(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-09
(45)【発行日】2024-08-20
(54)【発明の名称】サーモスタット装置
(51)【国際特許分類】
F16K 31/68 20060101AFI20240813BHJP
F01P 7/16 20060101ALI20240813BHJP
【FI】
F16K31/68 A
F01P7/16 502B
F01P7/16 502E
(21)【出願番号】P 2021012284
(22)【出願日】2021-01-28
【審査請求日】2023-10-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000228741
【氏名又は名称】日本サーモスタット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【氏名又は名称】木下 茂
(72)【発明者】
【氏名】西村 哲弥
(72)【発明者】
【氏名】沼田 雅之
【審査官】所村 陽一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-8568(JP,A)
【文献】特開2018-25269(JP,A)
【文献】特開2006-329272(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 31/68
F01P 7/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内側に弁座が形成されるハウジングと、
一端が該ハウジングの内側に挿入されて温度に応じて伸縮作動するサーモエレメントと、
前記サーモエレメントの外周に設けられて前記サーモエレメントの伸縮作動により、前記弁座に離着座する弁体と、
前記弁体を弁座側へ付勢する付勢部材と、
前記付勢部材の一端を支持するフレームと、を備え、
前記ハウジングは、
一端に開口を有して内側に前記弁座が形成される中空の本体部と、
前記本体部の開口縁から起立して、先端に前記フレームが引っ掛かる一対の脚と、
前記開口縁に設けられて前記脚の根元の両側部に連なるリブと、を有し、
前記脚の外側面は、前記脚の先端側から見て円弧状に形成されており、
前記リブの外側面は、前記脚の前記外側面から一対の前記脚の前記外側面を繋ぐ円の内側へ向かうよう、湾曲又は傾斜することを特徴とするサーモスタット装置。
【請求項2】
前記リブの外側面の曲率半径は、前記脚の外側面の曲率半径よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載されたサーモスタット装置。
【請求項3】
前記リブの内側面には、凹形状の窪み部が形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載されたサーモスタット装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はサーモスタット装置に関する。
【背景技術】
【0002】
サーモスタット装置の中には、例えば特許文献1に開示されるように(
図5参照)、中空のハウジング60と、一端がハウジング60内に挿入されて温度に応じて伸縮するサーモエレメント51と、サーモエレメント51の伸縮により開閉する弁体52と、前記弁体52を閉じる方向へ付勢するコイルスプリング53と、コイルスプリング53の一端を支えるフレーム65とを備え、このフレーム65をハウジング60の一対の脚62の先端に引っ掛けるものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図5に示すような、ハウジング60の脚62の先端にばね受けとして機能するフレーム65を引っ掛けるサーモスタット装置では、脚62にコイルスプリング53のばね荷重が作用する。このような場合であっても、ハウジング60がアルミ等の金属製の場合には、脚62の耐久性に問題はない。
【0005】
しかしながら、コストの削減、軽量化等を目的として、一対の脚62を含むハウジング60を金属製からそのまま合成樹脂製に変更した場合、耐久性が低下して、ばね荷重によって一対の脚62の先端が互いに離れて一対の脚62が開くように変形し、フレーム65が脱落する虞がある。
【0006】
尚、一対の脚62の開きを抑制する方法としては、脚の厚み、幅、又は長さを大きくしたり、一対の脚62の外側に補強用のリブを設ける方法が考えられるが、そのようにした場合、大きな脚62又は補強用のリブがサーモスタット装置を搭載する相手側部材と干渉して搭載できなくなる虞がある。
具体的には、例えば、サーモスタット装置が自動車におけるエンジンの入口側に配置される場合、サーモスタット装置は、エンジンに冷却液を供給するウォーターポンプに取り付けられる。この場合、ウォーターポンプ側のサーモスタット装置を取り付けるための部材が相手側部材であり、この相手側部材には、サーモスタット装置の脚部及びその内側のサーモエレメント等を挿し込む取付孔が形成されている。この取付孔の大きさは、自由に変更できないことがあり、前述のように、サーモスタット装置の脚を大きくしたり、脚の外側に補強用のリブを設けたりすると、相手側部材の取付孔に挿入できなくなる虞がある。
換言すると、相手側部材の取付孔を変更せずにサーモスタット装置の脚を大きくしたり、脚の外側に補強用のリブを設けたりすると、脚の外側に設けられ、サーモスタット装置のハウジングと相手側部材との間をシールするガスケットのシールラインが成立せずに、ガスケットの取付スペースを確保できなくなる虞がある。
【0007】
本発明は、前記した点に着目してなされたものであり、ハウジングの脚の開きを抑制できるとともに、搭載性の低下を抑制できるサーモスタット装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記した課題を解決するために、本発明に係るサーモスタット装置は、内側に弁座が形成されるハウジングと、一端が該ハウジングの内側に挿入されて温度に応じて伸縮作動するサーモエレメントと、前記サーモエレメントの外周に設けられて前記サーモエレメントの伸縮作動により、前記弁座に離着座する弁体と、前記弁体を弁座側へ付勢する付勢部材と、前記付勢部材の一端を支持するフレームと、を備え、前記ハウジングは、一端に開口を有して内側に前記弁座が形成される中空の本体部と、前記本体部の開口縁から起立して、先端に前記フレームが引っ掛かる一対の脚と、前記開口縁に設けられて前記脚の根元の両側部に連なるリブと、を有し、前記脚の外側面は、前記脚の先端側から見て円弧状に形成されており、前記リブの外側面は、前記脚の前記外側面から一対の前記脚の前記外側面を繋ぐ円の内側へ向かうよう、湾曲又は傾斜することを特徴とする。
【0009】
このような構成によれば、一対の脚の根元両側部に連なるリブの外側面が、一対の脚の外側面を繋ぐ円の内側へ向かうよう、湾曲又は傾斜するので、一対の脚の先端を開く(離間させる)方向に加わる力に対し、耐久性を向上できる。また、リブが一対の脚の外側面を繋ぐ円から外側へ出ず、前記円の内側に位置するので、サーモスタット装置を相手方部材に搭載する際に、リブが相手側部材に干渉することがなく、搭載性を向上できる。
さらには、ハウジングと相手方部材との間をシールするガスケットのシールラインは、脚の外側を通るが、その脚の外側以外の部分では、シールラインを内側へ配置できる。このため、ハウジングを小型にでき、サーモスタット装置の軽量化及び取付スペースの省スペース化が可能になる。
【0010】
また、前記サーモスタット装置において、前記リブの外側面の曲率半径を、前記脚の外側面の曲率半径よりも小さくしてもよい。このようにすると、リブの長さを確保しつつ、リブの内側への突出量を抑制できる。さらに、脚の外側面とリブの外側面との境界に角(エッジ)ができるのを抑制できるので、この角に応力が集中するのを防ぐことができる。よって、上記構成によれば、脚の耐久性を高める上で、より有利である。
【0011】
また、前記サーモスタット装置において、前記リブの内側面に、凹形状の窪み部が形成されていてもよい。このようにすると、リブの内側への突出量を抑制しつつ、リブの幅をなるべく均一にできるので、ハウジングが合成樹脂で射出成型される場合に、成形精度を高めることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るサーモスタット装置によれば、ハウジングの脚の開きを抑制できるとともに、搭載性の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の一実施の形態に係るサーモスタット装置を脚の先端側から見た斜視図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施の形態に係るサーモスタット装置の一部断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施の形態に係るサーモスタット装置の底面図である。
【
図4】
図4は、
図3のサーモスタット装置のハウジングの一部を拡大して示した拡大図である。
【
図5】
図5は、従来のサーモスタット装置の一部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施の形態に係るサーモスタット装置を図面に基づき説明する。
図1から
図3に示す本実施の形態に係るサーモスタット装置10は、例えばエンジンの冷却液系に設けられる。具体的には、サーモスタット装置10は、ラジエータとエンジンとを繋ぐ冷却路におけるエンジンの入口側又は出口側に設けられ、冷却液の温度に応じて冷却路を開閉し、エンジンを循環する冷却液温度を制御する。
【0015】
前記サーモスタット装置10は、
図2に示すように、中空のハウジング1と、このハウジング1内に一端が挿入されるサーモエレメント17と、このサーモエレメント17の外周に設けられ、冷却路を開閉する弁体15と、この弁体15を閉じ方向へ付勢する付勢部材としてのコイルスプリング16と、コイルスプリング16の一端を支持するフレーム19とを備える。以下、説明の便宜上、
図2に示すサーモスタット装置10の上下を単に「上」「下」という。
【0016】
本実施の形態において、ハウジング1は、合成樹脂により形成されている。ハウジング1は、下端に開口20cが形成される略有頂筒状の本体部20と、この本体部20の下端開口縁から下方へ相対向して延びる一対の脚21,21と、本体部20の頂部に設けられるラジエータ側の接続口23と、本体部20の下端外周から外側へ張り出す一対のフランジ2,2とを有する。冷却液は、接続口23、本体部20の内側、及び開口20cを通過するようになっており、これらは冷却路の一部を構成する。
一対のフランジ2,2には、それぞれボルト孔2aが形成される。ボルト孔2aには、金属製のスリーブ(符示せず)が圧入され、このスリーブにサーモスタット装置10を相手側部材へ固定するためのボルト(図示せず)が挿通される。このボルト孔2aよりも内側に位置する本体部20の下端開口縁には、開口20cを取り囲むように環状の溝20dが形成され、この溝20dにガスケット25が装着される。
このガスケット25は、サーモスタット装置10と相手側部材との間をシールし、サーモスタット装置10を相手側部材に取り付けた状態で、ハウジング1内を流れる冷却液が外に漏れるのを防止する。本体部20におけるガスケット25よりも内側(内部側)が、ハウジング1の内側である。
このハウジング1の内側に位置する本体部20の下端開口縁の直上部内周に、環状の弁座20bが形成されており、この弁座20bに弁体15が離着座することで、冷却路が開閉される。
【0017】
ハウジング1の内側に、サーモエレメント17が挿入される。サーモエレメント17は、本体部20の軸芯部に、その軸芯線に沿うように配置される。サーモエレメント17は、内部にワックス等の熱膨張体が封入されるエレメントケース30と、このエレメントケース30に進退可能に挿入されるピストン3とを備える。
そして、エレメントケース30周囲の冷却液の温度が上昇し、内部の熱膨張体が膨張すると、ピストン3がエレメントケース30から退出し、サーモエレメント17が伸長する。反対に、エレメントケース30周囲の冷却液の温度が低下し、内部の熱膨張体が収縮すると、ピストン3がエレメントケース30に進入し、サーモエレメント17が収縮する。このように、サーモエレメント17は、温度に応じて伸縮作動する。
サーモエレメント17の上端に位置するピストン3の先端は、本体部20の内側、頂部に形成された筒状のボス部20aに篏合する。このため、ハウジング1に対するピストン3の上方への移動が阻止される。よって、サーモエレメント17が伸縮作動すると、ハウジング1に対するピストン3の位置は変わらず、エレメントケース30が上下に移動する。
【0018】
エレメントケース30の外周に、弁体15が固定されている。これにより、弁体15は、サーモエレメント17の伸縮に伴ってエレメントケース30とともに上下に移動する。そして、サーモエレメント17が伸長して弁体15が下方へ移動すると、弁体15が弁座20bから離座してこれらの間を冷却液が通過できるようになるので、冷却路の連通が許容される。反対に、サーモエレメント17が収縮し、弁体15が上方へ移動して弁座20bに着座すると、冷却路の連通が遮断される。このように、弁体15は、弁座20bに離着座して冷却路を開閉する。
【0019】
弁体15の背面には、コイルスプリング16の上端が当接する。このコイルスプリング16は、サーモエレメント17の周りを囲うように配置されている。また、コイルスプリング16の下端(一端)は、フレーム19で支えられている。
【0020】
フレーム19は、ハウジング1に形成される一対の脚21,21の先端部に引っ掛かり、ハウジング1に対する下方への移動が阻止される。また、フレーム19の中心部には、貫通孔19aが形成されている。この貫通孔19aに、エレメントケース30が上下動自在に挿通される。つまり、エレメントケース30は、フレーム19に対して上下動可能となっている。
【0021】
コイルスプリング16は、圧縮ばねであり、弁体15とフレーム19との間に圧縮された状態で配置される。このため、弁体15は、コイルスプリング16で上方(弁座20b側)へ付勢される。この構成において、サーモエレメント17の周囲の冷却液が高温になり、サーモエレメント17が伸長すると、弁体15がコイルスプリング16の付勢力に抗して下方へ移動して、弁座20bから離れる。その一方、サーモエレメント17の周囲の冷却液が低温になり、サーモエレメント17が収縮すると、弁体15がコイルスプリング16の付勢力に従って上方へ移動して、弁座20bに近づく。
【0022】
図1に示すように、ハウジング1は、一対の脚21,21と、各脚21の根元に配置される補強用のリブ22とを有する。また、一対の脚21,21の先端には、それぞれ引掛け部21aが形成されており、この引掛け部21aにフレーム19に形成された係合部19bが引っ掛かる。
【0023】
ハウジング1を構成する各部において、本体部20の中心側が内側、反対側(外周側、中心から離れる側)が外側である。
図4に示すように、各脚21を下方(先端側)から見た状態で、脚21の外側面21bは開口20cの縁に沿うように円弧状に湾曲する。一対の脚21,21の外側面を繋ぐ円を、円Cとする。各脚21の根元には、その脚21の根元、両側部から延長するように、リブ22が形成されている。
【0024】
各リブ22の外側面22bは、脚21の外側面21bに連なり、この脚21の外側面21bから円Cの内側へ向けて湾曲する。これにより、一対の脚21,21の先端を開く(離間させる)方向に加わる力に対し、耐久性を向上できる。よって、ハウジング1の脚21の開きを抑制できる。
特に、サーモスタット装置10が、エンジンの入口側に配置され、接続口23からラジエータを経由した冷却液が流入する場合には、この接続口側の冷却液の圧力で弁体15が開弁しないよう、コイルスプリング16のセット荷重を大きくする必要があり、脚21を開く方向へ作用する力が大きくなる。よって、このようなエンジン入口側に配置されるサーモスタット装置10に、本発明が適用されるのが特に有効である。しかし、本発明は、エンジン出口側に配置されるサーモスタット装置に適用されても良い。
また、上記構成によれば、リブ22全体が円Cよりも内側に配置されるため、サーモスタット装置10を相手方部材に搭載する際に、リブ22が相手側部材に干渉することがない。よって、上記構成によれば、補強用のリブ22を設けたとしても、サーモスタット装置10の搭載性が低下するのを抑制できる。
さらには、ハウジング1と相手方部材との間をシールするガスケット25のシールラインは、脚21の外側を通るが、その脚21の外側以外の部分では、シールラインを内側へ配置できる。このため、ハウジング1を小型にでき、サーモスタット装置10の軽量化及び取付スペースの省スペース化が可能になる。
なお、本実施の形態では、リブ22の外側面21bが湾曲しているが、この限りではなく、
図4中一点鎖線で記載するように、リブ22の外側面22bが、脚21の外側面21bから円Cの内側へ向かうよう傾斜していても良い。このような場合であっても、本実施の形態と同様に、ハウジング1の脚21の開きを抑制できるとともに、サーモスタット装置10の搭載性が低下するのを抑制できる。
【0025】
また、本実施の形態のサーモスタット装置10では、リブ22の外側面22bが湾曲し、その外側面22bの曲率半径R2が、脚21の外側面21bの曲率半径R1よりも小さい(R2<R1)。当該構成によれば、リブ22の長さを確保しつつ、リブ22の内側への突出量を抑制できるので、リブ22を円Cの内側へ向かうように形成しても、リブ22の内側に位置する弁体15等の設計変更を不要にできる。
さらに、上記構成によれば、脚21の外側面21bとリブ22の外側面22bとを曲線的に繋げることができ、脚21の外側面21bとリブ22の外側面22bとの間に角(エッジ)ができるのを抑制できるので、この角に応力が集中するのを抑制できる。よって、上記構成によれば、脚21の耐久性を高める上で、より有利である。
しかし、リブ22の外側面22bが湾曲する場合、その曲率半径R2は、脚21の外側面21bの曲率半径R1と同じであっても、それより大きくても良く、適宜変更できる。
【0026】
また、リブ22の内側面22cには、凹形状の窪み部22aが形成されている。より詳しくは、リブ22の内側面22cは、脚21の内側面21cに連なり、この脚21の内側面21cから外側へ湾曲して窪み部22aを形成する。当該構成によれば、リブ22の内側への突出量を抑制しつつ、リブ22の幅をなるべく均一にできるので、ハウジング1が合成樹脂で射出成型される場合に、成形精度を高めることができる。
しかし、リブ22の内側面22cに、窪み部22aを形成しなくてもよく、ハウジング1の素材及び成型方法も適宜変更できる。具体的には、ハウジング1は、金属製であっても良い。また、リブ22の高さ(厚さ)、幅、長さは、荷重負荷又は耐久条件に応じて、適宜変更できる。
【0027】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形、及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0028】
1 ハウジング
2 フランジ
3 ピストン
10 サーモスタット装置
15 弁体
16 コイルスプリング(付勢部材)
19 フレーム
19b 係合部
20 本体部
20a ボス部
20b 弁座
20c 開口
21 脚
21a 引掛け部
21b 脚の外側面
22 リブ
22a 窪み部
22b リブの外側面
C 一対の脚の外側面を繋ぐ円
R1 脚の外側面の曲率半径
R2 リブの外周面の曲率半径