(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-09
(45)【発行日】2024-08-20
(54)【発明の名称】ハンドリング装置、制御装置、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
B25J 13/08 20060101AFI20240813BHJP
B25J 15/06 20060101ALI20240813BHJP
【FI】
B25J13/08 A
B25J13/08 Z
B25J15/06 M
(21)【出願番号】P 2023114935
(22)【出願日】2023-07-13
(62)【分割の表示】P 2020034028の分割
【原出願日】2020-02-28
【審査請求日】2023-07-13
(31)【優先権主張番号】P 2019156850
(32)【優先日】2019-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】衛藤 春菜
(72)【発明者】
【氏名】十倉 征司
(72)【発明者】
【氏名】古茂田 和馬
(72)【発明者】
【氏名】姜 平
(72)【発明者】
【氏名】小川 昭人
【審査官】尾形 元
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-142559(JP,A)
【文献】特開2018-58175(JP,A)
【文献】特開2014-210311(JP,A)
【文献】特開2015-47681(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0226711(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00-21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体を保持可能な保持部と、
前記保持部と前記物体とが接触する接触面積
を検出し、前記接触面積の縦横比が1より大きい場合、接触面の分布において最も広がり度合が小さい方向と交差する方向を特定分布方向
として、前記物体を保持した前記保持部が前記特定分布方向に沿って動くよう前記保持部の動作を制御する制御部と、
を備えるハンドリング装置。
【請求項2】
前記保持部は、前記物体を保持する保持面を有し、
前記制御部は、前記保持面に前記特定分布方向と関連付けた基準軸を設定し、前記基準軸に基づいて前記保持部の動作を制御する
請求項1に記載のハンドリング装置。
【請求項3】
物体を保持可能な保持部と前記物体とが接触する接触面積を検出し、前記接触面積の縦横比が1より大きい場合、接触面の分布において最も広がり度合が小さい方向と交差する方向を特定分布方向として、前記物体を保持した前記保持部が前記特定分布方向に沿って動くよう前記保持部の動作を制御する制御部
を備える制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の制御装置としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、ハンドリング装置、制御装置、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
物流向けピッキングシステムを活用した自動化システムでは、多様なサイズ、重さの物体を把持・搬送することが多い。物体の種類に応じてロボットシステムそのものを切り替えるとコストがかかるため、一つのロボットシステムでいかに多様な物体を扱えるかが課題となる。例えば、ロボットシステムとしては、ピッキングハンドを用いて物体を移動させるピッキング装置を備えるピッキングシステムがある。ピッキングシステムは、物体を第1位置から第2位置に配置するための軌道上で干渉が生じない軌道を規定する軌道情報に基づいてピッキング装置を動作させる。
【0003】
ところで、物体を吸着把持する複数の吸盤を有するエンドエフェクタ(ハンド)を備えるハンドリング装置がある。ハンドリング装置は、複数の吸着バルブのオン・オフ制御により吸着面積を変更可能に、使用する吸盤を切り替える。この場合、様々なパターンの把持方法(例えば、エンドエフェクタ、使用する吸盤、把持対象である物体の位置姿勢、およびこれらの組み合わせ)が考えられる。従来は、物体の吸着面が複雑な形状を有する場合、物体を把持可能な面に対してなるべく大きい吸着面積を確保可能な把持方法が優先されてきた。しかし、物体の重量が大きい条件下では、吸着面積を確保できたとしても吸着位置によっては物体が落下する等、物体を安定して把持することができない場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、物体を安定して保持することができるハンドリング装置、制御装置、及びプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態のハンドリング装置は、保持部と、制御部と、を持つ。保持部は、物体を保持可能である。制御部は、前記保持部と前記物体とが接触する接触面積を検出し、前記接触面積の縦横比が1より大きい場合、接触面の分布において最も広がり度合が小さい方向と交差する方向を特定分布方向として、前記物体を保持した前記保持部が前記特定分布方向に沿って動くよう前記保持部の動作を制御する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】一実施形態の搬送システムを模式的に示す斜視図。
【
図3】一実施形態の複数の吸着部の配置レイアウトを示す下面図。
【
図4】一実施形態の搬送システムのシステム構成を示すブロック図。
【
図7】構造が受ける曲げ応力について説明するための図。
【
図8】保持部と物体とが接触する接触面の中心と物体の重心との距離に関する距離情報について説明するための図。
【
図9】保持部と物体とが接触する接触面積について説明するための図。
【
図11】断面2次モーメントの算出方法を説明するための図。
【
図13】一実施形態の保持部の保持方法の例を示す図。
【
図14】物体搬送時における物体の現在位置・姿勢、目標位置・姿勢の一例を示す図。
【
図15】一実施形態における保持部の運動方法の第1例を示す図。
【
図16】一実施形態における保持部の運動方法の第2例を示す図。
【
図17】物体搬送時における物体の現在位置・姿勢、目標経路、目標位置・姿勢の一例を示す図。
【
図18】一実施形態における保持部の保持方法の第1例を示す図。
【
図19】一実施形態における保持部の保持方法の第2例を示す図。
【
図20】一実施形態の演算装置の処理の流れの一例を示すフローチャート。
【
図21】一実施形態の演算装置の計画処理の流れの一例を示すフローチャート。
【
図22】一実施形態の演算装置の計画処理の流れの一例を示すフローチャート。
【
図23】一実施形態の演算装置の計画処理の流れの一例を示すフローチャート。
【
図24】一実施形態の演算装置の実行処理の流れの一例を示すフローチャート。
【
図25】一実施形態の演算装置の実行処理の流れの一例を示すフローチャート。
【
図26】一実施形態の演算装置の実行処理の流れの一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施形態のハンドリング装置及び搬送システムを、図面を参照して説明する。なお以下の説明では、同一又は類似の機能を有する構成に同一の符号を付す。そして、それら構成の重複する説明は省略する場合がある。また、本願でいう「XXに基づく」とは、「少なくともXXに基づく」ことを意味し、XXに加えて別の要素に基づく場合も含む。
また、「XXに基づく」とは、XXを直接に用いる場合に限定されず、XXに対して演算や加工が行われたものに基づく場合も含む。「XX」は、任意の要素(例えば、任意の情報)である。
【0009】
図1から
図20を参照して、一実施形態について説明する。
図1は、本実施形態のハンドリング装置10を含む搬送システム1を模式的に示す斜視図である。搬送システム1は、例えば、物流用のハンドリングシステム(ピッキングシステム)である。搬送システム1は、移動元V1に位置する物体(保持対象物、搬送対象物)Oを、移動先V2に移動させる。
【0010】
移動元V1は、例えば、各種のコンベアや各種のパレット、又はトートやオリコンのようなコンテナ等である。「コンテナ」とは、物体Oを収容可能な部材(例えば箱状の部材)を広く意味する。ただし、移動元V1は、上記例に限定されない。以下の説明では、「移動元V1」を「取り出し元コンテナV1」と称する場合がある。
【0011】
移動元V1には、大きさや重さが異なる多種類の物体Oがランダムに置かれる。例えば、保持対象の物体Oは、物体O表面の少なくとも一部に凹凸形状を有する。本実施形態では、物体Oの外形形状は、5cm角のような小さなものから、30cm角のような大きなものまで様々である。また、物体Oは、数十gのような軽いものから数kgのような重いものまで様々である。ただし、物体Oの大きさや重さは、上記例に限定されない。
【0012】
移動先V2は、例えば、トートやオリコンのようなコンテナである。ただし、移動先V2は、上記例に限定されない。以下の説明では、「移動先V2」を「搬送先コンテナV2」と称し、「移動元V1」および「移動先V2」を単に「コンテナ」と総称する場合がある。ただし、ハンドリング装置10及び搬送システム1は、コンテナ以外の移動先V2に物体Oを移動させるものでもよい。
【0013】
又はハンドリング装置10及び搬送システム1は、物流用のハンドリングシステムに限定されず、産業用ロボットシステムやその他のシステム等にも広く適用可能である。本願でいう「ハンドリング装置」、及び「搬送システム」とは、物体の搬送を主目的とした装置やシステムに限定されず、製品組立や別の目的の一部として物体の搬送(移動)を伴う装置やシステムも含む。
【0014】
まず、搬送システム1の全体構成について説明する。
図1に示すように、搬送システム1は、例えば、ハンドリング装置10、検出装置11、演算装置12及び管理装置13(
図4参照)を含む。
【0015】
ハンドリング装置10は、例えばロボット装置である。ハンドリング装置10は、取り出し元コンテナV1に位置する物体Oを保持し、保持した物体Oを搬送先コンテナV2(保管領域)に移動させる。ハンドリング装置10は、有線又は無線で管理装置13(
図4参照)と通信可能である。
【0016】
検出装置11は、例えば複数の検出器11A,11B(
図4参照)を備える。
図1の例では、複数の検出器11A,11Bのうち取り出し元コンテナV1の近く(例えば、取り出し元コンテナV1の直上や斜め上方)に配置された検出器11A(以下「第1検出器11A」ともいう。)を示す。例えば、第1検出器11Aは、カメラ又は各種センサである。第1検出器11Aは、例えば、取り出し元コンテナV1に位置する物体Oに関する情報と、取り出し元コンテナV1に関する情報とを取得する。
【0017】
第1検出器11Aにより取得される情報は、例えば、「画像データ」、「距離画像データ」、及び「形状データ」の少なくとも一つである。「距離画像データ」とは、1つ以上の方向の距離情報(例えば、取り出し元コンテナV1の上方に設定された任意の基準面からの深さ情報)を持つ画像データである。「形状データ」とは、物体Oの外形形状等を示す情報である。第1検出器11Aにより検出された情報は、演算装置12に出力される。第1検出器11Aにより検出された情報は、管理装置13(
図4参照)に出力されてもよい。
なお、第1検出器11Aは、ハンドリング装置10の一部として設けられてもよい。この場合、第1検出器11Aにより検出された情報は、ハンドリング装置10の演算装置12に直接出力されてもよい。
【0018】
なお、ハンドリング装置10は、取り出し元コンテナV1から物体Oを取り出す動作を行う前に、取り出し元コンテナV1に位置する物体Oに関する情報、及び取り出し元コンテナV1に関する情報を取得することができる構成であってもよい。この場合、取り出し元コンテナV1に位置する物体Oに関する情報、及び取り出し元コンテナV1に関する情報は、第1検出器11Aを用いて取得される構成ではなくてもよい。
例えば、取り出し元コンテナV1に位置する物体Oに関する情報、及び取り出し元コンテナV1に関する情報が、予めサーバ(図示せず)上のデータベースに登録されていてもよい。例えば、演算装置12又は管理装置13は、取り出し元コンテナV1に位置する物体Oに関する情報、及び取り出し元コンテナV1に関する情報をデータベースから取得する構成であってもよい。
【0019】
ただし、例えば、システム動作中に揺れ等が発生することによって物体Oの位置や姿勢等が変化する可能性がある。そのため、搬送システム1が、物体O及び取り出し元コンテナV1に関する最新の情報を取得することができる構成を備えていることが好ましい。
【0020】
検出装置11には、搬送先コンテナV2の近く(例えば、搬送先コンテナV2の直上や斜め上方)に配置された検出器11B(以下「第2検出器11B」ともいう。
図4参照)が含まれる。例えば、第2検出器11Bは、カメラ又は各種センサである。第2検出器11Bは、例えば、搬送先コンテナV2の形状(内壁面や仕切りの形状を含む)に関する情報と、搬送先コンテナV2内に先に置かれた物体Oに関する情報とを検出する。
【0021】
第2検出器11Bにより取得される情報は、例えば、「画像データ」、「距離画像データ」、及び「形状データ」の少なくとも一つである。
なお、第2検出器11Bは、ハンドリング装置10の一部として設けられてもよい。この場合、第2検出器11Bにより検出された情報は、ハンドリング装置10の演算装置12に直接出力されてもよい。
【0022】
演算装置12(制御装置)は、搬送システム1の全体の制御を行う。例えば、演算装置12は、管理装置13が有する情報、及び検出装置11(第1検出器11A及び第2検出器)により検出された情報を取得し、取得した情報をハンドリング装置10に出力する。演算装置12は、例えば、認識部20、計画部30及び実行部40を含む(
図4参照)。
【0023】
管理装置13(
図4参照)は、搬送システム1の全体の管理を行う。
図4に示すように、管理装置13は、例えば、物体の情報を管理する物体情報管理部14を含む。例えば、物体情報管理部14は、第1検出器11A及び第2検出器11Bにより検出された物体の情報を取得し、取得した情報を管理する。
【0024】
次に、ハンドリング装置10について説明する。
図1に示すように、ハンドリング装置10は、例えば、移動機構100及び保持部200を含む。
【0025】
移動機構100は、保持部200を所望の位置に移動させる機構である。例えば、移動機構100は、6軸の垂直多関節ロボットアームである。移動機構100は、例えば、複数のアーム部材101と、複数のアーム部材101を回動可能に連結した複数の回動部102とを含む。
【0026】
ただし、移動機構100は、3軸の直交ロボットアームでもよいし、その他の構成により保持部200を所望の位置に移動させる機構でもよい。例えば、移動機構100は、回転翼により保持部200を持ち上げて移動させる飛行体(例えばドローン)等でもよい。
【0027】
保持部200は、取り出し元コンテナV1に位置する物体Oを保持する保持機構である。保持部200は、回動部202(
図2参照)を介して移動機構100に連結されている。例えば、保持部200は、吸引装置203(
図2参照)と、吸引装置203に連通した吸着部205とを有する。保持部200は、例えば吸着により物体Oを保持する。
【0028】
ただし、保持部200は、複数の挟持部材で物体Oを挟持することで物体Oを保持する保持部でもよいし、その他の機構により物体Oを保持する保持部でもよい。例えば、保持部200は、磁力を利用して物体Oを保持する保持部でもよい。例えば、保持部200は、粉体を詰め込んだ柔軟膜と、柔軟膜内から空気を抜き出す真空ポンプとで構成され、ジャミング現象を利用して物体Oを保持する保持部(例えばジャミンググリッパ)でもよい。なお以下では、保持部200が吸着部205を有する例について説明する。
【0029】
図2は、本実施形態の保持部200を示す斜視図である。保持部200は、例えば、ベース201、回動部202、吸引装置203、複数の切換弁204、複数の吸着部205(例えば吸盤)、ベース先端部206、及び回動部207を有する。
【0030】
ベース201は、例えば直方体状の外形を有する。ベース201は、保持部200の外郭を形成している。ベース201は、回動部202を介して移動機構100(
図1参照)に連結されている。なお、ベース201は、円柱状の外形を有していてもよい。また、ベース201は、箱状に形成されてもよく、フレームのみで構成されてもよい。
【0031】
回動部202は、ベース201と移動機構100(
図1参照)との間に設けられている。回動部202は、移動機構100に対してベース201を回動可能に連結している。回動部202の回動中心軸Cは、移動機構100の先端部とベース201とが並ぶ方向と略一致する。回動部202は、移動機構100に対して保持部200のベース201を、図中のA方向及びその反対方向(回動中心軸Cの周方向)に回動させることができる。なお、回動部202は、保持部200の一部としてではなく、移動機構100の一部として設けられてもよい。
【0032】
吸引装置203は、ベース201の内側に設けられている。吸引装置203は、例えば真空ポンプである。吸引装置203は、ホース等を介して複数の吸着部205の各々と連通している。吸引装置203が駆動されることで、各吸着部205内の圧力が大気圧よりも低くなり、吸着部205により物体Oが吸着保持される。
【0033】
複数の切換弁204は、複数の吸着部205に対して1対1で設けられている。各切換弁204は、対応する吸着部205と吸引装置203と連通させる第1状態と、対応する吸着部205と吸引装置203と連通させない第2状態との間で切り替え可能である。第2状態は、吸着部205と吸引装置203との間の連通を遮断するとともに吸着部205をハンドリング装置10の外部(大気圧空間)に連通させる状態である。
【0034】
以下、物体Oの保持に用いる吸着部205を「有効吸着部205E」と称する。ハンドリング装置10は、例えば物体Oが比較的小さい場合、複数の吸着部205のなかから選択された1つ又は少数の吸着部205のみを有効吸着部205Eとして機能させる。ハンドリング装置10は、例えば物体Oの重心近傍を保持する場合、複数の吸着部205のなかから選択された1つ又は少数の吸着部205のみを有効吸着部205Eとして機能させる。以下に説明するいくつかの図では、複数の吸着部205のなかで、有効吸着部205Eにドット模様を付することで、有効吸着部205Eと、それ以外の吸着部205とを区別して図示している。
【0035】
複数の吸着部205は、ベース先端部206の一端部において、互いに並べて配置されている。吸着部205は、取り出し元コンテナV1に位置する最小の物体よりも小さい外形を持つ。ハンドリング装置10は、複数の吸着部205のなかから選択された1つ以上の有効吸着部205Eのみを用いて物体Oを吸着保持する。
【0036】
ベース先端部206は、回動部207を介してベース201の一端部に連結されている。本実施形態では、ベース先端部206には、5つの吸着部205が設けられている。
【0037】
回動部207は、ベース先端部206とベース201との間に設けられている。回動部207は、ベース201に対してベース先端部206を回動可能に連結している。
【0038】
上述したように移動機構100は、6軸の垂直多関節ロボットアームであり、様々な位置姿勢をとることが可能である。さらに、上記のベース先端部206及び回動部207が設けられることによって、保持部200の先端に、さらに1軸の自由度が与えられる。これにより、以下の効果を有する。例えば、人間が、底の深い箱の中の物を取り出す場合、箱の上方からまっすぐ垂直に腕を差し込み、腕自体の水平方向回転と手首を倒す運動のみで様々な手先姿勢を取ることができる。人間の腕及び手と同様に、移動機構100も、物体を把持するためのより様々な姿勢を取ることができる。
【0039】
上述したように、取り出し元コンテナV1の上部には取り出し元コンテナV1内部の物体Oを認識するための第1検出器11Aが設けられている。この場合、物体Oの移動作業において生じる様々な誤差により、物体Oを把持する動作の前後において多少の位置ずれが生じる可能性がある。これに対し、例えば、ハンドリング装置10は、把持した物体Oを移動させて、LRF(Laser Range Finder;レーザー照準機)の前を通過させる(不図示)。これにより、ハンドリング装置10は、物体Oの把持状態の確認を行うことができ、保持部200と物体Oとの位置関係をより正確に認識することができる。
【0040】
上記LRFは、例えば、保持部200が搬送先コンテナV2へ向かって移動する際の移動経路の近傍に設けられることが好ましい。この場合、ハンドリング装置10は、より小さな動作で物体Oの把持状態の確認を行うことができる。これにより、システム全体の動作時間が短縮される。
【0041】
図3は、本実施形態の複数の吸着部205の配置レイアウトを示す下面図である。本実施形態では、保持部200の外形(例えばベース先端部206又はベース201の外形)は、例えば12cm×12cmの四角形状である。上述したように、保持部200は、5つの吸着部205を有する。5つの吸着部205は、保持部200の略中心に配置された1つの吸着部205と、保持部200の4つの角部に対応するように、上記吸着部205の周囲に分かれて配置された4つの吸着部205とを含む。これら4つの吸着部205は、上述した回動部202(
図2参照)が回動することで、回動部202の回動中心軸Cの周りをA方向及びその反対方向に回動可能である。
【0042】
次に、演算装置12(制御装置)について説明する。演算装置12は、ハンドリング装置10の全体の制御を行う。
図4は、搬送システム1のシステム構成を示すブロック図である。例えば、演算装置12は、管理装置13が有する情報、及び検出装置11(第1検出器11A及び第2検出器11B)により検出された情報を取得し、取得した情報をハンドリング装置10(
図1参照)に出力する。演算装置12は、例えば、認識部20、計画部30、実行部40及び記憶部(不図示)を含む。
【0043】
演算装置12の各機能部(例えば、認識部20、計画部30、及び実行部40)の全部又は一部は、例えばCPU(Central Processing Unit;中央処理装置)又はGPU(Graphics Processing Unit;グラフィックスプロセッサ)のような1つ以上のプロセッサがプログラムメモリに記憶されたプログラムを実行することにより実現される。ただし、これら機能部の全部又は一部は、LSI(Large ScaleIntegration;大規模集積回路)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-ProgrammableGate Array)、PLD(Programmable Logic Device)等のハードウェア(例えば回路部;circuity)により実現されてもよい。また、上記機能部の全部又は一部は、上記ソフトウェア機能部とハードウェアとの組み合わせで実現されてもよい。記憶部は、フラッシュメモリ、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)、ROM(Read-Only Memory;読み出し専用メモリ)、又はRAM(Random Access Memory;読み書き可能なメモリ)等により実現される。
【0044】
先ず、記憶部について説明する。記憶部には、例えば、保持部200の外形を示す情報(以下、「保持部外形情報」と称する)が記憶されている。
【0045】
「保持部外形情報」は、例えば特定方向D(
図1参照)から見た場合における保持部200の外形を示す情報を含む。特定方向Dとは、例えば、搬送先コンテナV2内に物体Oを置くタイミング(例えば物体Oを解放する直前のタイミング)で、物体Oと保持部200とが重なる方向である。言い換えると、「特定方向D」とは、吸着部205を有した保持部200が設けられる場合、物体Oに対して吸着部205が接する方向である。
【0046】
なお、保持部外形情報は、ハンドリング装置10の記憶部に記憶されることに代えて、管理装置13に記憶されてもよい。また、保持部外形情報は、ハンドリング装置10がネットワークを介して通信可能な他の装置に記憶されてもよい。
【0047】
次に、演算装置12の各機能部について説明する。
認識部20は、管理装置13が有する情報、及び検出装置11(第1検出器11A及び第2検出器11B)により検出された情報を取得し、ハンドリング装置10の制御に用いられる各種要素の状態を認識する。例えば、認識部20は、各種要素の状態を認識する状態認識部21を含む。例えば、状態認識部21は、画像データ又は距離画像データに対して所定の画像処理を行うことで、各種要素の状態に関する情報の少なくとも一部を生成する。例えば、各種要素の状態に関する情報は、「物体外形情報」、「物体位置姿勢情報」、「物体重心情報」、及び「コンテナ情報」を含む。認識部20は、これらの情報を計画部30に出力する。
【0048】
「物体外形情報」は、例えば、物体Oの画像データ、物体Oの距離画像データ、物体Oの形状データ、又は、それらの少なくとも1つから導出された情報である。「物体外形情報」は、取り出し元コンテナV1に位置する物体O(保持対象の物体O)の外形を示す情報である。「物体外形情報」は、例えば上記特定方向Dから見た場合における物体Oの外形を示す情報を含む。例えば、「物体外形情報」は、物体表面の平面/非平面に関する情報を含む。
【0049】
例えば、物体外形情報は、物体Oに外接する直方体形状のうちの第1面F1、及び第1面F1に隣接する第2面F2に関する情報を含む(
図5参照)。例えば、物体表面が非平面である場合(物体表面に凹凸がある場合)、状態認識部21は、物体表面の最外凸部に外接する直方体形状を物体外形情報として認識する(
図6参照)。例えば、状態認識部21は、特定方向から物体を見た時の外形形状を物体の保持可能領域Fcとして認識する。保持可能領域Fcは、物体表面において吸着可能な平面部である。
【0050】
「物体位置姿勢情報」は、例えば、物体Oの画像データ、物体Oの距離画像データ、物体Oの形状データ、又は、それらの少なくとも1つから導出された情報である。「物体位置姿勢情報」は、取り出し元コンテナV1に位置する物体Oの位置姿勢を示す情報である。「物体位置姿勢情報」は、例えば、取り出し元コンテナV1における物体Oの配置位置、及び物体Oの姿勢(例えば、水平面に対する物体表面の傾き度合)を示す情報を含む。
【0051】
「物体重心情報」は、例えば、物体Oの画像データ、物体Oの距離画像データ、物体Oの形状データ、物体Oの重量データ、又は、それらの少なくとも1つから導出された情報である。「物体重心情報」は、物体の重心位置Gを示す情報である。例えば、「物体重心情報」は、物体が同一の材料で形成されていると仮定したときに得られる撮像画像の図心の位置情報である。例えば、状態認識部21は、物体が一様の密度を有すると仮定した3次元情報に基づいて物体の重心位置Gを認識する。
【0052】
「コンテナ情報」は、例えば、「移動元形状情報」、「移動先形状情報」、及び「移動先積載情報」を含む。
「移動元形状情報」は、取り出し元コンテナV1の物体Oを保持部200で保持する場合に障害物となる取り出し元コンテナV1の形状を示す情報である。状態認識部21は、例えば第1検出器11Aにより検出された情報に基づき、「移動元形状情報」を認識する。
【0053】
「移動先形状情報」は、搬送先コンテナV2に物体Oを移動させる場合に障害物となる搬送先コンテナV2の形状を示す情報である。例えば、「移動先形状情報」は、搬送先コンテナV2の内壁面を規定する壁や、搬送先コンテナV2の内部に設けられた仕切りを示す情報である。
「移動先積載情報」は、搬送先コンテナV2に先に置かれた物体Oを示す情報である。
状態認識部21は、例えば第2検出器11Bにより検出された情報に基づき、「移動先形状情報」及び「移動先積載情報」を認識する。
【0054】
次に、計画部30について説明する。
例えば、計画部30は、保持計画部31(算出部)、リリース計画部32、及び動作計画部33を含む。
保持計画部31は、取り出し元コンテナV1に位置する物体Oを保持部200で保持するための保持計画を生成する。
リリース計画部32(解放計画部)は、保持部200により保持された物体Oを搬送先コンテナV2で解放するための解放計画を生成する。
動作計画部33は、保持部200により保持された物体Oを搬送先コンテナV2に移動させるための移動計画を生成する。動作計画部33は、生成した移動計画を制御部43に出力する。
【0055】
次に、実行部40について説明する。
例えば、実行部40は、圧力検出部41、力検出部42、及び制御部43を含む。
圧力検出部41は、吸着部205の内圧を検出する圧力センサ等から得られる圧力情報を生成する。圧力検出部41は、生成した圧力情報を制御部43に出力する。
力検出部42は、エンドエフェクタ(保持部200)先端に発生する力を推定できる力センサ等から得られる力情報を生成する。力検出部42は、生成した力情報を制御部43に出力する。
【0056】
制御部43は、動作計画部33により出力された移動計画、圧力検出部41により出力された圧力情報、及び力検出部42により出力された力情報に基づき、保持部200による物体Oの保持動作、搬送動作、及び解放動作を実行する。制御部43は、保持部200の保持状態、及び保持部200で保持している物体Oの周囲との接触状態を検出し、適宜リトライ動作を実行する。
【0057】
次に、保持計画部31の処理について説明する。
例えば、保持計画部31は、状態認識部21により出力された情報に基づき、保持部200の保持方法(物体Oを保持部200で保持するときの複数の保持方法)を算出し、算出した保持方法のうち最も良い方法を動作計画部33に出力する。保持方法は、物体Oを保持部200で保持するときの保持位置、保持姿勢、およびこれらの組み合わせを意味する。
【0058】
「保持位置」とは、物体Oに対して保持部200を平行移動させた場合に変化する、保持部200において物体Oが保持される位置を意味する。すなわち、「保持位置」とは、物体Oと保持部200とが重なる方向から見たときに、保持部200の外形で表される範囲のうち物体Oが重なっている範囲を示す。なお、保持部200の保持位置は、移動機構100の動作により変更可能である。
【0059】
「保持姿勢」とは、物体Oに対する保持部200の角度位置(A方向における回転位置)を意味する。なお、保持部200の保持姿勢は、回動部202の回動により変更可能である。
【0060】
上記のハンドリング装置10は、例えば、1mm間隔のシフト又は1度間隔の回転等、保持部200を自在に動作させることができる。そのため、ハンドリング装置10は、物体Oを様々な保持姿勢及び保持位置で把持することができる。このようにハンドリング装置10よって器用なハンドリングが可能になる一方で、システム全体にとって最良な保持方法を選択できているかどうかが重要なポイントとなる。
【0061】
本実施形態では、複数の保持方法を網羅的に探索しつつ、それぞれの保持方法における安全率を推定し、最も安全率の高い保持方法を選定する。保持計画部31は、保持部200が物体Oを保持する場合の安全率として推定保持安全率ratioを算出する(式(2)、式(3)参照)。
【0062】
保持計画部31は、保持部200と物体Oとが接触する面積に関する接触面積情報と、保持部200と物体Oとが接触する接触面の中心K(以下「接触面中心K」ともいう。)と物体Oの重心Gとの距離Lに関する距離情報(
図8参照)とに基づいて推定保持安全率ratioを算出する。
【0063】
ここで、保持部200と物体Oとが接触する接触面を吸着可能な圧力を「吸着圧力」、接触面中心Kと物体の重心Gとの距離Lを保持部200と物体Oとの接触面を断面とした断面2次モーメントIで除した応力を示す値を「除算応力値」とする。
保持計画部31は、吸着圧力を除算応力値で除した数値に基づいて推定保持安全率ratioを算出する。
【0064】
推定保持安全率ratioは、任意の保持方法における吸着圧力を、曲げ応力とその他発生する引張応力とを足し合わせた値で除した値である。
【0065】
曲げ応力は、次の式(1)により算出される。
【0066】
【0067】
式(1)において、σ(x)は曲げ応力、Mはモーメント、Iは断面2次モーメント、xは中立軸からの距離である。
図7は、構造体に曲げ応力が作用したときのモデルを示す。
図7に示すように、構造体に曲げ応力が作用した場合、構造体には引張応力および圧縮応力が生じる。
【0068】
構造体に曲げ応力が作用した場合、構造体が耐えうる引張応力よりも最大曲げ応力が大きいとき、構造体は破断する。
吸着の場合は、吸着部205ごとの真空圧よりも最大曲げ応力が大きいとき、吸着している物体Oから吸着部205が剥がれるとみなすことができる。
【0069】
推定保持安全率ratioは、次の式(2)により算出される。
【0070】
【0071】
式(2)において、Pは任意の保持方法の真空圧(吸着圧力)、σは曲げ応力、Tsはその他発生する引張応力である。本実施形態では、その他発生する引張応力Tsを省略するため、推定保持安全率ratioは、任意の保持方法における吸着圧力を曲げ応力で除した値となる。その他発生する引張応力Tsを省略すると、推定保持安全率ratioは、次の式(3)により算出される。
【0072】
【0073】
式(3)において、Mは接触面中心Kと物体重心Gとの距離Lで決まるモーメント、Rは吸着面輪郭と物体重心Gとの最短距離、Iは任意の保持方法で決まる断面2次モーメントである。
図8の例では、吸着面の外に物体重心Gが位置する場合を示す。この場合、最短距離Rは、物体重心Gに最も近い有効吸着部205Eの輪郭と物体重心Gとの間隔である。吸着面において最も剥がれやすい部分は、物体重心Gに最も近い有効吸着部205Eの輪郭となる。以下、物体重心Gに最も近い有効吸着部205Eの輪郭個所を「危険個所」ともいう。
【0074】
上述の通り、推定保持安全率ratioを計算するためには、断面2次モーメントIを計算する必要がある。複数の吸着部205を持つ保持部200の場合、複数の吸着部205がそれぞれ接続されている切換弁204(
図2参照)の数で吸着部205の組み合わせパターン数が決まる。例えば、独立に制御可能な切換弁204の数がN個の場合、吸着部205の組み合わせパターン数Qは、次の式(4)により算出される。
【0075】
【0076】
例えば、5個の吸着部205に対して5個の独立制御可能な切換弁204を持つ保持部200を挙げて説明する。この場合、取りうるパターン数Qは31である。
例えば、5つの吸着部205すべてを使用するパターンの場合、有効吸着部205Eの分布方向は異方性を有しない(
図9参照)。この場合、xyの座標系をどのようにとっても、x軸方向の曲げ強さと、y軸方向の曲げ強さとに差はない。
【0077】
一方、3つの吸着部205が1列に並ぶパターンの場合(3つの有効吸着部205Eが1列に並ぶ場合)、有効吸着部205Eの分布方向は異方性を有する(
図10参照)。この場合、有効吸着部205Eの並び方向に荷重がかかった場合の曲げに強く、有効吸着部205Eの並び方向と直交する方向に荷重がかかった場合の曲げに弱い。この場合、
図10の通りのxy座標におけるx軸方向の曲げ強さとy軸方向の曲げ強さとには数値上の差はなく、座標を回転させて考える必要がある。この曲げ強さのことをx軸回り、y軸回りの断面2次モーメントという(
図11参照)。
図11において、符号Wxは引張が最大値をとるx軸上の値、符号Wyは引張が最大値をとるy軸上の値をそれぞれ示す。
【0078】
x軸回り、y軸回りの断面2次モーメントの差が最も大きくなる座標系への回転角度を主軸角度Bという(
図12参照)。
図12に示すように、3つの有効吸着部205Eが1列に並ぶ場合、xy座量を角度Bだけ回転させてXY座標とした場合を考える。この場合、X軸方向の印加荷重による曲げに弱く、Y軸方向の印加荷重による曲げに強い。
【0079】
x軸回りの断面2次モーメントIx、y軸回りの断面2次モーメントIy、断面相乗モーメントIxy、及び主軸角度Bは、それぞれ次の公式(5)~(8)によって求めることができる。
【0080】
【0081】
【0082】
【0083】
【0084】
一例として、円断面の場合の断面2次モーメントIcircleの算出方法を次の式(9)に示す。
【0085】
【0086】
円断面の場合における、x軸回りの断面2次モーメントIx、及びy軸回りの断面2次モーメントIyは、それぞれ次の式(10)、(11)によって求めることができる。式(10)、(11)において、Npは有効吸着部の数である。
【0087】
【0088】
【0089】
例えば、主軸角度Bは、システム起動時にあらかじめ計算しておき、テーブルデータとしてメモリに保存しておくとよい。これにより、保持計画部31の計算時間が延びることを抑制することができる。
【0090】
主軸角度Bを用いて弱軸(有効吸着部205Eの並び方向と直交する方向の軸)に物体自重が発生したと仮定した曲げ応力計算を行うことにより、大まかな推定保持安全率ratioを見積もることができる。
より精密に計算する場合には、各吸着部205の組み合わせ(31パターン)すべてに対し、座標を1度刻みに180度回転させて、それぞれの角度におけるx軸回り、y軸回りの断面2次モーメントIの値をすべて登録しておくとよい。この場合、推定保持安全率ratioの計算時に、危険個所と吸着パターンの図心とをx軸またはy軸が通るような適切な回転角度の断面2次モーメントIを選ぶことにより、より精密な計算が可能となる。
【0091】
保持計画部31は、保持部200と物体Oとが接触する接触面の分布に関する接触分布方向を算出する。ここで、保持部200と物体Oとが接触する接触面積の縦横比が1より大きい場合、接触面の分布において最も広がり度合が小さい方向と交差する方向を「特定分布方向」とする。接触面積の「縦」は、接触面の分布において最も広がり度合が大きい方向の長さに相当する。接触面積の「横」は、接触面の分布において最も広がり度合が小さい方向(「縦」の長手方向と直交する方向)の長さに相当する。
【0092】
本実施形態では、特定分布方向は、接触面の分布において最も広がり度合が小さい方向と直交する方向である。
図10の例では、接触面の分布において最も広がり度合が小さい方向をH1、方向H1と直交する方向(特定分布方向)をH2で示す。すなわち、特定分布方向H2は、接触面の分布において最も広がり度合が大きい方向である。
図10の例では、特定分布方向H2は、3つの有効吸着部205Eが1列に並ぶ方向である。特定分布方向H2は、この方向の印加荷重に対する曲げが最も強い方向である。
【0093】
次に、保持部200の保持方法の一例を説明する。
図13の例では、物体Oがひょうたん型を有する場合を示す。保持部200は、5つの吸着部205のうち4つの有効吸着部205Eによって、物体重心G近傍で物体Oを保持している。
【0094】
ところで、一般的な手法では、物体Oを保持可能な面に対して十分な吸着面積を確保できるような保持方法が優先される(例えば
図8参照)。しかし、この場合、ひょうたん型の物体Oを持ち上げた際に、接触面中心Kと物体重心Gとの距離Lの大きさによって大きなモーメントが発生し、物体Oが保持部200から剥がれて落下する可能性が高い。
【0095】
これに対し、本実施形態では、複数の保持方法のうち推定保持安全率ratioが目標値以上となるような保持方法が選択される(
図13参照)。すなわち、本実施形態では、発生するモーメントを小さく抑えつつ吸着面積を確保できるような保持方法が自動的に計算されるため、安全な保持動作が可能となる。
【0096】
このように、制御部43は、保持計画部31が算出した推定保持安全率ratioに基づいて保持部200に物体を保持させる。制御部43は、保持部200と物体Oとが接触する接触面積の縦横比が1より大きい場合、物体Oを保持した保持部200が特定分布方向H2に沿って動くよう保持部200の動作を制御する。
【0097】
次に、物体搬送時(物体Oを取り出し元コンテナV1から搬送先コンテナV2へ搬送するとき)の保持方法について説明する。
図14(a)、
図14(b)は、物体搬送時における物体Oの現在位置・姿勢(スタート位置)、目標位置・姿勢(最終位置)の一例をそれぞれ示す。
【0098】
図15は、一実施形態における保持部200の運動方法の第1例を示す図である。第1例は、3つの有効吸着部205Eを有する。以下、3つの有効吸着部205Eの並び方向を「強軸方向」、強軸方向と直交する方向を「弱軸方向」ともいう。
【0099】
図15の例では、スタート位置(
図15(a)参照)において物体Oを保持部200で保持した時に弱軸方向が物体Oの搬送方向に対して斜めに交差している場合を示す。この場合、強軸方向が搬送方向と略平行になる位置に保持部200を回転させる。このとき、スタート位置から第1経由位置(
図15(b)参照)に至るまで物体Oが落下しないように保持部200を低速で回転させる(低速回転)。
【0100】
その後、強軸方向を物体Oの搬送方向に沿わせて保持部200を移動させる。このとき、第1経由位置から第2経由位置(
図15(c)参照)に至るまで物体Oが落下しない程度に保持部200を高速で移動させる(高速並進)。
その後、最終位置(
図15(d)参照)における物体Oの位置姿勢に適合するよう弱軸方向が搬送方向と略平行になる位置に保持部200を回転させる。このとき、第2経由位置から最終位置に至るまで物体Oが落下しないように保持部200を低速で回転させる(低速回転)。
【0101】
図16は、一実施形態における保持部200の運動方法の第2例を示す図である。
図16の例は、2つの有効吸着部205Eを有する。
図16の例は、
図15の例に対し有効吸着部205Eの数が異なる。以下、2つの有効吸着部205Eの並び方向を「強軸方向」、強軸方向と直交する方向を「弱軸方向」ともいう。
【0102】
図16の例では、スタート位置(
図16(a)参照)において物体Oを保持部200で保持した時に弱軸方向が物体Oの搬送方向に対して斜めに交差している場合を示す。この場合、強軸方向が搬送方向と略平行になる位置に保持部200を回転させる。このとき、スタート位置から第1経由位置(
図16(b)参照)に至るまで物体Oが落下しないように保持部200を低速で回転させる(低速回転)。
【0103】
その後、強軸方向を物体Oの搬送方向に沿わせて保持部200を移動させる。このとき、第1経由位置から第2経由位置(
図16(c)参照)に至るまで物体Oが落下しない程度に保持部200を高速で移動させる(高速並進)。
その後、最終位置(
図16(d)参照)における物体Oの位置姿勢に適合するよう弱軸方向が搬送方向に対して斜めに交差する位置に保持部200を回転させる。このとき、第2経由位置から最終位置に至るまで物体Oが落下しないように保持部200を低速で回転させる(低速回転)。
【0104】
ところで、一般的な手法では、保持方法に関係のない評価関数(例えば最短経路)で運動経路が決まる。この手法では、スタート位置(
図14(a)参照)から最終位置(
図14(b)参照)に至るまでの物体Oの回転運動、並進移動は規定速度で実行される。この場合、保持方法によっては搬送過程で物体Oが落下する可能性が高い。
【0105】
これに対し、本実施形態では、動作計画部33は、保持方法によって異なる搬送方向、速度を出力し、運動方法を変える。すなわち、本実施形態では、保持方法ごとに弱軸方向(有効吸着部205Eの並び方向と直交する方向)への加速度発生を抑えた動きを生成するため、搬送過程で物体Oが落下することを抑制することができる。
【0106】
このように、動作計画部33は、保持部200の運動経路(例えば搬送経路)を含む運動方法を計画する。保持計画部31は、保持部200と物体とが接触する接触面の分布に関する接触分布方向(例えば強軸方向)を算出する。制御部43は、保持計画部31が算出した接触分布方向に基づいて推定保持安全率ratioが目標値以上となるように(例えば搬送過程で物体が落下しないように)動作計画部33に保持部200の運動方法を選択させる。制御部43は、動作計画部33が選択した運動方法に基づいて保持部200を動作させる。
【0107】
本実施形態では、動作計画部33は、予め複数の運動方法(例えばスタート位置と最終位置との間でとりうる任意の搬送経路)を計画する。制御部43は、保持計画部31が算出した接触分布方向に基づいて複数の運動方法の中から推定保持安全率ratioが最も高く維持可能な最良の運動方法を動作計画部33に選択させる。制御部43は、動作計画部33が選択した最良の運動方法に基づいて保持部200を動作させる。
【0108】
次に、搬送経路が決まっている制約下で物体Oを取り出し元コンテナV1から搬送先コンテナV2へ搬送するときの保持方法について説明する。
図17は、物体搬送時における物体Oの現在位置・姿勢、目標経路、目標位置・姿勢の一例を示す図である。例えば、
図17において矢印は定められた搬送経路を示す。
【0109】
図18は、一実施形態における保持部200の保持方法の第1例を示す図である。
図18の例では、スタート位置において物体を保持部200で保持した時に、搬送方向に向けて凸をなすようにL字状に配置された3つの有効吸着部205Eによって物体Oを保持している場合を示す。
【0110】
図19は、一実施形態における保持部200の保持方法の第2例を示す図である。
図19の例では、スタート位置において物体を保持部200で保持した時に、搬送方向とは反対側に向けて凸をなすようにL字状に配置された3つの有効吸着部205Eによって物体Oを保持している場合を示す。すなわち、
図19の例は、
図18の例とは有効吸着部205Eの配置(L字の向き)が逆向きである。
【0111】
ところで、一般的な手法では、物体Oを把持可能な面に対してなるべく大きい吸着面積を確保可能な把持方法が優先される。例えば、物体Oの中央領域を広い面積で確保するように3つの有効吸着部205Eの並び方向を物体Oの長手方向に沿わせる(不図示)。この手法(直線配置)では、スタート位置から最終位置に至るまで弱軸方向(3つの有効吸着部205Eの並び方向と直交する方向)が物体Oの搬送方向と略平行になるため、搬送過程で物体Oが落下する可能性が高い。
【0112】
これに対し、本実施形態では、保持計画部31は、定められた搬送経路において加速度発生方向に強い保持方法が優先される。すなわち、本実施形態では、搬送経路が決まった制約下にある場合、強軸方向が加速度発生方向に沿うように保持方法が選択されるため、搬送過程で物体が落下することを抑制することができる。
【0113】
例えば、
図18、
図19の例では、物体Oの長手方向における3つの有効吸着部205E全体の長さ(L字配置の全長)は、一般的な手法での長さ(直線配置の全長)よりも短くなる。しかし、
図18、
図19の例では、スタート位置から最終位置に至るまで、一般的な手法よりも接触面の分布が物体Oの搬送方向に広がるため、搬送過程で物体が落下する可能性は低い。
【0114】
このように、動作計画部33は、保持部200の運動経路(例えば搬送経路)に関する運動経路情報を計画する。保持計画部31は、動作計画部33が計画した運動経路情報(例えば予め決まっている搬送経路)に基づいて保持部200の保持方法を算出するとともに、保持方法に対する推定保持安全率ratioを算出する。制御部43は、保持計画部31が算出した保持方法に基づいて推定保持安全率ratioが目標値以上となるよう(例えば搬送過程で物体が落下しないよう)保持部200を動作させる。
【0115】
本実施形態では、動作計画部33は、予め複数の運動経路情報(例えばスタート位置と最終位置との間でとりうる任意の搬送経路に関する情報)を計画する。保持計画部31は、予め動作計画部33が計画した複数の運動経路情報(例えば複数の搬送経路のうち予め決まっている搬送経路に関する情報)に基づいて保持部200の複数の保持方法を算出するとともに、複数の保持方法に対する推定保持安全率ratioを算出する。制御部43は、保持計画部31が算出した複数の保持方法の中から推定保持安全率ratioを最も高く維持可能な最良の保持方法に基づいて保持部200を動作させる。
【0116】
以下、演算装置12の処理の流れの一例について説明する。
図20は、演算装置12の処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0117】
図4に示すように、認識部20は、管理装置13が有する情報、及び検出装置11(第1検出器11A及び第2検出器11B)により検出された情報を取得し、ハンドリング装置10(
図1参照)の制御に用いられる各種要素の状態を認識する(認識処理、
図20のステップS01)。例えば、認識部20は、画像データ又は距離画像データに対して所定の画像処理を行うことで、各種要素の状態に関する情報として、「物体外形情報」、「物体位置姿勢情報」、「物体重心情報」、及び「コンテナ情報」を生成する。認識部20は、これらの情報を計画部30に出力する。
【0118】
計画部30は、取り出し元コンテナV1に位置する物体Oを保持部200で保持するための保持計画、保持部200により保持された物体Oを搬送先コンテナV2で解放するための解放計画、及び保持部200により保持された物体Oを搬送先コンテナV2に移動させるための移動計画を生成する(計画処理、
図20のステップS02)。計画部30は、生成した保持計画、解放計画及び移動計画を実行部40に出力する。
【0119】
実行部40は、計画部30により出力された移動計画と、圧力センサ等から得られる圧力情報、及び力センサ等から得られる力情報とに基づき、保持部200による物体Oの保持動作、搬送動作、及び解放動作を実行する(実行処理、
図20のステップS03)。実行部40は、保持部200の保持状態、及び保持部200で保持している物体Oの周囲との接触状態を検出し、適宜リトライ動作を実行する。
【0120】
図21は、計画処理の流れの一例を示すフローチャートである。計画部30は、
図20のステップS02において
図21に示す計画処理を実行する。
【0121】
計画部30(保持計画部31及びリリース計画部32)は、保持計画および解放計画を生成する(
図21のステップS101)。
【0122】
ステップS101の後、計画部30(保持計画部31)は、保持部200と物体Oとが接触する面積を示す接触面積を計算する(
図21のステップS102)。例えば、計画部30は、ステップS102において、物体外形情報等に基づいて接触面積を計算する。計画部30は、推定保持安全率ratioを算出するために使用される接触面積情報に基づいて接触面積を計算してもよい。
【0123】
ステップS102の後、計画部30(動作計画部33)は、接触面積の輪郭に外接する矩形の長軸方向へ保持部200を移動させる運動方法を計画する(
図21のステップS103)。例えば、計画部30は、ステップS103において、接触面積の輪郭に外接する矩形を算出する。例えば、矩形は長方形である。計画部30は、接触面積の輪郭に外接する図形であって矩形以外の図形(例えば、楕円)を算出してもよい。計画部30は、ステップS103において、その矩形の長軸方向へ保持部200を移動させる運動方法を計画する。計画部30は、ステップS103において、その運動方法を示す移動計画を生成する。その後、
図20のステップS03に示す実行処理において、保持部200は、例えば
図15または
図16に示すように移動する。
【0124】
図22は、計画処理の流れの他の例を示すフローチャートである。計画部30は、
図20のステップS02において
図22に示す計画処理を実行する。
【0125】
計画部30(保持計画部31及びリリース計画部32)は、保持計画および解放計画を生成する(
図22のステップS111)。
【0126】
ステップS111の後、計画部30(保持計画部31)は、保持部200と物体Oとが接触する面積を示す接触面積を計算する(
図22のステップS112)。接触面積を算出する方法は、
図21のステップS102における方法と同様である。
【0127】
ステップS112の後、計画部30(動作計画部33)は、接触面積と所定の閾値とを比較し、接触面積が閾値よりも小さいか否かを判断する(
図22のステップS113)。
【0128】
ステップS113において接触面積が閾値よりも小さいと計画部30が判断した場合、計画部30(動作計画部33)は、保持部200を低速で移動させる運動方法を計画する(
図22のステップS114)。接触面積が小さい場合、接触面積が大きい場合よりも搬送過程で物体Oが落下する可能性が高い。そのため、計画部30は、ステップS114において、保持部200を低速で移動させる運動方法を計画し、その運動方法を示す移動計画を生成する。その後、
図20のステップS03に示す実行処理において、保持部200は低速で移動する。
【0129】
ステップS113において接触面積が閾値以上であると計画部30が判断した場合、計画部30(動作計画部33)は、保持部200を高速で移動させる運動方法を計画する(
図22のステップS115)。接触面積が大きい場合、搬送過程で物体Oが落下する可能性は低い。そのため、計画部30は、ステップS115において、保持部200を高速で移動させる運動方法を計画し、その運動方法を示す移動計画を生成する。その後、
図20のステップS03に示す実行処理において、保持部200は高速で移動する。このとき、保持部200の移動速度は、ステップS114において生成された移動計画における移動速度よりも高い。
【0130】
図23は、計画処理の流れの他の例を示すフローチャートである。計画部30は、
図20のステップS02において
図23に示す計画処理を実行する。
【0131】
計画部30(保持計画部31及びリリース計画部32)は、保持計画および解放計画を生成する(
図23のステップS121)。
【0132】
ステップS121の後、計画部30(動作計画部33)は、推定保持安全率ratioと所定の閾値とを比較し、推定保持安全率ratioが閾値よりも小さいか否かを判断する(
図23のステップS122)。ステップS122において使用される閾値は、保持部200の保持方法を選択するための目標値と異なる。例えば、閾値は、目標値よりも大きい。
【0133】
ステップS122において推定保持安全率ratioが閾値よりも小さいと計画部30が判断した場合、計画部30(動作計画部33)は、保持部200を低速で移動させる運動方法を計画する(
図23のステップS123)。推定保持安全率ratioが小さい場合、推定保持安全率ratioが大きい場合よりも搬送過程で物体Oが落下する可能性が高い。そのため、計画部30は、ステップS123において、保持部200を低速で移動させる運動方法を計画し、その運動方法を示す移動計画を生成する。その後、
図20のステップS03に示す実行処理において、保持部200は低速で移動する。
【0134】
ステップS122において推定保持安全率ratioが閾値以上であると計画部30が判断した場合、計画部30(動作計画部33)は、保持部200を高速で移動させる運動方法を計画する(
図23のステップS124)。推定保持安全率ratioが大きい場合、搬送過程で物体Oが落下する可能性は低い。そのため、計画部30は、ステップS124において、保持部200を高速で移動させる運動方法を計画し、その運動方法を示す移動計画を生成する。その後、
図20のステップS03に示す実行処理において、保持部200は高速で移動する。このとき、保持部200の移動速度は、ステップS123において生成された移動計画における移動速度よりも高い。
【0135】
図24は、実行処理の流れの一例を示すフローチャートである。実行部40は、
図20のステップS03において
図24に示す実行処理を実行する。
【0136】
実行部40(制御部43)は、保持計画に基づいて保持部200に保持動作を実行させる。保持部200は、物体Oを保持する(
図24のステップS201)。
【0137】
ステップS201の後、実行部40(制御部43)は、保持部200と物体Oとが接触する面積を示す接触面積を検出する(
図24のステップS202)。例えば、実行部40は、ステップS202において、圧力検出部41によって生成された圧力情報に基づいて接触面積を検出する。
【0138】
ステップS202の後、実行部40(制御部43)は、接触面積の輪郭に外接する矩形の長軸方向へ保持部200を移動させる(
図24のステップS203)。例えば、実行部40は、ステップS203において、接触面積の輪郭に外接する矩形を算出する。その矩形を算出する方法は、
図21のステップS103における方法と同様である。実行部40は、ステップS203において、その矩形の長軸方向へ保持部200を移動させる。これにより、保持部200は、例えば
図15または
図16に示すように移動する。
【0139】
保持部200が物体Oを保持する状態が、計画部30によって生成された保持計画と異なる可能性がある。その場合、実行部40は、物体Oの実際の保持状態に基づいて保持部200を最適な方向へ移動させることができる。ステップS203の後、実行部40は、ステップS202およびステップS203を繰り返し実行してもよい。
【0140】
図25は、実行処理の流れの他の例を示すフローチャートである。実行部40は、
図20のステップS03において
図25に示す実行処理を実行する。
【0141】
実行部40(制御部43)は、保持計画に基づいて保持部200に保持動作を実行させる。保持部200は、物体Oを保持する(
図25のステップS211)。
【0142】
ステップS211の後、実行部40(制御部43)は、保持部200と物体Oとが接触する面積を示す接触面積を検出する(
図25のステップS212)。接触面積を検出する方法は、
図24のステップS202における方法と同様である。
【0143】
ステップS212の後、実行部40(制御部43)は、接触面積と所定の閾値とを比較し、接触面積が閾値よりも小さいか否かを判断する(
図25のステップS213)。
【0144】
ステップS213において接触面積が閾値よりも小さいと実行部40が判断した場合、実行部40(制御部43)は、保持部200を低速で移動させる(
図25のステップS214)。これにより、保持部200は低速で移動する。
【0145】
ステップS213において接触面積が閾値以上であると実行部40が判断した場合、実行部40(制御部43)は、保持部200を高速で移動させる(
図25のステップS215)。これにより、保持部200は高速で移動する。このとき、保持部200の移動速度は、ステップS214における移動速度よりも高い。
【0146】
図26は、実行処理の流れの他の例を示すフローチャートである。実行部40は、
図20のステップS03において
図26に示す実行処理を実行する。
【0147】
実行部40(制御部43)は、保持計画に基づいて保持部200に保持動作を実行させる。保持部200は、物体Oを保持する(
図26のステップS221)。
【0148】
ステップS221の後、実行部40(制御部43)は、推定保持安全率ratioと所定の閾値とを比較し、推定保持安全率ratioが閾値よりも小さいか否かを判断する(
図26のステップS222)。
【0149】
ステップS222において推定保持安全率ratioが閾値よりも小さいと実行部40が判断した場合、実行部40(制御部43)は、保持部200を低速で移動させる(
図26のステップS223)。これにより、保持部200は低速で移動する。
【0150】
ステップS222において推定保持安全率ratioが閾値以上であると実行部40が判断した場合、実行部40(制御部43)は、保持部200を高速で移動させる(
図26のステップS224)。これにより、保持部200は高速で移動する。このとき、保持部200の移動速度は、ステップS223における移動速度よりも高い。
【0151】
保持部200が加速するとき、重力方向ベクトルと加速度ベクトルとを合成することにより合成ベクトルが定義される。保持部200が加速するとき、重力方向をその合成ベクトルの方向とみなすことができる。計画部30は、その合成ベクトルの方向に基づいて推定保持安全率ratioを算出してもよい。実行部40は、その合成ベクトルの方向に基づいて保持部200を移動させてもよい。
【0152】
実施形態によれば、ハンドリング装置10は、保持部200と、保持計画部31と、制御部43と、を持つ。保持部200は、物体を保持可能である。保持計画部31は、保持部200が物体を保持する場合の安全率として推定保持安全率ratioを算出する。制御部43は、保持計画部31が算出した推定保持安全率ratioに基づいて保持部200に物体を保持させる。以上の構成によって、以下の効果を奏する。
一般的には、物体の吸着面(例えば物体の外表面)が複雑な形状を有する場合、物体を把持可能な面に対してなるべく大きい吸着面積を確保可能な把持方法が優先される。しかし、物体の重量が大きい条件下では、吸着面積を確保できたとしても吸着位置によっては物体が落下する等、物体を安定して把持することができない場合がある。これに対し実施形態によれば、保持計画部31が算出した推定保持安全率ratioに基づいて物体が保持されるため、単に大きな吸着面積を確保する保持方法よりも安全な保持方法が考慮される。
したがって、物体を安定して保持することができる。
【0153】
保持計画部31は、保持部200と物体とが接触する面積に関する接触面積情報と、保持部200と物体とが接触する接触面の中心Kと物体の重心Gとの距離Lに関する距離情報とに基づいて推定保持安全率ratioを算出することで、以下の効果を奏する。
接触面積情報及び距離情報を加味して推定保持安全率ratioが算出されるため、物体をより一層安定して保持することができる。
例えば、保持計画部31は、物体の重量に基づいて推定保持安全率ratioを算出することで、以下の効果を奏する。物体の重量が大きい条件下では、吸着面積を犠牲にしてでも物体の重心G近くを保持することができるため、物体の落下を抑制することができる。
【0154】
保持計画部31は、保持部200と物体とが接触する接触面を吸着可能な圧力Pを、保持部200と物体との接触面の中心Kと物体の重心Gとの距離Lを保持部200と物体との接触面を断面とした断面2次モーメントIで除した応力を示す値で除した数値に基づいて推定保持安全率ratioを算出することで、以下の効果を奏する。
接触面の吸着圧力P、及び断面2次モーメントIを加味して推定保持安全率ratioが算出されるため、物体をより一層安定して保持することができる。
【0155】
ハンドリング装置10は、保持部200の運動経路を含む運動方法を計画する動作計画部33を更に備える。保持計画部31は、保持部200と物体とが接触する接触面の分布に関する接触分布方向を算出する。制御部43は、保持計画部31が算出した接触分布方向に基づいて推定保持安全率ratioが目標値以上となるよう動作計画部33に保持部200の運動方法を選択させる。制御部43は、動作計画部33が選択した運動方法に基づいて保持部200を動作させる。以上の構成によって、以下の効果を奏する。
推定保持安全率ratioが目標値以上となるように選択された運動方法に基づいて保持部200が動作されるため、物体をより一層安定して保持することができる。
【0156】
動作計画部33は、予め複数の運動方法を計画する。制御部43は、保持計画部31が算出した接触分布方向に基づいて複数の運動方法の中から推定保持安全率ratioを最も高く維持可能な最良の運動方法を動作計画部33に選択させる。制御部43は、動作計画部33が選択した最良の運動方法に基づいて保持部200を動作させる。以上の構成によって、以下の効果を奏する。
予め複数の運動方法が計画されているため、運動方法の計画処理及び選択処理を並行して行う場合と比較して、制御部43の計算時間を早くすることができる。加えて、複数の運動方法の中から選択された推定保持安全率ratioを最も高く維持可能な最良の運動方法に基づいて保持部200が動作されるため、物体をより一層安定して保持することができる。
【0157】
ハンドリング装置10は、保持部200の運動経路に関する運動経路情報を計画する動作計画部33を更に備える。保持計画部31は、動作計画部33が計画した運動経路情報に基づいて保持部200の保持方法を算出するとともに、保持方法に対する推定保持安全率ratioを算出する。制御部43は、保持計画部31が算出した保持方法に基づいて推定保持安全率ratioが目標値以上となるよう保持部200を動作させる。以上の構成によって、以下の効果を奏する。
推定保持安全率ratioが目標値以上となるように選択された保持方法に基づいて保持部200が動作されるため、物体をより一層安定して保持することができる。
【0158】
動作計画部33は、予め複数の運動経路情報を計画する。保持計画部31は、予め動作計画部33が計画した複数の運動経路情報に基づいて保持部200の複数の保持方法を算出するとともに、複数の保持方法に対する推定保持安全率ratioを算出する。制御部43は、保持計画部31が算出した複数の保持方法の中から推定保持安全率ratioを最も高く維持可能な最良の保持方法に基づいて保持部200を動作させる。以上の構成によって、以下の効果を奏する。
予め複数の運動経路情報が計画されているため、運動経路情報の計画処理、及び保持方法の選択処理を並行して行う場合と比較して、制御部43の計算時間を早くすることができる。加えて、複数の保持方法の中から選択された推定保持安全率ratioを最も高く維持可能な最良の保持方法に基づいて保持部200を動作されるため、物体をより一層安定して保持することができる。
【0159】
動作計画部33は、保持部200の移動速度を含む運動方法を計画する。動作計画部33は、保持部200と物体とが接触する接触面積に基づいて移動速度を決定する。制御部43は、動作計画部33が計画した運動方法に基づいて保持部200を動作させる。以上の構成によって、以下の効果を奏する。
接触面積が大きい場合、保持部200は物体を相対的に安定した状態で保持する。接触面積が小さい場合、保持部200は物体を相対的に不安定な状態で保持する。接触面積に応じて移動速度を制御することにより、物体の保持の安定性と移動の高速性との一方を優先して物体を搬送することができる。
【0160】
動作計画部33は、保持部200の移動速度を含む運動方法を計画する。動作計画部33は、推定保持安全率ratioに基づいて移動速度を決定する。制御部43は、動作計画部33が計画した運動方法に基づいて保持部200を動作させる。以上の構成によって、以下の効果を奏する。
推定保持安全率ratioが大きい場合、保持部200は物体を相対的に安定した状態で保持する。推定保持安全率ratioが小さい場合、保持部200は物体を相対的に不安定な状態で保持する。推定保持安全率ratioに応じて移動速度を制御することにより、物体の保持の安定性と移動の高速性との一方を優先して物体を搬送することができる。
【0161】
ハンドリング装置10は、物体を保持可能な保持部200と、保持部200と物体とが接触する接触面積の縦横比が1より大きい場合、接触面の分布において最も広がり度合が小さい方向と交差する方向を特定分布方向H2としたとき、物体を保持した保持部200が特定分布方向H2に沿って動くよう保持部200の動作を制御する制御部43と、を備える。以上の構成によって、以下の効果を奏する。
接触面の分布において最も広がり度合が小さい方向よりも印加荷重に対する曲げが強い特定分布方向H2に沿って動くよう保持部200が動作されるため、物体を安定して保持することができる。
実施形態では、特定分布方向H2は、接触面の分布において最も広がり度合が小さい方向と直交する方向である。特定分布方向H2は印加荷重に対する曲げが最も強い方向であるため、物体をより一層安定して保持することができる。
【0162】
なお、保持部200は、物体を保持する保持面を有し、制御部43は、保持面に特定分布方向H2と関連付けた基準軸J(例えばx軸)を設定し、基準軸Jに基づいて保持部200の動作を制御してもよい(
図15、
図16、
図18、
図19等参照)。
この構成によれば、特定分布方向H2と関連付けた基準軸Jに基づいて保持部200が動作されるため、物体を安定して保持することができる。
【0163】
なお、それぞれの吸着部205の使用の程度に応じて、それぞれの吸着部205の交換時期を示す情報を出力する提示部(図示せず)を備える構成にしてもよい。なお、提示部が、例えば、ディスプレイ等を有する表示装置(図示せず)へ当該情報を出力し、当該表示装置がそれぞれの吸着部205の交換時期を示す情報を表示するようにしてもよい。あるいは、提示部が、各吸着部205の近傍にそれぞれ備えられた発光部(図示せず)へ当該情報を出力し、交換時期である吸着部205の近傍に備えられた発光部が発光するようにしてもよい。
【0164】
また、演算装置12が、複数の吸着部205それぞれの使用の程度に応じて、それぞれ吸着部205の使用頻度を変更させる制御を行うようにしてもよい。これにより、ハンドリング装置10(吸着部205)の耐久性を向上させることができる。
【0165】
以上、いくつかの実施形態及び変形例について説明したが、実施形態は上記例に限定されない。例えば、演算装置12のいくつかの機能部は、ハンドリング装置10に代えて、管理装置13に設けられてもよい。例えば、認識部20、計画部30、実行部40及び記憶部は、管理装置13に設けられてもよい。計画部30は、「情報処理部」の一例である。
【0166】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、ハンドリング装置10は、保持部200と、保持計画部31と、制御部43と、を持つ。保持部200は、物体を保持可能である。保持計画部31は、保持部200が物体を保持する場合の安全率として推定保持安全率ratioを算出する。制御部43は、保持計画部31が算出した推定保持安全率ratioに基づいて保持部200に物体を保持させる。このような構成によれば、物体を安定して保持することができる。
【0167】
なお、上述した実施形態における搬送システム1の一部又は全部をコンピュータで実現するようにしてもよい。その場合、この制御機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。
なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、搬送システム1に内蔵されたコンピュータシステムであって、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。
【0168】
さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信回線のように、短時間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよい。
【0169】
例えば、制御装置のコンピュータに、物体を保持可能な保持部200が物体を保持する場合の安全率として推定保持安全率ratioを算出する保持計画ステップと、保持計画ステップで算出した推定保持安全率ratioに基づいて保持部200に物体を保持させる制御ステップと、を実行させるためのプログラムであってもよい。
【0170】
また、上述した実施形態における搬送システム1の一部又は全部を、LSI(Large Scale Integration)等の集積回路として実現してもよい。搬送システム1の各機能ブロックは個別にプロセッサ化してもよいし、一部、又は全部を集積してプロセッサ化してもよい。また、集積回路化の手法はLSIに限らず専用回路、又は汎用プロセッサで実現してもよい。また、半導体技術の進歩によりLSIに代替する集積回路化の技術が出現した場合、当該技術による集積回路を用いてもよい。
【0171】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0172】
10…ハンドリング装置、12…演算装置(制御装置)、31…保持計画部(算出部)、
33…動作計画部、43…制御部、200…保持部、G…物体の重心、H2…特定分布方
向、I…断面2次モーメント、J…基準軸、K…保持部と物体とが接触する接触面の中心
、L…保持部と物体とが接触する接触面の中心と物体の重心との距離、O…物体、ratio
…推定保持安全率