(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】ホログラフィック光学素子、ホログラフィック光学素子製造装置及びホログラフィック光学素子製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 5/32 20060101AFI20240814BHJP
G03H 1/02 20060101ALI20240814BHJP
G03H 1/26 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
G02B5/32
G03H1/02
G03H1/26
(21)【出願番号】P 2020083205
(22)【出願日】2020-05-11
【審査請求日】2023-05-10
(31)【優先権主張番号】P 2019090256
(32)【優先日】2019-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 戦略的イノベーション創出推進プログラム 産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304036743
【氏名又は名称】国立大学法人宇都宮大学
(74)【代理人】
【識別番号】100117226
【氏名又は名称】吉村 俊一
(72)【発明者】
【氏名】茨田 大輔
【審査官】森内 正明
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-167181(JP,A)
【文献】特開2004-226619(JP,A)
【文献】特開平6-130318(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/18
G02B 5/32
G02B 27/02
G03H 1/00 - 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々異なる格子間隔及び格子曲面
を有する複数のホログラフィック回折格子、又は、各々向きの異なる回折平面を含む複数のホログラフィック回折格子が互いに重なり合って形成される
ホログラフィック光学素子であって、
前記複数のホログラフィック回折格子が、各々屈折率の異なる層として三次元的に積層された層構造を有するとともに、対応波長に応じて異なる数の前記層を有し、当該対応波長の平行光が照射された場合に、当該平行光を回折させ、ラインフォーカスさせる、ことを特徴とするホログラフィック光学素子。
【請求項2】
前記層が、前記回折された光の集光される位置及び回折された光の向きに応じた形状を有する、請求項
1に記載のホログラフィック光学素子。
【請求項3】
前記層が、前記ラインフォーカスから広がる光が照射された場合に、当該ラインフォーカスから広がる光を回折させ、当該ラインフォーカスの位置と向きに応じた向きを有する平行光を生じさせる形状を有する、請求項
1又は2に記載のホログラフィック光学素子。
【請求項4】
前記複数のホログラフィック回折格子が、各々前記対応波長の平行光が照射された際に、当該平行光を回折させ、各々異なる集光位置にラインフォーカスさせるとともに、対応するラインフォーカスから広がる光が照射された場合に、当該ラインフォーカスから広がる光を回折させ、当該ラインフォーカスの位置と向きに応じた向きを有する平行光を各々生じさせる形状にて多重露光されて形成される、請求項3に記載のホログラフィック光学素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホログラフィック光学素子と、当該ホログラフィック光学素子を製造するホログラフィック光学素子製造装置及びホログラフィック光学素子製造方法に関し、特に、ホログラフィック回折格子を備えたホログラフィック光学素子と、その製造装置及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ホログラム技術を用いたホログラフィック回折格子等のホログラフィック光学素子及びその製造装置が実用化されるに至っている(例えば、非特許文献1)。特に、近年では、拡張現実(AR)を実現するため、透過型のヘッドマウントディスプレイ(以下、「HMD」という。)やヘッドアップディスプレイ等の表示装置が各種提案されている(例えば、特許文献1)。この種の表示装置にホログラフィック光学素子を応用することにより、広い視野角を実現しつつ、高画質、低コストな表示装置を実現できるものと期待されている。
【0003】
ここで、従来のホログラフィック回折格子は、光源から出射される露光用のソースビームを、PBS(偏光ビームスプリッタ)によってS偏光の信号光とP偏光の参照光に分岐し、PBSを透過した信号光をλ/2板によって、S偏光に変換し、偏光方向を揃えて、感光材料により構成される記録媒体に照射することにより、信号光及び参照光を干渉させ、その干渉縞を記録媒体に露光させる、いわゆる2光束干渉計を用いて製造される(例えば、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】シグマ光機株式会社、“グレーティング露光装置” 検索[平成31年4月21日検索]、インターネット<URLhttps://www.global-optosigma.com/jp/category/opt/opt07.html>
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記従来の2光束干渉計を用いて製造されるホログラフィック光学素子は、基本的に露光に利用した波長でのみ正しく機能し、露光時と別の波長を用いると、目的とは異なる機能を発揮することになる。このため、可視光全域の波長にて目的の機能を実現可能なホログラフィック光学素子を製造しようとすると、可視光の全域にて波長多重露光を行う必要が生じる。しかしながら、記録媒体を構成する感光材料は、可視光の全域に感度を持つわけではなく、一部の波長にしか感度を持たない。可視光の全域に感度を持たせるため、複数の感光材料を混ぜた記録媒体を利用する方法も考えられるが、この場合には、露光用のソースビームの波長も可視光全域で変更しなければならず、非常に大掛かりな製造装置が必要となり、製造コストを削減することが難しい。
【0007】
本発明は、以上説明した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、可視光の全域において目的の機能を実現可能であり、且つ、低コストにて製造可能なホログラフィック光学素子及びその製造装置等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上述した課題を解決するため、本発明のホログラフィック光学素子は、各々異なる格子間隔及び格子曲面を有する複数のホログラフィック回折格子、又は、各々向きの異なる回折平面を含む複数のホログラフィック回折格子が互いに重なり合って形成される構成を有している。
【0009】
この結果、本発明のホログラフィック光学素子は、格子間隔及び格子曲面の異なる複数のホログラフィック回折格子、又は、各々向きの異なる回折平面を含むホログラフィック回折格子が、各々、異なる波長の光に対して目的の機能を実現するので、可視光の全域にて目的の機能を実現できる。また、格子間隔及び格子曲面の異なる複数のホログラフィック回折格子、又は、各々向きの異なる回折平面を含むホログラフィック回折格子は、信号光と参照光を記録媒体に照射する際の相対的な角度を変化させることにより形成できるので、単一波長のソースビームを用いて、製造することができ、低コスト化を実現できる。
【0010】
(2)また、上記構成において、前記複数のホログラフィック回折格子が、各々屈折率の異なる層として三次元的に積層された層構造を有する構成を採用してもよい。
【0011】
この構成により、本発明のホログラフィック光学素子は、記録媒体に対して相対的な照射角度を変化させつつ、信号光及び参照光を照射することにより、1の記録媒体に三次元の層構造を構築して、可視光の全域に対して目的の機能を実現することができる。
【0012】
(3)また、請求項2に記載の構成において、対応波長に応じて異なる数の前記層を有し、当該対応波長の平行光が照射された場合に、当該平行光を回折させ、ラインフォーカスさせる構成を採用してもよい。
【0013】
この構成により、本発明のホログラフィック光学素子は、一軸に曲率を有する理想的な円筒レンズとしての機能を実現することができ、通常の円筒レンズのような収差の発生を防止して、集光精度を向上させることができる。
【0014】
(4)また、請求項3に記載の構成において、前記層が、前記回折された光の集光される位置及び回折された光の向きに応じた形状を有する構成を採用してもよい。
【0015】
この構成により本発明のホログラフィック光学素子は、各層に対応する波長の平行光が照射された場合に、異なる位置にラインフォーカスが形成されるように平行光を集光することができるので、複数の円筒レンズの機能を1のホログラフィック光学素子により実現することができ、低コストであり、且つ、省スペースな光学素子を実現することができる。
【0016】
(5)また、請求項3又は4に記載の構成において、前記層が、前記ラインフォーカスから広がる光が照射された場合に、当該ラインフォーカスから広がる光を回折させ、当該ラインフォーカスの位置と向きに応じた向きを有する平行光を生じさせる形状を有する構成を採用してもよい。
【0017】
本発明のホログラフィック光学素子を構成する層の形状は、信号光と参照光を記録媒体に照射する際の相対的な角度を変化させることにより変更できるので、大掛かりな製造装置を用いることなく、単一波長のソースビームを用いて製造できるとともに、この構成により光学素子としての汎用性を向上させることができる。
【0018】
(6)また、本発明のホログラフィック光学素子製造装置は、所定の波長領域に対して感度を有する感光材料によって構成された記録媒体を露光させて、ホログラフィック光学素子を製造するためのホログラフィック光学素子製造装置であって、単一波長の露光用ソースビームを出射する光源と、前記ソースビームを信号光及び参照光に分岐させるビームスプリッタと、前記信号光を、第1光路を介して前記記録媒体に照射させる信号光照射手段と、前記参照光を、第2光路を介して前記記録媒体に照射させることにより、前記信号光照射手段によって照射される前記信号光と前記参照光を干渉させて、干渉縞を発生させ、当該発生した干渉縞を前記記録媒体に露光させる参照光照射手段と、を有し、前記信号光照射手段が、前記記録媒体に対する前記信号光の照射角度を調整する信号光照射角調整手段を有するとともに、前記参照光照射手段が、前記記録媒体に対する前記参照光の照射角度を調整する参照光照射角調整手段を有し、前記信号光照射角調整手段が、発生させる前記干渉縞の間隔に応じて、前記信号光の照射角度を調整するとともに、前記参照光照射角調整手段が、前記調整された信号光の照射角度に応じて、前記参照光の前記記録媒体に対する照射角度を調整することにより前記干渉縞の間隔を変化させつつ、各々、間隔の異なる複数の干渉縞を発生させて、当該発生させた複数の干渉縞を前記記録媒体に多重露光させる構成を有している。
【0019】
この構成により、本発明のホログラフィック光学素子製造装置は、記録媒体に対する信号光と参照光の相対的な照射角度を調整することにより、各々異なる格子間隔及び格子曲面を有する複数のホログラフィック回折格子、又は、各々向きの異なる回折平面を有する複数のホログラフィック回折格子を記録媒体に多重露光させることができるので、単一波長のソースビームを用いて複数の波長に対応可能なホログラフィック回折格子を露光させることができる。従って、本発明のホログラフィック光学素子製造装置は、大掛かりな装置構成を採用することなく、可視光の全域に対して目的の機能を達成可能であり、且つ、低コストなホログラフィック光学素子を製造することができる。
【0020】
(7)また、請求項6に記載の構成において、前記信号光照射角調整手段が、前記記録媒体に対する前記信号光の照射角度を所定値ずつ変化させるとともに、前記参照光照射角調整手段が、前記記録媒体に対する前記信号光の照射角度の変化に追随して、前記参照光の前記信号光に対する相対的な照射角度を変化させることにより、前記間隔の異なる複数の干渉縞を発生させ、当該発生した複数の干渉縞を前記記録媒体に多重露光させる構成を採用してもよい。
【0021】
この構成により、信号光及び参照光の記録媒体に対する相対的な照射角度を順次所定値ずつ変化させて、間隔の異なる干渉縞を複数回発生させつつ、当該複数の干渉縞を多重露光して、各々異なる格子間隔及び格子曲面を有する複数のホログラフィック回折格子、又は、各々向きの異なる回折平面を有する複数のホログラフィック回折格子が重なり合って構成される本発明のホログラフィック光学素子を製造することができる。
【0022】
(8)また、請求項6又は7に記載の構成において、前記信号光照射角調整手段が、前記記録媒体に対する前記信号光の照射角度を二次元的又は三次元的に変化させる構成を採用してもよい。
【0023】
この構成により、本発明のホログラフィック光学素子製造装置は、記録媒体に対する信号光の照射角度を二次元的又は三次元的に変化させることができるので、記録媒体に露光される干渉縞の形状を細かく調整し、各種機能を実現可能なホログラフィック光学素子を製造することができる。
【0024】
(9)また、請求項8に記載の構成において、前記信号光照射角調整手段によって調整された前記信号光の照射角度に応じて、前記記録媒体の位置を調整する記録媒体位置調整手段をさらに設ける構成としてもよい。
【0025】
この構成により、本発明のホログラフィック光学素子製造装置は、信号光の照射角度を二次元的又は三次元的に変化させた場合においても、記録媒体上の所望の位置に信号光が照射されるように記録媒体の位置を調整でき、高精度に本発明のホログラフィック光学素子を製造できる。
【0026】
(10)また、請求項9に記載の構成において、前記記録媒体位置調整手段が、前記記録媒体を所定方向に対して直線的に移動させる記録媒体用直線移動手段と、前記記録媒体を高さ方向に移動させる記録媒体高さ調整手段と、を備え、前記信号光照射角調整手段が、前記記録媒体に対する前記信号光の照射角度を三次元的に変化させることにより調整された前記信号光の照射角度に応じて、前記記録媒体の位置を調整する構成を採用してもよい。
【0027】
この構成により、本発明のホログラフィック光学素子製造装置は記録媒体を二軸方向に移動させることができるので、記録媒体に対する信号光の照射角度を三次元的に変化させた場合においても、記録媒体上の所望の位置に信号光が照射されるように記録媒体の位置を詳細に調整することができ、高精度に本発明のホログラフィック光学素子を製造できる。
【0028】
(11)また、請求項9に記載の構成において、前記記録媒体位置調整手段が、前記記録媒体を所定の平面内において二次元的に移動させる記録媒体用平面移動手段と、前記記録媒体を高さ方向に移動させる記録媒体高さ調整手段と、を備え、前記信号光照射角調整手段が、前記記録媒体に対する前記信号光の照射角度を三次元的に変化させることにより調整された前記信号光の照射角度に応じて、前記記録媒体の位置を調整する構成を採用してもよい。
【0029】
この構成により、本発明のホログラフィック光学素子製造装置は、記録媒体の位置を三次元的に調整できるので、記録媒体に対する信号光の照射角度を三次元的に変化させた場合においても、記録媒体上の所望の位置に信号光が照射されるように記録媒体の位置を詳細に調整することができ、高精度に本発明のホログラフィック光学素子を製造できる。
【0030】
(12)また、請求項9に記載の構成において前記記録媒体位置調整手段が、前記記録媒体を所定の平面内において二次元的に移動させる記録媒体用平面移動手段と、前記記録媒体の傾きを変化させる記録媒体傾斜角変更手段と、を備え、前記信号光照射角調整手段が、前記記録媒体に対する前記信号光の照射角度を二次元的に変化させるとともに、前記参照光照射角調整手段が、前記調整された信号光の照射角度に応じて、前記参照光の前記記録媒体に対する照射角度を調整し、前記記録媒体傾斜角変更手段が、前記信号光及び前記参照光の照射角度に応じて、前記記録媒体の傾きを変化させることにより、前記記録媒体に対する前記信号光及び前記参照光の相対的な照射角度を三次元的に変化させる構成を採用してもよい。
【0031】
この構成により、本発明のホログラフィック光学素子製造装置は、信号光照射角調整手段として、信号光の照射角度を二次元的にのみ変更可能な簡易な調整機構(例えば後述の信号光用回転ステージ115等)を採用した場合であっても、記録媒体の傾きを変更することより、記録媒体に対する信号光及び参照光の相対的な照射角度を三次元的に調整しつつ、記録媒体上の所望の位置に信号光及び参照光が照射されるように調整を行い、各々異なる格子間隔及び格子曲面を有する複数のホログラフィック回折格子、又は、各々向きの異なる回折平面を有する複数のホログラフィック回折格子を記録媒体に多重露光させることができ、簡易な装置構成にて高精度に本発明のホログラフィック光学素子を製造できる。
【0032】
(13)また、請求項12に記載の構成において、前記記録媒体位置調整手段が、前記記録媒体を高さ方向に移動させる記録媒体高さ調整手段をさらに備える構成を採用してもよい。
【0033】
この構成により本発明のホログラフィック光学素子製造装置は、記録媒体の位置を三次元的に調整しつつ、記録媒体の傾きを変更することより、記録媒体に対する信号光及び参照光の相対的な照射角度を三次元的に調整することができるので、装置設定を容易化しつつ、高精度にホログラフィック光学素子を製造することができる。
【0034】
(14)また、請求項6~13のいずれか1項に記載の構成において、前記参照光照射手段が、一軸に曲率を有する円筒レンズを有し、当該円筒レンズにより前記参照光をラインフォーカスさせた後、前記ラインフォーカスから広がる前記参照光(円筒波様参照光)を前記記録媒体に照射させる構成を採用してもよい。
【0035】
この構成により、本発明のホログラフィック光学素子製造装置は、一軸に曲率を有する理想的な円筒レンズと同様の機能を実現可能なホログラフィック光学素子を製造できる。
【0036】
(15)また、本発明のホログラフィック光学素子製造方法は、所定の波長領域に対して感度を有する感光材料によって構成された記録媒体に対して、単一波長のソースビームを分岐して生成した信号光及び参照光を、各々異なる光路で照射することにより前記信号光と前記参照光を干渉させ、当該干渉により発生する干渉縞を前記記録媒体に露光させて、ホログラフィック光学素子を製造するホログラフィック光学素子製造方法であって、前記信号光と前記参照光の前記記録媒体に対する相対的な照射角度を変化させることにより、前記干渉縞の間隔を変化させつつ、各々、間隔の異なる複数の干渉縞を発生させて、当該発生させた複数の干渉縞を前記記録媒体に多重露光させる構成を有している。
【発明の効果】
【0037】
本発明のホログラフィック光学素子及びその製造装置並びに製造方法は、可視光の全域において目的の機能を実現可能なホログラフィック光学素子を低コストに提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】本発明の第1実施形態におけるホログラフィック光学素子の製造システムの構成を示すシステム構成図である。
【
図2】第1実施形態の製造装置において形成される信号平行光とラインフォーカスから広がる円筒波様参照光の干渉によって形成される干渉縞を説明するための図である。
【
図3】第1実施形態の製造装置において露光波長を532nmとし、垂直方向角度を10°とした場合における信号光用回転ステージの回転角と波長の関係を示すグラフである。
【
図4】第1実施形態の製造装置において露光波長を532nmとし、垂直方向角度を-10°~10°とした場合におけるゴニオステージの回転角と垂直方向角度の関係を示すグラフである。
【
図5】第1実施形態の製造装置において、信号光平行光の結果的な水平方向角度範囲を示す図である。
【
図6】第1実施形態の製造装置において、露光波長を532nmとし、垂直方向角度を10°とした場合における参照光用回転ステージの回転角と波長の関係を示すグラフである。
【
図7】第1実施形態の製造システムにおいて情報処理装置が実行する処理を示すフローチャート(その1)である。
【
図8】第1実施形態の製造システムにおいて情報処理装置が実行する処理を示すフローチャート(その2)である。
【
図9】第1実施形態の製造システムにおいて、1の波長に対応するホログラフィック回折格子を製造する際における製造装置の光学系の変化状態を示す図(その1)である。
【
図10】第1実施形態の製造システムにおいて、1の波長に対応するホログラフィック回折格子を製造する際における製造装置の光学系の変化状態を示す図(その2)である。
【
図11】第1実施形態の製造システムにより製造されるホログラフィック回折格子の三次元構造の一例を示す図であり、(A)及び(B)には、白色の平行光が照射された場合に、ホログラフィック回折格子における図面上下方向の中央部付近にラインフォーカスさせる場合のホログラフィック回折格子の一構造例を示すとともに、(C)及び(D)には、ホログラフィック回折格子HGの下側に向けてラインフォーカスさせる場合のホログラフィック回折格子の一構造例を示している。
【
図12】本発明の変形例2におけるホログラフィック導光板を用いたヘッドマウントディスプレイの一構成例を示す図(その1)である。
【
図13】変形例2におけるホログラフィック導光板を用いたヘッドマウントディスプレイの一構成例を示す図(その2)である。
【
図14】変形例2におけるホログラフィック導光板を用いたヘッドマウントディスプレイの一構成例を示す図(その3)である。
【
図15】本発明の第2実施形態におけるホログラフィック光学素子の製造システムの構成を示すシステム構成図である。
【
図16】第2実施形態の製造システムにおいて、ホログラフィック回折格子を製造する際における製造装置の光学系の変化状態の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。なお、以下の実施形態は、ホログラフィック光学素子としてのホログラフィック回折格子及び当該ホログラフィック回折格子の製造装置に本発明を適用した場合の実施形態である。但し、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成の全てが、本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0040】
[A]第1実施形態
[A.1]ホログラフィック光学素子製造システム1Aの全体構成
まず、
図1を用いて、本発明の一実施形態におけるホログラフィック光学素子製造システム1A(以下、「製造システム1A」という。)の構成について説明する。なお、
図1は、本実施形態の製造システム1Aの構成を示す図である。また、
図1においては、製造システム1A内におけるxyz空間内における方向を規定するため、xyzの各軸の方向を矢印にて示している。
【0041】
本実施形態の製造システム1Aは、後述する記録媒体124上に対して後述するホログラフィック回折格子HGを記録(露光)させるための光学系を含む製造装置10Aと、製造装置10Aに対して、IEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers)488等の有線通信インターフェースやIEEE802.11a、b、g、n、ac等の無線インターフェースにより接続され、製造装置10Aにおける光学系の後述するステージに関する調整処理等を実行する情報処理装置20と、を有し、所定波長域の光に対してのみ感度を有する感光材料により構成される記録媒体124及び当該感光材料が感度を有する単一波長(例えば、波長λ
0)の光(すなわち、
図1のソースビームSB)を用いつつ、可視光全域の光に対して目的の機能を実現しうる反射型体積ホログラフィック回折格子HG(以下「ホログラフィック回折格子HG」という。)を製造するためのものである。
【0042】
ここで、上述のように、単一波長のソースビームSBを用いて、記録媒体124上にホログラフィック回折格子HGを形成した場合には、当該ソースビームSBに対応する波長(例えば、波長λ0のソースビームSBを用いた場合にはλ0)以外の波長(例えば、λ1、λ2、λ3・・・)の光に対して、目的の機能を実現することができず、可視光全域において目的の機能を実現可能なホログラフィック回折格子HGを製造することが難しい。
【0043】
一般に、回折格子における回折現象は、回折格子の方程式に従い、透過型及び反射型の回折格子の各々について、以下の関係が成立する。
【0044】
(1)透過型回折格子の場合、
【0045】
【0046】
(2)反射型回折格子の場合、
【0047】
【0048】
なお、これらの式においてαは、入射光と回折格子法線とのなす角(すなわち入射角)、βは、回折光と回折格子法線とのなす角(すなわち、回折角)、dは格子間隔、λは波長、mは、回折光の次数を示している。
【0049】
以上のように波長λの光の回折格子における光の回折は、回折格子の格子間隔dに依存するので、可視光全域の波長を有する白色光において目的の機能を実現するためには、ホログラフィック回折格子HGの構造を工夫する必要性がある。
【0050】
そこで、本実施形態の製造システム1Aにおいては、各々、格子間隔dの異なる複数のホログラフィック回折格子を記録媒体124上に多重露光させ、可視光全域の光に対して目的の機能を実現可能なホログラフィック回折格子HGを製造する機能を実現する。そして、本実施形態の製造システム1Aにおいて製造されるホログラフィック回折格子HGにおいては、白色の平行光が入射された際に、当該平行光を回折させ、ラインフォーカスする一方、ラインフォーカスされた白色光からの広がり光が入射された際に、当該広がり光を回折させ、平行光を発生させる円筒レンズと同様の機能が実現されるようになっている。なお、本実施形態の製造システム1Aによって製造されるホログラフィック回折格子HGの製造方法及び具体的な構造に関しては、後に詳述する。
【0051】
[A.2]製造装置10Aの具体的構成
上記ホログラフィック回折格子HGを製造するため、本実施形態の製造装置10Aは、単一波長レーザにより構成される光源111を有しており、この光源111からビームスプリッタ112に対してソースビームSBが入射される構成になっている。ビームスプリッタ112は、光源111から入射されるソースビームSBを、信号光SLと参照光RLの2つに分岐させ、信号光SLを信号光用平面ミラー117に入射させるとともに、参照光RLを参照光用平面ミラー114に入射させる。
【0052】
このようにしてビームスプリッタ112により分岐された信号光SLと参照光RLを信号光用平面ミラー117及び参照光用平面ミラー114に入射させるため、(a)ビームスプリッタ112と、(b)信号光用平面ミラー117と、(c)参照光用平面ミラー114は、その高さ(すなわち、z軸方向の位置)が合わされた構成になっている。なお、ビームスプリッタ112は、例えば、ハーフミラーを用いて、信号光SLと参照光RLが1:1の強度となるように、ソースビームSBを分岐する構成を採用してもよい。また、ビームスプリッタ112をPBSにより構成し、偏光方向に応じてP偏光を信号光SL、S偏光を参照光RLとして分岐させる構成を採用してもよい。この場合には、ビームスプリッタ112から信号光用平面ミラー117までの間に図示せぬλ/2板を設け、信号光SLと参照光RLの偏光方向を揃える構成を採用すればよい。さらにソースビームSBの波長については、任意であり、記録媒体124を構成する感光材料が感度を有する波長であれば、どのような波長のものを用いてもよい。
【0053】
信号光用平面ミラー117は、ビームスプリッタ112から入射される信号光SLを反射して、信号平行光118として記録媒体124に入射させる。この信号光用平面ミラー117は、信号光用回転ステージ115の上に設けられたゴニオステージ116上に載置されており、信号光用回転ステージ115を、z軸を中心に回転させることにより、信号光SLの入射方向に対する信号光用平面ミラー117の角度を変化させて、信号平行光118の出射方向(すなわち、反射方向)をxy平面内において変化させることができるとともに、ゴニオステージ116により信号光用平面ミラー117の傾きを変化させることにより、信号平行光118の出射方向をz軸方向に変化させることができるようになっている。なお、例えば、本実施形態の信号光用平面ミラー117と信号光用回転ステージ115及びゴニオステージ116は、後述するステージ駆動回路130及び情報処理装置20と連動して、本発明の「信号光照射手段」を構成するとともに、信号光用回転ステージ115及びゴニオステージ116は、ステージ駆動回路130及び情報処理装置20と連動して、本発明の「信号光照射角調整手段」を構成する。
【0054】
この構成により、本実施形態の製造装置10Aは、信号光用平面ミラー117において反射される信号光SL(すなわち、信号平行光118)の出射方向をxyz空間内において意図した方向に変化させ、信号平行光118の記録媒体124に対する照射角度を三次元的に変化させることが可能となっている。
【0055】
一般に、透過型表示パネル(例えば、透過型HMD用表示パネルやヘッドアップディスプレイの光コンバイナ等)にホログラフィック回折格子HGを用いた場合に実現される上下方向(
図1におけるz軸方向)の視野角は、ホログラフィック回折格子HGの露光時に信号平行光118を記録媒体124に対して照射する際におけるz軸方向の角度変位量に依存し、z軸方向の角度変位量の2倍程度となる。従って、本実施形態の製造システム1を用いて記録媒体124上にホログラフィック回折格子HGを露光する際に、ゴニオステージ116により信号平行光118のz軸方向における角度を10°程度変位させることにより、上下方向に約20°程度の視野角を持つ透過型表示パネルを実現することができる。
【0056】
一方、ゴニオステージ116によって信号平行光118の出射方向をz軸方向に変化させ、又は、信号光用回転ステージ115により信号光用平面ミラー117を回転させた場合には、記録媒体124上の所望の位置に信号平行光118を入射させることが難しくなってしまう。そこで、本実施形態の製造装置10Aにおいては、記録媒体用直線移動ステージ125上に、高さ調整ステージ126を設け、この高さ調整ステージ126上に記録媒体124を載置する構成を採用することとした。
【0057】
この記録媒体用直線移動ステージ125は、xy平面内における所定方向(例えば、y軸方向)に対して記録媒体124を直線状に移動可能な構成になっているとともに、高さ調整ステージ126は、z軸方向(すなわち、高さ方向)に対して記録媒体124を移動させることが可能な構成になっており、信号光用回転ステージ115により信号光用平面ミラー117を回転させ、又は、ゴニオステージ116により信号光用平面ミラー117の傾きを変化させて、信号平行光118の出射方向をxyz空間内において三次元的に変化させた際に、記録媒体用直線移動ステージ125及び高さ調整ステージ126を信号光用回転ステージ115及びゴニオステージ116と連動させつつ、動かすことにより記録媒体124の位置をxyz空間内にて移動させ、信号平行光118が、記録媒体124上の所望の位置に照射されるように記録媒体124の位置を調整する構成が採用されている。なお、ホログラフィック回折格子HGの製造時における信号光用回転ステージ115及びゴニオステージ116の回転角及び記録媒体用直線移動ステージ125の移動量に関しては、後に詳述する。また、本実施形態の記録媒体用直線移動ステージ125及び高さ調整ステージ126は、ステージ駆動回路130及び情報処理装置20と連動して、例えば、本発明の「録媒体位置調整手段」を構成するとともに、各々、ステージ駆動回路130及び情報処理装置20と連動して、本発明の「記録媒体用直線移動手段」及び「記録媒体高さ調整手段」を構成する。さらに、記録媒体124の位置を細かく調整するためには、記録媒体用直線移動ステージ125としてx軸及びy軸の二軸方向に記録媒体124の位置を調整可能なステージを利用して、このステージと高さ調整ステージ126により記録媒体124の位置をxyzの三軸方向に調整可能とすることが望ましいが、装置構成が複雑化するとともに、位置調整が複雑になるため、本実施形態においては、説明の理解を容易化するため、記録媒体用直線移動ステージ125として所定方向(具体的にはy軸方向)に対してのみ位置を調整可能な構成のものを用いるものとして説明を行い、二軸方向に調整可能なステージ(後述の記録媒体用平面移動ステージ140)を用いる場合については、第3実施形態にて説明を行うものとする。
【0058】
次いで、参照光用平面ミラー114は、ビームスプリッタ112から入射される参照光RLを反射して、参照平行光119として円筒レンズ系122に入射させる。この参照光用平面ミラー114は、参照光用直線移動ステージ121上に設けられた参照光用回転ステージ113上に載置されており、参照光用回転ステージ113を、z軸を中心として回転させることにより、参照平行光119の出射方向をxy平面内において変化させることが可能になっている。なお、例えば、本実施形態の参照光用回転ステージ113と、参照光用直線移動ステージ121は、円筒レンズ用直線移動ステージ120、ステージ駆動回路130及び情報処理装置20と連動して、本発明の「参照光照射角調整手段」を構成する。
【0059】
ここで、入射平面波の向きに対して回折される光の集光位置を決めるためには、信号光SLの向きとラインフォーカス127の位置を制御する必要がある。そこで、本実施形態の製造装置10Aにおいては、参照光用回転ステージ113を参照光用直線移動ステージ121上に設ける構成を採用し、信号平行光118の向きに合わせて記録媒体用直線移動ステージ125を移動させた場合には、これに合わせて、参照光用直線移動ステージ121をxy平面内において移動させ、記録媒体124に対して信号光用平面ミラー117と参照光用平面ミラー114を対称な位置に移動させる構成を採用することとした。なお、ホログラフィック回折格子HGの製造時における参照光用回転ステージ113の回転角及び記録媒体用直線移動ステージ125の移動量に関しては、後に詳述する。
【0060】
円筒レンズ系122は、例えば、一軸に曲率を有するレンズ単体、又は、同様のレンズを複数枚組み合わせた構成を有し、参照光用平面ミラー114よって反射された参照平行光119が入射されると、当該参照平行光119を集光して、円筒波様参照光123として記録媒体124上に照射させる。このとき、円筒波様参照光123は、円筒レンズ系122の後焦点の位置において一度直線状に集光されてラインフォーカス127を形成した後、再度広がりつつ、記録媒体124に照射される。なお、円筒レンズ系122は、一般的な円筒レンズによって構成することもできるが、一般的な円筒レンズを利用する場合には、収差が発生して、円筒波様参照光123を正確な直線状に集光できなくなる可能性があるため、上記形状のレンズを用いることが望ましい。また、本実施形態において円筒レンズ系122は、参照光用平面ミラー114からの参照平行光119が円筒レンズ系122の所望の位置に照射されるように、参照光用平面ミラー114の高さに合わせて設置されている。すなわち、本実施形態の製造装置10Aにおいては、(a)ビームスプリッタ112、(b)信号光用平面ミラー117、(c)参照光用平面ミラー114及び(d)円筒レンズ系122は、その高さが全て同じ高さに設定されている。
【0061】
ここで、ゴニオステージ116により信号光用平面ミラー117の傾きを調整し、これに合わせて、高さ調整ステージ126によって記録媒体124の高さを調整した場合には、記録媒体124が、円筒レンズ系122の設置位置に対して上下方向(z軸方向)にずれることになるが、円筒波様参照光123は、円筒レンズ系122後方のラインフォーカス127から、十分な広がり角を持って、記録媒体124に照射されるため、信号光用平面ミラー117の傾きの変化に合わせて記録媒体124の高さを調整した場合であっても、円筒波様参照光123は、記録媒体124に対して、確実に照射される状態が維持されるようになっている。
【0062】
なお、このとき、記録媒体124の位置が、ラインフォーカス127よりも上に位置する状態になった場合には、円筒波様参照光123が、z軸方向の下から上に向けて記録媒体124に照射され、記録媒体124において上方向に向かって反射される状態になる。また、このとき、信号光用平面ミラー117は、ゴニオステージ116により上方向に向けて傾けられているので、信号平行光118も記録媒体124に対してz軸方向の下から上に向けて照射され、上に向けて反射されることになる。
【0063】
これに対して、記録媒体124の位置がラインフォーカス127よりも下に位置する状態になった場合には、円筒波様参照光123が、z軸方向の上から下に向けて記録媒体124に照射され、記録媒体124において下方向に向かって反射される状態になる。また、このとき、信号光用平面ミラー117は、ゴニオステージ116により下方向に向けて傾けられているので、信号平行光118も記録媒体124に対してz軸方向の上から下に向けて照射され、下に向けて反射されることになる。
【0064】
また、本実施形態において円筒レンズ系122は、円筒レンズ用直線移動ステージ120上に載置されており、参照光用回転ステージ113の回転と連動させつつ、円筒レンズ用直線移動ステージ120により円筒レンズ系122の位置をxy平面内において移動させることが可能な構成になっている。なお、本実施形態の参照光用平面ミラー114と参照光用回転ステージ113、円筒レンズ用直線移動ステージ120、参照光用直線移動ステージ121及び円筒レンズ系122は、ステージ駆動回路130及び情報処理装置20と連動して、例えば、本発明の「参照光照射手段」を構成する。
【0065】
本実施形態の製造装置10Aにおいて、参照光用回転ステージ113により参照光用平面ミラー114を、z軸を中心に回転させた場合には、参照平行光119の出射方向が、xy平面内において変化することになるが、上記構成により、円筒レンズ系122をxy平面内にて所望の位置に移動させることができるので、参照光用平面ミラー114と円筒レンズ系122の距離を一定に保ちつつ、参照平行光119を円筒レンズ系122の所望の位置に照射させることができる。
【0066】
また、参照光用平面ミラー114の回転に合わせて、円筒レンズ系122が移動した場合には、円筒波様参照光123の集光位置(すなわち、ラインフォーカス127の位置)がx軸方向又はy軸方向に変化して、記録媒体124に対するラインフォーカス127からの広がり光の照射位置が変化することになる。このため、本実施形態の製造装置10Aにおいては、記録媒体用直線移動ステージ125を円筒レンズ用直線移動ステージ120と平行に移動させ、ラインフォーカス127からの広がり光が記録媒体124上の所望の位置に照射されるように調整を行う構成が採用されている。
【0067】
この構成により、本実施形態の製造装置10Aは、信号光用回転ステージ115、ゴニオステージ116及び参照光用回転ステージ113により、信号光用平面ミラー117及び参照光用平面ミラー114の向きを変化させた場合においても、信号平行光118及びラインフォーカス127から広がる円筒波様参照光123が常に記録媒体124の所望の位置に照射されるように位置を調整して、信号平行光118及び円筒波様参照光123により生じる干渉縞を確実に記録媒体124に露光させることができる。
【0068】
信号光用回転ステージ115、ゴニオステージ116、参照光用回転ステージ113、円筒レンズ用直線移動ステージ120、参照光用直線移動ステージ121、記録媒体用直線移動ステージ125、高さ調整ステージ126は、図示せぬステッピングモータやピエゾアクチュエータを有する自動ステージであり、情報処理装置20による制御の下、図示せぬ制御ラインを介してステージ駆動回路130から供給される駆動信号に基づき、参照光用平面ミラー114及び信号光用平面ミラー117の角度を調整し、又は、参照光用平面ミラー114、円筒レンズ系122及び記録媒体124のxy平面内における位置を調整する。なお、可視光の波長領域は400~700nm程度の範囲内に収まり、その最長波長は、最短波長の2倍程度であることから、参照光用回転ステージ113、信号光用回転ステージ115及びゴニオステージ116は、各々、10~20°程度の範囲内において、回転可能なものを用いれば足りる。また、信号光用回転ステージ115、ゴニオステージ116、直線移動ステージ125、高さ調整ステージ126の具体的な構成は従来の自動ステージと同様であるため、詳細を省略する。
【0069】
記録媒体124は、ソースビームSBの波長に対して感度を有する感光材料が、例えば、ガラスなどの透過率の高い材質にて構成される平面基板上に所定の厚みを有して塗布され、又は、所定の厚みを有する感光材料のみにより構成され、信号平行光118及び円筒波様参照光123が照射された場合に、両者の干渉により生じた干渉縞を記録する。
【0070】
ステージ駆動回路130は、情報処理装置20から供給される制御信号に基づき、駆動信号を生成して、各ステージ113、115、116、120、121、125及び126に供給し、参照光用平面ミラー114及び信号光用平面ミラー117の角度を調整し、又は、参照光用平面ミラー114、円筒レンズ系122及び記録媒体124のxy平面内における位置を調整する。なお、ステージ駆動回路130が各ステージ113等に対して供給する駆動信号の形式に関しては任意であり、例えば、PWM(pulse wide modulation)形式の駆動信号を供給して、各ステージ113、115、116、120、121、125、126に搭載されたモータ等を駆動させる構成を採用してもよい。
【0071】
情報処理装置20は、PC(パーソナルコンピュータ)などの装置であり、製造装置10Aを用いてホログラフィック回折格子HGを製造する際に、各ステージの動作を制御するための処理を実行しつつ、処理結果に応じてステージ駆動回路130に制御信号を出力する。
【0072】
本実施形態においては、ステージ駆動回路130が、情報処理装置20から供給される制御信号に基づき、信号光用回転ステージ115、ゴニオステージ116、参照光用回転ステージ113、円筒レンズ用直線移動ステージ120、参照光用直線移動ステージ121、記録媒体用直線移動ステージ125及び高さ調整ステージ126を駆動させる構成になっており、これらのステージの位置及び角度を調整することによって、信号平行光118と円筒波様参照光123の記録媒体124に対する相対的な照射角度を変化させるとともに、信号光SL及び参照光RLの光路及び光路長を変化させ、記録媒体124にて信号平行光118とラインフォーカス127から広がる円筒波様参照光123により形成される干渉縞の間隔を変化させつつ、各々、間隔の異なる複数の干渉縞を発生させ、当該発生させた複数の干渉縞を記録媒体124に多重露光させるようになっている。この構成により本実施形態の製造システム1Aは、格子間隔の異なる複数のホログラフィック回折格子を重畳させつつ、記録媒体124上に露光させる。なお、各ホログラフィック回折格子に対応する格子間隔を実現するために各ステージを、どの程度どのように動かすのかについては、後に詳述する。
【0073】
[A.3]製造装置10Aにおけるホログラフィック回折格子HGの製造原理
次に、
図1及び2を用いて、本実施形態の製造システム1Aにおけるホログラフィック回折格子HGの製造原理について説明する。なお、
図2は、本実施形態の製造装置10Aにおいて形成される信号平行光118とラインフォーカス127から広がる円筒波様参照光123の干渉によって形成される干渉縞を説明するための図である。
【0074】
まず、ラインフォーカス127上の任意の一点を、xyz空間上の点2としたとき、この点2を含み、ラインフォーカス127の直線を法線とする平面1(図示しない)内において信号平行光118内の任意の1ラインをなす直線3を考える(
図2参照)。また、xyz空間において、
図2に示すように点2から伸びる直線4と直線3上の任意の点5から伸びる直線3の垂線の一つとなる直線6との交点7を考える。直線6の向きを保ったまま点5の位置を変えたとき、点2と点7の距離と点5と点7の距離の差を波長で割った値(以下、「値8」という。)が一定となるような曲線9上を点7が動く。値8を変えたとき、別の曲線9’(図示しない)が描かれるが、値8を複数回変化させた際に描かれる全ての曲線群9、9’、9”、9”’、9””…に含まれる各曲線9が所定波長λ
0のソースビームSBから発生される信号平行光118とラインフォーカス127から広がる円筒波様参照光123によって生じる干渉縞において等位相となる曲線を示している。
【0075】
ここで、同一の曲線群9、9’、9”、9”’、9””…を別の波長λ’で描くことを考える。直線4と直線6の向きを平面1の奥行方向に変えることによって別の波長で同一の曲線群を描くことができる。このことは、λ0とは異なる波長λ’のソースビームSBを用いた場合であっても、直線4及び直線6の向きを変更するだけで波長λ0に対応する干渉縞を形成可能であることを示している。換言するならば、このことは、直線4及び直線6の向きを調整するだけで、単一波長のソースビームSBを用いて、複数の波長に対応する干渉縞を形成可能であることを示している。なお、このとき、平面1に対して垂直な方向に平面1を変位させた場合に、点2によって描かれる軌跡がラインフォーカス127と一致し、直線3によって描かれる面が、信号平行光118の一部分と一致することとなる。
【0076】
また、
図2における直線4は、ラインフォーカス127上の任意の点2から広がる円筒波様参照光123の一部をなすものであるため、直線4の向きは、参照光用回転ステージ113により、参照光用平面ミラー114を回転させることによって変更できる。一方、
図2における直線6は、信号平行光118の向きと平行であるため、信号光用回転ステージ115及びゴニオステージ116を用いて信号光用平面ミラー117の向きを変化させることにより、直線6の向きを変更できる。
【0077】
以上の観点から、本実施形態の製造装置10Aにおいては、参照光用回転ステージ113により参照光用平面ミラー114を回転させて、直線4の向きを調整するとともに、信号光用回転ステージ115及びゴニオステージ116を用いて信号光用平面ミラー117の向きを変化させて直線6の向きを調整し、ラインフォーカス127から広がる円筒波様参照光123と信号平行光118の記録媒体124に対する相対的な照射角度を変化させることにより、各々間隔の異なる複数の干渉縞を単一波長のソースビームSBを用いて発生させ、当該発生させた複数の干渉縞を記録媒体124に多重露光させる方法を採用することとした。
【0078】
[A.4]信号光用回転ステージ115及びゴニオステージ116の調整方法
次いで、
図3~5を用いつつ、本実施形態の製造システム1Aにおける信号光用回転ステージ115及びゴニオステージ116の回転角と信号平行光118の関係を説明しつつ、信号光用回転ステージ115及びゴニオステージ116の調整方法について説明する。なお、
図3は、露光波長(すなわち、ソースビームSBの波長)を532nmとし、平面1と平行な面内で光軸を変化させた角度である垂直方向角度θ
vを10°とした場合における信号光用回転ステージ115の回転角と波長の関係を示すグラフであり、この
図3においては、平面1に垂直でありラインフォーカス127に平行な面内で光軸を変化させる角度である水平方向角度θ
hを75°、60°、45°、30°、15°とした場合の信号光用回転ステージ115の回転角と波長の関係を示すとともに、回折光の水平方向角度を対応波長λの範囲400nm~700nm全域で信号光の水平方向角度θ
h=30°と一致するように設定した場合における信号光用回転ステージ115の駆動範囲を網掛けにて表示している。また、
図4は、信号光の垂直方向角度θ
vと回折光の垂直方向角度を一致させるためのゴニオステージ116の回転角の関係を示す図であり、この
図4においては、(a)λ=700nm、水平方向角度θ
h=15°とした場合、及び、(b)λ=400nm、水平方向角度θ
h=60°とした場合におけるゴニオステージ116の回転角と垂直方向角度θ
vの関係を示すとともに、回折光の対応波長λの範囲400~700nm全域で信号光の垂直方向角度θ
v=-10°~10°と一致するように設定とした場合におけるゴニオステージ116の駆動範囲を網掛けにより示している。さらに、
図5は、回折光の水平方向角度を対応波長λ全域で信号光の水平方向角度θ
h、垂直方向角度θ
vと一致するように設定した場合に結果的に変化する信号平行光118の水平方向角度範囲を示す図であり、
図5においては
図3と同様に、設定する垂直方向角度θ
vを10°、水平方向角度θ
hを75°、60°、45°、30°、15°とした場合の対応波長λの水平方向角度と波長の関係を示すとともに、対応波長λの範囲400nm~700nm全域の回折光の水平方向角度が30度となるように信号光用回転ステージ115及びゴニオステージ116を駆動させた結果、変化する信号光の水平方向角度θ
h範囲を網掛けにて表示している。また、例えば信号光の水平方向角度θ
hを15°~60°に変化させると、対応波長λの範囲400nm~700nm全域の回折光の水平方向角度範囲が、おおよそ20°~40°になることがわかる。
【0079】
まず、xyz空間内における記録媒体124中の基準点座標を(x0,y0,z0)、ラインフォーカス127中の基準点座標を(x1,y1,z1)、信号光用平面ミラー117中の回転中心の座標を(x2,y2,z2)、円筒レンズ系122中の基準点座標を(x3,y3,z3=z1)、参照光用平面ミラー114中の回転中心の座標を(x4,y4,z4=z1)、ビームスプリッタ112中の基準点座標を(x5,y5,z5=z1)に設定するとともに、信号光SLの進行方向ベクトルを、√2/2(1,1,0)、参照光RLの進行方向ベクトルを、√2/2(-1,1,0)、信号光用回転ステージ115及びゴニオステージ116の回転角が、0°の状態における信号光用平面ミラー117の法線ベクトルを(1,0,0)、参照光用回転ステージ113の回転角が0°の状態における参照光用平面ミラー114の法線ベクトルを(-1,0,0)に設定するとともに、y1=y2に設定すると、信号光用平面ミラー117の回転中心から記録媒体124の基準点までのx軸方向の光路長lx及びz軸方向の光路長lzは、各々、以下の式3及び4によって表されることになる。
【0080】
【0081】
【0082】
また、ラインフォーカス127上の基準点座標(x1,y1,z1)と記録媒体124の基準点座標(x0,y0,z0)間におけるx方向の光路長(すなわちx0-x1)と、上記lzの差分値を示す以下の式5~7で光路長dを定義する。
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
ここで、dは、曲線9を求める際の固定条件を示しており、光路差の平面1への射影を表現している。このとき、信号光用平面ミラー117の回転中心(x2,y2,z2)から記録媒体124の基準点(x0,y0,z0)までの光路差の平面1への射影を1と規格化した光路長lは、以下の式8及び式9により算出できる。
【0087】
【0088】
【0089】
ここで、z’は直線3上で点5を移動させるための媒介変数であり、z’=0で、信号光用平面ミラー117の回転中心(x2,y2,z2)を示す。また、このとき、y=y0と置くと、任意のy=y0の面により形成される曲線9の通る位置x及びzは、各々、以下の式10で表現され、y方向に一様な曲面となる。
【0090】
【0091】
ここで、参照光用回転ステージ113による参照光用平面ミラー114のz軸回転角をΔφ1、信号光用回転ステージ115による信号光用平面ミラー117のz軸回転角をΔφ2、ゴニオステージ116の回転角をΔθとしたとき、信号平行光118の方向ベクトルは、式11により表される一方、ラインフォーカス127から広がる円筒波様参照光123の方向ベクトルは、式12により表される。
【0092】
【0093】
【0094】
また、露光に用いるソースビームSBの波長とは、異なる波長用の干渉縞を発生させたい場合には、ラインフォーカス127からの円筒波様参照光123と信号平行光118は、以下の式13で示される回転軸で回転させることが必要となる。
【0095】
【0096】
ここで、信号平行光118の向きを式14及び15にて表現される方向に変化させる場合には、信号光用回転ステージ115の回転角Δφ2を式16に従って変化させる必要があるとともに、ゴニオステージ116の回転角Δθを式17に従って変化させる必要が生じる。
【0097】
【0098】
【0099】
【0100】
【0101】
そこで、本実施形態の製造システム1Aにおいては、情報処理装置20が上記式16及び式17に基づき、信号光用回転ステージ115及びゴニオステージ116の回転角Δφ2及びΔθを算出し、当該角度に信号光用回転ステージ115及びゴニオステージ116の角度が設定されるようにステージ駆動回路130に制御信号を供給して、信号光用回転ステージ115及びゴニオステージ116の角度調整を行う構成を採用することとした。
【0102】
このとき、製造システム1Aにおいては、信号光用回転ステージ115の回転角Δφ
2と波長は、垂直方向角度θ
vを10°とし、水平方向角度θ
hを75°、60°、45°、30°、15°とした場合に、
図3の各水平方向角度θ
hに対応する曲線にて示される関係が成立するので、製造したいホログラフィック回折格子の対応波長に応じて、対応する曲線上に乗るように信号光用回転ステージ115の回転角Δφ
2が調整されることとなる。
【0103】
またこのとき、製造システム1Aにおいては、ゴニオステージ116の回転角Δθと信号光の垂直方向角度θ
vは、対応波長範囲400~700nmで回折光の垂直方向角度を-10°~10°とした場合に、
図4に示す関係が成立するので、製造したいホログラフィック回折格子の対応波長に応じて、λ=400nm、θ
h=60°の線とλ=700nm、θ
h=15°の線の間にある対応波長の線上(図示されていない)に乗るようにゴニオステージ116の回転角Δθが調整されることなる。
【0104】
ここで、
図5に示すように、例えばθ
hを15°~60°の範囲になるように信号光用回転ステージ115及びゴニオステージ116を駆動させると、対応波長λの範囲400nm~700nmにおける回折光のθ
hの角度範囲は、おおよそ、20°~40°の間の20°程度の角度範囲となることが本発明者のシミュレーション実験により分かったので、この角度範囲内において、信号光用回転ステージ115及びゴニオステージ116の回転角を変化させることで、所望の特性を有するホログラフィック回折格子HGを製造することができる。
【0105】
また、
図4に示すように、ゴニオステージ116に関しても、10°程度の角度範囲(おおよそ-7°~7°)において信号光用平面ミラー117の角度を変位させることで、所望の特性を有するホログラフィック回折格子HGを製造することができる。
【0106】
この角度範囲内において、ゴニオステージ116により、信号平行光118の照射角をz軸方向に変位させつつ、記録媒体124に干渉縞を露光させ、ホログラフィック回折格子HGを製造した場合には、当該製造されたホログラフィック回折格子HGを利用した透過型の表示パネルにおいては、上下方向に約20°程度の視野角を確保することが可能になる。
【0107】
なお、対応波長範囲400~700nm、垂直方向角度θ
v=10°、水平方向角度θ
h=30°の平行光を回折させるためのホログラフィック回折格子を波長532nmのソースビームSBで露光することを考えると、対応波長400~700nmの間では、信号光用回転ステージ115及び参照光用回転ステージ113の駆動範囲は、
図3及び
図6の網掛けのようになり、ゴニオステージ116の駆動範囲は、
図4のθ
v=10°におけるλ=400nm,θ
h=60°とλ=700nm,θ
h=15°の線の間(5°~7°程度)であることが本発明者のシミュレーション結果から分かった。従って、
図3の網掛け及び5°~7°程度の範囲で各ステージ115及びゴニオステージ116を駆動させると、信号平行光118の水平方向の角度範囲は、
図5の網掛けが示すように約20°~40°の範囲となる。すなわち、波長532nmにおいては、水平方向角度範囲約20°~40°の平行光を回折させるための回折格子が多重露光されていることを意味する。波長400~700nmの光すべてで、この範囲の角度をもつ平行光を回折させたい場合、
図5の最短波長(400nm)の光の上限値(40°)と、最長波長(700nm)の光の下限値(20°)に注目する。
図5の最短波長(400nm)の光の上限値(40°)付近で、θ
h=60°の曲線と交わり、最長波長(700nm)の光の下限値(20°)付近で、θ
h=60°の曲線と交わる。従って、回折光の水平方向角度範囲は約20°~40°となり、この値を満すように波長532nmの信号平行光118の角度範囲を決めると約15°~60°の範囲となり、それに対応した各ステージ113、115及び116の駆動範囲が決まる。さらに、別の垂直方向角度に対しても同様に各ステージ113、115及び116の駆動範囲を決めることができる。
【0108】
[A.5]参照光用回転ステージ113の調整方法
次いで、
図6を用いて、本実施形態の製造システム1Aにおけるラインフォーカス127から広がる円筒波様参照光123と、参照光用回転ステージ113の回転角の関係を説明しつつ、参照光用回転ステージ113の調整方法について説明する。なお、
図6は、ソースビームSBの波長を532nmとし、垂直方向角度θ
vを10°とした場合における参照光用回転ステージ113の回転角Δφ
1と対応波長の関係を示すグラフであり、この図においては、水平方向角度θ
hを75°、60°、45°、30°、15°とした場合の回転角と波長の関係を示している。また、また、
図6においては、参照光用回転ステージ113において、θ
h=30°の場合における各参照光用回転ステージ113の駆動範囲を網掛けにて表示している。
【0109】
本実施形態の製造装置10Aにおいて、ラインフォーカス127から広がる円筒波様参照光123の光軸の向きを、式18~20により示される向きに変化させるためには、参照光用回転ステージ113の回転角Δφ1を式21に従って、変化させる必要がある。
【0110】
【0111】
【0112】
【0113】
【0114】
そこで、本実施形態の製造システム1Aにおいては、情報処理装置20が式21に従って、参照光用回転ステージ113の回転角Δφ1を算出して、当該回転角Δφ1に参照光用回転ステージ113の回転角が設定されるようにステージ駆動回路130に制御信号を供給して、参照光用回転ステージ113の角度調整を行う構成を採用することとした。
【0115】
このとき、製造システム1Aにおいては、参照光用回転ステージ113の回転角Δφ
1と波長は、垂直方向角度θ
vを10°とし、水平方向角度θ
hを75°、60°、45°、30°、15°とした場合に、
図6の各水平方向角度θ
hに対応する曲線にて示される関係が成立するので、製造したいホログラフィック回折格子の波長に応じて、対応する曲線上に乗るように参照光用回転ステージ113の回転角Δφ
1が調整されることとなる。この構成により、本実施形態の製造装置10Aにおいては、ラインフォーカス127から広がる円筒波様参照光123の向きを、式18~20により示される方向に調整することができる。なお、参照光用回転ステージ113に関しても、
図6に示すように、水平方向角度範囲は、おおよそ3°~13°の10°程度の範囲となるので、信号光用回転ステージ115、ゴニオステージ116及び参照光用回転ステージ113は、各々、約10°~20°程度の範囲内において、水平角度を調整することにより所望の機能を実現するホログラフィック回折格子HGを製造することができる。
【0116】
[A.6]露光方法
本実施形態の製造システム1Aにおいてホログラフィック回折格子HGを製造する場合には、まず、記録媒体124に対するラインフォーカス127の相対的位置を決めた後、製造システム1Aによって製造するホログラフィック回折格子HGの特性を設定するため、当該製造されたホログラフィック回折格子HGに対して光が照射された際に発生する回折光の向きを決定する。例えば、ホログラフィック回折格子HGにおける回折光の水平方向の角度θhと、垂直方向の角度θvを以下の式22及び23のように決めると、式24のように信号平行光118の向きが決まる。なお、回折光の向きは、情報処理装置20を用いてオペレータが設定するようにすればよい。
【0117】
【0118】
【0119】
【0120】
これより、基準の方向(u2,0,w2)と、式13で示される回転軸(nx,ny,nz)を求めると、この基準の方向からみた回折光の角度θ0は式25によって算出できる。
【0121】
【0122】
露光に用いるソースビームSBの波長をλ0とし、信号平行光118とラインフォーカス127から広がる円筒波様参照光123を重ねて記録媒体124に照射することにより、記録媒体124に干渉縞を露光させる。
【0123】
この方法により製造されるホログラフィック回折格子HGに対して、ラインフォーカス127から広がる円筒波様参照光123を照射すると、信号平行光118の光軸と同じ光軸を有する光が回折される一方、信号平行光118と同じ光軸を有し、逆向きに進む光を回折格子に照射するとラインフォーカス127と同じ直線上に当該光が集光されることとなる。
【0124】
例えば、任意の波長λに対して、上記機能を持たせる場合には、情報処理装置20が式26に基づき、式26となるように信号平行光118の向きを算出する。
【0125】
【0126】
次いで、本実施形態の製造システム1Aにおいては、式26により算出された向きに、信号平行光118が照射されるように、情報処理装置20が、上記式16に従い、信号光用回転ステージ115の回転角Δφ2を算出するとともに、式17に従い、ゴニオステージ116の回転角Δθを算出する。
【0127】
そして、情報処理装置20は、このようにして算出した信号光用回転ステージ115の回転角Δφ2及びゴニオステージ116の回転角Δθに信号光用回転ステージ115及びゴニオステージ116の角度を合わせるため、ステージ駆動回路130に制御信号を出力して、信号光用回転ステージ115の回転角を上記により算出したΔφ2まで変化させるとともに、ゴニオステージ116の回転角をΔθまで変化させる。
【0128】
次いで、情報処理装置20は、式12にて示されるラインフォーカス127から広がる円筒波様参照光123の方向を、u1=-u2、v1=v2、w1=-w2と設定する。このとき、ラインフォーカス127から広がる円筒波様参照光123は、信号平行光118と逆向きに回転させればよい。すなわち、信号平行光118の向きをθ1、円筒波様参照光123の向きをθ2とすると、θ1=-θ2とすればよい。そのために情報処理装置20は、参照光用回転ステージ113の回転角Δφ1を式21に従って算出する。
【0129】
このようにして、参照光用回転ステージ113の回転角Δφ1を算出すると、情報処理装置20は、ステージ駆動回路130に制御信号を出力して、参照光用回転ステージ113の回転角をΔφ1まで変化させる。
【0130】
次いで、情報処理装置20は、記録媒体用直線移動ステージ125、高さ調整ステージ126、円筒レンズ用直線移動ステージ120及び参照光用直線移動ステージ121の位置調整のための処理を実行する。このとき、情報処理装置20は、記録媒体用直線移動ステージ125、高さ調整ステージ126、円筒レンズ用直線移動ステージ120及び参照光用直線移動ステージ121及びの移動距離を、各々、以下の方法により算出して、当該算出した値に基づき、各直線移動ステージ120、121、125及び高さ調整ステージ126の位置調整を行う。
【0131】
(1)記録媒体用直線移動ステージ125及び高さ調整ステージ126の調整方法
情報処理装置20は、記録媒体用直線移動ステージ125に関しては、式27-1にて示されるΔy0を算出した後、ステージ駆動回路130に制御信号を出力して、記録媒体用直線移動ステージ125の位置をy軸方向にΔy0だけ移動させるとともに、高さ調整ステージ126に関しては、式27-2にて示されるΔz0を算出した後、ステージ駆動回路130に制御信号を出力して、高さ調整ステージ126の高さをz軸方向にΔz0だけ移動させる。
【0132】
【0133】
【0134】
(2)円筒レンズ用直線移動ステージ120の調整方法
また、情報処理装置20は、円筒レンズ用直線移動ステージ120に関しては、式28にて示されるΔy3を算出した後、ステージ駆動回路130に制御信号を出力して、記録媒体用直線移動ステージ125の位置をy軸方向にΔy3だけ移動させる。
【0135】
【0136】
(3)参照光用直線移動ステージ121の調整方法
これに対して、情報処理装置20は、参照光用直線移動ステージ121に関しては、式29にて示されるΔx4を算出した後、ステージ駆動回路130に制御信号を出力して、記録媒体用直線移動ステージ125の位置をx軸方向にΔx4、y軸方向にΔy4だけ移動させる。
【0137】
【0138】
以上の方法により各ステージ113、115、120、125、126及び121の位置調整が完了すると、製造装置10Aにおいては、光学系が例えば、
図9のような配置状態に移動し、当該配置状態により決定される相対的な照射角度にて信号平行光118及びラインフォーカス127から広がる円筒波様参照光123が記録媒体124に照射され、2つの光118及び123の干渉によって発生する干渉縞が記録媒体124に露光される。この結果、1の波長(例えば、λ
1)に対応するホログラフィック回折格子が記録媒体124上に形成されることとなる。
【0139】
[A.7]製造システム1Aにおけるホログラフィック回折格子HGの製造時の動作
次いで、
図7~10を用いて、本実施形態の製造システム1Aにおけるホログラフィック回折格子HG製造時の動作について説明する。なお、
図7及び8は、本実施形態の製造システム1Aにおいて情報処理装置20が実行する処理を示すフローチャートであり、
図9及び10は、各々、格子間隔の異なる2種類のホログラフィック回折格子を露光させる際における製造装置10Aの光路系の変化状態を示す図である。
【0140】
まず、本実施形態の製造システム1Aにおいては、オペレータが、記録媒体124に対するラインフォーカス127の相対的位置と、製造システム1Aによって製造するホログラフィック回折格子HGに対して所定の光が照射された際に発生する回折光の向きを決定し、必要な情報を情報処理装置20に入力すると、情報処理装置20が、可視光領域の1の波長λ1に対応するホログラフィック回折格子を記録媒体124に露光させるため、可視光領域において最も短い波長(例えば、400nm)λ1をλに設定する(ステップS1)。
【0141】
次いで、情報処理装置20は、上記式26に従い、信号平行光118の向きを決定する(ステップS2)。
【0142】
このようにして信号平行光118の向きが決まると、情報処理装置20は、当該決定した向きに従い、上記式16及び式17に基づき、信号光用回転ステージ115及びゴニオステージ116の回転角Δφ2及びΔθを算出し(ステップS3)、当該算出した回転角したΔφ2及びΔθに基づき、ステージ駆動回路130に制御信号を供給して、信号光用回転ステージ115及びゴニオステージ116の回転角を当該算出した回転角Δφ2及びΔθに調整させる(ステップS4)。
【0143】
次いで、情報処理装置20は、上記式21に基づき、参照光用回転ステージ113の回転角Δφ1を算出し(ステップS5)、当該算出した回転角Δφ1に基づきステージ駆動回路130に制御信号を供給して、参照光用回転ステージ113の回転角を当該算出した回転角Δφ1に調整する(ステップS6)。
【0144】
次いで、情報処理装置20は、直線移動ステージ120、121及び125と高さ調整ステージ126の移動量算出処理を実行する(ステップS7)。このとき、情報処理装置20は、上記式27-1に基づき、記録媒体用直線移動ステージ125の移動量Δy0を算出するとともに、式27-2に基づき高さ調整ステージ126の移動量Δz0を算出する。またこのとき、情報処理装置20は、式28に基づき、円筒レンズ用直線移動ステージ120の移動量Δy3、を算出し、さらに、式29に基づき、参照光用直線移動ステージ121の移動量Δx4及びΔy4を算出する(ステップS7)。
【0145】
このようにして、Δy0、Δz0、Δy3、Δx4及びΔy4の各値を算出すると、情報処理装置20は、当該算出した移動量Δy0、Δy3、Δx4及びΔy4に基づき、ステージ駆動回路130に制御信号を出力して、(1)記録媒体用直線移動ステージ125をy軸方向にΔy0、(2)高さ調整ステージ126を高さ方向(z軸方向)にΔz0、(3)円筒レンズ用直線移動ステージ120をy軸方向にΔy3、(4)参照光用直線移動ステージ121をx軸方向にΔx4、y軸方向にΔy4だけ移動させて、記録媒体124、参照光用平面ミラー114及び円筒レンズ系122の位置を該当する位置に調整する(ステップS8)。
【0146】
以上の手順により、製造装置10Aの光学系が波長λ1に対応するホログラフィック回折格子の露光に合致する状態になると、情報処理装置20は、光源111に対して制御信号を出力して、所定の露光時間、ソースビームSBを照射させ、波長λ1に対応する干渉縞を発生させて、波長λ1に対応するホログラフィック回折格子を記録媒体124に露光させる(ステップS9)。
【0147】
次いで、情報処理装置20は、記録媒体124に多重露光させる全干渉縞に対応するホログラフィック回折格子の露光が完了したか否かを判定する状態になり(ステップS10)、露光が完了していないと判定すると(ステップS10:No)、露光対称の波長をΔλだけ変化させるためλn=λn-1+Δλに設定する(ステップS11)。例えば、波長λ1に対応するホログラフィック回折格子の露光完了時には、λn=λ1+Δλと設定する。なお、Δλの具体的な値に関しては任意であり、例えば、10nmなどに設定してもよい。要は、ホログラフィック回折格子HGの機能を実現したい波長に応じて、適切な値を設定するようにすればよい。
【0148】
このようにして、ステップS11においてλn=λn-1+Δλに設定すると、情報処理装置20は、処理をステップS2にリターンさせ、ステップS2~S9の処理を繰り返すことにより、次の波長(例えば、λ1+Δλ)に対応するホログラフィック回折格子を記録媒体124に露光させる。
【0149】
そして、情報処理装置20は、全ての波長に対応するホログラフィック回折格子の露光が完了したか否かを判定し(ステップS10)、全ての波長に対応するホログラフィック回折格子の露光が完了するまで、上記ステップS2~S11の処理を繰り返し、全波長に対応するホログラフィック回折格子の露光が完了した時点で処理を終了する。
【0150】
このとき、本実施形態の製造装置10Aの光学系においては、露光させるホログラフィック回折格子の波長に合わせて、例えば、
図9及び10のように参照光用平面ミラー114、信号光用平面ミラー117、円筒レンズ系122及び記録媒体124の位置と角度が変化して、光学系の状態が変化しつつ、当該状態に対応するホログラフィック回折格子が記録媒体124上に露光される。
【0151】
本実施形態の製造システム1Aにおいては、このような処理を実行することにより、各々、異なる格子間隔を有し、各々が異なる波長に対して目的の機能を実現する複数のホログラフィック回折格子が記録媒体124上に多重露光される。
【0152】
以上説明したように、本実施形態の製造システム1Aにおいては、単一波長のソースビームSBをビームスプリッタ112により、信号光SLと参照光RLに分岐して、各々、異なる光路を介して、記録媒体124に照射し、ラインフォーカス127から広がる円筒波様参照光123と信号平行光118が干渉して発生する干渉縞を記録媒体124に露光させてホログラフィック回折格子HGを製造する構成を有している。
【0153】
そして、本実施形態の製造システム1Aにおいては、信号平行光118と円筒波様参照光123が記録媒体124に照射される際の相対的な角度を、参照光用回転ステージ113、信号光用回転ステージ115及びゴニオステージ116の回転角を調整することによって変化させつつ、各々異なる格子間隔を有する複数のホログラフィック回折格子を記録媒体124に多重露光する構成を有している。この構成により、本実施形態の製造システム1Aは、単一波長のソースビームSBを用いて、可視光の全域において目的の機能を実現可能なホログラフィック回折格子HGを製造できる。この結果、本実施形態の製造システム1Aは、複数波長のソースビームSBを出射する光源及び当該波長用の光学系を製造装置10Aに設ける必要性がなく、低コストに可視光全域にて目的の機能を発揮することが可能なホログラフィック回折格子HGを製造できる。
【0154】
[A.8]本実施形態の製造システム1Aにおいて製造されるホログラフィック回折格子HGの構造
次いで、
図11を用いて、本実施形態の製造システム1Aにより製造されるホログラフィック回折格子HGの具体的な構造について説明する。なお、
図11は、本実施形態の製造システム1Aにより製造されるホログラフィック回折格子HGの三次元構造の一例を示す図であり、(A)及び(B)には、白色の平行光が照射された場合に、ホログラフィック回折格子HGにおける図面上下方向(すなわち、z軸方向)の中央部付近にラインフォーカスさせる場合のホログラフィック回折格子HG1及びHG2の一構造例を示すとともに、(C)及び(D)には、ホログラフィック回折格子HGの下側に向けてラインフォーカスさせるホログラフィック回折格子HG3及び4(なお、本明細書において各ホログラフィック回折格子HG1~4を、特に特定する必要が無い場合、「ホログラフィック回折格子HG」と呼ぶ。)の一構造例を示している。また、(A)、(B)の組み合わせ及び(C)、(D)の組み合わせは、各々、対応波長の異なるホログラフィック回折格子HGの構造例を示している。
【0155】
(1)ホログラフィック回折格子HGの中央付近に対して白色平行光を集光する場合の構造例
この場合におけるホログラフィック回折格子HG1及び2は、
図11(A)及び(B)に示すように垂直方向(すなわち、z軸方向)の断面(すなわち、
図11の各図において手前側に見える断面)に沿って、ホログラフィック回折格子HG1及び2の中央部を中心として、放物面筒形状の層が何層にも渡って積層され、あたかも、切り株の年輪のような層構造を呈している。各層は、各々、屈折率が異なるとともに、形状がほぼ一致しており、各層には、各々、当該層の全面に渡って、同様の干渉縞が連続して形成されている。
【0156】
特に、白色平行光を中央付近に集光する場合には、当該機能を実現するため、当該集光位置(すなわち、ホログラフィック回折格子HG1及び2のz方向中央付近から所定距離離れた位置)から各々曲率の異なる略放物面筒状の形状を有する層が重なり合った、三次元構造を有することとなる。
【0157】
(2)ホログラフィック回折格子HGの下方向に対して白色平行光を集光する場合の構造例
この場合におけるホログラフィック回折格子HG3及び4は、
図11(C)及び(D)に示すように垂直方向の断面に沿って形状がほぼ一致した放物面筒形状の層が何層にも渡って積層された構造を有することになる。
【0158】
但し、この場合には、集光位置がホログラフィック回折格子HG3及び4の下方向となるため、各層の形状は、上記中央付近に集光する場合とは異なり、白色平行光がホログラフィック回折格子HGの下側に集光されるように放物面筒形状の層の中心がホログラフィック回折格子HG3及び4の下方向にシフトした構造を有することとなる。また、各層は、略円筒形状の一部をなす形状を有することにより、各々が円筒レンズとしての機能を発揮し、ホログラフィック回折格子HGの全体として、一軸に曲率を有する円筒レンズとしての機能が実現される。
【0159】
以上の構造を有する本実施形態のホログラフィック回折格子HGは、いずれの集光位置に対応する層形状を有する場合においても、層の数が変化すると対応波長が異なるようになっており、層の数が多い場合(例えば、
図11に例示する場合のホログラフィック回折格子HG1及び3)には、短波長側の光に対する集光特性が実現され、層の数が少ない場合(例えば、
図11に例示する場合のホログラフィック回折格子HG2及び4)には、長波長側の光に対する集光特性が実現されるようになっている。そして、本実施形態の製造システム1Aおいては、各々、異なる波長に対応した複数の干渉縞に対応するホログラフィック回折格子が多重露光されることにより、
図11のように複数の層が積層された構造を有するホログラフィック回折格子HGが製造される。
【0160】
そして、この構成により、本実施形態の製造システム1Aにより製造されるホログラフィック回折格子HGは、白色の平行光が信号平行光118の光軸と同じ方向から入射すると当該光がラインフォーカス127上に集光されるとともに、ラインフォーカス127から広がる円筒波様参照光123と同じ方向から白色光が入射されると、信号平行光118の光軸と同じ光軸を有する光が回折されるようになっている。すなわち、本実施形態の製造システム1Aにより製造されるホログラフィック回折格子HGにおいては、一軸に曲率を有する円筒レンズと同様の機能が実現されるようになっている。なお、層の形状が異なるホログラフィック回折格子HG(すなわち、集光位置の異なるホログラフィック回折格子HG)の製造方法に関しては、変形例3の項にて、説明する。
【0161】
[B]変形例
[B.1]変形例1
上記第1実施形態においては、製造装置10Aと、情報処理装置20を別の装置として構成し、両者を有線又は無線により接続する構成を採用していたが、製造装置10AにCPU(Central Processing Unit)やROM/RAMにより構成される制御部を設け、当該制御部により情報処理装置20と同様の機能を実現する構成としてもよい。この場合には、キーボードなどにより構成される操作部を設け、当該操作部に対してオペレータが行った入力操作に応じて、製造されるホログラフィック回折格子HGにおける回折光の向きを設定しつつ、この制御部が、
図7及び8と同様の処理を実行するようにすればよい。この構成により、可視光全域にて目的の機能を発揮するホログラフィック回折格子HGを製造装置10A単体で製造することができる。
【0162】
[B.2]変形例2
上記実施形態においては、ホログラフィック回折格子HGを製造する場合を例に説明を行ったが、ホログラフィック回折格子HGを有する導光板の製造に対しても本発明を適用することができる。
【0163】
この場合には、記録媒体124を透明な基材中に設け、当該基材中の記録媒体124にホログラフィック回折格子HGを多重露光させるようにすればよい。また、この場合には、第1高さ調整ステージ126上に記録媒体124とともに、プリズムを載置して、当該プリズムを用いて、信号平行光118及び円筒波様参照光123を記録媒体124に照射する構成を採用すればよい。なお、他の構成及び動作に関しては、上記第1実施形態と同様であるため、詳細を省略する。
【0164】
この方法により製造されるホログラフィック導光板HGLPは、透過型のHMDやヘッドアップディスプレイの光コンバイナとして利用することができる。例えば、このホログラフィック導光板HGLPを透過型HMD30に利用した場合の構成例を
図12~14に示す。
【0165】
図12に示すように、このホログラフィック導光板HGLPを利用した透過型HMD30においては、ホログラフィック導光板HGLPの端部にプリズム形状の光入射部LEを設け、この光入射部LEからプロジェクタPにより映像光VLを照射する構成を採用する。
【0166】
プロジェクタPから照射される映像光VLは、ホログラフィック導光板HGLPの境界面において全反射を繰り返して、ホログラフィック導光板HGLP内を進行し、端部まで到達する。また、全反射を繰り返す過程において映像光VLは、ホログラフィック導光板HGLPの内部に形成されたホログラフィック回折格子HGによって回折されて、ユーザの眼EYに入射する。また、外界光OLは、ホログラフィック導光板HGLPを透過して、そのまま、ユーザの眼EYに入射する。この結果、外界の景色と、映像光VLによって示される情報(文字、画像、色彩等)が重畳した状態にてユーザに視認され、当該情報が虚像としてユーザに認識されることとなる。
【0167】
ここで、透過型HMD30は、プロジェクタPからの映像光VLをレンズLで無限遠と結像し、ユーザの眼EYに無限遠からの虚像を見せる機能を実現する。ユーザの眼EYと透過型HMD30との距離は一定以上必要であり、広いFOV(Field Of View:視野)を持たせるためには、ホログラフィック導光板HGLPを導波する映像光VLを眼EYの方向に反射させる領域(アイボックス)を広げなければならない。
図13に示すように、ホログラフィック導光板HGLPの内部に平面ミラーとして機能する回折光学素子を既存の方法によって構成する場合、映像光VLの導波方向に対して当該回折光学素子で一部ずつ反射させればよいので、アイボックスを広げることは容易であるが、導波方向と垂直方向にアイボックスを広げるためには、二段階の回折を用いるか、別の機能が必要である。
【0168】
本変形例の方法を採用することにより、
図14に示すようにホログラフィック導光板HGLP内に曲面ミラーとして機能するホログラフィック回折格子HGを作製することができる。この場合、ホログラフィック導光板HGLP内を導波させる光として、プロジェクタPからの映像光VLを円筒レンズCLで水平方向に対してのみ無限遠と結像関係にした光を用いる方法が採用できる。垂直方向は画素位置を中心として広がり、導波中も広がる。このように、
図14の曲面ミラーとして機能するホログラフィック回折格子HGを有するホログラフィック導光板HGLPを、本変形例の方法(すなわち、高さ調整ステージ126上に記録媒体124とともにプリズムを載置してホログラフィック導光板HGLPを製造する方法)を用いて製造することで、垂直方向については導波中に広げることが可能となるとともに、導波中に広がった光は、上記ホログラフィック回折格子HGの回折特性により、垂直方向の画素位置に対応した垂直方向角度をもつ平行光として回折させ、広いアイボックスを有し、FOVが広く、且つ、実用性の高い透過型HMD30を製造することが可能となる。
【0169】
[B.3]変形例3
上記実施形態においては、可視光全域の光に対して、目的の機能を発揮させるため、各々格子間隔の異なる複数の干渉縞を発生させ、当該複数の干渉縞を記録媒体124に多重露光させてホログラフィック回折格子HGを製造する構成を採用したが、各々異なる機能を実現する複数のホログラフィック回折格子HGを記録媒体124に多重露光するようにしてもよい。例えば、上記
図11におけるホログラフィック回折格子HG1及び2と、ホログラフィック回折格子HG3及び4のように、各々集光位置の異なるホログラフィック回折格子HGを記録媒体124に多重露光する構成を採用することができる。
【0170】
この場合には、
図7の処理開始前にオペレータが回折光の回折の向きを決定する際に、オペレータが設定しようとする回折光の向きを集光位置に合わせて設定して、一度、当該設定にて、ホログラフィック回折格子HG(例えばホログラフィック回折格子HG1又は2)を記録媒体124に露光させる。そして、当該ホログラフィック回折格子HGの露光完了後、集光位置の異なるホログラフィック回折格子HG(例えば、ホログラフィック回折格子HG3又は4)を露光させるため、再度新たな集光位置に対応する回折光の向きを設定して、もう一度、当該回折光の向きに対応するホログラフィック回折格子HGを記録媒体124に露光させる。その後、各集光位置に対応する回折光の向きを繰り返し再設定しつつ、複数の干渉縞を発生させ、当該発生させた複数の干渉縞を記録媒体124に多重露光させるようにすればよい。
【0171】
この場合には、
図11に示すように集光位置に応じて異なる層形状を有する複数のホログラフィック回折格子HGが多重露光された構造を有するホログラフィック回折格子HGが製造されることとなる。
【0172】
なお、本変形例においては、一部の波長に対してのみ、各々集光位置の異なるホログラフィック回折格子HGを多重露光させるようにしてもよく、可視光の全領域に対して、各々集光位置の異なるホログラフィック回折格子HGを多重露光させるようにするようにしてもよい。
【0173】
一部の波長の光のみ異なる位置に集光させる特性を持たせる場合には、式26におけるλの値を当該波長に固定しつつ、回折光の向きの設定を変化させて、複数回干渉縞を発生させつつ、ホログラフィック回折格子HGを多重露光させる構成にすればよい。
【0174】
これに対して、可視光全域の光に対して各々異なる集光位置に集光させる特性を持たせたい場合には、回折光の向きを再設定する度に、上記
図7及び8の処理を繰り返して、当該集光位置に対応する複数のホログラフィック回折格子HGを記録媒体124に多重露光させるようにすればよい。
【0175】
[B.4]変形例4
上記実施形態においては、
図11に示すように記録媒体124内に格子曲面として機能する放物面筒形の層が複数形成された構造例について説明したが、各々異なる屈折率を有するとともに、各々の向きが異なる回折平面を記録媒体124上に複数露光する構成を採用した場合であっても、
図11に記載の構成のホログラフィック回折格子HGと同様の機能を実現することができる。
【0176】
この場合には、製造装置10Aに円筒レンズ系122を設けることなく、参照平行光119を、そのまま記録媒体124に照射させ、当該参照平行光119と信号平行光118の照射角度を変化させつつ、干渉させ、発生した複数の干渉縞を記録媒体124に露光させる構成とすればよい。
【0177】
また、各波長に対応する複数のホログラフィック回折格子HGは、記録媒体124の表面に二次元的に形成される構成を有してもよい。
【0178】
[C]第2実施形態
[C.1]第2実施形態の製造システム1Bの構成
次いで、
図15を用いて、本発明に係るホログラフィック光学素子製造装置の第2実施形態について説明する。なお、
図15は、本実施形態の製造システム1Bの構成を示すシステム構成図である。また、
図15において
図1と同様の構成要素に関しては同様の符号を付している。従って、特に明示しない限り、
図15において
図1と同一の符号が付された構成要素に関しては、上記第1実施形態と同様の構成及び機能を有し、同様の動作を行うものとして説明を行う。
【0179】
本実施形態の製造システム1Bを構成する製造装置10Bは、ビームスプリッタ112をPBSにより構成し、偏光方向に応じてP偏光を信号光SL、S偏光を参照光RLとして分岐させる構成を採用している。また、本実施形態の製造装置10Bにおいては、ビームスプリッタ112と信号光用平面ミラー117の間に図示せぬλ/2板を設け、信号光SLと参照光RLの偏光方向を揃えつつ、信号光SLを信号光用平面ミラー117に照射させるとともに、参照光RLを参照光用平面ミラー114に照射させる構成を採用している。なお、本実施形態の製造装置10Bにおいてもビームスプリッタ112は、ハーフミラーにより構成してもよい。
【0180】
さらに、本実施形態の製造装置10Bにおいては、円筒レンズ系122と記録媒体124の間に図示せぬスリット部材を追加した構成を採用しており、円筒レンズ系122を透過して発生した円筒波様参照光123は、このスリット部材に設けられたスリット部を通過する際にラインフォーカス127を形成して、当該スリット部(すなわち、ラインフォーカス127)から広がりつつ、記録媒体124に照射される構成になっている。この構成により、本実施形態の製造装置10Bは、幅の狭いラインフォーカス127を作成して、記録媒体124に対する円筒波様参照光123の照射精度を向上させることが可能となっている。
【0181】
なお、本実施形態の製造装置10Bにおいても、第1実施形態の製造装置10Aと同様にビームスプリッタ112によって分岐された参照光RLの光路上に参照光用平面ミラー114が設けられるとともに、この参照光用平面ミラー114は、参照光用直線移動ステージ121上に設けられた参照光用回転ステージ113上に載置された構成になっており、参照光用直線移動ステージ121をxy平面内において直線的に移動させるとともに、参照光用回転ステージ113をz軸に沿って回転させることにより、参照平行光119の照射方向をxy平面内にて調整可能となっている。また、本実施形態の製造装置10Bにおいても参照平行光119の光路上には円筒レンズ用直線移動ステージ120上に載置された円筒レンズ系122が配置されており、この円筒レンズ用直線移動ステージ120を参照光用直線移動ステージ121及び参照光用回転ステージ113と連動しつつ駆動して、円筒レンズ系122の位置を参照平行光119の照射方向に合わせて調整することが可能な構成となっているが、参照光RL側の光路構成に関しては第1実施形態の製造装置10Aと同様であるため、詳細を省略する。
【0182】
ここで、上第1実施形態の製造装置10Aは、信号光用回転ステージ115上にゴニオステージ116を設け、このゴニオステージ116上に信号光用平面ミラー117を載置する構成を採用し、信号光用回転ステージ115を、z軸を中心に回転させるとともに、ゴニオステージ116によって、信号光用平面ミラー117の傾きを調整することにより、記録媒体124に対する信号平行光118の照射角度を三次元的に変化させる構成を採用していた。また、第1実施形態の製造装置10Aにおいては、記録媒体用直線移動ステージ125上に設けられた高さ調整ステージ126上に記録媒体124を載置し、信号平行光118の照射角度に合わせて、記録媒体用直線移動ステージ125及び高さ調整ステージ126によって記録媒体124の位置を調整することにより、信号平行光118を記録媒体124の所望の位置に照射させる構成を採用していた。
【0183】
これに対して、本実施形態の製造装置10Bにおいて信号光用平面ミラー117は、信号光用回転ステージ115上に直接載置され、ゴニオステージ116が省略された構成になっている。この結果、本実施形態の製造装置10Bにおいては、信号光用回転ステージ115により信号平行光118の照射角度が同一平面内において二次元的にのみ変更され、z軸方向に対しては変更されない構成になっている。なお、本実施形態の信号光用回転ステージ115は、ステージ駆動回路130及び情報処理装置20と連動して、例えば、本発明の「信号光照射角調整手段」を構成する。
【0184】
特に、本実施形態の製造装置10Bにおいては、記録媒体124の位置を所定方向(例えば、y軸方向)に対して移動可能な記録媒体用直線移動ステージ125に換えて、記録媒体124の位置をxy平面内において二次元的(すなわち、x軸及びy軸の二軸方向)に移動可能な記録媒体用平面移動ステージ140が設けられるとともに、この記録媒体用平面移動ステージ140上に記録媒体用ゴニオステージ150が設けられ、さらに当該記録媒体用ゴニオステージ150上に記録媒体124が載置された構成となっており、高さ調整ステージ126が省略された構成となっている。なお、記録媒体用平面移動ステージ140の具体的な構成は、記録媒体用直線移動ステージ125と同様にピエゾアクチュエータやステッピングモータにより、二軸方向に対して直線的に移動可能な構成となっている点以外は記録媒体用直線移動ステージ125と同様である。
【0185】
そして、本実施形態の製造装置10Bにおいては、記録媒体用ゴニオステージ150を用いて、信号平行光118及び円筒波様参照光123に対する記録媒体124の傾きを変化させることにより、記録媒体用ゴニオステージ150単体で第1実施形態におけるゴニオステージ116及び高さ調整ステージ126の組み合わせと等価な機能を実現する。なお、例えば、本実施形態の記録媒体用平面移動ステージ140及び記録媒体用ゴニオステージ150は、各々、ステージ駆動回路130及び情報処理装置20と連動して本発明の「記録媒体用平面移動手段」及び「記録媒体傾斜角変更手段」を構成する。また、記録媒体用ゴニオステージ150の具体的な構成に関しては、調整対象が異なる点以外は、第1実施形態のゴニオステージ116と同様である。
【0186】
ここで、本実施形態の製造装置10Bにおいても上記第1実施形態と同様に白色の平行光が入射された際に、当該平行光を回折させ、ラインフォーカスする一方、ラインフォーカスされた白色光からの広がり光が入射された際に、当該広がり光を回折させ、平行光を発生させる円筒レンズと同様の機能を実現するためのホログラフィック回折格子HG(
図11参照)が製造される。例えば、本実施形態の製造装置10Bにより製造されたホログラフィック回折格子HG対して信号平行光118が入射した場合、ホログラフィック回折格子HGにて回折された信号平行光118は、ラインフォーカス127と一致する形態でラインフォーカスされる一方、ラインフォーカス127から広がる円筒波様参照光123がホログラフィック回折格子HGに入射した場合に、回折によって発生する平行光は、信号平行光118と同じ光軸を有するものとなる。
【0187】
このようなホログラフィック回折格子HGを製造する場合には、記録媒体用ゴニオステージ150によって、記録媒体124の傾きを調整することにより、信号平行光118及び円筒波様参照光123に対する記録媒体124の相対的な傾きを変化させ(すなわち、記録媒体124に対する信号平行光118及び円筒波様参照光123の相対的な照射角度を変化させ)、第1実施形態の製造装置10Aにおけるゴニオステージ116及び高さ調整ステージ126の組み合わせと等価な機能が記録媒体用ゴニオステージ150単体で実現できる。なお、本実施形態の製造装置10Bにおいては、上述のように、信号平行光118の照射方向がz軸方向に変更されることはなく、同一の平面内において二次元的にのみ信号平行光118の照射角度が変更されることとなるので、高さ調整ステージ126を省略した場合であっても、記録媒体用平面移動ステージ140単体で、信号平行光118及び円筒波様参照光123を記録媒体124の所望の位置に照射させることが可能となっている。
【0188】
[C.2]各ステージの調整方法
次いで、以上のような構成を有する本実施形態の製造装置10Bにおける各ステージの調整方法について説明する。
【0189】
まず、本実施形態の製造装置10Bにおいて参照光用回転ステージ113の回転角をΔφ1、信号光用回転ステージ115の回転角をΔφ2、記録媒体用ゴニオステージ150の傾き回転角をΔθ2としたとき、信号平行光118の方向ベクトルは、上記第1実施形態における式11とは異なり下記式30により表されることとなる。
【0190】
【0191】
このとき、信号光用回転ステージ115の回転角Δφ2の値は、第1実施形態における式16とは異なり下記式31によって表される。
【0192】
【0193】
また、このとき、記録媒体用ゴニオステージ150の回転角Δθ2は、下記式32によって表される。
【0194】
【0195】
さらにこのとき、(1)記録媒体用平面移動ステージ140のy軸方向の移動量Δy0は、上記第1実施形態と同様に式27-1によって表される一方、(2)x軸方向の移動量Δx0は下記式33によって表されることとなる。
【0196】
【0197】
本実施形態の製造装置10Bにおいては情報処理装置20が、以上の関係に基づき、Δφ2、Δθ2、Δx0及びΔy0を各々算出して、当該算出結果に基づき、信号光用回転ステージ115及び記録媒体用ゴニオステージ150の角度をΔφ2及びΔθ2に調整するとともに、記録媒体用平面移動ステージ140をx軸方向にΔx0、y軸方向にΔy0だけ移動させるようになっている。
【0198】
なお、本実施形態においても参照光用回転ステージ113の回転角Δφ1の算出方法は第1実施形態と同様であり、上記式21に基づき算出されることとなる。また、本実施形態においても第1実施形態と同様、(i)円筒レンズ用直線移動ステージ120の移動量Δy3は式28に基づいて算出されるとともに、(ii)参照光用直線移動ステージ121の移動量Δx4及びΔy4は式29に基づいて算出される。そして、当該算出結果に基づき、情報処理装置20がステージ駆動回路130と連動して、各ステージ113、115、120、121、140及び150の角度や位置を調整する点については上記第1実施形態と同様である。
【0199】
そして、以上の方法により各ステージ113、115、120、121、140及び150の調整が完了すると、本実施形態の製造装置10Bにおいては、光学系が例えば、
図15のような配置状態となり、当該配置状態により決定される相対的な照射角度にて信号平行光118及びラインフォーカス127から広がる円筒波様参照光123が記録媒体124に照射され、2つの光118及び123の干渉によって発生する干渉縞が記録媒体124に露光される。この結果、1の波長(例えば、λ
1)に対応するホログラフィック回折格子が記録媒体124上に形成されることとなる。
【0200】
[C.3]製造システム1Bにおけるホログラフィック回折格子HGの製造時の動作
次いで、本実施形態の製造システム1Bにおいてホログラフィック回折格子HGを製造する際の動作について説明するが、本実施形態の製造システム1Bにおいても基本的に上記
図7及び8と同様の処理に基づきホログラフィック回折格子HGが製造されることとなるので、以下においては、本実施形態の製造システム1Bにおいて実行される処理において、第1実施形態と異なる点を中心に説明を行うものとする。但し、本実施形態においては、上述のようにゴニオステージ116及び高さ調整ステージ126を省略し、これらの機能を記録媒体用ゴニオステージ150により代替した構成を採用しているので、
図7及び8にてゴニオステージ116とある箇所に関しては記録媒体用ゴニオステージ150と読み替えるものとする。
【0201】
まず、本実施形態の製造システム1Bにおいて、情報処理装置20は、可視光領域の1の波長λ1に対応するホログラフィック回折格子を記録媒体124に露光させるため、ステップS1において可視光領域において最も短い波長(例えば、400nm)λ1をλに設定する。
【0202】
次いで、情報処理装置20は、式26に従い、信号平行光118の向きを決定する(ステップS2)、なお、ステップS1及びS2の処理に関しては第1実施形態と同様である。
【0203】
特に、本実施形態においては第1実施形態と異なり、情報処理装置20がステップS3において、上記式31及び式32に基づき、信号光用回転ステージ115の回転角Δφ2及び記録媒体用ゴニオステージ150の回転角Δθ2を算出するとともに、ステップS4において、当該算出した回転角Δφ2及びΔθ2に基づき、ステージ駆動回路130に制御信号を供給して、信号光用回転ステージ115及び記録媒体用ゴニオステージ150の回転角を当該算出した回転角Δφ2及びΔθ2に調整させた後、第1実施形態と同様の処理により参照光用回転ステージ113の角度を調整するようになっている(ステップS5及びS6)。
【0204】
そして、本実施形態においては情報処理装置20が、第1実施形態と同様にステップS7において円筒レンズ用直線移動ステージ120の移動量Δy3と、参照光用直線移動ステージ121の移動量Δx4及びΔy4を算出する(ステップS7)。
【0205】
但し、本実施形態においては、第1実施形態と異なり情報処理装置20が、このステップS7において直線移動ステージ120及び121の移動量算出と合わせて、記録媒体用平面移動ステージ140の移動量を算出する処理を実行する構成になっている。このとき、情報処理装置20は、上記式27-1に基づき、記録媒体用平面移動ステージ140のy軸方向の移動量Δy0を算出するとともに、式33に基づき、記録媒体用平面移動ステージ140のx軸方向の移動量Δx0を算出する。なお、本実施形態の製造装置10Bにおいては、高さ調整ステージ126を省略する構成を採用しているため、ステップS7において情報処理装置20は、高さ調整ステージ126の移動量Δz0の算出処理を省略する構成となっている。
【0206】
このようにして、Δx0、Δy0、Δy3、Δx4及びΔy4の各値を算出すると、本実施形態においては、第1実施形態と異なり、ステップS8にて情報処理装置20が、ステップS7にて算出した移動量Δx0、Δy0、Δy3、Δx4及びΔy4に基づき、ステージ駆動回路130に制御信号を出力して、(1)記録媒体用平面移動ステージ140をx軸方向にΔx0、y軸方向にΔy0移動させるとともに、(2)円筒レンズ用直線移動ステージ120をy軸方向にΔy3、(3)参照光用直線移動ステージ121をx軸方向にΔx4、y軸方向にΔy4だけ移動させつつ、記録媒体124、参照光用平面ミラー114及び円筒レンズ系122の位置を該当する位置に調整する。なお、本実施形態の製造装置10Bにおいては高さ調整ステージ126が省略されているため、ステップS8にて高さ調整ステージ126の高さ調整は行われない構成になっている。
【0207】
以上の手順により、製造装置10Bの光学系が波長λ1に対応するホログラフィック回折格子の露光に合致した状態になると、情報処理装置20は、光源111に対して制御信号を出力して、所定の露光時間、ソースビームSBを照射させ、波長λ1に対応する干渉縞を発生させて、波長λ1に対応するホログラフィック回折格子を記録媒体124に露光させる(ステップS9)。
【0208】
次いで、情報処理装置20は、記録媒体124に多重露光させる全干渉縞に対応するホログラフィック回折格子(すなわち、全ての波長に対応するホログラフィック回折格子)の露光が完了したか否かを判定する状態になり(ステップS10)、露光が完了していないと判定すると(ステップS10:No)、露光対称の波長をΔλだけ変化させるためλn=λn-1+Δλに設定し(ステップS11)、処理をステップS2にリターンさせ、ステップS2~S9の処理を繰り返すことにより、次の波長(例えば、λ1+Δλ)に対応するホログラフィック回折格子を記録媒体124に露光させる。
【0209】
そして、情報処理装置20は、全ての波長に対応するホログラフィック回折格子の露光が完了したか否かを判定し(ステップS10)、全ての波長に対応するホログラフィック回折格子の露光が完了するまで、上記ステップS2~S11の処理を繰り返し、全波長に対応するホログラフィック回折格子の露光が完了した時点で処理を終了する。なお、上記ステップS9~11における動作は、第1実施形態と同様であるため、詳細を省略する。
【0210】
このとき、本実施形態の製造装置10の光学系においては、露光させるホログラフィック回折格子の波長に合わせて、例えば、
図15及び16のように参照光用平面ミラー114、信号光用平面ミラー117、円筒レンズ系122及び記録媒体124の位置と角度が変化しつつ、当該状態に対応するホログラフィック回折格子(すなわち、各々格子間隔が異なり、異なる波長に対応するホログラフィック回折格子)が順次記録媒体124上に露光され、可視光の全域において目的の機能を実現するホログラフィック回折格子HGが記録媒体124上に露光されることとなる。
【0211】
以上の構成により、本実施形態の製造装置10Bは、ゴニオステージ116及び高さ調整ステージ126の機能を記録媒体用ゴニオステージ150単体で実現しつつ、記録媒体124に対する信号平行光118及びラインフォーカス127から広がる円筒波様参照光123の相対的な照射角度を記録媒体用ゴニオステージ150により調整し、各々異なる格子間隔を有する複数のホログラフィック回折格子を記録媒体124に多重露光させることができるので、装置構成を簡略化して、低コストに可視光の全域において目的の機能を実現可能なホログラフィック回折格子HGを製造することが可能となる。
【0212】
特に、ホログラフィック回折格子HGを実際に製造する際に、装置の調整を行うことを想定すると、レーザ光(すなわち、信号光SL、信号平行光118、参照光RL、参照平行光119等)は、できるだけ同一の平面内を通ることが望ましい。例えば、レーザ光が所定の方向に進んでいるかどうかのチェックは、まず、できるだけ距離を置いた二点間において、基準位置からの高さを比較する等の方法で実施する。しかし、第1実施形態のように高さ調整ステージ126とゴニオステージ116を組み合わせて、記録媒体124に対する信号平行光118及び円筒波様参照光123の照射角度を調整する構成では、レーザ光の通るz軸方向の高さが変化することになるので、基準位置を設けることが難しく、シビアな調整が必要になる可能性がある。一方、本実施形態の方法を採用した場合に、レーザ光の中心は、常に同一の平面内を通ることになるので、実際にホログラフィック回折格子HGを製造する際の調整を容易化できる。
【0213】
なお、上記第2実施形態においては、高さ調整ステージ126を省略する構成を採用したが、記録媒体用平面移動ステージ140の上に高さ調整ステージ126を設け、その上に記録媒体124を載置した記録媒体用ゴニオステージ150を設ける構成としてもよい。この場合における高さ調整ステージ126の調整方法は第1実施形態と同様であり、式27-2に基づき、高さ調整ステージ126の移動量Δz0をステップS7において算出し、当該算出結果に応じて、ステップS8において高さ調整ステージ126の高さ調整を行う構成を採用すればよい。上記第2実施形態の方法では信号平行光118のz軸方向の角度を初期設定で調整する必要が生じるため初期設定がシビアになる可能性があるが、この構成により、初期設定で信号平行光118のz軸方向の角度を調整する必要がなくなるので、装置の設定を容易化することができる。
【0214】
[D]第3実施形態
上記第1実施形態の製造装置10Aにおいては、記録媒体124の載置された高さ調整ステージ126を記録媒体用直線移動ステージ125上に設け、この記録媒体用直線移動ステージ125によって、記録媒体124の位置を所定方向(例えばy軸方向)に移動させるとともに、高さ調整ステージ126によって記録媒体124をz軸方向に移動させ、信号平行光118の三次元的な照射角度に合わせて記録媒体124を二軸方向に移動可能な構成を採用していた。
【0215】
これに対して本実施形態においては、記録媒体用直線移動ステージ125に換えて第2実施形態における記録媒体用平面移動ステージ140を利用し、この記録媒体用平面移動ステージ140上に記録媒体124を載置した高さ調整ステージ126を設けて、記録媒体124の位置をxyzの三軸方向に調整可能とする構成を採用する。
【0216】
本実施形態において、記録媒体用平面移動ステージ140のy軸方向の移動量Δy0は、上記式27-1により表されるとともに、x軸方向の移動量Δx0は、上記式33により表される点については第2実施形態と同様であり、高さ調整ステージ126のz軸方向の移動量Δz0が、上記式27-2により表される点については第1実施形態と同様である。
【0217】
そして、本実施形態においても基本的に
図7及び8と同様の処理によってホログラフィック回折格子HGが製造されることとなる。すなわち、本実施形態においても情報処理装置20は、第1実施形態におけるステップS1~6と同様の処理を実行して、信号光用回転ステージ115、ゴニオステージ116及び参照光用回転ステージ113の角度をλ
1に対応するホログラフィック回折格子の露光に合致した状態に調整する。
【0218】
但し、本実施形態においては、情報処理装置20が
図8のステップS7において、(1)直線移動ステージ120、121の移動量と、(2)高さ調整ステージ126の移動量と、(3)記録媒体用平面移動ステージ140の移動量と、を算出する構成を採用する。このとき、情報処理装置20は、(a)上記式27-1に基づき記録媒体用平面移動ステージ140のy軸方向の移動量Δy
0を算出し、(b)式33に基づき記録媒体用平面移動ステージ140のx軸方向移動量Δx
0を算出し、(c)式27-2に基づき高さ調整ステージ126の移動量Δz
0を算出する。またこのとき、情報処理装置20は、(d)式28に基づき円筒レンズ用直線移動ステージ120の移動量Δy
3を算出し、(e)さらに、式29に基づき、参照光用直線移動ステージ121の移動量Δx
4及びΔy
4を算出する。
【0219】
このようにして、Δx0、Δy0、Δz0、Δy3、Δx4及びΔy4の各値を算出すると、ステップS8において本実施形態の情報処理装置20は、ステップS7にて算出した移動量Δx0、Δy0、Δy3、Δx4及びΔy4に基づき、ステージ駆動回路130に制御信号を出力して、(1)記録媒体用平面移動ステージ140をx軸方向にΔx0、y軸方向にΔy0移動させるとともに、(2)高さ調整ステージ126をΔz0移動させる。また、ステップS8において情報処理装置20は、(3)円筒レンズ用直線移動ステージ120をy軸方向にΔy3、(4)参照光用直線移動ステージ121をx軸方向にΔx4、y軸方向にΔy4だけ移動させつつ、記録媒体124、参照光用平面ミラー114及び円筒レンズ系122の位置を該当する位置に調整する。
【0220】
以上の方法により、製造装置10の光学系が所定波長λ1に対応するホログラフィック回折格子の露光に合致した状態になると、情報処理装置20は、光源111に対して制御信号を出力して、所定の露光時間、ソースビームSBを照射させ、当該波長λ1に対応する干渉縞を発生させて、波長λ1に対応するホログラフィック回折格子を記録媒体124に露光させる(ステップS9)。
【0221】
そして、情報処理装置20は、記録媒体124に多重露光させる全干渉縞に対応するホログラフィック回折格子の露光が完了したか否かを判定する状態になり(ステップS10)、全干渉縞に対応するホログラフィック回折格子(すなわち、全波長に対応するホログラフィック回折格子)の露光が完了するまで、上記ステップS2~S11の処理を繰り返し、全波長に対応するホログラフィック回折格子の露光が完了した時点で処理を終了する。なお、上記ステップS9~11における動作は、第1実施形態と同様であるため、詳細を省略する。
【0222】
このとき、本実施形態の製造装置10の光学系においては、露光させるホログラフィック回折格子の波長に合わせて、参照光用平面ミラー114、信号光用平面ミラー117、円筒レンズ系122及び記録媒体124の位置と角度が変化しつつ、当該状態に対応するホログラフィック回折格子が順次記録媒体124上に露光され、可視光の全域において目的の機能を実現するホログラフィック回折格子HGが記録媒体124上に露光されることとなる。
【0223】
以上の説明したように本実施形態によれば、記録媒体124の位置をxyzの三軸方向に調整することができるので、信号平行光118の照射角度に応じて記録媒体124の位置を高精度に調整し、ホログラフィック回折格子HGを高精度に製造することが可能となる。
【符号の説明】
【0224】
1、1A、1B…製造システム、10、10A、10B…製造装置、111…光源、112…ビームスプリッタ、113…参照光用回転ステージ、114…参照光用平面ミラー、115…信号光用回転ステージ、116…ゴニオステージ、117…信号光用平面ミラー、118…信号平行光、119…参照平行光、120…円筒レンズ用直線移動ステージ、121…参照光直線移動ステージ、122…円筒レンズ、123…円筒波様参照光、124…記録媒体、125…記録媒体用直線移動ステージ、126…高さ調整ステージ、127…ラインフォーカス、130…ステージ駆動回路、140…記録媒体用平面移動ステージ、150…記録媒体用ゴニオステージ、20…情報処理装置、SL…信号光、RL…参照光、30…HMD、VL…映像光、OL…外界光、P…プロジェクタ、HGLP…ホログラフィック導光板、HG…ホログラフィック回折格子、LE…光入射部、L…レンズ、CL…円筒レンズ