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特許7536747窒化ケイ素粉末及びその製造方法、並びに窒化ケイ素焼結体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-09
(45)【発行日】2024-08-20
(54)【発明の名称】窒化ケイ素粉末及びその製造方法、並びに窒化ケイ素焼結体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 21/068 20060101AFI20240813BHJP
   C04B 35/593 20060101ALI20240813BHJP
【FI】
C01B21/068 E
C04B35/593 500
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021511955
(86)(22)【出願日】2020-03-26
(86)【国際出願番号】 JP2020013838
(87)【国際公開番号】W WO2020203697
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-01-25
(31)【優先権主張番号】P 2019066176
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】宮下 敏行
(72)【発明者】
【氏名】中村 祐三
【審査官】宮脇 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-178013(JP,A)
【文献】特開平06-135706(JP,A)
【文献】特開2002-128568(JP,A)
【文献】特開昭63-274604(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/068
C04B 35/593
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
全フッ素量が100~1000質量ppmであり、Fe、Al及びCaの合計量が100~1000質量ppmであり、全フッ素量に対する表面フッ素量の比が0.5以上である窒化ケイ素粉末。
【請求項2】
表面フッ素量が300質量ppm以上である、請求項1に記載の窒化ケイ素粉末。
【請求項3】
全フッ素量に対する表面フッ素量の比が0.66以下である、請求項1又は2に記載の窒化ケイ素粉末。
【請求項4】
ケイ素粉末とフッ化物を含み、ケイ素粉末に対するフッ化物の含有量が0.1~2質量%である原料を、窒素と水素及びアンモニアからなる群より選ばれる少なくとも一つとを含む混合雰囲気下で焼成して焼成物を得る工程と、
前記焼成物を弗化水素濃度が10~40質量%である弗酸で処理する工程と、を有全フッ素量が100~1000質量ppmであり、Fe、Al及びCaの合計量が100~1000質量ppmであり、全フッ素量に対する表面フッ素量の比が0.5以上である窒化ケイ素粉末の製造方法。
【請求項5】
前記弗酸の弗化水素濃度が20~30質量%である、請求項4に記載の窒化ケイ素粉末の製造方法。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の製造方法で製造される窒化ケイ素粉末を含む焼結原料を成形して焼成する工程を有する、窒化ケイ素焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、窒化ケイ素粉末及びその製造方法、並びに窒化ケイ素焼結体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ケイ素は、強度、硬度、靭性、耐熱性、耐食性、耐熱衝撃性等に優れた材料であることから、ダイカストマシン及び溶解炉等の各種産業用の部品、及び自動車部品等に利用されている。窒化ケイ素基板は、自動車及び工作機械等のパワーモジュール等の絶縁基板としての利用も検討されている。例えば、特許文献1では、アルミニウム-セラミックス接合基板に窒化ケイ素基板を用いることが提案されている。このような用途では、高い絶縁性及び放熱性を有することが求められる。
【0003】
窒化ケイ素基板の製造に用いられる窒化ケイ素粉末の合成方法としては、ケイ素粉末を水素ガス又はアンモニアガスと窒素ガスとの混合雰囲気下で窒化する直接窒化法、シリカ粉末の還元窒化法、及びイミド分解法等が知られている。このうち、イミド分解法によれば、不純物の少ない窒化ケイ素粉末を製造することができる(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-077546号公報
【文献】特開2000-302421号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
基板に用いられる窒化ケイ素焼結体において、熱伝導率に影響を与える因子としては窒化ケイ素焼結体に含まれる不純物が考えられる。窒化ケイ素焼結体における不純物は、窒化ケイ素焼結体の製造に用いられる窒化ケイ素粉末の不純物が影響する。ただし、不純物のうち、どの成分が窒化ケイ素焼結体の熱伝導率にどの程度影響を及ぼすかは未だ明らかではない。
【0006】
ここで、窒化ケイ素粉末の不純物を低減するうえで、イミド法は有効であるものの、製造コストが高くなる傾向にある。このため、ある程度の不純物を許容して製造コストを低くしながらも、高い熱伝導率を有する窒化ケイ素焼結体を形成することが可能な窒化ケイ素粉末が求められている。
【0007】
そこで、本開示では、高い熱伝導率を有する窒化ケイ素焼結体を低い製造コストで製造することが可能な窒化ケイ素粉末及びその製造方法を提供する。また、本開示では、高い熱伝導率を有する窒化ケイ素焼結体を低い製造コストで製造することが可能な窒化ケイ素焼結体の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一側面に係る窒化ケイ素粉末は、全フッ素量が100~1000質量ppmであり、Fe、Al及びCaの合計量が100~1000質量ppmである。このような窒化ケイ素粉末は、Fe、Al及びCaの合計の含有量が所定の範囲にあることから、汎用グレードの原料を用い通常の製造設備を利用して製造することができる。また、全フッ素量も所定の範囲にあることから、原料として例えば窒化助剤(Li、Na、K、Mg、Ca、Sr、Ba元素のフッ化物)を用いて窒化ケイ素粉末を製造する際の焼成温度を低減することができる。これらの要因によって、窒化ケイ素焼結体の製造コストを低くすることができる。また、全フッ素量、及びFe、Al及びCaの合計量が所定値以下であることから、焼結原料として用いると、高い熱伝導率を有する窒化ケイ素焼結体を得ることができる。
【0009】
上記窒化ケイ素粉末の表面フッ素量は300質量ppm以上であることが好ましい。表面に存在するフッ素は、窒化ケイ素焼結体を製造する際に、焼結を促進する作用を有する。したがって、焼成温度を低くしても十分に焼結を進行させることができる。このため、製造コストをさらに低くしたり、強度を高くしたりすることができる。
【0010】
上記窒化ケイ素粉末の全フッ素量に対する表面フッ素量の比は0.5以上であってよい。これによって、内部に比べて表面に存在するフッ素の割合が高くなり、一層焼結を進行させることができる。このため、製造コストをさらに低減したり、強度を高くしたりすることができる。
【0011】
上記窒化ケイ素粉末の全フッ素量に対する表面フッ素量の比は0.66以下であってよい。これによって、原料として窒化助剤を用いて窒化ケイ素粉末を製造する際の焼成温度を十分に低減することができる。これによって、製造コストをさらに低くすることができる。
【0012】
本開示の一側面に係る窒化ケイ素粉末の製造方法は、ケイ素粉末とフッ化物を含み、ケイ素粉末に対するフッ化物の含有量が0.1~2質量%である原料を、窒素と水素及びアンモニアからなる群より選ばれる少なくとも一つとを含む混合雰囲気下で焼成して焼成物を得る工程と、焼成物を弗化水素濃度が10~40質量%である弗酸で処理する工程と、を有する。
【0013】
この製造方法は、イミド法よりも低い製造コストで窒化ケイ素粉末を製造することができる。また、フッ化物の含有量が所定の範囲にある原料を用いていることから、原料として例えば窒化助剤を用いて窒化ケイ素粉末を製造する際の焼成温度を低減して、製造コストを低くすることができる。また、焼成物を弗化水素濃度が10~40質量%である弗酸で処理していることから、表面にフッ素が存在することとなる。これによって、焼結原料として用いると焼結が促進され、高い熱伝導率を有する窒化ケイ素焼結体を製造することができる。
【0014】
上述の製造方法で製造される窒化ケイ素粉末は、全フッ素量が100~1000質量ppmであり、Fe、Al及びCaの合計量が100~1000質量ppmであってよい。
【0015】
本開示の一側面に係る窒化ケイ素焼結体の製造方法は、上述の窒化ケイ素粉末の製造方法で製造される窒化ケイ素粉末を含む焼結原料を成形して焼成する工程を有する。この製造方法によれば、高い熱伝導率を有する窒化ケイ素焼結体を低い製造コストで製造することができる。
【発明の効果】
【0016】
本開示によれば、高い熱伝導率を有する窒化ケイ素焼結体を低い製造コストで製造することが可能な窒化ケイ素粉末及びその製造方法を提供することができる。また、本開示によれば、高い熱伝導率を有する窒化ケイ素焼結体を低い製造コストで製造することが可能な窒化ケイ素焼結体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本開示の一実施形態について説明する。ただし、以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。
【0018】
一実施形態に係る窒化ケイ素粉末(Si粉末)の全フッ素量は、100~1000質量ppmであり、Fe、Al及びCaの合計量が100~1000質量ppmである。原料として例えば窒化助剤を用いて窒化ケイ素粉末を製造する際の焼成温度を一層低くして窒化ケイ素粉末の製造コストを一層低減する観点から、窒化ケイ素粉末の全フッ素量は、200質量ppm以上であってよく、300質量ppm以上であってよく、400質量ppm以上であってもよい。
【0019】
窒化ケイ素粉末を焼結原料として用いたときに、十分に高い熱伝導率を有する窒化ケイ素焼結体を得る観点から、窒化ケイ素粉末の全フッ素量は、900質量ppm以下であってよく、850質量ppm以下であってよく、800質量ppm以下であってもよい。全フッ素量の上限を低くすることによって、窒化ケイ素焼結体に含まれるフッ素が少なくなり、熱伝導率を十分に高くすることができる。ただし、上記下限値程度のフッ素が窒化ケイ素粉末に含まれていても、熱伝導率に大きな影響はない。
【0020】
窒化ケイ素粉末の製造コストを一層低減する観点から、窒化ケイ素粉末のFe、Al及びCaの合計量は、200質量ppm以上であってよく、300質量ppm以上であってよく、400質量ppm以上であってもよい。このような窒化ケイ素粉末は、低い製造コストで製造することができる。そのような方法として、例えば、ケイ素粉末を用いる直接窒化法が挙げられる。原料として用いるケイ素粉末としては、通常の市販のものを用いたり、通常の方法で合成して用いたりすることができる。
【0021】
窒化ケイ素粉末を焼結原料として用いたときに、高い熱伝導率を有する窒化ケイ素焼結体を得る観点から、窒化ケイ素粉末のFe、Al及びCaの合計量が900質量ppm以下であってよく、800質量ppm以下であってよく、700質量ppm以下であってもよい。Fe、Al及びCaは、窒化ケイ素粉末の原料に通常含まれる不純物であり、窒化ケイ素焼結体の特性に及ぼす影響が大きい。このため、これらの不純物の上限を低くすることによって、窒化ケイ素焼結体の熱伝導率を十分に高くすることができる。ただし、上記下限値程度のFe、Al及びCaが窒化ケイ素粉末に含まれていても、熱伝導率に大きな影響はない。
【0022】
窒化ケイ素粉末の表面フッ素量は、300質量ppm以上であることが好ましい。これによって、窒化ケイ素焼結体を作製する際に焼結が促進され、窒化ケイ素焼結体の強度を高くすることができる。また、焼結温度を低くして製造コストをさらに低くすることも可能である。同様の観点から、表面フッ素量は、350質量ppm以上であってよく、400質量ppm以上であってもよい。この表面フッ素量の上限は、製造の容易性の観点から、800質量ppm以下であってよく、700質量ppm以下であってもよい。表面フッ素量は、窒化ケイ素粉末を弗酸処理する際の条件(フッ化水素の濃度等)を変更することで調整することができる。表面フッ素は、窒化ケイ素粉末の表面に結合ないし付着するフッ素である。
【0023】
全フッ素量に対する表面フッ素量の比は、製造される窒化ケイ素焼結体の強度を十分に高くする観点から、0.5以上であってよく、0.6以上であってよい。一方、全フッ素量に対する表面フッ素量の比は、製造コストをさらに低くする観点から、0.66以下であってよい。
【0024】
窒化ケイ素粉末の内部フッ素量は、低い製造コストと高い熱伝導率を高水準で両立する観点から、150~800質量ppmであってよく、200~700質量ppmであってもよい。内部フッ素は、窒化ケイ素粉末の表面に露出せずに、粉末の内部に存在するフッ素である。内部フッ素量は、窒化ケイ素粉末の原料に配合する、フッ素を含有する窒化助剤の割合を変えることによって調整することができる。なお、窒化助剤とは、ケイ素の窒化反応を促進する機能を有する物質である。そのような物質としては、Li、Na、K、Mg、Ca、Sr、Ba元素のフッ化物が挙げられる。
【0025】
窒化ケイ素粉末の全フッ素量は、窒化ケイ素粉末を燃焼して脱離するフッ素の量を、イオンクロマトグラフを用いて定量することによって求めることができる。表面フッ素量は、窒化ケイ素粉末を水中に分散させた分散水を煮沸して窒化ケイ素粉末の表面に存在するフッ素を水中に抽出し、抽出されたフッ素を、イオンクロマトグラフを用いて定量することによって求めることができる。内部フッ素量は、全フッ素量から表面フッ素量を差し引いて求めることができる。本開示において全フッ素量とは、窒化ケイ素粉末の全体質量に対するフッ素の質量の比率である。一方、内部フッ素量とは、窒化ケイ素粉末の全体質量に対する内部のフッ素の質量の比率である。また、表面フッ素量とは、窒化ケイ素粉末の全体質量に対する表面のフッ素の質量の比率である。したがって、以下の式が成立する。
全フッ素量(質量ppm)=内部フッ素量(質量ppm)+表面フッ素量(質量ppm)
【0026】
一実施形態に係る窒化ケイ素粉末の製造方法は、ケイ素粉末とフッ化物とを混合し、ケイ素粉末に対するフッ化物の含有量が0.1~2質量%以下である原料を得た後、当該原料を窒素と、水素及びアンモニアからなる群より選ばれる少なくとも一つとを含む混合雰囲気下で焼成して焼成物を得る焼成工程と、焼成物を粉砕する粉砕工程と、粉砕した焼成物を弗化水素濃度が10~40質量%である弗酸で処理する後処理工程と、を有する。
【0027】
ケイ素粉末と混合されるフッ化物は、窒化助剤として機能するものであり、例えば、Li、Na、K、Mg、Ca、Sr、Ba元素等のフッ化物が挙げられる。原料におけるケイ素粉末に対するフッ化物の含有量は0.3~1.8質量%であってもよい。原料におけるケイ素粉末に対するフッ化物の含有量が高くなり過ぎると、窒化ケイ素粉末の全フッ素量及びCa量が高くなる傾向がある。ケイ素粉末の純度及びフッ化物の配合割合を変えることによって、窒化ケイ素粉末の全フッ素量及びFe,Al,Caの合計含有量を調整することができる。全フッ素量及びFe,Al,Caの合計含有量が上述の範囲にある窒化ケイ素粉末の製造を円滑に行う観点から、フッ化物と混合されるケイ素粉末の純度は、例えば99.0~99.9質量%であってよい。
【0028】
焼成工程では、ケイ素粉末とフッ化物を含む原料を、窒素と水素及びアンモニアからなる群より選ばれる少なくも一つとを含む混合雰囲気下で焼成して窒化物を得る。混合雰囲気における水素及びアンモニアの含有割合の合計は、10~40体積%であってよい。焼成温度は、例えば1100~1450℃であってよく、1200~1400℃であってもよい。焼成時間は、例えば30~100時間であってよい。
【0029】
焼成工程で得られる窒化ケイ素がインゴット状になっている場合、焼成物を粉砕する粉砕工程を行う。粉砕は、粗粉砕と微粉砕の複数段階に分けて行ってもよい。粉砕は、例えばボールミルを用いて湿式で行ってもよい。焼成物は、比表面積が8.0~15.0m/gになるまで粉砕してもよい。
【0030】
後処理工程では、粉砕した焼成物と弗化水素濃度が10~40質量%である弗酸とを配合して処理する。例えば、弗酸中に焼成物を分散させて処理してもよい。弗酸における弗化水素濃度は15~30質量%であってよい。後処理工程における弗酸の温度は、例えば40~80℃である。また、窒化ケイ素粉末を弗酸に浸漬する時間は、例えば1~10時間である。
【0031】
このような製造方法によって、窒化ケイ素粉末の全フッ素量、内部フッ素量、表面フッ素量及びFe,Al,Caの合計含有量を、上述の範囲に調整することができる。この製造方法は、所謂直接窒化法に相当する方法であり、イミド法よりも低い製造コストで窒化ケイ素粉末を製造することができる。このような窒化ケイ素粉末は不純物をある程度含有するものの、高い熱伝導率を有する窒化ケイ素焼結体の焼結原料として好適に用いることができる。
【0032】
一実施形態に係る窒化ケイ素焼結体の製造方法は、上述の窒化ケイ素粉末を主成分として含む焼結原料を成形して焼成する工程を有する。焼結原料は、窒化ケイ素粉末の他に、酸化物系焼結助剤を含んでいてもよい。酸化物系焼結助剤としてはY3、MgO及びAl等が挙げられる。焼結原料における酸化物系焼結助剤の含有量は、例えば3~10質量%であってよい。この工程では、窒化ケイ素粉末の表面に存在するフッ素が酸化物系焼結助剤と反応し、窒化ケイ素の焼結が促進される。
【0033】
上記工程では、上述の焼結原料を例えば3.0~30MPaの成形圧力で加圧して成形体を得る。成形体は一軸加圧して作製してもよいし、CIPによって作製してもよい。また、ホットプレスによって成形しながら焼成してもよい。成形体の焼成は、窒素ガス又はアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気中で行ってよい。焼成時の圧力は、0.7~1MPaであってよい。焼成温度は1860~2100℃であってよく、1880~2000℃であってもよい。当該焼成温度における焼成時間は6~20時間であってよく、8~16時間であってよい。焼成温度までの昇温速度は、例えば1.0~10.0℃/時間であってよい。
【0034】
このようにして製造される窒化ケイ素焼結体は、製造コストが低いうえに、高い熱伝導率を有することから放熱性に優れる。また、原料に用いる窒化ケイ素粉末の表面フッ素量を高くすることで、強度にも優れる窒化ケイ素焼結体とすることができる。窒化ケイ素焼結体の熱伝導率は、例えば25℃の環境下において100W/mK以上であってよく、110W/mK以上であってもよい。窒化ケイ素焼結体の3点曲げ強さは、例えば室温で500MPa以上であってよく、600MPa以上であってもよい。
【0035】
以上、幾つかの実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に何ら限定されるものではない。
【実施例
【0036】
実施例及び比較例を参照して本開示の内容をより詳細に説明するが、本開示は下記の実施例に限定されるものではない。
【0037】
(実施例1)
<窒化ケイ素粉末の調製>
市販のケイ素粉末(比表面積:3.0m/g)を、混酸中に浸漬して前処理を施した。前処理は、60℃に温度調整した上記混酸中にケイ素粉末を入れ、2時間浸漬した。前処理に用いた混酸としては、市販の塩酸(濃度:35質量%)と弗酸(濃度:55質量%)とを、10:1の質量比で配合したものを用いた。その後、混酸からケイ素粉末を取り出して水で洗浄し、窒素雰囲気下で乾燥した。
【0038】
乾燥後のケイ素粉末とフッ化カルシウムとを配合して原料を調製した。このとき、ケイ素粉末に対して、フッ化カルシウムを1.5質量%の比率で配合した。この原料を用いて成形体(嵩密度:1.4g/cm)を作製し、電気炉を用いて1400℃で60時間焼成して窒化ケイ素インゴットを作製した。焼成時の雰囲気は、窒素と水素の混合雰囲気(N:H=80:20,体積基準)とした。得られたインゴットを粗粉砕した後、ボールミルで湿式粉砕した。
【0039】
湿式粉砕して得られた窒化ケイ素粉末を、温度60℃の弗酸(濃度:10質量%)中に2時間浸漬する後処理を行った。その後、弗酸から窒化ケイ素粉末を取り出して水で洗浄し、窒素雰囲気下で乾燥した。このようにして、実施例1の窒化ケイ素粉末を得た。
【0040】
<窒化ケイ素粉末の評価>
窒化ケイ素粉末の全フッ素量、表面フッ素量及び内部フッ素量を以下の手順で測定した。自動試料燃焼装置(三菱化学株式会社製、装置名:AQF-2100H型)を用いて窒化ケイ素粉末を加熱し、発生したガスを水に溶解させた。イオンクロマトグラフ(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、装置名:ICS-2100)を用いて、水中に溶解したフッ素を測定した。この測定値に基づいて、窒化ケイ素粉末のフッ素濃度(全フッ素量)を算出した。
【0041】
180℃で煮沸している水25mlの中に窒化ケイ素粉末を2.5g投入し、2時間煮沸を継続してフッ素を水中に抽出した。イオンクロマトグラフ(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、装置名:ICS-2100)を用いて、水中に抽出されたフッ素を測定した。この測定値に基づいて、窒化ケイ素粉末の表面におけるフッ素量(表面フッ素量)を算出した。全フッ素量から表面フッ素量を差し引いて、内部フッ素量を求めた。これらの結果は表1に示すとおりであった。
【0042】
窒化ケイ素粉末のFe,Al,Ca含有量は、蛍光X線分析装置(株式会社リガク製、装置名:ZSX-PrimusII)を用いて測定した。それぞれの含有量及び合計含有量は表1に示すとおりであった。
【0043】
<窒化ケイ素焼結体の作製>
調製した窒化ケイ素粉末90質量部、平均粒径1.5μmのY粉末5質量部、平均粒径1.2μmのYb粉末5質量部を配合し、メタノール中で4時間湿式混合した。その後、乾燥して得た混合粉末を10MPaの圧力で金型成形し、その後更に25MPaの圧力でCIP成形した。得られた成形体を、窒化ケイ素粉末及びBN粉末の混合粉末からなる詰め粉とともにカーボン製の坩堝に入れた。この坩堝を、1MPaの窒素加圧雰囲気下、温度1900℃で12時間焼成して窒化ケイ素焼結体を製造した。
【0044】
<窒化ケイ素焼結体の評価>
窒化ケイ素焼結体を研削加工して、熱伝導率測定用の10mmφ×3mmの円盤体を作製した。レーザーフラッシュ法(JIS R1611に準拠)により熱拡散率と比熱容量を測定し、焼結体の密度、熱拡散率及び比熱容量の積を算出して、室温における熱伝導率とした。また、JIS R1601:2008に準じて強度測定用の試験片を作製し、室温における3点曲げ強さを測定した。測定結果は、実施例1の測定値を基準として、相対値で表2に示す。
【0045】
(実施例2~4、比較例1~4)
ケイ素粉末に対するフッ化カルシウムの配合割合を表1のとおりとしたこと、及び、後処理に用いる弗酸の濃度(弗化水素の濃度)を表1に示すとおりに変更したこと以外は、実施例1と同様にして窒化ケイ素粉末を調製した。実施例1と同様にして、各実施例及び各比較例の全フッ素量、表面フッ素量及び内部フッ素量を求めた。また、全フッ素量に対する表面フッ素量の比(表1では「表面/全体」と表示)を求めた。結果は表1に示すとおりであった。
【0046】
実施例1と同様にして、窒化ケイ素粉末を用いて窒化ケイ素焼結体を作製し、評価を行った。測定結果は、実施例1の測定値を基準とする相対値で表2に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0049】
本開示によれば、高い熱伝導率を有する窒化ケイ素焼結体を低い製造コストで製造することが可能な窒化ケイ素粉末及びその製造方法を提供することができる。また、本開示によれば、高い熱伝導率を有する窒化ケイ素焼結体を低い製造コストで製造することが可能な窒化ケイ素焼結体の製造方法を提供することができる。