(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-09
(45)【発行日】2024-08-20
(54)【発明の名称】純鉄含有化合物
(51)【国際特許分類】
C01G 49/00 20060101AFI20240813BHJP
C01B 25/45 20060101ALI20240813BHJP
C21B 13/00 20060101ALI20240813BHJP
C22B 3/04 20060101ALI20240813BHJP
C22B 3/20 20060101ALI20240813BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20240813BHJP
【FI】
C01G49/00 Z
C01B25/45 Z
C21B13/00
C22B3/04
C22B3/20
H01M4/58
(21)【出願番号】P 2021535720
(86)(22)【出願日】2019-12-03
(86)【国際出願番号】 EP2019083424
(87)【国際公開番号】W WO2020126456
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-12-01
(32)【優先日】2018-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】509020295
【氏名又は名称】ホガナス アクチボラグ (パブル)
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ラーソン、ペール - オロフ
(72)【発明者】
【氏名】スケルマン、ビョルン
(72)【発明者】
【氏名】ヴィダルソン、ヒルマール
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-057234(JP,A)
【文献】米国特許第04693864(US,A)
【文献】特表2013-510069(JP,A)
【文献】国際公開第2011/086872(WO,A1)
【文献】高田九二雄,高純度鉄中の微量不純物元素の定量と高純度鉄の純度決定,まてりあ,日本,1994年,Vol.33, No.1,p.84-87
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 49/00
C01B 25/45
C21B 13/00
C22B 3/04
C22B 3/20
H01M 4/58
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄含有水溶液を製造する方法であって、
鉄鉱石を還元ガス又は元素状炭素によって鉄に直接還元することによって生成される直接還元鉄を供給するステップ、
前記直接還元鉄を
水性有機酸及び/又は
水性無機酸に溶解させ、溶解プロセスを通じて前記直接還元鉄の不溶性不純物が固体形態で維持される鉄含有水溶液を供給して、不溶性不純物が懸濁した鉄含有水溶液を得る
、溶解ステップ
であって、溶解後の前記鉄含有水溶液のpHが、最大4.5である、溶解ステップ、
並びに
前記不溶性不純物を前記鉄含有水溶液から分離して、精製鉄含有水溶液を得る
、分離ステッ
プ
を含む、方法。
【請求項2】
前記精製鉄含有水溶液を乾燥することによって固化して、鉄含有化合物を供給するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記溶解のための前記有機酸が、クエン酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、安息香酸、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸及びそれらの任意の組合せからなる群から選択される、請求項1
又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記溶解のための前記無機酸が、塩酸、塩素酸、過塩素酸、硫酸、亜硫酸、硝酸、亜硝酸、リン酸及びそれらの任意の組合せからなる群から選択される、請求項1
~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
溶解後の前記鉄含有
水溶液のpHが
、最大4.
2である、請求項1~
4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記直接還元鉄を
、30~5時
間の期間にわたって、前記溶解のために前記
水性有機
酸及び/又は
水性無機酸と接触させる、請求項1~
5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記溶解ステップ中の温度が
、25~100
℃である、請求項1~
6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記分離
ステップが、デカント、沈降、濾過、遠心分離、浮選又はそれらの任意の組合せを使用して行われる、請求項1~
7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記精製鉄含有水溶
液が、前記直接還元鉄に由来する、その中の金属及び半金属の総含有量に対して、少なくとも93重量
%の鉄含有量を有する、請求項1~
8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
酸素が
、空気、オゾン、酸素ガス又はそれらの任意の組合せ
のうちの1つとして、前記溶解ステップに供給される、請求項1~
9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
酸化剤が前記溶解ステップに添加され
る、請求項1~
10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記酸化剤が過酸化水素である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記直接還元鉄が前記溶解ステップの前に、前記直接還元鉄の可溶性及び/又は分散性表面不純物が溶解及び/又は懸濁され、除去される、洗浄ステップに供される、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記洗浄ステップが、前記直接還元鉄を
水性希有機酸及び/又は
水性希無機酸に供することを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記洗浄のための前記
水性希有機酸が、クエン酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、安息香酸、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸及びそれらの任意の組合せからなる群から選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記洗浄のための前記
水性希無機酸が、塩酸、フッ化水素酸、塩素酸、過塩素酸、硫酸、亜硫酸、硝酸、亜硝酸、リン酸及びそれらの任意の組合せからなる群から選択される、請求項14又は15に記載の方法。
【請求項17】
供給された前記
水性希酸が、1~25重量
%の濃度を有する、請求項14~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記直接還元鉄を、前記
水性希酸と1~20分
間の期間にわたって接触させる、請求項14~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記
水性希酸のpHが1~
3である、請求項14~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記洗浄ステップが
、デカンテーション、濾過、遠心分離及びそれらの任意の組合せから選択される分離ステップをさらに含み、前記直接還元鉄の溶解及び/又は懸濁表面不純物を除去する、請求項13~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記洗浄ステップが水による洗浄をさらに含み、希酸で洗浄され
た前記直接還元鉄が、溶解前に水でさらに洗浄され
る、請求項13~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記溶解ステップが、温度制御手段を備える、請求項1~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
請求項1~22のいずれか1項に記載の方法によって得られた精製鉄含有水溶液を、ホスファート含有化合物と混合し、次いで乾燥によって固化する、鉄含有前駆体を得る方法。
【請求項24】
前記乾燥が、噴霧乾燥、凍結乾燥又は真空乾燥のいずれかによる、請求項23に記載の鉄含有前駆体を得る方法。
【請求項25】
乾燥前に、リチウム含有化合物を添加することをさらに含む、請求項23又は24に記載の鉄含有前駆体を得る方法。
【請求項26】
乾燥した鉄含有前駆体を、500~850℃の温度で熱処理する、請求項23~25のいずれか一項に記載の鉄含有前駆体を得る方法。
【請求項27】
リチウム鉄ホスファート電極材料の製造における、請求項23~26のいずれか一項に記載の方法によって得られた鉄含有前駆体の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄含有化合物、鉄含有前駆体又は鉄含有水溶液の製造方法並びに鉄含有電極材料の製造におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄は、地球の地殻中で4番目に多い元素であり、一般に酸化物、スルフィド又はシリカートの形態で存在する。
【0003】
金属鉄は、豊富に存在し、金属鉄への還元が比較的容易であるため、人類の技術開発にとって非常に重要であり、今でもなお非常に重要である。
【0004】
現代の先進技術において、鉄は、例えば様々な電気機器、電池、燃料電池などに存在する重要な元素である。鉄は、アノード又はカソードなどの電極の成分として使用され得る。使用の1つの具体例は、カソード、例えばLFPカソードとも呼ばれるリチウム鉄ホスファートカソードなどのリチウムイオン電池内のカソード材料においてである。鉄は比較的安価な材料であるため、鉄を含有するカソード材料は、リチウムイオン電池の開発に非常に有望な経路となる。リチウム鉄含有電池は、その良好な性能のために市場で増加している。しかし、そのような用途での有効利用のためには、鉄は非常に純粋な状態で存在する必要があり、すなわち、不純物の量が極めて少なくなければならない。高純度鉄を製造するための現在の方法、例えば電解析出、気相中での様々な精製方法などは、比較的費用がかかる。製造方法は、電池材料の所望の純度を供給するために、時間がかかり、製造コストに大きく影響し得る多くの複雑なステップを含み得る。従来、鉄系カソード材料は、析出して鉄ホスファートとなり得る、鉄クロリド又は鉄スルファートから供給され得る。しかし、プロセス中に形成された不純物を除去する必要があるものの、除去には費用がかかり、電池製造のための十分に純粋な材料を最終的に得るための多くの洗浄ステップが必要である。
【0005】
したがって、比較的高レベルの不純物を含有する安価な鉄材料から出発して、高純度鉄、及びLFPカソードを製造するための前駆体などの鉄含有化合物を製造するための安価な方法が必要とされている。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、容易に入手可能な原料を使用して、合理的なコストで、溶解及び分離プロセスによって高純度の鉄系電池供給材料を提供する方法を提供する。
【0007】
本発明は、最新技術の方法での提供が比較的複雑であり、費用がかかる、不純物を含有する比較的安価な出発物質からの高純度の鉄含有化合物及び溶液を提供する。さらに、本発明は、例えばLFP用の高純度鉄含有前駆体、並びに前記前駆体から作製したLFPカソードも提供する。カソードは、LFP以外に、カーボンブラック、結合剤、各種の活物質などを含み得る。
本願の出願当初の特許請求の範囲に係る発明の内容は、以下の通りである。
[項1]
鉄含有化合物、鉄含有前駆体又は鉄含有水溶液を製造する方法であって、
直接還元鉄を供給するステップ、
前記直接還元鉄を有機酸及び/又は無機酸に溶解させ、溶解プロセスを通じて前記直接還元鉄の不溶性不純物が固体形態で維持される鉄含有水溶液を供給して、不溶性不純物が懸濁した鉄含有水溶液を得るステップ、
前記不溶性不純物を前記鉄含有水溶液から分離して、精製鉄含有水溶液を得るステップ、及び
場合により、前記精製鉄含有水溶液を乾燥することによって固化して、前記鉄含有化合物又は鉄含有前駆体を供給するステップ
を含む、方法。
[項2]
前記溶解のための前記有機酸が、クエン酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、安息香酸、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸及びそれらの任意の組合せからなる群から選択される、項1に記載の方法。
[項3]
前記溶解のための前記無機酸が、塩酸、塩素酸、過塩素酸、硫酸、亜硫酸、硝酸、亜硝酸、リン酸及びそれらの任意の組合せからなる群から選択される、項1又は2に記載の方法。
[項4]
溶解後の前記鉄含有溶液のpHが、最大4.5、好ましくは最大4.2、好ましくは最大4.0、好ましくは最大3.8である、項1~3のいずれか一項に記載の方法。
[項5]
前記直接還元鉄を、約30~5時間、好ましくは1~4時間、好ましくは1~3時間、好ましくは1~2時間の期間にわたって、前記溶解のために前記有機及び/又は無機酸と接触させる、項1~4のいずれか一項に記載の方法。
[項6]
前記溶解ステップ中の温度が、約25~100℃、好ましくは30~80℃、好ましくは30~70℃、好ましくは30~65℃、好ましくは40~55℃である、項1~5のいずれか一項に記載の方法。
[項7]
前記分離が、デカント、沈降、濾過、遠心分離、浮選又はそれらの任意の組合せを使用して行われる、項1~6のいずれか一項に記載の方法。
[項8]
供給された前記精製鉄含有水溶液、鉄含有化合物又は鉄含有前駆体が、前記直接還元鉄に由来する、その中の金属及び半金属の総含有量に対して、少なくとも93重量%、好ましくは少なくとも97.5重量%、好ましくは少なくとも99%、好ましくは少なくとも99.5%、好ましくは少なくとも99.9%の鉄含有量を有する、項1~7のいずれか一項に記載の方法。
[項9]
供給された前記精製鉄含有水溶液、鉄含有化合物又は鉄含有前駆体が、前記直接還元鉄に由来する、その中の金属及び半金属の総含有量に対して、
≦1000ppm、好ましくは≦800ppm、好ましくは≦600ppm、好ましくは≦400ppmの量で不溶性不純物を含有する、項1~8のいずれか一項に記載の方法。
[項10]
前記不溶性不純物が、アルミニウム、ヒ素、ビスマス、カルシウム、クロム、鉄、鉛、マグネシウム、マンガン、モリブデン、セレン、ニオブ、アンチモン、ケイ素、タンタル、チタン、タングステン、バナジウム、亜鉛、ジルコニウム、炭素、窒素、酸素、リン、硫黄又はそれらの任意の組合せを含む、項1~9のいずれか一項に記載の方法。
[項11]
酸素が、好ましくは空気、オゾン、酸素ガス又はそれらの任意の組合せとして、前記溶解ステップに供給される、項1~10のいずれか一項に記載の方法。
[項12]
酸化剤が前記溶解ステップに添加され、好ましくは過酸化水素が前記溶解ステップに添加される、項1~11のいずれか一項に記載の方法。
[項13]
前記直接還元鉄が前記溶解ステップの前に、前記直接還元鉄の可溶性及び/又は分散性表面不純物が溶解及び/又は懸濁され、除去される、洗浄ステップに供される、項1~12のいずれか一項に記載の方法。
[項14]
前記洗浄ステップが、前記直接還元鉄を希酸、好ましくは希有機酸及び/又は無機酸に供することを含む、項13に記載の方法。
[項15]
前記洗浄のための前記希有機酸が、クエン酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、安息香酸、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸及びそれらの任意の組合せからなる群から選択される、項14に記載の方法。
[項16]
前記洗浄のための前記希無機酸が、塩酸、フッ化水素酸、塩素酸、過塩素酸、硫酸、亜硫酸、硝酸、亜硝酸、リン酸及びそれらの任意の組合せからなる群から選択される、項14又は15に記載の方法。
[項17]
供給された前記希酸が、1~25重量%、好ましくは1~20重量%、好ましくは2~15重量%、好ましくは3~10重量%の濃度を有する、項14~16のいずれか一項に記載の方法。
[項18]
前記直接還元鉄を、前記希酸と1~20分間、好ましくは2~15分間、好ましくは3~10分間の期間にわたって接触させる、項14~17のいずれか一項に記載の方法。
[項19]
前記希酸のpHが1~3、好ましくは1~2である、項14~18のいずれか一項に記載の方法。
[項20]
前記洗浄ステップが、好ましくはデカンテーション、濾過、遠心分離及びそれらの任意の組合せから選択される分離ステップをさらに含み、前記直接還元鉄の溶解及び/又は懸濁表面不純物を除去する、項13~19のいずれか一項に記載の方法。
[項21]
前記洗浄ステップが水による洗浄をさらに含み、希酸で洗浄され、場合により分離された前記直接還元鉄が、溶解前に水でさらに洗浄され、好ましくは純水、より好ましくは脱イオン水又は蒸留水で洗浄される、項13~20のいずれか一項に記載の方法。
[項22]
前記溶解ステップが、温度制御手段を備える、項1~21のいずれか一項に記載の方法。
[項23]
前記精製鉄含有水溶液が、ホスファート含有化合物及び場合によりリチウム含有化合物と混合され、次いで乾燥による前記固化ステップに供されて、前記鉄含有化合物又は鉄含有前駆体を供給し、好ましくは、前記固化ステップが、乾燥、好ましくは噴霧乾燥、凍結乾燥又は真空乾燥によって行われる。項1~22のいずれか一項に記載の方法。
[項24]
前記ホスファート含有化合物及び場合により前記リチウム含有化合物を含む、前記乾燥鉄含有化合物又は鉄含有前駆体を、500~850℃、好ましくは600~700℃の温度で熱処理して、鉄ホスファート含有化合物又は場合によりリチウム鉄ホスファート含有化合物を供給する、項23に記載の方法。
[項25]
リチウム鉄ホスファート電極材料の製造における、項1~24のいずれか一項に記載の方法により得られた鉄含有化合物、鉄含有前駆体又は鉄含有水溶液の使用。
[項26]
鉄含有水溶液、鉄含有組成物又は鉄含有前駆体であって、その中の直接還元鉄に由来する金属及び半金属の総含有量に対して、
少なくとも93重量%の鉄、好ましくは少なくとも97.5重量%の鉄、
最大60ppmのAl、好ましくは最大40ppmのAl、
最大160ppmのCa、好ましくは最大140ppmのCa、
最大80ppmのMg、好ましくは最大60ppmのMg、
最大160ppmのMn、好ましくは最大145ppmのMn、
最大100ppmのSi、好ましくは最大90ppmのSi、
最大40ppmのTi、好ましくは最大35ppmのTi、及び
最大80ppm のV以下、好ましくは最大60ppmのV
を含む、鉄含有水溶液、鉄含有組成物又は鉄含有前駆体。
[項27]
項26に記載の前記鉄含有組成物又は鉄含有前駆体、及びリンを含む、鉄ホスファート含有組成物。
[項28]
項26に記載の前記鉄含有組成物又は鉄含有前駆体、リン及びリチウムを含む、リチウム鉄ホスファート電極材料。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【発明を実施するための形態】
【0009】
<鉄鉱石の金属鉄への還元>
直接還元鉄の製造に使用する鉄鉱石は、通常、望ましくない鉱物を除去するために、破砕ステップ及び分離プロセス、例えば磁気分離に供される。しかし、破砕され処理された鉄鉱石は不純物を含有する。
【0010】
本プロセスの供給材料は、鉄鉱石又は固体状の他の鉄保持材料を還元ガス又は元素状炭素によって鉄に直接還元することによって生成される、直接還元鉄を含む。直接還元鉄(DRI:Direct Reduced Iron)は、海綿鉄としても既知である。鉄鉱石は、塊、ペレット又は微粉の形態であってもよい。鉄鉱石は、炉内で例えば水素、炭化水素に富むガス、一酸化炭素又は元素状炭素の存在下で高温(例えば約800~1200℃)にて加熱される。直接還元は、鉄鉱石又は固体状態の他の鉄保持材料から酸素を除去することであり、すなわち、高温であるが鉄の融点未満での、鉄鉱石中に存在する酸化鉄を金属鉄に還元することを示す。直接還元中に形成された鉄材料は、海綿状材料、穿孔材料又は中空材料を提供する。鉄の直接還元に関与する化学反応は以下の通りである。
H2により
3Fe2O3+H2 → 2Fe3O4+H2O
Fe3O4+H2 → 3 FeO+H2O
FeO+H2 → Fe+H2O
COにより
3Fe2O3+CO →2Fe3O4+CO
Fe3O4+CO → 3 FeO+CO2
FeO+CO → Fe+CO2
反応中の固体炭素により
CO2+C → 2CO
【0011】
直接還元鉄が不純物として酸化鉄を含むことに留意されたい。さらに、不純物は、例えばニトリド、スルフィド、カーバイドから選択され得る。
【0012】
本発明の1つの目的は、
鉄含有化合物、鉄含有前駆体又は鉄含有水溶液を製造する方法であって、
-直接還元鉄を供給するステップ、
-直接還元鉄を有機酸及び/又は無機酸に溶解させ、溶解プロセスを通じて直接還元鉄の不溶性不純物が固体形態で維持される鉄含有水溶液を供給して、不溶性不純物が懸濁した鉄含有水溶液を得るステップ、
-前記不溶性不純物を鉄含有水溶液から分離して、精製鉄含有水溶液を得るステップ、及び
-例えば、前記精製鉄含有水溶液中に存在する溶媒を除去するために、場合により、前記精製鉄含有水溶液を例えば乾燥することによって固化して、鉄含有化合物又は鉄含有前駆体を供給するステップ
を含む、方法を提供することである。
【0013】
精製鉄含有水溶液は、不溶性不純物を本質的に含まなくてもよい。
【0014】
<鉄鉱石>
いかなる理論にも束縛されるものではないが、鉄鉱石の固体還元は、酸化鉄格子中に存在する強力な酸化物形成元素を、還元鉄の内部又はその粒子の表面上の別個の含有物に移動させると考えられる。したがって、いわゆる脈石元素は、固体還元中に使用される温度での還元プロセス中に金属元素に還元することができない、例えば酸化物、シリカート、アルミナート、スルフィド、ニトリド、カーバイドなどの別個の微粒子を形成する。
【0015】
直接還元鉄中の不純物は、以下の群に分類することができる。
1-酸化鉄及び鉄カーバイド。これらの不純物は、一般に金属鉄の製造プロセスに由来する。本プロセスでは、酸化鉄は難溶性であることが多く、鉄カーバイドは不溶性である。したがって、酸化物は本プロセス中に溶解され得るが、カーバイドは不溶性不純物と共に見出される。
2-例えば鉄又は他の金属、例えばニッケル、コバルト、銅などを含有するスピネル及び/又はペロブスカイト。本プロセスでは、スピネル及びペロブスカイト不純物は不溶性である。
3-鉄よりも強力な酸化物形成剤を含有する不純物。本プロセスでは、これらの不純物は不溶性である。
4-鉄よりも電気陰性である金属を含む不純物。本プロセスでは、これらの不純物は可溶性であり、本溶解プロセス後に水相中に見出され得る。
【0016】
直接還元鉄は、粒子、例えば粉末、すなわち、かなり粒径の小さい粒子として供給され得る。
【0017】
直接還元鉄は、好ましくは水素ガス、炭化水素ガス、炭素又はそれらの任意の組合せによって還元されていることに留意されたい。その化学反応は、本明細書で先に開示されている。還元剤としてカルシウム、マグネシウム又はケイ素を使用しないことが好ましい。上述のように、本明細書で使用する直接還元鉄は、鉄マトリックス全体に溶解しないが、構造中にクラスタとして存在するその不純物を有すると考えられる。したがって、鉄含有材料が溶解すると、不純物クラスタは固体としてまとまって、鉄含有溶液から分離され得る。
【0018】
直接還元鉄中に存在する不溶性不純物は、分離される前に、溶解した鉄含有水溶液中に粒子状物質として供給される。コスト及び装置上の制限の点で、従来の分離プロセスで小粒子の除去が可能な方法には制限があるため、いかなる分離の後にも、水溶液中に非常に微細な粒子状物質が存在し得ることに留意されたい。そのような粒子の例はコロイド粒子である。不溶性不純物は、酸化鉄などの酸化物、鉄カーバイドなどのカーバイド、ニトリド、CuS、Bi2S3、CdS、PbS、HgS、As2S3、Sb2S3及びSnS2などのスルフィド、シリカート、アルミナート、例えば鉄を含有するスピネル、例えば鉄を含有するペロブスカイト(perskovite)、鉄よりも強力な酸化物形成剤を含有する不純物、すなわち、アルミニウムなどの鉄よりも強い酸化物形成剤を含有する化合物、例えばニッケル、銅、コバルト、鉛、銀、白金及び金を含む化合物などの、鉄よりも電気陰性である金属、並びにそれらの任意の組合せから選択される化合物を含み得る。
【0019】
不溶性不純物は、好ましくは、単独で又は非金属と組み合わせて、例えば塩として、金属及び/又は半金属を含む化合物から生成される。本鉄含有化合物、鉄含有前駆体又は鉄含有水溶液中の不溶性不純物の含有量は、その金属及び半金属は直接還元鉄に由来する、その中の金属及び半金属の総含有量に基づく。
【0020】
不溶性不純物は、好ましくは、酸化物及び/又はカーバイドから選択され得る。このような酸化物及び/又はカーバイドとしては、例えば上述の製造プロセスから得られた酸化鉄及び/又はカーバイドが挙げられ得る。
【0021】
不溶性不純物は、アルミニウム、ヒ素、ビスマス、カルシウム、クロム、鉄、鉛、マグネシウム、マンガン、モリブデン、セレン、ニオブ、アンチモン、ケイ素、タンタル、チタン、タングステン、バナジウム、亜鉛、ジルコニウム、炭素、窒素、酸素、リン、硫黄又はそれらの任意の組合せを含み得る。不溶性鉄含有化合物は、上述のように、鉄含有カーバイド、スルフィド、アルミナート、例えばそのスピネル、シリカート、不溶性酸化物、例えばそのペロブスカイトから選択され得る。
【0022】
<金属鉄の溶解>
直接還元鉄の溶解中に、不溶性不純物の小さい別個の粒子が鉄から放出される。鉄が可溶性鉄イオン種に変換されるならば、これらの粒子状不純物を鉄含有溶液から分離することができる。
【0023】
この結果として、直接還元鉄源の製造に使用される鉄鉱石は、前述のリストの第4族の汚染物質を低レベルで、例えばNi、Cu、Coなどの遷移金属を低レベルで、及び貴金属を低レベルで維持する必要がある。これらの金属は鉄よりも電気陰性であり、還元プロセス中に粒子種を形成せず、したがって分離によって容易に除去されない。
【0024】
鉄含有溶液中の可溶性鉄イオン種は、第1鉄又は第2鉄イオン種及びその錯体からなることができる。これらの錯体は、溶解プロセスに使用される酸又は使用される他の添加剤に応じて、異なる構成を有し得る。
【0025】
溶解のための有機酸は、クエン酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、安息香酸、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸及びそれらの任意の組合せなどの化合物から選択され得る。好ましくは、クエン酸、酢酸及びそれらの任意の組合せが、溶解のための有機酸として使用される。
【0026】
溶解のための無機酸は、塩酸、塩素酸、過塩素酸、硫酸、亜硫酸、硝酸、亜硝酸、リン酸及びそれらの任意の組合せなどの化合物から選択され得る。好ましくは、リン酸、硝酸及びそれらの任意の組合せが、溶解のための無機酸として使用される。
【0027】
溶解後の鉄含有溶液のpHは、最大4.5、例えば最大4.2、最で4.0又は最大3.8であり得る。
【0028】
直接還元鉄は、約30分~5時間、例えば1~4時間、1~3時間又は1~2時間の期間にわたって、溶解のために有機酸及び/又は無機酸と接触させてもよい。
【0029】
溶解ステップ中の温度は、約25~100℃、例えば30~80℃、30~70℃、30~65℃又は40~55℃であり得る。
【0030】
金属鉄の可溶性第1鉄又は第2鉄イオンへの酸化を促進するために、溶解ステップに酸素が供給され得る。供給される酸素は、分子状酸素又はオゾンであり得る。酸素は、例えば空気、オゾン及び/又は酸素ガスでパージすることによって、空気、オゾン、酸素ガス又はそれらの任意の組合せとしてプロセスに供給され得る。酸素は、連続的又は断続的に、好ましくは連続的に供給され得る。酸素は溶解ステップを補助及び改善する。
【0031】
前記溶解ステップに酸化剤が添加され得る。これは、溶解に空気、オゾン及び/又は酸素ガスを供給することに加えて行われ得る。過酸化水素は、酸化剤として前記溶解ステップに添加され得る。過酸化水素などの酸化剤の添加は、単回投与添加、間欠添加又は連続添加として行われ得る。
【0032】
プロセスの最適化
溶解速度は温度と共に一定のレベルまで上昇するが、不溶性の鉄系種が形成され、鉄の表面の不動態化を引き起こし、したがって溶解の終了が引き起こされ得る。
【0033】
存在する溶解ガスが溶解速度及び溶解鉄種の性質に重大な影響を及ぼすことが見出されたのは、驚くべきことであった。具体的には、分子状酸素などの酸素を溶液に導入すると、溶解速度及び形成された鉄種の溶解度の両方が大幅に増大する。いかなる理論にも束縛されるものではないが、酸素は溶解反応に関与し、安定な水溶性鉄-オキソ錯体を形成すると考えられる。
【0034】
酸素は、激しい空気バブリングによって、又は酸素及び/又はオゾンの導入によって導入することができる。
【0035】
溶解プロセスに影響を及ぼす別の重要な種は過酸化水素である。溶解プロセス中にこれを溶液に添加すると、溶解速度が上昇する。
【0036】
溶解ステップは、温度制御手段を備え得る。溶解ステップは、鉄の溶解が発熱性であり、望ましくない副反応が好ましくは回避されるため、安定した溶解を促進するために行われ得る。冷却装置を使用して、溶解プロセスから過剰な熱が除去され得る。
【0037】
<分離>
直接還元鉄の溶解反応の完了時に、得られた溶液を分離段階に供し、分離段階では未溶解の微粒子不純物を除去する。
【0038】
分離は、デカント、沈降、濾過、遠心分離、浮選又はそれらの任意の組合せを使用して行われ得る。分離は、デカンタ、遠心分離機、フィルタプレス若しくは吸引フィルタなどのフィルタ装置、又はそれらの任意の組合せを使用して行われ得る。そのような分離プロセスの例は、場合により吸引などによって促進される、沈降又は遠心分離、それに続くデカンテーション及び/又は濾過である。分離前に好適な清澄剤を添加して粒子状物質を凝集させ、それにより形成されたより粗い物質による分離を促進することができる。
【0039】
分離後に供給される精製鉄含有水溶液、鉄含有化合物又は鉄含有前駆体は、高純度であると考えられる。鉄含有水溶液の高純度とは、本明細書において、直接還元鉄に由来する、その中の金属及び半金属の総含有量に対して、少なくとも90%、例えば少なくとも93%、少なくとも97.5%、少なくとも99%、少なくとも99.5%又は少なくとも99.9%の鉄含有量を意味する。鉄含有量は、主に、直接還元鉄に由来する、その中の溶存金属及び半金属含有量に基づく。しかし、前述のように、分離プロセスの制限により、例えばコロイド粒子などの非常に微細な粒子状物質が精製鉄含有水溶液中に存在し得て、そのような微粒子は溶液中に溶解するかのように測定され得る。鉄含有化合物又は鉄含有前駆体はまた、直接還元鉄に由来する、その中の金属及び半金属の総含有量に対して、少なくとも90%、例えば少なくとも93%、少なくとも97.5%、少なくとも99%、少なくとも99.5%又は少なくとも99.9%の鉄含有量を有し得る。ここでの鉄含有量は、水、酸又は任意の添加された炭素、酸素、水素に由来するいずれの鉄も含まない。ここでの鉄含有量には、リンに由来するいずれの鉄及び/又は電池グレード材料、例えばLiイオンカソード電池材料の製造プロセス中に添加され得るリチウムに由来するいずれの鉄も含まれない。
【0040】
精製鉄含有水溶液は、不溶性不純物を本質的に含まないと考えられ得る。供給される精製鉄含有水溶液、鉄含有化合物又は鉄含有前駆体は、800ppm以下、600ppm以下、400ppm以下、又は300ppm以下などの1000ppm以下の量の不溶性不純物を含有し得て、これらの不純物は直接還元鉄に由来する。不溶性不純物の含有量は、直接還元鉄に由来するその中の金属及び半金属の総含有量に基づき得る。
【0041】
<前洗浄>
洗浄
直接還元鉄は、溶解ステップの前に、直接還元鉄の可溶性及び/又は分散性表面不純物が溶解及び/又は懸濁され、除去される、洗浄ステップに供され得る。洗浄ステップは、直接還元鉄粒子上に存在する可溶性及び/又は分散性表面不純物を、使用する洗浄液によって溶解及び/又は懸濁させ、したがって除去可能にする。直接還元鉄の表面に存在する不純物は、カルシウム及びケイ素をかなりの程度含有すると考えられる。カルシウム含有不純物は、水溶性又は酸性条件下で可溶性であり得る。洗浄ステップを行うことにより、鉄含有粒子の表面の不純物が除去され得る。そのため、溶解ステップ前に不純物の含有量が低下され得る。洗浄ステップは、直接還元鉄を希酸、例えば希有機酸及び/又は無機酸に供することを含み得る。洗浄のための希有機酸は、クエン酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、安息香酸、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸及びそれらの任意の組合せからなる群から選択され得る。洗浄のための希無機酸は、塩酸、塩素酸、過塩素酸、硫酸、亜硫酸、硝酸、亜硝酸、リン酸及びそれらの任意の組合せからなる群から選択され得る。好ましくは、希釈形態の希リン酸及び/又はクエン酸が洗浄ステップに使用される。提供される希酸は、1~25重量%、例えば1~20重量%、2~15重量%又は3~10重量%の濃度を有し得る。直接還元鉄は、1~20分間、例えば2~15分間又は3~10分間にわたって希酸と接触され得る。希酸のpHは、1~3又は1~2であり得る。
【0042】
洗浄ステップ中の直接還元鉄の溶解及び/又は懸濁した表面不純物は、前記洗浄ステップに含まれる分離ステップによって除去され得る。分離ステップは、デカンテーション、濾過、遠心分離及びそれらの任意の組合せから選択され得る。
【0043】
洗浄ステップは、希酸洗浄及び任意の分離とは別に、水でさらに洗浄することを含み得る。洗浄された直接還元鉄は、溶解ステップの前に水でさらに洗浄され得る。水による洗浄は、純水、例えば脱イオン水又は蒸留水を用いて行われ得る。
【0044】
<添加剤>
本精製鉄含有水溶液は、ホスファート含有化合物、場合によりリチウム含有化合物、例えばリン酸、水酸化リチウムをそれぞれさらに供給され得る。ホスファート含有化合物、及び場合によりリチウム含有化合物、例えばそれぞれリン酸及び水酸化リチウムを精製鉄含有水溶液と混合すると、単純混合物が供給される。特定の沈殿が開始又は形成されず、成分が単に水溶液混合物中に共存することに留意されたい。さらに、鉄含有水溶液に追加の炭素源が場合により添加され得る。
【0045】
<乾燥及び熱処理>
精製鉄含有水溶液、ホスファート含有化合物、及び任意にリチウム含有化合物、例えばそれぞれリン酸及び水酸化リチウム、及び場合により追加の炭素源を含む混合物は、固化ステップに供されて、鉄含有化合物又は鉄含有前駆体が得られ得る。したがって、前記鉄含有化合物又は鉄含有前駆体は、場合によりリン及びリチウムをさらに含有し得る。鉄含有化合物又は鉄含有前駆体は、リン及びリチウムに加えて、追加の炭素源も含有し得る。
【0046】
固化ステップは、リチウム含有化合物がプロセスで使用されたか否かに応じて、鉄含有化合物又は鉄含有前駆体、より具体的には鉄ホスファート含有化合物、好ましくはFePO4又はリチウム鉄ホスファート含有化合物、好ましくはLiFePO4を得るために、水溶液混合物を噴霧乾燥、凍結乾燥又は真空乾燥などの乾燥によって行われ得る。鉄含有化合物若しくは前駆体、より具体的には鉄ホスファート含有化合物若しくは前駆体、又はリチウム鉄ホスファート含有化合物若しくは前駆体を熱処理に供して、例えば電池製造に好適な電極材料に使用され得る添加物に応じて、鉄含有化合物、より具体的には鉄ホスファート含有化合物又はリチウム鉄ホスファート含有化合物が得られ得る。ホスファート含有化合物及びリチウム含有化合物の両方を含有する場合、鉄含有化合物又は鉄含有前駆体は、乾燥され得て、その後、熱処理され得る。
【0047】
本方法による熱処理は、500~850℃、例えば600~700℃の温度で実施されて、鉄含有化合物、例えば鉄ホスファート鉄化合物又はリチウム鉄ホスファート化合物が供給され得る。鉄含有化合物は、電気化学的に活性な状態及び構造で得られる。場合により、噴霧熱分解を使用することができ、噴霧熱分解では熱処理は、噴霧乾燥ステップ時に直接及び連続的に行われる。したがって、噴霧熱分解は、噴霧乾燥と熱処理との組合せである。
【0048】
鉄含有化合物、例えば鉄ホスファート化合物又はリチウム鉄ホスファート化合物は、炭素コーティングされ得る。炭素コーティングは、例えばリチウムイオン電池などの電池製造に使用される場合に有益である。
【0049】
本発明の1つの目的は、Liイオン電池に使用され得る、リチウム鉄ホスファート電極材料の製造における、本方法によって得られた鉄含有化合物、鉄含有前駆体又は鉄含有水溶液の使用を提供することである。
【0050】
本発明の1つの目的は、鉄含有水溶液、鉄含有組成物又は鉄含有前駆体であって、その中の直接還元鉄に由来する金属及び半金属の総含有量に対して
少なくとも93重量%の鉄、好ましくは少なくとも97.5重量%の鉄、好ましくは少なくとも99%、好ましくは少なくとも99.5%、好ましくは少なくとも99.9%の鉄、
最大60ppmのAl、好ましくは最大40ppmのAl、
最大160ppmのCa、好ましくは最大140ppmのCa、
最大80ppmのMg、好ましくは最大60ppmのMg、
最大160ppmのMn、好ましくは最大145ppmのMn、
最大100ppmのSi、好ましくは最大90ppmのSi、
最大40ppmのTi、好ましくは最大35ppmのTi及び
最大80ppmのV、好ましくは最大60ppmのV
を含む、鉄含有水溶液、鉄含有組成物又は鉄含有前駆体を提供することである。
【0051】
本発明の鉄含有水溶液、鉄含有組成物又は鉄含有前駆体は、金属及び半金属を含む。金属及び半金属は、直接還元鉄に由来するその中の金属及び半金属の総含有量に対して、少なくとも0.01ppm又は少なくとも0.1ppmの量のAl、Ca、Mg、Mn、Si、Ti及びVを含み得る。金属及び半金属を含む不純物は、直接還元鉄に由来する、その中の金属及び半金属の総含有量に対して、約0.01~60ppmのAl、例えば0.01~40ppm又は0.1~40ppmのAl、0.01~160ppmのCa、例えば0.01~140ppm又は0.1~140ppmのCa、0.01~80ppmのMg、例えば0.01~60ppm又は0.1~60ppmのMg、0.01~160ppmのMn、例えば0.01~145ppm又は0.1~145ppmのMn、0.01~100ppmのSi、例えば0.01~90ppm又は0.1~90ppmのSi、0.01~40ppmのTi、例えば0.01~35ppm又は0.1~35ppmのTi、0.01~80ppmのV、例えば0.01~60ppm又は0.1~460ppmのV、の量で存在し得る。
【0052】
本発明の1つの目的は、前記鉄含有組成物、又は鉄含有前駆体、及びリンを含む、鉄ホスファート含有組成物を提供することである。
【0053】
本発明の1つの目的は、前記鉄含有組成物、又は鉄含有前駆体、リン及びリチウムを含む、リチウム鉄ホスファート電極材料を提供することである。リチウム鉄ホスファート電極材料は、追加の炭素源をさらに含み得る。
【0054】
リチウム鉄ホスファート電極材料は、電池製造に使用され得る。
【0055】
図1に、本プロセスの概略図を示す。ステップ1において、還元鉄粉を供給する。ステップ2において、プロセスは、場合により、粉末表面を希酸溶液で洗浄して、可溶性及び/又は分散性不純物を除去することを含み得る。ステップ3において、還元鉄粉を、場合により分子状酸素及び/又は過酸化水素を酸溶液に供給しながら、有機酸及び/又は無機酸を含有する溶液に溶解させる。ステップ4において、不溶性不純物を、例えば濾過によって鉄含有溶液から除去する。ステップ5において、プロセスは、ホスファート含有化合物及び場合によりリチウム含有化合物の添加を含有し得る。さらに、炭素源が添加され得る。ステップ6において、プロセスは、溶媒の除去によって、例えば噴霧乾燥などの乾燥によって、鉄含有前駆体又は鉄含有化合物を形成することをさらに含み得る。ステップ7において、プロセスは、ホスファート及びリチウム、並びに場合により炭素含有化合物を備える材料を熱処理して、鉄含有化合物を供給することをさらに含み得る。
【実施例】
【0056】
<還元鉄粉の酸性洗浄>
洗浄試験を行って、還元鉄粉(本明細書では、Hoganas ABから入手可能な還元鉄粉NC 100.24を使用して例示)の表面に付着した可溶性及び/又は分散性不純物の含有量を低減させた。一種の化学スラグ除去が本明細書で提供される。
【0057】
一例において、8%希リン酸水溶液を洗浄液として使用した。このリン酸溶液450gに、粉末として供給された還元鉄50gを添加して、10分間撹拌した。次いで、吸引濾過によって粉末から溶液を除去し、連続撹拌下で蒸留水100gを粉末に添加した。2分後、吸引濾過によって水を除去し、再び同様に粉末試料を水で洗浄した。最後に、粉末を除去し、80℃の真空条件下で乾燥させた。
【0058】
誘導伝導プラズマ発光分光法(ICP-OES)を使用して元素分析を行うことにより、不純物に関する分析のために還元鉄粉の試料を採取し、試験結果を表1に示す。試料番号4は、得られた還元鉄粉と同様に、本発明によるいかなる処理(洗浄、溶解、濾過)にも供していない還元鉄粉(NC 100.24)を開示している。試料7は、上で説明したように希酸及び水で洗浄した還元鉄粉を開示している。表1の結果から、表に示した全ての測定元素の含有量が低下し、特にCa含有量が61%低下したことが分かる。この希酸及び水による洗浄によって、粉末表面の、すなわち粉末粒子の表面に存在する、可溶性及び/又は分散性不純物が除去される。
【0059】
<還元鉄の溶解及び濾過>
鉄粉の溶解は、最初に、脱イオン水560ml中に1:1モル比のクエン酸及び酢酸又は無水クエン酸61.9g及び氷酢酸21.5gを含有する酸溶液を調製することによって行った。酸性溶液に還元鉄粉(NC 100.24、Hoganas AB)30gを添加して、溶液を激しく撹拌した。激しい空気バブリングにより、酸素を溶液中に導入した。温度を約20℃に安定させた後、過酸化水素(濃度:水中33重量%)7.5mlを3段階で溶液に添加した。1回目の添加は開始から2分後、2回目の添加は1回目の添加から10分後、3回目の添加は2回目の添加から10分後に行った。溶解反応中に、溶液のpHは、初期pH1.7から最終pH3.9まで着実に上昇し、最終pHではpHが安定して、還元鉄粉の溶解反応の完了を示した。また、温度は、溶解ステップ中に20℃から約40℃まで上昇した。温度の低下が開始すると、これは発熱性鉄溶解がもはや活性ではないことの指標である。全ての鉄が溶解したため、pHはゆっくり低下し、2.5~3.0で安定する。pHの低下は、任意の錯体も含む水溶性鉄含有化合物がその特性を変化させて、ゆっくりと安定化することを示している。溶液の目視検査により、全ての鉄粉粒子が溶解していることを確認した。溶解プロセスの開始から全ての粒子が溶解するまでの合計時間は、約150分であった。溶解をより高い処理温度で行うと、総時間が短縮され得る。好ましくは、溶液の温度は55℃を超えるべきではない。
【0060】
次いで、このように得られた鉄含有溶液を吸引濾過ユニットに移し、濾紙(1~2μmの開口部を有するMunktellグレードOOH)で濾過した。
【0061】
精製鉄含有水溶液に、オルトリン酸(85%)61.9g及び水酸化リチウム一水和物22.5gをさらに供給した。ホスファート及びリチウム含有化合物を精製鉄含有水溶液と混合すると、暗緑色から黒赤色がかった透明溶液がもたらされ、特に沈殿は開始又は形成されない。
【0062】
その後、濾過した鉄溶液を噴霧乾燥し、次いで不純物含有量を求める試料のICP-OES分析を容易にするために、得られた噴霧乾燥粉末を窒素雰囲気中750℃で3時間熱処理して、使用したクエン酸及び酢酸から大半の炭素を熱分解して除去した。このように処理した試料が、表1の試料番号9である。
【0063】
同じ噴霧乾燥及び熱処理手順を他の2つの溶液に使用した。溶解前に希酸及び水で洗浄せず、噴霧乾燥及び熱処理ステップの前に溶液を濾過しなかった還元鉄粉から作製した、1つの試料(試料番号5)。溶解前に希リン酸溶液及び水で洗浄し、得られた溶液を噴霧乾燥及び熱処理ステップの前に濾過しなかった還元鉄粉から作製した、別の試料(試料番号8)。
【0064】
表1の試料5と8との比較は、不純物含有量に対する溶解前の還元鉄粉の洗浄の効果を示す。これは、未洗浄の及び洗浄した未溶解の還元鉄粉(すなわち、それぞれ試料4及び7)の結果と比較することができ、同様の傾向が明らかとなる。
【0065】
表1で試料9として示す、洗浄還元鉄粉の溶解から得られた溶液を濾過することによって、さらなる改善を行った。この場合、不純物含有量は、報告された不純物のうちの3つについて、ICP-OES分析装置の検出限界に近いか又は検出限界を下回っている。不純物を含有するCaの場合、含有量は元の含有量の840%低下し、すなわち1/8に低下した。したがって、酸性溶液への溶解と組み合わせた還元鉄粉の希酸洗浄とその後の濾過との組合せが、低コストで高純度の鉄含有溶液、並びに低コストで高純度の又は純粋な鉄含有化合物及び低コストで高純度の鉄含有前駆体を提供するための、非常に効率的な方法であることは明らかである。表1の試料6と9との比較は、不純物含有量に対する溶解前の還元鉄粉の洗浄の効果を示す。試料5及び8とは対照的に、噴霧乾燥及び熱処理ステップの前に試料6及び9を濾過した。
【0066】
<鉄鉱石の溶解及び濾過>
比較例として、鉄鉱石の粉末試料、マグネタイト(主にFe3O4)を塩酸(HCl)に溶解した。比較しやすくするために、試験に使用したマグネタイトは、他の例で還元鉄の製造に使用した原料と同様のタイプであった。Fe3O4は、その製造中に既に水系洗浄処理に供したため、これらの試験から酸性洗浄ステップを省略した。
【0067】
37% HCl 10gおよび蒸留水2.7gの溶液をビーカー内で混合し、激しく撹拌しながらマグネタイト1.0gを添加した。溶解プロセスを通して溶液を70℃に維持した。60分後、試料が完全に溶解したら、得られた鉄含有溶液を濾過していずれの不溶性不純物も除去した。さらなる比較のために、最終濾過段階なしで同様の試料を調製した。最後に、ICP-OESを使用して、未溶解マグネタイト(表1の試料1)、溶解及び未濾過マグネタイト(試料2)並びに溶解及び濾過マグネタイト(試料3)の両方を、不純物含有量について分析した。結果から、溶解プロセスは不純物含有量に有意に影響しないことが分かる。また、溶解後の溶液の濾過は、不純物含有量をわずかに減少させるだけであり、場合により不純物含有量を変化させないことさえある。これは、鉄鉱石において、不純物が溶解中に固体粒子を形成しないような状態にあり、提案された方法の使用により除去が困難であることか、又は除去できないことさえ意味している。
【0068】
<水アトマイズ鉄粉の溶解及び濾過>
比較のために、アトマイズ鉄粉の試料を本発明と同様の処理に供した。第1の市販の水アトマイズ鉄粉(試料12及び13)(AHC 100.29、Hoganas AB)並びにより高純度の水アトマイズ鉄粉である、第2の市販の水アトマイズ鉄粉(試料10及び11)(ABC 100.30、Hoganas AB)の両方に試験を行った。さらに、業界において入手可能で許容されている材料を代表して、市販のLFP材料(台湾で製造)(試料14)に試験を行った。アトマイズ鉄粉は、還元鉄粒子と比較してより高密度の粒子を供給する。また、アトマイズ鉄粉は、酸に溶解すると粉末の不動態化のリスクが高くなる。これらの粉末は、粒子の表面に供給される、又は鉄構造内にクラスタとして含まれる不純物を有するとは考えられない。不純物は粒界により多く分布し、さらには鉄の結晶構造中に包含されると考えられる。したがって、アトマイズ粉末は、洗浄及び/又は溶解がより困難であることが多く、高純度製品を製造するための原料としてのコストもより高い。
【0069】
【0070】
直接還元鉄を使用することは、本方法にとって重要である。材料をアトマイズ鉄粉を用いて行った試験と比較すると、アトマイズ鉄粉は、前述の第4族として開示した、鉄よりも電気陰性度の高い金属を含有する不純物の含有量がはるかに高い。表2を参照されたい(Co、Cu、Ni)。アトマイズ粉末はまた、Mn(表1参照)及びCr(表2参照)を考慮すると、かなりより高い不純物含有量を示している。本プロセスでは、これらの不純物は可溶性であり、本溶解プロセス後に水相中に見出され得る。そのため、アトマイズ鉄粉を用いても得るものはない。
【0071】