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特許7537014L-シトルリン生産能が向上したコリネバクテリウムグルタミクム変異株およびこれを用いたL-シトルリンの生産方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-09
(45)【発行日】2024-08-20
(54)【発明の名称】L-シトルリン生産能が向上したコリネバクテリウムグルタミクム変異株およびこれを用いたL-シトルリンの生産方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/21 20060101AFI20240813BHJP
   C12P 13/10 20060101ALI20240813BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20240813BHJP
   C12N 15/31 20060101ALN20240813BHJP
【FI】
C12N1/21
C12P13/10 A ZNA
C12N1/20 A
C12N15/31
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023514999
(86)(22)【出願日】2021-03-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-22
(86)【国際出願番号】 KR2021003602
(87)【国際公開番号】W WO2022071638
(87)【国際公開日】2022-04-07
【審査請求日】2023-03-03
(31)【優先権主張番号】10-2020-0127021
(32)【優先日】2020-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】518431347
【氏名又は名称】デサン・コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ドン・ソク・イ
(72)【発明者】
【氏名】ミン・ジン・チェ
(72)【発明者】
【氏名】ムン・ジョン・キム
(72)【発明者】
【氏名】ソク・ヒョン・パク
(72)【発明者】
【氏名】ジェ・チュン・ハン
【審査官】藤山 純
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-216697(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0095622(US,A1)
【文献】STANSEN, C et al.,Characterization of a Corynebacterium glutamicum lactate utilization operon induced during temperature-triggered glutamate production,Appl Environ Microbiol,71(10),2005年10月,pp.5920-5928
【文献】ZHANG, B et al.,Application of CRISPRi in Corynebacterium for shikimic acid production,Biotechnol Lett,38(12),2016年12月,pp.2153-2161
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/21
C12P 13/10
C12N 1/20
C12N 15/31
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
NCgl2816遺伝子の全部または一部が挿入、置換または欠失したコリネバクテリウムグルタミクム(Corynebacterium glutamicum)変異株であって、NCgl2816遺伝子によって発現するタンパク質の活性が野生型コリネバクテリウムグルタミクムに比べて弱化または不活性化された、コリネバクテリウムグルタミクム変異株を含む、L-シトルリン生産用組成物
【請求項2】
前記NCgl2816遺伝子は、配列番号1の塩基配列からなるものである、請求項1に記載の組成物
【請求項3】
a)請求項1に規定コリネバクテリウムグルタミクム変異株を培地で培養するステップと、
b)前記培養された変異株または変異株が培養された培地からL-シトルリンを回収するステップとを含むL-シトルリンの生産方法。
【請求項4】
NCgl2816遺伝子の全部または一部が挿入、置換または欠失したコリネバクテリウムグルタミクム(Corynebacterium glutamicum)変異株であって、NCgl2816遺伝子によって発現するタンパク質の活性が野生型コリネバクテリウムグルタミクムに比べて弱化または不活性化された、コリネバクテリウムグルタミクム変異株を含む、L-シトルリン産生剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、L-シトルリン生産能が向上したコリネバクテリウムグルタミクム変異株およびこれを用いたL-シトルリンの生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
L-シトルリン(citrulline)は非必須アミノ酸の一つで、シトルリンにはアンモニア代謝促進や血管拡張による血流改善、血圧低下、神経伝達、免疫力増進、活性酸素消去などの有用な作用があることが知られている。このようなシトルリンはアルギニンの生合成過程で中間生産物として合成される。微生物におけるアルギニンの生合成は、線状段階と環状段階の互いに異なる2つの経路を通して、L-グルタメート(L-glutamate)から8つの酵素ステップを経て行われる。線状ステップにおいて、L-アルギニンは、L-グルタメートからN-アセチルグルタメート(N-acetylglutamate)、N-アセチルオルニチン(N-acetylornithine)、オルニチン(ornithine)、シトルリン(citrulline)、そしてアルギニノスクシネート(argininosuccinate)を経て合成される。
【0003】
L-シトルリンの生産は、一般的に細菌や酵母のような微生物を用いた発酵によって生産され、自然状態で得られた野生型菌株やそのL-シトルリン生産能が向上するように変形された変異株を用いることができる。最近は、L-シトルリンの生産効率を改善させるために、L-アミノ酸およびその他の有用物質の生産に多く用いられる大膓菌、コリネバクテリウムなどの微生物を対象に遺伝子組換え技術を適用して優れたL-シトルリン生産能を有する多様な組換え菌株または変異株およびこれを用いたL-シトルリンの生産方法が開発されている。韓国登録特許第10-1102263号および第10-1053429号によれば、L-シトルリンの生産に関わる酵素、転写因子などタンパク質の活性または発現を強化したり弱化することにより、L-シトルリン生産能が向上することを確認した。したがって、L-シトルリンの生産経路に作用する多様なタンパク質の活性または発現調節によりL-シトルリンの生産量も調節できると期待することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】韓国登録特許第10-1102263号
【文献】韓国登録特許第10-1053429号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、L-シトルリン生産能が向上したコリネバクテリウムグルタミクム(Corynebacterium glutamicum)変異株を提供することを目的とする。
【0006】
また、本発明は、前記変異株を用いたL-シトルリンの生産方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、コリネバクテリウムグルタミクム菌株を用いてL-シトルリン生産能が向上した新たな変異株を開発するために研究した結果、L-シトルリンの生産経路に作用する輸送タンパク質(transporterまたはtransport protein)を暗号化するNCgl2816遺伝子を除去する場合、L-シトルリンの生産量が増加することを確認することにより、本発明を完成した。
【0008】
本発明の一態様は、NCgl2816遺伝子によって発現するタンパク質の活性が弱化または不活性化された、L-シトルリン生産能が向上したコリネバクテリウムグルタミクム変異株を提供する。
【0009】
本発明で使用された「NCgl2816遺伝子」は、細胞膜で物質が移動する時、細胞の外と中との濃度差を乗り切って栄養を選択的に吸収または排出する能動輸送(secondary transporter)に関与する多様な輸送タンパク質の中で推定内在性膜輸送タンパク質(putative integral membrane transport protein)を暗号化する遺伝子を意味する。
【0010】
本発明の一具体例によれば、前記NCgl2816遺伝子は、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属菌株に由来するものであってもよい。具体的には、前記コリネバクテリウム属菌株は、コリネバクテリウムグルタミクム(Corynebacterium glutamicum)、コリネバクテリウムクルディラクティス(Corynebacterium crudilactis)、コリネバクテリウムデゼルティ(Corynebacterium deserti)、コリネバクテリウムカルナエ(Corynebacterium callunae)、コリネバクテリウムスラナリーエ(Corynebacterium suranareeae)、コリネバクテリウムルブリカンティス(Corynebacterium lubricantis)、コリネバクテリウムドオサネンス(Corynebacterium doosanense)、コリネバクテリウムエフィシエンス(Corynebacterium efficiens)、コリネバクテリウムウテレクイ(Corynebacterium uterequi)、コリネバクテリウムスタチオニス(Corynebacterium stationis)、コリネバクテリウムパケンセ(Corynebacterium pacaense)、コリネバクテリウムシングラレ(Corynebacterium singulare)、コリネバクテリウムヒュミレデュセンス(Corynebacterium humireducens)、コリネバクテリウムマリヌム(Corynebacterium marinum)、コリネバクテリウムハロトレランス(Corynebacterium halotolerans)、コリネバクテリウムスフェニスコルム(Corynebacterium spheniscorum)、コリネバクテリウムフレイブルゲンス(Corynebacterium freiburgense)、コリネバクテリウムストリアツム(Corynebacterium striatum)、コリネバクテリウムカニス(Corynebacterium canis)、コリネバクテリウムアンモニアゲネス(Corynebacterium ammoniagenes)、コリネバクテリウムレナレ(Corynebacterium renale)、コリネバクテリウムポルティソリ(Corynebacterium pollutisoli)、コリネバクテリウムイミタンス(Corynebacterium imitans)、コリネバクテリウムカスピウム(Corynebacterium caspium)、コリネバクテリウムテスツディノリス(Corynebacterium testudinoris)、コリネバクテリウムシュードペラルギ(Corynebacaterium pseudopelargi)またはコリネバクテリウムフラベセンス(Corynebacterium flavescens)であってもよいし、これに限定されるものではない。
【0011】
本発明の一具体例によれば、前記NCgl2816遺伝子は、配列番号1の塩基配列からなるものであってもよい。また、本発明の一具体例によれば、前記NCgl2816遺伝子は、配列番号2のアミノ酸配列で暗号化されたものであってもよい。
【0012】
本発明の一具体例によれば、前記NCgl2816遺伝子によって発現するタンパク質は、L-シトルリンの生産経路に関与する輸送タンパク質であって、このような輸送タンパク質がL-シトルリンの生産に及ぼす影響については知られたり、研究されたことがない。しかし、本発明者らは、輸送タンパク質を暗号化するNCgl2816遺伝子を欠失させる場合、膜安定性が向上し、L-シトルリンの排出が増加するだけでなく、L-シトルリンの過剰生産時に付加的に検出される中間体6-アセチルオルニチン(6-acetylornithine)の排出を抑制してL-シトルリンを高収率および高濃度で生産できることを確認した。
【0013】
本発明で使用された「活性が弱化」とは、オブジェクトの遺伝子の発現量が本来の発現量より減少することを意味する。このような活性の弱化は、遺伝子を暗号化するヌクレオチド置換、挿入、欠失、またはこれらの組み合わせによりタンパク質自体の活性が本来微生物が持っているタンパク質の活性に比べて減少した場合と、これを暗号化する遺伝子の発現阻害または翻訳阻害などにより、細胞内で全体的な酵素活性の程度が天然型菌株、野生型菌株または変形前の菌株に比べて低い場合、これらの組み合わせも含む。
【0014】
本発明で使用された「不活性化」は、酵素、転写因子、輸送タンパク質などタンパク質を暗号化する遺伝子の発現が天然型菌株、野生型菌株または変形前の菌株に比べて全く発現しない場合であったり、発現してもその活性がない場合を意味する。
【0015】
本発明の一実施例によれば、コリネバクテリウムグルタミクム菌株のNCgl2816遺伝子を欠失させて野生型コリネバクテリウムグルタミクム菌株またはシトルリンが過剰生産されるように既に開発されたコリネバクテリウムグルタミクム変異株に比べて、L-シトルリン生産能が向上したコリネバクテリウムグルタミクム変異株を取得した。
【0016】
本発明で使用された「生産能が向上した」とは、親菌株に比べてL-シトルリンの生産性が増加したことを意味する。前記親菌株は、変異の対象になる野生型または変異株を意味し、直接変異の対象になったり、組換えられたベクターなどで形質転換される対象を含む。本発明において、親菌株は、野生型コリネバクテリウムグルタミクム菌株または野生型から変異した菌株であってもよい。例えば、シトルリンが過剰生産されるようにオルニチンカルバモイルトランスフェラーゼおよびカルバモイルリン酸合成酵素の活性が強化されたコリネバクテリウムグルタミクム変異株(韓国特許出願第10-2019-0151321号参照)であってもよい。
【0017】
本発明の一実施例によれば、前記L-シトルリン生産能が向上したコリネバクテリウムグルタミクム変異株は、親菌株に比べて増加したL-シトルリン生産能を示し、特に、親菌株に比べてL-シトルリンの量が0.5%以上、具体的には0.5%~5%増加したものであってもよいし、この時、副産物として生産される6-アセチルオルニチンが20%以上、具体的には20~50%減少したものであってもよい。
【0018】
本発明の一具体例によるコリネバクテリウムグルタミクム変異株は、親菌株においてNCgl2816遺伝子を欠失する組換えベクターにより実現できる。
【0019】
本発明で使用された「ベクター」は、宿主細胞で核酸のクローニングおよび/または転移のための任意の媒介物をいう。ベクターは、他のDNA断片が結合して結合された断片の複製をもたらすことができる複製単位(replicon)であってもよい。「複製単位」とは、生体内でDNA複製の自己ユニットとして機能する、すなわち、自らの調節によって複製可能な、任意の遺伝的単位(例えば、プラスミド、ファージ、コスミド、染色体、ウイルス)をいう。本発明において、ベクターは、宿主の中で複製可能なものであれば特に限定されず、当業界にて知られた任意のベクターを用いることができる。前記組換えベクターの作製に使用されたベクターは、天然状態または組換えられた状態のプラスミド、コスミド、ウイルスおよびバクテリオファージであってもよい。例えば、ファージベクターまたはコスミドベクターとして、pWE15、M13、λEMBL3、λEMBL4、λFIXII、λDASHII、λZAPII、λgt10、λgt11、Charon4A、およびCharon21Aなどを使用することができ、プラスミドベクターとして、pDZベクター、pBR系、pUC系、pBluescriptII系、pGEM系、pTZ系、pCL系およびpET系などを使用することができるが、これらに限定されるものではない。
【0020】
本発明で使用された「形質転換」は、遺伝子を宿主細胞内に導入して宿主細胞内で発現させることができることであり、形質転換された遺伝子は、宿主細胞内で発現できれば、宿主細胞の染色体内挿入または染色体外に位置しているものでも制限なく含まれる。
【0021】
本発明の一具体例によれば、形質転換させる方法は、核酸を細胞内に導入するいかなる方法も含まれ、宿主細胞によって当分野にて公知のような好適な標準技術を選択して行うことができる。例えば、電気穿孔法(electroporation)、リン酸カルシウム(CaPO4)沈殿、塩化カルシウム(CaCl2)沈殿、微細注入法(microinjection)、ポリエチレングリコール(PEG)法、DEAE-デキストラン法、陽イオンリポソーム法、および酢酸リチウム-DMSO法などが使用できるが、これに限定されない。
【0022】
本発明の一実施例によれば、形質転換方法として、電気穿孔方法(van der Rest et al.,Appl.Microbiol.Biotechnol.,52,541-545,1999)を使用することができる。
【0023】
前記宿主細胞は、生体内または試験管内で本発明の組換えベクターまたはポリヌクレオチドで形質感染、形質転換、または感染した細胞を含む。本発明の組換えベクターを含む宿主細胞は、組換え宿主細胞、組換え細胞または組換え微生物である。
【0024】
また、本発明による組換えベクターは、選択マーカー(selection marker)を含むことができるが、前記選択マーカーは、ベクターで形質転換された形質転換体(宿主細胞)を選別するためのものであって、前記選択マーカーが処理された培地で選択マーカーを発現する細胞のみ生存できるため、形質転換された細胞の選別が可能である。前記選択マーカーは、代表例として、カナマイシン、ストレプトマイシン、クロラムフェニコールなどがあるが、これらに限定されるものではない。
【0025】
本発明の形質転換用組換えベクター内に挿入された遺伝子は、相同性組換え交差によってコリネバクテリウム属菌株、大膓菌などの微生物のような宿主細胞内に置換されていてもよい。
【0026】
また、本発明の他の態様は、a)前記コリネバクテリウムグルタミクム変異株を培地で培養するステップと、b)前記変異株または変異株が培養された培地からL-シトルリンを回収するステップとを含むL-シトルリンの生産方法を提供する。
【0027】
前記培養は、当業界にて知られた適切な培地と培養条件によって行われてもよいし、通常の技術者であれば、培地および培養条件を容易に調整して使用可能である。具体的には、前記培地は、液体培地であってもよいが、これに限定されるものではない。培養方法は、例えば、回分式培養(batch culture)、連続式培養(continuous culture)、流加式培養(fed-batch culture)、またはこれらの組み合わせ培養を含むことができるが、これに限定されるものではない。
【0028】
本発明の一具体例によれば、前記培地は、適切な方式で特定菌株の要件を満たさなければならず、通常の技術者によって適宜変形可能である。コリネバクテリウム属菌株に対する培養培地は、公知の文献(Manual of Methods for General Bacteriology.American Society for Bacteriology.Washington D.C.,USA,1981)を参照できるが、これに限定されるものではない。
【0029】
本発明の一具体例によれば、培地に多様な炭素源、窒素源および微量元素成分を含むことができる。使用可能な炭素源としては、グルコース、スクロース、ラクトース、フルクトース、マルトース、デンプン、セルロースのような糖および炭水化物、大豆油、ヒマワリ油、ヒマシ油、ココナッツ油などのようなオイルおよび脂肪、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸のような脂肪酸、グリセロール、エタノールのようなアルコール、酢酸のような有機酸が含まれる。これらの物質は個別的にまたは混合物として使用できるが、これに限定されるものではない。使用可能な窒素源としては、ペプトン、酵母抽出物、肉汁、麦芽抽出物、トウモロコシ浸漬液、大豆麦および尿素または無機化合物、例えば、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウムおよび硝酸アンモニウムが含まれる。窒素源も個別的にまたは混合物として使用することができるが、これに限定されるものではない。使用可能なリンの供給源としては、リン酸二水素カリウムまたはリン酸水素二カリウムまたは相応するナトリウム-含有塩が含まれてもよいし、これに限定されるものではない。また、培養培地は、成長に必要な硫酸マグネシウムまたは硫酸鉄のような金属塩を含有することができ、これに限定されるものではない。その他、アミノ酸およびビタミンのような必須成長物質が含まれる。また、培養培地に適切な前駆体が使用できる。前記培地または個別成分は、培養過程で培養液に適切な方式によって回分式または連続式で添加できるが、これに限定されるものではない。
【0030】
本発明の一具体例によれば、培養中に水酸化アンモニウム、水酸化カリウム、アンモニア、リン酸および硫酸のような化合物を微生物培養液に適切な方式で添加して培養液のpHを調整することができる。また、培養中に脂肪酸ポリグリコールエステルのような消泡剤を用いて気泡生成を抑制することができる。追加的に、培養液の好気状態を維持するために、培養液中に酸素または酸素-含有気体(例、空気)を注入することができる。培養液の温度は、通常20℃~45℃、例えば25℃~40℃であってもよい。培養期間は、有用物質が所望の生産量で得られるまで継続してもよいし、例えば10~160時間であってもよい。
【0031】
本発明の一具体例によれば、前記培養された変異株および変異株が培養された培地からL-シトルリンを回収するステップは、培養方法によって当該分野にて公知の好適な方法を用いて培地から生産されたL-シトルリンを収集または回収することができる。例えば、遠心分離、濾過、抽出、噴霧、乾燥、蒸発、沈殿、結晶化、電気泳動、分別溶解(例えば、アンモニウムスルフェート沈殿)、クロマトグラフィー(例えば、イオン交換、親和性、疎水性およびサイズ排除)などの方法を使用することができるが、これに限定されない。
【0032】
本発明の一具体例によれば、L-シトルリンを回収するステップは、培養培地を低速遠心分離してバイオマスを除去し、得られた上澄液をイオン交換クロマトグラフィーにより分離することができる。
【0033】
本発明の一具体例によれば、前記L-シトルリンを回収するステップは、L-シトルリンを精製する工程を含むことができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明によるコリネバクテリウムグルタミクム変異株は、NCgl2816遺伝子によって発現する輸送タンパク質の活性が弱化または不活性化されることにより、L-シトルリンを高収率および高濃度で生産することができる。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明をより詳細に説明する。しかし、このような説明は本発明の理解のために例として提示されたものに過ぎず、本発明の範囲がこのような例示的な説明によって制限されるものではない。
【実施例
【0036】
実施例1.シトルリン生産菌株の転写体量の変化の分析
1-1.菌体採集
シトルリン生産菌株の転写体量の変化を分析するために、菌株成長ステップの変化時点で菌体採集を行った。
【0037】
まず、シトルリンが過剰生産されるようにオルニチンカルバモイルトランスフェラーゼおよびカルバモイルリン酸合成酵素の活性が強化されたコリネバクテリウムグルタミクム変異株(韓国特許出願第10-2019-0151321号参照、以下、「CT4」という)と野生型コリネバクテリウムグルタミクム菌株(ATCC13032)をそれぞれシトルリン種培地に接種して30℃で10時間培養後、培養液250mLを5L培養器の培地に接種した。初期培地に含まれた糖がすべて消尽すれば、追加培地を投入した。接種後、培養13、28、35、68時間の時点で菌体を採集して、転写体分析サンプルの製造に使用した。本実験で使用された培地の組成は、下記表1の通りである。
【0038】
【表1】
【0039】
1-2.転写体分析サンプルの製造
前記1-1で菌体採集後、培養終了液を同一の濃度で集積して、Rneasy Mini Kit(QIAGEN、ドイツ)を用いて使用マニュアルに従ってRNAを抽出した。抽出されたRNAは液体窒素に保管した状態で(株)マクロジェンに伝達して全体遺伝子転写体の分析を依頼した。
【0040】
1-3.有効遺伝子候補の選別
前記1-2で分析されたコリネバクテリウムグルタミクムの全体遺伝子転写体の分析結果に基づき、透過酵素(permease)および輸送タンパク質(transpoter)の中から、RPKM値が1000を超えて発酵後半に急激に増加したり、野生型菌株に比べて3倍以上発現量が高い候補遺伝子40個を1次選別した。参照として、野生型コリネバクテリウムグルタミクム菌株(ATCC13032)は、シトルリン生産能がほとんどないことが知られている。
【0041】
40個の遺伝子をそれぞれ欠損したコリネバクテリウムグルタミクム菌株をフラスコ力価培地(下記表2参照)に接種して、30℃、200rpm、30時間培養した。培養終了後、培養液を蒸留水で100倍希釈し、0.45umのフィルタで濾過した後、カラム(DionexIonPacTM CS12A)と紫外線検出器(195mm)が装着された高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて、菌株で生産された培養液中のL-シトルリンと副産物である6-アセチルオルニチン(6-acetylornithine)の濃度を測定した。候補遺伝子40個の中から6-アセチルオルニチンの濃度が低い5個の候補群を2次選別し、野生型菌株および選別された5個の候補群のL-シトルリンおよび6-アセチルオルニチン(6-acetylornithine)の濃度を、下記表3に示した。
【0042】
【表2】
【0043】
【表3】
【0044】
その結果、NCgl2816遺伝子を欠損した菌株においてL-シトルリンの生産量が最も高くかつ、6-アセチルオルニチンの生産量が最も低いことが明らかになり、菌株のL-シトルリンの生産量を向上させるための欠失遺伝子としてNCgl2816遺伝子を選択した。
【0045】
実施例2.NCgl2816遺伝子が欠失した変異株の製造
2-1.ベクターの作製
コリネバクテリウムグルタミクム変異株を製造するために、野生型コリネバクテリウムグルタミクム菌株(ATCC13032)を使用した。
【0046】
まず、Wizard Genomic DNA Purification Kit(Promega、米国)を用いて野生型菌株から染色体DNAを抽出した後、これを鋳型としてプライマー1および2とプライマー3および4の組み合わせでそれぞれPCRを行った。これにより得られたPCR産物を再度プライマー1および4の組み合わせを用いてクロスオーバー(crossover)PCRで増幅した後、組換えベクターpK19mobSacBの制限酵素HindIII、XbaI位置に挿入した。これをベクターpK19ms/△NCgl2816と名付けた。前記ベクターを作製するのに下記表4のプライマーを使用した。
【0047】
【表4】
【0048】
以上のプライマーを用いて、下記の条件下でPCRを行った。Thermocycler(TP600、TAKARA BIO Inc.、日本)を用いて、それぞれのデオキシヌクレオチドトリホスフェート(dATP、dCTP、dGTP、dTTP)100μMが添加された反応液に、オリゴヌクレオチド1pM、コリネバクテリウムグルタミクム(C.glutamicum)ATCC13032の染色体DNA10ngを鋳型(template)として用いて、PrimeSTAR Max DNA Polymerase(Takara、日本)1ユニットの存在下で25~30周期(cycle)を行った。PCRの実施条件は、(i)変性(denaturation)ステップ:94℃で30秒、(ii)結合(annealing)ステップ:58℃で30秒、および(iii)拡張(extension)ステップ:72℃で1~2分(1kbあたり2分の重合時間付与)の条件で実施した。
【0049】
このように製造された遺伝子断片を、self-assembly cloningを用いて、pK19mobSacBベクターにクローニングした。前記ベクターを大膓菌(E.coli)DH5aに形質転換させ、50μg/mlのカナマイシン(kanamycin)を含有するLB-寒天プレート上に塗抹して、37℃で24時間培養した。最終的に形成されるコロニーを分離して挿入物(insert)が正確にベクターに存在するかを確認した後、このベクターを分離してコリネバクテリウムグルタミクム菌株の組換えに使用した。
【0050】
前記方法で共通して行われた過程として、当該遺伝子の増幅は、コリネバクテリウムグルタミクムATCC13032 genomic DNAからPCR方法で増幅して、戦略によってself-assembled cloning方法でpK19mobSacBベクターに挿入してE.coli DH5aから選別した。この時、増幅された遺伝子をpK19mobSacBベクターに挿入するために、DNA ligation kit(Takara、日本)および制限酵素HindIII、XbaI(NEB、イギリス)を供給されたバッファーおよびプロトコルによって使用した。
【0051】
2-2.変異株の製造
親菌株として変異株CT4に、前記2-1で作製されたpK19ms/ΔNCgl2816ベクターを導入して、コリネバクテリウムグルタミクム変異株を製造した。
【0052】
具体的には、RG培地(Beef extract10g/L、BHI40g/Lおよびソルビトール30g/L含有)100mlで親菌株を1次培養し、同一培地に2.5g/L glycine、400mg/L isoniazidおよび0.1ml/L Tween80を添加した培地を製造した。その後、OD610値が0.3となるように種培養液を接種した後、30℃、180rpmで3~5時間培養してOD610値が1.6~1.8となるようにした。氷で30分間放置した後、4℃、3500rpmで15分間遠心分離した。その後、上澄液を捨てて、沈殿した親菌株を10%グリセロール溶液で4回洗浄し、最終的に10%グリセロール溶液0.5mlに再懸濁した。電気衝撃療法(Electroporation)はバイオ・ラッド(Bio-Rad)エレクトロポレーター(electroporator)を用いて行った。エレクトロポレーションキュベット(0.2mm)に、前記方法で製造したコンピテントセル(competent cell)を入れてpK19ms/ΔNCgl2816ベクターを添加した後、2.5kV、200Ωおよび12.5μFの条件で電気衝撃を加えた。電気衝撃が終わってすぐに再生(Regeneration)培地(Brain Heart infusion18.5g/lおよびソルビトール0.5M含有)1mlを添加し、46℃で6分間熱処理した。その後、室温で冷やした後、15mlのキャップチューブに移して30℃で2時間培養し、カナマイシン(kanamycine)30μg/mlが含まれた固体培地(Brainheart infusion40g/L、D-ソルビトール30g/L、Beef extract10g/LおよびAgar20g/L含有)に塗抹した。30℃で2日間培養してコロニーを得た。1次相同組換えが誘導されたコロニーのうち、前記表4のプライマー1および4を用いて前記2-1と同様の条件でPCR増幅が確認されたコロニーを1次組換え株として選別し、2YT液体培地(Tryptone16g/L、Yeast extract10g/LおよびNaCl5g/L含有)で12時間培養後、2YT-10%sucrose固体培地(Tryptone16g/L、Yeast extract10g/L、NaCl5g/Lおよびsucrose100g/L含有)に塗抹し、2次相同組換えを誘導して抗生剤マーカーを除去した。2YT-10%sucrose固体培地で培養されたコロニーを、2YT-Km培地(Tryptone16g/L、Yeast extract10g/L、NaCl5g/Lおよびカナマイシン30μg/ml含有)と2YT-10%sucroseにパッチング(patching)してカナマイシンに抵抗性がなく、10%sucrose培地で生育可能な菌株を最終的に選別した。そして、前記表4のプライマー1および4を用いて前記2-1と同様の条件でPCRを行って、NCgl2816遺伝子が除去されたかを最終的に確認し、NCgl2816遺伝子が欠失した菌株をCT5と名付けた。
【0053】
実施例3.NCgl2816遺伝子が欠失した変異株のL-シトルリンの生産性の確認
親菌株として使用されたシトルリンを過剰生産するコリネバクテリウムグルタミクム変異株(CT4)および実施例2で製造されたNCgl2816遺伝子が欠失した菌株(CT5)のL-シトルリンの生産性を比較した。
【0054】
各菌株をシトルリン種培地に接種して30℃で10時間培養後、培養液250mLを5L培養器の培地に接種した。初期培地に含まれた糖がすべて消尽すれば、追加培地を投入した。本実験で使用された培地の組成は、前記表1の通りである。培養終了後、培養液を蒸留水で100倍希釈し、0.45umのフィルタで濾過した後、カラム(DionexIonPacTM CS12A)と紫外線検出器(195mm)が装着された高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて、菌株で生産された培養液中のL-シトルリンと副産物である6-アセチルオルニチン(6-acetylornithine)の濃度を測定し、その結果を下記表5に示した。
【0055】
【表5】
【0056】
前記表5に示しているように、NCgl2816遺伝子が欠失したコリネバクテリウムグルタミクム変異株CT5は、既に開発された変異株CT4に比べてL-シトルリンの生産性が約2%増加したのに対し、副産物である6-アセチルオルニチンの生産が約44%減少したことが確認された。この結果を通して、NCgl2816遺伝子によって発現するタンパク質の活性が弱化または不活性化されることにより、菌株のL-シトルリン生産能が向上するだけでなく、副産物の生成が減少してL-シトルリンを高純度で生産できることが分かった。
【0057】
これまで本発明についてその好ましい実施例を中心に説明した。本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明が本発明の本質的な特性を逸脱しない範囲で変形された形態で実現できることを理解するであろう。そのため、開示された実施例は、限定的な観点ではなく、説明的な観点で考慮されなければならない。本発明の範囲は上述した説明ではなく特許請求の範囲に示されており、それと同等の範囲内にあるすべての差異は本発明に含まれたものと解釈されなければならない。
【配列表】
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