(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-09
(45)【発行日】2024-08-20
(54)【発明の名称】ガラスおよび光学素子
(51)【国際特許分類】
G02B 1/00 20060101AFI20240813BHJP
C03C 3/16 20060101ALI20240813BHJP
C03C 3/21 20060101ALI20240813BHJP
【FI】
G02B1/00
C03C3/16
C03C3/21
(21)【出願番号】P 2021016560
(22)【出願日】2021-02-04
【審査請求日】2023-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 浩一
(72)【発明者】
【氏名】丹野 義剛
(72)【発明者】
【氏名】松本 奈緒美
【審査官】植野 孝郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/230649(WO,A1)
【文献】特開2005-247659(JP,A)
【文献】特開2005-154253(JP,A)
【文献】特開2013-151427(JP,A)
【文献】特開平9-301735(JP,A)
【文献】特開2005-306733(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 1/00- 1/08
G02B 3/00- 3/14
C03C 3/16- 3/21
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
P
5+の含有量が
27~43カチオン%であり、
Nbイオンの含有量が10~21カチオン%であり、
Li
+の含有量が
35カチオン%以上であり、
NbイオンおよびLi
+の合計含有量が48~70カチオン%であり、
Biイオンの含有量が0カチオン%を超え6カチオン%以下であり、
Ba
2+の含有量が5カチオン%以下であり、
Zr
4+の含有量が2カチオン%以下であり、
TiイオンおよびWイオンの合計含有量が
4カチオン%以下であり、
Li
+、Na
+およびK
+の合計含有量に対するLi
+
の含有量のカチオン比[Li
+/(Li
++Na
++K
+)]が
0.7以上であり、
P
5+
、B
3+
およびSi
4+
の合計含有量に対するTiイオン、Nbイオン、WイオンおよびBiイオンの合計含有量のカチオン比[(Ti+Nb+W+Bi)/(P
5+
+B
3+
+Si
4+
)]が0.7以下である、
酸化物ガラス。
【請求項2】
請求項1に記載の
酸化物ガラスからなる光学素子。
【請求項3】
透光部と、
波長380~1100nmの範囲の光の透過率が前記透光部より小さい遮光部とを一体に備え、
ガラス成分としてP
5+、Nbイオン、BiイオンおよびLi
+を含
み、
Li
+
の含有量が35カチオン%以上であり、
P
5+
の含有量が27~43カチオン%であり、
P
5+
、B
3+
およびSi
4+
の合計含有量に対するTiイオン、Nbイオン、WイオンおよびBiイオンの合計含有量のカチオン比[(Ti+Nb+W+Bi)/(P
5+
+B
3+
+Si
4+
)]が0.7以下であり、
TiイオンおよびWイオンの合計含有量が4カチオン%以下である酸化物ガラスからなり、
上記酸化物ガラスが以下の(i)および(ii)のうち1以上を満たす、光学素子。
(i)NbイオンおよびLi
+の合計含有量が50カチオン%以上である。
(ii)Li
+、Na
+およびK
+の合計含有量に対するLi
+の含有量のカチオン比[Li
+/(Li
++Na
++K
+)]が
0.7以上である。
【請求項4】
比重が3.5以下である
酸化物ガラスからなり、
厚さ1.0mmに換算して波長380nmにおける内部透過率が96%以上である透光部と、波長1100nmにおける光学密度ODが0.5以上である遮光部とを一体に備え、
上記透光部および上記遮光部のガラス組成が同じである、
請求項2または3に記載の光学素子。
【請求項5】
カバーガラスである、請求項2~4のいずれかに記載の光学素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスおよび光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、CCDやCMOSなどの撮像素子を内蔵した撮像モジュールが、携帯電話や情報携帯端末機器等に使用されている。
【0003】
撮像素子において、受光部の前面には、遮光枠付きカバーガラスが配置される。このようなカバーガラスは、撮像素子の受光部に直接入射する光を透過する透光部(透明部)を有する。遮光枠は、カバーガラスの透光部を囲むように形成され、迷光など間接的に受光部に入射する光を遮る働きを有する。遮光枠は、通常、カバーガラスの表面に、透光部とは異なる材料で別途形成される。
【0004】
ここで、特許文献1には、光を遮る着色層と、光を透過する透光部とを備えるガラスが提案されている。特許文献1のガラスによれば、光を遮る着色層に遮光枠(遮光部)の機能を持たせることができる。そうすると、1つのガラスで、遮光部および透光部を一体として備えるカバーガラスを製造できる。
【0005】
特許文献1のガラスを用いてカバーガラスを製造するには、可視光、すなわち波長380~1100nmの範囲の光の透過率が、透光部においてより高く、かつ、遮光部においてより低いことが求められる。
【0006】
また、カバーガラスは、一般的に、大型のガラスシートを複数枚に分割する方法で工業的に生産される。ガラスシートの重量が大きくなると、生産過程でガラスが破損しやすくなり、またガラスが反りやすくなる。そのため、カバーガラスの生産においては、比重の小さいガラスシートが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、可視光に対して優れた遮光性を有する遮光部と優れた透過性を有する透光部とを形成できる低比重のガラス、および、可視光に対して優れた遮光性を有する遮光部と優れた透過性を有する透光部とを備える低比重の光学素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)P5+の含有量が7~43カチオン%であり、
Nbイオンの含有量が10~21カチオン%であり、
Li+の含有量が20カチオン%以上であり、
NbイオンおよびLi+の合計含有量が48~70カチオン%であり、
Biイオンの含有量が0カチオン%を超え6カチオン%以下であり、
Ba2+の含有量が5カチオン%以下であり、
Zr4+の含有量が2カチオン%以下であり、
TiイオンおよびWイオンの合計含有量が5カチオン%以下であり、
Li+、Na+およびK+の合計含有量に対するLi含有量のカチオン比[Li+/(Li++Na++K+)]が0.5以上である、
酸化物ガラス。
【0010】
(2)上記(1)に記載のガラスからなる光学素子。
【0011】
(3)透光部と、可視光の透過率が前記透光部より小さい遮光部とを一体に備え、
ガラス成分としてP5+、Nbイオン、BiイオンおよびLi+を含む酸化物ガラスからなり、
上記酸化物ガラスが以下の(i)および(ii)のうち1以上を満たす、光学素子。
(i)NbイオンおよびLi+の合計含有量が50カチオン%以上である。
(ii)Li+、Na+およびK+の合計含有量に対するLi+の含有量のカチオン比[Li+/(Li++Na++K+)]が0.5以上である。
【0012】
(4)比重が3.5以下であるガラスからなり、
厚さ1.0mmに換算して波長380nmにおける内部透過率が96%以上である透光部と、波長1100nmにおける光学密度ODが0.5以上である遮光部とを一体に備え、
上記透光部および上記遮光部のガラス組成が同じである、光学素子。
【0013】
(5)カバーガラスである、(2)~(4)のいずれかに記載の光学素子。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、可視光に対して優れた遮光性を有する遮光部と優れた透過性を有する透光部とを形成できる低比重のガラス、および、可視光に対して優れた遮光性を有する遮光部と優れた透過性を有する透光部とを備える低比重の光学素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施態様の一例を示す模式図である。
【
図2】本発明の実施態様の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を、第1実施形態、第2実施形態、および第3実施形態に分けて説明する。第1~3実施形態では、カチオン%表示でのガラス組成に基づいて本発明を説明する。したがって、ガラス成分の含有量および合計含有量において、特記しない限り、「%」は「カチオン%」を意味する。
【0017】
カチオン%表示とは、全てのカチオン成分の含有量の合計を100%としたときのモル百分率をいう。また、合計含有量とは、複数種のカチオン成分の含有量(含有量が0%である場合も含む)の合計量をいう。また、カチオン比とは、カチオン%表示において、カチオン成分同士の含有量(複数種のカチオン成分の合計含有量も含む)の割合(比)をいう。
【0018】
なお、アニオン%とは、全てのアニオン成分の含有量の合計を100%としたときのモル百分率である。
【0019】
カチオン成分の価数(例えばB3+の価数は+3、Si4+の価数は+4、La3+の価数は+3)は、慣習により定まった値であり、ガラス成分としてのB、Si、Laを酸化物基準で表記する際、B2O3、SiO2、La2O3と表記するのと同様である。したがって、ガラス組成を分析する際、カチオン成分の価数まで分析しなくてもよい。また、アニオン成分の価数(例えばO2-の価数が-2)も慣習により定まった値であり、上記のように酸化物基準におけるガラス成分を、例えばB2O3、SiO2、La2O3と表記するのと同様である。したがって、ガラス組成を分析する際、アニオン成分の価数まで分析しなくてもよい。
【0020】
ガラス成分の含有量は、公知の方法、例えば、誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)等の方法で定量できる。また、本明細書および本発明において、構成成分の含有量が0%とは、この構成成分を実質的に含まないことを意味し、該成分が不可避的不純物レベルで含まれることを許容する。
【0021】
また、本明細書では、屈折率は、特記しない限り、黄色ヘリウムのd線(波長587.56nm)における屈折率ndをいう。
【0022】
アッベ数νdは、分散に関する性質を表す値として用いられるものであり、以下の式で表される。ここで、nFは青色水素のF線(波長486.13nm)における屈折率、nCは赤色水素のC線(656.27nm)における屈折率である。
νd=(nd-1)/(nF-nC)
【0023】
第1実施形態
第1実施形態に係る酸化物ガラスは、
P5+の含有量が7~43%であり、
Nbイオンの含有量が10~21%であり、
Li+の含有量が20%以上であり、
NbイオンおよびLi+の合計含有量が48~70%であり、
Biイオンの含有量が0%を超え6%以下であり、
Ba2+の含有量が5%以下であり、
Zr4+の含有量が2%以下であり、
TiイオンおよびWイオンの合計含有量が5%以下であり、
Li+、Na+およびK+の合計含有量に対するLi含有量のカチオン比[Li+/(Li++Na++K+)]が0.5以上である。
【0024】
第1実施形態に係るガラスは、酸化物ガラスであり、主に酸化物で形成される。本発明において、酸化物ガラスとは、アニオン成分としてO2-を含み、さらにO2-の含有量が80アニオン%以上のガラスをいう。
【0025】
すなわち、第1実施形態に係る酸化物ガラスは、アニオン成分としてO2-を含む。そして、第1実施形態に係る酸化物ガラスにおいて、O2-の含有量の下限は、好ましくは90アニオン%であり、さらには95アニオン%、97アニオン%、98アニオン%の順により好ましい。また、O2-の含有量の上限は、好ましくは100アニオン%であり、さらには99.5アニオン%、99アニオン%の順に多い方がより好ましい。O2-の含有量は100アニオン%であってもよい。
【0026】
第1実施形態に係る酸化物ガラスにおいては、F-の含有量の下限は、好ましくは0アニオン%であり、さらには0.1アニオン%、0.2アニオン%、0.3アニオン%の順により好ましい。F-の含有量は0アニオン%であってもよい。また、F-の含有量の上限は、好ましくは5.0アニオン%であり、さらには3.0アニオン%、1.0アニオン%、0.5アニオン%の順により好ましい。
【0027】
第1実施形態に係る酸化物ガラスは、アニオン成分として、F-およびO2-以外の成分を含んでいてもよい。F-およびO2-以外のアニオン成分として、Cl-、Br-、I-を例示できる。しかし、Cl-、Br-、I-は、いずれもガラスの熔融中に揮発しやすい。これらの成分の揮発によって、ガラスの特性が変動する、ガラスの均質性が低下する、熔融設備の消耗が著しくなる等の問題が生じる。したがって、Cl-の含有量は、好ましくは5.0アニオン%未満であり、さらには3.0アニオン%未満、1.0アニオン%未満、0.5アニオン%未満、0.3アニオン%未満の順により好ましい。また、Br-およびI-の合計含有量は、好ましくは5.0アニオン%未満であり、さらには3.0アニオン%未満、1.0アニオン%未満、0.5アニオン%未満、0.1アニオン%未満、0アニオン%の順により好ましい。
【0028】
第1実施形態に係る酸化物ガラスにおいて、P5+の含有量は7~43%である。P5+の含有量の下限は、好ましくは10%であり、さらには15%、22%、27%の順により好ましい。また、P5+の含有量の上限は、好ましくは40%であり、さらには37%、34%、32%の順により好ましい。
【0029】
P5+は、ガラスのネットワーク形成成分である。P5+の含有量を上記範囲とすることで、可視光に対して優れた遮光性を有する遮光部と優れた透過性を有する透光部とを形成でき、さらに低比重であるガラスが得られる。一方、P5+の含有量が多すぎると、化学的耐久性が悪化するおそれがあり、また熔融性が悪化するおそれもある。
【0030】
第1実施形態に係る酸化物ガラスにおいて、Nbイオンの含有量は10~21%である。Nbイオンの含有量の下限は、好ましくは11%であり、さらには12%、14%、16%の順により好ましい。また、Nbイオンの含有量の上限は、好ましくは20%であり、さらには19.5%、19%、18%の順により好ましい。Nbイオンは、Nb5+の他、価数の異なるNbイオンを含んでもよい。
【0031】
Nbイオンは、高屈折率化に寄与し、ガラスの着色を増大する成分である。また、ガラスの熱的安定性および化学的耐久性を改善する働きを有する。Nbイオンの含有量を上記範囲とすることで、可視光に対して優れた遮光性を有する遮光部と優れた透過性を有する透光部とを形成できるガラスが得られる。一方、Nbイオンの含有量が多すぎると、ガラスの耐失透性が悪化するおそれがあり、また透光部における短波長域(波長300~450nm)の光の透過率が悪化するおそれがある。
【0032】
第1実施形態に係る酸化物ガラスにおいて、Li+の含有量は20%以上である。Li+の含有量の下限は、好ましくは25%であり、さらには30%、35%、40%の順により好ましい。また、Li+の含有量の上限は、好ましくは60%であり、さらには55%、50%、47%の順により好ましい。
【0033】
Li+の含有量を上記範囲とすることで、可視光に対して優れた遮光性を有する遮光部と優れた透過性を有する透光部とを形成でき、さらに低比重であるガラスが得られる。また、ガラスに化学強化を施すことが容易となる。一方、Li+の含有量が多すぎると、ガラスの熱的安定性が低下するおそれがある。
【0034】
第1実施形態に係る酸化物ガラスにおいて、NbイオンおよびLi+の合計含有量は48~70%である。該合計含有量の下限は、好ましくは50%であり、さらには52%、54%、57%の順により好ましい。また、該合計含有量の上限は、好ましくは75%であり、さらには70%、66%、63%の順により好ましい。
【0035】
NbイオンおよびLi+の合計含有量を上記範囲とすることで、可視光に対して優れた遮光性を有する遮光部と優れた透過性を有する透光部とを形成でき、さらに低比重であるガラスが得られる。一方、該合計含有量が少なすぎると、遮光部における遮光性が低下するおそれがある。
【0036】
第1実施形態に係る酸化物ガラスにおいて、Biイオンの含有量は0%を超え6%以下である。Biイオンの含有量の下限は、好ましくは0.2%であり、さらには0.3%、0.4%、0.5%の順により好ましい。また、Biイオンの含有量の上限は、好ましくは5%であり、さらには4%、2%、1%の順により好ましい。Biイオンは、Bi3+の他、価数の異なるBiイオンを含んでもよい。
【0037】
Biイオンは、高屈折率化に寄与し、また、ガラスの着色を増大する働きを有する。Biイオンの含有量を上記範囲とすることで、可視光に対して優れた遮光性を有する遮光部と優れた透過性を有する透光部とを形成できるガラスが得られる。一方、Biイオンの含有量が多すぎると透光部における短波長域(波長300~450nm)の光の透過率が悪化するおそれがある。また、Biイオンの含有量が少なすぎると、遮光部における遮光性が低下するおそれがある。
【0038】
第1実施形態に係る酸化物ガラスにおいて、Ba2+の含有量は5%以下である。Ba2+の含有量の上限は、好ましくは4%であり、さらには3%、2%、1%の順により好ましい。また、Ba2+の含有量の下限は、好ましくは0%である。Ba2+の含有量は0%でもよい。
【0039】
Ba2+はガラスの熱的安定性、熔融性を改善させる働きを有する。Ba2+の含有量を上記範囲とすることで、低比重であるガラスが得られる。一方、Ba2+の含有量が多すぎると、比重が大きくなるおそれがあり、また、耐失透性が悪化するおそれがある。さらに、ガラスの熱的安定性が低下するおそれもある。
【0040】
第1実施形態に係る酸化物ガラスにおいて、Zr4+の含有量は2%以下である。Zr4+の含有量の上限は、好ましくは1.5%であり、さらには1%、0.5%の順により好ましい。また、Zr4+の含有量の下限は、好ましくは0%である。Zr4+の含有量は0%でもよい。
【0041】
Zr4+は、ガラスの熱的安定性を改善する働きを有する。Zr4+の含有量を上記範囲とすることで、可視光に対して優れた遮光性を有する遮光部と優れた透過性を有する透光部とを形成でき、さらに低比重であるガラスが得られる。一方、Zr4+の含有量が多すぎると、ガラスの熱的安定性および熔融性が低下する傾向がある。
【0042】
第1実施形態に係る酸化物ガラスにおいて、TiイオンおよびWイオンの合計含有量は5%以下である。該合計含有量の上限は、好ましくは4%であり、さらには3%、2%、1%の順により好ましい。また、該合計含有量の下限は、好ましくは0%である。該合計含有量は0%でもよい。
【0043】
TiイオンおよびWイオンの合計含有量を上記範囲とすることで、可視光に対して優れた遮光性を有する遮光部と優れた透過性を有する透光部とを形成できるガラスが得られる。一方、該合計含有量が多すぎると透光部における短波長域(波長300~450nm)の光の透過率が悪化するおそれがある。
【0044】
第1実施形態に係る酸化物ガラスにおいて、Li+、Na+およびK+の合計含有量に対するLi含有量のカチオン比[Li+/(Li++Na++K+)]は0.5以上である。該カチオン比の下限は、好ましくは0.7であり、さらには0.8、0.9、1の順により好ましい。該カチオン比は1でもよい。
【0045】
カチオン比[Li+/(Li++Na++K+)]を上記範囲とすることで、可視光に対して優れた遮光性を有する遮光部と優れた透過性を有する透光部とを形成でき、低比重であるガラスが得られる。一方、該カチオン比が小さすぎると、遮光部における遮光性が低下するおそれがある。
【0046】
第1実施形態に係る酸化物ガラスにおける、上記以外のガラス成分の含有量および比率について、以下に非制限的な例を示す。
【0047】
第1実施形態に係る酸化物ガラスにおいて、B3+の含有量の上限は、好ましくは20%であり、さらには15%、10%、8%の順により好ましい。また、B3+の含有量の下限は、好ましくは1%であり、さらには3%、5%、6%の順により好ましい。B3+の含有量は0%であってもよい。
【0048】
B3+は、ガラスのネットワーク形成成分であり、ガラスの熔融性を改善する働きを有する。一方、B3+の含有量が多すぎると、化学的耐久性が低下する傾向がある。そのため、B3+の含有量は上記範囲であることが好ましい。
【0049】
第1実施形態に係る酸化物ガラスにおいて、P5+の含有量に対するB3+の含有量のカチオン比[B3+/P5+]の上限は、好ましくは0.5であり、さらには0.45、0.4、0.35の順により好ましい。また、カチオン比[B3+/P5+]の下限は、好ましくは0である。カチオン比[B3+/P5+]は0であってもよい。
【0050】
第1実施形態に係る酸化物ガラスにおいて、Si4+の含有量の上限は、好ましくは10%であり、さらには7%、5%、3%、2%、1%の順により好ましい。また、Si4+の含有量の下限は、好ましくは0.1%であり、さらには0.2%、0.3%、0.4%、0.5%の順により好ましい。Si4+の含有量は0%であってもよい。
【0051】
Si4+は、ガラスのネットワーク形成成分であり、ガラスの熱的安定性、化学的耐久性、耐候性を改善する働きを有する。一方、Si4+の含有量が多すぎると、ガラスの熔融性が低下し、ガラス原料が熔け残る傾向がある。そのため、Si4+の含有量は上記範囲であることが好ましい。
【0052】
第1実施形態に係る酸化物ガラスにおいて、Al3+の含有量の上限は、好ましくは10%であり、さらには7%、5%、3%、1%の順により好ましい。また、Al3+の含有量の下限は、好ましくは0%である。Al3+の含有量は0%であってもよい。
【0053】
Al3+は、ガラスの化学的耐久性、耐候性を改善する働きを有する。一方、Al3+の含有量が多すぎると、ガラスの熱的安定性が低下し、ガラス転移温度Tgが上昇して、熔融性が低下しやすい。そのため、Al3+の含有量は上記範囲であることが好ましい。
【0054】
第1実施形態に係る酸化物ガラスにおいて、P5+、B3+、Si4+およびAl3+の合計含有量[P5++B3++Si4++Al3+]の下限は、好ましくは29%であり、さらには31%、33%、34%の順により好ましい。また、合計含有量[P5++B3++Si4++Al3+]の上限は、好ましくは50%であり、さらには44%、41%、38%の順により好ましい。
【0055】
第1実施形態に係る酸化物ガラスにおいて、Tiイオンの含有量は少ない方が好ましく、その上限は、好ましくは2.0%であり、さらには1.5%、1.0%、0.5%の順に小さい方がより好ましい。Tiイオンの含有量は0%でもよい。ここで、Tiイオンは、Ti4+、Ti3+の他、価数の異なるTiイオンを含んでもよい。
【0056】
Tiイオンは、Nbイオン、WイオンおよびBiイオンと同様に、高屈折率化に大きく寄与し、また、ガラスの着色を増大する働きを有する。一方、Tiイオンの含有量が多すぎると、透光部における短波長域(波長300~450nm)の光の透過率が悪化するおそれがある。また、ガラスの熔融性が低下し、ガラス原料が熔け残る傾向がある。そのため、Tiイオンの含有量は上記範囲であることが好ましい。
【0057】
第1実施形態に係る酸化物ガラスにおいて、Wイオンの含有量は少ない方が好ましく、その上限は、好ましくは1.5%であり、さらには1.0%、0.5%の順に小さい方がより好ましい。Wイオンの含有量は0%でもよい。Wイオンは、W6+の他、価数の異なるWイオンを含んでもよい。
【0058】
Wイオンは、高屈折率化に寄与し、また、ガラスの着色を増大する働きを有する。Wイオンの含有量が多すぎると、透光部における短波長域(波長300~450nm)の光の透過率が悪化するおそれがある。そのため、Wイオンの含有量は上記範囲であることが好ましい。
【0059】
第1実施形態に係る酸化物ガラスにおいて、Tiイオン、NbイオンおよびWイオンの合計含有量[Ti+Nb+W]の下限は、好ましくは10%であり、さらには11%、12%、14%、16%の順により好ましい。また、合計含有量[Ti+Nb+W]の上限は、好ましくは21%であり、さらには20%、19.5%、19%、18%の順により好ましい。
【0060】
第1実施形態に係る0ガラスにおいて、Tiイオン、Nbイオン、WイオンおよびBiイオンの合計含有量[Ti+Nb+W+Bi]の上限は、好ましくは11%であり、さらには12%、14%、16%の順により好ましい。また、合計含有量[Ti+Nb+W+Bi]の下限は、好ましくは21.5%であり、さらには20.5%、20%、19%の順により好ましい。
【0061】
第1実施形態に係る酸化物ガラスにおいて、P5+、B3+およびSi4+の合計含有量に対するTiイオン、Nbイオン、WイオンおよびBiイオンの合計含有量のカチオン比[(Ti+Nb+W+Bi)/(P5++B3++Si4+)]の下限は、好ましくは0.36であり、さらには0.38、0.4、0.42の順により好ましい。また、カチオン比[(Ti+Nb+W+Bi)/(P5++B3++Si4+)]の上限は、好ましくは0.8であり、さらには0.75、0.7、0.64の順により好ましい。
【0062】
第1実施形態に係る酸化物ガラスにおいて、Ta5+の含有量の上限は、好ましくは5%であり、さらには3%、2%、1%の順により好ましい。また、Ta5+の含有量の下限は、好ましくは0%である。Ta5+の含有量は0%であってもよい。
【0063】
Ta5+は、ガラスの熱的安定性を改善する働きを有する。一方、Ta5+の含有量が多すぎると、ガラスが低屈折率化し、また熔融性が低下する傾向がある。そのため、Ta5+の含有量は上記範囲であることが好ましい。
【0064】
第1実施形態に係る酸化物ガラスにおいて、Na+の含有量の上限は、好ましくは7%であり、さらには5%、3%、1%の順により好ましい。また、Na+の含有量の下限は、好ましくは0%である。Na+の含有量は0%であってもよい。
【0065】
ガラスがNa+を含有することで、ガラスに化学強化を施すことが容易となる。一方、Na+の含有量が多すぎると、ガラスの熱的安定性が低下するおそれがある。Na+の含有量が多くなると、ガラスの熱的安定性を保持するためにLi+の含有量を低減させる必要があり、結果として、可視光に対して優れた遮光性を有する遮光部と優れた透過性を有する透光部とを形成できないおそれがある。そのため、Na+の含有量は上記範囲であることが好ましい。
【0066】
第1実施形態に係る酸化物ガラスにおいて、Li+およびNa+の合計含有量[Li++Na+]の上限は、好ましくは60%であり、さらには55%、50%、47%の順により好ましい。また、合計含有量[Li++Na+]の下限は、好ましくは20%であり、さらには25%、30%、35%、40%の順により好ましい。
【0067】
第1実施形態に係る酸化物ガラスにおいて、K+の含有量の上限は、好ましくは7%であり、さらには5%、3%、1%の順により好ましい。また、K+の含有量の下限は、好ましくは0%である。K+の含有量は0%であってもよい。
【0068】
K+は、ガラスの熱的安定性を改善する働きを有する。一方、K+の含有量が多すぎると、熱的安定性が低下する傾向がある。K+の含有量が多くなると、ガラスの熱的安定性を保持するためにLi+の含有量を低減させる必要があり、結果として、可視光に対して優れた遮光性を有する遮光部と優れた透過性を有する透光部とを形成できないおそれがある。したがって、K+の含有量は上記範囲であることが好ましい。
【0069】
第1実施形態に係る酸化物ガラスにおいて、Rb+の含有量の上限は、好ましくは5%であり、さらには3%、1%、0.5%の順により好ましい。また、Rb+の含有量の下限は、好ましくは0%である。Rb+の含有量は0%であってもよい。
【0070】
第1実施形態に係る酸化物ガラスにおいて、Cs+の含有量の上限は、好ましくは5%であり、さらには3%、1%、0.5%の順により好ましい。また、Cs+の含有量の下限は、好ましくは0%である。Cs+の含有量は0%であってもよい。
【0071】
Rb+およびCs+は、ガラスの熔融性を改善する働きを有する。一方、これらの含有量が多すぎると、屈折率ndが低下し、また熔解中にガラス成分の揮発が増加するおそれがある。そのため、Rb+およびCs+の各含有量は、それぞれ上記範囲であることが好ましい。
【0072】
第1実施形態に係る酸化物ガラスにおいて、Mg2+の含有量の上限は、好ましくは15%であり、さらには10%、5%、3%、1%の順により好ましい。また、Mg2+の含有量の下限は、好ましくは0%である。Mg2+の含有量は0%であってもよい。
【0073】
第1実施形態に係る酸化物ガラスにおいて、Ca2+の含有量の上限は、好ましくは15%であり、さらには10%、5%、3%、1%の順により好ましい。また、Ca2+の含有量の下限は、好ましくは0%である。Ca2+の含有量は0%であってもよい。
【0074】
第1実施形態に係る酸化物ガラスにおいて、Sr2+の含有量の上限は、好ましくは15%であり、さらには10%、5%、3%、1%の順により好ましい。また、Sr2+の含有量の下限は、好ましくは0%である。Sr2+の含有量は0%であってもよい。
【0075】
Mg2+、Ca2+、およびSr2+は、いずれもガラスの熱的安定性、熔融性を改善させる働きを有する。一方、これらの含有量が多すぎると、高屈折率性が損なわれ、また、ガラスの熱的安定性が低下するおそれがある。そのため、これらガラス成分の各含有量は、それぞれ上記範囲であることが好ましい。
【0076】
第1実施形態に係る酸化物ガラスにおいて、Mg2+、Ca2+、Sr2+およびBa2+の合計含有量[Mg2++Ca2++Sr2++Ba2+]の上限は、好ましくは30%であり、さらには25%、20%、18%、15%、10%、5%の順により好ましい。また、該合計含有量の下限は、好ましくは0%である。該合計含有量は0%であってもよい。
【0077】
第1実施形態に係る酸化物ガラスにおいて、Zn2+の含有量の上限は、好ましくは8%であり、さらには6%、4%、2%の順により好ましい。また、Zn2+の含有量は少ない方が好ましく、その下限は、好ましくは1%であり、さらには0.8%、0.6%、0.4%、0%の順により好ましい。Zn2+の含有量は0%であってもよい。
【0078】
Zn2+は、ガラスの熱的安定性を改善する働きを有する。一方、Zn2+の含有量が多すぎると、熔融性が悪化するおそれがある。そのため、Zn2+の含有量は上記範囲であることが好ましい。
【0079】
第1実施形態に係る酸化物ガラスにおいて、Ga3+の含有量の上限は、好ましくは3%であり、さらには2%、1%の順により好ましい。また、Ga3+の含有量の下限は、好ましくは0%である。Ga3+の含有量は0%であってもよい。
【0080】
第1実施形態に係る酸化物ガラスにおいて、In3+の含有量の上限は、好ましくは3%であり、さらには2%、1%の順により好ましい。また、In3+の含有量の下限は、好ましくは0%である。In3+の含有量は0%であってもよい。
【0081】
第1実施形態に係る酸化物ガラスにおいて、Sc3+の含有量の上限は、好ましくは3%であり、さらには2%、1%の順により好ましい。また、Sc3+の含有量の下限は、好ましくは0%である。Sc3+の含有量は0%であってもよい。
【0082】
第1実施形態に係る酸化物ガラスにおいて、Hf4+の含有量の上限は、好ましくは3%であり、さらには2%、1%の順により好ましい。また、Hf4+の含有量の下限は、好ましくは0%である。Hf4+の含有量は0%であってもよい。
【0083】
第1実施形態に係る酸化物ガラスにおいて、Lu3+の含有量の上限は、好ましくは3%であり、さらには2%、1%の順により好ましい。また、Lu3+の含有量の下限は、好ましくは0%である。Lu3+の含有量は0%であってもよい。
【0084】
第1実施形態に係る酸化物ガラスにおいて、Ge4+の含有量の上限は、好ましくは3%であり、さらには2%、1%の順により好ましい。また、Ge4+の含有量の下限は、好ましくは0%である。Ge4+の含有量は0%であってもよい。
【0085】
第1実施形態に係る酸化物ガラスにおいて、La3+の含有量の上限は、好ましくは5%であり、さらには4%、3%の順により好ましい。また、La3+の含有量の下限は、好ましくは0%である。La3+の含有量は0%であってもよい。
【0086】
第1実施形態に係る酸化物ガラスにおいて、Gd3+の含有量の上限は、好ましくは5%であり、さらには4%、3%の順により好ましい。また、Gd3+の含有量の下限は、好ましくは0%である。Gd3+の含有量は0%であってもよい。
【0087】
第1実施形態に係る酸化物ガラスにおいて、Y3+の含有量の上限は、好ましくは5%であり、さらには4%、3%の順により好ましい。また、Y3+の含有量の下限は、好ましくは0%である。Y3+の含有量は0%であってもよい。
【0088】
第1実施形態に係る酸化物ガラスにおいて、Yb3+の含有量の上限は、好ましくは3%であり、さらには2%、1%の順により好ましい。また、Yb3+の含有量の下限は、好ましくは0%である。Yb3+の含有量は0%であってもよい。
【0089】
第1実施形態に係る酸化物ガラスのカチオン成分は、主として上述の成分、すなわち、必須成分としてP5+、Nbイオン、Li+、Biイオン、任意成分として、Ba2+、Zr4+、B3+、Si4+、Al3+、Tiイオン、Wイオン、Ta5+、Na+、K+、Rb+、Cs+、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Zn2+、Ga3+、In3+、Sc3+、Hf4+、Lu3+、Ge4+、La3+、Gd3+、Y3+およびYb3+で構成されていることが好ましく、上述の成分の合計含有量は、95%よりも多くすることが好ましく、98%よりも多くすることがより好ましく、99%よりも多くすることがさらに好ましく、99.5%よりも多くすることが一層好ましい。
【0090】
本実施形態に係る酸化物ガラスは、基本的に上記成分により構成されることが好ましいが、本発明の作用効果を妨げない範囲において、その他の成分を含有させることも可能である。
【0091】
例えば、本実施形態に係る酸化物ガラスは、さらに、ガラスに近赤外光吸収特性を付与するために、ガラス成分として適量の銅(Cu)を含有してもよい。その他にも、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Pr,Nd、Pm、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Ce等を含有してもよい。これらは、ガラスの着色を増大させ、蛍光の発生源となり得る。
【0092】
また、本発明において、不可避的不純物の含有を排除するものではない。
【0093】
<その他の成分組成>
Pb、As、Cd、Tl、Be、Seは、いずれも毒性を有する。そのため、本実施形態の酸化物ガラスはこれら元素をガラス成分として含有しないことが好ましい。
【0094】
U、Th、Raはいずれも放射性元素である。そのため、本実施形態の酸化物ガラスはこれら元素をガラス成分として含有しないことが好ましい。
【0095】
Sb3+、Sn4+、およびCe4+は清澄剤として機能する、任意に添加可能なガラス成分である。このうち、Sb3+は、清澄効果の大きな清澄剤である。
【0096】
Sb3+の含有量は、Sb2O3に換算し、外割りの質量%表示とする。ここで外割り表示とはSb3+、Sn4+、およびCe4+以外のカチオン成分の含有比率をSb2O3と同様、酸化物に換算し、Sb3+、Sn4+、およびCe4+以外の全てのカチオン成分の含有比率の合計が100質量%になるようにしたときのSb2O3の含有量を質量%で表示することである。Sb2O3の含有量は、好ましくは2質量%未満、より好ましくは1質量%未満、さらに好ましくは0.5質量%未満、一層好ましくは0.2質量%未満、0.1質量%未満、0.05質量%未満である。Sb2O3の含有量を上記範囲とすることによりガラスの清澄性を改善できる。
【0097】
Sn4+およびCe4+の各含有量も、酸化物換算し外割り表示とする。すなわち、Sb3+、Sn4+、およびCe4+以外のカチオン成分の含有比率を酸化物に換算し、Sb3+、Sn4+、およびCe4+以外の全てのカチオン成分の含有比率の合計が100質量%になるようにしたときのSnO2の含有量、CeO2の含有量を質量%で表示する。SnO2およびCeO2の各含有量は、それぞれ好ましくは2質量%未満、より好ましくは1質量%未満、さらに好ましくは0.5質量%未満、一層好ましくは0.1質量%未満である。SnO2およびCeO2の各含有量は0質量%であってもよい。SnO2およびCeO2の各含有量をそれぞれ上記範囲とすることによりガラスの清澄性を改善できる。
【0098】
<ガラス特性>
(屈折率nd)
第1実施形態に係る酸化物ガラスにおいて、屈折率ndの下限は、好ましくは1.68であり、1.70、1.72、または1.73とすることもできる。屈折率ndの上限は、特に限定されないが、通常1.78であり、好ましくは1.76である。
【0099】
(アッベ数νd)
第1実施形態に係る酸化物ガラスにおいて、アッベ数νdの下限は、好ましくは24であり、25、26、28、または29とすることもできる。アッベ数νdの上限は、特に限定されないが、通常35であり、好ましくは32である。
【0100】
(ガラス転移温度Tg)
第1実施形態に係る酸化物ガラスにおいて、ガラス転移温度Tgの上限は、好ましくは530℃であり、さらには500℃、480℃、460℃の順により好ましい。また、ガラス転移温度Tgの下限は、特に限定されないが、通常400℃であり、好ましくは440℃である。
【0101】
(屈伏点Ts)
第1実施形態に係る酸化物ガラスにおいて、屈伏点Tsの上限は、好ましくは600℃であり、さらには570℃、550℃、530℃の順により好ましい。また、屈伏点Tsの下限は、特に限定されないが、通常400℃であり、好ましくは460℃である。
【0102】
(比重)
第1実施形態に係る酸化物ガラスにおいて、比重は、好ましくは3.5以下であり、さらには3.4以下、3.3以下、3.2以下の順により好ましい。
【0103】
(内部透過率)
第1実施形態に係る酸化物ガラスにおいて、厚さ1.0mmに換算した波長380nmにおける内部透過率は、好ましくは96%以上であり、さらには96.5%以上、97%以上、98%以上の順により好ましい。また、波長380~1100nmの範囲における光の内部透過率の最小値は、厚さ1.0mmに換算して、好ましくは97%以上であり、さらには、98%以上、99%以上、99.5%以上の順により好ましい。
【0104】
本実施形態では、厚さ2.0mm±0.1mmおよび10.0mm±0.1mmのガラス試料を用いて、JOGIS17(光学ガラスの内部透過率の測定方法)に準じて分光透過率を測定し、それを厚さ1.0mmに換算した値を、内部透過率とする。
【0105】
<ガラスの製造>
第1実施形態に係る酸化物ガラスは、公知のガラス製造方法に従って作製すればよい。例えば、複数種の化合物を調合し、十分混合してバッチ原料とし、バッチ原料を熔融容器中に入れて熔融、清澄、均質化した後に熔融ガラスを成形し、徐冷してガラスを得る。あるいは、バッチ原料を熔融容器中に入れて粗熔解(ラフメルト)する。粗熔解によって得られた熔融物を急冷、粉砕してカレットを作製する。さらにカレットを熔融容器中に入れて加熱、再熔融(リメルト)して熔融ガラスとし、さらに清澄、均質化した後に熔融ガラスを成形し、徐冷してガラスを得ることもできる。熔融ガラスの成形、徐冷には、公知の方法を適用すればよい。
【0106】
さらに、本実施形態に係る酸化物ガラスの製造工程には、熔融ガラス中の水分量を高める工程が含まれてもよい。熔融ガラス中の水分量を高める工程としては、熔融雰囲気に水蒸気を付加する工程、熔融物内に水蒸気を含むガスをバブリングする工程が挙げられる。その中でも、熔融雰囲気に水蒸気を付加する工程を含むことが好ましい。熔融ガラス中の水分量を高める工程を含むことで、ガラスのβOH値を高めることができる。βOH値を高めることで、より透明性の高いガラスが得られる。
【0107】
作製したガラスに、後述する方法により遮光部を形成できる。
【0108】
本実施形態に係る酸化物ガラスは光学素子として使用することができる。光学素子として使用する観点からは、本実施形態に係る酸化物ガラスが光学ガラスであることが好ましい。ただし、本実施形態に係る酸化物ガラスは、遮光部の装飾性を活かして、装飾品、小型電子機器の外装等として使用できるから、光学ガラスに限定されるものではない。
【0109】
<光学素子等の製造>
本実施形態に係る酸化物ガラスからなる光学素子は、公知の製造方法に従って作製すればよい。例えば、熔融ガラスを鋳型に流し込んで板状に成形し、ガラス素材を作製する。得られたガラス素材を適宜、切断、研削、研磨し、プレス成形に適した大きさ、形状のカットピースを作製する。カットピースを加熱、軟化して、公知の方法でプレス成形(リヒートプレス)し、光学素子の形状に近似する光学素子ブランクを作製する。光学素子ブランクをアニールし、公知の方法で研削、研磨して光学素子を作製する。
【0110】
作成した光学素子に、後述する方法により遮光部を形成できる。また、光学素子を作製する途中の段階で遮光部を形成してもよい。
【0111】
作製した光学素子の光学機能面には使用目的に応じて、反射防止膜、全反射膜などをコーティングしてもよい。
【0112】
本発明の一態様によれば、上記酸化物ガラスからなる光学素子を提供することができる。光学素子の種類としては、球面レンズ、非球面レンズ等のレンズ、プリズム等を例示することができる。レンズの形状としては、両凸レンズ、平凸レンズ、両凹レンズ、平凹レンズ、凸メニスカスレンズ、凹メニスカスレンズ等の諸形状を例示することができる。光学素子は、上記酸化物ガラスからなるガラス成形体を加工する工程を含む方法により製造することができる。加工としては、切断、切削、粗研削、精研削、研磨等を例示することができる。
【0113】
また、光学素子の一例として、CCDやCMOSセンサーのようなイメージセンサーの受光面に斜入射する光を遮光するための光学素子が挙げられる。具体的には、イメージセンサーの受光面に斜入射光を遮断するカバーガラスが挙げられる。
【0114】
さらに、本発明の一態様によれば、後述する遮光部の装飾性を活かして、装飾品、小型電子機器の外装等としても使用できる。
【0115】
<遮光部の形成>
第1実施形態に係る酸化物ガラスおよび光学素子には、任意形状の遮光部を形成できる。遮光部とは、ガラス自体が着色された部分であり、好ましくはガラス表面から内に向かって層状に形成される。そして、遮光部では、着色により可視光の透過率が低減する。また、遮光部の形成されない部分、すなわち、着色されていない非着色部が透光部となる。すなわち、本実施形態に係る酸化物ガラスおよび光学素子では、着色されていない透光部と、可視光の透過率が透光部より小さい遮光部とを、一体として備えることができ、後述するようにこのようなガラスをカバーガラスの機能を有する光学素子として用いることができる。
【0116】
遮光部は、ガラス表面に任意形状の金属膜を形成する工程、および、還元雰囲気で熱処理をする工程により形成できる。
【0117】
金属膜を構成する金属としては、雰囲気中の水素イオンを吸蔵し、さらに水素イオンおよび電子の授受によりガラスに含まれるガラス成分を還元する働きを有する金属が好ましい。ガラス成分の中でも遷移金属を還元する働きを有する金属がより好ましい。具体的には、Ni、Au、Ag、Pt、Pd、およびPt-Pd合金など前記金属を含む合金が挙げられる。
【0118】
遮光部の形成には、上記のような金属膜を構成する金属を含む金属ペーストを用いてもよい。また、ガラス表面に金属膜を形成する方法としては、ガラス表面に金属膜が密着できれば特に制限されず、例えば、蒸着、スパッタリング、メッキ、スクリーン印刷、または塗布等が挙げられる。
【0119】
還元雰囲気は、還元力を有するガスを含んでいればよい。還元力を有するガスとしては、例えば水素が挙げられる。よって、還元雰囲気として水素含有ガスを用いることが好ましく、水素を含有するフォーミングガスを用いてもよい。フォーミングガスとは、水素と窒素とからなる混合ガスであり、通常、水素を3~5体積%程度含む。
【0120】
熱処理では、ガラス転移温度Tgより200℃低い温度(Tg-200)以上、軟化点温度以下で加熱する。熱処理時間は、目的とする着色の程度、遮光部の範囲、遮光部の厚み等によって適宜調整できる。
【0121】
熱処理後、金属膜をガラス表面から剥離する。剥離する方法としては、特に制限されないが、研磨や、酸性の液体で溶解して除去する方法等が挙げられる。
【0122】
還元雰囲気における熱処理によって、金属膜と接触しているガラス表面から内部にわたって、遮光部が形成される。
【0123】
上記方法により遮光部が形成されるメカニズムは、特に限定されないが、以下にように考えられる。
本実施形態において形成される遮光部の着色は、ガラス成分に起因する還元色と考えられ、特に遷移金属に起因する還元色であると考えられる。通常、ガラス成形体を、水素を3~5体積%程度の低濃度で含む雰囲気中で熱処理しても、ガラスはほとんど還元色を呈しない。しかし、上記金属膜は、雰囲気中の水素イオンを吸蔵するため、ガラスの金属膜と接触する部分は、金属膜と接触していない部分と比べて、水素イオンが多く供給され、その結果、還元反応が速く進行する。そのため、ガラスの金属膜と接触する部分は濃く着色する。金属膜による水素イオンの吸蔵量は大きく、金属膜の吸蔵により雰囲気中の水素濃度が低下するほどである。このこともあって、金属膜と接触していない部分は還元反応が進行しにくい。
【0124】
すなわち、遮光部の着色は、上述のとおりガラス成分に起因する還元色であることが好ましく、遷移金属に起因する還元色であることがより好ましい。遷移金属としては、例えばTi、Nb、WおよびBiが挙げられる。
【0125】
本実施形態に係る酸化物ガラスおよび光学素子において、上述のとおり遮光部はガラス自体が着色された部分であるから、透光部と遮光部とはガラス組成が同じである。ただし、透光部と遮光部とでは、ガラス成分(カチオン)の価数が異なる場合がある。また、本発明において「ガラス組成が同じ」とは、組成分析結果が誤差範囲で一致することをいう。
【0126】
ここで、着色の要因となるガラス成分の還元反応は、金属膜と接触する部分からあらゆる方向に進行する。すなわち、遮光部は、ガラスの断面から観察すると、金属膜と接触するガラス表面から厚さ方向に形成され、ガラスの表面から観察すると、金属膜と接触する部分から放射状に形成される。
【0127】
上記方法によれば、より濃く着色された遮光部を形成できる。したがって、遮光部の厚みが小さくても、透過率は十分に低減できる。遮光部の厚みが小さい場合、ガラスの表面から観察される、金属膜と接触していた部分から放射状に形成される遮光部の範囲も小さくなる。つまり、本実施形態によれば、遮光部の形成条件を調整することで、ガラス表面から観察した場合に、金属膜と略同形状の遮光部を形成できる。
【0128】
本実施形態に係る酸化物ガラスおよび光学素子において、遮光部における可視光(波長380~1100nmの範囲の光)の外部透過率の最大値は、厚さ1.0mmに換算して、好ましくは20%以下であり、さらには、15%以下、8%以下、5%以下の順により好ましい。
【0129】
外部透過率とは、ガラスに入射する入射光強度I0に対するガラスを透過した透過光強度Iの比(I/I0)を百分率で表した値であり、すなわち、ガラスの表面における表面反射も考慮した透過率である。外部透過率は、分光光度計を用いて、透過スペクトルを測定することにより得られる。本実施形態では、厚さ1.0mmに換算した値を外部透過率とする。
【0130】
本実施形態に係る酸化物ガラスおよび光学素子において、遮光部の波長1100nmにおける光学密度ODは、好ましくは0.5以上であり、さらには0.8以上、1.0以上、1.3以上の順により好ましい。
【0131】
光学密度OD(optical density)は、下記式で示すように、入射光強度I0と透過光強度Iの比の常用対数に負号(マイナス)を付けた数値として表される。
OD=-log10(I/Io)
【0132】
第1実施形態に係る酸化物ガラスおよび光学素子において、遮光部のODは大きい一方で、透光部のODは小さい。ODの測定において、測定光が遮光部と透光部との両方を通過する場合、透光部のODは十分小さいので、遮光部のODが支配的となる。
【0133】
また、向かい合う2つの面を有する酸化物ガラスおよび光学素子において、同じ厚みおよび同じ着色の程度を有する遮光部をその両面に設ける場合のODは、同じ遮光部を片面のみに設ける場合の約2倍となる。
【0134】
さらに、本実施形態に係る酸化物ガラスおよび光学素子では、可視域から近赤外域にかけての波長域において、波長の増加とともにODは減少する。そのため、遮光部において、たとえば波長780nmにおけるODは、波長1100nmにおけるODよりも大きくなる。
【0135】
したがって、遮光したい波長領域がある場合には、その波長領域における長波長側の波長でのODが高くなるように設計する。可視光のみを遮光するガラスを設計する場合は、可視光領域の長波長側(例えば、780nm)においてODが高くなるように設定すればよい。また、可視域から近赤外域を遮光するガラスを設計する場合には、近赤外域の波長(例えば波長1100nm)においてODが高くなるように設定すればよい。ODは、遮光部の厚さや遮光部における着色の程度を調整することにより制御できる。
【0136】
本実施形態に係る酸化物ガラスおよび光学素子では、1以上の面において、その全面に遮光部を有してもよく、または、任意形状にパターニングした遮光部を有してもよい。パターニングする場合には、例えば、模様、文字、数字、図形、絵柄、識別コードなどの形状でもよく、直線や曲線で描かれる形状でもよい。上述の方法により、本実施形態に係る酸化物ガラスおよび光学素子では、遮光部と着色されていない透光部とのコントラストが明瞭であり、任意形状にパターニングされた遮光部を形成することが可能である。
【0137】
本実施形態に係る酸化物ガラスおよび光学素子は、板状であって、片面または両面に任意形状の遮光部を有してもよい。片面または両面の全面に遮光部を有してもよく、任意形状にパターニングされた遮光部を有してもよい。ガラスの厚さは特に制限されないが、ガラスの両面に遮光部を形成する場合、ガラスの厚さが小さいと、一方の面に形成した遮光部と他方の面に形成した遮光部とが厚さ方向で重なり合うことがある。この場合、遮光部は、ガラスの厚さ方向に貫通するように形成されることもある。
【0138】
また、厚さの小さいガラスでは、遮光部の形成により、反りなどの変形が生じることがある。この原因は特に限定されないが、遮光部を形成することでガラス内に何らかの応力が生じることに起因すると考えられる。ガラスの片面のみに遮光部を設けて反りが生じる場合には、ガラスの両面に遮光部を設けて、ガラス内に生じる応力を相殺できることもある。遮光部の形状は特に限定されない。遮光部の形成に起因する反りや変形は、ガラスの厚さが1mm以下である場合に生じやすい。
【0139】
本実施形態に係る酸化物ガラスおよび光学素子は、板状であって、第1主面および第2主面に遮光部を有し、平面視において、第1主面の遮光部を、第2主面の遮光部と重ならないように形成してもよい。このように遮光部を設けることで、遮光部の形成により生じるガラスの反りや変形を低減できる。例えば、
図1のように、第1主面および第2主面とで、異なる位置に遮光部を設けることで、ガラスの反りや変形を低減できる場合がある。
【0140】
または、本実施形態に係る酸化物ガラスおよび光学素子は、板状であって、第1主面および第2主面に遮光部を有し、平面視において、第1主面の遮光部の一部または全部が、第2主面の遮光部の一部または全部と重なるように形成されていてもよい。これにより、ガラスの反りや変形を低減できる。例えば、
図2のように、板状のガラスにおいて、ガラスの第1主面および第2主面で、同じ形状の遮光部を平面視において同じ位置に形成できる。この場合、第1主面および第2主面に形成したそれぞれの遮光部において、着色の程度が小さくても、平面視では、第1主面の遮光部と第2主面の遮光部とが重なって見えるため、濃く着色しているように見える。着色の程度が小さい場合には、反りや変形の程度も小さくなる。そして、着色の程度が小さくてよい場合には、前述した還元雰囲気での熱処理時間を短縮できる。還元雰囲気での熱処理時間が短縮されると、遮光部以外の透光部(非着色部)における透過率を高いまま維持できる。その結果、平面視において遮光部と透光部とのコントラストをより明瞭にすることができる。
【0141】
本実施形態に係る酸化物ガラスおよび光学素子は、板状であって、平面視において中央部が透光部(非着色部)で、その透光部を取り囲むように遮光部が設けられてもよい。このようなガラスは、カバーガラスの機能を有する光学素子として用いることができる。
【0142】
カバーガラスとは、特許文献(特開2015-179788号公報)に開示されているように固体撮像素子の前面に配置される光学素子であって、特に、固体撮像素子を収納するパッケージの前面に取り付けられ、固体撮像素子を保護すると共に透光窓として使用される。近年、CCDやCMOSなどの固体撮像素子を内蔵した撮像モジュールが携帯電話や情報携帯端末機器等に使用されている。このような撮像モジュールは、固体撮像素子を収容するセラミックや樹脂製の枡形のパッケージと、パッケージの周縁部に紫外線硬化型接着剤で固着され、固体撮像素子を封止するカバーガラスとを備えている。
【0143】
上述のように、本実施形態に係る酸化物ガラスおよび光学素子は、透光部および遮光部を一体として備えることができる。本実施形態に係る酸化物ガラスおよび光学素子をカバーガラスとして用いる場合には、遮光部により、カバーガラスの側面等で反射した光に起因するフレアやゴースト等の発生を抑制できる。
【0144】
本実施形態に係る酸化物ガラスおよび光学素子では、ガラスの表面から内部にわたって遮光部を形成できるから、遮光部と透光部とでガラス組成は同じであり、接合することなしに遮光部と透光部とを1つのガラスに併せ持つことができる。また、本実施形態において、遮光部は十分な遮光性を有することができ、透光部は十分な透光性を有することができる。さらに、本実施形態では、任意形状の遮光部を形成でき、遮光部と透光部とのコントラストを明瞭にすることができるから、高い精度で遮光部の形状を制御できる。そして、本実施形態に係るガラスでは、遮光部と透光部とで屈折率がほぼ同じであるから、カバーガラスとして用いる場合には、遮光部と透光部との界面反射を抑え、迷光を効果的に抑制できる。
【0145】
本実施形態に係る酸化物ガラスおよび光学素子は、板状であって、平面視において中央部が透光部で、その透光部を取り囲むように遮光部が設けられ、さらにガラスの縁部が透光部であってもよい。遮光部は、片面または両面に形成できる。このようなガラスも、カバーガラスの機能を有する光学素子として用いることができる。そして、カバーガラスとして用いる場合には、遮光部により、カバーガラスの側面等で反射した光に起因するフレアやゴースト等の発生を抑制できる。具体的には、
図2に示すように遮光部を有するガラスが挙げられる。
【0146】
透光部は、遮光部と比べて十分に光を透過する。したがって、透光部から光を透過させて、紫外線硬化型接着剤などの光硬化性樹脂を重合、硬化することが可能である。すなわち、光硬化性樹脂を使用する部位を透光部とすることで、光硬化性樹脂による接着が可能となる。ガラスの縁部を透光部とする場合には、この縁部から光を透過できる。そのため、このようなガラスをカバーガラスとして使用する場合には、縁部から光を透過してガラス自体またはその他の撮像素子を光硬化性樹脂などで固定できる。
【0147】
ここで、本実施形態に係る酸化物ガラスおよび光学素子では、前述したとおり還元雰囲気での熱処理により金属膜と接触するガラス表面を選択的に着色できるが、金属膜と接触していないガラス表面も僅かに着色することがある。しかし、還元雰囲気での熱処理時間を短縮にすることにより、着色を抑えたい部位、例えば透光部としたい部分における着色を低減することができる。例えば、
図2のように、板状のガラスにおいて、ガラスの第1主面および第2主面に遮光部を形成する場合、熱処理時間を半分にすることにより第1主面および第2主面の遮光部のそれぞれのOD(optical density)もおよそ半分になるが、ガラスの第1主面および第2主面に同形状かつ平面視における同じ位置に遮光部を形成することにより、第1主面の遮光部のODと第2主面の遮光部のODとの合計を遮光部のODとすることができる。また、透光部においては、還元雰囲気での熱処理時間を半分にすることで、熱処理による着色は半減し十分に低減される。その結果、遮光部は十分な遮光性を確保し、透光部は十分な透光性を確保できる。なお、透光部における透光性の確保と遮光部の十分な遮光性の確保とを両立できる範囲内であれば、第1主面の遮光部と第2主面の遮光部とは厳密に同形状でなくてもよいし、2つの遮光部の平面視における位置は厳密に同じでなくてもよい。
【0148】
本実施形態に係る酸化物ガラスおよび光学素子は、板状であって、側面に任意形状の遮光部を有してもよい。本実施形態に係る酸化物ガラスおよび光学素子は、側面において、その全面に遮光部を有してもよく、任意形状にパターニングされた遮光部を有してもよい。したがって、本実施形態に係る酸化物ガラスおよび光学素子をカバーガラスとして用いる場合には、側面に任意形状の遮光部を設けることで、固体撮像素子周辺のリードフレーム等の側面からの迷光を抑制することができる。
【0149】
上述のとおり、本実施形態に係る酸化物ガラスおよび光学素子は、板状であって、第1主面および第2主面に遮光部を有することで、カバーガラスとして用いる場合には、カバーガラスの正面からの迷光を防止できる。さらに、本実施形態に係る酸化物ガラスおよび光学素子は、板状であって、第1主面、第2主面、および側面に任意形状の遮光部を有してもよい。このようなガラスをカバーガラスとして用いることで、正面および側面で発生する迷光を抑制できる。
【0150】
本実施形態に係る酸化物ガラスおよび光学素子において、板状である場合には、ガラスの厚さは特に制限されないが、1mm以下、0.7mm以下、または0.5mm以下でもよい。本実施形態に係る酸化物ガラスおよび光学素子は、上記範囲の厚さを有する板状であって、遮光部を上述のとおり適宜配置することで、カバーガラスの機能を有する光学素子として用いることができる。
【0151】
なお、ガラス断面における遮光部の厚みは特に制限されないが、好ましくは1~300μmであり、より好ましくは20~200μmで、更に好ましくは30~150μmである。
【0152】
第2実施形態
第2実施形態に係る光学素子は、
透光部と、可視光の透過率が前記透光部より小さい遮光部とを一体に備え、
ガラス成分としてP5+、Nbイオン、BiイオンおよびLi+を含む酸化物ガラスからなり、
上記酸化物ガラスが以下の(i)および(ii)のうち1以上を満たす。
(i)NbイオンおよびLi+の合計含有量が50%以上である。
(ii)Li+、Na+およびK+の合計含有量に対するLi+の含有量のカチオン比[Li+/(Li++Na++K+)]が0.5以上である。
【0153】
第2実施形態に係る光学素子は、透光部と、可視光の透過率が透光部より小さい遮光部とを一体に備える。可視光とは、波長380~1100nmの範囲の光である。すなわち、透光部では、波長380~1100nmの範囲における光の内部透過率の最小値が、厚さ1.0mmに換算して、好ましくは96%以上であり、さらには、96.5%以上、97%以上、98%以上の順により好ましい。遮光部では、波長380~1100nmの範囲における光の外部透過率の最大値が、厚さ1.0mmに換算して、好ましくは20%以下であり、さらには、15%以下、8%以下、5%以下の順により好ましい。
【0154】
なお、本実施形態では、厚さ2.0mm±0.1mmおよび10.0mm±0.1mmのガラス試料を用いて、JOGIS17(光学ガラスの内部透過率の測定方法)に準じて波長380~1100nmの範囲での分光透過率を測定し、それを厚さ1.0mmに換算した値を内部透過率とする。
【0155】
また、外部透過率とは、ガラスに入射する入射光強度I0に対するガラスを透過した透過光強度Iの比(I/I0)を百分率で表した値であり、すなわち、ガラスの表面における表面反射も考慮した透過率である。外部透過率は、分光光度計を用いて、透過スペクトルを測定することにより得られる。本実施形態では、厚さ1.0mmに換算した値を外部透過率とする。
【0156】
また、第2実施形態に係る光学素子は、透光部と遮光部とを一体に備える。具体的には、遮光部とは、ガラス自体が着色された部分であり、好ましくはガラス表面から内に向かって層状に形成される。そして、遮光部の形成されない部分、すなわち、着色されていない非着色部が透光部となる。上述のとおり遮光部はガラス自体が着色された部分であるから、透光部と遮光部とはガラス組成が同じである。ただし、透光部と遮光部とでは、ガラス成分(カチオン)の価数が異なる場合がある。また、本発明において「ガラス組成が同じ」とは、組成分析結果が誤差範囲で一致することをいう。遮光部の形成方法は、第1実施形態と同様とすることができる。また、遮光部の形状、および上記以外の特性も、第1実施形態と同様とすることができる。
【0157】
第2実施形態に係る光学素子は、ガラス成分としてP5+、Nbイオン、BiイオンおよびLi+を含む酸化物ガラスからなる。本発明において、酸化物ガラスとは、アニオン成分としてO2-を含み、さらにO2-の含有量が80アニオン%以上のガラスをいう。
【0158】
第2実施形態において、上記酸化物ガラスにおけるP5+の含有量の下限は、好ましくは7%であり、さらには10%、15%、22%、27%の順により好ましい。また、P5+の含有量の上限は、好ましくは43%であり、さらには40%、37%、34%、32%の順により好ましい。
【0159】
P5+は、ガラスのネットワーク形成成分である。可視光に対して優れた遮光性を有する遮光部と優れた透過性を有する透光部とを形成でき、さらに低比重であるガラスを得る観点から、P5+の含有量を上記範囲とすることが好ましい。一方、P5+の含有量が多すぎると、化学的耐久性が悪化するおそれがあり、また熔融性が悪化するおそれもある。
【0160】
第2実施形態において、上記酸化物ガラスにおけるNbイオンの含有量の下限は、好ましくは10%であり、さらには11%、12%、14%、16%の順により好ましい。また、Nbイオンの含有量の上限は、好ましくは21%であり、さらには20%、19.5%、19%、18%の順により好ましい。Nbイオンは、Nb5+の他、価数の異なるNbイオンを含んでもよい。
【0161】
Nbイオンは、高屈折率化に寄与し、ガラスの着色を増大する成分である。また、ガラスの熱的安定性および化学的耐久性を改善する働きを有する。可視光に対して優れた遮光性を有する遮光部と優れた透過性を有する透光部とを形成できるガラスを得る観点から、Nbイオンの含有量を上記範囲とすることが好ましい。一方、Nbイオンの含有量が多すぎると、ガラスの耐失透性が悪化するおそれがあり、また透光部における短波長域(波長300~450nm)の光の透過率が悪化するおそれがある。
【0162】
第2実施形態において、上記酸化物ガラスにおけるBiイオンの含有量は、好ましくは0%を超え、その下限は、好ましくは0.2%であり、さらには0.3%、0.4%、0.5%の順により好ましい。また、Biイオンの含有量の上限は、好ましくは6%であり、さらには5%、4%、2%、1%の順により好ましい。Biイオンは、Bi3+の他、価数の異なるBiイオンを含んでもよい。
【0163】
Biイオンは、高屈折率化に寄与し、また、ガラスの着色を増大する働きを有する。可視光に対して優れた遮光性を有する遮光部と優れた透過性を有する透光部とを形成できるガラスを得る観点から、Biイオンの含有量を上記範囲とすることが好ましい。一方、Biイオンの含有量が多すぎると透光部における短波長域(波長300~450nm)の光の透過率が悪化するおそれがある。また、Biイオンの含有量が少なすぎると、遮光部における遮光性が低下するおそれがある。
【0164】
第2実施形態において、上記酸化物ガラスにおけるLi+の含有量の下限は、好ましくは20%であり、さらには25%、30%、35%、40%の順により好ましい。また、Li+の含有量の上限は、好ましくは60%であり、さらには55%、50%、47%の順により好ましい。
【0165】
可視光に対して優れた遮光性を有する遮光部と優れた透過性を有する透光部とを形成でき、さらに低比重であるガラスを得る観点から、Li+の含有量を上記範囲とすることが好ましい。また、ガラスに化学強化を施すことが容易となる。一方、Li+の含有量が多すぎると、ガラスの熱的安定性が低下するおそれがある。
【0166】
また、第2実施形態において、上記酸化物ガラスは以下の(i)および(ii)のうち1以上を満たす。
(i)NbイオンおよびLi+の合計含有量が50%以上である。
(ii)Li+、Na+およびK+の合計含有量に対するLi+の含有量のカチオン比[Li+/(Li++Na++K+)]が0.5以上である。
【0167】
(i) 第2実施形態において、上記酸化物ガラスにおけるNbイオンおよびLi+の合計含有量の下限は、好ましくは50%であり、さらには52%、54%、57%の順により好ましい。また、該合計含有量の上限は、好ましくは75%であり、さらには70%、66%、63%の順により好ましい。
【0168】
可視光に対して優れた遮光性を有する遮光部と優れた透過性を有する透光部とを形成でき、さらに低比重であるガラスを得る観点から、NbイオンおよびLi+の合計含有量を上記範囲とすることが好ましい。一方、該合計含有量が少なすぎると、遮光部における遮光性が低下するおそれがある。
【0169】
(ii) 第2実施形態において、上記酸化物ガラスにおけるLi+、Na+およびK+の合計含有量に対するLi+の含有量のカチオン比[Li+/(Li++Na++K+)]の下限は、好ましくは0.5であり、さらには0.7、0.8、0.9、1の順により好ましい。該カチオン比は1でもよい。
【0170】
可視光に対して優れた遮光性を有する遮光部と優れた透過性を有する透光部とを形成でき、低比重であるガラスを得る観点から、カチオン比[Li+/(Li++Na++K+)]を上記範囲とすることが好ましい。一方、該カチオン比が小さすぎると、遮光部における遮光性が低下するおそれがある。
【0171】
第2実施形態において、上記酸化物ガラスにおけるBa2+の含有量の上限は、好ましくは5%であり、さらには4%、3%、2%、1%の順により好ましい。また、Ba2+の含有量の下限は、好ましくは0%である。Ba2+の含有量は0%でもよい。
【0172】
Ba2+はガラスの熱的安定性、熔融性を改善させる働きを有する。低比重であるガラスを得る観点から、Ba2+の含有量を上記範囲とすることが好ましい。一方、Ba2+の含有量が多すぎると、比重が大きくなるおそれがあり、また、耐失透性が悪化するおそれがある。さらに、ガラスの熱的安定性が低下するおそれもある。
【0173】
第2実施形態において、上記酸化物ガラスにおけるZr4+の含有量の上限は、好ましくは2%であり、さらには1.5%、1%、0.5%の順により好ましい。また、Zr4+の含有量の下限は、好ましくは0%である。Zr4+の含有量は0%でもよい。
【0174】
Zr4+は、ガラスの熱的安定性を改善する働きを有する。可視光に対して優れた遮光性を有する遮光部と優れた透過性を有する透光部とを形成でき、さらに低比重であるガラスを得る観点から、Zr4+の含有量を上記範囲とすることが好ましい。一方、Zr4+の含有量が多すぎると、ガラスの熱的安定性および熔融性が低下する傾向がある。
【0175】
第2実施形態において、上記酸化物ガラスにおけるTiイオンおよびWイオンの合計含有量の上限は、好ましくは5%であり、さらには4%、3%、2%、1%の順により好ましい。また、該合計含有量の下限は、好ましくは0%である。該合計含有量は0%でもよい。
【0176】
可視光に対して優れた遮光性を有する遮光部と優れた透過性を有する透光部とを形成できるガラスを得る観点から、TiイオンおよびWイオンの合計含有量を上記範囲とすることが好ましい。一方、該合計含有量が多すぎると透光部における短波長域(波長300~450nm)の光の透過率が悪化するおそれがある。
【0177】
第2実施形態において、上記酸化物ガラスにおける上記以外のガラス成分の含有量および比率は、第1実施形態と同様とすることができる。また、第2実施形態において、上記酸化物ガラスは、第1実施形態に係る酸化物ガラスと同様に製造でき、同様のガラス特性を有する。さらに、第2実施形態に係る光学素子は、第1実施形態と同様に製造できる。
【0178】
第3実施形態
第3実施形態に係る光学素子は、
比重が3.5以下であるガラスからなり、
厚さ1.0mmに換算して波長380nmにおける内部透過率が96%以上である透光部と、波長1100nmにおける光学密度ODが0.5以上である遮光部とを一体に備え、
上記透光部および上記遮光部のガラス組成が同じである。
【0179】
第3実施形態に係る光学素子は、比重が3.5以下であるガラスからなる。該ガラスの比重は、好ましくは3.4以下であり、さらには3.3以下、3.2以下の順により好ましい。
【0180】
光学素子が、上記範囲の比重を有するガラスからなることで、光学素子の生産過程でガラスの破損を防止し、またガラスの反りを抑制できる。一方、ガラスの比重が大きすぎると、光学素子の生産過程でガラスが破損しやすくなり、またガラスに反り生じるおそれがある。
【0181】
第3実施形態に係る光学素子は、厚さ1.0mmに換算して波長380nmにおける内部透過率が96%以上である透光部と、波長1100nmにおける光学密度ODが0.5以上である遮光部とを一体に備える。
【0182】
第3実施形態に係る光学素子は、透光部と遮光部とを一体に備える。具体的には、遮光部とは、ガラス自体が着色された部分であり、好ましくはガラス表面から内に向かって層状に形成される。そして、遮光部の形成されない部分、すなわち、着色されていない非着色部が透光部となる。
【0183】
第3実施形態に係る光学素子において、透光部の波長380nmにおける内部透過率は、厚さ1.0mmに換算して、96%以上であり、好ましくは96.5%以上であり、さらには97%以上、98%以上の順により好ましい。
【0184】
なお、本実施形態では、厚さ2.0mm±0.1mmおよび10.0mm±0.1mmのガラス試料を用いて、JOGIS17(光学ガラスの内部透過率の測定方法)に準じて波長380nmの範囲での分光透過率を測定し、それを厚さ1.0mmに換算した値を内部透過率とする。
【0185】
第3実施形態に係る光学素子において、遮光部の波長1100nmにおける光学密度ODは0.5以上であり、好ましくは0.8以上であり、さらには1.0以上、1.3以上の順により好ましい。一方、透光部の波長1100nmにおける光学密度ODは、好ましくは0.15以下であり、より好ましくは0.1以下である。
【0186】
光学密度OD(optical density)は、下記式で示すように、入射光強度I0と透過光強度Iの比の常用対数に負号(マイナス)を付けた数値として表される。
OD=-log10(I/Io)
【0187】
第3実施形態に係る光学素子において、遮光部のODは大きい一方で、透光部のODは小さい。ODの測定において、測定光が遮光部と透光部との両方を通過する場合、透光部のODは十分小さいので、遮光部のODが支配的となる。
【0188】
また、向かい合う2つの面を有する光学素子において、同じ厚みおよび同じ着色の程度を有する遮光部をその両面に設ける場合のODは、同じ遮光部を片面のみに設ける場合の約2倍となる。
【0189】
さらに、本実施形態に係る光学素子では、可視域から近赤外域にかけての波長域において、波長の増加とともにODは減少する。そのため、遮光部おいて、たとえば波長780nmにおけるODは、波長1100nmにおけるODよりも大きくなる。
【0190】
したがって、遮光したい波長領域がある場合には、その波長領域における長波長側の波長でのODが高くなるように設計する。可視光のみを遮光するガラスを設計する場合は、可視光領域の長波長側(例えば、780nm)においてODが高くなるように設定すればよい。また、可視域から近赤外域を遮光するガラスを設計する場合には、近赤外域の波長(例えば波長1100nm)においてODが高くなるように設定すればよい。ODは、遮光部の厚さや遮光部における着色の程度を調整することにより制御できる。
【0191】
第3実施形態に係る光学素子において、上述のとおり遮光部はガラス自体が着色された部分であるから、透光部と遮光部とはガラス組成が同じである。ただし、透光部と遮光部とでは、ガラス成分(カチオン)の価数が異なる場合がある。また、本発明において「ガラス組成が同じ」とは、組成分析結果が誤差範囲で一致することをいう。
【0192】
遮光部の着色は、好ましくはガラス成分に起因する還元色であり、より好ましくは遷移金属に起因する還元色である。遷移金属としては、例えばTi、Nb、WおよびBiが挙げられる。
【0193】
第3実施形態に係る光学素子では、ガラスの一部に遮光部を形成できるから、遮光部と透光部とでガラス組成は同じであり、接合することなしに遮光部と透光部とを1つのガラスに併せ持つことができる。また、本実施形態において、遮光部は十分な遮光性を有しており、透光部は十分な透光性を有している。さらに、本実施形態では、任意形状の遮光部を形成でき、遮光部と透光部とのコントラストは明瞭であるから、高い精度で遮光部の形状を制御できる。そして、本実施形態に係るガラスでは、遮光部と透光部とで屈折率がほぼ同じであるから、カバーガラスとして用いる場合には、遮光部と透光部との界面反射を抑え、迷光を効果的に抑制できる。
【0194】
遮光部の形成方法は、第1実施形態と同様とすることができる。また、遮光部の形状、および上記以外の特性も、第1実施形態と同様とすることができる。
【0195】
第3実施形態に係る光学素子は、好ましくは、ガラス成分としてP5+、Nbイオン、BiイオンおよびLi+を含む酸化物ガラスからなる。本発明において、酸化物ガラスとは、アニオン成分としてO2-を含み、さらにO2-の含有量が80アニオン%以上のガラスをいう。
【0196】
第3実施形態において、上記酸化物ガラスにおけるP5+の含有量の下限は、好ましくは7%であり、さらには10%、15%、22%、27%の順により好ましい。また、P5+の含有量の上限は、好ましくは43%であり、さらには40%、37%、34%、32%の順により好ましい。
【0197】
P5+は、ガラスのネットワーク形成成分である。可視光に対して優れた遮光性を有する遮光部と優れた透過性を有する透光部とを形成でき、さらに低比重であるガラスを得る観点から、P5+の含有量を上記範囲とすることが好ましい。一方、P5+の含有量が多すぎると、化学的耐久性が悪化するおそれがあり、また熔融性が悪化するおそれもある。
【0198】
第3実施形態において、上記酸化物ガラスにおけるNbイオンの含有量の下限は、好ましくは10%であり、さらには11%、12%、14%、16%の順により好ましい。また、Nbイオンの含有量の上限は、好ましくは21%であり、さらには20%、19.5%、19%、18%の順により好ましい。Nbイオンは、Nb5+の他、価数の異なるNbイオンを含んでもよい。
【0199】
Nbイオンは、高屈折率化に寄与し、ガラスの着色を増大する成分である。また、ガラスの熱的安定性および化学的耐久性を改善する働きを有する。可視光に対して優れた遮光性を有する遮光部と優れた透過性を有する透光部とを形成できるガラスを得る観点から、Nbイオンの含有量を上記範囲とすることが好ましい。一方、Nbイオンの含有量が多すぎると、ガラスの耐失透性が悪化するおそれがあり、また透光部における短波長域(波長300~450nm)の光の透過率が悪化するおそれがある。
【0200】
第3実施形態において、上記酸化物ガラスにおけるLi+の含有量の下限は、好ましくは20%であり、さらには25%、30%、35%、40%の順により好ましい。また、Li+の含有量の上限は、好ましくは60%であり、さらには55%、50%、47%の順により好ましい。
【0201】
可視光に対して優れた遮光性を有する遮光部と優れた透過性を有する透光部とを形成でき、さらに低比重であるガラスを得る観点から、Li+の含有量を上記範囲とすることが好ましい。また、ガラスに化学強化を施すことが容易となる。一方、Li+の含有量が多すぎると、ガラスの熱的安定性が低下するおそれがある。
【0202】
第3実施形態において、上記酸化物ガラスにおけるNbイオンおよびLi+の合計含有量の下限は、好ましくは48%であり、さらには50%、52%、54%、57%の順により好ましい。また、該合計含有量の上限は、好ましくは75%であり、さらには70%、66%、63%の順により好ましい。
【0203】
可視光に対して優れた遮光性を有する遮光部と優れた透過性を有する透光部とを形成でき、さらに低比重であるガラスを得る観点から、NbイオンおよびLi+の合計含有量を上記範囲とすることが好ましい。一方、該合計含有量が少なすぎると、遮光部における遮光性が低下するおそれがある。
【0204】
第3実施形態において、上記酸化物ガラスにおけるBiイオンの含有量は、好ましくは0%を超え、その下限は、好ましくは0.2%であり、さらには0.3%、0.4%、0.5%の順により好ましい。また、Biイオンの含有量の上限は、好ましくは6%であり、さらには5%、4%、2%、1%の順により好ましい。Biイオンは、Bi3+の他、価数の異なるBiイオンを含んでもよい。
【0205】
Biイオンは、高屈折率化に寄与し、また、ガラスの着色を増大する働きを有する。可視光に対して優れた遮光性を有する遮光部と優れた透過性を有する透光部とを形成できるガラスを得る観点から、Biイオンの含有量を上記範囲とすることが好ましい。一方、Biイオンの含有量が多すぎると透光部における短波長域(波長300~450nm)の光の透過率が悪化するおそれがある。また、Biイオンの含有量が少なすぎると、遮光部における遮光性が低下するおそれがある。
【0206】
第3実施形態において、上記酸化物ガラスにおけるBa2+の含有量の上限は、好ましくは5%であり、さらには4%、3%、2%、1%の順により好ましい。また、Ba2+の含有量の下限は、好ましくは0%である。Ba2+の含有量は0%でもよい。
【0207】
Ba2+はガラスの熱的安定性、熔融性を改善させる働きを有する。低比重であるガラスを得る観点から、Ba2+の含有量を上記範囲とすることが好ましい。一方、Ba2+の含有量が多すぎると、比重が大きくなるおそれがあり、また、耐失透性が悪化するおそれがある。さらに、ガラスの熱的安定性が低下するおそれもある。
【0208】
第3実施形態において、上記酸化物ガラスにおけるZr4+の含有量の上限は、好ましくは2%であり、さらには1.5%、1%、0.5%の順により好ましい。また、Zr4+の含有量の下限は、好ましくは0%である。Zr4+の含有量は0%でもよい。
【0209】
Zr4+は、ガラスの熱的安定性を改善する働きを有する。可視光に対して優れた遮光性を有する遮光部と優れた透過性を有する透光部とを形成でき、さらに低比重であるガラスを得る観点から、Zr4+の含有量を上記範囲とすることが好ましい。一方、Zr4+の含有量が多すぎると、ガラスの熱的安定性および熔融性が低下する傾向がある。
【0210】
第3実施形態において、上記酸化物ガラスにおけるTiイオンおよびWイオンの合計含有量の上限は、好ましくは5%であり、さらには4%、3%、2%、1%の順により好ましい。また、該合計含有量の下限は、好ましくは0%である。該合計含有量は0%でもよい。
【0211】
可視光に対して優れた遮光性を有する遮光部と優れた透過性を有する透光部とを形成できるガラスを得る観点から、TiイオンおよびWイオンの合計含有量を上記範囲とすることが好ましい。一方、該合計含有量が多すぎると透光部における短波長域(波長300~450nm)の光の透過率が悪化するおそれがある。
【0212】
第3実施形態において、上記酸化物ガラスにおけるLi+、Na+およびK+の合計含有量に対するLi+の含有量のカチオン比[Li+/(Li++Na++K+)]の下限は、好ましくは0.5であり、さらには0.7、0.8、0.9、1の順により好ましい。該カチオン比は1でもよい。
【0213】
可視光に対して優れた遮光性を有する遮光部と優れた透過性を有する透光部とを形成でき、低比重であるガラスを得る観点から、カチオン比[Li+/(Li++Na++K+)]を上記範囲とすることが好ましい。一方、該カチオン比が小さすぎると、遮光部における遮光性が低下するおそれがある。
【0214】
第3実施形態において、上記酸化物ガラスにおける上記以外のガラス成分の含有量および比率は、第1実施形態と同様とすることができる。また、第3実施形態において、上記酸化物ガラスは、第1実施形態に係る酸化物ガラスと同様に製造でき、同様のガラス特性を有する。さらに、第3実施形態に係る光学素子は、第1実施形態と同様に製造できる。
【実施例】
【0215】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0216】
表1に示すガラス組成を有するガラスサンプルを以下の手順で作製し、各種評価を行った。
【0217】
【0218】
[ガラスの製造]
ガラスの構成成分に対応する酸化物、水酸化物、メタリン酸塩、炭酸塩、および硝酸塩を原材料として準備し、得られるガラスの組成が、表1に示す各組成となるように上記原材料を秤量、調合して、原材料を十分に混合した。得られた調合原料(バッチ原料)を、白金坩堝に投入し、1000~1450℃で2~3時間加熱して熔融ガラスとした。熔融ガラスを攪拌して均質化を図り、清澄してから、熔融ガラスを適当な温度に予熱した金型に鋳込んだ。鋳込んだガラスを、ガラス転移温度Tg付近で1時間程度熱処理し、炉内で室温まで放冷した。縦40mm、横60mm、厚さ15mmの大きさに加工し、40mm×60mmとなる2つ面を精密研磨(光学研磨)して、ガラスサンプルを得た。
【0219】
[ガラス成分組成の確認]
得られたガラスサンプルについて、誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)で各ガラス成分の含有量を測定し、表1に示す各組成のとおりであることを確認した。
【0220】
[光学特性の測定]
得られたガラスサンプルについて、屈折率nd、アッベ数νd、比重、ガラス転移温度Tgおよび屈伏点Tsを測定した。結果を表1に示す。
【0221】
(i)屈折率ndおよびアッベ数νd
日本産業規格JISB-7071-1に基づいて測定した。
【0222】
(ii)比重
比重は、アルキメデス法により測定した。
【0223】
(iii)ガラス転移温度Tgおよび屈伏点Ts
ガラス転移温度Tgおよび屈伏点Tsは、MACサイエンス社製の熱機械分析装置(TMA4000S)を使用し、昇温速度4℃/分にて測定した。
(iv)内部透過率
得られたガラスサンプルを、厚さ2.0mm±0.1mmおよび10.0mm±0.1mmに加工して、JOGIS17(光学ガラスの内部透過率の測定方法)に準じて波長380~1100nmの範囲の分光透過率を測定し、それを厚さ1.0mmに換算した値を内部透過率とした。波長380nmにおける内部透過率を表2に示す。
【0224】
[遮光部の形成]
得られたガラスサンプルを縦20mm、横20mm、厚さ1.0mmの大きさに加工し、20mm×20mmとなる2つ面を精密研磨(光学研磨)した。光学研磨面の一方の面に、スパッタリングにより任意形状の金属膜(Pt-Pd膜)を成膜した(スパッタリング時の電流15mA、成膜時間900sec)。
【0225】
金属膜を形成したガラスサンプルを、還元雰囲気としてフォーミングガス(水素3体積%、窒素97体積%)を0.2L/minの流量で供給しながら、表2に示す処理温度で6時間熱処理した。なお、処理温度は、ガラス転移温度Tgより15~20℃低い温度([Tg-20℃]~[Tg-15℃]の範囲)に設定した。
金属膜を研磨により剥離した。平面視において成膜した金属膜と略同形状の遮光部を有するガラスサンプルを得た。
【0226】
[ODの測定]
遮光部を有するガラスサンプルについて、遮光部の波長1100nmにおける入射光強度I0および透過光強度Iを測定し、下記式によりOD(光学密度)を算出した。結果を表2に示す。
OD=-log10(I/I0)
【0227】