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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-09
(45)【発行日】2024-08-20
(54)【発明の名称】鉄道車両の排障器
(51)【国際特許分類】
   B61F 19/10 20060101AFI20240813BHJP
【FI】
B61F19/10
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023183019
(22)【出願日】2023-10-25
(62)【分割の表示】P 2020006354の分割
【原出願日】2020-01-17
(65)【公開番号】P2023178425
(43)【公開日】2023-12-14
【審査請求日】2023-10-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000004617
【氏名又は名称】日本車輌製造株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390021577
【氏名又は名称】東海旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】松尾 直茂
(72)【発明者】
【氏名】喜多 成充
(72)【発明者】
【氏名】加藤 大貴
【審査官】諸星 圭祐
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/155871(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第103693065(CN,A)
【文献】中国実用新案第209581504(CN,U)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0055232(KR,A)
【文献】特開2016-222195(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0129941(US,A1)
【文献】米国特許第01530541(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61D 15/06
B61F 19/00-19/10
B61G 11/00-11/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両の先頭部に装着され、線路上の障害物を排除可能に形成された鉄道車両の排障器であって、
前記排障器には、当該排障器に進行方向後方へ所定の荷重以上の外力が作用した時に、上端部に対して下端部が進行方向後方へ移動可能に形成された排障板を備え、
車体台枠には、前記排障板の上下中間部に対する法線が前記鉄道車両の車体重心を通過する第1法線を含む所定の範囲を通過する位置で前記排障板の移動を停止させるストッパ構造を備えていることを特徴とする鉄道車両の排障器。
【請求項2】
請求項1に記載された鉄道車両の排障器において、
前記ストッパ構造は、前記排障板の上下中間部に対する法線が前記第1法線の位置で前記排障板の移動を停止させることを特徴とする鉄道車両の排障器。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載された鉄道車両の排障器において、
前記排障板と前記ストッパ構造との間には、当該ストッパ構造より強度的に弱い圧潰部材が介在されていることを特徴とする鉄道車両の排障器。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載された鉄道車両の排障器において、
前記排障板の左右中央部には、前記鉄道車両の先頭部に装着された車両連結装置から所定隙間で離間した略U字状の切欠き部が形成されていることを特徴とする鉄道車両の排障器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両の排障器に関し、詳しくは、例えば踏切等において普通乗用車等のように質量の大きな障害物と衝突した場合において、その衝突反力によって生じる車体を回転させるモーメント力を低減させて、鉄道車両の脱線する可能性を軽減できる鉄道車両の排障器に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、鉄道車両の先頭部には、線路上の障害物を車体下部に巻き込まないように、障害物を枕木方向へ排除する排障器が装着されている。例えば、特許文献1には、図19に示すように、左側通行が行われる鉄道車両の排障器100において、鉄道車両101の先頭車両のヘッド部101Aに鉄道車両の進行方向左側から右側にかけて進行方向に突出するように形成された傾斜面102Aが設けられた、障害物Sを進行方向左側へ排除する排除方向誘導部材102を具備する鉄道車両の排障器100が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-105227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記鉄道車両の排障器100では、踏切等において乗用車が衝突して衝突反力の進行方向及び枕木方向の成分が大きい場合、脱線する可能性が高いという問題があった。
【0005】
すなわち、上記鉄道車両の排障器100では、図20に示すように、排障器(排障板)が、普通乗用車等のように質量の大きな障害物Sと衝突した時、その衝突反力F1は、排障器(排障板)の法線方向に作用し、枕木方向の成分を有する。この衝突反力の枕木方向の成分によって、当該鉄道車両101には、その車体重心J1を通り地面に垂直な軸の周りに回転させるモーメント力が生じることになる。この場合、鉄道車両101の前端側が障害物Sと反対方向へずれ動き、鉄道車両101の後端側が障害物Sの方向へずれ動くことになり、車輪がレールから脱線する可能性があった。
【0006】
一方、鉄道車両の排障器300が、図21に示すように、枕木方向と平行な平面形状をしている場合には、排障器が上記同様の障害物Sと衝突した時、その衝突反力F2は、レール方向の反力しか生じない。しかし、障害物Sの枕木方向の重心J2が、鉄道車両301の枕木方向の車体重心J1からずれている場合、鉄道車両301は、障害物との衝突により、車体の左右方向の重心からずれた位置にレール方向の衝突反力F2を受けることになる。このレール方向の衝突反力F2によって、当該鉄道車両301には、その車体重心J1を通り地面に垂直な軸の周りに回転させるモーメント力が生じることになる。この場合、鉄道車両301の前端側が障害物Sの方向へずれ動き、鉄道車両301の後端側が障害物Sと反対方向へずれ動くことになり、車輪がレールから脱線する可能性があった。
【0007】
また、鉄道車両の排障器400は、図22に示すように、障害物Sに排障器自体が乗り上げてしまうのを回避するため、排障器400の上端部(車体への取付部)が進行方向後側に位置し、下端部に下がるほど進行方向前側に位置するように、列車側面から見て進行方向前向きの勾配を持つものが、広く用いられている。しかし、この場合には、排障器400が上記同様の障害物Sと衝突した時、その衝突反力F3は、排障器400に対して車体重心J1の斜め下方に作用し、車体の前端側が下がり、車体の後端側が上がるモーメント力が生じることになる。その結果、稀ではあるが、鉄道車両401の後端側において、車輪がレールから脱線する可能性があった。なお、車体の前端側が下がり、車体の後端側が上がる場合、次に述べる車体の前端側が上がり、車体の後端側が下がる場合(図23を参照)に比較して、脱線する可能性は低い。
【0008】
また、鉄道車両の排障器500は、図23に示すように、排障器500の上端部(車体への取付部)が進行方向前側に位置し、下端部に下がるほど進行方向後側に位置するように、列車側面から見て進行方向後向きの勾配を持つものも、用いられている。しかし、この場合には、排障器500に対して上記同様の障害物Sが衝突した時、その衝突反力F4は、排障器500に対して車体重心J1の斜め上方に作用し、車体の前端側が上がり、車体の後端側が下がるモーメント力が生じることになる。その結果、鉄道車両501の前端側において、車輪がレールから脱線する可能性があった。
【0009】
本発明は、かかる問題を解決するためになされたものであり、普通乗用車等のように質量の大きな障害物と衝突した場合において、その衝突反力によって生じる車体を回転させるモーメント力を低減させて、鉄道車両の脱線する可能性を軽減できる鉄道車両の排障器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明に係る鉄道車両の排障器は、以下の構成を備えている。
(1)鉄道車両の先頭部に装着され、線路上の障害物を排除可能に形成された鉄道車両の排障器であって、
前記排障器は、水平断面形状が前記鉄道車両の車体重心近傍を通り地面に垂直な軸を中心とする円弧形状を構成する曲面体又は多面体からなる排障板を備えていることを特徴とする。
【0011】
本発明においては、排障器は、水平断面形状が鉄道車両の車体重心近傍を通り地面に垂直な軸を中心とする円弧形状を構成する曲面体又は多面体からなる排障板を備えているので、排障板が、普通乗用車等のように質量の大きな障害物と衝突した時、その衝突反力は、排障板の法線方向に作用し、鉄道車両の車体重心近傍の位置で車体に伝達される。そのため、この衝突反力による、その車体重心を通り地面に垂直な軸の周りに車体を回転させるモーメント力を生じにくくさせることができる。その結果、例えば、鉄道車両の前端側が障害物と反対方向へずれ動き、鉄道車両の後端側が障害物の方向へずれ動くことを抑制でき、車輪がレールから脱線する可能性を低減できる。
【0012】
よって、本発明によれば、普通乗用車等のように質量の大きな障害物と衝突した場合において、その衝突反力によって生じる車体を回転させるモーメント力を低減させて、鉄道車両の脱線する可能性を軽減できる鉄道車両の排障器を提供することができる。
【0013】
(2)鉄道車両の先頭部に装着され、線路上の障害物を排除可能に形成された鉄道車両の排障器であって、
前記排障器には、当該排障器に進行方向後方へ所定の荷重以上の外力が作用した時に、車体台枠に固定された上端部に対して下端部が進行方向後方へ移動可能に形成された排障板を備え、
前記車体台枠には、前記排障板の上下中間部に対する法線が、前記鉄道車両の車体重心を通過する第1法線を含む所定の範囲を通過する位置で、前記排障板の移動を停止させるストッパ構造を備えていることを特徴とする。
【0014】
本発明においては、排障器には、当該排障器に進行方向後方へ所定の荷重以上の外力が作用した時に、上端部に対して下端部が進行方向後方へ移動可能に形成された排障板を備えているので、所定の荷重以上の外力を生じさせない質量の小さな障害物に対しては、排障板の姿勢を維持して、当該障害物を排除できる。例えば、排障板の上端部が進行方向後側に位置し、下端部に下がるほど進行方向前側に位置するように、列車側面から見て進行方向前向きの勾配を持った姿勢で排障板を装着することによって、所定の荷重以上の外力を生じさせない質量の小さな障害物に対しては、排障板の進行方向前向きの勾配を持った姿勢を維持して、当該障害物を排除できる。
【0015】
また、車体台枠には、排障板の上下中間部に対する法線が、鉄道車両の車体重心を通過する第1法線を含む所定の範囲を通過する位置で、排障板の移動を停止させるストッパ構造を備えているので、排障板が普通乗用車等のように質量の大きな障害物と衝突したときに、排障板の上下中間部に対する法線が、鉄道車両の車体重心を通過する第1法線を含む所定の範囲を通過する位置で、排障板の移動をストッパ構造によって停止させ、その質量の大きな障害物から受けた衝突反力による、その車体重心を通り枕木方向に平行な軸の周りに車体を回転させるモーメント力を、生じにくくさせることができる。その結果、車体の前端側が下がり、車体の後端側が上がること、あるいは逆の動作としての、車体の前端側が上がり、車体の後端側が下がることを抑制でき、車輪がレールから脱線する可能性を
低減できる。
【0016】
よって、本発明によれば、普通乗用車等のように質量の大きな障害物と衝突した場合において、その衝突反力によって生じる車体を回転させるモーメント力を低減させて、鉄道車両の脱線する可能性を軽減できる鉄道車両の排障器を提供することができる。
【0017】
(3)(2)に記載された鉄道車両の排障器において、
前記ストッパ構造は、前記排障板の上下中間部に対する法線が前記第1法線の位置で前記排障板の移動を停止させることを特徴とする。
【0018】
本発明においては、ストッパ構造は、排障板の上下中間部に対する法線が第1法線の位置で排障板の移動を停止させるので、排障板が普通乗用車等のように質量の大きな障害物と衝突したときに、その障害物から受けた衝突反力を車体重心の位置で車体に伝達させることができる。そのため、車体重心を通り枕木方向に平行な軸の周りに車体を回転させるモーメント力が、より一層生じにくくなる。その結果、車体の前端側が下がり、車体の後端側が上がること、あるいは逆の動作としての、車体の前端側が上がり、車体の後端側が下がることをより一層抑制でき、車輪がレールから脱線する可能性をより一層低減できる。
【0019】
(4)(2)又は(3)に記載された鉄道車両の排障器において、
前記排障板と前記ストッパ構造との間には、当該ストッパ構造より強度的に弱い圧潰部材が介在されていることを特徴とする。
【0020】
本発明においては、排障板とストッパ構造との間には、当該ストッパ構造より強度的に弱い圧潰部材が介在されているので、排障板が普通乗用車等のように質量の大きな障害物と衝突したときに、圧潰部材が変形することによって衝突荷重を軽減させた状態で、排障板の上下中間部に対する法線が鉄道車両の車体重心を通過する第1法線を含む所定の範囲を通過する位置又は車体重心を通過する位置で排障板の移動をストッパ構造によって停止させ、その障害物から受けた衝突反力を緩和させることによって、その車体重心を通り枕木方向に平行な軸の周りに車体を回転させるモーメント力が、より一層生じにくくなる。その結果、車体の前端側が下がり、車体の後端側が上がること、あるいは逆の動作としての、車体の前端側が上がり、車体の後端側が下がることをより一層抑制でき、車輪がレールから脱線する可能性をより一層低減できる。なお、圧潰部材は、独立した部材には限定されず、溶接等で一体に組み立てられた構造の一部であってもよい。また、圧潰部材は、レール方向又は上下方向に変形しても良く、レール方向及び上下方向に変形してもよい。
【0021】
(5)(2)乃至(4)のいずれか1つに記載された鉄道車両の排障器において、
前記排障板は、水平断面形状が前記鉄道車両の車体重心近傍を通り地面に垂直な軸を中心とする円弧形状を構成する曲面体又は多面体からなることを特徴とする。
【0022】
本発明においては、排障板は、水平断面形状が鉄道車両の車体重心近傍を通り地面に垂直な軸を中心とする円弧形状を構成する曲面体又は多面体からなるので、排障板が、普通乗用車等のように質量の大きな障害物と衝突した時、この衝突反力による、その車体重心を通り枕木方向に平行な軸の周りに車体を回転させるモーメント力を生じにくく、また、車体重心を通り地面に垂直な軸の周りに車体を回転させるモーメント力も生じにくくさせることができる。その結果、例えば、鉄道車両の前端側が障害物と反対方向へずれ動き、鉄道車両の後端側が障害物の方向へずれ動くことを抑制できると同時に、車体の前端側が下がり、車体の後端側が上がること、あるいは逆の動作としての、車体の前端側が上がり、車体の後端側が下がることを抑制でき、車輪がレールから脱線する可能性をより一層低減できる。
【0023】
(6)(2)乃至(5)のいずれか1つに記載された鉄道車両の排障器において、
前記排障板の左右中央部には、前記鉄道車両の先頭部に装着された車両連結装置から所定隙間で離間した略U字状の切欠き部が形成されていることを特徴とする。
【0024】
本発明においては、排障板の左右中央部には、鉄道車両の先頭部に装着された車両連結装置から所定隙間で離間した略U字状の切欠き部が形成されているので、排障板の左側部又は右側部が、普通乗用車等のように質量の大きな障害物と衝突した時、衝突した左側部又は右側部の上下中間部に対する法線が鉄道車両の車体重心を通過する第1法線を含む所定の範囲を通過する位置又は車体重心を通過する位置で排障板の移動をストッパ構造によって停止させた上で、その衝突反力は、円弧形状を構成する曲面体又は多面体からなる排障板に対する法線方向に作用する。このとき、切欠き部が形成された左右中央部が、強度的に変形し易いので、衝突しない反対側の排障板の影響を受けにくく、衝突した左側部又は右側部に対する法線方向の角度が保持されやすい。そのため、この衝突反力による、その車体重心を通り枕木方向に平行な軸の周りに車体を回転させるモーメント力を生じにくく、また、車体重心を通り地面に垂直な軸の周りに車体を回転させるモーメント力も生じにくくさせることができる。その結果、例えば、鉄道車両の前端側が障害物と反対方向へずれ動き、鉄道車両の後端側が障害物の方向へずれ動くことをより一層抑制できると同時に、車体の前端側が下がり、車体の後端側が上がること、あるいは逆の動作としての、車体の前端側が上がり、車体の後端側が下がることをより一層抑制でき、車輪がレールから脱線する可能性をより一層低減できる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、普通乗用車等のように質量の大きな障害物と衝突した場合において、その衝突反力によって生じる車体を回転させるモーメント力を低減させて、鉄道車両の脱線する可能性を軽減できる鉄道車両の排障器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の実施形態に係る第1実施例の鉄道車両の排障器を備えた鉄道車両の概略側面図である。
図2図1に示す鉄道車両の排障器におけるA視底面図である。
図3図1に示す鉄道車両の排障器に障害物が衝突したときの当該鉄道車両におけるA視底面図である。
図4図1に示す鉄道車両の排障器の変形例1におけるA視底面図である。
図5図1に示す鉄道車両の排障器の変形例2におけるA視底面図である。
図6】本発明の実施形態に係る第2実施例の鉄道車両の排障器を備えた鉄道車両の概略側面図である。
図7図6に示す鉄道車両の排障器におけるB視正面図である。
図8図7に示すC-C断面図である。
図9図6に示す鉄道車両の排障器に障害物が衝突したときの当該鉄道車両の側面図であって、(A)は、排障板が回動前の側面図を示し、(B)は、排障板が回動途中の側面図を示し、(C)は、排障板の法線が所定の範囲を通過する位置で、排障板が停止した状態の側面図を示し、(D)は、排障板の法線が車両重心を通過する位置で、排障板が停止した状態の側面図を示す。
図10図6に示す鉄道車両の排障器の変形例における部分拡大図面であって、(A)は、排障板が回動前の側面図を示し、(B)は、排障板が回動前の底面図を示す。
図11図6に示す鉄道車両の排障器の変形例における部分拡大図面であって、(A)は、排障板が回動前の側面図を示し、(B)は、排障板が回動前の底面図を示す。
図12図11に示す鉄道車両の排障器に障害物が衝突したときの当該鉄道車両の側面図であって、(A)は、排障板が回動前の側面図を示し、(B)は、排障板が回動途中の側面図を示し、(C)は、排障板が回動後の側面図を示す。
図13図11に示すD-D断面図である。
図14図13に示す圧潰部材にける衝突時の変形状態を表す模式図である。
図15図6に示す第2実施例の鉄道車両の排障器に対する変形例を備えた鉄道車両の概略側面図である。
図16図15に示す排障器を備えた鉄道車両における定常走行時の車体に作用する荷重の説明図である。
図17図15に示す排障器に障害物が衝突したとき、脱線の可能性を軽減できる状態の説明図である。
図18図15に示す排障器に障害物が衝突したとき、脱線の可能性が高い状態の説明図である。
図19】特許文献1に示す鉄道車両の排障器を備えた鉄道車両における概略平面図である。
図20図19に示す排障器(排障板)に障害物が衝突したときの鉄道車両における概略底面図である。
図21】枕木方向と平行な排障器(排障板)に障害物が衝突したときの当該鉄道車両の概略平面図である。
図22】列車側面から見て進行方向前向きの勾配を持つ排障器(排障板)に障害物が衝突したときの当該鉄道車両の概略側面図である。
図23】列車側面から見て進行方向後向きの勾配を持つ排障器(排障板)に障害物が衝突したときの当該鉄道車両の概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
次に、本実施形態に係る鉄道車両について、図面を参照しながら詳細に説明する。具体的には、本実施形態に係る第1実施例の鉄道車両の排障器を詳細に説明した上で、排障器の排障板に普通乗用車等のように質量の大きな障害物が衝突したときの衝突反力が、車体重心近傍の位置で車体に伝達される状況を簡単に説明する。次に、第1実施例の排障器を構成する排障板の変形例を説明する。また、本実施形態に係る第2実施例の鉄道車両の排障器を詳細に説明した上で、排障器の排障板に普通乗用車等のように質量の大きな障害物が衝突したとき、排障板が回動して、その衝突反力が、車体重心近傍の位置で車体に伝達される状況を簡単に説明する。
【0028】
<第1実施例における鉄道車両の排障器>
まず、第1実施例の鉄道車両の排障器について、図1図5を用いて説明する。図1に、本発明の実施形態に係る第1実施例の鉄道車両の排障器を備えた鉄道車両の概略側面図を示す。図2に、図1に示す鉄道車両の排障器におけるA視底面図を示す。図3に、図1に示す鉄道車両の排障器に障害物が衝突したときの当該鉄道車両におけるA視底面図を示す。図4に、図1に示す鉄道車両の排障器の変形例1におけるA視底面図を示す。図5に、図1に示す鉄道車両の排障器の変形例2におけるA視底面図を示す。
【0029】
図1図3に示すように、本鉄道車両の排障器10は、鉄道車両1の先頭部1Sに装着され、線路上の障害物Sを排除可能に形成された鉄道車両の排障器である。また、本排障器10は、水平断面形状が鉄道車両1の車体重心SJ近傍を通り地面に垂直な軸SJ1を中心とする円弧形状を構成する曲面体からなる排障板11(11A)を備えている。ここで、車体重心SJの平面位置は、概ね車体1aの前後方向及び左右方向の中央部に位置する。また、車体重心SJの上下位置は、概ね車体1aの床面近傍に位置する。例えば、鉄道車両1の車体1aの前後長が20メートル程度である場合、排障板11における水平断面の円弧形状は、車体重心SJに対して10メートル程度の半径Rで描く曲面体として形成されている。
【0030】
なお、本鉄道車両1は、車体台枠2の上に、車両前側と車両後側に妻構体1bが配置され、車両幅方向両側に側構体1cが配置され、車両上側に屋根構体1dが配置されて、全体として箱型車両を構成している。また、車体台枠2には、車輪41を備えた台車4が、車両の前後に1つずつ配置され、バネ装置を介して装着されている。また、車体台枠2の端梁には、図示しない車両連結装置が装着されている。
【0031】
また、排障板11は、鉄道車両1の先頭部1Sで、車体1aの上下方向へ略垂直状に延設され、排障板11の上端部111は、車体台枠2に固定されている。また、排障板11の下端部112は、台車4の車輪41が走行するレールRa上面に対して、所定の隙間を有するように形成されている。排障板11の左右幅は、車体1aの左右幅と略同一に形成されている。排障板11の左右端には、車体1aの側面に沿って進行方向後方へ延設された側端部12が接続されている。
【0032】
また、図3に示すように、排障板11は、水平断面形状が鉄道車両1の車体重心SJ近傍を通り地面に垂直な軸SJ1を中心とする円弧形状を構成する曲面体からなるので、排障板11の左右方向の任意の位置で、排障板11の表面に対して垂直に交差する法線HSは、いずれも車体重心SJ近傍を通過する。そのため、排障板11が、排障板11の左右方向の任意の位置で、普通乗用車等のように質量の大きな障害物Sと衝突したとき、その衝突反力P1は、排障板11の法線方向に作用し、鉄道車両1の車体重心SJ近傍の位置で車体1aに伝達されることになる。
【0033】
したがって、この衝突反力P1によって、その車体重心SJを通り地面に垂直な軸SJ1の周りに、車体1aを回転させるモーメント力が生じにくい。その結果、例えば、排障板11の左側方位置で、排障板11が、普通乗用車等のように質量の大きな障害物Sと衝突したとき、鉄道車両1の前端側が障害物Sと反対方向へずれ動き、鉄道車両1の後端側が障害物Sの方向へずれ動くことを抑制でき、車輪41がレールRaから脱線する可能性を低減できる。
【0034】
ここで、排障板11は、水平断面形状が鉄道車両1の車体重心SJ近傍を通り地面に垂直な軸SJ1を中心とする円弧形状を構成する多面体からなるものでもよい。例えば、図4に示すように、排障板11Bは、水平断面形状が鉄道車両1の車体重心SJ近傍を通り地面に垂直な軸SJ1を中心とする円弧形状を構成するように、左右方向に3等分した位置で、等角度で折れ曲がる構成でもよい。また、図5に示すように、排障板11Cは、水平断面形状が鉄道車両1の車体重心SJ近傍を通り地面に垂直な軸SJ1を中心とする円弧形状を構成するように、左右方向に5等分した位置で、等角度で折れ曲がる構成でもよい。なお、排障板11は、上記3等分、又は5等分に限る必要はない。
【0035】
<第2実施例における鉄道車両の排障器>
次に、第2実施例の鉄道車両の排障器について、図6図9を用いて説明する。図6に、本発明の実施形態に係る第2実施例の鉄道車両の排障器を備えた鉄道車両の概略側面図を示す。図7に、図6に示す鉄道車両の排障器におけるB視正面図を示す。図8に、図7に示すC-C断面図を示す。図9に、図6に示す鉄道車両の排障器に障害物が衝突したときの当該鉄道車両の側面図であって、(A)は、排障板が回動前の側面図を示し、(B)は、排障板が回動途中の側面図を示し、(C)は、排障板の法線が所定の範囲を通過する位置で、排障板が停止した状態の側面図を示し、(D)は、排障板の法線が車両重心を通過する位置で、排障板が停止した状態の側面図を示す。
【0036】
図6図9に示すように、本鉄道車両の排障器20は、鉄道車両1の先頭部1Sに装着され、線路上の障害物Sを排除可能に形成された鉄道車両の排障器である。また、本排障器20には、当該排障器20に進行方向後方へ所定の荷重以上の外力が作用した時に、車体台枠2に固定された上端部211を中心に下端部212が進行方向後方へ回動可能に形成された排障板21を備え、車体台枠2には、排障板21の上下中間部に対する法線HSが鉄道車両1の車体重心SJを通過する第1法線HS1を含む所定の範囲Wを通過する位置で排障板21の回動を停止させるストッパ構造22を備えている(図9(C)を参照)。ここでは、上記所定の範囲Wは、排障板21の上下中間部に対する法線HSが、鉄道車両1の車体重心SJを通過する第1法線HS1から地面と平行な第2法線HS2までの範囲(斜線で示す範囲)を意味するが、後述する変形例で示すように、排障板21が進行方向前向きの勾配を持った姿勢を維持している場合には、上記所定の範囲Wを前台車と交差する位置まで下方に拡大させることができる。なお、ストッパ構造22は、排障板21の上下中間部に対する法線HSが鉄道車両1の車体重心SJを通過する第1法線HS1の位置で排障板21の移動を停止させることが好ましい(図9(D)を参照)。また、ストッパ構造22は、後述する圧潰部材23よりも強度的に強い構造であって、単一又は複数のストッパ部材22aから構成されていてもよい。ここでは、ストッパ部材22aは、逆三角形状に形成され、その底辺が車体台枠2の側梁に固定されている。
【0037】
ここで、「所定の荷重以上の外力」とは、「例えば、鉄道車両が踏切等において普通乗用車と衝突したときに進行方向後方に受ける衝突反力」等が該当する。また、排障板21を回動させる外力の大きさは、車体台枠2に固定された排障板21の上端部211における左右方向の長さ又は前後方向の板厚等によって、又は、排障板21を後方で支持する衝撃吸収部材(図示しない)を備え、この衝撃吸収部材によって、調節することができる。
【0038】
なお、本鉄道車両1は、車体台枠2の上に、車両前側と車両後側に妻構体1bが配置され、車両幅方向両側に側構体1cが配置され、車両上側に屋根構体1dが配置されて、全体として箱型車両を構成している。また、車体台枠2には、車輪41を備えた台車4が、車両の前後に1つずつ配置され、バネ装置を介して装着されている。
【0039】
また、排障板21は、その上端部211が進行方向後側に位置し、下端部212に下がるほど進行方向前側に位置するように、列車側面から見て進行方向前向きの勾配を持った姿勢で、車体台枠2に固定されている。したがって、所定の荷重以上の外力を生じさせない質量の小さな障害物に対しては、排障板21は、進行方向前向きの勾配を持った姿勢を維持して、当該障害物を排除できる。
【0040】
上述したように、本実施例では、排障器20には、当該排障器20に進行方向後方へ所定の荷重以上の外力が作用した時に、車体台枠2に固定された上端部211を中心に下端部212が進行方向後方へ回動可能に形成された排障板21を備え、車体台枠2には、排障板21の上下中間部に対する法線HSが鉄道車両1の車体重心SJを通過する第1法線HS1から地面と平行な第2法線HS2までの範囲Wを通過する位置又は車体重心SJを通過する第1法線HS1の位置で排障板21の回動を停止させるストッパ構造22を備えている。また、排障板21は、水平断面形状が鉄道車両1の車体重心SJ近傍を通り地面に垂直な軸SJ1を中心とする円弧形状を構成する曲面体又は多面体からなる。
【0041】
したがって、排障板21が、普通乗用車等のように質量の大きな障害物Sと衝突した時、排障板21の上下中間部に対する法線HSが鉄道車両1の車体重心SJを通過する第1法線HS1から地面と平行な第2法線HS2までの範囲Wを通過する位置又は車体重心SJを通過する第1法線HS1の位置で排障板21の回動をストッパ構造22によって停止させた上で、その衝突反力P2は、円弧形状を構成する曲面体又は多面体からなる排障板21に対する法線方向に作用し、鉄道車両1の車体重心SJ近傍の位置で車体1aに伝達される。そのため、この衝突反力P2によって、その車体重心SJを通り枕木方向に平行な軸SJ2の周りに車体1aを回転させるモーメント力が生じにくく、また、車体重心SJを通り地面に垂直な軸SJ1の周りに車体1aを回転させるモーメント力も生じにくい。
【0042】
さらに、排障板21の左右中央部21Cには、鉄道車両1の先頭部1Sに装着された車両連結装置3から所定隙間で離間した略U字状の切欠き部213が形成されている。したがって、排障板21の左側部21A又は右側部21Bが、普通乗用車等のように質量の大きな障害物Sと衝突した時、衝突した左側部21A又は右側部21Bの上下中間部に対する法線HSが鉄道車両1の車体重心SJを通過する第1法線HS1から地面と平行な第2法線HS2までの範囲Wを通過する位置又は車体重心SJを通過する第1法線HS1の位置で排障板21の回動を衝突した側のストッパ構造22によって停止させた上で、その衝突反力P2は、円弧形状を構成する曲面体又は多面体からなる排障板21(21A、21B)に対する法線方向に作用し、鉄道車両1の車体重心SJ近傍の位置で車体1aに伝達される。
【0043】
このとき、切欠き部213が形成された左右中央部21Cが、強度的に変形し易いので、衝突しない反対側の排障板21(21A、21B)の影響を受けにくく、衝突した左側部21A又は右側部21Bに対する法線方向の角度が保持されやすい。そのため、この衝突反力P2による、その車体重心SJを通り枕木方向に平行な軸SJ2の周りに車体1aを回転させるモーメント力を生じにくく、また、車体重心SJを通り地面に垂直な軸SJ1の周りに車体1aを回転させるモーメント力も生じにくくさせることができる。
【0044】
<作用効果>
以上、詳細に説明した本実施形態に係る鉄道車両の排障器10によれば、本排障器10は、水平断面形状が鉄道車両1の車体重心SJ近傍を通り地面に垂直な軸SJ1を中心とする円弧形状を構成する曲面体又は多面体からなる排障板11(11A、11B、11C)を備えているので、排障板11が、普通乗用車等のように質量の大きな障害物Sと衝突した時、その衝突反力P1は、排障板11の法線方向に作用し、鉄道車両1の車体重心SJ近傍の位置で車体1aに伝達される。そのため、この衝突反力P1によって、その車体重心SJを通り地面に垂直な軸SJ1の周りに車体1aを回転させるモーメント力を生じにくい。その結果、例えば、鉄道車両1の前端側が障害物Sと反対方向へずれ動き、鉄道車両1の後端側が障害物Sの方向へずれ動くことを抑制でき、車輪41がレールRaから脱線する可能性を低減できる。
【0045】
よって、本実施形態によれば、普通乗用車等のように質量の大きな障害物Sと衝突した場合において、その衝突反力P1によって生じる車体1aを回転させるモーメント力を低減させて、鉄道車両の脱線する可能性を軽減できる鉄道車両の排障器10を提供することができる。
【0046】
また、本実施形態によれば、排障器20には、当該排障器20に進行方向後方へ所定の荷重以上の外力が作用した時に、上端部211に対して下端部212が進行方向後方へ移動可能に形成された排障板21を備えているので、所定の荷重以上の外力を生じさせない質量の小さな障害物に対しては、排障板21の姿勢を維持して、当該障害物を排除できる。例えば、排障板21の上端部211が進行方向後側に位置し、下端部212に下がるほど進行方向前側に位置するように、列車側面から見て進行方向前向きの勾配を持った姿勢で排障板21を装着することによって、所定の荷重以上の外力を生じさせない質量の小さな障害物に対しては、排障板21の進行方向前向きの勾配を持った姿勢を維持して、当該障害物を排除できる。
【0047】
また、車体台枠2には、排障板21の上下中間部に対する法線HSが鉄道車両1の車体重心SJを通過する第1法線HS1から地面と平行な第2法線HS2までの範囲Wを通過する位置で排障板21の移動を停止させるストッパ構造22を備えているので、排障板21が普通乗用車等のように質量の大きな障害物Sと衝突したときに、排障板21の上下中間部に対する法線HSが鉄道車両1の車体重心SJを通過する第1法線HS1から地面と平行な第2法線HS2までの範囲Wを通過する位置で排障板21の移動をストッパ構造22によって停止させ、その質量の大きな障害物Sから受けた衝突反力P2を車体重心SJ近傍の位置で車体1aに伝達させることができる。そのため、この衝突反力P2による、その車体重心SJを通り枕木方向に平行な軸SJ2の周りに車体1aを回転させるモーメント力を、生じにくくさせることができる。その結果、車体1aの前端側が下がり、車体1aの後端側が上がること、あるいは逆の動作としての、車体1aの前端側が上がり、車体1aの後端側が下がることを抑制でき、車輪41がレールRaから脱線する可能性を低減できる。
【0048】
よって、本実施形態によれば、普通乗用車等のように質量の大きな障害物Sと衝突した場合において、その衝突反力P2によって生じる車体1aを回転させるモーメント力を低減させて、鉄道車両1の脱線する可能性を軽減できる鉄道車両の排障器20を提供することができる。
【0049】
また、本実施形態によれば、ストッパ構造22は、排障板21の上下中間部に対する法線HSが第1法線HS1の位置で排障板21の移動を停止させるので、排障板21が普通乗用車等のように質量の大きな障害物Sと衝突したときに、その障害物Sから受けた衝突反力P2を車体重心SJの位置で車体1aに伝達させることができる。そのため、車体重心SJを通り枕木方向に平行な軸SJ2の周りに車体1aを回転させるモーメント力が、より一層生じにくくなる。その結果、車体1aの前端側が下がり、車体1aの後端側が上がること、あるいは逆の動作としての、車体1aの前端側が上がり、車体1aの後端側が下がることをより一層抑制でき、車輪41がレールRaから脱線する可能性をより一層低減できる。
【0050】
また、本実施形態によれば、排障板21とストッパ構造22との間には、当該ストッパ構造22より強度的に弱い圧潰部材23が介在されているので、排障板21が普通乗用車等のように質量の大きな障害物Sと衝突したときに、圧潰部材23が変形することによって衝突荷重を軽減させた状態で、排障板21の上下中間部に対する法線HSが鉄道車両1の車体重心SJを通過する第1法線から地面と平行な第2法線までの範囲Wを通過する位置又は車体重心を通過する位置で排障板21の移動をストッパ構造22によって停止させ、その障害物Sから受けた衝突反力P2を緩和させつつ、車体重心SJ近傍の位置で車体1aに伝達させることができる。そのため、衝突反力P2が緩和されることによって、その車体重心SJを通り枕木方向に平行な軸SJ2の周りに車体1aを回転させるモーメント力が、より一層生じにくくなる。その結果、車体1aの前端側が下がり、車体1aの後端側が上がること、あるいは逆の動作としての、車体1aの前端側が上がり、車体1aの後端側が下がることを抑制でき、車輪41がレールRaから脱線する可能性をより一層低減できる。なお、圧潰部材23は、独立した部材には限定されず、溶接等で一体に組み立てられた構造の一部であってもよい。また、圧潰部材23は、レール方向又は上下方向に変形しても良く、レール方向及び上下方向に変形しても良い。
【0051】
また、本実施形態によれば、排障板21は、水平断面形状が鉄道車両1の車体重心SJ近傍を通り地面に垂直な軸SJ1を中心とする円弧形状を構成する曲面体又は多面体からなるので、排障板21が、普通乗用車等のように質量の大きな障害物Sと衝突した時、排障板21の上下中間部に対する法線HSが鉄道車両1の車体重心SJ近傍を通過する位置で排障板21の移動をストッパ構造22によって停止させた上で、その衝突反力P2は、円弧形状を構成する曲面体又は多面体からなる排障板21に対する法線方向に作用し、鉄道車両1の車体重心SJ近傍の位置で車体1aに伝達される。そのため、この衝突反力P2による、その車体重心SJを通り枕木方向に平行な軸SJ2の周りに車体1aを回転させるモーメント力を生じにくく、また、車体重心SJを通り地面に垂直な軸SJ1の周りに車体1aを回転させるモーメント力も生じにくくさせることができる。その結果、例えば、鉄道車両1の前端側が障害物Sと反対方向へずれ動き、鉄道車両1の後端側が障害物Sの方向へずれ動くことを抑制できると同時に、車体1aの前端側が下がり、車体1aの後端側が上がること、あるいは逆の動作としての、車体1aの前端側が上がり、車体1aの後端側が下がることを抑制でき、車輪41がレールRaから脱線する可能性をより一層低減できる。
【0052】
また、本実施形態によれば、排障板21の左右中央部21Cには、鉄道車両1の先頭部1Sに装着された車両連結装置3から所定隙間で離間した略U字状の切欠き部213が形成されているので、排障板21の左側部21A又は右側部21Bが、普通乗用車等のように質量の大きな障害物Sと衝突した時、衝突した左側部21A又は右側部21Bの上下中間部に対する法線HSが鉄道車両1の車体重心SJを通過する第1法線HS1から地面と平行な第2法線HS2までの範囲Wを通過する位置又は車体重心SJを通過する位置で排障板21(21A、21B)の回動を停止させた上で、その衝突反力P2は、円弧形状を構成する曲面体又は多面体からなる排障板21(21A、21B)に対する法線方向に作用し、鉄道車両1の車体重心SJ近傍の位置で車体1aに伝達される。このとき、切欠き部213が形成された左右中央部21Cが、強度的に変形し易いので、衝突しない反対側の排障板21(21A、21B)の影響を受けにくく、衝突した左側部21A又は右側部21Bに対する法線方向の角度が保持されやすい。そのため、この衝突反力P2による、その車体重心SJを通り枕木方向に平行な軸SJ2の周りに車体1aを回転させるモーメント力を生じにくく、また、車体重心SJを通り地面に垂直な軸SJ1の周りに車体1aを回転させるモーメント力も生じにくくさせることができる。その結果、例えば、鉄道車両1の前端側が障害物Sと反対方向へずれ動き、鉄道車両1の後端側が障害物Sの方向へずれ動くことをより一層抑制できると同時に、車体1aの前端側が下がり、車体1aの後端側が上がること、あるいは逆の動作としての、車体1aの前端側が上がり、車体1aの後端側が下がることをより一層抑制でき、車輪41がレールRaから脱線する可能性をより一層低減できる。
【0053】
<変形例>
以上、本実施形態に係る鉄道車両の排障器10、20を詳細に説明したが、本発明はこれに限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
【0054】
例えば、第1実施例の排障器10では、排障板11は、鉄道車両1の先頭部1Sで車体1aの上下方向へ略垂直状に延設され、排障板11の上端部111は、車体台枠2に固定されている。しかし、必ずしも、これに限る必要はない。例えば、鉄道車両1の先頭部1Sで、排障板21の上端部211が進行方向前側に位置し、下端部212に下がるほど進行方向後側に位置するように、列車側面から見て進行方向後向きの勾配を持った姿勢で排障板21を装着してもよい。この場合には、排障板21が、普通乗用車等のように質量の大きな障害物Sと衝突した時、排障板21の上下中間部に対する法線HSが鉄道車両1の車体重心SJ近傍を通過するので、衝突反力P2による、その車体重心SJを通り枕木方向に平行な軸SJ2の周りに車体1aを回転させるモーメント力を生じにくくさせることができて、車体1aの前端側が下がり、車体1aの後端側が上がること、あるいは逆の動作としての、車体1aの前端側が上がり、車体1aの後端側が下がることを抑制でき、車輪41がレールRaから脱線する可能性をより一層低減できる。
【0055】
また、第2実施例の排障器20では、当該排障器20に進行方向後方へ所定の荷重以上の外力が作用した時に、車体台枠2に固定された上端部211を中心に下端部212が進行方向後方へ回動可能に形成された排障板21を備えている。しかし、排障板21は、上記回動する形態に限る必要はなく、上端部に対して下端部212が進行方向後方へ移動可能に形成されていれば良い。例えば、排障板21が塑性変形することで、下端部212が上端部211よりも進行方向後方へ移動する形態も含まれる。また、排障板21は、上端部211以外の位置で車体台枠2に支持されていても良い。
【0056】
また、第2実施例の排障器20では、車体台枠2には、排障板21の上下中間部に対する法線HSが鉄道車両1の車体重心SJを通過する第1法線HS1の位置で排障板21の回動を停止させるストッパ構造22を備えている(図9(D)を参照)。しかし、図6に示すように、排障板21とストッパ構造22との間に隙間が形成された構造の排障器20に限る必要はない。例えば、図10に示すように、排障板21とストッパ構造22との間には、ストッパ構造22より強度的に弱い圧潰部材23を介在させる構造の排障器20Bでも良い。圧潰部材23は、例えば、ストッパ構造22のストッパ部材22aより板厚が薄く、屈曲しやすく形成されている。この場合、排障器20Bに進行方向後方へ所定の荷重以上の外力が作用した時に、圧潰部材23がレール方向に潰れることによって、排障板21の上下中間部に対する法線HSが鉄道車両1の車体重心SJ近傍を通過する位置で排障板21の移動をストッパ構造22によって停止させ、その質量の大きな障害物Sから受けた衝突反力P2を緩和させながら車体重心SJ近傍の位置で車体1aに伝達させることができる(図9(D)を参照)。
【0057】
また、排障板21とストッパ構造22との間に、ストッパ構造22より強度的に弱い圧潰部材23Bを介在させる構造として、図11図14に示す構造の排障器20Cを採ることもできる。ここでは、排障板21の背面に支持部材24が連結され、支持部材24の上端部が圧潰部材23Bに連結され、圧潰部材23Bの上端部がストッパ構造22に連結されている。この場合、排障器20Cに進行方向後方へ所定の荷重以上の外力が作用した時に、圧潰部材23Bが上下方向に潰れることによって、排障板21の上下中間部に対する法線HSが鉄道車両1の車体重心SJ近傍を通過する位置で排障板21の移動をストッパ構造22によって停止させ、その質量の大きな障害物Sから受けた衝突反力P2を緩和させながら車体重心SJ近傍の位置で車体1aに伝達させることができる(図12(A)、(B)(C)を参照)。
【0058】
なお、圧潰部材23Bと支持部材24は、以下のように構成することができる。例えば、図13図14に示すように、圧潰部材23Bは、台枠2の下端に水平状に固定されたストッパ構造22と連結され上下方向に延設された複数(例えば、3つ)の縦板231Bと、各縦板231Bと連結され水平方向に延設された横板232Bとから構成し、支持部材24は、排障板21の背面に連結され上下方向に延設された複数(例えば、2つ)の縦板241から構成しても良い。支持部材24の縦板241は、圧潰部材23Bの縦板231Bと枕木方向で異なる位置に配置されている。この場合、排障器20Cに進行方向後方へ所定の荷重以上の外力が作用した時に、支持部材24の縦板241は、圧潰部材23Bの縦板231Bの間に入り込み、横板232Bが上下方向へ波状に変形することによって、衝撃荷重を緩和させる。
【0059】
また、第2実施例の排障器20には、当該排障器20に進行方向後方へ所定の荷重以上の外力が作用した時に、車体台枠2に固定された上端部211を中心に下端部212が進行方向後方へ回動可能に形成された排障板21を備え、車体台枠2には、排障板21の上下中間部に対する法線HSが鉄道車両1の車体重心SJを通過する第1法線HS1を含む所定の範囲Wを通過する位置で排障板21の回動を停止させるストッパ構造22を備えている(図9(C)を参照)。第2実施例では、上記所定の範囲Wは、排障板21の上下中間部に対する法線HSが、鉄道車両1の車体重心SJを通過する第1法線HS1から地面と平行な第2法線HS2までの範囲(斜線で示す範囲)を意味するが、図15に示すように、排障板21が進行方向前向きの勾配を持った姿勢を維持している場合には、上記所定の範囲Wを、排障板21の上下中間点Pと、前台車4Aの前後中心を通過する垂線FBがレール上面RLと交差する点Kとを結ぶ第3法線HS3の領域まで、下方に拡大させることができる。なお、直線HS1は、P点と車体重心SJを通過する第1法線を示し、直線HS2は、P点を通りレール上面RLと平行な第2法線を示し、直線HNは、P点を通り、排障板21と垂直な法線を示す。
【0060】
以下に、上記所定の範囲Wを、排障板21の上下中間点Pと、前台車4Aの前後中心を通過する垂線FBがレール上面RLと交差する点Kとを結ぶ第3法線HS3の領域まで、下方に拡大させることができる理由を説明する。
【0061】
すなわち、図16に示すように、車体重心SJには、垂直下向きの重力SGが作用し、この重力SGに対抗するため、車体1aには、前台車4Aと後台車4Bとから垂直上向きの支持力VF、VRが作用している。通常、車体重心SJは、前台車4Aと後台車4Bとの中間点と一致するように設計されているので、定常走行時における前台車4Aの支持力VF0と、後台車4BのVR0は、それぞれ等しく、重力SGの1/2となる。
【0062】
そして、図17に示すように、排障板21のP点に障害物による衝突反力PF2が、法線HNに沿って作用したとする。この場合、ベクトルPX2が衝突反力PF2の水平成分を示し、ベクトルPZ2が衝突反力PF2の垂直成分を示す。このとき、車体重心SJには、衝突反力PF2の水平成分(PX2)と等しい見かけ上の慣性力SX2が前向きに作用する。ここで、車体重心SJに作用する重力SGは、不変であるので、車体重心SJには、上記慣性力SX2と重力SGとの合成力SF2が、車体1aの斜め前下方に向けて傾斜する傾斜線SW2上の力として作用する。
【0063】
また、図17に示すように、上記傾斜線SW2と法線HNとの交点M2を通る垂直線MB2は、前台車4Aの前後中心を通過する垂線FBと近接し、後台車4Bの前後中心を通過する垂線RBから大きく離間している。そのため、車体重心SJに作用する重力SGと衝突反力PF2の垂直成分PZ2との合力に対抗する台車4の支持力として、前台車4Aの支持力VF2が大きくなり、後台車4Bの支持力VR2が相当程度小さくなる。しかし、この場合は、後台車4Bの支持力VF2は完全には失われていないので、脱線する可能性は小さい。
【0064】
ところが、図18に示すように、排障板21の法線HN3が、点Kを通過する第3法線HS3より下方に位置する場合、前記傾斜線SW2と法線HN3との交点M3を通過する垂線MB3が、点Kより前方に位置することになる。そして、交点M3の位置に、衝突反力PF3の垂直成分PZ3と重力SGとの合力が垂直下方に作用するので、車体1aに対する後台車4Bの支持力が負の値となり、後台車4Bの位置で車体1aが浮き上がる可能性が大となる。そのため、排障板21の法線HN3が、点Kを通過する第3法線HS3と一致するところが、脱線の可能性を軽減できる限界と言える。
【0065】
よって、ストッパ構造22によって、排障板21の回動を停止させる所定の範囲Wは、排障板21の上下中間部に対する法線HSが、鉄道車両1の車体重心SJを通過する第1法線HS1から地面と平行な第2法線HS2までの範囲(図9(C)の斜線で示す範囲)に限らず、図15に示すように、排障板21が進行方向前向きの勾配を持った姿勢を維持している場合には、上記所定の範囲Wを、排障板21の上下中間点Pと、前台車4Aの前後中心を通過する垂線FBがレール上面RLと交差する点Kとを結ぶ第3法線HS3の位置まで下方に拡大させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、例えば、踏切等において普通乗用車等のように質量の大きな障害物と衝突した場合において、その衝突反力によって生じる車体を回転させるモーメント力を低減させて、鉄道車両の脱線する可能性を軽減できる鉄道車両の排障器として利用できる。
【符号の説明】
【0067】
1 鉄道車両
1a 車体
1S 先頭部
2 車体台枠
3 車両連結装置
10、20、20B、20C 排障器
11、21 排障板
11A、11B、11C 排障板
21C 左右中央部
22 ストッパ構造
23、23B 圧潰部材
111、211 上端部
112、212 下端部
213 切欠き部
HS 法線
HS1 第1法線
HS2 第2法線
S 障害物
SJ 車体重心
SJ1、SJ2 軸
W 範囲
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23