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  • 特許-水系バリアコート剤およびコート紙 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-09
(45)【発行日】2024-08-20
(54)【発明の名称】水系バリアコート剤およびコート紙
(51)【国際特許分類】
   C09D 133/04 20060101AFI20240813BHJP
   D21H 27/30 20060101ALI20240813BHJP
   B32B 29/00 20060101ALI20240813BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20240813BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20240813BHJP
【FI】
C09D133/04
D21H27/30 C
B32B29/00
C09D5/00 Z
C09D7/65
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2024539461
(86)(22)【出願日】2024-06-27
(86)【国際出願番号】 JP2024023347
【審査請求日】2024-06-28
(31)【優先権主張番号】P 2023221882
(32)【優先日】2023-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】312016056
【氏名又は名称】ハリマ化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003812
【氏名又は名称】弁理士法人いくみ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤本 和香子
(72)【発明者】
【氏名】林 俊介
(72)【発明者】
【氏名】船越 遥香
(72)【発明者】
【氏名】北島 祐臣
【審査官】橋本 栄和
(56)【参考文献】
【文献】特開平9-310299(JP,A)
【文献】特開平10-81715(JP,A)
【文献】特開2000-309743(JP,A)
【文献】特開2021-161369(JP,A)
【文献】特開2020-26466(JP,A)
【文献】特開2020-74308(JP,A)
【文献】特表2001-527609(JP,A)
【文献】特開平11-80290(JP,A)
【文献】特開平5-302037(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 133/04
B32B 29/00
C09D 5/00
C09D 7/65
D21H 27/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリルアミドと、
炭素数4以上の直鎖または分岐のアルキル基を有する(メタ)アクリレートと、
スチレン類および/または環状のアルキル基を有する(メタ)アクリレートと、
カルボキシ基含有ビニルモノマーとを含む重合成分の重合体を含み、
前記(メタ)アクリルアミドに対する、前記炭素数4以上の直鎖または分岐のアルキル基を有する(メタ)アクリレートの質量比が、8.3以上27.0以下である、水系バリアコート剤。
【請求項2】
前記カルボキシ基含有ビニルモノマーの含有割合が、前記重合成分100質量部に対して、0.1質量部以上20.0質量部以下である、請求項1に記載の水系バリアコート剤。
【請求項3】
さらに、炭素数16以上28以下のモノカルボン酸と、炭素数24以上34以下のモノアルコールとの反応生成物を含む、請求項1に記載の水系バリアコート剤。
【請求項4】
さらに、セルロースナノファイバーを含む、請求項1に記載の水系バリアコート剤。
【請求項5】
紙と、
前記紙の厚み方向一方側および/または厚み方向他方側に配置されるバリアコート層とを備え、
前記バリアコート層は、請求項1~4のいずれか一項に記載の水系バリアコート剤の乾燥物を含む、コート紙。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系バリアコート剤およびコート紙に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラスチックの消費量を低減する観点から、プラスチックに代えて、紙を用いることが検討されている。
一方、紙は耐油性が低い。そのため、紙に耐油性を付与する観点から、紙の表面をバリアコート剤によって処理することにより、紙の表面にバリアコート層を形成することが検討されている。
【0003】
このようなバリアコート剤として、例えば、スチレンとα-メチルスチレンと(メタ)アクリレートとのスチレンアクリル共重合体を含む樹脂を含有する紙用オーバーコーティング用および接着剤用組成物が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開2020/203346号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、紙には、より優れた耐油性が要求される。
また、バリアコート層を備える紙には、耐ブロッキング性が要求される。
【0006】
本発明の目的は、耐油性および耐ブロッキング性に優れる水系バリアコート剤、および、その水系バリアコート剤を用いて得られるバリアコート層を備えるコート紙を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明[1]は、(メタ)アクリルアミドと、炭素数4以上の直鎖または分岐のアルキル基を有する(メタ)アクリレートと、スチレン類および/または環状のアルキル基を有する(メタ)アクリレートと、カルボキシ基含有ビニルモノマーとを含む重合成分の重合体を含み、前記(メタ)アクリルアミドに対する、前記炭素数4以上の直鎖または分岐のアルキル基を有する(メタ)アクリレートの質量比が、8.3以上27.0以下である、水系バリアコート剤である。
【0008】
本発明[2]は、前記カルボキシ基含有ビニルモノマーの含有割合が、前記重合成分100質量部に対して、0.1質量部以上20.0質量部以下である、上記[1]に記載の水系バリアコート剤を含んでいる。
【0009】
本発明[3]は、さらに、炭素数16以上28以下のモノカルボン酸と、炭素数24以上34以下のモノアルコールとの反応生成物を含む、上記[1]または[2]に記載の水系バリアコート剤を含んでいる。
【0010】
本発明[4]は、さらに、セルロースナノファイバーを含む、上記[1]~[3]のいずれか一項に記載の水系バリアコート剤を含んでいる。
【0011】
本発明[5]は、紙と、前記紙の厚み方向一方側および/または厚み方向他方側に配置されるバリアコート層とを備え、前記バリアコート層は、上記[1]~[4]のいずれか一項に記載の水系バリアコート剤の乾燥物を含む、コート紙を含んでいる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の水系バリアコート剤において、(メタ)アクリルアミドに対する、炭素数4以上の直鎖または分岐のアルキル基を有する(メタ)アクリレートの質量比が、8.3以上27.0以下である。そのため、耐油性および耐ブロッキング性に優れるバリアコート層を形成することができる。
【0013】
本発明のコート紙は、本発明の水系バリアコート剤の乾燥物を含むバリアコート層を備える。そのため、耐油性および耐ブロッキング性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、各実施例および各比較例における(メタ)アクリルアミドに対する炭素数4以上の直鎖または分岐のアルキル基を有する(メタ)アクリレートの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下の説明において、(メタ)アクリルは、アクリルおよび/またはメタクリルである。
【0016】
1.水系バリアコート剤
水系バリアコート剤は、所定のモノマーを含む重合成分の重合体を含む。
【0017】
重合成分は、必須成分として、(メタ)アクリルアミドと、炭素数4以上の直鎖または分岐のアルキル基を有する(メタ)アクリレートと、スチレン類および/または環状のアルキル基を有する(メタ)アクリレートと、カルボキシ基含有ビニルモノマーとを含む。なお、(メタ)アクリルアミドと、炭素数4以上の直鎖または分岐のアルキル基を有する(メタ)アクリレートと、スチレン類および/または環状のアルキル基を有する(メタ)アクリレートと、カルボキシ基含有ビニルモノマーとは、互いに共重合可能である。
【0018】
<(メタ)アクリルアミド>
(メタ)アクリルアミドは、水系バリアコート剤に耐油性を付与する成分である。
(メタ)アクリルアミドは、メタクリルアミドおよび/またはアクリルアミドである。
(メタ)アクリルアミドは、好ましくは、アクリルアミドである。
【0019】
(メタ)アクリルアミドに対する、炭素数4以上の直鎖または分岐のアルキル基を有する(メタ)アクリレートの質量比は、8.3~27.0、好ましくは、8.5~25.0、より好ましくは、8.5~23.0、さらに好ましくは、8.5~20.0、とりわけ好ましくは、8.5~19.0、最も好ましくは、8.5~15.0、さらには、8.5~13.6である。
【0020】
詳しくは、(メタ)アクリルアミドに対する、炭素数4以上の直鎖または分岐のアルキル基を有する(メタ)アクリレートの質量比は、8.3以上、好ましくは、8.5以上、また、27.0以下、好ましくは、25.0以下、より好ましくは、23.0以下、さらに好ましくは、20.0以下、とりわけ好ましくは、19.0以下、最も好ましくは、15.0以下、さらには、13.6以下である。
上記質量比が、上記下限以上であれば、耐油性を向上できる。
一方、上記質量比が、上記下限未満であれば、耐油性が低下する。
また、上記質量比が、上記上限以下であれば、耐ブロッキング性が向上する。
一方、上記質量比が、上記上限を超過すると、耐ブロッキング性が低下する。
【0021】
(メタ)アクリルアミドの含有割合は、スチレン類および/または環状のアルキル基を有する(メタ)アクリレート100質量部に対して、例えば、4質量部~150質量部、好ましくは、5質量部~70質量部、より好ましくは、10質量部~50質量部、さらに好ましくは、12質量部~45質量部、とりわけ好ましくは、13質量部~43質量部、最も好ましくは、14質量部~40質量部、さらには、20質量部~38質量部、さらには、20質量部~36質量部である。
【0022】
(メタ)アクリルアミドの含有割合は、カルボキシ基含有ビニルモノマー100質量部に対して、例えば、20質量部~700質量部、好ましくは、30質量部~200質量部、より好ましくは、40質量部~180質量部、さらに好ましくは、50質量部~170質量部、とりわけ好ましくは、70質量部~150質量部、最も好ましくは、75質量部~130質量部である。
【0023】
(メタ)アクリルアミドの含有割合は、(メタ)アクリルアミドと、炭素数4以上の直鎖または分岐のアルキル基を有する(メタ)アクリレートと、スチレン類および/または環状のアルキル基を有する(メタ)アクリレートと、カルボキシ基含有ビニルモノマーとの総量(以下、必須成分の総量と称する場合がある。)100質量部に対して、例えば、1.0質量部~20質量部、好ましくは、2.0質量部~10質量部、より好ましくは、3.0質量部~9.5質量部、さらに好ましくは、3.5質量部~9.0質量部、とりわけ好ましくは、4.5質量部~8.0質量部である。
【0024】
(メタ)アクリルアミドの含有割合は、重合成分100質量部に対して、例えば、0.5質量部~20.0質量部、好ましくは、1.0質量部~10.0質量部、より好ましくは、2.0質量部~9.0質量部、さらに好ましくは、3.0質量部~8.0質量部、とりわけ好ましくは、3.5質量部~7.0質量部、最も好ましくは、3.5質量部~6.5質量部である。
【0025】
<炭素数4以上の直鎖または分岐のアルキル基を有する(メタ)アクリレート>
炭素数4以上の直鎖または分岐のアルキル基を有する(メタ)アクリレートは、水系 バリアコート剤に耐油性を付与する成分である。
炭素数4以上の直鎖または分岐のアルキル基を有する(メタ)アクリレートは、環状の分岐のアルキル基を含まず、後述する環状のアルキル基を有する(メタ)アクリレートとは区別される。
炭素数4以上の直鎖または分岐のアルキル基を有する(メタ)アクリレートとしては、例えば、n-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルへキシル(メタ)アクリレート、n-アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、および、ステアリル(メタ)アクリレートが挙げられる。
炭素数4以上の直鎖または分岐のアルキル基を有する(メタ)アクリレートは、重合体において、ガラス転移温度を調整して、耐油性および耐ブロッキング性を両立せる観点から、適宜選択される。
炭素数4以上の直鎖または分岐のアルキル基を有する(メタ)アクリレートは、好ましくは、n-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルへキシル(メタ)アクリレートであり、より好ましくは、n-ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレートである。換言すれば、好ましくは、炭素数4以上の直鎖または分岐のアルキル基を有する(メタ)アクリレートは、n-ブチル(メタ)アクリレートからなるか、または、2-エチルへキシル(メタ)アクリレートからなるか、または、n-ブチル(メタ)アクリレートおよび2-エチルへキシル(メタ)アクリレートからなる。
【0026】
炭素数4以上の直鎖または分岐のアルキル基を有する(メタ)アクリレートが、n-ブチル(メタ)アクリレートおよび2-エチルへキシル(メタ)アクリレートからなる場合には、n-ブチル(メタ)アクリレートに対する、2-エチルへキシル(メタ)アクリレートの質量比は、例えば、0.5以上、好ましくは、0.8以上、より好ましくは、0.9以上、また、例えば、2.0以下、好ましくは、1.5以下、より好ましくは、1.3以下、さらに好ましくは、1.2以下である。
【0027】
詳しくは、n-ブチル(メタ)アクリレートに対する、2-エチルへキシル(メタ)アクリレートの質量比は、例えば、0.5~2.0、好ましくは、0.8~1.5、より好ましくは、0.9~1.3、さらに好ましくは、0.9~1.2である。
【0028】
また、炭素数4以上の直鎖または分岐のアルキル基を有する(メタ)アクリレートにおいて、炭素数は、好ましくは、18以下、より好ましくは14以下、さらに好ましくは、10以下、とりわけ好ましくは、8以下である。
【0029】
炭素数4以上の直鎖または分岐のアルキル基を有する(メタ)アクリレートの含有割合は、スチレン類および/または環状のアルキル基を有する(メタ)アクリレート100質量部に対して、例えば、60質量部~1600質量部、好ましくは、80質量部~1000質量部、より好ましくは、150質量部~500質量部、さらに好ましくは、200質量部~350質量部、とりわけ好ましくは、250質量部~320質量部、最も好ましくは、260質量部~300質量部である。
【0030】
炭素数4以上の直鎖または分岐のアルキル基を有する(メタ)アクリレートの含有割合は、カルボキシ基含有ビニルモノマー100質量部に対して、例えば、200質量部~12000質量部、好ましくは、400質量部~10000質量部、より好ましくは、800質量部~1600質量部、さらにより好ましくは、1000~1200質量部である。
【0031】
炭素数4以上の直鎖または分岐のアルキル基を有する(メタ)アクリレートの含有割合は、必須成分100質量部に対して、例えば、30質量部~90質量部、好ましくは、40質量部~80質量部、より好ましくは、50質量部~70質量部、さらに好ましくは、60質量部~70質量部である。
【0032】
詳しくは、炭素数4以上の直鎖または分岐のアルキル基を有する(メタ)アクリレートの含有割合は、必須成分100質量部に対して、耐油性の観点から、例えば、30質量部以上、好ましくは、40質量部以上、より好ましくは、50質量部以上、さらに好ましくは、60質量部、また、耐ブロッキング性の観点から、例えば、90質量部以下、好ましくは、80質量部以下、より好ましくは、70質量部以下である。
【0033】
炭素数4以上の直鎖または分岐のアルキル基を有する(メタ)アクリレートの含有割合は、重合成分100質量部に対して、例えば、20.0質量部~80.0質量部、好ましくは、30.0質量部~70.0質量部、より好ましくは、40.0質量部~60.0質量部である。
【0034】
詳しくは、炭素数4以上の直鎖または分岐のアルキル基を有する(メタ)アクリレートの含有割合は、重合成分100質量部に対して、耐油性の観点から、例えば、20.0質量部以上、好ましくは、30.0質量部以上、より好ましくは、40.0質量部以上、また、耐ブロッキング性の観点から、例えば、80.0質量部以下、好ましくは、70.0質量部以下、より好ましくは、60.0質量部以下である。
【0035】
<スチレン類および/または環状のアルキル基を有する(メタ)アクリレート>
スチレン類としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、および、ビニルトルエンが挙げられる。スチレン類は、好ましくは、スチレン、α-メチルスチレンであり、より好ましくは、スチレンである。
【0036】
環状のアルキル基を有する(メタ)アクリレートとしては、例えば、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレートが挙げられる。環状アルキル基を有する(メタ)アクリレートは、好ましくは、シクロヘキシル(メタ)アクリレートであり、より好ましくは、シクロヘキシルアクリレートである。
スチレン類および/または環状アルキル基を有する(メタ)アクリレートは、好ましくは、スチレン、シクロヘキシルアクリレートであり、より好ましくは、スチレンである。
スチレン類および/または環状のアルキル基を有する(メタ)アクリレートは、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0037】
スチレン類および/または環状のアルキル基を有する(メタ)アクリレートの含有割合は、カルボキシ基含有ビニルモノマー100質量部に対して、例えば、80質量部~5000質量部、好ましくは、100質量部~1000質量部、より好ましくは、200質量部~500質量部、さらに好ましくは、300質量部~400質量部である。
【0038】
スチレン類および/または環状のアルキル基を有する(メタ)アクリレートの含有割合は、必須成分100質量部に対して、例えば、1質量部~50質量部、好ましくは、10質量部~40質量部、より好ましくは、20質量部~30質量部である。
【0039】
スチレン類および/または環状のアルキル基を有する(メタ)アクリレートの含有割合は、重合成分100質量部に対して、例えば、4.0質量部~40.0質量部、好ましくは、10.0質量部~30.0質量部、より好ましくは、15.0質量部~20.0質量部である。
【0040】
<カルボキシ基含有ビニルモノマー>
カルボキシ基含有ビニルモノマーは、耐油性を向上させる成分である。
【0041】
カルボキシ基含有ビニルモノマーとしては、例えば、モノカルボン酸、ジカルボン酸、または、これらの塩が挙げられる。モノカルボン酸としては、例えば、(メタ)アクリル酸が挙げられる。ジカルボン酸としては、例えば、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、無水イタコン酸、無水マレイン酸、および、無水フマル酸が挙げられる。
【0042】
カルボキシ基含有ビニルモノマーは、好ましくは、モノカルボン酸であり、より好ましくは、(メタ)アクリル酸であり、さらに好ましくは、メタクリル酸である。
カルボキシ基含有ビニルモノマーは、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0043】
カルボキシ基含有ビニルモノマーの含有割合は、必須成分100質量部に対して、例えば、0.1質量部~20質量部、好ましくは、1質量部~15質量部、より好ましくは、3質量部~10質量部である。
【0044】
カルボキシ基含有ビニルモノマーの含有割合は、重合成分100質量部に対して、例えば、0.1質量部~20.0質量部、好ましくは、1.0質量部~15.0質量部、より好ましくは、3.0質量部~10.0質量部、さらに好ましくは、4.0質量部~7.0質量部である。
【0045】
詳しくは、カルボキシ基含有ビニルモノマーの含有割合は、重合成分100質量部に対して、耐油性の観点から、例えば、0.1質量部以上、好ましくは、1.0質量部以上、より好ましくは、3.0質量部以上、さらに好ましくは、4.0質量部以上、また、耐油性の観点から、例えば、20.0質量部以下、好ましくは、15.0質量部以下、より好ましくは、10.0質量部以下、さらに好ましくは、7.0質量部以下である。
【0046】
<共重合性モノマー>
重合成分は、(メタ)アクリルアミドと、炭素数4以上の直鎖または分岐のアルキル基を有する(メタ)アクリレートと、スチレン類および/または環状のアルキル基を有する(メタ)アクリレートと、カルボキシ基含有ビニルモノマーと共重合可能な共重合性モノマー(後述する架橋性モノマーを除く。)を含むこともできる。
【0047】
共重合性モノマーとしては、例えば、炭素数3以下のアルキル基を有する(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0048】
炭素数3以下のアルキル基を有する(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0049】
共重合性モノマーは、好ましくは、メチル(メタ)アクリレートであり、より好ましくは、メチルメタクリレートである。
共重合性モノマーは、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0050】
共重合性モノマーの含有割合は、必須成分100質量部に対して、例えば、1質量部~70質量部、好ましくは、3質量部~60質量部、より好ましくは、5質量部~50質量部、より好ましくは、7質量部~40質量部、さらに好ましくは、8質量部~30質量部、とりわけ好ましくは、10質量部~25質量部である。
【0051】
共重合性モノマーの含有割合は、重合成分100質量部に対して、例えば、1.0質量部~50.0質量部、好ましくは、5.0質量部~40.0質量部、より好ましくは、7.0質量部~30.0質量部、さらに好ましくは、10.0質量部~20.0質量部である。
【0052】
また、共重合性モノマーは、好ましくは、ケイ素含有モノマー(例えば、ポリシロキサン含有(メタ)アクリレート)を含まない。詳しくは、この重合体によれば、耐油性に優れるケイ素含有モノマーを含まなくても、十分な耐油性を実現できる。
【0053】
また、共重合性モノマーは、好ましくは、フッ素含有モノマー(例えば、パーフルオロアルキル基含有(メタ)アクリレート)を含まない。詳しくは、この重合体によれば、耐油性に優れるフッ素含有モノマーを含まなくても、十分な耐油性を実現できる。
【0054】
<架橋性モノマー>
重合成分は、耐油性の向上の観点から、必要により、架橋性モノマーを含む。
架橋性モノマーは、(メタ)アクリルアミドと、炭素数4以上の直鎖または分岐のアルキル基を有する(メタ)アクリレートと、スチレン類および/または環状のアルキル基を有する(メタ)アクリレートと、カルボキシ基含有ビニルモノマーと共重合性モノマーと共重合可能であって、架橋構造を形成する。
【0055】
架橋性モノマーとしては、例えば、一官能性架橋剤、二官能性架橋剤、および、多官能性架橋剤が挙げられる。
【0056】
一官能性架橋剤としては、例えば、N-(ヒドロキシメチル)アクリルアミド、N-(ヒドロキシエチル)アクリルアミド、N,N’-ジメチルアクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド、N-(イソプロピル)アクリルアミド、および、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートが挙げられる。一官能性架橋剤は、好ましくは、N-(ヒドロキシメチル)アクリルアミドである。
【0057】
二官能性架橋剤としては、例えば、メチレンビス(メタ)アクリルアミド、エチレンビス(メタ)アクリルアミド、アリル(メタ)アクリルアミド、ジビニルベンゼン、アリル(メタ)アクリレート、および、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートが挙げられる。二官能性架橋剤は、好ましくは、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートである。ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートとしては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、および、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0058】
多官能性架橋剤としては、例えば、トリアクリルホルマール、トリアリルイソシアヌレート、トリアクリル酸ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン(メタ)アクリレート、および、テトラアリルオキシエタンが挙げられる。
【0059】
架橋性モノマーは、好ましくは、一官能性架橋剤であり、より好ましくは、N-(ヒドロキシメチル)アクリルアミドである。
【0060】
架橋性モノマーの配合割合は、重合成分100質量部に対して、例えば、0.01質量部~10.0質量部、好ましくは、0.1質量部~5.0質量部、より好ましくは、0.5質量部~3.0質量部、さらに好ましくは、0.8質量部~1.5質量部である。
【0061】
詳しくは、架橋性モノマーの配合割合は、耐油性の観点から、重合成分100質量部に対して、例えば、10質量部以下、好ましくは、5.0質量部以下、より好ましくは、3.0質量部以下、さらに好ましくは、1.5質量部以下である。
【0062】
<重合体の製造方法>
重合体は、重合成分を重合することにより得られる。
重合成分を重合する方法は、特に限定されないが、好ましくは、乳化重合である。
【0063】
乳化重合では、まず、所定の反応容器に、重合成分、水および乳化剤(例えば、アルキルベンゼンスルホネート)を仕込み、必要により、触媒、連鎖移動剤などを適宜配合して、重合成分を含む混合液(モノマー混合液)を調製する。
【0064】
上記乳化剤には公知のアニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤などを使用することができる。
上記アニオン性界面活性剤としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアルキルベンゼンスルホン酸塩、脂肪酸塩、ロジン酸塩、アルキル硫酸エステル、アルキルスルホコハク酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、および、ポリオキシエチレンアルキル(アリール)硫酸エステル塩などが挙げられる。アニオン性界面活性剤は、好ましくは、アルキルベンゼンスルホン酸塩である。
上記ノニオン性界面活性剤としては、例えば、C1~C20アルカノール、フェノール、ナフトール、ビスフェノール類、C1~C20アルキルナフトール、ポリオキシエチレン(プロピレン)グリコール、脂肪族アミンなどのエチレンキシドおよび/またはプロピレンオキシド付加物などが挙げられる。
乳化剤は、好ましくは、アニオン性界面活性剤であり、より好ましくは、アルキルベンゼンスルホン酸塩である。
乳化剤は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0065】
次いで、水および乳化剤を含む混合液に、重合開始剤およびモノマー混合液を添加して、重合成分を重合する。
【0066】
なお、重合開始剤は、予め、重合開始剤の水溶液として調製され、水および乳化剤を含む混合液に対して、一括または分割で配合される。
【0067】
重合開始剤としては、例えば、ラジカル重合開始剤が挙げられ、具体的には、パーオキサイド系化合物、スルフィド類、スルフィン類、スルフィン酸類などが挙げられ、さらに好ましくは、パーオキサイド系化合物が挙げられる。なお、パーオキサイド系化合物は、還元剤と併用し、レドックス系重合開始剤として使用してもよい。パーオキサイド系化合物としては、有機過酸化物、無機過酸化物などが挙げられる。パーオキサイド系化合物は、好ましくは、無機過酸化物である。
【0068】
有機過酸化物としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、および、アセチルパーオキサイドなどが挙げられる。
【0069】
無機過酸化物としては、例えば、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩、過酸化水素、過マンガン酸カリウム、臭素酸ナトリウム、臭素酸カリウムなどの臭素酸塩、過ホウ素酸ナトリウム、過ホウ素酸カリウム、過ホウ素酸アンモニウムなどの過ホウ素酸塩、過炭酸ナトリウム、過炭酸カリウム、過炭酸アンモニウムなどの過炭酸塩、過リン酸ナトリウム、過リン酸カリウム、過リン酸アンモニウムなどの過リン酸塩などが挙げられる。無機過酸化物は、好ましくは、過硫酸塩であり、より好ましくは、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムであり、さらに好ましくは、過硫酸アンモニウムである。
【0070】
また、重合開始剤としては、アゾ系化合物を用いることもできる。アゾ系化合物としては、例えば、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)およびその塩などが挙げられる。
【0071】
重合開始剤は、好ましくは、無機過酸化物であり、より好ましくは、過硫酸塩であり、さらに好ましくは、過硫酸アンモニウムである。
重合開始剤は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0072】
重合条件として、重合温度は、例えば、60℃~100℃、好ましくは、70℃~90℃である。重合時間は、例えば、1時間~12時間、好ましくは、4時間~8時間である。
【0073】
重合体は、好ましくは、中和剤によって、カルボキシ基含有ビニルモノマーに由来するカルボキシ基を中和して、重合体のpHが5~9になるように調整される。
【0074】
中和剤としては、公知の塩基性化合物が挙げられる。塩基性化合物としては、アミン化合物、水酸化物、および、モルホリンなどが挙げられる。塩基性化合物は、好ましくは、アミン化合物である。
アミン化合物としては、例えば、アンモニア、トリエチルアミン、ジエチルアミンなどのモノアミン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、N,N-ジメチルアミノエタノール、N,N-ジエチルアミノエタノール、2-ジメチルアミノ-2-メチル-1-プロパノール、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミンなどのアルカノールアミンが挙げられる。アミン化合物は、好ましくは、モノアミンであり、より好ましくは、アンモニアである。
水酸化物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが挙げられる。
中和剤は、好ましくは、塩基性化合物であり、より好ましくは、アミン化合物であり、さらに好ましくは、アンモニアである。
中和剤は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0075】
重合体のガラス転移温度は、例えば、-70℃~40℃、好ましくは、-55℃~25℃、より好ましくは、-40℃~10℃、さらに好ましくは、-30℃~5℃、とりわけ好ましくは、-25℃~3℃、最も好ましくは、-20℃~-5℃である。
なお、ガラス転移温度は、FOXの式により算出される。
【0076】
重合体の重量平均分子量(Mw)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定による標準ポリスチレン換算で、例えば、20000~250000、好ましくは、30000~200000である。
【0077】
<炭素数16以上28以下のモノカルボン酸と炭素数24以上34以下のモノアルコールの反応生成物>
水系バリアコート剤は、耐油性および耐ブロッキング性の向上の観点から、好ましくは、炭素数16以上28以下のモノカルボン酸と炭素数24以上34以下のモノアルコールとの反応生成物を含む。
【0078】
炭素数16以上28以下のモノカルボン酸としては、例えば、パルミチン酸(炭素数16)、マルガリン酸 (炭素数17)、ステアリン酸(炭素数18)、ノナデシル酸(炭素数19)、アラキジン酸(炭素数20)、ヘンイコシル酸(炭素数21)、ベヘン酸(炭素数22)、トリコシル酸(炭素数23)、リグノセリン酸(炭素数24)、ペンタコシル酸(炭素数25)、セロチン酸(炭素数26)、ヘプタコシル酸(炭素数27)、および、モンタン酸(炭素数28)が挙げられる。
【0079】
炭素数16以上28以下のモノカルボン酸は、好ましくは、炭素数16以上20以下のモノカルボン酸であり、より好ましくは、炭素数16以上18以下のモノカルボン酸であり、さらに好ましくは、パルミチン酸である。
炭素数16以上28以下のモノカルボン酸は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0080】
炭素数24以上34以下のモノアルコールとしては、例えば、1-テトラコサノール(炭素数24)、1-ペンタコサノール(炭素数25)、1-ヘキサコサノール(炭素数26)、1-ヘプタコサノール(炭素数27)、1-オクタコサノール(炭素数28)、1-ノナコサノール(炭素数29)、1-トリアコンタノール(炭素数30)、1-ヘントリアコンタノール(炭素数31)、1-ドトリアコンタノール(炭素数32)、1-トリトリアコンタノール(炭素数33)、および、1-テトラトリアコンタノール(炭素数34)が挙げられる。
【0081】
炭素数24以上34以下のモノアルコールは、好ましくは、炭素数26以上32以下のモノアルコールであり、より好ましくは、炭素数28以上30以下のモノアルコールであり、さらに好ましくは、1-トリアコンタノールである。
炭素数24以上34以下のモノアルコールは、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0082】
そして、炭素数16以上28以下のモノカルボン酸と炭素数24以上34以下のモノアルコールとを反応(エステル反応)させるには、例えば、窒素雰囲気下で、炭素数16以上28以下のモノカルボン酸と、炭素数24以上34以下のモノアルコールとを混合して、例えば、80℃以上110℃以下で、溶解させた後、昇温して、これらを反応させる。
【0083】
反応条件として、反応温度は、例えば、120℃~220℃、好ましくは、150℃~200℃である。反応は、酸価(JIS K5601-2-1(1999))が、例えば、20mgKOH/g以下となるまで続けるが、反応時間は、例えば、0.5時間~6時間である。
【0084】
これにより、炭素数16以上28以下のモノカルボン酸と炭素数24以上34以下のモノアルコールとの反応生成物が得られる。
【0085】
炭素数16以上28以下のモノカルボン酸と炭素数24以上34以下のモノアルコールとの反応生成物の含有割合は、重合体100質量部に対して、例えば、5.0質量部~30.0質量部、好ましくは、10.0質量部~20.0質量部、より好ましくは、10.0質量部~15.0質量部である。
【0086】
詳しくは、炭素数16以上28以下のモノカルボン酸と炭素数24以上34以下のモノアルコールとの反応生成物の含有割合は、重合体100質量部に対して、耐油性および耐ブロッキング性の向上の観点から、例えば、5.0質量部以上、好ましくは、10.0質量部以上、また、耐油性の観点から、例えば、30.0質量部以下、好ましくは、20.0質量部以下、より好ましくは、15.0質量部以下である。
【0087】
<セルロースナノファイバー>
水系バリアコート剤は、耐油性および耐ブロッキング性の向上の観点から、好ましくは、セルロースナノファイバーを含む。
セルロースナノファイバーは、好ましくは、水にセルロースナノファイバーを分散させたセルロースナノファイバーの水分散液として調製される。セルロースナノファイバーの水分散液は、市販品を用いても良い。市販品としては、レオクリスタI-2SXが挙げられる。
【0088】
セルロースナノファイバーの含有割合は、重合体100質量部に対して、例えば、0.1質量部~5質量部、好ましくは、0.2質量部~1質量部である。
【0089】
詳しくは、セルロースナノファイバーの含有割合は、耐油性および耐ブロッキング性の向上の観点から、重合体100質量部に対して、例えば、0.1質量部以上、好ましくは、0.2質量部以上、また、耐油性の観点から、例えば、5.0質量部以下、好ましくは、1.0質量部以下である。
【0090】
<添加剤>
水系バリアコート剤は、必要により、添加剤を含む。
添加剤としては、例えば、消泡剤、防腐剤、キレート剤、防滑剤、防錆剤、紫外線防止剤、退色防止剤、蛍光増白剤、粘度安定剤、および、表面紙力剤が挙げられる。
【0091】
また、水系バリアコート剤は、好ましくは、ポリシロキサン化合物(例えば、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン)を含まない。詳しくは、この水系バリアコート剤によれば、耐油性に優れるポリシロキサン化合物を含まなくても、十分な耐油性を実現できる。
【0092】
水系バリアコート剤は、好ましくは、フッ素化合物を含まない。詳しくは、フッ素化合物は、耐油性に優れる一方、環境負荷を増加させる場合がある。一方、この水系バリアコート剤によれば、耐油性に優れるフッ素化合物を含まなくても、十分な耐油性を実現できる。
【0093】
<水系バリアコート剤の調製>
水系バリアコート剤は、重合体と、必要により配合される炭素数16以上28以下のモノカルボン酸および炭素数24以上34以下のモノアルコールの反応生成物と、必要により配合されるセルロースナノファイバー(セルロースナノファイバーの水分散液)と、必要により配合される添加剤と、水とを混合することにより調製される。
【0094】
また、炭素数16以上28以下のモノカルボン酸と炭素数24以上34以下のモノアルコールとの反応生成物を配合する場合には、好ましくは、炭素数16以上28以下のモノカルボン酸と炭素数24以上34以下のモノアルコールとの反応生成物を、予め、20℃以上60℃以下で加熱する。
【0095】
水系バリアコート剤の固形分濃度は、例えば、10質量%~50質量%、好ましくは、20質量%~45質量%、より好ましくは、30質量%~40質量%である。
【0096】
そして、水系バリアコート剤において、(メタ)アクリルアミドに対する、炭素数4以上の直鎖または分岐のアルキル基を有する(メタ)アクリレートの質量比が、8.3以上27.0以下である。そのため、耐油性および耐ブロッキング性に優れるバリアコート層を形成することができる。
【0097】
このような水系バリアコート剤は、とりわけ、紙に耐油性を付与する用途において、好適に用いられる。
【0098】
以下、この水系バリアコート剤を用いて得られるコート紙について、詳述する。
【0099】
2.コート紙
コート紙は、紙と、紙の厚み方向一方側および/または厚み方向他方側に配置されるバリアコート層とを備える。
詳しくは、コート紙は、紙とバリアコート層とを厚み方向一方側(または厚み方向他方側)に向かって順に備えるか、または、バリアコート層と紙とバリアコート層とを厚み方向一方側に向かって順に備える。
紙としては、例えば、新聞用紙、インクジェット用紙、感熱記録原紙、上質紙、板紙、塗工紙、および、クラフト紙が挙げられる。
紙の坪量は、例えば、50g/m~120g/m、好ましくは、70g/m~100g/mである。
【0100】
バリアコート層は、水系バリアコート剤の乾燥物を含む。バリアコート層は、好ましくは、水系バリアコート剤の乾燥物からなる。
【0101】
そして、コート紙は、紙の厚み方向一方面および/または厚み方向他方面に、水系バリアコート剤を塗布して、乾燥することにより得られる。
【0102】
詳しくは、水系バリアコート剤の乾燥後の質量が、例えば、1g/m~20g/m、好ましくは、5g/m~15g/mとなるように、塗布する。
【0103】
塗布方法は、特に限定されず、例えば、グラビアコート法、リバースコート法、ロールコート法、バーコート法、スプレーコート法、エアナイフコート法、および、ディッピング法が挙げられる。塗布方法は、好ましくは、バーコート法である。
【0104】
乾燥条件として、乾燥温度は、例えば、70℃~180℃、好ましくは、90℃~150℃、より好ましくは、110℃~150℃である。乾燥時間は、例えば、0.5分~10分である。
【0105】
これにより、紙の厚み方向一方面および/または厚み方向他方面に、水系バリアコート剤の乾燥物であるバリアコートが形成される。以上より、紙と、紙の厚み方向一方側および/または厚み方向他方側に配置されるバリアコート層とを備えるコート紙を製造する。
【0106】
<作用効果>
水系バリアコート剤において、(メタ)アクリルアミドに対する、炭素数4以上の直鎖または分岐のアルキル基を有する(メタ)アクリレートの質量比が、8.3以上27.0以下である。そのため、耐油性および耐ブロッキング性に優れるバリアコート層を形成することができる。
【0107】
コート紙は、水系バリアコート剤の乾燥物を含むバリアコート層を備える。そのため、耐油性および耐ブロッキング性に優れる。
【実施例
【0108】
以下の記載において用いられる配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなどの具体的数値は、上記の「発明を実施するための形態」において記載されている、それらに対応する配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなど該当記載の上限値(「以下」、「未満」として定義されている数値)または下限値(「以上」、「超過」として定義されている数値)に代替することができる。また、以下の記載において特に言及がない限り、「部」および「%」は質量基準である。
【0109】
<成分の詳細>
各実施例、および、各比較例で用いた成分の、商品名および略語について、詳述する。
なお、括弧内の数値は、ホモポリマーのガラス転移温度を示す。
AM:アクリルアミド(153℃)
2EHA:2-エチルヘキシルアクリレート(-85℃)
nBA:n-ブチルアクリレート(-54℃)
St:スチレン(100℃)
MAA:メタクリル酸(130℃)
MMA:メチルメタクリレート(105℃)
レオクリスタI-2SX:セルロースナノファイバーの水分散体(固形分2質量%)、第一工業製薬社製
【0110】
<重合体の製造>
製造例1~製造例15および比較製造例1~比較製造例6
表1および表2に記載の重合成分と、乳化剤として、20質量%のアルキルベンゼンスルホン酸塩水溶液(商品名「ネオゲンS-20F」、第一工業製薬社製)7.1質量部と、水41.2質量部とを配合して、撹拌してモノマー混合物を得た
別途、ビーカーに、重合開始剤として過硫酸アンモニウム1.2質量部と、水32.4質量部とを配合し、撹拌および溶解して、重合開始剤水溶液を調製した。
【0111】
そして、撹拌装置、温度計および還流冷却器を備えた4つ口フラスコに、水112質量部、乳化剤として20質量%のアルキルベンゼンスルホン酸塩水溶液(ネオゲンS-20F)3.1質量部を配合して、攪拌しながら80℃まで加熱した。
【0112】
次いで、モノマー混合物および重合開始剤水溶液を4時間かけて別々にアルキルベンゼンスルホン酸塩水溶液に連続的に注入しながら、この間の温度を80℃に保持して重合を進め、注入後2.5時間、80℃で反応を継続した。その後、40℃まで冷却した。
【0113】
次いで、得られた重合体のpHが5~9になるように、28質量%アンモニア水0.2質量部と、水2.9質量部を配合し、重合体中の酸基(カルボキシ基)を、アンモニアにより中和して、固形分濃度が35.0質量%、粘度が650mPa・s(25℃)の重合体の水分散液を得た。
【0114】
<炭素数16以上28以下のモノカルボン酸と炭素数24以上34以下のモノアルコールとの反応生成物の合成>
合成例1
攪拌装置、温度計、窒素吹き込み管、水抜き管および還流冷却器を備えた4つ口フラスコに、富士フイルム和光純薬株式会社製「パルミチン酸(炭素数16)」40質量部と東京化成工業株式会社製「1-トリアコンタノール(炭素数30)」68.5質量部を入れて、100℃まで加熱攪拌し原料を溶解した。
【0115】
次いで、攪拌を継続しながら180℃まで昇温し、温度を保持しながら1時間反応させた。反応中は窒素ガスを吹き込み、水抜き管に溜まった水は適宜抜き出した。1時間経過後、サンプリングした。得られたサンプルはJIS K 5601-2-1(1999)に基づいた酸価測定を実施した。具体的には、サンプル5gをトルエン/メタノール=1/1の混合溶媒へ溶解させ、0.1mol%のKOH水溶液を用いて滴定した。得られたサンプルの酸価が20mgKOH/g以下であれば終点とし、冷却を開始した。酸価が20mgKOH/g以上の場合は、30分ごとにサンプリングと酸価測定して、酸価が20mgKOH/g以下になるまで反応を継続した。終点に達したのち、冷却した。得られた混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した。これにより、炭素数16以上28以下のモノカルボン酸と炭素数24以上34以下のモノアルコールとの反応生成物を得た(収率90.9%)。
【0116】
<水系バリアコート剤の調製>
実施例1~実施例7、実施例10~実施例17および比較例1~比較例6
製造例1~製造例15および比較製造例1~比較製造例6の重合体を、そのまま、水系バリアコート剤とした。
【0117】
実施例8
温度計、攪拌機、環流冷却管を備えた四つ口フラスコに、表3および表4の記載に基づいて、炭素数16以上28以下のモノカルボン酸および炭素数24以上34以下のモノアルコールの反応生成物を配合して、60℃30分間攪拌した。次いで、重合体を配合して、30分間攪拌した後、40℃以下に冷却した。これにより、水系バリアコート剤を調製した。なお、表3および表4における各成分の数値は、固形分の「質量部」である。
【0118】
実施例9
ビーカーに、レオクリスタI-2SXを25質量部および水75質量部を配合して、高速撹拌機ラボ・リューションで15分間撹拌して、レオクリスタI-2SXを含む水分散液を調製した。
次いで、表3および表4の記載に基づいて、重合体と、レオクリスタI-2SXを含む水分散液とを配合して、ラボ・リューションで15分間撹拌した。これにより、水系バリアコート剤を調製した。
【0119】
<評価>
(コート紙の製造)
各実施例および各比較例の水系バリアコート剤の固形分濃度を、25℃で35.0質量%となるように調整した。
【0120】
次いで、クラフト紙(坪量83g/m、サイズ縦25cm×横25cm)の厚み方向一方面に、各実施例および各比較例の水系バリアコート剤を、バーコーターを用いて、乾燥後の質量換算で10g/mとなるように塗布し、熱風乾燥器を用いて、120℃で1分間乾燥させた。これにより、紙の厚み方向一方面に、バリアコート層を配置するとともに、コート紙を製造した。
【0121】
(耐油性)
各実施例および各比較例のコート紙について、TAPPI(The leading technical association for the worldwide pulp, paper, and converting industry)の評価規格T-559cm-02(キット法)に準拠して、恒温恒湿環境(23℃、相対湿度50%)で、耐油性を評価した。
評価は1から12までの12段階であり、数値が大きい方が、耐油性に優れることを意味する。
NO.1の試験液でも15秒以内ににじむ場合、「耐油性なし」と評価した。
【0122】
比較例2は、試験液をティッシュペーパーで拭き取る際、ブロッキングのためにティッシュがコート紙に貼り付いて、しみ込みの有無を確認できなかった。但し、拭き取る前に、コート紙の表面を目視で観察した限りにおいては、コート紙に試験液のしみ込みを観測できなかった。
【0123】
実施例1、実施例3、実施例6~実施例17は、ともに、耐油性の評価が12であり、優劣が不明確であったため、別途、水系バリアコート剤を、乾燥後の質量換算で6g/mとなるように塗布して得られるコート紙を製造して、このコート紙に対して、同様に、耐油性を評価した。
【0124】
(耐ブロッキング性)
各実施例および各比較例のコート紙を、サイズ縦7cm×横7cmに切り出し、試験片とした。また、未塗工のクラフト紙(坪量83g/m)を、サイズ縦7cm×横7cmに切り出した。
23℃、相対湿度50%の雰囲気中にて、試験片のバリアコート層と、未塗工のクラフト紙とを重ね合わせて、上から2kgの荷重を掛けて24時間押圧した。その後、試験片と、未塗工のクラフト紙とを1.5秒で全面を剥離し、耐ブロッキング性について、以下の基準に基づいて、評価した。
なお、以下の基準の音の有無については、実験者の耳から15cm位置での音を確認した。また、実験者は2人で実施し、1人でも音が聞こえた場合に音ありと判断した。その結果を表3および表4に示す。
{基準}
A:バリアコート層の剥離が認められず、剥離時に音が聞こえなかった。
B:バリアコート層の剥離が認められないが、剥離時に音が聞こえた。
C:バリアコート層の50%未満の剥離が認められた。
D:バリアコート層の50%以上の剥離が認められた。
【0125】
<考察>
図1に、各実施例および各比較例における(メタ)アクリルアミドに対する炭素数4以上の直鎖または分岐のアルキル基を有する(メタ)アクリレートの関係を示すグラフを示す。
図1によれば、(メタ)アクリルアミドに対する、炭素数4以上の直鎖または分岐のアルキル基を有する(メタ)アクリレートの質量比が、8.3以上27.0以下であれば(具体的には、図1の斜線部分)、耐油性および耐ブロッキング性の両方を向上できるとわかる。
【0126】
【表1】
【0127】
【表2】
【0128】
【表3】
【0129】
【表4】
【0130】
なお、上記発明は、本発明の例示の実施形態として提供したが、これは単なる例示にすぎず、限定的に解釈してはならない。当該技術分野の当業者によって明らかな本発明の変形例は、後記請求の範囲に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明の水系バリアコート剤およびコート紙は、例えば、包装材料の製造において、好適に用いられる。
【要約】
水系バリアコート剤は、(メタ)アクリルアミドと、炭素数4以上の直鎖または分岐のアルキル基を有する(メタ)アクリレートと、スチレン類および/または環状のアルキル基を有する(メタ)アクリレートと、カルボキシ基含有ビニルモノマーとを含む重合成分の重合体を含む。(メタ)アクリルアミドに対する、炭素数4以上の直鎖または分岐のアルキル基を有する(メタ)アクリレートの質量比が、8.3以上27.0以下である。
図1