(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-09
(45)【発行日】2024-08-20
(54)【発明の名称】誘電体フィルタアンテナ、電子デバイス、およびアンテナアレイ
(51)【国際特許分類】
H01Q 13/08 20060101AFI20240813BHJP
H01Q 21/24 20060101ALI20240813BHJP
H01P 7/06 20060101ALI20240813BHJP
【FI】
H01Q13/08
H01Q21/24
H01P7/06
(21)【出願番号】P 2022581001
(86)(22)【出願日】2021-06-25
(86)【国際出願番号】 CN2021102294
(87)【国際公開番号】W WO2022001856
(87)【国際公開日】2022-01-06
【審査請求日】2023-02-06
(31)【優先権主張番号】202010602533.2
(32)【優先日】2020-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】503433420
【氏名又は名称】華為技術有限公司
【氏名又は名称原語表記】HUAWEI TECHNOLOGIES CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】Huawei Administration Building, Bantian, Longgang District, Shenzhen, Guangdong 518129, P.R. China
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133569
【氏名又は名称】野村 進
(72)【発明者】
【氏名】▲鄒▼ 孟
(72)【発明者】
【氏名】石 晶
【審査官】鈴木 肇
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第109818142(CN,A)
【文献】特開2019-102885(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0045406(US,A1)
【文献】国際公開第2020/004274(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0293279(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0118206(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 1/00-25/04
H01P 1/20- 1/219
H01P 7/00- 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体アンテナと、少なくとも1層の誘電体共振空洞とを備える誘電体フィルタアンテナであって、前記誘電体アンテナは最上層に位置し、前記少なくとも1層の誘電体共振空洞は前記誘電体アンテナの下に位置し、前記誘電体アンテナと、前記誘電体アンテナに隣接する誘電体共振空洞との間でエネルギー結合が行われ、前記誘電体アンテナおよび前記誘電体共振空洞の材料は、高誘電率を有するセラミック誘電体で
あり、
前記誘電体アンテナは、前記少なくとも1層の誘電体共振空洞とともに誘電体フィルタを構成する、誘電体フィルタアンテナ。
【請求項2】
前記誘電体アンテナおよび前記誘電体アンテナに隣接する前記誘電体共振空洞に設けられたスロット、プローブ、または表面金属層を使用して、前記誘電体アンテナと、前記誘電体アンテナに隣接する前記誘電体共振空洞との間で前記エネルギー結合が行われる、請求項1に記載の誘電体フィルタアンテナ。
【請求項3】
第1のスロットは、前記誘電体アンテナの底面から内向きに配置され、第2のスロットは、前記誘電体アンテナに隣接する前記誘電体共振空洞の上面から内向きに配置され、前記第1のスロットの位置は前記第2のスロットの位置と揃えられ、前記エネルギー結合は、前記第1のスロットおよび前記第2のスロットを使用して、前記誘電体アンテナと前記誘電体アンテナに隣接する前記誘電体共振空洞との間で行われる、請求項1または2に記載の誘電体フィルタアンテナ。
【請求項4】
第1のプローブは、前記誘電体アンテナの底面から内向きに配置され、第2のプローブは、前記誘電体アンテナに隣接する前記誘電体共振空洞の上面から内向きに配置され、前記第1のプローブの位置は前記第2のプローブの位置と揃えられ、前記エネルギー結合は、前記第1のプローブおよび前記第2のプローブを使用して、前記誘電体アンテナと前記誘電体アンテナに隣接する前記誘電体共振空洞との間で行われる、請求項1または2に記載の誘電体フィルタアンテナ。
【請求項5】
前記第1のプローブおよび前記第2のプローブは両方とも金属化貫通孔であり、前記第1のプローブおよび前記第2のプローブはパッドを使用して接続される、請求項4に記載の誘電体フィルタアンテナ。
【請求項6】
表面金属層は、前記誘電体アンテナの側面に配置され、プローブは、前記誘電体アンテナに隣接する前記誘電体共振空洞の上面から内向きに配置され、前記表面金属層の位置は前記プローブの位置と揃えられ、前記エネルギー結合は、前記表面金属層および前記プローブを使用して、前記誘電体アンテナと前記誘電体アンテナに隣接する前記誘電体共振空洞との間で行われる、請求項1または2に記載の誘電体フィルタアンテナ。
【請求項7】
前記プローブは金属化貫通孔であり、前記プローブおよび前記表面金属層はパッドを使用して接続される、請求項6に記載の誘電体フィルタアンテナ。
【請求項8】
前記誘電体アンテナは二重偏波アンテナである、請求項1から7のいずれか一項に記載の誘電体フィルタアンテナ。
【請求項9】
前記誘電体アンテナの表面の一部が金属めっきを有する、請求項1から8のいずれか一項に記載の誘電体フィルタアンテナ。
【請求項10】
前記少なくとも1層の誘電体共振空洞内の各誘電体共振空洞のすべての表面が金属めっきを有する、請求項1から9のいずれか一項に記載の誘電体フィルタアンテナ。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載の誘電体フィルタアンテナを備える電子デバイス。
【請求項12】
請求項1から10のいずれか一項に記載の複数の誘電体フィルタアンテナを備えるアンテナアレイであって、前記複数の誘電体フィルタアンテナは水平方向および/または垂直方向のアレイを形成する、アンテナアレイ。
【請求項13】
前記アンテナアレイはネットワークデバイスに適用される、請求項12に記載のアンテナアレイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2020年6月29日に中国国家知識産権局に出願された、「誘電体フィルタアンテナ、電子デバイス、およびアンテナアレイ」と題された中国特許出願第202010602533.2号の優先権を主張するものであり、その全体は参照によりここに組み込まれる。
【0002】
本出願は、アンテナ分野に関し、より具体的には、誘電体フィルタアンテナ、電子デバイス、およびアンテナアレイに関する。
【背景技術】
【0003】
現代の無線通信技術の発展に伴い、通信システムは、小型化、一体化、および多機能化される傾向がある。これに対応して、通信デバイスは、無線周波数フロントエンド回路に対する要求がますます高まっている。アンテナおよびフィルタは、無線周波数フロントエンド回路の2つの重要な構成要素である。既存の解決策では、アンテナおよびフィルタは独立して設計される。アンテナおよびフィルタは、インピーダンス整合を実装し、連携して動作するために、伝送線路または整合回路を使用してカスケード接続される必要がある。追加の伝送線路または整合回路は、アンテナシステム全体のサイズの増加、アンテナシステム全体の性能の低下、および追加の損失の発生を必然的に引き起こす。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本出願は、伝送線路または整合回路の使用を回避し、挿入損失を回避し、それによって小さいサイズおよび良好なエコー性能を実装するために、誘電体フィルタアンテナ、電子デバイス、およびアンテナアレイを提供する。
【0005】
第1の態様によれば、誘電体アンテナと、少なくとも1層の誘電体共振空洞とを含む誘電体フィルタアンテナが提供される。誘電体アンテナは、最上層に位置する。少なくとも1層の誘電体共振空洞は、誘電体アンテナの下に位置する。誘電体アンテナと、誘電体アンテナに隣接する誘電体共振空洞との間でエネルギー結合が行われる。誘電体アンテナおよび誘電体共振空洞の材料は、高誘電率を有するセラミック誘電体である。
【0006】
第1の態様の誘電体フィルタアンテナは、最上層に位置する誘電体アンテナと、誘電体アンテナの下に位置する少なくとも1層の誘電体共振空洞とを含む。エネルギー結合は、伝送線路または整合回路の使用を回避し、挿入損失を回避し、それによって小さいサイズおよび良好なエコー性能を実装するために、誘電体アンテナと誘電体アンテナに隣接する誘電体共振空洞との間で行われる。
【0007】
第1の態様における誘電体フィルタアンテナの誘電体アンテナは、誘電体フィルタのアンテナおよび最終レベルの共振空洞の両方として機能し、少なくとも1層の誘電体共振空洞とともに誘電体フィルタを構成する。言い換えると、誘電体フィルタアンテナは、アンテナおよびフィルタの両方である。第1の態様の誘電体フィルタアンテナは、フィルタの機能を実装しながら、アンテナの放射機能を実装することができる。
【0008】
第1の態様の誘電体フィルタアンテナでは、フィルタ構造、共通構成要素構造、および放射構造は共同的に設計され、これにより、従来の解決策におけるカスケード効果によるフィルタの入力ポートでのエコー劣化のケースを回避する。
【0009】
第1の態様の誘電体フィルタアンテナは、積層して設計されてもよい。積層設計に基づいて、伝送線路または整合回路は、フィルタとアンテナとの間で回避されることが可能である。言い換えると、全体的な挿入損失を低減するために、給電ネットワークの経路が低減され得る。
【0010】
第1の態様の誘電体フィルタアンテナ内の誘電体アンテナのサイズは、大幅に低減される。伝送線路または整合回路は、伝送線路または整合回路の使用によって導入される挿入損失を回避するために、誘電体アンテナと少なくとも1層の誘電体共振空洞との間の接続のために使用される必要はない。フィルタおよびアンテナは、一体化されるように設計される。構造全体がコンパクトである。このようにして、アンテナシステム内の構造は効果的に低減されることが可能であり、アンテナシステムのサイズは大幅に低減されることが可能であり、アンテナシステムの小型化、一体化、および高性能に対する開発要件はより良好に満たされることが可能である。
【0011】
第1の態様の誘電体フィルタアンテナでは、構造のサイズを効果的に低減するために、フィルタおよびアンテナの両方が、処理を通じて高誘電率を有するセラミック誘電体で作られる。
【0012】
第1の態様の可能な実装形態では、少なくとも1層の誘電体共振空洞内の各誘電体共振空洞のすべての表面は、金属めっきを有する。この可能な実装形態では、共振空洞のエネルギーが漏れ出るのを防ぎ、誘電体共振空洞の性能を改善するために、誘電体共振空洞のすべての表面に金属層がめっきされる。
【0013】
第1の態様の可能な実装形態では、誘電体アンテナの表面の一部が金属めっきを有する。この可能な実装形態では、誘電体アンテナの周波数を調整するために、誘電体アンテナの表面の一部に金属層がめっきされる。
【0014】
上記の可能な実装形態では、金属めっきの材料は、銀、金、スズなどであってもよい。これは、本出願では限定されない。
【0015】
第1の態様の可能な実装形態では、誘電体アンテナおよび誘電体アンテナに隣接する誘電体共振空洞に設けられたスロット、プローブ、または表面金属層を使用して、誘電体アンテナと、誘電体アンテナに隣接する誘電体共振空洞との間でエネルギー結合が行われる。この可能な実装形態では、誘電体アンテナおよび誘電体共振空洞の形状、サイズ、および相対位置に基づいて、伝送線路または整合回路の使用によって導入される挿入損失を回避するために、誘電体アンテナと誘電体共振空洞との間のエネルギー結合を完成させるために、スロット、プローブ、または表面金属層の1つまたは組合せが使用され得る。
【0016】
第1の態様の可能な実装形態では、第1のスロットは、誘電体アンテナの底面から内向きに配置され、第2のスロットは、誘電体アンテナに隣接する誘電体共振空洞の上面から内向きに配置される。第1のスロットの位置は、第2のスロットの位置と揃えられる。第1のスロットおよび第2のスロットを使用して、誘電体アンテナと、誘電体アンテナに隣接する誘電体共振空洞との間でエネルギー結合が行われる。
【0017】
第1の態様の可能な実装形態では、第1のプローブは、誘電体アンテナの底面から内向きに配置され、第2のプローブは、誘電体アンテナに隣接する誘電体共振空洞の上面から内向きに配置される。第1のプローブの位置は、第2のプローブの位置と揃えられる。第1のプローブおよび第2のプローブを使用して、誘電体アンテナと、誘電体アンテナに隣接する誘電体共振空洞との間でエネルギー結合が行われる。
【0018】
前述の可能な実装形態では、第1のプローブおよび第2のプローブは両方とも金属化貫通孔であり、第1のプローブおよび第2のプローブはパッドを使用して接続される。
【0019】
第1の態様の可能な実装形態では、表面金属層は、誘電体アンテナの側面に配置され、プローブは、誘電体アンテナに隣接する誘電体共振空洞の上面から内向きに配置される。表面金属層の位置は、プローブの位置と揃えられる。表面金属層およびプローブを使用して、誘電体アンテナと、誘電体アンテナに隣接する誘電体共振空洞との間でエネルギー結合が行われる。
【0020】
前述の可能な実装形態では、プローブは金属化貫通孔であり、プローブおよび表面金属層はパッドを使用して接続される。
【0021】
第1の態様の可能な実装形態では、誘電体アンテナは二重偏波アンテナである。このようにして、二重偏波誘電体フィルタアンテナが形成されることが可能である。
【0022】
第2の態様によれば、第1の態様および第1の態様の任意の可能な実装形態による誘電体フィルタアンテナを含む電子デバイスが提供される。
【0023】
第3の態様によれば、第1の態様および第1の態様の任意の可能な実装形態による誘電体フィルタアンテナを含むアンテナアレイが提供される。複数の誘電体フィルタアンテナが、水平方向および/または垂直方向のアレイを形成する。第3の態様では、アンテナアレイは、小さい粒度および自由度の高いレイアウトを有する。
【0024】
第3の態様の可能な実装形態では、アンテナアレイは、ネットワークデバイス、例えば基地局に適用される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】アンテナおよびフィルタが伝送線路を使用して接続されている概略図である。
【
図3】本出願の一実施形態による、誘電体フィルタアンテナの概略図である。
【
図4】本出願の一実施形態による、誘電体フィルタアンテナの概略図である。
【
図5】本出願の一実施形態による、誘電体フィルタアンテナの概略図である。
【
図6】本出願の一実施形態による、誘電体フィルタアンテナの概略図である。
【
図7】本出願の一実施形態による、二重偏波誘電体フィルタアンテナの概略図である。
【
図8】本出願の一実施形態による、誘電体フィルタアンテナのエコー性能と既存のアンテナのエコー性能との比較の図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下では、添付図面を参照して本出願の技術的解決策について説明する。
【0027】
まず、既存のアンテナおよび既存のフィルタが説明される。
【0028】
既存の解決策では、アンテナおよびフィルタは、合意されたポート特性インピーダンスに基づいて、2つの構成要素として独立して設計および処理される。
図1は、アンテナおよびフィルタが(モジュール内にあってもよい)伝送線路を使用して接続されている概略図である。
図1に示されるように、フィルタ110は入力ポート112および出力ポート114を有し、アンテナ120は入力ポート122を有する。伝送線路130の一端はフィルタ110の出力ポート114に接続され、他端はアンテナ120の入力ポート122に接続されている。伝送線路は、整合回路(給電回路とも呼ばれる)に置き換えられてもよい。アンテナおよびフィルタは、合意されたポート特性インピーダンス、例えば50オームに基づいて、独立して設計および処理される。2つのデバイス、すなわち、フィルタおよびアンテナのポート特性インピーダンスは、動作帯域幅の範囲内で、合意されたポート特性インピーダンス(50オーム)と完全に等しくなることはできない。2つのデバイスが伝送線路または整合回路を使用してカスケード接続された後、フィルタの入力ポート112でのエコー性能が著しく劣化する。加えて、伝送線路または整合回路は、フィルタをアンテナに接続するために使用される必要がある。これは挿入損失を引き起こす可能性があり、これによってアンテナシステムの損失を増加させる。
【0029】
図2は、アンテナおよびフィルタの概略図である。
図2に示されるように、既存の解決策では、無線周波数フロントエンド回路のパッシブデバイスは、フィルタ210、伝送線路(または整合回路)、およびアンテナ220(
図2のアンテナ220は伝送線路または整合回路を含む)の3つの部分を含む。多数の構成要素は、小型化を容易にしない。加えて、既存の解決策では、フィルタおよびアンテナの両方の動作帯域幅は、アンテナシステムの動作帯域幅よりも大きい必要がある。アンテナの帯域幅はアンテナのサイズに正比例するので、アンテナを小型化することは困難である。
【0030】
上記の課題に基づいて、本出願は、誘電体フィルタアンテナ、電子デバイス、およびアンテナアレイを提供する。
【0031】
図3は、本出願の一実施形態による、誘電体フィルタアンテナ300の概略図である。
図3では、Aが概略図であり、Bが斜視図である。
図3に示されるように、誘電体フィルタアンテナ300は、誘電体アンテナ310と、少なくとも1層の誘電体共振空洞320とを含む。誘電体アンテナ310は、最上層に位置する。少なくとも1層の誘電体共振空洞320は、誘電体アンテナ310の下に位置する。誘電体アンテナ310と、誘電体アンテナに隣接する誘電体共振空洞322との間でエネルギー結合が行われる。誘電体アンテナ310および誘電体共振空洞320の材料は、高誘電率を有するセラミック誘電体である。
【0032】
本出願の実施形態で提供される誘電体フィルタアンテナは、最上層に位置する誘電体アンテナと、誘電体アンテナの下に位置する少なくとも1層の誘電体共振空洞とを含む。エネルギー結合は、伝送線路または整合回路の使用を回避し、挿入損失を回避し、それによって小さいサイズおよび良好なエコー性能を実装するために、誘電体アンテナと誘電体アンテナに隣接する誘電体共振空洞との間で行われる。
【0033】
本出願の実施形態の誘電体アンテナは、誘電体フィルタのアンテナおよび最終レベルの共振空洞の両方として機能し、少なくとも1層の誘電体共振空洞とともに誘電体フィルタを構成する。言い換えると、本出願の実施形態の誘電体フィルタアンテナは、アンテナおよびフィルタの両方である。フィルタは、複数の共振空洞(共振器)を含む。本出願の実施形態では、最終レベルの共振空洞は誘電体アンテナによって実装され、残りの共振空洞は誘電体共振空洞によって実装される。本出願の実施形態の誘電体フィルタアンテナは、2層以上の誘電体ブロック(誘電体アンテナまたは誘電体共振空洞)を含む。最上層は誘電体アンテナであり、残りの層は誘電体共振空洞である。本出願の実施形態で提供される誘電体フィルタアンテナは、フィルタの機能を実装しながら、アンテナの放射機能を実装することができる。
【0034】
本出願の実施形態では、フィルタ構造(フィルタ)、共通構成要素構造(伝送線路または整合回路)、および放射構造(アンテナ)は共同的に設計され、これにより、来の解決策におけるカスケード効果によって生じるフィルタの入力ポートでのエコー劣化を回避する。本出願の実施形態における誘電体フィルタアンテナのSパラメータ(例えば、|S11|)は大幅に改善され、アンテナシステムの放射電力利得も大幅に増加する。
【0035】
本出願の実施形態の誘電体フィルタアンテナは、積層して設計されてもよい。積層設計に基づいて、伝送線路または整合回路は、フィルタとアンテナとの間で回避されることが可能である。言い換えると、全体的な挿入損失を低減するために、給電ネットワークの経路が低減され得る。
【0036】
本出願の実施形態における誘電体アンテナの動作帯域幅は、アンテナシステムの動作帯域幅よりもはるかに小さくてもよく、その一方で、従来のアンテナの帯域幅は、アンテナシステムの動作帯域幅よりも大きい必要がある。したがって、本出願の実施形態における誘電体アンテナのサイズは、大幅に低減される。伝送線路または整合回路は、伝送線路または整合回路の使用によって導入される挿入損失を回避するために、誘電体アンテナと少なくとも1層の誘電体共振空洞との間の接続のために使用される必要はない。フィルタおよびアンテナは、一体化されるように設計される。構造全体がコンパクトである。このようにして、アンテナシステム内の構造は効果的に低減されることが可能であり、アンテナシステムのサイズは大幅に低減されることが可能であり、アンテナシステムの小型化、一体化、および高性能に対する開発要件はより良好に満たされることが可能である。
【0037】
本出願では、高誘電率とは、誘電体アンテナまたは誘電体フィルタに適用されることが可能な比較的高い誘電率であることを理解されたい。例えば、誘電率は、6より大きくてもよく、または8より大きくてもよい。しかしながら、誘電率が6以下、または8以下であるケースは、フィルタリングおよびアンテナ放射の要件が満たされれば、本出願では排除されない。
【0038】
本出願では、高誘電率を有するセラミック誘電体は、セラミック材料、例えば、チタン酸バリウム(BaTiO3)を主成分とするセラミック材料、炭酸バリウム(BaCO3)を主成分とするセラミック材料、BaO-Ln2O3-TiO3シリーズのセラミック材料、複合ペロブスカイトシリーズのセラミック材料、または鉛系ペロブスカイトシリーズのセラミック材料、もしくは別の同様のセラミック材料を含み得るがこれらに限定されないことを、さらに理解されたい。これは、本出願では限定されない。本出願では、構造のサイズを効果的に低減するために、フィルタおよびアンテナの両方が、処理を通じて高誘電率を有するセラミック誘電体で作られる。
【0039】
本出願のいくつかの実施形態では、誘電体フィルタアンテナの誘電体アンテナは、角柱形状または円筒形状であってもよく、誘電体共振空洞もまた、角柱形状または円筒形状であってもよい。誘電体アンテナのサイズは、誘電体共振空洞のサイズ以上であってもよく、または誘電体共振空洞のサイズ未満であってもよい。これは、本出願では限定されない。
【0040】
本出願のいくつかの実施形態では、少なくとも1層の誘電体共振空洞内の各誘電体共振空洞のすべての表面は、金属めっきを有してもよい。共振空洞のエネルギーが漏れ出るのを防ぎ、誘電体共振空洞の性能を改善するために、誘電体共振空洞のすべての表面に金属層がめっきされる。
【0041】
本出願のいくつかの実施形態では、誘電体アンテナの表面の一部が金属めっきを有する。誘電体アンテナの周波数を調整するために、誘電体アンテナの表面の一部に金属層がめっきされる。表面の一部は、誘電体アンテナの上面の全部または一部であってもよく、誘電体アンテナの側面の全部または一部であってもよい。例えば、
図3に示される誘電体フィルタアンテナ300の誘電体アンテナ310の上面の一部は、金属めっき312を有する。金属めっきはあるいは、誘電体アンテナの表面に配置されなくてもよい。これは、本出願では限定されない。
【0042】
本出願のいくつかの実施形態では、誘電体ブロックの層は、表面上の金属めっきを使用して焼結されてもよい。誘電体共振空洞のすべての表面は、金属めっきを有してもよい。誘電体アンテナの底面は、焼結を容易にするために、金属めっきを有してもよい。
【0043】
本出願の実施形態では、金属めっきの材料は、銀、金、スズなどであってもよい。これは、本出願では限定されない。
【0044】
本出願のいくつかの実施形態では、誘電体アンテナおよび誘電体アンテナに隣接する誘電体共振空洞に設けられたスロット、プローブ、または表面金属層を使用して、誘電体アンテナと、誘電体アンテナに隣接する誘電体共振空洞との間でエネルギー結合が行われる。誘電体アンテナおよび誘電体共振空洞の形状、サイズ、および相対位置に基づいて、誘電体アンテナと誘電体共振空洞との間のエネルギー結合を完成させるために、スロット、プローブ、または表面金属層の1つまたは組合せが使用され得る。
【0045】
いくつかの特定の実施形態では、スロットを使用して、誘電体アンテナと、誘電体アンテナに隣接する誘電体共振空洞との間でエネルギー結合が行われてもよい。
図4は、本出願の一実施形態による、誘電体フィルタアンテナ400の概略図である。
図4に示されるように、第1のスロット414は、誘電体アンテナ410の底面から内向きに配置され、第2のスロット424は、誘電体アンテナに隣接する誘電体共振空洞420の上面から内向きに配置される。第1のスロット414の位置は、第2のスロット424の位置と揃えられる。第1のスロット414および第2のスロット424を使用して、誘電体アンテナ410と、誘電体アンテナに隣接する誘電体共振空洞420との間でエネルギー結合が行われる。
【0046】
図4に示される構造では、エネルギー結合を実施するために、誘電体アンテナ(最終レベルの誘電体共振空洞)および誘電体アンテナに隣接する誘電体共振空洞(ペナルチメートレベルの誘電体共振空洞)の焼結面(誘電体アンテナの底面、および誘電体アンテナに隣接する誘電体共振空洞の上面)に非金属化スロットが配置される。スロットは、
図4に示されるストリップ形状のスロットであってもよい。第1のスロット414は、誘電体アンテナを貫通していなくてもよい。第2のスロット424は、誘電体アンテナに隣接する誘電体共振空洞を貫通しなくてもよい。スロットの具体的な形状は、角孔または円形孔であってもよく、または別の形状であってもよい。これは、本出願では限定されない。
【0047】
いくつかの特定の実施形態では、プローブを使用して、誘電体アンテナと、誘電体アンテナに隣接する誘電体共振空洞との間でエネルギー結合が行われてもよい。
図5は、本出願の一実施形態による、誘電体フィルタアンテナ500の概略図である。
図5に示されるように、第1のプローブ514は、誘電体アンテナ510の底面から内向きに配置され、第2のプローブ524は、誘電体アンテナに隣接する誘電体共振空洞520の上面から内向きに配置される。第1のプローブ514の位置は、第2のプローブ524の位置と揃えられる。第1のプローブ514および第2のプローブ524を使用して、誘電体アンテナ510と、誘電体アンテナ510に隣接する誘電体共振空洞520との間でエネルギー結合が行われる。
【0048】
図5に示される構造では、プローブエネルギー結合を実施するために、誘電体アンテナ(最終レベルの誘電体共振空洞)および誘電体アンテナに隣接する誘電体共振空洞(ペナルチメートレベルの誘電体共振空洞)の焼結面(誘電体アンテナの底面、および誘電体アンテナに隣接する誘電体共振空洞の上面)にプローブが配置される。具体的には、第1のプローブ514および第2のプローブ524は両方とも金属化貫通孔であってもよく、第1のプローブ514および第2のプローブ524はパッドを使用して接続される。プローブは、
図5に示されるストリップ形状であってもよい。第1のプローブ514は、誘電体アンテナを貫通していなくてもよい。第2のプローブ524は、誘電体アンテナ510に隣接する誘電体共振空洞を貫通しなくてもよい。
【0049】
いくつかの特定の実施形態では、プローブおよび表面金属層の形態で、誘電体アンテナと、誘電体アンテナに隣接する誘電体共振空洞との間でエネルギー結合が行われてもよい。
図6は、本出願の一実施形態による、誘電体フィルタアンテナ600の概略図である。
図6に示されるように、表面金属層614は、誘電体アンテナ610の側面に配置され、プローブ624は、誘電体アンテナ610に隣接する誘電体共振空洞620の上面から内向きに配置される。表面金属層614の位置は、プローブ624の位置と揃えられる。表面金属層614およびプローブ624を使用して、誘電体アンテナ610と、誘電体アンテナ610に隣接する誘電体共振空洞620との間でエネルギー結合が行われる。
【0050】
図6に示される構造では、エネルギー結合を実施するために、誘電体アンテナ(最終レベルの誘電体共振空洞)および誘電体アンテナに隣接する誘電体共振空洞(ペナルチメートレベルの誘電体共振空洞)の焼結面(誘電体アンテナの底面、および誘電体アンテナに隣接する誘電体共振空洞の上面)から内向きに、プローブおよび表面金属層が配置される。具体的には、プローブ624は金属化貫通孔であってもよく、表面金属層614は金属めっきの小さなストリップ形状片であってもよい。プローブは、
図6に示されるストリップ形状であってもよい。プローブ624は、誘電体アンテナを貫通していなくてもよい。プローブ624は、パッドを使用して表面金属層614に接続されてもよい。
【0051】
本出願のいくつかの実施形態では、誘電体アンテナは二重偏波アンテナであってもよい。このようにして、二重偏波誘電体フィルタアンテナが形成されることが可能である。
図7は、本出願の一実施形態による、二重偏波誘電体フィルタアンテナ700の概略図である。ここで、
図7のAは二重偏波誘電体フィルタアンテナ700の立体図であり、
図7のBは二重偏波誘電体フィルタアンテナ700の上面図であり、
図7のCは二重偏波誘電体フィルタアンテナ700の側面図である。
図7に示されるように、二重偏波誘電体フィルタアンテナは2つの給電ポート(コネクタ)を有する。各給電ポートは、1つのチャネル、および信号の1つのチャネルに対応する。信号の2つのチャネルの偏波方向は直交していてもよく、例えば、+45度と-45度であってもよい。信号の各チャネルは、8つの誘電体共振空洞および誘電体アンテナの1つの空洞を有する1つの誘電体フィルタを通過する。合計9つの空洞、すなわち9つの次数がある。言い換えると、
図7に示される二重偏波誘電体フィルタアンテナは、二重偏波9次誘電体フィルタアンテナである。二重偏波9次誘電体フィルタアンテナは、基地局のアンテナシステムにおいて一般的である。本出願の実施形態は、別の次数の誘電体フィルタアンテナをさらに提供する。例えば、8つの誘電体共振空洞の層がさらに追加される場合、二重偏波17次誘電体フィルタアンテナが形成され得る。
【0052】
本出願のこの実施形態で提供される誘電体フィルタアンテナのエコー性能は、大幅に改善される。
図8は、本出願の一実施形態による、誘電体フィルタアンテナのエコー性能と既存のアンテナのエコー性能との比較の図である。
図8は、2つのアンテナが同じサイズを有するときの、本出願のこの実施形態における誘電体フィルタアンテナおよび既存のアンテナのSパラメータを示す。-20 dBのSパラメータが一例として使用されるとき、本出願のこの実施形態における誘電体フィルタアンテナの動作帯域幅はおよそ3.50 GHzから3.63 GHzであり、既存のアンテナの動作帯域幅はおよそ3.54 GHzから3.57 GHzしかないことが、
図8からわかる。本出願のこの実施形態における誘電体フィルタアンテナの動作帯域幅は、明らかに改善される。この場合、エコー性能が大幅に改善される。加えて、動作帯域幅が大幅に改善されるので、アンテナシステムの小型化が良好に実施される。
【0053】
本出願の実施形態で提供される誘電体フィルタアンテナでは、構造全体は、誘電体ブロックの複数の層を接合することによって形成される。孔開け、金属めっき、および焼結などの単純な操作のみが誘電体ブロックに対して行われる必要がある。誘電体フィルタアンテナは、低い処理困難性、低コスト、および良好な性能一貫性を有する。
【0054】
本出願は、電子デバイスをさらに提供する。電子デバイスは、本出願の上記の実施形態で説明された誘電体フィルタアンテナを含む。
【0055】
本出願は、本出願の上記の実施形態で説明された複数の誘電体フィルタアンテナを含むアンテナアレイをさらに提供する。アンテナアレイでは、複数の誘電体フィルタアンテナが、水平方向および/または垂直方向のアレイを形成する。
【0056】
本出願のこの実施形態では、アンテナアレイは、小さい粒度および自由度の高いレイアウトを有する。本出願のこの実施形態の二重偏波誘電体フィルタアンテナユニットは、±45度の2つの偏波チャネルに対応し得る。アンテナアレイは、複数の二重偏波誘電体フィルタアンテナを水平方向および/または垂直方向に配置することを通じて形成されてもよい。
【0057】
本出願のこの実施形態のアンテナアレイは、ネットワークデバイスに、例えば基地局に適用されてもよい。
【0058】
本明細書における様々な数値記号は、単に説明を容易にするために区別されるものであり、本出願の範囲を制限するために使用されるものではないことを、さらに理解されたい。
【0059】
上記の実施形態における技術的特徴は、任意の方法で組み合わせられてもよい。説明を簡単にするために、上記の実施形態における技術的特徴のすべての可能な組合せは説明されていない。しかしながら、技術的特徴の組合せが互いに矛盾しなければ、それは本明細書に記録される範囲と見なされるべきである。
【0060】
上記の説明は、本出願の特定の実装形態にすぎず、本出願の保護範囲を限定することを意図されていない。本出願に開示された技術的範囲内で当業者によって容易に考え出されるいかなる変形または置換も、本出願の保護範囲内にあるものとする。したがって、本出願の保護範囲は、特許請求の範囲の保護範囲に従うものとする。
【符号の説明】
【0061】
110 フィルタ
112 入力ポート
114 出力ポート
120 アンテナ
122 入力ポート
130 伝送線路
210 フィルタ
220 アンテナ
300 誘電体フィルタアンテナ
310 誘電体アンテナ
312 金属めっき
320 誘電体共振空洞
322 誘電体共振空洞
400 誘電体フィルタアンテナ
410 誘電体アンテナ
414 第1のスロット
420 誘電体共振空洞
424 第2のスロット
500 誘電体フィルタアンテナ
510 誘電体アンテナ
514 第1のプローブ
520 誘電体共振空洞
524 第2のプローブ
600 誘電体フィルタアンテナ
610 誘電体アンテナ
614 表面金属層
620 誘電体共振空洞
624 プローブ
700 二重偏波誘電体フィルタアンテナ