(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-09
(45)【発行日】2024-08-20
(54)【発明の名称】血液凝固第XIII因子活性値決定方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/56 20060101AFI20240813BHJP
G01N 33/86 20060101ALI20240813BHJP
【FI】
C12Q1/56
G01N33/86
(21)【出願番号】P 2024045950
(22)【出願日】2024-03-22
【審査請求日】2024-04-04
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】318010328
【氏名又は名称】KMバイオロジクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080160
【氏名又は名称】松尾 憲一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100149205
【氏名又は名称】市川 泰央
(72)【発明者】
【氏名】竹尾 和寛
(72)【発明者】
【氏名】川上 直哉
(72)【発明者】
【氏名】竹ノ内 彩乃
(72)【発明者】
【氏名】荒木 辰也
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-309700(JP,A)
【文献】特表2013-506429(JP,A)
【文献】特表2013-506401(JP,A)
【文献】特開2018-128388(JP,A)
【文献】体外診断用医薬品「ベリクロームFXIII」添付文書
【文献】Kerlin B, et al.,Pharmacokinetics of recombinant factor XIII at steady state in patients with congenital factor XIII A-subunit deficiency,Journal of Thrombosis and Haemostasis,2014年,vol.12,P.2038-2043
【文献】菅野信子 ほか,全自動血液凝固分析装置COAGTRON-350におけるBerichrom FXIII を用いた血液凝固第XIII因子活性測定条件の検討,臨床病理,2012年12月25日,Vol.60,No.12,P.1131-1138
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/56
G01N 33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血漿以外の被験試料に含まれる未知の血液凝固第XIII因子(第XIII因子)活性値を、第XIII因子活性既知の基準試料と被験試料の物性値の比較により決定する方法であって、
前記物性値は、グルタミン残基を有する第XIII因子の所定の基質とグリシンエチルエステルとをカルシウムイオンとトロンビンとの存在下で前記被験試料又は基準試料中の第XIII因子により反応させてアンモニアを生成させつつ、同アンモニアとα-ケトグルタル酸とをNAD(P)H又はNAD(P)H類縁体の存在下でグルタミン酸デヒドロゲナーゼにより反応させることで消費されるNAD(P)H若しくはNAD(P)H類縁体又は生成されるNAD(P)若しくはNAD(P)類縁体の単位時間あたりの変化量に相応する物性値であり、
前記基準試料及び被験試料には、2.0~4.0mg/mLの濃度でフィブリノゲンを含有させたことを特徴とする第XIII因子活性値決定方法。
【請求項2】
被験物品(ただし、血漿を除く。)より調製した被験試料(ただし、血漿を除く。)に含まれる未知の血液凝固第XIII因子(第XIII因子)活性値に応じた物性値を測定して、基準試料に含まれる既知の第XIII因子活性値に応じた物性値と比較することにより、前記被験物品又は前記被験試料中の第XIII因子活性値を決定する方法であって、
前記被験試料及び基準試料における第XIII因子活性値に応じた物性値は、グルタミン残基を有する前記第XIII因子の所定の基質とグリシンエチルエステルとをカルシウムイオンとトロンビンとの存在下で前記被験試料又は基準試料中の第XIII因子により反応させてアンモニアを生成させつつ同アンモニアとα-ケトグルタル酸とをNAD(P)H又はNAD(P)H類縁体の存在下でグルタミン酸デヒドロゲナーゼにより反応させることで消費されるNAD(P)H若しくはNAD(P)H類縁体又は生成されるNAD(P)若しくはNAD(P)類縁体の単位時間あたりの変化量に相応する物性値であり、
前記基準試料は、1mLの正常血漿中の第XIII因子の活性を1単位とした場合に、予め設定した測定点試料活性目標値に合致させた既知の第XIII因子活性値を有する1つの測定点試料又は複数のそれぞれ異なる測定点試料活性目標値に合致させた既知の第XIII因子活性値を有する複数の測定点試料により構成し、
前記被験物品及び被験試料は第XIII因子活性値が予め予測されたものであり、前記測定点試料が1つの場合には当該測定点試料の第XIII因子活性値を被験試料活性目標値とする一方、前記測定点試料が複数の場合には前記基準試料のうち最大の第XIII因子活性を有する測定点試料の活性値から最小の第XIII因子活性を有する測定点試料の活性値までの範囲内より選択される値を被験試料活性目標値として、前記第XIII因子活性の予測値が前記被験試料活性目標値となるよう前記被験試料を調製し、
前記基準試料及び被験試料には、2.0~4.0mg/mLの濃度でフィブリノゲンを含有させたことを特徴とする第XIII因子活性値決定方法。
【請求項3】
前記測定点試料活性目標値は1.0単位/mLに設定し、
前記基準試料は、第XIII因子活性値を1.0単位/mLとした1つの測定点試料にて構成することを特徴とする請求項2に記載の第XIII因子活性値決定方法。
【請求項4】
前記測定点試料活性目標値は0.5単位/mLと、1.0単位/mLと、1.5単位/mLに設定し、
前記基準試料は、第XIII因子活性値を0.5単位/mLと、1.0単位/mLと、1.5単位/mLとした3つの測定点試料にて構成することを特徴とする請求項2に記載の第XIII因子活性値決定方法。
【請求項5】
前記反応は、37℃にて行うことを特徴とする請求項2に記載の第XIII因子活性値決定方法。
【請求項6】
前記被験試料及び基準試料における第XIII因子活性値に応じた物性値は、前記反応により消費されるNADHの波長340nmにおける1分間あたりの吸光度の変化量であり、
同変化量は、前記反応の開始5分後と10分後にそれぞれ測定した吸光度の差を5で割った商として求めることを特徴とする請求項2に記載の第XIII因子活性値決定方法。
【請求項7】
請求項2に記載の第XIII因子活性値決定方法にて使用する前記被験試料の調製方法であって、
前記被験物品は、第XIII因子活性の予測値が1.5単位/mLを上回る高活性被験物品であり、
前記被験試料は、オーレンベロナール緩衝液に2.0~4.0mg/mLの濃度でフィブリノゲンを含有させたフィブリノゲン試液を使用して前記高活性被験物品を希釈し調製することを特徴とする被験試料の調製方法。
【請求項8】
前記高活性被験物品の第XIII因子活性の予測値が10.0単位/mLを上回る場合には、
オーレンベロナール緩衝液に0.5w/v% HSA及び/又は0.1v/v%Tween20を含有させた検体希釈液により第XIII因子活性の予測値が前記被験試料活性目標値の10倍となるよう希釈して被験中間希釈試料を調製し、
次いで、第XIII因子活性の予測値が前記被験試料活性目標値となるよう前記被験中間希釈試料を前記フィブリノゲン試液により10倍希釈して被験試料を調製することを特徴とする請求項7に記載の被験試料の調製方法。
【請求項9】
前記フィブリノゲン試液のフィブリノゲン濃度は2.5mg/mLであることを特徴とする請求項7に記載の被験試料の調製方法。
【請求項10】
請求項2に記載の第XIII因子活性値決定方法にて使用する前記測定点試料の調製方法であって、
前記測定点試料は、オーレンベロナール緩衝液に2.0~4.0mg/mLの濃度でフィブリノゲンを含有させたフィブリノゲン試液を使用して前記測定点試料活性目標値よりも大きな既知の第XIII因子活性値を有する標準物質を希釈し調製することを特徴とする測定点試料の調製方法。
【請求項11】
前記標準物質の第XIII因子活性値が前記測定点試料活性目標値の10倍を上回る場合には、
オーレンベロナール緩衝液に0.5w/v% HSA及び/又は0.1v/v%Tween20を含有させた検体希釈液により第XIII因子活性値が前記測定点試料活性目標値の10倍となるよう希釈して測定点中間希釈試料を調製し、
次いで、第XIII因子活性値が前記測定点試料活性目標値となるよう前記測定点中間希釈試料を前記フィブリノゲン試液により10倍希釈して測定点試料を調製することを特徴とする請求項10に記載の測定点試料の調製方法。
【請求項12】
採取された血液又は血液の分画物に所定の前処理を施して半製品(ただし、血漿を除く。)を調製する半製品調製工程と、
前記半製品又は半製品に対して測定のために必要な処理を施した処理物(ただし、血漿を除く。)を被験物質として請求項2に記載の第XIII因子活性値決定方法により半製品の第XIII因子活性値の決定を行う第XIII因子活性値決定工程と、
第XIII因子活性値決定工程にて決定した第XIII因子活性値に基いて前記半製品の適否判断を行い、同半製品が適品と判断された場合には必要に応じ所定の後処理を施して血液製剤とする製品生成工程と、
を備えることを特徴とする血液製剤の製造方法。
【請求項13】
前記第XIII因子活性値決定方法にて使用する前記被験試料は、請求項7~9いずれか1項に記載の被験試料の調製方法により調製されたものであることを特徴とする請求項12に記載の血液製剤の製造方法。
【請求項14】
前記第XIII因子活性値決定方法にて使用する前記測定点試料は、請求項10又は請求項11に記載の測定点試料の調製方法により調製されたものであることを特徴とする請求項12に記載の血液製剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液凝固第XIII因子(以下、単に第XIII因子ともいう。)の活性値決定方法、被験試料の調製方法、測定点試料の調製方法及び血液製剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
第XIII因子は、血液の止血機構においてフィブリンの安定化に寄与する重要な因子である。
【0003】
第XIII因子は、主に血漿、血小板及び胎盤に存在しており、これを製剤化した第XIII因子製剤は、臨床適用での止血作用における重要因子として、先天性ないしは後天性の第XIII因子欠損症及び減少症への補充とともに、一般外科手術後の創傷治癒促進に大きな効果をもたらしている。
【0004】
また第XIII因子は、単剤としての第XIII因子製剤だけではなく、手術において組織の接着・閉鎖に用いられる生体組織接着剤の有効成分の一つとしても医薬品化されている。
【0005】
第XIII因子の活性値の代表的な測定方法(決定方法)としては、フィブリン凝塊の溶解度(クロット溶解)に基づく方法や、取り込まれたアミン量に基づく方法(アミン取り込み法)、生成したアンモニア量に基づく方法の3つが挙げられる。その他にも、フィブリノゲンがトロンビンによりフィブリンとなり、活性化第XIII因子によりフィブリンが架橋されフィブリン塊となる反応を第XIII因子活性に依存した凝固時間として測定する方法も報告されている(特許文献1)。
【0006】
しかし、上記代表的な3つの方法のうち、クロット溶解に基づく方法(非特許文献1)は、血漿サンプルを塩化カルシウム又はトロンビンで凝固させたクロット(フィブリン塊)が5mol/L尿素液、2%酢酸又は1%モノクロール酢酸によって溶解するか否かを評価することによる定性的な結果、またサンプルの希釈系列作製後に評価を行っても半定量的な結果しか得られないため、一般的にはアミン取り込み法か、生成したアンモニア量に基づく方法が使用される。
【0007】
アミン取り込み法は、イアトロ(登録商標)-FL FXIIIキットとして商品化実績のある方法(特許文献2)だが、このキットは既に販売を終了している。従って、被験試料中の第XIII因子活性値の決定に際しては、カゼイン溶液、トロンビンとモノダンシルカダベリンとカルシウムとの混合溶液、およびマレイミド溶液の調製が必要である。
【0008】
各試薬の調製後は、まず被験試料とカゼイン溶液を混合し、56℃にて4分間処理を行うことで被験試料中のフィブリノゲンの変性除去を行い、次に氷冷後、トロンビンとモノダンシルカダベリンとカルシウムとの混合溶液を添加し、37℃にて10分間反応させることで第XIII因子を活性化させ、蛍光物質であるモノダンシルカダベリンをカゼインに取り込ませる。次に、マレイミドの添加で反応を停止させ、ゲルろ過カラムにより遊離のモノダンシルカダベリンからモノダンシルカダベリン-ジメチルカゼインの複合体を溶出液として分取し、同複合体に取り込まれたモノダンシルカダベリンに由来する蛍光強度(emission 510 nm;excitation 335 nm)を測定することで、同様に標準ヒト血漿を用いて測定した蛍光強度に基づく検量線と対比して活性値を計算し決定する。
【0009】
このように、アミン取り込み法は、第XIII因子活性値に応じた物性値として複合体に取り込まれたモノダンシルカダベリンに由来する蛍光強度の値を測定する方法であり、物性値として得たこの蛍光強度の値に基づいて第XIII因子活性値の決定が行われる。
【0010】
また、上記3番目の生成したアンモニア量に基づく方法(特許文献3)は、Siemens Healthineers社により、「ベリクローム(登録商標)FXIII/Berichrom(登録商標) FXIII」の商品名で、測定の対象を血漿に特化させたキットとして商品化されている(非特許文献2)。
【0011】
アンモニア量に基づく方法は、まず血漿中の第XIII因子をカルシウムイオンの存在下でトロンビンにより活性化する(第XIIIa因子)と共に、フィブリンの重合をフィブリン凝集阻害剤(Gly-Pro-Arg-Pro等)により阻害する。
【0012】
この状態において、第XIIIa因子に対する2つの基質、具体的には特定のグルタミン含有ペプチド(合成基質)とグリシンエチルエステルが存在すると、第XIIIa因子はグリシンエチルエステルと合成基質との間で架橋反応を行う。
【0013】
このとき、この架橋反応に伴ってアンモニアが発生するので、同アンモニアをグルタミン酸デヒドロゲナーゼによりα-ケトグルタル酸に取り込ませる。このアンモニアの取り込みの際、グルタミン酸デヒドロゲナーゼはNADHを消費する。
【0014】
このNADHの消費の早さ、すなわち単位時間あたりの変化量は、アンモニアの発生量が多いほど早く消費され、このアンモニアの発生量は第XIIIa因子活性が高いほど多く発生する。
【0015】
よって、反応中に変化するNADHの量を吸光度(A340)で捉えて単位時間あたりの変化量を求め、標準ヒト血漿を用いて同様に測定した吸光度(A340)の単位時間あたりの変化量と対比して、活性値を計算し決定が行われる。
【0016】
生成したアンモニア量に基づく方法による血漿検体の測定での参照材料の検討において、標準血漿を希釈してXIII因子濃度依存性を評価するに際して、標準血漿をXIII因子欠乏血漿との混合で希釈した測定法を開示した報告もある(特許文献3、特許文献4)。
【0017】
また、アッセイキット(ベリクロームFXIII)について、組換えXIII因子の活性測定に特化して改良を加えた報告はあるが(非特許文献3:Kerlin B, Brand B, Inbal A, et al., Journal of Thrombosis and Haemostasis, vol.12: 2038-2043, 2014)、検体と検量線を組換えXIII因子で揃え、希釈液の生理食塩水に牛血清アルブミンとK2-EDTAを加えたものであり、多様な検体に対応させたものではない。
【0018】
以上述べたとおり、アンモニア量に基づく方法は、第XIII因子活性値に応じた物性値としてNADHの吸光度(A340)の値を測定する方法であり、物性値として得たこの吸光度(A340)の値に基づいて第XIII因子活性値の決定が行われる。なお以下の説明において、このアンモニア量に基づく方法の如く、第XIII因子活性値の決定にあたり、グルタミン残基を有する第XIII因子の所定の基質とグリシンエチルエステルとをカルシウムイオンとトロンビンとの存在下で第XIII因子により反応させてアンモニアを生成させつつ同アンモニアとα-ケトグルタル酸とをNAD(P)H又はNAD(P)H類縁体の存在下でグルタミン酸デヒドロゲナーゼにより反応させることで消費されるNAD(P)H若しくはNAD(P)H類縁体又は生成されるNAD(P)若しくはNAD(P)類縁体の単位時間あたりの変化量を求める方法を、説明の便宜上FXIII-GLDH法とも称する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【文献】特開平06―094726号公報
【文献】特開昭58―216959号公報
【文献】特開平01-309700号公報
【文献】特表2013―506429号公報
【非特許文献】
【0020】
【文献】Jennings I, Kitchen S, Woods TAL, and Preston FE. Problems relating to the laboratory diagnosis of factor XIII deficiency: a UK NEQAS study. J Thromb Haemost 2003; 1: 2603-2608.
【文献】体外診断用医薬品ベリクロームFXIII添付文書
【文献】Kerlin B, Brand B, Inbal A, et al., Journal of Thrombosis and Haemostasis, vol.12: 2038-2043, 2014
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
ところで、先述の通り第XIII因子は、第XIII因子製剤や生体組織接着剤の有効成分の一つとして利用されており、その製造過程では第XIII因子の精製や濃縮が行われる。
【0022】
そのため、このような製剤を製造する会社や検査会社では、血漿に比して第XIII因子が精製された状態であったり濃縮された状態の製品や中間品を被験物品として、第XIII因子活性の決定が行われている。
【0023】
この点、上述したアミン取り込み法は、活性値決定のための第XIII因子活性値に応じた物性値、すなわち、複合体に取り込まれたモノダンシルカダベリンに由来する蛍光強度の値の測定方法として有用である。
【0024】
しかしながら、アミン取り込み法は、キットが存在しておらずカゼイン溶液やトロンビンとモノダンシルカダベリンとカルシウムとの混合溶液、マレイミド溶液を調製する必要があるため手間を要し、またゲルろ過用カラムの再生にも多大な工数を要するため、代替法が求められている。
【0025】
一方、活性値決定のために第XIII因子活性値に応じた物性値としてNADHの吸光度(A340)の値を測定するFXIII-GLDH法は、ゲルろ過用カラムの再生といった繁雑さもなく、必要であれば市販のキットも存在しており、また、自動分析装置にも対応可能であることから、作業性の面で魅力的な方法といえる。
【0026】
しかし、FXIII-GLDH法は被験物品が血漿に限られており、血漿に比して第XIII因子が精製された状態や濃縮された状態にある製品等を被験物品とすると、予めアミン取り込み法で決定した第XIII因子活性値から予測される値と比較して、第XIII因子活性値が低く算出されるという問題がある。
【0027】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、FXIII-GLDH法を前提とすることで第XIII因子活性値に応じた物性値の測定に要する作業性の改善を図りながらも、血漿に比して第XIII因子が精製された状態や濃縮された状態にある製品や中間品の第XIII因子活性値を検体組成の影響を受けることなく正確に決定できる方法を提供する。
【0028】
また本発明は、同第XIII因子活性値決定方法にて使用する被験試料の調製方法や、測定点試料の調製方法、さらには、前記第XIII因子活性値決定方法により半製品の第XIII因子活性値の決定を行う工程を備えた血液製剤の製造方法についても提供する。
【課題を解決するための手段】
【0029】
上記従来の課題を解決するために、本発明に係る第XIII因子活性値決定方法では、(1)血漿以外の被験試料に含まれる未知の血液凝固第XIII因子(第XIII因子)活性値を、第XIII因子活性既知の基準試料と被験試料の物性値の比較により決定する方法であって、前記物性値は、グルタミン残基を有する第XIII因子の所定の基質とグリシンエチルエステルとをカルシウムイオンとトロンビンとの存在下で前記被験試料又は基準試料中の第XIII因子により反応させてアンモニアを生成させつつ、同アンモニアとα-ケトグルタル酸とをNAD(P)H又はNAD(P)H類縁体の存在下でグルタミン酸デヒドロゲナーゼにより反応させることで消費されるNAD(P)H若しくはNAD(P)H類縁体又は生成されるNAD(P)若しくはNAD(P)類縁体の単位時間あたりの変化量に相応する物性値であり、前記基準試料及び被験試料には、2.0~4.0mg/mLの濃度でフィブリノゲンを含有させることとした。
【0030】
また、上記従来の課題を解決するために、本発明に係る第XIII因子活性値決定方法では、(2)被験物品(ただし、血漿を除く。)より調製した被験試料(ただし、血漿を除く。)に含まれる未知の血液凝固第XIII因子(第XIII因子)活性値に応じた物性値を測定して、基準試料に含まれる既知の第XIII因子活性値に応じた物性値と比較することにより、前記被験物品又は前記被験試料中の第XIII因子活性値を決定する方法であって、前記被験試料及び基準試料における第XIII因子活性値に応じた物性値は、グルタミン残基を有する前記第XIII因子の所定の基質とグリシンエチルエステルとをカルシウムイオンとトロンビンとの存在下で前記被験試料又は基準試料中の第XIII因子により反応させてアンモニアを生成させつつ同アンモニアとα-ケトグルタル酸とをNAD(P)H又はNAD(P)H類縁体の存在下でグルタミン酸デヒドロゲナーゼにより反応させることで消費されるNAD(P)H若しくはNAD(P)H類縁体又は生成されるNAD(P)若しくはNAD(P)類縁体の単位時間あたりの変化量に相応する物性値であり、前記基準試料は、1mLの正常血漿中の第XIII因子の活性を1単位とした場合に、予め設定した測定点試料活性目標値に合致させた既知の第XIII因子活性値を有する1つの測定点試料又は複数のそれぞれ異なる測定点試料活性目標値に合致させた既知の第XIII因子活性値を有する複数の測定点試料により構成し、前記被験物品及び被験試料は第XIII因子活性値が予め予測されたものであり、前記測定点試料が1つの場合には当該測定点試料の第XIII因子活性値を被験試料活性目標値とする一方、前記測定点試料が複数の場合には前記基準試料のうち最大の第XIII因子活性を有する測定点試料の活性値から最小の第XIII因子活性を有する測定点試料の活性値までの範囲内より選択される値を被験試料活性目標値として、前記第XIII因子活性の予測値が前記被験試料活性目標値となるよう前記被験試料を調製し、前記基準試料及び被験試料には、2.0~4.0mg/mLの濃度でフィブリノゲンを含有させることとした。
【0031】
また、本発明に係る第XIII因子活性値決定方法では、以下の点にも特徴を有する。
(3)前記測定点試料活性目標値は1.0単位/mLに設定し、前記基準試料は、第XIII因子活性値を1.0単位/mLとした1つの測定点試料にて構成すること。
(4)前記測定点試料活性目標値は0.5単位/mLと、1.0単位/mLと、1.5単位/mLに設定し、前記基準試料は、第XIII因子活性値を0.5単位/mLと、1.0単位/mLと、1.5単位/mLとした3つの測定点試料にて構成すること。
(5)前記反応は、37℃にて行うこと。
(6)前記被験試料及び基準試料における第XIII因子活性値に応じた物性値は、前記反応により消費されるNADHの波長340nmにおける1分間あたりの吸光度の変化量であり、同変化量は、前記反応の開始5分後と10分後にそれぞれ測定した吸光度の差を5で割った商として求めること。
【0032】
また、本発明に係る被験試料の調製方法では、(7)前記(2)に記載の第XIII因子活性値決定方法にて使用する前記被験試料の調製方法であって、前記被験物品は、第XIII因子活性の予測値が1.5単位/mLを上回る高活性被験物品であり、前記被験試料は、オーレンベロナール緩衝液に2.0~4.0mg/mLの濃度でフィブリノゲンを含有させたフィブリノゲン試液を使用して前記高活性被験物品を希釈し調製することとした。
【0033】
また、本発明に係る被験試料の調製方法では、以下の点にも特徴を有する。
(8)前記高活性被験物品の第XIII因子活性の予測値が10.0単位/mLを上回る場合には、オーレンベロナール緩衝液に0.5w/v% HSA及び/又は0.1v/v% Tween20を含有させた検体希釈液により第XIII因子活性の予測値が前記被験試料活性目標値の10倍となるよう希釈して被験中間希釈試料を調製し、次いで、第XIII因子活性の予測値が前記被験試料活性目標値となるよう前記被験中間希釈試料を前記フィブリノゲン試液により10倍希釈して被験試料を調製すること。
(9)前記フィブリノゲン試液のフィブリノゲン濃度は2.5mg/mLであること。
【0034】
また、本発明に係る測定点試料の調製方法では、(10)前記(2)に記載の第XIII因子活性値決定方法にて使用する前記測定点試料の調製方法であって、前記測定点試料は、オーレンベロナール緩衝液に2.0~4.0mg/mLの濃度でフィブリノゲンを含有させたフィブリノゲン試液を使用して前記測定点試料活性目標値よりも大きな既知の第XIII因子活性値を有する標準物質を希釈し調製すること。
【0035】
また、本発明に係る測定点試料の調製方法では、(11)前記標準物質の第XIII因子活性値が前記測定点試料活性目標値の10倍を上回る場合には、オーレンベロナール緩衝液に0.5w/v% HSA及び/又は0.1v/v%Tween20を含有させた検体希釈液により第XIII因子活性値が前記測定点試料活性目標値の10倍となるよう希釈して測定点中間希釈試料を調製し、次いで、第XIII因子活性値が前記測定点試料活性目標値となるよう前記測定点中間希釈試料を前記フィブリノゲン試液により10倍希釈して測定点試料を調製することにも特徴を有する。
【0036】
また、本発明に係る血液製剤の製造方法では、(12)採取された血液又は血液の分画物に所定の前処理を施して半製品(ただし、血漿を除く。)を調製する半製品調製工程と、前記半製品又は半製品に対して測定のために必要な処理を施した処理物(ただし、血漿を除く。)を被験物質として前記(2)に記載の第XIII因子活性値決定方法により半製品の第XIII因子活性値の決定を行う第XIII因子活性値決定工程と、第XIII因子活性値決定工程にて決定した第XIII因子活性値に基いて前記半製品の適否判断を行い、同半製品が適品と判断された場合には必要に応じ所定の後処理を施して血液製剤とする製品生成工程と、を備えることとした。
【0037】
また、本発明に係る血液製剤の製造方法では、以下の点にも特徴を有する。
(13)前記第XIII因子活性値決定方法にて使用する前記被験試料は、前記(7)~(9)いずれか1項に記載の被験試料の調製方法により調製されたものであること。
(14)前記第XIII因子活性値決定方法にて使用する前記測定点試料は、前記(10)又は(11)に記載の測定点試料の調製方法により調製されたものであること。
【発明の効果】
【0038】
本発明に係る第XIII因子活性値決定方法によれば、血漿以外の被験試料に含まれる未知の血液凝固第XIII因子(第XIII因子)活性値を、第XIII因子活性既知の基準試料と被験試料の物性値の比較により決定する方法であって、前記物性値は、グルタミン残基を有する第XIII因子の所定の基質とグリシンエチルエステルとをカルシウムイオンとトロンビンとの存在下で前記被験試料又は基準試料中の第XIII因子により反応させてアンモニアを生成させつつ、同アンモニアとα-ケトグルタル酸とをNAD(P)H又はNAD(P)H類縁体の存在下でグルタミン酸デヒドロゲナーゼにより反応させることで消費されるNAD(P)H若しくはNAD(P)H類縁体又は生成されるNAD(P)若しくはNAD(P)類縁体の単位時間あたりの変化量に相応する物性値であり、前記基準試料及び被験試料には、2.0~4.0mg/mLの濃度でフィブリノゲンを含有させることとしたため、FXIII-GLDH法を前提とすることで第XIII因子活性値に応じた物性値の測定に要する作業性の改善を図りながらも、血漿に比して第XIII因子が精製された状態や濃縮された状態にある製品や中間品の第XIII因子活性値を検体組成の影響を受けることなく正確に決定できる方法を提供することができる。
【0039】
また、本発明に係る第XIII因子活性値決定方法によれば、被験物品(ただし、血漿を除く。)より調製した被験試料(ただし、血漿を除く。)に含まれる未知の血液凝固第XIII因子(第XIII因子)活性値に応じた物性値を測定して、基準試料に含まれる既知の第XIII因子活性値に応じた物性値と比較することにより、前記被験物品又は前記被験試料中の第XIII因子活性値を決定する方法であって、前記被験試料及び基準試料における第XIII因子活性値に応じた物性値は、グルタミン残基を有する前記第XIII因子の所定の基質とグリシンエチルエステルとをカルシウムイオンとトロンビンとの存在下で前記被験試料又は基準試料中の第XIII因子により反応させてアンモニアを生成させつつ同アンモニアとα-ケトグルタル酸とをNAD(P)H又はNAD(P)H類縁体の存在下でグルタミン酸デヒドロゲナーゼにより反応させることで消費されるNAD(P)H若しくはNAD(P)H類縁体又は生成されるNAD(P)若しくはNAD(P)類縁体の単位時間あたりの変化量に相応する物性値であり、前記基準試料は、1mLの正常血漿中の第XIII因子の活性を1単位とした場合に予め設定した測定点試料活性目標値に合致させた既知の第XIII因子活性値を有する1つの測定点試料又は複数のそれぞれ異なる測定点試料活性目標値に合致させた既知の第XIII因子活性値を有する複数の測定点試料により構成し、前記被験物品及び被験試料は第XIII因子活性値が予め予測されたものであり、前記測定点試料が1つの場合には当該測定点試料の第XIII因子活性値を被験試料活性目標値とする一方、前記測定点試料が複数の場合には前記基準試料のうち最大の第XIII因子活性を有する測定点試料の活性値から最小の第XIII因子活性を有する測定点試料の活性値までの範囲内より選択される値を被験試料活性目標値として、前記第XIII因子活性の予測値が前記被験試料活性目標値となるよう前記被験試料を調製し、前記基準試料及び被験試料には、2.0~4.0mg/mLの濃度でフィブリノゲンを含有させることとしたため、FXIII-GLDH法を前提とすることで第XIII因子活性値に応じた物性値の測定に要する作業性の改善を図りながらも、血漿に比して第XIII因子が精製された状態や濃縮された状態にある製品や中間品の第XIII因子活性値を検体組成の影響を受けることなく正確に決定できる方法を提供することができる。
【0040】
また、前記測定点試料活性目標値は1.0単位/mLに設定し、前記基準試料は、第XIII因子活性値を1.0単位/mLとした1つの測定点試料にて構成すれば、正常血漿に近い第XIII因子活性を有する単一の測定点試料よりなる基準試料に基づき、被験試料の第XIII因子活性値の決定を堅実に行うことができる。
【0041】
また、前記測定点試料活性目標値は0.5単位/mLと、1.0単位/mLと、1.5単位/mLに設定し、前記基準試料は、第XIII因子活性値を0.5単位/mLと、1.0単位/mLと、1.5単位/mLとした3つの測定点試料にて構成すれば、正常血漿に近い第XIII因子活性の範囲の複数の測定点試料よりなる基準試料に基づいて検量線を作成し、被験試料の第XIII因子活性値を決定することができる。
【0042】
また、前記反応は、37℃にて行うこととすれば、適切な酵素反応条件下にて測定を行うことができ、安定した被験試料の第XIII因子活性値の決定を行うことができる。
【0043】
また、前記被験試料及び基準試料における第XIII因子活性値に応じた物性値は、前記反応により消費されるNADHの波長340nmにおける1分間あたりの吸光度の変化量であり、同変化量は、前記反応の開始5分後と10分後にそれぞれ測定した吸光度の差を5で割った商として求めることとすれば、安定した被験試料の第XIII因子活性値の決定を行うことができる。
【0044】
また、本発明に係る被験試料の調製方法によれば、前述した本発明に係る第XIII因子活性値決定方法にて使用する前記被験試料の調製方法であって、前記被験物品は、第XIII因子活性の予測値が1.5単位/mLを上回る高活性被験物品であり、前記被験試料は、オーレンベロナール緩衝液に2.0~4.0mg/mLの濃度でフィブリノゲンを含有させたフィブリノゲン試液を使用して前記高活性被験物品を希釈し調製することとすれば、血漿に比して活性が高い被験物品の第XIII因子活性をFXIII-GLDH法により決定可能な被験試料の調製方法を提供することができる。
【0045】
また、前記高活性被験物品の第XIII因子活性の予測値が10.0単位/mLを上回る場合には、オーレンベロナール緩衝液に0.5w/v% HSA及び/又は0.1v/v% Tween20を含有させた検体希釈液により第XIII因子活性の予測値が前記被験試料活性目標値の10倍となるよう希釈して被験中間希釈試料を調製し、次いで、第XIII因子活性の予測値が前記被験試料活性目標値となるよう前記被験中間希釈試料を前記フィブリノゲン試液により10倍希釈して被験試料を調製すれば、例えば50倍や100倍といった高倍率希釈を行う際に、より経済性に優れた希釈液を使用することができる。
【0046】
また、前記フィブリノゲン試液のフィブリノゲン濃度は2.5mg/mLであることとすれば、5倍以上の希釈を行う際に適したフィブリノゲン試液とすることができる。
【0047】
また、本発明に係る測定点試料の調製方法によれば、前述した本発明に係る第XIII因子活性値決定方法にて使用する前記測定点試料の調製方法であって、前記測定点試料は、オーレンベロナール緩衝液に2.0~4.0mg/mLの濃度でフィブリノゲンを含有させたフィブリノゲン試液を使用して前記測定点試料活性目標値よりも大きな既知の第XIII因子活性値を有する標準物質を希釈し調製することとすれば、血漿に比して高い既知の活性を有する血漿ではない物品を希釈して測定点試料を調製することができる。
【0048】
また、前記標準物質の第XIII因子活性値が前記測定点試料活性目標値の10倍を上回る場合には、オーレンベロナール緩衝液に0.5w/v% HSA及び/又は0.1v/v% Tween20を含有させた検体希釈液により第XIII因子活性値が前記測定点試料活性目標値の10倍となるよう希釈して測定点中間希釈試料を調製し、次いで、第XIII因子活性値が前記測定点試料活性目標値となるよう前記測定点中間希釈試料を前記フィブリノゲン試液により10倍希釈して測定点試料を調製することとすれば、例えば50倍や100倍といった高倍率希釈を行う際に、より経済性に優れた希釈液を使用することができる。
【0049】
また、本発明に係る血液製剤の製造方法では、採取された血液又は血液の分画物に所定の前処理を施して半製品(ただし、血漿を除く。)を調製する半製品調製工程と、前記半製品又は半製品に対して測定のために必要な処理を施した処理物(ただし、血漿を除く。)を被験物質として前述した本発明に係る第XIII因子活性値決定方法により半製品の第XIII因子活性値の決定を行う第XIII因子活性値決定工程と、第XIII因子活性値決定工程にて決定した第XIII因子活性値に基いて前記半製品の適否判断を行い、同半製品が適品と判断された場合には必要に応じ所定の後処理を施して血液製剤とする製品生成工程と、を備えることとすれば、FXIII-GLDH法を前提とすることで第XIII因子活性値に応じた物性値の測定に要する作業性の改善を図りつつ、血漿に比して第XIII因子が精製された状態や濃縮された状態の半製品の第XIII因子活性値が決定された血液製剤を製造することができる。
【0050】
また、前記第XIII因子活性値決定方法にて使用する前記被験試料は、前述の本発明に係る被験試料の調製方法により調製されたものとすれば、FXIII-GLDH法により決定可能な被験試料を調製した上で、血漿に比して活性が高い半製品の第XIII因子活性を決定して血液製剤を製造することができる。
【0051】
また、前記第XIII因子活性値決定方法にて使用する前記測定点試料は、前述の本発明に係る測定点試料の調製方法により調製されたものであることとすれば、血漿に比して高い既知の活性を有する血漿ではない物品を希釈して測定点試料を調製し、これに基づく第XIII因子活性値の決定を半製品について行って、血液製剤を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【
図1】高活性試料用希釈液の検討結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0053】
本発明は、血漿以外の被験試料に含まれる未知の血液凝固第XIII因子(第XIII因子)活性値を、第XIII因子活性既知の基準試料と被験試料の物性値の比較により決定する方法であって、FXIII-GLDH法を前提とすることで第XIII因子活性値に応じた物性値の測定に要する作業性の改善を図りながらも、血漿に比して第XIII因子が精製された状態や濃縮された状態にある製品や中間品の第XIII因子活性値を検体組成の影響を受けることなく正確に決定できる方法を提供するものである。
【0054】
また本発明は、被験物品(ただし、血漿を除く。)より調製した被験試料(ただし、血漿を除く。)に含まれる未知の血液凝固第XIII因子(第XIII因子)活性値に応じた物性値を測定して、基準試料に含まれる既知の第XIII因子活性値に応じた物性値と比較することにより、前記被験物品又は前記被験試料中の第XIII因子活性値を決定する方法であって、FXIII-GLDH法を前提とすることで第XIII因子活性値に応じた物性値の測定に要する作業性の改善を図りながらも、血漿に比して第XIII因子が精製された状態や濃縮された状態にある製品や中間品の第XIII因子活性値を検体組成の影響を受けることなく正確に決定できる方法を提供するものでもある。なお以下では、1mLの正常血漿中の第XIII因子の平均的な活性を1単位として説明する。
【0055】
本実施形態に係る第XIII因子活性値決定方法において被験物品とは、第XIII因子活性値の決定の目的となる物品であって、血漿以外の物品である。また、被験試料とは、被験物品に由来する血漿ではない試料であって直接の検査対象となる試料である。
【0056】
第1の例として、例えば第XIII因子活性が血漿に比して100倍程度に高められた製剤について正確な第XIII因子活性の決定を行う場合、この製剤は第XIII因子活性値の決定の目的となる物品であるため被験物品となる。
【0057】
また、FXIII-GLDH法はもともと血漿の第XIII因子活性決定のための方法であり、実際にFXIII-GLDH法に供される試料は平均的な正常血漿に近い第XIII因子活性値(約1.0単位/mL)であるのが望ましいところ、本例における製剤はFXIII-GLDH法に供するには活性が高すぎる。
【0058】
そこで、この被験物品は血漿の100倍程度の第XIII因子活性を有すると予測されているため、この製剤を100倍希釈し血漿と略同等と思われる第XIII因子活性値に調製した試料が直接の検査対象となる試料であり、被験試料となる。なお、以下の説明において、被験試料の調製にあたり希釈が必要な程度に高い活性、例えば1.5単位/mLを上回るような活性を有する又は活性が予測される被験物品を高活性被験物品と称し、なかでも10.0単位/mLを上回るような活性を有する又は活性が予測される被験物品を特定高活性被験物品と称する。
【0059】
また第2の例として、第XIII因子活性が血漿と同程度の製剤であり、後述の如く2.0mg/mL以上の濃度でフィブリノゲンを含むような製剤は、FXIII-GLDH法による測定を妨げるような成分が含まれていないのであれば、被験物品でありながら、直接の検査対象ともなり得るので被験試料でもあるといえる。
【0060】
被験物品は、必ずしも製品である必要はなく、例えば製造過程にて生産される中間品であっても良い。
【0061】
また被験物品は、先の例にて「第XIII因子活性が血漿に比して100倍程度に高められた」や「第XIII因子活性が血漿と同程度」としたように、予め予測された第XIII因子活性値(第XIII因子活性予測値)を有するべきである。
【0062】
被験物品の第XIII因子活性予測値は、例えば当該被験物品の製造経験上から予測される値であったり、当該被験物品の別のロットの本法又は別法(例えば、アミン取り込み法)による第XIII因子活性値から予測される値など、予測の根拠は特に限定されるものではないが、この第XIII因子活性予測値に基いて被験試料調製の際の希釈倍数などが決まるため、できるだけ正確である方が望ましい。
【0063】
また被験試料は、必ずしも平均的な正常血漿に近い第XIII因子活性値(約1.0単位/mL)を目標として調製する必要はない。例えば0.8単位/mLであったり、1.5単位/mLを目標として調製するなど、FXIII-GLDH法による測定の正確性が確保できる範囲内で任意に設定することもできる。なお、以下の説明において、調製(希釈)の際に目標とする活性値を、被験試料活性目標値と称する。
【0064】
被験試料もまた、被験物品と同様に第XIII因子活性予測値を有するべきである。被験試料の第XIII因子活性予測値は、例えば被験物品を希釈して被験試料を調製する場合には、被験物品の第XIII因子活性予測値から予測される今の希釈状況に応じた第XIII因子活性値である。すなわち、被験物品の希釈の最中、加えている希釈液が2倍量、3倍量、4倍量・・・と増えていったときにリアルタイムで予測される被験試料中の第XIII因子活性の予測値である。被験試料の第XIII因子活性予測値が被験試料活性目標値に達するまで、希釈液を追加しつつ被験物品の希釈が行われる。先の第1の例は、被験試料活性目標値を1.0単位/mLとした上で、第XIII因子活性予測値が100単位/mLである被験物品の希釈を行って、第XIII因子活性予測値が1.0単位/mLである被験試料の調製が行われた例である。
【0065】
本実施形態に係る第XIII因子活性値決定方法において、第XIII因子活性値に応じた物性値とは、FXIII-GLDH法において消費されるNAD(P)H若しくはNAD(P)H類縁体又は生成されるNAD(P)若しくはNAD(P)類縁体の単位時間あたりの変化量であり、好ましくはNADHの波長340nmにおける吸光度(A340)の単位時間あたりの変化量である。
【0066】
この単位時間あたりの変化量は、例えば、反応開始後第1のタイミングにて測定した吸光度と、同第1のタイミングの後の第2のタイミングにて測定した吸光度との差として求めることができる。この場合、第1のタイミングは反応開始後少なくとも3分程度経過した後のタイミングとすれば、反応が安定してから測定が行われることとなるため好ましい。また、第1のタイミングと第2のタイミングは、少なくとも1分程度経過したタイミングとすれば、より正確な測定が可能となるため好ましい。
【0067】
更に好ましい具体例を挙げるならば、反応の開始5分後と10分後にそれぞれ測定した吸光度の差(5分あたりの変化量)としたり、更にこれを5で割った商、すなわち1分あたりの変化量として求めることができる。このような変化量の求め方によれば、反応が安定してから測定を行うため、第XIII因子活性値の決定をより堅実に行うことができる。
【0068】
また、このFXIII-GLDH法における反応は、所定の温度条件下、例えば37℃にて行うのが望ましい。このような温度とすることで、適切な酵素反応条件下にて測定を行うことができ、安定した被験試料の第XIII因子活性値の決定を行うことができる。
【0069】
本実施形態に係る第XIII因子活性値決定方法において、被験物品の活性値は、被験物品の物性値と、活性値が既知の基準試料が示す物性値との相対的な関係に基いて決定される。すなわち基準試料は、いわゆる標準試料の如き検量線の測定点のための試料である。
【0070】
本実施形態に係る第XIII因子活性値決定方法において、基準試料は、1の測定点試料又は複数の測定点試料よりなる測定点試料群により構成される。
【0071】
1つで基準試料を構成する場合の測定点試料は、予め設定した測定点試料活性目標値に合致させた既知の第XIII因子活性値を有する。このときの測定点試料活性目標値は、FXIII-GLDH法による測定の正確性が確保できる範囲内であれば特に限定されるものではないが、好ましくは0.5単位/mL~1.5単位/mLの範囲内とすることができる。
【0072】
また、基準試料を1つの測定点試料にて構成する場合、当該測定点試料の第XIII因子活性値を1.0単位/mLとする(測定点試料活性目標値を1.0単位/mLに設定する)こととしても良い。このような構成とすることにより、正常血漿に近い第XIII因子活性を有する単一の測定点試料よりなる基準試料に基づき、被験試料の第XIII因子活性値の決定を堅実に行うことができる。
【0073】
また、基準試料を複数の測定点試料にて構成する場合、各測定点試料のそれぞれの第XIII因子活性値を0.5単位/mLと、1.0単位/mLと、1.5単位/mLとした3つの測定点試料とする(測定点試料活性目標値を0.5単位/mLと、1.0単位/mLと、1.5単位/mLに設定する)こととしても良い。このような構成とすることにより、正常血漿に近い第XIII因子活性の範囲の複数の測定点試料よりなる基準試料に基づいて検量線を作成し、被験試料の第XIII因子活性値を決定することができる。
【0074】
複数の測定点試料で基準試料を構成する場合の各測定点試料についても略同様であり、予め設定した複数のそれぞれ異なる測定点試料活性目標値に合致させた既知の第XIII因子活性値を有する。測定点試料活性目標値は、FXIII-GLDH法による測定の正確性が確保できる範囲内であれば特に限定されるものではないが、好ましくは0.5単位/mL~1.5単位/mLの範囲内とすることができる。
【0075】
また、本実施形態に係る第XIII因子活性値決定方法では、その特徴的な構成として、前記基準試料及び被験試料には、2.0mg/mL以上の濃度でフィブリノゲンを含有させる点が挙げられる。
【0076】
基準試料(各測定点試料)や被験試料に含まれるべきフィブリノゲンは、2.0mg/mL以上であれば特に限定されるものではないが、好ましくはヒト正常血漿中のフィブリノゲン濃度に近い値の範囲、例えば2.0mg/mL~4.0mg/mLの範囲内とすることができる。
【0077】
そしてこのような構成によれば、FXIII-GLDH法を前提とすることで第XIII因子活性値に応じた物性値の測定に要する作業性の改善を図りながらも、血漿に比して第XIII因子が精製された状態や濃縮された状態にある製品や中間品の第XIII因子活性値を検体組成の影響を受けることなく正確に決定することができる。
【0078】
第XIII因子活性値の決定は、被験物品や被験試料のいずれかについて行っても良いし、両方について行うこともできる。
【0079】
また、第XIII因子活性値は、被験試料の第XIII因子活性値に応じた物性値を測定して、基準試料の第XIII因子活性値に応じた物性値と比較することにより決定する。
【0080】
具体的には、基準試料を1つの測定点試料にて構成する場合、被験試料の第XIII因子活性値に応じた物性値が、基準試料の第XIII因子活性値に応じた物性値の何倍であるかを計算し、その値を基準試料の既知の第XIII因子活性値に乗じることで被験試料の第XIII因子活性値を決定することができる。
【0081】
また、複数の測定点試料で基準試料を構成する場合、被験試料の第XIII因子活性値に応じた物性値を、基準試料の第XIII因子活性値に応じた物性値に基いて構築した検量線と対比させ、対応する活性値を被験試料の第XIII因子活性値として決定することができる。
【0082】
なお、いずれの場合にも、例えば所定のバックグラウンドを差し引いたり、特定の測定条件に整合させるべく所定の定数を乗じるなど、必要に応じて値の補正が行われても良いのは勿論である。
【0083】
また本明細書では、上述してきた本実施形態に係る第XIII因子活性値決定方法にて使用する被験試料の調製方法、特に被験物品が高活性被験物品である場合の被験試料の調製方法についても提供する。
【0084】
先述したように、FXIII-GLDH法はもともと血漿の第XIII因子活性決定のための方法であり、実際にFXIII-GLDH法に供される試料は平均的な正常血漿に近い第XIII因子活性値(約1.0単位/mL)であるのが望ましい。
【0085】
被験物品の第XIII因子活性予測値が、例えば0.5単位/mL~1.5単位/mL程度であれば、その他フィブリノゲン濃度等の要件を満たすことで被験試料として使用可能であるため希釈を要しない。
【0086】
しかしながら、1.5単位/mLを上回るような高活性被験物品、より顕著には例えば2.0単位/mLを上回るものや5.0単位/mLを上回るものなどの場合、FXIII-GLDH法による測定の正確性は必ずしも明確ではないため、被験物品の第XIII因子活性予測値が平均的な正常血漿に近い1.0単位/mL程度となるよう適宜被験試料活性目標値を設定し、所定の希釈液にて被験物品を希釈するのが望ましい。
【0087】
ここで使用する所定の希釈液は、第XIII因子欠乏ヒト血漿としたり、所定の濃度でフィブリノゲンを含有させたpH7.5を緩衝域に含む緩衝液(以下、試料調製用希釈液と称する。)とすることができる。
【0088】
pH7.5を緩衝域に含む緩衝液は、例えばTris-HCl緩衝液や、バルビタール系緩衝液(例えば、barbltal・lithium・HCl緩衝液)などが挙げられるが、オーレンベロナール緩衝液(Owren's Veronal Buffer;OV)が特に好適である。
【0089】
フィブリノゲンの濃度は、希釈後の被験試料中における終濃度が2.0mg/mL以上、好ましくは2.0mg/mL~4.0mg/mLの範囲内となる濃度であればよく、希釈倍数に応じて適宜調整することも可能である。
【0090】
例えば被験試料は、被験物品のフィブリノゲン濃度をA mg/mL、被験物品の第XIII因子活性値をB 単位/mL、被験試料の被験試料活性目標値をC 単位/mL、被験試料に含ませたいフィブリノゲン濃度をD mg/mL(ただし、0≦A≦D×B/C、B>0、B>C、0.5≦C≦1.5、2.0≦D≦4.0である。)とした際に、{(D×B/C)-A}/{(B/C)-1}mg/mLの濃度でフィブリノゲンを含む希釈液を使用して高活性被験物品をB/C倍希釈し調製することもできる。
【0091】
ただ、試料調製用希釈液のフィブリノゲン濃度は基本的にはこのように調整可能であるが、フィブリノゲン濃度を2.5mg/mLとすれば5倍以上の希釈倍数での希釈の際に被験試料中のフィブリノゲンの終濃度を2.0mg/mL以上とすることができるため、希釈操作上において利便性が高く好適である。なお、以下の説明において、試料調製用緩衝液に関し、フィブリノゲンを2.5mg/mLの濃度で含むオーレンベロナール緩衝液をフィブリノゲン試液と称する。
【0092】
ところで試料調製用希釈液は、10倍程度の希釈を要する被験物品にも、1000倍程度の希釈を要する被験物品にも、基本的には希釈倍数にかかわらず使用することができる。
【0093】
しかしながら、試料調製用希釈液は単位液量あたりの単価が比較的高いこともあるため、主に経済性の観点から、試料調製用希釈液に加えてより安価な希釈液を採用することも可能である。
【0094】
例えば先述の第1の例の如く、被験物品の第XIII因子活性の予測値が100単位/mLであって被験試料活性目標値が1.0単位/mLであるような場合には、中間的な希釈の目標値(例えば、10単位/mL。以下、中間希釈試料目標値と称する。)を設定し、まず100単位/mL→10単位/mLまでは別途安価な高活性試料用希釈液を使用して中間希釈試料を調製し、次いで被験試料の調製に至る10単位/mL→1単位/mLまでの最終段希釈には試料調製用希釈液を使用するようにしても良い。以下の説明において、上述の如く高活性試料用希釈液により希釈して中間希釈試料を調製し、次いで中間希釈試料を試料調製用希釈液により希釈して試料を調製する希釈手法を異種緩衝液希釈法と称する。
【0095】
高活性試料用希釈液は、0.5w/v% ヒト血清アルブミン(Human serum albumin;HSA)及び/又は0.1v/v% Tween20を含有させたpH7.5を緩衝域に含む緩衝液とすることができる。また、pH7.5を緩衝域に含む緩衝液は、例えばTris-HCl緩衝液や、バルビタール系緩衝液(例えば、barbltal・lithium・HCl緩衝液)などが挙げられるが、オーレンベロナール緩衝液(Owren's Veronal Buffer;OV)が特に好適である。なお以下の説明において、高活性試料用希釈液に関し、0.1v/v% Tween20を含有させたオーレンベロナール緩衝液を検体希釈液と称する。
【0096】
また、被験物品の希釈にあたり、試料調製用希釈液(例えば、フィブリノゲン試液)のみで希釈を行うか、異種緩衝液希釈法を採用して高活性試料用希釈液(例えば、検体希釈液)を併用するかについての判断は、特に厳密に定められるものではないが、例えば被験物品の第XIII因子活性の予測値が10.0単位/mL~15.0単位/mL程度ならばこの範囲の一の値(例えば、10.0単位/mL。)を境界値とし、この境界値以下ならば試料調製用希釈液のみで希釈し、境界値を上回る場合には異種緩衝液希釈法を採用することで、より安価に被験試料の調製を行うことができる。
【0097】
また、被験物品の希釈にあたって異種緩衝液希釈法を採用した場合、中間希釈試料目標値は経済性を勘案して適宜設定することが可能であるが、例えば5.0単位/mL~15.0単位/mL程度とすることができる。
【0098】
なお、本実施形態に係る被験試料の調製方法は、フィブリノゲン試液を使用して高活性被験物品を希釈し被験試料を調製するものであるが、「フィブリノゲン試液を使用して」とは、高活性被験物品の希釈に使用する希釈液の全てをフィブリノゲン試液とすべきことを必ずしも意味するものではない。すなわち、異種緩衝液希釈法を採用した場合の如く、最終段の希釈の際に試料調製用希釈液を使用し、その前段階の希釈では別の希釈液を使用する場合も含まれると解釈すべきである。付言すると、本実施形態に係る被験試料の調製方法において被験試料は、少なくともフィブリノゲン試液を使用して高活性被験物品を希釈し調製すればよく、より限定的には、フィブリノゲン試液を最終段の希釈に使用しつつ活性被験物品を希釈し調製すれば良い。
【0099】
また本明細書では、上述した本実施形態に係る第XIII因子活性値決定方法にて使用する測定点試料の調製方法、特に希釈が必要な程度に高い活性を有する標準物質から測定点試料を調製する方法についても提供する。なお、以下の説明において、測定点試料の調製にあたり希釈が必要な程度に高い活性、例えば、所定の測定点試料活性目標値とした測定点試料の調製に際し使用される当該測定点試料活性目標値を超える第XIII因子活性値の標準物質を高活性標準物質と称する。より具体的に例示すると、1.0単位/mLの第XIII因子活性値を測定点試料活性目標値とした測定点試料の調製にあたって使用する標準物質であって、1.0単位/mLを超える第XIII因子活性値の標準物質は、測定点試料の調製にあたり希釈が必要な程度に高い活性を有しており、高活性標準物質といえる。
【0100】
本実施形態に係る測定点試料の調製方法は、測定点試料の調製にあたり、前述の試料調製用希釈液を使用して高活性標準物質を希釈し調製する点で特徴的である。また、測定点試料の調製においても、フィブリノゲン試液は試料調製用希釈液として好適である。また、試料調製用希釈液の代わりに第XIII因子欠乏ヒト血漿を使用することも可能である。
【0101】
また、標準物質の第XIII因子活性値が測定点試料活性目標値の10倍を上回るような高活性標準物質(以下、特定高活性標準物質ともいう。)である場合には、前述した被験試料の調製の如く異種緩衝液希釈法により、まず中間希釈試料目標値を設定し高活性試料用希釈液を使用して中間希釈試料を調製し、次いで試料調製用希釈液を使用して最終段階の希釈を行い測定点試料を調製しても良い。また、異種緩衝液希釈法を適用した測定点試料の調製においても、検体希釈液は高活性試料用希釈液として好適である。
【0102】
なお、本実施形態に係る測定点試料の調製方法は、フィブリノゲン試液を使用して標準物質を希釈し被験試料を調製するものであるが、「フィブリノゲン試液を使用して」とは、前述した本実施形態に係る被験試料の調製方法と同様に、標準物質の希釈に使用する希釈液の全てをフィブリノゲン試液とすべきことを必ずしも意味するものではない。
【0103】
また本明細書では、血液製剤の製造方法、特に本実施形態に係る第XIII因子活性値決定方法により半製品の第XIII因子活性値の決定を行う工程を備えた血液製剤の製造方法についても提供する。
【0104】
ここで血液製剤とは、人の血液又は同血液から得られた物を有効成分とする医薬品のことであり、輸血用血液製剤と血漿分画製剤との両者を含む概念である。
【0105】
本実施形態に係る血液製剤の製造方法では、半製品調製工程と、XIII因子活性値決定工程と、製品生成工程と、を備えている。
【0106】
半製品調製工程は、採取された血液又は血液の分画物に所定の前処理を施して半製品を調製する工程である。
【0107】
半製品とは、製品として出荷可能となる前の状態のものを意味しており、製造過程にある中間品(加工途中の状態のものも含む。)は勿論のこと、第XIII因子活性の確認を待つのみで製品としてほぼ完成しているものも含む概念である。なお、以下では説明の便宜上、血漿以外の半製品を対象半製品と称する。
【0108】
前処理は、血液又は血液の分画物(以下、原料品ともいう。)から半製品を調製する過程で施される処理であって、原料品又は中間品から所定の成分を分取する処理や、原料品又は中間品に所定の成分を添加する処理、原料品又は中間品に加熱や冷却を施す熱的な処理、原料品又は中間品に振動を付与したり撹拌したり対流を生じさせたりする動的な処理、原料品又は中間品を容器に充填したりラベル等を貼付したりする処理、又はこれらの複合的な処理などあらゆる処理を含む。
【0109】
前処理に供される原料品としての血液は、採取された、生体の循環系から分離された血液である。また、前処理に供される原料品としての血液の分画物とは、血液から所定の成分が除かれた後のものや、血液から分取されたものであり、例えば赤血球製剤や血漿製剤、血小板製剤などが挙げられる。なお、血液の分画物自体は生体の循環系から分離されたものであるが、例えば成分献血の如く、分画前の血液自体は必ずしも生体の循環系から分離されているものではない。
【0110】
XIII因子活性値決定工程は、対象半製品又は対象半製品に対してFXIII-GLDH法による測定のために必要な処理を施した処理物(ただし、血漿を除く。)を被験物質として本実施形態に係る第XIII因子活性値決定方法により半製品の第XIII因子活性値の決定を行う工程である。
【0111】
本XIII因子活性値決定工程にてFXIII-GLDH法での測定に供する被験試料や測定点試料は、上述した本実施形態に係る被験試料の調製方法や測定点試料の調製方法により調製されたものを使用することもできる。このような構成によれば、FXIII-GLDH法により決定可能な被験試料を使用して、血漿に比して活性が高い半製品の第XIII因子活性を決定して血液製剤を製造することができる。また、血漿に比して高い既知の活性を有する血漿ではない物品を希釈して測定点試料を調製し、これに基づく第XIII因子活性値の決定を半製品について行って、血液製剤を製造することができる。
【0112】
被験物質として使用可能な対象半製品は、被験物質がそのまま被験試料として利用可能なものや、被験物質を前述の試料調製用希釈液や高活性試料用希釈液を使用して希釈することで被験試料の調製が可能なものが挙げられる。理解に供すべく一例を挙げるならば、血液製剤として血漿分画製剤である第XIII因子製剤の製造を行う場合において、その製造過程で一定程度第XIII因子の精製が進んだ状態の中間品や原画分、最終バルク、製品化前の状態の小分品などが該当する。
【0113】
また、そのままや希釈によっては被験物質として使用できない対象半製品であっても、FXIII-GLDH法による測定のために必要な処理を施すことにより、この処理物を被験物質として使用することもできる。
【0114】
例えば、第XIII因子活性値に応じた物性値として吸光度の測定を行うFXIII-GLDH法の場合、吸光度に影響を与える分散体が存在する濁った状態の対象半製品は第XIII因子活性値の正確な決定が困難となる可能性があるため被験物質として使用できないが、第XIII因子活性値に影響を与えることなく分散体の除去を行う処理、例えば遠心処理やろ過処理の如く測定のために必要な処理を施せば、この処理物を被験物質として使用できるようになる、といった例が想定される。以下、このような処理物であって血漿ではないものを対象処理物ともいう。
【0115】
製品処理工程は、第XIII因子活性値決定工程にて決定した第XIII因子活性値に基いて対象半製品の適否判断を行い、同対象半製品が適品と判断された場合には必要に応じ所定の後処理を施して血液製剤とする工程である。
【0116】
「第XIII因子活性値決定工程にて決定した第XIII因子活性値に基いて対象半製品の適否判断を行う」とは、決定した第XIII因子活性値が、予め定めた適品判断のための活性値(適合基準値)に照らして対象半製品が適品であるか否かを判断するということである。
【0117】
ここで、第XIII因子活性値決定工程にて決定した第XIII因子活性値は、被験物品の第XIII因子活性値でもよく、被験試料の第XIII因子活性値でも良い。また、被験物品は、対象半製品であってもよく、対象処理物であっても良い。
【0118】
すなわち、対象半製品が適品であるか否かの判断は、対象半製品そのものについて決定された第XIII因子活性値に基いて対象半製品の適否を判断しても良いのは勿論のこと、対象処理物について決定された第XIII因子活性値であったり、対象半製品や対象処理物(被験物品)の希釈物(被験試料)について決定された第XIII因子活性値で対象半製品の適否を判断しても良いと解釈すべきである。ただし、対象処理物や各希釈物について決定された第XIII因子活性値に対する適否判断が、対象半製品の適否と一致することが前提である。
【0119】
これは、先述の第1の例によれば、第1の例の製剤は、決定された被験試料の第XIII因子活性値を100倍して製剤における第XIII因子活性値(希釈前の活性値)で品質管理(適否判断)することのほか、改めて100倍する計算を行うまでもなく、1/100に希釈されたままの状態(被験試料たる希釈物の状態)の第XIII因子活性値で製剤を品質管理(適否判断)するということも包含している。
【0120】
なお、対象処理物に施された測定のために必要な処理が第XIII因子活性値に影響を与える処理であれば、その処理により影響を受けた活性を考慮して対象半製品の活性値を算出しても良い。
【0121】
そして上述のような本実施形態に係る血液製剤の製造方法によれば、FXIII-GLDH法を前提とすることで第XIII因子活性値に応じた物性値の測定に要する作業性の改善を図りつつ、血漿に比して第XIII因子が精製された状態や濃縮された状態の半製品の第XIII因子活性値が決定された血液製剤を製造することができる。
【0122】
以下、本実施形態に係る第XIII因子活性値決定方法、被験試料の調製方法、測定点試料の調製方法に関し、第XIII因子活性値の決定例や各種成分の濃度の決定過程を参照しながら詳説する。
【0123】
〔1〕第XIII因子活性値の決定の例
本例では、血漿分画製剤の製造中間品である第XIII因子の原画分(FXIII原画)を被験物品とし、FXIII原画の中の第XIII因子活性値の決定を行った。なお、FXIII原画は予めアミン取り込み法により第XIII因子活性が予測されており、その予測値は約1280単位/mLである。
【0124】
(1-1)試料調製用希釈液の調製
本例では、試料調製用希釈液としてフィブリノゲン試液を使用した。フィブリノゲン試液は、フィブリノゲン濃度が既知のフィブリノゲン溶液をオーレンベロナール緩衝液(シスメックス株式会社)で希釈して、2.5mg/mLのフィブリノゲンを含有するオーレンベロナール緩衝液を調製した。
【0125】
(1-2)高活性試料用希釈液の調製
本例では、高活性試料用希釈液として、検体希釈液の調製を行った。具体的には、0.1v/v%の濃度にてTween20(ナカライテスク)を含有するオーレンベロナール緩衝液を検体希釈液とした。
【0126】
(1-3)被験試料の調製
被験物品であるFXIII原画は、第XIII因子活性予測値が約1280単位/mLの特定高活性被験物品であることから、本例では異種緩衝液希釈法により希釈を行った。
【0127】
具体的には、中間希釈試料目標値を約10.0単位/mL、被験試料活性目標値を約1.0単位/mLに設定し、まず、検体希釈液にてFXIII原画を128倍希釈することで第XIII因子活性予測値が中間希釈試料目標値となった約10.0単位/mLの中間希釈試料を調製した。
【0128】
次に、フィブリノゲン試液にて中間希釈試料を10倍希釈することで、第XIII因子活性予測値が被験試料活性目標値となった約1.0単位/mLの被験試料を調製した。
【0129】
(1-4)基準試料の調製
本例では、基準試料を複数(3点)の測定点試料にて構成した。各測定試料の調製は、特定高活性標準物質である既知の第XIII因子活性値を有する第XIII因子含有液を用い、異種緩衝液希釈法により行った。
【0130】
具体的には、第1測定点試料は中間希釈試料目標値を5.0単位/mL、測定点試料活性目標値を0.5単位/mLに設定し、第2測定点試料は中間希釈試料目標値を10.0単位/mL、測定点試料活性目標値を1.0単位/mLに設定し、第3測定点試料は中間希釈試料目標値を15.0単位/mL、測定点試料活性目標値を1.5単位/mLに設定した。
【0131】
次に、検体希釈液にて第XIII因子含有液を希釈することで、第XIII因子活性予測値が中間希釈試料目標値となった第1~第3の中間希釈試料を調製した。
【0132】
そして、フィブリノゲン試液にて第1~第3の中間希釈試料を10倍希釈することで、第XIII因子活性予測値が被験試料活性目標値となった第1~第3の測定点試料を調製した。
【0133】
また、比較のための基準試料(比較用基準試料)として、第XIII因子欠乏ヒト血漿を用いて0.5単位/mL、1.0単位/mL、1.5単位/mLとした第1~第3の比較用測定点試料を調製した。
【0134】
(1-5)FXIII-GLDH法での測定
本例では被験試料及び基準試料における第XIII因子活性値に応じた物性値を、反応により消費されるNADHの波長340nmにおける1分間あたりの吸光度の変化量として、FXIII-GLDH法による測定を行った。特に本例では、第XIII凝固因子キット ベリクロームFXIII(シスメックス)を使用し、全自動血液凝固測定装置 CS-2000i(シスメックス)にて測定した。
【0135】
(1-6)被験試料及び被験物品の第XIII因子活性の決定
被験試料の測定結果と基準試料の測定結果との比較による第XIII因子活性の決定も全自動血液凝固測定装置 CS-2000iを使用し、ソフトウェア上にて行った。
【0136】
具体的には、第1~第3の測定点試料の測定結果を用いて検量線を作成し、被験試料の測定結果を対比させることで被験試料の第XIII因子活性値を決定し、次いでその値を1280倍することで被験物品の第XIII因子活性値を決定した。その結果を表1に示す。
【表1】
【0137】
表1にて実施例1として示すように、標準物質である第XIII因子含有液を検体希釈液及びフィブリノゲン試液で異種緩衝液希釈法により希釈した基準試料の測定結果に基づく検量線と、被験物品であるFXIII原画を検体希釈液及びフィブリノゲン試液で異種緩衝液希釈法により希釈した被験試料の測定結果とを比較して決定された第XIII因子活性値は約1250単位/mLであり、これは予めアミン取り込み法により予測された予測値である約1280単位/mLに近い値であった。
【0138】
ここで、表1にて示す比較例1は、標準物質である第XIII因子含有液をオーレンベロナール緩衝液で希釈した基準試料の測定結果に基づく検量線と、被験物品であるFXIII原画をオーレンベロナール緩衝液で希釈した被験試料の測定結果とを比較して決定された第XIII因子活性値を示している。
【0139】
比較例1の結果から分かるように、希釈にオーレンベロナール緩衝液を使用すると、基準試料及び被験試料には2.0mg/mL以上の濃度でフィブリノゲンが含まれておらず、活性予測値である1380単位/mLとは大きく異なる大幅に低い値(450単位/mL)となった。
【0140】
また、表1に示す実施例2は、標準物質である第XIII因子含有液を第XIII因子欠乏ヒト血漿を用いて希釈した基準試料の測定結果に基づく検量線と、被験物品であるFXIII原画を第XIII因子欠乏ヒト血漿(George King Bio-Medical)を用いて希釈した被験試料の測定結果とを比較して決定された第XIII因子活性値を示している。
【0141】
実施例2の結果から分かるように、希釈に第XIII因子欠乏ヒト血漿を使用すると、基準試料及び被験試料には2.0mg/mL以上の濃度でフィブリノゲンが含まれ、活性予測値である1280単位/mLに近い1300単位/mLとなった。
【0142】
また、表1に示す実施例3と実施例4は、基準試料を1つの測定点試料で構成して第XIII因子活性値の決定を行った例を示している。
【0143】
具体的には、実施例3は、標準物質である血液凝固試験用標準ヒト血漿(SIEMENS)をそのまま測定点試料(基準試料)として測定した結果と、被験物品であるFXIII原画を第XIII因子欠乏ヒト血漿を用いて希釈した被験試料の測定結果とを比較して決定された第XIII因子活性値を示している。
【0144】
また実施例4は、標準物質である血液凝固試験用標準ヒト血漿をそのまま測定点試料(基準試料)として測定した結果と、被験物品である第XIII因子含有液を第XIII因子欠乏ヒト血漿を用いて希釈した被験試料の測定結果とを比較して決定された第XIII因子活性値を示している。
【0145】
これら実施例3や実施例4の結果から分かるように、基準試料は血液凝固試験用標準ヒト血漿、被験試料も希釈に第XIII因子欠乏ヒト血漿を使用すると、基準試料及び被験試料には2.0mg/mL以上の濃度でフィブリノゲンが含まれ、いずれの実施例においても決定された活性値は活性予測値と同じまたは非常に近い値となった。
【0146】
このように、実施例1や比較例1、実施例2~実施例4の結果から、本実施形態に係る第XIII因子活性値決定方法によれば、FXIII-GLDH法を前提とすることで第XIII因子活性値に応じた物性値の測定に要する作業性の改善を図りながらも、血漿に比して第XIII因子が精製された状態や濃縮された状態にある製品や中間品の第XIII因子活性値を、フィブリノゲン濃度が2.0mg/mL未満である基準試料や被験試料を使用した場合に比して、正確に決定できることが示された。
【0147】
〔2〕各種検討
上述した本実施形態に係る第XIII因子活性値決定方法や被験試料の調製方法、測定点試料の調製方法は、様々な検討や試行錯誤を経て完成されたものである。
【0148】
本項ではこれらの完成に先立ち、高活性試料用希釈液(検体希釈液)や、試料調製用希釈液(フィブリノゲン試液)について行われた検討や評価について実験結果等を交えながら説明する。
【0149】
(2-1)高活性試料用希釈液及び検体希釈液の検討
まず、本実施形態に係る第XIII因子活性値決定方法や被験試料の調製方法、測定点試料の調製方法にて使用する高活性試料用希釈液の検討を行った。
【0150】
具体的には、(a)オーレンベロナール緩衝液、(b)オーレンベロナール緩衝液+0.5 w/v% HSA、(c)オーレンベロナール緩衝液+0.1 v/v% Tween20、(d)オーレンベロナール緩衝液+0.5 w/v% HSA+0.1 v/v% Tween20の4つの希釈液を調製し、FXIII原画の測定に影響があるかを評価した。
【0151】
評価は、上記(a)~(d)の希釈液を用いて、約0.5~2.0単位/mLに調製したFXIII原画の吸光度変化率と直線性について行った。評価の結果を
図1に示す。
【0152】
図1に示すように、(a)~(d)の希釈液の直線性はいずれも良好であった。また、(a)の吸光度変化率の実測値のみが全体的に低値であったが、(b)~(d)では明らかな差は見られなかった。
【0153】
この結果から、(b)~(d)のいずれでも、本実施形態に係る第XIII因子活性値決定方法や被験試料の調製方法、測定点試料の調製方法にて使用する検体希釈液として使用可能であるものと考えられた。また、希釈時のたん白質の吸着を防ぐため、HSAとTween20のいずれか、あるいは両方をオーレンベロナール緩衝液に添加することが望ましいと判断した。
【0154】
また、市販品の入手のしやすさや調製手順の簡便さを考慮した結果、Tween20のみを添加する(c)オーレンベロナール緩衝液+0.1 v/v% Tween20を本試験の検体希釈液として用いることとした。
【0155】
(2-2)検体中のフィブリノゲン濃度の検討
被験試料や基準試料中のフィブリノゲン濃度のばらつきは測定結果に影響を与える。そこで本項では、被験試料や基準試料に含まれるフィブリノゲン濃度を均一にする手法について検討を行った。
【0156】
(a)脱フィブリノゲン処理の検討
各被験試料や基準試料(以下、本項において被験試料等ともいう。)に対して脱フィブリノゲン処理を行い、フィブリノゲンを除去することで均一にする方法について検討を行った。この脱フィブリノゲン処理は、アミン取り込み法でも被験試料に対して行われる手法である。
【0157】
しかしながら、まず結論を述べると、本実施形態に係る第XIII因子活性値決定方法や被験試料の調製方法、測定点試料の調製方法の実施に際し、被験試料等のフィブリノゲンの均一化を図るにあたり脱フィブリノゲン処理は不適であるとの判断に至った。
【0158】
具体的には、アミン取り込み法と同様に被験試料等を55℃で加温し、生じたフィブリノゲンの凝集をポアサイズ10μmのシリンジフィルターでろ過し、得られたろ液を測定に供したところ、一部の被験物品や標準物質にて吸光度反応曲線の直線性が成り立たないという現象が見られたためである。
【0159】
また、このような現象は、10μmのシリンジフィルターでは除去できない微小な凝集粒が吸光度変化率の測定に影響を与えていると考えられたため、より孔径の小さい5μmのフィルターでろ過したところ、吸光度反応曲線の直線性の問題は解消した。
【0160】
しかしながら、フィブリノゲンを除去したことで被験試料等の吸光度変化率の明らかな低下が確認された。
【0161】
また、回帰直線の相関係数R2も低下傾向であったことから、脱フィブリノゲン処理によって直線性の成り立つ範囲が狭くなり、測定範囲も狭くなる可能性が高いと考えられた。
【0162】
このような結果を踏まえ、被験試料等のフィブリノゲンの均一化にあたっては、脱フィブリノゲン処理を行わず、逆にフィブリノゲンを添加することで濃度を均一にすることとした。
【0163】
(b)試料調製用希釈液(フィブリノゲン試液)の検討
被験試料等のフィブリノゲンの均一化を図るためには、被験試料等からフィブリノゲンを除去してしまうのが簡便といえる。しかしながら、本実施形態に係る第XIII因子活性値決定方法や被験試料の調製方法、測定点試料の調製方法では、上述した理由を踏まえ、フィブリノゲンを含有する試料調製用希釈液を用いて希釈を行い、被験試料等に対して敢えてフィブリノゲンを添加することで濃度を均一にする手法をとる点で極めて特徴的である。
【0164】
なお、試料調製用希釈液の代替としてFXIII欠乏ヒト血漿を用い、被験物品や標準物質の希釈を行うことも考えられるが、コストや安定供給の点で不安があるため、試料調製用希釈液の組成検討が行われた。
【0165】
その結果、正常なヒト血漿中のフィブリノゲン濃度は約2~3mg/mLであるため、オーレンベロナール緩衝液に2.5mg/mLのフィブリノゲンを含有させた試料調製用希釈液をフィブリノゲン試液とすることとした。
【0166】
また、標準物質および全検体のフィブリノゲン濃度を均一にする必要があるため、ここでは一例として、フィブリノゲン試液との混合比率を1:9で固定することとした。具体例を挙げるならば、標準物質は検体希釈液で5、10、15単位/mLに調製した後、フィブリノゲン試液と1:9で混合して0.5、1、1.5単位/mLに調製する。被験物品については、検体希釈液で約10単位/mLになるようそれぞれ希釈した後、フィブリノゲン試液と1:9で混合して約1.0単位/mLに調製する手順とすることができる(異種緩衝液希釈法)。
【0167】
(c)試料や希釈液が第XIII因子活性値に及ぼす影響
ここでは、標準物質として第XIII因子含有液又はヒト標準血漿、被験物品として第XIII因子含有液やFXIII原画、ヒト標準血漿を用い、希釈が不要なヒト標準血漿を標準物質又は被験物品とした場合や、第XIII因子含有液を標準物質又は被験物品としたりFXIII原画を被験物品とした際にフィブリノゲン試液で希釈(異種緩衝液希釈法による場合は最終段の希釈)した場合、第XIII因子活性値にどのような影響が及ぶかについて検討を行った。その結果を表2に示す。なお、表中のヒト標準血漿については、凍乾粉末を1mLの注射用水で溶解し、希釈せずに測定に供した。
【表2】
【0168】
表2から分かるように、実施例1、5、6にて決定された第XIII因子活性値は、表1にて示した比較例1、すなわち、希釈液としてオーレンベロナール緩衝液を使用して決定された活性値が活性予測値の半分以下であった場合と比較して、第XIII因子活性値が活性予測値に比して極端に低下することはないことが示された。
【0169】
また、検体組成の影響を受けることなくできるだけ正確な値、例えばアミン取り込み法による活性予測値に近い値を得るためには、標準物質の希釈に使用する希釈液と被験物品の希釈に使用する希釈液とは、同じものや同等のものとすることが望ましい。具体的には、フィブリノゲン試液(必要に応じて検体希釈液とフィブリノゲン試液)に揃えるのが望ましい。
【0170】
(2-3)フィブリノゲン試液の濃度の検討
フィブリノゲン試液に含まれるフィブリノゲンの濃度を違えた希釈液を調製し、それぞれの希釈液にて希釈を行った場合における第XIII因子活性値への影響について評価した。
【0171】
具体的には、オーレンベロナール緩衝液に含まれるフィブリノゲンの濃度を1、2、2.5、3、4mg/mLの5種類とし、FXIII原画および第XIII因子を含む所定の小分製品について第XIII因子活性値の決定を行った。その結果、表3に示すように、少なくとも2mg/mL以上であれば第XIII因子活性値にほとんど差がないことが確認された。
【表3】
【0172】
上述してきたように、本実施形態に係る第XIII因子活性値決定方法によれば、血漿以外の被験試料に含まれる未知の血液凝固第XIII因子(第XIII因子)活性値を、第XIII因子活性既知の基準試料と被験試料の物性値の比較により決定する方法であって、前記物性値は、グルタミン残基を有する第XIII因子の所定の基質とグリシンエチルエステルとをカルシウムイオンとトロンビンとの存在下で前記被験試料又は基準試料中の第XIII因子により反応させてアンモニアを生成させつつ、同アンモニアとα-ケトグルタル酸とをNAD(P)H又はNAD(P)H類縁体の存在下でグルタミン酸デヒドロゲナーゼにより反応させることで消費されるNAD(P)H若しくはNAD(P)H類縁体又は生成されるNAD(P)若しくはNAD(P)類縁体の単位時間あたりの変化量に相応する物性値であり、前記基準試料及び被験試料には、2.0~4.0mg/mLの濃度でフィブリノゲンを含有させたため、FXIII-GLDH法を前提とすることで第XIII因子活性値に応じた物性値の測定に要する作業性の改善を図りながらも、血漿に比して第XIII因子が精製された状態や濃縮された状態にある製品や中間品の第XIII因子活性値を検体組成の影響を受けることなく正確に決定できる方法を提供することができる。
【0173】
また、本実施形態に係る第XIII因子活性値決定方法によれば、被験物品(ただし、血漿を除く。)より調製した被験試料(ただし、血漿を除く。)に含まれる未知の血液凝固第XIII因子(第XIII因子)活性値に応じた物性値を測定して、基準試料に含まれる既知の第XIII因子活性値に応じた物性値と比較することにより、前記被験物品又は前記被験試料中の第XIII因子活性値を決定する方法であって、前記被験試料及び基準試料における第XIII因子活性値に応じた物性値は、グルタミン残基を有する前記第XIII因子の所定の基質とグリシンエチルエステルとをカルシウムイオンとトロンビンとの存在下で前記被験試料又は基準試料中の第XIII因子により反応させてアンモニアを生成させつつ同アンモニアとα-ケトグルタル酸とをNAD(P)H又はNAD(P)H類縁体の存在下でグルタミン酸デヒドロゲナーゼにより反応させることで消費されるNAD(P)H若しくはNAD(P)H類縁体又は生成されるNAD(P)若しくはNAD(P)類縁体の単位時間あたりの変化量に相応する物性値であり、前記基準試料は、1mLの正常血漿中の第XIII因子の活性を1単位とした場合に、予め設定した測定点試料活性目標値に合致させた既知の第XIII因子活性値を有する1つの測定点試料又は複数のそれぞれ異なる測定点試料活性目標値に合致させた既知の第XIII因子活性値を有する複数の測定点試料により構成し、前記被験物品及び被験試料は第XIII因子活性値が予め予測されたものであり、前記測定点試料が1つの場合には当該測定点試料の第XIII因子活性値を被験試料活性目標値とする一方、前記測定点試料が複数の場合には前記基準試料のうち最大の第XIII因子活性を有する測定点試料の活性値から最小の第XIII因子活性を有する測定点試料の活性値までの範囲内より選択される値を被験試料活性目標値として、前記第XIII因子活性の予測値が前記被験試料活性目標値となるよう前記被験試料を調製し、前記基準試料及び被験試料には、2.0~4.0mg/mLの濃度でフィブリノゲンを含有させたため、FXIII-GLDH法を前提とすることで第XIII因子活性値に応じた物性値の測定に要する作業性の改善を図りながらも、血漿に比して第XIII因子が精製された状態や濃縮された状態にある製品や中間品の第XIII因子活性値を検体組成の影響を受けることなく正確に決定できる方法を提供することができる。
【0174】
最後に、上述した各実施の形態の説明は本発明の一例であり、本発明は上述の実施の形態に限定されることはない。このため、上述した各実施の形態以外であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能であることは勿論である。
【要約】
【課題】FXIII-GLDH法を前提とすることで第XIII因子活性値に応じた物性値の測定に要する作業性の改善を図りながらも、血漿に比して第XIII因子が精製された状態や濃縮された状態にある製品や中間品の第XIII因子活性値を検体組成の影響を受けることなく正確に決定できる方法を提供する。
【解決手段】被験試料に含まれる未知の第XIII因子活性値を、既知の基準試料と被験試料の物性値の比較により決定する方法であって、前記物性値は、FXIII-GLDH法において消費されるNAD(P)H若しくはNAD(P)H類縁体又は生成されるNAD(P)若しくはNAD(P)類縁体の単位時間あたりの変化量に相応する物性値であり、前記基準試料及び被験試料には、2.0~4.0mg/mLの濃度でフィブリノゲンを含有させることとした。
【選択図】
図1