IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三井化学株式会社の特許一覧

特許7536999液晶シール剤、液晶表示パネルの製造方法および液晶表示パネル
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-09
(45)【発行日】2024-08-20
(54)【発明の名称】液晶シール剤、液晶表示パネルの製造方法および液晶表示パネル
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/1339 20060101AFI20240813BHJP
   C09K 3/10 20060101ALI20240813BHJP
【FI】
G02F1/1339 505
C09K3/10 B
C09K3/10 L
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2023507182
(86)(22)【出願日】2022-03-17
(86)【国際出願番号】 JP2022012288
(87)【国際公開番号】W WO2022196764
(87)【国際公開日】2022-09-22
【審査請求日】2023-08-07
(31)【優先権主張番号】P 2021046327
(32)【優先日】2021-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021046329
(32)【優先日】2021-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021046333
(32)【優先日】2021-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大塚 健祐
(72)【発明者】
【氏名】有間 晃平
【審査官】岩村 貴
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/085081(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/124023(WO,A1)
【文献】特開2018-022054(JP,A)
【文献】国際公開第2018/207730(WO,A1)
【文献】特開2000-258780(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0107750(US,A1)
【文献】国際公開第2008/016122(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/047422(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/1339
C09K 3/10
C08G 59/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化物の、23℃で測定したヤング率が0.5GPa以上3.0GPa未満であり、
分子内にエポキシ基を有する熱硬化性化合物(A)(ただし、部分エポキシ(メタ)アクリレートを含まない)を含む硬化性樹脂と、
熱硬化剤(E)と、を含み、前記熱硬化剤(E)は、20℃における水への溶解度が5g/100g以下の熱硬化剤である、
液晶シール剤。
【請求項2】
前記熱硬化剤(E)は、イミダゾール系熱潜在性硬化剤、アミンアダクト系熱潜在性硬化剤、およびポリアミン系熱潜在性硬化剤からなる群より選ばれる少なくとも一種の熱硬化剤である、
請求項1に記載の液晶シール剤。
【請求項3】
動的粘弾性測定装置(レオメータ)により貯蔵弾性率(G’)および損失弾性率(G’’)を測定しながら、25℃の上記液晶シール剤を120℃で加熱したときの、G’とG’’とが一致するまでの時間が、450秒以下である、請求項1または2に記載の液晶シール剤。
【請求項4】
前記硬化性樹脂は、下記式により示される特性比が4.7以下、Tgが250℃以上340℃以下、かつ重量平均分子量(Mw)が1000以上である硬化性化合物(B)を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の液晶シール剤。
【数1】
(式(1)中、<R >は、ポリマー鎖が取り得るすべての末端間距離の二乗平均値である。Lは、ポリマー鎖を構成する各構成単位の長さの二乗平均値であり、nは、構成単位の数である)
【請求項5】
前記硬化性化合物(B)は、一般式(2)で表される化合物である、請求項4に記載の液晶シール剤。
【化1】
・・・一般式(2)
(一般式(2)中、Rは多価エポキシ化合物に由来する2価の残基を示し、Rは独立して環状ラクトンを開環させて得られる2価の構造を示し、Rは独立して炭素数1以上6以下の直鎖状または分岐鎖を有するアルキレン基を示し、Rは独立して水素原子またはメチル基を示す。)
【請求項6】
前記硬化性樹脂100質量部に対する、前記硬化性化合物(B)の含有量が40質量部以上90質量部以下である、請求項4または5に記載の液晶シール剤。
【請求項7】
機充填剤(G)を有し、
前記硬化性樹脂100質量部に対する、前記無機充填剤(G)の含有量は、20質量部以上55質量部以下である、
請求項1~6のいずれか1項に記載の液晶シール剤。
【請求項8】
厚さ0.6mmの硬化物の60℃、90%Rhの環境下における透湿量が50g/m未満である、請求項1~7のいずれか1項に記載の液晶シール剤。
【請求項9】
配向膜をそれぞれ有する一対の基板の、一方の基板の前記配向膜上に、請求項1~8のいずれか1項に記載の液晶シール剤を塗布し、シールパターンを形成する工程と、
前記シールパターンが未硬化の状態において、前記一方の基板上かつ前記シールパターンの領域内、または他方の基板に液晶を滴下する工程と、
前記一方の基板および前記他方の基板を、前記シールパターンを介して重ね合わせる工程と、
前記シールパターンを硬化させる工程と、
を含む、
液晶表示パネルの製造方法。
【請求項10】
前記シールパターンを硬化させる工程において、前記シールパターンに光を照射して前記シールパターンを硬化させる、請求項9に記載の液晶表示パネルの製造方法。
【請求項11】
前記シールパターンに照射する光は、可視光領域の光を含む、請求項10に記載の液晶表示パネルの製造方法。
【請求項12】
前記シールパターンを硬化させる工程において、光が照射された後の前記シールパターンをさらに加熱する、請求項10または11に記載の液晶表示パネルの製造方法。
【請求項13】
前記シールパターンを硬化させる工程の後に、前記基板に加圧処理を施す工程を有する、請求項9~12のいずれか1項に記載の液晶表示パネルの製造方法。
【請求項14】
配向膜をそれぞれ有する一対の基板と、
前記一対の基板の前記配向膜の間に配置された枠状のシール部材と、
前記一対の基板の間の前記シール部材で囲まれた空間に充填された液晶層と、を含み、
前記シール部材が、請求項1~8のいずれか1項に記載の液晶シール剤の硬化物である、
液晶表示パネル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶シール剤、液晶表示パネルの製造方法および液晶表示パネルに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話やパーソナルコンピュータをはじめとする各種電子機器の画像表示パネルとして、液晶や有機EL等の表示パネルが広く使用されている。例えば、液晶表示パネルは、表面に電極が設けられた2枚の透明基板と、それらの間に挟持された枠状のシール剤と、当該シール剤で囲まれた領域内に封入された液晶材料とを有する。
【0003】
落下などによる衝撃への耐性が強い液晶表示パネルを製造するため、上記衝撃による応力を吸収できる、柔軟性の高いシール剤を開発することが要求されている。
【0004】
たとえば、特許文献1には、硬化性樹脂、重合開始剤および熱硬化剤(ジヒドラジド系)を含有し、硬化物の25℃における貯蔵弾性率が0.8GPa未満であり、硬化物の121℃における貯蔵弾性率が0.01GPa以上である、液晶滴下工法用シール剤が記載されている。特許文献1によれば、硬化物の25℃における貯蔵弾性率を0.8GPa未満とすることで耐衝撃性を高めることができ、硬化物の121℃における貯蔵弾性率を0.01GPa以上とすることで耐湿熱性を高めることができる、とされている。具体的には、特許文献1には、上記硬化性樹脂を、エポキシ基とゴム構造とを有する化合物を含むものとすることで、上記貯蔵弾性率を達成できるとされている。
【0005】
また、特許文献2には、硬化性樹脂と、重合開始剤または熱硬化剤(ジヒドラジド系)とを含有し、硬化物の25℃における貯蔵弾性率が2.0GPa未満であり、硬化物の25℃における損失弾性率が0.1GPa以上1.0GPa以下である、液晶滴下工法用シール剤が記載されている。特許文献2によれば、硬化物の貯蔵弾性率を低め、かつ損失弾性率を一定以上にすることで、硬化物の変形が容易になり、かつ形状を復元しやすくなる(塑性変形が生じにくくなる)ので、硬化物の耐衝撃性を高めつつ、基板の変形が繰り返されても剥がれや変形を生じにくくすることができる、とされている。具体的には、特許文献2には、上記硬化性樹脂として重合性官能基とゴム構造とを有する化合物を用いたり、シール剤にゴム粒子を配合したりすることで、上記貯蔵弾性率および損失弾性率の両立を達成できるとされている。
【0006】
また、特許文献3には、分子内にエポキシ基およびアクリロイル基を有する化合物を含有し、DMA法によって測定したガラス転位温度が90℃以下であり、tanδが0.5以上である、液晶滴下工法用液晶シール剤が記載されている。また、特許文献3では、ジヒドラジド系の熱硬化剤が用いられていると記載されている。そして、特許文献3には、上記シール剤は、硬化後の柔軟性が向上され、フレキシブルディスプレイや湾曲形状のディスプレイにおいても十分な接着強度を実現できる、とされている。
【0007】
また、特許文献4には、硬化性樹脂と、重合開始剤または熱硬化剤と、含有割合が15質量%以上となる量の疎水性基を表面に有する無機フィラーとを含み、硬化物の25℃における貯蔵弾性率が2.0GPa以下である、液晶滴下工法用シール剤が記載されている。特許文献2によれば、硬化物の25℃における貯蔵弾性率が2.0GPa以下とすることで、液晶表示素子が落下等により衝撃を受けた際のパネル剥がれを防止できるようになる、とされている。特許文献2には、上記硬化性樹脂として、環状ラクトンの開環構造などの柔軟骨格を有する化合物が好ましいと記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2020/085081号
【文献】国際公開第2018/124023号
【文献】特開2018-022054号公報
【文献】国際公開第2018/207730号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
[第1の開示に関する課題]
特許文献1~特許文献5に記載のように、落下などによる衝撃への耐性を高めるため、硬化後の柔軟性を高めた(ヤング率を低下させた)シール剤が種々研究されている。近年、液晶表示パネルをより薄膜化することが要望されており、薄膜化のために、シール剤の硬化後に基板であるガラス板を研磨して薄くすることもある。柔軟性の向上により、液晶表示パネル内部の部材への応力や擦れを低減するため、液晶表示パネルのさらなる薄膜化も可能となると期待されている。
【0010】
ところで、本発明者らは、硬化後のシール剤を有する液晶表示パネルに上記研磨等の加圧処理を施すと、シール剤から染み出した熱硬化剤による輝点が液晶中に発生(ザラが発生)してしまい、表示特性が低下するという課題があることを新たに見出した。
【0011】
本明細書の第1の開示は、上記課題に鑑みてなされたものであり、硬化物のヤング率が低く、かつ、硬化した液晶シール剤を有する液晶表示パネルに加圧処理を施したときのザラの発生を抑制することができる、液晶シール剤、当該液晶シール剤を用いた液晶表示パネルの製造方法、および当該液晶シール剤を用いて製造された液晶表示パネルを提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記本明細書の第1の開示に関する課題を解決するための本発明の一態様は、硬化物の、23℃で測定したヤング率が0.5GPa以上3.0GPa未満であり、分子内にエポキシ基を有する熱硬化性化合物(A)と、熱硬化剤(E)と、を含み、前記熱硬化剤(E)は、20℃における水への溶解度が5g/100g以下の熱硬化剤である、液晶シール剤に関する。
【0013】
上記本明細書の第2の開示に関する課題を解決するための本発明の一態様は、硬化物の23℃で測定した伸び率が30%以上であり、かつ、厚さ0.6mmの硬化物の60℃、90Rh環境下における透湿量が50g/m未満である、液晶シール剤に関する。
【0014】
上記課題を解決するための本発明の他の態様は、配向膜をそれぞれ有する一対の基板の、一方の基板の前記配向膜上に、前記液晶シール剤を塗布し、シールパターンを形成する工程と、前記シールパターンが未硬化の状態において、前記一方の基板上かつ前記シールパターンの領域内、または他方の基板に液晶を滴下する工程と、前記一方の基板および前記他方の基板を、前記シールパターンを介して重ね合わせる工程と、前記シールパターンを硬化させる工程と、を含む、液晶表示パネルの製造方法に関する。
【0015】
上記課題を解決するための本発明の他の態様は、配向膜をそれぞれ有する一対の基板と、前記一対の基板の前記配向膜の間に配置された枠状のシール部材と、前記一対の基板の間の前記シール部材で囲まれた空間に充填された液晶層と、を含み、前記シール部材が、上記液晶シール剤の硬化物である、液晶表示パネルに関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、硬化物のヤング率が低く、かつ、硬化した液晶シール剤を有する液晶表示パネルに加圧処理を施したときのザラの発生を抑制することができる、液晶シール剤、当該液晶シール剤を用いた液晶表示パネルの製造方法、および当該液晶シール剤を用いて製造された液晶表示パネルが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
なお、本明細書において、「(メタ)アクリレート」はアクリレートまたはメタクリレートを意味し、「(メタ)アクリロイル基」はアクリロイル基またはメタクリロイル基を意味し、「(メタ)アクリル酸」はアクリル酸またはメタクリル酸を意味し、「(メタ)アクリル酸樹脂」はアクリル樹脂またはメタクリル樹脂を意味する。
【0018】
1.液晶シール剤
本発明の一実施形態は、液晶表示パネルにおいて液晶を封入するためのシール剤(以下、単に「シール剤」ともいう。)に関する。
【0019】
1-1.材料
まず、本明細書における各開示に関する液晶シール剤に共通して用いられ得る材料について説明する。各開示に記載の液晶シール剤は、それぞれの開示における条件を満たすように、下記材料を適宜選択し、組み合わせて用いることができる。また、これらの材料は、各開示に記載の液晶シール剤に必須の材料ではなく、それぞれの開示における条件を満たす限りにおいて、様々な材料の組み合わせが許容される。
【0020】
1-1―1.硬化性樹脂
1-1-1―1.分子内にエポキシ基を有する熱硬化性化合物(A)
上記各開示に関する液晶シール剤は、硬化性樹脂として、分子内に2個以上のエポキシ基を有する熱硬化性化合物(A)を含んでもよい。なお、本明細書において、熱硬化性化合物(A)には、後述する部分エポキシ(メタ)アクリレートは含まれない。
【0021】
熱硬化性化合物(A)は、モノマー、オリゴマーまたはポリマーのいずれであってもよい。熱硬化性化合物(A)は、硬化物の透湿性をより低下させ、かつ得られる液晶パネルの表示特性をより良好にし、液晶表示パネルの信頼性を向上させることができる。
【0022】
熱硬化性化合物(A)は、重量平均分子量が500以上10000以下であることが好ましく、500以上5000以下であることがより好ましい。熱硬化性化合物(A)の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりポリスチレン換算にて測定される。
【0023】
熱硬化性化合物(A)は、芳香環を有する化合物であることが好ましい。芳香環を有するエポキシ化合物の例には、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールE、ビスフェノールF、ビスフェノールAD等で代表される芳香族ジオール類、またはこれらの芳香族ジオールをエチレングリコール、プロピレングリコール、アルキレングリコール等で変性したジオール類と、エピクロルヒドリンとの反応で得られた芳香族多価グリシジルエーテル化合物、フェノールまたはクレゾールとホルムアルデヒドとから誘導されたノボラック樹脂、ポリアルケニルフェノールやそのコポリマー等で代表されるポリフェノール類と、エピクロルヒドリンとの反応で得られたノボラック型多価グリシジルエーテル化合物、ならびにキシリレンフェノール樹脂のグリシジルエーテル化合物類などが含まれる。中でも、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、トリフェノールメタン型エポキシ化合物、トリフェノールエタン型エポキシ化合物、トリスフェノール型エポキシ化合物、ジシクロペンタジエン型エポキシ化合物、ジフェニルエーテル型エポキシ化合物またはビフェニル型エポキシ化合物が好ましい。熱硬化性樹脂組成物(A)は、エポキシ化合物を一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0024】
なお、特許文献1や特許文献3では、分子内に不飽和結合またはシロキサン構造を有する構造(ゴム構造)を有するエポキシ化合物を用いることで、硬化物の柔軟性を高めている。しかし、本発明者らの新たな知見によると、上記ゴム構造を有する化合物は、液晶中に溶出しやすく、液晶の汚染の原因となりやすい。そのため、熱硬化性化合物(A)は、分子内に不飽和結合およびシロキサン構造を実質的に有さないことが好ましい。具体的には、分子中の不飽和結合またはシロキサン構造の含有量が、5質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましい。
【0025】
熱硬化性化合物(A)は、液状であってもよく、固形であってもよい。硬化物の透湿性をより低下させる観点からは、固形のエポキシ化合物が好ましい。固形のエポキシ化合物の軟化点は、40℃以上150℃以下が好ましい。軟化点は、JIS K7234(1986年)に規定する環球法によって測定することができる。
【0026】
1-1-1-2.特定の硬化性化合物(B)
上記各開示に関する液晶シール剤は、硬化性樹脂として、特性比が4.70以下、Tgが250℃以上340℃以下、かつ重量平均分子量(Mw)が1,000以上である硬化性樹脂(B)を含んでいてもよい。
【0027】
上記特性比とは、分子の屈曲性を表す値であり、小さいほど丸まっていることを示すパラメータである。
【0028】
【数1】
【0029】
式(1)中、<R >は、ポリマー鎖が取り得るすべての末端間距離の二乗平均値である。Lは、ポリマー鎖を構成する各構成単位の長さの二乗平均値であり、nは、構成単位の数である。
【0030】
上記特性比が4.70以下である硬化性化合物(B)は、他の樹脂よりも丸まった状態で安定構造を取り得る。そのため、特定の硬化性化合物(B)は、通常は丸まった状態となっているが、シール剤の硬化物に応力が印加されたときには伸びた状態を取り得る。そして、特定の硬化性化合物(B)は、この丸まった状態と伸びた状態との間の状態変化が大きいため、硬化後も伸縮しやすく、液晶シール剤の硬化物の柔軟性および伸び性を高めると考えられる。また、特定の硬化性化合物(B)によって柔軟性および伸び性を確保することにより、他の材料や、特定の硬化性化合物(B)として、分子内に水分を透過しにくい構造を有する化合物を用いても、硬化物の柔軟性および伸び性が損なわれにくい。上記観点から、特定の硬化性化合物(B)の特性比は4.70以下であることが好ましく、4.50以下であることがより好ましい。特定の硬化性化合物(B)の特性比の上限は特に限定されないが、粘度をより安定させる観点からは、4.30以上とすることが好ましい。
【0031】
上記特性比は、Bicerano法により算出された値とすることができる。Bicerano法は、Joseph Bicerano著、「Prediction of Polymer Properties」, Marcel Dekker社, New York, 2002年に記載された樹脂の特性予測値の計算方法である。
【0032】
上記特定の硬化性化合物(B)は、たとえば、分子内に水素結合を有する樹脂や、オルト置換の芳香環を有する樹脂や、繰り返し構造部分にケト基を有する樹脂などであり得る。
【0033】
上記特定の硬化性化合物(B)は、光硬化性化合物および熱硬化性化合物などのいかなる硬化性化合物であってもよいが、加熱によるシール剤の硬化中に液晶中に溶出することによる液晶の汚染を抑制する観点からは、光硬化性化合物であることが好ましい。上記光硬化性化合物としての特定の硬化性化合物(B)は、分子内にエチレン性不飽和二重結合を有する化合物(部分エポキシ(メタ)アクリレートを除く)であることがより好ましく、反応性が高いことから、(メタ)アクリロイル基を有する化合物であることがさらに好ましい。
【0034】
上記特定の硬化性化合物(B)は、下記一般式(2)で示される硬化性化合物であることが好ましい。
【0035】
【化1】
・・・一般式(2)
【0036】
一般式(2)中、Rは多価エポキシ化合物に由来する2価の残基を示し、Rは独立して環状ラクトンを開環させて得られる2価の構造を示し、Rは独立して炭素数1以上6以下の直鎖状または分岐鎖を有するアルキレン基を示し、Rは独立して水素原子またはメチル基を示す。
【0037】
は、多価エポキシ化合物に由来する2価の残基である。上記多価エポキシ化合物の例には、
ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールE型エポキシ樹脂およびビスフェノールF型エポキシ樹脂などのビスフェノール型エポキシ樹脂、
水添ビスフェノール型エポキシ樹脂、
ノボラック型エポキシ樹脂、
ビフェニル型エポキシ樹脂、
スチルベン型エポキシ樹脂、
ハイドロキノン型エポキシ樹脂、
ナフタレン骨格型エポキシ樹脂、
テトラフェニロールエタン型エポキシ樹脂、
トリスヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂、
ジシクロペンタジエンフェノール型エポキシ樹脂、
3',4'-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-1-ブタノールの1,2-エポキシ-4-(2-オキシラニル)シクロヘキサン付加物などの脂環式エポキシ樹脂、
ヘキサヒドロ無水フタル酸のジグリシジルエステルなどの多塩基酸のポリグリシジルエステル、
ソルビトールポリグリシジルエーテル、ソルビタンポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテルおよびシクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテルなどのグリシジルエーテル、
ポリブタジエンまたはポリイソプレン等のジエンポリマー型エポキシ樹脂、
テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、テトラグリシジルビスアミノメチルシクロヘキサン、ジグリシジルアニリン、テトラグリシジルメタキシリレンジアミンなどのグリシジルアミン型エポキシ樹脂、
トリアジンまたはヒダントインなどの複素環含有エポキシ樹脂、
などが含まれる。
【0038】
シール剤の接着性および耐熱性をより高める観点からは、Rは、以下の一般式(2)で示される2価の構造であることが好ましい。
【0039】
【化2】
・・・一般式(2)
【0040】
一般式(2)中、Xは、単結合、メチレン基、メチルメチレン基、ジメチルメチレン基、メチルフェニルメチレン基、シクロヘキシリデン基、スルホニル基、エーテル結合またはチオエーテル結合を示す。
【0041】
さらに、硬化物の柔軟性をより高める(ヤング率を低くする)観点からは、一般式(2)中のXはメチレン基であることが好ましい。
【0042】
は、環状ラクトンを開環させて得られる2価の構造である。上記環状ラクトンの種類は特に限定されないが、炭素数が2以上6以下の環状ラクトンであることが好ましく、炭素数が4以上6以下の環状ラクトンであることがより好ましい。このような環状ラクトンの例には、αアセトラクトン(炭素数2)、βプロピオラクトン(炭素数3)、γブチロラクトン(炭素数4)、δバレロラクトン(炭素数5)、およびεカプロラクトン(炭素数6)などが含まれる。なお、Rは置換されていてもよい。これらのうち、硬化性化合物の伸縮性をより高めて、シール剤の柔軟性をより高める(ヤング率をより低くする)の観点からは、Rはβプロピオラクトン、γブチロラクトン、δバレロラクトンおよびεカプロラクトンに由来する構造であることが好ましく、γブチロラクトン、δバレロラクトンおよびεカプロラクトンに由来する構造であることがより好ましい。
【0043】
具体的には、Rは、以下の一般式(3)で示される2価の構造である。
【0044】
【化3】
・・・一般式(3)
【0045】
一般式(3)中、Yは、炭素数が2以上6以下、好ましくは3以上6以下、より好ましくは4以上6以下のアルキレン基である。
【0046】
なお、Yは置換されていてもよい。置換基の例には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などが含まれる。
【0047】
なお、Rは、上記環状ラクトンを開環させて得られる2価の構造(一般式(3)で示される2価の構造)が繰り返されていてもよい。このときの繰り返し数は特に限定されないが、1以上6以下であることが好ましく、1以上5以下であることがより好ましい。
【0048】
は、炭素数1以上6以下の直鎖状または分岐鎖を有するアルキレン基である。上記アルキレン基の例には、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、およびヘキシル基などが含まれる。これらのうち、シール剤の透湿性をより低くする観点からは、Rはエチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基が好ましく、エチル基、プロピル基、イソプロピル基がより好ましい。
【0049】
なお、Yは置換されていてもよい。置換基の例には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などが含まれる。
【0050】
は、水素原子またはメチル基である。
【0051】
一般式(2)で示される硬化性化合物は、ケト基を有する繰り返し構造を有し、かつオルト置換のベンゼン環を有する2官能(メタ)アクリル樹脂である。本発明者らの知見によると、このような構造を有する一般式(2)で示される硬化性化合物は、特性比をより高めやすい。さらには、一般式(2)で示される硬化性化合物は、比較的大きい分子量を持つため、液晶中に溶出しにくいため、シール剤が液晶に溶出することによる液晶の汚染を抑制しやすい。
【0052】
一般式(2)で示される硬化性化合物は、公知の方法で合成することができる。たとえば、反応フラスコに、水酸基を有する(メタ)アクリレート、無水フタル酸および環状ラクトンを仕込み、重合禁止剤の存在下で乾燥空気を送り込んで還流攪拌しながらこれらを反応させ、続いて多価エポキシ化合物を加えて乾燥空気を送り込んで還流攪拌しながら反応させる方法により、一般式(2)で示される硬化性化合物を合成することができる。
【0053】
特定の硬化性化合物(B)は、重量平均分子量(Mw)が1000以上である。重量平均分子量(Mw)は、1000以上2000以下であることが好ましく、1200以上1800以下であることがより好ましく、1400以上1600以下であることがさらに好ましい。特定の硬化性化合物(B)のMwが1000以上であると、硬化物の柔軟性をより向上させることができる(ヤング率を低下より低下させることができる)ほか、硬化物の伸び性をより高めることができる。特定の硬化性化合物(B)のMwが2000以下であると、シール剤の透湿性をより低下させることができる。特定の硬化性化合物(B)のMwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)でポリスチレンを標準として測定した値である。
【0054】
また、特定の硬化性化合物(B)は、ガラス転移温度(Tg)が250℃以上340℃以下であり、260以上320℃以下であることが好ましく、280以上310℃以下であることがより好ましい。上記ガラス転移温度が250℃以上だと、透湿量を低下させることができる。上記ガラス転移温度が340℃以下だと、液晶シール剤の硬化物をより柔軟にすることができる。
【0055】
1-1-1-3.その他の硬化性化合物(C)
上記シール剤は、硬化性樹脂として、上記以外のその他の硬化性化合物(C)を含んでいてもよい。その他の硬化性化合物(C)は、光硬化性化合物および熱硬化性化合物などのいかなる硬化性化合物であってもよい。その他の硬化性化合物(C)の例には、分子内にエチレン性不飽和二重結合を有する化合物(部分エポキシ(メタ)アクリレートを除く)が含まれる。
【0056】
その他の硬化性化合物(C)は、モノマー、オリゴマーまたはポリマーのいずれであってもよい。その他の硬化性化合物(C)の例には、分子内に(メタ)アクリロイル基を有する化合物が含まれる。当該(メタ)アクリロイル基を有する化合物1分子あたりの(メタ)アクリロイル基の数は、1つであってもよく、2以上であってもよい。
【0057】
1分子内に(メタ)アクリロイル基を1つ含む硬化性化合物の例には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、および(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチルエステルなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステルが含まれる。
【0058】
1分子内に2以上の(メタ)アクリロイル基を有する硬化性化合物の例には、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、およびポリプロピレングリコールなどに由来するジ(メタ)アクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートに由来するジ(メタ)アクリレート、1モルのネオペンチルグリコールに4モル以上のエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイドを付加して得たジオールに由来するジ(メタ)アクリレート、1モルのビスフェノールAまたはビスフェノールFに2モルのエチレンオキサイドまたはプロピレンオキサイドを付加して得たジオールに由来するジ(メタ)アクリレート、1モルのトリメチロールプロパンに2モルまたは3モルのエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイドを付加して得たポリオールに由来するジもしくはトリ(メタ)アクリレート、1モルのビスフェノールAに4モル以上のエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイドを付加して得たジオール由来のジ(メタ)アクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートまたはそのオリゴマー、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートまたはそのオリゴマー、ジペンタエリスリトールのポリ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、カプロラクトン変性トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、カプロラクトン変性トリス(メタクリロキシエチル)イソシアヌレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールのポリ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールのポリ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性リン酸(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性アルキル化リン酸(メタ)アクリレート、ならびに、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパンおよびペンタエリスリトールのオリゴ(メタ)アクリレートなどが含まれる。
【0059】
上述したように、分子内に不飽和結合またはシロキサン構造を有する構造(ゴム構造)を有する化合物は、液晶中に溶出しやすく、液晶の汚染の原因となりやすい。また、上記ゴム構造を有する光硬化性の化合物は、他の光硬化性の化合物と比較して、硬化率の柔軟性を低下させやすい。そのため、その他の硬化性化合物(C)は、分子内に不飽和結合およびシロキサン構造を実質的に有さないことが好ましい。具体的には、分子中の不飽和結合またはシロキサン構造の含有量が、5質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましい。
【0060】
1-1-1-4.部分エポキシ(メタ)アクリレート(D)
上記シール剤は、硬化性樹脂として、部分エポキシ(メタ)アクリレート(D)を含んでもよい。部分エポキシ(メタ)アクリレート(D)は、シール剤の硬化物の、基板への接着性を高めることができる。
【0061】
部分エポキシ(メタ)アクリレート(D)は、分子内にエポキシおよび(メタ)アクリロイル基の両方を有する化合物であり、2官能以上のエポキシ樹脂が有するエポキシ基のうち、少なくとも1つのエポキシ基を(メタ)アクリロイル基で変性した部分(メタ)アクリロイル変性エポキシ樹脂である。部分エポキシ(メタ)アクリレート(D)は、公知の方法、たとえば2官能以上のエポキシ樹脂と(メタ)アクリル酸とを塩基性触媒の存在下で反応させる方法、により得ることができる。
【0062】
部分エポキシ(メタ)アクリレート(D)の原料となるエポキシ樹脂は、分子内に2つ以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂であればよい。上記エポキシ樹脂の例には、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、2,2’-ジアリルビスフェノールA型、ビスフェノールAD型、および水添ビスフェノール型などのビスフェノール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型、クレゾールノボラック型、ビフェニルノボラック型、およびトリスフェノールノボラック型などのノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ならびにナフタレン型エポキシ樹脂などが含まれる。
【0063】
これらのうち、結晶性が低く、塗工安定性が高いことから、ビスフェノールA型およびビスフェノールF型などのビスフェノール型エポキシ樹脂が好ましい。
【0064】
なお、上記エポキシ樹脂は、3官能や4官能、あるいはそれ以上の数のエポキシ基を有するエポキシ樹脂であってもよい。ただし、架橋密度を適度に調整して、基板への硬化物の接着強度を適度に高める観点からは、2官能のエポキシ樹脂が好ましい。
【0065】
部分エポキシ(メタ)アクリレート(D)は、エポキシ基のモル数に対する(メタ)アクリロイル基のモル数の比率が1以上であることが好ましく、2以上であることがより好ましい。(メタ)アクリロイル基のモル数の比率を高めることで、シール剤が液晶に溶出することによる液晶の汚染を抑制しやすい。
【0066】
部分エポキシ(メタ)アクリレート(D)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定された重量平均分子量(Mw)が300以上500以下であることが好ましい。
【0067】
1-2.熱硬化剤(E)
上記シール剤は、熱硬化性化合物(A)、その他の硬化性化合物(C)、部分エポキシ(メタ)アクリレート(D)などの熱硬化性成分を硬化させるための熱硬化剤(E)を含んでもよい。
【0068】
熱硬化剤(E)は、潜在性熱硬化剤であることが好ましい。潜在性熱硬化剤とは、通常の保存条件下(室温、可視光線下など)では熱硬化性化合物(A)やその他の硬化性化合物(C)を硬化させないが、熱を与えられると、これらの化合物を硬化させる化合物である。熱硬化剤(E)は、エポキシ化合物の硬化が可能な硬化剤(以下、「エポキシ硬化剤」ともいう。)であることが好ましい。
【0069】
エポキシ硬化剤は、光熱硬化性樹脂組成物の粘度安定性を高め、かつ硬化物の耐湿性を損なわない観点から、融点が50℃以上250℃以下であることが好ましく、融点は100℃以上200℃以下がより好ましく、150℃以上200℃以下がさらに好ましい。
【0070】
エポキシ硬化剤の例には、ジヒドラジド系熱潜在性硬化剤、イミダゾール系熱潜在性硬化剤、ジシアンジアミド系熱潜在性硬化剤、アミンアダクト系熱潜在性硬化剤、およびポリアミン系熱潜在性硬化剤がなど含まれる。これらのうち、ジヒドラジド系熱潜在性硬化剤、イミダゾール系熱潜在性硬化剤、アミンアダクト系熱潜在性硬化剤、およびポリアミン系熱潜在性硬化剤が好ましく、表示特性をより高める観点からは、イミダゾール系熱潜在性硬化剤、アミンアダクト系熱潜在性硬化剤、およびポリアミン系熱潜在性硬化剤がより好ましく、アミンアダクト系熱潜在性硬化剤、およびポリアミン系熱潜在性硬化剤がさらに好ましい。
【0071】
ジヒドラジド系熱潜在性硬化剤の例には、アジピン酸ジヒドラジド(融点181℃)、1,3-ビス(ヒドラジノカルボエチル)-5-イソプロピルヒダントイン(融点120℃)、7,11-オクタデカジエン-1,18-ジカルボヒドラジド(融点160℃)、ドデカン二酸ジヒドラジド(融点190℃)、およびセバシン酸ジヒドラジド(融点189℃)などが含まれる。
【0072】
イミダゾール系熱潜在性硬化剤の例には、2,4-ジアミノ-6-[2’-エチルイミダゾリル-(1’)]-エチルトリアジン(融点215~225℃)、および2-フェニルイミダゾール(融点137~147℃)などが含まれる。
【0073】
ジシアンジアミド系熱潜在性硬化剤の例には、ジシアンジアミド(融点209℃)などが含まれる。
【0074】
アミンアダクト系熱潜在性硬化剤は、触媒活性を有するアミン系化合物と任意の化合物とを反応させて得られる付加化合物からなる熱潜在性硬化剤である。アミンアダクト系熱潜在性硬化剤の例には、味の素ファインテクノ株式会社製 アミキュアPN-40(融点110℃)、味の素ファインテクノ株式会社製 アミキュアPN-50(融点120℃)、味の素ファインテクノ株式会社製 アミキュアPN-23(融点100℃)、味の素ファインテクノ株式会社製 アミキュアPN-31(融点115℃)、味の素ファインテクノ株式会社製 アミキュアPN-H(融点115℃)、味の素ファインテクノ株式会社製 アミキュアMY-24(融点120℃)、および味の素ファインテクノ株式会社製 アミキュアMY-H(融点131℃)などが含まれる。
【0075】
ポリアミン系熱潜在性硬化剤は、アミンとエポキシとを反応させて得られるポリマー構造を有する熱潜在性硬化剤であり、その例には、株式会社ADEKA製 アデカハードナーEH4339S(軟化点120~130℃)、および株式会社ADEKA製 アデカハードナーEH4357S(軟化点73~83℃)などが含まれる。
【0076】
1-3.光重合開始剤(F)
上記シール剤は、特定の硬化性化合物(B)、その他の硬化性化合物(C))、部分エポキシ(メタ)アクリレート(D)などの光硬化性成分などの硬化(重合)を開始させるための光重合開始剤(F)を含んでいてもよい。
【0077】
光重合開始剤(F)は、これらの化合物の硬化(重合)を開始させることができる化合物であれば特に制限されない。たとえば、光重合開始剤(F)は、ラジカル重合開始剤とすることができ、自己開裂型の光重合開始剤であってもよく、水素引き無機型の光重合開始剤であってもよい。
【0078】
自己開裂型の光重合開始剤の例には、アルキルフェノン系化合物、アシルホスフィンオキサイド系化合物、チタノセン系化合物、アセトフェノン系化合物、フェニルグリオキシレート系化合物、ベンゾインエーテル系化合物およびオキシムエステル系化合物などが含まれる。上記アルキルフェノン系化合物の例には、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン(BASF社製 IRGACURE 651)などのベンジルジメチルケタール、2-メチル-2-モルホリノ(4-チオメチルフェニル)プロパン-1-オン(BASF社製 IRGACURE 907)などのα-アミノアルキルフェノン、および1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(BASF社製 IRGACURE 184)などのα-ヒドロキシアルキルフェノンなどが含まれる。上記アシルホスフィンオキサイド系化合物の例には、2,4,6-トリメチルベンゾインジフェニルホスフィンオキシドなどが含まれる。上記チタノセン系化合物の例には、ビス(η5-2,4-シクロペンタジエン-1-イル)-ビス(2,6-ジフルオロ-3-(1H-ピロール-1-イル)-フェニル)チタニウムなどが含まれる。上記アセトフェノン系化合物の例には、ジエトキシアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、ベンジルジメチルケタール、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル-(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン、1-ヒドロキシシクロヘキシル-フェニルケトン、2-メチル-2-モルホリノ(4-チオメチルフェニル)プロパン-1-オン、および2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタノンなどが含まれる。上記フェニルグリオキシレート系化合物の例には、メチルフェニルグリオキシエステルなどが含まれる。上記ベンゾインエーテル系化合物の例には、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、およびベンゾインイソプロピルエーテルなどが含まれる。上記オキシムエステル系化合物の例には、1,2-オクタンジオン-1-[4-(フェニルチオ)-2-(O-ベンゾイルオキシム)](BASF社製 IRGACURE OXE01)、およびエタノン-1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-1-(0-アセチルオキシム)(BASF社製 IRGACURE OXE02)などが含まれる。
【0079】
水素引き抜き型の光重合開始剤の例には、ベンゾフェノン系化合物、チオキサントン系化合物、アントラキノン系化合物、およびベンジル系化合物などが含まれる。上記ベンゾフェノン系化合物の例には、ベンゾフェノン、o-ベンゾイル安息香酸メチル-4-フェニルベンゾフェノン、4,4’-ジクロロベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4’-メチル-ジフェニルサルファイド、アクリル化ベンゾフェノン、3,3’,4,4’-テトラ(t-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、および3,3’-ジメチル-4-メトキシベンゾフェノンなどが含まれる。上記チオキサントン系化合物の例には、チオキサントン、2-クロロチオキサントン、1-クロロ-4-プロポキシチオキサントン、1-クロロ-4-エトキシチオキサントン(Lambson Limited社製 Speedcure CPTX)、2-イソプロピルキサントン(Lambson Limited社製 Speedcure ITX)、4-イソプロピルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン(Lambson Limited社製 Speedcure DETX)、2,4-ジクロロチオキサントン、および(2-カルボキシメトキシチオキサントン)-(ポリテトラメチレングリコール250)ジエステル(IGM社製 Omnipol TX)などが含まれる。上記アントラキノン系化合物の例には、2-メチルアントラキノン、2-エチルアントラキノン、2-t-ブチルアントラキノン、1-クロロアントラキノン、2-ヒドロキシアントラキノン(東京化成工業株式会社製 2-Hydroxyanthraquinone)、2,6-ジヒドロキシアントラキノン(東京化成工業株式会社製 Anthraflavic Acid)、および2-ヒドロキシメチルアントラキノン(純正化学株式会社製 2-(Hydroxymethyl)anthraquinone)などが含まれる。
【0080】
光重合開始剤(F)の吸収波長は特に限定されず、たとえば波長360nm以上の光を吸収する光重合開始剤とすることができる。なかでも、可視光領域の光を吸収することがより好ましく、波長360nm以上780nm以下の光を吸収する光重合開始剤がさらに好ましく、波長360nm以上430nm以下の光を吸収する光重合開始剤が特に好ましい。
【0081】
波長360nm以上の光を吸収する光重合開始剤の例には、アルキルフェノン系化合物、アシルホスフィンオキサイド系化合物、チタノセン系化合物、オキシムエステル系化合物、チオキサントン系化合物、アントラキノン系化合物が含まれる。これらのうち、オキシムエステル系化合物が好ましい。
【0082】
光重合開始剤(F)の分子量は、たとえば200以上5000以下とすることができる。光重合開始剤(F)の分子量が200以上であると、光重合開始剤(F)が液晶に溶出しにくい。一方で、光重合開始剤(F)の分子量が5000以下であると、各種硬化性樹脂との相溶性が高まり、シール剤の硬化性が良好になりやすい。光重合開始剤(F)の分子量は、230以上3000以下であることがより好ましく、230以上1500以下であることがさらに好ましい。
【0083】
光重合開始剤(F)の分子量は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC:High Performance Liquid Chromatography)で分析したときに検出されるメインピークの、分子構造の「相対分子質量」として求めることができる。
【0084】
具体的には、光重合開始剤(F)をTHF(テトラヒドロフラン)に溶解させた試料液を調製し、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)測定を行う。そして、検出されたピークの面積百分率(各ピークの面積の、全ピークの面積の合計に対する比率)を求め、メインピークの有無を確認する。メインピークとは、各化合物に特徴的な検出波長(例えばチオキサントン系化合物であれば400nm)で検出された全ピークのうち、最も強度が大きいピーク(ピークの高さが最も高いピーク)をいう。検出されたメインピークのピーク頂点に対応する相対分子質量は、液体クロマトグラフィー質量分析(LC/MS:Liquid Chromatography Mass Spectrometry)により測定できる。
【0085】
1-4.無機充填材(G)
上記シール剤は、無機充填材(G)を含んでいてもよい。無機充填材(G)は、硬化物に所定の硬度や線膨張性を付与するほか、硬化物の内部を通しての水分等の透過を抑制し、硬化物の透湿性をより低下させることができる。
【0086】
無機充填材(G)の例には、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸マグネシウム、珪酸アルミニウム、珪酸ジルコニウム、酸化鉄、酸化チタン、窒化チタン、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化亜鉛、二酸化ケイ素(シリカ)、チタン酸カリウム、カオリン、タルク、ガラスビーズ、セリサイト活性白土、ベントナイト、窒化アルミニウム、および窒化ケイ素などが含まれる。これらのうち、二酸化ケイ素およびタルクが好ましい。
【0087】
無機充填材(G)の形状は、球状、板状、針状等、定形状であってもよく、非定形状であってもよい。無機充填材(G)が球状である場合、無機充填材(G)の平均一次粒子径は、1.5μm以下であることが好ましい。また、無機充填材(G)の比表面積は、0.5m/g以上20m/g以下であることが好ましい。無機充填材(F)の平均一次粒子径は、JIS Z8825(2013年)に記載のレーザー回折法により測定することができる。充填材の比表面積は、JIS Z8830(2013年)に記載のBET法により測定することができる。
【0088】
1-5.その他
上記シール剤は、上述した各成分のほかに、熱ラジカル発生剤、有機微粒子、シランカップリング剤などのカップリング剤、イオントラップ剤、イオン交換剤、レベリング剤、顔料、染料、増感剤、可塑剤および消泡剤などを含んでいてもよい。
【0089】
上記熱ラジカル重合開始剤の例には、有機過酸化物、アゾ化合物、ベンゾイン類、ベンゾインエーテル類、およびアセトフェノン類などが含まれる。
【0090】
上記有機微粒子は、シール剤の塗布時の残留応力を低減させることができる。たとえば、上記有機微粒子は、共役ジエン系ゴムおよびシリコーンゴムなどを含む弾性の核部と、他の成分との相溶性を高める(メタ)アクリレート、ビニルモノマーおよびエポキシモノマーなどの重合体からなる外殻部と、を有する有機微粒子とすることができる。
【0091】
上記シランカップリング剤の例には、ビニルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、およびγ-グリシドキシプロピルトリエトキシシランなどが含まれる。
【0092】
なお、上記シール剤は、液晶表示パネルのギャップを調整するためのスペーサー等をさらに含んでいてもよい。
【0093】
2.各開示に関する液晶シール剤の説明
2-1.第1の開示
2-1―1.液晶シール剤の説明
本明細書における第1の開示は、硬化物のヤング率が低く、かつ、硬化した液晶シール剤を有する液晶表示パネルに加圧処理を施したときのザラの発生を抑制することができる液晶シール剤に関する。
【0094】
上記シール剤は、その硬化物の、23℃で測定したヤング率が0.5GPa以上3.0GPa未満であり、分子内にエポキシ基を有する熱硬化性化合物(A)と、20℃における水への溶解度が5g/100g以下の熱硬化剤(E)と、を有する。上記ヤング率は、0.5GPa以上2.0GPa以下であることが好ましく、0.5GPa以上1.5GPa以下であることがより好ましく、0.5GPa以上1.0GPa以下であることがさらに好ましい。上記範囲にあることで、上記シール剤の柔軟性をより高めて、液晶表示パネルの落下耐性を高めることができ、かつ、透湿性を低下させて、液晶表示パネルの信頼性を高めることができる。
【0095】
上記ヤング率は、具体的には、以下の方法で測定されたヤング率である。
【0096】
シール剤を、離型紙のうえにアプリケーターを用いて100μmの厚みで塗布する。その後、塗布したシール剤を窒素置換用の容器に入れて窒素パージを5分実施したのち、3000mJ/cm(波長365nmセンサーで校正した光)の光を照射し、さらに120℃で1時間加熱して、硬化フィルムを作製する。
【0097】
得られた硬化フィルムを短冊状(長さ150mm、幅10mm)にカットした後、オートグラフ引張試験機(株式会社島津製作所、AG-X)を用いて、室温(23℃)下、試験速度10mm/minで引張試験を行い弾性領域における応力と歪みの傾きからヤング率を算出する。
【0098】
上記ヤング率を有するシール剤は、様々な方法で調製することができる。たとえば、シリコーンを含有するエポキシ樹脂、ポリエチレングリコールあるいはポリプロピレングリコールを有するエポキシ樹脂、ウレタン結合を有するエポキシ樹脂、ゴム構造を有するエポキシ樹脂などを熱硬化性化合物(A)として使用し、その含有割合を調整する方法などによってシール剤に上記特性を付与することができる。あるいは、比較的長いアルキル基を有する樹脂を使用したり、分子内に芳香環を有する柔軟性化合物を使用するなどの方法によって、シール剤に上記特性を付与することができる。
【0099】
ところで、上述したように、硬化物のヤング率が低いシール剤は、硬化後の加圧処理を行う際に、シール剤の硬化物が割れにくいという特性を有する。そのため、硬化物のヤング率が上記範囲となるシール剤は、硬化後に基板を研磨して液晶表示パネルを薄膜化する等の加圧処理を施される用途に有用である。一方で、硬化後に加圧処理を施した液晶表示パネルには、シール剤から染み出した熱硬化剤による輝点が液晶中に発生(ザラが発生)してしまうことがあった。一方で、加圧処理を施さない液晶表示パネルでは、ザラは発生しない。
【0100】
本発明者らは、上記ザラは、以下の機構により発生するものと考えた。つまり、液晶表示パネルの製造時には、基板上に未硬化のシール剤と液晶によるパターンを形成し、その上に別の基板を重ね合わせ後に、シール剤を硬化させる。この工程のうち、シール剤と液晶によるパターンを形成した後、別の基板を重ね合わせる前のアイドリングタイム中に、雰囲気中の水分がわずかに液晶中に入り込むことがある。この状態で別の基板を重ね合わせて、加熱によりシール剤を硬化させると、シール剤中の熱硬化剤が液晶中に染み出してしまう。従来、疎水性である液晶中への染み出しを抑制するため、熱硬化剤としては親水性の材料を用いることがよいとされていた。しかし、親水性の熱硬化剤を用いると、加熱時に運動性が向上した熱硬化剤が、液晶中の水分に引き寄せられ、液晶中に染み出してしまう。この染み出した熱硬化剤が、加圧処理や、あるいは研磨時の振動などにより、液晶中で集合してしまい、輝点(ザラ)となってしまうと考えられる。
【0101】
上記機構のうち、液晶中の水分による熱硬化剤の引き寄せを抑制すれば、輝点(ザラ)の発生を抑制することができると考えられる。このような着想に基づき、本開示では、熱硬化剤(E)として、20℃における水への溶解度が5g/100g以下という条件を満たす、疎水性の熱硬化剤を用いる。
【0102】
熱硬化剤(E)の上記溶解度は、以下のように測定した値である。300mLのビーカーに水100gと所定量の硬化剤を入れて2時間混合撹拌させた後、目視で透明になっている状態を溶解と判断する。そして、水への熱硬化剤(E)の添加量を徐々に少なくして、熱硬化剤(E)の添加、混合攪拌および目視での判断を行っていったときの、はじめて溶解と判断された熱硬化剤(E)の濃度を、上記溶解度とする。
【0103】
また、上記液晶シール剤は、動的粘弾性測定装置(レオメータ)により貯蔵弾性率(G’)および損失弾性率(G’’)を測定しながら、25℃の上記液晶シール剤を120℃(定温)の雰囲気中に静置して加熱したときの、G’とG’’とが一致するまでの時間が、450秒以下であることが好ましく、440秒以下であることがより好ましく、430秒以下であることがさらに好ましい。G’とG’’とが一致する点は、ゲル化ポイントともいい、組成物の全体の挙動が液体性(G’’が優位)から固体性(G’が優位)へと変化する点である。そして、ゲル化ポイントを超えると、G’が急激に上昇して、組成物が急激に硬化していく。ある組成物について、加熱時にゲル化ポイントに達するまでの時間が短いほど、当該組成物は当該加熱温度で硬化しやすいことを示す。
【0104】
本開示においては、120℃という低温で加熱したときにゲル化ポイントに達するまでの時間が短いほど、液晶シール剤は低温硬化性に優れることを意味する。上述したように、本開示で使用する疎水性の熱硬化剤は、輝点(ザラ)の発生を抑制するが、一方で硬化時(加熱時)に疎水性の液晶分子との親和性が高いため、従来知られていたように液晶への染み出しが生じやすい。特に、基板の選択可能性を増やすために液晶シール剤を低温で硬化可能なものにしようとする際には、低温で長時間の加熱を行って液晶シール剤を硬化させることが多い。この長時間の加熱により、熱硬化剤の過剰な染み出しを抑制するため、液晶シール剤を低温でも短時間で硬化可能とすることが好ましい。
【0105】
上記ゲル化ポイントに達するまでの時間が短い液晶シール剤は、様々な方法で調製することができる。たとえば、熱硬化剤(E)として後述するものを選択したり、多官能のエポキシ樹脂を使用したり、熱ラジカル発生剤を添加したりする等の方法によって、ゲル化ポイントに達するまでの時間を上記範囲にまで短くすることができる。
【0106】
また、上記シール剤は、厚さ0.6mmの硬化物の60℃、90%Rhの環境下における透湿量が50g/m未満であることが好ましい。
【0107】
上記透湿量は、具体的には、以下の方法で測定された透湿量である。
【0108】
シール剤を、離型紙のうえにアプリケーターを用いて300μmの厚みで塗布する。その後、塗布したシール剤を窒素置換用の容器に入れて窒素パージを5分実施したのち、3000mJ/cm(波長365nmセンサーで校正した光)の光を照射し、さらに120℃で1時間加熱して、硬化フィルムを作製する。
【0109】
吸湿剤として塩化カルシウム(無水)を封入したアルミカップに硬化フィルムを2枚乗せ、さらにアルミリングを乗せてねじ締をしたのち、アルミカップ全体の初期の重量を計測する。その後、60℃90%Rhに設定した恒温槽にアルミカップを入れて、24時間経過した後、アルミカップを取り出して重量を計測した。得られた重量値を、以下の計算式に代入して、透湿量を算出する。
計算式:
透湿量=(試験後重量-試験前重量)×フィルム厚み/(フィルム面積×100)
【0110】
上記透湿量を有するシール剤は、様々な方法で調製することができる。たとえば、分子内に芳香環を有する柔軟性化合物を使用したり、丸まった構造を安定構造とする化合物を使用したりするなどの方法によって、シール剤に上記特性を付与することができる。
【0111】
以下、上記特性を有するシール剤の一例をより具体的に説明する。上記シール剤は、硬化性樹脂と、上記硬化性樹脂を硬化させる光重合開始剤または熱硬化剤と、無機充填材などのその他の物質と、を含むことが好ましい。
【0112】
上記シール剤の、E型粘度計の25℃、2.5rpmにおける粘度は、200Pa・s以上450Pa・s以下であることが好ましく、300Pa・s以上400Pa・s以下であることがより好ましい。粘度が上記範囲にあると、ディスペンサーによるシール剤の塗布性が良好となる。
【0113】
2-1―2.第1の開示に用いる材料の組み合わせ等
第1の開示に関する液晶シール剤には、熱硬化剤(E)として20℃における水への溶解度が5g/100g以下の熱硬化剤を用いるほか、上述した分子内に2個以上のエポキシ基を有する熱硬化性化合物(A)、特定の硬化性化合物(B)、その他の硬化性化合物(C)、部分エポキシ(メタ)アクリレート(D)、光重合開始剤(F)、無機充填材(G)、およびその他の材料を広く使用することができる。その際に、硬化物の23℃で測定したヤング率が0.5GPa以上3.0GPa未満となるように、樹脂の種類を適宜選択する等すればよい。
【0114】
熱硬化性化合物(A)は、液晶シール剤の各種物性を調整することができる。たとえば、上述したように、シリコーンを含有するエポキシ樹脂、ポリエチレングリコールあるいはポリプロピレングリコールを有するエポキシ樹脂、ウレタン結合を有するエポキシ樹脂、ゴム構造を有するエポキシ樹脂などを熱硬化性化合物(A)として用いることで、硬化物のヤング率を低下させることができる。
【0115】
熱硬化性化合物(A)の含有量は、硬化性樹脂の全質量を100質量部としたときに、3質量部以上30質量部以下となる量であることが好ましい。熱硬化性化合物(A)の上記含有量が3質量部以上であると、硬化物の透湿性をより低下させ、かつ得られる液晶パネルの表示特性をより良好にすることができる。熱硬化性化合物(A)の上記含有量が30質量部以下であると、硬化物の柔軟性をより十分に高めて(ヤング率をより十分に低くして)落下耐性を高めることができる。上記観点から、熱硬化性化合物(A)の上記含有量は、10質量部以上30質量部以下であることが好ましく、10質量部以上25質量部以下であることがより好ましい。
【0116】
特定の硬化性化合物(B)は、液晶シール剤の硬化物をより伸縮させやすくする。これにより、液晶パネルの落下などによる衝撃への耐性を高めるほか、シール剤の硬化物を含む液晶表示パネルに加圧処理を施したとき等の、シール剤の硬化物の割れを抑制しやすくする。特に、特定の硬化性化合物(B)として一般式(2)で示される硬化性化合物を用いると、硬化物を伸縮しやすくする効果が顕著である。
【0117】
特定の硬化性化合物(B)の含有量は、硬化性樹脂の全質量を100質量部としたときに、40質量部以上90質量部以下となる量であることが好ましい。特定の硬化性化合物(B)の上記含有量が40質量部以上であると、柔軟性をより十分に高めて(ヤング率をより十分に低くして)、液晶パネルの落下などによる衝撃への耐性をより高めたり、液晶表示パネルに加圧処理を施したとき等の、シール剤の硬化物の割れをより抑制したりすることができる。特定の硬化性化合物(B)の上記含有量が90質量部以下であると、硬化物の耐湿度をより高め、かつ液晶パネルの表示特性をより高めることができる。上記観点から、特定の硬化性化合物(B)の上記含有量は、50質量部以上80質量部以下であることが好ましい。
【0118】
その他の硬化性化合物(C)は、たとえば光硬化性化合物を用いて液晶シール剤に光硬化性を付与するために用いることができる。また、その他の硬化性化合物(C)の選択によって、液晶シール剤の各種物性を調整することもできる。
【0119】
その他の硬化性化合物(C)の含有量は、硬化性樹脂の全質量を100質量部としたときに、0質量部以上50質量部未満となる量であることが好ましく、5質量部以上40質量部以下となる量であることがより好ましい。
【0120】
なお、本発明者らの新たな知見によると、1分子内に(メタ)アクリロイル基を1つ含む硬化性化合物は、液晶に溶出しやすく、液晶の汚染を生じさせやすい。そのため、液晶の汚染を抑制する観点からは、1分子内に(メタ)アクリロイル基を1つ含む硬化性化合物の含有量は、硬化性樹脂の全質量を100質量部としたときに、10質量部未満となる量であることが好ましく、5質量部以下となる量であることがより好ましく、1質量部以下となる量であることがさらに好ましく、0.1質量部以下となる量であることが特に好ましい。1分子内に(メタ)アクリロイル基を1つ含む硬化性化合物の上記含有量の下限は、0質量部とすることができる。
【0121】
部分エポキシ(メタ)アクリレート(D)は、シール剤の硬化物の、基板への接着性を高めることができる。
【0122】
なお、部分エポキシ(メタ)アクリレート(D)は、硬化物の接着性を高めることができるが、一方で硬化物の柔軟性を向上させにくい。そのため、硬化物の柔軟性をより高める観点からは、部分エポキシ(メタ)アクリレート(D)の含有量はより少ないことが好ましい。上記観点から、部分エポキシ(メタ)アクリレート(D)の含有量は、硬化性樹脂の全質量を100質量部としたときに、10質量部未満となる量であることが好ましく、5質量部以下となる量であることがより好ましく、1質量部以下となる量であることがさらに好ましく、0.1質量部以下となる量であることが特に好ましい。部分エポキシ(メタ)アクリレート(D)の上記含有量の下限は、0質量部とすることができる。
【0123】
熱硬化剤(E)は、20℃における水への溶解度が、5g/100g以下である、親水性の熱硬化剤である。熱硬化剤(E)の上記溶解度が5g/100g以下であることで、加熱硬化時における液晶中の水分による熱硬化剤の引き寄せを抑制して、輝点(ザラ)の発生を抑制することができる。上記観点から、上記溶解度は、3g/100g以下であることがより好ましく、1g/100g未満であることがさらに好ましい。上記溶解度の下限値は特に限定されないが、3g/100g以上とすることができる。
【0124】
上記親水性の熱硬化剤(E)は、イミダゾール系熱潜在性硬化剤、アミンアダクト系熱潜在性硬化剤、またはポリアミン系熱潜在性硬化剤であることが好ましい。これらの熱硬化剤は、液晶に染み出しにくく、輝点(ザラ)の発生をより効果的に抑制できると考えられる。輝点(ザラ)の発生をより効果的に抑制する観点から、上記親水性の熱硬化剤(E)は、ポリアミン系熱潜在性硬化剤であることが好ましい。
【0125】
上記親水性の熱硬化剤(E)は、熱硬化性樹脂組成物の粘度安定性を高め、かつ硬化物の耐湿性を損なわない観点から、融点が50℃以上250℃以下であることが好ましく、融点は70℃以上150℃以下がより好ましく、80℃以上120℃以下がさらに好ましい。
【0126】
イミダゾール系熱潜在性硬化剤の例には、2-フェニルイミダゾール(融点137~147℃)などが含まれる。また、イミダゾール系熱潜在性硬化剤の市販品の例には、四国化成工業株式会社製 2P4MHZ-PWなどが含まれる。
【0127】
アミンアダクト系熱潜在性硬化剤は、触媒活性を有するアミン系化合物と任意の化合物とを反応させて得られる付加化合物からなる熱潜在性硬化剤である。アミンアダクト系熱潜在性硬化剤の例には、味の素ファインテクノ株式会社製 アミキュアPN-40(融点110℃)、味の素ファインテクノ株式会社製 アミキュアPN-50(融点120℃)、味の素ファインテクノ株式会社製 アミキュアPN-23(融点100℃)、味の素ファインテクノ株式会社製 アミキュアPN-31(融点115℃)、味の素ファインテクノ株式会社製 アミキュアPN-H(融点115℃)、味の素ファインテクノ株式会社製 アミキュアMY-24(融点120℃)、および味の素ファインテクノ株式会社製 アミキュアMY-H(融点131℃)などが含まれる。
【0128】
ポリアミン系熱潜在性硬化剤は、アミンとエポキシとを反応させて得られるポリマー構造を有する熱潜在性硬化剤であり、その例には、株式会社ADEKA製 アデカハードナーEH4339S(軟化点120~130℃)、および株式会社ADEKA社製 アデカハードナーEH4357S(軟化点73~83℃)などが含まれる。
【0129】
上記親水性の熱硬化剤(E)の含有量は、熱硬化性化合物(A)の全質量を100質量部としたとき、10質量部以上200質量部以下となる量であることが好ましく、50質量部以上160質量部以下となる量であることがより好ましく、70質量部以上120質量部以下となる量であることがさらに好ましい。熱硬化剤(E)の上記含有量が10質量部以上であると、熱硬化性化合物(A)の硬化性を高めやすい。上記親水性の熱硬化剤(E)の上記含有量が200質量部以下であると、上記親水性の熱硬化剤(E)が液晶に染み出すことによる輝点(ザラ)の発生をより抑制しやすい。
【0130】
光重合開始剤(F)は、特定の硬化性化合物(B)、その他の硬化性化合物(C))、部分エポキシ(メタ)アクリレート(D)などの光硬化性成分などの硬化(重合)を開始させることができる。
【0131】
光重合開始剤(F)の含有量は、光硬化性の化合物(たとえば上述の部分エポキシ(メタ)アクリレート(D)、特定の硬化性化合物(B)およびその他の硬化性化合物(C)の全質量を100質量部としたとき、0.01質量部以上10質量部以下となる量であることが好ましい。光重合開始剤(F)の上記含有量が、0.01質量部以上であると、シール剤の硬化性を高めやすい。光重合開始剤(F)の上記含有量が10質量部以下であると、光重合開始剤(F)が液晶に溶出することによる液晶の汚染をより抑制しやすい。光重合開始剤(F)の上記含有量は、0.1質量部以上5質量部以下であることがより好ましく、0.1質量部以上3質量部以下であることがさらに好ましく、0.1質量部以上2.5質量部以下であることが特に好ましい。
【0132】
無機充填材(G)は、硬化物に所定の硬度や線膨張性を付与するほか、硬化物の内部を通しての水分等の透過を抑制し、硬化物の透湿性をより低下させることができる。
【0133】
無機充填材(G)の含有量は、硬化性樹脂の全質量を100質量部としたときに、10質量部以上60質量部以下となる量であることが好ましく、20質量部以上55質量部以下となる量であることがより好ましく、20質量部以上50質量部以下となる量であることがさらに好ましく、20質量部以上30質量部以下となる量であることが特に好ましい。無機充填材(G)の上記含有量が多いほど硬化物の透湿性を低下させることができる。一方で、無機充填材(G)の上記含有量を多くしすぎないことで、液晶表示パネルの落下などの衝撃に対する耐性を十分に担保するとともに、シール剤の漏れ出しなどを抑制し、塗布性を向上させることができる。これらのバランスをとる観点から、無機充填材(G)の含有量は上記範囲とすることが好ましい。
【0134】
本開示における液晶シール剤は、上述した熱ラジカル発生剤、有機微粒子、シランカップリング剤などのカップリング剤、イオントラップ剤、イオン交換剤、レベリング剤、顔料、染料、増感剤、可塑剤および消泡剤などを含んでいてもよい。
【0135】
上記熱ラジカル重合開始剤の含有量は、シール剤の全質量を100重量部としたときに0.01質量部以上5.0重量部以下となる量であることが好ましい。熱ラジカル重合開始剤の上記含有量を0.01質量部以上とすることで、シール剤の熱硬化性をより高めることができる。熱ラジカル重合開始剤の上記含有量を5.0質量部以上とすることで、シール剤のディスペンス安定性をより高めることができる。
【0136】
上記有機微粒子の含有量は、シール剤の全質量を100重量部としたときに5質量部以上17質量部以下となる量であることが好ましい。有機微粒子の上記含有量が5質量部以上であると、硬化物と基板との接着強度をより高めることができる。一方、有機微粒子の上記含有量が17質量部以下であると、他の成分(たとえば硬化性樹脂)の量が十分に多くなり、硬化物の強度をより高めることができる。
【0137】
上記シランカップリング剤の含有量は、シール剤の全質量を100重量部としたときに0.01質量部以上5質量部以下となる量であることが好ましい。シランカップリング剤の上記含有量が0.01質量部以上であると、硬化物と基板との接着強度をより高めることができる。
【0138】
上記その他の成分の合計量は、シール剤の全質量を100質量部としたときに0.1質量部以上50質量部以下となる量であることが好ましい。その他の成分の合計量が50質量部以下であると、シール剤の粘度が過度に上昇しにくく、シール剤の塗工安定性が損なわれにくい。
【0139】
2-1―3.第1の開示のまとめ
上述した第1の開示によれば、たとえば以下の液晶シール剤が提供される。
【0140】
[1]硬化物の、23℃で測定したヤング率が0.5GPa以上3.0GPa未満であり、
分子内にエポキシ基を有する熱硬化性化合物(A)と、
熱硬化剤(E)と、を含み、 前記熱硬化剤(E)は、20℃における水への溶解度が5g/100g以下の熱硬化剤である、
液晶シール剤。
【0141】
[2]前記熱硬化剤(E)は、イミダゾール系熱潜在性硬化剤、アミンアダクト系熱潜在性硬化剤、およびポリアミン系熱潜在性硬化剤からなる群より選ばれる少なくとも一種の熱硬化剤である、
[1]に記載の液晶シール剤。
【0142】
[3]動的粘弾性測定装置(レオメータ)により貯蔵弾性率(G’)および損失弾性率(G’’)を測定しながら、25℃の上記液晶シール剤を120℃で加熱したときの、G’とG’’とが一致するまでの時間が、450秒以下である、[1]または[2]に記載の液晶シール剤。
【0143】
[4]特性比が4.70以下、Tgが250℃以上340℃以下、かつ重量平均分子量(Mw)が1000以上である硬化性化合物(B)を含む、[1]~[3]のいずれかに記載の液晶シール剤。
【0144】
[5]前記硬化性化合物(B)は、一般式(2)で表される化合物である、[4]に記載の液晶シール剤。
【化4】
・・・一般式(2)
(一般式(2)中、Rは多価エポキシ化合物に由来する2価の残基を示し、Rは独立して環状ラクトンを開環させて得られる2価の構造を示し、Rは独立して炭素数1以上6以下の直鎖状または分岐鎖を有するアルキレン基を示し、Rは独立して水素原子またはメチル基を示す。)
【0145】
[6]硬化性樹脂100質量部に対する、前記硬化性化合物(B)の含有量が40質量部以上90質量部以下である、[4]または[5]に記載の液晶シール剤。
【0146】
[7]硬化性樹脂および無機充填剤(G)を有し、
前記硬化性樹脂100質量部に対する、前記無機充填剤(G)の含有量は、20質量部以上55質量部以下である、
[1]~[6]のいずれかに記載の液晶シール剤。
【0147】
[8]厚さ0.6mmの硬化物の60℃、90%Rhの環境下における透湿量が50g/m未満である、[1]~[7]のいずれかに記載の液晶シール剤。
【0148】
2-2.第2の開示
2-2-1第2の開示に関する課題
ところで、特許文献1~特許文献5に記載のように、落下などによる衝撃への耐性を高めるため、硬化後の柔軟性を高めたシール剤が種々研究されている。ここで、液晶表示パネルの種類によっては、シール剤にはより小さい曲率の曲げに対応できるように、柔軟性をさらに高めることが要求されている。一方で、本発明者らの新たな知見によると、シール剤の硬化後の柔軟性(伸び率)を高めると、透湿性が高まり、液晶の長期信頼性を低下させることがある。
【0149】
本明細書の第2の開示は、上記課題に鑑みてなされたものであり、硬化物が高い柔軟性および低い透湿性を有する液晶シール剤、当該液晶シール剤を用いた液晶表示パネルの製造方法、および当該液晶シール剤を用いて製造された液晶表示パネルを提供することをその目的とする。
【0150】
2-2―2.液晶シール剤の説明
本明細書における第2の開示は、硬化物が高い柔軟性および低い透湿性を有する液晶シール剤に関する。
【0151】
上記シール剤は、その硬化物の、23℃で測定した伸び率が30%以上であり、かつ、その厚さ0.6mmの硬化物の60℃、90Rh環境下における透湿量が50g/m未満である。
【0152】
上記伸び率は、具体的には、以下の方法で測定された伸び率である。
【0153】
シール剤を、離型紙のうえにアプリケーターを用いて100μmの厚みで塗布する。その後、塗布したシール剤を窒素置換用の容器に入れて窒素パージを5分実施したのち、3000mJ/cm(波長365nmセンサーで校正した光)の光を照射し、さらに120℃で1時間加熱して、硬化フィルムを作製する。
【0154】
得られた硬化フィルムを短冊状(長さ150mm、幅10mm)にカットした後、オートグラフ引張試験機(株式会社島津製作所、AG-X)を用いて、室温(23℃)下、試験速度10mm/minで引張試験を行い、降伏点から応力が80%以上低下した際の距離から伸び率を算出する。
【0155】
上記透湿量は、具体的には、以下の方法で測定された伸び率である。
【0156】
シール剤を、離型紙のうえにアプリケーターを用いて300μmの厚みで塗布する。その後、塗布したシール剤を窒素置換用の容器に入れて窒素パージを5分実施したのち、3000mJ/cm(波長365nmセンサーで校正した光)の光を照射し、さらに120℃で1時間加熱して、硬化フィルムを作製する。
【0157】
吸湿剤として塩化カルシウム(無水)を封入したアルミカップに硬化フィルムを2枚乗せ、さらにアルミリングを乗せてねじ締をしたのち、アルミカップ全体の初期の重量を計測する。その後、60℃90%Rhに設定した恒温槽にアルミカップを入れて、24時間経過した後、アルミカップを取り出して重量を計測した。得られた重量値を、以下の計算式に代入して、透湿量を算出する。
計算式:
透湿量=(試験後重量-試験前重量)×フィルム厚み/(フィルム面積×100)
【0158】
上記特性を有するシール剤は、様々な方法で調製することができる。たとえば、分子内に芳香環を有する柔軟性化合物を使用したり、上述した特定の硬化性化合物(B)を使用したりするなどの方法によって、シール剤に上記特性を付与することができる。
【0159】
2-2―3.第2の開示に用いる材料の組み合わせ等
第2の開示に関する液晶シール剤には、上述した分子内に2個以上のエポキシ基を有する熱硬化性化合物(A)、特定の硬化性化合物(B)、その他の硬化性化合物(C)、部分エポキシ(メタ)アクリレート(D)、熱硬化剤(E)、光重合開始剤(F)、無機充填材(G)、およびその他の材料を広く使用することができる。その際に、その硬化物の、23℃で測定した伸び率が30%以上となり、かつ、その厚さ0.6mmの硬化物の60℃、90Rh環境下における透湿量が50g/m未満となるように、樹脂の種類を適宜選択する等すればよい。
【0160】
熱硬化性化合物(A)は、液晶シール剤の各種物性を調整することができる。
【0161】
熱硬化性化合物(A)の含有量は、硬化性樹脂の全質量を100質量部としたときに、3質量部以上30質量部以下となる量であることが好ましい。熱硬化性化合物(A)の上記含有量が3質量部以上であると、硬化物の透湿性をより低下させ、かつ得られる液晶パネルの表示特性をより良好にすることができる。熱硬化性化合物(A)の上記含有量が30質量部以下であると、硬化物の伸び性および屈曲性をより十分に高めることができる。上記観点から、熱硬化性化合物(A)の上記含有量は、10質量部以上30質量部以下であることが好ましく、10質量部以上25質量部以下であることがより好ましい。
【0162】
特定の硬化性化合物(B)は、シール剤の伸縮に応じて分子が丸まった状態と伸びた状態とを取って、シール剤の伸縮をより容易にし、硬化物の伸び性を高め、かつ硬化物の屈曲性を高めてより小さい曲率に基板を曲げたときにも硬化物の剥離や変形を生じにくくすることができる。特に、特定の硬化性化合物(B)として一般式(2)で示される硬化性化合物を用いると、硬化物を伸縮しやすくする効果が顕著である。
【0163】
特定の硬化性化合物(B)の含有量は、硬化性樹脂の全質量を100質量部としたときに、40質量部以上90質量部以下となる量であることが好ましい。特定の硬化性化合物(B)の上記含有量が40質量部以上であると、硬化物の伸び性および屈曲性をより十分に高めることができる。特定の硬化性化合物(B)の上記含有量が90質量部以下であると、硬化物の耐湿度をより高め、かつ液晶パネルの表示特性をより高めることができる。上記観点から、特定の硬化性化合物(B)の上記含有量は、50質量部以上80質量部以下であることがより好ましい。
【0164】
その他の硬化性化合物(C)は、たとえば光硬化性化合物を用いて液晶シール剤に光硬化性を付与するために用いることができる。また、その他の硬化性化合物(C)の選択によって、液晶シール剤の各種物性を調整することもできる。
【0165】
その他の硬化性化合物(C)の含有量は、硬化性樹脂の全質量を100質量部としたときに、0質量部以上50質量部未満となる量であることが好ましく、5質量部以上40質量部以下となる量であることがより好ましい。
【0166】
なお、本発明者らの新たな知見によると、1分子内に(メタ)アクリロイル基を1つ含む硬化性化合物は、液晶に溶出しやすく、液晶の汚染を生じさせやすい。そのため、液晶の汚染を抑制する観点からは、1分子内に(メタ)アクリロイル基を1つ含む硬化性化合物の含有量は、硬化性樹脂の全質量を100質量部としたときに、10質量部未満となる量であることが好ましく、5質量部以下となる量であることがより好ましく、1質量部以下となる量であることがさらに好ましく、0.1質量部以下となる量であることが特に好ましい。1分子内に(メタ)アクリロイル基を1つ含む硬化性化合物の上記含有量の下限は、0質量部とすることができる。
【0167】
部分エポキシ(メタ)アクリレート(D)は、シール剤の硬化物の、基板への接着性を高めることができる。
【0168】
なお、部分エポキシ(メタ)アクリレート(D)は、硬化物の接着性を高めることができるが、一方で硬化物の柔軟性を向上させにくい。そのため、硬化物の柔軟性をより高める観点からは、部分エポキシ(メタ)アクリレート(D)の含有量はより少ないことが好ましい。上記観点から、部分エポキシ(メタ)アクリレート(D)の含有量は、硬化性樹脂の全質量を100質量部としたときに、10質量部未満となる量であることが好ましく、5質量部以下となる量であることがより好ましく、1質量部以下となる量であることがさらに好ましく、0.1質量部以下となる量であることが特に好ましい。部分エポキシ(メタ)アクリレート(D)の上記含有量の下限は、0質量部とすることができる。
【0169】
熱硬化剤(E)は、熱硬化性化合物(A)、その他の硬化性化合物(C)、部分エポキシ(メタ)アクリレート(D)などの熱硬化性成分を硬化させることができる。
【0170】
熱硬化剤(E)の含有量は、熱硬化性化合物(A)の全質量を100質量部としたとき、3質量部以上75質量部以下となる量であることが好ましく、3質量部以上50質量部以下となる量であることがより好ましく、5質量部以上40質量部以下となる量であることがさらに好ましい。熱硬化剤(E)の上記含有量が3質量部以上であると、熱硬化性化合物(A)の硬化性を高めやすい。熱硬化剤(E)の上記含有量が75質量部以下であると、熱硬化剤(E)が液晶に溶出することによる液晶の汚染をより抑制しやすい。
【0171】
なお、本開示においても、20℃における水への溶解度が5g/100g以下という条件を満たす、疎水性の熱硬化剤を用いることで、基板への加圧処理による輝点(ザラ)の発生を抑制できることは、第1の開示と同様である。また、その際に、加熱硬化時の熱硬化剤(E)の液晶への染み出しを抑制する観点から、25の上記液晶シール剤を120℃で加熱したときの、G’とG’’とが一致するまでの時間が、450秒以下であることが好ましく、440秒以下であることがより好ましく、430秒以下であることがさらに好ましいことも。第1の開示と同様である。
【0172】
光重合開始剤(F)は、特定の硬化性化合物(B)、その他の硬化性化合物(C))、部分エポキシ(メタ)アクリレート(D)などの光硬化性成分などの硬化(重合)を開始させることができる。
【0173】
光重合開始剤(F)の量は、光硬化性の化合物(たとえば上述の部分エポキシ(メタ)アクリレート(D)、特定の硬化性化合物(B)およびその他の硬化性化合物(C)の全質量を100質量部としたとき、0.01質量部以上10質量部以下となる量であることが好ましい。光重合開始剤(F)の上記含有量が、0.01質量部以上であると、シール剤の硬化性を高めやすい。光重合開始剤(F)の上記含有量が10質量部以下であると、光重合開始剤(F)が液晶に溶出することによる液晶の汚染をより抑制しやすい。光重合開始剤(F)の上記含有量は、0.1質量部以上5質量部以下であることがより好ましく、0.1質量部以上3質量部以下であることがさらに好ましく、0.1質量部以上2.5質量部以下であることが特に好ましい。
【0174】
無機充填材(G)は、硬化物に所定の硬度や線膨張性を付与するほか、硬化物の内部を通しての水分等の透過を抑制し、硬化物の透湿性をより低下させることができる。
【0175】
無機充填材(G)の含有量は、硬化性樹脂の全質量を100質量部としたときに、30質量部以上500質量部以下となる量であることが好ましく、50質量部以上250質量部以下となる量であることがより好ましく、70質量部以上200質量部以下となる量であることがさらに好ましく、100質量部以上200質量部以下となる量であることが特に好ましい。無機充填材(G)の上記含有量が多いほど硬化物の透湿性を低下させることができる。一方で、無機充填材(G)の上記含有量を多くしすぎないことで、硬化物の伸び性および屈曲性をより十分に担保することができる。これらのバランスをとる観点から、無機充填材(G)の含有量は上記範囲とすることが好ましい。
【0176】
本開示における液晶シール剤は、上述した熱ラジカル発生剤、有機微粒子、シランカップリング剤などのカップリング剤、イオントラップ剤、イオン交換剤、レベリング剤、顔料、染料、増感剤、可塑剤および消泡剤などを含んでいてもよい。
【0177】
上記熱ラジカル重合開始剤の含有量は、シール剤の全質量を100重量部としたときに0.01質量部以上5.0重量部以下となる量であることが好ましい。熱ラジカル重合開始剤の上記含有量を0.01質量部以上とすることで、シール剤の熱硬化性をより高めることができる。熱ラジカル重合開始剤の上記含有量を5.0質量部以上とすることで、シール剤のディスペンス安定性をより高めることができる。
【0178】
上記有機微粒子の含有量は、シール剤の全質量を100重量部としたときに5質量部以上17質量部以下となる量であることが好ましい。有機微粒子の上記含有量が5質量部以上であると、硬化物と基板との接着強度をより高めることができる。一方、有機微粒子の上記含有量が17質量部以下であると、他の成分(たとえば硬化性樹脂)の量が十分に多くなり、硬化物の強度をより高めることができる。
【0179】
上記シランカップリング剤の含有量は、シール剤の全質量を100重量部としたときに0.01質量部以上5質量部以下となる量であることが好ましい。シランカップリング剤の上記含有量が0.01質量部以上であると、硬化物と基板との接着強度をより高めることができる。
【0180】
その他の成分の合計量は、シール剤の全質量を100質量部としたときに0.1質量部以上50質量部以下となる量であることが好ましい。その他の成分の合計量が50質量部以下であると、シール剤の粘度が過度に上昇しにくく、シール剤の塗工安定性が損なわれにくい。
【0181】
2-2―4.第2の開示のまとめ
上述した第2の開示によれば、たとえば以下の液晶シール剤が提供される。
【0182】
[1]硬化物の23℃で測定した伸び率が30%以上であり、かつ、
厚さ0.6mmの硬化物の60℃、90Rh環境下における透湿量が50g/m未満である、
液晶シール剤。
【0183】
[2]硬化性樹脂を含み、
前記硬化性樹脂100質量部に対する、部分エポキシ(メタ)アクリレート(A)の含有量が10質量部以下である、[1]に記載の液晶シール剤。
【0184】
[3]特性比が4.70以下、Tgが250℃以上340℃以下、かつ重量平均分子量(Mw)が1000以上である硬化性化合物(B)を含む、[1]または[2]に記載の液晶シール剤。
【0185】
[4]前記硬化性化合物(B)は、一般式(2)で表される化合物である、[3]に記載の液晶シール剤。
【化5】
・・・一般式(1)
(一般式(1)中、Rは多価エポキシ化合物に由来する2価の残基を示し、Rは独立して環状ラクトンを開環させて得られる2価の構造を示し、Rは独立して炭素数1以上6以下の直鎖状または分岐鎖を有するアルキレン基を示し、Rは独立して水素原子またはメチル基を示す。)
【0186】
[5]硬化性樹脂を含み、
前記硬化性樹脂100質量部に対する、一般式(1)で示される硬化性化合物(B)の含有量が40質量部以上90質量部以下である、[4]に記載の液晶シール剤。
【0187】
[6]分子内にエポキシ基を有する熱硬化性化合物(部分エポキシ(メタ)アクリレートを除く)(A)および熱硬化剤(E)を含む、[1]~[5]のいずれかに記載の液晶シール剤。
【0188】
[7]前記熱硬化剤(E)は、ジヒドラジド系熱潜在性硬化剤、イミダゾール系熱潜在性硬化剤、アミンアダクト系熱潜在性硬化剤、およびポリアミン系熱潜在性硬化剤からなる群から選択される少なくとも1種の熱硬化剤である、[6]に記載の液晶シール剤。
【0189】
[8]前記熱硬化性化合物(A)は、分子内にビスフェノールF骨格を有する熱硬化性化合物である、[6]または[7]に記載の液晶シール剤。
【0190】
[9]硬化性樹脂および無機充填材(G)を含み、
前記硬化性樹脂100質量部に対する、無機充填材(G)の含有量が50質量部以上250質量部以下である、[1]~[8]のいずれかに記載の液晶シール剤。
【0191】
3.液晶表示パネルおよびその製造方法
本発明の他の実施形態は、それぞれ配向膜を有する一対の基板(表示基板および対向基板)と、当該一対の基板の配向膜どうしの間に配置された枠状のシール部材と、一対の基板の間の前記シール部材で囲まれた空間に充填された液晶層と、を含む、液晶表示パネルに関する。上記液晶表示パネルは、上記シール部材が、上述の各開示に関するシール剤(液晶シール剤)の硬化物である。
【0192】
表示基板および対向基板は、いずれも透明基板である。透明基板の材質は、ガラス等の無機材料であってもよく、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルサルフォンおよびPMMA等のプラスチックであってもよい。
【0193】
表示基板または対向基板の表面には、マトリックス状のTFT、カラーフィルタ、ブラックマトリクス等が配置されていてもよい。表示基板または対向基板の表面には、さらに配向膜が配置されている。配向膜には、公知の有機配向剤や無機配向剤が含まれる。
【0194】
液晶表示パネルは、本発明の液晶シール剤を用いて製造される。液晶表示パネルの製造方法には、一般に、液晶滴下工法と、液晶注入工法とがあるが、本発明の液晶表示パネルは、液晶滴下工法で製造されることが好ましい。
【0195】
液晶滴下工法による液晶表示パネルの製造方法は、
1)それぞれ配向膜を有する一対の基板の、一方の基板の配向膜上に、上述の液晶シール剤を塗布し、シールパターンを形成する工程と、
2)シールパターンが未硬化の状態において、一方の基板上、かつシールパターンで囲まれた領域内、または他方の基板上に、液晶を滴下する工程と、
3)一方の基板および他方の基板を、シールパターンを介して重ね合わせる工程と、
4)シールパターンを硬化させる工程とを含む。
【0196】
2)の工程において、シールパターンが未硬化の状態とは、液晶シール剤の硬化反応がゲル化点までは進行していない状態を意味する。このため、2)の工程では、液晶シール剤の液晶への溶解を抑制するために、シールパターンを光照射または加熱して半硬化させてもよい。一方の基板及び他方の基板は、それぞれ表示基板または対向基板である。
【0197】
4)の工程では、光照射による硬化と、その後の、加熱による硬化を行ってもよい。光照射による硬化を行うことで、液晶シール剤を短時間で硬化させることができるので、液晶への溶解を抑制できる。光照射による硬化と加熱による硬化とを組み合わせることで、光照射による硬化のみの場合と比べて光による液晶層へのダメージを少なくすることができる。
【0198】
照射する光は、上述のシール剤中の光重合開始剤(F)の種類に応じて適宜選択されるが、可視光領域の光が好ましく、例えば波長370nm以上450nm以下の光であることが好ましい。上記波長の光は、液晶材料や駆動電極に与えるダメージが比較的少ないからである。光の照射は、紫外線や可視光を発する公知の光源を使用できる。可視光を照射する場合、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプ、蛍光灯等を使用できる。
【0199】
光照射エネルギーは、特定の硬化性化合物(B)が硬化可能なエネルギーであればよい。光硬化時間は、液晶シール剤の組成にもよるが、例えば10分程度である。
【0200】
熱硬化温度は、シール剤の組成にもよるが、例えば120℃であり、熱硬化時間は2時間程度であり、たとえば第1の開示等で低温硬化性を高めたときには、50分から1.5時間程度とすることができる。
【0201】
また、4)の工程の後には、5)基板に加圧処理を施す工程を有してもよい。上記加圧処理は、たとえば研磨により基盤を薄くする処理とすることができる。加圧処理の条件は特に限定されないが、たとえば荷重80Nで7分間を5セットとすることができる。
【実施例
【0202】
本発明を実施例に基づき詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0203】
[実施例で用いた材料]
1.特定の硬化性化合物(B)の合成
<合成例1:硬化性化合物(B-1)>
(BisA型アクリル樹脂)
反応フラスコにヒドロキシエチルアクリレート116g、重合禁止剤としてp-メトキシフェノール0.2g、無水フタル酸148gならびにε-カプロラクトン342gをフラスコ内に仕込み、乾燥空気を送り込んで90℃で還流撹拌しながら6時間反応させた。続いてビスフェノールAジグリシジルエーテル170gを加え、同様に90℃で還流撹拌しながら6時間反応させた。得られた化合物を超純水にて20回洗浄し、硬化性化合物B-1を得た。
【0204】
<合成例2:硬化性化合物(B-2)>
(BisA型メタクリル樹脂)
反応フラスコにヒドロキシエチルメタクリレート130g、重合禁止剤としてp-メトキシフェノール0.2g、無水フタル酸148gならびにε-カプロラクトン342gをフラスコ内に仕込み、乾燥空気を送り込んで90℃で還流撹拌しながら6時間反応させた。続いてビスフェノールAジグリシジルエーテル170gを加え、同様に90℃で還流撹拌しながら6時間反応させた。得られた化合物を超純水にて20回洗浄し、硬化性化合物B-2を得た。
【0205】
<合成例3:硬化性化合物(B-3)>
(BisF型アクリル樹脂)
反応フラスコにヒドロキシエチルアクリレート116g、重合禁止剤としてp-メトキシフェノール0.2g、無水フタル酸148gならびにε-カプロラクトン342gをフラスコ内に仕込み、乾燥空気を送り込んで90℃で還流撹拌しながら6時間反応させた。続いてビスフェノールFジグリシジルエーテル156gを加え、同様に90℃で還流撹拌しながら6時間反応させた。得られた化合物を超純水にて20回洗浄し、硬化性化合物B-3を得た。
【0206】
<合成例4:硬化性化合物(B-4)>
(BisF型メタクリル樹脂)
反応フラスコにヒドロキシエチルメタクリレート130g、重合禁止剤としてp-メトキシフェノール0.2g、無水フタル酸148gならびにε-カプロラクトン342gをフラスコ内に仕込み、乾燥空気を送り込んで90℃で還流撹拌しながら6時間反応させた。続いてビスフェノールFジグリシジルエーテル156gを加え、同様に90℃で還流撹拌しながら6時間反応させた。得られた化合物を超純水にて20回洗浄し、硬化性化合物B-4を得た。
【0207】
2.他の材料の準備
その他の材料として、以下の材料を用いた。
【0208】
2-1.硬化性樹脂
2-1-1.分子内にエポキシ基を有する熱硬化性化合物(A)
・熱硬化性化合物(A-1):プロピレンオキサイド変性ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ADEKA株式会社製、アデカレジンEP-4000S(「アデカレジン」および「アデカレジンEP」は同社の登録商標))
・熱硬化性化合物(A-2):ビスフェノールF型エポキシ樹脂(ADEKA株式会社製、アデカレジンEP-4901
・熱硬化性化合物(A-3):ゴム変性(EPR変性)ビスフェノールF型エポキシ樹脂(ADEKA株式会社製、アデカレジンEPR-4030)
【0209】
2-1-2.その他の硬化性化合物(C)
・その他の硬化性化合物(C―1):ビスフェノールA型エポキシアクリレート(ダイセル・オルネクス株式会社製、EBECRYL 3700(「EBECRYL」は同社の登録商標))
・硬化性化合物(C-2):2-ヒドロキシブチルメタクリレート(共栄社化学株式会社製、ライトエステルHOB)
【0210】
2-1-3.部分エポキシ(メタ)アクリレート(D)
・ダイセル・オルネクス株式会社製、KRM8287(「KRM」は同社の登録商標)
【0211】
2-2.熱硬化剤
2-2-1.熱硬化剤(E)
・熱硬化剤(E-1):ポリアミン系熱潜在性硬化剤(株式会社ADEKA製、EH-4357S(溶解度:1g/100g未満))
・熱硬化剤(E-2):イミダゾール系熱潜在性硬化剤(株式会社ADEKA製、EH-4344S(溶解度:1g/100g以上5g/100g以下))
・熱硬化剤(E-3):ジヒドラジド系熱潜在性硬化剤(株式会社日本ファインケム社製、アジピン酸ジヒドラジド(ADH)(溶解度:9g/100g))
・熱硬化剤(E-4):ジヒドラジド系熱潜在性硬化剤(株式会社日本ファインケム製、マロン酸ジヒドラジド(MDH)(溶解度10g/100g))
・熱硬化剤(E-5):アミンアダクト系熱潜在性硬化剤(味の素ファインテクノ株式会社製、アミキュアPN-50(「アミキュア」は味の素株式会社の登録商標))
・熱硬化剤(E-6):ジヒドラジド系熱潜在性硬化剤(味の素ファインテクノ株式会社製、アミキュアVDH)
【0212】
なお、熱硬化剤(E-1)~(E-4)の溶解度は、以下に示した方法で測定した。
【0213】
(溶解度の測定方法)
(測定方法)
300mLのビーカーに水100gと所定量の硬化剤を入れて2時間混合撹拌させた後、目視で透明になっている状態を溶解と判断した。そして、水への熱硬化剤(E)の添加量を徐々に少なくして、熱硬化剤(E)の添加、混合攪拌および目視での判断を行っていったときの、はじめて溶解と判断された熱硬化剤(E)の濃度を、上記溶解度とした。
【0214】
2-3.光重合開始剤(F)
・光重合開始剤(F-1):BASF社製、OXE-02
・光重合開始剤(F-2):IGM社製、Omnipol-TX(「Omnipol」は同社の登録商標)
【0215】
2-4.無機充填材(G)
・シリカ粒子:株式会社アドマテックス製、SO-C1
【0216】
2-5.その他の材料
・熱ラジカル発生剤(1):水溶性アゾ重合開始剤(富士フィルム和光純薬株式会社製、V-501)
・熱ラジカル発生剤(2):水溶性アゾ重合開始剤(富士フィルム和光純薬株式会社製、VA-086)
・微粒子ポリマー:ポリメタクリル酸エステル系有機微粒子(アイカ工業株式会社製、ゼフィアックF351(「ゼフィアック」は日本ゼオン株式会社の登録商標))
・シランカップリング剤:信越化学工業株式会社製、KBM403
【0217】
2-6.各材料の物性
上述した各樹脂成分の重量平均分子量(Mw)を、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって求めた。
【0218】
また、JIS K7236(2001年)に準拠して、エポキシ基を有する樹脂成分のエポキシ当量を求めた。
【0219】
また、上述した各樹脂成分の特性比およびガラス転移温度(Tg)を、計算ソフトウェアMaterials Studio 2020 Synthiaを用いてBicerano法により求めた。
【0220】
上記各物性を表1に示す。
【0221】
【表1】
【0222】
[第1の開示に関する実施例・比較例]
1―1.シール剤の調製
80質量部の熱硬化性化合物(A-1)、520質量部の硬化性化合物(B-1)、60質量部のその他の硬化性化合物(C―1)、80質量部の熱硬化剤(E-1)、5質量部の光重合開始剤(F-1)、175質量部のシリカ粒子、70質量部の微粒子ポリマー、および10質量部のシランカップリング剤を、三本ロールを用いて均一な液になるように十分混合して、シール剤(1)を得た。
【0223】
使用した材料の種類および配合量を表2~表4に記載のように変更した以外は同様にして、シール剤(2)~シール剤(14)を得た。
【0224】
シール剤(1)~シール剤(14)の組成を、表2~表4に示す。なお、各成分について記載した数値は、特に断りがない限り、質量部を示す。
【0225】
1-2.評価
上記調製したシール剤(1)~シール剤(14)について、ヤング率、破断伸び率、落下特性、透湿量、表示特性、低温硬化性および塗布性を以下の方法で評価した。
【0226】
<ヤング率>
得られたシール剤を、離型紙のうえ。にアプリケーターを用いて100μmの厚みで塗布した。その後、塗布したシール剤を窒素置換用の容器に入れて窒素パージを5分実施したのち、3000mJ/cm(波長365nmセンサーで校正した光)の光を照射し、さらに120℃で1時間加熱して、硬化フィルムを作製した。
【0227】
得られた硬化フィルムを短冊状(長さ150mm、幅10mm)にカットした後、オートグラフ引張試験機(株式会社島津製作所、AG-X)を用いて、室温(23℃)下、試験速度10mm/minで引張試験を行い、弾性領域における応力とひずみの傾きからヤング率を算出した。
【0228】
<落下特性>
得られたシール剤を、ディスペンサー(ショットマスター、武蔵エンジニアリング製)を用いて、透明電極と配向膜が予め形成された140mm×70mmガラス基板(RT-DM88-PIN、EHC社製)上に、メインシールとして135mm×65mmの四角形のシールパターン(断面積3500μm)を形成した。
【0229】
次いで、貼り合せ後のパネル内容量に相当する液晶材料(MLC-6609-000、メルク社製)を、メインシールの枠内にディスペンサーを用いて精密に滴下した。その後、対になるガラス基板を減圧下で貼り合せた後、大気開放して貼り合わせた。そして、貼り合わせた2枚のガラス基板を1分間遮光ボックス内で保持した後、ブラックマトリックスを塗布した基板で液晶部のみをマスクした状態で3000mJ/cmの可視光を含む光(波長370~450nmの光)を照射し、さらに120℃で1時間加熱して、メインシールを硬化させ液晶表示パネルを得た。
【0230】
得られた液晶表示パネルを50mmから落下させ、セルに剥がれや割れによる液晶漏れが無かった場合、50mmずつ高くした位置の落下を繰り返す落下試験を、高さの上限を500mmとして行った。試験後のセルを目視で観察し、以下の基準で落下特性を評価した。
◎ 500mmまでセルに剥がれや割れによる液晶漏れが確認されない
○ 300mm以上500mm未満の高さで液晶表示パネルに液晶漏れが確認された
× 300mm未満の高さで液晶表示パネルに液晶漏れが確認された
【0231】
<透湿量>
得られたシール剤を、離型紙のうえにアプリケーターを用いて300μmの厚みで塗布した。その後、塗布したシール剤を窒素置換用の容器に入れて窒素パージを5分実施したのち、3000mJ/cm(波長365nmセンサーで校正した光)の光を照射し、さらに120℃で1時間加熱して、硬化フィルムを作製した。
【0232】
吸湿剤として塩化カルシウム(無水)を封入したアルミカップに硬化フィルムを2枚乗せ、さらにアルミリングを乗せてねじ締をしたのち、アルミカップ全体の初期の重量を計測した。その後、60℃90%Rhに設定した恒温槽にアルミカップを入れて、24時間経過した後、アルミカップを取り出して重量を計測した。得られた重量値を、以下の計算式に代入して、透湿量を算出した。
計算式:
透湿量=(試験後重量-試験前重量)×フィルム厚み/(フィルム面積×100)
【0233】
<表示特性(ザラの発生抑制)>
得られたシール剤を、ディスペンサー(武蔵エンジニアリング株式会社製、ショットマスター)を用いて、透明電極と配硬膜とが形成された40mm×45mmのガラス基板(株式会社イーエッチシー製、RT-DM88-PIN)上に、メインシールとして35mm×35mmの四角形のシールパターン(断面積3500μm)と、その外周に38mm×38mmの四角形のシールパターンとを形成した。
【0234】
次いで、得ようとする液晶表示パネルの液晶の内容量に相当する量の、液晶材料(メルク社製、MLC-7026-100)をメインシールの枠内にディスペンサーを用いて精密に滴下した後、100分間または10分間静置した。そして、上記ガラス基板と、上記ガラス基板と対になるガラス基板を、4Paの減圧下で貼り合わせた後、大気圧に開放した。貼り合わせた2枚のガラス基板を1分間、遮光ボックス内で保持した後、メインシールを36mm×36mmの四角形のブラックマトリックスを徒手下基板でマスクし、この状態で、波長370~450nmの光を1J/cmでガラス基板に照射した。これらのガラス基板をさらに、120℃で1時間加熱し、メインシールを硬化させて液晶セルを得た。そして、得られた液晶セルの両面に偏光フィルムを貼り付けて、液晶表示パネルを得た。得られた液晶表示パネルを、80Nで10分間の加圧処理をした。
【0235】
得られた液晶パネルの表示特性について、以下の基準で評価した。
◎ 100分間静置したものおよび10分間静置したもののいずれにも、輝点(ザラ)が確認されない。
○ 100分間静置したものには輝点(ザラ)が確認されるが、10分間静置したものには輝点(ザラ)が確認されない。
× 100分間静置したものおよび10分間静置したもののいずれにも、輝点(ザラ)が確認される。
【0236】
<低温硬化性>
動的粘弾性測定装置(レオメータ)により貯蔵弾性率(G’)および損失弾性率(G’’)を測定しながら、25℃のシール剤を120℃(定温)の雰囲気中に静香置して加熱した。このときの、加熱開始からG’とG’’とが一致するまでの時間を測定した。
【0237】
シール剤(1)~シール剤(14)の、ヤング率、落下特性、透湿量、表示特性、および塗布性の評価結果を表2~表4に示す。なお、表中には、硬化性樹脂の全質量に対する分子内にエポキシ基を有する熱硬化性化合物(A)の量(「(A)量/硬化性樹脂合計」の欄)、硬化性樹脂の全質量に対する特定の硬化性化合物(B)の量(「(B)量/硬化性樹脂合計」の欄)、および、液晶シール剤に含まれる硬化性樹脂の全質量に対する部分エポキシ(メタ)アクリレート(D)の量(「(D)量/硬化性樹脂合計」の欄)を示す。
【0238】
【表2】
【0239】
【表3】
【0240】
【表4】
【0241】
表2~表4から明らかなように、23℃で測定したヤング率が0.5GPa以上3.0GPa未満であり、分子内にエポキシ基を有する熱硬化性化合物(A)と、熱硬化剤(E)と、を含み、前記熱硬化剤(E)は、20℃における水への溶解度が5g/100g以下の熱硬化剤である、液晶シール剤を用いることで、液晶パネル素子を加圧処理したときの輝点(ザラ)の発生を抑制することができた。
【0242】
[第2の開示に関する実施例・比較例]
2-1.シール剤の調製
80質量部の熱硬化性化合物(A-1)、520質量部の硬化性化合物(B-1)、120質量部のその他の硬化性化合物(C-1)、20質量部の熱硬化剤(E-5)、5質量部の光重合開始剤(F-1)、175質量部のシリカ粒子、70質量部の微粒子ポリマー、および10質量部のシランカップリング剤を、三本ロールを用いて均一な液になるように十分混合して、シール剤(21)を得た。
【0243】
使用した材料の種類および配合量を表5および表6に記載のように変更した以外は同様にして、シール剤(22)~シール剤(33)を得た。
【0244】
シール剤(21)~シール剤(33)の組成を、表5および表6に示す。なお、各成分について記載した数値は、特に断りがない限り、質量部を示す。
【0245】
2-2.評価
上記調製したシール剤(21)~シール剤(33)について、伸び率、屈曲性、透湿量、および液晶汚染性を以下の方法で評価した。
【0246】
<伸び率>
得られたシール剤を、離型紙のうえにアプリケーターを用いて100μmの厚みで塗布した。その後、塗布したシール剤を窒素置換用の容器に入れて窒素パージを5分実施したのち、3000mJ/cm(波長365nmセンサーで校正した光)の光を照射し、さらに120℃で1時間加熱して、硬化フィルムを作製した。
【0247】
得られた硬化フィルムを短冊状(長さ150mm、幅10mm)にカットした後、オートグラフ引張試験機(株式会社島津製作所、AG-X)を用いて、室温(23℃)下、試験速度10mm/minで引張試験を行い、降伏点から応力が80%以上低下した際の距離から伸び率を算出した。
【0248】
<屈曲性>
得られた硬化フィルムを短冊状(長さ50mm、幅10mm)にカットした後、直径1.0mmあるいは1.5mmの心棒に沿って折り曲げて10秒間固定した。硬化フィルムを心棒から外し、平らな台のうえに1分間静止させた。その後、硬化フィルムの状態を目視で観察し、以下の基準により、屈曲性を評価した。
◎ 直径1.0mmおよび直径1.5mmの心棒に対して割れや折れ等の変形が無い
○ 直径1.0mmの心棒に対して折れ等の変形があるものの、直径1.5mmの心棒に対して割れや折れ等の変形が無い
△ 直径1.5mmの心棒に対して割れはないものの折れ等の変形がある
× 直径1.5mmの心棒に対して割れが発生した
【0249】
<透湿量>
得られたシール剤を、離型紙のうえにアプリケーターを用いて300μmの厚みで塗布した。その後、塗布したシール剤を窒素置換用の容器に入れて窒素パージを5分実施したのち、3000mJ/cm(波長365nmセンサーで校正した光)の光を照射し、さらに120℃で1時間加熱して、硬化フィルムを作製した。
【0250】
吸湿剤として塩化カルシウム(無水)を封入したアルミカップに硬化フィルムを2枚乗せ、さらにアルミリングを乗せてねじ締をしたのち、アルミカップ全体の初期の重量を計測した。その後、60℃90%Rhに設定した恒温槽にアルミカップを入れて、24時間経過した後、アルミカップを取り出して重量を計測した。得られた重量値を、以下の計算式に代入して、透湿量を算出した。
計算式:
透湿量=(試験後重量-試験前重量)×フィルム厚み/(フィルム面積×100)
【0251】
<液晶汚染性>
0.03gの得られたシール剤と、0.3gの液晶(メルク社製、MLC-7026-100)とを1mlのビーカーに秤量し、120℃で1hr加熱した。加熱により汚染された液晶のネマティック-等方性液体相転移温度(NI点)と加熱前の汚染されていない液晶のNI点と、を比較してその差(ΔNI点)を算出した。なお、液晶汚染性の低い液晶シール剤を用いた場合、ΔNI点の絶対値は小さくなる。
得られたΔNI点をもとに、以下の基準でシール剤を評価した。
〇 ΔNI点が2.0℃以内である
× ΔNI点が2.0℃より大きい
【0252】
シール剤(22)~シール剤(33)の、伸び率、屈曲性、透湿量、および液晶汚染性の評価結果を表5および表6に示す。なお、表中には、硬化性樹脂の全質量に対する分子内にエポキシ基を有する熱硬化性化合物(A)の量(「(A)量/硬化性樹脂合計」の欄)、硬化性樹脂の全質量に対する特定の硬化性化合物(B)の量(「(B)量/硬化性樹脂合計」の欄)、および、硬化性樹脂の全質量に対する部分エポキシ(メタ)アクリレート(D)の量(「(D)量/硬化性樹脂合計」の欄)を示す。
【0253】
【表5】
【0254】
【表6】
【0255】
表5および表6から明らかなように、本発明の液晶シール剤によれば、高い柔軟性と低い透湿性とを両立することができた。
【0256】
本出願は、2021年3月19日出願の特願2021-046327、2021年3月19日出願の特願2021-046329、および2021年3月19日出願の特願2021-046333の優先権を主張する。これらの出願の明細書、特許請求の範囲および要約書に記載された事項は、参照により本出願に援用される。
【産業上の利用可能性】
【0257】
本発明は、各種液晶表示パネルへの応用に非常に有用である。