権主張番号】62/756,395
(32)【優先日】2018-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/756,402
(32)【優先日】2018-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】520393015
【氏名又は名称】イミュニティーバイオ、インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】ImmunityBio,Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】ボイセル,ローラン エイチ.
(72)【発明者】
【氏名】クリンゲマン,ハンス ジー.
【審査官】山本 匡子
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-513692(JP,A)
【文献】国際公開第2017/172981(WO,A2)
【文献】特表2017-504601(JP,A)
【文献】国際公開第2018/064594(WO,A2)
【文献】Clemenceau B, et al.,In Vitro and In Vivo Comparison of Lymphocytes Transduced with a Human CD16 or with a Chimeric Antigen Receptor Reveals Potential Off-Target Interactions due to the IgG2 CH2-CH3 CAR-Spacer,J Immunol Res,vol.2015,2015年11月,article ID 482089
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
REGISTRY/CAPLUS/MEDLINE/
EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
GenBank/EMBL/Geneseq
Uniprot/Geneseq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランスフェクトされた組換えプラスミド上にコードされ、且つ単一ポリペプチド鎖中に、細胞外結合ドメイン、配列番号6のポリペプチド配列を有するヒンジドメイン、配列番号7のポリペプチド配列を有する膜貫通ドメイン、及び配列番号1のポリペプチド配列を有するFcεRIγシグナル伝達ドメインを含む膜結合組換えキメラ抗原受容体(CAR)を有し、
ここで前記細胞外結合ドメインが
D20結合ポリペプチド配列
D2結合ポリペプチド配列
ER-2結合ポリペプチド配列
D30結合ポリペプチド配列
GFR結合ポリペプチド配列
AP結合ポリペプチド配列
D33結合ポリペプチド配列
D123結合ポリペプチド配列
D-L1結合ポリペプチド配列
GF1R結合ポリペプチド配列
SPG4結合ポリペプチド配列、およ
7-H4結合ポリペプチド配列からなる群から選択されるポリペプチド配列を有するscFv部分を含んでなり、
NK-92細胞である、
遺伝子組換えNK細胞。
【請求項2】
前記ヒンジドメイン及び/又は前記膜貫通ドメインが、CD8ヒンジドメイン及び/又はCD28膜貫通ドメインを含む、請求項1に記載の遺伝子組換えNK細胞。
【請求項3】
膜結合組換えCD16をさらに有する、請求項1または2に記載の遺伝子組換えNK細胞。
【請求項4】
小胞体保持配列を有する組換えサイトカインをさらに含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の遺伝子組換えNK細胞。
【請求項5】
キメラ抗原受容体(CAR)をコードする組換え核酸を含み、
ここで前記組換え核酸が、トランスフェクトプラスミドであり、
ここで前記CARが、単一ポリペプチド鎖中に、細胞外結合ドメイン、配列番号6のポリペプチド配列を有するヒンジドメイン、配列番号7のポリペプチド配列を有する膜貫通ドメイン、及び配列番号1のポリペプチド配列を有するFcεRIγシグナル伝達ドメインを含み、
ここで前記細胞外結合ドメインが
D20結合ポリペプチド配列
D2結合ポリペプチド配列
ER-2結合ポリペプチド配列
D30結合ポリペプチド配列
GFR結合ポリペプチド配列
AP結合ポリペプチド配列
D33結合ポリペプチド配列
D123結合ポリペプチド配列
D-L1結合ポリペプチド配列
GF1R結合ポリペプチド配列
SPG4結合ポリペプチド配列、およ
7-H4結合ポリペプチド配列からなる群から選択されるポリペプチド配列を有するscFv部分を含んでなり、
NK-92細胞である、遺伝子組換えNK細胞。
【請求項6】
前記ヒンジドメイン及び/又は前記膜貫通ドメインが、CD8ヒンジドメイン及び/又はCD28膜貫通ドメインを含む、請求項5に記載の遺伝子組換えNK細胞。
【請求項7】
前記FcεRIγシグナル伝達ドメインが、配列番号2の核酸配列によりコードされる、請求項5または6に記載の遺伝子組換えNK細胞。
【請求項8】
それを必要とする患者におけるがんの治療のための、請求項1~7のいずれか一項に記載の遺伝子組換えNK細胞を含む医薬組成物。
【請求項9】
ウイルスがんワクチン、細菌がんワクチン、酵母がんワクチン、N-803、抗体、幹細胞移植、及び腫瘍標的サイトカインからなる群から選択される少なくとも1つの追加的な治療用実体と組み合わせて使用するための、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記がんが、白血病、急性リンパ球性白血病、急性骨髄球性白血病、慢性白血病、慢性骨髄性(顆粒球性)白血病、慢性リンパ性白血病、真性多血症、リンパ瘍、ホジキン病、非ホジキン病、多発性骨髄瘍、ワルデンストレームマクログロブリン血症、重鎖病、線維肉瘍、粘液肉瘍、脂肪肉瘍、軟骨肉瘍、骨原性肉瘍、脊索瘍、血管肉瘍、内皮肉腫、リンパ管肉瘍、リンパ管内皮肉腫、滑膜瘍、中皮瘍、ユーイング腫瘍、平滑筋肉瘍、横紋筋肉腫、結腸がん、膵がん、乳がん、卵巣がん、前立腺がん、扁平上皮がん、基底細胞がん、腺がん、汗腺がん、皮脂腺がん、乳頭がん、乳頭腺がん、嚢胞腺がん、髄様がん、気管支原性肺がん、腎細胞がん、肝腫瘍、胆管がん、絨毛がん、セミノーマ、胚性癌瘍、ウィルムス腫瘍、子宮頸がん、精巣腫瘍、肺がん、小細胞肺がん、膀胱がん、上皮がん、神経膠瘍、星状細胞瘍、髄芽瘍、頭蓋咽頭瘍、上衣瘍、松果体瘍、血管芽瘍、聴神経腫瘍、乏突起神経膠瘍、髄膜腫、メラノーマ、神経芽細胞腫及び網膜芽細胞腫から選択される、請求項8又は9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
がん又はウイルス感染の治療のための、請求項5~7のいずれか一項に記載の遺伝子組換えNK細胞を含む医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、シリアル番号が米国仮特許出願第62/756,395号明細書及び米国仮特許出願第62/756,402号明細書(双方とも2018年11月6日に出願)である我々の同時係属中の米国仮特許出願に対する優先権を主張する。
【0002】
配列表
サイズが134kbである、104077.0003PCT5 Sequence Listing_ST25という名称の配列表のASCIIテキストファイルの内容は、2019年5月20日に作成され、本願とともにEFS-Webを介して電子的に提出されたものであり、その全体が参照により援用される。
【0003】
発明の分野は、キメラ抗原受容体(CAR)を発現する遺伝子組換え免疫能細胞、特にFcイプシロン受容体ガンマ(FcεRIγ)シグナル伝達ドメインを有するCARを発現する修飾NK-92細胞である。
【背景技術】
【0004】
ナチュラルキラー(NK)細胞は、自然免疫系の有意な成分を構成する細胞傷害性リンパ球である。ほとんどの場合、NK細胞は、循環リンパ球の約10~15%を表し、標的化細胞、例えばウイルス感染細胞及び多数の悪性細胞に結合し、それらを殺滅する。NK細胞殺傷は、特定の抗原に関して非特異的であり、予め免疫感作を行うことなく生じ得る。標的化細胞の殺滅は、典型的には、パーフォリン、グランザイム、及びグラニュライシンを含む細胞溶解性タンパク質によって媒介される。
【0005】
自家NK細胞は、治療用実体として用いられている。そのため、NK細胞は、全血の末梢血リンパ球画分から単離され、十分な数の細胞を得るために細胞培養下で拡大され、次に対象に再注入される。自家NK細胞は、少なくともいくつかの場合、生体外治療とインビボ治療の双方において中等度の有効性を示している。しかし、自家NK細胞の単離及び増殖は、時間及びコスト集約的である。さらに、自家NK細胞治療は、すべてのNK細胞が細胞溶解性であるとはいえないという事実により、さらに制限される。
【0006】
これら困難の少なくとも一部は、非ホジキンリンパ腫を患っている対象の血液中で発見され、そしてインビトロで不死化された細胞溶解性がん細胞株であるNK-92細胞の使用により克服することができる(Gong et al.,Leukemia 8:652-658(1994))。NK-92細胞がNK細胞誘導体である一方で、NK-92細胞は、通常は正常なNK細胞によって提示される阻害性受容体の大部分が欠如し、活性化受容体の大部分を保持する。しかし、NK-92細胞は、ヒトにおいて正常細胞を攻撃しないばかりか、許容できない免疫拒絶応答を誘発することがない。これらの望ましい特徴に起因し、NK-92細胞は、例えば国際公開第1998/049268号パンフレット又は米国特許出願公開第2002/068044号明細書に記載の通り、詳細に特徴づけられ、特定がんの治療における治療薬として検討された。
【0007】
腫瘍細胞と同じ組織由来の正常細胞とを区別する表現型変化は、正常な細胞表面成分の減少又はその他(即ち、対応する正常な非がん組織において検出不能な抗原)の増加を含む、特定の遺伝子産物の発現における1つ以上の変化に関連することが多い。新生物又は腫瘍細胞において発現されるが、正常細胞において発現されない、又は新生物細胞において正常細胞内で見出されるレベルを実質的に超えるレベルで発現される抗原は、「腫瘍特異抗原」又は「腫瘍関連抗原」と称されている。かかる腫瘍特異抗原は、腫瘍表現型に対するマーカーとして役立つことがある。腫瘍特異抗原は、がん/精巣特異抗原(例えば、MAGE、BAGE、GAGE、PRAME及びNY-ESO-1)、メラニン細胞分化抗原(例えば、チロシナーゼ、メランA/MART、gpl00、TRP-1及びTRP-2)、突然変異又は異常発現抗原(例えば、MUM-1、CDK4、βカテニン、gp100-in4、p15及びN-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼV)、及び腫瘍においてより高いレベルで発現される抗原(例えば、CD19及びCD20)を含む。
【0008】
腫瘍特異抗原は、がん免疫療法に対する標的として用いられている。1つのかかる治療では、がん細胞に対する細胞傷害性を改善するため、T細胞及びNK細胞を含む免疫細胞の表面上に発現されるキメラ抗原受容体(CAR)が用いられる。CARは、少なくとも1つの細胞内シグナル伝達ドメインに連結された一本鎖可変断片(scFv)を含む。scFvは、標的細胞(例えばがん細胞)上の抗原を認識し、それに結合し、エフェクター細胞活性化を誘発する。シグナル伝達ドメインは、該受容体による細胞内シグナル伝達にとって重要である免疫受容体チロシンに基づく活性化ドメイン(ITAM)を有する。
【0009】
T細胞において用いられるCARの第1世代は、1つの細胞質シグナル伝達ドメインを有した。例えば、T細胞における第1世代CARの1つのバージョンが、1つのITAMを有するFcイプシロン受容体ガンマ(FcεRIγ)からのシグナル伝達ドメインを含んだ一方で、別のバージョンは、3つのITAMを有するCD3ζからのシグナル伝達ドメインを有した。インビボ及びインビトロ試験によると、CD3ζ CAR T細胞が、腫瘍根絶時、FcεRIγ CAR T細胞よりも効率的であることが示された(例えば、Haynes,et al.2001,J.Immunology 166:182-187;Cartellieri,et al.2010,J.Biomed and Biotech,Vol.2010,Article ID 956304)。次に、追加的試験によると、特定の同時刺激シグナルがかかる組換えT細胞の十分な活性化及び増殖に求められること、並びに第2世代及び第3世代CARを複数のシグナル伝達ドメインと組み合わせて単一のCARにすることで、組換えCAR T細胞の有効性が増強されることが示された。試験対象のT細胞におけるそれらの大して望ましくない言語学的効果に起因し、第1世代CAR及びFcεRIγシグナル伝達ドメインは、大部分が廃棄され、1つ以上の追加的なシグナル伝達ドメインと組み合わせてCD3ζを用いる新しいより効率的なCARが支持された(例えば、Hermanson and Kaufman 2015,Frontiers in Immunol.,Vol.6,Article 195)。
【0010】
より最近では、選択されたCARが、NK細胞においても発現されている。例えば、CAR修飾NK-92細胞は、CD3ζ細胞内シグナル伝達ドメインのみを有する第1世代CARを用いている。B細胞リンパ腫に対するCD19及びCD20、乳がん、卵巣がん、及び扁平上皮がんに対するErbB2、神経芽細胞腫に対するGD2、及び多発性骨髄腫に対するCD138を含むいくつかの抗原が、これらの第1世代CAR-NK細胞により標的にされている。NK-92株からの第2世代CAR-NK細胞もまた、多発性がんに対するEpCAM、エプスタイン・バーウイルスに対するHLA-A2 EBNA3複合体、多発性骨髄腫に対するCS1、及びHER2陽性上皮がんに対するErbB2を含むいくつかの抗原に対して作出されている。第2世代NK-92 CARにおいてCD3ζとともに用いられる最も一般的な細胞内同時刺激ドメインが、CD28である。しかし、CD28ドメインの潜在的効果は、NK細胞がCD28を天然には発現しないことから不明確である。さらなる第2世代CARは、NK細胞の持続性を改善するため、CD3ζとともに4-1BB細胞内シグナル伝達ドメインを組み込んでいる。それ以外では、乳がん細胞に対して試験されたCD3ζ単独、CD28及びCD3ζ、又は4-1BB及びCD3ζと融合されたErbB2 scFvを用いて、異なる細胞内ドメインの機能性が比較された。第2世代構築物のいずれもが第1世代CARと比べて殺滅を改善し、CD28及びCD3ζが65%の標的溶解を有し、4-1BB及びCD3ζが62%を溶解し、且つCD3ζ単独が標的の51%を殺滅することが見出された。最近の試験において、4-1BB及びCD28細胞内ドメインについても、B細胞悪性腫瘍に対してNK-92細胞上で発現される抗CD19 CARを用いて比較した。さらにそれ以外では、CD3ζ/4-1BB構築物が細胞死滅及びサイトカイン産生においてCD3ζ/CD28と比べて有効でなく、CD28及び4-1BB同時刺激ドメインの差次的効果が強調されることが見出された。
【0011】
第3世代NK-92 CARは、抗CD5 scFvとともに、CD3ζ、CD28、及び4-1BB細胞内シグナル伝達ドメインから構成され、また種々のT細胞白血病及びリンパ腫細胞株及び原発性腫瘍細胞に対する特異的且つ強力な抗腫瘍活性が示された。かかる細胞はまた、T細胞急性リンパ芽球性白血病(ALL)細胞株及び原発性腫瘍細胞の異種移植片マウスモデルにおいて疾患進行を阻害することができた(Transl Res.2017 September;187:32-43)。さらなる例では、国際公開第2016/201304号パンフレット及び国際公開第2018/076391号パンフレットは、NK細胞及びNK-92細胞において発現される第3世代CD3ζ CARの使用について教示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、NK細胞(及び特にNK-92細胞)は、Fc受容体を発現するようにNK-92細胞を改変できないという極めて多数の失敗によって明らかであるように、遺伝的に修飾することが困難であることが多い。かかる困難は、NK-92細胞に、異種発現のため、複数の組換え遺伝子又は比較的大きい組換え核酸ペイロードがトランスフェクトされる場合、さらに複雑になる。加えて、NK-92細胞は、外来性タンパク質(例えばCD16)の組換え発現に関しての有意な予測性の欠如も示す。機能的レベルについては、たいていの場合、標的化細胞傷害性を示す一方で、ほぼすべてのCAR NK-92細胞が、高いエフェクター対標的細胞比を必要とする。
【0013】
したがって、たとえ極めて多数の組換えNK-92細胞が当該技術分野で公知であるとしても、それらのすべて又はほぼすべてが様々な困難に直面している。結果的に、高活性CARを有意量で発現し、且つ単純で有効な様式で容易に培養可能である、CARを発現するNK-92細胞が求められることは変わらない。
【課題を解決するための手段】
【0014】
発明者は、FcεRIγを有するCARを発現するNK-92細胞が、意外にも、優れた細胞溶解活性を典型的には他の構築物と比べて比較的低いエフェクター対標的細胞比で示し、且つFcεRIγを有するCARの高レベルでの発現を示すことを発見している。さらに、かかる組換え細胞はまた、CD16を望ましいレベルで発現し、刺激性サイトカインを発現するようにさらに修飾される場合、組換えNK-92細胞はまた、外因性IL-2を必要とすることなく容易に培養された。
【0015】
したがって、本発明の主題の一態様では、発明者は、単一ポリペプチド鎖中に、(i)細胞外結合ドメイン、(ii)ヒンジドメイン、(iii)膜貫通ドメイン、及び(iv)FcεRIγシグナル伝達ドメインを含む膜結合組換えキメラ抗原受容体(CAR)を有する遺伝子組換えNK細胞を検討している。最も典型的には、必然ではないが、NK細胞は、NK-92細胞である。
【0016】
いくつかの実施形態では、細胞外結合ドメインは、腫瘍特異抗原(例えば、CD19、CD20、GD2、HER-2、CD30、EGFR、FAP、CD33、CD123、PD-L1、IGF1R、CSPG4、又はB7-H4)、腫瘍関連抗原(例えば、MUC-2、ブラキュリ、CEA)、又は患者及び腫瘍特異抗原(例えば、患者のMHC I及び/又はMHC IIに対して高親和性を有するネオエピトープ)に特異的に結合してもよいscFvを含む。或いは、細胞外結合ドメインはまた、ウイルス特異的抗原に特異的に結合してもよく、本明細書で検討される典型的なウイルスは、HIVウイルス、HPVウイルス、RSVウイルス、インフルエンザウイルス、エボラウイルス、又はHCVウイルスを含む。例えば、好適なウイルス抗原は、HIVウイルスのgp120を含む。
【0017】
さらなる実施形態では、ヒンジドメイン及び/又は膜貫通ドメインは、CD8ヒンジドメイン及び/若しくはCD28膜貫通ドメインを含み、且つ/又はFcεRIγシグナル伝達ドメインは、配列番号1のアミノ酸配列を有する。
【0018】
加えて、遺伝子組換えNK細胞が膜結合組換えCD16(及び特にCD16の高親和性変異体)をさらに有してもよく、且つ/又は遺伝子組換えNK細胞が小胞体保持配列を有する組換えサイトカインを発現してもよいことが検討される。
【0019】
したがって、異なる視点から見て、発明者はまた、キメラ抗原受容体(CAR)をコードする組換え核酸を含む遺伝子組換えNK細胞を検討しており、ここでCARは、単一ポリペプチド鎖中に、(i)細胞外結合ドメイン、(ii)ヒンジドメイン、(iii)膜貫通ドメイン、及び(iv)FcεRIγシグナル伝達ドメインを含む。前述の通り、NK細胞がNK-92細胞であることが一般に好ましい。いくつかの実施形態では、組換え核酸は、RNAであり、それはCD16及び/又は小胞体保持配列を有するサイトカインをさらにコードするポリシストロニックRNAであってもよい。様々なドメインに関しては、上記と同じ検討事項が適用される。
【0020】
本主題のさらなる態様では、発明者はまた、それを必要とする患者におけるがんを治療する方法であって、本明細書で提示される遺伝子組換えNK細胞を治療有効量で患者に投与し、それによりがんを治療するステップを含む方法を検討している。容易に理解されるように、検討された方法は、少なくとも1つの追加的な治療用実体、例えば、ウイルスがんワクチン、細菌がんワクチン、酵母がんワクチン(yeast cancer vaccine)、N-803、抗体、幹細胞移植、及び/又は腫瘍標的サイトカインを投与するステップをさらに含むことになる。
【0021】
例えば、検討された方法によって治療されるがんは、白血病、急性リンパ球性白血病、急性骨髄球性白血病、慢性白血病、慢性骨髄性(顆粒球性)白血病、慢性リンパ性白血病、真性多血症、リンパ瘍、ホジキン病、非ホジキン病、多発性骨髄瘍、ワルデンストレームマクログロブリン血症、重鎖病、固形腫瘍、例えば限定はされないが、肉腫及びがん、例えば、線維肉瘍、粘液肉瘍、脂肪肉瘍、軟骨肉瘍、骨原性肉瘍、脊索瘍、血管肉瘍、内皮肉腫(endotheliosarcoma)、リンパ管肉瘍、リンパ管内皮肉腫(lymphangioendotheliosarcoma)、滑膜瘍、中皮瘍、ユーイング腫瘍、平滑筋肉瘍、横紋筋肉腫、結腸がん、膵がん、乳がん、卵巣がん、前立腺がん、扁平上皮がん、基底細胞がん、腺がん、汗腺がん、皮脂腺がん、乳頭がん、乳頭腺がん、嚢胞腺がん、髄様がん、気管支原性肺がん、腎細胞がん、肝腫瘍、胆管がん、絨毛がん、セミノーマ、胚性癌瘍、ウィルムス腫瘍、子宮頸がん、精巣腫瘍、肺がん、小細胞肺がん、膀胱がん、上皮がん、神経膠瘍、星状細胞瘍、髄芽瘍、頭蓋咽頭瘍、上衣瘍、松果体瘍、血管芽瘍、聴神経腫瘍、乏突起神経膠瘍、髄膜腫(menangioma)、メラノーマ、神経芽細胞腫及び網膜芽細胞腫を含む。
【0022】
同様に、発明者は、それを必要とする患者におけるウイルス感染を治療する方法であって、(ウイルス特異的抗原に特異的に結合することもある細胞外結合ドメインを有する)本明細書で提示される遺伝子組換えNK細胞を治療有効量で患者に投与し、それによりウイルス感染を治療するステップを含む方法を検討している。当然ながら、検討された方法は、抗ウイルス薬を投与するステップをさらに含んでもよい。
【0023】
治療のタイプにかかわらず、患者の体表面積の1mあたり約1×10~約1×1011個の細胞が患者に投与されることが検討される。
【0024】
したがって、発明者はまた、がん又はウイルス感染の治療における本明細書に提示されるような遺伝子組換えNK細胞の使用を検討している。
【0025】
本主題の様々な目的、特徴、態様及び利点は、同様の数字が同様の成分を表す添付の図面とともに、好ましい実施形態の以下の詳細な説明からより明白になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】試験対象の代表的なCD19-CARの略図である。CD19-CAR変異体のすべては、抗CD19 scFv領域(αCD19-scFv)を含む細胞外ドメイン、CD8からのヒンジ領域(CD8ヒンジ)、及びCD28からの膜貫通ドメイン(CD28 TM)を有した。CD19CARの細胞内ドメインは、指定通りに変更された。
図2A】eF660で標識された抗scFv抗体を用いたフローサイトメトリーにより測定されるときの、CD19-CAR mRNAのトランスフェクション後に図1のCD19-CARを発現するNK-92細胞の百分率についての代表的結果である。
図2B】eF660で標識された抗scFv抗体で標識された、CD19-CARを発現するNK-92細胞における蛍光強度中央値(MFI)-バックグラウンドについての代表的結果である。
図3A】5:1~0.3:1のエフェクター:標的比で、CD19CARを発現するNK-92細胞(エフェクター)により殺滅されたNK-92細胞感受性標的がん細胞(K562)の百分率についての代表的結果を示す。
図3B】5:1~0.3:1のエフェクター:標的比で、CD19CARを発現するNK-92細胞(エフェクター)により殺滅されたNK-92細胞抵抗性のCD19陽性標的がん細胞(SUP-B15)の百分率についての代表的結果を示す。
図4】2:1~0.25:1のエフェクター:標的比で、SUP-B15標的細胞を用いる脱顆粒アッセイにおける、抗CD107a抗体で標識された、CD19-CARを発現するNK-92細胞(エフェクター)のMFIについての代表的結果を示す。
図5】実施例に記載される通り、IVラージ腫瘍保有動物の代表的な生存曲線を示す。統計分析は、ログランク(マンテル・コックス)検定であった。****,P<0.0001。
図6】IVラージ腫瘍モデルにおける動物の体重変化についての代表的結果を示す。データは、平均±平均値の標準誤差である。平均値の標準誤差は、Nの平方根で除された標準偏差として算出された。
図7】SCラージモデルにおける代表的な腫瘍増殖曲線を示す。データは、平均±平均値の標準誤差である。統計学的解析は、二元分散分析とその後のチューキー検定による多重比較を用いて行われた;***,P<0.001;****,P<0.0001。
図8】CD19 t-haNKがSCラージ腫瘍保有マウスの肝臓における転移性疾患負荷を低減したことを示す代表的データを示す。パネルa:13日目の指定治療群からの動物の全肝画像。矢印は転移性病変を示す。肝臓は、写真撮影前の少なくとも24時間、10%ホルマリンで固定された。パネルb:指定日での(H&E染色により評価された)肝臓における腫瘍細胞の病変の百分率の定量化。13日目:,P=0.0257(不対両側t-検定による)。11日目及び15日目における統計学的解析は、サンプルサイズが制限されたため、実施できなかった。生データについては表4を参照されたし。
図9】SCラージ腫瘍モデルにおける動物の体重変化についての代表的結果を示す。データは、平均±平均値の標準誤差である。
図10】実施例に記載の通り、mCD19-CAR NK-92細胞対媒体対照での腫瘍内治療後の、L1210-Luc腫瘍細胞が注射されたマウスの代表的なカプラン・マイヤー生存曲線を示す。
図11】実施例に記載の通り、L1210-Luc腫瘍細胞が再負荷された完全奏効者対ナイーブ対照の腫瘍サイズについての代表的結果を示す。
図12】実施例に記載の通り、mCD19-CAR NK-92細胞対媒体対照による腫瘍内治療後の、A20腫瘍細胞が注射されたマウスの代表的なカプラン・マイヤー生存曲線を示す。
図13】実施例に記載の通り、A20腫瘍細胞が再負荷された完全奏効者対ナイーブ対照の腫瘍サイズについての代表的結果を示す。
図14】BT-474細胞に対するHER2.CAR-t-haNK細胞の細胞傷害性についての代表的結果を示す。
図15】THP-1細胞に対するCD33.CAR-t-haNK細胞の細胞傷害性についての代表的結果を示す。
図16】SUP-B15.PD-L1+細胞に対するPD-L1.CAR-t-haNK細胞の細胞傷害性についての代表的結果を示す。
図17】U251細胞に対するPD-L1.CAR-t-haNK細胞の細胞傷害性についての代表的結果を示す。
図18】A-549細胞に対するEGFR.CAR-t-haNK細胞の細胞傷害性についての代表的結果を示す。
図19】K562細胞に対するCD19.CAR-t-haNK細胞の細胞傷害性についての代表的結果を示す。
図20】SUP-B15細胞に対するCD19.CAR-t-haNK細胞の細胞傷害性についての代表的結果を示す。
図21】SKBr3細胞に対するCD19.CAR-t-haNK細胞のADCCについての代表的結果を示す。
図22】MDA-MB-231細胞に対するIGF1R.CAR-t-haNK細胞の細胞傷害性についての代表的結果を示す。
図23】種々のがん細胞に対するPD-L1.CAR-t-haNK細胞の細胞傷害性についての代表的結果を示す。
図24】MDA-MB-231細胞に対するPD-L1.CAR-t-haNK細胞の細胞傷害性についての代表的な比較結果を示す。
図25】CD16及びCD19.CARの発現についての代表的結果を示す。
図26】CD19.CAR-t-haNK細胞の天然細胞傷害性についての代表的結果を示す。
図27】CD19.CAR-t-haNK細胞のCAR媒介性細胞傷害性についての代表的結果を示す。
図28】CD19.CAR-t-haNK細胞のADCCについての代表的結果を示す。
図29】CD16及びCD20.CARの発現についての代表的な比較結果を示す。
図30】CD20.CAR-t-haNK細胞の天然細胞傷害性についての代表的結果を示す。
図31】CD16及びCD33.CARの発現についての代表的結果を示す。
図32】CD33.CAR-t-haNK細胞の天然細胞傷害性についての代表的結果を示す。
図33】CD33.CAR-t-haNK細胞のCAR媒介性細胞傷害性についての代表的結果を示す。
図34】CD33.CAR-t-haNK細胞のADCCについての代表的結果を示す。
図35】CD16及びEGFR.CARの発現についての代表的結果を示す。
図36】EGFR.CAR-t-haNK細胞の天然細胞傷害性についての代表的結果を示す。
図37】EGFR.CAR-t-haNK細胞のCAR媒介性細胞傷害性についての代表的結果を示す。
図38】EGFR.CAR-t-haNK細胞のCAR媒介性細胞傷害性についての代表的結果を示す。
図39】EGFR.CAR-t-haNK細胞のADCCについての代表的結果を示す。
図40】CD16及びHER2.CARの発現についての代表的結果を示す。
図41】HER2.CAR-t-haNK細胞の天然細胞傷害性についての代表的結果を示す。
図42】HER2.CAR-t-haNK細胞のCAR媒介性細胞傷害性についての代表的結果を示す。
図43】HER2.CAR-t-haNK細胞のADCCについての代表的結果を示す。
図44】CD16及びPD-L1.CARの発現についての代表的結果を示す。
図45】PD-L1.CAR-t-haNK細胞の天然細胞傷害性についての代表的結果を示す。
図46】PD-L1.CAR-t-haNK細胞のCAR媒介性細胞傷害性についての代表的結果を示す。
図47】PD-L1.CAR-t-haNK細胞のADCCについての代表的結果を示す。
図48】CD123.CAR-t-haNK細胞のCAR媒介性細胞傷害性についての代表的結果を示す。
図49】CD123.CAR-t-haNK細胞のADCCについての代表的結果を示す。
図50】CD16及びCD30.CARの発現についての代表的結果を示す。
図51】CD30.CAR-t-haNK細胞の天然細胞傷害性についての代表的結果を示す。
図52】CD30.CAR-t-haNK細胞のCAR媒介性細胞傷害性についての代表的結果を示す。
図53】CD30.CAR-t-haNK細胞のADCCについての代表的結果を示す。
図54】CD16及びBCMA.CARの発現についての代表的結果を示す。
図55】BCMA.CAR-t-haNK細胞のCAR媒介性細胞傷害性についての代表的結果を示す。
図56】BCMA.CAR-t-haNK細胞のADCCについての代表的結果を示す。
図57】CD16及びgp120.CARの発現についての代表的結果を示す。
図58】gp120.CAR-t-haNK細胞のGP120結合についての代表的結果を示す。
図59】gp120.CAR-t-haNK細胞の天然細胞傷害性についての代表的結果を示す。
図60】gp120.CAR-t-haNK細胞のADCCについての代表的結果を示す。
図61】CD16及びFAP.CARの発現についての代表的結果を示す。
図62】FAP.CAR-t-haNK細胞のCAR媒介性細胞傷害性についての代表的結果を示す。
図63】CSPG4.CAR-t-haNK細胞におけるCSPG4の発現についての代表的結果を示す。
図64】CSPG4.CAR-t-haNK細胞のCAR媒介性細胞傷害性についての代表的結果を示す。
図65】IGF1R-CAR、CD16、及びIL-2ERをコードする代表的なトリシストロン構築物を表す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
現在まで、FcεRIγを有するCARは、シグナル伝達ドメイン(例えばCD3ζ)として、特に(第2世代及び第3世代CARにおける)追加的なシグナル伝達ドメインと組み合わされると、より効率的と思われたことから、NK-92細胞、他のNK細胞株、又は内因性NK細胞において利用されていない。発明者は現在、1つのITAMドメインのみを有する、FcεRIγからの細胞内ドメインを含む第1世代CARを発現するNK-92細胞が、CARにより認識される抗原を発現するがん細胞に対して、3つのITAMドメインを有する、CD3ζシグナル伝達ドメインを有するCARを発現するNK-92細胞と比べて、たとえこれらのITAMドメインが他のシグナル伝達ドメイン(即ち、第2世代又は第3世代CAR)と組み合わされた場合であっても、等しいか又はより高い細胞傷害活性を有するという想定外の驚くべき発見をしている。特に、IgE受容体(FcεRI)は、その天然な状況下で、ジスルフィド結合を介して互いに共役される2つのγ鎖を含み、通常は好酸球、好塩基球、及び表皮ランゲルハンス細胞に限って発現される。発明者はまた、FcεRIγからの細胞内ドメインを含むCARが、NK-92細胞の表面上で、他のCAR、特にCD3ζシグナル伝達ドメインを含むCARよりも高いレベルで発現されたという想定外の発見をしている。
【0028】
したがって、本主題は、細胞表面上でキメラ抗原受容体(CAR)を発現するように改変された遺伝子組換えNK-92細胞又はNK細胞株を対象とする。最も典型的には、CARは、Fcイプシロン受容体ガンマ(FcεRIγ)からの細胞内ドメインを含むが、他の実施形態では、CARはまた、T細胞受容体(TCR)CD3ゼータ(CD3ζ)細胞内ドメインを含んでもよい。容易に理解されるように、CARは、組換えDNA又はRNA分子から、NK-92細胞により一過性に又は安定的に発現されてもよい。
【0029】
結果として、本主題の一態様では、NK細胞、NK-92細胞又はNK/NK-92細胞株は、(例えば、配列番号1のアミノ酸配列を有する)FcεRIγの細胞質ドメインを含むNK-92細胞の表面上にキメラ抗原受容体(CAR)を発現する。代替的に、又は追加的に、CARはまた、(例えば、配列番号10のアミノ酸配列を有し、配列番号11(コドン最適化)又は配列番号12(非コドン最適化)の核酸によってコードされてもよい;完全長配列は配列番号47で示される)CD3ゼータの細胞質ドメインを含んでもよい。別の態様では、NK又はNK-92細胞株は、キメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸で形質転換されることが検討される。例えば、好ましい核酸は、(例えば、配列番号2を含むか又はそれからなる)FcεRIγの細胞質ドメインをコードする。代替的に、又は追加的に、該核酸は、(例えば、配列番号11(ヒト、コドン最適化)又は配列番号12(ヒト)を含むか又はそれらからなる)CD3ゼータの細胞質ドメインをコードする。容易に理解されるように、CARは、以下により詳述されるように、その細胞外結合ドメインを介してがん関連又はウイルス関連抗原を標的にしてもよい。
【0030】
さらに検討された実施形態では、NK又はNK-92細胞は、少なくとも1つのサイトカイン又はその変異体を発現するように修飾され得る。例えば、サイトカインは、組換え細胞により一過性に又は安定的に発現されてもよく、サイトカインは、小胞体保持シグナルを含んでもよい。所望される場合、NK又はNK-92細胞はまた、自殺遺伝子を発現するように修飾されてもよい(例えば、自殺遺伝子はチミジンキナーゼである)。いかなる理論にも拘束されないが、自殺遺伝子の発現が、NK-92細胞の制御されない増殖を、好適な刺激の導入時に該細胞を選択的に殺滅するための機構を提供することにより阻止し得ることが考えられる。
【0031】
本主題の別の態様では、発明者はまた、それを必要とする患者におけるがんを治療する方法であって、本明細書に記載のようなキメラ抗原受容体(CAR)を発現するように改変された修飾NK/NK-92細胞又はNK/NK-92細胞株を治療有効量で患者に投与するステップを含む方法を検討している。異なる視点から見ると、発明者はまた、対象における腫瘍の治療での使用を意図した、好ましくはFcεRIγの細胞質ドメインを含むキメラ抗原受容体(CAR)を発現する修飾NK/NK-92細胞又はNK/NK-92細胞株を検討している。いくつかの実施形態では、該使用は、腫瘍を治療するため、本明細書に記載の修飾細胞又は細胞株を有効量で対象に投与するステップを含む。さらに他の実施形態では、腫瘍細胞を殺滅するためのインビトロ方法が検討され、該方法は、腫瘍細胞を本明細書に記載の修飾NK-92細胞又はNK-92細胞株と接触させるステップを含んでもよい。いくつかの実施形態では、修飾NK-92細胞又はNK-92細胞株は、腫瘍細胞上の抗原に結合するCARを発現する。いくつかの実施形態では、CARは、好ましくはFcイプシロン受容体ガンマ(FcεRIγ)からの細胞内ドメインを含む。代替的に、又は追加的に、CARは、T細胞受容体(TCR)CD3ゼータ(CD3ζ)細胞内ドメインを含む。
【0032】
さらに他の実施形態では、それを必要とする患者におけるウイルス感染を治療する方法であって、本明細書に記載のようなCARを発現するNK-92細胞を治療有効量で患者に投与するステップを含む方法が記載される。
【0033】
この記載を読了すると、様々な代替的な実施形態及び代替的な用途において本発明を実施する仕方は、当業者にとって明白になるであろう。しかし、本発明の実施形態のすべてが本明細書に記載されるのではない。本明細書に提示される実施形態が、限定的でなく、あくまで例示的に提示されることは理解されるであろう。そのようなものとして、様々な代替的な実施形態のこの詳細な説明は、以下に示す通り、本発明の範囲又は幅を限定するように解釈されるべきではない。
【0034】
本発明が開示され、記載されるに先立ち、下記の態様が、特定の組成物、かかる組成物を調製する方法、又はかかるものとしてのその使用に限定されることなく、当然ながら変更されてもよいことは理解されるべきである。本明細書で用いられる用語法が、あくまで特定の態様を説明することを目的とし、限定が意図されないことも理解されるべきである。
【0035】
タイトル又はサブタイトルは、読者の利便性を目的として本明細書中で用いられてもよく、本発明の範囲に影響することは意図されない。加えて、本明細書で用いられるいくつかの用語は、より具体的には以下に定義される。
【0036】
好適なNK細胞に関しては、すべてのNK細胞が、本明細書での使用に適すると思われ、それ故、一次NK細胞(保存された細胞、拡大された細胞、及び/又は新鮮細胞)、不死化されている二次NK細胞、自家又は異種NK細胞(バンク、保存、新鮮など)、及び以下により詳細に記載されるような修飾NK細胞を含むことは注目されるべきである。いくつかの実施形態では、NK細胞がNK-92細胞であることが好ましい。NK-92細胞株は、インターロイキン2(IL-2)の存在下で増殖することが発見された唯一の細胞株である(例えば、Gong et al.,Leukemia 8:652-658(1994)を参照)。NK-92細胞は、好適な培地中で拡大後、広範な抗腫瘍細胞傷害性及び予想可能な収量を有するがんNK細胞である。有利には、NK-92細胞は、種々のがんに対して高い細胞溶解活性を有する。
【0037】
元のNK-92細胞株は、CD56bright、CD2、CD7、CD11a、CD28、CD45、及びCD54表面マーカーを発現し、CD1、CD3、CD4、CD5、CD8、CD10、CD14、CD16、CD19、CD20、CD23、及びCD34マーカーを提示しなかった。培養中のかかるNK-92細胞の増殖は、インターロイキン2(例えば、rIL-2)の存在に依存しており、そこでは増殖を維持するのにわずか1IU/mLの用量で十分である。IL-7及びIL-12は、長期増殖を支持しないばかりか、IL-1α、IL-6、腫瘍壊死因子α、インターフェロンα、及びインターフェロンγを含む様々な他のサイトカインについては試験していない。一次NK細胞と比較し、NK-92は、典型的には比較的低いエフェクター:標的(E:T)比、例えば1:1であっても高い細胞傷害性を有する。代表的なNK-92細胞は、CRL-2407という名称でアメリカ合衆国培養細胞系統保存機関(American Type Culture Collection)(ATCC)に寄託されている。
【0038】
したがって、好適なNK細胞は、例えばMHCクラスI分子との相互作用を低減又は消失させるために突然変異された1つ以上の修飾KIRを有してもよい。当然ながら、1つ以上のKIRが欠失される、又は発現が(例えば、miRNA、siRNAなどを介して)抑制されることがあることは注目されるべきである。最も典型的には、2つ以上のKIRが突然変異、欠失、又は発現停止されることになり、特別に検討されるKIRは、短い又は長い細胞質側末端を有し、2又は3のドメインを有するものを含む。異なる視点から見ると、修飾、発現停止、又は欠失されたKIRは、KIR2DL1、KIR2DL2、KIR2DL3、KIR2DL4、KIR2DL5A、KIR2DL5B、KIR2DS1、KIR2DS2、KIR2DS3、KIR2DS4、KIR2DS5、KIR3DL1、KIR3DL2、KIR3DL3、及びKIR3DS1を含むことになる。かかる修飾細胞は、当該技術分野で周知のプロトコルを用いて調製されてもよい。或いは、かかる細胞はまた、NK細胞(‘活性化ナチュラルキラー細胞)としてNantKwest(URL:www.nantkwest.comを参照)から商業的に得てもよい。次に、かかる細胞は、以下にさらにより詳述される通り、CARに対してさらに遺伝子組換えされてもよい。
【0039】
本主題の別の態様では、遺伝子改変NK細胞はまた、高親和性Fcγ受容体(CD16)を発現するように修飾されたNK-92誘導体であってもよい。Fcγ受容体の高親和性変異体における配列は、当該技術分野で周知であり(例えば、Blood 2009 113:3716-3725を参照;配列番号43及び44)、産生及び発現のすべての様式は、本明細書での使用に適すると思われる。かかる受容体の発現は、患者の腫瘍細胞(例えば、ネオエピトープ)、特定の腫瘍タイプ(例えば、her2neu、PSA、PSMAなど)に特異的である抗体、又はがんに関連する抗体(例えば、CEA-CAM)を用いて、腫瘍細胞の特異的標的化を可能にすると考えられる。有利には、かかる抗体は、市販されており、(例えば、Fcγ受容体に結合された)細胞と併用可能である。或いは、かかる細胞はまた、haNK細胞としてNantKwestから商業的に得てもよい。次に、かかる細胞は、以下にさらにより詳述される通り、CARに対してさらに遺伝子組換えされてもよい。
【0040】
したがって、本明細書での使用に適したNK細胞は、(CAR、CD16若しくはその変異体、及びサイトカイン若しくはその変異体をコードするトリシストロン構築物がトランスフェクトされてもよい)NK-92細胞、(CAR及びCD16若しくはその変異体又はサイトカイン若しくはその変異体をコードする核酸がトランスフェクトされてもよい)CD16若しくはその変異体又はサイトカイン若しくはその変異体を発現する遺伝子組換えNK細胞又はNK-92細胞、並びに(CARをコードする核酸がトランスフェクトされてもよい)CD16若しくはその変異体及びサイトカイン若しくはその変異体を発現する遺伝子組換えNK細胞又はNK-92細胞を含む。
【0041】
本明細書で検討されるNK細胞の遺伝子修飾は、極めて多数の様式で実施することができ、すべての公知の様式は、本明細書での使用に適すると思われる。さらに、NK細胞にDNA又はRNAがトランスフェクトされ得、トランスフェクションの特定の選択が少なくとも部分的には所望される組換え細胞のタイプ及びトランスフェクション効率に依存することは理解されるべきである。例えば、NK細胞が安定にトランスフェクトされることが所望される場合、ゲノムへの組込みのため、線状化DNAが細胞に導入されてもよい。他方、一過性トランスフェクションが所望される場合、環状DNA又は線状RNA(例えば、ポリAテールを有するmRNA)を用いてもよい。
【0042】
同様に、トランスフェクションの様式が、少なくとも部分的には、用いられる核酸のタイプに依存することは理解されるべきである。したがって、ウイルストランスフェクション、化学的トランスフェクション、機械的トランスフェクション方法はすべて、本明細書での使用に適すると思われる。例えば、一実施形態では、本明細書に記載のベクターは、一過性発現ベクターである。かかるベクターを用いて導入される外因性導入遺伝子は、細胞の核ゲノムに組み込まれず;それ故、ベクター複製の不在下で、外来導入遺伝子は、経時的に分解又は希釈されることになる。
【0043】
別の実施形態では、本明細書に記載のベクターは、細胞の安定なトランスフェクションを可能にする。一実施形態では、ベクターは、細胞のゲノムへの導入遺伝子の組み込みを可能にする。好ましくは、かかるベクターは、ポジティブ選択マーカーを有し、好適なポジティブ選択マーカーは、遺伝子を発現しない細胞を殺滅することになる条件下で細胞が増殖することを可能にする任意の遺伝子を含む。非限定例として、抗生物質耐性、例えばジェネテシン(Tn5からのneo遺伝子)が挙げられる。
【0044】
代替的に、又は追加的に、ベクターは、プラスミドベクターである。一実施形態では、ベクターは、ウイルスベクターである。当業者によって理解されるであろうが、任意の好適なベクターが使用可能であり、好適なベクターは当該技術分野で周知である。
【0045】
さらに他の実施形態では、細胞に、目的のタンパク質(例えばCAR)をコードするmRNAがトランスフェクトされる。mRNAのトランスフェクションの結果、タンパク質の一過性発現がもたらされる。一実施形態では、NK-92細胞へのmRNAのトランスフェクションは、細胞の投与の直前に実施される。一実施形態では、細胞の投与「直前」は、投与前の約15分~約48時間の間を指す。好ましくは、mRNAのトランスフェクションは、投与前の約5時間~約24時間に実施される。以下により詳述されるような少なくともいくつかの実施形態では、NK細胞へのmRNAのトランスフェクションの結果、意外にも高い割合のトランスフェクト細胞でCARの一貫した強力な発現がもたらされた。さらに、かかるトランスフェクト細胞はまた、比較的低いエフェクター対標的細胞比で高比細胞傷害性を示した。
【0046】
検討されるCARに関して、NK/NK-92細胞が、CARの一部を細胞表面上に曝露する一方で、シグナル伝達ドメインを細胞内空間内に維持する膜結合タンパク質としてCARを発現するように遺伝子組換えされることが認められる。最も典型的には、CARは、少なくとも以下のエレメント(順に):細胞外結合ドメイン、ヒンジドメイン、膜貫通ドメイン、及びFcεRIγシグナル伝達ドメインを含むことになる。
【0047】
好ましい実施形態では、CARの細胞質ドメインは、FcεRIγのシグナル伝達ドメインを含むか又はそれからなる。例えば、FcεRIγシグナル伝達ドメインは、配列番号1のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるか又は本質的にそれからなる。いくつかの実施形態では、FcεRIγ細胞質ドメインは、唯一のシグナル伝達ドメインである。しかし、追加的なエレメント、例えば他のシグナル伝達ドメイン(例えば、CD28シグナル伝達ドメイン、CD3ζシグナル伝達ドメイン、4-1BBシグナル伝達ドメインなど)もまた含んでもよいことは理解されるべきである。これらの追加的なシグナル伝達ドメインは、FcεRIγ細胞質ドメインの下流及び/又はFcεRIγ細胞質ドメインの上流に位置付けられてもよい。
【0048】
いくつかの実施形態では、FcεRIγシグナル伝達ドメインは、配列番号1のアミノ酸配列に対して、少なくとも約85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列相同性を有するアミノ酸配列を含むか又はそれからなるか又は本質的にそれからなる。
【0049】
上記の通り、いくつかの実施形態では、CARの細胞質ドメインは、CD3ゼータ(CD3ζ)のシグナル伝達ドメインを含む。一実施形態では、CARの細胞質ドメインは、CD3ゼータのシグナル伝達ドメインからなる。一実施形態では、CD3ゼータシグナル伝達ドメインは、配列番号10のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるか又は本質的にそれからなる。いくつかの実施形態では、CD3ゼータシグナル伝達ドメインは、配列番号10のアミノ酸配列に対して少なくとも約85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列相同性を有するアミノ酸配列を含むか又はそれからなるか又は本質的にそれからなる。
【0050】
CARは、任意の好適な膜貫通ドメインを含んでもよい。一態様では、CARは、CD28の膜貫通ドメインを含む。一実施形態では、CD28膜貫通ドメインは、配列番号7のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるか又は本質的にそれからなる。一実施形態では、CD28膜貫通ドメインは、配列番号7のアミノ酸配列に対して少なくとも約85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列相同性を有するアミノ酸配列を含むか又はそれからなるか又は本質的にそれからなる。一実施形態では、膜貫通ドメインは、CD28膜貫通ドメイン、4-1BB膜貫通ドメイン、又はFcεRIγ膜貫通ドメインから選択される。
【0051】
CARは、任意の好適なヒンジ領域を含んでもよい。一態様では、CARは、CD8のヒンジ領域を含む。一実施形態では、CD8ヒンジ領域は、配列番号6のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるか又は本質的にそれからなる。一実施形態では、CD8ヒンジ領域は、配列番号6のアミノ酸配列に対して少なくとも約85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列相同性を有するアミノ酸配列を含むか又はそれからなるか又は本質的にそれからなる。
【0052】
最も典型的には、必然的ではないが、CARの細胞外結合ドメインは、目的の抗原に特異的に結合するscFv又は他の天然若しくは合成結合部分となる。特に好適な結合部分は、単一、二重、又は多重の標的特異性を有する小さい抗体断片、βバレルドメイン結合剤(beta barrel domain binders)、ページディスプレイ融合タンパク質(page display fusion proteins)などを含む。他の好適な細胞外結合ドメインの中で、好ましいドメインは、腫瘍特異抗原、腫瘍関連抗原、又は患者及び腫瘍特異抗原に特異的に結合することになる。例えば、検討される抗原は、CD19、CD20、GD2、HER-2、CD30、EGFR、FAP、CD33、CD123、PD-L1、IGF1R、CSPG4、又はB7-H4を含む。さらなる腫瘍特異抗原が、非限定例として、米国特許出願公開第2013/0189268号明細書;国際公開第1999024566A1号パンフレット;米国特許第7098008号明細書;及び国際公開第2000020460号パンフレット(それらの各々は、それら全体が参照により本明細書中に援用される)に記載されている。同様に、他の好ましいドメインは、(病原性)ウイルス特異的抗原、例えばHIVウイルス(例えばgp120)の抗原、HPVウイルス、RSVウイルス、インフルエンザウイルス、エボラウイルス、又はHCVウイルスに特異的に結合することになる。
【0053】
検討されるCARの構築に関しては、CARが、例えば、国際公開第2014/039523号パンフレット;米国特許出願公開第2014/0242701号明細書;米国特許出願公開第2014/0274909号明細書;米国特許出願公開第2013/0280285号明細書及び国際公開第2014/099671号パンフレット(それらの各々は、それら全体が参照により本明細書中に援用される)に記載のような極めて多数の様式で改変され得ることは理解されるべきである。
【0054】
それ故、また異なる視点から見ると、検討されるCARは、特定のがんタイプに関連する抗原を標的にする。一実施形態では、がんは、白血病(急性白血病(例えば、急性リンパ球性白血病、急性骨髄球性白血病(骨髄芽球性、前骨髄球性、骨髄単球性、単球性、及び赤白血病を含む))及び慢性白血病(例えば、慢性骨髄性(顆粒球性)白血病及び慢性リンパ性白血病)を含む)、真性多血症、リンパ腫(例えば、ホジキン病及び非ホジキン病)、多発性骨髄瘍、ワルデンストレームマクログロブリン血症、重鎖病、固形腫瘍、例えば限定はされないが、肉腫及びがん、例えば、線維肉瘍、粘液肉瘍、脂肪肉瘍、軟骨肉瘍、骨原性肉瘍、脊索瘍、血管肉瘍、内皮肉腫、リンパ管肉瘍、リンパ管内皮肉腫、滑膜瘍、中皮瘍、ユーイング腫瘍、平滑筋肉瘍、横紋筋肉腫、結腸がん、膵がん、乳がん、卵巣がん、前立腺がん、扁平上皮がん、基底細胞がん、腺がん、汗腺がん、皮脂腺がん、乳頭がん、乳頭腺がん、嚢胞腺がん、髄様がん、気管支原性肺がん、腎細胞がん、肝腫瘍、胆管がん、絨毛がん、セミノーマ、胚性癌瘍、ウィルムス腫瘍、子宮頸がん、精巣腫瘍、肺がん、小細胞肺がん、膀胱がん、上皮がん、神経膠瘍、星状細胞瘍、髄芽瘍、頭蓋咽頭瘍、上衣瘍、松果体瘍、血管芽瘍、聴神経腫瘍、乏突起神経膠瘍、髄膜腫、メラノーマ、神経芽細胞腫、又は網膜芽細胞腫である。
【0055】
したがって、検討されるCARは、一般に、ヒンジドメインに(直接的に)共役され、膜貫通ドメインに(直接的に)共役され、FcεRIγシグナル伝達ドメインに(直接的に)共役された、細胞外結合ドメインの構造を有することになる。さらに検討される態様では、検討されるCARはまた、FcεRIγシグナル伝達ドメインに追加的又は代替的に、1つ以上のシグナル伝達ドメインを含んでもよく、特に検討されるシグナル伝達ドメインは、CD3ζシグナル伝達ドメイン、4-1BBシグナル伝達ドメイン、及びCD28シグナル伝達ドメインを含む。それ故、例えば、検討されるCARは、ヒンジドメイン(例えば、配列番号6などのCD8ヒンジ)に共役され、次いで膜貫通ドメイン(例えば、配列番号7などのCD28 TM)に共役され、シグナル伝達ドメイン(例えば、配列番号1などのFcεRIγシグナル伝達ドメイン、配列番号8などのCD28シグナル伝達ドメイン、配列番号9などの4-1BBシグナル伝達ドメイン、配列番号10などのCD3ζシグナル伝達ドメイン)に共役された、配列番号4、23~42、及び48~59を有する結合ドメインのいずれか1つを含んでもよい。
【0056】
さらに検討される態様では、NK細胞は、1つ以上のサイトカインを発現するようにさらに遺伝子組換えされ、それによりサイトカイン及びCARが同じ組換え核酸上にコードされる場合の選択マーカーを提供し、且つ/又は組換え細胞を外因性IL-2と独立させてもよい。したがって、いくつかの実施形態では、NK-92細胞は、少なくとも1つのサイトカインを発現するように修飾される。特に、少なくとも1つのサイトカインは、IL-2、IL-12、IL-15、IL-18、IL-21、又はその変異体である。好ましい実施形態では、サイトカインは、IL-2又はその変異体であり、特に好ましい変異体は、小胞体保持シグナルを含む(例えば、配列番号18などのヒトIL-2、又はそれに加えて配列番号19などの小胞体保持シグナル)。例えば、IL-2遺伝子は、クローン化され、IL-2を小胞体に誘導するシグナル配列とともに発現される。これにより、IL-2を細胞外に放出することなく、IL-2の自己分泌活性化にとって十分なレベルでの発現が可能になる(例えば、Exp Hematol.2005 Feb;33(2):159-64.)。或いは、サイトカイン(特にIL-15)の発現はまた、組換え細胞に自己分泌増殖シグナルを提供するだけでなく、発現されたIL-15の少なくとも一部が細胞から放出されることを可能にするのに十分な量でサイトカインが発現され、それにより免疫刺激シグナルをもたらすことになる程度であってもよい。例えば、かかる発現は、シグナルペプチド及び小胞体保持配列の双方を含むヒトIL-15配列を用いて達成されてもよい。小胞体保持IL-15における代表的なDNA及びタンパク質配列は各々、配列番号72及び配列番号73で示される。
【0057】
所望される場合、検討される細胞はまた、自殺遺伝子を発現してもよい。用語「自殺遺伝子」は、自殺遺伝子を発現する細胞のネガティブ選択を可能にする導入遺伝子を指す。自殺遺伝子は、該遺伝子を発現する細胞が選択的薬剤の導入により殺滅されることを可能にする安全システムとして用いられる。これは組換え遺伝子が制御されない細胞増殖をもたらす突然変異を引き起こす場合に望ましい、即ち該細胞自体はかかる増殖を行う能力がある。単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(TK)遺伝子、シトシンデアミナーゼ遺伝子、水痘帯状疱疹ウイルスチミジンキナーゼ遺伝子、ニトロレダクターゼ遺伝子、大腸菌(Escherichia coli)gpt遺伝子、及び大腸菌(E.Coli)Deo遺伝子を含むいくつかの自殺遺伝子系が、同定されている。典型的には、自殺遺伝子は、該細胞に対して病的効果を有しないタンパク質をコードするが、特定化合物の存在下で該細胞を殺滅することになる。したがって、自殺遺伝子は、典型的には系の一部である。
【0058】
一実施形態では、自殺遺伝子は、NK-92細胞内で活性がある。一実施形態では、自殺遺伝子は、チミジンキナーゼ(TK)遺伝子である。TK遺伝子は、野生型又は突然変異体TK遺伝子(例えば、tk30、tk75、sr39tk)であってもよい。TKタンパク質を発現する細胞は、ガンシクロビルを用いて殺滅され得る。別の実施形態では、自殺遺伝子は、5-フルオロシトシンの存在下で細胞に対して有毒であるシトシンデアミナーゼである。Garcia-Sanchez et al.“Cytosine deaminase adenoviral vector and 5-fluorocytosine selectively reduce breast cancer cells 1 million-fold when they contaminate hematopoietic cells:a potential purging method for autologous transplantation.”Blood.1998 Jul 15;92(2):672-82。さらなる実施形態では、自殺遺伝子は、イホスファミド又はシクロホスファミドの存在下で有毒であるチトクロムP450である。例えば、Touati et al.“A suicide gene therapy combining the improvement of cyclophosphamide tumor cytotoxicity and the development of an anti-tumor immune response.”Curr Gene Ther.2014;14(3):236-46を参照。さらに別の実施形態では、自殺遺伝子は、iCasp9である。Di Stasi,(2011)“Inducible apoptosis as a safety switch for adoptive cell therapy.”N Engl J Med365:1673-1683。Morgan,“Live and Let Die:A New Suicide Gene Therapy Moves to the Clinic”Molecular Therapy(2012);20:11-13も参照されたし。iCasp9は、小分子AP1903の存在下でアポトーシスを誘導する。AP1903は、臨床試験において十分な耐容性があることが示されており、且つ養子細胞療法との関連で用いられている、生物学的に不活性な小分子である。
【0059】
当然ながら、組換えタンパク質のすべてが個別の組換え配列から発現され得ることは注目されるべきである。しかし、複数の組換え配列が発現される場合(例えば、CAR、CD16、サイトカイン)、コード領域が、組換えタンパク質をコードする少なくとも2つ又は少なくとも3つのコード領域を有するポリシストロニック単位で配列されてもよいことは、一般に好ましい。したがって、導入遺伝子は、当業者に公知のいずれかの機構により発現ベクターに改変され得る。複数の導入遺伝子が細胞に挿入されるべきである場合、導入遺伝子は、同じ発現ベクター又は異なる発現ベクターに改変されてもよい。いくつかの実施形態では、該細胞に、発現されるべきトランスジェニックタンパク質をコードするmRNAがトランスフェクトされる。いくつかの実施形態では、該細胞に、発現されるべきトランスジェニックタンパク質をコードするDNAがトランスフェクトされる。導入遺伝子、mRNA及びDNAは、非限定例として、感染、ウイルスベクター、電気穿孔、リポフェクション、ヌクレオフェクション、又は「遺伝子銃」を含む、当該技術分野で公知の任意のトランスフェクション方法を用いて、NK-92細胞に導入され得る。
【0060】
したがって、好ましい実施形態では、遺伝子組換えNK細胞(特に細胞がCAR及びCD16又はその変異体を発現する場合)は、細胞死の3つの異なる様式:受容体(例えばNKG2D受容体)を活性化することによって媒介される一般的細胞傷害性、標的細胞に結合した抗体によって媒介されるADCC、及びCAR媒介性細胞傷害性を示すことは注目されるべきである。容易に理解されるように、検討される遺伝子組換え細胞は、様々な疾患、特に異常細胞が疾患特異抗原又は疾患関連抗原を提示する場合の様々ながん及びウイルス感染の治療において用いることができる。結果的には、発明者は、本明細書に記載のような修飾NK又はNK-92細胞を用いて患者を治療する方法を検討している。一実施形態では、患者はがん(例えば腫瘍)を患っており、修飾NK-92細胞又は細胞株は、がん又は腫瘍からの細胞の表面上に発現される抗原に特異的なCARを発現する。一実施形態では、患者はウイルス感染を患っており、修飾NK-92細胞又は細胞株は、ウイルスによって感染されている細胞の表面上に発現される抗原に特異的なCARを発現する。一実施形態では、患者は細菌感染症を患っており、修飾NK-92細胞又は細胞株は、感染を引き起こす細菌細胞の表面上に発現される抗原に特異的なCARを発現する。
【0061】
いくつかの実施形態では、がんは、白血病(急性白血病(例えば、急性リンパ球性白血病、急性骨髄球性白血病(骨髄芽球性、前骨髄球性、骨髄単球性、単球性、及び赤白血病を含む))及び慢性白血病(例えば、慢性骨髄性(顆粒球性)白血病及び慢性リンパ性白血病)を含む)、真性多血症、リンパ腫(例えば、ホジキン病及び非ホジキン病)、多発性骨髄瘍、ワルデンストレームマクログロブリン血症、重鎖病、固形腫瘍、例えば限定はされないが、肉腫及びがん、例えば、線維肉瘍、粘液肉瘍、脂肪肉瘍、軟骨肉瘍、骨原性肉瘍、脊索瘍、血管肉瘍、内皮肉腫、リンパ管肉瘍、リンパ管内皮肉腫、滑膜瘍、中皮瘍、ユーイング腫瘍、平滑筋肉瘍、横紋筋肉腫、結腸がん、膵がん、乳がん、卵巣がん、前立腺がん、扁平上皮がん、基底細胞がん、腺がん、汗腺がん、皮脂腺がん、乳頭がん、乳頭腺がん、嚢胞腺がん、髄様がん、気管支原性肺がん、腎細胞がん、肝腫瘍、胆管がん、絨毛がん、セミノーマ、胚性癌瘍、ウィルムス腫瘍、子宮頸がん、精巣腫瘍、肺がん、小細胞肺がん、膀胱がん、上皮がん、神経膠瘍、星状細胞瘍、髄芽瘍、頭蓋咽頭瘍、上衣瘍、松果体瘍、血管芽瘍、聴神経腫瘍、乏突起神経膠瘍、髄膜腫、メラノーマ、神経芽細胞腫及び網膜芽細胞腫からなる群から選択される。
【0062】
検討される修飾NK又はNK-92細胞は、絶対数の細胞により個体に投与され得る。例えば、個体に、約1000細胞/注射~最大約100億細胞/注射、例えば、1注射あたり、約、少なくとも約、又は最大で約1×10、1×10、5×10、1×10、5×10、1×10、5×10、1×10、5×10、1×10、5×10(など)、又はそれら数のいずれか2つの間の任意の範囲(終点含む)での修飾NK-92細胞が投与され得る。他の実施形態では、修飾NK-92細胞は、相対数の細胞により個体に投与され得、例えば、前記個体に、約1000細胞~最大約100億細胞/個体のkg、例えば、個体のkgあたり、約、少なくとも約、又は最大で約1×10、1×10、5×10、1×10、5×10、1×10、5×10、1×10、5×10、1×10、5×10(など)、又はそれらの数のいずれか2つの間の任意の範囲(終点含む)での修飾NK-92細胞が投与され得る。他の実施形態では、総用量は、体表面積のm、例えば、約1×1011/m、1×1010/m、1×10/m、1×10/m、1×10/m、又はそれらの数のいずれか2つの間の任意の範囲(終点含む)により計算されてもよい。個体の平均は、約1.6m~約1.8mである。好ましい実施形態では、約10億~約30億の間のNK-92細胞が患者に投与される。
【0063】
修飾NK-92細胞、また任意選択的には他の抗がん剤若しくは抗ウイルス剤は、がんを有する患者若しくはウイルスに感染した患者に1回投与され得るか、又は複数回、例えば、治療中、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22時間若しくは23時間ごとに1回、又は1、2、3、4、5、6日若しくは7日ごとに1回、又は1、2、3、4、5、6、7、8、9、10週若しくはそれ以上の週ごとに1回、又はそれらの数のいずれか2つの間の任意の範囲(終点含む)、投与され得る。
【0064】
一実施形態では、修飾NK-92細胞が自殺遺伝子を発現する場合、修飾NK-92細胞死を誘発するための薬剤が患者に投与される。一実施形態では、該薬剤は、NK-92細胞が標的細胞を殺滅するのに十分である修飾NK-92細胞の投与後のある時点に投与される。
【0065】
一実施形態では、修飾NK-92細胞は、患者への投与前に照射される。NK-92細胞の照射は、例えば米国特許第8,034,332号明細書(その全体が参照により本明細書中に援用される)に記載されている。一実施形態では、自殺遺伝子を発現するように改変されていない修飾NK-92細胞は、照射される。
【0066】
さらに、検討される治療がまた、他の免疫治療用実体の投与を含むことになり、特に好ましい免疫治療用実体が、ウイルスがんワクチン(例えば、がん特異抗原をコードするアデノウイルスベクター)、細菌がんワクチン(例えば、1つ以上のがん特異抗原を発現する高温性でない大腸菌(E.coli))、酵母がんワクチン、N-803(ALT-803,ALTOR Biosciencesとしても公知)、抗体(例えば、腫瘍関連抗原又は患者特異的腫瘍ネオ抗原に結合する)、幹細胞移植(例えば、同種又は自家)、及び腫瘍標的サイトカイン(例えば、NHS-IL12、腫瘍標的化抗体又はその断片に共役されたIL-12)を含むことは理解されるべきである。
【実施例
【0067】
以下の実施例は、あくまで例示を目的とし、特許請求される発明を限定するものとして解釈されるべきではない。当業者にとって利用可能な種々の代替的技術及び方法であれば、同様に意図される発明を十分に実施することを可能にするであろう。
【0068】
実施例1: CAR mRNAの調製
図1に模式的に表されるCD19CARの各変異体をコードするDNA配列を、インシリコで設計し、新規に合成し、mRNA発現ベクターpXT7(GeneArt,Life Technologies)にサブクローン化した。10マイクログラム(μg)のプラスミドを、製造業者の使用説明書に従い、SalI制限酵素(New England Biolabs)での消化により直線化し、QIAgenゲル精製キット(QIAgen)を用いて精製した。
【0069】
直線化DNAは、製造業者の使用説明書に従い、T7 mMessage mMachine Ultra転写キット(ThermoFisher Scientific,Waltham,MA)を用いるmRNAのインビトロ合成用の鋳型として用いた。このキットは、mRNAのポリAテールの長さを増加させ、それによりインビボで安定性を増強するポリアデニル化伸長ステップを含む。
【0070】
6つのCD19-CAR変異体におけるmRNAを調製するとともに、陰性対照として緑色蛍光タンパク質(GFP)mRNAを調製した。CD19-CARポリペプチド変異体のすべてが、抗CD19 scFv領域(αCD19-scFv)(配列番号4)を含む細胞外ドメイン、CD8(配列番号6)からのヒンジ領域、及びCD28(配列番号7)からの膜貫通ドメインを有した。CD19CARの細胞内ドメインは以下の通りであり、図1に模式的に示した:CAR 3zが、CD3ζシグナル伝達ドメインを有し;CAR FcReが、FcεRIγシグナル伝達ドメイン(配列番号1)を有し;CAR 28_3zが、CD3ζシグナル伝達ドメインに融合されたCD28シグナル伝達ドメインを有し;CAR BB_3zが、CD3ζシグナル伝達ドメインに融合された4-1BBシグナル伝達ドメインを有し;CAR 28_BB_3zが、CD3ζシグナル伝達ドメインに融合された4-1BBシグナル伝達ドメインに融合されたCD28シグナル伝達ドメインを有し;CAR BB_3z_28が、CD28シグナル伝達ドメインに融合されたCD3ζシグナル伝達ドメインに融合された4-1BBシグナル伝達ドメインを有した。
【0071】
より詳細には、図1のCD3ζシグナル伝達ドメインを有する第1世代CARは、配列番号13(ヒト)及び配列番号21(マウス)の核酸配列を有し、それは配列番号22のアミノ酸配列に翻訳した。FcεRIγシグナル伝達ドメインを有する第1世代CARは、配列番号5の核酸配列及び配列番号3のアミノ酸配列を有した。CD28/CD3ζシグナル伝達ドメインを有する第2世代CARは、配列番号14の核酸配列を有し、4-1BB/CD3ζシグナル伝達ドメインを有する第2世代CARは、配列番号15の核酸配列を有した。CD28/4-1BB/CD3ζシグナル伝達ドメインを有する第3世代CARは、配列番号16の核酸配列を有し、4-1BB/CD3ζ/CD28シグナル伝達ドメインを有する第3世代CARは、配列番号17の核酸配列を有した。
【0072】
FcεRIγシグナル伝達ドメインを有するさらなる第1世代CARは、以下により詳述されるように調製した:ここでヒンジ領域は、CD8ヒンジ(配列番号6又は配列番号45(ヒト)、配列番号46によってコードされる)であり、膜貫通ドメインは、CD28膜貫通ドメイン(配列番号7)であり、またシグナル伝達ドメインは、FcεRIγシグナル伝達ドメイン(配列番号1、核酸配列番号2によってコードされる)であった。
【0073】
次に、次のように選択したscFv部分を用いて、種々の腫瘍関連標的:CD19(コドン最適化された配列番号23によってコードされる、配列番号4又は配列番号24の抗CD19 scFvを用いる)、CD20(コドン最適化された配列番号25によってコードされる、配列番号26の抗CD20 scFvを用いる)、CD33(コドン最適化された配列番号27によってコードされる、配列番号28の抗CD33 scFvを用いる)、CSPG4(コドン最適化された配列番号29によってコードされる、配列番号30の抗CSPG4 scFvを用いる)、EGFR(コドン最適化された配列番号31によってコードされる、配列番号32の抗EGFR scFvを用いる)、IGF1R(コドン最適化された配列番号33によってコードされる、配列番号34の抗IGF1R scFvを用いる)、CD30(コドン最適化された配列番号35によってコードされる、配列番号36の抗CD30 scFvを用いる)、HER2/neu(コドン最適化された配列番号37によってコードされる、配列番号38の抗HER2/neu scFvを用いる)、GD2(コドン最適化された配列番号39又は配列番号41によってコードされる、配列番号40又は配列番号42の抗GD2 scFvを用いる)、CD123(コドン最適化された配列番号48によってコードされる、配列番号49の抗CD123 scFvを用いる)、PD-L1(コドン最適化された配列番号50によってコードされる、配列番号51の抗PD-L1 scFvを用いる)、B7-H4(コドン最適化された配列番号52によってコードされる、配列番号53の抗B7-H4 scFvを用いる)、及びFAP(コドン最適化された配列番号56又は配列番号57によってコードされる、配列番号58又は配列番号59の抗FAP scFvを用いる)に対する標的特異性を与えた(すべてが図1のCAR FcReに示すような連続的配置である)。
【0074】
同様に、(すべてが図1のCAR FcReに示すような連続的配置で)次のように選択したscFv部分を用いて、種々のウイルス関連標的:HIV gp120(コドン最適化された配列番号54によってコードされる、配列番号55の抗gp120 scFvを用いる)に対する標的特異性を与えた。
【0075】
上で調製したすべての構築物がNK-92細胞内で十分に発現され、代表的結果は、そのような修飾NK-92細胞の生理学的活性について示す。
【0076】
実施例2:CD19CAR mRNAのNK-92細胞への電気穿孔
NK-92細胞を、5%ヒトAB血清(Valley Biomedical,Winchester,VA)及び500IU/mLのIL-2(Prospec,Rehovot,Israel)を添加したX-Vivo10培地(Lonza,Basel,Switzerland)中で増殖させた。細胞は、NK-92細胞用の製造業者のパラメータ(1250V、10ミリ秒、3パルス)に従うNeon(商標)電気穿孔装置(Life Technologies,Carlsbad,CA)を用いて、また体積100μl内、5μgのmRNA/10細胞を用いて、mRNAで電気穿孔した。電気穿孔細胞を(上と同じ)培地中で20時間(h)維持した。
【0077】
NK-92細胞表面上でのCD19CARの発現を、eF660(eBioscience,San Diego,CA)で標識した抗scFv抗体を用いてのフローサイトメトリーにより測定した。図2Aは、NK-92細胞集団内での指定のCD19CARの%発現を示す。図2Bは、指定のCD19CARを電気穿孔した細胞の蛍光強度(MFI、-バックグラウンド)中央値を示す。図2A及び2Bから解釈できる通り、CAR FcReは、意外にも、細胞表面でCD19CARを発現する細胞の最高の百分率(75.2%)とともに最高のMFI(組換え細胞上で発現したCARの量)を有し、28_3z(61.7%)がそれに続いた。
【0078】
実施例3:がん細胞株に対するCD19CARを発現するNK-92細胞の細胞傷害性
インビトロでの標的がん細胞に対するCARを発現するNK-92細胞の有効性を、フローベースのインビトロ細胞傷害性アッセイを用いて、電気穿孔の20時間後に試験した。エフェクター細胞(CD19CAR又はGFPを発現するNK-92)を、PKHGL67標識(Sigma-Aldrich,St.Louis,MO)標的細胞(K562;又はSUPB15、B-ALL、CD19)と、96ウェルプレート内、異なるエフェクター対標的比(5:1~0.3:1)で混合し、37℃で4時間インキュベートした。ヨウ化プロピジウム(PI)(Sigma Aldrich,St.Louis,MO)を細胞に添加し、2時間以内にAttuneフローサイトメーター(Life Technologies,Carlsbad,CA)を用いてサンプルを分析した。細胞傷害性は、PKH陽性標的集団内でのPI陽性細胞の%により判定した。
【0079】
代表的結果を図3A及び3Bに提示する。図3Aからわかるように、NK-92細胞は、CD19CARの発現と無関係に、K562細胞を殺滅する際に有効である。したがって、組換え細胞が細胞傷害性を失うことがないことは注目されるべきである。それに対し、GFPを発現するNK-92細胞は、がん細胞株SUP-B15を殺滅する際、非効率的であった。SUP-B15は、CD19陽性であり、且つ細胞傷害性に対して抵抗性を示す急性リンパ芽球性白血病細胞株である。図3Bから容易に解釈できるように、試験対象のいずれかのCD19CARの発現により、対照(GFPを発現するNK-92細胞)と比べて、SUP-B15細胞株に対する増強された細胞傷害活性がもたらされた。意外にも、CAR FcReは、第2世代及び第3世代CARに対して類似又は優位の細胞傷害性を示した。かかる知見は、FcεRIγシグナル伝達ドメインがあくまで単一の単位として存在し、他のシグナル伝達ドメインと組み合わせられなかったことから特に想定外である。かかる配置は、CAR T細胞内で用いられるとき、望ましい標的化細胞傷害性をもたらさなかった。有利には、トリシストロン性mRNA構築物は、優れた機能活性を有する、実質的量の所望されるCARを生成することができた。かかる構築物は、CARの発現が一過性である必要がある場合、特に有利である。
【0080】
脱顆粒は、NK-92細胞における分泌性顆粒からの溶解性タンパク質(例えば、パーフォリン及びグランザイム)の放出に要求される決定的ステップである。脱顆粒は、NK-92による標的細胞の認識により開始される。構築物における脱顆粒を試験するため、96ウェルプレート内で、エフェクター細胞(NK-92)を非標識標的細胞(SUP-B15)と異なるエフェクター対標的比(5:1~0.3:1)で混合し、抗CD107a(FITCコンジュゲート、BD Pharmingen,San Jose,CA)を各ウェルに添加した。プレートをCOインキュベーター内、37℃でインキュベートし、1時間後、モネンシン(ゴルジ停止)をウェルに添加した。プレートを37℃でさらに3時間インキュベートし、サンプルをフローサイトメトリー(Attune,Life Technologies,Carlsbad,CA)により分析した。エフェクター+標的サンプルにおける%CD107a陽性に対してNK-92細胞単独における%CD107a陽性を減算することにより脱顆粒の百分率を判定した、代表的な結果を図4に提示する。
【0081】
実施例4:CD19t-haNK細胞はラージ腫瘍異種移植片モデルにおける動物生存率を有意に改善した。
CD19t-haNK細胞(クローン19.6)は、Fcε細胞内シグナル伝達ドメインを含む。CD19t-haNK細胞を、5%熱不活性化ヒトAB血清を添加したX-VIVO(商標)10培地で培養した。
【0082】
試験動物:動物株/種:NOD.Cg-PrkdcscidIl2rgtm1Wjl/SzJ(NSG)マウス;齢:(隔離後)試験開始時9~10週;性別:雌;体重:試験開始時に20~27グラム。動物の数:IV腫瘍モデル用に20匹;SC腫瘍モデル用に12匹。供給業者:The Jackson Laboratory(610 Main Street Bar Harbor,ME04609US)。
【0083】
ラージ腫瘍モデル:ラージがん細胞株:ラージ細胞は、ATCC(カタログ番号CCL-86TM;ロット番号61723871)から最初に購入し、次に投与のため、増やして調製した。
【0084】
細胞培地:ペニシリン(100U/mL)、ストレプトマイシン(100μg/mL)を有する10%ウシ胎仔血清が添加されたATCC配合RPMI-1640培地。
【0085】
細胞収集:対数増殖期のラージ細胞(継代12)を遠心分離により収集した。細胞を洗浄し、IV接種用で5×10生細胞/mLの濃度で血清不含培地に、またSC注入用で2.5×10生細胞/mLの濃度で培地/マトリゲル(1:1 v/v)に再懸濁した。動物注射前、細胞を氷上で貯蔵した。インビボ試験で用いた細胞は、96%の生存度を有した。
【0086】
ラージ細胞接種:ラージIVモデル。動物20匹に、ラージ細胞懸濁液0.2mLを、27ゲージニードルで側方尾静脈を介してIV注射した(1×10個の細胞の接種)。ラージSCモデル。動物12匹に、ラージ細胞懸濁液0.1mLを、25ゲージニードルで両側腹部にSC注入した(2.5×10個の細胞の接種)。
【0087】
他の試薬:RPMI-1640培地、X-VIVO(商標)10培地;熱不活性化ヒト男性AB血清(AccessCell Culture(Access Biologicals LLC);ウシ胎仔血清(FBS);Pen Strepグルタミン(100X)(Life Technologies、カタログ番号10378、ロット番号1881463、有効期限:2018年5月);マトリゲル基底膜マトリックス;プルロニック(登録商標)F-68、10%溶液。
【0088】
実験手順
IVラージモデル-無作為化:1日目と規定した、がん細胞接種後24時間以内に、動物20匹の体重に基づく10匹の2群への疑似無作為化を行い、群間で類似した平均体重を得た。
【0089】
被験物質投与:2、5、8、10、12、及び17日目、対数増殖期に増殖されたCD19t-haNK細胞を遠心分離により収集し、注射体積が200μLの1×10細胞/マウスの用量の、IV投与用に5×10細胞/mLの濃度で、X-VIVO(商標)10中で配合した。群A中の動物に媒体対照を投与した一方で、群C中の動物にCD19t-haNK細胞を投与した。
【0090】
体重:動物は、腫瘍細胞注射前と週2回、秤量した。
【0091】
臨床観察:動物は、死亡率/罹患率(G0~G4)及び毒性の臨床徴候について毎日観察した。麻痺又は瀕死動物は、安楽死させた。
【0092】
安楽死:動物は、CO吸入とその後の頸部脱臼により安楽死させた。死亡率事象(安楽死又は自発性)は、死亡記録に記録し(付録6)、集計し、生存曲線を計算した。
【0093】
SCラージモデル-腫瘍体積測定:SC腫瘍注入後、少なくとも週2回、腫瘍の樹立について動物を試験した。腫瘍が触知可能になった時、腫瘍体積(TV)を携帯式のデジタルノギスで週1~2回測定し、式:TV=長さ×幅2/2[長さは腫瘍の最大直径であり、幅は腫瘍の最小直径である]を用いて計算した。
【0094】
無作為化:平均腫瘍体積が注射可能サイズに達した時(この場合には195mm;移植後24日)、腫瘍保有動物12匹に対して、6匹の2群への疑似無作為化を行い、群間で類似した腫瘍体積を得た。これを0日目と規定した。
【0095】
被験物質投与:1、4、7、9、11、及び13日目、対数増殖期に増殖されたCD19t-haNK細胞を遠心分離により収集し、1000cGyのγ照射を施し、注射体積が200μLの1×10細胞/マウスの用量の、IV投与用に5×10細胞/mLの濃度で、X-VIVO(商標)10培地中で配合した。表1に示す通り、群D中の動物に媒体対照を投与した一方で、群F中の動物にCD19t-haNK細胞を投与した。
【0096】
体重。動物は、腫瘍細胞注射前と次いで週2回、秤量した。
【0097】
臨床観察。動物は、死亡率/罹患率(G0~G4)及び毒性の臨床徴候(T1~T12)について毎日観察した。麻痺又は瀕死動物は、安楽死させた。
【0098】
エンドポイント及び安楽死。瀕死動物が罹患状態を示すとすぐに安楽死させた一方で、生存動物は、組織収集のため、予定通り、安楽死させた。具体的には、13日目、最終用量での被験物質投与から6時間後、生存動物の半数(最大でマウス3匹/群)を安楽死させた。15日目、最終投与から48時間後、動物の残りを安楽死させた。
【0099】
剖検及び腫瘍及び組織収集。終了時、剖検を実施し、可視の肉眼的病変を有する臓器を収集し、10%ホルマリンで固定し、病理学的受託検査(Seventh Wave Laboratories)に提出し、腫瘍/転移性疾患負荷の組織学的評価を行った。
【0100】
【表1】
【0101】
データ分析
腫瘍体積の計算:腫瘍体積=長さ×幅2/2(長さ及び幅は各々、腫瘍の最大及び最小直径である);腫瘍増殖阻害(TGI)の計算:TGI=(TC-Tt)/ΔTC×100%(式中、TC及びTtは各々、試験終了時の対照群及び治療群における平均腫瘍体積であり、ΔTCは、対照群における平均腫瘍体積の変化である)。
【0102】
統計分析-腫瘍増殖曲線:腫瘍増殖曲線は、二元分散分析、次いでチューキー検定による多重比較により分析した。生存曲線:生存曲線は、ログランク(マンテル・コックス)検定により分析した。
【0103】
肝臓転移評価:個別日についての肝転移性疾患負荷における差異を不対両側t-検定により分析した。統計学的有意性:P<0.05は、統計学的に有意であるとみなす。すべての統計学的分析は、GraphPad Prismバージョン7を用いて実施した。
【0104】
結果
IVラージモデル:IV腫瘍モデルにおける主要な読み取りは、動物の生存であった。動物が、疾患に関連した罹患及び/又は麻痺に起因し、死亡が判明するか又は安楽死したとき、死亡事象を計数した。図5に示すように、媒体対照と比較し、CD19t-haNK細胞治療が、動物の生存率を有意に改善することができ、媒体対照群における21.5日に対して27日の生存中央値が得られた(P<0.0001)。
【0105】
試験全体を通じて、動物の体重変化もまた監視した。図6に示すように、CD19t-haNK治療動物は、最初の治療開始時、中等度(10%未満)及び短期の体重減少を示したが、それはNKのIV注入を受けた動物において珍しい現象ではなく、CD19t-haNK細胞に特異的ではない(参照試験:LABC-TX01701)。それらの体重は、治療の第1週後で、疾患進行に起因して再び減少する前、回復することができた。
【0106】
SCラージモデル:SC腫瘍モデルにおける主要な読み取りは、腫瘍増殖であった。図7に示すように、7日目以降、CD19thaNK細胞は、媒体対照群と比べて、明確且つ統計学的に有意な腫瘍増殖阻害を示し、試験終了時(13日目)、49%のTGIであった。
【0107】
さらに、ラージがたとえSC接種時としても侵襲性リンパ腫モデルであるとき、がん細胞は、最終的に動物の罹患及び/又は死亡をもたらす転移の複数部位を播種し、発生させることができた。媒体群において、11~13日目の間、瀕死状態であるが故に安楽死したのは全部で動物3匹(50%)であった。それに対し、CD19t-haNK細胞群において、予定されない死亡事象は生じなかった(表3)。
【0108】
さらに、剖検中、CD19t-haNK治療動物において、肝転移の定性的減少が認められた(図8A)。疾患負荷の半定量評価は、代表的に採取したH&E染色肝切片に対する病理学的受託検査(Seventh Wave Laboratories)により実施した。図8B及び表4にまとめたように、試験が進行するにつれて、疾患負荷が増加する明確な傾向が認められた。CD19t-haNK治療動物の肝臓は、媒体対照と比べて著しく低い百分率のがん浸潤領域を示した。対照群における少ないサンプル数及び予定されない早期死亡数に起因し、統計分析は、13日目のデータに対してのみ実施できた。この分析は、疾患負荷における有意差を示し、浸潤の平均が、対照群における30%に対してCD19t-haNK治療動物において10%であった。
【0109】
試験全体を通じて体重変化を監視し、図9から解釈できるように、IVラージモデルと同様、治療計画の初期において、CD19t-haNK治療動物は、中等度(10%未満)及び一過性の体重減少を示した。
【0110】
【表2】
【0111】
【表3】
【0112】
反復IV投与計画におけるCD19t-haNK細胞の抗腫瘍有効性を評価するため、IV及びSC腫瘍接種を伴うラージ異種移植片モデルの2つのバリエーションを各々、この試験において利用した。
【0113】
IV腫瘍モデルでは、CD19t-haNK細胞により、媒体対照群と比べて、動物の生存を有意に改善し、生存中央値を5.5日延長すること(26%の増加)ができた。SC腫瘍モデルでは、CD19t-haNK細胞により、腫瘍増殖を有意に抑制し、試験の終了時に49%のTGIをもたらすことができた。さらに、CD19t-haNK治療により、動物の罹患/死亡事象の数を低減し(対照群における3/6に対して、CD19t-haNK治療動物では0/6)、SCラージ腫瘍保有動物の肝臓における転移性疾患負荷を著しく減少させることができた。
【0114】
上のデータからわかるように、ラージ異種移植片モデルの両方のバリエーションにおいて、CD19t-haNK細胞は、媒体対照と比べて有意な治療効果を示した。
【0115】
実施例5.CD19-CAR-NK-92細胞を用いたL1210腫瘍を有するマウスの治療は生存を増強し、治療に完全奏効したマウスは、再負荷時、L1210腫瘍同種移植片を拒絶した。
実験設計:6~8週齢の雄DBA/2Jマウス30匹(Jackson Laboratories)を0日目、無作為化後に登録した。すべての動物は、標準環境条件下に収容し、照射済み齧歯類固形飼料LabDiet 5053上で維持し、滅菌水を自由に与えた。到着後、動物を耳パンチにより同定し、10匹をケージに収容し、試験開始前の最低3日間、その場所に順応させた。順応後、各マウスの注射領域を剪毛し、滅菌EtOH塗布で洗浄した。PR0日目(0日目、無作為化前)、腫瘍細胞注射のため、動物をイソフルランで麻酔した。PR0日目、すべての動物に、2×10個のL1210-Luc腫瘍細胞を、体積0.1mLの無血清DMEMで、右側腹部に皮下(s.c.)注射した。PR7日目から、すべての動物において、腫瘍をデジタルノギスで毎日測定した。約50~150mmの腫瘍体積が測定され、且つ約100mmの平均腫瘍体積が測定されたPR7日目頃、試験への登録用に約100mmに最も近い腫瘍を有する動物20匹を選択し;これらの動物を、動物10匹から各々構成される2群に無作為化した。無作為化日は、試験の0日目と考え、治療の実施はこの日に開始した。試験に登録しなかった動物は、CO過剰投与により直ちに安楽死させた。群1中の動物に、媒体(無血清DMEM)を50μlの腫瘍内(i.t.)注射として投与した。群2中の動物に、2×10個のmCD19-CAR-aNK細胞を50μlの体積でi.t.投与した。試験の0、2及び4日目、同一の治療を施した。
【0116】
毎日、動物を秤量し、一般健康について監視した。無作為化後、各週3回(3回/週)、腫瘍をデジタルノギスで測定した。腫瘍>2500mm、即ち潰瘍化している腫瘍;初期体重(0日目)の>30%を失った腫瘍を有するか;又は瀕死、苦悩若しくは麻痺状態であることが判明したいずれかの動物は、CO過剰投与により安楽死させ、死亡/屠殺の原因を記録した。30日目、完全奏効する動物及び群4を含む追加の約10週齢のナイーブな雄DBA/2Jマウス5匹(Jackson Laboratories;Barrier)に、再負荷腫瘍細胞接種として2×10個のL1210-Luc腫瘍細胞を、体積0.1mLの無血清DMEMで左側腹部に皮下(s.c.)投与した。すべての動物に対して、秤量及び監視を毎日継続し、腫瘍測定を3回/週で60日目まで継続した。
【0117】
結果
ウェルフェア閾値(Welfare Threshold)までの動物の生存-初期腫瘍負荷:動物は、生存について毎日監視した。それら初期体重の30%超の減少、2500mmを超える腫瘍、食物/水を得ることができないこと、又は瀕死であることの判明を含む、動物の健康及びウェルフェア閾値に応じて安楽死が求められる動物を生存分析に含めた。腫瘍の潰瘍化に応じて安楽死が求められる動物は、生存分析に含めなかった。
【0118】
動物のウェルフェア閾値までの経時的な累積的生存を図10に示す。L1210は、極めて迅速に増殖している侵襲性腫瘍細胞株であり、腫瘍負荷後23日より長く生存した媒体処置対照動物は0%であった。それに対し、CD19-CAR-aNK細胞での治療により、媒体での処置と比べて生存が増強された。当然ながら、CD19-CAR-aNK細胞で治療した動物の25%(2/8)が、腫瘍移植片の負荷から61日目の試験終了にかけて生存した。
【0119】
試験治療によってもたらされた、観察された生存増強の統計学的有意性を、ログランク(マンテル・コックス)及びゲーハン・ブレスロウ・ウィルコクソン検定により評価した。mCD19-CAR-aNK細胞での治療により、統計学的に有意な生存の増強が得られた(p=0.05(マンテル・コックス);p=0.04(ゲーハン・ブレスロウ・ウィルコクソン)。これらの結果は、マウスリンパ球性白血病のこの前臨床皮下モデルにおいて、CD19-CAR-aNKでの治療により、ウェルフェア閾値に対して媒体と比べて統計学的に有意な生存の改善が得られたことを示す。
【0120】
完全奏効者への腫瘍の再負荷:33日目、群2からの完全奏効動物2匹に、年齢を適合させたナイーブ動物5匹とともに、第2の接種物を2×10のL1210-Luc細胞で負荷/再負荷し、逆(左)側腹部に注射した(原発性腫瘍は右側腹部に播種した)。動物を生存について毎日監視した。それら初期体重の30%超の減少、2500mmを超える腫瘍、食物/水を得ることができないこと、又は瀕死であることの判明を含む、動物の健康及びウェルフェア閾値に応じて安楽死が求められる動物を生存分析に含めた。腫瘍の潰瘍化に応じて安楽死が求められる動物は、生存分析に含めなかった。
【0121】
生存分析に適したナイーブ動物のすべて(5中5)が、52日目までに腫瘍体積に応じて安楽死させる必要であったが;それに対し、200万個のCD19-CAR-aNK(N=2)細胞で予め治療したすべての完全奏効動物が、試験終了(62日目)にかけて生存した。試験治療によってもたらされた、観察された生存増強の統計学的有意性を、ログランク(マンテル・コックス)及びゲーハン・ブレスロウ・ウィルコクソン検定により評価したが、生存における増強は、小さいサンプルサイズに起因する可能性が最も高いが、統計学的に識別可能でなかった。
【0122】
腫瘍は、再負荷段階中、毎週3回(3回/週)測定し続けた。負荷/再負荷用L1210-Luc細胞の投与から対照群の生存が0%(52日目)までの各群における平均腫瘍体積+平均値の標準誤差を図11に示す。
【0123】
ナイーブ動物の腫瘍は、投与の約7日後(試験40日目)、最初に検出可能であり、着実且つ急速に増加した。それに対し、200万個のCD19-CAR-aNK細胞で予め治療した完全奏効動物への再負荷後、再負荷段階の全過程(33~61日目)にわたる任意の時点で、腫瘍なしが検出された。
【0124】
本実施例で提示されるデータは、200万個のCD19-CAR-aNK細胞で予め治療した完全奏効動物がL1210腫瘍細胞に対して有効な免疫応答を発現させ得ることを示唆する。
【0125】
実施例6:A20腫瘍を有するマウスのmCD19-CAR-NK-92細胞での治療により生存が増強され、治療に完全奏効したマウスは、再負荷されるとき、A20腫瘍同種移植片を拒絶した。
実験設計
パートA:パートAに役立てるため、5~7週齢BALB/cマウス40匹(雄20匹及び雌20匹)がTaconic Biosciencesから供与された。予備無作為化(PR)の0日目、動物に対し、体積100μLの血清不含培地中、2.5×10個のA20マウスのリンパ腫細胞を、左側腹部に皮下(s.c.)注射した。PR7日目から毎日、腫瘍を測定した。腫瘍細胞移植の10日後(PR10日目;0日目)、マウスを治療群に無作為化し、各群が類似の体積及び範囲の腫瘍を有する動物を含むようにした。無作為化日を試験の0日目とみなした。腫瘍は、26日目のパートAの終了まで、デジタルノギスにより各週3回(3回/週)測定し、腫瘍増殖を監視した。
【0126】
0日目、3日目、及び5日目、マウスに対し、予め確立されたi.t.手順(実験手順を参照)に従い、体積50μlの血清不含培地中、試験細胞又は媒体を、各動物の腫瘤に腫瘍内(i.t.)注射した。つまり、動物に、媒体のみを投与したか、又は5×10個のmCD19-CAR-NK-92を投与した。26日目、体積>40mmの腫瘍を発現しない動物は、試験に登録せず、CO窒息により安楽死させ;治療に対して完全寛解(CR;数日にわたり、腫瘍>40mmの消失により検出不能(0mm)であり、26日目より以前に再発がない)を示す登録済み動物を、パートBに登録した。
【0127】
パートB:パートBは、26日目に開始した。腫瘍を有しないパートAからの動物を、ナイーブ動物12匹(雄6匹及び雌6匹)とともにパートBに登録した。パートBの全動物に対し、2.5×10個のA20細胞を右側腹部に投与した。腫瘍は、週2回測定した。動物は、57日目に安楽死させた。
【0128】
結果:パートA-動物の生存:動物は、一般健康及び生存について毎日監視した。それら初期体重の30%超の減少、1500mmを超える腫瘍、食物/水を得ることができないこと、又は瀕死であることの判明を含む、動物の健康及びウェルフェア閾値に応じて安楽死が求められる動物を生存分析に含めた。腫瘍の潰瘍化に応じて安楽死が求められる動物は、生存分析に含めなかった。この試験では、生存分析にて検討したすべての動物は、1500mmを超える腫瘍量に応じて安楽死させた。皮下腫瘍量閾値が任意のカットオフポイントを表すことから、この場合の「生存」の分析は、あくまで相対的腫瘍増殖の指標としてみなす必要がある。考えられるすべての動物における経時的な累積的生存を図12に示す。
【0129】
1、3、及び5日目、対照動物に媒体を腫瘍内(i.t.)投与し:26日目のパートAの終了まで生存したのは動物15匹中0匹(0%)であった。26日目にかけて、治療を受けた全動物において、動物における生存が増強され:動物18匹中9匹(50%)に500万個のmCD19-CAR-NK92細胞を投与した。すべての群を、ログランク(マンテル・コックス)検定により相互比較した。500万個のmCD19-CAR-NK92細胞を投与した動物において、媒体を投与した動物と比べて統計学的に有意な生存の増強が観察された(p=<0.0001)。これらの結果は、すべての治療により、26日目にかけて生存が、媒体での処置と比べて改善されたことを示唆する。
【0130】
パートB-完全奏効者への腫瘍の再負荷:治療に完全奏効した動物(0~26日目(パートA)の過程にわたる治療に応答する腫瘍>40mmを有し、26日目にかけて腫瘍体積が0.00mmと測定され、再増殖又は再発が生じなかった)に対し、27日目、血清不含RPMI-1640培地0.1mL中、2.5×10個のA20腫瘍細胞を、第2の皮下接種で側腹部(第1の移植片から逆側)に再負荷し;試験の再負荷部分をパートBと名づけた。ナイーブ対照として役立てるため、さらなる動物12匹を試験のパートBに登録し;パートAマウスと同じ時期及びベンダーでの供与を受けた年齢を適合させたBALB/cマウスの雄6匹及び雌6匹に、27日目、2.5×10個のA20腫瘍細胞を投与した。腫瘍は、57日目にかけて、全動物に対して3回/週で測定した。パートAの治療群及びナイーブ対照各々の平均腫瘍体積+平均値の標準誤差を図13に示す。ナイーブ動物への細胞接種由来の腫瘍は、予想通り、着実に増殖した一方;再負荷腫瘍細胞の完全奏効者動物への接種により、生存可能な腫瘍(>40mm)がもたらされなかった。
【0131】
要するに、本実施例に提示するデータは、ナイーブマウスと対照的に、治療に完全奏効する予め治療したマウスが、治療と無関係に再負荷として適用されたA20腫瘍同種移植片を拒絶することができたことを示し、且つこれらの動物が腫瘍抗原に対する記憶応答を発現したことを示唆する。
【0132】
標的化CAR構築物及びそれに関連する機能的データについての以下の実施例は、トランスフェクト細胞が、直線化DNAをゲノムに組み込み、それにより特異的CARの非一過性発現のための手段を提供することを可能にする、直線化DNAのベクター構築物から得た。
【0133】
実施例7:FcεRIγシグナル伝達ドメインを有するHER2-CAR
本実施例において、発明者は、CD8ヒンジに共役され、次いでCD28膜貫通ドメインに共役され、FcεRIγシグナル伝達ドメインに共役された抗HER2 scFvを含む、FcεRIγシグナル伝達ドメインを有する第1世代CARを構築した。そのように構築したHER2-CARは、配列番号60の核酸配列を有した。
【0134】
そのように構築したHER2.CAR-t-haNK細胞のBT-474細胞に対する機能性を標準の細胞傷害性アッセイを用いて試験した、代表的結果を図14に示す。データから容易にわかるように、FcεRIγシグナル伝達ドメインを有するCARを発現するHER2.CAR-t-haNK細胞は、BT-474標的細胞に対して有意な細胞傷害性を示した。
【0135】
さらなる実験において、発明者は、図40に図示するように、HER2.CAR-t-haNK細胞におけるHER2.CARの発現を示した。HER2.CAR-t-haNK細胞の天然細胞傷害性を図41の結果に示す一方で、CAR媒介性細胞傷害性における結果を図42に示す。HER2.CAR-t-haNK細胞のADCCについての代表的データを図43のグラフに示す。
【0136】
実施例8:FcεRIγシグナル伝達ドメインを有するCD30-CAR
本実施例において、発明者は、CD8ヒンジに共役され、次いでCD28膜貫通ドメインに共役され、FcεRIγシグナル伝達ドメインに共役された抗CD30 scFvを含む、FcεRIγシグナル伝達ドメインを有する第1世代CARを構築した。そのように構築したCD30-CARは、配列番号61の核酸配列を有した。
【0137】
CD30-CARの発現を図50の結果にて示す一方で、組換え細胞の天然細胞傷害性についての結果を図51に示す。CAR媒介性細胞傷害性を図52の結果にて示した一方で、ADCCについての代表的結果を図53のデータにて示した。
【0138】
実施例9:FcεRIγシグナル伝達ドメインを有するEGFR-CAR
本実施例において、発明者は、CD8ヒンジに共役され、次いでCD28膜貫通ドメインに共役され、FcεRIγシグナル伝達ドメインに共役された抗EGFR scFvを含む、FcεRIγシグナル伝達ドメインを有する第1世代CARを構築した。そのように構築したEGFR-CARは、配列番号62の核酸配列を有した。
【0139】
そのように構築したEGFR.CAR-t-haNK細胞のA-549細胞に対する機能性を標準の細胞傷害性アッセイを用いて試験した、代表的結果を図17に示す。データから容易にわかるように、FcεRIγシグナル伝達ドメインを有するCARを発現するEGFR.CAR-t-haNK細胞は、A-549標的細胞に対して有意な細胞傷害性を示した。EGFR.CAR-t-haNK細胞におけるEGFR-CARの発現を図35に示す一方で、天然細胞傷害性の結果を図36に示す。EGFR.CAR-t-haNK細胞のCAR媒介性細胞傷害性における代表的結果を図37及び図38に示す一方で、EGFR.CAR-t-haNK細胞のADCCにおける結果を図39に示す。
【0140】
実施例10:FcεRIγシグナル伝達ドメインを有するIGF1R-CAR
本実施例において、発明者は、CD8ヒンジに共役され、次いでCD28膜貫通ドメインに共役され、FcεRIγシグナル伝達ドメインに共役された抗IGF1R scFvを含む、FcεRIγシグナル伝達ドメインを有する第1世代CARを構築した。そのように構築したIGF1R-CARは、配列番号63の核酸配列を有し、IGF1R-CAR、CD16、及びIL-2ERをコードするトリシストロン構築物は、配列番号76の核酸配列を有し、それについても図65に模式的に図示する。
【0141】
そのように構築したIGF1R.CAR-t-haNK細胞のMDA-MB-231細胞に対する機能性を第2世代CAR(CD28/CD3z)との比較とともに標準の細胞傷害性アッセイを用いて試験した、代表的結果を図22に示す。データから容易にわかるように、FcεRIγシグナル伝達ドメインを有するCARを発現するIGF1R.CAR-t-haNK細胞は、MDA-MB-231標的細胞に対して有意な標的特異的細胞傷害性を示し、それは第2世代CARの細胞傷害性と同等であった。
【0142】
実施例11:FcεRIγシグナル伝達ドメインを有するCD123-CAR
本実施例において、発明者は、CD8ヒンジに共役され、次いでCD28膜貫通ドメインに共役され、FcεRIγシグナル伝達ドメインに共役された抗CD123 scFvを含む、FcεRIγシグナル伝達ドメインを有する第1世代CARを構築した。そのように構築したCD123-CARは、配列番号64の核酸配列を有した。CD123-CARを発現する組換えNK細胞のCAR媒介性細胞傷害性についてのデータを図48に示し、図49は、CD123-CARを発現する組換えNK細胞のADCCについての代表的データを示す。
【0143】
実施例12:FcεRIγシグナル伝達ドメインを有するPD-L1-CAR
本実施例において、発明者は、CD8ヒンジに共役され、次いでCD28膜貫通ドメインに共役され、FcεRIγシグナル伝達ドメインに共役された抗PD-L1 scFvを含む、FcεRIγシグナル伝達ドメインを有する第1世代CARを構築した。そのように構築したPD-L1-CARは、配列番号65の核酸配列を有した。
【0144】
そのように構築したPD-L1.CAR-t-haNK細胞のSUP-B15.PD-L1細胞に対する機能性を標準の細胞傷害性アッセイを用いて試験した、代表的結果を図16に示す。データから容易にわかるように、FcεRIγシグナル伝達ドメインを有するCARを発現するPD-L1.CAR-t-haNK細胞は、SUP-B15.PD-L1標的細胞に対して有意な細胞傷害性を示した。
【0145】
そのように構築したPD-L1.CAR-t-haNK細胞のさらにU251細胞に対する機能性を標準の細胞傷害性アッセイを用いて試験した、代表的結果を非トランスフェクトhaNK細胞とともに図17に示す。データから容易にわかるように、FcεRIγシグナル伝達ドメインを有するCARを発現するPD-L1.CAR-t-haNK細胞は、U251標的細胞に対して有意な標的特異的細胞傷害性を示した一方で、haNK対照細胞は、同じU251細胞に対して実質的に細胞傷害性を有しなかった。
【0146】
PD-L1に関する標的細胞特異性についてのさらなる実験では、発明者は、一般的細胞傷害性に対応する対照としてのhaNK細胞とともに、PD-L1.CAR-t-haNK細胞を用いて、いくつかのPD-L1陽性腫瘍細胞株を試験した。図24から容易にわかるように、PD-L1.CAR-t-haNK細胞は、多種多様な腫瘍細胞(肺、乳、genitury腫瘍細胞、さらには頭頸部小細胞がん、脊索腫)を通じて優れた細胞傷害性を有した。特に、大部分(>85%)の細胞を死滅させるのに、PD-L1.CAR-t-haNK細胞では4時間未満を要した一方で、対照haNK細胞では12時間超を要した。
【0147】
図24は、様々な他の対照細胞(指定のようなhaNK細胞)と比べてのMDA-MB-231細胞に対するPD-L1.CAR-t-haNK細胞の細胞傷害性をさらに図示する。データから解釈できるように、PD-L1.thaNKによるMDA-MB-231の溶解が、5:1のE:T比で、セツキシマブにより改善され、haNK活性が、セツキシマブ及びa-PD-L1の添加により改善された。単純なPD-L1.thankは、haNK及びhaNK+セツキシマブと比べて改善された細胞傷害活性を有し、単純なPD-L1.thankの殺滅がhaNK+PD-L1抗体の場合と同等であったが、PD-L1.thank+セツキシマブは、haNK+セツキシマブ及びhaNK+PD-L1より優れていた。1:1のE:T比で、PD-L1.thaNK活性が、セツキシマブの存在下又は不在下で同じであり、PD-L1.thaNKは内因性よりも有意に優れ、hank.haNK活性によるADCC媒介性殺滅が、セツキシマブ及びa-PD-L1の添加により改善された。
【0148】
さらなる実験において、発明者は、図44に図示のように、PD-L1.CAR-t-haNK細胞におけるPD-L1.CARの発現を示した。PD-L1.CAR-t-haNK細胞の天然細胞傷害性を図45の結果に示す一方で、CAR媒介性細胞傷害性についての結果を図46に示す。PD-L1.CAR-t-haNK細胞のADCCについての代表的データを図47のグラフに示す。
【0149】
実施例13:FcεRIγシグナル伝達ドメインを有するCD33-CAR
本実施例において、発明者は、CD8ヒンジに共役され、次いでCD28膜貫通ドメインに共役され、FcεRIγシグナル伝達ドメインに共役された抗HER2 scFvを含む、FcεRIγシグナル伝達ドメインを有する第1世代CARを構築した。そのように構築したCD33.CARは、配列番号66の核酸配列を有した。
【0150】
そのように構築したCD33.CAR-t-haNK細胞のTHP-1細胞に対する機能性を標準の細胞傷害性アッセイを用いて試験した、代表的結果を図15に示す。データから容易にわかるように、FcεRIγシグナル伝達ドメインを有するCARを発現するCD33.CAR-t-haNK細胞は、THP-1標的細胞に対して有意な細胞傷害性を示した。NK-92細胞におけるCD33CARの強力な発現を表すさらなるデータを図31に提示する。K562細胞に対するCD33.CAR-t-haNK細胞の天然細胞傷害性を図32に示し、図33は、THP-1細胞に対するCAR媒介性細胞傷害性についての結果を表す。図34は、リツキシマブを伴う、SUP-B15 CD19KO/CD20に対するCD33.CAR-t-haNK細胞のADCCについてのさらなる結果を示す。
【0151】
実施例14:FcεRIγシグナル伝達ドメインを有するgp120-CAR
本実施例において、発明者は、CD8ヒンジに共役され、次いでCD28膜貫通ドメインに共役され、FcεRIγシグナル伝達ドメインに共役された抗gp120 scFvを含む、FcεRIγシグナル伝達ドメインを有する第1世代CARを構築した。そのように構築したgp120-CARは、配列番号67の核酸配列を有した。
【0152】
発明者は、図57からわかるように、そのように作製した細胞が、CD16及びgp120CARを有意量で発現することをさらに示した。図58に示される通り、陰性対照としての非組換えaNK細胞に対するGP120のgp120CARへの結合を示した。そのように作製した細胞の天然細胞傷害性を図59に示す一方で、対応するADCCデータを図60に示す。
【0153】
実施例15:FcεRIγシグナル伝達ドメインを有するB7-H4-CAR
本実施例において、発明者は、CD8ヒンジに共役され、次いでCD28膜貫通ドメインに共役され、FcεRIγシグナル伝達ドメインに共役された抗B7-H4 scFvを含む、FcεRIγシグナル伝達ドメインを有する第1世代CARを構築した。そのように構築したB7-H4-CARは、配列番号68の核酸配列を有した。
【0154】
実施例16:FcεRIγシグナル伝達ドメインを有するBCMA-CAR
本実施例において、発明者は、CD8ヒンジに共役され、次いでCD28膜貫通ドメインに共役され、FcεRIγシグナル伝達ドメインに共役された抗BCMA scFvを含む、FcεRIγシグナル伝達ドメインを有する第1世代CARを構築した。そのように構築したBCMA-CARは、配列番号69の核酸配列を有した。
【0155】
BCMAの発現は、図54の代表的結果に示すように確認され、図55に示される通り、標的細胞に対するCAR媒介性細胞傷害性が示された。同様に、図56における結果からわかるように、組換え細胞は、標的細胞に対する抗体としてリツキシマブを用いて、有意なADCCを有した。
【0156】
実施例17:FcεRIγシグナル伝達ドメインを有するGD2-CAR
本実施例において、発明者は、CD8ヒンジに共役され、次いでCD28膜貫通ドメインに共役され、FcεRIγシグナル伝達ドメインに共役された抗GD2 scFvを含む、FcεRIγシグナル伝達ドメインを有する第1世代CARを構築した。そのように構築したGD2-CARは、配列番号70の核酸配列を有した。
【0157】
実施例18:FcεRIγシグナル伝達ドメインを有するFAP-CAR
本実施例において、発明者は、CD8ヒンジに共役され、次いでCD28膜貫通ドメインに共役され、FcεRIγシグナル伝達ドメインに共役された抗FAP scFvを含む、FcεRIγシグナル伝達ドメインを有する第1世代CARを構築した。そのように構築したFAP-CARは、配列番号71の核酸配列を有した。FAP-CARの発現を図61のデータに示し、標的細胞に対するFAP.CARの細胞傷害性を図62の結果に示す。
【0158】
実施例19:FcεRIγシグナル伝達ドメインを有するCD20-CAR
本実施例において、発明者は、CD8ヒンジに共役され、次いでCD28膜貫通ドメインに共役され、FcεRIγシグナル伝達ドメインに共役された抗CD20 scFvを含む、FcεRIγシグナル伝達ドメインを有する第1世代CARを構築した。そのように構築したCD20-CARは、配列番号74の核酸配列を有した。
【0159】
NK-92細胞におけるCD20 CARの発現を図29の結果に示す。容易にわかるように、CD20.CARは、(上記のような直線化DNAからのCD16とともに)組換え細胞の大部分において強力に発現される。図30は、CD20標的細胞に対するCD20.CAR NK細胞の細胞傷害性についての代表的結果を表す。
【0160】
実施例20:FcεRIγシグナル伝達ドメインを有するCSPG-4-CAR
本実施例において、発明者は、CD8ヒンジに共役され、次いでCD28膜貫通ドメインに共役され、FcεRIγシグナル伝達ドメインに共役された抗CSPG-4 scFvを含む、FcεRIγシグナル伝達ドメインを有する第1世代CARを構築した。そのように構築したCSPG-4-CARは、配列番号75の核酸配列を有した。CSPG-4-CARの発現をFACS分析により確認した、代表的結果を図63に示す。図64の代表的データに示す通り、そのように構築した細胞もまた、有意な細胞傷害性を示した。
【0161】
実施例21:FcεRIγシグナル伝達ドメインを有するCD19-CAR
本実施例において、発明者は、CD8ヒンジに共役され、次いでCD28膜貫通ドメインに共役され、FcεRIγシグナル伝達ドメインに共役された抗CD19 scFvを含む、FcεRIγシグナル伝達ドメインを有する上記のような第1世代CARを用い、機能的試験のため、NK-92細胞に直線化DNAをトランスフェクトした。
【0162】
一般的細胞傷害性の判定のため、そのように構築したCD19.CAR-t-haNK細胞のK562細胞に対する機能性を標準の細胞傷害性アッセイを用いて試験した、代表的結果を図19に示す。容易にわかるように、FcεRIγシグナル伝達ドメインを有するCARを発現するCD19.CAR-t-haNK細胞は、K562標的細胞に対して有意な細胞傷害性を示した。さらなる実験セットでは、SUP-B15細胞を用いて、標的特異的細胞傷害性を、対照としてのaNK細胞と比べて判定した、代表的結果を図20に示す。再び、FcεRIγシグナル伝達ドメインを有するCARを発現するCD19.CAR-t-haNK細胞は、有意な標的特異的細胞傷害性を示した。さらに別の実験セットでは、SKBr3細胞を用いて、標的特異的ADCCを、抗体としてのハーセプチン及びリツキサンを用いて判定した、代表的結果を図21に示す。再び、FcεRIγシグナル伝達ドメインを有するCARを発現するCD19.CAR-t-haNK細胞は、有意な抗体及び標的特異的ADCCを示した。特に、組換えNK細胞の倍加時間は、aNK細胞と実質的に同じであった。
【0163】
図25は、対照に対する、NK-92細胞におけるCD16及びIL-2ERをコードするセグメントを含む直線化DNAからのCD19.CARの発現を例示的に図示する。図25からわかるように、該発現は、細胞の大部分にわたり非常に強力であった。CD19.CAR t-haNK細胞のK562細胞に対する天然細胞傷害性及びSUP-B15細胞に対する標的化細胞傷害性についてのさらなる結果を図26及び図27に表す。CD19.CAR t-haNK細胞のSUP-B15CD19KO/CD20細胞に対するADCCについての代表的なさらなる結果を図28に示す。
【0164】
実施例22:NSGマウスにおけるヒト異種移植片モデルでのPD-L1標的化t-haNK細胞の抗腫瘍活性
MDA-MB-231及びHCC827を、PD-L1陽性である検証された異種移植片モデルとして用いて、異なる製剤中でのPD-L1 t-haNK細胞の有効性、投与レベル、及び投与経路(IV及びIT)を評価した。
【0165】
動物:動物タイプ:NSGマウス(JAX)、雌、9~10週齢;MDA-MB-231モデルにおける動物の数:24(新鮮細胞)、及びHCC827モデルにおける動物の数:24(新鮮細胞)+6(凍結保存細胞)。腫瘍モデルでは、細胞株:MDA-MB-231(ヒト乳腺癌)及びHCC827(ヒト肺腺癌)を用い、接種経路は両側腹部の皮下であり、治療開始時の平均腫瘍量は、MDA-MB-231において約100mm、HCC827において約75~80mmであった。
【0166】
治療物質:新しく調製し、照射した、5E7細胞/mL又は2E7細胞/mLの濃度での抗PD-L1 t-haNK;媒体対照は、X-VIVO(商標)10培地であった;投与方法は、上記の通り、IV及びITであった。IV NK投与用の用量は、200μL中、1E7細胞/用量(新しく調整した細胞)、200μL中、4E6細胞/用量(凍結保存細胞)であった;IT NK投与(新鮮細胞のみ)用の用量は、50μL中、2.5E6細胞/腫瘍/用量であった。投与頻度は、4連続週にわたり週2回であり(M/Th又はT/F)、投与初日を1日目と定義した。
【0167】
MDA-MB-231用の試験設計を下の表4に示す(この試験は、群A、C及びDにおける一部の動物が>2000mmの組み合わせた腫瘍体積に達していた27日目に終了した)
【0168】
【表4】
【0169】
HCC827に対する試験設計を下の表5に示す(この試験は、生存動物を、目的の再設定の上、別の試験に移した29日目に終了した)。
【0170】
【表5】
【0171】
結果:新しく調製したPD-L1 t-haNK細胞(1E7細胞/用量)が、MDA-MB-231及びHCC827モデル双方において、顕著な長く持続する腫瘍増殖阻害をもたらした。
【0172】
MDA-MB-231:腫瘍停滞:16日目のTGI:84%(ピーク);26日目のTGI:79%(最終測定)。
【0173】
HCC827:腫瘍退縮:16日目のTGI:120%(ピーク);29日目のTGI:84%(試験終了)。
【0174】
凍結保存PD-L1 t-haNK細胞(4E6細胞/用量)もまた、X-VIVO(商標)10培地と比べて、腫瘍増殖の抑制における統計学的に有意な有効性を示した:26日目のTGI:60%(ピーク)、及び29日目のTGI:40%(試験終了)。
【0175】
新しく調製したPD-L1 t-haNK細胞(1E7細胞/用量)もまた、下の表6に示す通り、MDA-MB-231モデルにおいて転移性疾患負荷の有意な低減をもたらした。
【0176】
【表6】
【0177】
媒体中に存在した肝臓における可視小結節の数:29±9、PD-L1 t-haNK群中:0(不対両側t検定により、P=0.0116)。
【0178】
実施した実験に基づき、新しく調製したPD-L1 t-haNK細胞の、1E7細胞/用量の投与レベルでの週2回、4週間のIV投与により、試験対象の皮下異種移植片モデルの双方において顕著な抗腫瘍有効性が示され:治療により、MDA-MB-231腫瘍保有マウスにおいて腫瘍停滞がもたらされ、16日目のピークTGIが84%であり且つ試験終了時のTGIが79%であり(二元分散分析とその後のチューキー検定による多重比較により、両時点においてP<0.0001)、またHCC827モデルにおいて腫瘍退縮がもたらされ、16日目のピークTGIが120%であり且つ試験終了時のTGIが84%であった(P<0.0001)。凍結保存PD-L1 t-haNK細胞の、4E6細胞/用量の投与レベルでの週2回、4週間のIV投与によっても、HCC827腫瘍モデルにおいて有意な治療効果が示され、ピークTGIが60%(P<0.0001)、且つ試験終了時のTGIが40%(P<0.01)に達した。新しく調製したPD-L1 t-haNK細胞の、2.5E6細胞/用量/腫瘍の投与レベルでの週2回、4週間のIT投与により、HCC827腫瘍の増殖が有効に抑制され、その結果、20日目のピークTGIが70%、且つ試験終了時のTGIが49%であった(P<0.001)。
【0179】
新しく調製したPD-L1 t-haNK細胞(1E7細胞/用量)のIV投与を受けた動物において、有意な有害反応が認められた。新しく調製したPD-L1 t-haNK細胞と対照的に、(4E6細胞/用量のより低いレベルで投与した)凍結保存細胞は、IV投与後、動物にとって安全であることが判明した。PD-L1 t-haNK細胞は、2つの皮下腫瘍モデルにおいて顕著な有効性を示した。より低い4E6細胞/用量のレベルで投与した凍結保存細胞はまた、腫瘍増殖の抑制において有意な有効性を示し、動物にとって安全であることが判明した。
【0180】
当然ながら、本明細書に提供されるすべての核酸配列において、対応するコード化タンパク質についても本明細書で明示的に検討されることは理解されるべきである。同様に、すべてのアミノ酸配列において、対応する核酸配列についても(任意のコドン使用とともに)本明細書で検討される。
【0181】
本明細書中で引用されるすべての特許出願、出版物、参考文献、及び配列受入番号は、本明細書でそれら全体が参照により援用される。
【0182】
特に定義されない限り、本明細書で用いられるすべての科学技術用語は、本発明が属する当業者によって一般に理解されている場合と同じ意味を有する。
【0183】
本明細書及び以下の特許請求の範囲では、いくつかの用語に対してなされる参照は、以下の意味を有するように定義されるものとする。
【0184】
本明細書で用いられる用語法は、あくまで特定の実施形態を説明することを目的とし、本発明を限定するようには意図されない。文脈上特に明示されない限り、本明細書で用いられるとき、単数形「a」、「an」及び「the」は、同様に複数形を含むように意図される。
【0185】
本明細書に記載のすべての数値(範囲を含む、例えば、pH、温度、時間、濃度、量、及び分子量)が当業者が遭遇する測定値における正常な変動を含むことは理解される。したがって、本明細書に記載の数値は、+/-0.1~10%、例えば、+/-0.1%、0.5%、1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、又は10%の変動を含む。常に明示されるとは限らないが、すべての数値指定に用語「約」が先行してもよいことは理解されるべきである。したがって、約という用語は、数値の+/-0.1~10%、例えば、+/-0.1%、0.5%、1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、又は10%の変動を含む。常に明示されるとは限らないが、本明細書に記載の試薬があくまで例示的なものであり、且つそのような等価物が当該技術分野で公知であることも理解されるべきである。
【0186】
当業者によって理解されるように、ありとあらゆる目的で、特に明細書を提示するという観点で、本明細書に開示されるすべての範囲は、範囲の終点を含み、且つ範囲の終点間のすべての値を含む。本明細書に開示されるすべての範囲はまた、ありとあらゆる可能な部分範囲及びその部分範囲の組み合わせを包含する。任意の列挙される範囲は、同範囲を少なくとも等しい半分、3分の1、4分の1、5分の1、10分の1などに分解することを十分に説明し、可能にするものとして容易に理解することができる。非限定例として、本明細書で考察される各範囲は、下部3分の1、中部3分の1及び上部3分の1などに容易に分解することができる。さらに当業者によって理解されるように、「最大」、「少なくとも」などのあらゆる用語は、列挙される数を含み、後に上で考察のように部分範囲に分解可能な範囲を指す。最後に、当業者によって理解されるように、範囲は各個別メンバーを含む。したがって、例えば、1~3個の細胞を有する群は、1、2、又は3個の細胞を有する群を指す。同様に、例えば、1~5個の細胞を有する群は、1、2、3、4、又は5個の細胞を有する群を指す。
【0187】
常に明示されるとは限らないが、本明細書に記載の試薬があくまで例示的なものであり、且つそのような等価物が当該技術分野で公知であることも理解されるべきである。
【0188】
「任意選択的な」又は「任意選択的に」は、後に説明される事象又は環境が生じ得る又は生じ得ないこと、並びに該説明が事象又は環境が生じる場合の例及びそれが生じない場合の例を含むことを意味する。
【0189】
用語「含む」は、組成物及び方法が列挙要素を含むといっても、それ以外を除外しないことを意味することが意図される。「本質的に~からなる」は、組成物及び方法を定義するために用いられるとき、組み合わせに対して任意の本質的意義のある別の要素を除外することを意味するものとする。例えば、本明細書で定義されるような要素から本質的になる組成物であれば、主張される発明の基本的且つ新規な特徴に実質的に影響しない他の要素を除外しないことになる。「~からなる」は、微量に留まらない他の成分を除外し、且つ実質的な方法ステップが列挙されることを意味するものとする。これら移行語の各々によって定義される実施形態は、本開示の範囲内に含まれる。
【0190】
本明細書で用いられるとき、「免疫療法」は、標的細胞に接触するとき、細胞傷害性を誘導する能力がある、NK-92細胞(修飾又は非修飾)、天然に存在する又は修飾されたNK細胞又はT細胞の単独又は組み合わせのいずれかでの使用を指す。
【0191】
本明細書で用いられるとき、「ナチュラルキラー(NK)細胞」は、主要組織適合複合体(MHC)クラスによる制限がなく、特異抗原刺激の不在下で標的細胞を殺滅する免疫系の細胞である。標的細胞は、腫瘍細胞又はウイルスを保有する細胞であってもよい。NK細胞は、CD56の存在及びCD3表面マーカーの不在によって特徴づけられる。
【0192】
用語「内因性NK細胞」は、NK-92細胞株と区別されるように、ドナー(又は患者)由来のNK細胞を指すように用いられる。内因性NK細胞は、一般に内部でNK細胞が濃縮されている細胞の異質集団である。内因性NK細胞は、患者の自家又は同種治療が意図されてもよい。
【0193】
用語「NK-92」は、Gong et al.(1994)に記載された高度に強力な唯一の細胞株(その権利はNantKwestによって所有される)に由来するナチュラルキラー細胞を指す(以降、「NK-92(商標)細胞」)。不死NK細胞株は、元は非ホジキンリンパ腫を有する患者から得た。特に指定されない限り、用語「NK-92(商標)」は、元のNK-92細胞株、及び(例えば、外因性遺伝子の導入により)修飾されているNK-92細胞株を指すことが意図される。NK-92(商標)細胞、並びにその代表的及び非限定的修飾は、米国特許第7,618,817号明細書;米国特許第8,034,332号明細書;米国特許第8,313,943号明細書;米国特許第9,181,322号明細書;米国特許第9,150,636号明細書;及び公開された米国特許出願第10/008,955号明細書(それらのすべてはそれら全体が参照により本明細書中に援用される)に記載されており、野生型NK-92(商標)、NK-92(商標)-CD16、NK-92(商標)-CD16-γ、NK-92(商標)-CD16-ζ、NK-92(商標)-CD16(F176V)、NK-92(商標)MI、及びNK-92(商標)CIを含む。NK-92細胞は、当業者にとって公知であり、かかる細胞は、NantKwest,Inc.から容易に入手可能である。
【0194】
用語「aNK」は、Gong et al.(1994)に記載された高度に強力な唯一の細胞株に由来する非修飾ナチュラルキラー細胞を指し、その権利はNantKwestによって所有される(以降、「aNK(商標)細胞」)。用語「haNK」は、細胞表面上でCD16を発現するように修飾された、Gong et al.(1994)に記載された高度に強力な唯一の細胞株に由来するナチュラルキラー細胞を指し、その権利はNantKwestによって所有される(以降、「CD16+NK-92(商標)細胞」又は「haNK(登録商標)細胞」)。いくつかの実施形態では、CD16+NK-92(商標)細胞は、細胞表面上に高親和性CD16受容体を含む。用語「taNK」は、キメラ抗原受容体を発現するように修飾された、Gong et al.(1994)に記載された高度に強力な唯一の細胞株に由来するナチュラルキラー細胞を指し、その権利はNantKwestによって所有される(以降、「CAR修飾NK-92(商標)細胞」又は「taNK(登録商標)細胞」)。用語「t-haNK」は、細胞表面上でCD16を発現し、且つキメラ抗原受容体を発現するように修飾された、Gong et al.(1994)に記載された高度に強力な唯一の細胞株に由来するナチュラルキラー細胞を指し、その権利はNantKwestによって所有される(以降、「CAR修飾CD16+NK-92(商標)細胞」又は「t-haNK(商標)細胞」)。いくつかの実施形態では、t-haNK(商標)細胞は、細胞表面上に高親和性CD16受容体を発現する。
【0195】
「修飾NK-92細胞」は、外因性遺伝子又はタンパク質、例えばFc受容体、CAR、サイトカイン(IL-2又はIL-12など)、及び/又は自殺遺伝子を発現するNK-92細胞を指す。いくつかの実施形態では、修飾NK-92細胞は、導入遺伝子、例えばFc受容体、CAR、サイトカイン(IL-2又はIL-12など)、及び/又は自殺遺伝子をコードするベクターを含む。一実施形態では、修飾NK-92細胞は、少なくとも1つのトランスジェニックタンパク質を発現する。
【0196】
本明細書で用いられるとき、「非照射NK-92細胞」は、照射されていないNK-92細胞である。照射は、該細胞を成長及び増殖不能にする。最適な活性を保つため、照射と注入との間の時間が4時間以内である必要があることから、NK-92細胞が患者の治療前に治療施設又は他のいくつかの地点で照射されることは想定される。或いは、NK-92細胞は、別の機構により増殖することから阻止してもよい。
【0197】
本明細書で用いられるとき、NK-92細胞の「不活性化」は、該細胞を増殖不能にする。不活性化はまた、NK-92細胞の死滅に関連することがある。NK-92細胞が、治療用途において病理に関連した細胞の生体外サンプルを有効にパージしてから、又は身体内部に存在している多数若しくはすべての標的細胞を有効に殺滅するため、哺乳動物の身体内部に十分な期間存在してから、不活性化されることがあることは想定される。不活性化は、非限定例として、NK-92細胞が感受性のある不活性化剤を投与することにより誘導されてもよい。
【0198】
本明細書で用いられるとき、用語「細胞傷害性」及び「細胞溶解性」は、NK-92細胞などのエフェクター細胞の活性を説明するために用いられるとき、同義であることが意図される。一般に、細胞傷害活性は、種々の生物学的、生化学的、又は生物物理的機構のいずれかによる標的細胞の殺滅に関する。細胞溶解は、より詳細には、エフェクターが標的細胞の原形質膜を溶解し、それによりその物理的完全性を破壊するような活性に関する。これにより、標的細胞の殺滅がもたらされる。理論によって拘束されることを望まないが、NK-92細胞の細胞傷害性効果が細胞溶解に起因すると考えられる。
【0199】
細胞/細胞集団に関連する用語「殺滅する」は、細胞/細胞集団の死滅をもたらすことになるいずれかの操作のタイプを含むことが意図される。
【0200】
用語「Fc受容体」は、Fc領域として知られる抗体の一部に結合することにより免疫細胞の保護的機能に寄与する、特定の細胞(例えば、ナチュラルキラー細胞)の表面上に見出されるタンパク質を指す。抗体のFc領域の細胞のFc受容体(FcR)への結合により、細胞の食作用性又は細胞傷害活性が、抗体媒介性食作用又は抗体依存性細胞媒介性細胞傷害性(ADCC)を介して刺激される。FcRは、それが認識する抗体のタイプに基づいて分類される。例えば、Fc-γ受容体(FCγR)は、抗体のIgGクラスに結合する。FCγRIII-A(CD16とも称される;配列番号20)は、IgG抗体に結合し、ADCCを活性化する低親和性Fc受容体である。FCγRIII-Aは、典型的にはNK細胞上に見出される。NK-92細胞は、FCγRIII-Aを発現しない。Fc-ε受容体(FcεR)は、IgE抗体のFc領域に結合する。
【0201】
用語「キメラ抗原受容体」(CAR)は、本明細書で用いられるとき、細胞外抗原結合ドメインが細胞内シグナル伝達ドメインに融合されたものを指す。CARは、細胞傷害性を増強するため、T細胞又はNK細胞において発現され得る。一般に、細胞外抗原結合ドメインは、目的の細胞上に見出される抗原に特異的なscFvである。CARを発現するNK-92細胞は、scFvドメインの特異性に基づいて、細胞表面上に特定の抗原を発現する細胞を標的にする。scFvドメインは、腫瘍特異抗原及びウイルス特異的抗原を含む任意の抗原を認識するように改変され得る。例えば、CD19CARは、いくつかのがんによって発現される細胞表面マーカーであるCD19を認識する。
【0202】
用語「腫瘍特異抗原」は、本明細書で用いられるとき、がん又は腫瘍性細胞上に提示されるが、がん細胞と同じ組織又は系統に由来する正常細胞上で検出不能である抗原を指す。腫瘍特異抗原はまた、本明細書で用いられるとき、腫瘍関連抗原、即ちがん細胞上で、がん細胞と同じ組織又は系統に由来する正常細胞と比べてより高いレベルで発現される抗原を指す。
【0203】
用語「ウイルス特異的抗原」は、本明細書で用いられるとき、ウイルス感染細胞上に提示されるが、ウイルス感染細胞と同じ組織又は系統に由来する正常細胞上で検出不能である抗原を指す。一実施形態では、ウイルス特異的抗原は、感染細胞の表面上に発現されるウイルスタンパク質である。
【0204】
用語「ポリヌクレオチド」、「核酸」及び「オリゴヌクレオチド」は、互換可能に用いられ、任意の長さのヌクレオチドの高分子形態、即ちデオキシリボヌクレオチド又はリボヌクレオチド又はその類似体のいずれかを指す。ポリヌクレオチドは、任意の三次元構造を有する可能性があり、既知又は未知の任意の機能を実行することがある。以下は、ポリヌクレオチドの非限定例:遺伝子又は遺伝子断片(例えば、プローブ、プライマー、EST又はSAGEタグ)、エクソン、イントロン、メッセンジャーRNA(mRNA)、転移RNA、リボソームRNA、リボザイム、cDNA、組換えポリヌクレオチド、分岐ポリヌクレオチド、プラスミド、ベクター、任意の配列の単離DNA、任意の配列の単離RNA、核酸プローブ及びプライマーである。ポリヌクレオチドは、修飾ヌクレオチド、例えば、メチル化ヌクレオチド及びヌクレオチド類似体を含み得る。存在する場合、ヌクレオチド構造に対する修飾は、ポリヌクレオチドのアセンブリの前又は後に設けることができる。ヌクレオチドの配列は、非ヌクレオチド成分により中断され得る。ポリヌクレオチドは、重合後、例えば標識成分とのコンジュゲーションにより、さらに修飾され得る。該用語はまた、二本鎖及び一本鎖分子の双方を指す。特に指定又は要求されない限り、ポリヌクレオチドである本発明のいずれかの実施形態は、二本鎖形態と二本鎖形態を形成することが知られるか又は予測される2つの相補的一本鎖形態の各々の双方を包含する。
【0205】
ポリヌクレオチドは、ポリヌクレオチドがRNAであるとき、4つのヌクレオチド塩基:アデニン(A);シトシン(C);グアニン(G);チミン(T);及びチミンに対応するウラシル(U)の特定配列からなる。したがって、用語「ポリヌクレオチド配列」は、ポリヌクレオチド分子のアルファベット順の表現である。
【0206】
「相同性」又は「同一性」又は「類似性」は、2つのペプチド間又は2つの核酸分子間の配列類似性を指す。相同性は、比較を目的として整列されてもよい各配列内の位置を比較することにより判定され得る。比較される配列内の位置が同じ塩基又はアミノ酸で占められるとき、分子はその位置で相同性がある。配列間の相同性の程度は、配列によって共有されるマッチ又は相同位置の数の関数である。
【0207】
本明細書で用いられるとき、「パーセント同一性」は、2つのペプチド間又は2つの核酸分子間の配列同一性を指す。パーセント同一性は、比較を目的として整列されてもよい各配列内の位置を比較することにより判定され得る。比較される配列内の位置が同じ塩基又はアミノ酸で占められるとき、分子はその位置で同一性がある。相同性ヌクレオチド配列は、本明細書に示されるヌクレオチド配列の天然に存在する対立遺伝子変異体及び突然変異をコードする配列を含む。相同性ヌクレオチド配列は、ヒト以外の哺乳動物種のタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む。相同性アミノ酸配列は、保存的アミノ酸置換を有するアミノ酸配列を含み、ここでポリペプチドは、同じ結合性及び/又は活性を有する。いくつかの実施形態では、相同性アミノ酸配列は、15以下、10以下、5以下又は3以下の保存的アミノ酸置換を有する。いくつかの実施形態では、ヌクレオチド又はアミノ酸配列は、本明細書に記載の配列に対して、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも80%、又は少なくとも85%、又はそれより大きいパーセントの同一性を有する。いくつかの実施形態では、ヌクレオチド又はアミノ酸配列は、本明細書に記載の配列に対して、少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有する。パーセント同一性は、例えば、スミス及びウォーターマンのアルゴリズムを用いて、デフォルト設定を用いる、Gapプログラム(Wisconsin Sequence Analysis Package,UNIX向けのバージョン8,Genetics Computer Group,University Research Park,Madison Wis.)により判定可能である(Adv.Appl.Math.,1981,2,482-489)。パーセント配列同一性の判定に適したアルゴリズムは、Altschul et al.(Nuc.Acids Res.25:3389-402,1977)、及びAltschul et al.(J.Mol.Biol.215:403-10,1990)の各々に記載のBLAST及びBLAST2.0アルゴリズムを含む。BLAST分析を実行するためのソフトウェアは、国立バイオテクノロジー情報センター(National Center for Biotechnology Information)により公的に利用可能である(インターネットncbi.nlm.nih.govを参照)。BLASTアルゴリズムパラメータW、T、及びXは、アラインメントの感度及び速度を決定する。BLASTNプログラムは(ヌクレオチド配列の場合)、デフォルトとしてワード長(W)11、期待値(E)10、M=5、N=-4及び両ストランドの比較を用いる。アミノ酸配列の場合、BLASTPプログラムは、デフォルトとしてワード長3、及び期待値(E)10、並びにBLOSUM62スコア行列(Henikoff & Henikoff,Proc.Natl.Acad.Sci.USA89:10915,1989を参照)のアラインメント(B)50、期待値(E)10、M=5、N=-4を用いる。
【0208】
いくつかの実施形態では、核酸配列は、特定種における発現のため、コドン最適化され、例えば、マウス配列は、ヒトにおける発現のため、コドン最適化され得る(コドン最適化核酸配列によってコードされるタンパク質の発現)。したがって、いくつかの実施形態では、コドン最適化核酸配列は、本明細書に記載の核酸配列に対して、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも80%、又は少なくとも85%又はより大きいパーセント同一性を有する。いくつかの実施形態では、コドン最適化核酸配列は、本明細書に記載の配列に対して、少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有する。
【0209】
用語「発現する」は、遺伝子産物(例えばタンパク質)の生成を指す。用語「一過性」は、発現を参照するとき、あるポリヌクレオチドが細胞のゲノム中に組み込まれないことを意味する。用語「安定な」は、発現を参照するとき、あるポリヌクレオチドが細胞のゲノム中に組み込まれる、又はポジティブ選択マーカー(即ち、特定の増殖条件下で利益をもたらす細胞によって発現される外因性遺伝子)が導入遺伝子の発現を維持するために利用されることを意味する。
【0210】
用語「サイトカイン(cytokine)」又は「サイトカイン(cytokines)」は、免疫系の細胞に影響する生体分子の一般的クラスを指す。代表的なサイトカインとして、限定はされないがインターフェロン及びインターロイキン(IL)、特に、IL-2、IL-12、IL-15、IL-18及びIL-21が挙げられる。好ましい実施形態では、サイトカインは、IL-2である。
【0211】
本明細書で用いられるとき、用語「ベクター」は、ベクターが、例えば形質転換のプロセスにより、許容細胞内に置かれるときに複製されてもよいように、インタクトなレプリコンを含む非染色体核酸を指す。ベクターは、1つの細胞型、例えば細菌において複製することがあるが、別の細胞、例えば哺乳動物細胞において複製する能力をわずかに有するか又は有しない。ベクターは、ウイルス性であってもよく、又は非ウイルス性であってもよい。核酸を送達するための代表的な非ウイルスベクターは、ネイキッドDNA;カチオン性脂質と単独で又はカチオン性ポリマーと組み合わせて複合体化したDNA;アニオン性及びカチオン性リポソーム;場合によってはリポソーム中に含まれる、不均一なポリリジン、規定長のオリゴペプチド、及びポリエチレンイミンなどのカチオン性ポリマーと縮合されたDNAを含むDNA-タンパク質複合体及び粒子;並びにウイルス及びポリリジン-DNAを含む三元複合体を用いたもの、を含む。一実施形態では、ベクターは、ウイルスベクター、例えばアデノウイルスである。ウイルスベクターは、当該技術分野で周知である。
【0212】
本明細書で用いられるとき、用語「標的化される」は、タンパク質発現を参照するとき、限定はされないが、タンパク質又はポリペプチドを細胞内又は細胞外の適切な目的地に誘導することを含むように意図される。標的化は、典型的には、ポリペプチド鎖内のアミノ酸残基のストレッチである、シグナルペプチド又は標的化ペプチドを通じて達成される。これらのシグナルペプチドは、ポリペプチド配列内のどこかに位置づけることができるが、N末端上に位置づけられることが多い。ポリペプチドはまた、C末端上にシグナルペプチドを有するように改変され得る。シグナルペプチドは、ポリペプチドを、原形質膜、ゴルジ、エンドソーム、小胞体、及び他の細胞区画に対して位置する細胞外区域に誘導し得る。例えば、C末端上に特定のアミノ酸配列(例えばKDEL)を有するポリペプチドは、ERルーメン内に保持されるか又はERルーメンに再び輸送される。
【0213】
本明細書で用いられるとき、用語「標的」は、腫瘍の標的化を参照するとき、NK-92細胞が腫瘍細胞(即ち標的細胞)を認識し、殺滅する能力を指す。これに関連する用語「標的化される」は、例えば、NK-92細胞によって発現されるCARが、腫瘍によって発現される細胞表面抗原を認識し、それに結合する能力を指す。
【0214】
本明細書で用いられるとき、用語「トランスフェクトする」は、核酸の細胞への挿入を指す。トランスフェクションは、核酸が細胞に侵入することを可能にする任意の手段を用いて実施されてもよい。DNA及び/又はmRNAは、細胞にトランスフェクトされてもよい。好ましくは、トランスフェクト細胞は、核酸によってコードされる遺伝子産物(即ちタンパク質)を発現する。
【0215】
用語「自殺遺伝子」は、その導入遺伝子を発現する細胞のネガティブ選択を可能にする導入遺伝子を指す。自殺遺伝子は、該遺伝子を発現する細胞が選択的薬剤の導入によって殺滅されることを可能にするような安全システムとして用いられる。いくつかの自殺遺伝子システムが同定されており、例えば、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(TK)遺伝子、シトシンデアミナーゼ遺伝子、水痘帯状疱疹ウイルスチミジンキナーゼ遺伝子、ニトロレダクターゼ遺伝子、大腸菌(Escherichia coli)gpt遺伝子、及び大腸菌(E.Coli)Deo遺伝子が挙げられる(例えば、Yazawa K,Fisher W E,Brunicardi F C:Current progress in suicide gene therapy for cancer.World J.Surg.2002 July;26(7):783-9も参照されたし)。一実施形態では、自殺遺伝子は、チミジンキナーゼ(TK)遺伝子である。TK遺伝子は、野生型又は突然変異体TK遺伝子であってもよい(例えば、tk30、tk75、sr39tk)。TKタンパク質を発現する細胞は、ガンシクロビルを用いて殺滅され得る。
図1
図2A
図2B
図3A-3B】
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【配列表】
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