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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-09
(45)【発行日】2024-08-20
(54)【発明の名称】電流センサ
(51)【国際特許分類】
   G01R 15/20 20060101AFI20240813BHJP
   G01R 19/00 20060101ALI20240813BHJP
【FI】
G01R15/20 Z
G01R19/00 B
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021001731
(22)【出願日】2021-01-07
(65)【公開番号】P2021139886
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2023-10-17
(31)【優先権主張番号】P 2020039014
(32)【優先日】2020-03-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000227180
【氏名又は名称】日置電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中沢 宏紀
(72)【発明者】
【氏名】柄澤 悠樹
(72)【発明者】
【氏名】池田 健太
(72)【発明者】
【氏名】山岸 君彦
(72)【発明者】
【氏名】丸山 貴史
【審査官】島田 保
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/129389(WO,A1)
【文献】特開2007-333443(JP,A)
【文献】特開2004-257904(JP,A)
【文献】特開2020-012708(JP,A)
【文献】特表2021-505886(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0091558(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 15/00
G01R 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象に流れる電流の大きさを検出する電流センサであって、
第1磁気コアと、前記第1磁気コアと磁気的に並列に設けられる第2磁気コアと、を含む磁気コアを備え、
前記第1磁気コアは、第1周波数帯域では前記第2磁気コアよりも高い透磁率であり、前記第1周波数帯域よりも高い第2周波数帯域では前記第2磁気コアよりも低い透磁率であり、
前記電流センサは、前記第1周波数帯域と前記第2周波数帯域とを合わせた周波数帯域における電流の大きさを検出する、
電流センサ。
【請求項2】
請求項1に記載の電流センサであって、
前記磁気コアは、それぞれ磁気的に並列に設けられる前記第1磁気コア乃至第N(Nは3以上の自然数)磁気コアを含み、
前記第1周波数帯域では、前記第1磁気コアの透磁率は前記第2磁気コアから前記第N磁気コアまでの透磁率より高く、
第n(nは2からN-1までの自然数)周波数帯域では、第n磁気コアの透磁率は前記第1磁気コアから第n-1磁気コアまでの透磁率よりも高く、かつ、第n+1磁気コアから前記第N磁気コアまでの透磁率よりも高く、
第N周波数帯域では、前記第N磁気コアの透磁率は前記第1磁気コアから第N-1磁気コアまでの透磁率より高く、
前記電流センサは、前記第1周波数帯域乃至前記第N周波数帯域を合わせた周波数帯域における電流の大きさを検出する、
電流センサ。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の電流センサであって、
前記磁気コアは、前記測定対象が内部に挿通される環状に形成される、
電流センサ。
【請求項4】
請求項3に記載の電流センサであって、
記測定対象の挿通方向に位置する前記磁気コアの面は導電層で覆われている、
電流センサ。
【請求項5】
請求項3に記載の電流センサであって、
絶縁体で形成された接着層と金属層とが積層された金属箔のテープからなる導電層で前記測定対象の挿通方向に位置する前記磁気コアの面が覆われている、
電流センサ。
【請求項6】
請求項4又は請求項5に記載の電流センサであって、
前記導電層は、帯状に形成され前記磁気コアに対してポロイダル方向に巻回されるとともに、巻回された状態で重なる前記導電層の間に絶縁層が形成されている、
電流センサ。
【請求項7】
請求項4又は請求項5に記載の電流センサであって、
前記磁気コアに対してトロイダル方向に沿うようにポロイダル方向に巻回される巻線を更に備える、
電流センサ。
【請求項8】
請求項4又は請求項5に記載の電流センサであって、
前記磁気コアに対してトロイダル方向に沿うようにポロイダル方向に巻回される巻線を更に備え、
前記導電層は、前記磁気コア及び前記巻線を覆う、
電流センサ。
【請求項9】
請求項1から請求項のいずれか一項に記載の電流センサであって、
前記第1磁気コアと前記第2磁気コアとの一方は、他方から一部が露出して前記他方に対して外部から組み付け可能である、
電流センサ。
【請求項10】
請求項1から請求項のいずれか一項に記載の電流センサであって、
前記第1磁気コアと前記第2磁気コアとの一方は、他方の外周を囲うように当該他方の外側に設けられる、
電流センサ。
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の電流センサであって、
磁気検出素子を更に備え、
前記磁気検出素子の検出帯域において前記第1磁気コアと前記第2磁気コアとのうち透磁率が高い方は、前記磁気検出素子の外周を囲う、
電流センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電流センサに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、円環形状のフラックスゲートセンサ素子と、U字状断面を有するように形成されフラックスゲートセンサ素子を収容する小径パーマロイケースと、U字状断面を有するように形成され小径パーマロイケースの開口部を覆う大径パーマロイケースと、を備え、測定対象に流れる電流の大きさを検出する貫通型電流センサが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5313024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、電流センサには、磁気コアの内周におけるどの位置に測定対象があっても同じ測定値を出力する測定精度が要求される。特許文献1の電流センサでは、パーマロイケースを有するので、周波数が比較的低い電流の測定精度は高いが、周波数が比較的高い電流の測定精度は高くない。このように、広い周波数帯域における電流の測定精度を向上させることは困難であった。
【0005】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、電流センサによる広い周波数帯域における電流の測定精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様によれば、測定対象に流れる電流の大きさを検出する電流センサは、第1磁気コアと、前記第1磁気コアと磁気的に並列に設けられる第2磁気コアと、を含む磁気コアを備え、前記第1磁気コアは、第1周波数帯域では前記第2磁気コアよりも高い透磁率であり、前記第1周波数帯域よりも高い第2周波数帯域では前記第2磁気コアよりも低い透磁率であり、前記第1周波数帯域と前記第2周波数帯域とを合わせた周波数帯域における電流の大きさを検出する。
【発明の効果】
【0007】
この態様では、磁気コアは、磁気的に並列に設けられる第1磁気コアと第2磁気コアとを有する。測定対象に流れる電流の周波数が比較的低い第1周波数帯域では、第1磁気コアの透磁率は第2磁気コアよりも高く、第1周波数帯域よりも高い第2周波数帯域では、第2磁気コアの透磁率は第1磁気コアよりも高い。そのため、第1周波数帯域では第1磁気コアによって電流の測定精度を高くでき、第2周波数帯域では第2磁気コアによって電流の測定精度を高くできる。したがって、電流センサによる広い周波数帯域における電流の測定精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明の第1実施形態に係る電流センサの斜視図である。
図2図2は、図1におけるII-II断面図である。
図3A図3Aは、変形例に係る磁気コアの断面図である。
図3B図3Bは、他の変形例に係る磁気コアの断面図である。
図4図4は、磁気コアにおける周波数と透磁率との関係を説明する図である。
図5図5は、第1の変形例に係る電流センサの断面図である。
図6図6は、第2の変形例に係る電流センサの断面図である。
図7図7は、第3の変形例に係る電流センサの断面図である。
図8図8は、第4の変形例に係る電流センサにおける磁気コアの斜視図である。
図9図9は、図8におけるIX-IX断面図である。
図10図10は、本発明の第2実施形態に係る電流センサを示す図であり、図1におけるII-II断面に相当する図である。
図11図11は、第2実施形態の変形例に係る電流センサの断面図であり、図1におけるII-II断面に相当する図である。
図12図12は、本発明の第3実施形態に係る電流センサを示す図であり、図1におけるII-II断面に相当する図である。
図13図13は、本発明の第4実施形態に係る電流センサを示す図であり、図1におけるII-II断面に相当する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1実施形態)
以下、図面を参照して、本発明の第1実施形態に係る電流センサ100について説明する。
【0010】
まず、図1から図4を参照して、電流センサ100の全体構成について説明する。図1は、電流センサ100の斜視図である。図2は、図1におけるII-II断面図である。図3Aは、変形例に係る磁気コア1の断面図である。図3Bは、他の変形例に係る磁気コア1の断面図である。図4は、電流センサ100の磁気コア1における周波数と透磁率との関係を説明する図である。図4では、横軸は、測定対象9に流れる電流の周波数であり、縦軸は、透磁率である。
【0011】
図1及び図2に示すように、電流センサ100は、磁気コア1と、磁気コア1を収容するカバー5と、磁気検出素子としてのフラックスゲートセンサ6と、巻線7と、を備える。電流センサ100は、測定対象9の周囲を囲んだ状態で測定対象9(図1参照)に流れる電流の大きさを測定する貫通型電流センサである。電流センサ100は、後述するように、第1周波数帯域と、第1周波数帯域よりも高い第2周波数帯域と、第2周波数帯域よりも高い第3周波数帯域と、を合わせた周波数帯域における電流の大きさを検出する。
【0012】
図1に示すように、磁気コア1は、環状(ここでは円環状)に形成される。電流測定時には、測定対象9が磁気コア1の内周を挿通する。図2に示すように、磁気コア1は、第1磁気コア10と、第2磁気コア20と、第3磁気コア30と、を有する。第1磁気コア10と第2磁気コア20と第3磁気コア30とは、磁気的に並列に設けられる。
【0013】
第1磁気コア10は、パーマロイ(鉄ニッケル軟質磁性材料)によって形成される。第1磁気コア10は、円環状に形成される。第1磁気コア10は、小径ケース11と、大径ケース12と、を有する。
【0014】
小径ケース11は、U字状断面を有するように形成される。小径ケース11は、フラックスゲートセンサ6を挿入可能に開口する円環状の開口部11aを有する。小径ケース11は、一対のフラックスゲートセンサ6を収容する。
【0015】
大径ケース12は、小径ケース11よりも大きなU字状断面を有するように形成される。大径ケース12は、小径ケース11を挿入可能に開口する円環状の開口部12aを有する。大径ケース12は、開口部12aが小径ケース11の開口部11aに対向する位置から磁気コア1の中心軸方向に移動して、小径ケース11と組み立てられる。大径ケース12は、小径ケース11と組み立てられた状態で、小径ケース11の開口部11aを閉塞する。これにより、フラックスゲートセンサ6は、第1磁気コア10内に収容される。
【0016】
第2磁気コア20は、フェライトによって形成される。第2磁気コア20は、円環状に形成される。第2磁気コア20は、磁気コア1の中心軸方向に薄板状に形成される。第2磁気コア20は、一対設けられて、第1磁気コア10の中心軸方向外側に各々配置される。
【0017】
第2磁気コア20は、第1磁気コア10に臨む面以外の面が第1磁気コア10から露出する。このように、第2磁気コア20は、第1磁気コア10から一部が露出して第1磁気コア10に対して外部から組み付け可能である。これにより、第2磁気コア20が第1磁気コア10から全く露出していない場合と比較して、磁気コア1の構造を簡素にできるので、磁気コア1の製造コストを低減させることができる。
【0018】
これに代えて、例えば、図3Aに示すように、第2磁気コア20に溝20aを形成し、当該溝に第1磁気コア10が嵌まるようにしてもよい。また、図3Bに示すように、第1磁気コア10に溝10aを形成し、当該溝に第2磁気コア20が嵌まるようにしてもよい。即ち、第1磁気コア10と第2磁気コア20との一方は、他方から一部が露出し、他方に対して外部から組み付け可能であればよい。
【0019】
第3磁気コア30は、圧粉磁心材料によって形成される。第3磁気コア30は、円環状に形成される。第3磁気コア30は、磁気コア1の中心軸方向に薄板状に形成される。第3磁気コア30は、一対設けられて、第2磁気コア20の中心軸方向外側に各々積層される。
【0020】
図4に示すように、第1磁気コア10は、測定対象9に流れる電流の周波数が比較的低い第1周波数帯域では、第2磁気コア20及び第3磁気コア30よりも高い透磁率である。第2磁気コア20は、第1周波数帯域よりも高い第2周波数帯域では、第1磁気コア10及び第3磁気コア30よりも高い透磁率である。つまり、第1磁気コア10は、第2周波数帯域では、第2磁気コア20よりも低い透磁率である。第3磁気コア30は、第2周波数帯域よりも高い第3周波数帯域では、第1磁気コア10及び第2磁気コア20よりも高い透磁率である。
【0021】
図1及び図2に示すように、カバー5は、磁気コア1の全周を覆うように円環状に形成される。カバー5は、磁気コア1の中心軸方向に分割される第1カバー5aと第2カバー5bとを有する。第1カバー5a及び第2カバー5bは、磁気コア1よりも大きなU字状断面を有するように形成される。第1カバー5a及び第2カバー5bは、同じ形状に形成されて互いに対向するように磁気コア1に取り付けられる。カバー5の外周には、巻線7が巻回される。カバー5は、例えば樹脂材料によって形成され、磁気コア1と巻線7との間を絶縁する。
【0022】
フラックスゲートセンサ6は、一対設けられる。一対のフラックスゲートセンサ6は、磁気コア1の中心軸方向に積層して設けられ、第1磁気コア10内に収容される。フラックスゲートセンサ6が磁束を検出可能な周波数帯域(検出帯域)は、第1周波数帯域に最も近い。フラックスゲートセンサ6が設けられることで、交流電流だけでなく直流電流の大きさも測定することができる。フラックスゲートセンサ6のリード線6aは、磁気コア1の外部へと引き出される(図1参照)。
【0023】
フラックスゲートセンサ6のセンシング範囲には、第1磁気コア10が配置される。即ち、フラックスゲートセンサ6のセンシング範囲には、フラックスゲートセンサ6の検出帯域において第1磁気コア10と第2磁気コア20と第3磁気コア30とのうち最も透磁率が高いものが配置される。これにより、フラックスゲートセンサ6の検出帯域において透磁率が低いものがフラックスゲートセンサ6のセンシング範囲に配置される場合と比較して、フラックスゲートセンサ6による直流電流の大きさの測定を高精度に行うことができる。
【0024】
フラックスゲートセンサ6の外周は、第1磁気コア10によって囲われる。即ち、フラックスゲートセンサ6の外周は、フラックスゲートセンサ6の検出帯域において第1磁気コア10と第2磁気コア20と第3磁気コア30とのうち最も透磁率が高いものによって囲われる。これにより、第1磁気コア10と第2磁気コア20とのうち透磁率の高い方が磁気シールドの役割を果たすため、測定対象9以外から作用する磁束をフラックスゲートセンサ6が検出することを防止できる。したがって、フラックスゲートセンサ6による直流電流の大きさの測定を高精度に行うことができる。
【0025】
巻線7は、磁気コア1に対してトロイダル方向に沿うようにポロイダル方向に巻回される。巻線7を備えることで、例えばホール素子方式のように巻線による負帰還動作を行っていない電流センサよりも、電流の測定精度を向上させることができる。なお、図1には、電流センサ100の構成の理解を容易にするために、巻線7の一部のみを示している。実際には、巻線7は、磁気コア1におけるトロイダル方向の全周にわたって設けられる。
【0026】
巻線7には、電流測定時には、測定対象9に流れる電流が形成する磁束を打ち消すような磁束を形成する電流が流れる。電流センサ100は、巻線7を流れる電流が流れるシャント抵抗(図示省略)を有し、シャント抵抗両端に発生する電圧の大きさに基づいて測定対象9に流れる電流の大きさを測定する。
【0027】
次に、主に図4を参照して、電流センサ100の作用について説明する。
【0028】
図4に示すように、測定対象9に流れる電流の周波数が比較的低い第1周波数帯域では、第1磁気コア10の透磁率が第2磁気コア20及び第3磁気コア30の透磁率よりも高い。そのため、第1周波数帯域では、第1磁気コア10に磁束が流れるので、測定対象9に流れる電流の大きさを精度よく測定することができる。
【0029】
また、第1周波数帯域よりも周波数の高い第2周波数帯域では、第2磁気コア20の透磁率が第1磁気コア10及び第3磁気コア30の透磁率よりも高い。そのため、第2周波数帯域では、第2磁気コア20に磁束が流れるので、測定対象9に流れる電流の大きさを精度よく測定することができる。
【0030】
また、第2周波数帯域よりも更に周波数の高い第3周波数帯域では、第3磁気コア30の透磁率が第1磁気コア10及び第2磁気コア20の透磁率よりも高い。そのため、第3周波数帯域では、第3磁気コア30に磁束が流れるので、測定対象9に流れる電流の大きさを精度よく測定することができる。
【0031】
ここで、電流センサ100には、磁気コア1の内周におけるどの位置に測定対象9があっても同じ測定値を出力する測定精度が要求される。しかしながら、磁気コア1の透磁率が低いと、測定対象9の位置によるゲイン(位相)-周波数特性の変化が大きくなり、またヒステリシス損や渦電流損が増加する。
【0032】
磁気コア1の透磁率が高いほど多く磁束が流れるので、高精度で電流の大きさを測定することができるが、広帯域で透磁率が高い磁性材料は無い。一般に、比較的低い周波数帯域で透磁率が高い磁性材料は、比較的高い周波数帯域では透磁率が低く、比較的高い周波数帯域で透磁率が高い磁性材料は、比較的低い周波数帯域では透磁率が低い。
【0033】
即ち、磁気コア1が第1磁気コア10のみからなる場合には、第2周波数帯域及び第3周波数帯域では、磁気コア1の内周における測定対象9の位置によって測定値にばらつきが生じて精度が低くなる。同様に、磁気コア1が第2磁気コア20のみからなる場合には、第1周波数帯域及び第3周波数帯域では、磁気コア1の内周における測定対象9の位置によって測定値にばらつきが生じて精度が低くなる。
【0034】
これに対して、電流センサ100では、第1磁気コア10と第2磁気コア20と第3磁気コア30とを有する磁気コア1を用いている。これにより、第1周波数帯域から第3周波数帯域までの広い周波数帯域で、磁気コア1の内周における測定対象9の位置に関わらず同じ測定値を出力する測定精度を確保することができる。
【0035】
このように、磁気コア1は、磁気的に並列に設けられる第1磁気コア10と第2磁気コア20とを有する。測定対象9に流れる電流の周波数が比較的低い第1周波数帯域では、第1磁気コア10の透磁率は第2磁気コア20の透磁率よりも高く、第1周波数帯域よりも高い第2周波数帯域では、第2磁気コア20の透磁率は第1磁気コア10の透磁率よりも高い。そのため、第1周波数帯域では第1磁気コア10によって電流の測定精度を高くでき、第2周波数帯域では第2磁気コア20によって電流の測定精度を高くできる。したがって、電流センサ100による広い周波数帯域における電流の測定精度を向上させることができる。
【0036】
磁気コアの数は、3つ以上にすることもできる。つまり、磁気コア1は、それぞれ磁気的に並列に設けられる第1磁気コア10乃至第N(Nは3以上の自然数)磁気コアを含む。第1周波数帯域では、第1磁気コア10の透磁率は第2磁気コア20から第N磁気コアまでの透磁率より高い。第n(nは2からN-1までの自然数)周波数帯域では、第n磁気コアの透磁率は第1磁気コア10から第n-1磁気コアまでの透磁率よりも高く、かつ、第n+1磁気コアから第N磁気コアまでの透磁率よりも高い。第N周波数帯域では、第N磁気コアの透磁率は第1磁気コア10から第N-1磁気コアまでの透磁率より高い。電流センサ100は、第1周波数帯域乃至第N周波数帯域を合わせた周波数帯域における電流の大きさを検出する。
【0037】
この構成によれば、第1周波数帯域では第1磁気コア10によって電流の測定精度を高くでき、第n(nは2からNまでの自然数)周波数帯域では第n磁気コアによって電流の測定精度を高くできる。したがって、磁気的に並列に設けた磁気コアの数を増やすほど広くなる周波数帯域において電流の測定精度を向上させることができる。
【0038】
次に、図5から図9を参照して、第1から第4の変形例に係る電流センサ100について説明する。以下に示す各変形例では、上記実施形態と異なる点を中心に説明し、同様の機能を有する構成には同一の符号を付して説明を省略する。
【0039】
まず、図5を参照して、第1の変形例に係る電流センサ100について説明する。図5は、第1の変形例に係る電流センサ100の断面図である。
【0040】
第1の変形例に係る電流センサ100は、第3磁気コア30の形状及び配置が上記実施形態とは相違する。
【0041】
図5に示すように、第3磁気コア30は、磁気コア1の径方向に薄板状に形成される。第3磁気コア30は、一対設けられて、第1磁気コア10の内外周に各々配置される。
【0042】
以上の第1の変形例に係る電流センサ100によっても、巻線7の内周に第1磁気コア10と第2磁気コア20と第3磁気コア30とが磁気的に並列に設けられるので、上記実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0043】
次に、図6を参照して、第2の変形例に係る電流センサ100について説明する。図6は、第2の変形例に係る電流センサ100の断面図である。
【0044】
第2の変形例に係る電流センサ100は、第2磁気コア20及び第3磁気コア30の形状及び配置が上記実施形態とは相違する。
【0045】
図6に示すように、第2磁気コア20は、磁気コア1の径方向に薄板状に形成される。第2磁気コア20は、一対設けられて、第1磁気コア10の内外周に各々配置される。
【0046】
第3磁気コア30は、磁気コア1の径方向に薄板状に形成される。第3磁気コア30は、一対設けられて、内周側の第2磁気コア20の更に内周、及び外周側の第2磁気コア20の更に外周に各々積層される。
【0047】
以上の第2の変形例に係る電流センサ100によっても、巻線7の内周に第1磁気コア10と第2磁気コア20と第3磁気コア30とが磁気的に並列に設けられるので、上記実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0048】
次に、図7を参照して、第3の変形例に係る電流センサ100について説明する。図7は、第3の変形例に係る電流センサ100の断面図である。
【0049】
第3の変形例に係る電流センサ100は、第2磁気コア20及び第3磁気コア30の形状及び配置が上記実施形態とは相違する。
【0050】
図7に示すように、第2磁気コア20は、第1磁気コア10と同様に、小径ケース21と、大径ケース22と、を有する。
【0051】
小径ケース21は、第1磁気コア10よりも大きなU字状断面を有するように形成される。小径ケース21は、第1磁気コア10を挿入可能に開口する円環状の開口部21aを有する。小径ケース21は、第1磁気コア10を収容する。
【0052】
大径ケース22は、小径ケース21よりも大きなU字状断面を有するように形成される。大径ケース22は、小径ケース21を挿入可能に開口する円環状の開口部22aを有する。大径ケース22は、開口部22aが小径ケース21の開口部21aに対向する位置から磁気コア1の中心軸方向に移動して、小径ケース21と組み立てられる。大径ケース22は、小径ケース21と組み立てられた状態で、小径ケース21の開口部21aを閉塞する。これにより、第1磁気コア10は、第2磁気コア20内に収容される。
【0053】
なお、第2磁気コア20は第1磁気コア10の外周に設けられるが、これに代えて、第2磁気コア20の外周に第1磁気コア10が設けられるようにしてもよい。即ち、第1磁気コア10と第2磁気コア20との一方は、他方の外周を囲うように当該他方の外側に設けられる。この構成によれば、外周を覆う磁気コア1の外周からみた磁気的な対称性を持たせることができるので、フラックスゲートセンサ6による直流電流の大きさの測定を高精度に行うことができる。
【0054】
第3磁気コア30は、第1磁気コア10及び第2磁気コア20と同様に、小径ケース31と、大径ケース32と、を有する。
【0055】
小径ケース31は、第2磁気コア20よりも大きなU字状断面を有するように形成される。小径ケース31は、第2磁気コア20を挿入可能に開口する円環状の開口部31aを有する。小径ケース31は、第2磁気コア20を収容する。
【0056】
大径ケース32は、小径ケース31よりも大きなU字状断面を有するように形成される。大径ケース32は、小径ケース31を挿入可能に開口する円環状の開口部32aを有する。大径ケース32は、開口部32aが小径ケース31の開口部31aに対向する位置から磁気コア1の中心軸方向に移動して、小径ケース31と組み立てられる。大径ケース32は、小径ケース31と組み立てられた状態で、小径ケース31の開口部31aを閉塞する。これにより、第2磁気コア20は、第3磁気コア30内に収容される。
【0057】
以上の第3の変形例に係る電流センサ100によっても、巻線7の内周に第1磁気コア10と第2磁気コア20と第3磁気コア30とが磁気的に並列に設けられるので、上記実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0058】
また、第1磁気コア10と第2磁気コア20に、外周を覆う第3磁気コア30の外周からみた対称性を持たせることができるので、フラックスゲートセンサ6による直流電流の大きさの測定を高精度に行うことができる。
【0059】
次に、図8及び図9を参照して、第4の変形例に係る電流センサ100について説明する。図8は、第4の変形例に係る電流センサ100における磁気コア1の斜視図である。図9は、図8におけるIX-IX断面図である。
【0060】
第4の変形例に係る電流センサ100は、フラックスゲートセンサ6を有しておらず、交流電流の大きさのみを測定可能なCT(Current Transformer)方式の電流センサである点で、上記実施形態とは相違する。
【0061】
図9に示すように、第1磁気コア10は、円環状に形成される。第1磁気コア10は、第2磁気コア20及び第3磁気コア30よりも磁気コア1の中心軸方向に厚く形成される。
【0062】
第2磁気コア20は、磁気コア1の中心軸方向に薄板状に形成される。第2磁気コア20は、一対設けられて、第1磁気コア10の中心軸方向外側に各々配置される。
【0063】
第3磁気コア30は、磁気コア1の中心軸方向に薄板状に形成される。第3磁気コア30は、一対設けられて、第2磁気コア20の中心軸方向外側に各々積層される。
【0064】
以上の第4の変形例に係る電流センサ100によっても、巻線7の内周に第1磁気コア10と第2磁気コア20と第3磁気コア30とが磁気的に並列に設けられるので、上記実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0065】
以上の実施形態によれば、以下に示す効果を奏する。
【0066】
測定対象9に流れる電流の大きさを検出する電流センサ100は、第1磁気コア10と、第1磁気コア10と磁気的に並列に設けられる第2磁気コア20と、を含む磁気コア1を備える。第1磁気コア10は、第1周波数帯域では第2磁気コア20よりも高い透磁率である。第1周波数帯域よりも高い第2周波数帯域では第2磁気コア20よりも低い透磁率である。そして、第1周波数帯域と第2周波数帯域とを合わせた周波数帯域における電流の大きさを検出する。
【0067】
この構成によれば、磁気コア1は、磁気的に並列に設けられる第1磁気コア10と第2磁気コア20とを有する。測定対象9に流れる電流の周波数が比較的低い第1周波数帯域では、第1磁気コア10の透磁率は第2磁気コア20よりも高く、第1周波数帯域よりも高い第2周波数帯域では、第2磁気コア20の透磁率は第1磁気コア10よりも高い。そのため、第1周波数帯域では第1磁気コア10によって電流の測定精度を高くでき、第2周波数帯域では第2磁気コア20によって電流の測定精度を高くできる。したがって、電流センサ100による広い周波数帯域における電流の測定精度を向上させることができる。
【0068】
また、第1磁気コア10と第2磁気コア20とは、測定対象9が内部に挿通される環状の磁気コアとして形成される。
【0069】
この構成によれば、第1磁気コア10と第2磁気コア20とを有する磁気コア1が環状に形成されることで、磁気コア1の内周のどの位置に測定対象9が位置していても同じ測定値を出力する測定精度を確保することができる。
【0070】
また、電流センサ100は、磁気コア1に対してトロイダル方向に沿うようにポロイダル方向に巻回される巻線7を更に備える。
【0071】
この構成によれば、巻線7を備えることで、例えばホール素子方式のように巻線による負帰還動作を行っていない電流センサよりも、電流の測定精度を向上させることができる。
【0072】
また、第1磁気コア10と第2磁気コア20との一方は、他方から一部が露出して他方に対して外部から組み付け可能である。
【0073】
この構成によれば、磁気コア1の構造を簡素にできるので、磁気コア1の製造コストを低減させることができる。
【0074】
また、第1磁気コア10と第2磁気コア20との一方は、他方の外周を囲うように当該他方の外側に設けられる。
【0075】
この構成によれば、第1磁気コア10と第2磁気コア20に外周からみた対称性を持たせることができるので、フラックスゲートセンサ6による直流電流の大きさの測定を高精度に行うことができる。
【0076】
また、電流センサ100は、磁気検出素子としてのフラックスゲートセンサ6を更に備え、フラックスゲートセンサ6の検出帯域において第1磁気コア10と第2磁気コア20とのうち透磁率が高い方は、フラックスゲートセンサ6のセンシング範囲に配置される。
【0077】
この構成によれば、フラックスゲートセンサ6による直流電流の大きさの測定を高精度に行うことができる。
【0078】
また、第1磁気コア10と第2磁気コア20とのうちフラックスゲートセンサ6の検出帯域において透磁率が高い方は、フラックスゲートセンサ6の外周を囲う。
【0079】
この構成によれば、第1磁気コア10と第2磁気コア20とのうち透磁率の高い方が磁気シールドの役割を果たすため、測定対象9以外から作用する磁束をフラックスゲートセンサ6が検出することを防止できる。したがって、フラックスゲートセンサ6による直流電流の大きさの測定を高精度に行うことができる。
【0080】
(第2実施形態)
次に、図10を参照して、第2実施形態に係る電流センサ300について説明する。第2実施形態では、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明するとともに、第1実施形態と同一又は同等部分については、同符号を付して説明を割愛する。この第2実施形態に係る電流センサ300は、第1実施形態の電流センサ100と比較して、電流センサ300が導電層で覆われた点、具体的には電流センサ300がシールド200で覆われた点が異なる。ここで、導電層とは、導電性の膜、薄板、テープ、フィルム、ゴム及び樹脂を含む導電性の層をなすものをいう。
【0081】
図10は、本発明の第2実施形態に係る電流センサ300を示す図であり、図1におけるII-II断面に相当する図が示されている。この電流センサ300は、カバー5及びカバー5に巻かれた巻線7を覆うシールド200を備えている。
【0082】
シールド200は、導電層で構成されており、この導電層は、金属を薄く延ばして形成したり、蒸着で形成したり、メッキで形成したりする方法が挙げられる。また、金属箔のテープを貼り付けて電流センサ300に導電層を形成する方法が挙げられ、本実施形態では、一例として、金属箔のテープを利用して導電層で構成されたシールド200を形成する。
【0083】
金属箔のテープで用いられる金属としては、アルミニウム、ステンレス、又は銅などが挙げられ、本実施形態では、一例として、銅製の箔を備えた帯状の銅箔テープ202を用いる。
【0084】
銅箔テープ202は、導電層を形成する銅製の箔からなる金属層204と、金属層204の裏面に積層された接着層206とで構成される。接着層206は、絶縁体で形成される。銅箔テープ202における金属層204の厚み寸法は、30μm以上100μm以下のものが一般的であり、本実施形態では、金属層204の厚み寸法が一例として、100μmの銅箔テープ202を用いる。
【0085】
電流センサ300を覆うシールド200は、単一の銅箔テープ202で形成したり、複数の短冊状の銅箔テープ202で形成したりすることができる。
【0086】
複数の短冊状の銅箔テープ202でシールド200を形成する場合、各銅箔テープ202を、磁気コア1に対してトロイダル方向へずらしながらポロイダル方向に巻回して貼り付け、銅箔テープ202の接着層206を巻回した巻線7の外周に密着させる。トロイダル方向に巻回された銅箔テープ202の一端部210及び他端部212は、円環状に形成されたカバー5の外周面214側で重ねる。
【0087】
銅箔テープ202の一端部210の金属層204と他端部212の金属層204との間には、他端部212の絶縁体からなる接着層206によって絶縁層220が形成されており、銅箔テープ202は、一端部210と他端部212とが電気的に切り離されている。これにより、銅箔テープ202によるワンターンコイルの形成が防止され、測定対象9からの磁束による誘起電流の発生を抑制する。
【0088】
銅箔テープ202の一端部210と他端部212とが重なる重なり代は、任意に設定することができる。また、一端部210の金属層204と他端部212の金属層204との間の絶縁層220の寸法も任意に設定することができる。
【0089】
重なり代は、長いほど電流センサ300内への測定対象9の挿通位置に起因する測定値の変化を抑制できる。また、絶縁層220の寸法は、狭いほど電流センサ300内への測定対象9の挿通位置に起因する測定値の変化を抑制できる。
【0090】
トロイダル方向で隣接する銅箔テープ202は、側縁部同士が重なるように配置することで、トロイダル方向で生じ得る隙間をなくす。これにより、電流センサ300は、カバー5内の磁気コア1及びカバー5に巻かれた巻線7が、銅箔テープ202の金属層204が構成する導電層で覆われる。
【0091】
一方、単一の銅箔テープ202でシールド200を形成する場合、銅箔テープ202を磁気コア1に対してトロイダル方向に沿うようにポロイダル方向に巻回して銅箔テープ202を螺旋状に貼り付ける。銅箔テープ202は、側縁部同士が重なるように巻回することで、トロイダル方向で生じ得る隙間をなくす。これにより、電流センサ300は、カバー5及びカバー5に巻かれた巻線7が銅箔テープ202の金属層204が構成する導電層で覆われる。
【0092】
銅箔テープ202の長さ方向の一端と他端とは、電気的に接続されない。これにより、銅箔テープ202によるワンターンコイルの形成を防止し、測定対象9からの磁束による誘起電流の発生を抑制できる。
【0093】
以上の実施形態によれば、以下に示す効果を奏する。
【0094】
本実施形態における電流センサ300は、測定対象9が内部に挿通される環状の磁気コアにより測定対象9に流れる電流の大きさを検出する電流センサ300である。電流センサ300は、第1磁気コア10と、第1磁気コア10と磁気的に並列に設けられる第2磁気コア20と、を含む磁気コア1を備える。第1磁気コア10は、第1周波数帯域では第2磁気コア20よりも高い透磁率であり第1周波数帯域よりも高い第2周波数帯域では第2磁気コア20よりも低い透磁率である。電流センサ300は、第1周波数帯域と第2周波数帯域とを合わせた周波数帯域における電流の大きさを検出する。そして、電流センサ300は、導電層で覆われている。
【0095】
この構成に係る電流センサ300においても、第1実施形態と同等部分については、同様の作用効果を奏することができる。
【0096】
前記したように、測定対象9が挿通する環状の磁気コア1により測定対象9に流れる電流の大きさを検出する電流センサ300では、その磁気コア1の内周のどの位置に測定対象9が位置していても同じ測定値を出力する測定精度を確保することができる。しかし、測定対象9に流れる電流の周波数が高くなると、測定対象9の位置が磁気コア1の内周の中心からずれたときに測定精度が低下することが知られている。そこで従来は、その測定精度の低下を防ぐために経験的に厚い金属のシールドで磁気コア1全体を覆うことで対処していた。
【0097】
本願の発明者らは、次の点を実験により見出した。第一に、磁気コア1に、測定対象9の外周部に環状に生ずる環状の磁束以外の磁束が入ることによって、その測定精度が低下する。第二に、シールド200によって環状以外の磁束の侵入防止効果が得られ、その侵入防止効果が得られる周波数の下限は、そのシールド200の厚みが薄くなるに従って高くなる。第三に、磁気コア1が空気より高い透磁率を有する周波数帯域ではその磁気コア1の集磁効果によりシールド200がなくても環状以外の磁束の侵入による影響が低くなる。
【0098】
この知見に基づく本実施形態における電流センサ300は第1磁気コア10が第2磁気コア20より透磁率が高くなる第1周波数帯域以下の周波数において環状以外の磁束の侵入防止効果が基準以下になる薄さのシールド200で磁気コア1が覆われている。
【0099】
この構成では、第1磁気コア10が第2磁気コア20より透磁率が高くなる第1周波数帯域以下の周波数において環状以外の磁束の侵入防止効果が基準以下になる薄さのシールド200で磁気コア1を覆う構成にした。これにより、第1周波数帯域以下の周波数においても環状以外の磁束の侵入防止効果が基準より大きくなるようなシールド200を用いた場合に比べ、シールド200を薄くすることができる。したがって、電流センサ300を小型化及び軽量化することができ、電流センサ300を安価にすることができる。
【0100】
ここでいう環状以外の磁束の侵入防止効果(以下、単に侵入防止効果ともいう)は、侵入防止効果の一次的な効果及び二次的な効果のうちの一つの効果であればよい。例えば、侵入防止効果は、測定対象9の位置が磁気コア1の内周の中心からずれたときの測定精度の低下緩和効果のような、侵入防止効果によって生ずる二次的な効果であってもよい。
【0101】
そして、侵入防止効果の基準は、目的とする侵入防止効果が得られる状態から目的とする侵入防止効果が得られなくなる状態に変わる周波数における導電層の性能(例えば導電率)から定めることができる。例えば、侵入防止効果の基準は、磁気コア1の中心からの測定対象9の位置のずれに対応する測定値の仕様(例えば電流の許容誤差)、磁気コア1のシミュレーション結果、電流センサのシールド200の厚みを段階的に変更して実測した測定値(例えば電流値)からも定めることができる。
【0102】
また、この構成では、シールド200によって測定対象9の挿通方向に位置する磁気コア1の面が覆われており、シールド200が磁気コア1の一部のみ覆うものであっても効果を得ることができる。
【0103】
本実施形態の構成では、第1磁気コア10が第2磁気コア20より透磁率が高くなる第1周波数帯域以下の周波数において環状以外の磁束の侵入防止効果が基準以下になる薄さの導電層で測定対象9の挿通方向に位置する磁気コア1の面を覆っている。しかし、磁気的に並列に設けられた複数の磁気コアを合わせることによって空気の透磁率より高い透磁率を有する周波数帯域を広くすることができる。これにより、その周波数帯域以下の周波数で環状以外の磁束の侵入防止効果が基準以下になる薄さにすることによってさらにシールド200を薄くすることができるため、さらに電流センサ300を小型化、軽量化及び安価にすることができる。
【0104】
また、シールド200を薄くすることができることで、可撓性を有するような材質を用いてシールド200を形成ことができる。
【0105】
また、本実施形態における電流センサ300において、銅箔テープ202が構成する導電層は、帯状に形成され磁気コア1に対して巻回されるとともに、巻回された状態で重なる導電層の間に接着層206からなる絶縁層220が形成されている。
【0106】
この構成によれば、導電層を構成する銅箔テープ202は、一端部210と他端部212とが絶縁層220によって電気的に切り離されており、銅箔テープ202が構成する導電層によるワンターンコイルの形成を防止できる。これにより、銅箔テープ202が構成する導電層において、測定対象9からの磁束による誘起電流の発生を抑制できるので、銅箔テープ202が構成する導電層に誘起電流が流れる場合と比較して、電流の測定精度を向上できる。
【0107】
なお、第2実施形態では、銅箔テープ202の一端部210と他端部212とを、円環状に形成されたカバー5の外周面214側で重ねる場合について説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、次に示す第2実施形態の変形例のようにしてもよい。
【0108】
図11は、第2実施形態の変形例に係る電流センサ300の断面図であり、図1におけるII-II断面に相当する図である。
【0109】
第2実施形態の変形例に係る電流センサ300は、銅箔テープ202の一端部210と他端部212とが円環状に形成されたカバー5の内周面240側で重ねられている。
【0110】
このような構成においても、第2実施形態と同様の作用効果を奏することできる。
【0111】
(第3実施形態)
次に、図12を参照して、第3実施形態に係る電流センサ400について説明する。第3実施形態では、第2実施形態と異なる部分についてのみ説明するとともに、第2実施形態と同一又は同等部分については、同符号を付して説明を割愛する。
【0112】
この第3実施形態に係る電流センサ400は、第2実施形態の電流センサ300と比較して、電流センサ400の一部が、シールド200で形成された導電層で覆われた点が異なる。
【0113】
図12は、本発明の第3実施形態に係る電流センサ400を示す図であり、図1におけるII-II断面に相当する図が示されている。この電流センサ400は、磁気コア1を覆うカバー5及びカバー5に巻かれた巻線7を覆うシールド200を備えている。
【0114】
シールド200は、測定対象9(図1参照)の挿通方向SHに位置する磁気コア1の一端面230及び他端面232を覆うように設けられている。ここで、測定対象9の挿通方向SHは、環状に形成された磁気コア1の中心軸方向と言い換えることができる。
【0115】
シールド200は、一例として前述した銅箔テープ202で構成され、銅箔テープ202は、磁気コア1を覆うカバー5及びカバー5に巻かれた巻線7に貼り付けられている。これにより、磁気コア1及び巻線7は、銅箔テープ202が形成する導電層によって一部が覆われる。
【0116】
また、測定対象9の挿通方向SHに位置する磁気コア1の面である一端面230及び他端面232は、導電層で覆われている。
【0117】
以上の実施形態によれば、以下に示す効果を奏する。
【0118】
本実施形態における電流センサ400は、測定対象9に流れる電流の大きさを検出する。電流センサ400は、第1磁気コア10と、第1磁気コア10と磁気的に並列に設けられる第2磁気コア20と、を含む磁気コア1を備える。第1磁気コア10は、第1周波数帯域では第2磁気コア20よりも高い透磁率であり第1周波数帯域よりも高い第2周波数帯域では第2磁気コア20よりも低い透磁率である。電流センサ400は、第1周波数帯域と第2周波数帯域とを合わせた周波数帯域における電流の大きさを検出する。
【0119】
第1磁気コア10と第2磁気コア20とは、測定対象9が内部に挿通される環状の磁気コア1として形成される。そして、測定対象9の挿通方向に位置する磁気コア1の面(230、232)が導電層で覆われている。
【0120】
また、本実施形態における電流センサ400は、磁気コア1に対してトロイダル方向に沿うようにポロイダル方向に巻回される巻線7を更に備え、導電層は、磁気コア1及び巻線7の一部を覆う。
【0121】
このような構成に係る電流センサ400においても、第1実施形態及び第2実施形態と同等部分については、同様の作用効果を奏することができる。
【0122】
また、本実施形態の電流センサ400のように、測定対象9の挿通方向に位置する磁気コア1の面(230、232)が金属層204からなる導電層(204)で覆われている。
【0123】
本願の発明者は、測定対象9の挿通方向に位置する導電層を設けると他の方向に導電層を設けた場合に比べ、その導電層による効果が大きいことを見出した。
【0124】
この導電層によって、測定対象9に流れる電流が形成する磁束のうち、磁気コア1の一端面230及び他端面232から磁気コア1内に侵入する磁束を抑制することができる。これにより、磁気コア1に侵入する磁束が測定精度に与える影響が抑えられる。
【0125】
このため、測定対象9が円環状の磁気コア1の中心からずれて配置され、磁気コア1の特定箇所に近接する場合であっても、測定精度に与える影響を抑制することができ、電流の測定精度が向上する。
【0126】
なお、第3実施形態では、測定対象9の挿通方向SHに位置する磁気コア1の一端面230及び他端面232が導電層(204)で覆われた場合を例に挙げて説明したが、これに限定されるものではない。例えば、次に示す第4実施形態のように構成してもよい。
【0127】
(第4実施形態)
次に、図13を参照して、第4実施形態に係る電流センサ500について説明する。第4実施形態では、第2実施形態と異なる部分についてのみ説明するとともに、第2実施形態と同一又は同等部分については、同符号を付して説明を割愛する。
【0128】
この第4実施形態に係る電流センサ500は、第2実施形態の電流センサ300と比較して、電流センサ500の一部がシールド200で形成された導電層(204)で覆われた点が異なる。
【0129】
図13は、本発明の第4実施形態に係る電流センサ500を示す図であり、図1におけるII-II断面に相当する図が示されている。この電流センサ500は、磁気コア1を覆うカバー5及びカバー5に巻かれた巻線7を覆うシールド200を備えている。
【0130】
シールド200は、磁気コア1の内周面240を覆うように設けられている。これにより、環状に形成された磁気コア1の内周面240は、導電層(204)で覆われている。
【0131】
シールド200は、一例として前述した銅箔テープ202で構成され、銅箔テープ202は、磁気コア1を覆うカバー5に巻かれた巻線7に貼り付けられている。これにより、磁気コア1及び巻線7は、銅箔テープ202が形成する金属製の膜によって一部が覆われる。
【0132】
以上の実施形態によれば、以下に示す効果を奏する。
【0133】
本実施形態における電流センサ500は、測定対象9に流れる電流の大きさを検出する。電流センサ500は、第1磁気コア10と、第1磁気コア10と磁気的に並列に設けられる第2磁気コア20と、を含む磁気コア1を備える。第1磁気コア10は、第1周波数帯域では第2磁気コア20よりも高い透磁率であり第1周波数帯域よりも高い第2周波数帯域では第2磁気コア20よりも低い透磁率である。電流センサ500は、第1周波数帯域と第2周波数帯域とを合わせた周波数帯域における電流の大きさを検出する。
【0134】
第1磁気コア10と第2磁気コア20とは、測定対象9が内部に挿通される環状の磁気コア1として形成される。そして、環状の磁気コア1の内周面240が導電層で覆われている。
【0135】
また、本実施形態における電流センサ500は、磁気コア1に対してトロイダル方向に沿うようにポロイダル方向に巻回される巻線7を更に備え、導電層は、磁気コア1及び巻線7を覆う。
【0136】
本願の発明者は、測定対象の内周面に導電層を設けると、測定対象の挿通方向に位置する導電層を設けた場合の次にその導電層による効果が大きいことを見出した。
【0137】
このように、環状の磁気コア1の内周面240が導電層で覆われている電流センサ500においても、第1実施形態から第3実施形態に記載した構成と同等部分については、同様の作用効果を奏することができる。
【0138】
なお、第2実施形態から第4実施形態では、前述したシールド200の構造を第1実施形態の電流センサ100に適用した場合について説明したが、これに限定されるものではない。例えば、第1実施形態の各変形例の電流センサ100に、第2実施形態から第4実施形態のシールド200の構造を適用してもよい。
【0139】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0140】
上記実施形態では、磁気コア1は、第1磁気コア10と、第2磁気コア20と、第3磁気コア30と、を有するが、これに限らず、周波数特性の異なる複数の磁気コアを有していればよい。
【0141】
例えば、磁気コア1は、第1磁気コア10と第2磁気コア20のみを有していてもよく、第1磁気コア10と第3磁気コア30のみを有していてもよく、第2磁気コア20と第3磁気コア30のみを有していてもよい。
【0142】
また、磁気コア1は、第1磁気コア10,第2磁気コア20,第3磁気コア30の他に、周波数特性の異なる第4磁気コア(図示省略)を更に有していてもよい。
【0143】
また、電流センサ100は巻線7を備えるが、巻線7を設けずに、円環状の一部が切断された円弧状の磁気コアを有し、当該切断部分にホール素子を設けて、測定対象9に流れる電流の大きさを測定するようにしてもよい。
【0144】
また、電流センサ100は、貫通型電流センサであるが、これに代えて例えば分割型(クランプ型)電流センサ等であってもよい。
【0145】
また、シールド200は、100μm以下のものに限らず、100μmより厚くてもよい。
【0146】
また、シールド200は、金属箔を張り付けたり巻き付けしたもの限られず、導電材料を筐体に蒸着したりメッキ処理したりして形成してもよい。
【0147】
また、シールド200は、金属を用いて形成すると、同じ電磁シールドの性能の他の材質のシールドに比べ薄くできるという効果がある。金属を用いて形成したシールド200は、他の材料に比べて導電率が高いことから減衰損が大きくなり電磁シールドとしての性能が上がるため、同じ電磁シールドの性能の他の材質のシールドに比べ、金属を用いて形成されたシールド200は薄くできるためである。さらに、金属の中でも導電率の高い銅やアルミを用いて形成すると、さらに薄くできるという効果がある。
【0148】
なお、磁気コア1が空気より高い透磁率を有する周波数帯域では、その磁気コア1の集磁効果によりシールド200がなくても環状以外の磁束の侵入による影響が低くなることを前述した。しかし、磁気コア1の透磁率が高くなるほど環状以外の磁束の侵入による影響を低くできる。
【符号の説明】
【0149】
100、300、400、500 電流センサ
1 磁気コア
6 フラックスゲートセンサ(磁気検出素子)
7 巻線
9 測定対象
10 第1磁気コア
20 第2磁気コア
30 第3磁気コア
200 シールド
204 金属層(導電層)
220 絶縁層
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13