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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-09
(45)【発行日】2024-08-20
(54)【発明の名称】移動位置決め装置
(51)【国際特許分類】
   B25J 5/02 20060101AFI20240813BHJP
   B23K 9/12 20060101ALN20240813BHJP
【FI】
B25J5/02 B
B23K9/12 331F
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021064200
(22)【出願日】2021-04-05
(65)【公開番号】P2022159792
(43)【公開日】2022-10-18
【審査請求日】2023-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391037308
【氏名又は名称】マツモト機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 寛
(72)【発明者】
【氏名】水谷 亮
(72)【発明者】
【氏名】久保田 淳
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 明裕
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 隼也
(72)【発明者】
【氏名】川音 一郎
(72)【発明者】
【氏名】菊地 農
(72)【発明者】
【氏名】田中 将太
(72)【発明者】
【氏名】松井 秀和
【審査官】杉山 悟史
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-103166(JP,A)
【文献】特開平03-287389(JP,A)
【文献】特開平04-333369(JP,A)
【文献】特開平06-344280(JP,A)
【文献】特開平06-039672(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00 ~ 21/02
B23K 9/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の対象物を直線部と曲線部とを有するレールに沿って移動させ位置決めする移動位置決め装置であって、
前記対象物を搭載し、前記レールを把持して当該レール上を滑動可能であり互いに滑動方向に離れて配置された2つのガイド部を有し、前記ガイド部の案内により前記レールに沿って移動するキャリッジ本体と、
前記キャリッジ本体に設けられ、前記レールに沿って設けられたラックに噛合うピニオンギアと、
前記キャリッジ本体を起点として前記ピニオンギアを前記ラックに押し付ける方向の力を前記ピニオンギアに付与するピニオン押圧部と、を備え
前記ピニオン押圧部は、
前記ピニオンギアを回転可能に支持するとともに、前記キャリッジ本体に対して前記ピニオンギアの回転軸とは位置が異なる回動軸周りに回動可能に支持されたピニオン支持部と、
前記ピニオン支持部に対して前記回動軸周りの回動力を付与する回動力付与部と、を有する、移動位置決め装置。
【請求項2】
前記回動力付与部は、前記回動軸から見て前記ピニオンギアの前記回転軸よりも遠い位置にある、請求項1に記載の移動位置決め装置。
【請求項3】
前記対象物は、所定のエンドエフェクタを操作するロボットである、請求項1又は2に記載の移動位置決め装置。
【請求項4】
前記対象物は、前記エンドエフェクタとして溶接ツールを操作し鉄骨部材を溶接する溶接ロボットであり、
前記レールは前記鉄骨部材を囲んで環状に設けられている、請求項3に記載の移動位置決め装置。
【請求項5】
前記対象物の前記レールに沿った移動方向の位置を、前記ピニオンギアの回転に基づいて認識する位置認識手段を備える、請求項1~4の何れか1項に記載の移動位置決め装置。
【請求項6】
1つの前記ガイド部が、前記レールの幅方向に当該レールを挟み込む一対のローラーユニットを備え、
1つの前記ローラーユニットが、前記ピニオン押圧部による前記ピニオンギアの押圧方向に前記レールを挟みこむとともに前記押圧方向に対して傾斜した回転軸線をもつ一対のローラーを有している、請求項1~5の何れか1項に記載の移動位置決め装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動位置決め装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、このような分野の技術として、下記特許文献1に記載の搬送装置が知られている。この搬送装置では、レール上を移動するパレットに、レールを挟んで対向する対のガイドローラが3組設けられている。このうち、両端の2組の4つのガイドローラが、スプリングによって付勢されレールに押し付けられることで、パレットがレールの曲線部を安定して移動できるようにすることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平6-39672号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら上記搬送装置では、スプリングの強さの不安定性により平面視でのパレットの回転方向の位置が不安定であり、搬送対象の位置決め精度が低下する虞がある。本発明は、対象物の位置決め精度を向上する移動位置決め装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の移動位置決め装置は、所定の対象物をレールに沿って移動させ位置決めする移動位置決め装置であって、対象物を搭載し、レールを把持して当該レール上を滑動可能であり互いに滑動方向に離れて配置された2つのガイド部を有し、ガイド部の案内によりレールに沿って移動するキャリッジ本体と、キャリッジ本体に設けられ、レールに沿って設けられたラックに噛合うピニオンギアと、キャリッジ本体を起点としてピニオンギアをラックに押し付ける方向の力をピニオンギアに付与するピニオン押圧部と、を備える。
【0006】
この移動位置決め装置では、対象物を搭載するキャリッジ本体にピニオンギアが設けられており、ピニオンギアはレールに沿って設けられたラックに噛合っている。従って、キャリッジ本体及び対象物のレールに沿った移動方向の位置は、ピニオンギアの回転に基づいて検知可能である。そして、ピニオン押圧部によりピニオンギアがラックに押し付けられているので、ピニオンギアとラックとのバックラッシュを低減することができる。従って、上記のバックラッシュに起因するキャリッジ及び対象物の移動方向の位置誤差が低減され位置決め精度が向上する。
【0007】
また、キャリッジ本体はレール上を滑動可能な2つのガイド部でレールを把持し、2つのガイド部は滑動方向に離れて配置されている。この構造により、ピニオン押圧部の反力によってキャリッジ本体は変位せず、キャリッジ本体及び対象物の移動方向の位置に基づいて、キャリッジ本体及び対象物の移動に直交する方向の位置やレールに対する回転方向の位置は一意に決まる。従って、前述のとおりキャリッジ本体及び対象物の移動方向の位置決め精度が向上することにより、移動に直交する方向の位置や回転位置も正確に検知される。
【0008】
また、ピニオン押圧部は、ピニオンギアを回転可能に支持するとともに、キャリッジ本体に対してピニオンギアの回転軸とは異なる回動軸周りに回動可能に支持されたピニオン支持部と、ピニオン支持部に対して回動軸周りの回動力を付与する回動力付与部と、を有する、こととしてもよい。
【0009】
また、対象物は、所定のエンドエフェクタを操作するロボットである、こととしてもよい。この種のロボットでは、エンドエフェクタの位置決めが重要である。ロボットを搭載してレール上を移動するキャリッジ本体の位置決め精度が向上されることで、エンドエフェクタの位置決め精度が向上する。
【0010】
また、対象物は、エンドエフェクタとして溶接ツールを操作し鉄骨部材を溶接する溶接ロボットであり、レールは鉄骨部材を囲んで環状に設けられている、こととしてもよい。ピニオン押圧部によりピニオンギアとラックとのバックラッシュの変動が抑えられるので、例えばレールの曲率が変動する区間を移動するときも、対象物の位置決め精度の低下が抑えられる。従って、レールの曲率を比較的自由に設計することができるので、例えば、鉄骨部材の側面に近づけてレールを設置することも可能であり、これにより、レールを鉄骨部材の周りにコンパクトに設置することができる。
【0011】
また、本発明の移動位置決め装置は、対象物のレールに沿った移動方向の位置を、ピニオンギアの回転に基づいて認識する位置認識手段を備える、こととしてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、対象物の位置決め精度を向上する移動位置決め装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態の移動位置決め装置が適用される溶接装置の一例を示す斜視図である。
図2】溶接ロボットを搭載した状態のキャリッジの断面図であり、当該キャリッジの移動方向に直交する鉛直断面を示す。
図3】(a),(b)はキャリッジを一部破断して示す平面図であり、具体的には、キャリッジの主要な内部部品が見えるようにキャリッジ本体の上面の筐体壁等を破断して示す図である。
図4】レールの直線部を移動するキャリッジと曲線部を移動するキャリッジとを、図3と同様に一部破断して示す平面図である。
図5図1のレール及び柱部品を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら本発明に係る移動位置決め装置の一実施形態について説明する。以下の説明においては、同一要素又は同一機能を有する要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する場合がある。本実施形態の移動位置決め装置は、図1に示される溶接装置1に適用されるキャリッジ17である。キャリッジ17は、搭載した溶接ロボット13を水平なレール11上で移動させるとともに、当該溶接ロボット13の位置決めを行うものである。
【0015】
図1に示されるように、溶接装置1は、建物の施工現場において、柱部品3(鉄骨部材)同士の溶接を行うための現場溶接装置である。柱部品3は例えば角形の鋼管であり、複数の柱部品3が鉛直方向に重ねられ互いに溶接されることで角形の鋼管柱が構築される。溶接される柱部品3,3同士は、互いの材軸を一致させ、柱部品3,3の水平な端部同士が全周に亘って近接し対向するように配置される。この端部同士が対向する箇所に開先Wが形成され、開先Wは、柱部品3の全周に亘って水平面内に延在している。
【0016】
開先Wの近傍において、柱部品3,3の4つの外壁面の各中央部には、それぞれエレクションピース4が予め溶接されている。上の柱部品3に設けられたエレクションピース4と、下の柱部品3に設けられたエレクションピース4とが鉛直方向に並び、開先Wを跨ぐ建方治具5によって互いに接続されている。このようなエレクションピース4及び建方治具5により、溶接前の柱部品3,3同士が仮接続されている。
【0017】
溶接装置1は、レール11と、レール11上を移動可能な溶接ロボット13と、溶接ロボット13を制御する制御部15と、を備えている。レール11は、柱部品3,3の全周を囲んで水平に延びる環状をなしており、所定の固定具11fを介して下側の柱部品3に支持されている。レール11には溶接ロボット13を搭載するとともにレール11上を走行する前述のキャリッジ17が取り付けられている。キャリッジ17は溶接ロボット13を移動して位置決めする移動位置決め装置として機能する。
【0018】
溶接ロボット13は6軸垂直多関節ロボットであり、溶接ロボット13のアーム13a先端には、溶接用エンドエフェクタとしての溶接トーチ21(溶接ツール)と、溶接中において溶接トーチ21の直前の開先形状をセンシングする開先センサ23と、が搭載されている。制御部15は、レール11上における溶接ロボット13の移動(キャリッジ17の走行)、溶接ロボット13のアーム13aの駆動、溶接トーチ21の溶接動作、開先センサ23のセンシング動作等を統合的に制御するコンピュータシステムである。
【0019】
図2は溶接ロボット13を搭載した状態のキャリッジ17の断面図であり、当該キャリッジ17の移動方向に直交する鉛直断面を示している。図3(a)はキャリッジ17を一部破断して示す平面図である。図2に示されるように、キャリッジ17の側面には台座19を介在させて溶接ロボット13のベースL0が固定されている。台座19は、溶接ロボット13のベースL0の設置面の傾斜を調整するためのものである。溶接ロボット13は、アーム13aの各リンクL1~L6をそれぞれ回転させるモータ等の駆動源(図示せず)を備えており、当該駆動源は制御部15の制御信号に従って動作する。
【0020】
前述の溶接トーチ21及び開先センサ23は最先端リンクL6に搭載されており、制御部15がアーム13aの各リンクL1~L6の回転を制御することにより、溶接トーチ21及び開先センサ23の位置及び姿勢が制御される。そして、制御部15は、キャリッジ17を位置決めした上で、溶接ロボット13のアーム13aの制御により溶接トーチ21及び開先センサ23を開先Wに沿って水平に移動させながら、開先W内に溶接ビードを形成していく。
【0021】
以下、キャリッジ17の構成について更に詳細に説明する。以下では、図2及び図3に示されるように鉛直方向をZ方向、キャリッジ17の移動方向をY方向、キャリッジ17の移動方向に直交する水平方向をX方向とする。そして、Z方向への並進移動をZ移動、Y方向への並進移動をY移動、X方向への並進移動をX移動、Z方向に平行な軸周りの回転移動をθZ回転、Y方向に平行な軸周りの回転移動をθY回転、X方向に平行な軸周りの回転移動をθX回転と呼ぶ。
【0022】
図2及び図3(a)に示されるように、キャリッジ17は、筐状のキャリッジ本体31と、キャリッジ本体31に内蔵され鉛直軸周りに回転するピニオンギア33と、制御部15による制御下でピニオンギア33を駆動するモータ35と、を備えている。キャリッジ本体31の側面には前述の台座19を介して溶接ロボット13が固定され、キャリッジ本体31はレール11上をY方向に滑動可能な状態で把持する。レール11の側面には当該レール11の全長に亘って延びるラック12が設けられており、このラック12に対して上記ピニオンギア33が噛合っている。この構造により、モータ35がピニオンギア33を回転させることで、溶接ロボット13を搭載したキャリッジ17がレール11に沿ってY方向に移動する。
【0023】
キャリッジ本体31がレール11を滑動可能な状態で把持する構造は次の通りである。図1では細かい描写が省略されているが、レール11には、図2に断面が示されるように、後述のガイドローラ39aを転動させるための4つのローラ転動面11aが形成されている。各ローラ転動面11aは、レール11の上部外側、上部内側、下部外側、及び下部内側の4箇所の角部にそれぞれ位置し、水平面に対し45°傾斜しレール11長手方向に延びている。
【0024】
図3(a)に示されるように、キャリッジ本体31は、各々がレール11を把持する2つのガイド部37,37を有している。ガイド部37,37は、キャリッジ本体31の一部がレール11側に向けて延び出すように設けられており、互いにY方向に離れて配置されている。1つのガイド部37は、図2に示されるように、上下一対のローラユニット39,39を有しており、ローラユニット39,39同士の間にレール11を上下に挟み込んでいる。
【0025】
ガイド部37のうち上方に位置するローラユニット39は、2つのガイドローラ39a,39aと、当該ガイドローラ39a,39aを軸支するローラ支持座39bと、を有している。2つのガイドローラ39a,39aの回転軸線は水平面に対し互いに反対方向に45°傾斜している。そして、一方のガイドローラ39aがレール11の上部外側の角のローラ転動面11a上を転動し、他方のガイドローラ39aがレール11の上部内側の角のローラ転動面11a上を転動するように配置されている。その一方、ガイド部37のうち下方に位置するローラユニット39も、上方のローラユニット39と上下対称に構成されており、当該ローラユニット39のうち一方のガイドローラ39aがレール11の下部外側の角のローラ転動面11a上を転動し、他方のガイドローラ39aがレール11の下部内側の角のローラ転動面11a上を転動する。
【0026】
上記のような構成のガイド部37は、上下一対のローラユニット39,39が有する合計4つのガイドローラ39aによってレール11を把持する。このガイド部37はY方向に滑動可能であり、ガイド部37のX方向移動及びZ方向移動は禁止されている。そして、キャリッジ本体31には、図3(a)に示されるように、このようなガイド部37がY方向に2つ配列され設けられていることで、キャリッジ本体31はレール11を把持した状態で、ガイド部37の案内によりレール11上をY方向へ滑動することが可能である。また、キャリッジ本体31にY方向に離れた上記の2つのガイド部37が存在することで、キャリッジ本体31のZ移動、X移動、θZ回転、θY回転、及びθX回転が禁止されている。
【0027】
ピニオンギア33を駆動するモータ35は例えばステッピングモータであり、モータ35の回転数及び回転位相は、制御部15により制御されている。モータ35に送信した駆動信号に基づいて、ピニオンギア33を所望の回転数及び回転位相で回転させてレール11上で所望の距離だけキャリッジ17を走行させる。従って、制御部15は、モータ35及びピニオンギア33の回転数及び回転位相を認識することができる。そして、制御部15(位置認識手段)は、ピニオンギア33の回転数及び回転位相に基づいて、ピニオンギア33のY方向の位置を認識することができ、ひいてはこのピニオンギア33を内蔵するキャリッジ本体31のY方向位置を検知することができる。そして、制御部15は、上記のように検知されるキャリッジ本体31のY方向位置に基づいて、溶接ロボット13を位置決めし、溶接トーチ21及び開先センサ23を位置決めする。
【0028】
図2及び図3(a)に示されるように、キャリッジ本体31内にはピニオンブロック41(ピニオン押圧部)が内蔵されている。ピニオンブロック41は、上記ピニオンギア33と、ピニオンギア33を軸支するピニオンフレーム部43(ピニオン支持部)と、を備えている。ピニオンフレーム部43は、角部のピン43aにおいてキャリッジ本体31に対してヒンジ結合されている。ピニオンフレーム部43はキャリッジ本体31に対して相対的に、ピン43aを中心にしてθZ方向に回動可能である。なお、ピニオンフレーム部43の回動軸線(ピン43aの位置)は、ピニオンギア33の回転軸33aとは異なる位置にある。この構成により、ピニオンギア33はラック12に対して進退方向に変位可能である。
【0029】
更に、キャリッジ17は、ピニオンブロック41を付勢するためのコイルバネ45(回動力付与部)を有している。具体的には、ピニオンフレーム部43には、上記コイルバネ45の一端を受けるためのバネ受け部43bが設けられており、バネ受け部43bは、ピン43aから見て回転軸33aよりも遠い位置でY方向に張出している。また、キャリッジ本体31内には、このコイルバネ45の他端が支持されるバネ支持座31bが設けられている。コイルバネ45は圧縮ばねであり、バネ支持座31bに反力を取ってバネ受け部43bをレール11に向けてX方向に付勢している。
【0030】
この構成によれば、コイルバネ45は、キャリッジ本体31に反力を取って、ピニオンフレーム部43に対してピン43aを中心とする平面視時計回りの回動力を付与する回動力付与部として機能する。そして、ピニオンギア33には、キャリッジ本体31を起点として当該ピニオンギア33をラック12に押し付ける方向の力が付与される。逆にピニオンギア33がラック12側からのX方向の力を受けた場合には、図3(b)に示されるように、コイルバネ45の付勢力に逆らってピニオンブロック41が平面視反時計回りに回動し、ピニオンギア33がラック12とは反対の方向に変位可能である。
【0031】
以上説明したキャリッジ17による作用効果について説明する。
【0032】
前述のとおり、制御部15は、ピニオンギア33の回転に基づいてキャリッジ本体31のY方向位置を位置決めし、ひいては溶接トーチ21及び開先センサ23を位置決めする。ここで、キャリッジ17によれば、上記のようにピニオンギア33がラック12に押し付けられているので、ピニオンギア33とラック12とのバックラッシュが低減する。なお、ここでは、上記バックラッシュをゼロにすることも可能である。従って、上記バックラッシュに起因するキャリッジ本体31のY方向位置の誤差が低減され、キャリッジ本体31及び溶接ロボット13のY方向位置の位置決め精度が向上する。また、ピニオンギア33がラック12に押し付けられていることから、ピニオンギア33の駆動力をラック12に適切に伝達することができるので、ピニオンギア33やラック12の摩耗も低減される。
【0033】
また、キャリッジ本体31が2つのガイド部37,37でレール11を把持する前述の構成により、キャリッジ本体31はY方向以外では当該レール11に対して剛に固定されている。従って、キャリッジ本体31は、ピニオンギア33をラック12に押し付ける前述の力の反力によってもほぼ変位しない。そして、キャリッジ本体31のY方向位置が決まれば、キャリッジ本体31のZ方向位置、X方向位置、θZ回転方向位置、θY回転方向位置、及びθX回転方向位置も一意に決まる。
【0034】
従って、前述のようにキャリッジ本体31のY方向位置の位置決め精度が向上することにより、キャリッジ本体31の6軸方向の位置(Z方向位置、Y方向位置、X方向位置、θZ回転方向位置、θY回転方向位置、及びθX回転方向位置)の位置決め精度も向上する。ひいては、キャリッジ本体31に固定された溶接ロボット13の6軸方向の位置決め精度が向上し、更には溶接トーチ21及び開先センサ23の6軸方向の位置決め精度が向上し、その結果、開先Wの正確な溶接が可能になる。また、キャリッジ本体31がY方向以外で当該レール11に対して剛に固定されていることから、溶接ロボット13の動作等に伴うキャリッジ本体31の振動も抑制される。
【0035】
また、図4に示されるように、平面視における直線部と曲線部とが存在するレール11を考えると、キャリッジ17のピニオンギア33とガイド部37,37との間に挟み込まれるレール11及びラック12の向きがレールの曲率によって変動し、挟み込むべき幅が変動する。すなわち、例えば、キャリッジ17がレール11の直線部を移動しているとき(図中のキャリッジ17A)では、ピニオンギア33とガイド部37,37との間にレール11及びラック12が垂直に挟み込まれる。これに対し、キャリッジ17がレール11の曲線部を移動しているとき(図中のキャリッジ17B)では、ピニオンギア33とガイド部37,37との間にレール11及びラック12が斜めに挟み込まれる。この場合、幾何学的に理解されるように、ピニオンギア33とガイド部37,37とが、キャリッジ17Aの場合と比較して、より広い幅でレール11及びラック12を挟み込む必要がある。そうすると、ピニオンギア33の回転軸33aはガイド部37,37から離れる方向に僅かに変位する必要がある。
【0036】
これに対して、本実施形態のキャリッジ17によれば、ピニオンギア33はラック12に対して進退方向に変位可能であり、ピニオンギア33がコイルバネ45の付勢力によってラック12に押し付けられている。従って、ピニオンギア33とガイド部37,37との間に挟み込むべきレール11及びラック12の幅が広くなった場合には、図中のキャリッジ17Bのように、コイルバネ45の付勢力に逆らってピニオンブロック41がピン43a周りに僅かに回動し、ピニオンギア33がX方向に変位することで、ピニオンギア33とラック12との噛み合い状態の変動を抑えることが可能である。
【0037】
従って、レール11が例えば直線部と曲線部とを有する場合のように、レール11の曲率が変動しても、キャリッジ17がレール11上を安定して移動可能であり、ピニオンギア33の歯飛びやバックラッシュの変動が抑えられ、キャリッジ本体31の位置決め精度が高く維持される。その結果、レール11の曲率を比較的自由に設計することができ、例えば、柱部品3の側面に近づけてレール11を設置することも可能である。すなわち、レール11を円環形状とする必要はなく、一例として図1及び図5に示されるように、レール11の液状を正方形に近づけた形状とすることができる。図1及び図5で示す例のレール11は正方形の4角を丸めた形状をなし、直線部と曲線部とを有している。その結果、レール11を円環形状とした場合に比較して、レール11を角形の柱部品3の周りにコンパクトに設置することができる。
【0038】
なお、上記のようにレール11の曲率の変動に起因するピニオンギア33とラック12との噛み合い状態の変動を抑えるためには、レール11の曲率に依らずピニオンギア33がラック12に一定の力で押し付けられることが最も好ましい。このために、コイルバネ45としてはバネ定数が可能な限り小さいものが採用されることが好ましい。そして、バネ定数が小さく自由長さが長いコイルバネ45が、プレロードをかけた状態でバネ受け部43bとバネ支持座31bとの間に設置される。この構成により、ピニオンブロック41の比較的狭い可動範囲内においては、コイルバネ45の長さが変動しても、コイルバネ45が発生する付勢力は一定とみなすことができる。すなわち、このキャリッジ17で想定されるピニオンギア33のX方向の変位幅は比較的小さいと考えられ、従って、コイルバネ45の長さ変動幅も比較的小さい。よって、コイルバネ45のバネ定数が小さいことも相俟って、上記変動幅内におけるコイルバネ45の付勢力はぼぼ一定である。また、ピニオンブロック41の可動範囲は、キャリッジ17のレール11上の移動において、ピニオンブロック41が可動限界に突き当たらないような範囲にピニオンブロック41の可動範囲が設定される。なお、レール11の曲率に依らずピニオンギア33がラック12に一定の力で押し付けられる他の構成としては、コイルバネ45に代えて油圧シリンダ等によりバネ受け部43bが押されてもよい。
【0039】
本発明は、上述した実施形態を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した様々な形態で実施することができる。また、上述した実施形態に記載されている技術的事項を利用して、変形例を構成することも可能である。各実施形態等の構成を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0040】
例えば、実施形態では、コイルバネ45がピニオンギア33を含むピニオンブロック41をピン43a周りの回動方向に付勢することで、ピニオンギア33にラック12への押圧力を付与しているが、本発明におけるピニオン押圧部は、ピニオンギア33をラック12に向けて直線的に押圧してもよく、このような直線的に押圧する機構としては、種々の機構を採用することができる。
【0041】
例えば、本発明の移動位置決め装置の位置決め対象の溶接ロボットは、鋼管柱の溶接用に限定されず、他の種類の鉄骨部材の溶接に使用されるものであってもよい。また、本発明の移動位置決め装置の位置決め対象は、溶接ロボットには限定されず、用途に応じたエンドエフェクタを備えるレール移動方式の他のロボットであってもよい。例えば、本発明の移動位置決め装置は、スラグ除去のロボット、センシングロボット、ボルト締めロボット、工場での加工ロボット、鉄筋組立ロボット、3Dプリンタロボット、などの移動位置決めにも適用可能である。また、本発明の移動位置決め装置は、ロボットに限定されず他のレール移動方式の対象物の移動位置決めにも適用可能である。
【符号の説明】
【0042】
3…柱部品(鉄骨部材)、11…レール、12…ラック、13…溶接ロボット(対象物)、15…制御部(位置認識手段)、17…キャリッジ(移動位置決め装置)、21…溶接トーチ(エンドエフェクタ、溶接ツール)、23…開先センサ(エンドエフェクタ)、31…キャリッジ本体、33…ピニオンギア、33a…回転軸、37…ガイド部、41…ピニオンブロック(ピニオン押圧部)、43…ピニオンフレーム部(ピニオン支持部)、43a…ピン(回動軸)、45…コイルバネ(回動力付与部、ピニオン押圧部)。
図1
図2
図3
図4
図5