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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-09
(45)【発行日】2024-08-20
(54)【発明の名称】減圧乾燥装置
(51)【国際特許分類】
   F26B 5/04 20060101AFI20240813BHJP
【FI】
F26B5/04
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022109686
(22)【出願日】2022-07-07
(65)【公開番号】P2024008110
(43)【公開日】2024-01-19
【審査請求日】2023-04-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】北村 翔也
【審査官】岩瀬 昌治
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-153369(JP,A)
【文献】国際公開第2011/030607(WO,A1)
【文献】特開2004-233912(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F26B 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上面に形成された塗布膜を乾燥させる減圧乾燥装置であって、
前記基板を収容するチャンバと、
前記チャンバ内において前記基板を下方から支持する複数の支持ピンと、
前記チャンバ内の気体を排出する排気部と
を備え、
前記複数の支持ピンは、1つ以上の第1支持ピンと、前記第1支持ピンよりも細い1つ以上の第2支持ピンとを含み、
前記第1支持ピンのうちの少なくとも一つは、前記基板のうちの周縁領域を下方から支持し、
前記第2支持ピンのうちの少なくとも一つは、前記基板の前記周縁領域よりも内側の内側領域のうち、前記塗布膜が形成された領域を下方から支持し、
前記第1支持ピンは等幅の第1柱部を含み、前記第2支持ピンは等幅の第2柱部を含み、
前記第1柱部の幅と前記第2柱部の幅との差は0.5mm以上あり、
前記第2柱部が前記第2支持ピンに対して上下方向で占める割合は、前記第2支持ピンのうちの他の部分が占める割合に比べて最も大きい、減圧乾燥装置。
【請求項2】
基板の上面に形成された塗布膜を乾燥させる減圧乾燥装置であって、
前記基板を収容するチャンバと、
前記チャンバ内において前記基板を下方から支持する複数の支持ピンと、
前記チャンバ内の気体を排出する排気部と
を備え、
前記複数の支持ピンは、複数の第1支持ピンと、前記複数の第1支持ピンよりも細い複数の第2支持ピンとを含み、
前記複数の第1支持ピンは、前記基板のうちの周縁領域を下方から支持し、
前記複数の第2支持ピンは、前記基板の前記周縁領域よりも内側の内側領域のうち、前記塗布膜が形成された領域を下方から支持し、
前記複数の第1支持ピンどうしのピッチは、前記複数の第2支持ピンどうしのピッチよりも広い、減圧乾燥装置。
【請求項3】
基板の上面に形成された塗布膜を乾燥させる減圧乾燥装置であって、
前記基板を収容するチャンバと、
前記チャンバ内において前記基板を下方から支持する複数の支持ピンと、
前記チャンバ内の気体を排出する排気部と
を備え、
前記複数の支持ピンは、1つ以上の第1支持ピンと、前記第1支持ピンよりも細い1つ以上の第2支持ピンとを含み、
前記第1支持ピンのうちの少なくとも一つは、前記基板のうちの周縁領域を下方から支持し、
前記第2支持ピンのうちの少なくとも一つは、前記基板の前記周縁領域よりも内側の内側領域のうち、前記塗布膜が形成された領域を下方から支持し、
前記第2支持ピンの熱伝導率は0.12W/m・K以下である、減圧乾燥装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一つに記載の減圧乾燥装置であって、
前記基板の前記内側領域は前記第2支持ピンのみによって支持される、減圧乾燥装置。
【請求項5】
請求項1から請求項3のいずれか一つに記載の減圧乾燥装置であって、
前記第1支持ピンのうちの少なくとも他の一つは、前記基板の前記内側領域のうち前記塗布膜が形成された前記領域以外の領域を支持する、減圧乾燥装置。
【請求項6】
請求項1から請求項3のいずれか一つに記載の減圧乾燥装置であって、
前記第1支持ピンと前記基板との接触面積は、前記第2支持ピンと前記基板との接触面積よりも広い、減圧乾燥装置。
【請求項7】
請求項1から請求項3のいずれか一つに記載の減圧乾燥装置であって、
前記第2支持ピンは多孔質樹脂によって形成されている、減圧乾燥装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、減圧乾燥装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、各種の基板に塗布されたフォトレジスト等の塗布膜を減圧乾燥する減圧乾燥装置が知られている。各種の基板には、例えば、各種のデバイスを形成するためのガラス基板、セラミック基板、半導体ウエハ、電子デバイス基板または印刷用の印刷版等の種々の基板が適用される。各種のデバイスには、例えば、半導体装置、表示パネル、太陽電池パネル、磁気ディスク、または光ディスク等が適用される。表示パネルには、例えば、液晶表示パネル、有機エレクトロルミネッセンス(EL)表示パネル、プラズマ表示パネル、または電界放出ディスプレイ等が適用される。
【0003】
減圧乾燥装置を用いて塗布膜を乾燥する際には、例えば、チャンバ内において複数のピンが基板を支持している状態で、チャンバの底部の排気口を介して真空ポンプでチャンバ内から排気を行う。そして、例えば、真空度が所定値に到達するとチャンバ内からの排気を停止し、チャンバ内にガスを供給することでチャンバ内を大気圧に戻す。ガスには、例えば、窒素ガス等の不活性ガスまたは空気等が適用される。
【0004】
ところで、減圧乾燥装置では、例えば、基板の上面に形成された塗布膜において、場所に応じて乾燥速度が違っていれば、その乾燥速度の違いに応じた乾燥のムラ(乾燥ムラともいう)が生じ得る。乾燥ムラは、例えば、乾燥後の塗布膜における厚さのばらつき等を生じさせる。
【0005】
例えば、基板において、複数のピンの接触により、複数のピンによって支持されている部分とその周辺の部分との間に温度差が生じ得る。これにより、例えば、複数のピンに起因する温度差に応じて、塗布膜の乾燥速度に違いが生じ得る。その結果、例えば、塗布膜において複数のピンの配置に応じた乾燥ムラが生じ得る。ここでは、例えば、塗布膜の減圧乾燥時には、塗布膜から溶媒等が気化する際に生じる気化熱によって基板の温度が低下するものの、複数のピンの熱容量が大きい場合にも、複数のピンが熱容量の大きなチャンバ等に連結されている場合にも、複数のピンの温度が変化し難い。このため、例えば、基板において複数のピンの配置に応じた温度差が生じ得る。
【0006】
特許文献1には、基板を支持する複数のピンを、内部空間内の流体が排出されることで冷却される中空ピン、あるいは内部空間内に冷却水等の液体が供給されることで冷却される中空ピンとすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第6579773号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に係る減圧乾燥装置では、装置構成が複雑になり装置価格が高くなることにつながる。また、例えば、中空ピンに冷却水を供給する構成では、冷却水の漏れによって、チャンバ内の真空状態に悪影響を及ぼす場合も考えられる。
【0009】
本開示は、上記課題に鑑みてなされたものであり、塗布膜に対する乾燥ムラの発生を抑制する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の態様は、基板の上面に形成された塗布膜を乾燥させる減圧乾燥装置であって、前記基板を収容するチャンバと、前記チャンバ内において前記基板を下方から支持する複数の支持ピンと、前記チャンバ内の気体を排出する排気部とを備え、前記複数の支持ピンは、1つ以上の第1支持ピンと、前記第1支持ピンよりも細い1つ以上の第2支持ピンとを含み、前記第1支持ピンのうちの少なくとも一つは、前記基板のうちの周縁領域を下方から支持し、前記第2支持ピンのうちの少なくとも一つは、前記基板の前記周縁領域よりも内側の内側領域のうち、前記塗布膜が形成された領域を下方から支持し、前記第1支持ピンは等幅の第1柱部を含み、前記第2支持ピンは等幅の第2柱部を含み、前記第1柱部の幅と前記第2柱部の幅との差は0.5mm以上あり、前記第2柱部が前記第2支持ピンに対して上下方向で占める割合は、前記第2支持ピンのうちの他の部分が占める割合に比べて最も大きい
第2の態様は、基板の上面に形成された塗布膜を乾燥させる減圧乾燥装置であって、前記基板を収容するチャンバと、前記チャンバ内において前記基板を下方から支持する複数の支持ピンと、前記チャンバ内の気体を排出する排気部とを備え、前記複数の支持ピンは、複数の第1支持ピンと、前記複数の第1支持ピンよりも細い複数の第2支持ピンとを含み、前記複数の第1支持ピンは、前記基板のうちの周縁領域を下方から支持し、前記複数の第2支持ピンは、前記基板の前記周縁領域よりも内側の内側領域のうち、前記塗布膜が形成された領域を下方から支持し、前記複数の第1支持ピンどうしのピッチは、前記複数の第2支持ピンどうしのピッチよりも広い。
第3の態様は、基板の上面に形成された塗布膜を乾燥させる減圧乾燥装置であって、前記基板を収容するチャンバと、前記チャンバ内において前記基板を下方から支持する複数の支持ピンと、前記チャンバ内の気体を排出する排気部とを備え、前記複数の支持ピンは、1つ以上の第1支持ピンと、前記第1支持ピンよりも細い1つ以上の第2支持ピンとを含み、前記第1支持ピンのうちの少なくとも一つは、前記基板のうちの周縁領域を下方から支持し、前記第2支持ピンのうちの少なくとも一つは、前記基板の前記周縁領域よりも内側の内側領域のうち、前記塗布膜が形成された領域を下方から支持し、前記第2支持ピンの熱伝導率は0.12W/m・K以下である。
【0011】
の態様は、第1から第3のいずれか一つの態様にかかる減圧乾燥装置であって、前記基板の前記内側領域は前記第2支持ピンのみによって支持される。
【0012】
の態様は、第1から第4のいずれか一つの態様にかかる減圧乾燥装置であって、前記第1支持ピンのうちの少なくとも他の一つは、前記基板の前記内側領域のうち前記塗布膜が形成された前記領域以外の領域を支持する。
【0013】
の態様は、第1から第のいずれか一つの態様にかかる減圧乾燥装置であって、前記第1支持ピンと前記基板との接触面積は、前記第2支持ピンと前記基板との接触面積よりも広い。
【0016】
第7の態様は、第1から第6のいずれか一つの態様にかかる減圧乾燥装置であって、前記第2支持ピンは多孔質樹脂によって形成されている。
【発明の効果】
【0017】
第1の態様によれば、第2支持ピンのうちの少なくとも一つは、基板の内側領域のうち、塗布膜が形成された領域(以下、第1領域と呼ぶ)を下方から支持する。第2支持ピンは細いので、チャンバの減圧下で第2支持ピンの周囲で生じる上昇気流の発生量は小さい。このため、該上昇気流によって気体が第2支持ピンに沿って上昇して基板の第1領域の下面に局所的に供給されても、第1領域における温度分布のばらつきを招きにくい。そのため、第1領域上の塗布膜に対する乾燥ムラを抑制することができる。
第2の態様によれば、第1支持ピンの本数を低減させることができる。このため、減圧乾燥装置の製造コストを低減させることができる。また、支持ピンの交換作業の手間を低減させることができる。
第3の態様によれば、第2支持ピンと基板との間の熱の移動量を低減させることができ、塗布膜に対する乾燥ムラをさらに抑制することができる。
【0018】
の態様によれば、内側領域において、塗布膜が形成される領域の個数、形状および位置が変更されたとしても、該領域を第2支持ピンによって支持することができる。
【0019】
の態様によれば、基板をより強固に支持することができる。
【0020】
の態様によれば、第1支持ピンに対する基板の水平方向のずれ量を抑制することができる。一方、第2支持ピンと基板との間の熱の移動量を低減させることができ、塗布膜に対する乾燥ムラをさらに抑制することができる。
【0022】
7の態様によれば、第2支持ピンと基板との間の熱の移動量を低減させることができ、塗布膜に対する乾燥ムラをさらに抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、一実施形態に係る減圧乾燥装置の縦断面の一例を示す図である。
図2図2は、一実施形態に係る減圧乾燥装置の横断面の一例を示す図である。
図3図3は、一実施形態に係る減圧乾燥装置の縦断面の一例を示す図である。
図4図4は、基板の一例を示す斜視図である。
図5図5は、基板の一部分の縦断面の一例を示す図である。
図6図6は、第1支持ピンの外観の一例を示す正面図である。
図7図7は、第2支持ピンの外観の一例を示す正面図である。
図8図8は、基板の塗布領域と第1支持ピンおよび第2支持ピンとの関係の第1例を示す図である。
図9図9は、減圧下でのチャンバ内の気流の一例を模式的に示す図である。
図10図10は、制御部において実現される機能を概念的に示したブロック図である。
図11図11は、一実施形態に係る減圧乾燥処理の流れの一例を示す流れ図である。
図12図12は、基板の塗布領域と第1支持ピンおよび第2支持ピンとの関係の第2例を示す図である。
図13図13は、基板の塗布領域と第1支持ピンおよび第2支持ピンとの関係の第3例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本開示の一実施形態および各種変形例について、図面を参照しつつ説明する。図面においては同様な構成および機能を有する部分については同じ符号が付されており、下記説明では重複説明が省略される。図面は模式的に示されたものであり、各図における各種構造のサイズおよび位置関係等は正確に図示されたものではない。また、本明細書において、下方向は、重力方向であり、上方向は、重力方向とは逆の方向である。
【0025】
<1.減圧乾燥装置の構成>
図1は、一実施形態に係る減圧乾燥装置1の縦断面の一例を模式的に示す図である。図2は、一実施形態に係る減圧乾燥装置1の横断面の一例を模式的に示す図である。図3は、一実施形態に係る減圧乾燥装置1の縦断面の一例を模式的に示す図である。図1の縦断面と図3の縦断面とは、約90度異なる方向からそれぞれ見たときの減圧乾燥装置1の構成を示している。図3では、図面の煩雑化を避けるために、後述する排気部30、給気部60、圧力計70および制御部80に関する構成が便宜的に省略されている。減圧乾燥装置1は、基板9の上面に形成された塗布膜90(図5参照)を乾燥させる装置である。
【0026】
基板9には、例えば、ガラス基板、半導体ウエハ、またはセラミック基板等が適用される。基板9は、例えば、第1主面としての第1面F1(図4および図5参照)と、この第1面F1とは逆の第2主面としての第2面F2(図5参照)と、を有する平板状の基板である。例えば、減圧乾燥装置1では、基板9の第1面F1が基板9の上面とされ、基板9の第2面F2が基板9の下面とされる。ここでは、基板9に矩形のガラス基板が適用された具体例を適宜挙げて説明する。基板9の第1面F1には、例えば、予め有機材料および溶媒を含む処理液が塗布されることで、塗布膜90が部分的に形成されている。処理液の塗布は、例えば、スリットコータまたはインクジェット装置等で行われる。処理液には、例えば、ポリイミド前駆体と溶媒とを含む液(PI液ともいう)またはレジスト液等の塗布液が適用される。ポリイミド前駆体には、例えば、ポリアミド酸(ポリアミック酸)等が適用される。溶媒には、例えば、NMP(N-メチル-2-ピロリドン:N-Methyl-2-Pyrrolidone)が適用される。また、例えば、減圧乾燥装置1が有機ELディスプレイの製造工程に適用される場合には、塗布膜90が、減圧乾燥装置1で乾燥されることによって有機ELディスプレイパネルの正孔注入層、正孔輸送層、または発光層となる態様が採用されてもよい。
【0027】
図4は、基板9の一例を示す斜視図である。図5は、基板9の一部分の縦断面の一例を示す図である。図4で示されるように、基板9は、例えば、上面視において、縦横の長さが異なる長方形状の形態を有する。基板9には、デバイス等が形成される領域(被形成領域とも塗布領域ともいう)A1が、複数配列されている。図4の例では、上面視において、基板9には、4つの矩形状の塗布領域A1が、2行2列のマトリックス状に配列されている。ただし、塗布領域A1の形状、数、配置は、この例に限定されるものではない。塗布膜90は、減圧乾燥装置1による減圧乾燥工程よりも前の塗布工程において、スリットコータまたはインクジェット装置等によって、各塗布領域A1の上面に、所望のパターンに従って形成される。所望のパターンには、例えば、回路のパターンが適用される。ここでは、例えば、図5で示されるように、各塗布領域A1の上面としての第1面F1は、塗布膜90に覆われた領域(被覆領域ともいう)A3と、塗布膜90に覆われていない露出した領域(露出領域ともいう)A4と、を有する。また、基板9のうちの塗布領域A1の周囲および隣り合う塗布領域A1の間の領域は、上面としての第1面F1に塗布膜90が形成されていない領域(非塗布領域ともいう)A2となっている。非塗布領域A2は、塗布膜90に覆われていない露出した領域(露出領域)A4でもある。
【0028】
図4の例では、基板9のうちの周縁領域B1および内側領域B2も示されている。基板9の周縁領域B1は、基板9の外周部(つまり側面)9opから所定幅だけ内側の枠状の領域である。所定幅は例えば100mm程度以下である。ここでは、基板9の周縁領域B1は非塗布領域A2の一部に該当する。つまり、基板9の周縁領域B1の上面には、デバイスが形成されず、ここでは塗布膜90も形成されていない。基板9の内側領域B2は、基板9のうちの周縁領域B1よりも内側の領域である。基板9の周縁領域B1と内側領域B2との境界B3は例えば矩形状の形状を有している。ここでは、基板9の内側領域B2は、複数の塗布領域A1と、複数の塗布領域A1の間の領域(図4では、十字状の非塗布領域A2)とを含んでいる。内側領域B2は例えば上面視において長方形状を有する。
【0029】
<<減圧乾燥装置の構成の概要>>
まず減圧乾燥装置1の構成について概説する。図1および図2で示されるように、減圧乾燥装置1は、例えば、チャンバ10と、支持部20と、排気部30と、を備えている。チャンバ10は、基板9を収容するための部分である。支持部20はチャンバ10内に設けられており、基板9を水平姿勢で支持する。ここでいう水平姿勢とは、基板9の厚み方向が上下方向に沿う姿勢である。排気部30はチャンバ10内の気体を外部に排出し、チャンバ10内の気圧を低下させる。この気圧の低下によって、塗布膜90の溶剤が蒸発して塗布膜90が乾燥する。
【0030】
また、図1および図2の例では、減圧乾燥装置1は、昇降部100と、給気部60と、制御部80と、底面整流板40と、側面整流板50と、圧力計70と、を備えている。昇降部100は支持部20を昇降させる。これにより、支持部20によって支持された基板9もチャンバ10内において昇降する。給気部60はチャンバ10内に気体を供給する。これにより、チャンバ10内の気圧を大気圧に戻すことができる。底面整流板40および側面整流板50はチャンバ10内に設けられており、チャンバ10内の気流を整える。圧力計70はチャンバ10内の気圧を計測し、その計測結果を示す電気信号を制御部80に出力する。制御部80は上述の減圧乾燥装置1の各種構成を制御する。例えば、制御部80は、圧力計70によって計測された気圧に基づいて排気部30を制御して、チャンバ10内の気圧を目標気圧に調整する。
【0031】
次に、減圧乾燥装置1の各構成の詳細な一例について述べる。
【0032】
<<チャンバ10>>
チャンバ10は、基板9を収容するための部分である。チャンバ10には、基板9を収容するための内部空間10sを有する耐圧容器が適用される。チャンバ10は、例えば、図示を省略した装置フレーム上に固定されている。チャンバ10の形状は、例えば、扁平な直方体状である。チャンバ10は、例えば、略正方形状の底板部11と、4つの側壁部12と、略正方形状の天板部13と、を有する。4つの側壁部12は、例えば、底板部11の4つの端辺と、天板部13の4つの端辺とを、上下方向に接続している。例えば、4つの側壁部12のうちの1つの側壁部12には、搬入出口14と、この搬入出口14を開閉するゲート部(ゲートバルブともいう)15と、が設けられている。ゲート部15は、例えば、開閉駆動部16に連結もしくは接続されている。図3では、図面の煩雑化を避けるために、開閉駆動部16が概念的に示されている。開閉駆動部16には、例えば、エアシリンダ等の駆動機構が適用される。ここでは、例えば、開閉駆動部16の動作によって、ゲート部15は、搬入出口14を閉鎖している位置(閉鎖位置ともいう)と、搬入出口14を開放している位置(開放位置ともいう)との間で移動することができる。
【0033】
ここで、例えば、ゲート部15が閉鎖位置に位置する状態では、チャンバ10の内部空間10sが密閉される。例えば、ゲート部15が開放位置に位置する状態では、搬入出口14を介して、チャンバ10の内部空間10sへの基板9の搬入およびチャンバ10の内部空間10sからの基板9の搬出を行うことができる。
【0034】
<<支持部20>>
支持部20は、チャンバ10内において基板9を下方から支持する部分である。例えば、支持部20は、チャンバ10の内部空間10sに位置しており、チャンバ10の内部空間10sに収容された基板9を下方から支持することができる。支持部20は、例えば、複数の支持プレート21と、複数の支持ピン22と、を有する。複数の支持プレート21は、例えば、水平方向に間隔をあけて配列されている。各支持プレート21の上面には、複数の支持ピン22が立設されている。複数の支持プレート21は、支持部20のベースとなる部分である。基板9は、例えば、複数の支持プレート21の上方に配置され、複数の支持ピン22の上端部が基板9の下面としての第2面F2に接触することで、基板9が水平姿勢で支持される。
【0035】
複数の支持ピン22は、例えば、1つ以上の第1支持ピン22aおよび1つ以上の第2支持ピン22bを含む。換言すれば、支持部20は、基板9を下方からそれぞれ支持する第1支持ピン22aおよび第2支持ピン22bを含む。図3で示されるように、第1支持ピン22aおよび第2支持ピン22bは上下方向に長い棒状の形状を有しており、第1支持ピン22aは第2支持ピン22bよりも太い。
【0036】
図6は、第1支持ピン22aの外観の一例を示す正面図であり、図7は、第2支持ピン22bの外観の一例を示す正面図である。
【0037】
図6の例では、第1支持ピン22aは第1台座部26aの上面に立設されている。つまり、第1支持ピン22aは第1台座部26aの上面から上方に向かって延びている。第1台座部26aは第1支持ピン22aよりも幅広に形成される。図6の例では、第1台座部26aの下面には第1雄ネジ部27aが設けられている。第1雄ネジ部27aは、第1台座部26aの下面から下方に延びた柱状の形状を有し、その側面にネジ山が形成されている。第1支持ピン22aは、第1雄ネジ部27aによるねじ作用により、支持プレート21の上面に取り付けられる。つまり、第1雄ネジ部27aが支持プレート21の上面に形成された雌ネジ部(不図示)に対してねじ作用で結合することにより、第1支持ピン22aが支持プレート21の上面に取り付けられる。
【0038】
第1支持ピン22a、第1台座部26aおよび第1雄ネジ部27aからなるピン構造体は同一材料によって一体に形成されてもよく、あるいは、複数の部材が組み合わされて形成されてもよい。なお、ピン構造体の全体を第1支持ピン22aと把握すれば、第1台座部26aの上面よりも上方の部分を第1ピン本体部と把握することができる。
【0039】
図6の例では、第1支持ピン22aは、第1当接部23aと、第1柱状部25aと、を含んでいる。第1柱状部25aは、上下方向に延びる柱状の形状を有しており、第1台座部26aの上面に立設されている。つまり、第1柱状部25aは第1台座部26aの上面から上方に延びている。第1柱状部25aは例えば円柱状の形状を有する。この場合、上下方向に直交した水平断面における第1柱状部25aの形状は円状である。例えば第1柱状部25aは等幅で上下方向に沿って延びる。第1柱状部25aの幅(ここでは直径)は、例えば、1mm以上に設定され、具体的な一例として3mm程度に設定される。
【0040】
第1当接部23aは第1柱状部25aの上端面に設けられている。第1当接部23aは例えば錐体状の形状を有している。具体的な一例として、第1当接部23aは円錐状の形状を有していてもよい。あるいは、第1当接部23aは半球状もしくは半楕円状の形状を有してもよい。この場合、第1当接部23aの水平断面の形状も円状である。このような第1当接部23aの幅(ここでは直径)も上方に向かうにつれて小さくなる。第1当接部23aの下端の幅(ここでは直径)は例えば第1柱状部25aの幅(ここでは直径)と等しく、例えば1mm以上に設定され、より具体的な一例として3mm程度に設定される。第1当接部23aの上端(つまり、頂点)は基板9の第2面F2に当接する。
【0041】
以上のように、図6の例では、第1支持ピン22aは、その幅(ここでは直径)が上方に向かうにつれて単調非増加で減少した棒状の形状を有している。図6の例では、第1支持ピン22aの幅は、第1柱状部25aにおいて上下方向に依らず一定であり、第1当接部23aにおいて上方に向かうにつれて単調に減少している。
【0042】
第1支持ピン22aの材料には、例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)もしくはポリイミド(PI)等の樹脂材料が適用される。例えば、樹脂材料の摩擦力が適宜調整されることで、第1支持ピン22aは、第1支持ピン22aの上端と基板9の第2面F2との間の摩擦力により、基板9が水平方向にずれないように下方から基板9を支持することができる。第1支持ピン22aは例えば中実材である。
【0043】
次に、第1当接部23aおよび第1柱状部25aの上下方向の長さの一例について説明する。図6の例では、第1当接部23aの長さは、第1柱状部25aの長さに比べて非常に短い。つまり、第1柱状部25aが最も長い。言い換えれば、第1支持ピン22aの上下方向の全体に対して第1柱状部25aが占める割合が最も大きい。このため、第1支持ピン22aの太さは第1柱状部25aの太さによって代表され得る。つまり、主として、第1柱状部25aの幅(ここでは直径)が第1支持ピン22aの太さを示している。
【0044】
図7の例では、第2支持ピン22bは第2台座部26bの上面に立設されている。つまり、第2支持ピン22bは第2台座部26bの上面から上方に向かって延びている。第2台座部26bは第2支持ピン22bよりも幅広に形成される。図7の例では、第2台座部26bの下面には第2雄ネジ部27bが設けられている。第2雄ネジ部27bは、第2台座部26bの下面から下方に延びた柱状の形状を有し、その側面にネジ山が形成されている。第2支持ピン22bは第2雄ネジ部27bのねじ作用により支持プレート21に取り付けられる。第2支持ピン22b、第2台座部26bおよび第2雄ネジ部27bからなるピン構造体は同一材料によって一体に形成されてもよく、あるいは、複数の部材が組み合わされて形成されてもよい。なお、ピン構造体の全体を第2支持ピン22bと把握すれば、第2台座部26bの上面よりも上方の部分を第2ピン本体部と把握することができる。
【0045】
図7の例では、第2支持ピン22bは、第2当接部23bと、第2柱状部25bとを含んでいる。第2柱状部25bは、上下方向に延びる柱状の形状を有しており、第2台座部26bの上面に立設されている。つまり、第2柱状部25bは第2台座部26bの上面から上方に延びている。第2柱状部25bは例えば円柱状の形状を有する。この場合、第2柱状部25bの水平断面の形状は円状である。第2柱状部25bは、例えば、等幅で上下方向に沿って延びる。第2柱状部25bの幅(ここでは直径)は、例えば、0.6mm以上に設定され、より具体的な一例として1mm程度に設定される。
【0046】
第2当接部23bは第2柱状部25bの上端面に設けられている。第2当接部23bは例えば錐体状の形状を有している。具体的な一例として、第2当接部23bは円錐状の形状を有していてもよい。あるいは、第2当接部23bは半球状もしくは半楕円状の形状を有している。この場合、第2当接部23bの水平断面の形状も円状である。このような第2当接部23bの幅(ここでは直径)も上方に向かうにつれて小さくなる。第2当接部23bの下端の幅(ここでは直径)は例えば第2柱状部25bの幅(ここでは直径)と等しく、例えば0.6mm以上に設定され、より具体的な一例として1mm程度に設定される。第2当接部23bの上端(つまり、頂点)は基板9の第2面F2に当接する。
【0047】
以上のように、図7の例では、第2支持ピン22bは、その幅(ここでは直径)が上方に向かうにつれて単調非増加で減少した棒状の形状を有している。図7の例では、第2支持ピン22bの幅は、第2柱状部25bにおいて上下方向に依らず一定であり、第2当接部23bにおいて上方に向かうにつれて単調に減少している。
【0048】
第2支持ピン22bの材料には、例えば、第1支持ピン22aと同様に、ポリエーテルエーテルケトンもしくはポリイミド等の樹脂材料が適用される。第2支持ピン22bは例えば中実材である。
【0049】
次に、第2当接部23bおよび第2柱状部25bの上下方向の長さについて説明する。図7の例では、第2当接部23bの長さは第2柱状部25bの長さに比べて非常に短い。つまり、第2支持ピン22bの上下方向の全体に対して第2柱状部25bの占める割合が最も大きい。このため、第2支持ピン22bの太さは、第2柱状部25bの太さによって代表され得る。つまり、主として、第2柱状部25bの幅(ここでは直径)が第2支持ピン22bの太さを示している。
【0050】
図6および図7の比較からも理解できるように、第1支持ピン22aは第2支持ピン22bよりも太い。ここでは、第1柱状部25aが第2柱状部25bよりも太い。第1柱状部25aの幅(ここでは直径)と、第2柱状部25bの幅(ここでは、直径)との差は、例えば、0.5mm以上であってもよく、1mm以上であってもよく、2mm以上であってもよい。
【0051】
ここで、同一の水平断面における第1支持ピン22aの幅と第2支持ピン22bの幅との比較について、さらに考察する。図6および図7で示されるように、第1支持ピン22aおよび第2支持ピン22bの上下方向の全体において、任意の水平断面における第1支持ピン22aの幅が第2支持ピン22bの幅以上であってもよい。例えば、第1支持ピン22aの第1当接部23aの上部および第2支持ピン22bの第2当接部23bは例えば同一形状を有していてもよい。この形状によれば、水平断面における第1当接部23aの上部の幅と第2当接部23bの幅は互いに等しい。一方、第1当接部23aの下部の幅は下方に向かうにつれてさらに大きくなるので、同一の水平断面において、第1支持ピン22aの第1当接部23aの下部の幅は第2支持ピン22bの第2柱状部25bの幅より大きい。また、第1柱状部25aの幅も同一の水平断面において第2柱状部25bの幅より大きい。このような形状によれば、任意の水平断面において、第1支持ピン22aは第2支持ピン22bと同じ太さか、あるいは、第2支持ピン22bよりも太い。
【0052】
なお、第1支持ピン22aと第2支持ピン22bの太さの比較は、例えば同一の水平断面において、第1支持ピン22aの側面に相当する輪郭の第1全周長さと、第2支持ピン22bの側面に相当する輪郭の第2全周長さとの比較によって、規定されてもよい。上述の例では、第1支持ピン22aおよび第2支持ピン22bの水平断面の形状は円状であるので、全周長さは円周の長さに相当する。
【0053】
ここで、水平断面を上下方向に移動させたときに、第1全周長さが第2全周長さよりも長い上下方向の範囲が、第1支持ピン22aおよび第2支持ピン22bの上下方向の長さに対して、5割以上を占めればよい。この場合、第1支持ピン22aは第2支持ピン22bよりも太いといえる。該割合は、例えば6割以上であってもよく、7割以上であってもよく、8割以上であってもよい。
【0054】
図8は、基板9と第1支持ピン22aおよび第2支持ピン22bとの位置関係の第1例を示す図である。図8では、基板9の下面としての第2面F2のうち、第1支持ピン22aによって支持される位置が白丸で示されており、第2支持ピン22bによって支持される位置が黒丸で示されている。また、図8では、基板9のうちの塗布領域A1の外縁と、基板9のうちの周縁領域B1および内側領域B2の境界B3とが、それぞれ、二点鎖線で描かれている。
【0055】
図8で示されるように、いくつかの第1支持ピン22aは、基板9の周縁領域B1を支持している。つまり、これらの第1支持ピン22aの上端は基板9の周縁領域B1の下面に接触する。基板9の周縁領域B1は平面視において矩形の枠状形状を有するので、これらの第1支持ピン22aも矩形状の枠に沿って全周に配列される。図8の例では、基板9の周縁領域B1の上面には、塗布膜90が形成されていない。つまり、周縁領域B1は非塗布領域A2に相当する。また、図8の例では、残りのいくつかの第1支持ピン22aは基板9の内側領域B2のうちの塗布領域A1以外の領域に位置している。つまり、残りの第1支持ピン22aは基板9の内側領域B2を支持しているものの、内側領域B2のうちの非塗布領域A2を支持している。言い換えれば、残りの第1支持ピン22aの上端は基板9の内側領域B2のうちの非塗布領域A2の下面に接触する。
【0056】
一方で、複数の第2支持ピン22bは、基板9の内側領域B2のうちの塗布領域A1を支持している。つまり、複数の第2支持ピン22bの上端は基板9の塗布領域A1の下面に接触する。塗布領域A1にパターン状の塗布膜90が形成されている場合には、いくつかの第2支持ピン22bは塗布領域A1のうちの被覆領域A3を支持し、残りの第2支持ピン22bは塗布領域A1のうちの露出領域A4を支持し得る。塗布領域A1の全体に塗布膜90が形成されている場合には、塗布領域A1の全体が被覆領域A3に相当するので、すべての第2支持ピン22bが被覆領域A3を支持する。
【0057】
以上のように、図8の例では、すべての第2支持ピン22bは基板9のうちの塗布領域A1の下面に当接し、すべての第1支持ピン22aは基板9のうちの非塗布領域A2の下面に当接する。
【0058】
図9は、減圧下でのチャンバ10内の気流の一例を模式的に示す図である。排気部30がチャンバ10内の気体を排出すると、チャンバ10内の気体の温度が断熱膨張により急激に低下する。チャンバ10内の気体の温度は例えば摂氏マイナス(-)20度程度まで低下し得る。一方で、チャンバ10内の物体(固体)の温度も低下する。例えば、基板9の温度は、塗布膜90の溶媒の蒸発に伴う気化熱の吸収および基板9と周囲の気体との間の熱交換によって、低下する。また、例えば支持ピン22の温度は、支持ピン22と周囲の気体との熱交換によって低下する。しかしながら、これらの物体の温度の低下は、断熱膨張によって生じる気体の温度の低下に比べてそこまで大きくなく、例えば、支持ピン22の温度の低下量は数度程度(例えば2度程度以下)である。このため、支持ピン22の温度は例えば摂氏23度程度となる。
【0059】
この支持ピン22と気体との熱交換により、支持ピン22の周囲では気体が温められることになる。このため、第1支持ピン22aおよび第2支持ピン22bの周囲で、それぞれ、上昇気流Gaおよび上昇気流Gbが発生する。上昇気流Gaによって気体は第1支持ピン22aに沿って上昇し、上昇気流Gbによって気体は第2支持ピン22bに沿って上昇する。このため、上昇気流Gaおよび上昇気流Gbによって気体は基板9の第2面F2に局所的に供給され得る。したがって、基板9のうち支持ピン22との接触箇所の周囲(以下、ピン近傍領域と呼ぶ)は、該ピン近傍領域から離れた領域(以下、ピン離間領域と呼ぶ)に比べて、上昇気流Gaおよび上昇気流Gbの影響を受けやすい。その結果、基板9のうちピン近傍領域の温度とピン離間領域の温度との差が大きくなり、基板9の温度分布が不均一になり得る。
【0060】
ところで、本実施の形態では、第2支持ピン22bは第1支持ピン22aよりも細い。つまり、水平断面における第2支持ピン22bの第2全周長さは、該水平断面における第1支持ピン22aの第1全周長さよりも短い。さらに言い換えれば、第2支持ピン22bの側面の表面積は第1支持ピン22aの側面の表面積よりも小さい。このため、第1支持ピン22aの周囲の気体はより大きな表面積で第1支持ピン22aと熱交換し、第2支持ピン22bの周囲の気体はより小さい表面積で第2支持ピン22bと熱交換する。したがって、上昇気流Gaはより広い範囲(つまり、太い第1支持ピン22aの周囲)で発生し、上昇気流Gbはより狭い範囲(つまり、細い第2支持ピン22bの周囲)で発生する。このため、上昇気流Gbの発生量(例えば体積流量)は上昇気流Gaの発生量よりも小さい。図9では、上昇気流Gaおよび上昇気流Gbの発生量を矢印の線の太さで模式的に示している。
【0061】
第2支持ピン22bは基板9の塗布領域A1の下面に当接している。このため、第2支持ピン22bの周囲の上昇気流Gbによって、気体が塗布領域A1の下面に局所的に供給され得る。しかしながら、上昇気流Gbの発生量は小さいので、塗布領域A1における温度の均一性をさほど阻害しない。このため、塗布領域A1の下面に当接する支持ピン22として第1支持ピン22aを採用した構造に比べて、基板9の塗布領域A1における温度分布の均一性を向上させることができる。その結果、塗布膜90をより均一に乾燥させることができる。言い換えれば、基板9の上面に形成された塗布膜90における乾燥ムラの発生が抑制され得る。
【0062】
一方で、第1支持ピン22aは基板9の非塗布領域A2の下面に当接している。このため、上昇気流Gaによって、気体が基板9の非塗布領域A2の下面に局所的に供給され得る。この上昇気流Gaの発生量は比較的に大きいので、非塗布領域A2における温度分布は塗布領域A1に比べて不均一になり得る。しかしながら、上述の例では、非塗布領域A2では塗布膜90が形成されていないので、塗布膜90の乾燥不良をほとんど招かない。
【0063】
しかも、第1支持ピン22aは第2支持ピン22bよりも太いので、第2支持ピン22bの剛性よりもより高い剛性を有する。このため、第1支持ピン22aは基板9の周縁領域B1をより強固に支持することができる。比較のために、すべての支持ピン22に細い第2支持ピン22bを採用した構造(以下、比較構造と呼ぶ)について考察する。この比較構造では、水平方向において基板9に外力が印加されたときに、基板9が水平方向に変位し得る。なぜなら、支持ピン22が細いほど、支持ピン22は水平方向の外力に弱くなるからである。例えば、支持ピン22は台座部を固定端として撓み得る。基板9の搬入出時もしくはチャンバ10内の減圧時には、基板9に対して水平方向成分を有する外力が印加され得るので、基板9が水平方向に変位し得る。このような基板9の水平方向の変位は好ましくない。
【0064】
これに対して、本実施の形態においては、基板9の周縁領域B1を支持する第1支持ピン22aは、基板9の内側領域B2のうちの塗布領域A1を支持する第2支持ピン22bよりも太い。そのため、第1支持ピン22aがより高い剛性で基板9の周縁領域B1を支持することができる。したがって、水平方向成分を有する外力が基板9に印加されたとしても、太い第1支持ピン22aが基板9の水平方向の変位を効果的に抑制することができる。しかも、第1支持ピン22aが基板9の周縁領域B1の周方向に沿って全周に配列されていれば、基板9の周縁領域B1をより強固に支持することができ、より効果的に基板9の水平方向の変位を抑制することができる。
【0065】
<<排気部30>>
図1を参照して、排気部30は、チャンバ10内の気体を排出する部分である。図1および図2で示されるように、チャンバ10の底板部11のうち基板9と上下方向において重なる部分には、例えば、4つの排気口16a,16b,16c,16dが設けられている。排気部30は、例えば、排気配管31と、4つの個別バルブVa,Vb,Vc,Vdと、主バルブVeと、真空ポンプ32と、を有する。排気配管31は、例えば、4つの個別配管31a,31b,31c,31dと、1つの主配管31eと、を有する。例えば、個別配管31aの一端は、排気口16aに接続しており、個別配管31bの一端は、排気口16bに接続しており、個別配管31cの一端は、排気口16cに接続しており、個別配管31dの一端は、排気口16dに接続している。例えば、4つの個別配管31a,31b,31c,31dのそれぞれの他端は、合流して主配管31eの一端に接続されている。例えば、主配管31eの他端は、真空ポンプ32に接続している。例えば、個別バルブVaは、個別配管31aの経路上に設けられており、個別バルブVbは、個別配管31bの経路上に設けられており、個別バルブVcは、個別配管31cの経路上に設けられており、個別バルブVdは、個別配管31dの経路上に設けられている。例えば、主バルブVeは、主配管31eの経路上に設けられている。
【0066】
ここで、例えば、ゲート部15によって搬入出口14を閉鎖した状態で、4つの個別バルブVa,Vb,Vc,Vdの少なくとも1つと、1つの主バルブVeとを開放し、真空ポンプ32を動作させると、チャンバ10内の気体が、排気配管31を介してチャンバ10の外部へ排出される。これにより、例えば、チャンバ10の内部空間10sの気圧を低下させることができる。4つの個別バルブVa,Vb,Vc,Vdは、例えば、4つの排気口16a,16b,16c,16dからの排気量を、個別に調節するためのバルブである。4つの個別バルブVa,Vb,Vc,Vdのそれぞれには、例えば、制御部80からの指令に基づいて開状態と閉状態との間で切り替えられる弁(開閉弁ともいう)が適用される。主バルブVeは、例えば、4つの排気口16a,16b,16c,16dからの合計の排気量を調整するためのバルブである。主バルブVeには、例えば、制御部80からの指令に基づいて開度が調節され得る弁(開度制御弁ともいう)が適用される。
【0067】
<<昇降部100>>
昇降部100は、チャンバ10内において支持部20を昇降させる部分である。換言すれば、例えば、昇降部100は、支持部20を昇降させることができる機構(昇降機構ともいう)を有する。図1では、図面の煩雑化を避けるために、昇降部100が概念的に示されている。昇降部100には、例えば、直動型モータまたはエアシリンダ等の駆動装置が適用される。図3で示されるように、昇降部100は、例えば、本体部100aと、移動部100bと、を有する。本体部100aは、例えば、チャンバ10の外部において、図示を省略した装置フレームに固定されている。移動部100bは、例えば、本体部100aに対して、上下方向に移動することができる。移動部100bには、例えば、棒状の部材等が適用される。移動部100bは、例えば、チャンバ10の底板部11の貫通孔11hに挿通された状態で位置している。そして、例えば、移動部100bの上端部に、支持部20が固定されている。ここでは、例えば、底板部11の下面と移動部100bとの間にベローズ等が設けられれば、底板部11と移動部100bとの隙間が密閉され得る。例えば、支持部20が複数の支持プレート21を有する場合には、移動部100bは、支持プレート21ごとに支持プレート21に固定されており且つ底板部11の貫通孔11hに挿通された棒状の部分(棒状部ともいう)と、複数の棒状部を連結している部分(連結部ともいう)と、連結部に接続されており且つ本体部100aに摺動可能に支持された部分(摺動部ともいう)と、を有する。
【0068】
ここで、例えば、昇降部100を動作させると、支持部20は、下降位置H1(図1および図3で一点鎖線で示した位置)と、下降位置H1よりも高い上昇位置H2(図1および図3で二点鎖線で示した位置)との間で、上下方向に昇降する。このとき、例えば、複数の支持プレート21は、一体的に昇降し得る。
【0069】
<<底面整流板40>>
底面整流板40は、排気部30によるチャンバ10内の減圧時に、内部空間10sにおける気体の流れを規制するためのプレートである。例えば、底面整流板40は、支持部20に支持される基板9と、チャンバ10の底板部11との間に位置するように配置されている。底面整流板40は、例えば、チャンバ10の底板部11に、図示を省略した複数の支柱を介して固定されている。図2で示されるように、例えば、底面整流板40は、上面視において正方形状の形状を有する。そして、例えば、底面整流板40の上面視における各辺の長さは、長方形状の基板9の長辺および短辺のいずれよりも長い。このため、例えば、支持部20上に配置される基板9の向きに拘わらず、上面視において、底面整流板40は、基板9よりも大きい。また、底面整流板40は、例えば、昇降部100の移動部100bが挿通された状態にある貫通孔40hを有している。貫通孔40hにおいて、底面整流板40と移動部100bとは、ごく小さな間隔をあけて位置している。
【0070】
<<側面整流板50>>
側面整流板50は、底面整流板40とともに、排気部30によるチャンバ10内の減圧時に、内部空間10sにおける気体の流れを規制するためのプレートである。例えば、側面整流板50は、下降位置H1に配置されている支持部20によって支持される基板9と、チャンバ10の側壁部12との間に位置するように配置されている。ここでは、例えば、支持部20に支持される基板9の周囲を囲むように、4つの側面整流板50が配置されている。例えば、4つの側面整流板50は、全体として、基板9を包囲する四角筒状の整流板を形成している。また、例えば、底面整流板40および4つの側面整流板50は、全体として、有底筒状の箱状の整流板を形成している。
【0071】
ここで、例えば、排気部30によるチャンバ10内の減圧時には、チャンバ10の内部空間10sの気体は、側面整流板50と側壁部12との間の空間、底面整流板40と底板部11との間の空間、および排気口16a,16b,16c,16dをこの記載の順に通って、チャンバ10の外部へ排出される。このように、例えば、気体が基板9から離れた空間を流れることで、基板9の近傍に気流が形成され難くなる。そして、基板9の周縁部において集中的な気流の発生が生じ難くなる。これにより、例えば、基板9の上面に形成された塗布膜90の乾燥ムラの発生が抑制され得る。
【0072】
また、ここで、例えば、図2で示されるように、上面視において、4つの排気口16a,16b,16c,16dが、いずれも正方形状の底面整流板40の対角線41上に位置している構成が採用される。この場合には、例えば、各排気口16a,16b,16c,16dによって、底面整流板40の中央(2本の対角線41の交点)に対して対称な気流が形成され得る。これにより、例えば、チャンバ10の内部空間10sにおいて、より均一な気流が形成され得る。
【0073】
<<給気部60>>
給気部60は、チャンバ10内に気体を供給する動作(給気ともいう)を行う部分である。図1で示されるように、チャンバ10の底板部11には、例えば、給気口16fが設けられている。給気口16fは、例えば、底面整流板40の下方に位置している。給気部60は、給気口16fに接続された給気配管61と、給気バルブVfと、給気源62と、を有する。例えば、給気配管61の一端は、給気口16fに接続している。例えば、給気配管61の他端は、給気源62に接続している。例えば、給気バルブVfは、給気配管61の経路上に設けられている。
【0074】
ここで、例えば、給気バルブVfを開放すると、給気源62から給気配管61および給気口16fを介して、チャンバ10の内部空間10sに気体が供給される。これにより、チャンバ10内の気圧を上昇させることができる。給気源62から供給される気体は、例えば、窒素ガス等の不活性ガスであってもよいし、クリーンドライエアであってもよい。クリーンドライエアは、例えば、一般的な環境における空気に対してパーティクルおよび水分を除去する清浄化を施すことで準備され得る。
【0075】
<<圧力計70>>
圧力計70は、チャンバ10の内部空間10sの気圧を計測するセンサである。図1で示されるように、例えば、圧力計70は、チャンバ10の一部分に取り付けられている。圧力計70は、例えば、チャンバ10の内部空間10sの気圧を計測し、その計測結果を、制御部80へ出力することができる。
【0076】
<<制御部80>>
制御部80は、減圧乾燥装置1の各部の動作を制御するためのユニットである。例えば、制御部80は、排気部30、給気部60および昇降部100等を制御することができる。制御部80は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサ801、RAM(Random Access Memory)等のメモリ802、およびハードディスクドライブ等の記憶部803を有するコンピュータによって構成されている。記憶部803には、例えば、減圧乾燥装置1において基板9上の塗布膜90を減圧によって乾燥させる処理(減圧乾燥処理ともいう)を実行させるためのコンピュータプログラム(プログラムともいう)803pおよび各種のデータが記憶されている。記憶部803は、例えば、プログラム803pを記憶し、コンピュータで読み取り可能な非一時的な記憶媒体としての役割を有する。制御部80は、例えば、記憶部803からメモリ802にプログラム803pおよびデータを読み出して、プロセッサ801においてプログラム803pおよびデータに従った演算処理を行うことで、減圧乾燥装置1の各部の動作を制御する。このため、例えば、プログラム803pは、減圧乾燥装置1において制御部80に含まれるプロセッサ801によって実行されることで、減圧乾燥処理を実行させることができる。
【0077】
また、制御部80には、例えば、入力部804、出力部805、通信部806およびドライブ807が接続されていてもよい。入力部804は、例えば、ユーザの動作等に応答して各種の信号を制御部80に入力する部分である。入力部804には、例えば、ユーザの操作に応じた信号を入力する操作部、ユーザの音声に応じた信号を入力するマイク、およびユーザの動きに応じた信号を入力する各種センサ等が含まれ得る。出力部805は、例えば、各種の情報をユーザが認識可能な態様で出力する部分である。出力部805には、例えば、表示部、プロジェクタ、およびスピーカ等が含まれ得る。表示部は、入力部804と一体化されたタッチパネルであってもよい。通信部806は、例えば、有線もしくは無線の通信手段等によってサーバ等の外部の装置との間で各種の情報の送受信を行う部分である。例えば、通信部806によって外部の装置から受信したプログラム803pが記憶部803に記憶されてもよい。ドライブ807は、例えば、磁気ディスクまたは光ディスク等の可搬性の記憶媒体807mの着脱が可能な部分である。このドライブ807は、例えば、記憶媒体807mが装着されている状態で、この記憶媒体807mと制御部80との間におけるデータの授受を行う。例えば、プログラム803pが記憶された記憶媒体807mがドライブ807に装着されることで、記憶媒体807mから記憶部803内にプログラム803pが読み込まれて記憶されてもよい。ここでは、記憶媒体807mは、例えば、プログラム803pを記憶し、コンピュータで読み取り可能な非一時的な記憶媒体としての役割を有する。
【0078】
図10は、制御部80において実現される機能を概念的に示したブロック図である。図10で示されるように、制御部80は、例えば、開閉駆動部16、昇降部100、4つの個別バルブVa,Vb,Vc,Vd、主バルブVe、真空ポンプ32、給気バルブVf、および圧力計70と、それぞれ電気的に接続されている。制御部80は、例えば、圧力計70から出力される計測値を参照しつつ、上記各部の動作を制御することができる。
【0079】
図10で概念的に示したように、制御部80は、実現される機能的な構成として、例えば、開閉制御部81、昇降制御部82、切替制御部83、排気制御部84、ポンプ制御部85、および給気制御部86を有する。例えば、開閉制御部81は、開閉駆動部16の動作を制御する。例えば、昇降制御部82は、昇降部100の動作を制御する。例えば、切替制御部83は、4つの個別バルブVa,Vb,Vc,Vdの開閉状態を個別に制御する。例えば、排気制御部84は、主バルブVeの開閉状態および開度を制御する。例えば、ポンプ制御部85は、真空ポンプ32の動作を制御する。例えば、給気制御部86は、給気バルブVfの開閉状態を制御する。制御部80における各部の機能は、例えば、上述したプログラム803p等に従った演算処理をプロセッサ801が行うことで実現される。
【0080】
<2.減圧乾燥処理>
次に、減圧乾燥装置1を用いた基板9の減圧乾燥処理について説明する。図11は、一実施形態に係る減圧乾燥処理の流れの一例を示す流れ図である。この減圧乾燥処理のフローは、例えば、制御部80に含まれるプロセッサ801においてプログラム803pが実行されることで実現される。ここでは、例えば、図11のステップS1からステップS4の処理がこの記載の順に行われる。
【0081】
減圧乾燥装置1を用いて減圧乾燥処理を行う際には、例えば、まず、基板9をチャンバ10内に搬入する(ステップS1)。このとき、基板9の上面には、未乾燥の塗布膜90が形成されている状態にある。ステップS1では、例えば、ゲート部15が制御部80の制御下で搬入出口14を開放し、図示を省略した搬送ロボットが、フォーク状のハンドに基板9を載置しつつ、チャンバ10の搬入出口14を介して、チャンバ10の内部空間10sへ基板9を搬入する。この時点では、支持部20は、例えば、下降位置H1に配置されている。搬送ロボットは、例えば、支持部20の複数の支持プレート21の間へフォーク状のハンドを挿入しつつ、支持部20上に基板9を載置し、その後、チャンバ10の外部にフォークを退避させる。そして、ゲート部15は制御部80の制御下で搬入出口14を閉鎖する。以上のように、ステップS1では、チャンバ10内に配置された複数の支持ピン22に基板9を載置する工程(載置工程ともいう)が行われる。
【0082】
このステップS1において、基板9は複数の支持ピン22によって支持される。具体的には、基板9の周縁領域B1が第1支持ピン22aによって支持され、基板9の内側領域B2のうちの塗布領域A1が第2支持ピン22bによって支持される。また、基板9の内側領域B2のうちの非塗布領域A2が第1支持ピン22aによって支持される。
【0083】
次に、減圧乾燥装置1はチャンバ10内の気体を排出する(ステップS2)。具体的には、制御部80が、排気部30にチャンバ10内の気体を排出させることにより、チャンバ10内を減圧させる。換言すれば、ステップS2では、チャンバ10内を減圧させる工程(排気工程ともいう)が行われる。この排気工程によって、チャンバ10内の気圧が目標気圧まで低下する。
【0084】
ステップS2では、例えば、制御部80が、支持部20を適宜昇降させてもよいし、複数の個別バルブVa,Vb,Vc,Vdのそれぞれの開閉状態を個別に適宜制御してもよいし、主バルブVeの開度を適宜制御してもよい。例えば、減圧乾燥装置1は、排気工程の初期において、支持部20を上昇位置H2へ移動させた状態でチャンバ10内の気体を緩やかに排出し(第1処理)、その後、支持部20を下降位置H1に移動させた上で、排気部30がチャンバ10内の気体を急激に排出してもよい(第2処理)。これにより、チャンバ10内の基板9の周囲に強い気流が発生することを抑制しながら、チャンバ10内を減圧することができる。
【0085】
その後、排気部30はチャンバ10内の気圧が目標気圧で略一定となるようにチャンバ10内の気体を排出する(第3処理)。気圧が目標気圧に達すると、塗布膜90の溶剤が沸騰して塗布膜90の乾燥がより高い速度で進行する。塗布膜90の沸騰が終了すると、排気部30はチャンバ10内をさらに減圧してもよい(第4処理)。これにより、塗布膜90をより確実に乾燥させることができる。
【0086】
また、チャンバ10内の気体の排出により、チャンバ10内の気体の温度は急激に低下するとともに、チャンバ10内の各物体の温度もある程度低下する。そのため、上述のように、チャンバ10内の第1支持ピン22aの周囲および第2支持ピン22bの周囲において、それぞれ上昇気流Gaおよび上昇気流Gbが生じる。ただし、上昇気流Gbの発生量は上昇気流Gaよりも小さいので、上昇気流Gbに起因して生じる基板9の塗布領域A1の温度分布のばらつきは小さい。このため、基板9の温度分布のばらつきに起因した乾燥ムラの発生は抑制される。
【0087】
なお、この排気工程において、制御部80は、基板9の上面と天板部13との間の気流により、塗布膜90の乾燥ムラが生じ得る。この乾燥ムラの発生を抑制させるために、第1処理から第3処理の各々において、4つの個別バルブVa,Vb,Vc,Vdの開閉状態を、順次に切り替えてもよい。例えば、切替制御部83は、4つの個別バルブVa,Vb,Vc,Vdのうちの1つの個別バルブを閉鎖するとともに、他の個別バルブを開放する。そして、切替制御部83は、閉鎖する1つの個別バルブを順次に変更する。具体的には、1つの個別バルブVaを閉鎖して他の3つの個別バルブVb,Vc,Vdを開放する第1状態と、1つの個別バルブVbを閉鎖して他の3つの個別バルブVa,Vc,Vdを開放する第2状態と、1つの個別バルブVcを閉鎖して他の3つの個別バルブVa,Vb,Vdを開放する第3状態と、1つの個別バルブVdを閉鎖して他の3つの個別バルブVa,Vb,Vcを開放する第4状態と、を順次に切り替える。このようにすれば、排気工程において、基板9の上面と天板部13との間の空間に形成される気流の向きが、個別バルブVa,Vb,Vc,Vdの切り替えに応じて変化する。よって、基板9の上面の塗布膜90を、より均一に乾燥させることができる。一方で、第4処理においては、溶剤の蒸発は活発でないので、4つの個別バルブVa,Vb,Vc,Vdのすべてを開放してもよい。
【0088】
次に、制御部80が、給気バルブVfを開放する。これにより、給気源62から給気配管61および給気口16fを通ってチャンバ10の内部空間10sへ気体が供給される(ステップS3)。これにより、チャンバ10内の気圧が、再び大気圧まで上昇する。
【0089】
そして、例えば、最後に、基板9をチャンバ10内から搬出する(ステップS4)。ステップS4では、例えば、まず、ゲート部15が制御部80の制御下で搬入出口14を開放し、図示を省略した搬送ロボットが、支持部20に載置された乾燥済みの基板9を、チャンバ10の搬入出口14を介して、チャンバ10の外部へ搬出する。これにより、1枚の基板9に対する減圧乾燥処理が終了し得る。
【0090】
このように、減圧乾燥装置1を用いて基板9の上面としての第1面F1に形成された塗布膜90を乾燥させる方法(減圧乾燥方法ともいう)は、例えば、載置工程と、排気工程と、を有する。
【0091】
以上のように、一実施形態に係る減圧乾燥装置1では、ステップS1において、第1支持ピン22aおよび第2支持ピン22bの上に基板9を載置する。第1支持ピン22aは第2支持ピン22bよりも太く、図8の例では、いくつかの第1支持ピン22aは基板9の周縁領域B1を支持しており、第2支持ピン22bは基板9の内側領域B2のうちの塗布領域A1を支持している。太い第1支持ピン22aは基板9の周縁領域B1を支持するので、例えば排気工程において、気流により水平方向成分の外力が基板9に印加されたとしても、基板9の水平方向の変位をより確実に抑制することができる。
【0092】
一方、排気工程において生じる第1支持ピン22aの周囲の上昇気流Gaの発生量は比較的に大きい。このため、周縁領域B1の温度分布の均一性を低下させ得る。しかしながら、周縁領域B1には塗布膜90が形成されていないので、乾燥ムラの発生をほとんど招かない。
【0093】
基板9の塗布領域A1を支持する第2支持ピン22bは細いので、排気工程において生じる第2支持ピン22bの周囲の上昇気流Gbの発生量を低減させることができる。このため、上昇気流Gbによる基板9の塗布領域A1の下面への気体の供給を抑制することができる。したがって、塗布領域A1における温度分布のばらつき量を低減させることができ、塗布膜90に対する乾燥ムラの発生を抑制することができる。
【0094】
以上のように、一実施の形態に係る減圧乾燥装置1によれば、基板9の水平方向の変位の抑制と塗布領域A1における温度分布のばらつきの抑制とを両立させることができる。
【0095】
また、図8の例では、基板9の内側領域B2のうちの非塗布領域A2は太い第1支持ピン22aによって支持されている。これによれば、基板9をより強固に支持することができる。
【0096】
<<支持ピンの本数>>
上述のように、太い第1支持ピン22aによって基板9の水平方向の変位を抑制することができる。このため、第2支持ピン22bについては、座屈方向の強度のみを考慮して、第2支持ピン22bの本数を決定することができる。例えば、支持ピン22の座屈荷重Pcrは以下の式で表せられる。
【0097】
【数1】
【0098】
ここで、Eはヤング係数を示し、Iminは断面二次モーメントの最小値を示し、Lは支持ピン22の長さを示す。
【0099】
例えば、直径が0.5mm、ヤング係数が4300Mpa、支持ピン22の長さが30mmである場合、座屈荷重Pcrは約0.29Nである。第2支持ピン22bの1本あたりに印加される基板9の重量が、座屈荷重Pcr以下となればよいので、厚さが0.5mmであり、比重が3g/cmである基板9を支持するには、130mmごとに1本の第2支持ピン22bが必要となる。
【0100】
<<支持ピンの配列例>>
図8の例では、第1支持ピン22aは基板9の非塗布領域A2の下面に当接し、第2支持ピン22bは基板9の塗布領域A1の下面に当接していた。塗布領域A1はデバイスが形成されるデバイス領域であるともいえるので、第1支持ピン22aは基板9の非デバイス領域の下面に当接し、第2支持ピン22bは基板9のデバイス領域に当接している、ともいえる。しかしながら、必ずしもこれに限らない。
【0101】
図12は、基板9と第1支持ピン22aおよび第2支持ピン22bとの位置関係の第2例を示す図である。図12の例では、すべての第1支持ピン22aが基板9の周縁領域B1の下面に当接しており、すべての第2支持ピン22bが基板9の内側領域B2の下面に当接している。逆に言えば、すべての第1支持ピン22aは基板9の内側領域B2の下面には当接しておらず、基板9の内側領域B2を避けて設けられている。同様に、すべての第2支持ピン22bは基板9の周縁領域B1の下面には当接しておらず、基板9の周縁領域B1を避けて設けられている。
【0102】
これによれば、基板9の内側領域B2の直下には、太い第1支持ピン22aが位置していない。このため、基板9の内側領域B2のうちで塗布領域A1の個数、位置および形状が変更されたとしても、基板9の塗布領域A1は細い第2支持ピン22bのみによって支持される。このため、基板9のうちの塗布膜90が形成される領域は第2支持ピン22bのみによって支持される。したがって、塗布領域A1の個数、位置および形状が変更されたとしても、塗布膜90に対する乾燥ムラの発生を抑制することができる。
【0103】
<<支持ピン22と基板9との接触面積>>
第1支持ピン22aの上端と基板9の下面としての第2面F2との第1接触面積と、第2支持ピン22bの上端と基板9の第2面F2との第2接触面積の大小関係は特に限定されない。しかるに、基板9の周縁領域B1を支持する第1支持ピン22aについての第1接触面積が、第2接触面積よりも大きくてもよい。
【0104】
これによれば、第1支持ピン22aと基板9の周縁領域B1との間の摩擦力を、第2支持ピン22bと基板9との間の摩擦力よりも大きくすることができる。このため、より太い第1支持ピン22aが基板9の水平方向のずれ量を低減させることができる。一方で、第1接触面積が大きければ、第1支持ピン22aと基板9との間で移動する熱の量は比較的に大きくなる。しかしながら、これらの第1支持ピン22aは基板9の周縁領域B1(つまり非塗布領域A2)を支持するので、基板9の塗布領域A1における温度分布のばらつきを招きにくい。
【0105】
第2支持ピン22bと基板9との第2接触面積は、第1支持ピン22aと基板9との第2接触面積よりも小さいので、第2支持ピン22bと基板9との間で移動する熱の量を低減させることができる。第2支持ピン22bは基板9の塗布領域A1を支持しているものの、第2支持ピン22bと基板9との間の熱の移動量は小さいので、塗布領域A1における温度分布のばらつきを抑制することができる。したがって、塗布膜90に対する乾燥ムラの発生を抑制することができる。
【0106】
<<支持ピン22のピッチ>>
次に、第1支持ピン22aどうしのピッチおよび第2支持ピン22bどうしのピッチについて説明する。図13は、基板9と第1支持ピン22aおよび第2支持ピン22bとの位置関係の第3例を示す図である。図13の例では、第1支持ピン22aどうしのピッチは第2支持ピン22bどうしのピッチよりも広い。
【0107】
第1支持ピン22aは第2支持ピン22bよりも太いので、第1支持ピン22aどうしのピッチを第2支持ピン22bどうしのピッチよりも広く設定しても、基板9を適切に支持することができる。逆に言えば、基板9の水平方向の変位を抑制しながら基板9を適切に支持できる程度の範囲で、第1支持ピン22aのピッチを第2支持ピン22bのピッチよりも広く設定することができる。
【0108】
これによれば、第1支持ピン22aの本数を低減させることができ、減圧乾燥装置1の製造コストを低減させることができる。また、支持ピン22の上端は基板9との接触により摩耗し得る。つまり、支持ピン22は消耗品であるので、支持ピン22の交換が必要になるが、支持ピン22の本数が少ないほど支持ピン22の交換作業の手間を低減させることができる。
【0109】
<<支持ピン22の材質>>
第2支持ピン22bは例えば多孔質樹脂によって形成されてもよい。ここでいう多孔質樹脂とは、樹脂内部に多数の細孔が含まれた構造をいう。このような多孔質樹脂は、例えば、超臨界発泡成形等の発泡成形によって製造され得る。樹脂には、例えば、ポリプロピレンが適用され得る。樹脂内部に形成される細孔の直径の平均値は、例えば、数nm以上であってもよく、数十μm以下であってもよい。
【0110】
このような第2支持ピン22bの熱伝導率は比較的に低い。なぜなら、細孔内の気体は樹脂に比べて熱を伝達しにくいので、第2支持ピン22b内の熱の移動が多数の細孔によって妨げられるからである。第2支持ピン22bの熱伝導率は例えば0.12W/m・K以下であってもよい。
【0111】
第2支持ピン22bの熱伝導率が小さければ、第2支持ピン22bと基板9の内側領域B2との接触箇所を通じて第2支持ピン22bと基板9との間で移動する熱の量を低減させることができる。このため、基板9の温度の均一性をさらに向上させることができる。したがって、基板9の塗布領域A1に形成された塗布膜90の乾燥ムラをさらに抑制することができる。
【0112】
なお、第2支持ピン22bの全体が多孔質樹脂によって形成される必要はなく、例えば第2支持ピン22bのうち少なくとも第2当接部23bが多孔質樹脂によって形成されていればよい。例えば、第2当接部23bが多孔質樹脂によって形成され、第2柱状部25bが非多孔質樹脂によって形成されてもよい。これによっても、第2支持ピン22bと基板9との間で移動する熱の量を低減させることができる。もちろん、第2支持ピン22bの全体が多孔質樹脂によって形成されると、さらに熱の移動を低減させることができる。
【0113】
第1支持ピン22aも第2支持ピン22bと同様に多孔質樹脂によって形成されてもよい。これによれば、第1支持ピン22aと基板9の周縁領域B1との接触箇所を通じて第1支持ピン22aと基板9との間で移動する熱の量を低減させることができる。したがって、基板9の周縁領域B1の温度分布のばらつき量を低減させることができる。ひいては、基板9の周縁領域B1と内側領域B2との間の温度差を低減させることができ、周縁領域B1と内側領域B2との間の熱の移動を低減させることができる。このため、内側領域B2のうちの端部分における温度分布のばらつきの増大を抑制または回避することができる。
【0114】
<3.変形例>
本開示は、上述の一実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更および改良等が可能である。
【0115】
上記一実施形態では、基板9の周縁領域B1を支持する2つ以上の支持ピン22のうち少なくとも1つが第1支持ピン22aであればよい。言い換えれば、基板9の周縁領域B1を支持する2つ以上の支持ピン22のうちのいくつかが第2支持ピン22bであってもよい。要するに、基板9の周縁領域B1を支持する2つ以上の支持ピン22が第1支持ピン22aおよび第2支持ピン22bの両方を含んでいてもよい。1つ以上の太い第1支持ピン22aが基板9の周縁領域B1を支持すれば、基板9の水平方向の変位を抑制することができる。なお、周縁領域B1を支持する支持ピン22のうち、少なくとも半数以上が第1支持ピン22aであることが望ましい。
【0116】
また、基板9の塗布領域A1を支持する2つ以上の支持ピン22のうち少なくとも1つが第2支持ピン22bであればよい。言い換えれば、基板9の塗布領域A1を支持する2つ以上の支持ピン22のうちのいくつかが第1支持ピン22aであってもよい。1つ以上の細い第2支持ピン22bが基板9の塗布領域A1を支持すれば、塗布領域A1を第1支持ピン22aのみが支持する構造と比較して、塗布領域A1の温度分布のばらつき量を低減させることができる。なお、周縁領域B1を支持する支持ピン22のうち、少なくとも半分以上が第2支持ピン22bであることが望ましい。
【0117】
また、塗布膜90が基板9のうちの周縁領域B1を除く全面に形成されてもよい。
【0118】
上記一実施形態では、支持部20を昇降させる昇降部100が存在していなくてもよい。この場合には、複数の支持ピン22は、底面整流板40の上面等のチャンバ10内の部分あるいは底板部11の上面等のチャンバ10に対して固定されていてもよい。
【0119】
上記一実施形態では、例えば、チャンバ10が、4つの排気口16a,16b,16c,16dを有していたが、これに限られない。例えば、チャンバ10が有する排気口の数は、1つから3つおよび5つ以上の何れであってもよい。また、例えば、個別バルブVa,Vb,Vc,Vdは、なくてもよい。
【0120】
上記一実施形態では、減圧乾燥装置1は、基板9上の塗布膜90を、減圧によって乾燥させるものであったが、これに限られない。例えば、減圧乾燥装置1は、減圧および加熱によって、基板9上の塗布膜90を乾燥させるものであってもよい。
【0121】
上記一実施形態では、チャンバ10の側壁部12に、基板9の搬入出口14が設けられていたが、これに限られない。例えば、チャンバ10の4つの側壁部12および天板部13が一体の蓋部を構成しており、この蓋部が底板部11から分離して上方へ退避することができる構造が採用されてもよい。この場合には、例えば、蓋部が開閉駆動部16等によって上下に移動されてもよい。そして、チャンバ10は、蓋部がOリング等のシール材を介して底板部11に接触して内部空間10sを密閉している状態(密閉状態)と、蓋部が底板部11から上方へ分離して内部空間10sを開放している状態(開放状態)と、に選択的に設定され得る。ここで、チャンバ10が開放状態にあれば、チャンバ10の内部空間10sへの基板9の搬入およびチャンバ10の内部空間10sからの基板9の搬出を行うことができる。チャンバ10が閉鎖状態にあれば、内部空間10sからの排気および内部空間10sへの給気によって、基板9上の塗布膜90を減圧によって乾燥させることができる。
【0122】
上記一実施形態では、例えば、支持部20は種々の形態を有していてもよい。例えば、複数の支持プレート21は、一体的な1つの支持プレート21であってもよい。
【0123】
上記一実施形態では、例えば、底面整流板40がなくてもよいし、側面整流板50がなくてもよい。
【0124】
上記一実施形態では、例えば、減圧乾燥装置1における各種の動作は、例えば、入力部804に対するユーザの動作もしくは通信部806に対して外部の装置から入力された信号等に応答して、開始あるいは終了されてもよい。
【0125】
上記一実施形態では、例えば、制御部80において、実現される機能的な構成の少なくとも一部が、専用の電子回路等のハードウェアで構成されていてもよい。
【0126】
なお、上記一実施形態および各種変形例をそれぞれ構成する全部または一部を、適宜、矛盾しない範囲で組み合わせ可能であることは、言うまでもない。
【符号の説明】
【0127】
1 減圧乾燥装置
10 チャンバ
20 支持部
22 支持ピン
22a 第1支持ピン
22b 第2支持ピン
9 基板
90 塗布膜
30 排気部
B1 周縁領域
B2 内側領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13