(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-09
(45)【発行日】2024-08-20
(54)【発明の名称】金属帯板の板形状検出装置、及び圧延機、並びに検出方法
(51)【国際特許分類】
B21C 51/00 20060101AFI20240813BHJP
B21B 38/02 20060101ALI20240813BHJP
B21B 37/58 20060101ALI20240813BHJP
B21B 37/28 20060101ALI20240813BHJP
B21B 37/38 20060101ALI20240813BHJP
G01B 11/24 20060101ALI20240813BHJP
G01B 11/06 20060101ALI20240813BHJP
【FI】
B21C51/00 L
B21B38/02
B21B37/58 B
B21B37/28 C
B21B37/38 Z
G01B11/24 A
G01B11/06 H
(21)【出願番号】P 2024017142
(22)【出願日】2024-02-07
【審査請求日】2024-02-07
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】314017543
【氏名又は名称】Primetals Technologies Japan株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】望月 智俊
(72)【発明者】
【氏名】金森 信弥
【審査官】永井 友子
(56)【参考文献】
【文献】特開2023-132603(JP,A)
【文献】特開2023-122260(JP,A)
【文献】特開2009-288072(JP,A)
【文献】特開2006-189315(JP,A)
【文献】特開2008-058036(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21C 51/00
G01B 11/24
B21B 38/02
B21B 37/58
B21B 37/28
B21B 37/38
G01B 11/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルーパーで持ち上げられた金属帯板の表面に板幅方向に横断する帯状の反射光が映る領域を含む画像を撮影するように設置したカメラと、
前記カメラが撮影する前記画像に基づき、前記金属帯板の板形状を判断する画像処理部と、を備える圧延された金属帯板の板形状検出装置であって、
前記画像処理部は、前記画像内の前記領域を前記金属帯板の板幅方向に複数に分割し、前記分割した各々の区域の各々の板幅方向位置を示す値を変数(x)としたときに、前記画像内の前記領域の板幅範囲内の板幅方向の位置を-1≦x≦1の範囲に規格化して変換し、前記区域における、前記領域の板伸び量に対応した大きさを表す指標情報を各々の前記区域の分布E(x)とするxの0次、1次、2次、及び4次の項のみからなるE(x)=C
0’+C
1’×x+C
2’×(2x
2-1)+C
4’×(8x
4-8x
2+1)(但し、-1≦x≦1)とのチェビシェフ多項式に当てはめて、前記チェビシェフ多項式の係数(C
0’、C
1’、C
2’、C
4’)を求め、
前記E(x)において、前記金属帯板の板幅中央位置であるx=0では、常に板伸び量E(0)が一定となるように
前記ルーパーの角度の比例補正係数を導入して前記E(x)を
Ec(x)=C
0c+C
1c・x+C
2c・(2x
2-1)+C
4c・(8x
4-8x
2+1)
として補正し、
圧延方向の板伸びの板幅方向における分布に対応した情報として1次補正係数(C
1c)、2次補正係数(C
2c)、及び4次補正係数(C
4c)のうちいずれか1つ以上の前記補正係数を板幅方向の板伸び分布の判断結果信号として発信する
ことを特徴とする金属帯板の板形状検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の金属帯板の板形状検出装置において、
前記1次補正係数(C
1c)、前記2次補正係数(C
2c)、及び前記4次補正係数(C
4c)を以下の式で表すものとする
C
1c=C
1’Estd/E(0)=C
1’Estd/(C
0’-C
2’+C
4’)
C
2c=C
2’Estd/E(0)=C
2’Estd/(C
0’-C
2’+C
4’)
C
4c=C
4’Estd/E(0)=C
4’Estd/(C
0’-C
2’+C
4’)
但し、Estdは定数であり、ある特定の時刻Time=tで示されるC
0’、C
2’、C
4’を用いてEstd=C
0’t-C
2’t+C
4’tと表すものとし、前記Time=tの時のC
0’、C
2’、C
4’が、C
0’=C
0’t、C
2’=C
2’t、C
4’=C
4’tとする
ことを特徴とする金属帯板の板形状検出装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の金属帯板の板形状検出装置と、
制御装置と、を備えた圧延機において、
前記制御装置は、前記判断結果信号に基づいて、圧延機のレベリング量、ベンディング力、または、ペアクロス角度に関するいずれか一つ以上の操作信号を発信する
ことを特徴とする圧延機。
【請求項4】
ルーパーで持ち上げられた金属帯板の板幅方向に横断する帯状の反射光が映る領域を含む画像をカメラにより撮影する撮影ステップと、
前記撮影ステップで撮影される前記画像に基づき、前記金属帯板の板形状を判断する画像処理ステップと、を有する圧延された金属帯板の板形状検出方法であって、
前記画像処理ステップでは、前記画像内の前記領域を前記金属帯板の板幅方向に複数に分割し、前記分割した各々の区域の各々の板幅方向位置を示す値を変数(x)としたときに、前記画像内の前記領域の板幅範囲内の板幅方向の位置を-1≦x≦1の範囲に規格化して変換し、前記区域における、前記領域の板伸び量に対応した大きさを表す指標情報を各々の前記区域の分布E(x)とするxの0次、1次、2次、及び4次の項のみからなるE(x)=C
0’+C
1’×x+C
2’×(2x
2-1)+C
4’×(8x
4-8x
2+1)(但し、-1≦x≦1)とのチェビシェフ多項式に当てはめて、前記チェビシェフ多項式の係数(C
0’、C
1’、C
2’、C
4’)を求め、
前記E(x)において、板幅中央位置であるx=0では、常に板伸び量E(0)が一定となるように
前記ルーパーの角度の比例補正係数を導入して前記E(x)を
Ec(x)=C
0c+C
1c・x+C
2c・(2x
2-1)+C
4c・(8x
4-8x
2+1)
として補正し、
圧延方向の板伸びの板幅方向における分布に対応した情報として1次補正係数(C
1c)、2次補正係数(C
2c)、及び4次補正係数(C
4c)のうちいずれか1つ以上の前記補正係数を板幅方向の板伸び分布の判断結果信号として発信する
ことを特徴とする金属帯板の板形状検出方法。
【請求項5】
請求項4に記載の金属帯板の板形状検出方法において、
前記画像処理ステップでは、前記1次補正係数(C
1c)、前記2次補正係数(C
2c)、及び前記4次補正係数(C
4c)を以下の式で表すものとする
C
1c=C
1’Estd/E(0)=C
1’Estd/(C
0’-C
2’+C
4’)
C
2c=C
2’Estd/E(0)=C
2’Estd/(C
0’-C
2’+C4’)
C
4c=C
4’Estd/E(0)=C
4’Estd/(C
0’-C
2’+C
4’)
但し、Estdは定数であり、ある特定の時刻Time=tで示されるC
0’、C
2’、C
4’を用いてEstd=C
0’t-C
2’t+C
4’tと表すものとし、前記Time=tの時のC
0’、C
2’、C
4’が、C
0’=C
0’t、C
2’=C
2’t、C
4’=C
4’tとする
ことを特徴とする金属帯板の板形状検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属帯板の板形状検出装置、及び圧延機、並びに検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
棒状のような特殊な光源を用いることなく金属帯板の板表面形状の不良を容易に判断することが可能な不良判断装置及び不良判断方法として、特許文献1には、被圧延鋼板の幅方向に回転軸が延びて設置され、被圧延鋼板を上方に持ち上げるロールと、ロールにより上方側に持ち上げられた被圧延鋼板の持ち上げられた領域を含む画像を撮影するカメラと、カメラが撮影した画像に基づき、金属帯板の板表面形状の不良を判断する制御装置と、を備える、ことが記載されている。
【0003】
わずかな外乱や突然に生じた小さな障害物に対する影響を従来に比べてより受けにくい金属帯板の板形状判断装置、及び圧延機、並びに判断方法として、特許文献2には、圧延された金属帯板の板幅方向に横断する帯状の反射光が映る領域を含む画像を撮影するように設置したカメラと、カメラが撮影する画像に基づき、金属帯板の板形状を判断する画像処理計算機と、を備え、画像処理計算機は、画像内の領域を金属帯板の板幅方向に複数に分割し、分割した各々の区域における、領域に関係する大きさを現す指標情報に基づいて、圧延方向の板伸びの板幅方向における分布に対応した情報を信号として発信する、ことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許6808888号
【文献】特許7130350号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
圧延機により圧延された金属帯板の板形状の良否、例えば板伸びの有無について、金属帯板の板幅方向に長い線状または棒状の反射光に基づいて判断する技術は従来から多数知られている。
【0006】
その判断は、一部に伸びが生じて板形状に変化が生じたときには、線状または棒状であった反射光の形状が整った形ではなくなり、その一部が移動あるいは変位することに基づいている。
【0007】
しかし、線状または棒状の反射光は、板幅方向各位置における圧延方向の反射光領域が狭いため、例えば、小さな障害物等によりわずかな外乱が生じた場合の影響を顕著に受け、誤判断を生じやすい、との課題がある。
【0008】
本発明者らは、特許文献1に開示されているように帯状の反射光を利用して判断すると、このような外乱の影響を小さくできることを見出すとともに、帯状の反射光の特徴をより活かす技術として、特許文献2に開示されている技術を着想した。
【0009】
特許文献2に記載の技術では、圧延ラインの圧延機スタンド間に設置されている張力制御用ルーパーで持ち上げられた金属帯板の湾曲部近傍の板表面に映る反射光領域の圧延方向長さや面積などの板幅方向分布をチェビシェフ多項式に当てはめて、チェビシェフ多項式の係数を求め、板幅方向の板伸び分布についての判定を行っている。
【0010】
これに対し、本発明者らは、更に鋭意検討を重ねた結果、特許文献2に記載の技術では、板に映る反射光領域の圧延方向長さや面積などの変化は、板の圧延伸び変化に対応していることを前提としているが、この前提は、ルーパー角度、すなわちルーパーの頂点位置の高さが一定である場合にのみ成立するため、改善の余地があることを見出した。
【0011】
具体的には、ルーパーは、ライン張力を制御するために設置されているため、ルーパー角度は圧延中に変動する。
【0012】
そのため、板幅方向の板伸び分布が一定であるにも関わらず、ルーパー角度が変動することにより、板に映る反射光領域の圧延方向長さや面積などは変動し、あたかも板伸び分布が変化しているような現象を引き起こすため、更なる改善を行う余地があることを見出した。
【0013】
本発明は、ルーパー角度の変動の影響を打ち消し、板伸び分布の変化だけを評価することができるチェビシェフ多項式のチェビシェフ係数の補正方法を反映した金属帯板の板形状検出装置、及び圧延機、並びに検出方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、ルーパーで持ち上げられた金属帯板の表面に板幅方向に横断する帯状の反射光が映る領域を含む画像を撮影するように設置したカメラと、前記カメラが撮影する前記画像に基づき、前記金属帯板の板形状を判断する画像処理部と、を備える圧延された金属帯板の板形状検出装置であって、前記画像処理部は、前記画像内の前記領域を前記金属帯板の板幅方向に複数に分割し、前記分割した各々の区域の各々の板幅方向位置を示す値を変数(x)としたときに、前記画像内の前記領域の板幅範囲内の板幅方向の位置を-1≦x≦1の範囲に規格化して変換し、前記区域における、前記領域の板伸び量に対応した大きさを表す指標情報を各々の前記区域の分布E(x)とするxの0次、1次、2次、及び4次の項のみからなるE(x)=C0’+C1’×x+C2’×(2x2-1)+C4’×(8x4-8x2+1)(但し、-1≦x≦1)とのチェビシェフ多項式に当てはめて、前記チェビシェフ多項式の係数(C0’、C1’、C2’、C4’)を求め、前記E(x)において、前記金属帯板の板幅中央位置であるx=0では、常に板伸び量E(0)が一定となるように前記ルーパーの角度の比例補正係数を導入して前記E(x)をEc(x)=C0c+C1c・x+C2c・(2x2-1)+C4c・(8x4-8x2+1)として補正し、圧延方向の板伸びの板幅方向における分布に対応した情報として、1次補正係数(C1c)、2次補正係数(C2c)、及び4次補正係数(C4c)のうちいずれか1つ以上の前記補正係数を板幅方向の板伸び分布の判断結果信号として発信する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ルーパー角度の変動の影響を打ち消し、板伸び分布の変化だけを評価することができる。上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施例の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施例の金属帯板の板形状検出装置を備えた圧延設備の概要を示す図。
【
図2】圧延設備における操業の際のスタンド間の金属帯板の様子の一例を示す図。
【
図3】圧延設備における操業の際のスタンド間の金属帯板の様子の他の一例を示す図。
【
図4】実施例の金属帯板の板形状検出装置における各分割区域内の平均長さ算出方法とチェビシェフ多項式の成分分布の様子の一例を示す図。
【
図5】実施例の金属帯板の板形状検出装置において、金属帯板を幅方向に7分割した際の反射光領域の各分割区域の上流側と下流側の境界線間距離の分布の一例を示す図。
【
図6】圧延設備における操業の際に、ルーパー上部位置が高い場合の様子を示す図。
【
図7】圧延設備における操業の際に、ルーパー上部位置が低い場合の様子を示す図。
【
図8】実施例の金属帯板の板形状検出装置におけるモニタの表示画面の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の金属帯板の板形状検出装置、及び圧延機、並びに検出方法の実施例について
図1乃至
図8を用いて説明する。なお、本明細書で用いる図面において、同一のまたは対応する構成要素には同一、または類似の符号を付け、これらの構成要素については繰り返しの説明を省略する場合がある。
【0018】
最初に、金属帯板の板形状検出装置を含めた圧延設備の全体構成について
図1乃至
図3を用いて説明する。
図1は本実施例の金属帯板の板形状検出装置とそれを備えた圧延設備の構成を示す概略図、
図2及び
図3は圧延設備における操業の際のスタンド間の金属帯板表面の様子の一例を示す図である。
【0019】
図1に示す金属帯板1を圧延する圧延設備100は、F1スタンド10、F2スタンド20、F3スタンド30、F4スタンド40、F5スタンド50、カメラ61,62,63,64、張力制御用のルーパー71,72,73,74、画像処理計算機80、制御装置82、モニタ85等を備えている。
【0020】
また、F1スタンド10、F2スタンド20、F3スタンド30、F4スタンド40、F5スタンド50、カメラ61,62,63,64、画像処理計算機80、制御装置82は、通信線90により接続されている。
【0021】
なお、圧延設備100については、
図1に示すような5つの圧延スタンドが設置されている形態に限られず、最低2スタンド以上であればよい。
【0022】
F1スタンド10や、F2スタンド20、F3スタンド30、F4スタンド40、F5スタンド50の各々は、上ワークロール及び下ワークロール、これら上ワークロール及び下ワークロールにそれぞれ接触することで支持する上バックアップロール、下バックアップロール、上バックアップロールの上部に設けられた圧下シリンダ11,21,31,41,51、荷重検出器12,22,32,42,52を備えている。なお、各ワークロールと各バックアップロールとの間に、更に中間ロールを設けた6段の構成とすることができる。
【0023】
ルーパー71はF1スタンド10とF2スタンド20との間に設置されている張力制御用のロールである。このルーパー71は、走行する金属帯板1が載るように、その回転軸が金属帯板1の幅方向に延びて配置されており、金属帯板1を上方に持ち上げて保持するようにして設置されている。
【0024】
なお、ルーパー71は、例えば、ばね等で上方に付勢するものや、油圧シリンダ、またはモータ駆動等で持ち上げるもの等が考えられる。
【0025】
カメラ61は、圧延された金属帯板1の板幅方向に横断する帯状の反射光が映る領域を含む画像を撮影するように設置されている。好適には、ルーパー71により上方側に持ち上げられた金属帯板1の持ち上げられた領域を含む画像を撮影するように設置される。特には金属帯板1を上面視した際に、金属帯板1の板幅方向の外側に設置されていることができる。カメラ61が撮影した画像のデータは、通信線90を介して画像処理計算機80に送信される。
【0026】
同様に、張力制御用のルーパー72がF2スタンド20とF3スタンド30との間に、張力制御用のルーパー73がF3スタンド30とF4スタンド40との間に、張力制御用のルーパー74がF4スタンド40とF5スタンド50との間に、それぞれ設置されている。
【0027】
また、カメラ62はルーパー72により鉛直方向上方側に持ち上げられた金属帯板1の持ち上げられた領域を含む画像を撮影する位置に、カメラ63はルーパー73により上方側に持ち上げられた金属帯板1の持ち上げられた領域を含む画像を撮影する位置に、カメラ64はルーパー74により上方側に持ち上げられた金属帯板1の持ち上げられた領域を含む画像を撮影する位置に、それぞれ設置されている。カメラ62,63,64により撮影された画像のデータは、通信線90を介して画像処理計算機80に送信される。
【0028】
カメラ62,63,64も、カメラ61と同様に、好適には、金属帯板1を上面視した際に、金属帯板1の板幅方向の外側に設置されている。
【0029】
これらカメラ61,62,63,64により、圧延された金属帯板1の板幅方向に横断する帯状の反射光が映る領域を含む画像をカメラ61,62,63,64により撮影する撮影ステップが実行される。
【0030】
カメラ61,62,63,64が主に撮影する、ロールにより上方側に持ち上げられた金属帯板1の持ち上げられた撮影領域を照らす照明を更に設けることができる。この照明は、圧延設備100が設置されている圧延工場の天井などに適宜配置される一般的な照明でよく、本発明では特段新たな照明設備は不要であるが、専用の照明を設けても良い。
【0031】
画像処理計算機80は、カメラ61,62,63,64が撮影する画像に基づき、金属帯板1の板形状を判断するための各種処理(画像処理ステップ含む)を実行する。
【0032】
例えば、
図2あるいは
図3に示すようなルーパー71,72,73,74により、上方側に持ち上げられた金属帯板1の湾曲した近傍である、持ち上げられた領域を含む画像を画像処理にて、画像に映る金属帯板1の表面の反射光の輝度が特定の輝度の値よりも大きい箇所の上流側・下流側の境界を含む範囲を反射光領域1A、あるいは反射光領域1Bとして特定する。
【0033】
本実施例における画像処理計算機80は、画像内の反射光領域を金属帯板1の板幅方向に複数に分割し、分割した各々の区域における、上流側及び下流側の反射光領域1A,1Bの境界位置、面積値等の反射光領域の大きさに関係する指標情報に基づいて、圧延方向の板伸びに関する板幅方向における分布の情報を信号として発信する。
【0034】
金属帯板1の板幅方向に横断する帯状の反射光の見える領域は、金属帯板1の板幅方向の各位置における圧延方向(帯板長手方向)の伸びが均一であれば、金属帯板1の表面は平坦で板波が小さいことから、
図2に示すように照明の当たり方による分布差が小さい。このため、照明による反射光領域1Aの境界線は上流側と下流側とで略平行になり、反射光領域1Aを板幅方向に複数に分割した場合の各区域の上記のような各種パラメータは、全ての区域が、概ね同じ或いは均一となる。
【0035】
これに対し、板幅方向の位置によって、圧延方向の伸びに相違(例.端延び、中延び)がある場合、板波など高さが異なることによって照明の当たり方が異なり、
図3に示すように照明による反射光領域1Bの境界線は上流側、下流側のいずれか一方、あるいはいずれもが波打ち、平行な状態にならない。このため、金属帯状の反射光領域1Bを板幅方向に複数に分割した場合の各区域の圧延方向の長さ等のパラメータは、板幅方向における位置によって不均一になる。
【0036】
そこで、画像処理計算機80では、反射光領域の上流側と下流側の2本の境界線に関する値やその間の距離に関する面積値等も含む様々なパラメータ(指標情報)を板幅方向に複数に分割して求め、好適にはこれらの値に対してチェビシェフ多項式を用いて各成分(0次成分、1次成分、2次成分、4次成分の分布)に分解する。この各成分値に応じた判断結果をモニタ85や制御装置82に対して出力する。その詳細は
図4以降を用いて後ほど詳しく説明する。好適には、この画像処理計算機80が画像処理ステップの実行主体となる。
【0037】
図1に戻り、制御装置82は、圧延設備100内の各機器の動作を制御する装置であり、本実施例では、画像処理計算機80での金属帯板1の板形状の判断に応じた各種制御を実行する装置である。
【0038】
これら画像処理計算機80や制御装置82は、後述する液晶ディスプレイ等のモニタ85や入力機器、記憶装置、CPU、メモリなどを有するコンピュータで構成されるものとすることができ、1つのコンピュータで構成されるものとして別のコンピュータで構成されるものとしてもよく、特に限定されない。
【0039】
画像処理計算機80や制御装置82による各機器の動作の制御は、記憶装置に記録された各種プログラムに基づき実行される。なお、画像処理計算機80や制御装置82で実行される動作の制御処理は、1つのプログラムにまとめられていても、それぞれが複数のプログラムに別れていてもよく、それらの組み合わせでもよい。また、プログラムの一部または全ては専用ハードウェアで実現してもよく、モジュール化されていてもよい。
【0040】
モニタ85は、ディスプレイなどの表示機器や警報機などの音響機器であり、例えば画像処理計算機80が板形状に問題が発生していると判断したときに、その対処作業についてオペレータに対して伝えるための装置であることから、このようなモニタ85としては、ディスプレイが用いられることが多い。
【0041】
ここで、上述の画像処理計算機80は表示信号部を含んでおり、モニタ85に表示する内容に関する信号をモニタ85に送信する。
【0042】
オペレータは、操業中、モニタ85の表示画面や各スタンド自体、各スタンド間を目視することで板形状の状態を確認することができる。
【0043】
なお、オペレータに板形状の問題発生を伝えるとともに板形状の問題を改善する操作を制御装置82により自動で行う形態に限られず、モニタ85に表示するのみの形態や、モニタ85への表示を省略して板形状の問題を改善する操作を制御装置82により自動で行うのみの形態とすることができる。
【0044】
次いで、本発明における圧延される金属帯板1の板形状検出装置、及び検出方法の具体例について
図4以降を用いて説明する。まず、反射光領域の境界線の算出値からの幅方向の状態量の算出方法の詳細について
図4及び
図5を用いて説明する。
【0045】
図4は実施例の金属帯板の板形状検出装置における反射光領域の各分割区域での指標情報の算出方法とチェビシェフ多項式の各次数の成分分布の様子の一例を示す図である。
図5は金属帯板の反射光領域を含む範囲を板幅方向に7分割した際の各反射光領域分割区域の上流側と下流側の境界線間距離の分布の一例を示す図である。
【0046】
まず、画像処理計算機80では、カメラ61,62,63,64が撮影する画像のうち、選択した圧延表面画像範囲に対してピクセル毎に二値化処理を実行して、明るさ度合の適正な閾値を求めることにより、反射光領域の上流側と下流側の幅方向境界線を圧延長手方向に2点求める。この処理を板幅方向のすべてで行い、反射光領域1A,1Bを特定する。その詳細は公知の方法とすることができる。
【0047】
次いで、反射光領域1A,1Bを板幅方向にN分割(
図4では5分割、
図5では7分割)した。jを各分割区域の番号(No.)(j=1~N)としたときに、分割区域No.jの画像内に存在するピクセル(画素)に関し、板幅方向(X軸方向)のピクセル位置毎に、反射光領域の上流側と下流側との圧延方向(Y軸方向)の境界線間距離を求め、指標情報を算出する。例えば、
図4では、分割区域ごとに、その圧延方向の平均長さLajを指標情報として算出した結果を棒グラフとして作成した。
【0048】
この際、詳しくは後述するチェビシェフ多項式
E(x)= C0’+C1’×x+C2’×(2x2-1)+C4’×(8x4-8x2+1) … (1)
にて、指標情報E(x)を近似する際、C0’、C1’、C2’、C4’を求めるための後述される未知の係数(C0、C1、C2、C4)が4つあり、未知数を求めるためには関係式が4つ以上必要となるため、板幅方向の分割数は4以上とする。また、板幅方向中央部がある分割区域に属していることが望ましいため、分割数は奇数として、板幅中央部が各々の分割区域の境界に位置しないようにすることが望ましい。
【0049】
なお、一つの分割区域に板幅方向に含むピクセル数は複数であることが好ましい。板幅方向のピクセルに異常があった場合の影響を受け難くするためである。分割数は、4から11が望ましい。特に、奇数が望ましい。分割数の下限の4は、チェビシェフ多項式の係数を求め得るようにするためであり、分割数の上限の11は、11分割あれば十分な精度の係数が得られ、これ以上に分割数を大きくしても、計算の負荷が大きくなるほどに精度は上がらないためである。
【0050】
次いで、画像処理計算機80は、その棒グラフの板幅方向の位置を示す値を変数(x)としたときに、画像内の領域の板幅方向の位置を-1≦x≦1の範囲に座標変換して規格化される。x=-1は板幅の駆動側(DS)端部、x=1は板幅の作業側(WS)端部、x=0は板幅の中央位置を表し、各々の分割区域における指標情報を各々の分割区域の分布(E(x))とする、0次、1次、2次、及び4次の項のみからなるE(x)= C0+C1×x+C2×x2+C4×x4で表される関数を用いて、まず、各成分の係数ベクトル(C0,C1,C2,C4)を算出し、その後、チェビシェフ多項式と上記式を等価な式として、各成分であるチェビシェフ多項式係数ベクトル(C0’、C1’、C2’、C4’)を求める。
【0051】
板幅方向に対する圧延方向の板伸び分布に対応した指標情報をチェビシェフ多項式で近似することの特徴としては、(1)板幅範囲(X軸)を、-1から+1の範囲で規格化し、(2)1次成分(片伸び)・2次成分(中伸び・耳伸び)・4次成分(クォータ伸び)が分離され、各成分に対する制御操作量を容易に判断できる点が挙げられる。
【0052】
以下、各分割区域の測定値から、チェビシェフ多項式係数ベクトル(C
0’、C
1’、C
2’、C
4’)の算出方法を示す。ここでは、
図5に示すように、
図4等とは異なり金属帯板1の幅方向を7分割した際を例に説明する。
【0053】
図5に示すように幅方向7分割した際の指標情報の各分布値ベクトル(E
1、E
2、E
3、E
4、E
5、E
6、E
7)と4次式係数ベクトル(C
0、C
1、C
2、C
4)の関係式は、x=xiとすると、以下の式(2)のように表せる。すなわち、
E(x
i)=C
0+C
1×x
i+C
2×x
i
2+C
4×x
i
4 (i=1~7) ・・・ (2)
式(2)をベクトルとマトリックスで表すと、次に示す式(3)のようになる。
【0054】
【0055】
ここで、式(3)中、板幅方向位置(x)は、(-1≦x≦1)であり、x=-1は、駆動側(DS)の板幅端部位置、x=1は、作業側(WS)の板幅端部位置を表す。xi(i=1~7)は、各分割区域位置での検出値を設定した板幅方向位置(-1≦xi≦1)であり、板幅センタ位置をx=0とした各分割区域中央位置での幅方向位置座標(xi)といえる。
【0056】
この式(3)から、未知数ベクトル(C0、C1、C2、C4)を最小二乗法にて算出し、チェビシェフ多項式係数ベクトル(C0’、C1’、C2’、C4’)を求める。この際の最小二乗法は以下に示すものとすることができる。
【0057】
まず、式(3)を、マトリックス形式・ベクトル形式の文字で表して、E=M×Cと表記すると、左辺と右辺に左から転置マトリックスMTを乗じると次の式(4)で表される。
【0058】
MT ×E= (MT×M)×C ・・・ (4)
但し、E=[E1,E2,E3,E4,E5,E6,E7]、M=[[1,x1,x1
2
,x1
4],[1,x2,x2
2
,x2
4],[1,x3,x3
2
,x3
4],[1,x4,x4
2
,x4
4],[1,x5,x5
2
,x5
4],[1,x6,x6
2
,x6
4],[1,x7,x7
2
,x7
4]]、C=[C0,C1,C2,C4]とする。
【0059】
したがって、係数ベクトルCは、マトリックス(MT×M)の逆行列(MT×M)-1を用い、以下の式(5)にて算出される。
C= (MT×M)-1×MT×E ・・・ (5)
この式(5)から、(C0、C1、C2、C4)を求め、チェビシェフ多項式係数ベクトル(C0’、C1’、C2’、C4’)で、反射光領域の状態を示す指標情報E(x)を表すと、上記の式(1)になる。
【0060】
よって、(C0’、C1’、C2’、C4’)は、式(1)、式(2)により、以下の式(6)で各々算出することができる。
【0061】
【0062】
ここで、0次成分の項C
0’は、式としては必要であるため、求めることが望ましい。0次成分の項C
0’が全体のベースライン(基礎)となる指標情報を表しており、他の次数成分はそのベースラインにのった上での各次数の成分分布を表している。1次以上の成分に対応する板伸び分布が生じていない場合、反射光領域の上流側と下流側の境界線間距離は、
図2に示すように圧延方向にほぼ均一な長さになる。
【0063】
ここで、本発明者らが鋭意検討を行った結果、以下のような追加の処理を行うことで上記のようなルーパー71,72,73,74の角度変動に対応可能であることが明らかとなった。以下、
図6及び
図7を用いて説明する。
図6は圧延設備における操業の際に、ルーパー上部位置hが高い場合の様子を示す図、
図7に圧延設備における操業の際に、ルーパー上部位置hが低い場合の様子を示す図である。
【0064】
特許文献2では、板に映る反射光領域の圧延方向長さや面積などの変化は、板の圧延伸び変化に対応していることを前提としている。この前提は、ルーパー71,72,73,74の角度θ、すなわちルーパー71,72,73,74の頂点位置hの高さが一定である場合には成立する。
【0065】
しかしながら、ルーパー71,72,73,74はライン張力を制御するために設置されているため、ルーパー71,72,73,74の角度θは、圧延中に変動する。この場合、板幅方向の板伸び分布が一定であるにも関わらず、ルーパー71,72,73,74の角度θが変動することにより、金属帯板1に映る反射光領域の圧延方向長さや面積などは変動し、あたかも板伸び分布が変化しているような現象を引き起こす。
【0066】
例えば、
図6に示すように、ルーパー71,72,73,74の上部位置hが高い場合、反射光領域1A,1Bの圧延方向長さwは、
図7に示すようなルーパー71,72,73,74の上部位置hが低い場合に比べて相対的に短くなる。
【0067】
そこで、本発明では、このようなルーパー71,72,73,74の角度の変動の影響を打ち消し、板伸び分布の変化だけを評価する処理を更に行う。
【0068】
上述のように、特許文献2において、ルーパー71,72,73,74で持ち上げられた金属帯板1の湾曲部近傍の金属帯板1の表面に映る反射光領域の圧延方向長さや面積などの板幅方向分布に適用をしているチェビシェフ多項式は、式(1)のようである。
【0069】
ここで、式(1)中のE(x)は、ルーパー71,72,73,74での金属帯板1の表面の反射光領域の圧延方向の距離を示す。
【0070】
ルーパー71,72,73,74での金属帯板1の表面の反射光領域の圧延方向距離は、金属帯板1の圧延方向の曲率半径に対応しており、金属帯板1の圧延方向の曲率半径は、ルーパー71,72,73,74の高さ位置が一定であれば、板伸びの大きさにより決まる。
【0071】
つまり、ルーパー71,72,73,74の角度が一定であれば、E(x)は、ルーパー71,72,73,74での金属帯板1の表面の反射光領域の圧延方向の距離を示すとともに、板伸びに対応した大きさを表していることになる。
【0072】
そこで、ルーパー71,72,73,74の角度変化に依存しないチェビシェフ係数の補正を行うが、まずはルーパー71,72,73,74の角度θの関数である比例補正係数A(θ)を導入することとする。
【0073】
上記の式(1)のE(x)において、板幅中央位置であるx=0では、圧延中、常に板伸び量E(0)が一定になるように、式(1)を補正したEc(x)を次のように定義する。
【0074】
Ec(x)=C0c + C1cx + C2c(2x2-1) + C4c(8x4-8x2+1) (-1≦x≦1) ・・・ (7)
つまり、Ec(x)は、ルーパー71,72,73,74の角度の変化に依存せず、純粋な板伸びの相対分布を表しているものと定義する。
【0075】
ここで式(1)のE(x)は、純粋な板伸び分布を表している式(7)のEc(x)に、ルーパー71,72,73,74の角度θの関数であるA(θ)を比例補正係数として掛けたものとすることができる。すなわち、以下の式(8)のように記述できる。
【0076】
E(x)=A(θ)Ec(x)=A(θ)[C0c + C1cx + C2c(2x2-1) + C4c(8x4-8x2+1)] ・・・ (8)
これら式(1)と式(8)とから、次のような関係が得られる。
【0077】
C0’ = A(θ)C0c ・・・ (9)
C1’ = A(θ)C1c ・・・ (10)
C2’ = A(θ)C2c ・・・ (11)
C4’ = A(θ)C4c ・・・ (12)
ここで、純粋な板伸び分布を表しているEc(x)のチェビシェフ係数(C0c、C1c、C2c、C4c)は、式(9)乃至式(12)から、次の式(13)乃至式(16)のように記述できる。
【0078】
C0c = C0’/ A(θ) ・・・ (13)
C1c = C1’/ A(θ) ・・・ (14)
C2c = C2’/ A(θ) ・・・ (15)
C4c = C4’/ A(θ) ・・・ (16)
すなわち、A(θ)を求めることができれば、純粋な板伸び分布を表しているEc(x)のチェビシェフ係数(C0c、C1c、C2c、C4c)を得ることができることがわかる。
【0079】
次いで、ルーパー71,72,73,74の角度θの関数である比例補正係数A(θ)の導出の流れについて説明する。
【0080】
各々の圧延機(F1スタンド10や、F2スタンド20、F3スタンド30、F4スタンド40、F5スタンド50)においては、圧延操業におけるパススケジュールが設定されており、各々の圧延機での入側板厚と出側板厚とは決められて制御されており、圧延による板厚の圧下率は一定に制御されている。このため、圧延中の各圧延機における板伸び平均値は一定に保たれている。
【0081】
従って、ルーパー71,72,73,74の角度が一定で変化しなければ、本来、式(1)の板幅中央位置x=0での板伸び指標E(0)は、圧延中、一定の値を保持されていると考えることができる。しかし、実際は、ルーパー71,72,73,74の角度が変動することにより、式(1)のE(0)は、一定の値を示さない。
【0082】
ここで、ある時刻t(Time=t)の時の式(1)のx=0でのE(0)を、Et(0)=Estd(定数)と定義する。また、この時刻tにおけるルーパー71,72,73,74の角度θをθstdとして、A(θstd)=1と定義する。
【0083】
すなわち、ある特定の時刻t(Time=t)の時の式(1)のチェビシェフ係数の0次成分(C0’)を(C0’t)、2次補正係数(C2’)を(C2’t)、4次補正係数(C4’)を(C4’t)として、x=0の時、式(1)は、次の式(17)のように記述できる。
【0084】
Et(0) = C0’t- C2’t+ C4’t = Estd ・・・ (17)
ルーパー71,72,73,74の角度の変化に依存せず、純粋な板伸び分布を表している式(7)の板幅中央位置であるx=0でのEc(0)は、各々の圧延機において決められたパススケジュールで圧延が行われていることから、Et(0)=Ec(0)となり、次の式(18)のように記述できる。
【0085】
Et(0)=Ec(0)=C0c - C2c + C4c = Estd ・・・ (18)
上述の式(8)から、E(0)は次の式(19)のように記述できる。
【0086】
E(0)=A(θ)Ec(0)=A(θ)(C0c - C2c + C4c)=A(θ)Estd ・・・ (19)
よって、ルーパー71,72,73,74の角度θの関数であるA(θ)は、式(19)から、次の式(20)のように記述できる。
【0087】
A(θ) = E(0) / Estd ・・・ (20)
次いで、純粋な板伸び分布を表しているEc(x)のチェビシェフ係数(C0c、C1c、C2c、C4c)を算出する。
【0088】
板幅中央位置x=0における式(1)のE(0)は、次の式(21)のように記述できる。
【0089】
E(0) = C0’ - C2’ + C4’ ・・・ (21)
すなわち、式(15)のルーパー71,72,73,74の角度θの関数であるA(θ)は、次の式(22)のように書き直せる。
【0090】
A(θ) = (C0’ - C2’ + C4’) / Estd ・・・ (22)
ここで、式(22)を、式(13)乃至式(16)に代入することにより、純粋な板伸び分布を表しているEc(x)のチェビシェフ係数である0次補正係数(C0c)、1次補正係数(C1c)、2次補正係数(C2c)、及び4次補正係数(C4c)を次の式(23)乃至式(26)のように求めることができる。
【0091】
C0c = C0’Estd / (C0’ - C2’ + C4’) ・・・ (23)
C1c = C1’Estd / (C0’ - C2’ + C4’) ・・・ (24)
C2c = C2’Estd / (C0’ - C2’ + C4’) ・・・ (25)
C4c = C4’Estd / (C0’ - C2’ + C4’) ・・・ (26)
すなわち、式(23)乃至式(26)により、ルーパー71,72,73,74の角度に依存せず、板伸びの大きさにのみ依存するチェビシェフ係数をより正確に求めることができる。
【0092】
また、本実施例では、3次成分を採用しないものとする。これは、圧延機の圧延制御機構が3次成分の板伸び修正に対応するようになっていないためであり、3次成分の演算処理や対応手段を省くことで、分離された1次成分、2次成分、4次成分の圧延板形状の状況判断や板伸び修正がより容易にできる。
【0093】
画像処理計算機80は、この式(6)にて求めた板幅方向の多項式近似結果に基づいて、レベリング・ベンディング力・ペアクロス角度などを修正する制御指令信号を制御装置82に対して出力することができる。更には、替わって、あるいは加えて、モニタ85に対してレベリング・ベンディング力・ペアクロス角度などを修正するために必要なガイダンス表示を行うための表示指令信号を出力することでオペレータに、レベリング・ベンディング力・ペアクロス角度などの修正情報を伝えることができる。
【0094】
好適には、画像処理計算機80は、上述のE(x)における各次数項ベクトル(C
0c、C
1c、C
2c、C
4c)の関数の0次成分(C
0c)、1次成分(C
1c×x)、2次成分(C
2c×(2x
2-1))、4次成分(C
4c×(8x
4-8x
2+1))の各成分項のグラフを表示するようモニタ85に信号を発信することができる。モニタ85に表示される画面は、例えば
図8に示すような画面となる。
【0095】
図8はモニタの表示画面の一例を示す図である。
図8では、0次成分項(C
0c)も表示しているが、0次成分項に基づいて、自動制御やオペレータへの操作支援をしないので、0次成分項の信号をモニタ85に発信したり、モニタ85に表示する必要は必ずしもない。なお、0次成分項では、ライン張力変化の情報を知ることができる。
【0096】
オペレータは、この
図8に示す画面を確認して、例えばレベリング・ベンディング力・ペアクロス角度(ペアクロス圧延機の場合)などを修正する操作を行うことができる。例えば、1次成分(C
1c×x)は片伸びを示しているので、圧下シリンダ11,21,31,41,51のレベリングを操作することになる。
【0097】
補正したEc(x)のチェビシェフ多項式係数のうち、1次成分のC1cは片伸びの指標を示しているので、該当のカメラ64の上流側の駆動側(DS)と作業側(WS)の圧下シリンダ41、及び/あるいは下流側の駆動側(DS)と作業側(WS)の圧下シリンダ51のレベリングを操作して、1次成分を正常化(目標の範囲内に)させるように制御装置82に対して操作指令信号を出力する。
【0098】
補正したEc(x)のチェビシェフ多項式係数のうち、2次成分のC2cは耳伸びまたは中伸びの指標を示している。そこで、次のいずれか一つ以上の操作をする。該当のカメラ64の上流側圧延機であるF4スタンド40、及び/あるいは下流側圧延機であるF5スタンド50のワークロール/中間ロールのベンディング装置を操作するよう、ペアクロス圧延機の場合はペアクロス角度を操作するよう、ワークロールシフト/中間ロールシフト圧延機の場合は圧延中にシフトを行うことが困難なことから予め中伸び/耳伸びを予測してワークロール/中間ロールをシフト操作するように制御装置82に対して操作指令信号を出力することで、2次成分を正常化(目標の範囲内に)させる。
【0099】
補正したEc(x)のチェビシェフ多項式係数のうち、4次成分C4cはクォーター伸びの指標を示している。そこで、クォーター伸びを修正するために、次のいずれか一つ以上の操作をする。該当のカメラ64の上流側圧延機であるF4スタンド40、及び/あるいは下流側圧延機であるF5スタンド50のワークロールのベンディング装置のベンディング操作を行い、さらに、ペアクロスミルの場合は、ベンディング操作とともに、又は、単独でペアクロス角度を操作する。6段の中間ロールシフト圧延機の場合は、予めクォーター伸びを予測して、適正な位置に中間ロールをシフト操作する。ベンディング操作及びペアクロス角度操作を行うように制御装置82に対して操作指令信号を出力することで、クォーター伸びを示す4次成分を正常化(目標板形状なるように目標の範囲内に)させる。なお、クォーター伸びは、ロール長さに対してロール径が小さい程、ベンディング操作によってロール幅端部の領域でロールが曲がり易くなるため、クォーター伸びが生じ易くなるが、上記操作により、正常化できる。
【0100】
次に、本実施例の効果について説明する。
【0101】
上述した本実施例のルーパー71,72,73,74で持ち上げられた金属帯板1の表面に板幅方向に横断する帯状の反射光が映る領域を含む画像を撮影するように設置したカメラ61,62,63,64と、カメラ61,62,63,64が撮影する画像に基づき、金属帯板1の板形状を判断する画像処理計算機80と、を備える圧延された金属帯板1の板形状検出装置のうち、画像処理計算機80は、画像内の領域を金属帯板1の板幅方向に複数に分割し、分割した各々の区域の各々の板幅方向位置を示す値を変数(x)としたときに、画像内の領域の板幅範囲内の板幅方向の位置を-1≦x≦1の範囲に規格化して変換し、区域における、領域の板伸び量に対応した大きさを表す指標情報を各々の区域の分布E(x)とするxの0次、1次、2次、及び4次の項のみからなるE(x)=C0’+C1’×x+C2’×(2x2-1)+C4’×(8x4-8x2+1)(但し、-1≦x≦1)とのチェビシェフ多項式に当てはめて、チェビシェフ多項式の係数(C0’、C1’、C2’、C4’)を求め、E(x)において、金属帯板1の板幅中央位置であるx=0では、常に板伸び量E(0)が一定となるようにE(x)をEc(x)=C0c+C1c・x+C2c・(2x2-1)+C4c・(8x4-8x2+1)として補正し、圧延方向の板伸びの板幅方向における分布に対応した情報として、1次補正係数(C1c)、2次補正係数(C2c)、及び4次補正係数(C4c)のうちいずれか1つ以上の補正係数を板幅方向の板伸び分布の判断結果信号として発信する。
【0102】
このような処理によって、ルーパー71,72,73,74の角度変化に依存しないチェビシェフ係数の補正を行うことができるため、ルーパー角度の変動の影響を打ち消し、板伸び分布の変化だけを評価することができる。従って、従来に比べてより精度の良い板伸びの検出を実施することができる。
【0103】
また、1次補正係数(C1c)、2次補正係数(C2c)、及び4次補正係数(C4c)を、C1c=C1’Estd/E(0)=C1’Estd/(C0’-C2’+C4’)・・・(24)、C2c=C2’Estd/E(0)=C2’Estd/(C0’-C2’+C4’)・・・(25)、C4c=C4’Estd/E(0)=C4’Estd/(C0’-C2’+C4’)・・・(26)で、但し、Estdは定数であり、ある特定の時刻Time=tで示されるC0’、C2’、C4’を用いてEstd=C0’t-C2’t+C4’tと表すものとし、Time=tの時のC0’、C2’、C4’が、C0’=C0’t、C2’=C2’t、C4’=C4’tとして表すものとする。この補正により、ルーパー角度の変動があったとしても、純粋な板伸び分布の変化だけをより精度よく評価することができる。
【0104】
<その他>
なお、本発明は上記の実施例に限られず、種々の変形、応用が可能なものである。上述した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されない。
【符号の説明】
【0105】
1…金属帯板
1A,1B…反射光領域
10…F1スタンド
11,21,31,41,51…圧下シリンダ
12,22,32,42,52…荷重検出器
20…F2スタンド
30…F3スタンド
40…F4スタンド
50…F5スタンド
61,62,63,64…カメラ
71,72,73,74…ルーパー
80…画像処理計算機(画像処理部)
82…制御装置
85…モニタ
90…通信線
100…圧延設備
【要約】
【課題】ルーパー角度の変動の影響を打ち消し、板伸び分布の変化だけを評価する。
【解決手段】画像内の領域を金属帯板1の板幅方向に複数に分割し、分割した各々の区域の各々の板幅方向位置を示す値を変数(x)としたときに、画像内の領域の板幅範囲内の板幅方向の位置を-1≦x≦1の範囲に規格化して変換し、区域における、領域の板伸び量に対応した大きさを表す指標情報を各々の区域の分布E(x)とするxの0次、1次、2次、及び4次の項のみからなるチェビシェフ多項式E(x)に当てはめて、その係数を求め、金属帯板1の板幅中央位置であるx=0では、常に板伸び量E(0)が一定となるようにE(x)をEc(x)として補正し、圧延方向の板伸びの板幅方向における分布に対応した情報として1次補正係数、2次補正係数、及び4次補正係数のうち1つ以上を板幅方向の板伸び分布の判断結果信号として発信する。
【選択図】
図1