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特許7536895DNA構築物、ベクター、細菌及びポリペプチドを製造する方法
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  • 特許-DNA構築物、ベクター、細菌及びポリペプチドを製造する方法 図1
  • 特許-DNA構築物、ベクター、細菌及びポリペプチドを製造する方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-09
(45)【発行日】2024-08-20
(54)【発明の名称】DNA構築物、ベクター、細菌及びポリペプチドを製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 9/16 20060101AFI20240813BHJP
   C12N 15/31 20060101ALI20240813BHJP
   C12N 15/82 20060101ALI20240813BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20240813BHJP
   A01H 6/82 20180101ALI20240813BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240813BHJP
【FI】
C12N9/16 Z ZNA
C12N15/31
C12N15/82 Z
C12N1/21
A01H6/82
C12N15/63 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022571580
(86)(22)【出願日】2021-12-22
(86)【国際出願番号】 JP2021047678
(87)【国際公開番号】W WO2022138757
(87)【国際公開日】2022-06-30
【審査請求日】2023-06-15
(31)【優先権主張番号】P 2020215323
(32)【優先日】2020-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(74)【代理人】
【識別番号】100211199
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 さやか
(72)【発明者】
【氏名】小倉 宏明
(72)【発明者】
【氏名】若林 勇樹
【審査官】松本 淳
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-231720(JP,A)
【文献】国際公開第2008/111450(WO,A1)
【文献】特開2004-194658(JP,A)
【文献】特表2014-502497(JP,A)
【文献】Database Uniprot [online],2020年10月07日,[検索日 2024.03.29], <URL: https://www.uniprot.org/uniprot/ A0A1Z2KV77.txt?version=8>,Accession No. A0A1Z2KV77
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 9/00- 9/99
C12N 15/00-15/90
C07K 14/705
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)又は(b)のポリペプチドのC末端にHisタグが付加されているポリペプチドであって、前記HisタグとC末端アミノ酸の間にはリンカーが存在しないポリペプチド、をコードするDNAを含む、発現宿主における異種タンパク質発現用のDNA構築物であり、
発現宿主が、配列番号3に記載のポリペプチドの少なくとも一カ所を切断する酵素を含む、DNA構築物
(a)配列番号1、2又は11に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(b)配列番号1、2又は11に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、ホスホジエステラーゼ活性を有する、ポリペプチド。
【請求項2】
発現宿主が植物である、請求項1に記載のDNA構築物。
【請求項3】
発現宿主がタバコ属植物である、請求項1又は2に記載のDNA構築物。
【請求項4】
請求項1~のいずれか一項に記載のDNA構築物を含むベクター。
【請求項5】
細菌形質転換用である、請求項に記載のベクター。
【請求項6】
請求項又はに記載のベクターで形質転換された細菌であり、
配列番号3に記載のポリペプチドの少なくとも一カ所を切断する酵素を含む、細菌
【請求項7】
アグロバクテリウムである、請求項に記載の細菌。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の細菌を発現宿主又は発現宿主細胞に感染させる工程を含む、請求項1に記載のポリペプチドを製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNA構築物、ベクター、細菌及びポリペプチドを製造する方法に関する。より具体的には、本発明は、異種タンパク質発現用のDNA構築物、ベクター、細菌、及び、かかる細菌を使用したポリペプチドを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子組換え技術により異種タンパク質を発現させ、精製する際、タンパク質のC末端又はN末端にHisタグを付加することや、HisタグをC末端又はN末端に直接付加することにより、構造への影響などから発現量や精製したタンパク質の機能へ悪影響が生じる可能性が想定されうる場合は、タンパク質とHisタグの間にリンカーを挿入させることが通常行われる(例えば、特許文献1、特許文献2及び非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2014/139980号
【文献】国際公開第2017/106684号
【非特許文献】
【0004】
【文献】Hochuli et al., “Genetic Approach to Facilitate Purification of Recombinant Proteins with a Novel Metal Chelate Adsorbent” Bio/Technology, Vol 6, Num 11, pp 1321-1325(1988)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発明者らは、ホスホジエステラーゼ(PDE)を発現させる際にこのようなDNA構築物を使用するとホスホジエステラーゼの収率又は比活性が低くなる場合があるという新規な課題を見いだした。
【0006】
本発明は、ホスホジエステラーゼを異種発現させ、精製する場合において、ホスホジエステラーゼの高い収率及び比活性が得られるDNA構築物、ベクター、細菌、及び、かかる細菌を使用したポリペプチドを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らが、上述の新規な課題を解決すべく鋭意検討した結果、C末端アミノ酸とHisタグ間にリンカーを挿入した際にホスホジエステラーゼの収率又は比活性が低くなること、及びホスホジエステラーゼの収率又は比活性が低くなる原因として、発現宿主又は発現宿主へ形質転換するための細菌に含まれる酵素により特定のアミノ酸配列が切断されるためであることを発見した。そして、ホスホジエステラーゼのC末端アミノ酸とHisタグの間にリンカーが存在しない場合に、ホスホジエステラーゼの高い収率及び比活性が得られることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、例えば、以下の発明を提供する。
【0009】
[1] 以下の(a)又は(b)のポリペプチドのC末端及びN末端の少なくとも一方にHisタグが付加されているポリペプチドであって、上記C末端に上記Hisタグが付加されている場合、上記HisタグとC末端アミノ酸の間にはリンカーが存在しないポリペプチド、をコードするDNAを含む、異種タンパク質発現用のDNA構築物。
(a)配列番号1、2又は11に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(b)配列番号1、2又は11に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、ホスホジエステラーゼ活性を有する、ポリペプチド。
[2] 発現宿主が、配列番号3に記載のポリペプチドの少なくとも一カ所を切断する酵素を含む、[1]に記載のDNA構築物。
[3] 発現宿主が植物である、[1]又は[2]に記載のDNA構築物。
[4] 発現宿主がタバコ属植物である、[1]~[3]のいずれかに記載のDNA構築物。
[5] [1]~[4]のいずれかに記載のDNA構築物を含むベクター。
[6] 細菌形質転換用である、[5]に記載のベクター。
[7] [5]又は[6]に記載のベクターで形質転換された細菌。
[8] 配列番号3に記載のポリペプチドの少なくとも一カ所を切断する酵素を含む、[7]に記載の細菌。
[9] アグロバクテリウムである、[7]又は[8]に記載の細菌。
[10] [7]~[9]のいずれかに記載の細菌を発現宿主又は発現宿主細胞に感染させる工程を含む、[1]に記載のポリペプチドを製造する方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ホスホジエステラーゼを異種タンパク質発現させ、精製する場合において、ホスホジエステラーゼの高い収率及び比活性が得られるDNA構築物、ベクター、細菌、及び、かかる細菌を使用したポリペプチドを製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1において確認した、ホスホジエステラーゼのC末端のVGRとリンカー間の配列VGRGGGGS(配列番号12)における切断部位を示す概略図である。
図2】実施例3において、ウエスタンブロッティングでホスホジエステラーゼの発現を評価した結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は一実施形態として、
以下の(a)又は(b)のポリペプチドのC末端及びN末端の少なくとも一方にHisタグが付加されているポリペプチドであって、上記C末端に上記Hisタグが付加されている場合、上記HisタグとC末端アミノ酸の間にはリンカーが存在せず、上記N末端に上記Hisタグが付加されている場合、上記HisタグとN末端アミノ酸の間にはリンカーが存在しても存在しなくてもよい、ポリペプチド、をコードするDNAを含む、異種タンパク質発現用のDNA構築物を提供する。
ここで、上記ポリペプチドは、(a)配列番号1、2又は11に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド、(b)配列番号1、2又は11に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、ホスホジエステラーゼ活性を有する、ポリペプチドである。
【0013】
細菌由来のホスホジエステラーゼには、例えば、ウェルシュ菌(Clostridium perfringens)、リステリア菌(Listeria monocytogenes)、ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)、セレウス菌(Bacillus cereus)、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)及び黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)等の細菌を由来とするホスホジエステラーゼがある。
【0014】
配列番号1は、放線菌由来のホスホジエステラーゼタンパク質の前駆型のアミノ酸配列を表す。配列番号1に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列は、N末端アミノ酸がメチオニンであってよく、C末端がバリン-トレオニン-バリン-グリシン又はアラニン-アルギニン(VTVXR(X=G or A))(配列番号13)であってもよい。
【0015】
配列番号2は、成熟型ホスホジエステラーゼタンパク質のアミノ酸配列を表す。配列番号2に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列は、N末端アミノ酸がメチオニンであってよく、C末端がバリン-トレオニン-バリン-グリシン又はアラニン-アルギニン(VTVXR(X=G or A))であってもよい。
【0016】
配列番号11は、配列番号1又は2に記載のホスホジエステラーゼの起源である放線菌株と異なる株の放線菌株に由来するホスホジエステラーゼタンパク質のアミノ酸配列を表す。配列番号11に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列は、N末端アミノ酸がメチオニンであってよく、C末端がバリン-トレオニン-バリン-グリシン又はアラニン-アルギニン(VTVXR(X=G or A))(配列番号13)であってもよい。
【0017】
本実施形態におけるDNA構築物は、上記(a)又は(b)のポリペプチドのN末端にHisタグが付加されているポリペプチド、をコードするDNAを含むものであってもよい。そのようなポリペプチドの例示としては、配列番号5又は配列番号8のアミノ酸配列からなるポリペプチドが挙げられる。当該ポリペプチドは、配列番号8のアミノ酸配列からなるポリペプチドのように、C末端にさらにHisタグが付加されているもの(ただし、HisタグとC末端アミノ酸の間にはリンカーは存在しない)であってもよく、配列番号5のアミノ酸配列からなるポリペプチドのように、C末端にHisタグが付加されていないものであってもよい。
【0018】
また、本実施形態におけるDNA構築物は、上記(a)又は(b)のポリペプチドのC末端にHisタグが付加されているポリペプチドであって、上記HisタグとC末端アミノ酸の間にはリンカーが存在しない、ポリペプチド、をコードするDNAを含むものであってもよい。そのようなポリペプチドの例示としては、配列番号6又は配列番号8のアミノ酸配列からなるポリペプチドが挙げられる。当該ポリペプチドは、配列番号8のアミノ酸配列からなるポリペプチドのように、N末端にさらにHisタグが付加されているものであってもよく、配列番号6のアミノ酸配列からなるポリペプチドのように、N末端にはHisタグが付加されていないものであってもよい。
【0019】
本実施形態におけるDNA構築物は、配列番号5、配列番号6又は配列番号8のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするDNAを含むものであってもよい。
【0020】
本明細書において、特定の配列(例えば、配列番号1、2、3、5、6、8、12)に対する配列同一性は、例えば、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上であってよい。
【0021】
本発明は、C末端アミノ酸とHisタグ間にリンカーを挿入した際に、特定のアミノ酸配列が切断される(例えば、VTVXR(配列番号13)-GGG間(X=G or A))との発見に基づくものである。すなわち、HisタグとC末端アミノ酸の間に、GGGをN末端に含むリンカー(例えば、GGGGS(配列番号9))が存在すると、C末端アミノ酸のVTVXR(X=G or A)(配列番号13)とリンカーのGGG間が酵素により切断されてしまう。したがって、(a)又は(b)のポリペプチドのC末端及びN末端の少なくとも一方にHisタグが付加されているポリペプチドにおいて、C末端にHisタグが付加されている場合、HisタグとC末端アミノ酸の間にはリンカーが存在しないことが重要である。すなわち、HisタグとC末端アミノ酸の間にはリンカーが存在せず、C末端アミノ酸に直接Hisタグが連結していることが好ましい。一方、N末端にHisタグが付加されている場合、HisタグとN末端アミノ酸の間にはリンカーが存在しても存在しなくてもよい。
【0022】
HisタグとN末端アミノ酸の間に含み得るリンカーとしては、特に制限されないが、例えば、GGGGS(配列番号9)、GS、及びSG等が挙げられる。
【0023】
Hisタグは、ニッケル等の金属イオンと特異的に結合する性質を利用して、ポリペプチドの精製に用いることができる短いペプチドである。Hisタグに含まれるヒスチジン残基は、例えば、4~10個であってよく、5~7個であってよく、6個であってよい。また、Hisタグは、N末端にメチオニンを含むもの、例えば、MHHHHHH(配列番号10)であってもよい。
【0024】
本実施形態におけるDNA構築物は、異種タンパク質発現(組換えタンパク質発現)用である。
【0025】
本実施形態におけるDNA構築物は、異種タンパク質発現のため、発現宿主へ形質転換することができる。発現宿主としては、細菌等の原核生物、酵母、糸状真菌、昆虫、動物、藻類及び植物等の真核生物並びにこれらの細胞を用いることができる。
【0026】
細菌としては、例えば、大腸菌(Escherichia coli)、ブレビバチルス属(Brevibacillus)細菌、コリネバクテリウム属(Corynebacterium)細菌及びロドコッカス属(Rhodococcus)細菌等を挙げることができる。
【0027】
酵母としては、例えば、サッカロミケス属(Saccharomyces)、ピチア属(Pichia)、カンジダ属(Candida)及びトルロプシス属(Torulopsis)に属する酵母等を挙げることができる。
【0028】
糸状真菌としては、例えば、アスペルギルス属(Aspergillus)、ペニシリウム属(Penicillium)及びトリコデルマ属(Trichoderma)に属する糸状真菌等を挙げることができる。
【0029】
昆虫としては、例えば、チョウ目(Lepidoptera)のヤガ科(Noctuidae)及びカイコガ科(Bombycidae)の昆虫等を挙げることができる。
【0030】
動物としては、例えば、哺乳類動物が挙げられ、動物細胞としては、例えば、ヒト子宮頸がん、ヒト胎児腎、ハムスター卵巣及びアフリカミドリザル腎を由来とする細胞等を挙げることができる。
【0031】
藻類としては、例えば、クラミドモナス属(Chlamydomonas)及びシネココッカス属(Synechococcus)に属する藻類等を挙げることができる。
【0032】
植物としては、例えば、ナス科(例えば、タバコ、ナス、トマト、ピーマン、トウガラシ)、バラ科(例えば、バラ、イチゴ)、アブラナ科(例えば、シロイヌナズナ、アブラナ、ハクサイ、キャベツ、ダイコン、ナタネ)、キク科(例えば、キク、シュンギク、レタス)、アカザ科(例えば、ホウレンソウ、テンサイ)、イネ科(例えば、コムギ、イネ、オオムギ、トウモロコシ)及びマメ科(例えば、ダイズ、アズキ、インゲン、ソラマメ)に属する植物等が挙げられる。例えば、植物は、ナス科又アブラナ科の植物であってよく、タバコ属植物又はシロイヌナズナ属植物であってよく、ニコチアナ・ベンサミアーナ(Nicotiana benthamiana)、ニコチアナ・タバカム(Nicotiana tabacum)又はシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)であってもよい。
【0033】
発現宿主は、VTVXRGGG(X=G or A)(配列番号3)に記載のポリペプチドの少なくとも一カ所を切断する酵素を含むものであってよい。発現宿主が上記酵素を含むものである場合、本願発明の効果がより顕著に奏されるため好ましい。
【0034】
本実施形態におけるDNA構築物は、ポリペプチドをコードするDNAの他、例えば、プロモーター配列、リボソーム結合配列、翻訳開始サイト、ポリアデニル化テール、コザック配列、複製起点、遺伝的マーカー、抗生物質耐性、エピトープ、ターゲティング配列及びレポーター遺伝子等を含んでいてもよい。
【0035】
本実施形態におけるDNA構築物は、公知の方法により発現宿主へ形質転換することができる。公知の方法としては、例えば、エレクトロポレーション法、カルシウムイオンを用いる方法、スフェロプラスト法、プロトプラスト法、酢酸リチウム法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、及びコンピテントセル法等を挙げることができる。植物を発現宿主として異種タンパク質を発現させる方法としては、例えば、アグロインフィルトレーション法、植物ウイルスベクター法、magnICON(登録商標)システム、及びパーティクルガン法が挙げられる。
【0036】
本実施形態におけるDNA構築物を発現宿主へ形質転換するため、DNA構築物を含むベクターを使用することができる。ベクターとしては、例えば、プラスミド、ウイルス、コスミド、ラムダファージ及び人工染色体等が挙げられる。ベクターは、プロモーター配列等を含む発現ベクターであることが好ましい。
【0037】
発現宿主が真核生物である場合、ベクターは、プロモーター配列、リボソーム結合配列、翻訳開始サイト、ポリアデニル化テール及びコザック配列等を有することが好ましい。
【0038】
発現宿主が細菌等の原核生物である場合、ベクターは、原核生物中で自立複製が可能であり、プロモーター配列、リボソーム結合配列及び翻訳開始サイト等を有することが好ましい。
【0039】
ベクターは、これらの他に、例えば、複製起点、遺伝的マーカー、抗生物質耐性、エピトープ、ターゲティング配列及びレポーター遺伝子等を含むこともできる。
【0040】
本実施形態におけるDNA構築物を含むベクターを直接発現宿主に形質転換してもよく、本実施形態におけるDNA構築物を含むベクターを任意の細胞へ形質転換し、そのDNA構築物を導入した細胞を利用して発現宿主へ形質転換してもよい。DNA構築物を導入する細胞としては、例えば、細菌、酵母及び動物細胞等が挙げられる。当該DNA構築物を細胞へ導入するためのベクターを、細胞形質転換用ベクターと表すことができ、細胞が細菌である場合には、細菌形質転換用ベクターと表すことができる。例えば、この細菌形質転換用ベクターにより形質転換された細菌を発現宿主又は発現宿主細胞に感染させることで、発現宿主又は発現宿主細胞において異種タンパク質である上述したポリペプチドを発現させることができる。
【0041】
発現宿主が植物である場合は、DNA構築物を導入する細菌としては、例えば、アグロバクテリウム(Agrobacterium)種、リゾビウム(Rhizobium)属、シノリゾビウム(Sinorhizobium)属、メソリゾビウム(Mesorhizobium)属、フィロバクテリウム(Phyllobacterium)属、オクロバクテリウム(Ochrobactrum)属及びブラディリゾビウム(Bradyrhizobium)属の細菌が挙げられ、アグロバクテリウム(Agrobacterium tumefaciens)であることが好ましい。
【0042】
細菌形質転換用ベクターにより形質転換される細菌は、VTVXRGGG(X=G or A)(配列番号3)に記載のポリペプチドの少なくとも一カ所を切断する酵素を含むものであってよい。上記細菌が上記酵素を含むものである場合、本願発明の効果がより顕著に奏されるため好ましい。
【0043】
植物を発現宿主とする場合について以下により詳細に説明する。植物を発現宿主として異種タンパク質であるポリペプチドを発現させる方法は、公知の方法により行うことができる。そのような方法としては、例えば、アグロインフィルトレーション法、植物ウイルスベクター法、magnICON(登録商標)システム、及びパーティクルガン法が挙げられる。
【0044】
アグロインフィルトレーション法を使用する場合、本実施形態のDNA構築物でアグロバクテリウムを形質転換し、そのアグロバクテリウムを植物体に感染させることで異種タンパク質であるポリペプチドを発現する植物体を得ることができる。DNA構築物がポリペプチドをコードするDNAを挿入したT-DNAを含んでいてもよく、DNA構築物をベクターのT-DNAに挿入し、アグロバクテリウムを形質転換してもよい。
【0045】
植物ウイルスベクター法を使用する場合、本実施形態のDNA構築物を挿入した植物ウイルスゲノムのcDNAから得られたRNAをベクターとして植物体に接種して感染させることで異種タンパク質であるポリペプチドを発現する植物体を得ることができる。このようなウイルスベクターとしては、例えば、タバコモザイクウイルス(TMV)ベクター、プラムポックスウイルス(PPV)ベクター、ジャガイモXウイルス(PVX)ベクター、アルファルファモザイクウイルス(AIMV)ベクター、キュウリモザイクウイルス(CMV)ベクター、カウピーモザイクウイルス(CPMV)ベクター、及びズッキーニイエローモザイクウイルス(ZYMV)ベクター等が挙げられる。
【0046】
magnICON(登録商標)システムを使用する場合、本実施形態のDNA構築物を挿入したTMV又はPVXゲノムのcDNAをT-DNAベクター内に導入し、得られたT-DNAベクターで形質転換したアグロバクテリウムを植物体に感染させることで異種タンパク質であるポリペプチドを発現する植物体を得ることができる。
【0047】
パーティクルガン法を使用する場合、本実施形態のDNA構築物で被覆した金属微粒子を高速で射出し、DNA構築物を細胞内に導入することで異種タンパク質であるポリペプチドを発現する植物体を得ることができる。
【0048】
本発明は一実施形態として、上述したDNA構築物を含むベクターで形質転換された細菌を発現宿主又は発現宿主細胞に感染させる工程を含む、ポリペプチドを製造する方法も提供する。
【0049】
本実施形態の製造方法は、感染させた発現宿主又は発現宿主細胞を培養する工程をさらに含んでいてよい。培養は、当該宿主の培養を効率的に行える培養培地を用いて培養してもよい。そのような培地としては、天然培地又は合成培地のいずれをも用いることができる。また、培養は、当該宿主の培養を効率的に行える条件下で行うことが好ましい。
【0050】
本実施形態の製造方法は、発現宿主又は発現宿主細胞を感染させた後に、発現させたポリペプチドを抽出する工程をさらに含んでいてよい。ポリペプチドの抽出は、発現宿主及びポリペプチドの種類等により、公知の方法により行うことができるが、例えば、物理的な破砕(ホモジナイザー、ビーズミル、超音波、及びフレンチプレス等)による方法、浸透圧ショック法、凍結融解法、界面活性剤の添加による方法及び酵素消化法により行うことができる。発現宿主が植物であり、形質転換されたアグロバクテリウムを感染させた場合には、例えば、アグロバクテリウムに感染させてから5日~14日後、7日~12日後又は7日後の植物体を凍結した後、物理的に破壊することで行ってもよい。また、例えば、物理的破壊後に遠心し、目的のポリペプチドを含む上清又は沈殿を回収してもよい。
【0051】
本実施形態の製造方法は、抽出したポリペプチドを単離、精製及び/又は濃縮する工程をさらに含んでいてよい。ポリペプチドの単離、精製及び/又は濃縮は、発現宿主及びポリペプチドの種類等により、公知の方法により行うことができるが、例えば、アフィニティー、イオン交換、ゲルろ過及び疎水性相互作用クロマトグラフィーにより行うことができる。
【0052】
本実施形態に係る方法により、製造されるポリペプチドの収率(%)は、50~100%、50%以上、59%以上、70%、80%、又は90%以上とすることができる。収率は、精製後のポリペプチドの量(例えば、試料の濃度)/精製前のポリペプチドの量×100として算出することができる。また、本実施形態に係る方法により、製造されるポリペプチドの比活性(U/mg)は、3000~6000U/mg、3500~5300U/mg、4000~5300U/mg又は5000~5500U/mgとすることができる。比活性は、例えば、Phosphodiesterase Assay Kit (Colorimetric)(アブカム社製、カタログ番号ab138876)を用いて測定することができる。
【0053】
本実施形態に係る方法における具体的な態様等は、上述した具体的な態様等を制限なく適用できる。
【実施例
【0054】
[実施例1 質量分析器による切断部位の確認]
PDE-GS-His(後述する発現コンストラクト1、配列番号4)をコードするDNAをタバコモザイクウイルス(TMV)ベクター(Icon Genetics社製)にクローニングし、アグロバクテリウム(Agrobacterium tumefaciens)に導入して形質転換して培養した後、培養液の混合液をニコチアナ・ベンサミアーナの葉にインフィルトレーションし、1週間ほどで収穫した。収穫した葉(感染葉)を凍結した。
【0055】
後述する実施例3の「3.精製」と同様の方法により得られたサンプルを試料として、以下の手順で質量分析器(LC-MS)により切断部位を確認した。
【0056】
まず、試料を重炭酸アンモニウム溶液に置換した。その後、界面活性剤で変性後、還元とアルキル化を行った。ギ酸を添加後、LC-MS測定に供試した。測定結果をMASCOT Server(マトリックスサイエンス社)を使用して帰属した。
【0057】
その結果、PDEのC末端のVGRとリンカーの配列VGRGGGGS(配列番号12)において、Rと隣り合うGの間が切断されていることが分かった(図1)。また、この切断は、タンパク質発現にあたり使用したアグロバクテリウム又は発現宿主であるニコチアナ・ベンサミアーナに含まれる酵素によるものであることが示唆された。
【0058】
[実施例2 特定の部位を切断するプロテアーゼの探索]
PDE-GS-Hisについて、Peptide Cutter(https://web.expasy.org/ peptide_cutter/)を用いて、-VTVXR(X=G or A)(切断部位)GGG-で切断するプロテアーゼ候補を検索した結果、Arg-C proteinase、Clostripain、Thrombin、Trypsinが抽出された。
【0059】
Arg-C proteinase、Thrombin、TrypsinはプロテアーゼのS1ファミリーに属し、ClostripainはC11ファミリーに属す。
【0060】
MEROPS(https://www.ebi.ac.uk/merops/index.shtml)にて、タバコ植物(N.benthamiana)のプロテアーゼ情報を取得した結果、S1ファミリーとして、18種類のプロテアーゼが抽出され(表1)、いずれかの酵素により切断を受けている可能性が示唆された。
【0061】
【表1】
【0062】
MEROPS(https://www.ebi.ac.uk/merops/index.shtml)にて、チャイニーズハムスター(Cricetulus griseus)のプロテアーゼ情報を取得した結果、S1ファミリーとして、222種類のプロテアーゼが抽出された(詳細省略)。哺乳類細胞による異種タンパク質発現として一般的に使用される、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)でPDE-GS-Hisを発現した場合にも、-VTVXR(X=G or A)(切断部位)GGG-(配列番号14)で切断される可能性があることが示唆された。
【0063】
MEROPS(https://www.ebi.ac.uk/merops/index.shtml)にて大腸菌BL21(DE3)株(Escherichia coli BL21(DE3))のプロテアーゼ情報を取得した結果、S1ファミリーとして、16種類のプロテアーゼが抽出された(詳細省略)。大腸菌による異種タンパク質発現として一般的に使用される、大腸菌BL21(DE3)株でPDE-GS-Hisを発現した場合にも、-VTVXR(X=G or A)(切断部位)GGG-(配列番号14)で切断される可能性があることが示唆された。
【0064】
[実施例3 ホスホジエステラーゼ精製収率向上のためのタグ配列の検討]
1.ベクター作製及びタンパク質発現
ホスホジエステラーゼ精製のためのタグ配列を有するポリペプチドを発現させるための、以下の発現コンストラクト1~5を設計した。
【0065】
発現コンストラクト1:PDE-GS-His(比較例)
AAPSLSVMAFNVEQLPSITELAGTPGSDRRAERREAAAVVIKRENADVVVLDEAFNKYAQAMRAMELKEVYPYQTSLVGEYCSGSGRWTSYEGNCSNSPFVVNGGVTLLSKYPILESHQLVYRNSDSKTSDYKSNKGAALARLSVNGQSVWVAGTHLQADEEGSSPVGNTRKVRLEQLKELRAWASDKAGGAPVVVAGDFNVEYYTTDPKNGHAPGTGVSGEVAKANEALGGVLATPGTTGYTYDMVDNPRARLRDDKDNGYAKYRNRLDYIGYIKGTGTQPSFSDERIVGYDGLRKGGDPLAEIPSDHQPIVSRVTVGRGGGGSHHHHHH(配列番号4)
【0066】
発現コンストラクト2:His-SG-PDE
HHHHHHSGAAPSLSVMAFNVEQLPSITELAGTPGSDRRAERREAAAVVIKRENADVVVLDEAFNKYAQAMRAMELKEVYPYQTSLVGEYCSGSGRWTSYEGNCSNSPFVVNGGVTLLSKYPILESHQLVYRNSDSKTSDYKSNKGAALARLSVNGQSVWVAGTHLQADEEGSSPVGNTRKVRLEQLKELRAWASDKAGGAPVVVAGDFNVEYYTTDPKNGHAPGTGVSGEVAKANEALGGVLATPGTTGYTYDMVDNPRARLRDDKDNGYAKYRNRLDYIGYIKGTGTQPSFSDERIVGYDGLRKGGDPLAEIPSDHQPIVSRVTVGR(配列番号5)
【0067】
発現コンストラクト3:PDE-His
AAPSLSVMAFNVEQLPSITELAGTPGSDRRAERREAAAVVIKRENADVVVLDEAFNKYAQAMRAMELKEVYPYQTSLVGEYCSGSGRWTSYEGNCSNSPFVVNGGVTLLSKYPILESHQLVYRNSDSKTSDYKSNKGAALARLSVNGQSVWVAGTHLQADEEGSSPVGNTRKVRLEQLKELRAWASDKAGGAPVVVAGDFNVEYYTTDPKNGHAPGTGVSGEVAKANEALGGVLATPGTTGYTYDMVDNPRARLRDDKDNGYAKYRNRLDYIGYIKGTGTQPSFSDERIVGYDGLRKGGDPLAEIPSDHQPIVSRVTVGRHHHHHH(配列番号6)
【0068】
発現コンストラクト4:His-SG-PDE-GS-His(比較例)
HHHHHHSGAAPSLSVMAFNVEQLPSITELAGTPGSDRRAERREAAAVVIKRENADVVVLDEAFNKYAQAMRAMELKEVYPYQTSLVGEYCSGSGRWTSYEGNCSNSPFVVNGGVTLLSKYPILESHQLVYRNSDSKTSDYKSNKGAALARLSVNGQSVWVAGTHLQADEEGSSPVGNTRKVRLEQLKELRAWASDKAGGAPVVVAGDFNVEYYTTDPKNGHAPGTGVSGEVAKANEALGGVLATPGTTGYTYDMVDNPRARLRDDKDNGYAKYRNRLDYIGYIKGTGTQPSFSDERIVGYDGLRKGGDPLAEIPSDHQPIVSRVTVGRGGGGSHHHHHH(配列番号7)
【0069】
発現コンストラクト5:His-SG-PDE-His
HHHHHHSGAAPSLSVMAFNVEQLPSITELAGTPGSDRRAERREAAAVVIKRENADVVVLDEAFNKYAQAMRAMELKEVYPYQTSLVGEYCSGSGRWTSYEGNCSNSPFVVNGGVTLLSKYPILESHQLVYRNSDSKTSDYKSNKGAALARLSVNGQSVWVAGTHLQADEEGSSPVGNTRKVRLEQLKELRAWASDKAGGAPVVVAGDFNVEYYTTDPKNGHAPGTGVSGEVAKANEALGGVLATPGTTGYTYDMVDNPRARLRDDKDNGYAKYRNRLDYIGYIKGTGTQPSFSDERIVGYDGLRKGGDPLAEIPSDHQPIVSRVTVGRHHHHHH(配列番号8)
【0070】
各発現コンストラクトをコードするDNAをタバコモザイクウイルス(TMV)ベクター(Icon Genetics社製)にクローニングし、アグロバクテリウムに導入して形質転換して培養した後、培養液の混合液をニコチアナ・ベンサミアーナの葉にインフィルトレーションし、1週間ほどで収穫した。収穫した葉(感染葉)を凍結した。
【0071】
2.発現試験
感染葉に3倍量の抽出バッファー(100mM Tris,250mM NaCl,5mM EDTA)を加えてビーズミルで破砕し、氷上で30min放置したのち、遠心分離(8000xg,4℃、10分間)して上清を回収し、SDS-PAGE及びウエスタンブロッティングで分析した。
【0072】
HRP標識した抗ホスホジエステラーゼ抗体を用いたウエスタンブロッティングで発現を評価した結果を図2に示す。
【0073】
3.精製
凍結した感染葉500gを量りとり、カッターミキサーで粉砕した。粉砕物に抽出溶液(100mM Tris、250mM NaCl、40mM アスコルビン酸ナトリウム)250mLを添加し、感染葉を繰り返し粉砕した。
【0074】
カッターミキサーから回収した粉砕された感染葉と、新たな抽出溶液250mLでミキサー内を洗い込むことで得られた、粉砕された感染葉とを混合した。12,000×gで5分間遠心離して上清(抽出工程画分)を回収した。
【0075】
抽出工程画分のpHを調整した後、これを0.45μmフィルター、続いて0.22μmフィルターで濾過した。濾液をニッケルカラムクロマトグラフィー(GEヘルスケア社製、HisPrep FF 16/10カラム、カタログ番号28936551)にかけることで植物由来不純物を除去した。これにより、試料溶液を得た。
【0076】
4.ELISAによる収率評価
抗PDE抗体を96ウェルマイクロプレートに固相した。ウェルを洗浄後、ブロッキング溶液を添加しブロッキングを行った。ウェルにスタンダード溶液と試料溶液を添加し反応させた後、ウェルにHRP標識抗PDE抗体を添加し反応させた。ウェルにHRP基質を添加し反応させ、ウェルに反応停止液を添加し、反応を停止した。各ウェルの450nmの吸光度を測定し、スタンダード溶液の結果から検量線を作成し試料濃度を算出した。精製前、カラム素通りの及び精製後の各試料濃度から、収率を算出した。
【0077】
ELISAの結果を以下の表2に示す(誤差10%)。
【0078】
【表2】
【0079】
5.比活性測定
精製したポリペプチドの比活性を、Phosphodiesterase assay Kit(アブカム社製、カタログ番号ab138876)の手順書に倣い測定した。
【0080】
ELISAの結果及び比活性測定の結果を以下の表3に示す。
【0081】
【表3】
【0082】
これにより、C末端にリンカーを介してHisタグが結合している発現コンストラクトを用いた場合と比較して、C末端にリンカーを介してHisタグが結合していない発現コンストラクトを用いた場合において、PDEの収率及び比活性が向上することが示された。
図1
図2
【配列表】
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