IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三ツ星ベルト株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-結合Vベルト 図1
  • 特許-結合Vベルト 図2
  • 特許-結合Vベルト 図3
  • 特許-結合Vベルト 図4
  • 特許-結合Vベルト 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-09
(45)【発行日】2024-08-20
(54)【発明の名称】結合Vベルト
(51)【国際特許分類】
   F16G 5/20 20060101AFI20240813BHJP
   F16G 5/06 20060101ALI20240813BHJP
【FI】
F16G5/20 A
F16G5/06 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021178962
(22)【出願日】2021-11-01
(65)【公開番号】P2022085864
(43)【公開日】2022-06-08
【審査請求日】2023-05-23
(31)【優先権主張番号】P 2020197101
(32)【優先日】2020-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006068
【氏名又は名称】三ツ星ベルト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【弁理士】
【氏名又は名称】阪中 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【弁理士】
【氏名又は名称】鍬田 充生
(72)【発明者】
【氏名】横山 和貴
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-033536(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第00050174(EP,A1)
【文献】特開平04-351350(JP,A)
【文献】特開平08-082346(JP,A)
【文献】特開2014-185771(JP,A)
【文献】特開2008-111518(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16G 5/20
F16G 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルト幅方向に並ぶ複数のVベルト部と、この複数のVベルト部の各外周面を連結するためのタイバンドとを含み;各Vベルト部が、芯体を含む芯体層と、この芯体層のベルト外周側に積層された伸張層と、前記芯体層のベルト内周側に積層された圧縮ゴム層とを含む結合Vベルトであって、
前記タイバンドが、繊維構造体を含む連結補強層を有し;前記繊維構造体が、ベルト幅方向に少なくとも延びる複数の第1の糸状体を含み;この第1の糸状体が、ベルト長さ方向に少なくとも間隔をおいて配置され、
互いに隣り合う前記第1の糸状体が、ベルト長さ方向に4.8mmの隙間をあけて配置され
前記第1の糸状体が、ポリエステル系繊維およびポリアミド系繊維から選択される少なくとも一種を含み、
前記第1の糸状体の平均径(直径)が、0.15~0.3mmであり、
前記第1の糸状体が、撚り数が1回/100mm未満の無撚糸、または撚り数が1~29回/100mmの甘撚り糸である結合Vベルト。
【請求項2】
前記第1の糸状体の密度が、5~50本/50mmであり、前記第1の糸状体の繊度が、100~1000dtexである請求項1記載の結合Vベルト。
【請求項3】
前記第1の糸状体のカバーファクターが、150~1200(本/50mm)×(dtex)1/2である請求項1または2記載の結合Vベルト。
【請求項4】
前記連結補強層が、さらにゴム成分を含み;このゴム成分が、ベルト長さ方向に隣り合う前記第1の糸状体の間に介在する請求項1~3のいずれか一項に記載の結合Vベルト。
【請求項5】
前記繊維構造体が、ベルト幅方向と交差する方向に延び、かつ少なくとも前記第1の糸状体に連結された複数の第2の糸状体を含むネットである請求項1~のいずれか一項に記載の結合Vベルト。
【請求項6】
前記タイバンドが、前記連結補強層の外周側に積層され、かつ布帛を含む保護層をさらに有する請求項1~のいずれか一項に記載の結合Vベルト。
【請求項7】
ベルト幅方向に並ぶ複数のVベルト部の外周面を、前記連結補強層を有するタイバンドに連結して、請求項1~のいずれか一項に記載の結合Vベルトを製造する方法。
【請求項8】
請求項1~のいずれか一項に記載のタイバンドで複数のVベルト部を連結して、得られる結合Vベルトの輪断を抑制する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大規模な農業機械などの高負荷で長スパン(軸間距離の長い)レイアウトにおいて、複数本のVベルトをプーリ等に巻き掛けて同時に用いる結合Vベルト(マルチVベルト、バンデッドベルト)およびその製造方法ならびに輪断(タテ裂き)抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
摩擦伝動により動力を伝達するVベルトには、摩擦伝動面(V字状側面)が露出したゴム層であるローエッジ(Raw-EDGE)タイプ(ローエッジVベルト)と、摩擦伝動面がカバー布で覆われたラップド(Wrapped)タイプ(ラップドVベルト)とがあり、摩擦伝動面の表面性状(ゴム層とカバー布との摩擦係数)の違いから用途に応じて使い分けられている。これらのVベルトは、トラックやバスなどの大型自動車および産業機械などの幅広い分野で使用されており、伝動容量の増大や装置の大型化などにより高負荷で使用される。普通自動車の補機駆動用など、それほど大きな伝動容量を必要としない用途においては、薄型のVリブドベルトが汎用されているが、Vリブドベルトでは伝動容量が不足するような高負荷用途では、大型のVベルトが利用される。大型のVベルトのように高負荷環境で使用されるベルトでは、例えば、座屈変形(ディッシング)を防ぐためにベルト幅方向の高い剛性(耐側圧性)が求められるなど、高負荷に耐えるべく、Vリブドベルトとは異なる材料選定や製品設計が必要とされる。
【0003】
これらのVベルトは、単体で動力の伝達が可能な用途の場合は、1本のみで用いられるが、例えば、欧米などで使用される大規模な農業機械などの伝達する動力がより大きい環境では、複数本のVベルトを同時に用いる必要が生じる。
【0004】
しかし、回転装置のプーリなどに対して複数本のVベルトを並列に並べた状態で巻き掛ける場合、ベルト間において張力差が生じ、安定した動力伝達が損なわれてしまうおそれがある。さらには、隣り合うベルト同士において接触が生じてしまい、その接触が原因となり、ベルトの内周側と外周側とがひっくり返るように反転して逆となってしまう転覆が生じるおそれがある。また、欧米などで使用される大規模な農業機械でのレイアウトは、Vベルトを巻き掛けるプーリとプーリとの軸間距離が非常に長いため、走行においてVベルトが大きく振れやすく、さらに複数本のベルト長さが不揃いな場合などでは、加振されることもある。
【0005】
そこで、このような使用環境では、上記のVベルトと同様のあるいは対応した構成を有する環状のVベルト部が複数結合されて構成された結合Vベルトが用いられる。この結合Vベルトは、複数の前記Vベルト部が並列に並んだ状態で各Vベルト部の外周側が補強布などの結合部材(タイバンド)で連結されて結合されたVベルトとして構成される。
【0006】
このような結合Vベルトとして、例えば、特公昭47-34432(特許文献1)には、ベルト長手方向に対して斜方向に交叉する糸を有する織物層を設けた連結バンドを設けた結合Vベルトが開示されている。また、各ベルト本体間の荷重伝達の際に糸の張力として作用するために荷重伝達能力が高いこと、糸の交叉角度は90または95~155°の範囲であってもよいことが記載されている。
【0007】
実開昭55-45082(特許文献2)には、少なくとも2層のゴム付スダレコードを交叉積層した結合部材を含む構成が開示されている。また、交叉角は95~150°であってもよく、縦方向の伸縮性と横方向の伸縮性並びに剛性を良好にできると記載されている。
【0008】
特開昭55-135244(特許文献3)には、ゴム付伸縮性帆布により連結一体化した結合Vベルトが開示されている。また、伸縮性帆布の緯糸はウーリー加工された捲縮ナイロン糸であってもよく、この捲縮ナイロン糸がベルト長手方向に対して0~40°斜め方向に配置された構成であってもよいことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特公昭47-34432
【文献】実開昭55-45082
【文献】特開昭55-135244
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
結合Vベルトにおいては、結合部材の耐久性を向上することが課題となっている。結合Vベルトの結合部材には、ベルト幅方向への引張力、およびベルト長さ方向へのせん断力が作用する。また、小石などの異物がベルトとプーリの間にかみ込むことにより、結合部材が損傷する場合がある。その結果、結合部材に亀裂が生じ、その亀裂がベルト長さ方向に伝播することによって各Vベルト部の連結が失われ、個別のVベルトに分断される輪断(タテ裂き)と呼ばれる現象が発生することがある。
【0011】
しかしながら、前記特許文献に記載された構成は、伝動容量の増大が続く近年においては結合Vベルトの輪断を抑制する効果が十分ではなく、さらなる改善が求められていた。
【0012】
従って、本発明の目的は、高負荷環境であっても、輪断を有効に抑制できる結合Vベルトおよびその製造方法、ならびに輪断抑制方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、特定の繊維構造体を含み、かつこの繊維構造体をベルトに対して特定の方向に向けて配置したタイバンドにより結合Vベルトを形成すると、高負荷環境であっても輪断を有効に抑制できることを見いだし、本発明を完成した。
【0014】
すなわち、本発明の結合Vベルトは、ベルト幅方向に並ぶ複数のVベルト部(ベースベルト)と、この複数のVベルト部の各外周面を連結するためのタイバンドとを含み;各Vベルト部が、芯体を含む芯体層と、この芯体層のベルト外周側に積層された伸張層と、前記芯体層のベルト内周側に積層された圧縮ゴム層とを含む結合Vベルトであって、
前記タイバンドが、繊維構造体(繊維集合体)を含む連結補強層を有し;前記繊維構造体が、ベルト幅方向に少なくとも延びる複数の第1の糸状体を含み;この第1の糸状体が、ベルト長さ方向に少なくとも間隔をおいて配置されている。互いに隣り合う前記第1の糸状体は、ベルト長さ方向に0.5~7.5mm程度の隙間をあけて配置されていてもよい。
【0015】
前記第1の糸状体の密度は、5~50本/50mm(例えば10~39本/50mm)程度であってもよく、前記第1の糸状体の繊度は、100~1000dtex程度であってもよい。前記第1の糸状体のカバーファクターは、150~1200(本/50mm)×(dtex)1/2程度であってもよい。また、前記連結補強層は、さらにゴム成分を含んでいてもよく、このゴム成分は、ベルト長さ方向に隣り合う前記第1の糸状体の間に介在していてもよい。前記第1の糸状体は、撚り数が1回/100mm未満(0回/100mm以上、1回/100mm未満)の無撚糸、または撚り数が1~29回/100mmの甘撚り糸であってもよい。前記第1の糸状体は、合成繊維および/または無機繊維を含んでいてもよく、前記合成繊維は、ポリプロピレン系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリエステル系繊維およびポリアミド系繊維から選択される少なくとも一種の合成繊維を含んでいてもよい。前記繊維構造体は、ベルト幅方向と交差する方向に延び、かつ少なくとも前記第1の糸状体に連結された複数の第2の糸状体を含むネットであってもよい。前記タイバンドは、前記連結補強層の外周側に積層され、かつ布帛を含む保護層をさらに有していてもよい。
【0016】
本発明は、ベルト幅方向に並ぶ複数のVベルト部の外周面を、前記連結補強層を有するタイバンドに連結して、前記結合Vベルトを製造する方法、また、前記タイバンドで複数のVベルト部を連結して、得られる結合Vベルトの輪断を抑制する方法を包含する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の結合Vベルトは、特定の繊維構造体を含み、かつこの繊維構造体をベルトに対して特定の方向に向けて配置したタイバンドにより形成するため、高負荷環境、例えば、大きな伝動容量が必要とされる用途などに用いても、輪断を有効に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明の結合Vベルトの一例を示す部分切り欠き概略断面斜視図である。
図2図2は、本発明の結合Vベルトを構成するVベルト部の一例の概略断面図である。
図3図3は、複数本の未架橋のVベルト部をタイバンドで連結する工程を説明するための概略断面図である。
図4図4は、実施例で得られた結合VベルトのVベルト部の摩擦係数の測定方法を説明するための概略図である。
図5図5は、実施例および比較例で得られた結合Vベルトの走行試験を説明するための概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、必要により添付図面を参照しつつ、本発明を詳細に説明する。なお、以下の説明において、同一のまたは機能が共通する要素(または部材)には同じ符号を付す場合がある。
【0020】
本発明の結合Vベルトの一例として、ラップド結合Vベルトの部分切り欠き概略断面斜視図を図1に示す。図1に示すように、この結合Vベルト10は、間隔をおいてベルト幅方向(図1中のB方向)に平行に並んだ3本のVベルト部Vを備えており、この3本のVベルト部Vの各外周面は、ベルト長さ方向(周長方向、図1中のA方向)に間隔をおいてベルト幅方向に向かって延びる複数の第1の糸状体(糸条体)2aおよびベルト幅方向に間隔をおいてベルト長さ方向に向かって延びる複数の第2の糸状体(糸条体)2bで形成された繊維構造体2がゴム成分(架橋ゴム組成物)中に埋設された連結補強層1と、この連結補強層1の上に積層され、かつ布帛で形成された保護層3とを有するタイバンド(結合部材)Tによって連結されている。
【0021】
なお、各Vベルト部Vは、慣用のラップドVベルトと同様に、ベルト外周側から、伸張層(伸張ゴム層)4、芯体5[この例では、ベルト幅方向に所定間隔で配列した心線(撚りコード)]が架橋ゴム組成物中に埋設された芯体層(接着ゴム層)6、圧縮ゴム層7が順次積層された無端状のベルト本体と、このベルト本体の周囲をベルト周方向の全長に亘って被覆している外被布8(織物、編物、不織布など)とで形成されている。
【0022】
この例では、連結補強層1中の繊維構造体2は、緯糸(第1の糸状体2a)の上下に経糸(第2の糸状体2b)を交互に配列した構造を有するネット(網または網状構造体)であり、経糸(第2の糸状体2b)と緯糸(第1の糸状体2a)との交点(接点または交錯点)は樹脂で接着(接合または結合)されている。また、この例において、互いに隣り合う緯糸(第1の糸状体2a)は、ベルト長さ方向に0.5~7.5mm程度の隙間をあけて配置されている。さらに、この例における前記経糸(第2の糸状体2b)および緯糸(第1の糸状体2a)は、いずれも繊度(総繊度)が100~1000dtexのポリエチレンテレフタレート(PET)繊維(無撚糸、マルチフィラメント糸)であり、各糸の密度(糸密度)は、いずれも10~39本/50mmに調整されている。
【0023】
従来の結合Vベルトでは、ベルト長さ方向への屈曲性の向上と、ベルト幅方向への伸縮性(プーリへの嵌りやすさの向上)とを両立するために、タイバンド(結合部材)として、通常、糸(糸状体)がベルト幅方向に対して斜め(バイアス)方向に配置された帆布やスダレコードが利用され、この帆布やスダレコードでは、ベルト背面からの異物による損傷抑制や、タイバンドの機械的特性の観点から、一般的に糸がほぼ隙間なく高密度(例えば、糸密度が70~80本/50mm程度)に配置される。
【0024】
一方、上述のような本発明の結合Vベルト10では、各Vベルト部Vの背面を結合するタイバンドTとして、ベルト幅方向に延びる緯糸(第1の糸状体2a)が低密度に配置された繊維構造体(ネットまたは網状構造体)2を用いるにもかかわらず、意外なことに輪断(タテ裂き)を有効に抑制できる。このように輪断を抑制できる理由は定かではないが、緯糸(第1の糸状体2a)がベルト幅方向に対して平行に延びて配置されるため、ベルト幅方向に作用する引張力に対する抵抗力が向上して糸の切断が抑制されるのみならず、緯糸(第1の糸状体2a)が間隔を空けて低密度に配置される構成も大きく影響するものと考えられる。詳しくは、従来の結合Vベルトにおけるタイバンドのように、糸密度が高い方がタイバンドの機械的特性を向上でき輪断を起こし難いと考えられていたが、本発明者は、糸の切断が生じた際に、この切断した糸と隣り合う糸に応力が集中して、欠損(または亀裂)が連続的に伝播(または成長)し易いためか、高密度に糸を配置することでかえって輪断が生じる傾向にあることを見出した。すなわち、本発明のように幅方向に延びる糸が所定の隙間をあけて配置される場合(または糸の密度が低い場合)では、緯糸(第1の糸状体2a)の切断が生じても、切断した緯糸と隣り合う緯糸との間隔が離れているために、隣り合う緯糸に対して応力が集中し難くなり、亀裂の伝播が抑制されて、糸密度が低いにもかかわらず輪断を有効に抑制できるものと推測される。さらに、この例では、隣り合う緯糸(第1の糸状体2a)の間にゴム成分(架橋ゴム組成物)が存在するため、応力がゴム成分に分散されて、より一層、欠損が伝播し難くなるとともに、繊維構造体(ネットまたは網状構造体)2の剥離を有効に抑制できるものと考えられる。
【0025】
なお、連結補強層1の上に布帛で形成された保護層3を積層してタイバンド(結合部材)Tを形成することにより、連結補強層1中の繊維構造体(ネットまたは網状構造体)2がベルト背面からの異物などによって損傷するのを有効に抑制できる。
【0026】
[タイバンド(結合部材)]
本発明の結合Vベルトにおけるタイバンドは、特定の繊維構造体を含む連結補強層を少なくとも有していればよく、必要に応じて、連結補強層の外周側に積層された保護層を備えていてもよい。
【0027】
[連結補強層]
(繊維構造体)
連結補強層中の繊維構造体は、ベルト幅方向に向かって少なくとも延びる複数の第1の糸状体(糸条体)を含み、この第1の糸状体が、ベルト長さ方向に少なくとも間隔をおいて配置されている。
【0028】
なお、本願において、第1の糸状体(糸条体)はベルト幅方向に略平行に延びていればよく、第1の糸状体(糸条体)が延びる方向とベルト幅方向とがなす角度が、例えば10°以下(例えば0~5°)程度、好ましくは3°以下(例えば0~1°、特に略0°)であることを意味する。
【0029】
また、本願において、ベルト幅方向に少なくとも延びる第1の糸状体(糸条体)は、ベルト幅方向に作用する引張力に対する抵抗力を発現して輪断を抑制できる限り、必ずしもベルト幅方向に一直線に延びていなくてもよく、例えば、前記繊維構造体が経糸と緯糸とで形成された織布である場合などのように、経糸と緯糸との交点(交差部または交錯点)などにおいて、部分的に屈曲または湾曲(例えばベルト厚み方向などに波形状に湾曲)する曲部を有していてもよい。第1の糸状体は、ベルト幅(またはタイバンドの幅)全体に対して、50%以上、好ましくは90%以上、さらに好ましくは略全体にわたって直線的に延びて形成されるのが好ましい。直線部の割合がこのような範囲にあると、ベルト幅方向の剛性が低下し難くなるとともに、前記交点において摩耗などによる糸の切断も抑制し易いようである。
【0030】
第1の糸状体の糸密度(ベルト長さ方向50mm当たりの糸本数)は、例えば5~50本/50mm(例えば8~45本/50mm)程度であってもよいが、従来のタイバンドとしての帆布やスダレコードに比べて低密度、例えば10~39本/50mm(例えば12~35本/50mm、好ましくは20~32本/50mm)程度の範囲から選択でき、好ましくは15~30本/50mm(例えば18~27本/50mm)、さらに好ましくは20~25本/50mm程度であってもよい。前記範囲は、前記糸密度の平均値の範囲であってもよい。第1の糸状体の密度の下限値がこのような範囲にあると、ベルト幅方向の剛性(引張力に対する抵抗力)を高める効果が十分に得られ、輪断を抑制し易くなり、第1の糸状体の密度の上限値がこのような範囲にあると、第1の糸状体の切断が生じても、その欠損(亀裂または切断)がベルト長さ方向に連続的に伝播し難くなり、輪断を抑制できる傾向にあり、特に、連結補強層がゴム成分(架橋ゴム組成物)を含む場合には、隣り合う第1の糸状体の間にゴム成分が入り込み易いためか、欠損箇所近傍などに作用する応力がゴム成分に分散されて、より一層、欠損が伝播し難くなるとともに、繊維構造体の剥離を有効に抑制できるようである。
【0031】
第1の糸状体の繊度(マルチフィラメント糸などである場合は総繊度)は、例えば100~1000dtex(例えば200~900dtex)程度の範囲から選択でき、好ましくは300~800dtex(例えば400~700dtex)、さらに好ましくは500~600dtex程度であってもよい。第1の糸状体の繊度の下限値がこのような範囲にあると、ベルト幅方向の剛性(引張力に対する抵抗力)を高める効果が十分に得られ、輪断を抑制し易くなり、第1の糸状体の繊度の上限値がこのような範囲にあると、隣り合う第1の糸状体間の間隔を適切な範囲に調整でき、輪断を抑制し易くなる。
【0032】
輪断を有効に抑制できる点から、互いに隣り合う第1の糸状体はベルト長さ方向に所定の隙間を設けて配置するのが好ましい。互いに隣り合う第1の糸状体同士の隙間(第1の糸状体間のベルト長さ方向の最短距離)は、例えば0.5~7.5mm(例えば0.8~6mm)程度の範囲から選択してもよく、好ましくは1~5mm(例えば1.1~4.5mm)、さらに好ましくは1.2~4mm(例えば1.3~3.5mm)、特に1.4~3mm(例えば1.4~2.5mm、特に1.4~2.1mm)程度であってもよい。前記範囲は、前記隙間の平均値の範囲であってもよい。第1の糸状体間の隙間の上限値がこのような範囲にあると、ベルト幅方向の剛性(引張力に対する抵抗力)を高める効果が十分に得られ、輪断を抑制し易くなり、第1の糸状体の密度の下限値がこのような範囲にあると、第1の糸状体の切断が生じても、その欠損(亀裂または切断)がベルト長さ方向に連続的に伝播し難くなり、輪断を抑制できる傾向にあり、特に、連結補強層がゴム成分(架橋ゴム組成物)を含む場合には、隣り合う第1の糸状体の間にゴム成分が入り込み易いためか、欠損箇所近傍などに作用する応力がゴム成分に分散されて、より一層、欠損が伝播し難くなるとともに、繊維構造体の剥離を有効に抑制できるようである。
【0033】
なお、本願において、繊維構造体中で同一方向に延び、かつ互いに隣り合う糸(糸状体)の「隙間」は、一方の糸の表面から、他方の糸の表面までの距離(最短距離)を意味する。
【0034】
輪断を有効に抑制できる点から、第1の糸状体は所定のカバーファクター(または被覆度、以下、CFともいう)を有していてもよい。カバーファクター(CF)は、繊維構造体中の糸(第1の糸状体)の緻密さ[または糸(第1の糸状体)が、繊維構造体平面をどの程度被覆しているか]を表す指標であって、本願において、下記式で表される。
【0035】
CF=n×(N)1/2
【0036】
[式中、nは糸(第1の糸状体)の糸密度[本/50mm]を示し、Nは糸(第1の糸状体)の繊度(総繊度)[dtex]を示す。]
【0037】
第1の糸状体のCF[単位:(本/50mm)×(dtex)1/2]は、例えば150~1200(例えば180~1100)程度の範囲から選択してもよく、好ましくは200~1000(例えば300~900)、さらに好ましくは400~800(例えば450~750)、特に500~720程度であってもよい。第1の糸状体のCFの下限値がこのような範囲にあると、ベルト幅方向の剛性(引張力に対する抵抗力)を高める効果が十分に得られ、輪断を抑制し易くなり、第1の糸状体の密度の上限値がこのような範囲にあると、第1の糸状体の切断が生じても、その欠損(亀裂または切断)がベルト長さ方向に連続的に伝播し難くなり、輪断を抑制できる傾向にあり、特に、連結補強層がゴム成分(架橋ゴム組成物)を含む場合には、隣り合う第1の糸状体の間にゴム成分が入り込み易いためか、欠損箇所近傍などに作用する応力がゴム成分に分散されて、より一層、欠損が伝播し難くなるとともに、繊維構造体の剥離を有効に抑制できるようである。
【0038】
なお、第1の糸状体は、例えば、紡績糸、フィラメント糸、複合糸などであってもよく、フィラメント糸(モノフィラメント糸、マルチフィラメント糸など)が好ましく、マルチフィラメント糸がさらに好ましい。
【0039】
第1の糸状体がマルチフィラメント糸である場合、マルチフィラメント糸は、例えば10~1000本(例えば30~700本)程度のフィラメントを含んでいてもよく、50~500本(例えば60~300本)程度のフィラメントを含んでいてもよく、好ましくは70~200本(例えば80~150本)、さらに好ましくは85~120本(例えば90~110本)程度のフィラメントを含んでいてもよい。
【0040】
第1の糸状体は、無撚糸または撚糸であってもよいが、ベルト幅方向の剛性を高められる点から、無撚糸、または撚り数が1~29回/100mmの甘撚り糸であるのが好ましく、特に無撚糸が好ましい。このように撚り数が少ない糸状体では、後述する接着処理による接着成分やゴム成分(架橋ゴム組成物)などが繊維間に浸透し易く接着性が有効に向上でき、繊維構造体の剥離を抑制し易い。
【0041】
なお、本願において、無撚糸とは、撚り数が0回/100mm以上(すなわち、全く撚りがかかっていない糸を含み)、1回/100mm未満の実質的に撚られていない糸を意味する。
【0042】
第1の糸状体の平均径(直径)は、例えば0.01~3mm(例えば0.05~1mm)程度であってもよく、好ましくは0.08~0.5mm(例えば0.1~0.4mm)、さらに好ましくは0.15~0.3mm(例えば0.2~0.25mm)程度である。
【0043】
第1の糸状体の材質は特に制限されず、例えば、ポリオレフィン系繊維(ポリエチレン系繊維、ポリプロピレン系繊維など)、ビニルアルコール系繊維(ポリビニルアルコール繊維、エチレン-ビニルアルコール共重合体繊維、ビニロン繊維など)、ポリエステル系繊維(ポリアルキレンアリレート系繊維など)、ポリアミド系繊維(ポリアミド6繊維、ポリアミド66繊維、ポリアミド46繊維などの脂肪族ポリアミド繊維、アラミド繊維など)、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維などの合成繊維;セルロース系繊維(天然植物、動物、バクテリア、藻類などに由来するセルロース繊維;セルロースエステル繊維、再生セルロース繊維などのセルロース誘導体の繊維など)、羊毛などの天然繊維;炭素繊維、ガラス繊維、金属繊維などの無機繊維が利用できる。これらの繊維は、単独で使用した単独糸であってもよく、二種以上を組み合わせた複合糸(混合糸)であってもよい。
【0044】
これらの繊維のうち、成形性(生産性)に優れる点から、耐熱性の高い繊維、例えば、架橋工程における架橋温度で完全に溶融することなく、糸状体としての形状(または機械的強度)をある程度保持可能な繊維[例えば、融点または軟化点が160℃以上(例えば170~200℃程度)の材質である繊維]を含むのが好ましい。このような耐熱性の高い繊維としては、例えば、無機繊維や、ポリプロピレン系繊維(ポリプロピレン繊維など)、ポリビニルアルコール系繊維、ポリエステル系繊維およびポリアミド系繊維から選択される少なくとも一種の合成繊維などが挙げられる。そのため、第1の糸状体は、これらの耐熱性の高い繊維(前記合成繊維および/または無機繊維)を含むのが好ましく、さらに好ましくは合成繊維(例えば、ポリエステル系繊維、アラミド繊維などのポリアミド系繊維など)、特にポリエステル系繊維が好ましい。
【0045】
ポリエステル系繊維は、ポリアルキレンアリレート系繊維であってもよい。ポリアルキレンアリレート系繊維としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、ポリエチレンナフタレート(PEN)繊維などのポリC2-4アルキレン-C8-14アリレート系繊維などが挙げられる。
【0046】
第1の糸状体中、耐熱性の高い繊維(例えば、ポリエステル系繊維、アラミド繊維などのポリアミド系繊維など特にポリエステル系繊維)の割合は、例えば50質量%以上(例えば70~90質量%)、好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは実質的に100質量%程度であってもよい。このような範囲にあると、輪断抑制効果だけでなく、成形性(生産性)も向上できる傾向にある。
【0047】
前記繊維構造体は、略平面状(シート状)に形成され、少なくとも前記第1の糸状体を含んでいればよく、例えば、スダレコードやUDプリプレグ中の繊維などのように糸が一方向に引きそろえられた繊維構造体であってもよいが、複数の第1の糸状体の配置を安定化してベルト幅方向に効率よく配向でき、成形性(取り扱い性または生産性)も向上できる点から、前記第1の糸状体に加えて、この第1の糸状体に少なくとも連結(接合または交錯)され、かつベルト幅方向に交差する方向に延びる複数の第2の糸状体をさらに含む繊維構造体であるのが好ましい。
【0048】
なお、所定方向に延びる第2の糸状体の糸密度[同一方向に延びる第2の糸状体が並ぶ方向(第2の糸状体の延出方向に直行する方向、好ましくはベルト幅方向)50mm当たりの糸本数]は、例えば5~50本/50mm(例えば8~45本/50mm)程度であってもよく、第1の糸状体よりも高密度(例えば、第2の糸状体間の間隔をあけることなく配置)であってもよいが、ベルトの屈曲性を向上する観点から、第1の糸状体と同様に低密度(特に、第2の糸状体の糸密度が第1の糸状体の糸密度以下)であるのが好ましく、例えば10~39本/50mm(例えば12~35本/50mm)程度の範囲から選択でき、好ましくは15~30本/50mm(例えば18~27本/50mm)、さらに好ましくは20~25本/50mm程度であってもよい。前記範囲は、前記糸密度の平均値の範囲であってもよい。第2の糸状体の密度の下限値がこのような範囲にあると、第1の糸状体のベルト幅方向の配向性や成形性を向上し易くなり、第2の糸状体の密度の上限値がこのような範囲にあると、第1の糸状体との接点(交点または交錯点)における糸の切断を抑制し易いだけでなく、連結補強層がゴム成分(架橋ゴム組成物)を含む場合には、隣り合う糸間にゴム成分が入り込み易く、繊維構造体の剥離を有効に抑制できるようである。
【0049】
第2の糸状体の繊度(マルチフィラメント糸などである場合は総繊度)は、例えば100~1000dtex(例えば200~900dtex)程度の範囲から選択でき、好ましくは300~800dtex(例えば400~700dtex)、さらに好ましくは500~600dtex程度であってもよい。
【0050】
第2の糸状体の配置形態は特に制限されないが、ベルトの屈曲性、成形性、耐久性などを向上する観点から、互いに隣り合う第2の糸状体は、延出方向に直行する方向(例えば、ベルト幅方向)に所定の隙間を設けて配置するのが好ましい。互いに隣り合う第2の糸状体同士の隙間(例えば、第2の糸状体間のベルト幅方向の最短距離)は、例えば0.1~30mm(例えば0.3~20mm)程度の範囲から選択してもよく、例えば0.5~10mm(例えば0.8~7.5mm)程度の範囲から選択してもよく、好ましくは1~5mm(例えば1.2~3mm)、さらに好ましくは1.3~2.5mm(例えば1.4~2.1mm)程度であってもよい。前記範囲は、前記隙間の平均値の範囲であってもよい。第2の糸状体の隙間の上限値がこのような範囲にあると、第1の糸状体のベルト幅方向の配向性や成形性を向上し易くなり、第2の糸状体の隙間の下限値がこのような範囲にあると、第1の糸状体との接点(交点または交錯点)における糸の切断を抑制し易いだけでなく、連結補強層がゴム成分(架橋ゴム組成物)を含む場合には、隣り合う糸間にゴム成分が入り込み易く、繊維構造体の剥離を有効に抑制できるようである。
【0051】
第2の糸状体は所定のカバーファクター(CF)[単位:(本/50mm)×(dtex)1/2]は特に制限されず、例えば10~1500(例えば100~1300)程度の範囲から選択してもよく、ベルトの屈曲性、成形性、耐久性などを向上する観点から、例えば150~1200(例えば180~1100)程度の範囲から選択してもよく、好ましくは200~1000(例えば300~900)、さらに好ましくは400~800(例えば450~750)、特に500~720程度であってもよい。第2の糸状体のCFの下限値がこのような範囲にあると、第1の糸状体のベルト幅方向の配向性や成形性を向上し易くなり、第2の糸状体のCFの上限値がこのような範囲にあると、第1の糸状体との接点(交点または交錯点)における糸の切断を抑制し易いだけでなく、連結補強層がゴム成分(架橋ゴム組成物)を含む場合には、隣り合う糸間にゴム成分が入り込み易く、繊維構造体の剥離を有効に抑制できるようである。
【0052】
なお、第2の糸状体は、例えば、紡績糸、フィラメント糸、複合糸などであってもよく、フィラメント糸(モノフィラメント糸、マルチフィラメント糸など)が好ましく、マルチフィラメント糸がさらに好ましい。
【0053】
第2の糸状体がマルチフィラメント糸である場合、マルチフィラメント糸は、例えば10~1000本(例えば30~700本)程度のフィラメントを含んでいてもよく、50~500本(例えば60~300本)程度のフィラメントを含んでいてもよく、好ましくは70~200本(例えば80~150本)、さらに好ましくは85~120本(例えば90~110本)程度のフィラメントを含んでいてもよい。
【0054】
第2の糸状体も無撚糸または撚糸であってもよいが、第1の糸状体と同様に、撚り数が0回/100mm以上、1回/100mm未満の無撚糸、または撚り数が1~29回/100mmの甘撚り糸であるのが好ましく、特に無撚糸が好ましい。このように撚り数が少ない糸状体では、後述する接着処理による接着成分やゴム成分(架橋ゴム組成物)などが繊維間に浸透し易く接着性が有効に向上でき、繊維構造体の剥離を抑制し易い。
【0055】
第2の糸状体の平均径(直径)は、例えば0.01~3mm(例えば0.05~1mm)程度であってもよく、好ましくは0.08~0.5mm(例えば0.1~0.4mm)、さらに好ましくは0.15~0.3mm(例えば0.2~0.25mm)程度である。
【0056】
第2の糸状体の材質も特に制限されず、例えば、前記第1の糸状体の材質における好ましい態様と同様である。また、第2の糸状体中のうち、耐熱性の高い繊維(例えば、ポリエステル系繊維、アラミド繊維などのポリアミド系繊維など、特にポリエステル系繊維)の割合は、例えば50質量%以上(例えば70~90質量%)、好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは実質的に100質量%程度であってもよい。このような範囲にあると、成形性(生産性)を向上できる傾向にある。
【0057】
第2の糸状体は、ベルト幅方向に交差する方向に延びる限り特に制限されず、例えば、ベルト(タイバンド)厚み方向などに延びて形成されていてもよいが、ベルトの背面方向(タイバンドにおける面方向)に延びるのが好ましい。第2の糸状体と、第1の糸状体との交差角は、例えば20~160°(例えば30~150°)程度であってもよく、好ましくは45~135°(例えば60~120°)、さらに好ましくは75~105°(例えば80~100°、特に略直角)であるのが好ましい。
【0058】
また、第2の糸状体は、ベルト幅方向に交差する限り、特定の一方向のみならず、複数の方向に延びて形成されていてもよい。すなわち、繊維構造体は、例えば、三軸織物、三軸ネット、ハニカムネット(ハニカムメッシュ)など三軸以上の糸で形成された多軸の繊維構造体であってもよい。入手性または生産性の点からは、ベルト幅方向に延びる第1の糸状体と、特定の一方向(好ましくはベルト長さ方向)に延びる第2の糸状体とで形成された二軸の繊維構造体(経糸と緯糸とで形成されたスダレコード、織布、またはネットなど)が好ましい。
【0059】
なお、経糸と緯糸とで形成されたスダレコード、織布、またはネットにおいて、経糸と緯糸のいずれを第1の糸状体としてもよく、生産性の点から、緯糸をベルト幅方向に向けて第1の糸状体とするのが好ましい。また、緯糸を第1の糸状体、経糸を第2の糸状体としてネットを形成する場合、ネットの構造は、図1に示す繊維構造体2のように、ベルト幅方向に延びる各緯糸2aに対して、ベルト幅方向に間隔をおいて並ぶ経糸2bを上下交互に配列した構造であってもよく;上下交互ではなく、経糸を2本ずつ用いて各緯糸の上下を挟む構造であってもよいが、ベルトの屈曲性を向上できる点から、前者の図1に示す構造が好ましい。
【0060】
繊維構造体としては、第1の糸状体と第2の糸状体とで形成された織布またはネット(網状構造体またはメッシュ)などが好ましく、なかでも、タイバンド(結合部材)の強度(機械的特性)を向上し易い点で、ネットがさらに好ましい。特に、糸を織ることなく、または糸を結ぶ(結節を形成する)ことなく形成されたネット(織物組織や結節などを有しない非交錯のネット)であると、糸状体の蛇行(または前記曲部)による剛性の低下を抑制し易く、第1の糸状体と第2の糸状体との接点(交点)における摩耗などによる切断も抑制できる傾向がある。代表的なネットとしては、クラボウ社製「クレネット(登録商標)」、住化積水フィルム(株)製「ソフ(登録商標)」などが挙げられる。
【0061】
また、繊維構造体(織布またはネット、特に前記非交錯のネット)において、第1の糸状体と第2の糸状体との接点(交点)は、結合(接合または接着)されているのが好ましい。接点が結合されていると、糸状体同士の間隔などの相対的な配置を安定化してベルト幅方向に効率よく配向でき、成形性も向上できる。接点の結合の形態は特に制限されず、熱融着などによって融着されていてもよいが、糸の材質によらず容易に結合でき、生産性を向上できる点から、接着剤(樹脂など)で結合されているのが好ましい。接着剤としては、特に制限されず、慣用の接着剤を利用でき、後述する繊維構造体の接着処理に用いる接着成分と同様であってもよい。
【0062】
繊維構造体は、ゴム成分(架橋ゴム組成物)などとの接着性を向上するために、慣用の接着処理(または表面処理)[例えば、接着成分を含む処理液などによる処理]が施されていてもよい。接着処理に用いる接着成分(または表面処理剤)としては、例えば、イソシアネート(ポリイソシアネート化合物)、エポキシ樹脂(エポキシ化合物)、シランカップリング剤、アミノ樹脂、ゴムラテックスまたはゴム糊、レゾルシン(R)とホルムアルデヒド(F)とゴムまたはラテックス(L)とを含むRFL液[例えば、レゾルシン(R)とホルムアルデヒド(F)とが縮合物(RF縮合物)を形成し、前記ゴム成分、例えば、ビニルピリジン-スチレン-ブタジエン共重合体ゴムを含むRFL液]などが挙げられる。これらは、単独でまたは2種以上組み合わせて使用することもでき、同一または異なる接着成分で複数回に亘り順次に処理してもよい。なかでも、ゴムラテックス(クロロプレンラテックスなど)などの連結補強層中のゴム成分と同種(好ましくは同一)のゴム成分を含む接着成分が好ましい。
【0063】
なお、繊維構造体の目付量(重量)は、例えば10~120g/m(例えば20~100g/m)、好ましくは30~90g/m(40~80g/m)、さらに好ましくは50~70g/m程度であってもよい。また、繊維構造体の平均厚みは、例えば0.1~1mm、好ましくは0.2~0.5mm、さらに好ましくは0.25~0.3mm程度であってもよい。
【0064】
また、連結補強層は、必要に応じて、上述のような略平面状(シート状)の繊維構造体を複数層(例えば2~3層)備えていてもよいが、ベルトの屈曲性や生産性などの点から、好ましくは1層である。
【0065】
(架橋ゴム組成物(ゴム成分))
連結補強層は、少なくとも繊維構造体を含んでいればよいが、さらにゴム成分(架橋ゴム組成物)を含むのが好ましく、特に、繊維構造体がゴム成分に埋設されるのが好ましい。ゴム成分が、繊維構造体を構成する糸状体間に介在すると、繊維構造体の剥離を有効に抑制できるとともに、特に、ベルト長さ方向に隣り合う第1の糸状体の間に介在することで、応力がゴム成分に分散されて、より一層、欠損が伝播し難くなるようである。
【0066】
連結補強層を形成する架橋ゴム組成物のゴム硬度Hsは、例えば56~64°、好ましくは58~62°、さらに好ましくは59~61°程度である。ゴム硬度が小さすぎると、耐久性が低下するおそれがあり、逆に大きすぎると、屈曲性が低下するおそれがある。
【0067】
なお、本願において、各ゴム層のゴム硬度は、JIS K6253(2012)(加硫ゴムおよび熱可塑性ゴム-硬さの求め方-)に準じ、デュロメータA形硬さ試験機を用いて測定された値Hs(JIS A)を示し、単にゴム硬度と記載する場合がある。
【0068】
連結補強層を形成する架橋ゴム組成物の引張弾性率(モジュラス)は、例えば10~25MPa、好ましくは15~20MPa、さらに好ましくは16~18MPa程度である。引張弾性率が小さすぎると、耐久性が低下するおそれがあり、逆に大きすぎると、屈曲性が低下するおそれがある。
【0069】
なお、本願において、各ゴム層の引張弾性率(モジュラス)は、JIS K6251(2017)に準拠した方法で測定できる。
【0070】
連結補強層が含んでいてもよい架橋ゴム組成物を構成するゴム成分としては、公知の加硫または架橋可能なゴムおよび/またはエラストマーから選択でき、例えば、ジエン系ゴム[天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム(CR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ビニルピリジン-スチレン-ブタジエン共重合体ゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム(ニトリルゴム);水素化ニトリルゴム(水素化ニトリルゴムと不飽和カルボン酸金属塩との混合ポリマーを含む)などの前記ジエン系ゴムの水添物など]、オレフィン系ゴム[例えば、エチレン-α-オレフィン系ゴム(エチレン-α-オレフィンエラストマー)、ポリオクテニレンゴム、エチレン-酢酸ビニル共重合体ゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、アルキル化クロロスルホン化ポリエチレンゴムなど]、エピクロルヒドリンゴム、アクリル系ゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴムなどが例示できる。これらのゴム成分は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0071】
これらのうち、加硫剤および加硫促進剤が拡散し易い点から、エチレン-α-オレフィンエラストマー[エチレン-プロピレン共重合体(EPM)、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体(EPDM)などのエチレン-α-オレフィン系ゴム]、クロロプレンゴムが汎用され、特に、高負荷環境で用いる場合、機械的強度、耐候性、耐熱性、耐寒性、耐油性、接着性などのバランスに優れる点から、クロロプレンゴム、EPDMが好ましい。さらに、前記特性に加えて、耐摩耗性にも優れる点から、クロロプレンゴムが特に好ましい。クロロプレンゴムは、硫黄変性タイプであってもよく、非硫黄変性タイプであってもよい。
【0072】
ゴム成分がクロロプレンゴムを含む場合、ゴム成分中のクロロプレンゴムの割合は例えば50質量%以上(特に80~100質量%程度)であってもよく、100質量%(クロロプレンゴムのみ)が特に好ましい。
【0073】
連結補強層の架橋ゴム組成物は、前記ゴム成分に加えて、フィラーをさらに含んでいてもよい。フィラーとしては、例えば、カーボンブラック、シリカ、クレー、炭酸カルシウム、タルク、マイカなどが挙げられる。フィラーは、補強性フィラーを含む場合が多く、このような補強性フィラーは、カーボンブラック、補強性シリカなどであってもよい。なお、通常、シリカの補強性は、カーボンブラックの補強性よりも小さい。これらのフィラーは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのフィラーのうち、補強性フィラーを含むのが好ましく、カーボンブラックを含むのが特に好ましい。
【0074】
カーボンブラックの平均粒径(個数平均一次粒径)は、例えば5~200nm、好ましくは10~150nm、さらに好ましくは15~100nm程度であり、補強効果が高い点から、小粒径であってもよく、例えば5~38nm、好ましくは10~35nm、さらに好ましくは15~30nm程度であってもよい。小粒径のカーボンブラックとしては、例えば、SAF、ISAF-HM、ISAF-LM、HAF-LS、HAF、HAF-HSなどが例示できる。これらのカーボンブラックは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0075】
フィラー(特にカーボンブラック)の割合は、ゴム成分100質量部に対して、例えば1~100質量部、好ましくは10~70質量部、さらに好ましくは20~60質量部(特に30~50質量部)程度であってもよい。フィラーの割合が少なすぎると、弾性率が不足して耐久性が低下するおそれがあり、多すぎると、弾性率が高くなりすぎて、屈曲性が低下するおそれがある。
【0076】
連結補強層の架橋ゴム組成物は、必要に応じて他の添加剤、例えば、短繊維(例えば、ポリオレフィン系繊維、ポリアミド系繊維、ポリアルキレンアリレート系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維などの合成繊維;綿、麻、羊毛などの天然繊維;炭素繊維などの無機繊維など)、加硫剤または架橋剤、共架橋剤(架橋助剤または共加硫剤co-agent)[例えば、多官能(イソ)シアヌレート、ポリジエン、不飽和カルボン酸の金属塩、オキシム類、グアニジン類、多官能(メタ)アクリレート、ビスマレイミド類など]、加硫助剤または架橋助剤、加硫促進剤または架橋促進剤、加硫遅延剤または架橋遅延剤、金属酸化物(酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化鉄、酸化銅、酸化チタン、酸化アルミニウムなど)、軟化剤(パラフィンオイル、ナフテン系オイルなどのオイル類など)、加工剤または加工助剤、接着性改善剤[例えば、レゾルシン-ホルムアルデヒド共縮合物(RF縮合物)、アミノ樹脂(窒素含有環状化合物とホルムアルデヒドとの縮合物、例えば、ヘキサメチロールメラミン、ヘキサアルコキシメチルメラミン(ヘキサメトキシメチルメラミン、ヘキサブトキシメチルメラミンなど)などのメラミン樹脂、メチロール尿素などの尿素樹脂、メチロールベンゾグアナミン樹脂などのベンゾグアナミン樹脂など)、これらの共縮合物(レゾルシン-メラミン-ホルムアルデヒド共縮合物など)など]、老化防止剤(酸化防止剤、熱老化防止剤、屈曲き裂防止剤、オゾン劣化防止剤など)、着色剤、粘着付与剤、可塑剤、滑剤、カップリング剤(シランカップリング剤など)、安定剤(紫外線吸収剤、熱安定剤など)、難燃剤、帯電防止剤などを含んでいてもよい。なお、金属酸化物は、架橋剤として作用してもよい。また、接着性改善剤において、レゾルシン-ホルムアルデヒド共縮合物およびアミノ樹脂は、レゾルシンおよび/またはメラミンなどの窒素含有環状化合物とホルムアルデヒドとの初期縮合物(プレポリマー)であってもよい。
【0077】
これらの他の添加剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用することもできる。これらのうち、連結補強層では、前記ゴム成分に加えて、加硫剤または架橋剤、加硫促進剤または架橋促進剤、加工剤または加工助剤、老化防止剤、および可塑剤を含むのが好ましい。
【0078】
加硫剤または架橋剤としては、ゴム成分の種類に応じて慣用の成分が使用でき、例えば、前記金属酸化物架橋剤(酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化鉛など)、有機過酸化物(ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル、ジアルキルパーオキサイドなど)、硫黄系加硫剤などが例示できる。硫黄系加硫剤としては、例えば、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄、塩化硫黄(一塩化硫黄、二塩化硫黄など)などが挙げられる。これらの架橋剤または加硫剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。ゴム成分がクロロプレンゴムである場合、加硫剤または架橋剤として金属酸化物(酸化マグネシウム、酸化亜鉛など)を使用してもよい。なお、金属酸化物は、他の加硫剤(硫黄系加硫剤など)と組み合わせて使用してもよく、金属酸化物および/または硫黄系加硫剤は、単独でまたは加硫促進剤と組み合わせて使用してもよい。
【0079】
加硫剤または架橋剤の割合は、加硫剤または架橋剤およびゴム成分の種類に応じて、固形分換算で、ゴム成分100質量部に対して例えば1~20質量部程度の範囲から選択できる。例えば、架橋剤としての金属酸化物の割合は、ゴム成分100質量部に対して、例えば1~20質量部、好ましくは3~17質量部、さらに好ましくは5~15質量部(特に7~13質量部)程度である。金属酸化物と硫黄系加硫剤とを組み合わせる場合、硫黄系加硫剤の割合は、金属酸化物100質量部に対して、例えば0.1~50質量部、好ましくは1~30質量部、さらに好ましくは3~10質量部程度である。有機過酸化物の割合は、ゴム成分100質量部に対して例えば1~8質量部、好ましくは1.5~5質量部、さらに好ましくは2~4.5質量部程度である。
【0080】
加硫促進剤または架橋促進剤としては、例えば、チウラム系促進剤[例えば、テトラメチルチウラム・モノスルフィド(TMTM)、テトラメチルチウラム・ジスルフィド(TMTD)、テトラエチルチウラム・ジスルフィド(TETD)、テトラブチルチウラム・ジスルフィド(TBTD)、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド(DPTT)、N,N’-ジメチル-N,N’-ジフェニルチウラム・ジスルフィドなど]、チアゾ-ル系促進剤[例えば、2-メルカプトベンゾチアゾ-ル、2-メルカプトベンゾチアゾ-ルの亜鉛塩、2-メルカプトチアゾリン、ジベンゾチアジル・ジスルフィド、2-(4’-モルホリノジチオ)ベンゾチアゾールなど]、スルフェンアミド系促進剤[例えば、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド(CBS)、N,N’-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミドなど]、グアニジン類(ジフェニルグアニジン、ジ-o-トリルグアニジンなど)、ウレア系又はチオウレア系促進剤(例えば、エチレンチオウレアなど)、ジチオカルバミン酸塩類、キサントゲン酸塩類などが挙げられる。これらの加硫促進剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらの加硫促進剤のうち、TMTD、DPTT、CBSなどが汎用される。
【0081】
加硫促進剤または架橋促進剤の割合は、固形分換算で、ゴム成分100質量部に対して、例えば0.1~15質量部、好ましくは0.3~10質量部(例えば0.5~5質量部)、さらに好ましくは0.5~3質量部(特に0.5~1.5質量部)程度である。
【0082】
加工剤または加工助剤としては、例えば、ステアリン酸などの脂肪酸、ステアリン酸金属塩などの脂肪酸金属塩、ステアリン酸アマイドなどの脂肪酸アマイド、ワックス、パラフィンなどが挙げられる。
【0083】
加工剤または加工助剤(ステアリン酸など)の割合は、固形分換算で、ゴム成分100質量部に対して、例えば10質量部以下(例えば0~10質量部)、好ましくは0.1~5質量部(例えば0.5~3質量部)、さらに好ましくは1~3質量部(特に1.5~2.5質量部)程度である。
【0084】
老化防止剤の割合は、固形分換算で、ゴム成分100質量部に対して、例えば0.5~15質量部、好ましくは1~10質量部、さらに好ましくは2.5~7.5質量部(特に3~7質量部)程度である。
【0085】
可塑剤としては、例えば、脂肪族カルボン酸系可塑剤(アジピン酸エステル系可塑剤、セバシン酸エステル系可塑剤など)、芳香族カルボン酸エステル系可塑剤(フタル酸エステル系可塑剤、トリメリット酸エステル系可塑剤など)、オキシカルボン酸エステル系可塑剤、リン酸エステル系可塑剤、エーテル系可塑剤、エーテルエステル系可塑剤などが挙げられる。これらの可塑剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、エーテルエステル系可塑剤が好ましい。
【0086】
可塑剤の割合は、ゴム成分100質量部に対して、例えば1~30質量部、好ましくは3~20質量部、さらに好ましくは3~10質量部(特に3~8質量部)程度である。
【0087】
なお、連結補強層の平均厚みは、例えば0.1~2mm、好ましくは0.3~1.5mm、さらに好ましくは0.5~1mm程度である。連結補強層の厚みが薄すぎると、輪断抑制効果が低下するおそれがあり、厚すぎると、ベルトの耐屈曲疲労性(屈曲性)が低下するおそれがある。
【0088】
また、タイバンド(結合部材)は、必要に応じて、上述のような連結補強層を複数層(例えば2~3層)備えていてもよいが、ベルトの屈曲性や生産性などの観点から、好ましくは1層である。
【0089】
[保護層]
タイバンド(結合部材)は連結補強層のみで形成してもよいが、連結補強層中の繊維構造体の損傷(例えば、ベルト背面からの異物などによる損傷)を有効に抑制できる点から、連結補強層の上(ベルト外周面側または最外層)に積層された保護層を備えていてもよい。
【0090】
保護層は、慣用の架橋ゴム組成物[例えば、前記連結補強層が含んでいてもよい架橋ゴム組成物として例示したゴム成分を含む組成物など]のゴムシート(好ましくは少なくとも短繊維を含むゴム組成物のゴムシート)で形成されていてもよく、慣用の布帛で形成されていてもよい。これらの保護層は単独でまたは2種以上組み合わせて使用することもできる。これらの保護層のうち、布帛で形成された保護層が好ましい。
【0091】
布帛としては、例えば、織布、編布(緯編布、経編布)、不織布などの布材などが挙げられる。これらのうち、平織、綾織、朱子織などの形態で製織した織布、経糸と緯糸との交差角が90°を超え120°以下程度の広角度で製織した織布、編布などが好ましく、一般産業用や農業機械用の伝動ベルトのカバー布として汎用されている織布[経糸と緯糸との交差角が直角である平織布、経糸と緯糸との交差角が90°を超え120°以下程度の広角度である平織布(広角度帆布)]が特に好ましい。
【0092】
なお、保護層が布帛(特に織布)を含む場合、布帛を構成する糸がベルト幅方向に対して斜め(例えば、ベルト幅方向に対して15°程度以上の角度)となるように配置するのが好ましく、特に、布帛が経糸と緯糸とで構成された織布である場合、経糸および緯糸が延びる方向がベルト長さ方向に対して略左右対称(経糸および緯糸の交差角の二等分線がベルト長さ方向に略平行)となるように配置するのが好ましい。このように配置した保護層を前記連結補強層と組み合わせると、繊維構造体を有効に保護して輪断を抑制しつつ、ベルト長さ方向の伸縮性を確保してベルトの振動、転覆、離脱なども抑制し易く、ベルトの耐久性をより一層向上できるとともに、より効率よく伝動できる傾向がある。
【0093】
布帛を構成する繊維としては、例えば、ポリオレフィン系繊維(ポリエチレン系繊維、ポリプロピレン系繊維など)、ポリアミド系繊維(ポリアミド6繊維、ポリアミド66繊維、ポリアミド46繊維、アラミド繊維など)、ポリエステル系繊維(ポリアルキレンアリレート系繊維など)、ビニルアルコール系繊維(ポリビニルアルコール繊維、エチレン-ビニルアルコール共重合体繊維、ビニロン繊維など)、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維などの合成繊維;セルロース系繊維(セルロース繊維、セルロース誘導体の繊維など)、羊毛などの天然繊維;炭素繊維などの無機繊維が汎用される。これらの繊維は、単独で使用した単独糸であってもよく、二種以上を組み合わせた複合糸(混紡糸など)であってもよい。
【0094】
これらの繊維のうち、機械的特性および経済性に優れる点から、ポリエステル系繊維とセルロース系繊維との混紡糸が好ましい。
【0095】
ポリエステル系繊維は、ポリアルキレンアリレート系繊維であってもよい。ポリアルキレンアリレート系繊維としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、ポリエチレンナフタレート(PEN)繊維などのポリC2-4アルキレン-C8-14アリレート系繊維などが挙げられる。これらのポリエステル系繊維は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用することもできる。
【0096】
セルロース系繊維には、セルロース繊維(植物、動物またはバクテリアなどに由来するセルロース繊維)、セルロース誘導体の繊維が含まれる。セルロース繊維としては、例えば、木材パルプ(針葉樹、広葉樹パルプなど)、竹繊維、サトウキビ繊維、種子毛繊維(綿繊維(コットンリンター)、カポックなど)、ジン皮繊維(麻、コウゾ、ミツマタなど)、葉繊維(マニラ麻、ニュージーランド麻など)などの天然植物由来のセルロース繊維(パルプ繊維);ホヤセルロースなどの動物由来のセルロース繊維;バクテリアセルロース繊維;藻類のセルロースなどが例示できる。セルロース誘導体の繊維としては、例えば、セルロースエステル繊維;再生セルロース繊維(レーヨン、キュプラ、リヨセルなど)などが挙げられる。これらのセルロース系繊維は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用することもできる。これらのうち、綿繊維が好ましい。
【0097】
ポリエステル系繊維とセルロース系繊維との質量割合は、例えば前者/後者=90/10~10/90、好ましくは80/20~20/80、さらに好ましくは70/30~30/70(特に60/40~40/60)程度である。
【0098】
布帛を構成する糸の平均繊度は、例えば5~30番手、好ましくは10~25番手、さらに好ましくは10~20番手程度である。
【0099】
布帛(原料布帛)の目付量は、例えば100~500g/m、好ましくは200~400g/m、さらに好ましくは250~350g/m程度である。
【0100】
布帛(原料布帛)の平均厚みは、例えば0.1~1.5mm、好ましくは0.2~1mm、さらに好ましくは0.3~0.7mm程度である。
【0101】
布帛(原料布帛)が織布の場合、布帛の糸密度(経糸および緯糸の密度)は、例えば60~100本/50mm、好ましくは70~90本/50mm、さらに好ましくは75~85本/50mm程度である。
【0102】
保護層は、連結補強層との接着性を向上させるために、ゴム成分(ゴム組成物)が付着した布帛であってもよい。ゴム成分が付着した布帛は、例えば、ゴム組成物を溶剤に溶かしたゴム糊をソーキング(浸漬)する処理、固形状のゴム組成物をフリクション(擦り込み)する処理などの接着処理を施した布帛であってもよい。接着処理は、布帛の少なくとも一方の表面を処理すればよく、少なくとも連結補強層と接触する面を処理するのが好ましく、両面を処理するのが特に好ましい。
【0103】
保護層の接着処理に用いるゴム組成物のゴム硬度Hsは、例えば50~60°、好ましくは52~56°、さらに好ましくは53~55°程度である。ゴム硬度が小さすぎると、耐久性が低下するおそれがあり、逆に大きすぎると、屈曲性が低下するおそれがある。
【0104】
保護層の接着処理に用いるゴム組成物の引張弾性率(モジュラス)は、例えば5~20MPa、好ましくは10~15MPa、さらに好ましくは11~13MPa程度である。引張弾性率が小さすぎると、耐久性が低下するおそれがあり、逆に大きすぎると、屈曲性が低下するおそれがある。
【0105】
保護層の接着処理に用いるゴム組成物中のゴム成分としては、連結補強層の架橋ゴム組成物として例示されたゴム成分と好ましい態様も含めて同様である。
【0106】
保護層の接着処理に用いるゴム組成物は、ゴム成分に加えて、さらにフィラーを含んでいてもよい。フィラーとしては、連結補強層の架橋ゴム組成物として例示されたフィラーを利用できる。これらのフィラーは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのフィラーのうち、補強性フィラーを含むのが好ましく、カーボンブラックを含むのが特に好ましい。
【0107】
フィラー(特にカーボンブラック)の割合は、ゴム成分100質量部に対して、例えば5~80質量部、好ましくは10~75質量部、さらに好ましくは30~70質量部(特に40~60質量部)程度である。フィラーの割合が少なすぎると、弾性率が不足して耐久性が低下するおそれがあり、多すぎると、弾性率が高くなりすぎて、屈曲性が低下するおそれがある。
【0108】
保護層の接着処理に用いるゴム組成物は、必要に応じて他の添加剤、例えば、連結補強層の架橋ゴム組成物として例示した他の添加剤などを含んでいてもよい。これらの他の添加剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用することもできる。これらのうち、保護層の接着処理に用いるゴム組成物では、加硫剤または架橋剤、加硫促進剤または架橋促進剤、加工剤または加工助剤、老化防止剤、および可塑剤を含むのが好ましい。
【0109】
加硫剤または架橋剤、加硫促進剤または架橋促進剤、老化防止剤の割合は、それぞれ連結補強層の架橋ゴム組成物として例示した範囲と好ましい態様を含めて同様である。
【0110】
加工剤または加工助剤(ステアリン酸など)の割合は、固形分換算で、ゴム成分100質量部に対して、例えば10質量部以下(例えば0~5質量部)、好ましくは0.1~3質量部、さらに好ましくは0.3~2質量部(特に0.5~1.5質量部)程度である。
【0111】
可塑剤(エーテルエステル系可塑剤など)の割合は、ゴム成分100質量部に対して、例えば3~50質量部、好ましくは5~40質量部、さらに好ましくは10~30質量部(特に15~25質量部)程度である。
【0112】
なお、保護層の平均厚みは、例えば0.4~2mm、好ましくは0.5~1.4mm、さらに好ましくは0.6~1.2mm程度である。保護層の厚みが薄すぎると、繊維構造体の損傷を抑制する効果が低下するおそれがあり、厚すぎると、ベルトの屈曲性が低下するおそれがある。
【0113】
また、布帛を構成する糸の方向(または布帛の向き)は特に制限されないが、ベルト幅方向に対して斜めに配置するのが好ましい。
【0114】
タイバンド(結合部材)は、必要に応じて、上述のような保護層を複数層(例えば2~3層)備えていてもよいが、好ましくは1層である。
【0115】
[Vベルト部]
タイバンド(結合部材)に連結されるVベルト部は、特に制限されず、図1に示すVベルト部の他にも、慣用のVベルト部、すなわち、芯体(心線)を含む芯体層(接着ゴム層)と、この芯体層のベルト外周側に積層された伸張層(伸張ゴム層)と、前記芯体層のベルト内周側に積層された圧縮ゴム層とを含み、無端状でV字状断面を有していればよい。なお、前記V字状断面の左右の両側面が摩擦伝動面であり、V字状断面において、ベルト幅が広い側を外周側、ベルト幅が狭い側を内周側とする。
【0116】
慣用のVベルト部としては、例えば、摩擦伝動面を含めてベルト全面を全周に亘って外被布(カバー布)で覆ったラップドVベルト、伝動面が覆われることなく露出したローエッジVベルト(ローエッジコグドVベルトを含む)などであってもよい。農業機械などの用途においては、伝動面の高い摩擦係数や、排ワラ、石、木材などの巻き込みなどによるストレスまたは衝撃によってベルトや伝動機構全体が損傷し易いため、Vベルト部として、伝動面の摩擦係数が小さく適度なスリップでストレスまたは衝撃を緩和可能なラップドVベルトがよく利用される。このような高負荷用途では、座屈変形(ディッシング)を防ぐため、ベルト幅方向の高い剛性(耐側圧性)も求められるため、Vベルト部としては、例えば、特開2020-3061号公報に記載の耐側圧性に優れたラップドVベルト部、すなわち、圧縮ゴム層が、ゴム硬度の異なる2種類の圧縮ゴム層を含む積層構造を有し、かつ各層のゴム硬度が調整されたラップドVベルト部などであってもよい。耐側圧性に優れたVベルト部を前記タイバンドと組み合わせると、輪断抑制効果をより一層向上できる。
【0117】
詳しくは、図2に、本発明の結合Vベルトを構成するVベルト部の一例の概略断面図(タイバンドを省略し、Vベルト部のみをクローズアップした図面)を示す。図2に示すラップドVベルト部V1は、ベルト外周側から、伸張ゴム層14、芯体15が加硫ゴム組成物中に埋設された芯体層(接着ゴム層)16、第1圧縮ゴム層17a、第2圧縮ゴム層17bが順次積層された無端状のベルト本体と、このベルト本体の周囲をベルト周方向の全長に亘って被覆している外被布18(織物、編物、不織布など)と、第2圧縮ゴム層17bおよび外被布18の間に介在する補強布層19とで形成されている。
【0118】
なお、この例では、芯体層16は、芯体15が埋設された加硫ゴム組成物で形成されているが、芯体層は、伸張ゴム層と圧縮ゴム層との界面に配設された芯体のみで形成されていてもよい。本願では、芯体層が芯体のみで形成されている場合、ベルト本体中で間隔をおいて配設された芯体を芯体層と称し、このような芯体層は、芯体が伸張ゴム層と圧縮ゴム層との界面に配設された形態だけでなく、伸張ゴム層と圧縮ゴム層との界面に配設された芯体の一部または全部が製造の過程で伸張ゴム層または圧縮ゴム層中に埋設された形態も含む。
【0119】
なお、Vベルト部の各構成要素[第1圧縮ゴム層、第2圧縮ゴム層、伸張ゴム層、芯体層(接着ゴム層、芯体)、外被布、補強布層など]の成分および材質(ゴム組成物、心線コード、布帛など)やその割合、各層の厚みや特性(各ゴム層の硬度Hsおよびその関係性、引張弾性率(モジュラス)など)、ならびにこれらの組み合わせなどは、特開2020-3061号公報に記載された例示と好ましい態様を含めて同様である。
【0120】
[圧縮ゴム層]
圧縮ゴム層は、Vベルトのゴム組成物として慣用的に利用されている架橋ゴム組成物[例えば、前記連結補強層が含んでいてもよい架橋ゴム組成物として例示したゴム成分を含む組成物など]で形成されていてもよい。
【0121】
各Vベルト部を構成する圧縮ゴム層は、図1に示すように1層であってもよいが、ベルト外周側に積層された第1圧縮ゴム層と、この第1圧縮ゴム層よりもゴム硬度が低く、かつベルト内周側に積層された第2圧縮ゴム層とを含む二層以上の積層構造を有するのが好ましく、伸張ゴム層のゴム硬度を第2圧縮ゴム層のゴム硬度よりも高く、かつ第1圧縮ゴム層のゴム硬度を伸張ゴム層のゴム硬度以上に調整することにより、結合Vベルトの耐側圧性を向上できる。
【0122】
圧縮ゴム層は、第1圧縮ゴム層および第2圧縮ゴム層を含んでいればよく、三層以上の積層構造であってもよいが、耐側圧性や生産性などの点から、第1圧縮ゴム層と第2圧縮ゴム層とからなる二層構造が好ましい。
【0123】
第1圧縮ゴム層のゴム硬度は、伸張ゴム層のゴム硬度以上であり、第1圧縮ゴム層と伸張ゴム層とのゴム硬度Hs(JIS A)の差(第1圧縮ゴム層のゴム硬度-伸張ゴム層のゴム硬度)は、0°以上であればよい。第1圧縮ゴム層のゴム硬度は、伸張ゴム層のゴム硬度より高いことが好ましい。第1圧縮ゴム層と伸張ゴム層とのゴム硬度Hs(JIS A)の差は、ベルトの耐側圧性と屈曲性とを両立できる点から、例えば0~10°程度の範囲から選択でき、特にベルトの耐側圧性を向上できる点から、好ましくは0~7°、より好ましくは0~5°(例えば0~4°)、さらに好ましくは0~3°(特に0~1°)程度である。両層のゴム硬度の差が大きすぎると、伸張ゴム層のゴム硬度が低下するため、耐側圧性が低下するおそれがある。
【0124】
第1圧縮ゴム層のゴム硬度Hsは、例えば80~100°程度の範囲から選択でき、好ましくは85~95°、より好ましくは87~93°、さらに好ましくは88~92°(特に89~91°)程度である。ゴム硬度が小さすぎると、耐側圧性が低下する虞があり、逆に大きすぎると、プーリ溝とのフィット性や屈曲性が低下するおそれがある。
【0125】
第2圧縮ゴム層のゴム硬度Hsは、第1圧縮ゴム層および伸張ゴム層のいずれのゴム硬度よりも低く、第1圧縮ゴム層と第2圧縮ゴム層とのゴム硬度Hsの差(第1圧縮ゴム層のゴム硬度-第2圧縮ゴム層のゴム硬度)は、例えば1°以上(特に5°以上)であればよく、好ましくは5~30°(例えば7~27°)、より好ましくは10~25°(例えば12~20°)、さらに好ましくは14~20°(例えば15~19°)、最も好ましくは14~17°(特に15~17°)程度である。伸張ゴム層と第2圧縮ゴム層とのゴム硬度Hsの差(伸張ゴム層のゴム硬度-第2圧縮ゴム層のゴム硬度)も、第1圧縮ゴム層と第2圧縮ゴム層とのゴム硬度Hsの差と同様の範囲から選択できる。第2圧縮ゴム層と第1圧縮ゴム層または伸張ゴム層とのゴム硬度の差が小さすぎると、屈曲性が低下するおそれがある。
【0126】
第2圧縮ゴム層のゴム硬度Hsは、例えば60~90°程度の範囲から選択でき、好ましくは65~80°、より好ましくは68~76°、さらに好ましくは70~74°、最も好ましくは71~73°程度である。ゴム硬度が小さすぎると、耐側圧性が低下するおそれがあり、逆に大きすぎると、屈曲性が低下するおそれがある。
【0127】
第1圧縮ゴム層の引張弾性率(モジュラス)は、ベルト幅方向において、例えば25~50MPa、好ましくは25~40MPa、さらに好ましくは26~35MPa(特に28~32MPa)程度である。引張弾性率が小さすぎると、耐側圧性が低下するおそれがあり、逆に大きすぎると、屈曲性が低下するおそれがある。
【0128】
第2圧縮ゴム層の引張弾性率(モジュラス)は、ベルト幅方向において、例えば12~20MPa、好ましくは13~18MPa、さらに好ましくは14~17MPa程度である。引張弾性率が小さすぎると、耐側圧性が低下するおそれがあり、逆に大きすぎると、屈曲性が低下するおそれがある。
【0129】
圧縮ゴム層全体の平均厚みは、例えば1~12mm、好ましくは2~10mm、さらに好ましくは2.5~9mm(特に3~5mm)程度である。
【0130】
第1圧縮ゴム層の平均厚みは、圧縮ゴム層全体の平均厚みに対して、例えば95~30%程度の範囲から選択でき、好ましくは90~50%、より好ましくは85~55%、さらに好ましくは80~60%(特に75~70%)程度である。この比率は、圧縮ゴム層が第1圧縮ゴム層および第2圧縮ゴム層のみからなる場合の比率(すなわち、図2中のL2/L1)であってもよい。第1圧縮ゴム層の厚み比率が小さすぎると、耐側圧性が低下するおそれがあり、逆に大きすぎると、屈曲性が低下するおそれがある。
【0131】
圧縮ゴム層は、第1圧縮ゴム層および第2圧縮ゴム層に加えて、ゴム硬度の異なる他の圧縮ゴム層をさらに含んでいてもよい。他の圧縮ゴム層は、単層であってもよく、複数の層であってもよい。また、他の圧縮ゴム層は、第1圧縮ゴム層の上下面、第2圧縮ゴム層の下面のいずれに積層されていてもよい。他の圧縮ゴム層の平均厚みは、圧縮ゴム層全体の平均厚みに対して、例えば30%以下であってもよく、好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%以下であってもよい。すなわち、圧縮ゴム層は、第1圧縮ゴム層および第2圧縮ゴム層を主要な層として含むのが好ましく、第1圧縮ゴム層と第2圧縮ゴム層との合計の平均厚みは、圧縮ゴム層全体の平均厚みに対して、例えば70%以上であってもよく、好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上であり、圧縮ゴム層が第1圧縮ゴム層および第2圧縮ゴム層のみからなるのが特に好ましい。
【0132】
圧縮ゴム層は、Vベルトのゴム組成物として慣用的に利用されている架橋ゴム組成物で形成されていてもよい。架橋ゴム組成物は、ゴム成分を含む架橋ゴム組成物であってもよく、組成物の組成を適宜調整することにより、圧縮ゴム層を構成する各層、特に第1圧縮ゴム層および第2圧縮ゴム層のゴム硬度などを調整できる。ゴム硬度などの調整方法としては、特に限定されず、組成物を構成する成分の組成および/または種類を変えて調整してもよく、簡便性などの点から、短繊維やフィラーの割合および/または種類を変えて調整するのが好ましい。
【0133】
(第1圧縮ゴム層)
第1圧縮ゴム層を形成する架橋ゴム組成物を構成するゴム成分としては、前記連結補強層が含んでいてもよい架橋ゴム組成物の項で例示したゴム成分と好ましい態様を含めて同様であり、クロロプレンゴムが特に好ましい。
【0134】
ゴム成分がクロロプレンゴムを含む場合、ゴム成分中のクロロプレンゴムの割合は例えば50質量%以上(特に80~100質量%程度)であってもよく、100質量%(クロロプレンゴムのみ)が特に好ましい。
【0135】
第1圧縮ゴム層を形成する架橋ゴム組成物は、前記ゴム成分に加えて短繊維をさらに含んでいてもよい。短繊維としては、例えば、前記第1の糸状体の材質や、前記保護層の布帛を構成する繊維として例示した繊維などが挙げられる。これらの短繊維は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらの短繊維のうち、剛直で高い強度およびモジュラスの繊維、例えば、ポリエステル系繊維(特に、ポリエチレンテレフタレート系繊維、ポリエチレンナフタレート系繊維)、ポリアミド系繊維(特に、アラミド繊維)が好ましい。アラミド繊維は、高い耐摩耗性をも有している。そのため、短繊維は、少なくともアラミド繊維などの全芳香族ポリアミド繊維を含むのが好ましい。アラミド繊維は、商品名「コーネックス(登録商標)」、「ノーメックス(登録商標)」、「ケブラー(登録商標)」、「テクノーラ(登録商標)」、「トワロン(登録商標)」などの市販品であってもよい。
【0136】
短繊維の平均繊維径は、例えば2μm以上、好ましくは5~100μm程度である。短繊維の平均長さは、例えば1~20mm、好ましくは1.5~10mm程度である。
【0137】
ゴム組成物中の短繊維の分散性や接着性の観点から、短繊維は、慣用の接着処理(または表面処理)[例えば、前記連結補強層の項で例示した繊維構造体の接着処理など]が施されていてもよい。
【0138】
短繊維は、プーリからの押圧に対するベルトの圧縮変形を抑制するため、ベルト幅方向に配向して圧縮ゴム層中に埋設されていてもよい。
【0139】
短繊維の割合は、ゴム成分100質量部に対して、例えば5~50質量部、好ましくは10~30質量部程度である。短繊維の割合が少なすぎると、第1圧縮ゴム層のゴム硬度が低下するおそれがあり、逆に多すぎると、屈曲性が低下するおそれがある。
【0140】
第1圧縮ゴム層を形成する架橋ゴム組成物は、前記ゴム成分に加えてフィラーをさらに含んでいてもよい。フィラーとしては、例えば、前記連結補強層が含んでいてもよい架橋ゴム組成物の項で例示したフィラーと好ましい態様を含めて同様のものが挙げられ、耐側圧性を向上させるため、補強性フィラーを含むのが好ましく、カーボンブラックを含むのが特に好ましい。
【0141】
カーボンブラックを多量に配合しても加工性の低下を抑制できるため、第1圧縮ゴム層の力学特性(弾性率)を向上できる。さらに、カーボンブラックは、第1圧縮ゴム層の摩擦係数を低減でき、第1圧縮ゴム層の耐摩耗性を向上できる。
【0142】
フィラー(特にカーボンブラック)の割合は、ゴム成分100質量部に対して、例えば10~100質量部、好ましくは20~80質量部程度であってもよい。フィラーの割合が少なすぎると、弾性率が不足して耐側圧性や耐久性が低下するおそれがあり、多すぎると、弾性率が高くなりすぎて、屈曲性が低下するおそれがある。
【0143】
カーボンブラックの割合は、フィラー全体に対して例えば50質量%以上であってもよく、好ましくは90質量%以上であり、100質量%であってもよい。フィラー全体に対するカーボンブラックの割合が少なすぎると、第1圧縮ゴム層のゴム硬度が低下するおそれがある。
【0144】
第1圧縮ゴム層を形成する架橋ゴム組成物は、ゴム成分、フィラー、短繊維以外にも、必要に応じて、他の添加剤、例えば、前記連結補強層が含んでいてもよい架橋ゴム組成物の項で例示した他の添加剤などを含んでいてもよい。
【0145】
加硫剤の割合は、加硫剤およびゴム成分の種類に応じて、固形分換算で、ゴム成分100質量部に対して例えば1~20質量部程度の範囲から選択できる。例えば、加硫剤としての金属酸化物の割合は、ゴム成分100質量部に対して、例えば1~20質量部、好ましくは3~17質量部程度である。金属酸化物と硫黄系加硫剤とを組み合わせる場合、硫黄系加硫剤の割合は、金属酸化物100質量部に対して、例えば0.1~50質量部、好ましくは1~30質量部程度である。有機過酸化物の割合は、ゴム成分100質量部に対して例えば1~8質量部、好ましくは1.5~5質量部程度である。
【0146】
共架橋剤(架橋助剤または共加硫剤co-agent)としては、公知の架橋助剤、例えば、連結補強層における架橋ゴム組成物の他の添加剤として例示した共架橋剤などが挙げられ、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらの架橋助剤のうち、多官能(イソ)シアヌレート、多官能(メタ)アクリレート、ビスマレイミド類(N,N’-m-フェニレンジマレイミドなどのアレーンビスマレイミド又は芳香族ビスマレイミド)が好ましく、ビスマレイミド類を用いる場合が多い。架橋助剤(例えば、ビスマレイミド類)の添加により架橋度を高め、粘着摩耗などを防止できる。
【0147】
ビスマレイミド類などの共架橋剤(架橋助剤)の割合は、固形分換算で、ゴム成分100質量部に対して、例えば0.1~10質量部、好ましくは0.5~8質量部程度である。
【0148】
加硫促進剤の割合は、固形分換算で、ゴム成分100質量部に対して、例えば0.1~15質量部、好ましくは0.3~10質量部程度である。
【0149】
軟化剤(ナフテン系オイルなどのオイル類)の割合は、固形分換算で、ゴム成分100質量部に対して、例えば1~30質量部、好ましくは3~20質量部程度である。
【0150】
加工剤または加工助剤(ステアリン酸など)の割合は、固形分換算で、ゴム成分100質量部に対して、例えば10質量部以下(例えば0~10質量部)、好ましくは0.1~5質量部程度である。
【0151】
接着性改善剤(レゾルシン-ホルムアルデヒド共縮合物、ヘキサメトキシメチルメラミンなど)の割合は、固形分換算で、ゴム成分100質量部に対して、例えば0.1~20質量部、好ましくは0.3~5質量部程度である。
【0152】
老化防止剤の割合は、固形分換算で、ゴム成分100質量部に対して、例えば0.5~15質量部、好ましくは1~10質量部程度である。
【0153】
(第2圧縮ゴム層)
第2圧縮ゴム層を形成する架橋ゴム組成物を構成するゴム成分としては、前記連結補強層が含んでいてもよい架橋ゴム組成物の項で例示したゴム成分を利用でき、好ましい態様を含めて第1圧縮ゴム層同様である。
【0154】
第2圧縮ゴム層の架橋ゴム組成物は、前記ゴム成分に加えて、フィラーをさらに含んでいてもよい。フィラーとしては、前記連結補強層が含んでいてもよい架橋ゴム組成物の項で例示したフィラーを利用でき、好ましい態様およびフィラー中のカーボンブラックの割合は第1圧縮ゴム層のフィラーと同様である。
【0155】
第2圧縮ゴム層において、フィラー(特にカーボンブラック)の割合は、ゴム成分100質量部に対して、例えば5~80質量部、好ましくは10~60質量部程度であってもよい。フィラーの割合が少なすぎると、弾性率が不足して耐側圧性や耐久性が低下するおそれがあり、多すぎると、弾性率が高くなりすぎて、屈曲性が低下するおそれがある。
【0156】
第2圧縮ゴム層の加硫ゴム組成物は、前記ゴム成分に加えて、可塑剤をさらに含んでいてもよい。可塑剤としては、例えば、前記連結補強層が含んでいてもよい架橋ゴム組成物の項で例示した可塑剤などが挙げられる。これらの可塑剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、エーテルエステル系可塑剤が好ましい。
【0157】
可塑剤の割合は、ゴム成分100質量部に対して、例えば1~30質量部、好ましくは3~20質量部程度である。
【0158】
第2圧縮ゴム層の架橋ゴム組成物は、前記ゴム成分に加えて、短繊維および他の添加剤をさらに含んでいてもよい。短繊維としては、第1圧縮ゴム層の短繊維として例示された短繊維を利用でき、他の添加剤としては、前記連結補強層が含んでいてもよい架橋ゴム組成物の項で例示した他の添加剤を利用できる。これらのうち、第2圧縮ゴム層では、前記ゴム成分に加えて、加硫剤または架橋剤、加硫促進剤、加工剤または加工助剤、老化防止剤を含むのが好ましい。
【0159】
加硫剤としての金属酸化物の割合は、ゴム成分100質量部に対して、例えば1~20質量部、好ましくは3~17質量部程度である。
【0160】
加硫促進剤の割合は、固形分換算で、ゴム成分100質量部に対して、例えば0.1~15質量部、好ましくは0.3~10質量部程度である。
【0161】
加工剤または加工助剤(ステアリン酸など)の割合は、ゴム成分100質量部に対して、例えば10質量部以下(例えば0~5質量部)、好ましくは0.1~3質量部程度である。
【0162】
老化防止剤の割合は、ゴム成分100質量部に対して、例えば0.5~15質量部、好ましくは1~10質量部程度である。
【0163】
[伸張層(伸張ゴム層)]
伸張層は布帛(例えば、前記保護層に例示した布帛など)などで形成されていてもよいが、伸張ゴム層であるのが好ましい。伸張ゴム層のゴム硬度は、前述のように、第2圧縮ゴム層のゴム硬度よりも高く、かつ第1圧縮ゴム層のゴム硬度以下であるのが好ましい。
【0164】
伸張ゴム層のゴム硬度Hsは、例えば75~95°程度の範囲から選択でき、例えば80~94°(例えば83~93°)、好ましくは86~92°、さらに好ましくは87~91°(特に89~91°)程度である。ゴム硬度が小さすぎると、耐側圧性が低下するおそれがあり、逆に大きすぎると、屈曲性が低下するおそれがある。
【0165】
伸張ゴム層の引張弾性率(モジュラス)は、ベルト幅方向において、例えば25~50MPa、好ましくは25~40MPa、さらに好ましくは26~35MPa(特に28~32MPa)程度である。引張弾性率が小さすぎると、耐側圧性が低下するおそれがあり、逆に大きすぎると、屈曲性が低下するおそれがある。
【0166】
伸張ゴム層の平均厚みは、例えば0.5~10mm(例えば0.5~1.5mm)、好ましくは0.6~5mm程度であってもよい。
【0167】
伸張ゴム層は、Vベルトのゴム組成物として慣用的に利用されている架橋ゴム組成物で形成されていてもよい。架橋ゴム組成物は、ゴム成分を含む架橋ゴム組成物であってもよく、組成物の組成を適宜調整することにより、伸張ゴム層のゴム硬度などを調整できる。ゴム硬度などの調整方法としては、特に限定されず、組成物を構成する成分の組成および/または種類を変えて調整してもよく、簡便性などの点から、短繊維やフィラーの割合および/または種類を変えて調整するのが好ましい。
【0168】
伸張ゴム層を形成する架橋ゴム組成物を構成するゴム成分としては、前記連結補強層が含んでいてもよい架橋ゴム組成物の項で例示したゴム成分を利用でき、好ましい態様は第1圧縮ゴム層のゴム成分と同様である。
【0169】
伸張ゴム層の加硫ゴム組成物は、前記ゴム成分に加えて、短繊維をさらに含んでいてもよい。短繊維としては、第1圧縮ゴム層の項で例示された短繊維を利用でき、好ましい態様およびゴム成分に対する割合も第1圧縮ゴム層と同様である。
【0170】
伸張ゴム層の加硫ゴム組成物は、フィラーをさらに含んでいてもよい。フィラーとしては、前記連結補強層が含んでいてもよい架橋ゴム組成物の項で例示したフィラーを利用でき、好ましい態様およびフィラー中のカーボンブラックの割合は第1圧縮ゴム層のフィラーと同様である。
【0171】
伸張ゴム層において、フィラー(特にカーボンブラック)の割合は、ゴム成分100質量部に対して、例えば5~100質量部、好ましくは10~80質量部程度であってもよい。フィラーの割合が少なすぎると、弾性率が不足して耐側圧性や耐久性が低下するおそれがあり、多すぎると、弾性率が高くなりすぎて、屈曲性が低下するおそれがある。
【0172】
伸張ゴム層の架橋ゴム組成物は、前記ゴム成分に加えて、他の添加剤をさらに含んでいてもよい。他の添加剤としては、前記連結補強層が含んでいてもよい架橋ゴム組成物の項で例示した他の添加剤を利用でき、好ましい態様およびゴム成分に対する割合は第1圧縮ゴム層と同様である。
【0173】
[芯体層(接着ゴム層)]
芯体層は、芯体を含んでいればよく、前述のように、芯体のみで形成された芯体層であってもよいが、層間の剥離を抑制し、ベルト耐久性を向上できる点から、芯体が埋設された架橋ゴム組成物で形成された芯体層(接着ゴム層)であるのが好ましい。芯体が埋設された架橋ゴム組成物で形成された芯体層は、通常、接着ゴム層と称され、ゴム成分を含む架橋ゴム組成物で形成された層内に、芯体が埋設されている。接着ゴム層は、伸張ゴム層と圧縮ゴム層(特に第1圧縮ゴム層)との間に介在して伸張ゴム層と圧縮ゴム層とを接着するとともに、接着ゴム層には芯体が埋設されている。
【0174】
接着ゴム層の平均厚みは、例えば0.2~5mm、好ましくは0.3~3mm程度である。
【0175】
(架橋ゴム組成物)
接着ゴム層を形成する架橋ゴム組成物のゴム硬度Hsは、例えば72~80°、好ましくは73~78°、さらに好ましくは75~77°程度である。ゴム硬度が小さすぎると、耐側圧性が低下するおそれがあり、逆に大きすぎると、芯体の周囲の架橋ゴム組成物が剛直となって芯体が屈曲しにくくなり、接着ゴム層の発熱劣化(亀裂)、芯体の屈曲疲労などが生じて、芯体が剥離するおそれがある。
【0176】
接着ゴム層を形成する架橋ゴム組成物を構成するゴム成分としては、前記連結補強層が含んでいてもよい架橋ゴム組成物の項で例示したゴム成分を利用でき、好ましい態様は第1圧縮ゴム層のゴム成分と同様である。
【0177】
接着ゴム層の架橋ゴム組成物は、前記ゴム成分に加えて、フィラーをさらに含んでいてもよい。フィラーとしては、前記連結補強層が含んでいてもよい架橋ゴム組成物の項で例示したフィラーを利用でき、好ましい態様およびフィラー中のカーボンブラックの割合は第1圧縮ゴム層と同様である。
【0178】
接着ゴム層において、フィラーの割合は、ゴム成分100質量部に対して、例えば1~100質量部、好ましくは10~80質量部程度であってもよい。カーボンブラックの割合は、ゴム成分100質量部に対して、例えば1~50質量部、好ましくは10~45質量部程度であってもよい。
【0179】
接着ゴム層の架橋ゴム組成物は、前記ゴム成分に加えて、可塑剤をさらに含んでいてもよい。可塑剤としては、前記連結補強層が含んでいてもよい架橋ゴム組成物の項で例示した可塑剤を利用でき、好ましい態様およびゴム成分に対する割合は第2圧縮ゴム層の可塑剤と同様である。
【0180】
接着ゴム層の加硫ゴム組成物は、前記ゴム成分に加えて、短繊維および他の添加剤をさらに含んでいてもよい。短繊維としては、第1圧縮ゴム層の項で例示された短繊維を利用でき、他の添加剤としては、前記連結補強層が含んでいてもよい架橋ゴム組成物の項で例示した添加剤を利用できる。これらのうち、接着ゴム層では、前記ゴム成分に加えて、加硫剤または架橋剤、加硫促進剤、加工剤または加工助剤、老化防止剤を含むのが好ましい。これらの添加剤のゴム成分に対する割合は、第2圧縮ゴム層と同様である。
【0181】
(芯体)
芯体層に含まれる芯体は、通常、ベルト幅方向に所定の間隔で配列した心線(撚りコード)である。心線は、ベルトの長さ方向に延びて配設され、通常、ベルトの長さ方向に平行に所定のピッチで並列的に延びて配設されている。芯体は、接着ゴム層に埋設される場合、その一部が接着ゴム層に埋設されていればよく、耐久性を向上できる点から、接着ゴム層に心線が埋設された形態(心線の全体が接着ゴム層に完全に埋設された形態)が好ましい。芯体としては、心線が好ましい。
【0182】
心線を構成する繊維としては、例えば、前記第1の糸状体の材質として例示した繊維などが挙げられ、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらの繊維のうち、高モジュラスの点から、ポリエステル系繊維(特に、ポリエチレンテレフタレート系繊維、ポリエチレンナフタレート系繊維)、ポリアミド系繊維(特に、アラミド繊維)が好ましい。
【0183】
心線を構成する糸はマルチフィラメント糸であってもよい。マルチフィラメント糸の繊度は、例えば2000~10000dtex(特に4000~8000dtex)程度であってもよい。マルチフィラメント糸は、例えば100~5000本程度のフィラメントを含んでいてもよく、好ましくは500~4000本程度のフィラメントを含んでいてもよい。
【0184】
心線としては、通常、マルチフィラメント糸を使用した撚りコード(例えば、諸撚り、片撚り、ラング撚りなど)を使用できる。心線の平均線径(撚りコードの直径)は、例えば0.5~3mmであってもよく、好ましくは0.6~2.5mm程度である。
【0185】
心線は、接着ゴム層中に埋設させる場合、前記接着ゴム層を形成する架橋ゴム組成物との接着性を向上させるため、慣用の接着処理(表面処理)[例えば、連結補強層の繊維構造体の接着処理として例示した処理など]が施されていてもよい。前記接着処理は、単独でまたは二種以上組み合わせてもよく、同一または異なる表面処理剤で複数回に亘り順次に処理してもよい。心線は、少なくともRFL液で接着処理するのが好ましい。
【0186】
[外被布]
外被布(カバー布)は、慣用の布帛で形成されている。布帛としては、例えば、前記保護層の項で例示した布帛などが挙げられ、これらのうち、平織、綾織、朱子織などの織布、交差角が90°を超え120°以下程度の織布、編布などが好ましく、一般産業用や農業機械用の伝動ベルトのカバー布として汎用されている織布[交差角が直角である平織布、交差角が90°を超え120°以下程度の平織布(広角度帆布)]が特に好ましい。さらに、耐久性が要求される用途では、広角度帆布であってもよい。
【0187】
布帛の構成、すなわち、布帛を構成する繊維の種類や繊度、目付量、平均厚み、糸密度などは、前記保護層の項の例示と好ましい態様を含めて同様である。
【0188】
外被布は、単層であってもよく、多層(例えば2~5層、好ましくは2~4層程度)であってもよいが、生産性などの点から、単層(1プライ)または2層(2プライ)が好ましい。
【0189】
外被布は、ベルト本体との接着性を向上させるために、ゴム成分が付着した布帛であってもよい。ゴム成分が付着した外被布は、例えば、ゴム組成物を溶剤に溶かしたゴム糊をソーキング(浸漬)する処理、固形状のゴム組成物をフリクション(擦り込み)する処理などの接着処理を施した布帛であってもよい。接着処理は、布帛の少なくとも一方の表面を処理すればよく、少なくともベルト本体と接触する面を処理するのが好ましい。
【0190】
外被布に付着させるゴム組成物を構成するゴム成分としては、前記連結補強層が含んでいてもよい架橋ゴム組成物の項で例示したゴム成分を利用でき、好ましい態様は第1圧縮ゴム層のゴム成分と同様である。
【0191】
外被布に付着させるゴム組成物は、前記ゴム成分に加えて、フィラーをさらに含んでいてもよい。フィラーとしては、前記連結補強層が含んでいてもよい架橋ゴム組成物の項で例示したフィラーを利用でき、好ましい態様およびフィラー中のカーボンブラックの割合は第1圧縮ゴム層のフィラーと同様である。
【0192】
外被布に付着させるゴム組成物において、フィラー(特にカーボンブラック)の割合は、ゴム成分100質量部に対して、例えば5~80質量部、好ましくは10~75質量部程度である。
【0193】
外被布に付着させるゴム組成物は、前記ゴム成分に加えて、可塑剤をさらに含んでいてもよい。可塑剤としては、前記連結補強層が含んでいてもよい架橋ゴム組成物の項で例示した可塑剤を利用でき、好ましい態様は第2圧縮ゴム層の可塑剤と同様である。
【0194】
外被布に付着させるゴム組成物において、可塑剤の割合は、ゴム成分100質量部に対して、例えば3~50質量部、好ましくは5~40質量部程度である。
【0195】
外被布に付着させるゴム組成物は、前記ゴム成分に加えて、短繊維および他の添加剤をさらに含んでいてもよい。短繊維としては、前記第1圧縮ゴム層の項で例示された短繊維を利用でき、他の添加剤としては、前記連結補強層が含んでいてもよい架橋ゴム組成物の項で例示した添加剤を利用できる。これらのうち、外被布に付着させるゴム組成物では、前記ゴム成分に加えて、加硫剤または架橋剤、加硫促進剤、加工剤または加工助剤、老化防止剤を含むのが好ましい。これらの添加剤のゴム成分に対する割合は、第2圧縮ゴム層と同様である。
【0196】
伝動面である外被布の摩擦係数は、例えば0.9~1、好ましくは0.91~0.96、さらに好ましくは0.92~0.95程度である。なお、本願において、摩擦係数は、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
【0197】
外被布の平均厚み(多層の場合、各層の平均厚み)は、例えば0.4~2mm、好ましくは0.5~1.4mm程度である。外被布の厚みが薄すぎると、耐摩耗性が低下するおそれがあり、厚すぎると、ベルトの屈曲性が低下するおそれがある。
【0198】
[補強布層]
各Vベルト部は、必要に応じて、圧縮ゴム層の内周面(内周側の表面)に、[Vベルト部がラップドVベルトである場合、図2に示すように圧縮ゴム層の内周面と外被布との間]に補強布層をさらに含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。
【0199】
補強布層は、前記外被布と同様に慣用の布帛で形成されている。布帛としては、前記保護層の項で例示した布帛を利用でき、好ましい態様も前記保護層および外被布と同様である。
【0200】
補強布層は、圧縮ゴム層および外被布との接着性を向上させるために、ゴム成分が付着した布帛であってもよい。ゴム成分が付着した布帛は、例えば、ゴム組成物を溶剤に溶かしたゴム糊をソーキング(浸漬)する処理、固形状のゴム組成物をフリクション(擦り込み)する処理などの接着処理を施した布帛であってもよい。ゴム組成物としては、外被布のゴム組成物として例示されたゴム組成物を利用でき、好ましい態様も外被布と同様である。接着処理は、布帛の少なくとも一方の表面を処理すればよく、少なくとも圧縮ゴム層と接触する面を処理するのが好ましく、両面を処理するのが特に好ましい。
【0201】
補強布層の平均厚みは、例えば0.4~2mm、好ましくは0.5~1.4mm程度である。補強布層の厚みが薄すぎると、耐摩耗性の向上効果が低下するおそれがあり、厚すぎると、ベルトの屈曲性が低下するおそれがある。
【0202】
[結合Vベルトの製造方法]
本発明の結合Vベルトは、慣用の方法によって、未架橋のVベルト部(ベルト本体部)を製造した後、得られた複数本の未架橋Vベルト部をタイバンドで連結する工程を経て得られる。
【0203】
まず、未架橋のタイバンド(タイバンド前駆体)を製造する代表的な方法としては、圧延処理して得られた未架橋の連結補強層用挟持ゴムシートを用いて、接着処理した繊維構造体の両面に積層して未架橋の連結補強層前駆体を調製し、必要に応じて、この連結補強層前駆体の一方の面に、接着処理した保護層用布帛をさらに積層することで未架橋のタイバンドを調製できる。なお、積層に際して、連結補強層前駆体中の繊維構造体(第1の糸状体)および保護層用布帛を構成する糸の方向をそれぞれ調整してもよい。また、保護層用布帛を積層することなく、連結補強層前駆体をタイバンド前駆体としてもよい。
【0204】
また、未架橋のVベルト部を製造する方法としては、例えば、特開平6-137381号公報、WO2015/104778号パンフレットに記載の方法などによって製造できる。具体的な未架橋のラップドVベルト部を製造方法としては、接着処理した補強布用布帛と圧延処理して得られた未架橋の第2圧縮ゴム層用シートと第1圧縮ゴム層用シートとの積層体を裁断してマントルにセッティングし、未架橋の接着ゴム層用シートを第1圧縮ゴム層用シートの上に巻き付けた後、巻き付けた接着ゴム層用シートの上に芯体を巻き付け、さらに巻き付けた芯体の上に未架橋の伸張ゴム層用シートを巻き付ける巻付け工程、得られた環状の積層体をマントル上で切断(輪切り)する切断工程、切断した環状積層体を一対のプーリに架け渡し、回転させながらV形状に切削加工するスカイビング工程、および得られた未架橋ベルト本体に対して、その周囲を外被布前駆体で覆うカバー巻き処理を経て、未架橋のラップドVベルト部を得ることができる。
【0205】
なお、上記は未架橋のラップドVベルト部の製造方法の一例であるが、補強布用布帛は必ずしも必要ではなく、また、圧縮ゴム層が1層または3層以上であってもよい。また、Vベルト部がローエッジVベルトまたはローエッジコグドVベルトである場合は、これらのVベルトの慣用の製造方法で製造できる。例えば、Vベルト部がローエッジVベルトの場合、前述の未架橋のラップドVベルト部の製造方法において、外被布前駆体で覆うカバー巻き処理を行わない点以外は同様にして製造してもよく、Vベルト部がローエッジコグドVベルトの場合、圧縮ゴム層用シート(必要であれば補強布用布帛との積層体)の内周面側に金型などによりコグ部を設けてもよい。
【0206】
複数本の未架橋のVベルト部をタイバンドで連結する代表的な工程を、図3を用いて説明する。複数本の未架橋Vベルト部V1を、筒状または環状の下側架橋用モールド21に形成された断面逆台形状の溝部に嵌め込まれた後、その径方向外側の部分にタイバンドTがセットされる。タイバンドのセットでは、幅方向に並べられた複数本の未架橋のラップドVベルト部V1に対して、周方向に沿ってタイバンドTが巻き掛けられ、複数本の未架橋ラップドVベルト部V1に対してタイバンドTがセットされる。このとき、タイバンドTは、連結補強層前駆体中の繊維構造体を形成する第1の糸状体が、ベルト幅方向に延びるようにセットする。このようにセットされたタイバンドTおよび複数本の未架橋のVベルト部V1は、上側架橋用モールド22と下側架橋用モールド21との間で挟まれて加圧されながら架橋される架橋工程(加硫工程)に供される。この架橋工程(加硫工程)により、複数本のラップドVベルト部V1がタイバンドTで連結して結合した架橋スリーブが形成される。このようにして形成された架橋スリーブが、所定幅に切断されることにより、所定本数のVベルト部を有する結合Vベルトが形成される。
【0207】
架橋工程において、架橋温度は、ゴム成分の種類に応じて選択でき、例えば120~200℃、好ましくは150~180℃程度である。なお、短繊維を含む各ゴム層用シートは、カレンダーロール等で圧延処理する方法などによって、短繊維を圧延方向に配列(配向)させることができる。
【0208】
なお、保護層、連結補強層、およびVベルト部は、それらの表面(接合界面)のゴム成分(ゴム組成物)および/または接着成分により互いに結合される。例えば、タイバンド前駆体として、固形状のゴム組成物をフリクション(擦り込み)する処理を施した布帛で形成した保護層前駆体と、圧延処理して得られた未架橋の連結補強層用挟持ゴムシート中に繊維構造体を埋設(または挟持)した未架橋の連結補強層前駆体との積層体を用いる場合は、フリクションゴム組成物および連結補強層用挟持ゴム組成物の架橋反応により保護層と連結補強層とが互いに結合される。また同様に、タイバンド前駆体を未架橋Vベルト部に対してセットする工程には、連結部としてのタイバンド前駆体(連結補強層前駆体)を介して複数の未架橋Vベルト部を互いに結合する未架橋ベルト結合ステップが含まれる。このステップでは、例えば、前記タイバンド前駆体内周側の連結補強層用挟持ゴム組成物と、未架橋Vベルト部外周側のゴム組成物などとの反応により連結補強層とVベルト部とが互いに結合される。なお、未架橋Vベルト部外周側の形態は、タイバンド前駆体(連結補強層前駆体)と接合可能な限り、Vベルト部に応じて適宜選択すればよく、例えば、ゴム組成物をフリクション処理した布帛などで形成された外被布前駆体または伸張層などであってもよく、未架橋の伸張ゴム層用ゴムシートなどであってもよい。未架橋ベルト結合ステップは、この方法に限定されず、連結補強層前駆体を単独で巻き掛けてもよく、単独で巻き掛けた連結補強層前駆体の上(外周側)に、さらに未架橋ゴムシートで形成された保護層前駆体を巻き掛けることにより、タイバンド前駆体を構成してもよい。
【0209】
本発明の結合Vベルトにおいて、Vベルト部の本数は、図1の3本に限定されず、2本以上であればよく、例えば2~10本、好ましくは2~8本、さらに好ましくは2~6本である。隣接する各Vベルト部は、長手方向に平行に揃えて並んでいればよく、図1のように間隔をおいて並べる態様に限定されず、間隔をあけずに並べてもよい。生産性などの点から、隣接する各ラップドVベルト部は間隔をおいて並べるのが好ましい。隣接するVベルト部の間隔は、例えば1.7~4.3mm、好ましくは2~4.1mm、さらに好ましくは2.3~3.9mm程度である。タイバンドは、各Vベルト部を連結できればよく、図1のように各Vベルト部の外周面の全面に接触して一体化することにより連結する態様に限定されず、Vベルト部の外周面がタイバンドと接触しない領域を有していてもよい。ベルト耐久性の点から、各Vベルト部の外周面の全面がタイバンドと接触して一体化するのが好ましい。
【0210】
本発明の結合Vベルトは、高負荷の用途に適しているため、高馬力の機械に適しており、1本のVベルト部に掛かる負荷(基準伝動容量)は10PS以上であってもよく、好ましくは20PS以上、さらに好ましくは22PS以上(例えば22~30PS程度)であってもよい。
【0211】
また、結合Vベルトがラップド結合Vベルトの場合、大規模な農業機械などの高負荷で長スパン(軸間距離の長い)レイアウトで使用するのが好ましい。結合Vベルトは、長スパンレイアウトに適しているため、最大スパン長さ(プーリとプーリとの軸間距離)は1000mm以上であってもよく、例えば2000~5000mm程度である。
【0212】
結合Vベルトのベルト全長は、例えば200インチ(508cm)以上であってもよく、例えば220~500インチ程度であってもよく、30~200インチ程度であってもよい。
【0213】
各Vベルト部のベルト外周面の幅は、例えば15~35mm(特に16~25mm)であってもよく、各Vベルト部の厚みは、例えば10~20mm(特に10~15mm)であってもよい。
【実施例
【0214】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、以下に、ゴム組成物の原料、ゴム組成物の調製方法、使用した繊維材料、各物性の測定方法または評価方法などを示す。
【0215】
[ゴム組成物の原料]
クロロプレンゴム:DENKA(株)製「PM-40」
酸化マグネシウム:協和化学工業(株)製「キョーワマグ30」
ステアリン酸:日油(株)製「ステアリン酸つばき」
老化防止剤:精工化学(株)製「ノンフレックスOD-3」
カーボンブラック:東海カーボン(株)製「シースト3」
シリカ:エボニックジャパン(株)製、「ULTRASIL(登録商標)VN3」、BET比表面積175m/g
可塑剤:ADEKA(株)製「RS-700」
加硫促進剤(または架橋促進剤):大内新興化学工業(株)製「ノクセラーTT」
酸化亜鉛:正同化学工業(株)製「酸化亜鉛3種」
ナフテン系オイル:出光興産(株)製「NS-900」
N,N’-m-フェニレンジマレイミド:大内新興化学工業(株)製「バルノックPM」
アラミド短繊維:帝人(株)製「コーネックス短繊維」、平均繊維長3mm、平均繊維径14μm、RFL液(レゾルシン2.6部、37%ホルマリン1.4部、ビニルピリジン-スチレン-ブタジエン共重合体ラテックス(日本ゼオン(株)製)17.2部、水78.8部)で接着処理した固形分の付着率6質量%の短繊維。
【0216】
[心線]
アラミド繊維の撚りコード、平均線径1.985mm。
【0217】
[接着ゴム層、フリクションゴム、繊維構造体挟持ゴム用ゴム組成物]
表1に示す配合のゴム組成物AまたはCをバンバリーミキサーでゴム練りし、この練りゴムをカレンダーロールに通して所定厚みの未架橋圧延ゴムシートとして、接着ゴム層用シートおよび繊維構造体挟持ゴム用シート(連結補強層用シート)を作製した。また、表1に示すゴム組成物Bをバンバリーミキサーでゴム練りし、フリクション用の塊状未架橋ゴム組成物を調製した。それぞれのゴム組成物の架橋物の硬度および引張弾性率を測定した結果も表1に示す。
【0218】
【表1】
【0219】
[第1圧縮ゴム層、第2圧縮ゴム層および伸張ゴム層用ゴム組成物]
表2および3に示す配合のゴム組成物D~Eをバンバリーミキサーでゴム練りし、この練りゴムをカレンダーロールに通して所定厚みの未架橋圧延ゴムシートとして、第1圧縮ゴム層用シート、第2圧縮ゴム層用シートおよび伸張ゴム層用シートをそれぞれ作製した。それぞれのゴム組成物の架橋物の硬度および引張弾性率を測定した結果も表2および3に示す。
【0220】
【表2】
【0221】
【表3】
【0222】
[架橋ゴムのゴム硬度Hs]
各ゴム層用シートを温度160℃、時間30分でプレス架橋し、架橋ゴムシート(100mm×100mm×2mm厚み)を作製した。架橋ゴムシートを3枚重ね合わせた積層物を試料とし、JIS K6253(2012)に準じ、デュロメータA形硬さ試験機を用いて硬度を測定した。なお、フリクション用の塊状未架橋ゴム組成物Bは、塊状ゴムから試験体をサンプリングし、カレンダーロールに通して所定厚みの未架橋圧延ゴムシートを調製した。
【0223】
[架橋ゴムの引張弾性率(モジュラス)]
架橋ゴムのゴム硬度Hs測定のために作製した架橋ゴムシートを試料とし、JIS K6251(2017)に準じ、ダンベル状(5号形)に打ち抜いた試験片を作製した。短繊維を含む試料においては、短繊維の配列方向(列理方向)が引張方向となるようにダンベル状に打ち抜いた。そして、試験片の両端をチャック(掴み具)で掴み、試験片を500mm/minの速度で引っ張ったときに、試験片が切断に至るまでの引張応力(引張弾性率)を測定した。
【0224】
[補強布層、外被布および保護層用織布]
ポリエステル繊維と綿との混紡糸(ポリエステル繊維/綿=50/50質量比)の織布(120°広角織り、繊度は20番手の経糸と20番手の緯糸、経糸および緯糸の糸密度75本/50mm、目付量280g/m、平均厚み0.50mm)を、表1のゴム組成物Bを用いて、カレンダーロールの表面速度の異なるロール間にゴム組成物Bと織布とを同時に通過させ、織布の織り目の間にまでゴム組成物Bを擦り込む方法でフリクション処理(織布表裏に対して各1回行う)して補強布前駆体、外被布前駆体および保護層前駆体を調製した。
【0225】
[未架橋ラップドVベルト部の調製]
円筒状ドラムの外周面に、補強布前駆体と、表3に示す第2圧縮ゴム層用シートと、表2に示す第1圧縮ゴム層用シートとの積層体を裁断して載置した後、接着ゴム層用シート、心線、および表2に示す伸張ゴム層用シートを、順次積層して貼着し、補強布前駆体と未架橋ゴム層と心線とが積層した筒状の未架橋スリーブを形成した。得られた未架橋スリーブを、円筒状ドラムの外周に配置された状態で、周方向に切断し、環状の未架橋ゴムベルトを形成した。なお、短繊維を含む第1圧縮ゴム層および伸張ゴム層では、短繊維をベルト幅方向に配列させた。また、結合Vベルトにおける伸張ゴム層厚み、第1圧縮ゴム層厚みL2および圧縮ゴム層厚みL1(いずれも架橋後の厚み)が表4に示す平均厚みとなるように、各ゴム層用シートの厚みを調整した。
【0226】
【表4】
【0227】
次に、未架橋ゴムベルトをドラムから取り外し、未架橋ゴムベルトの両側面を所定の角度で切削(スカイブ)し、未架橋ゴムベルトの断面形状を、V字状断面に形成した。図2に示すように、V字状断面の未架橋ゴムベルト(伸張ゴム層14、芯体(心線)15が埋設された接着ゴム層16、第1圧縮ゴム層17a、第2圧縮ゴム層17b、補強布層19からなるベルト)に対して、その周囲を外被布18前駆体で覆うカバー巻き処理を施し、未架橋ラップドVベルト部を形成した。
【0228】
[実施例1]
(連結補強層前駆体1の調製)
表5に示す構造を有する繊維状構造体(連結補強層用ネット)[クラボウ社製「クレネット(登録商標)」(経糸および緯糸:PETのマルチフィラメント糸(無撚糸)、構造:図1に示すように緯糸の上下に経糸を交互に配列したTRT構造、経糸および緯糸の接点:樹脂で結合)に、クロロプレンラテックスによる接着処理を施したもの]の両面に、表1のゴム組成物Cで形成された繊維構造体挟持ゴム用シートを積層し、ロールに通して圧着することにより、前記ネットを挟持ゴムで挟み込んだ連結補強層前駆体1を調製した。
【0229】
(結合Vベルトの調製)
得られた6本の前記未架橋ラップドVベルト部を、下側架橋用モールドに形成された環状の溝部に嵌め込んだ後、その径方向外側の部分に、前記連結補強層前駆体1と、この連結補強層前駆体1の上に積層される保護層前駆体とをタイバンド前駆体としてセットした。すなわち、タイバンド前駆体のセットでは、幅方向に並べられた6本の未架橋ラップドVベルト部の周方向(ベルト長さ方向)に沿って、連結補強層前駆体1、保護層前駆体の順に巻き掛け、6本の未架橋ラップドVベルト部に対してタイバンド前駆体をセットした。なお、連結補強層前駆体1は、表5に示す連結補強層用ネットの経糸がベルト長さ方向と略平行に、緯糸(第1の糸状体)がベルト幅方向と略平行となるように配置した。また、連結補強層前駆体1の上に積層した保護層前駆体は、織布を構成する糸の方向がベルト幅方向に対して斜め(経糸および緯糸の双方がベルト幅方向に対してそれぞれ30°、すなわち、ベルト長さ方向に対して双方の糸が左右対称)となるように配置した。
【0230】
このようにセットしたタイバンド前駆体および6本の未架橋ラップドVベルト部を、上側架橋用モールドと下側架橋用モールドとの間で挟んで、1.2MPaまで加圧して、架橋温度160℃で架橋して、6本のラップドVベルト部(RMA B形、断面寸法:幅16.5mm×厚み11mm、ベルト長さ71インチ、外被布の平均厚み1.2mm)がタイバンドで連結して結合した架橋ベルトを得た。得られた架橋ベルトを切断し、3本のラップドVベルト部を有する結合Vベルト(ラップド結合Vベルト)を製造した。
【0231】
実施例1で得られたラップド結合ベルトを3本のラップドVベルト部に切り離し、ラップドVベルト単体の摩擦係数を後述する方法で測定したところ、0.93であった。
【0232】
[実施例2~6および参考例1~2]
(連結補強層前駆体2~8の調製)
連結補強層前駆体1中の繊維状構造体(連結補強層用ネット)を表5に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして連結補強層前駆体2~8をそれぞれ調製した。
【0233】
(結合Vベルトの調製)
連結補強層前駆体1に代えて、得られた連結補強層前駆体2~8を用いたこと以外は、実施例1と同様にして結合Vベルト(3本のラップドVベルト部を有するラップド結合Vベルト)を調製した。
【0234】
[比較例1]
(連結補強層前駆体9の調製)
連結補強層前駆体1中の繊維状構造体(連結補強層用ネット)に代えて、前記保護層用の織布を用いた。すなわち、ポリエステル繊維と綿との混紡糸(ポリエステル繊維/綿=50/50質量比)の織布(120°広角織り、繊度は20番手の経糸と20番手の緯糸、経糸および緯糸の糸密度75本/50mm、目付量280g/m、平均厚み0.50mm)の両面に、表1のゴム組成物Cで形成された繊維構造体挟持ゴム用シートを積層して、前記織布を挟持ゴムで挟み込んだ連結補強層前駆体9を調製した。
【0235】
(結合Vベルトの調製)
実施例1の連結補強層前駆体1に代えて、連結補強層前駆体9を用い、この連結補強層前駆体9中の織布を構成する糸の方向を、保護層前駆体と同じ方向、すなわち、ベルト幅方向に対して斜め(経糸および緯糸の双方がベルト幅方向に対してそれぞれ30°、すなわち、ベルト長さ方向に対して双方の糸が左右対称)となるように配置したこと以外は、実施例1と同様にして3本のラップドVベルト部を有する結合Vベルトを製造した。
【0236】
[ベルトの摩擦係数]
ベルトの摩擦係数は、図4に示すように、切断したベルト31の一方の端部をロードセル32に固定し、他方の端部に3kgfの荷重33を載せ、プーリ34へのベルトの巻き付け角度を45°にしてベルト31をプーリ34に巻き付けた。そして、ロードセル32側のベルト31を30mm/秒の速度で15秒程度引張り、摩擦伝動面の平均摩擦係数を測定した。なお、測定に際して、プーリ34は回転しないように固定した。
【0237】
[走行試験]
駆動プーリおよび従動プーリからなる2軸レイアウトの試験機を用い、輪断もしくは結合部材に亀裂が発生するまでの時間を比較した。駆動プーリおよび従動プーリは図5に示すように、中央の溝幅を通常よりも狭くしたプーリを用いた。このようなプーリを用いると、中央のVベルト部はプーリに掛けまわされた際に外周方向へ突出するため、タイバンド(結合部材)にはベルト幅方向への引張力が強く作用する。駆動プーリおよび従動プーリの外径(直径)は146mm、駆動プーリの回転数は1750rpm、従動プーリの負荷は22.5kW、軸荷重は300kgf、試験温度(雰囲気温度)は25℃とした。
【0238】
得られたラップド結合Vベルトを走行評価した結果を表5に示す。
【0239】
【表5】
【0240】
なお、表5中、緯糸(第1の糸状体)および経糸(第2の糸状体)の糸の密度および隙間(隣り合う各糸の最短距離)は、いずれも平均値である。また、繊維構造体の厚み、連結補強層厚みおよび保護層厚みは、いずれも平均厚みである。
【0241】
表5の結果から明らかなように、ベルト幅方向に対して糸を斜めに交差させて配置した(繊維構造体が第1の糸状体を有しない)比較例1は走行試験において、90時間で輪断が発生した。一方、ベルト幅方向に糸(緯糸)を配置した(繊維構造体が第1の糸状体を有する)実施例1は500時間経過時点でタイバンド(結合部材)に亀裂が確認されたものの、輪断は発生しなかった。
【0242】
実施例2~3は、実施例1の緯糸(第1の糸状体)および経糸(第2の糸状体)の糸の密度を大きく[または、糸の隙間を小さく、もしくはカバーファクター(CF)を大きく]した例である。実施例2では、実施例1と同様に500時間経過後も輪断が発生しなかったのに対し、実施例3では384時間で輪断が発生し、やや耐久性が低下した(ただし、許容範囲内であった)。この結果は、糸の密度が大き過ぎる[または、糸の隙間が小さ過ぎる、もしくはCFが大き過ぎる]ために、亀裂(または欠損)が伝播し易くなったものと推測される。
【0243】
実施例4および参考例1は、実施例2~3とは逆に、実施例1に対して糸の密度を小さく[または、糸の隙間を大きく、もしくはCFを小さく]した例である。実施例4では312時間で輪断が発生し、実施例1よりも耐久性が若干低下したが、許容範囲内であった。この実施例4よりもさらに糸の密度を小さくした参考例1では、比較的短時間(120時間)で輪断が発生し、耐久性が低かった。そのため、糸の密度が小さ過ぎる[または、糸の隙間が大き過ぎる、もしくはCFが小さ過ぎる]場合、亀裂の伝播を抑える効果は高くても、連結補強層の強度(または剛性)が低下して十分な補強効果が得られなくなると考えられる。
【0244】
参考例1は、実施例1に対して緯糸および経糸の双方の糸の密度を小さく[または、糸の隙間を大きく、もしくはCFを小さく]変更した例であったのに対し、実施例5および参考例2は、いずれか一方の糸のみを変更した例である。経糸のみを変更した[緯糸(第1の糸状体)が実施例1と同じ]実施例5では、実施例1と同様に500時間経過後も輪断が発生しなかった。一方、緯糸のみを変更した[経糸(第2の糸状体)が実施例1と同じ]参考例2では、96時間で輪断が発生し、耐久性が大きく低下した。このことから、経糸(第2の糸状体)の態様は輪断抑制にはあまり影響がなく、緯糸(第1の糸状体)の密度[または、糸の隙間もしくはCF]の調整が重要であることが分かった。
【0245】
実施例6は、繊維構造体の材質をPETからアラミドに変更した例であるが、実施例1と同様に500時間経過後も輪断が発生しなかった。
【0246】
500時間経過後も輪断が生じなかった実施例1~2および5~6の中でも、経糸がやや疎な状態で配置された実施例5では、結合ベルトを製造する際に繊維構造体の形がくずれ易く、取り扱い性が若干劣るため、成形性や生産性の観点も考慮すると、実施例1~2および6が好ましく、実施例1が特に好ましかった。
【産業上の利用可能性】
【0247】
本発明の結合Vベルトは、コンプレッサー、発電機、ポンプなどの一般産業用機械や、コンバイン、田植え機、草刈り機などの農業機械などに利用でき、輪断を有効に抑制できるため、高負荷環境で使用される高負荷機械に好適に利用できる。高負荷機械としては、例えば、欧米などで利用される大型の農業機械(例えば、耕耘機、野菜移植機、トランスプランタ、バインダー、コンバイン、野菜収穫機、脱穀機、ビーンカッター、とうもろこし収穫機、馬鈴薯収穫機、ビート収穫機など)などの高負荷で長スパンレイアウトにおいて用いられる高負荷機械などが挙げられる。
【符号の説明】
【0248】
T…タイバンド(結合部材)
1…連結補強層
2…繊維構造体(ネット、網状構造体)
2a…第1の糸状体(緯糸)
2b…第2の糸状体(経糸)
3…保護層
V,V1…Vベルト部
4,14…伸張層(伸張ゴム層)
5,15…芯体(心線)
6,16…芯体層(接着ゴム層)
7…圧縮ゴム層
8,18…外被布(カバー布)
10…結合Vベルト
17a…第1圧縮ゴム層
17b…第2圧縮ゴム層
19…補強布層
図1
図2
図3
図4
図5