(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-09
(45)【発行日】2024-08-20
(54)【発明の名称】尿由来間葉系幹細胞ミトコンドリアおよびその移植方法ならびに用途
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0775 20100101AFI20240813BHJP
【FI】
C12N5/0775
(21)【出願番号】P 2022187765
(22)【出願日】2022-11-24
【審査請求日】2022-11-24
(31)【優先権主張番号】202111418863.7
(32)【優先日】2021-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】505000826
【氏名又は名称】北京大学人民医院
(74)【代理人】
【識別番号】110002262
【氏名又は名称】TRY国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】沈 浣
(72)【発明者】
【氏名】姜 之▲しん▼
(72)【発明者】
【氏名】陳 曦
(72)【発明者】
【氏名】石 程
(72)【発明者】
【氏名】韓 紅敬
(72)【発明者】
【氏名】王 艶檳
(72)【発明者】
【氏名】付 旻
【審査官】平林 由利子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第109825470(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第111269883(CN,A)
【文献】韓国登録特許第10-2218126(KR,B1)
【文献】韓国公開特許第10-2021-0058060(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12N 1/00- 7/08
CAPLUS/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
卵細胞に移植するための尿由来間葉系幹細胞ミトコンドリアを抽出するための尿由来間葉系幹細胞ミトコンドリアの抽出方法であって、
(1)尿液を容器に収集し、遠心分離して上澄み液を捨て、容器にPBS緩衝液を加えて再懸濁し、再び遠心分離して上澄み液を捨て、尿由来間葉系幹細胞分離培地を使用して細胞沈殿を再懸濁し、ゼラチンコート6穴プレートに接種し、培養箱に入れて初代培養し、細胞クローンが形成されたら液を全部交換し、クローンが大片に融合した後、トリプシンで消化し、消化後トリプシンを吸引して除去し、尿由来間葉系幹細胞増幅培地で再懸濁し、新しい6穴プレート内に接種し、P1世代として記録するステップと、
(2)ステップ(1)で得られたP1世代を培養箱に入れて培養を続け、6穴プレート内のP1世代が85~95%の面積になるとき、トリプシンで消化し、消化後トリプシンを吸引して除去し、尿由来間葉系幹細胞増幅培地で再懸濁し、遠心分離して上澄み液を捨て、細胞溶解液を加え、氷上溶解した後ミトコンドリア抽出液を加えて均一に混合し、遠心分離し、上澄み液を吸引し、別の容器に移し、再び遠心分離して上澄み液を捨て、沈殿物をミトコンドリアとするステップと、
(3)再び遠心分離、洗浄、上澄み液捨てを繰り返し、ミトコンドリア保存液でミトコンドリア沈殿を再懸濁し、0~4℃で保存するステップと、を含む方法によって抽出される、ことを特徴とする尿由来間葉系幹細胞ミトコンドリアの抽出方法。
【請求項2】
ステップ(1)において、前記遠心分離はいずれも1200rpmで10分間行われ、細胞クローンの形成時間が7日間であり、クローンが大片に融合する時間が14日間である、ことを特徴とする請求項1に記載の尿由来間葉系幹細胞ミトコンドリアの抽出方法。
【請求項3】
ステップ(1)において、ゼラチンの濃度が0.1%ゼラチン水溶液であり、ステップ(1)および(2)において、前記培養箱はいずれも37℃、5% CO
2培養箱であり、前記トリプシンは0.05%トリプシン水溶液であり、消化時間はいずれも1分間である、ことを特徴とする請求項1に記載の尿由来間葉系幹細胞ミトコンドリアの抽出方法。
【請求項4】
ステップ(2)において、前記溶解時間が5分間であり、トリプシン消化後過剰のトリプシンを吸引し、各穴に1mLの尿由来間葉系幹細胞増幅培地を加えて再懸濁し、遠心分離管に移して、1200rpmで3分間遠心分離し、上澄み液を捨て、500μlの細胞溶解液を加え、氷上で5分間溶解した後、1mlのミトコンドリア抽出液を加えて均一に混合する、ことを特徴とする請求項1に記載の尿由来間葉系幹細胞ミトコンドリアの抽出方法。
【請求項5】
ステップ(2)において、1mlのミトコンドリア抽出液を加え、均一に混合し、800gで10分間遠心分離し、上澄み液を吸引し、別の遠心分離管内に移し、再び5000gで10分間遠心分離し、上澄み液を捨て、沈殿物をミトコンドリアとする、ことを特徴とする請求項1に記載の尿由来間葉系幹細胞ミトコンドリアの抽出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオメディカルの技術分野に属し、尿由来間葉系幹細胞ミトコンドリアおよびその移植方法ならびに用途に関し、具体的には、卵細胞質内単一精子マイクロインジェクション(ICSI)期間自己非侵襲的な尿由来間葉系幹細胞ミトコンドリア移植方法に関し、卵細胞品質を改善し、体外受精や胚培養に寄与することができる。
【背景技術】
【0002】
少子化や出産年齢の引き下げが進む中、不妊症女性の不妊問題への取り組みは、生殖工学の分野では現在ホットな研究テーマとなっている。生殖補助医療技術の一つである体外受精/卵細胞質内精子注入技術(In vitro fertilization/Intracytoplasmic sperm injection、IVF/ICSI)は、現在、国際的に約40%の成功率を誇る不妊症の有効な治療法ですが、高齢の患者や卵/胚の不良が繰り返される患者、すなわち予後不良の患者では、治療後の妊娠成績は非常に悪く、その治療法の確立が急務となっている。現在、文献上では、このグループの卵や胚の品質不良の主な原因は、卵や胚の発生に重要なエネルギー源を提供する重要な小器官であるミトコンドリアの問題であることが示唆されている。高齢者における卵の老化は、しばしばミトコンドリアの数と生物学的機能の減少を伴い、これらのミトコンドリア異常は、卵の分裂過程へのエネルギー供給不足や異数性率の上昇を招き、最終的には胚の質の低下や生殖能力の低下など、様々な問題を引き起こす可能性がある。したがって、ミトコンドリアを改善することによってこのグループの予後を改善することは、臨床的に実現可能な治療方法である。
【0003】
20世紀後半、高齢女性の不妊治療のために、若いグループの卵ミトコンドリアを高齢女性の卵に部分的に移植する方法がヨーロッパの一部の国で実施され、めざましい成果を上げたことがある。この技術は、顕微授精の際に精子と若いドナー源の卵細胞質の約1~5%をレシピエント卵に同時に注入し、特に高齢の女性において患者の卵の質を改善するものである。この技術により、1997~2001年に約30人の子供が生まれた。しかし、異種第三者の遺伝子を導入するため、倫理面や遺伝子の安全性に問題がある。
【0004】
自己ミトコンドリア移植は、異種ミトコンドリア移植の異質性や倫理的な問題から、最近注目されている。この技術は、自己細胞からミトコンドリアを抽出し、ICSIと同時に卵細胞に注入することで自身の高齢や卵細胞品質が悪い場合の不妊症問題を改善する。現在、自己ミトコンドリア移植の文献で報告される細胞源が少なく、主に卵巣乾細胞(OSC)と生殖系顆粒細胞(GC)があるが、このような細胞はいずれも卵巣生殖系由来で、高齢化に伴う二次老化の現象がある。また、OSCは、卵巣の皮質を大きく切り取る手術が必要で、卵巣機能が低下している患者自身にとって、二次的な傷害となることは間違いなく、さらに、成人におけるOSCの存在については賛否両論あり、成人ではOSCが存在しないことを指摘する証拠が多くある。したがって、最適な自己ミトコンドリア由来ドナー細胞の探索は、今後の研究にとって非常に必要な方向性にある。
【0005】
幹細胞は、その多能性から卵子期の代謝と類似しているため、理論的には幹細胞由来のミトコンドリアよりも卵子や胚の品質向上に適しているとされるが、自己幹細胞ミトコンドリア移植に関する基礎的・臨床的研究はあまり多く報告されていない。2017年の動物実験では、卵に移植した自己脂肪由来間葉系幹細胞(ASC)のミトコンドリアが、高齢マウスの卵の発育能力を有意に高めることが分かった。2018年、中山大学のXiaoyan Liangのチームは、不妊治療を繰り返す患者の治療に自家骨髄間葉系幹細胞(BMSC)由来のミトコンドリア移植を適用し、男性の生児出産に成功した初の事例を報告した。
【0006】
尿由来間葉系幹細胞(USC)は、強い増殖活性と多方向の分化能を有する成体幹細胞の一種で、尿から非侵襲的に得られ、培養により単離された細胞であり、MSCの生物学的特性をすべて備えているだけでなく、泌尿器系間葉系幹細胞の供給源となる利点もある。また、USCは尿から分離されるため、安全で非侵襲性、由来が限定されず、大量に入手でき、調製が容易なことから、細胞置換療法や組織工学研究の種細胞として理想的な細胞であり、組織や臓器の修復再構築や疾患モデル構築に応用するための研究がいくつか行われている。しかし、尿由来の間葉系幹細胞を女性の不妊治療に用いることは、これまで報告されていない。
【0007】
そこで、本特許出願を提出する。
【発明の概要】
【0008】
従来技術における問題を解決するために、本発明は、尿由来間葉系幹細胞ミトコンドリアおよびその移植方法ならびに用途を提供し、尿由来間葉系幹細胞ミトコンドリアを移植することにより、ヒト体外受精の受精率および胚品質を大幅に向上させることができる。
【0009】
本発明の目的は、尿由来間葉系幹細胞ミトコンドリアを提供することである。
【0010】
本発明の別の目的は、上記尿由来間葉系幹細胞ミトコンドリアの移植方法を提供することである。
【0011】
本発明のさらなる目的は、上記尿由来間葉系幹細胞ミトコンドリアの用途を提供することである。
【0012】
本発明は以下の技術手段を採用する。
尿由来間葉系幹細胞ミトコンドリアは、以下の方法によって抽出され、
(1)尿液を容器に収集し、遠心分離して上澄み液を捨て、容器にPBS緩衝液を加えて再懸濁し、再び遠心分離して上澄み液を捨て、尿由来間葉系幹細胞分離培地を使用して細胞沈殿を再懸濁し、ゼラチンコート6穴プレートに接種し、培養箱に入れて初代培養し、細胞クローンが形成されたら液を全部交換し、クローンが大片に融合した後、トリプシンで消化し、消化後トリプシンを吸引して除去し、尿由来間葉系幹細胞増幅培地で再懸濁し、新しい6穴プレート内に接種し、P1世代として記録する(以後、継代や培養は同じである)。
【0013】
(2)ステップ(1)で得られたP1世代を培養箱に入れて培養を続け、6穴プレート内のP1世代が85~95%の面積になるとき、トリプシンで消化し、消化後トリプシンを吸引して除去し、尿由来間葉系幹細胞増幅培地で再懸濁し、遠心分離して上澄み液を捨て、細胞溶解液を加え、氷上溶解した後ミトコンドリア抽出液を加えて均一に混合し、遠心分離し、上澄み液を吸引し、別の容器に移し、再び遠心分離して上澄み液を捨て、沈殿物をミトコンドリアとする。
【0014】
ステップ(2)の後、ステップ(3)を実施し、再び遠心分離、洗浄、上澄み液捨てを繰り返し、ミトコンドリア保存液でステップ(2)で得られた尿由来間葉系幹細胞ミトコンドリア沈殿を再懸濁し、0~4℃で保存する。
【0015】
さらに、ステップ(1)において、前記遠心分離はいずれも1200rpmで10分間行われる。
【0016】
さらに、細胞クローンが形成されたら液を全部交換し、クローンが大片に融合した後(100倍顕微鏡視野全体を占める)、トリプシンで消化する。
【0017】
消化後トリプシンを吸引して除去し、尿由来間葉系幹細胞増幅培地で再懸濁し、新しい6穴プレート内に接種し、P1世代として記録する(以後、継代や培養は同じである)。
またさらに、ステップ(1)において、細胞クローンの形成時間が7日間であり、クローンが大片に融合する時間が14日間である。
【0018】
さらに、ステップ(1)において、前記ゼラチンの濃度が0.1%であり、ステップ(1)および(2)において、前記培養箱はいずれも37℃、5% CO2培養箱であり、前記トリプシンが0.05%のトリプシン水溶液であり、トリプシンの添加量はいずれも約1mlであり、細胞表面全体に接触すればよく、前記消化時間はいずれも1分間である。
【0019】
さらに、ステップ(2)において、前記溶解時間が5分間であり、トリプシン消化後過剰のトリプシンを吸引し、各穴に1mLの尿由来間葉系幹細胞増幅培地を加えて再懸濁し、遠心分離管に移して、1200rpmで3分間遠心分離し、上澄み液を捨て、500μlの細胞溶解液を加え、氷上で5分間溶解した後、1mlのミトコンドリア抽出液を加え、均一に混合する。
【0020】
さらに、ステップ(2)において、1mlのミトコンドリア抽出液を加え、均一に混合し、800gで10分間遠心分離し、上澄み液を吸引し、別の遠心分離管内に移し、再び5000gで10分間遠心分離し、上澄み液を捨て、沈殿物をミトコンドリアとする。
【0021】
さらに、ステップ(3)において、5000gで10分間遠心分離し、洗浄し、上澄み液を捨て、50μlのミトコンドリア保存液で遠心分離管内のミトコンドリア沈殿を再懸濁し、4度または氷上で保存して用意する。
【0022】
上記尿由来間葉系幹細胞ミトコンドリアの移植方法は、卵細胞質内単一精子マイクロインジェクション期間、精子と尿由来間葉系幹細胞ミトコンドリアを成熟した卵細胞に注入する。さらに胚盤胞培養を実施し、本発明で抽出した尿由来間葉系幹細胞ミトコンドリアは、卵細胞品質を改善し、受精率および胚品質、人間体外受精胚発育率を向上させることができる。
【0023】
さらに、前記尿由来間葉系幹細胞ミトコンドリアは、自己尿由来間葉系幹細胞ミトコンドリアである。自己尿由来間葉系幹細胞ミトコンドリアと卵細胞は同一人、つまり患者自身に由来する尿由来間葉系幹細胞であり、第三者の供給源に由来するものではない。
【0024】
具体的に、前記の移植方法は、微細操作針で精子を掴んで制動し、精子を注入針の先端に動かし、尿由来間葉系幹細胞ミトコンドリア微滴に移し(上記方法で調製した尿由来間葉系幹細胞ミトコンドリアを含有するミトコンドリア保存液)、数回吸引してホモジネートを形成し、前記尿由来間葉系幹細胞ミトコンドリア液滴を吸引し、尿由来間葉系幹細胞ミトコンドリア液滴と単一精子を成熟した卵細胞質に注入し、注入が完了した後、胚培養液内に移して胚盤胞培養を実施することを含む。
【0025】
さらに、前記移植方法は、マイクロ操作台下で、内径4.5μmの微細操作針を選択し、精子を掴んで制動し、精子を注入針の先端に動かし、ミトコンドリアの微小液滴に移し、数回吸引してホモジネートを形成し、注入針で前記尿由来間葉系幹細胞ミトコンドリア液滴を吸引し、注入針の前端10μm体積長の4~6万個のミトコンドリアと単一精子を成熟した卵細胞質に注入する。注入が完了した後、胚培養液内に移して胚盤胞培養を実施することを含む。
【0026】
好ましくは、4.8~5.2万個の尿由来間葉系幹細胞ミトコンドリア((上記方法で抽出した尿由来間葉系幹細胞ミトコンドリアのミトコンドリア))を成熟した卵細胞質に注入する。
【0027】
上記の尿由来間葉系幹細胞ミトコンドリアの卵細胞品質改善剤における用途である。
具体的に、4~6万個の尿由来間葉系幹細胞ミトコンドリアを成熟した卵細胞質に注入して、卵細胞の品質を改善する。
【0028】
好ましくは、4~6万個の自己尿由来間葉系幹細胞ミトコンドリアを成熟した卵細胞質に注入して、卵細胞の品質を改善する。自己尿由来間葉系幹細胞ミトコンドリアと卵細胞は同一人、つまり患者自身に由来する尿由来間葉系幹細胞であり、第三者の遺伝物質の導入や倫理的問題はない。
【0029】
より具体的に、卵細胞質内単一精子マイクロインジェクション期間、精子と4~6万個の自己尿由来間葉系幹細胞ミトコンドリアを成熟した卵細胞に注入する。
【0030】
さらに、微細操作針で精子を掴んで制動し、精子を注入針の先端に動かし、尿由来間葉系幹細胞ミトコンドリア微滴に移し(上記方法で調製した尿由来間葉系幹細胞ミトコンドリアを含有するミトコンドリア保存液)、数回吸引してホモジネートを形成し、前記尿由来間葉系幹細胞ミトコンドリア液滴を吸引し、4~6万個の自己尿由来間葉系幹細胞ミトコンドリア液滴と単一精子を成熟した卵細胞質に注入する。
【0031】
卵細胞品質改善剤は、前記尿由来間葉系幹細胞ミトコンドリアを含有する。
【0032】
本発明者の開発チームは、自己由来の多くの間葉系幹細胞(骨髄、脂肪、尿)をミトコンドリア機能と代謝能力の各レベルで総合的に評価し、安全性の検証を行った結果、尿由来間葉系幹細胞のミトコンドリアは成熟度、機能、代謝モードにおいて他の種類の間葉系幹細胞よりも卵細胞に近く、さらに非侵襲的に入手できる利点を有し、自己細胞ミトコンドリアの供給源として適するため、研究および応用において複数の利点がある。さらに、本発明者は、患者自己に由来する尿由来間葉系幹細胞ミトコンドリアを抽出してICSI期間単一精子とともに注入した結果、試験組では受精率および胚品質が大幅に改善されることを見だした。
【0033】
従来技術と比較すると、本発明は以下の有益な効果を有する。
【0034】
(1)本発明の尿由来間葉系幹細胞ミトコンドリアの抽出方法を用いることにより、患者の尿液から高活性の尿由来間葉系幹細胞ミトコンドリアを抽出できることが、試験により実証された。
【0035】
本発明は尿由来間葉系幹細胞ミトコンドリアの移植方法を提供し、尿由来間葉系幹細胞ミトコンドリアを移植することにより、卵細胞の品質を改善して、ヒト体外受精の受精率および胚品質を大幅に向上させることができる。
【0036】
(2)本発明は尿由来間葉系幹細胞ミトコンドリアの移植方法を提供し、従来ICSI期間尿由来間葉系幹細胞ミトコンドリアの移植を組み合わせて、予後不良の不妊患者の体外受精に適用でき、治療効果が良好である。
【0037】
(3)本発明者は、患者自己に由来する尿由来間葉系幹細胞ミトコンドリアをICSI期間単一精子とともに注入した結果、試験組では受精率および胚品質が大幅に改善されることを見だした。
【0038】
(4)本発明は従来技術における異種ミトコンドリア移植の異種問題および倫理的問題を解決し、自己ミトコンドリア源は第三者の遺伝物質の導入や倫理的問題を伴わず、さらに、安全で非侵襲的であり、供給源が限定されず大量に入手でき、本発明の移植方法は自己非侵襲的な不妊症治療を実現することができる。
【0039】
(5)本発明の尿由来間葉系幹細胞のミトコンドリア移植方法は、操作が簡単で、実用的であり、非侵襲的に入手でき、パーキンソン症候群、心臓病、変性神経筋疾患、代謝性疾患などミトコンドリア代謝異常に関連する他の種類の疾患に対する自己ミトコンドリア治療にも使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
本発明の実施例または従来技術の技術手段をより明確にするために、以下、実施例または従来技術の説明で使用される必要な図面を簡単に説明するが、明らかに、以下で説明される図面は本発明のいくつかの実施例に過ぎず、当業者にとって、創造的な労働をすることなく、これらの図面に基づいて他の図面を得ることができる。
【
図1】予後不良の患者の成熟卵細胞のミトコンドリア生物活性と正常者との比較を示す図である。
【
図2】本発明の実施例3によるP1世代の尿由来間葉系幹細胞の光顕微鏡写真である。
【
図3】尿由来間葉系幹細胞フローサーフェスマーカーの同定を示す図である。
【
図4】本発明の実施例3により抽出した尿由来間葉系幹細胞ミトコンドリアの活性同定を示す図である。
【
図5】本発明のICSI期間単一精子と自己尿由来間葉系幹細胞ミトコンドリアを合わせて注入する過程を示す図である。
【
図6】本発明の体外授精後1日目対照組と試験組の受精状況の比較を示す図である。
【
図7】本発明の体外授精後3日目対照組と試験組の胚発育状況の比較を示す図である。
【
図8】本発明の体外授精後5日目対照組と試験組の胚発育状況の比較を示す図である。
【
図9】尿、骨髓、脂肪由来の間葉系幹細胞および卵巣顆粒細胞のミトコンドリアのコピー数の違いの比較を示す図である。
【
図10】尿、骨髓、脂肪由来の間葉系幹細胞および卵巣顆粒細胞の細胞外酸産生能力(ECAR)の比較を示す図である。
【
図11】尿、骨髓、脂肪由来の間葉系幹細胞および卵巣顆粒細胞の酸素消費量(OCR)の比較を示す図である。
【
図12】尿、骨髓、脂肪由来の間葉系幹細胞および卵巣顆粒細胞のミトコンドリアコードの電子輸送系遺伝子の発現プロファイルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明の目的、技術手段および利点をより明確にするために、以下、実施例と図面を参照しながら本発明の技術手段をさらに詳細に説明する。当然のことながら、説明される実施例は本発明の一部の実施例に過ぎず、すべての実施例ではない。本発明の実施例に基づいて、当業者は創造的な労働をすることなく得られた他の実施形態は、すべて本発明の保護範囲に含まれる。
【0042】
以下の実施例で使用される尿由来間葉系幹細胞分離培地、尿由来間葉系幹細胞増幅培地、溶解液、ミトコンドリア抽出液、トリプシンおよびミトコンドリア保存液はいずれも市販品である。そのうちに、尿由来間葉系幹細胞分離培地(品番AV-1501、Asia Vector)、尿由来間葉系幹細胞増幅培地(品番AV-1501-B、Asia Vector)、溶解液 (品番MITOISO2成分、Sigma)、ミトコンドリア抽出液(品番MITOISO2成分、Sigma)、トリプシン(Sigma)ミトコンドリア保存液(品番MITOISO2成分、Sigma)を使用する。
【0043】
<実施例1>
本実施例は、以下の方法によって尿由来間葉系幹細胞ミトコンドリアを抽出する。
【0044】
(1)尿液を容器に収集し、遠心分離して上澄み液を捨て、容器にPBS緩衝液を加えて再懸濁し、再び遠心分離して上澄み液を捨て、尿由来間葉系幹細胞分離培地を使用して細胞沈殿を再懸濁し、ゼラチンコート6穴プレートに接種し、培養箱に入れて初代培養し、細胞クローンが形成されたら液を全部交換し、クローンが大片に融合した後、トリプシンで消化し、消化後トリプシンを吸引して除去し、USC増幅培地で再懸濁し、新しい6穴プレート内に接種し、P1世代として記録する(以後、継代や培養は同じである)。
【0045】
(2)ステップ(1)で得られたP1世代を培養箱に入れて培養を続け、6穴プレート内のP1世代が85~95%の面積になるとき、トリプシンで消化し、消化後トリプシンを吸引して除去し、尿由来間葉系幹細胞増幅培地で再懸濁し、遠心分離して上澄み液を捨て、細胞溶解液を加え、氷上溶解した後ミトコンドリア抽出液を加えて均一に混合し、遠心分離し、上澄み液を吸引し、別の容器に移し、再び遠心分離して上澄み液を捨て、沈殿物をミトコンドリアとする。
【0046】
(3)再び遠心分離、洗浄、上澄み液捨てを繰り返し、ミトコンドリア保存液でミトコンドリア沈殿を再懸濁し、4℃以下で保存する。
【0047】
<実施例2>
本実施例は尿由来間葉系幹細胞ミトコンドリアの移植方法を提供する。この移植方法は、卵細胞質内単一精子マイクロインジェクション期間、精子と尿由来間葉系幹細胞ミトコンドリア(ミトコンドリア保存液でミトコンドリア沈殿を再懸濁して得られたミトコンドリア溶液微滴)を成熟した卵細胞に注入し、胚盤胞培養を実施して、卵細胞品質を改善し、受精率および胚品質、人間体外受精胚発育率を向上させる。
【0048】
<実施例3>
本実施例中の予後不良患者の成熟卵細胞のミトコンドリア生物活性と正常者の比較
共焦点顕微鏡で正常者と予後不良患者の成熟卵細胞ミトコンドリア活性を観察する。
図1に示すように、ミトコンドリア膜電位指標であるテトラメチルローダミンエチルエステル、赤い蛍光はミトコンドリア活性の強さを表す。
【0049】
図1の結果から分かるように、正常者の卵細胞ミトコンドリア生物活性が予後不良患者よりも顕著に高い。
【0050】
以下のステップ(1)~(3)を経って同一予後不良患者の尿由来間葉系幹細胞ミトコンドリアを抽出する。
【0051】
(1)上記予後不良患者の尿液200mLを収集し、50mL減菌遠心分離管に分注し、1200rpmで10分間遠心分離し、上澄み液を捨て、20mLのPBSで再懸濁し、再び1200rpmで10分間遠心分離し、上澄み液を捨て、USC分離培地で細胞沈殿を再懸濁し、0.1%ゼラチンコート6穴プレートに接種し、37℃、5%CO
2培養箱で初代培養し、7日目に小さなクローンが形成された後液体全体を置換し、14日目にクローンが大片に融合した後(100倍顕微鏡の視野全体を占める)、0.05%のトリプシンを加えて消化し、1分間消化した後過剰のトリプシンを吸引し、USC増幅培地で再懸濁し、新しい6穴プレート内に接種し、P1世代として記録する(P1世代の尿由来間葉系幹細胞光顕微鏡の写真は
図2に示される)。
【0052】
尿由来間葉系幹細胞フローサーフェスマーカーの同定
フローサイトメトリーを用いて尿由来間葉系幹細胞の陽性発現間葉系幹細胞表面陽性マーカーCD29、CD73、CD90、CD13、CD44、SSEA-4、陰性発現CD45、CD34、CD31、HLA-DRなどの造血乾細胞および内皮細胞マーカーを検出し、その間葉系源が確認され、結果が
図3に示される。
図3から分かるように、本発明で分離した細胞は尿由来間葉系幹細胞である。
【0053】
(2)ステップ(1)で得られたP1世代の尿由来間葉系幹細胞を37℃、5%CO2培養箱に入れて培養を続ける。以後、継代や培養は同じであり、6穴プレート内のP1世代の尿由来間葉系幹細胞が90%に増殖したら、0.05%のトリプシンで消化し、1分間消化した後過剰のトリプシンを吸引し、1mLの尿由来間葉系幹細胞増幅培地で再懸濁し、1.5mLの減菌EP管内に吸引し、1200rpmで3分間遠心分離し、上澄み液を捨て、細胞溶解液500μlを加え、氷上で5分間溶解し(1分ごとに転倒させて均一に混合する)、その後1mlのミトコンドリア抽出液を加え、均一に混合し、800gで10分間遠心分離し、上澄み液を吸引し、新しい1.5mLの減菌EP管内に移し、再び5000gで10分間遠心分離し、上澄み液を捨て、沈殿物をミトコンドリアとする。
【0054】
(3)再び5000gで10分間遠心分離し、洗浄、上澄み液捨てを繰り返し、50μlのミトコンドリア保存液でミトコンドリア沈殿を再懸濁して得られたミトコンドリア液を氷上で保存して用意する。
【0055】
尿由来間葉系幹細胞ミトコンドリアの活性同定
尿由来間葉系幹細胞ミトコンドリアを抽出した後、共焦点顕微鏡でミトコンドリア活性を観察し、結果が
図4に示される。
図4では、TMREはテトラメチルローダミンエチルエステルであり、つまりTMREをミトコンドリア膜電位指標として使用し、赤い蛍光はミトコンドリア活性の強さを表し、FCCPは酸化的リン酸化アンカプラーであり、左図は実施例3で得られた尿由来間葉系幹細胞ミトコンドリアにFCCPではなくTMREを添加したものであり、赤い蛍光強度は尿由来間葉系幹細胞ミトコンドリアが活性を有することを示し、右図はTMREとFCCPを添加して陰性対照とし、添加した後赤い蛍光が著しく減少し、ミトコンドリア活性が著しく低下することを示す。
【0056】
次に、成熟卵細胞を用いてICSI体外授精を実施する。具体的には、マイクロ操作台下で、内径4.5μmの微細操作針を選択し、精子を掴んで制動し、精子を注入針の先端に動かし、ミトコンドリアの微小液滴に移し、抽出を繰り返してミトコンドリア液滴を吸引し(ステップ(3)で50μlのミトコンドリア保存液でミトコンドリア沈殿を再懸濁して得られたミトコンドリア液)、注入に必要なミトコンドリア濃度を確保し、前端10μm体積長(約5万個のミトコンドリア)と先に掴んで制動した精子を成熟した卵細胞質に注入し(
図5に示され)、注射器の先端部分がミトコンドリアであり、ミトコンドリアの後が単一精子であり、注入が完了した後、胚培養液内に移して胚盤胞培養を開始する。
【0057】
同一患者姉妹卵に対する従来ICSI組(対照組)とICSI期間自己USCミトコンドリア移植試験組との違い
試験組:3人患者の姉妹卵を実施例3の方法でICSIミトコンドリア注入体外授精を行った。
【0058】
対照組:試験組との違いは、対照組は、自己尿由来間葉系幹細胞ミトコンドリアの移植を行わず、従来ICSI体外授精を採用した。具体的な方法は以下のとおりであり、成熟卵細胞を用いて従来ICSI体外授精を実施し、マイクロ操作台下で、内径4.5μmの微細操作針を選択し、精子を掴んで制動し、精子を注入針の先端に動かし、成熟した卵細胞質に注入し、注入が完了した後、胚培養液内に移して胚盤胞培養を実施する。
【0059】
対照組と試験組の受精状況、胚状況を比較し、結果が
図6~
図8に示される。図から分かるように、1日目に対照組が異常受精し、試験組が正常受精し、複式前駆核(2PN)を形成し(
図6)、3日目に対照組がIV級胚(断片)、試験組が9細胞III級胚であり、卵割速度が正常であり(
図7)、5日目に対照組が胚発育不良であり、試験組がBC級初期胚盤胞が得られる(
図8)。上記試験から分かるように、試験組の正常受精率、卵割速度、胚品質がいずれも改善される。
【0060】
本発明者は、自己由来の多くの間葉系幹細胞(骨髓、脂肪、尿液)に対してミトコンドリア機能および代謝能力を各レベルで総合的に評価し、安全性の検証を行った結果、尿由来間葉系幹細胞のミトコンドリアは、成熟度、機能、代謝モードにおいて他の種類の間葉系幹細胞よりも卵細胞に近く、具体的には以下のとおりである。
【0061】
1、尿由来(USC)、骨髓由来(BMSC)、脂肪由来(ASC)間葉系幹細胞および卵巣顆粒細胞(GC)のミトコンドリアコピー数の違いを比較し、結果を
図9に示す。
【0062】
図9から分かるように、若年グループGC、USC、BMSC、ASCのミトコンドリアコピー数は著しい違いがなく、高齢GC、BMSCのミトコンドリアコピー数は若年グループよりも著しく減少し、USC、ASCのミトコンドリアコピー数の減少幅が大きくなく、高齢USCのミトコンドリアコピー数が高齢GC、BMSCよりも著しく高い。
【0063】
2、尿由来(USC)、骨髓由来(BMSC)、脂肪由来(ASC)間葉系幹細胞および卵巣顆粒細胞(GC)の細胞代謝およびミトコンドリア機能を比較し、結果が
図10および
図11に示され、
図10は検出細胞の細胞外酸産生能力(ECAR)を示し、細胞質糖分解能を間接に表し、
図11は検出細胞の酸素消費量(OCR)を示し、ミトコンドリア酸化的リン酸化能力を反映する。
【0064】
図10および
図11から分かるように、尿由来間葉系幹細胞(USC)の全体細胞代謝能力(糖分解と酸化リン酸化)は、若年者、高齢患者を問わず同齢者の骨髓由来、脂肪由来間葉系幹細胞および卵巣顆粒細胞よりも旺盛である。
【0065】
3、尿由来(USC)、骨髓(BMSC)、脂肪(ASC)由来間葉系幹細胞および卵巣顆粒細胞(GC)のミトコンドリアコードの電子輸送系遺伝子の発現パターンが
図12に示される。
【0066】
図12から分かるように、尿由来間葉系幹細胞ミトコンドリア(USC)コードの電子輸送系遺伝子発現レベルは、若年者、高齢患者ともに他の細胞種よりも増加した。
【0067】
上記の試験から分かるように、尿由来間葉系幹細胞のミトコンドリアは、数、ミトコンドリア機能、遺伝子発現モードの点で他の種類の間葉系幹細胞よりも優れ、非侵襲的に大量に入手できる特性と併せて、自己ミトコンドリア由来の好ましい供給源として適している。
【0068】
以上、本発明の具体的な実施形態を説明したが、本発明の保護範囲はこれに限定されず、当業者は、本発明の技術範囲内で容易に想到した変更や置換は、すべて本発明の保護範囲に含まれる。したがって、本発明の保護範囲は前記特許請求の範囲の保護範囲に従うものとする。