IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社東芝の特許一覧

<>
  • 特許-量子鍵配送システムのための光送信機 図1
  • 特許-量子鍵配送システムのための光送信機 図2
  • 特許-量子鍵配送システムのための光送信機 図3
  • 特許-量子鍵配送システムのための光送信機 図4
  • 特許-量子鍵配送システムのための光送信機 図5
  • 特許-量子鍵配送システムのための光送信機 図6
  • 特許-量子鍵配送システムのための光送信機 図7
  • 特許-量子鍵配送システムのための光送信機 図8
  • 特許-量子鍵配送システムのための光送信機 図9
  • 特許-量子鍵配送システムのための光送信機 図10
  • 特許-量子鍵配送システムのための光送信機 図11
  • 特許-量子鍵配送システムのための光送信機 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-09
(45)【発行日】2024-08-20
(54)【発明の名称】量子鍵配送システムのための光送信機
(51)【国際特許分類】
   H04B 10/516 20130101AFI20240813BHJP
   H04B 10/70 20130101ALI20240813BHJP
   H04L 9/12 20060101ALI20240813BHJP
   G02F 1/01 20060101ALN20240813BHJP
【FI】
H04B10/516
H04B10/70
H04L9/12
G02F1/01 C
【請求項の数】 24
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023023728
(22)【出願日】2023-02-17
(65)【公開番号】P2024021032
(43)【公開日】2024-02-15
【審査請求日】2023-02-20
(31)【優先権主張番号】2211255.1
(32)【優先日】2022-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】ベンジャミン グリフィス
(72)【発明者】
【氏名】ロバート イアン ウッドワード
(72)【発明者】
【氏名】ジェームス エフ ダインズ
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー ジェームス シールズ
【審査官】後澤 瑞征
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-042694(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0393962(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 10/516
H04B 10/70
H04L 9/12
G02F 1/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子鍵配送(QKD)システムのための光送信機であって、前記光送信機は、
マルチモーダルレーザと、
前記マルチモーダルレーザのキャビティ中に光を注入し、前記マルチモーダルレーザに、前記光送信機によって出力されるパルスを生成する際に使用するための光を選択された波長で出力させるように構成された波長可変レーザと、
前記光送信機から出力される連続するパルス間の位相シフトを制御するための変調器と
を備え
前記光送信機は、前記光送信機によって出力される光パルスの対に複数ビットの情報を符号化するように構成され、パルスの各対は、それぞれの時間ウィンドウ内に送信される、光送信機。
【請求項2】
前記マルチモーダルレーザは、前記光送信機によって出力される光の前記パルスを生成するように構成される、請求項1に記載の光送信機。
【請求項3】
前記変調器は、前記波長可変レーザに供給されるポンプパワーを変調することによって前記位相シフトを制御するように構成される、請求項2に記載の光送信機。
【請求項4】
前記変調器は、前記マルチモーダルレーザから光の前記パルスを受信し、光の前記パルスに位相シフトを適用するように構成された外部変調器を備える、請求項2に記載の光送信機。
【請求項5】
前記マルチモーダルレーザは、前記マルチモーダルレーザに供給されるポンプパワーを変調することによって光のパルスを生成するように構成される、請求項2に記載の光送信機。
【請求項6】
前記マルチモーダルレーザに供給される前記ポンプパワーは、前記マルチモーダルレーザを利得切替するために使用される、請求項5に記載の光送信機。
【請求項7】
前記マルチモーダルレーザ及び/又は前記波長可変レーザは、固体レーザである、請求項1に記載の光送信機。
【請求項8】
前記マルチモーダルレーザは、ファブリペローレーザを備える、請求項1に記載の光送信機。
【請求項9】
パルス当たりの光子の平均数が1以下になるように、前記出力されるパルスを減衰する減衰器を更に備える、請求項1に記載の光送信機。
【請求項10】
前記情報は、時間及び位相の共役基底、又は2つの位相基底に符号化される、請求項に記載の光送信機。
【請求項11】
前記光送信機によって出力される前記パルスは、前記マルチモーダルレーザに供給されるポンプパワーを変調することによって各時間ウィンドウ内に時間的に符号化される、請求項に記載の光送信機。
【請求項12】
各時間ウィンドウ内に、パルスの前記対は、前記時間ウィンドウ中の第1のパルスと前記時間ウィンドウ中の第2のパルスとの間に指定された位相シフトを適用することによって位相符号化される、請求項に記載の光送信機。
【請求項13】
前記指定された位相シフトは、予め定義された量だけ、前記波長可変レーザに供給されるポンプパワーを変調することによって適用される、請求項12に記載の光送信機。
【請求項14】
前記光送信機は、前記マルチモーダルレーザによって生成された各パルスを、干渉計のそれぞれのアームを進む2つのパルスに分割するように構成された前記干渉計を備え、前記アームのうちの1つは、他方のパルスに対して前記パルスのうちの一方を遅延させる遅延部を備え、
前記アームのうちの1つは、そのアームを進む前記パルスに位相シフトを適用するように構成された位相変調器を備える、請求項12に記載の光送信機。
【請求項15】
各時間ウィンドウに対して、前記時間ウィンドウ中の第1のパルスの位相は、以前の時間ウィンドウに対してランダム化される、請求項に記載の光送信機。
【請求項16】
各時間ウィンドウ中の第1のパルスの位相は、前記波長可変レーザを利得切替することによって前記以前の時間ウィンドウに対してランダム化される、請求項15に記載の光送信機。
【請求項17】
各時間ウィンドウ中の前記第1のパルスの位相は、前記波長可変レーザに供給されるポンプパワーをランダムに選ばれる振幅で変調することによって、以前の時間ウィンドウに対してランダム化され、
オプションで、前記ランダムに選ばれる振幅は、10以上の予め定義された振幅のうちの1つから選択される、請求項12に記載の光送信機。
【請求項18】
請求項1に記載の光送信機を備える、量子鍵配送(QKD)システム。
【請求項19】
受信機を備え、データが、ネットワークを横断して前記光送信機から前記受信機に送られ、前記ネットワークは、
ポイントツーポイントネットワークと、
測定デバイス無依存(MDI)ネットワークと、
ツインフィールド(TF)ネットワークと
のうちの1つを備える、請求項18に記載のQKDシステム。
【請求項20】
異なる波長が、異なる時間間隔で選択される、請求項18に記載のQKDシステム。
【請求項21】
量子リピータを更に備え、前記量子リピータは、量子メモリを有するノードを備え、前記量子メモリは、前記光送信機によって出力された光の前記パルスを受け取るように構成され、前記選択された波長は、前記量子メモリの共鳴励起に一致するようなものである、請求項18に記載のQKDシステム。
【請求項22】
前記QKDシステムは、2つの光送信機を更に備え、前記量子メモリは、両方の光送信機によって出力された光の前記パルスを受信するように構成され、前記光送信機の各々は、同じ選択された波長で光のパルスを出力するように構成される、請求項21に記載のQKDシステム。
【請求項23】
前記光送信機によって出力された前記パルスは、他の電気通信データを符号化する光信号と同じネットワークを通して送信され、前記選択された波長は、前記他の電気通信データを符号化する前記光信号の前記波長とは異なる、請求項18に記載のQKDシステム。
【請求項24】
前記QKDシステムは、他のQKDシステムと多重化される、請求項18に記載のQKDシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に説明される実施形態は、量子鍵配送(QKD)システムのための光送信機に関する。
【背景技術】
【0002】
量子鍵配送は、アリスとボブ(AとB)として知られる2つの遠隔ノード間で完全にランダムな量子鍵を生成するための量子通信技術である。これらの鍵は、従って、セキュアな通信を保証するためにデータ暗号化に使用されることができる。QKDの基本的な動作原理は、共役基底(conjugate bases)中に符号化される量子状態を符号化及び測定することに依拠し、即ち、一方の基底において測定することによって、他の基底についての情報が決定されることができない。従って、典型的にイブとして知られる盗聴者が信号を傍受するとしたら、彼らは、(各基底が均等に選ばれると仮定して)符号化された基底の最大で50%を正確に推測することが確実に可能となるだけであろう。重要なことに、イブが、信号を測定した後に当初のノードに信号を送ろうと試みるとしたら、アリスとボブが彼らのデータを比較したときに誤りが検出されるであろう。イブの測定が、送られた状態を根本的に変えてしまったという事実に起因して、これらの誤りは、次いで、イブの存在をアリスとボブに警告するであろう。
【0003】
QKDは、あらゆる量子物体を使用して実施されることができるが、光子が、それらがボース粒子であり、従って、環境と非常に弱く相互作用するという事実に起因して、最も一般的に使用される。これは、それらが長い距離を高速で移動することができることを意味する。
【0004】
光子を使用してセキュアなQKDを達成するために、光子は、単一光子フォック状態に調整される必要がある。しかしながら、単一光子源は、一般に、低い送信レートを有するので、低いビットレートしか達成されることができない。対照的に、レーザパルスは、数GHzで達成されることができ、遙かにより速いセキュアなビットレートを可能にする。レーザビームを減衰することによって、パルス当たりの平均光子数が1以下であるコヒーレントレーザ光のパルスが取得されることができる。パルスは、光子数に関して統計的ポアソン分布に従うが、十分に低い平均光子束を保証することによって、多光子イベントのレートが最小化されることができる。デコイ状態技法が、次いで、さもなければ光子数分割攻撃につながる可能性がある任意の多光子パルスの潜在的な影響を除去するために使用されることができる。
【0005】
QKDのための情報符号化は、連続波レーザ源からの出力の強度及び位相の両方が一連の強度及び位相変調器を使用して変調されるパルスカービング技法を使用することによって達成されることが多い。可変レーザがレーザ源として使用される場合、パルスカービング技法は、大きい波長範囲(>100nm)にわたる位相制御で波長可変光パルスを達成するために使用されることができ、そのような配置が、次いで、波長可変QKD送信機を実装するために使用されることができる。図1は、そのようなQKDシステム中で使用され得るような送信機100の例を示す。送信機100は、可変CWレーザ101を備え、その出力は、パルスのシーケンスを生成するために強度変調器103に入力される。位相変調器105が、次いで、パルスの位相を変調するために使用される。可変光減衰器(VOA)107は、ビームを減衰し、パルス当たりの平均光子数が1以下になることを保証する役割を果たす。
【0006】
図1に示された配置の利点は、レーザ101が連続波(CW)動作で動作されることができることである。しかしながら、QKDに必要とされる消光レベルを達成するために、複数の強度変調器103及び位相変調器105を直列に設ける必要があることが多く、システム全体を嵩張り且つ高価な物にしてしまう。その上、そのような変調器103、105はまた、LiNbO3技術を使用して実装されることが多く、それは、フォトニックインテグレーション(photonic integration)と互換性がなく、故に、フォトニックチップ互換設計を通したQKDの大規模製造に適さない。
【0007】
変調器なしのQKD送信機が、インジェクションシーディング(injection seeding)及び利得切替技法を利用することによって実装されることができる。そのような配置の例は、図2に示される。図1に示された配置とは対照的に、図2の送信機は、マスタ/スレーブセットアップで配置された2つの分布帰還型(DFB:distributed feedback)レーザ201、203を備える。2つのDFBレーザは、レーザキャビティの利得を変調し、レーザ発振閾値を上回る及び下回るようにそれを駆動するために、AC信号によるDCバイアスを使用して電気的にポンピングされる。マスタDFB201から出力された光は、サーキュレータ205に入力され、スレーブDFB203のキャビティ中に注入される。キャビティ中に注入された光子は、スレーブレーザに自然放射ではなく誘導放射を介してシーディングさせ、それによって、スレーブレーザによって出力される光の位相に対する制御を与える。スレーブレーザからの出力は、次いで、パルス当たりの平均光子数が1以下のままであることを保証するために、前述同様に、VOA207を通過される前にサーキュレータ中に結合し戻される。
【0008】
図2に示された変調器なしの設計の1つの欠点は、それが従来の可変レーザ源を用いて直接実装されることができないことである。これは、従来の小型可変レーザが直接変調からの良好なパルス性能を示さない、即ち、それらは、GHzパルス列を生成し、より低い変調帯域幅を有することができない、という事実による。典型的には、可変性を達成するためにそのようなレーザにおいて用いられる新規の構造は、それらのパルス性能に悪影響を与える。この理由により、変調器なしの配置は、図2に示されたDFBなどのレーザの使用に依然として依存している。DFBレーザは、ブラッググレーティングを包含するそれらの内部構造によって単一放射波長に制限される。レーザの内部物理構造が他のモードを可能にしないので、達成されることができる唯一の波長可変性は、キャビティを拡張/収縮するための温度の調節を通してである。これは、小さい熱誘発変化と、レーザが、それらが安全に動作されることができる有限温度範囲を有するという事実とによって制限された、1nmの範囲内の小さい波長調整しか与えない。
【0009】
図2に示されたシステムなどのシステムによって与えられる可変性の欠如は、ある特定の用途においてそれらの使用を不可能にする。例えば、遠隔ノードにおける2つの送信機から中央ノードに情報を送ることに依拠する測定デバイス無依存(MDI:Measurement -Device Independent)QKDなどのQKDプロトコルは、2つの遠隔ノードからの光子が同時に中央ノードに在るように、困難なフィードバックループを要求することが多い。これらの状態が量子メモリ中に記憶されることができる場合、QKDは、各ノードからの異なる到着時間で達成されることができる。しかしながら、量子メモリがQKDにおいて使用されるものとは異なる励起波長を有することが多いので、波長を調整する能力は、そのようなシステムに必須である。別の例では、システムが古典的な通信トラフィックのためにレーザの1つの利用可能な波長を既に利用している場合(ほとんどの電気通信システムの波長がC帯域にあり、ほとんどのQKDシステムがC帯域のために設計されるので、良く見られる)、代替の波長(複数可)の欠如は、QKDのために同じシステムを使用する機会を制限する。
【0010】
ここで、本発明の実施形態が、添付の図面を参照して例として説明される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】従来の送信機を備えるQKDシステムの概略図を示す。
図2】従来の送信機を備える別のQKDシステムの概略図を示す。
図3】実施形態による、送信機を備えるQKDシステムの概略図を示す。
図4】実施形態による、送信機の異なる構成要素の出力を変調することによって、送信機による光パルスの出力がどのように制御され得るかの例を示す。
図5】実施形態による、送信機を備えるQKDシステムの概略図を示す。
図6】実施形態による、送信機によって出力される光パルスが時間及び/位相情報を符号化するためにどのように使用され得るかの例を示す。
図7】実施形態による、送信機を備えるQKDシステムの概略図を示す。
図8】実施形態による、送信機によって出力される光パルスが位相情報を符号化するためにどのように使用され得るかの概略図を示す。
図9】実施形態による、送信機を備えるQKDシステムの概略図を示す。
図10】実施形態による、送信機によって出力される光パルスが時間及び/位相情報を符号化するためにどのように使用され得るかの例を示す。
図11】実施形態による、MDI及びツインフィールドQKDアーキテクチャを有し、送信機を備えるシステムを示す。
図12】実施形態による、送信機を備える量子リピータベースのQKDシステムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
第1の実施形態によると、量子鍵配送(QKD)システムのための光送信機が提供され、光送信機は、
マルチモーダルレーザと、
マルチモーダルレーザのキャビティ中に光を注入し、そのため、マルチモーダルレーザに、光送信機によって出力されるパルスを生成する際に使用するための光を選択された波長で出力させるように構成された波長可変レーザと、
光送信機から出力される連続するパルス間の位相シフトを制御するための変調器と
を備える。
【0013】
マルチモーダルレーザは、光送信機によって出力されるための光のパルスを生成するように構成され得る。
【0014】
変調器は、波長可変レーザに供給されるポンプパワーを変調することによって位相シフトを制御するように構成され得る。
【0015】
変調器は、マルチモーダルレーザから光のパルスを受信し、光のパルスに位相シフトを適用するように構成された外部変調器を備え得る。
【0016】
マルチモーダルレーザは、マルチモーダルレーザに供給されるポンプパワーを変調することによって光のパルスを生成するように構成され得る。
【0017】
マルチモーダルレーザに供給されるポンプパワーは、マルチモーダルレーザを利得切替するために使用され得る。
【0018】
マルチモーダルレーザ及び/又は波長可変レーザは、固体レーザであり得る。
【0019】
マルチモーダルレーザは、ファブリペローレーザを備え得る。
【0020】
光送信機は、パルス当たりの光子の平均数が1以下になるように、出力されるパルスを減衰するための減衰器を更に備え得る。
【0021】
光送信機は、光送信機によって出力される光パルスの対に複数ビットの情報を符号化するように構成され得、パルスの各対は、それぞれの時間ウィンドウ内に送信される。情報は、時間及び位相の共役基底、又は2つの位相基底に符号化され得る。
【0022】
光送信機によって出力されるパルスは、マルチモーダルレーザに供給されるポンプパワーを変調することによって各時間ウィンドウ内に時間的に符号化され得る。
【0023】
各時間ウィンドウ内に、パルスの対は、時間ウィンドウ中の第1のパルスと時間ウィンドウ中の第2のパルスとの間に指定された位相シフトを適用することによって位相符号化され得る。指定された位相シフトは、予め定義された量だけ、波長可変レーザに供給されるポンプパワーを変調することによって適用され得る。
【0024】
光送信機は、マルチモーダルレーザによって生成された各パルスを、干渉計のそれぞれのアームを進む2つのパルスに分割するように構成された干渉計を備え得る。アームのうちの1つは、他方のパルスに対してパルスのうちの一方を遅延させるための遅延部を備え得る。アームのうちの1つは、そのアームを進むパルスに位相シフトを適用するように構成された位相変調器を備え得る。
【0025】
各時間ウィンドウに対して、時間ウィンドウ中の第1のパルスの位相は、以前の時間ウィンドウに対してランダム化され得る。
【0026】
各時間ウィンドウ中の第1のパルスの位相は、波長可変レーザを利得切替することによって以前の時間ウィンドウに対してランダム化され得る。
【0027】
各時間ウィンドウ中の第1のパルスの位相は、波長可変レーザに供給されるポンプパワーをランダムに選ばれる振幅で変調することによって、以前の時間ウィンドウに対してランダム化され得る。ランダムに選ばれる振幅は、10以上の予め定義された振幅のうちの1つから選択され得る。
【0028】
第2の実施形態によると、第1の実施形態に記載の光送信機を備える、量子鍵配送(QKD)システムが提供される。
【0029】
QKDシステムは、受信機を備え得、データが、ネットワークを横断して光送信機から受信機に送られ、ネットワークは、
ポイントツーポイントネットワークと、
測定デバイス無依存(MDI)ネットワークと、
ツインフィールド(TF)ネットワークと
のうちの1つを備える。
【0030】
異なる波長が、異なる時間間隔で選択され得る。
【0031】
QKDシステムは、量子リピータを更に備え得、量子リピータは、量子メモリを有するノードを備え、量子メモリは、光送信機によって出力された光のパルスを受信するように構成され、選択された波長は、量子メモリの共鳴励起に一致するようなものである。
【0032】
QKDシステムは、2つの光送信機を備え得、量子メモリは、両方の光送信機によって出力された光のパルスを受信するように構成され、光送信機の各々は、同じ選択された波長で光のパルスを出力するように構成される。
【0033】
光送信機によって出力されたパルスは、他の電気通信データを符号化する光信号と同じネットワークを通して送信され得る。選択された波長は、他の電気通信データを符号化する光信号の波長とは異なり得る。
【0034】
QKDシステムは、他のQKDシステムと多重化され得る。
【0035】
本明細書に説明される実施形態は、位相制御で変調器なしの波長可変光パルスを達成することが可能な光源を提供する。光源は、波長可変QKDシステム中のソースとして使用されることができ、情報が時間及び位相の共役基底上に又は2つの共役位相基底に符号化される任意のプロトコルを用いて利用され得る。説明される実施形態は、可変性が非常に小さい波長範囲に制限されるか、又は多くの能動構成要素の使用が必要とされる従来のQKDシステムよりも単純且つ小型のQKDシステムを可能にすることができる。
【0036】
図3は、実施形態による、光送信機300の概略図を示す。この実施形態では、送信機300は、送信機によって出力される光パルスが共役基底に情報を符号化するために使用されるポイントツーポイントQKDシステムの一部として実装され、情報は、ネットワークを横断して受信機301に送られる。送信機によって出力される光パルスは、光ファイバを通って、又は自由空間中に送信され得る。電気通信用途では、波長は、電気通信C帯域内となるように選択され得る。
【0037】
受信機301は、送信機によって送られる情報を復号するために使用される単一光子検出器(SPD)305a、305b、305c及びビームスプリッタ(BS)303a、303b、303cの配置を備える。情報は、検出器のうちの1つにおける光子の到着時間を測定することによって、又は非対称マッハツェンダー干渉計305中の遅延線を使用して連続パルスに干渉することによって、のうちのいずれかで符号化される。後者の場合、パルス間の位相差は、強め合う又は弱め合う干渉につながり、この干渉は検出器305a、305bのうちの上記検出器とは異なるものにクリックさせる。
【0038】
送信機300の構成要素は、図2に示された変調器なしの設計と同様であるが、異なるマスタ及びスレーブレーザを有する。
【0039】
より詳細には、マスタレーザから始まり、波長可変性を達成するために、図2の固定波長DFBは、可変レーザ307に置き換えられる。可変レーザ307は、波長帯域にわたるレーザ発振が可能な任意のレーザであり得、ここで、その帯域は、幅が10nm以上である。いくつかの実施形態では、可変レーザ307は、20nm以上の波長帯域にわたるレーザ発振が可能であり得る。
【0040】
可変レーザ307は、当技術分野において知られるいくつかの異なる手段のうちの任意の1つを使用して調整され得る。例として、調整は、バーニア効果による安定した単一周波数動作を保証するために、キャビティ中に僅かに異なる自由スペクトル範囲を有する加熱されたリング共振器の使用を通して達成され得る。
【0041】
図2のシステムに対する第2の修正は、単一モードスレーブレーザをマルチモーダルレーザ309に置き換えることである。マルチモーダルレーザは、そのキャビティが複数のキャビティモードをサポートするものであり、そのため、デバイスは、広い波長範囲にわたるレーザ発振をサポートすることが可能である。いくつかの実施形態では、マルチモーダルレーザが、レーザ発振が可能である波長帯域は、幅が50~100nmであり得る。
【0042】
マスタ及びスレーブレーザの両方は、固体ダイオードレーザであり得る。図2にあるように、マスタ及びスレーブレーザは、両方とも電気的にポンピングされ、各々は、レーザの利得を変調し、レーザ発振閾値を上回る及び下回るようにそれを駆動するために使用されることができるDCバイアス及びAC入力を有する。本実施形態では、マルチモーダルレーザ309は、ファブリペロー(FP)レーザを備える。FPレーザ309は、DFBレーザと同様であるが、レーザキャビティミラーが、利得媒体中に直接書き込まれたブラッググレーティングではなく、半導体利得チップ(又は外部キャビティミラー)のファセットとして定義される。
【0043】
図3に示された送信機300の機能は、図4を参照して更に理解されることができる。図4のAは、CWにおいて動作する従来のFPレーザダイオードのマルチモーダル出力を示し、図4のB~Eは、FPレーザからの出力が更なる構成要素の追加によってどのように修正されるかを示す。
【0044】
図3と共に、図4のBを参照すると、可変レーザ307は、まず、所望の波長に調整され、可変レーザ307マスタレーザからの光は、前述同様に、サーキュレータ311を使用して、FPレーザ309中に注入される。熱電結合器(TEC:thermoelectric coupler)313は、FPレーザ309の微妙な温度調整を提供し、そのため、特定のモードのFPレーザキャビティへ注入された光の最大重複を可能にするために使用されることができる。FPレーザは、同時に複数のキャビティモードでレーザ発振することが多く、それによって、マルチモード出力を与えるのに対して、選ばれた波長でのシード光子の注入は、その波長で重複するモードが利用可能な利得を支配することを意味し、その一方で、自然放射(即ち、真空ゆらぎ)によってのみシーディングされる他のモードは抑制されることを意味する。このように、可変マスタレーザ307とのインジェクションロッキング(injection locking)は、FPキャビティにおける可変単一モードを可能にする。加えて、FPレーザ309のモード線幅は、マスタレーザのモード線幅まで有意に低減され、インジェクションシーディングの使用は、モード競合とモードホッピングの可能性とを低減する。
【0045】
ここで、図4のCを参照すると、FPレーザ309は、FPレーザへのAC入力を使用してポンプパワーを変調することによって利得切替される。そうすることによって、FPレーザ309は、ここで、高レートで波長可変コヒーレントパルスを出力することが可能である。以下により詳細に説明されるように、AC入力によってFPレーザに提供されるポンプパワーにおける変調は、送信機300から出力されるパルスに時間情報を符号化するために使用されることができる。FPレーザ309をインジェクションロッキングすることはまた、変調帯域幅を強化し、パルスチャープを低減し、強化されたパルス性能につながる。
【0046】
FPレーザ309によって出力されるパルスの位相は、注入された光の位相によって設定されるであろう。変調が、ここで、そのAC信号入力を使用してマスタレーザ307に適用される場合、図4のDに示されるように、出力されるパルス間で位相シフトを適用することが可能である。より詳細には、マスタレーザ307に供給されるAC電流が僅かに変調された場合、マスタレーザ307によって放射される光の相対位相は、マスタレーザキャビティの屈折率の小さい変化に起因してシフトされることができる。この位相シフトは、FPレーザ309上に渡され、FPレーザ309のパルス間の相対位相の決定論的な符号化を可能にする。このように、マスタレーザへのAC入力は、送信機300から出力されるパルスの位相を変調するように作用する。
【0047】
マスタレーザ307を変調することの代替として、図4のEに示されるように、外部位相変調器が、位相を符号化するために使用されることができる。図5は、図3と同じQKDシステム中に組み込まれたそのような配置を示す(ここで、図3にあるのと同じ機能を有する構成要素は、同じ番号でラベル付けされる)。図5に示された実施形態では、AC変調は、マスタレーザ307にもはや適用されない。代わりに、外部位相変調器315が、位相情報を符号化するために使用される。図5に示された配置の利点は、マスタレーザが高速で変調される必要がないことであり、欠点は、余分な位相変調器315が必要とされることである。
【0048】
送信機300が出力されるパルスに情報を符号化するように構成され得る手段は、図6を参照して説明されることができる。まず、図6のAを参照すると、これは、FPスレーブレーザの光出力(一番下の線)と共に、マスタレーザ307(一番上の線)及びFPスレーブレーザ309(真ん中の線)の両方に適用される電気(ポンプ)信号の振幅を示す。
【0049】
受信機に送られる情報は、一連の時間ウィンドウに時間的に符号化され、それは、本実施形態では、各々が1ns持続時間を有する。波形生成器又はFPGA(図示せず)が、各時間ウィンドウの開始を定義するクロック信号を生成するために使用される。クロック信号は、マスタレーザ及びスレーブレーザの両方に適用されるポンプパワーにおける変調をトリガするために使用される。マスタレーザ307は、クロックレートでパルス発振され、スレーブレーザ309は、クロックレートの2倍でパルス発振される。これは、各時間ウィンドウ内に、スレーブレーザ309が、最大で2つのパルスを生成し、各スレーブパルスは、マスタレーザによって出力された光によってシーディングされることを意味する。
【0050】
FPスレーブレーザに適用されるAC変調は、FPスレーブレーザがレーザ発振閾値を上回るか否かを決定することによって、光のパルスが特定の時間的瞬間に送信機によって出力されるか否かを決定付ける。図6のAに示された例では、単一パルスが、第1の2つの時間ウィンドウ、即ち、それぞれ、期間0~1ns及び1ns~2nsにわたる時間ウィンドウ、の各々において出力されている。第1の時間ウィンドウでは、FPスレーブレーザに供給されるポンプパワーにおける変調(増大)は、時間ウィンドウの終了に向かって現れ、送信機によって出力されるパルスもまた、そのウィンドウの終了に向かって現れることを意味する。対照的に、第2の時間ウィンドウでは、FPスレーブレーザに供給されるポンプパワーにおける変調(増大)は、時間ウィンドウの開始に向かって現れ、送信機によって出力されるパルスもまた、そのウィンドウの開始に向かって現れることを意味する。それぞれ、2ns~3ns及び3ns~4nsにわたる、第3及び第4の時間ウィンドウでは、FPスレーブレーザに供給されるポンプパワーは、各時間ウィンドウ中で2倍に増大し、各ウィンドウ中に2つの光パルスの出力をもたらす。
【0051】
セキュリティを維持するために、各時間ウィンドウ中に出力されるパルス(複数可)間で情報が重複しないことが重要である。これを達成するために、各時間ウィンドウ中のパルス(複数可)は、以前の時間ウィンドウ中のパルス(複数可)に対して位相ランダム化される。図6のAに示された実施形態では、位相ランダム化は、各時間ウィンドウの開始時にマスタレーザを利得切替することによって達成され、これは、マスタレーザが自然放射によってシーディングされる効果を有し、マスタレーザによって出力される各パルスの位相がマスタレーザによって出力された以前のパルスに対してランダム化されることを意味する。マスタレーザによってFPレーザキャビティ中に注入された光子は、FPレーザに自然放射ではなく誘導放射を介してシーディングさせるので、FPレーザの出力は、マスタレーザの出力とコヒーレントとなり、それに応じて、それぞれの時間ウィンドウ中にスレーブレーザによって出力されるパルス(複数可)の位相もまた、以前の時間ウィンドウ中にスレーブレーザによって出力されたパルス(複数可)に対してランダム化されるであろう。
【0052】
異なるウィンドウ内に出力されるパルス(複数可)は、互いと比較してランダム位相を有し、個々の時間ウィンドウ内のパルスの相対位相は、マスタレーザを再度使用することによって制御されることができる。マスタレーザは、各時間ウィンドウが開始されるとパルス発振されるので、所与の時間ウィンドウ中にFPスレーブレーザによって生成される各パルスは、マスタレーザからの同じパルスによってシーディングされ、同じ位相を有するであろう。このことから、FPスレーブレーザが時間ウィンドウ内に2つのパルスを生成する場合、2つのパルスは、それらの間に0の位相シフトを有し、これは、3ns~4nsの、図6のAの第4の時間ウィンドウの場合である。小さい変調が2つのパルス間の間隔においてマスタレーザポンプパワーに適用された場合、マスタレーザ307によって放射される光の相対位相は、マスタレーザキャビティの屈折率の小さい変化に起因してシフトされるであろう。それ故に、時間ウィンドウ中の第2のパルスの位相は、時間ウィンドウ中の第1のパルスに対してシフトされ、これは、2ns~3nsの、図6のAの第3の時間ウィンドウに示される場合である。2つのFPスレーブレーザパルス間の間隔中にマスタレーザのポンプパワーに適用される変調は、位相の予め定義されたシフトを達成するように慎重に制御されることができる。図6のAに示された例では、変調は、第3の時間ウィンドウ中の2つのパルス間でπの位相シフトを取得するために使用される。
【0053】
それ故に、マスタレーザ及びFPスレーブレーザの両方に適用される変調を制御することによって、情報が、次いで、時間間隔2ns~3ns及び3ns~4ns中に見られるような、2つの異なる位相差中に、又は時間間隔0ns~1ns及び1ns~2ns中に見られるような、2つのスレーブパルスのうちの1つをオフに切り替えることによって位相差及び時間を通して、のうちのいずれかで符号化されることができる。
【0054】
図6のBは、情報が送信機によって出力されるパルスにどのように符号化され得るのかの別の例を示す。故に、プロセスは、図6のAに関連して上記で説明されたものと本質的に同じであり、違いは、異なる時間ウィンドウ間の位相ランダム化がどのように達成されるかである。マスタレーザによって出力される光の位相のシフトを達成するためにマスタレーザが各時間ウィンドウの開始時に利得切替される図6のAの例とは対照的に、ランダム変調が、各ウィンドウの開始時にマスタレーザのACポンプパワーに適用される。同じ時間ウィンドウ中の2つのパルス間の位相シフトを取得するためにACポンプパワーを変調するとき、ACポンプパワーに適用される変調は、マスタレーザキャビティの屈折率の変化を引き起こし、次に、マスタレーザによって出力される光の位相のシフトを引き起こすように作用する。しかしながら、適用される変調がランダム振幅を有するので、生じる位相シフトもまたランダムであり、これは、従って、同じ時間ウィンドウ中の2つのパルス間で取得される位相シフトとは対照的であり、それは、予め定義された(較正された)量だけポンプパワーの振幅を変動させることによって制御される。
【0055】
マスタレーザのACポンプパワーに適用される振幅の真にランダムな変調を達成するために、量子乱数生成器(QRNG:quantum random number generator)が、これらの変調の振幅を達成するために使用され得る。代替として、他の実装形態では、真の乱数生成器(TRNG:true random number generator)が使用されることができる。連続する時間ウィンドウ中のパルス間で情報が重複しないことを保証することに関して、振幅の10個の離散値間でマスタレーザに供給されるACポンプパワーをランダムに変調することは、任意値によってランダムに変調するのと同じ効果を有することが示されることができる。乱数生成器はまた、従来のシステムにおけるのと同じように、どの基底を符号化すべきか、及びどのビットをその基底に送るべきか(即ち、時間基底の初期/後期、又は位相基底の0/πの位相差)を決定するために使用され得る。
【0056】
図7は、別の実施形態による、光送信機300の例を示す。この実施形態では、送信機300は、光パルスの位相を変調することによって、送信機によって出力されるそれらのパルスに情報を符号化するために使用される非対称マッハツェンダー干渉計317を含む。符号化方式は、図8を参照して理解されることができる。前述同様に、波形生成器又はFPGA(図示せず)が、各時間ウィンドウの開始を定義するクロック信号を生成するために使用される。クロック信号は、マスタレーザ307及びマルチモーダルスレーブレーザ309の両方に適用されるポンプパワーにおける変調をトリガするために使用される。この実施形態では、マスタレーザ307及びスレーブレーザ309の両方が、クロックレートでパルス発振される。これは、各時間ウィンドウ内に、スレーブレーザ309が、単一パルスを生成し、各スレーブパルスは、マスタレーザ307によって出力された光によってシーディングされることを意味する。
【0057】
依然として図8を参照すると、ランダム変調が、各ウィンドウの開始時にマスタレーザのACポンプパワーに適用され、これは、次いで、マスタレーザ307によって出力される各パルスの位相がマスタレーザによって出力された以前のパルスに対してランダム化されることを保証する。マスタレーザ307によってマルチモーダルレーザキャビティ中に注入された光子は、マルチモーダルスレーブレーザ309に自然放射ではなく誘導放射を介してシーディングさせるので、マルチモーダルスレーブレーザ309の出力は、マスタレーザ307の出力とコヒーレントとなり、それに応じて、マルチモーダルスレーブレーザ309によって出力される各パルスの位相は、以前の時間ウィンドウ中にスレーブレーザ309によって出力されたパルスに対してランダム化されるであろう。
【0058】
マルチモーダルスレーブレーザ309によって出力されたパルスは、AMZIへの入力においてビームスプリッタ319を介して分割され、遅延部が、AMZIの1つのアームに追加される。パルスを2つに分割し、それらの2つのパルス間に遅延部を導入することによって、光送信機は、各時間ウィンドウ中に2つの光パルスに出力するように構成される。上記で議論したように、各時間ウィンドウ中の第1のパルスの位相は、以前の時間ウィンドウ中のパルスに対してランダム化される。各時間ウィンドウ内の2つのパルス間の位相差は、AMZIの1つのアームに適用される位相変調器321の使用を通して制御され、それは、X/Y基底に位相を符号化するために使用される。例えば、位相変調器は、図8に示されるように、2つのパルス間に0、
【0059】
【数1】
【0060】
、π、又は
【0061】
【数2】
【0062】
の位相シフトを導入し得る。
【0063】
図7に示された実施形態では、受信機301は、1つのアーム上に位相変調器325を有する別のAMZI323と、2つの単一光子検出器327a、327bとから成る。AMZIは、分割されたパルスに干渉し、位相関係は、強め合う又は弱め合う干渉につながり、2つの検出器327a、327bのうちの1つに決定論的にクリックさせる。受信機内で、位相変調器325は、X/Y基底間の切り替えを可能にする(情報が単一位相基底及び時間基底ではなく2つの位相基底に符号化されるどの実施形態でも、受信機は、2つの位相基底間を切り替えるための位相変調器をAMZI中に含むであろうことが認識されるであろう)。
【0064】
図3、5、及び7に示されたQKDシステムでは、送信機300は、(マスタレーザも同じ帯域幅にわたってレーザ発振することが可能であると仮定して)スレーブレーザ309の利得帯域幅に等しい波長可変性を有するであろう。送信機は、従って、数十nmにわたる可変性を有し得る。システムは、どの波長でも使用されることができ、適切な利得帯域幅を有するレーザの利用可能性によってのみ制限される。例えば、InGaAsP半導体レーザは、電気通信C帯域の周囲で利用可能であり、他の材料は、他の波長範囲を可能にする。このことから、図3、5、及び7に示されたシステムは、それらのシステム中で使用されるほとんどのソースの可変性が、温度調整を通して約1nmに制限されるという点で、従来のQKDシステムとは異なる。
【0065】
図9は、別の実施形態による、光送信機900の例を示す。この実施形態では、送信機900は、第1のマルチモーダルレーザ903及び第2のマルチモーダルレーザ905を含む。第1のマルチモーダルレーザ903及び第2のマルチモーダルレーザ905は、例えば、両方ともファブリペローレーザであり得る。ここで、可変レーザ907は、DCバイアスのみを有する連続波(CW)で動作する。可変CWレーザ907からの光は、第1のVOA909を通過し、第1のサーキュレータ911に至る。光は、次に、第1のマルチモーダルレーザ903中に注入され、そのため、第1のマルチモーダルレーザ903の単一モードを選択し、第1のマルチモーダルレーザ903の出力波長を定義する。第1のマルチモーダルレーザ903によって出力された光は、第1のサーキュレータ911から第2のVOA913を通って第2のサーキュレータ915上に戻り、そこから、第2のマルチモーダルレーザ905中に注入される。第2のマルチモーダルレーザ905からの出力は、送信機900によって出力される前に、第2のサーキュレータ915を通って第3のVOA917に戻る。
【0066】
以前の実施形態とは異なり、(第1の)マルチモーダルレーザ903は、波長可変レーザ907から光を受信している間に、それ自体は送信機によって出力される光のパルスを生成しないことが観察されるであろう。それにもかかわらず、第1のマルチモーダルレーザ903によって出力された光は、第1のマルチモーダルレーザ903からの光が第2のマルチモーダルレーザ905によって出力された光のパルスをシーディングするために使用されるので、送信機によって出力されるパルスを生成する際に依然として使用される。
【0067】
図10は、図9の光送信機のための符号化方式を示す。一番上の線は、可変レーザ907に供給される(一定の)DCバイアスを示す。第2及び第3の線は、それぞれ、第1のマルチモーダルレーザ903及び第2のマルチモーダルレーザ905に適用される電気(ポンプ)信号の振幅を示す。第4の線は、第2のマルチモーダルレーザ905の光出力を示す。
【0068】
前述同様に、波形生成器又はFPGA(図示せず)が、各時間ウィンドウの開始を定義するクロック信号を生成するために使用される。クロック信号は、第1のマルチモーダルレーザ903及び第2のマルチモーダルレーザ905に適用されるポンプパワーにおける変調をトリガするために使用される。第1のマルチモーダルレーザ903は、クロックレートでパルス発振され、第2のマルチモーダルレーザ905は、クロックレートの2倍でパルス発振される。これは、各時間ウィンドウ内に、第2のマルチモーダルレーザ905が、利得切替によって最大で2つのパルスを生成し、第2のマルチモーダルレーザ905からの各パルスは、第1のマルチモーダルレーザ903によって出力された光によってシーディングされることを意味する。
【0069】
以前の実施形態にあるように、各時間ウィンドウ中に出力されるパルス(複数可)は、以前の時間ウィンドウ中のパルス(複数可)に対して位相ランダム化される。本実施形態では、これは、各ウィンドウの開始時に第1のマルチモーダルレーザ903のACポンプパワーにランダム変調を適用することによって達成される。ACポンプパワーに適用される変調は、第1のマルチモーダルレーザ903のキャビティの屈折率の変化を引き起こし、次に、第1のマルチモーダルレーザ903によって出力される光の位相のシフトを引き起こすように作用する。適用される変調がランダム振幅を有するので、生じる位相シフトもまたランダムである。加えて、第1のマルチモーダルレーザ903によって第2のマルチモーダルレーザ905のキャビティ中に注入された光子は、第2のマルチモーダルレーザ905に自然放射ではなく誘導放射を介してシーディングさせるので、第2のマルチモーダルレーザ905の出力は、第1のマルチモーダルレーザ903の出力とコヒーレントとなり、それに応じて、それぞれの時間ウィンドウ中に第2のマルチモーダルレーザ905によって出力されるパルス(複数可)の位相もまた、以前の時間ウィンドウ中に第2のマルチモーダルレーザ905によって出力されたパルス(複数可)に対してランダム化されるであろう。
【0070】
異なるウィンドウ内に出力されるパルス(複数可)は、互いと比較してランダム位相を有し、個々の時間ウィンドウ内のパルスの相対位相は、第1のマルチモーダルレーザ903を再度使用することによって制御されることができる。小さい変調が2つのパルス間の間隔において第1のマルチモーダルレーザ903のポンプパワーに適用された場合、第1のマルチモーダルレーザ903によって放射される光の相対位相は、第1のマルチモーダルレーザ903のキャビティの屈折率の小さい変化に起因して再度シフトされるであろう。各ウィンドウの開始時に適用されるランダム変調とは異なり、しかしながら、同じ時間ウィンドウ中のレーザパルス間の間隔において適用される変調は、位相の予め定義されたシフトを達成するように慎重に制御されることができる。図10に示された例では、変調は、第4の時間ウィンドウ中の2つのパルス間でπの位相シフトを取得するために使用される。
【0071】
それ故に、第1のマルチモーダルレーザ903及び第2のマルチモーダルレーザ905の両方に適用される変調を制御することによって、情報が、次いで、時間間隔2ns~3ns及び3ns~4ns中に見られるような、2つの異なる位相差中に、又は時間間隔0ns~1ns及び1ns~2ns中に見られるような、第2のマルチモーダルレーザ905からの2つのパルスのうちの1つをオフに切り替えることによって位相差及び時間を通して、のうちのいずれかで符号化されることができる。
【0072】
図9の実施形態は、可変レーザの直接変調の必要性を排除する。加えて、外部変調器は必要とされず、代わりに、第1のマルチモーダルレーザ903へのAC入力は、送信機900から出力されるパルスの位相を変調するように作用する。
【0073】
本明細書に説明された実施形態は、位相符号化をサポートする高速(MHz又はGHz)で、広く波長可変の小型パルス源を提供することができる。説明された実施形態は、強度及び位相変調器のシーケンスを繰り返すことを必要とせずに、広く可変であり且つ同時に小型でもあるソースを提供することによって、従来のQKD送信機で遭遇される問題に対処する。実際、各波長についての最適なパラメータの事前較正を通して、波長範囲は、QKDに使用されることができる。代替として、フィードバックループが、インサイチュ最適化(in-situ optimization)を可能にするために含まれ得る。情報を送るために使用される波長の柔軟性は、同じシステムが、一方が他方を乱す恐れなしに、古典的な通信トラフィック及びQKDの両方に使用されることを可能にする。加えて、実施形態は、波長シフトが短い時間フレーム内で複数のユーザ鍵を送るのに十分迅速に実施されることができる場合に、異なる波長で異なるユーザ鍵を時間多重化する可能性を提供する。外部位相変調器の存在に依拠しない実施形態の場合、それらの変調器の除去は、フォトニックインテグレーション技法との互換性を強化し、次に、チップスケールQKDを利用する機会を提供する。
【0074】
ポイントツーポイントベースのQKDシステム中に組み込まれることに加えて、本明細書に説明された実施形態はまた、測定デバイス無依存(MDI)及びツインフィールド(TF)QKDを含むいくつかの他のQKDプロトコルに使用され得る。図11は、波長可変量子チャネルを使用するMDI及びツインフィールドQKDアーキテクチャを示す。MDIの場合、送信機1101、1103は、同じ波長に調整され、中央ノード1105に光子を送る。中央ノード1105において、ユーザ間の選択後もつれ(post selection entanglement)につながる2光子干渉が生じる。TF QKDの場合、ユーザ間のもつれにつながる単一光子干渉が、中央ノード1105において生じる。
【0075】
送信機の波長を調整する能力はまた、波長が量子メモリの共鳴励起波長に一致されることを可能にする。メモリは、次いで、状態を記憶し、到着時間、初期量子リピータに柔軟性を与えるために使用されることができる。図12は、実施形態による、2つの波長可変送信機1201、1203を使用する量子リピータベースのQKDシステムを示す。送信機は、量子メモリ1207、1209の励起と共鳴するように調整される。
【0076】
本明細書に説明された実施形態は、パルスが量子デバイスのフォトニック出力に一致するように波長調整され、ホン-オウ-マンデル(Hong-Ou-Mandel)技法を通してデバイスにもつれさせられることができる量子インターネットに向けた進展を可能にし得る。実施形態はまた、量子ドット/固体スピン量子ビットの共鳴蛍光測定のための励起源として使用され得る。
【0077】
本明細書に説明されたような実施形態は、デコイ状態プロトコルと併せて実装され得る。
【0078】
本明細書に説明したような可変送信機はまた、コヒーレント一方向(COW:Coherent One-Way)プロトコルを使用して量子鍵配送を達成するために使用され得る。この場合、変調器は、送信機によって出力される各パルス間の一定の(0)位相シフトを維持するように設定され、送信機によって出力される全てのパルスは、互いとコヒーレントである。
【0079】
コヒーレント一方向(COW)プロトコルは、クロック信号に対して初期又は後期時間ビン(early or late time-bins)中に符号化することによって、2人のユーザ、アリスとボブ間で鍵を共有するために時間ビン符号化を使用する。アリスは、連続するパルス間の固定位相関係を維持する。ボブは、非対称マッハツェンダー干渉計(AMZI)を使用して、隣接するパルス間の干渉可視度を測定することができる。干渉可視度の損失は、盗聴者、イブの存在を示す。より詳細には、送信機では、固定位相関係を有する時間ビンパルスが調整される。受信機において、パルスは、到着時間測定のための直接検出間で分割されるか、又は連続するパルス間の位相関係を測定するためにマッハツェンダー干渉計中に及び2つの検出器上に渡されるかのうちのいずれかである。干渉計は、一方の検出器が最大限に強め合う干渉を受け、他方の検出器が最大限に弱め合う干渉を受けるように設定される。パルス間の固定位相関係に起因して、全ての干渉されたパルスは、一方の検出器に送られるはずである。他方の検出器のクリックは、信号が送信チャネル中で乱され、潜在的に盗聴されていることを示す。鍵が、到着時間測定から生成され、干渉測定が、セキュリティを保証するために使用される。COWプロトコルは、最も一般的な形態の攻撃-コヒーレント攻撃-に対してセキュアではないが、COWプロトコルは、多くの種類の攻撃に対してセキュリティを提供し、一連のセキュリティ対策において使用されることができる。
【0080】
ある特定の実施形態が説明されたが、これらの実施形態は、例としてのみ提示されており、本発明の範囲を限定することを意図されない。実際に、本明細書に説明された、新規の方法、デバイス、及びシステムは、様々な形態で具現化され得、更に、本明細書に説明された方法及びシステムの形態における様々な省略、置換、及び変更が、本発明の趣旨から逸脱することなく行われ得る。添付の特許請求の範囲及びそれらの同等物は、本発明の範囲及び趣旨内にあるような形態及び修正をカバーすることを意図される。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12